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  • 特許-エンジンのシール構造 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-06
(45)【発行日】2023-02-14
(54)【発明の名称】エンジンのシール構造
(51)【国際特許分類】
   F16J 15/3232 20160101AFI20230207BHJP
   F16J 15/447 20060101ALI20230207BHJP
【FI】
F16J15/3232 201
F16J15/447
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019131822
(22)【出願日】2019-07-17
(65)【公開番号】P2021017898
(43)【公開日】2021-02-15
【審査請求日】2021-10-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000004385
【氏名又は名称】NOK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】吉田 功
(72)【発明者】
【氏名】長浜谷 英明
(72)【発明者】
【氏名】濱本 耕吉
(72)【発明者】
【氏名】関口 修
【審査官】山田 康孝
(56)【参考文献】
【文献】実開昭63-196867(JP,U)
【文献】特開2013-170561(JP,A)
【文献】国際公開第2017/188217(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16J 15/3204-15/3236
F16J 15/40-15/453
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンのカバーと、クランクシャフトに取り付けられたプーリと、前記カバーと前記プーリとの間に配置されるシールとを備えたエンジンのシール構造であって、
前記カバーは、貫通孔を有し、
前記プーリは、前記貫通孔に前記カバーの外側から挿入される円筒状のボスを有し、
前記シールは、前記貫通孔の内周面に固定される円筒部と、前記円筒部における前記カバーの外側寄りの端部から該円筒部の軸方向と直交する径方向内側に延びる円環部と、前記円環部における径方向内側の端部に設けられて前記ボスに摺接するシールリップとを有し、
前記円筒部の外周面における前記カバーの外側寄りの端部は、前記カバーの外側に向かって外径が小さくなるように、前記貫通孔の内周面を起点として傾斜するテーパ状の傾斜面を含むように切り欠かれた集塵部を有し、
前記集塵部における前記カバーの外側寄りの端部には面取りが施されており、
前記貫通孔の内周面と前記傾斜面との間の隙間である尖鋭隙間の前記軸方向に沿った長さは、該尖鋭隙間の前記径方向に沿った最大の幅よりも長いエンジンのシール構造。
【請求項2】
請求項1に記載のエンジンのシール構造において、
前記集塵部の軸方向に沿った長さは、前記円筒部の軸方向に沿った長さの1/3以上であるエンジンのシール構造。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のエンジンのシール構造において、
前記貫通孔の内周面と前記集塵部との間の隙間である集塵隙間の軸方向に沿った断面積のうち、前記尖鋭隙間の軸方向に沿った断面積の占める割合は、60%以上であるエンジンのシール構造。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載のエンジンのシール構造において、
前記貫通孔の内周面に対する前記傾斜面のなす角度は、18°~22°であるエンジンのシール構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンのシール構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、エンジンのクランクシャフトには、エンジンの補機を駆動するためのプーリが取り付けられている。プーリは、エンジンのフロントカバーの貫通孔に挿入される円筒状のボスを有している。ボスには、クランクシャフトが一体回転可能に嵌合されている。
【0003】
特許文献1には、こうしたプーリとフロントカバーとの間をシールするためのシール構造が開示されている。このシール構造では、ボスの外周面と貫通孔の内周面との間にオイルシールが設けられている。
【0004】
オイルシールは、貫通孔の内周面に固定される円筒部と、円筒部におけるカバーの外側寄りの端部からその径方向内側に延出された円環部と、円環部の径方向内側端部に設けられたシールリップとを有している。このシールリップがボスに摺接することにより、フロントカバー内への砂や塵等の異物の侵入が抑制される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開第2016/088872号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、近年、車両のエンジンにおいては、異物の侵入をより一層の高い水準で抑制することが要求されるようになっている。そのため、上記のような構成を採用してもなお、要求される水準に達しているとは言い切れないのが実情であり、新たな技術の創出が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するエンジンのシール構造は、エンジンのカバーと、クランクシャフトに取り付けられたプーリと、前記カバーと前記プーリとの間に配置されるシールとを備えたエンジンのものであって、前記カバーは、貫通孔を有し、前記プーリは、前記貫通孔に前記カバーの外側から挿入される円筒状のボスを有し、前記シールは、前記貫通孔の内周面に固定される円筒部と、前記円筒部における前記カバーの外側寄りの端部から該円筒部の軸方向と直交する径方向内側に延びる円環部と、前記円環部における径方向内側の端部に設けられて前記ボスに摺接するシールリップとを有し、前記円筒部の外周面における前記カバーの外側寄りの端部は、前記カバーの外側に向かって外径が小さくなるように、前記貫通孔の内周面を起点として傾斜するテーパ状の傾斜面を含むように切り欠かれた集塵部を有し、前記貫通孔の内周面と前記傾斜面との間の隙間である尖鋭隙間の前記軸方向に沿った長さは、該尖鋭隙間の前記径方向に沿った最大の幅よりも長い。
【0008】
上記構成では、プーリの回転によってその近傍に回転方向の空気の流れが生じる。ここで、オイルシールの円筒部に形成された集塵部は、テーパ状の傾斜面を含んでおり、貫通孔の内周面と傾斜面との間の尖鋭隙間は、カバーの外側から内側に向かって徐々に狭くなる。そのため、回転方向の空気の流れは、尖鋭隙間においてカバーの外側から内側に向かうほど速くなり、当該尖鋭隙間内の圧力もカバーの外側から内側に向かうほど低くなる。そして、上記構成では、尖鋭隙間の軸方向に沿った長さが径方向の最大の幅よりも長くなるように形成されている。つまり、尖鋭隙間は、軸方向に細長い三角形状に形成されている。これにより、尖鋭隙間におけるカバーの内側では、回転方向の空気の流れが十分に速くなるため、外部から侵入した異物が回転方向の空気の流れに乗って尖鋭隙間内に捉えられやすくなる。その結果、異物がシールリップとボスとの摺接部分まで到達しにくくなり、カバー内に異物が侵入することを抑制できる。
【0009】
上記エンジンのシール構造において、前記集塵部の軸方向に沿った長さは、前記円筒部の軸方向に沿った長さの1/3以上であることが好ましい。
上記構成によれば、集塵部の軸方向に沿った長さが十分に長くなり、尖鋭隙間を大きくできるため、尖鋭隙間の異物捕捉能力が高められる。
【0010】
上記エンジンのシール構造において、前記貫通孔の内周面と前記集塵部との間の隙間である集塵隙間の軸方向に沿った断面積のうち、前記尖鋭隙間の軸方向に沿った断面積の占める割合は、60%以上であることが好ましい。
【0011】
上記構成によれば、集塵隙間内において、尖鋭隙間が小さくなり過ぎることを抑制できる。
上記エンジンのシール構造において、前記貫通孔の内周面に対する前記傾斜面のなす角度は、18°~22°であることが好ましい。
【0012】
上記構成によれば、尖鋭隙間内において回転方向の空気の流速をカバーの外側から内側に向かって好適に速くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】ダンパプーリ近傍の部分断面図。
図2】ダンパプーリの正面図。
図3】オイルシール近傍の拡大断面図。
図4】集塵部近傍の拡大断面図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、エンジンのシール構造の一実施形態を図面に従って説明する。
図1に示すように、シール構造1は、エンジンのフロントカバー2と、トーショナルダンパとして機能するダンパプーリ3と、オイルシール4とを備えている。
【0015】
フロントカバー2は、図示しないエンジン内部の各種構成部品を覆っている。フロントカバー2の形状は板状である。フロントカバー2は、その板厚方向に貫通した貫通孔11を有している。貫通孔11内には、エンジンの駆動により回転するクランクシャフト12の軸端部が該貫通孔11の内周面との間に隙間を空けた状態で挿入されている。
【0016】
ダンパプーリ3は、ハブ21と、ハブ21の外周に弾性体22を介して接続されたプーリ23とを備えている。弾性体22は、ゴム等の弾性材料からなる。弾性体22の形状は、円環状である。プーリ23は、金属材料からなる。プーリ23の形状は、円環状である。プーリ23は、図示しない補機駆動用のベルトが巻き掛けられる複数の係合溝24を有する。係合溝24の各々は、プーリ23の全周に亘って延びている。複数の係合溝24は、プーリ23の軸方向に沿って等間隔で並んでいる。
【0017】
図1及び図2に示すように、ハブ21は、金属材料からなり、ボス31と、接続部32と、リム33とを備えている。
ボス31の形状は、円筒状である。ボス31は、貫通孔11内にその内周面との間に隙間を空けた状態で挿入されており、クランクシャフト12に軸端部の外周に嵌合している。そして、ハブ21は、クランクシャフト12の軸端部に螺着されるボルト34によってクランクシャフト12と一体回転可能に連結されている。
【0018】
接続部32の形状は、円環状である。接続部32は、ボス31におけるフロントカバー2の外側に位置する端部から、軸方向と直交する径方向外側に延びている。接続部32は、その軸方向に貫通した複数の窓部35を有している。本実施形態では、4つの窓部35は接続部32の周方向に等角度間隔で並んでいる。また、接続部32は、フロントカバー2の貫通孔11と軸方向において対向する位置に、溝状のハブポケット36を有している。ハブポケット36は、ボス31を中心とする円環状に形成されている。本実施形態のハブポケット36の断面形状は、略矩形状である。
【0019】
リム33の形状は、円筒状である。リム33は、接続部32の外周縁から軸方向に延びている。リム33の外周面には、上記弾性体22が設けられている。
次に、オイルシール4の構造について説明する。
【0020】
図1に示すように、オイルシール4は、金属材料からなる補強体41と、ゴム等の弾性材料からなるシール体42とを備えている。なお、補強体41とシール体42とは、加硫接着等により一体的に形成されている。そして、オイルシール4は、貫通孔11とボス31との間に設けられており、砂や塵等の異物の侵入を防ぐべく、これらの間をシールしている。
【0021】
詳しくは、図3に示すように、補強体41は、補強筒部51と、フランジ部52とを有している。補強筒部51の形状は、円筒状である。補強筒部51の外径は、貫通孔11の内径よりもやや小さく設定されている。フランジ部52の形状は、円環状である。フランジ部52は、補強筒部51におけるフロントカバー2の外側寄りの端部から径方向内側に延びている。
【0022】
シール体42は、円筒部61と、円環部62と、シールリップ63と、サイドリップ64とを有している。
円筒部61は、補強筒部51の外周に設けられており、貫通孔11に圧入されることにより、該貫通孔11の内周面に固定されている。また、円筒部61の外周面におけるフロントカバー2の外側寄りの端部は、その一部が切り欠かれた集塵部65を有している。集塵部65の詳細については後述する。なお、円筒部61におけるフロントカバー2の内側寄りの端部には、面取りが施されている。
【0023】
円環部62は、円筒部61におけるフロントカバー2の外側寄りの端部から該円筒部61の軸方向と直交する径方向内側に延びている。
シールリップ63は、円環部62の径方向内側端部からフロントカバー2の内側に延びてボス31の外周面に摺接する主リップ部66、及び円環部62の径方向内側端部からフロントカバー2の外側に延びてボス31の外周面に摺接するリップ腰部67を有している。なお、主リップ部66の外周側には、該主リップ部66をボス31に押し付けるためのガータスプリング68が設けられている。
【0024】
サイドリップ64の形状は、円筒状である。サイドリップ64は、円環部62の径方向内側端部からフロントカバー2の外側に延びている。サイドリップ64の先端部は、ハブポケット36内に挿入されている。ハブポケット36とサイドリップ64とは、協働してラビリンス構造を形成している。
【0025】
次に、集塵部65の詳細について説明する。
図4に示すように、集塵部65の軸方向に沿った長さL1は、円筒部61の軸方向に沿った長さL2の1/3以上、かつ1/2以下に設定されている。集塵部65は、フロントカバー2の外側に向かって外径が小さくなるように、貫通孔11の内周面を起点として傾斜するテーパ状の傾斜面71、及び傾斜面71におけるフロントカバー2の外側寄りの端部に連続するとともに外径が一定の円筒面72を有している。なお、本実施形態の円筒面72におけるフロントカバー2の外側寄りの端部には、面取りが施されている。
【0026】
貫通孔11と集塵部65との間の隙間である集塵隙間73のうち、貫通孔11の内周面と傾斜面71との間の隙間である尖鋭隙間74の軸方向に沿った長さL3は、その径方向に沿った最大の幅Wよりも長く、集塵隙間73の軸方向に沿った断面積のうち、尖鋭隙間74の軸方向に沿った断面積の占める割合が60%以上となるように設定されている。なお、図4では、説明の便宜上、集塵隙間73及び尖鋭隙間74を二点鎖線で囲って示す。尖鋭隙間74の径方向に沿った最大の幅W、すなわち貫通孔11の内周面と円筒面72との間の径方向の幅は、オイルシール4により侵入を防ぐ異物の大きさが0.05mm~1mmであることを踏まえ、1mm程度に設定されている。また、貫通孔11の内周面に対する傾斜面71のなす角度θは、18°~22°が好ましく、本実施形態では、約21°に設定されている。
【0027】
次に、本実施形態の作用及び効果について説明する。
(1)本実施形態のシール構造1においては、クランクシャフト12の回転に伴うダンパプーリ3の回転によってその近傍に回転方向の空気の流れが生じる。ここで、集塵部65は、テーパ状の傾斜面71を含んでおり、貫通孔11の内周面と傾斜面71との間の尖鋭隙間74は、フロントカバー2の外側から内側に向かって徐々に狭くなる。そのため、回転方向の空気の流れは、尖鋭隙間74においてフロントカバー2の外側から内側に向かうほど速くなり、当該尖鋭隙間74内の圧力もカバーの外側から内側に向かうほど低くなる。そして、本実施形態では、尖鋭隙間74の軸方向に沿った長さL3が径方向の最大の幅Wよりも長くなるように形成されている。つまり、尖鋭隙間74の軸方向に沿った断面形状は、軸方向に細長い三角形状に形成されている。これにより、尖鋭隙間74におけるフロントカバー2の内側では、回転方向の空気の流れが十分に速くなるため、窓部35等を介して外部から侵入した異物が回転方向の空気の流れに乗って尖鋭隙間74内に捉えられやすくなる。その結果、異物がシールリップ63とボス31との摺接部分まで到達しにくくなり、フロントカバー2内に異物が侵入することを抑制できる。
【0028】
(2)集塵部65の軸方向に沿った長さL1は、円筒部61の軸方向に沿った長さL2の1/3以上であるため、集塵部65の軸方向に沿った長さL1が十分に長くなり、尖鋭隙間74を大きくできる。これにより、尖鋭隙間74の異物捕捉能力が高められる。
【0029】
(3)集塵部65の軸方向に沿った長さL1は、円筒部61の軸方向に沿った長さL2の1/2以下であるため、円筒部61における貫通孔11の内周面に固定される部分の長さが確保され、オイルシール4の脱落を防止できる。
【0030】
(4)集塵隙間73の軸方向に沿った断面積のうち、尖鋭隙間74の軸方向に沿った断面積の占める割合が60%以上であるため、集塵隙間73内において、尖鋭隙間74が小さくなり過ぎることを抑制できる。
【0031】
(5)貫通孔11の内周面に対する傾斜面71のなす角度θは、18°~22°であるため、尖鋭隙間74内において回転方向の空気の流速をフロントカバー2の外側から内側に向かって好適に速くすることができる。
【0032】
本実施形態は、以下のように変更して実施することができる。本実施形態及び以下の変形例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
・上記実施形態において、貫通孔11の内周面に対する傾斜面71のなす角度θは、18°より小さくても、22°より大きくてもよい。
【0033】
・上記実施形態において、集塵隙間73の軸方向に沿った断面積のうち、尖鋭隙間74の軸方向に沿った断面積の占める割合が60%未満であってもよい。
・上記実施形態において、集塵部65の軸方向に沿った長さL1は、円筒部61の軸方向に沿った長さL2の1/2より長くてもよい。
【0034】
・上記実施形態において、集塵部65の軸方向に沿った長さL1は、円筒部61の軸方向に沿った長さL2の1/3未満であってもよい。
・上記実施形態において、集塵部65が円筒面72を有さない構成としてもよい。
【0035】
次に、上記実施形態及び変形例から把握できる技術的思想について、それらの効果とともに以下に追記する。
(イ)前記集塵部の軸方向に沿った長さは、前記円筒部の軸方向に沿った長さの1/2以下であるエンジンのシール構造。上記構成によれば、円筒部における貫通孔の内周面に固定される部分の長さが確保され、オイルシールの脱落を防止できる。
【符号の説明】
【0036】
1…シール構造、2…フロントカバー、3…ダンパプーリ、4…オイルシール、11…貫通孔、31…ボス、42…シール体、61…円筒部、62…円環部、63…シールリップ、65…集塵部、71…傾斜面、72…円筒面、73…集塵隙間、74…尖鋭隙間、L1,L2,L3…長さ、W…幅、θ…角度。
図1
図2
図3
図4