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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-06
(45)【発行日】2023-02-14
(54)【発明の名称】状態監視システムおよび方法
(51)【国際特許分類】
   G01M 13/005 20190101AFI20230207BHJP
   G01M 99/00 20110101ALI20230207BHJP
   F16J 15/34 20060101ALI20230207BHJP
   F16J 15/00 20060101ALI20230207BHJP
   G01N 29/14 20060101ALI20230207BHJP
【FI】
G01M13/005
G01M99/00 A
F16J15/34 Z
F16J15/00 E
G01N29/14
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2019151332
(22)【出願日】2019-08-21
(65)【公開番号】P2021032287
(43)【公開日】2021-03-01
【審査請求日】2021-12-06
(73)【特許権者】
【識別番号】507250427
【氏名又は名称】日立GEニュークリア・エナジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002066
【氏名又は名称】弁理士法人筒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大津 賢治
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 浩章
(72)【発明者】
【氏名】町田 俊太郎
【審査官】羽鳥 公一
(56)【参考文献】
【文献】特開昭62-226033(JP,A)
【文献】特開平02-016420(JP,A)
【文献】特開昭55-098353(JP,A)
【文献】特開昭63-270979(JP,A)
【文献】特開昭61-198057(JP,A)
【文献】特開平06-300619(JP,A)
【文献】特開平10-261201(JP,A)
【文献】特開2016-025193(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16J 15/00-15/32
F16J 15/324-15/38
F16J 15/46-15/53
G01H 1/00-17/00
G01M 13/00-13/045
G01M 99/00
G01N 29/00-29/52
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
メカニカルシールを持つ回転機械の状態を監視する状態監視システムであって、
前記回転機械の容器に設置されているAEセンサと、
前記AEセンサからのAE信号を取得する信号取得回路と、
前記信号取得回路で得た情報に基づいて、前記メカニカルシールに関する正常か否かを含む状態を判定し、前記状態に応じて、アラート出力または前記回転機械の動作制御を含む出力制御を行う状態監視装置と、
を備え、
前記状態監視装置は、監視対象の前記AE信号の周波数スペクトルの時間-周波数応答を、過去の正常時の信号と比較し、設定された所定の周波数範囲として0.7MHz以上の範囲に連続的に発生する信号成分の増加の判断に基づいて、前記状態を判定する、
状態監視システム。
【請求項2】
請求項1記載の状態監視システムにおいて、
前記AEセンサは、前記回転機械の回転軸に対する前記容器の側面のうち、前記メカニカルシールから固体部を経由する伝播経路のうち直接波の伝播距離が最小の伝播経路に対応する位置に設置されている、
状態監視システム。
【請求項3】
請求項1記載の状態監視システムにおいて、
前記AEセンサは、前記回転機械の回転軸に対する前記容器の側面のうち、前記メカニカルシールから液体部を経由する伝播経路のうち直接波の伝播距離が最小の伝播経路に対応する位置に設置されている、
状態監視システム。
【請求項4】
請求項1記載の状態監視システムにおいて、
前記AEセンサは、前記回転機械の回転軸に対する前記容器の上面のうち、前記メカニカルシールから固体部を経由する伝播経路のうち直接波の伝播距離が最小の伝播経路に対応した位置に設置されている、
状態監視システム。
【請求項5】
請求項1記載の状態監視システムにおいて、
前記容器の外面の少なくとも一部の領域に、前記容器内で発生する反射波の影響を抑制するための吸音材が設置されている、
状態監視システム。
【請求項6】
請求項1記載の状態監視システムにおいて、
前記AEセンサは、前記容器の曲面に対し、前記曲面から平面に変換するための治具を介して設置されている、
状態監視システム。
【請求項7】
請求項1記載の状態監視システムにおいて、
前記AEセンサは、前記容器の外面のうち、軸対称の複数の位置に、複数のAEセンサとして設置されている、
状態監視システム。
【請求項8】
請求項1記載の状態監視システムにおいて、
前記AEセンサは、前記容器内の固体部において、空気に接していない位置のうち、前記メカニカルシールからのAE波の伝播経路上の位置に設置されている、
状態監視システム。
【請求項9】
請求項1記載の状態監視システムにおいて、
前記AEセンサは、前記回転機械の回転軸に対する前記容器の側面に設置されている第1AEセンサと、前記容器の上面に設置されている第2AEセンサと、を有し、
前記信号取得回路または前記状態監視装置は、前記第1AEセンサからの第1AE信号から、前記第2AEセンサからの第2AE信号を減算し、
前記状態監視装置は、前記減算後の信号に基づいて、前記状態を判定する、
状態監視システム。
【請求項10】
請求項1記載の状態監視システムにおいて、
前記回転機械は、回転軸の方向に、前記メカニカルシールとして、第1メカニカルシールおよび第2メカニカルシールを有し、
前記AEセンサは、前記第1メカニカルシールからの第1伝播経路に対応する第1位置に設置されている第1AEセンサと、前記第2メカニカルシールからの第2伝播経路に対応する第2位置に設置されている第2AEセンサと、を有し、
前記状態監視装置は、前記第1AEセンサからの第1AE信号に基づいて前記第1メカニカルシールの状態を判定し、前記第2AEセンサからの第2AE信号に基づいて前記第2メカニカルシールの状態を判定する、
状態監視システム。
【請求項11】
請求項1記載の状態監視システムにおいて、
前記回転機械は、回転軸の方向に、前記メカニカルシールとして、第1メカニカルシールおよび第2メカニカルシールを有し、
前記AEセンサは、前記第1メカニカルシールからの第1伝播経路と、前記第2メカニカルシールからの第2伝播経路との両方が到達する位置に設置され、
前記状態監視装置は、前記AEセンサからのAE信号に基づいて、前記第1メカニカルシールと前記第2メカニカルシールとを1つにまとめた単位で、前記状態を判定する、
状態監視システム。
【請求項12】
請求項1記載の状態監視システムにおいて、
前記AEセンサは、前記容器の外面に対し、前記メカニカルシールからの伝播経路の方向に対して前記AEセンサの受波面が垂直になるように変換するための治具を介して設置されている、
状態監視システム。
【請求項13】
請求項1記載の状態監視システムにおいて、
前記回転機械は、回転軸の方向に、前記メカニカルシールとして、第1メカニカルシールおよび第2メカニカルシールを有し、
前記AEセンサは、前記容器の外面において、前記第1メカニカルシールからの第1伝播経路の反射波と、前記第2メカニカルシールからの第2伝播経路の直接波との両方が到達する位置に、治具を介して設置されている第1AEセンサおよび第2AEセンサを有し、
前記第1AEセンサは、前記反射波の方向に対して受波面が垂直になるように前記治具を介して設置され、かつ、前記第2AEセンサは、前記直接波の方向に対して受波面が垂直になるように前記治具を介して設置され、
前記状態監視装置は、前記第1AEセンサからの第1AE信号に基づいて、前記第1メカニカルシールの状態を判定し、前記第2AEセンサからの第2AE信号に基づいて、前記第2メカニカルシールの状態を判定する、
状態監視システム。
【請求項14】
請求項1記載の状態監視システムにおいて、
前記状態監視装置は、前記動作制御として、前記回転機械の回転軸の動作を停止する制御、または、前記回転軸の速度を減速する制御、または、前記回転機械の減圧装置の制御を行う、
状態監視システム。
【請求項15】
メカニカルシールを持つ回転機械の状態を監視する状態監視システムにおける状態監視方法であって、
前記状態監視システムは、
前記回転機械の容器に設置されているAEセンサと、
前記AEセンサからのAE信号を取得する信号取得回路と、
前記信号取得回路で得た情報に基づいて、前記メカニカルシールに関する正常か否かを含む状態を判定し、前記状態に応じて、アラート出力または前記回転機械の動作制御を含む出力制御を行う状態監視装置と、
を備え、
前記状態監視装置が、監視対象の前記AE信号の周波数スペクトルの時間-周波数応答を、過去の正常時の信号と比較し、設定された所定の周波数範囲として0.7MHz以上の範囲に連続的に発生する信号成分の増加の判断に基づいて、前記状態を判定するステップを有する、
状態監視方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メカニカルシールを持つポンプ等の回転機械の状態監視技術に関する。
【背景技術】
【0002】
ポンプ等の回転機械は、容器内で回転軸に対し、メカニカルシールが設けられているものがある。メカニカルシールは、容器内の液体(例えば水や油等の流体)が漏れることを防ぐための封止機構を構成する。メカニカルシールを持つ回転機械は、自動車、船舶、ロケット、プラント、住宅設備等、様々な分野で使用されている。メカニカルシールは、回転軸側に設置される回転リングと、容器側に設置される静止リングとを有し、回転リングと静止リングとの間に、摺動面(言い換えるとシール面)となる液体膜(例えば水膜や油膜)が形成される。
【0003】
回転機械の状態監視に関する先行技術例として、特開平8-166330号公報(特許文献1)が挙げられる。特許文献1には、回転機械の異常摺動診断方法等として、AE信号をAEセンサで検出し、周波数分布の大きな振幅になった周波数から、異常摺動の有無とその部位の判定を行う旨が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平8-166330号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来、回転機械のメカニカルシールに関する異常や不調や劣化またはそれらの予兆を、AE(アコースティック・エミッション)、すなわち音波の状態によって監視や検知を行うことで、損傷等の防止を図る技術が検討されている。メカニカルシールの摺動面である液体膜は、摺動に伴い音源となってAE波を発生する。
【0006】
従来技術例の回転機械の異常検知または状態監視のシステムは、メカニカルシールから固体または液体等を介して伝播するAE波を、容器の外壁に設置されたAEセンサによって検出する。そして、このシステムは、AEセンサからのAE信号における実効値や突発型AE波の発生数を監視し、それらの値が一定の閾値を超える場合に異常と判定する。
【0007】
従来技術例のシステムは、AE信号の周波数帯域として、例えば0.2MHz以下のような周波数帯域に着目して判定を行っている。従来技術例のシステムは、上記のような判定方式であるため、メカニカルシールの破壊や亀裂等の深刻な異常の状態に到達する直前の時点にならないと、異常として検知できない。その検知時点では、手遅れである場合が多く、メカニカルシールの破壊等は防げない。それよりも前の時点、すなわちまだ異常や劣化等の進行の度合いが低い段階で、早期に、異常予兆として検知できることが望ましい。
【0008】
本発明の目的は、AEを用いた回転機械の状態監視技術に関して、メカニカルシールの状態変化を高い感度で検知でき、回転機械の運用・保守を向上できる技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のうち代表的な実施の形態は、以下に示す構成を有する。一実施の形態の状態監視システムは、メカニカルシールを持つ回転機械の状態を監視する状態監視システムであって、前記回転機械の容器に設置されているAEセンサと、前記AEセンサからのAE信号を取得する信号取得回路と、前記信号取得回路で得た情報に基づいて、前記メカニカルシールに関する正常か否かを含む状態を判定し、前記状態に応じて、アラート出力または前記回転機械の動作制御を含む出力制御を行う状態監視装置と、を備え、前記状態監視装置は、監視対象の前記AE信号の周波数スペクトルの時間-周波数応答を、過去の正常時の信号と比較し、設定された所定の周波数範囲として0.7MHz以上の範囲の信号成分の増加の判断に基づいて、前記状態を判定する。
【発明の効果】
【0010】
本発明のうち代表的な実施の形態によれば、AEを用いた回転機械の状態監視技術に関して、メカニカルシールの状態変化を高い感度で検知でき、回転機械の運用・保守を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の実施の形態1の状態監視システムの構成を示す図である。
図2】実施の形態1で、容器断面およびAEセンサ設置位置等を示す図である。
図3】実施の形態1で、メカニカルシールの構成を示す図である。
図4】実施の形態1で、AE波の伝播経路を示す図である。
図5】実施の形態1で、AEセンサユニットおよび治具の構成例を示す図である。
図6】実施の形態1で、信号取得部等の構成例を示す図である。
図7】実施の形態1で、AE波の信号例を示す図である。
図8】実施の形態1で、AE信号のスペクトログラムの例を示す図である。
図9】実施の形態1で、AE信号の周波数スペクトルの例を示す図である。
図10】実施の形態1で、状態判定例を示す図である。
図11】実施の形態1で、他の周波数範囲の設定例を示す図である。
図12】実施の形態1で、摺動面の状態等について示す図である。
図13】実施の形態1で、表示画面の例を示す図である。
図14】実施の形態1の変形例1における、容器断面等を示す図である。
図15】実施の形態1の変形例3における、容器断面等を示す図である。
図16】実施の形態1の変形例4における、AEセンサ設置位置等を示す図である。
図17】実施の形態1の変形例5における、AEセンサ設置位置等を示す図である。
図18】本発明の実施の形態2における、容器断面等を示す図である。
図19】本発明の実施の形態3における、容器断面等を示す図である。
図20】実施の形態3の変形例(変形例6)における、容器断面等を示す図である。
図21】本発明の実施の形態4における、容器断面等を示す図である。
図22】本発明の実施の形態5における、容器断面等を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、実施の形態を説明するための全図面において同一部には原則として同一符号を付し、繰り返しの説明は省略する。
【0013】
(実施の形態1)
図1図13等を用いて、本発明の実施の形態1の状態監視システムについて説明する。実施の形態1の状態監視システムは、回転機械の特にメカニカルシールの状態を監視し、異常予兆等を検知し、対処を行うシステムである。実施の形態1の状態監視方法は、実施の形態1の状態監視システムにおいて実行されるステップを有する方法である。実施の形態1の状態監視システムは、回転機械の稼動に伴い、リアルタイムでの状態監視を行い、メカニカルシールの異常予兆の状態を検知した時には、アラート出力や動作制御等の出力制御を行う。これにより、メカニカルシールが破壊等の深刻な異常に達する前に、異常予兆として検知し、破壊等を防止でき、保守等の対処が可能である。実施の形態1では、メカニカルシールを持つ回転機械の例としてポンプの例で説明するが、他の回転機械にも適用可能である。
【0014】
[概要等]
従来では、金属やセラミック等の材料中に存在するき裂が進展すると、AE信号の周波数が低くなることが知られており、その低い周波数帯域に着目する前述のような判定方式が用いられていた。それに対し、本発明者は、実験や検討の結果、メカニカルシールが正常な状態から異常な状態へと変化する際、言い換えるとその変化中に異常予兆を示す際に、AE信号における高い周波数帯域(例えば0.5MHz以上)の周波数スペクトルが増加する現象を確認した。
【0015】
そこで、実施の形態1の状態監視システムは、メカニカルシールの異常予兆時または異常発生時に、上記AE信号の周波数帯域が変化する現象、特に高い周波数帯域の周波数スペクトルが増加する現象を利用し、早期に異常予兆を判定および検知する。特に、この状態監視システムは、AE信号の周波数帯域における所定の高い周波数範囲(例えば0.7MHz以上)の信号成分に着目して状態判定を行う。この状態監視システムは、容器の外壁に設置されたAEセンサによって検出するAE信号に基づいて、周波数スペクトルの時系列的変化を監視する。この状態監視システムは、リアルタイムでの監視対象のAE信号を、過去の正常時のAE信号と比較し、設定された所定の周波数範囲(例えば0.7MHz以上、2MHz以下)の信号成分の増加を判断する。これにより、この状態監視システムは、少なくとも正常か否(異常予兆または異常に対応する)かの状態を判定および検知し、検知した状態に応じて出力制御を行う。
【0016】
[状態監視システム]
図1は、実施の形態1の状態監視システムの構成を示す。この状態監視システムは、大別して、回転機械1と状態監視装置10とを有し、それらが電気的な回路や通信を介して接続されている。この状態監視システムは、回転機械1、状態監視装置10、プリアンプ70、信号処理回路(信号処理装置)71、オシロスコープ72、回転動力源31、および回転機械制御装置30等を有する。状態監視に係わるユーザは、状態監視装置10を操作する。
【0017】
なお、説明上、方向として、X,Y,Z,C方向を示す。Z方向は、回転機械1の回転軸3の延在する方向である。X方向およびY方向は、回転軸3の方向に対する垂直な面を構成する2つの方向であり、言い換えると径方向である。X方向は、AEセンサ5が設置される径方向に対応する。また、C方向は、回転方向や周方向である。容器2やメカニカルシール4等は、概略的には回転軸3に対する軸対称形状を有し、図1では円柱形状あるいは円板形状や円環形状として模式的に示している。
【0018】
回転機械1は、容器2、回転軸3、およびメカニカルシール4等を有する。ハウジングである容器2内には液体が充填されている。容器2の外部で、回転軸3には回転動力源31が接続されている。回転動力源31には回転機械制御装置30が接続されている。回転機械制御装置30は、回転機械1の稼動を制御する。回転機械制御装置30は、回転動力源31に駆動制御信号を与える。回転動力源31は、駆動制御信号に従って、回転軸3をC方向に所定の回転数等で回転させる。メカニカルシール4は、容器2側に固定されている静止リング41と、回転軸3側に固定されている回転リング42とを有する。回転軸3の回転に伴い、静止リング41に対し回転リング42が回転する。
【0019】
容器2の一部、例えば外壁の側面の一箇所には、治具6を介して、AEセンサ5がAEセンサユニット50の形態で固定されている。AEセンサ5は、回転機械1の稼動時に、主にメカニカルシール4を音源として発生するAE波を検出し、AE信号として出力する。AEセンサ5には、ケーブルを通じてプリアンプ70が接続されている。プリアンプ70には、ケーブルを通じて信号処理回路71が接続されている。信号処理回路71には、ケーブルを通じてオシロスコープ72が接続されている。オシロスコープ72は、ケーブルを通じて状態監視装置10に接続されている。プリアンプ70、信号処理回路71、およびオシロスコープ72は、AE信号の取得や処理のための構成要素であり、後述の図6の構成例と対応している。なお、信号処理回路71からの後段は、ケーブルを用いた有線通信に限らず、無線通信としてもよい。
【0020】
状態監視装置10は、回転機械1の状態を監視する状態監視機能を有する装置である。状態監視装置10は、例えばPCやサーバ等のコンピュータ、あるいは電子回路基板等で構成できる。状態監視装置10は、プロセッサ101、メモリ102、接続インタフェース部103、入力装置104、表示装置105、スピーカ106、およびランプ107等を備え、これらはバス等を介して相互に接続されている。プロセッサ101は、CPU、ROM、RAM等で構成され、状態監視機能のコントローラを構成する。プロセッサ101は、制御用のプログラム111に従った処理を実行することで、状態監視機能を実現する。
【0021】
メモリ102は、不揮発性記憶装置等で構成され、プロセッサ101等が扱う各種のデータや情報が記憶される。メモリ102には、AE信号データや設定情報121等が格納される。設定情報121は、状態監視機能に係わるシステム設定情報やユーザ設定情報を含む。接続インタフェース部103は、入力装置104等や図示しない通信インタフェース装置等を接続するインタフェース部分である。入力装置104は、ユーザの入力操作を受け付ける操作パネルやボタンやキーボード等の装置である。表示装置105は、ユーザに対し表示画面で情報や画像を表示する装置である。スピーカ106は、ガイドやアラーム等の音声を出力する音声出力装置である。ランプ107は、ガイドやアラーム等に応じた発光を行う装置である。
【0022】
また、状態監視装置10は、出力制御のために、通信で回転機械制御装置30と接続されてもよい。例えば、状態監視装置10は、出力制御として回転機械1の動作制御を行う場合に、動作制御情報を回転機械制御装置30に送信する。回転機械制御装置30は、その動作制御情報に基づいて、回転機械1の動作を制御する。
【0023】
なお、実施の形態1では、状態監視装置10と回転機械制御装置30とが別の装置として構成されているが、これに限らず、他の実施の形態としては、回転機械制御装置30に状態監視装置10の機能が実装されてもよい。状態監視装置10に信号処理装置71やオシロスコープ72の機能が実装されてもよい。状態監視装置10が複数の装置に分かれて構成されてもよい。状態監視装置10に他の計算機やストレージ装置や通信装置等が接続されてもよい。
【0024】
[容器、メカニカルシール、およびAEセンサ]
図2は、回転機械1の構成例における容器2の回転軸3での断面(X-Z面に対応する)の模式図を示す。この構成例は、容器2に1段のメカニカルシール4を持つ回転機械1の場合である。また、図2では、容器2に対するAEセンサ5の設置位置例も示す。実施の形態1では、位置Z1にAEセンサ5が設置されている。他の実施の形態では、位置Z2にAEセンサ5が設置される。
【0025】
容器2は、主な材料として例えばステンレスで構成されている。容器2の断面は、固体部21と、液体部22とを有する。液体部22には液体(例えば水または油)が充填されている。液体部22は、メカニカルシール4で区分される部分として、下側の液体部22Aと上側の液体部22Bとを有する。液体部22Aおよび液体部22Bは、それぞれ液体による圧力を持つ。
【0026】
容器2は、外壁の側面の一部に、液体部22Aに通じている流入口201を有し、側面の他の一部に、液体部22Bに通じている流出口202を有する。また、容器2は、減圧装置200を備える場合がある。減圧装置200による減圧機構は、例えば細いチューブやオリフィスを用いて、圧損により減圧を行う機構である。減圧装置200は、回転機械制御装置30からの制御に従って、液体部22Aの圧力を減圧によって調整する。減圧装置200は、液体部22Aに通じる位置に設けられている。側面の他の一部には、減圧装置200に通じる流出口203を有する。容器2の下部の回転軸3の付近には、液体部22Aに通じる流出口204を有する。
【0027】
図3は、メカニカルシール4の構成概要を示す。回転軸3に対し、Z方向の一箇所に、回転リング42が固定されている。回転リング42の上側には、容器2側の静止リング41が配置されている。本例のメカニカルシール4は、構成材料としては、静止リング41がカーボンで構成され、回転リング42がシリコンカーバイド(SiC)で構成されている。この材料の組み合わせは一般によく使用されている。なお、メカニカルシール4の材料の組み合わせは、この例に限らず適用可能である。
【0028】
回転軸3の回転に伴って回転リング42が一体的に回転し、それに対し静止リング41は回転せずに静止している。この際、静止リング41の下面と回転リング42の上面との間は、近接して微小な厚さの隙間を持ち、液体膜43が形成されている。液体膜43がシール面である摺動面となっている。このメカニカルシール4の液体膜43を介して、図2の2つの液体部22(22A,22B)の間が封止されている。メカニカルシール4の液体膜43における液体の粘性による摩擦が、音源となってAE波を発生する。
【0029】
図2に戻り、容器2の外壁の側面には、1個のAEセンサ5が設置されている。本例では、図1のように概略円柱状の容器2の側面のうちのC方向の外周の一箇所に、1個のAEセンサ5が設置されている。このAEセンサ5は、例えば図1や後述の図5のように、AEセンサユニット50の態様で、かつ、治具6を介在する態様で、容器2の側面に取り付けられている。AEセンサ5の受波面と容器2の外面との間には、音響伝達媒質としてのカプラント8を介在させる。カプラント8の材質は、グリス、ワックス、または接着剤等である。カプラント8の機能は、音波の反射を防ぎ、AE波をAEセンサ5の受波面へ伝達しやすくすることである。周波数が高い音波である超音波は、空気との界面で略全反射してしまう。よって、容器2とAEセンサ5の受波面との隙間は、空気や微小な気泡が入らないように、カプラント8で埋めて密着させる。
【0030】
[伝播経路]
図4は、図2の構成例に対応したAE波の伝播経路の概要を示す。ここでは主な伝播経路として2つの伝播経路を示す。(A)は、第1伝播経路として、主に固体部21を経由する経路であり、図2中の伝播経路P1と対応している。(B)は、第2伝播経路として、固体部21と液体部22とを経由する経路であり、図2中の伝播経路P2と対応している。回転機械1の稼動時に、音源であるメカニカルシール4から、摺動に伴ってAE波が発生する。(A)の伝播経路は、メカニカルシール4から、容器2の固体部21を経由し、外面のカプラント8を介して、AEセンサ5の受波面に至る経路である。(B)の伝播経路は、メカニカルシール4から、容器2の液体部22を経由し、固体部21に至り、固体部21から外面のカプラント8を介して、AEセンサ5の受波面に至る経路である。なお、(C)のように、より詳細な伝播経路では、カプラント8とAEセンサ5との間に、治具6やAEセンサユニット50のホルダー501(図5、特にフランジ部502)等が介在する。
【0031】
図2で、実施の形態1では、容器2の側面において、伝播経路P1に対応させた位置Z1にAEセンサ5が設置されている。この位置Z1は、メカニカルシール4のZ方向の高さ位置に対して近い位置である。伝播経路P1は、メカニカルシール4からのAE波が固体部21を介して直接波として外壁まで伝播する経路のうち、伝播距離が最小となる経路である。位置Z1は、その伝播経路P1に対応させて選択されている好適な位置である。これにより、このAEセンサ5は最も高い感度でAE波を検出できる。
【0032】
固体と固体の界面ではAE波がよく透過する。固体と液体の界面では、AE波はやや反射が大きいが透過する。固体と気体の界面ではAE波はほぼ全反射する。そのため、メカニカルシール4からAEセンサ5までの伝播経路は、空気を介在しないことが好ましく、また、第1伝播経路のようになるべく液体部22を介さない経路の方がより好ましい。
【0033】
[伝播経路-補足]
AE波の伝播経路における音圧反射率や透過損失について補足説明する。超音波であるAE波は、音響インピーダンスが異なる領域の境界において、入射波の一部が反射し、透過するAE波は減衰する。音響インピーダンスは、次の式1で表される。
式1: Z=ρ・C
【0034】
音響インピーダンスは、物質固有の定数であり、単位としては、一般に、MRayl(メガ・レイル)が用いられる。1MRayl=1×10kg・m-2・s-1である。式1でρは音響媒質の密度を表し、Cは音響媒質中の音速を表す。
【0035】
また、第1媒質の音響インピーダンスをZ1とし、第1媒質に隣接する第2媒質の音響インピーダンスをZ2とすると、第1媒質と第2媒質との界面における超音波の垂直反射率Rpは、次の式2で与えられる。
式2: Rp=(Z2-Z1)/(Z1+Z2)
【0036】
第1媒質と第2媒質との界面における超音波の透過損失TLは、次の式3で与えられる。式3中のTIは、音の強さの透過率であり、TI=1-Rpである。
式3: TL=10log10(1/TI)
【0037】
異なる媒質間の音響インピーダンスの差が小さいほど、媒質境界(界面)における反射が小さく、音響インピーダンスの差が大きいほど、界面での反射が大きい。代表的な物質の音響インピーダンス(単位[MRayl])は、空気が0.00041、水が1.5、アクリルが3.1、カーボンが5.0、アルミニウムが16.9、SiCが34.6、圧電セラミックが40.6、ステンレスが45.8である。空気は音響インピーダンスが非常に小さいため、超音波であるAE波の伝播経路に気泡が存在すると、その境界において超音波が全反射してしまう。このため、高感度の計測のためには、AE波の伝播経路に空気が介在しないことが重要である。特に、容器2とAEセンサ5の受波面との間には、微小気泡が介在しないように、カプラント8を用いて密着させる。
【0038】
図4のAE波の伝播経路に対し、異なる音響媒質間の界面における音圧反射率および透過損失の例を以下に示す。音響媒質の厚さが波長に対して十分小さい場合には、その媒質の界面における反射の影響は無視できる。その場合とは、一般的には波長の1/20以下が目安である。そのため、その場合、カプラント8の界面における反射の影響は無視してよい。
【0039】
AE波の主な音源が、図3のようにカーボンの静止リング41である場合、図4の(A)の第1伝播経路は、例えば、カーボン→ステンレス→圧電セラミックとなる。この経路において、式3より、カーボンとステンレスとの界面における透過損失は、約4.5dBであり、ステンレスと圧電セラミックとの界面における透過損失は、約0.01dBである。このことから、音源からAEセンサ5の受波面に到達するまでに、AE波は、反射によって少なくとも4.5dBが減衰する。
【0040】
一方、図4の(B)の液体部22を介する第2伝播経路は、例えば、カーボン→水→ステンレス→圧電セラミックとなる。カーボンと水との界面における透過損失は約1.5dB、水とステンレスとの界面における透過損失は約9.2dB、ステンレスと圧電セラミックの界面における透過損失は約0.01dBである。このことから、AE波は、媒質間での反射によって少なくとも10.7dBが減衰する。すなわち、第2伝播経路では、信号強度が1/3以下に減衰する。
【0041】
以上から、固体材料同士を伝播する経路の方が、液体を介して伝播する経路よりも、界面における反射が小さく、より強度の大きなAE波を検知できる。よって、実施の形態1では、図4の第1伝播経路(図2の伝播経路P1)に対応する位置(位置Z1)にAEセンサ5が設置される。
【0042】
また、特に、液体中においては、音波の拡散減衰、および音波の吸収減衰による伝搬損失を考慮する必要がある。いずれも伝搬距離が長いほど減衰が大きい。そのため、液体を介する伝播経路の場合には、音源からAEセンサ5の受波面に到達するまでに、上記の試算よりもさらに減衰が大きくなる。
【0043】
なお、容器2の外壁においてAEセンサ5等と接していない面は、空気と接しているため、容器2と空気との界面において超音波がほぼ全反射し、それによる反射波が容器2内を伝播する。液体部22の水中では、AE波の多重反射が起こる。音源からのAE波を高感度に計測するためには、その多重反射の影響を抑えられると、より好ましい。好適な伝播経路の選択や後述の吸音材の配置によって、その多重反射の影響を抑えられる。
【0044】
また、図2でのAEセンサ5の設置位置は、容器2の外周の一箇所である。図1のように容器2の外周が曲面であるのに対し、AEセンサ5の受波面は一般的に平面である。そこで、AEセンサ5の受波面を、曲面に対して平面として設置できるように、図5のような変換のための治具6を用いる。
【0045】
変形例としては、容器2の側面等の曲面のうち一部を、平面となるようにカットした形状とし、その平面に対しAEセンサ5の受波面が設置される構成としてもよい。
【0046】
[AEセンサユニットおよび治具]
図5は、容器2の外壁に取り付けられるAEセンサユニット50および治具6の構成例を示す。図5は、断面(X-Z面に対応する)の模式図を示す。容器2の外壁の側面2Sは凸型の曲面となっている。AEセンサ5は、ホルダー(言い換えるとカバー)501内に収容されることで、AEセンサユニット50として構成されている。ホルダー501および治具6は、容器2の面に対するAEセンサ5の安定的な固定のための機構を有する。
【0047】
治具6は、容器2の側面2Sの曲面と、AEセンサ5の受波板52の受波面である平面52Sとの間での変換、および相互接続のための設置器具である。治具6は、容器2に対向する側である一方面に凹型の曲面61を持ち、AEセンサ5に対向する側の他方面に平面62を持つ。容器2の側面2Sの曲面と治具6の曲面61との間にはカプラント8(例えば接着剤)が充填されて密着される。AEセンサ5の受波面である平面52S(またはフランジ部502の平面)と、治具6の平面62との間は、カプラント(例えば接着剤)が充填されるか、本例のようにねじ503等で固定される。治具6の材料は、音響インピーダンスが容器2の音響インピーダンスに近い材料が望ましく、例えばステンレスを用いる。
【0048】
本例では、治具6の平面62に、ホルダー501のフランジ部502の平面が、複数のねじ503によって固定されている。ホルダー501内には、AEセンサ5が収容されている。ホルダー501内では、AEセンサ5のシールドケース54がばね504によって押されることで、AEセンサ5の受波板52の受波面がフランジ部502の平面に密着されている。ばね504に限らず、例えば接着剤によって受波板52がフランジ部502の平面に密着されてもよい。部材同士の固定手段は、ねじや接着剤やばねに限らず適用可能である。
【0049】
ホルダー501は、例えば箱状であるが、円柱状や他の形状としてもよい。フランジ部502の平板は、設置面に対し垂直な方向であるX方向で平面視した場合に、例えば四角形を持つが、これに限らず円形等としてもよい。ホルダー501は、防水性や防油性等を持つカバーである。他の実施の形態として、防水性や防油性等を持つAEセンサ5を適用する場合、ホルダー501等を省略してもよい。
【0050】
実施の形態1では、以下のようなタイプのAEセンサ5を適用した。このAEセンサ5のタイプは、広帯域型およびシングルエンド型である。この広帯域型は、周波数特性として、フラットな帯域を含み、例えば100kHz~4MHzの広帯域を持つ。
【0051】
このAEセンサ5は、圧電素子51、受波板52、ダンパー53、シールドケース54(蓋を含む)、コネクタ55、信号ケーブル56等を備える。AEセンサ5は、例えば円柱状のシールドケース54の底面に受波板52を有し、シールドケース内で受波板52の上に圧電素子51、およびダンパー53を有する。シールドケース54の外面は、カプトンテープ505で覆われている。圧電素子51は、圧電セラミクスで構成され、受波板52に伝播するAE波を、圧電効果によって電気信号に変換し、信号ケーブル56から出力する。
【0052】
このAEセンサ5は、受波板52の上の圧電素子51を覆うダンパー53によって共振を抑える。圧電素子51からの信号ケーブル56は、コネクタ55に接続され、コネクタ55を通じて外部のケーブルと接続される。このAEセンサ5の感度は、例えば40~55dBである。感度の基準は、0dB=1V/m/sである。このような構成によって、容器2の固体部21からのAE波は、カプラント8、治具6、ホルダー501のフランジ部502を介して、AEセンサ5の受波板52の受波面まで、効率的に伝播する。
【0053】
[回路構成例]
図6は、プリアンプ70、信号処理装置71、オシロスコープ72、および状態監視装置10等の回路構成例を示す。なお、図6の回路構成例に限らず適用可能である。この回路構成例は、大別して、AEセンサ5からのAE信号を取得して好適な信号に整える信号取得部600と、信号取得部600で取得した信号についての解析や判定や出力制御等の処理を行う状態監視装置10とを有する。信号取得部600は、プリアンプ70、信号処理装置71、およびオシロスコープ72を含む。信号処理装置71は、バンドパスフィルタ(BPF)71Aとメインアンプ71Bとを含む。オシロスコープ72は、アナログデジタル変換器(ADC)72A、表示器72B、および記憶部72Cを含む。状態監視装置10は、信号演算部601としての周波数解析部10Aと、状態判定部10Bと、出力制御部10Cと、正常信号記憶部10Dと、条件設定部10Eとを含む。状態監視装置10の各部は、図1の構成に基づいて例えばプロセッサ101によるプログラム処理で実現されてもよいし、各部の機能を実装した回路で実現されてもよい。
【0054】
AEセンサ5から出力されるAE信号は、微小であるため、増幅器で増幅して利用する。増幅器は、プリアンプとメインアンプとの2段構成を用いる場合が多い。本例では、プリアンプ70と、信号処理回路71内のメインアンプ71Bとを用いる。AE信号の増幅は、例えば、プリアンプ70では40dB、メインアンプ71Bでは20dB、合計60dBとする。AEセンサ5からのAE信号は、プリアンプ70に入力されて増幅され、増幅後のAE信号が、信号処理回路71のBPF71Aに入力される。AEセンサ2からプリアンプ70までの間は、ノイズを拾いやすいので、ケーブル長を短くし、低ノイズケーブルを用いる。
【0055】
信号処理回路71は、例えば1台の装置として構成される。BPF71Aは、ハイパスフィルタやローパスフィルタの機能を有する。本例では、BPF71Aは、ハイパスフィルタ機能を用いて、AE信号の高周波数成分を抽出する。本例では、ハイパスフィルタのカットオフ周波数を100kHzに設定し、メカニカルシール4の塑性変形に伴うAE周波数よりも低い周波数帯域の振動成分等をカットした。ローパスフィルタ機能についてはスルー状態として使用しない。メインアンプ71Bは、BPF71Aからの信号をさらに増幅する。
【0056】
オシロスコープ72は、波形測定器である。なお、オシロスコープ72と信号処理回路71とが一体の装置として構成されてもよい。ADC72Aは、メインアンプ71Bからのアナログ信号であるAE信号をデジタル信号に変換する。ADC72Aは、デジタルオシロスコープを用い、本例ではサンプリング周波数を5MHzとした。ADC72AからのAE信号のデジタル信号は、表示器72Bの表示画面でモニタ表示されると共に、記憶部72C(例えばハードディスクドライブ)に生データとして記憶される。表示器72Bは、波形表示器であり、AE信号のAE波の振幅等の状態を表示する。記憶部72Cは、AE信号の生データをログとして記憶する。ユーザは、操作に基づいて記憶部72Cからデータを出力可能である。
【0057】
ADC72AからのAE信号データは、接続インタフェース部103を通じて状態監視装置10に入力される。信号演算部601の周波数解析部10Aは、監視対象のAE信号について、リアルタイムでの周波数解析を行う。これにより、周波数解析部10Aは、AE信号の周波数応答である周波数スペクトルの時系列変化を表す、時間-周波数応答(スペクトログラムとも呼ばれる)を算出する。周波数解析部10Aは、その算出したスペクトログラムを含む監視対象信号SIG1を、状態判定部10Bへ出力する。
【0058】
状態判定部10Bは、監視対象信号SIG1のスペクトログラムについて、設定された所定の周波数範囲H1の成分に着目し、過去の正常信号SIG2との比較に基づいて、変化を検出することで、メカニカルシール4の状態を判定する。実施の形態1では、周波数範囲H1は0.7MHz以上、2.0MHz以下の範囲である。言い換えると、状態判定部10Bは、所定の周波数範囲H1を含む所定の条件に基づいて、状態を判定する。状態判定部10Bは、監視対象信号SIG1の周波数範囲H1のスペクトログラムと、正常信号SIG2の周波数範囲H1のスペクトログラムとを比較し、例えば周波数範囲H1の成分に関する差分を抽出する。状態判定部10Bは、例えば周波数範囲H1内の信号成分の変化として、上記差分が、ある程度以上存在する場合、例えば所定の率以上で増加している場合には、正常ではない状態(否の状態)、すなわち異常予兆等の状態と判定する。状態判定部10Bは、判定結果の状態を表す判定結果信号SIG3を、出力制御部10Cに出力する。状態は、少なくとも、正常か否かがある。例えば、正常の状態が値=0、否(異常予兆)の状態が値=1、等と規定される。
【0059】
所定の周波数範囲H1の信号成分を参照する際には、詳しくは以下のような方式が可能である。監視対象信号SIG1におけるスペクトログラム情報は、所定の時間単位毎および所定の周波数区間(例えば100kHz単位等)毎に測定および記憶される。状態判定部10Bは、周波数範囲H1のうち、時間単位毎および周波数区間毎のデータを参照し、正常信号SIG2の対応するデータと比べて、周波数範囲H1全体である程度以上の増加がある場合には、否の状態と判定する。あるいは、状態判定部10Bは、周波数範囲H1のうちの任意の一部の周波数区間である程度以上の増加がある場合には、否の状態と判定する。
【0060】
正常信号記憶部10Dには、比較用に、過去の正常時のAE信号データが記憶されている。この正常信号SIG2は、過去に実測したデータのスペクトログラムであり、正常の状態と判定されたデータである。状態判定部10Bでの判定結果に基づいて、一定期間毎に、正常の状態のAE信号データを、正常信号SIG2として正常信号記憶部10Dに記憶してもよい。あるいは、ユーザの設定によって、正常時の特定のデータを、正常信号SIG2として正常信号記憶部10Dに記憶してもよい。状態監視装置10は、AE信号データと共に、監視の日時、対象の回転機械1やAEセンサ5のID等の情報も記憶する。
【0061】
条件設定部10Eには、所定の周波数範囲H1を含む所定の条件が設定され、その条件が状態判定部10Bに設定される。この条件には、上記変化の度合いを判断するための率等を含んでもよい。ユーザは、後述する表示画面でこの条件を確認および設定できる。
【0062】
所定の周波数範囲H1は、最も広い範囲としては、0.5MHz以上の範囲(例えば0.5MHz以上、5.0MHz以下の範囲)とすることができる。実施の形態1では、周波数範囲H1は、より狭い範囲として、0.7MHz以上、2.0MHz以下の範囲として設定した。周波数範囲H1は、さらに狭い範囲としては、1.0MHz以上、2.0MHz以下の範囲として設定されてもよい。好適な周波数範囲H1は、メカニカルシール4の材質に応じて決まる。メカニカルシール4が前述の材質とは異なる他の材質で構成される場合には、周波数範囲H1はその材質に合わせて他の周波数範囲が設定される。
【0063】
なお、状態判定部10Bでは、機械学習や深層学習を用いて状態判定を行ってもよい。また、状態判定部10Bは、正常か否かの2値の判断に限らず、正常から異常までを複数の度合いに区分けし、複数の状態を判定するようにしてもよい。例えば、周波数範囲H1での信号成分の変化が、第1率未満の場合には正常の状態とし、第1率以上で第2率未満の場合には異常予兆の状態とし、第2率以上の場合には異常の状態としてもよい。
【0064】
出力制御部10Cは、アラート出力91、動作制御92、およびモニタ表示93等を行う機能を有する。状態判定部10Bからの判定結果信号SIG3で、否の状態が検知された場合、出力制御部10Cは、その否の状態に対応した出力制御を実行する。出力制御部10Cは、否の状態の場合には、アラート出力91として、例えば異常予兆を表すアラートをユーザに対し即時に出力する。アラート出力91は、例えば、図2のスピーカ106からのアラート音声出力、ランプ107のアラート発光、表示装置105の表示画面でのアラート情報表示、通信インタフェースを通じた通知等が挙げられる。アラート出力91は、異常の度合いに応じた複数のレベルのアラートが設けられてもよい。
【0065】
動作制御92は、回転機械1の稼動の動作を制御することであり、例えば、即時に稼動を停止させる制御(動作停止制御)や、稼動をスローダウンさせる制御(動作減速制御)等が挙げられる。動作停止制御は、例えば回転軸3の回転を停止させることが挙げられる。動作停止制御は、稼動を停止させても問題が無い回転機械1の場合に適用できる。動作減速制御は、例えば回転軸3の回転速度を低下させることが挙げられる。出力制御部10Cは、例えば、時点毎の状態に応じて、回転軸3の外周の回転速度を増加または減少させるように、フィードバック制御を行ってもよい。これにより、メカニカルシール4の摺動面を調整することができる。他の動作制御92としては、図2の減圧装置200を制御して圧力(回転軸3やメカニカルシール4が受ける面圧の圧力差等)を調整する制御が挙げられる。動作制御の際には前述のように回転機械制御装置30との連携が行われる。
【0066】
モニタ表示93は、図1の表示装置105の表示画面に、監視対象信号SIG1のスペクトログラム、および判定結果の情報を表示することが挙げられる。ユーザは、出力制御部10Cによる出力から、回転機械1のメカニカルシール4の状態を、損傷等の深刻な異常に至る前に、異常予兆として認識でき、対処することが可能となる。
【0067】
[AE波]
図7は、AE波の信号形状の例を示す。(A),(B)は、図3のようなメカニカルシール4の摺動によって発生するAE波の代表的な信号形状例を示す。(A)は正常状態時のAE波の例である。このAE波は、連続型AE波と呼ばれる形状を持つ。メカニカルシール4の摺動時には、常にこのような連続型AE波のAE信号が励振されている。このような連続型AE波は、時間相関がとれない。そのため、従来技術例として、複数のAEセンサを空間的に離れた位置に設置し、それらのAEセンサにAE波が到達する時間差から音源の位置標定を行うこと等は難しい。
【0068】
(B)は異常予兆時のAE波の例であり、連続型AE波に突発側AE波(例えば突発側AE波701)が重なって発生した場合の例を示す。メカニカルシール4の摺動面に異物(例えば磨耗粉)が噛み込まれること等が発生した場合、突発型AE波が発生する。突発型AE波の振幅が、連続型AE波の振幅よりも十分に大きい場合でないと、突発型AE波の発生を検知することは難しい。
【0069】
例えば、過去の正常時のAE信号のスペクトログラムでは、周波数範囲H1内の信号成分が殆どみられないが、異常予兆時には、周波数範囲H1内の信号成分が出現する。よって、実施の形態1では、周波数範囲H1内の信号成分の大きさを判断することで、異常予兆状態として即時に検知が可能である。
【0070】
[スペクトログラム]
図8は、異常発生時に正常状態から異常予兆状態を経由して異常状態へ変化する際のAE信号のAE波の時間-周波数応答であるスペクトログラムの例を示す。グラフの横軸が時間、縦軸が周波数[MHz]である。各点のAE信号強度[dB]をカラーマップのグレースケールで表す。本例では、-50dBから-35dBまでの強度範囲とし、-50dBを黒、-35dBを白とした。このAE信号データは、サンプリング周波数を5MHzとして測定したデータである。そのため、グラフの周波数の範囲は0から2.5MHzまでの範囲となっている。
【0071】
時刻TAは正常時であり、時刻TBは異常予兆時である。時刻TAの正常時には、摺動時に、0.7MHz以下の周波数成分を持つAE信号が連続して検出されている。正常時には、0.7MHz以上の周波数帯域の信号成分は小さい。図示のように、正常時の期間T1では、主に0.7MHz以下の範囲内で、白い値が分布していることが分かる。
【0072】
一方、時刻TBの異常予兆時には、0.7MHz以下の信号成分に加え、0.7MHz以上、2.0MHz以下の周波数帯域の信号成分の信号強度が大きくなっている。図示のように、期間T2では、0.7MHz以上、2.0MHz以下の範囲内でも白い値が出現して分布していることが分かる。
【0073】
なお、図8のグラフでは、異常予兆時の信号の2.0~2.5MHzは、信号強度が相対的に小さく黒く見えているが、これは本例の測定で使用した広帯域型のAEセンサ5の周波数特性の影響を受けて、2.0MHz以上では感度が低下しているためである。本例では、例えば0.5~2.0MHzの信号成分を検出しやすいAEセンサ5を使用している。実際には、異常予兆時におけるAE信号の周波数帯域は、2.0MHz以上の範囲、例えば5MHzまでにも存在する。
【0074】
実施の形態1の状態監視システムでは、従来判定時に着目する所定の周波数範囲H1として、図示のように、0.7MHz以上の範囲、例えば0.7MHz以上、2.0MHz以下の範囲とした。0.7MHz以下では、正常時にも信号強度が大きいAE信号が検出されるため、周波数範囲H1の下限値を0.7MHzとする。これに限らず、他の設定としては、下限値を0.5MHzとしてもよいし、1MHzとしてもよい。周波数範囲H1の上限値については、例えば5.0MHzまで取得できるが、本例では、AEセンサ5の特性やリアルタイムでの処理効率等も考慮し、周波数範囲H1の上限値を2.0MHzとした。状態判定部10Bは、このような監視対象信号SIG1のスペクトログラムを、正常信号SIG2と比べ、周波数範囲H1の信号成分の増加を判断することで、異常予兆状態を判定できる。状態判定部10Bは、例えば時刻TBの時点で、周波数範囲H1内の成分がある程度以上、例えば所定の率以上、増加したことで、異常予兆状態として検知できる。
【0075】
なお、このようなAE信号の周波数帯域は、主にメカニカルシール4の材質に依存する。すなわち、周波数範囲H1は、メカニカルシール4の材質の組み合わせに対応させて設定されている。詳細には、AE信号の周波数帯域は、摺動条件として、メカニカルシール4を含む回転機械1における寸法、形状、回転速度、荷重等によっても変わるが、メカニカルシール4の材質が最も支配的である。摺動条件の詳細に変更がある場合でも、概ね、周波数範囲H1内の信号成分の変化に着目することで、早期の異常予兆の検知が可能である。
【0076】
[周波数スペクトル]
図9は、図8の時刻TAおよび時刻TBにおける周波数特性である周波数スペクトルを示す。太線で示す特性1001は、時刻TAの正常状態時の周波数スペクトルであり、図8中の時刻TAの破線の断面に対応する。細線で示す特性1002は、時刻TBの異常予兆状態時の周波数スペクトルであり、時刻TBの破線の断面に対応する。グラフの横軸が周波数[MHz]であり、ここでは0.5MHzから2.5MHzまでの範囲を示した。縦軸がAE信号強度[dB]を示す。
【0077】
図8中の白い値で信号強度分布が表示されるように選択された閾値を、図9中では、閾値1003として-45dBとした。条件として、信号強度が-45dB以上(または-45dBよりも大きい)とする。すると、図9から、-45dB以上となるのは、時刻TAの特性1001では、周波数が概略0.6MHz以下となる部分が該当し、時刻TBの特性1002では、周波数が概略1.9MHz以下となる部分が該当する。このように、周波数0.7MHz以上の信号成分に着目すると、正常時と異常予兆時との差が明瞭である。異常予兆時には、周波数範囲H1に対応する高い周波数帯域にわたってAE信号強度が大きいことが分かる。状態判定部10Bは、このような特性を利用し状態を判定する。
【0078】
[状態判定例]
図10は、状態判定部10Bによる状態判定例を模式的に示す。(A)は第1例である。状態判定部10Bは、周波数範囲H1全体の信号成分に着目し、監視対象信号SIG1の特性1102の周波数範囲H1全体の信号成分が、正常信号SIG2の特性1101の周波数範囲H1全体の信号成分に対し、所定の率(例えば率R1)以上で増加している場合、異常予兆状態と判定する。この率は、増加の割合や大きさを判断するための閾値である。状態判定部10Bは、例えば、監視対象信号SIG1の特性1102と、正常信号SIG2の特性1101との比較で、周波数範囲H1全体の信号成分についての差分(例えば周波数区間毎の差分の総和)を算出する。状態判定部10Bは、その差分が、所定の大きさ以上である場合、異常予兆状態と判定する。
【0079】
(B)は第2例である。状態判定部10Bは、周波数範囲H1のうち任意の一部の信号成分のみが増加する場合にも、異常予兆状態と判定する。状態判定部10Bは、例えば、監視対象信号SIG1の特性1102における周波数範囲H1のうちの一部(例えば範囲1105)の信号成分が、正常信号SIG2の特性1101の周波数範囲H1のうちの対応する一部の信号成分に対し、所定の率(例えば率R2)以上で増加している場合、異常予兆状態と判定する。なお、率R1と率R2は異なってもよい。状態判定部10Bは、例えば、監視対象信号SIG1の特性1102と、正常信号SIG2の特性1101との比較で、周波数範囲H1のうちの周波数区間毎の信号成分についての差分を算出する。状態判定部10Bは、少なくとも一部の周波数区間の差分が、所定の大きさ以上である場合、異常予兆状態と判定する。なお、周波数範囲H1内の区分された部分毎に異なる率R2が設定されてもよい。
【0080】
[他の周波数範囲]
図11は、変形例として、周波数範囲H1の設定に関する他の例を示す。この変形例では、周波数範囲H1は、1MHz以上の範囲とし、例えば1MHz以上で2.0MHz以下の範囲とする。(A)は、図8とは別例のAE信号のスペクトログラムを示す。周波数範囲H1bとして1MHz以上で2MHz以下の範囲を示す。(B)は、(A)に対応する周波数スペクトルを示す。例えば0.3MHz程度以下の低周波数帯域では、回転軸3に係わる振動成分等のノイズが乗っている。0.7MHz以上では、信号強度が大きい。特に、1MHz以上、2MHz以下の範囲では、信号強度が大きい。このような周波数範囲H1bの設定の場合でも、異常予兆を検知できる。
【0081】
[摺動面の状態]
図12は、補足として、メカニカルシール4等の摺動面に関する正常および異常の状態や一般的な摩擦等の力学について示す。摺動面は、第1固体と第2固体との面間に潤滑剤等の液体膜を有する。摺動面における間隔をhとし、表面粗さをRとし、液体膜の粘度をηとする。摺動面に対する荷重をFとし、速度をVとする。グラフの横軸は、(粘度η×速度V)/荷重Fとして計算される値である。縦軸は摺動面における摩擦係数であり、fとする。流体潤滑領域1201では、間隔hが表面粗さRよりもずっと大きく、正常状態(または定常状態)に対応する。境界潤滑領域1203では、間隔hが0に近付く。混合潤滑領域1202は、流体潤滑領域1201と境界潤滑領域1203との間にある領域であり、間隔hは表面粗さRに近い。混合潤滑領域1202と境界潤滑領域1203は異常状態に対応する。流体潤滑領域1201と混合潤滑領域1202では、連続の力学が作用する。混合潤滑領域1202と境界潤滑領域1203では、接触の力学が作用する。摺動面の磨耗の進行に応じて、摩擦係数fは低下し、混合潤滑領域1202に入り、さらに磨耗が進行すると、摩擦係数fが増加する。
【0082】
前述の図11のAE信号は、メカニカルシール4の摺動面が図12の混合潤滑領域1202の状態にある場合の信号である。混合潤滑領域1202では、流体潤滑領域1201に比べて液体膜が薄くなっており、静止リング41と回転リング42とが局部的に接触し、磨耗等が発生する。このような摺動の状態でのAE信号は、例えば0.7MHz以上の周波数領域で信号強度が大きくなる。
【0083】
実施の形態1の状態監視システムは、メカニカルシール4の摺動面の状態として、混合潤滑領域1202、特に変化の早期に係わる領域1204を、異常予兆の状態として検知することができる。
【0084】
[表示画面例]
図13は、状態監視装置10がユーザに対して提供する表示画面でのグラフィカル・ユーザ・インタフェース(GUI)の例を示す。状態監視装置10は、ユーザの操作に基づいて、表示装置105の画面に、このようなGUI情報を表示する。ユーザは、この画面で設定を確認および変更でき、出力制御部10Cのモニタ表示93等の他の画面に遷移できる。図13のGUI情報は、状態判定用の条件を設定する場合の例であり、項目として、設定名、周波数範囲H1、変化(率)、注釈等を有する。ユーザは、条件を構成する、周波数範囲H1の下限値や上限値を選択して設定できる。ユーザは、条件を構成する、正常信号SIG2に対する監視対象信号SIG1の変化の大きさに関する率[%]を選択して設定できる。ユーザは、注釈項目に、設定に関する注釈等を記載できる。ユーザは、監視対象の回転機械1やメカニカルシール4の材質等に応じて設定を変更でき、これにより、感度を調整できる。ユーザは、容器2に対しAEセンサ5を設置する位置についても変更でき、これにより、感度を調整できる。
【0085】
[効果等]
上記のように、実施の形態1の状態監視システムおよび方法によれば、AEを用いた回転機械1の状態監視に関して、メカニカルシール4の状態変化を高い感度で検知でき、回転機械1の運用・保守を向上できる。
【0086】
[変形例1]
図14は、実施の形態1の変形例(変形例1とする)における容器2の断面等の構成例を示す。変形例1では、ステンレスで構成される容器2の外壁の外面において、AEセンサ5を設置する箇所以外の少なくとも一部の領域を、吸音材9で覆う構成とする。この構成例では、容器2の側面、上面、および下面の殆どの領域が吸音材9で覆われている。吸音材9は、反射波を吸収する。これにより、音波を吸音材9側へ逃がし、液体部22の水中への反射を小さくすることができ、界面での反射による多重反射を抑制することができる。
【0087】
吸音材9の物質は、ステンレスに近い音響インピーダンスを持つ材料、すなわち、比重が大きく、音速の大きな材料が望ましい。吸音材9の材料は、例えば鉛等が適用でき、例えば吸音材シートとして圧延鉛板を用いる。また、容器2の外壁と吸音材9との間は、空気層ができないように、カプラントで埋めるとより良い。
【0088】
[変形例2]
実施の形態1の変形例2として、以下の構成も可能である。前述の図2では、変形例2に対応するAEセンサ5の設置の位置Z2も示している。位置Z2は、容器2の側面において、メカニカルシール4からのAE波が液体部22を経由して伝播する伝播経路P2に対応した位置である。伝播経路P2は、固体と液体との界面での反射が生じるため、伝播経路P1よりも感度が下がるが、同様に適用可能である。この伝播経路P2のAEセンサ5からのAE信号についても、周波数範囲H1を用いた判定によって、異常予兆を検知可能である。
【0089】
例えば、図2の容器2の固体部21に近い外壁において、AEセンサ5等を設置するためのスペースが確保できない場合や設置がしにくい場合がある。例えば、外壁の形状が複雑で設置に適していない場合や、他の部品等が配置されている場合がある。そのような場合には、本例のように、容器2の液体部22に近い外壁の位置に、AEセンサ5や治具6等を設置する。図2中のAEセンサ5を設置する位置Z2は、位置Z1よりも下方にあり、液体部22に対し外周の位置である。伝播経路P2は、液体部22を経由する伝播経路のうち伝播距離がなるべく小さい経路として選択されている。
【0090】
[変形例3]
図15は、実施の形態1の変形例3における容器2の断面およびAEセンサ5の設置位置等を示す。変形例3は、容器2の外壁の上部の平面の一箇所に、AEセンサ5の受波面が設置される。伝播経路P1bは、メカニカルシール4からのAE波が主に固体部21を経由して直接波として上面まで伝播する経路である。また、このAEセンサ5の設置の位置X3は、回転軸3に係わるノイズが少なくなるように、回転軸3の位置からはやや離れた位置として外周寄りの位置としている。容器2の上面において、主に固体部21を経由する伝播経路P1bに対応させて、回転軸3に係わるノイズが比較的少ない位置X3が選択されている。
【0091】
容器2の側面にAEセンサ5を設置しにくい場合等には、変形例3のように、容器2の上面等の平面にAEセンサ5を設置してもよい。変形例3の場合、容器2に対するAEセンサ5の取り付けが容易である利点があり、治具6等を省略または簡略化することができる。
【0092】
[変形例4]
図16は、実施の形態1の変形例4におけるAEセンサ5の設置位置等を示す。変形例4は、容器2の外壁の周方向にある外周面において、2箇所以上の位置に、2個以上のAEセンサ5を設置する。本例では、容器2の外周における直径を介して対向する2箇所に、それぞれ治具6を介して、AEセンサ5a,5bが設置されている。容器2やメカニカルシール4は、軸対称形状を持つので、音源からのAE波は、外周の各位置に到達する。そのため、基本的には1個のAEセンサ5があれば、AE波を検出できる。しかしながら、場合によっては、AE波が外周の一部にしか伝播しない可能性も想定される。そこで、本例のように、外周上に複数のAEセンサ5を設置する。これにより、常時に少なくとも1つのAEセンサ5がAE波を検出できる。なお、容器2の側面に限らず、同様に、上面等において、軸対称である複数の位置を選択し、複数のAEセンサを配置してもよい。
【0093】
[変形例5]
図17は、実施の形態1の変形例5におけるAEセンサ5の設置位置等を示す。変形例5は、容器2の内部にAEセンサ5を設置する。図17では、いくつかの設置位置例を示す。設置例Aは、AEセンサ5が収容されたAEセンサユニット50を静止リング41に直接的に設置する例である。設置例Bは、固体部21のうち液体部22Aに面する位置にAEセンサユニット50を設置する例である。設置例Cや設置例Dは、固体部21内に埋め込むようにAEセンサユニット50を設置する例である。いずれの設置例も、メカニカルシール4からの直接波の伝播経路上で、空気には接しない位置として選択されている。AEセンサ5からのケーブルは、容器2内を貫通して外に出る。
【0094】
変形例5は、AEセンサ5をできるだけ音源であるメカニカルシール4の近くに配置することで、材料同士の界面での超音波の反射の影響を小さくし、超音波の伝播減衰を小さくできるため、検出の感度を高くすることができる。ただし、このように容器2内部にAEセンサ5を設置する構成とする場合、回転機械1の稼働中には、AEセンサ5の取り出しが困難である。そのため、この構成は、保守等の面では不利であり、感度を高めるための設置位置調整等もしにくい。前述の実施の形態1では、保守等の有利の点も考慮して、容器2の外面にAEセンサ5を設置する構成を基本とし、その上でなるべく感度を高める工夫を行っている。
【0095】
(実施の形態2)
図18を用いて、本発明の実施の形態2の状態監視システムについて説明する。以下では、実施の形態2等における実施の形態1とは異なる構成部分について説明する。実施の形態2の状態監視システムは、ポンプ等の回転機械において、追加して設置されるAEセンサを用いて、回転軸に係わるノイズの影響をキャンセルし、状態判定の精度を高める。
【0096】
[ノイズキャンセル]
図18は、実施の形態2におけるAEセンサ5の設置位置等を示す。実施の形態2は、容器2の外面において、2個のAEセンサ5としてAEセンサ5m,5nを有する。実施の形態2では、容器2の側面の一箇所にメインのAEセンサ5mが設置され、上面の一箇所にサブのAEセンサ5が設置される。サブのAEセンサ5は、回転軸3に係わるノイズを検出して減算等によってキャンセルするために用いられる。まず、容器2の側面には、例えば実施の形態1と同様に伝播経路P1の先の位置Z1に、AEセンサ5mが設置されている。さらに、容器2の上面には、回転軸3に対して比較的近い内周寄りの位置Xnに、サブのAEセンサ5nが設置されている。この位置Xnは、メカニカルシール4からの直接波の伝播経路Pnに対応する位置のうちで、回転軸3に係わるノイズをある程度拾う位置として選択されている。メインのAEセンサ5mは、回転軸3に係わるノイズをなるべく拾わない位置として選択されている。
【0097】
図18の下側には、実施の形態2における回路構成例を簡単に図示している。図6の信号取得部600は、メインのAEセンサ5mからのメインAE信号である第1AE信号と、サブのAEセンサ5nからのサブAE信号である第2AE信号とを取得する。第2AE信号には、回転軸3に係わるノイズとして、回転軸3を伝播する回転動力源31側の振動成分のノイズが含まれている。信号取得部600または状態監視装置10は、減算器181を備える。減算器181は、第1AE信号から第2AE信号を減算する。減算後の信号は、回転軸3に係わるノイズの影響がある程度除去されている。状態監視装置10の状態判定部10Bは、減算後の信号を対象として状態を判定する。これにより、実施の形態2では、メカニカルシール4を音源とするAE波と、外部音源である回転軸3に係わるノイズとを区別することができ、より正確な状態判定が可能である。
【0098】
(実施の形態3)
図19を用いて、本発明の実施の形態3の状態監視システムについて説明する。実施の形態3の状態監視システムは、ポンプ等の回転機械において複数段のメカニカルシールを持つ構成を有し、複数のAEセンサを用いて各メカニカルシールの状態を監視する。
【0099】
[2段のメカニカルシール]
図19は、実施の形態3における回転機械1の容器2の断面、および複数のAEセンサ5の設置位置等を示す。この容器2には、Z方向において2段のメカニカルシール4として、メカニカルシール4A,4Bを有する。Z方向の下側のメカニカルシール4Aを第1メカニカルシール(言い換えると第1段摺動部)とし、Z方向の上側のメカニカルシール4Bを第2メカニカルシール(言い換えると第2段摺動部)とする。メカニカルシール4Aは、第1静止リングである静止リング41Aと第1回転リングである回転リング42Aとの組で構成されている。メカニカルシール4Bは、第2静止リングである静止リング41Bと第2回転リングである回転リング42Bとの組で構成されている。いずれのメカニカルシール4も、材料としては、図3と同様に、カーボンとSiCの組み合わせで構成されている。
【0100】
2段の構成に対応して、容器2内には、複数の液体部22(22A,22B,22C)や減圧装置200(200A,200B)等がある。液体部22は、下側のメカニカルシール4Aの近傍の液体部22Aと、上側のメカニカルシール4Bの近傍の液体部22Bと、上側のメカニカルシール4Bよりも上側の液体部22Cとを含む。メカニカルシール4Aは、液体部22Aと液体部22Bとの間に設けられている。メカニカルシール4Bは、液体部22Bと液体部22Cとの間に設けられている。容器2の固体部21は、下側のメカニカルシール4A(特に第1静止リング41A)の近傍の固体部21Aと、上側のメカニカルシール4B(特に第2静止リング41B)の近傍の固体部21Bとを含む。
【0101】
液体部22Aには、流入口201Aおよび流出口204を有する。液体部22Aと液体部22Bとの間には、減圧装置200Aを有する。液体部22Bには、流入口201Bおよび流出口204を有する。液体部22Bと流出口204との間には、減圧装置200Bを有する。液体部21Cには流出口202を有する。
【0102】
この回転機械1は、容器2内の液体に圧力がかかった結果として、メカニカルシール4における静止リング41および回転リング42に面圧が生じる。その面圧によって静止リング41と回転リング42との間の液体膜の厚さが調整される。第1メカニカルシール4Aと第2メカニカルシール4Bとの間には、本例のように、減圧装置200Aが設けられていてもよい。この減圧装置200Aは、それぞれのメカニカルシールが均等の圧力条件で液体を封止するための圧力制御に用いられる。例えば、下側の液体部22Aを第1シール室とし、上側の液体部22Bを第2シール室とし、第1シール室は約7MPaの圧力に保たれ、第2シール室は約3.5MPaの圧力に保たれる。これにより、第1シール室と第2シール室は、ほぼ均等な圧力で軸封止が行われる。
【0103】
そして、図19の構成例では、容器2の外壁の側面において、第1メカニカルシール4Aからの直接波が主に固体部21Aを経由する伝播経路PAの先の位置ZAに、第1AEセンサ5Aが設置されている。また、第2メカニカルシール4Bからの直接波が主に固体部21Bを経由する伝播経路PBの先の位置ZBに、第2AEセンサ5Bが設置されている。伝播経路PAは、第1メカニカルシール4Aからの固体部21Aを通じたAE波の伝播距離が最小となる経路である。伝播経路PBは、第2メカニカルシール4Bからの固体部21Bを通じたAE波の伝播距離が最小となる経路である。前述のように、AE波は媒質の界面で反射し、液体部を介さずに固体部を伝播する経路の方が、透過損失が小さい。よって、AEセンサ5(5A,5B)の設置位置としては、それぞれ、固体部21を介する伝播経路のうちで伝播距離がなるべく小さくなる伝播経路の組み合わせに対応する位置(ZA,ZB)が選択される。
【0104】
また、図19の構成例では、前述の実施の形態2と同様に、回転軸3に係わるノイズのキャンセルのために、容器2の上面に、サブのAEセンサ5nが第3AEセンサとして設置されている。
【0105】
図19の下側には、実施の形態3における回路構成例を簡単に示す。図6の信号取得部600は、第1AEセンサ5Aからの第1AE信号と、第2AEセンサ5Bからの第2AE信号と、サブのAEセンサ5nからの第3AE信号とを取得する。第3AE信号には、回転軸3に係わるノイズが含まれている。信号取得部600または状態監視装置10は、減算器191,192を備える。減算器191は、第1AE信号から第3AE信号を減算する。減算器192は、第2AE信号から第3AE信号を減算する。各減算後の信号は、回転軸3に係わるノイズの影響がある程度除去されている。状態監視装置10の状態判定部10Bは、各減算後の信号を対象として状態を判定する。状態判定部10Bは、減算器191からの信号を対象に、第1メカニカルシール4Aに関する状態を判定し、減算器192からの信号を対象に、第2メカニカルシール4Bに関する状態を判定する。
【0106】
また、実施の形態3では、第1AEセンサ5Aと第2AEセンサ5Bとを空間的に十分に離れた位置に設置することで、第1メカニカルシール4Aを音源とするAE波と第2メカニカルシール4Bを音源とするAE波とを区別して判定できる。これは、超音波の周波数が高くなるとAE波の直進性が増す性質を利用している。また、周波数が高いほど、伝播減衰が大きくなる性質がある。これらの性質に基づいて、上記のように離れた位置(ZA,ZB)に2個のAEセンサ5を設置する構成とする。これによって、第1AE信号からは第1メカニカルシール4Aの状態が判定でき、第2AE信号からは第2メカニカルシール4Bの状態が判定できる。第1AE信号では、第2メカニカルシール4BからのAE波の信号強度は小さく、第2AE信号では、第1メカニカルシール4AからのAE波の信号強度は小さい。この状態監視システムは、周波数範囲H1として高い周波数範囲のAE波を対象として状態判定を行うので、上記のような高い周波数での伝播特性を活かして、高感度の検知が可能である。
【0107】
なお、上記2段のメカニカルシール4の構成に限らず、3段以上のメカニカルシール4を持つ構成の場合にも同様に適用可能である。なお、下側の第1メカニカルシール4Aと上側の第2メカニカルシール4Bとでは、材質や形状等が同じである構成の場合もあるし、異なる構成の場合もある。例えば、各メカニカルシールは、液体部間の圧力差の変換の機能に応じて、異なる構成を持つ場合がある。実施の形態2では、各段のメカニカルシール4は同様の構成とした。各段で伝播経路やAEセンサ5の位置には違いがあることから、各AE信号を用いた感度は異なり得るが、所定の周波数範囲H1を用いた判定によって同様に検知可能である。他の実施の形態では、各段のメカニカルシール4および対応するAEセンサ5毎に、異なる周波数範囲H1が設定されてもよい。
【0108】
[変形例6]
図20は、実施の形態3の変形例(変形例6とする)における構成を示す。変形例6は、容器2において2段のメカニカルシール4を持つ場合で、側面の一箇所に、1個のAEセンサ5を設置する構成である。1個のAEセンサ5の設置位置である位置ZABは、例えば、第1メカニカルシール4Aからの固体部21Aを経由する伝播経路PA1と、第2メカニカルシール4Bからの液体部22Bを経由する伝播経路PB1との両方が一箇所に到達する位置として選択されている。
【0109】
1個のAEセンサ5からのAE信号には、伝播経路PA1からのAE波と、伝播経路PA2からのAE波との両方の成分が含まれている。状態監視装置10は、1個のAEセンサ5からのAE信号を対象として、第1メカニカルシール4Aと第2メカニカルシール4Bとの2つについてまとめて状態を判定する。この状態判定では、個々のメカニカルシール4の状態を区別することは難しいが、2段のメカニカルシール4のいずれか一方または両方に異常がある場合に、2段のメカニカルシール4に関する異常予兆状態として判定し検知することができる。この異常予兆状態は、第1メカニカルシール4Aと第2メカニカルシール4Bとの一方または両方に異常予兆があることを表す状態である。変形例6では、AEセンサ5の設置数を削減できる。他の構成例としては、容器2の上面に1個のAEセンサ5を設けてもよい。
【0110】
(実施の形態4)
図21を用いて、本発明の実施の形態4の状態監視システムについて説明する。実施の形態4の状態監視システムは、容器に1段のメカニカルシールを持つ構成の場合で、AEセンサの設置の向きを好適にして感度を高める構成を示す。
【0111】
[AEセンサの向き]
図21は、実施の形態4における構成を示す。(A)は、容器2の断面やAEセンサ5の設置位置等を示す。(B)は、(A)に対応して、容器2の側面に対するAEセンサ5および治具6の設置例の概要を示す。容器2に1段のメカニカルシール4を持つ場合で、容器2の側面の一箇所にAEセンサ5が設置されている。実施の形態4では、AEセンサ5の受波面が、メカニカルシール4からの直接波の伝播経路P1の方向に対し、垂直となるように、変換のための治具6を介して、AEセンサ5が設置されている。前述のように、高い周波数のAE波は、直進して伝播する。そのため、AEセンサ5の設置の向きは、AE波の伝播方向に向けた方が、高感度の検知ができる。すなわち、AEセンサ5の設置の向きは、受波面を、到来するAE波の伝播方向に対し垂直とする向きとする。
【0112】
この治具6は、AEセンサ5の受波面が伝播経路P1の方向に対し垂直となるように変換するための形状を有する。容器2の側面は曲面であり、伝播距離が短い好適な伝播経路P1の方向に対しては、角度θがあり、垂直ではない。治具6における一方面は凹型の曲面として容器2の側面の曲面に固定される。治具6と容器2の側面との間には、前述と同様にカプラント8が設けられる。治具6における他方面は、伝播経路P1の方向に対して垂直な角度を持つ平面となっており、その平面に対しAEセンサ5の受波面または前述のホルダー501の平面が固定される。このように、治具6を用いてAEセンサ5の受波面を伝播経路P1の方向に対し垂直とすることで、感度を高めることができる。
【0113】
実施の形態4の変形例として、2段以上のメカニカルシール4を持つ場合でも、各段のメカニカルシール4毎に対応付けて各治具6を用いて各AEセンサ5の向きを好適にする構成が同様に可能である。
【0114】
(実施の形態5)
図22を用いて、本発明の実施の形態5の状態監視システムについて説明する。実施の形態5の状態監視システムは、回転機械において複数段のメカニカルシールを持つ構成の場合において、選択した好適な1つの位置に、治具を介して複数のAEセンサが設置される。
【0115】
[2段のメカニカルシールおよびAEセンサの向き]
図22の(A)は、実施の形態5における容器2の断面等の構成を示す。(B)や(C)は変形例を示す。回転機械1は、容器2に2段のメカニカルシール4(4A,4B)を持つ場合である。本構成例では、容器2の外壁の上面における選択された好適な1つの位置X5に、変換のための治具6を介して、2個のAEセンサ5(5A,5B)が設置される。各AEセンサ5は、それぞれ対応する音源からのAE波に対して正対する向きで設置される。
【0116】
伝播経路p21は、第2メカニカルシール4BからAE波が固体部21Bを経由して直接波として伝播する経路の1つである。この伝播経路p21の方向に対し、受波面が垂直となる向きで、位置X5の治具6の第2面s2に第2AEセンサ5Bが設置されている。
【0117】
伝播経路p11,p12は、第1メカニカルシール4Aを音源として、容器2の内壁で反射しながら容器2内部を伝播する経路である。伝播経路p11は、第1メカニカルシール4AからAE波が主に固体部21Aを経由して直接波として側面の位置Z5に達する経路である。伝播経路p12は、伝播経路p11に対応して、側面の位置Z5で反射された反射波が、主に固体部21Bを経由して、上面の位置X5に達する経路である。この伝播経路p12の方向に対し、受波面が垂直となる向きで、位置X5の治具6の第1面s1に第1AEセンサ5Aが設置されている。
【0118】
2個のAEセンサ5(5A,5B)を概略的に1つの位置にまとめて設置するにあたり、候補となる複数の伝播経路が存在する。それらの中から、好適な伝播経路の組み合わせを選択すると、図示のように2個のAEセンサ5を設置できる好適な位置X5が見つかる。この位置X5は、第2メカニカルシール4Bからの直接波と、第1メカニカルシール4Aからの反射波との両方が到来し、それらの信号強度も十分であるような位置である。このような好適な位置は、例えば有限要素法による音響伝播シミュレーションによって伝播経路を可視化することで、計算によって決定することが可能である。
【0119】
選択した位置X5には、各AEセンサ5の向きを最適にする変換のための形状を持つ治具6が固定される。(A)の治具6は例えば三角の断面を持つ。本例では、上面の位置X5が選択されているため、治具6の一方面は平面である。治具6の他方面は、第1面s1と第2面s2とを有し、それぞれ、対応する伝播経路の方向に対して垂直となるように角度が設計されている。第1面s1には第1AEセンサ5Aの受波面が固定され、第2面s2には第2AEセンサ5Bの受波面が固定される。
【0120】
状態監視装置10は、第1AEセンサ5Aからの第1AE信号に基づいて第1メカニカルシール4Aの状態を判定し、第2AEセンサ5Bからの第2AE信号に基づいて第2メカニカルシール4Bの状態を判定する。実施の形態5の構成では、各メカニカルシール4からのAE波を、容器2の外壁の1つの位置から選択的に検出可能である。この構成では、容器2の外壁の1つの位置にまとめてAEセンサ5等を設置することができるため、2箇所以上にAEセンサ5等を設置する場合に比べて、設置や保守がしやすく、再現性をとりやすい利点がある。
【0121】
なお、容器2の内壁における反射の影響が大きい場合、このような同じ位置での選択的な検出が困難となる場合がある。この場合、容器2内の界面での多重反射の影響を抑制するために、AEセンサ5等の設置箇所以外で、容器2の外面の少なくとも一部の領域に、吸音材9を配置する。これにより、反射波を抑制して、感度を高めることができる。本例では下側のメカニカルシール4Aの液体部22A等の外周の付近に吸音材9を設けている。例えば、音響伝播シミュレーション等の計算に基づいて、容器2の外壁で反射波の到達が多くなる領域に選択的に吸音材9を配置してもよい。
【0122】
また、(B)に示すように、特に、2個のAEセンサ5(5A,5B)の向きに関する角度差(言い換えると受波面等の角度差)が約90度になる位置X5bを選択してもよい。この治具6は、2つの伝播経路p21,p12の方向が成す角度、および第1面s1と第2面s2が成す角度が約90度である。これにより、直接波と反射波との関係で、感度を高めることができる。治具6における2個のAEセンサ5の受波面の角度差は、90度以上で180度未満の範囲内であればよい。
【0123】
また、(A)では、治具6の設置面である容器2の上面に対する第1面s1の角度と第2面s2の角度とを同じとしたが、これに限らず、それらの角度が異なってもよい。(C)は、その場合の例を示す。この例では、上面に対する第1面s1の角度と第2面s2の角度とが異なり、特に第1面s1と第2面s2が成す角度を約90度とした場合を示す。
【0124】
なお、他の構成例としては、同様の計算に基づいて、容器2の側面における1つの好適な位置(例えば位置Z5)に、治具6を介して好適な向きで2個のAEセンサを設置する構成も、同様に可能である。また、実施の形態5では、直接波と反射波との組み合わせによる位置X5を選択したが、これに限らず、回転装置によっては、直接波同士の組合せによる位置や、反射波同士の組合せによる位置としてもよい。
【0125】
以上、本発明を実施の形態に基づいて具体的に説明したが、本発明は前述の実施の形態に限定されず、要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。
【符号の説明】
【0126】
1…回転機械、2…容器、3…回転軸、4…メカニカルシール、5…AEセンサ、6…治具、10…状態監視装置、30…回転機械制御装置、31…回転動力源、41…静止リング、42…回転リング、50…AEセンサユニット、70…プリアンプ、71…信号処理回路、72…オシロスコープ。
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