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7221865細胞膜透過ペプチドおよびこれを含む細胞内伝達体
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-06
(45)【発行日】2023-02-14
(54)【発明の名称】細胞膜透過ペプチドおよびこれを含む細胞内伝達体
(51)【国際特許分類】
   C07K 14/15 20060101AFI20230207BHJP
   C07K 19/00 20060101ALI20230207BHJP
   C12N 15/11 20060101ALN20230207BHJP
   C12N 15/62 20060101ALN20230207BHJP
【FI】
C07K14/15 ZNA
C07K19/00
C12N15/11 Z
C12N15/62 Z
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2019529912
(86)(22)【出願日】2017-12-15
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-02-06
(86)【国際出願番号】 KR2017014897
(87)【国際公開番号】W WO2018111051
(87)【国際公開日】2018-06-21
【審査請求日】2019-06-03
【審判番号】
【審判請求日】2021-03-09
(31)【優先権主張番号】10-2016-0172548
(32)【優先日】2016-12-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(31)【優先権主張番号】10-2017-0173642
(32)【優先日】2017-12-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】517445950
【氏名又は名称】アヴィックスジェン・インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】イ・ヨン・ペク
(72)【発明者】
【氏名】ミン・ジョン・キム
【合議体】
【審判長】長井 啓子
【審判官】宮岡 真衣
【審判官】高堀 栄二
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2008/0039528(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2003/0198648(US,A1)
【文献】特表2010-512782(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2007/0099276(US,A1)
【文献】POON D.T.K. et al.,J. Virol.,1996,Vol.70 No.10,pp.6607-6616
【文献】H.de ROCQUIGNY et al.,Solid phase synthesis and spectroscopic studies of nucleocapsid proteins from MoMuLV and HIV:Characterization of nucleic acid recognition sequences、Peptides: Chemistry and Biology: Proceedings of the Twelfth American Peptide Symposium June 16-21,1991,Cambridge, Massachusetts, U.S.A./ed. by John A. Smith and Jean E. Rivier,1992,pp.745-746
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K 1/00-19/00
C12N 1/00-15/90
C12P 1/00-41/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号10~配列番号15からなる群より選択されるアミノ酸配列からなる細胞透過ペプチドのポリペプチド末端に細胞内輸送対象のカーゴ(cargo)が結合された細胞内伝達体。
【請求項2】
レトロウイルス(retrovirus)のNCペプチド末端又はその断片末端に細胞内輸送対象のカーゴが結合された細胞内伝達体であって、前記NCペプチド又はその断片が、配列番号10~配列番号15からなる群より選択されるアミノ酸配列からなる細胞透過ペプチドを含む、細胞内伝達体。
【請求項3】
前記細胞内輸送対象のカーゴは、化学物質、ポリペプチド、核酸、炭水化物または脂質である、請求項またはに記載の細胞内伝達体。
【請求項4】
前記レトロウイルスは、HIV(Human immunodeficiency virus)、MLV(Murine leukemia virus)、SIV(Simian immunodeficiency virus)およびRSV(Rous sarcoma virus)からなる群より選択される、請求項に記載の細胞内伝達体。
【請求項5】
前記NCペプチドは、配列番号12~配列番号15のアミノ酸配列を有するポリペプチドからなる群より選択される、請求項に記載の細胞内伝達体。
【請求項6】
請求項に記載の細胞内伝達体を細胞に接触させるステップを含む、細胞内輸送対象のカーゴを細胞内に伝達する方法に使用するための、請求項に記載の細胞内伝達体を含む組成物。
【請求項7】
請求項に記載のレトロウイルスのNCペプチド末端又はその断片末端に細胞内輸送対象のカーゴが結合された細胞内伝達体を細胞に接触させるステップを含む、細胞内輸送対象のカーゴを細胞内に伝達する方法(但し、ヒトの生体内における方法を除く)
【請求項8】
前記細胞内輸送対象のカーゴは、化学物質、ポリペプチド、核酸、炭水化物または脂質である、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記レトロウイルスは、HIV(Human immunodeficiency virus)、MLV(Murine leukemia virus)、SIV(Simian immunodeficiency virus)およびRSV(Rous sarcoma virus)からなる群より選択される、請求項に記載の方法。
【請求項10】
前記NCペプチドは、配列番号12~配列番号15のアミノ酸配列を有するポリペプチドからなる群より選択される、請求項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞膜透過ペプチドおよびこれを含む細胞内伝達体に関する。
【背景技術】
【0002】
HIV(human immunodeficiency virus)のヌクレオカプシドタンパク質(nucleocapsid、以下、「NC」と称する)は、ウイルス個体を形成するための構造的な役割だけでなく、ウイルスの生活環(viral life cycle)において機能的にも重要な役割をし、その機能は以下のとおりである。第1に、NCペプチドは、ウイルスのゲノムのカプシド形成(genomic encapsidation)に関与する。このような機能は独特なCCHCモチーフからなる2個のジンクフィンガードメイン(zinc finger domain)に起因し、前記ドメインは全てのレトロウイルス(retrovirus)において高い保存性を示し、HIV RNAパッケージング(packaging)と感染性ウイルス生産に必須的なものとして知られている。第2に、NCペプチドはウイルスの逆転写反応(reverstranscription、RT)の間、tRNAプライマーアニリング(annealing)と鎖転移(strand transfer)を促進することが知られており、これよりNCペプチドがウイルス複製(viral replication)に重要な機能をするということが分かる。第3に、NCペプチドは、ウイルスの生活環に必要な核酸シャペロン(chaperone)活性を有する。最近では、ウイルスDNAが宿主細胞染色体に挿入される時にも、NCペプチドが所定の役割を担当すると報告されている。
【0003】
一方、細胞透過ペプチド(Cell Penetrating Peptides:CPP)は、約10~30個程度の短いペプチドからなる細胞膜透過性ペプチドであって、大半はPTD(protein transduction domain)やMTS(membrane translocating sequence)から誘導される。外部物質の一般的な細胞内流入経路とは異なり、CPPは、細胞膜を損傷させることなく細胞内に移動し、細胞膜を通過できないものとして知られているDNAやタンパク質までも細胞内に伝達できることが知られている。CPPとして最もよく知られたペプチドにはTatペプチドがあり、これは、ヒト免疫不全ウイルス(Human Immuno-deficiency Virus:HIV)から誘導され、現在、細胞治療剤や診断試薬のような様々な方面で応用されて用いられている。また、ホメオドメイン転写因子のDNA結合ドメインから誘導されたペネトラチン(penetratin)は、人体に有用なタンパク質を皮膚に伝達する用途として用いられている。トランスポータン(transportan)は、ガラニン(galanin)という神経ペプチドとマストパラン(mastoparan)というスズメバチの毒から分離したペプチドのうち一部を融合して作ったペプチドであって、細胞死を誘導させるペプチドと結合させて細胞死誘導ペプチドとして用いられている。
【0004】
本発明者らは、HIV NCペプチドの生理学的活性を研究している最中、NCペプチドが細胞膜透過活性を有しているのを確認し、それにより細胞内物質伝達が可能なドラッグデリバリーシステム(drug delivery system)として利用できるのを確認し、本発明を完成するに至った。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の一つの目的は、次の一般式Iで表されるアミノ酸配列を含む細胞透過ペプチドを提供することにある:
[一般式I]
Cys-Xaa-Xaa-Cys-Xaa-Xaa-Xaa-Gly-His-Xaa-Xaa-Xaa-Xaa-Cys
前記一般式において、XaaはAla、Val、Ile、Leu、Met、Phe、Tyr、Trp、Ser、Thr、AsnおよびGlnからなる群より選択され、
XaaはAla、Val、Ile、Leu、Met、Phe、Tyr、Trp、Arg、His、Lys、Asn、Ser、ThrおよびGlnからなる群より選択され、
XaaおよびXaaは互いに独立にAsp、Glu、Arg、His、Lys、Ser、Thr、Asn、GlnおよびGlyからなる群より選択され、
XaaはAsp、Glu、Arg、His、Lys、Ala、Val、Ile、Leu、Met、Phe、Tyr、TrpおよびProからなる群より選択され、
XaaおよびXaaは互いに独立にSer、Thr、Asn、Gln、Ala、Val、Ile、Leu、Met、Phe、TyrおよびTrpからなる群より選択され、
XaaはLys、AlaまたはArgであり、
XaaはAsp、Glu、Ser、Thr、AsnおよびGlnからなる群より選択されるアミノ酸である。
【0006】
本発明の他の目的は、前記細胞透過ペプチド末端に細胞内輸送対象のカーゴ(cargo)が結合された細胞内伝達体を提供することにある。
【0007】
本発明のまた他の目的は、前記細胞内伝達体を細胞に接触させるステップを含む、細胞内輸送対象のカーゴを細胞内に伝達する方法を提供することにある。
【0008】
本発明のまた他の目的は、レトロウイルス(retrovirus)のNCペプチド末端に細胞内輸送対象のカーゴが結合された細胞内伝達体を提供することにある。
【0009】
本発明のまた他の目的は、レトロウイルスのNCペプチド末端に細胞内輸送対象のカーゴが結合された細胞内伝達体を細胞に接触させるステップを含む、細胞内輸送対象のカーゴを細胞内に伝達する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記目的を達成するために、本発明の一様態は、次の一般式Iで表されるアミノ酸配列を含む細胞透過ペプチドを提供する:
[一般式I]
Cys-Xaa-Xaa-Cys-Xaa-Xaa-Xaa-Gly-His-Xaa-Xaa-Xaa-Xaa-Cys
前記一般式において、XaaはAla、Val、Ile、Leu、Met、Phe、Tyr、Trp、Ser、Thr、AsnおよびGlnからなる群より選択され、
XaaはAla、Val、Ile、Leu、Met、Phe、Tyr、Trp、Arg、His、Lys、Asn、Ser、ThrおよびGlnからなる群より選択され、
XaaおよびXaaは互いに独立にAsp、Glu、Arg、His、Lys、Ser、Thr、Asn、GlnおよびGlyからなる群より選択され、
XaaはAsp、Glu、Arg、His、Lys、Ala、Val、Ile、Leu、Met、Phe、Tyr、TrpおよびProからなる群より選択され、
XaaおよびXaaは互いに独立にSer、Thr、Asn、Gln、Ala、Val、Ile、Leu、Met、Phe、TyrおよびTrpからなる群より選択され、
XaaはLys、AlaまたはArgであり、
XaaはAsp、Glu、Ser、Thr、AsnおよびGlnからなる群より選択されるアミノ酸である。
【0011】
本発明の他の様態は、前記細胞透過ペプチド末端に細胞内輸送対象のカーゴ(cargo)が結合された細胞内伝達体を提供することにある。
【0012】
本明細書において、用語、「細胞内伝達体」は、細胞膜を透過して組織まで浸透できる伝達体を意味する。
【0013】
本明細書において、用語、「ペプチド」または「ポリペプチド」は、ペプチド結合によりアミノ酸残基が互いに結合して形成された線形の分子を意味し、アミノ酸残基4~70個、好ましくは4~40個、より好ましくは4~30個、最も好ましくは4~20個からなっている。
【0014】
前記一般式Iで表されるポリペプチドは様々なレトロウイルス(例えば、HIV(Human immunodeficiency virus)、MLV(Murine leukemia virus)、SIV(Simian immunodeficiency virus)、RSV(Rous sarcoma virus)、FIV(Feline immunideficiency virus)、EIV(Equine immunideficiency virus))のNCペプチド内に存在するジンクフィンガードメイン(zinc finger domain)の保存配列(Cys-Xaa-Xaa-Cys-Xaa-Xaa-Xaa-Xaa-His-Xaa-Xaa-Xaa-Xaa-Cys)を示すものであり、本発明者らは実験により前記配列を含むポリペプチドが細胞膜透過活性に優れるのを確認し、それにより細胞内物質伝達が可能なドラッグデリバリーシステムとして利用できるということを明らかにした。
【0015】
本発明の一具体例によれば、一般式I(配列番号16)において、前記Xaaは、疎水性アミノ酸であるAla、Val、Ile、Leu、Met、Phe、Tyr、Trp、極性アミノ酸であるSer、Thr、AsnおよびGlnからなる群より選択されるアミノ酸である。より好ましくは、前記Xaaは、Phe、Trp、Tyr、AlaおよびGlnからなる群より選択されるアミノ酸である。
【0016】
一具体例によれば、前記Xaaは、疎水性アミノ酸であるAla、Val、Ile、Leu、Met、Phe、Tyr、Trp、塩基性アミノ酸であるArg、His、Lys、極性アミノ酸であるSer、Thr、AsnおよびGlnからなる群より選択されるアミノ酸である。より好ましくは、前記Xaaは、Asn、Thr、Lys、LeuおよびTyrからなる群より選択されるアミノ酸である。
【0017】
また、一具体例によれば、前記XaaおよびXaaは、互いに独立に、親水性アミノ酸であるAsp、Glu、Arg、His、Lys、Ser、Thr、Asn、GlnおよびGlyからなる群より選択されるアミノ酸である。より好ましくは、前記XaaはGly、AspおよびLysからなる群より選択されるアミノ酸であり、XaaはArg、Ser、GlyおよびGluからなる群より選択されるアミノ酸である。
【0018】
また、本発明の一具体例によれば、前記Xaaは、極性アミノ酸を除いたAsp、Glu、Arg、His、Lys、Ala、Val、Ile、Leu、Met、Phe、Tyr、TrpおよびProからなる群より選択されるアミノ酸である。より好ましくは、前記Xaaは、Pro、Glu、Lys、IleおよびMetからなる群より選択されるアミノ酸である。
【0019】
また、一具体例によれば、前記XaaおよびXaaは、互いに独立に、疎水性アミノ酸であるAla、Val、Ile、Leu、Met、Phe、Tyr、Trp、極性アミノ酸であるSer、Thr、AsnまたはGlnからなる群より選択され、より好ましくは、XaaはThr、Asn、Gln、Met、TyrおよびTrpからなる群より選択されるアミノ酸であり、XaaはAla、MetおよびGlnからなる群より選択されるアミノ酸である。
【0020】
また、一具体例によれば、前記XaaはLys、AlaまたはArgであるアミノ酸であり、Xaaは酸性アミノ酸であるAsp、Glu、極性アミノ酸であるSer、Thr、Asn、Glnからなる群より選択されるアミノ酸であり、好ましくは、Asp、Glu、AsnまたはGlnである。
【0021】
本発明の一具体例によれば、前記一般式Iで表されるアミノ酸配列を含むペプチドは、レトロウイルスのジンクフィンガー(zinc finger)ドメインを含むポリペプチドとして、配列番号17~配列番号23のアミノ酸配列を有するポリペプチドからなる群より選択されてもよい。
【0022】
本発明の他の様態は、レトロウイルス(retrovirus)のNCペプチド末端に細胞内輸送対象のカーゴが結合された細胞内伝達体を提供する。
【0023】
本明細書において、用語、「NCペプチド」はレトロウイルス(retrovirus)のヌクレオカプシド(nucleocapsid)を構成するポリペプチドを意味し、前記ポリペプチドはレトロウイルスのゲノムRNAに強く結合してリボ核タンパク質コア複合体(ribonucleoprotein core complex)を形成するものとして知られている。
【0024】
本明細書において、用語、「細胞透過ペプチド(cell penetrating peptide、CPP)」はインビトロ(in vitro)および/またはインビボ(in vivo)上で輸送対象のカーゴ(cargo)を細胞内に輸送できる能力を有したペプチドを意味し、細胞透過ペプチドはそのものでリン脂質二重膜の細胞膜を通過できるアミノ酸配列を有するペプチドである。
【0025】
本発明の一具体例によれば、前記レトロウイルスはHIV(Human immunodeficiency virus)、MLV(Murine leukemia virus)、SIV(Simian immunodeficiency virus)およびRSV(Rous sarcoma virus)からなる群より選択されてもよく、最も好ましくはHIVであってもよい。
【0026】
本明細書において、用語、「カーゴ(cargo)」は、細胞膜透過ペプチドとして作用するNCペプチドに結合して細胞内に輸送される化学物質、小さい分子化合物、ポリペプチド、核酸などを意味する。
【0027】
本発明において、一般式Iで表されるペプチドまたはレトロウイルスのNCペプチド末端に結合される物質、すなわち、カーゴ(cargo)になりうる物質は様々であり、例えば、タンパク質(ポリペプチド)、核酸(ポリヌクレオチド)、化学物質(薬物)などを含むが、これらに限定されるものではない。
【0028】
例えば、薬物、造影剤(例えば、T1造影剤、超常磁性物質のようなT2造影剤、放射性同位元素など)、蛍光マーカ、染色物質などであってもよいが、これらに限定されるものではない。前記ポリペプチドは、2またはそれ以上の残基からなるアミノ酸の重合体であって、ペプチドおよびタンパク質を含む。ポリペプチドは、例えば、細胞不死に関与するタンパク質(例えば、SV40ラージT抗原およびテロメラーゼ)、抗アポトーシスタンパク質(例えば、突然変異p53およびBclxL)、抗体、癌遺伝子(例えば、ras、myc、HPV E6/E7およびアデノウイルスEla)、細胞周期調節タンパク質(例えば、サイクリンおよびサイクリン依存性キナーゼ)または酵素(例えば、緑色蛍光タンパク質、β-ガラクトシダーゼおよびクロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ)であってもよいが、これらに限定されるものではない。また、核酸は、例えば、RNA、DNAまたはcDNAであってもよく、核酸のシーケンスは、暗号化部位配列または非暗号化部位配列(例えば、アンチセンスオリゴヌクレオチドまたはsiRNA)であってもよい。核酸カーゴとしてのヌクレオチドは、標準ヌクレオチド(例えば、アデノシン、シトシン、グアニン、チミン、イノシンおよびウラシル)またはアナログ(例えば、ホスホロチオエートヌクレオチド)であってもよい。例えば、核酸カーゴは、ホスホロチオエートヌクレオチドからなるアンチセンスシーケンスまたはRNAiであってもよい。
【0029】
本発明の一具体例によれば、本発明の一般式Iで表されるペプチドまたはNCペプチドに結合された物質は、細胞膜を非常に高い効率で透過し、細胞内で細胞質および核に残留するようになる。
【0030】
本発明の一具体例によれば、前記NCペプチドは、一つ以上のジンクフィンガードメインを有してもよく、2個のジンクフィンガードメインを含むことが好ましい。一具体例によれば、前記NCペプチドは、配列番号12~配列番号15のアミノ酸配列を有するポリペプチドからなる群より選択されてもよい。
【0031】
本発明のまた他の様態は、前記一般式Iで表されるアミノ酸配列を含むペプチド末端に細胞内輸送対象のカーゴが結合された細胞内伝達体、またはレトロウイルスのNCペプチド末端に細胞内輸送対象のカーゴが結合された細胞内伝達体を細胞に接触させるステップを含む、細胞内輸送対象のカーゴを細胞内に伝達する方法を提供する。
【0032】
本発明の方法は前記細胞内伝達体を用いるため、両者に共通した内容は、本明細書の過度な複雑性を避けるためにその記載を省略する。
【0033】
一方、カーゴが結合された一般式Iで表されるアミノ酸配列を含むペプチド、またはカーゴが結合されたNCペプチドがインビトロまたはインビボで細胞膜と接触できる機会が付与されると、ペプチドと結合されたカーゴは細胞内に輸送される。前記細胞内伝達体と細胞膜の接触において特に求められる条件、例えば、制限的な時間、温度および濃度などの条件はなく、当業界で細胞膜透過に適用される一般的な条件で実施できる。
【発明の効果】
【0034】
本発明の一般式Iで表されるアミノ酸配列を含むペプチドを含む細胞内伝達体またはNCペプチドを含む細胞内伝達体は、既存のウイルスに由来したペプチドと比較する時、低い濃度でも効率的に物質を細胞内に伝達できるという長所がある。
【図面の簡単な説明】
【0035】
図1】NC-EGFPタンパク質の発現有無をSDS-PAGEで確認した結果を示す。
図2】種々のレトロウイルスのNCペプチド配列およびFITCが結合された種々のNCペプチドの細胞膜透過活性を比較した結果を示す。赤色ボックスはジンクフィンガードメインを示す。
図3図3a~図3cはRAW264.7細胞においてFITC-HIV-NCペプチド(nucleocapsid peptide)の細胞膜透過活性を濃度または時間依存的に確認した結果を示す。
図4】HIV-NCペプチドの細胞膜透過有無を免疫染色法により確認した結果を示す。
図5図5a~図5eはFITC-HIV-NCペプチドの細胞膜透過活性を濃度依存的にRAW264.7(図5a)、THP-1(図5b)、CEM(図5c)、MDCK(図5d)および293FT(図5e)において確認した結果を示す。
図6図6a~図6cはRAW264.7細胞においてGFP-HIV-NCペプチドおよびGFP-Tatペプチドの細胞膜透過活性を濃度依存的に比較した結果を示す。
図7】FITC-HIV-NCペプチド、FITC-Tatペプチド、FITC-MA11ペプチド、FITC-PTD-ysペプチド、FITC-TLMペプチドおよびFITC-TD1ペプチドの細胞膜透過活性を比較した結果を示す。
図8】FITC-13NC35ペプチドの細胞膜透過活性の程度を確認した結果を示す。
図9】FITC-29NC50ペプチドの細胞膜透過活性の程度を確認した結果を示す。
図10】HIV-NCペプチドの生体内組織への浸透後の組織細胞における分布有無を確認した結果を示す。各写真において、スケールバー(scale bar)は50μmを示す。
図11】HIV-NCペプチドの眼球組織への浸透後の網膜細胞における分布有無を確認した結果を示す:GCLは神経節細胞層(ganglion cell layer)、INLは内顆粒層(inner nuclear layer)を意味し、ONLは外顆粒層(outer nuclear layer)を意味する。
図12】HIV-NCペプチドと結合されたヘキサペプチドの細胞膜透過活性を示す結果を示す。
図13】HIV-NCペプチドと結合されたRNAの細胞膜透過活性を示す結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下では一つ以上の具体例について実施例を通じてより詳しく説明する。但し、これらの実施例は一つ以上の具体例を例示的に説明するためのものであって、本発明の範囲がこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例
【0037】
実験方法
1.NCペプチド発現のための組み換えベクター(recombinant vector)の作製
NCペプチドとEGFPが結合(conjugation)された組み換えタンパク質の発現有無を確認し、タンパク質を精製するために次のように組み換えベクターを作製した。
【0038】
NCペプチド遺伝子のN-末端に制限酵素(New England Biolabs;NEB、米国)であるNdeI、C-末端にBspEIが作用できる制限酵素認識配列(recognition sequence)を追加するために制限酵素認識配列を含むプライマー(primer)を用いてポリメラーゼ連鎖反応(polymerase chain reaction、以下、PCRと称する)を行った。PCRに用いたプライマー配列(配列番号1および配列番号2)とPCR条件を下記の表1および表2に示す。
【0039】
【表1】
【0040】
【表2】
【0041】
次に、EGFP(enhanced green fluorescent protein)遺伝子のN-末端にBspEI、C-末端にHindIIIが作用できる制限酵素認識配列を追加するために前記表2と同様の条件でPCRを行った。但し、プライマーとしては、下記の表3に示す配列番号3および配列番号4のプライマーを用いた。
【0042】
【表3】
【0043】
上記のように制限酵素認識配列を追加したNCペプチド遺伝子およびEGFP遺伝子を16℃で12時間反応させて結合(ライゲーション、ligation)させた。結合されたNCペプチド-EGFP遺伝子(以下、「NC-EGFP遺伝子」と称する)に対しPCRを行って(配列番号1、2、3および4のプライマーを利用)NC-EFGP遺伝子の全体配列を得た。NC-EGFP遺伝子結合反応条件を下記の表4に示す。
【0044】
【表4】
【0045】
その後、pET21a(Novagen、米国)ベクターをNdeIおよびHind III制限酵素で切断した後、PCR Purification Kit(Qiagen、米国)を用いて製造会社のプロトコルに従ってベクター断片を分離した。制限酵素反応は、NEBuffer #2を用いて37℃で2時間行った。前記分離したpET21aベクター断片とNC-EGFP遺伝子を結合させた後、PCR Purification Kitを用いて組み換えベクターを分離し、NC-EGFP遺伝子が挿入された組み換えベクターをpET21a NC-EGFPと命名した。
【0046】
pET21a NC-EGFPベクターを複製するために大腸菌DH5αに前記ベクターを形質転換し、LB液体培地でOD0.5~0.6になるまで37℃で振とう培養(shake culture)をした。培養が終わった後、培養液を遠心分離して大腸菌ペレット(pellet)を回収し、plasmid extraction kit(Qiagen)を用いて製造会社のプロトコルに従って回収した大腸菌ペレットからpET21a NC-EGFPベクターを分離した。分離したpET21a NC-EGFPベクターは、UV法を用いて濃度を定量した後に確認した。
【0047】
2.NC-EGFP発現および分離、精製
上記で作製されたpET21a NC-EGFPベクターのタンパク質発現有無を確認するために下記のように実験した。
【0048】
BL21(DE3)(Thermo Fisher、米国)にpET21a NC-EGFPベクターを形質転換させ、LBプレートに塗抹して37℃で12時間培養した。12時間後、形成されたコロニー(colony)をLB液体培地に接種し、37℃でさらに培養した。約12時間後、OD0.5~0.6に達した培養液をLB液体培地250mlに接種し、37℃でOD0.5~0.6になるように3時間~4時間培養した。培養液のODが0.5~0.6になった時、培養液にIPTG(Isopropyl β-D-thiogalactoside)0.5mMを添加し、25℃で24時間培養した。24時間後、培養液を遠心分離してBL21ペレットを得、得たペレットを溶解バッファ(50mM NaHPO、300mM NaCl、10mM imidazoleおよびpH8.0)に懸濁させた後、超音波破砕機を用いて大腸菌を破砕(amplitude 40%)した。
【0049】
前記大腸菌破砕物を遠心分離して上清と沈殿物に分離し、上清を0.45μmフィルタを用いてチューブに充填した。チューブに充填された上清をNi-NTA(nitrilotriacetic acid)レジン(resin)が充填されたカラムに入れてタンパク質とレジンを互いに結合させた。その後、レジンに結合しない外来タンパク質を除去するために洗浄バッファ(50mM NaHPO、300mM NaCl、20mM imidazoleおよびpH8.0)を添加してレジンを洗浄した。イミダゾール(imidazole)が添加されたバッファ(50mM NaHPO、300mM NaCl、250mM imidazoleおよびpH8.0)を用いて移動相勾配(gradient mobile phase)で最終タンパク質を得た。次に、イミダゾールを除去するために得たタンパク質をメンブレインチューブに入れ、イミダゾールが含まれていないバッファ(20mM NaHPO、300mM NaClおよびpH7.2)を用いて浸透圧作用によるバッファ交換を行った。最後に、イミダゾールが含まれていないバッファに溶解しているタンパク質をBradford assayにより濃度を測定してNC-EGFPタンパク質発現を確認した。その結果、NC遺伝子配列に他の配列が結合してもNCペプチドの発現には影響がないのを確認した。
【0050】
図1は、NC-EGFPタンパク質をSDS-PAGEで確認した結果を示すものであり、約35kDa大きさのNC-EGFPタンパク質が発現されたのを確認することができる。
【0051】
3.NCペプチドの細胞膜透過性の分析
3-1.細胞培養
HeLa、RAW264.7および293FT細胞は、10% FBSと100U/mlペニシリン/ストレプトマイシンが追加されたDMEM培地で培養し、MDCK細胞は、10% FBSと100U/mlペニシリン/ストレプトマイシンが追加されたEMEM培地(Hyclone、Logan、UT、USA)で培養した。THP-1およびCEM細胞は、10% FBSと100U/mlペニシリン/ストレプトマイシンが追加されたRPMI-1640培地(Hyclone、Logan、UT、USA)で培養した。全ての細胞は、37℃、5% COの加湿恒温器で培養した。
【0052】
3-2.NCペプチド細胞膜透過性の分析-FACS(Fluorescence-activated cell sorting)
前記3-1で培養された様々な種類の細胞を1×10細胞/ウェルの密度で6-ウェルプレートに接種した後、24時間培養してプレートに細胞を付着させた。その後、ペプチド濃度(0.5、1.0、2.5、5.0および10μM)またはペプチド処理時間に差をおいて、FITCが結合(conjugation)されたNCペプチド(以下、「FITC-NCペプチド」と称する)、EGFPが結合されたNCペプチド(以下、「NC-EGFPペプチド」と称する)またはEGFPが結合されたTatペプチド(以下、「Tat-EGFPペプチド」と称する)を各々細胞に処理した。前記ペプチドは、chempeptide(中国)およびLife tein(米国)に注文して作製した。その後、細胞をPBSで3回洗浄し、トリプシン(trypsin)-EDTAで細胞を分離した後、2% FBS/0.1% ウシ血清アルブミン(bovine serum albumin、BSA)が含まれたPBSに懸濁させた。前記懸濁液を2,000rpmで2分間遠心分離して細胞ペレットを得、得た細胞を3.7% ホルムアルデヒド(formaldehyde)で20分間固定した。その後、2,000rpmで2分間遠心分離して細胞ペレットを得、PBSで2回洗浄した後、2% FBSおよび0.1% BSAが含まれたPBSに懸濁させた。蛍光活性化セルソーター(fluorescence-activated cell sorter;FACS Calibur、Beckon Dickinson、CA、USA)を用いて細胞をフローサイトメトリー(flow cytometry)により分析した。
【0053】
3-3.NCペプチド細胞膜透過性の分析-免疫染色(immunostaining)
HeLa細胞を1×10細胞/ウェルの密度でガラスが入った12-ウェルプレートに接種した後、24時間培養して細胞をガラスに付着させた。その後、FITC-NCペプチドを3mM濃度で細胞に3時間処理した。3時間後、細胞をPBSで3回洗浄した後、3.7% ホルムアルデヒドで20分間細胞を固定させ、0.2% Triton X-100が含まれたPBSを処理して細胞膜透過性を増加させた。その後、3% BSAで1時間ブロッキング(blocking)させた後、ラミン(lamin A/C)抗体(Sigma-Aldrich、米国)と常温で2時間反応させ、PBSで3回洗浄した。次に、Cy3二次抗体(Cy3-conjugated secondary antibody;Jackson ImmunoResearch、米国)を処理して常温で1時間反応させ、PBSで2回洗浄した後、DAPI(4’,6-diamidino-2-phenylindol)で10分間染色した。HeLa細胞が付着したガラスを取り外してスライドガラス上に載せ、共焦点レーザ走査顕微鏡(confocal laser scanning microscopy、LSM 700、Zeiss、Germany)で観察した。
【0054】
また、NCペプチドと他の細胞透過ペプチドの透過性を比較するために下記のような方法を用いた。
【0055】
HeLa細胞を1×10細胞/ウェルの密度でガラスが入った12-ウェルプレートに接種した後、24時間培養して細胞をガラスに付着させた。その後、FITC-NCペプチド、FITC-Tatペプチド(trans-activating transcriptional activator peptide)、FITC-MA11ペプチド、FITC-PTD-ysペプチド(protein transduction domain-ys peptide)、FITC-TLMペプチド(translocation motif peptide)およびFITC-TD1ペプチドをHeLa細胞に3時間処理した。3時間後、細胞をPBSで3回洗浄し、3.7% ホルムアルデヒドで20分間細胞を固定させた。0.2% Triton X-100が含まれたPBSを処理して細胞膜透過性を増加させ、3% BSAで1時間ブロッキングさせた。その後、チューブリン(tubulin)抗体(Santa Cruz Biotechnology、米国)と常温で2時間反応させ、PBSで3回洗浄した。Cy3二次抗体を処理して常温で1時間反応させ、PBSで2回洗浄した後、DAPIで10分間染色した。HeLa細胞が付着したガラスを取り外してスライドガラス上に載せ、共焦点レーザ走査顕微鏡で観察した。
【0056】
また、FITC-NCペプチドによる細胞膜透過活性の変化を確認するために前記と同様の方法により、ヘキサペプチド(hexapeptide)、FITC-ヘキサペプチド、FITC-NC-ヘキサペプチド、FITC-13NC35ペプチドおよびFITC-29NC50ペプチドをHeLa細胞に3時間処理し、共焦点レーザ走査顕微鏡で観察した。一方、上記で用いられたヘキサペプチド、PTD-ysペプチド、TLMペプチド、TD1ペプチド、NC-ヘキサペプチド、13NC35ペプチドおよび29NC50ペプチドのアミノ酸配列は下記の表5のとおりである。
【0057】
【表5】
【0058】
3-4.NCペプチド細胞膜透過性の分析-蛍光分析器(fluorometer)
RAW264.7細胞を5×10細胞/ウェルの密度で24-ウェルプレートに接種した後、24時間培養して細胞をプレートに付着させた。その後、Tat-EGFPペプチドおよびNC-EGFPペプチド各々を互いに異なる濃度で1時間処理した。1時間後、細胞をPBSで3回洗浄し、RIPA(radio-immunoprecipitation assay)バッファ100mlを添加して4℃で30分間細胞を溶解させた。前記細胞溶解液100mlを蛍光分析器用の96-ウェルプレートに移した後、蛍光分析器(Synergy MX、BIOTEK、米国)を用いてGFP蛍光を測定した。
【0059】
また、前記と同様の方法により、FITCが結合されたHIV(Human immunideficiency virus)、MLV(Murine leukemia virus)、SIV(Simian immunodeficiency virus)およびRSV(Rous sarcoma virus)のNCペプチド(以下、各々、FITC-HIV-NC、FITC-MLV-NC、FITC-SIV-NC、FITC-RSV-NC)とTatペプチドを1.0μMの濃度でRAW264.7細胞に1時間処理した後に蛍光信号を測定した。
【0060】
3-5.NCペプチドによるRNA透過(transduction)効率の変化
MT4細胞を2×10細胞/ウェルの密度で24-ウェルプレートに接種し、37℃および5% COの加湿恒温器で24時間培養した。互いに異なる濃度のNCペプチド2μlとsiGLO(Green transfection indicator、Dharmacon、D-001630-01-05)40nMを混合して常温で30分間反応させた後、MT4細胞に処理した。24時間さらに培養した後、MT4細胞をPBSで3回洗浄し、蛍光活性化セルソーターを用いてフローサイトメトリーにより分析した。また、蛍光顕微鏡(Fluorescence inverted microscope、Olympus)で観察した。
【0061】
4.NCペプチドの生体内組織への浸透および組織細胞における分布有無
3.2mg/100μl濃度のFITC-HIV-NCペプチドおよびFITC-Tatペプチドを30ゲージ(gauge)注射器を用いてマウス尾静脈に各々注射した。ペプチド投与して2時間後、マウスの腎臓(kidney)、肝臓(liver)、肺(lung)、心臓(heart)および脾臓(spleen)を摘出して4% パラホルムアルデヒドで1時間固定し、組織が沈むまで30% スクロース(sucrose)に浸しておいた。その後、OCTコンパウンド(OCT compound;Leica、Germany)を用いて各組織を冷凍させ、冷凍切片機で組織切片スライドを作製した。当業界で周知の方法により組織切片スライドをDAPIで10分間染色した後、共焦点レーザ走査顕微鏡で観察した。
【0062】
また、FITC-HIV-NCペプチド100μMストック(stock)を硝子体内(intravitreal)に1μl、網膜下(subretinal)に2μl投与し、24時間後、マウス眼球組織を摘出して前記と同様の方法により眼球組織切片スライドを作製した。スライドをDAPIで10分間染色した後、共焦点レーザ走査顕微鏡で観察した。
【0063】
実験結果
1.様々なレトロウイルスNCペプチドの細胞膜透過活性の確認
NCペプチド配列の類似(similarity)程度に応じて細胞膜透過活性の程度の差があるか否かを確認するために、FITCが結合されたHIV、SIV、RSVおよびMLVのNCペプチドとTatペプチドを1.0μMの濃度でRAW264.7細胞に1時間処理した。その結果、図2に示すように、HIV、SIV、RSVおよびMLVのNCペプチドが細胞膜透過性に優れるのをFITC蛍光明るさを通じて確認し、FACS分析でもHIVのNCペプチドが96.8%、SIVのNCペプチドが54.0%、RSVのNCペプチドが24.2%、MLVのNCペプチドが5.7%の細胞において蛍光が現れるのを確認した。前記実験結果は、HIVをはじめとする種々のレトロウイルスのNCペプチドが既存のTatペプチドに比して細胞膜透過活性に優れることを意味する。また、図2に示すように、HIV、SIV、RSVおよびMLVのNCペプチドは、ジンクフィンガー(zinc finger)ドメインが保存配列(consensus sequence)として含まれているのを確認することができた。
【0064】
一方、上記で用いられたHIV、SIV、RSVおよびMLVのNCペプチドのアミノ酸配列は下記の表6のとおりである。
【0065】
【表6】
【0066】
2.HIV-NCペプチドの細胞膜透過活性の確認
前記実験において、細胞膜透過活性の最も高いHIV-NCペプチド(配列番号12)を対象に細胞膜透過活性を濃度別に確認するために、FITC-HIV-NCペプチドを0.5、1、2.5、5.0および10μMの濃度で1時間RAW264.7マクロファージに処理した。1時間後、蛍光顕微鏡(Leica Micoscope Systems、ドイツ)で細胞の蛍光程度を確認した結果、図3aに示すように、FITC-HIV-NCペプチドの濃度が増加するほど、ペプチドの細胞膜透過性が高くなるのを確認することができた。また、蛍光分析器により確認した結果、図3bに示すように、FITC-HIV-NCペプチドの濃度が増加するほど、蛍光信号が増加するのを確認して細胞膜透過性が増加することが分かった。
【0067】
また、処理時間に応じたFITC-HIV-NCペプチドの細胞膜透過程度を確認するために、2.5μmの濃度でRAW264.7細胞に20分、40分および60分間ペプチドを処理した。その結果、図3cに示すように、FITCーHIV-NCペプチドを処理した時間が増加するに伴い、ペプチドの細胞膜透過性が有意に増加するのを蛍光顕微鏡およびFACS分析により確認することができた。
【0068】
また、HIV-NCペプチドの細胞膜透過性を確認するために、HeLa細胞に免疫染色を行って共焦点レーザ走査顕微鏡で観察した。その結果、図4に示すように、多数のHIV-NCペプチドが細胞膜、細胞質および核膜に満遍なく分布しており、一部のHIV-NCペプチドは核内側に分布するのを確認することができた。前記結果は、HIV-NCペプチドが低い濃度で細胞膜を透過することができ、HIV-NCペプチドの細胞膜透過が速い時間内でなされることを意味する。
【0069】
3.様々な細胞におけるHIV-NCペプチドの細胞膜透過活性の確認
細胞の種類に応じてHIV-NCペプチドの細胞膜透過活性に差があるか否かを確認するために、RAW264.7、THP-1、CEM、MDCKおよび293FT細胞にFITC-HIV-NCペプチドを1.0、2.5および5.0μMの濃度で1時間または2時間処理した。その結果、図5a~5eに示すように、FITC-HIV-NCペプチドの濃度が増加するに伴い、ペプチドの細胞膜透過性が有意に増加するのを蛍光顕微鏡およびFACS分析により確認することができた。図5aはRAW264.7(マウスマクロファージ)、図5bはTHP-1(ヒト単球細胞株)細胞の結果であり、図5cはCEM、図5dはMDCK(Madin-Darby canine kidney、イヌ腎臓由来細胞)および図5eは293FT(ヒト胎児腎臓細胞由来)の結果である。前記結果は、HIV-NCペプチドが癌細胞、免疫細胞、上皮細胞などの様々な細胞膜を透過できることを意味する。
【0070】
4.HIV-NCペプチドとTatペプチドの細胞膜透過活性の比較
HIV-NCペプチドの細胞膜透過活性の程度を確認するために、既存の細胞透過タンパク質として知られたTatペプチドとの比較実験を行った。緑色蛍光タンパク質(Green Fluorescence Protein、GFP)が結合されたHIV-NCペプチド(以下、GFP-HIV-NCペプチド)を0.25、0.5、1.0、2.5および5.0μMの濃度で、GFP-Tatペプチドを1.0、2.5、5.0および10μMの濃度で、各々1時間RAW264.7細胞に処理し、1時間後、ペプチドの蛍光程度を確認した。その結果、図6aおよび6bに示すように、GFP-HIV-NCペプチドは0.25μMの低い濃度で蛍光が現れる反面、GFP-Tatペプチドは10μMの高い濃度でも蛍光が微小に現れるのを確認することができた。また、細胞を回収してFACSで分析した結果、図6aおよび6bに示すように、GFP-HIV-NCペプチドは1μMの濃度で99.9%の細胞が蛍光を示すが、GFP-Tatペプチドは同一の濃度で4.3%の細胞が蛍光を示すのを確認した。
【0071】
また、蛍光分析器により確認した結果、図6cに示すように、GFP-HIV-NCペプチドは、濃度が増加するに伴い、細胞膜透過性も増加するが、GFP-Tatペプチドは、処理濃度に関係なく、細胞膜透過性が非常に低いのを確認することができた。前記実験結果は、既存の細胞透過タンパク質としてよく知られたTatペプチドに比して、HIV-NCペプチドが高効率の細胞透過ペプチドであることを意味する。
【0072】
5.HIV-NCペプチドと他の細胞透過ペプチドの細胞透過活性の比較
FITC-HIV-NCペプチド、FITC-Tatペプチド、FITC-MA11ペプチド、FITC-PTD-ysペプチド、FITC-TLMペプチド、FITC-TD1ペプチドをHeLa細胞に処理した後、各ペプチドの細胞膜透過程度を確認した。
【0073】
その結果、図7に示すように、FITC-TLMペプチドおよびFITC-TD1ペプチドは、20μMの高濃度で処理したにもかかわらず、細胞膜をほぼ透過することができなかったが、FITC-HIV-NCペプチドは、3μMで処理しても、蛍光信号が強く現れて、細胞膜透過活性に顕著に優れるのを確認することができた。また、FITC-HIV-NCペプチドの細胞膜透過活性は、FITC-MA11ペプチドに比して約2.5倍、FITC-Tatペプチドに比して約7倍、FITC-PTD-ysペプチドに比して約10倍ほど優れるのを確認することができた。
【0074】
6.NCペプチド内のジンクフィンガードメインの細胞膜透過活性の確認
実験結果1において多数種のレトロウイルスNCペプチドが細胞膜透過活性があるのを確認し、図2に示すように、HIV、SIV、RSVは2個、MLVは1個のジンクフィンガードメイン(zinc finger domain)があるのを確認した。
【0075】
そこで、細胞膜透過活性が種々のNCペプチド内の保存配列(consensus sequence)であるジンクフィンガードメインによって表れるか否かを確認するために、HIV-NCペプチドの13番目のアミノ酸~35番目のアミノ酸からなる1番目のジンクフィンガードメインを含むペプチド(13NC35ペプチド、配列番号10)と、29番目のアミノ酸~50番目のアミノ酸からなる2番目のジンクフィンガードメインを含むペプチド(29NC50ペプチド、配列番号11)を対象にFITCを結合させ、HeLa細胞における細胞膜透過活性を確認した。
【0076】
その結果、図8および図9に示すように、13NC35ペプチドと29NC50ペプチドの両方とも濃度に比例して蛍光信号が増加するのを確認することができた。これは、NCペプチドのジンクフィンガードメインが細胞膜透過活性を示す重要な部分であることを意味する結果である。
【0077】
一方、HIV、SIV、RSVおよびMLVのNCペプチドのジンクフィンガードメインのアミノ酸配列は下記の表7に示す。
【0078】
【表7】
【0079】
7.HIV-NCペプチドの生体内組織への浸透および組織細胞における分布有無の確認
【0080】
NCペプチドが生体内組織に浸透して組織細胞に満遍なく分布するか否かを確認するために、マウス尾静脈にHIV-NCペプチドを投与した結果、図10に示すように、腎臓、肝臓、肺、心臓および脾臓組織細胞に満遍なく分布することが分かった。特に腎臓、肝臓および肺組織細胞に対する分布効率が顕著に優れていた。その反面、Tatペプチドは、腎臓を除いた他の組織にはほぼ分布しないのを確認することができた。
【0081】
また、眼球の硝子体内と網膜下への投与経路を通じてHIV-NCペプチドを投与した結果、図11に示すように、蛍光信号が強く現れるのを確認して、HIV-NCペプチドが眼球投与経路を通じて眼球組織を浸透して網膜細胞に満遍なく分布することが分かった。
【0082】
8.HIV-NCペプチドによるポリペプチドの細胞膜透過有無の確認
ポリペプチドをカーゴ(cargo)にしてHIV-NCペプチドによる細胞膜透過が可能であるか否かを確認するために、HIV-NCペプチドにヘキサペプチドを結合して細胞に処理して蛍光信号を観察した。その結果、図12に示すように、ヘキサペプチドそのものは細胞膜を透過することはできないが、HIV-NCペプチドと結合した場合には細胞膜透過が可能であり、濃度に比例して細胞膜透過活性が増加するのを確認することができた。
【0083】
9.HIV-NCペプチドによるポリヌクレオチドの細胞膜透過有無の確認
ポリヌクレオチドをカーゴ(cargo)にしてHIV-NCペプチドによる細胞膜透過が可能であるか否かを確認するために、HIV-NCペプチドとsiGLO RNAを結合してMT4細胞に処理した後に細胞を観察した。その結果、図13に示すように、HIV-NCペプチドの処理濃度に応じてGFP蛍光信号が増加するのを確認し、siGLOの細胞膜透過程度が増加したことが分かった。この結果は、HIV-NCペプチドがポリヌクレオチドの細胞膜透過程度を顕著に改善できることを意味する。
【0084】
今まで本発明についてその好ましい実施例を中心に説明した。本発明が属する技術分野で通常の知識を有した者であれば、本発明が本発明の本質的な特性から逸脱しない範囲内で変形した形態に実現できることを理解することができるであろう。したがって、開示された実施例は限定的な観点でなく説明的な観点で考慮しなければならない。本発明の範囲は前述した説明でなく特許請求の範囲に示されており、それと同等な範囲内にある全ての差異点は本発明に含まれたものとして解釈しなければならない。
図1
図2A
図2B
図3a
図3b
図3c
図4
図5a
図5b
図5c
図5d
図5e
図6a
図6b
図6c
図7
図8
図9
図10
図11A
図11B
図12
図13A
図13B
【配列表】
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