(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-06
(45)【発行日】2023-02-14
(54)【発明の名称】味付板海苔の製造方法
(51)【国際特許分類】
A23L 17/60 20160101AFI20230207BHJP
【FI】
A23L17/60 103A
(21)【出願番号】P 2020013731
(22)【出願日】2020-01-30
【審査請求日】2021-08-31
(73)【特許権者】
【識別番号】397030031
【氏名又は名称】株式会社大森屋
(74)【代理人】
【識別番号】100130513
【氏名又は名称】鎌田 直也
(74)【代理人】
【識別番号】100074206
【氏名又は名称】鎌田 文二
(74)【代理人】
【識別番号】100130177
【氏名又は名称】中谷 弥一郎
(72)【発明者】
【氏名】澤田 伸一
(72)【発明者】
【氏名】安徳 真介
【審査官】関根 崇
(56)【参考文献】
【文献】特開平04-179463(JP,A)
【文献】特開2003-339357(JP,A)
【文献】登録実用新案第3170383(JP,U)
【文献】登録実用新案第3163563(JP,U)
【文献】特開昭61-224969(JP,A)
【文献】特開昭63-283559(JP,A)
【文献】特開2011-147359(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 17/60
A23L 27/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
乾燥した板海苔素材の全面に多数のピンホールを分散状態に形成する工程、その後、前記板海苔素材に水飴
及びこの水飴より高いガラス転移点のデキストリンを1~3質量%含んだ調味液を塗布する工程、前記調味液を乾燥させて味付板海苔にシワを形成する加熱乾燥工程を必須工程とする味付板海苔の製造方法。
【請求項2】
上記調味液を塗布する工程が、全型板海苔素材の表面に1枚当たり1.5g以上の調味液を塗布する工程である請求項
1に記載の味付板海苔の製造方法。
【請求項3】
上記ピンホールが、直径1.0mm以下のピンホールである請求項1
または2に記載の味付板海苔の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、食用藻類の加工食品である味付板海苔の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、板海苔を製造する工程では、海苔に適した食用藻類である紅藻類のアサクサノリやスサビノリ等の葉体を清浄な海水および淡水で洗浄し、チョッパー、ミンチ機等で細断して、これを多量の水と共に抄製機に送って海苔簾上に抄き上げ、次いで脱水及び乾燥させて残留水分10%程度の板海苔に仕上げることが知られている。
【0003】
また、大量生産される板海苔を効率よく製造するために、抄製に代えて細断後の生海苔を、スクリーン目を通して無端ベルト上に落下させ、圧着ロールで均一な厚みに成形し、調味付けし、さらに乾燥させて味付板海苔を製造する方法も周知である(特許文献1)。
【0004】
また、板海苔を素材とし、その片面または両面に水あめを含む調味液で味付けした板状の味付板海苔も知られている(特許文献2)。
【0005】
さらにまた、乾燥した板状海苔の片面に含水調味液を付着させて加熱乾燥することにより、円筒形などのカール状の形態として、スナック食品として供せる立体的でボリューム感を持たせた海苔製品も知られている(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開昭58-78569号公報
【文献】特開平5-236914号公報
【文献】特開昭61-195674号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献3に示されるような方法で製造される海苔製品は、立体的なボリューム感はあるが、食する際にバリバリと割れるものではなく、カールされていることによって口内では海苔の破片が折り重なりやすいので、口内全体に素早く広がって直ぐに溶けることが好まれる板海苔に特有の食感は得られなかった。
【0008】
また、板海苔や調味液硬化物は保存する際に吸湿しやすいので、味付板海苔を複数枚重ねておくと、接触した面が粘着して一体化されてしまい、一枚または少しずつ摘まんで食べるというスナック食品としての商品価値が損なわれやすい。
このような吸湿による粘着性は、板海苔がカールされた状態でも充分に抑制することは困難であった。
【0009】
そこで、この発明の課題は、上記した従来の板海苔の問題点を解決し、乾燥した板海苔が乾いた状態でバリバリと砕けて口内では直ぐに溶けるような特有の食感があり、しかもおつまみスナック食品としてのボリューム感があり、また多数枚を積み重ねて長時間おいても接触面が互いに粘着し難くて、品質も維持されやすく食感も良好な味付板海苔を製造することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決するために、この発明では、乾燥した板海苔素材の全面に多数のピンホールを分散状態に形成する工程、その後、前記板海苔素材に水飴を含んだ調味液を塗布する工程、前記調味液を乾燥させて味付板海苔にシワを形成する加熱乾燥工程を必須工程とする味付板海苔の製造方法としたのである。
【0011】
この発明の味付板海苔の製造方法は、板海苔素材の全面に多数のピンホールを分散させて形成し、板海苔素材の表面に水飴を含んだ調味液を塗布することにより、板海苔素材のピンホールにも調味液が入り込んで染み込み、または海苔の葉体同士が重なる部分に形成された隙間に染み込んで、充分に濡れて膨張した部分と、完全に濡れていない部分との間で引っ張り合う力が働く。
【0012】
このような状態を起こりやすくするために、調味液を充分な量だけ塗布し、かつ所要時間かけて加熱乾燥させるようにすると、味付板海苔にランダムな波型のシワが形成され、次いで水飴を含んだ調味液が表面を被覆した状態で乾燥すると固まってシワが保形される。
【0013】
このようにランダムな波型のシワを保形することにより、板海苔でありながら1枚当たり2~3mm程度の厚みがあってボリューム感があり、また味付板海苔を複数枚重ねた状態では対向する面が、シワの隆起した部分同士だけで点接触するので、接触面積が小さくなる。
【0014】
そのため、室内で複数枚を積み重ねておいても表面の調味液の硬化物同士が粘着し難く、味付板海苔を一枚ずつ摘まみやすく、また複数枚重ねて入れた袋や容器から取り出しやすくなり、複数枚を重ねた状態での個包装にも適したものになる。
【0015】
調味液は、乾燥して水分が徐々に除かれたとき、半固体状から固体状になるが、必然的にガラス転移点(Tg)も高くなる。
このとき、調味液に必須成分としてガラス転移点(Tg=約90℃)の高い水飴を含むことによって、室温でもガラス質になることが可能となり、また硬化して海苔の表面を層状に覆う調味液硬化物は、それ自体でもバリッとした食感に近い食感になる。
【0016】
そのような好ましい食感が得られるように、上記調味液が、水飴より高いガラス転移点(Tg)を有している糖質を含有することが好ましい。
例えば上記糖質が、デキストリンである場合には、水飴のTg=約90℃に比べて、デキストリンのガラス転移点が充分に高い(例えばマルトデキストリンのTg=162.6℃)ので、乾燥した室温の調味液硬化物のガラス化は促進される。
【0017】
このような調味液を用いて、味付板海苔がバリバリと砕ける食感および口中で砕けやすい食感は、安定的に得られる。板海苔素材の表面に調味液硬化層が形成されるように、調味液を塗布する工程が、全型板海苔素材の表面に1枚当たり1.5g以上の調味液を塗布することが好ましい。
【0018】
このようにすると、板海苔素材の表面に調味液の硬化物は、従来の味付板海苔の表面に形成される調味液の硬化層よりも厚い層状に形成され、バリバリとして歯ごたえの良い食感が高められる。
【0019】
このような調味液の硬化物および板海苔素材は、食した時に口中で細かい破片に割れやすくなるように、また板海苔の外観上は、ピンホールの開口部が目立たないように、上記ピンホールの直径は、1.0mm以下であることが好ましい。
【発明の効果】
【0020】
この発明は、ピンホールを形成した板海苔素材の表面に水飴を含んだ調味液を塗布し、加熱乾燥工程において調味液を乾燥させて味付板海苔にランダムな波型のシワを形成することにより、乾燥した板海苔の乾いた状態での特有のバリバリと砕けて口内では直ぐに溶けるような食感があり、しかもおつまみスナック食品としてのボリューム感があり、また多数枚を積み重ねて長時間おいても接触面が互いに粘着し難く、品質も食感も良好な味付板海苔を製造できる利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図2】実施形態により製造された味付板海苔の形態を示す平面図
【
図3】実施形態により製造された味付板海苔の拡大断面図
【
図4】実施形態により製造された味付板海苔の砕けた状態を示す説明図
【発明を実施するための形態】
【0022】
この発明の実施形態の製造方法を以下に添付図面を参照して説明する。
図1に示す製造工程に示すように、先ず、実施形態の味付板海苔の製造方法の概略を説明すると、予め、アサクサノリ等の葉体を清浄な海水および淡水で洗浄し、チョッパーやミンチ機等で細断し、スクリーン目を通して無端ベルト上に落下させ、圧着ロールで均一な厚みに成形し、乾燥させた板海苔素材を製造し、これを味付け工程に供給する。
【0023】
板海苔素材は、例えば全型と呼ばれる縦21cm、横19cmを基本形とし、これを海苔供給機から搬送ベルト上に供給し、異物を除去してから、穴あけ加工機によって多数のピンホールを均一に分散した状態に形成する。
【0024】
この後の工程も無端環状の簀の子状またはベルト状の搬送路上で処理が行われ、全面に多数のピンホールを形成した板海苔素材は、異物検査を経た後、焼成され、好ましくは5%以下まで水分量を充分に下げるよう乾燥させる。
【0025】
その後、板海苔素材に水飴を含んだ調味液を塗布する。次いで前記調味液を乾燥させることにより、味付板海苔にランダムな波型のシワを形成する加熱乾燥工程を必須工程としている。
このような必須工程の後は、通常の製造工程で品質安全性および製品化のための常とう手段である目視・官能検査、計数、集積および保管により、製品化を完了させることができる。
【0026】
上記各製造工程を、さらに詳細に説明する。
製造工程に用いる穴あけ加工機は、板面に多数の針状突起を10mm程度の等間隔に植え付けた剣山状の加工具を備えており、それを上下往復動させるか、または回転するロール面の噛み合い面に据え付けて、前記板海苔素材の全面に針状突起を押し当ててパンチ穴状にピンホールを開ける加工を施す装置である。
【0027】
上記ピンホールは、調味液の浸透性がある大きさで、板海苔に所要強度が保たれる程度に全面に分散させてできるだけ多数形成される。また板海苔素材の全体が均一に割れやすく、しかも外観上はピンホールの開口部が目立たないようにするため、直径1.0mm以下のピンホールを多数均一に分散させて形成することが好ましい。
【0028】
板海苔素材に塗布する調味液は、その組成は需要者の嗜好に合わせており、特に限定されるものではないが、必須成分として水飴を含んだものを採用する。
一例としては、調味液中に水飴を10~25質量%程度含ませ、その他の成分として、醤油、酵母エキス、食塩、昆布エキス、鰹エキス、海老エキス、でん粉分解物(デキストリン)、砂糖、酒精、甘味料、香辛料などを配合して味を調えた調味液が適当である。
【0029】
でん粉分解物としての糖質は、上記水飴よりも高いガラス転移点の物が好ましく、例えばデキストリンやトレハロースを採用することができる。
水飴は、主成分が麦芽糖(マルトース)であり、マルトースのガラス転移点(Tg)は約90℃、トレハロースのTgは、約114℃である。
【0030】
因みにデキストリンは、デンプンと水飴である麦芽糖(マルトース)の中間に当たる糖化率(DE)の多糖類であり、粉飴の状態での糖化率(DE)は20~40であり、DE10~20マルトデキストリンのTgは162.6℃である。また砂糖(スクロース)のTgは約66℃である。
【0031】
この発明の実施形態で用いるデキストリンのガラス転移点は、マルトースのTg=約90℃からマルトデキストリンのTg=162.6℃であり、砂糖や水飴を含む調味液のTgを高めて加熱乾燥により硬化した調味液を室温以上の流通・保管想定温度内でガラス(非晶質)状態とし、さらには板海苔素材のバリバリ、サクサクとした食感をより高めることができるものを採用している。
デキストリンは、水飴(質量)に対して1/10程度、調味液中には1~3%程度配合して好ましい食感が得られることが判明している。
【0032】
調味液の板海苔素材に対する塗布は、周知の塗布手段を採用すればよく、例えば噴霧や塗布ローラー、刷毛などを用いて塗布できる。調味液の塗布量は、従来の味付板海苔の塗布量の1.5~2倍程度に多量の塗布量とすれば、板海苔素材の表面の被膜だけでなく内部にも染み込んで、乾燥後には固化した調味液硬化物によって内外から保形された味付板板海苔になる。
【0033】
加熱乾燥は、先ず、調味液が加熱された板海苔素材の表面から内部の空隙やピンホールに入り込むように所要時間をかけて行われ、板海苔素材における海苔の葉体の重なり具合や海苔の厚みに応じて、充分に濡れて膨張した部分と、完全に濡れていない部分との間で引っ張り合う力が働く時間を与えながら、最終的には充分に乾燥するように加熱する。
【0034】
このような状態で味付板海苔にシワを形成する加熱乾燥工程は、例えば140~170℃の加熱乾燥工程であることが好ましい。このようにして調味液の硬化物及び板海苔素材は、水分含量5~10%以下に加熱乾燥させることが、板海苔素材のバリバリ、サクサクとした食感をより高めるために好ましい。
【0035】
図2に示されるように、味付板海苔1に形成されるシワ2は、海苔の各所の膨張(膨潤)と収縮(縮れ)によりランダムな隆起(凸)部分2aと、沈下(凹)部分2bとを有する。
このようにしてシワを形成すると、例えば1枚の味付板海苔1が2~3mm程度の厚みとなってボリューム感があり、おつまみやスナック食品としての所要の品質を備えたものになる。
【0036】
また、
図3に示されるように、板海苔素材1aの全面には、多数のピンホール3がほぼ均一に分散する状態に形成されており、塗布された調味液4は、ピンホール3から内部に、一部侵入または孔内部に完全に充填または開口部に層状に被覆された状態で、加熱乾燥されて硬化した調味液(硬化物)4になる。
【0037】
水飴または水飴とデキストリンを含んだ調味液(硬化物)4は、室温程度のガラス転移点以下では、ガラス化して適度の硬度を有する固体であって割れやすく、特にピンホール3の部分では割れやすい。
【0038】
そのため、
図4に示すように、味付板海苔1を食べると、ピンホール3が起点となって細かな破片1cに砕けやすく、砕けるときにはバリバリと割れる軽い歯応えがあると共に、一枚ずつの細かな破片は口内で溶けたようになり、板海苔としての独特な好ましい触感もある。
【0039】
上述したような特徴は、製造工程の加熱乾燥後の目視・官能検査によって確かめられ、その後は、計数、集積および保管により、製品化することができる。
【実施例】
【0040】
全型の板海苔素材(縦21cm、横19cm)を海苔供給機から搬送ベルト上に供給し、選別機を用いて異物を除去してから、穴あけ加工機によって1cm2当たり1以上の密度でピンホール(直径0.6mm)を均等に分散させて形成した。
【0041】
このピンホール付きの板海苔を焼成窯で300℃以下にて10秒以上予備乾燥させてから、調味液をローラーで1枚当たり1.5g以上付着するように塗布した。
【0042】
用いた調味液は、水飴を15質量%程度、でん粉分割物(デキストリン)を1.5質量%含ませ、その他の調味成分として醤油、酵母エキス、食塩、昆布エキス、鰹エキス、海老エキス、砂糖、酒精、甘味料、香辛料を適量配合して味を調えたものを用いた。
【0043】
調味液を塗布した板海苔素材は、その後、160℃で15秒間の加熱乾燥を行ない、一枚当たりの厚みが3mm程度となるようにランダムなシワが形成された状態で加熱乾燥工程を終えた。
【0044】
味付板海苔のシワの形成状態を目視と官能検査によって確かめ、計数し、15枚ずつ集積し、乾燥剤を入れた個包装の防湿性袋及び密閉された容器内に約1週間以上保管し、充分に乾燥させたものを製品として得た。
【0045】
得られた製品の味付板海苔は、成人男女5名のパネラーで試食したところ、バリバリと砕けて口内では直ぐに溶ける食感があった。またスナック食品として必要な噛み応えやボリューム感があり、15枚を積み重ねて外気中に8時間放置しても接触面が互いに粘着し難く、品質も食感も良好なものが得られた。
【符号の説明】
【0046】
1 味付板海苔
1a 板海苔素材
1c 破片
2 シワ
2a 隆起部分
2b 沈下部分
3 ピンホール
4 調味液(硬化物)