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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-06
(45)【発行日】2023-02-14
(54)【発明の名称】電極シートの製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/04 20060101AFI20230207BHJP
【FI】
H01M4/04 Z
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2020167653
(22)【出願日】2020-10-02
(65)【公開番号】P2022059819
(43)【公開日】2022-04-14
【審査請求日】2021-10-04
(73)【特許権者】
【識別番号】520184767
【氏名又は名称】プライムプラネットエナジー&ソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000291
【氏名又は名称】弁理士法人コスモス国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】中村 洸太
(72)【発明者】
【氏名】蛭川 智史
【審査官】小森 重樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-090805(JP,A)
【文献】特開2018-106813(JP,A)
【文献】特開2018-063860(JP,A)
【文献】特開2014-123491(JP,A)
【文献】特開2013-073690(JP,A)
【文献】特開2010-080272(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
長手方向に延びる帯状の集電箔の表面に電極合材層が積層された帯状の合材積層部と、
前記集電箔のうち、前記電極合材層が積層されることなく、前記合材積層部に対して前記長手方向に直交する幅方向に隣り合って前記長手方向に延びる帯状の非合材積層部と、を備える
電極シートの製造方法であって、
前記電極シートを、一対のプレスロールによって前記合材積層部がロールプレスされるプレス位置に向けて、前記長手方向に沿う搬送方向に搬送する第1搬送工程と、
前記第1搬送工程によって前記プレス位置まで搬送された前記電極シートのうち前記合材積層部を、前記一対のプレスロールによって前記長手方向にロールプレスするロールプレス工程と、
前記ロールプレスを行った前記電極シートを、前記プレス位置から前記搬送方向に搬送する第2搬送工程と、を、この順に備え、
前記電極シートについて、少なくとも前記第1搬送工程の開始位置から前記第2搬送工程の終了位置まで途切れることなく、前記一対のプレスロールの間を通って前記長手方向に延びる態様としつつ、当該電極シートに対して前記ロールプレス工程を行い、
前記第1搬送工程において前記電極シートに対して前記長手方向に掛ける張力を当該電極シートの横断面積で除した値である、第1の単位面積当たりの張力、及び、
前記第2搬送工程において前記電極シートに対して前記長手方向に掛ける張力を当該電極シートの横断面積で除した値である、第2の単位面積当たりの張力のうち、
少なくとも一方の値が、5.0MPa以下である
電極シートの製造方法であって、
前記第1の単位面積当たりの張力の値、及び、前記第2の単位面積当たりの張力の値が、いずれも5.0MPa以下である
電極シートの製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の電極シートの製造方法であって、
前記第1の単位面積当たりの張力の値、及び、前記第2の単位面積当たりの張力の値が、いずれも2.4MPa以下である
電極シートの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電極シートの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、長手方向に延びる電極シートを、一対のプレスロールによってロールプレスされるプレス位置に向けて、長手方向に沿う搬送方向に搬送する第1搬送工程と、第1搬送工程によってプレス位置まで搬送された電極シートを、一対のプレスロールによって長手方向にロールプレスするロールプレス工程と、ロールプレスを行った電極シートを、プレス位置から搬送方向に搬送する第2搬送工程とを、この順に備える電極シートの製造方法が開示されている。この製造方法では、電極シートについて、第1搬送工程の開始位置から第2搬送工程の終了位置まで途切れることなく、一対のプレスロールの間を通って長手方向に延びる態様としつつ、当該電極シートに対してロールプレス工程を行う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2014-42923号公報
【0004】
電極シートとしては、長手方向に延びる帯状の集電箔の表面に電極合材層が積層された帯状の合材積層部と、集電箔のうち、電極合材層が積層されることなく、合材積層部に対して長手方向に直交する幅方向に隣り合って長手方向に延びる帯状の非合材積層部と、を備える電極シートが知られている。このような電極シートをロールプレスするロールプレス工程では、電極シートのうち相対的に厚みの厚い合材積層部が、一対のプレスロールによって長手方向にロールプレスされる。これにより、電極合材層が圧密化されると共に、合材積層部が長手方向に圧延される。このため、ロールプレス工程では、電極シートのうち合材積層部が長手方向に伸びる一方、非合材積層部は長手方向に伸びない(ほとんど伸びない)ため、合材積層部と非合材積層部との間で伸び量(伸び率)に差が生じ、この伸び量(伸び率)の差によって電極シート(例えば、非合材積層部)に皺が発生することがあった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、第1搬送工程において電極シートに対して長手方向に掛ける張力(第1の張力とする)、及び、第2搬送工程において電極シートに対して長手方向に掛ける張力(第2の張力とする)が大きい場合には、ロールプレス工程においてロールプレスによって長手方向に圧延されている合材積層部(これを圧延部とする)がより大きく伸びて、合材積層部と非合材積層部との間の伸び率の差が大きくなり、電極シートに発生する皺が大きくなることがあった。このようになる理由は、以下のように考えている。具体的には、大きな第1の張力及び大きな第2の張力が圧延部に集中し、これによって圧延部が長手方向に延伸されることで、ロールプレスの圧延による伸びの他に、前記延伸による伸びが加わり、これによって圧延部が大きく伸びて、合材積層部と非合材積層部との間の伸び率の差が大きくなる。
【0006】
本発明は、かかる現状に鑑みてなされたものであって、合材積層部と非合材積層部との間の伸び率の差を小さくすることができる電極シートの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)長手方向に延びる帯状の集電箔の表面に電極合材層が積層された帯状の合材積層部と、前記集電箔のうち、前記電極合材層が積層されることなく、前記合材積層部に対して前記長手方向に直交する幅方向に隣り合って前記長手方向に延びる帯状の非合材積層部と、を備える電極シートの製造方法であって、前記電極シートを、一対のプレスロールによって前記合材積層部がロールプレスされるプレス位置に向けて、前記長手方向に沿う搬送方向に搬送する第1搬送工程と、前記第1搬送工程によって前記プレス位置まで搬送された前記電極シートのうち前記合材積層部を、前記一対のプレスロールによって前記長手方向にロールプレスするロールプレス工程と、前記ロールプレスを行った前記電極シートを、前記プレス位置から前記搬送方向に搬送する第2搬送工程と、を、この順に備え、前記電極シートについて、少なくとも前記第1搬送工程の開始位置から前記第2搬送工程の終了位置まで途切れることなく、前記一対のプレスロールの間を通って前記長手方向に延びる態様としつつ、当該電極シートに対して前記ロールプレス工程を行い、前記第1搬送工程において前記電極シートに対して前記長手方向に掛ける張力を当該電極シートの横断面積で除した値である、第1の単位面積当たりの張力、及び、前記第2搬送工程において前記電極シートに対して前記長手方向に掛ける張力を当該電極シートの横断面積で除した値である、第2の単位面積当たりの張力のうち、少なくとも一方の値が、5.0MPa以下である電極シートの製造方法が好ましい
【0008】
上述の製造方法では、第1の単位面積当たりの張力の値、及び、第2の単位面積当たりの張力の値のうち、少なくともいずれかの値を、5.0MPa以下としている。なお、第1の単位面積当たりの張力の値とは、第1搬送工程において電極シートに対して長手方向に掛けている張力(第1の張力とする)を、当該電極シートの横断面積(長手方向に直交する幅方向に沿って当該電極シートを切断した切断面の断面積)で除した値である。また、第2の単位面積当たりの張力の値とは、第2搬送工程において電極シートに対して長手方向に掛けている張力(第2の張力とする)を、当該電極シートの横断面積(長手方向に直交する幅方向に沿って当該電極シートを切断した切断面の断面積)で除した値である。
【0009】
このようにすることで、ロールプレス工程においてロールプレスによって長手方向に圧延されている合材積層部(これを圧延部とする)が、第1搬送工程において電極シートに対して長手方向に掛けている張力(第1の張力)、及び、第2搬送工程において電極シートに対して長手方向に掛けている張力(第2の張力)によって、長手方向に延伸される延伸量を小さくすることができる。これにより、ロールプレス工程における合材積層部と非合材積層部との間の伸び率の差を小さくすることができる。これにより、電極シート(例えば、非合材積層部)に発生する皺を低減することができる。
【0010】
さらに、前記の電極シートの製造方法であって、前記第1の単位面積当たりの張力、及び、前記第2の単位面積当たりの張力のうち、少なくとも一方の値が、2.4MPa以下である電極シートの製造方法とすると良い。
【0011】
上述の製造方法では、第1の単位面積当たりの張力の値、及び、第2の単位面積当たりの張力の値のうち、少なくともいずれかの値を、2.4MPa以下としている。このようにすることで、ロールプレスによって長手方向に圧延されている合材積層部が、第1の張力及び第2の張力によって長手方向に延伸される延伸量を、より一層小さくすることができる。これにより、ロールプレス工程における合材積層部と非合材積層部との間の伸び率の差を、より一層小さくすることができる。
【0012】
本発明の一態様は、前記(1)の電極シートの製造方法であって、前記第1の単位面積当たりの張力の値、及び、前記第2の単位面積当たりの張力の値が、いずれも5.0MPa以下である電極シートの製造方法である。
【0013】
上述の製造方法では、第1の単位面積当たりの張力の値、及び、第2の単位面積当たりの張力の値を、いずれも5.0MPa以下としている。このようにすることで、ロールプレスによって長手方向に圧延されている合材積層部が、第1の張力及び第2の張力によって長手方向に延伸される延伸量を、極めて小さくすることができる。これにより、ロールプレス工程における合材積層部と非合材積層部との間の伸び率の差を、より一層小さくすることができる。
【0014】
さらに、前記いずれかの電極シートの製造方法であって、前記第1の単位面積当たりの張力の値、及び、前記第2の単位面積当たりの張力の値が、いずれも2.4MPa以下である電極シートの製造方法とすると良い。
【0015】
上述の製造方法では、第1の単位面積当たりの張力の値、及び、第2の単位面積当たりの張力の値を、いずれも2.4MPa以下としている。このようにすることで、ロールプレスによって長手方向に圧延されている合材積層部(圧延部)が、第1の張力及び第2の張力によって長手方向に延伸される延伸量を、「0」にすることができる。すなわち、ロールプレス工程において、圧延部の伸び量を、ロールプレスの圧延のみによる伸び量と同等にすることができる。これにより、ロールプレス工程における合材積層部と非合材積層部との間の伸び率の差を、より一層小さくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】実施形態にかかる電極シートの製造装置の概略図である。
図2】実施形態にかかる電極シート(正極シート)の平面図である。
図3図2のB-B断面図である。
図4】実施形態にかかる電極シートの製造方法の流れを示すフローチャートである。
図5】実施形態にかかるロールプレス工程を説明する図である。
図6】単位面積あたりの張力と伸び率差との関係を示す図である。
図7】単位面積あたりの張力と伸び率差との関係を示す他の図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
次に、実施形態にかかる電極シートの製造方法について説明する。なお、本実施形態では、電極シートとして、正極シート155を製造する場合について説明する。図1は、実施形態にかかる電極シートの製造装置10の概略図である。製造装置10は、第1の一対のニップロール21,22と、第1のダンサーロール41と、一対のプレスロール11,12と、第2のダンサーロール42と、第2の一対のニップロール31,32とを有し、これらがこの順で正極シート155の搬送方向DFの上流側から下流側(図1において左側から右側)に向かって配置されている。なお、図1には、製造装置10のうち、後述するステップS1~S3の処理を行う部分のみを示している。
【0018】
正極シート155は、図2及び図3に示すように、帯状の合材積層部154と、帯状の一対の非合材積層部153とを備える。このうち、合材積層部154は、長手方向DAに延びる帯状の集電箔151の表面(両面)に正極合材層152が積層された部位である。より具体的には、合材積層部154は、長手方向DAに延びる帯状の集電箔151のうち正極合材層152が積層された積層集電箔部151cと、正極合材層152とを有する。一方、一対の非合材積層部153は、集電箔151のうち、正極合材層152が積層されることなく、合材積層部154に対して幅方向DB(長手方向DAに直交する方向)の両側に隣り合って長手方向DAに延びる部位である。なお、集電箔151は、金属箔(具体的には、アルミニウム箔)からなる。
【0019】
以下、電極シートの製造方法について詳細に説明する。なお、ここでは、正極シート155の製造方法について説明するが、負極シートもこれと同様に製造することができる。本実施形態では、製造装置10によって、図4に示すステップS1~S3の処理を順に行う。なお、正極シート155は、製造装置10において、第1の一対のニップロール21,22、第2の一対のニップロール31,32、及び図示しない送りロール等によって、搬送方向DF(正極シート155の長手方向DAに一致する方向)に搬送される。
【0020】
まず、ステップS1(第1搬送工程)において、正極シート155を、一対のプレスロール11,12によって合材積層部154がロールプレスされるプレス位置PPに向けて、長手方向DAに沿う搬送方向DFに搬送する。詳細には、正極シート155を、第1の一対のニップロール21,22によって正極シート155が挟まれる第1位置P1から、プレス位置PPまで搬送する(図1参照)。
【0021】
次いで、ステップS2(ロールプレス工程)において、ステップS1(第1搬送工程)によってプレス位置PPまで搬送された正極シート155のうち合材積層部154を、一対のプレスロール11,12によって長手方向DAにロールプレスする(図1及び図5参照)。なお、図5は、実施形態にかかるロールプレス工程を説明する図であり、図1のC-C断面図に相当する。
【0022】
ステップS2(ロールプレス工程)では、正極合材層152(電極合材層)が圧密化されると共に、合材積層部154が長手方向DAに圧延される。このため、ステップS2(ロールプレス工程)では、正極シート155のうち合材積層部154が長手方向DAに伸びる一方、非合材積層部153は長手方向DAに伸びない(ほとんど伸びない)ため、合材積層部154と非合材積層部153との間で伸び量(伸び率)に差が生じる。この伸び量(伸び率)の差が大きい場合には、正極シート155(例えば、非合材積層部153)に皺が発生する。
【0023】
次に、ステップS3(第2搬送工程)において、ステップS2(ロールプレス工程)を行った正極シート155を、プレス位置PPから搬送方向DFに搬送する。詳細には、正極シート155を、プレス位置PPから、第2の一対のニップロール31,32によって正極シート155が挟まれる第2位置P2まで搬送する(図1参照)。
【0024】
なお、本実施形態では、正極シート155について、少なくとも第1搬送工程(ステップS1)の開始位置である第1位置P1から第2搬送工程(ステップS2)の終了位置である第2位置P2まで途切れることなく、一対のプレスロール11,12の間であるプレス位置PPを通って長手方向DAに延びる態様としつつ、当該正極シート155に対してロールプレス工程を行う。
【0025】
詳細には、製造装置10は、第1の一対のニップロール21,22よりも搬送方向DFの上流側に位置する巻出機(図示省略)と、第2の一対のニップロール31,32よりも搬送方向DFの下流側に位置する巻取機(図示省略)とを有する。このうち、巻出機は、ステップS1~S3の処理を行うために、ロール状に巻回されている正極シート155のロールから、正極シート155を搬送方向DFに送り出す装置であり、巻取機は、ステップS1~S3の処理を行った正極シート155を巻き取ってロールにする装置である。そして、本実施形態では、1枚(1本)の正極シート155が、巻出機から巻取機まで途切れることなく長手方向DAに延びる態様で、製造装置10に装着されている。これにより、本実施形態では、正極シート155について、少なくとも第1搬送工程(ステップS1)の開始位置である第1位置P1から第2搬送工程(ステップS2)の終了位置である第2位置P2まで途切れることなく、一対のプレスロール11,12の間であるプレス位置PPを通って長手方向DAに延びる態様としつつ、当該正極シート155に対してロールプレス工程が行われる。
【0026】
ところで、このような態様で正極シート155に対してステップS2(ロールプレス工程)を行う場合、ステップS1(第1搬送工程)において正極シート155に対して長手方向DAに掛けている張力(第1の張力T1とする)、及び、ステップS3(第2搬送工程)において正極シート155に対して長手方向DAに掛けている張力(第2の張力T2とする)が大きい場合には、ロールプレスによって長手方向DAに圧延されている合材積層部154(これを圧延部154Aとする)がより大きく伸びて、合材積層部154と非合材積層部153との間の伸び率の差が大きくなり、正極シート155に発生する皺が大きくなることがあった。
【0027】
このようになる理由は、以下のように考えている。具体的には、大きな第1の張力T1及び大きな第2の張力T2が圧延部154Aに集中し、これによって圧延部154Aが長手方向DAに延伸されることで、ロールプレスの圧延による伸びの他に、前記延伸による伸びが加わり、これによって圧延部154Aが大きく伸びて、合材積層部154と非合材積層部153との間の伸び率の差が大きくなる。
【0028】
このため、第1の単位面積当たりの張力の値、及び、第2の単位面積当たりの張力の値のうち、少なくともいずれかの値を、5.0MPa以下とするのが好ましい。なお、第1の単位面積当たりの張力の値とは、ステップS1(第1搬送工程)において正極シート155に対して長手方向DAに掛けている張力(第1の張力T1)の値を、ステップS1において搬送されている正極シート155の横断面積(幅方向DBに沿って当該正極シート155を切断した切断面の断面積)で除した値である。また、第2の単位面積当たりの張力の値とは、ステップS3(第2搬送工程)において正極シート155に対して長手方向DAに掛けている張力(第2の張力T2)を、ステップS3において搬送されている正極シート155の横断面積(幅方向DBに沿って当該正極シート155を切断した切断面の断面積)で除した値である。
【0029】
このようにすることで、ステップS2(ロールプレス工程)においてロールプレスによって長手方向DAに圧延されている合材積層部154(圧延部154A)が、第1の張力T1及び第2の張力T2によって、長手方向DAに延伸される延伸量を小さくすることができる。これにより、ステップS2(ロールプレス工程)における合材積層部154と非合材積層部153との間の伸び率の差を小さくすることができる。これにより、正極シート155(例えば、非合材積層部153)に発生する皺を低減することができる。
【0030】
なお、本実施形態の製造装置10では、第1のダンサーロール41の位置を変更する(図1において上下方向に位置を変更する)ことで、第1の張力T1の値を変更することができ、これによって、第1の単位面積当たりの張力の値を変更することができる。また、第2のダンサーロール42の位置を変更する(図1において上下方向に位置を変更する)ことで、第2の張力T2の値を変更することができ、これによって、第2の単位面積当たりの張力の値を変更することができる。
【0031】
また、第1の単位面積当たりの張力の値、及び、第2の単位面積当たりの張力の値のうち、少なくともいずれかの値を、2.4MPa以下とすると良い。このようにすることで、ロールプレスによって長手方向DAに圧延されている合材積層部154、第1の張力T1及び第2の張力T2によって長手方向DAに延伸される延伸量を、より一層小さくすることができる。これにより、ステップS2(ロールプレス工程)における合材積層部154と非合材積層部153との間の伸び率の差を、より一層小さくすることができる。
【0032】
本実施形態では、第1の単位面積当たりの張力の値、及び、第2の単位面積当たりの張力の値を、いずれも(両方)5.0MPa以下とす。このようにすることで、ロールプレスによって長手方向DAに圧延されている合材積層部154が、第1の張力T1及び第2の張力T2によって長手方向DAに延伸される延伸量を、極めて小さくすることができる。これにより、ステップS2(ロールプレス工程)における合材積層部154と非合材積層部153との間の伸び率の差を、より一層小さくすることができる。
【0033】
さらには、第1の単位面積当たりの張力の値、及び、第2の単位面積当たりの張力の値を、いずれも(両方)2.4MPa以下とすると良い。このようにすることで、ロールプレスによって長手方向DAに圧延されている合材積層部154(圧延部154A)が、第1の張力T1及び第2の張力T2によって長手方向DAに延伸される延伸量を、「0」にすることができる。すなわち、ステップS2(ロールプレス工程)における圧延部154Aの伸び量を、ロールプレスの圧延のみによる伸び量と同等にすることができる。これにより、ステップS2(ロールプレス工程)における合材積層部154と非合材積層部153との間の伸び率の差を、より一層小さくすることができる。
【0034】
以上のようにして製造した正極シート155は、例えば、幅方向DBの中心位置において長手方向DAに切断されて、二次電池の正極として用いられる。具体的には、この正極と負極とセパレータとを捲回(または積層)することによって電極体を形成し、この電極体を電池ケースに収容して、二次電池を製造する。
【0035】
<伸び率差の比較試験1>
第1の単位面積当たりの張力U1の値と第2の単位面積当たりの張力U2の値の組み合わせ(U1,U2)を様々に変更して、各々の組み合わせ(U1,U2)についてステップS1~S3の処理を行って、ステップS2(ロールプレス工程)における合材積層部154と非合材積層部153との間の伸び率の差を比較する試験を行った。なお、第1の単位面積当たりの張力U1の値は、第1のダンサーロール41の位置を変更する(図1において上下方向に位置を変更する)ことで、第1の張力T1の値を変更することによって変更できる。また、第2の単位面積当たりの張力U2の値は、第2のダンサーロール42の位置を変更する(図1において上下方向に位置を変更する)ことで、第2の張力T2の値を変更することによって変更できる。
【0036】
具体的には、本試験では、ステップS2(ロールプレス工程)における一対のプレスロール11,12のプレス荷重を、4.0[t/cm]としている。また、プレス速度(正極シート155の搬送速度)を、10[m/min]としている。また、一対のプレスロール11,12のそれぞれの外径を、750mmとしている。また、ロールプレス前の合材積層部154の厚みを、180μmとし、ロールプレス後の合材積層部154の厚みを、140μmとしている。
【0037】
また、第1の単位面積当たりの張力U1の値[MPa]と第2の単位面積当たりの張力U2の値[MPa]の組み合わせ(U1,U2)を、(U1,U2)=(2.4,2.4)、(5.0,5.0)、(10.8,10.8)、(16.5,16.5)の4種類にした。そして、それぞれの組み合わせ(U1,U2)において、ステップS1~S3の処理を行って、ステップS3を終えた正極シート155について、それぞれ、合材積層部154と非合材積層部153との間の伸び率の差を求めた。
【0038】
具体的には、それぞれの組み合わせ(U1,U2)において、ステップS1を行う前に、合材積層部154の表面及び非合材積層部153の表面に、それぞれ、幅方向DBに真っ直ぐ延びる2本の線分を、長手方向DAに一定の間隔を空けて描いておき、ステップS3を行った後に、合材積層部154の表面に描いた2本の線分の間隔、及び、非合材積層部153の表面に描いた2本の線分の間隔を測定した。
【0039】
そして、それぞれの組み合わせ(U1,U2)において、ステップS1を行う前の非合材積層部153における2本の線分の間隔G1と、ステップS3を行った後の非合材積層部153における2本の線分の間隔G2とに基づいて、非合材積層部153の伸び率R1={(G2-G1)/G1}×100[%]を算出した。さらには、ステップS1を行う前の合材積層部154における2本の線分の間隔G1と、ステップS3を行った後の合材積層部154における2本の線分の間隔G3とに基づいて、合材積層部154の伸び率R2={(G3-G1)/G1}×100[%]を算出した。
【0040】
そして、それぞれの組み合わせ(U1,U2)において、上述のようにして算出した非合材積層部153の伸び率R1と合材積層部154の伸び率R2とに基づいて、合材積層部154と非合材積層部153との間の伸び率の差(=R1-R2)を算出した。これらの結果を、図6に示す。なお、図6の横軸の「単位面積当たりの張力」は、第1の単位面積当たりの張力U1の値、及び、第2の単位面積当たりの張力U2の値である。本試験では、いずれの組み合わせ(U1,U2)においても、U1とU2の値は同等としているので、図6では、U1とU2を区別することなく、単に、「単位面積当たりの張力」と表記している。
【0041】
また、図6には、(U1,U2)=(0,0)としてロールプレス工程を行った場合の伸び率の差(R1-R2)を、参考値として示している。なお、以下のようにして、(U1,U2)=(0,0)としたロールプレス工程を行っている。具体的には、長手方向DAに延びる長尺の正極シート155を幅方向DBに切断して、短冊状の正極シート155とし、短冊状の正極シート155に張力を掛けることなく、短冊状の正極シート155を一対のプレスロール11,12の間に通して、ロールプレスを行った。このロールプレス工程では、第1の張力T1及び第2の張力T2による圧延部154Aの延伸が無いので、圧延部154Aの伸び量が、ロールプレスの圧延による伸び量のみとなる。
【0042】
図6に示すように、単位面積当たりの張力の値(すなわち、第1の単位面積当たりの張力U1の値、及び、第2の単位面積当たりの張力U2の値)を、5.0MPa以下とした場合は、伸び率差の値が、単位面積当たりの張力の値を「0」とした場合とほとんど変わらない。一方、単位面積当たりの張力の値を、5.0MPaよりも大きくすると、伸び率差の値が急激に大きくなる。
【0043】
この結果より、第1の単位面積当たりの張力U1の値、及び、第2の単位面積当たりの張力U2の値は、いずれも、5.0MPa以下とするのが良いといえる。このようにすることで、ロールプレスによって長手方向DAに圧延されている合材積層部154(圧延部154A)が、第1の張力T1及び第2の張力T2によって長手方向DAに延伸される延伸量を、極めて小さくすることができるからである。これにより、ステップS2(ロールプレス工程)における合材積層部154と非合材積層部153との間の伸び率の差を小さくすることができたといえる。
【0044】
さらに、図6に示すように、単位面積当たりの張力の値(すなわち、第1の単位面積当たりの張力U1の値、及び、第2の単位面積当たりの張力U2の値)を、2.4MPa以下とした場合は、伸び率差の値が、単位面積当たりの張力の値を「0」とした場合と同等になった。
【0045】
この結果より、第1の単位面積当たりの張力U1の値、及び、第2の単位面積当たりの張力U2の値は、いずれも2.4MPa以下とするのが、より好ましいといえる。このようにすることで、ロールプレスによって長手方向DAに圧延されている合材積層部154(圧延部154A)が、第1の張力T1及び第2の張力T2によって長手方向DAに延伸される延伸量を、「0」にすることができるからである。すなわち、ステップS2(ロールプレス工程)における圧延部154Aの伸び量を、ロールプレスの圧延のみによる伸び量と同等にすることができるからである。これにより、ステップS2(ロールプレス工程)における合材積層部154と非合材積層部153との間の伸び率の差を、より一層小さくすることができたといえる。
【0046】
<伸び率差の比較試験2>
さらに、第1の単位面積当たりの張力U1の値と第2の単位面積当たりの張力U2の値の組み合わせ(U1,U2)を様々に変更して、各々の組み合わせ(U1,U2)についてステップS1~S3の処理を行って、ステップS2(ロールプレス工程)における合材積層部154と非合材積層部153との間の伸び率の差を比較する試験を行った。
【0047】
本試験2では、第1の単位面積当たりの張力U1の値[MPa]と第2の単位面積当たりの張力U2の値[MPa]の組み合わせ(U1,U2)を、(U1,U2)=(10.8,10.8)、(2.4,10.8)、(10.8,2.4)の3種類にした。そして、それぞれの組み合わせ(U1,U2)において、ステップS1~S3の処理を行って、ステップS3を終えた正極シート155について、それぞれ、前述の試験1と同様にして、合材積層部154と非合材積層部153との間の伸び率の差を求めた。これらの結果を、図7に示す。
【0048】
図7に示すように、(U1,U2)を、(2.4,10.8)または(10.8,2.4)とした場合は、(10.8,10.8)とした場合に比べて、合材積層部154と非合材積層部153との間の伸び率の差を小さくすることができた。具体的には、(U1,U2)を(10.8,10.8)とした場合には、伸び率差の値が1.2%程度であったのに対し、(U1,U2)を(2.4,10.8)または(10.8,2.4)とした場合は、伸び率差の値を0.8%以下にすることができた。この結果より、第1の単位面積当たりの張力U1及び第2の単位面積当たりの張力U2の両方の値を同等に低減しなくても、いずれか一方の値を低減することで、合材積層部154と非合材積層部153との間の伸び率の差を小さくすることができるといえる。
【0049】
従って、前述の試験1の結果と本試験2の結果を考慮すると、第1の単位面積当たりの張力U1の値、及び、第2の単位面積当たりの張力U2の値のうち、少なくともいずれかの値を5.0MPa以下とすることで、合材積層部154と非合材積層部153との間の伸び率の差を小さくすることができるといえる。さらには、第1の単位面積当たりの張力U1の値、及び、第2の単位面積当たりの張力U2の値のうち、少なくともいずれかの値を2.4MPa以下とすることで、合材積層部154と非合材積層部153との間の伸び率の差をより一層小さくすることができるといえる。
【0050】
以上において、本発明を実施形態に即して説明したが、本発明は前記実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で、適宜変更して適用できることはいうまでもない。
【符号の説明】
【0051】
10 製造装置
11,12 プレスロール
41,42 ダンサーロール
151 集電箔
151c 積層集電箔部
152 正極合材層(電極合材層)
153 非合材積層部
154 合材積層部
154A 圧延部
155 正極シート(電極シート)
DA 長手方向
DB 幅方向
DF 搬送方向
PP プレス位置
T1 第1の張力
T2 第2の張力
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7