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特許7221947電気化学システムの動作状態をリアルタイムで診断するための方法及び装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-06
(45)【発行日】2023-02-14
(54)【発明の名称】電気化学システムの動作状態をリアルタイムで診断するための方法及び装置
(51)【国際特許分類】
   H01M 8/04 20160101AFI20230207BHJP
   H01M 8/04537 20160101ALI20230207BHJP
   H01M 10/48 20060101ALI20230207BHJP
   H01M 8/10 20160101ALN20230207BHJP
【FI】
H01M8/04 Z
H01M8/04537
H01M10/48 P
H01M8/10 101
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2020516953
(86)(22)【出願日】2018-05-31
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-07-27
(86)【国際出願番号】 EP2018064346
(87)【国際公開番号】W WO2018220115
(87)【国際公開日】2018-12-06
【審査請求日】2021-05-26
(31)【優先権主張番号】1754949
(32)【優先日】2017-06-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】519429509
【氏名又は名称】ウニヴェルシテ ドゥ フランシュ-コンテ
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITE DE FRANCHE-COMTE
【住所又は居所原語表記】1 rue Claude Goudimel,25000 Besancon,France
(73)【特許権者】
【識別番号】512042329
【氏名又は名称】アンスティテュ フランセ デ シアンス エ テクノロジ デ トランスポール, ドゥ ラメナジュマン エ デ レゾ
(74)【代理人】
【識別番号】100103894
【弁理士】
【氏名又は名称】家入 健
(72)【発明者】
【氏名】フェーヴル セバスチャン
(72)【発明者】
【氏名】ガスティン フレデリック
(72)【発明者】
【氏名】ヒッセル ダニエル
(72)【発明者】
【氏名】ハレル ファビアン
(72)【発明者】
【氏名】リー ジォンリャン
【審査官】大内 俊彦
(56)【参考文献】
【文献】特表2012-530925(JP,A)
【文献】特表2016-525983(JP,A)
【文献】特開2006-210070(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0278169(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/00-8/2495
H01M 10/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気化学システム(1、30)の動作状態をリアルタイムで診断する方法であって、前記電気化学システムはセルスタックを含み、
この方法は、
前記セルスタックを形成するセルの端子で電圧測定を実行し、
電圧測定の処理をリアルタイムで実行して特定の波形(40)を抽出し、前記波形は前記電気化学システムのリアルタイム動作を示し、
特定の波形(40)を変換(62)して第1特定ポイント(65)を生成し、前記第1特定ポイントは前記電気化学システム(1、30)のリアルタイム動作を示し、
前記第1特定ポイントと第2特定ポイントとを比較し、前記第2特定ポイントは前記電気化学システム(1、30)のオフライン動作を示し、
前記第2特定ポイントは、前記電気化学システムが故障状態を含む既知の動作状態に置かれている間に、オフラインで実行された電圧測定(78)から抽出された特定波形(74)の変換(73)から発生し、前記電気化学システム(1、30)のリアルタイム動作に関する情報(69)を生成する、
方法。
【請求項2】
各セルの端子における電圧測定は、周期的に実行されることを特徴とする、
請求項1に記載の方法。
【請求項3】
オフラインで実行された電圧測定から抽出された特定波形(40)及び/又はリアルタイムで実行された電圧測定から抽出された特定波形(74)は、シェイプレット変換を受け、前記第1及び/又は前記第2特定ポイント(65、75)をそれぞれ作成する、
請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記第1特定ポイント及び/又は前記第2特定ポイントは、2次元空間で識別され、次いで3次元空間で分類されることを特徴とする、
請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記第1特定ポイント及び/又は前記第2特定ポイントは、球形のマルチクラス-サポートベクターマシンタイプの機能(63、76)によって分類されることを特徴とする、
請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記第1特定ポイント及び/又は前記第2特定ポイントは、K最近傍タイプの関数によって分類されることを特徴とする、
請求項4又は5に記載の方法。
【請求項7】
前記第1特定ポイント及び/又は前記第2特定ポイントは、ガウス混合モデル(GMM)タイプの関数によって分類されることを特徴とする、
請求項4~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
オフラインでテストされる前記電気化学システム(1、30)の既知の動作状態の学習(71)によるデータベースの初期確立をさらに含むことを特徴とする、
請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
燃料電池(30)の動作状態の診断をさらに含み、
オフラインでテストされる既知の動作状態が、以下の、
通常動作、低い水素圧、空気側の低い化学量論、乾燥、フラッディング、高圧の状態のすべて又は一部を含むことを特徴とする、
請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
電気化学システム(1、30)の動作状態をリアルタイムで診断する診断システムを含む装置であって、前記電気化学システムはセルスタックを含み、
前記装置は、
前記セルスタックを形成する各セルの端子で電圧測定を実行する手段と、
測定された電圧値を処理して、特定波形を抽出する手段であって、前記特定波形は前記電気化学システムのリアルタイム動作を示すものであり、
前記特定波形を変換して、第1特定ポイントを生成する手段であって、前記第1特定ポイントは、前記電気化学システムのリアルタイム動作の点であり、
前記第1特定ポイントと第2特定ポイントとを比較する手段であって、前記第2特定ポイントは前記電気化学システムのオフライン動作の点であり、
前記第2特定ポイントは、前記電気化学システムが故障状態を含む既知の動作状態に置かれている間に、オフラインで実行された電圧測定から抽出された特定波形の変換から発生し、前記電気化学システムのリアルタイム動作状態に関する情報を抽出する、
装置。
【請求項11】
前記診断システムは、オフラインで実行された電圧測定から抽出された特定波形を変換して、前記第2特定ポイントを作成する手段をさらに備えることを特徴とする、
請求項10に記載の装置
【請求項12】
前記診断システムは、前記第1特定ポイントを2次元空間内で識別する手段と、識別された前記第1特定ポイントを3次元空間内で分類する手段とをさらに備えることを特徴とする、
請求項10に記載の装置
【請求項13】
前記電気化学システムの既知の動作状態のデータベースをさらに含むことを特徴とする、
請求項10~12のいずれか一項に記載の装置
【請求項14】
前記セルスタックと、前記診断システムとを含む
請求項10~13のいずれか1項に記載の装置
【請求項15】
前記セルスタックは燃料電池を含むことを特徴とする、
請求項14に記載の装置
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気化学システムの動作状態をリアルタイムで診断する方法に関する。また、この方法を実施する診断システム、及びこの診断システムを組み込んだ電気化学システム、特に燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
現在の燃料電池は、搭載されているか固定されているかにかかわらず、特にその動作の不具合や劣化を防ぐために、その状態を監視する必要がある。
【0003】
燃料電池の故障を検出する方法はすでに存在するが、これは、この電池が動作しておらず、実験室の状況でのみ実施できる。これらの方法は、侵入型センサー(intrusive sensors)を実装する場合がある。
【0004】
さらに、例えば病院環境など、常に一定の動作を必要とする環境などで使用される高付加価値の燃料電池の場合、一時的な切断を伴う検出方法は実用的ではない。
【0005】
欧州特許出願公開2778700号明細書は、離散ウェーブレット変換を用いて、バッテリーパックの状態を予測するユニットを開示している。
【0006】
Nadia Yousfi Steinerらによる「Non intrusive diagnosis of polymer electrolyte fuel cells by wavelet packet transform」、International Journal of Hydrogen Energy、Elsevier Science Publishers B.V.、Barking GB、vol.36、No.1、2010年10月11日、P740~746は、バッテリーの電圧測定及びウェーブレットパケット変換を実装する、ポリマー燃料を用いた燃料電池のセルの診断方法を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】欧州特許出願公開2778700号明細書
【非特許文献】
【0008】
【文献】Nadia Yousfi Steiner et al., “Non intrusive diagnosis of polymer electrolyte fuel cells by wavelet packet transform”, International Journal of Hydrogen Energy, Elsevier Science Publishers B.V., Barking GB, vol.36, No.1, 11 October 2010, pages 740-746.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、侵入的及び/又は複雑又は高価なセンサーなしで、現在の診断方法で通常観察されるものよりも、故障の検出の品質と信頼性の点でより高いパフォーマンスを備え、動作中のこのシステムの状態を知ることができる電気化学システム、特に燃料電池の故障を検出するための新しい方法を提案することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この目的は、セルのスタックを含む電気化学システムの動作状態をリアルタイムで診断する方法により達成され、この方法は、前記セルの電圧測定を実行するステップを含み、
-特定波形を抽出するために電圧測定の処理をリアルタイムで実行し、
-前記電気化学システムのリアルタイム動作の特定ポイントを生成するために、特定波形を変換し、
-前記電気化学システムのリアルタイム動作に関する情報を生成するために、前記電気化学システムが故障状態を含む既知の動作状態に置かれている間に、リアルタイム動作の特定ポイントと、オフラインで実行される電圧測定から抽出された特定波形の変換から発生する前記電気化学システムのオフライン動作の特定ポイントとを比較する。
【0011】
前記セルの電圧測定ステップは、周期的に実行できる。
【0012】
本発明の好ましい実施形態では、オフライン及び/又はリアルタイムで実行された電圧測定から抽出された特定波形は、特定ポイントを作成するため、「シェイプレット変換」と呼ばれる、数学的変換を受ける。
【0013】
これらの特定ポイントは、2次元(2D)空間で識別され、次いで3次元(3D)空間で分類される。
【0014】
本発明に係る方法の第1の実施形態では、特定ポイントは、球形のマルチクラス-サポートベクターマシン(Sphere Shaped Multi-Class - Support Vector Machine:SSM-SVM)タイプの機能によって分類される。
【0015】
本発明に係る方法の第2の実施形態では、特定ポイントは、K最近傍(kNN)タイプの関数によって分類される。
【0016】
本発明に係る方法の第3の実施形態では、特定ポイントは、ガウス混合モデル(GMM)タイプの関数によって分類される。
【0017】
本発明に係る診断方法は、有利には、オフラインでテストされる電気化学システムの既知の動作状態の学習によるデータベースの初期確立をさらに含むことができる。
【0018】
燃料電池の動作状態を診断するために本発明に係る方法が実施される場合、オフラインでテストされる既知の動作状態が、以下の:
通常動作、低い水素圧、空気側の低い化学量論、乾燥、フラッディング、
の状態のすべて又は一部を含む。
【0019】
本発明の別の態様によれば、セルのスタックを含み、本発明に係る診断方法を実施し、電気化学システムの動作状態をリアルタイムで診断するためのシステムが提案され、この診断システムは前記セルの端子で電圧値を測定する手段を含み、さらに以下を含むことを特徴とする:
-特定波形を抽出するために測定された電圧値を処理する手段と、前記電気化学システムのリアルタイム動作の特定ポイントを生成するために、特定波形を変換する手段と、
-前記電気化学システムのリアルタイム動作状態に関する診断情報を生成するために、前記電気化学システムが故障状態を含む既知の動作状態に置かれている間に、リアルタイム動作の特定ポイントと、オフラインで実行される電圧測定から抽出された特定波形の変換から発生する前記電気化学システムのオフライン動作の特定ポイントとを比較する手段。
【0020】
本発明に係る診断システムは、有利には、さらに、特定ポイントを作成するために、オフライン及び/又はリアルタイムで実行された電圧測定から抽出された特定波形を変換する手段をさらに備える。
【0021】
この診断システムはさらに、前記特定ポイントを2次元(2D)空間内で識別する手段と、識別された前記特定ポイントを3次元(3D)空間内で分類する手段と、既知の動作状態の学習によるデータベースとをさらに備える。
【0022】
本発明のさらに別の態様によれば、本発明に係る診断システムを組み込んだ電気化学システムが提案される。この電気化学システムは、特に燃料電池を含むことができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
本発明の他の利点及び特徴は、決して限定的でない、実施及び実施形態、及び以下の添付図面の詳細な説明を読むことにより明らかになるであろう。
図1図1は、本発明に係る故障検出方法で実施される電圧測定原理を概略的に示している。
図2図2は、アナログ測定用のマイクロコントローラの実施を模式的に示している。
図3図3は、本発明に係る故障検出システムの例示的な実施形態において実施される電圧測定装置を示す図である。
図4図4は、本発明に係る診断検出方法で生成される特定波形(又は「シェイプレット(shapelets)」)を示す図である。
図5図5は、SSM-SVM法による特定波形の分類を示している。
図6図6は、本発明に係る診断方法の例示的な実施形態を模式的に示している。
【発明を実施するための形態】
【0024】
これらの実施形態は決して限定的ではないため、特徴の選択が技術的利点を与えるか、又は先行技術に関して発明を区別するのに十分である場合、特に、説明又は図示された他の特徴から分離された、後に説明又は図示された特徴の1つの選択のみを含む本発明の変形を考慮することが(これらのその他の特徴を含むフェーズ内でこの選択が分離されている場合でも)可能である。この選択は、構造的な詳細なしで、及び/又は、この部分だけで技術的利点を与えたり、先行技術に対して本発明を差別化するのに十分である場合は構造的詳細の一部のみを有して、機能的選択の少なくとも1つの特徴を含む。
【0025】
最初に説明するのは、図1を参照して、電池、ウルトラキャパシタ又は燃料電池などの電気化学システム1の異なるセルの端子で電圧を測定するためのデバイス10である。
【0026】
異なる電圧値Vcell 1、…、k+1が測定され、デジタル信号プロセッサ(DSP)又はマイクロコントローラ20、70タイプのプログラム可能なコンポーネントによって処理され、データは通信CANバス6によって送信される。
【0027】
測定デバイス10は、モジュール形式を有する。電気的に絶縁された各モジュール2、7は、複数のセルの、これらの直列接続によって定義された順序を考慮した、電圧値Vcell_1、Vcell_2、Vcell_3、Vcell_k、Vcell_k+1の測定を担当する。従って、ユーザのニーズを満たすために必要な数のモジュール2、7を接続することができる。この制限は、電子部品の電圧絶縁レベルによって決まる(最も重大な場合では約1000V)。
【0028】
各測定モジュール2、7は、マイクロコントローラ20、70の周りに基づく電子回路を含み、その基準電位(グランド)は、エレメントのパッケージの最低電位(Vref_1、Vref_2)に対応する。これらのモジュール2、7は、デバイス10の一般的な電源に接続された絶縁DC/DCコンバータ3、8によって電力が供給される。測定から生じる異なるデータは、通信バスによって送信される。これを実現するために、絶縁されたCANドライバ5、9は、マイクロコントローラ20、70と測定デバイス10のCANバス6との間の接続を可能にする。
【0029】
測定モジュール2、7は、調査対象の電気化学システム1のすべてのエレメントの端子で異なる電圧値を測定するために、必要な回数だけ複製される。
【0030】
図2を参照すると、マイクロコントローラ30のアナログ測定の基準電位は、関連するエレメントのセットn、n+1、n+2の最低電圧に接続されている。異なる電圧測定値Vn、Vn+1、Vn+2は、電位によって確立された順序を考慮して、最も弱いものから最も強いものへ、マイクロコントローラ30のアナログ入力AN_1、AN_2、AN_3に接続される。エレメントの端子の電圧は、2つの連続した測定電圧値の差によって決まる。
【0031】
測定された電圧レベルに応じて、マイクロコントローラ30のアナログ入力を測定対象のエレメントに直接接続できる。より高い電圧値の場合、適応回路により、マイクロコントローラの電圧と互換性のある範囲内で電圧を調整できる。
【0032】
使用するマイクロコントローラ又はDSP回路に応じて、アナログチャネルの数は可変であるため、セルのサブセットで測定される電圧値の数が制限される。アナログ測定は、同時(同期測定)又は順次(非同期測定)で実行できる。
【0033】
図3に示される例示的な実施形態では、測定デバイス100は、燃料電池30のセルの電圧値を測定するために使用される。実際には、セルの電圧は、作動時に約1.43Vに達することができるが、有有効測定範囲は0~1Vである。
【0034】
測定デバイス100は、11個のアナログ入力及び単一の組み込まれたアナログデジタルコンバータを含むマイクロコントローラ50を含む。順次測定の原理は、異なるアナログチャネルに対して使用される。11チャネルの全体の変換時間は2ミリ秒未満である(チャネルあたり150μs、つまり1.6ミリ秒)。
【0035】
燃料電池40のセルの異なる電圧値は、最初の4つのチャネル(4V未満の電圧値)のために、及びチャネルAN_4からAN_10のための適応回路(adaptation circuit)によって、アナログ入力に直接接続される。
【0036】
測定デバイス100は、5V DC(+5V_1)の電圧源から電力を供給される。DC/DCコンバータ51により、すべての電子機器に電力を供給するために5V(+5V_2)の絶縁電圧を得ることができる。使用される回路は、1000Vの絶縁電圧を提供する。従って、測定デバイス100全体は、基準電位Vref_1で絶縁されている。
【0037】
この絶縁を提供するために、マイクロコントローラ50とシステムの他の部分との間の通信は、同じく絶縁されたCANバス52によって提供される。CANドライバ回路53は、2500Vの絶縁電圧を提供することによりマイクロコントローラ50を絶縁する。
【0038】
次に、図4から図6を参照して、本発明に係る診断方法で実施される処理ステップについて説明する。
【0039】
本発明に係る診断方法は、測定された既知のデータに基づく学習を中心に構築される。ここでは、高分子電解質膜燃料電池タイプ(PEMFC)の燃料電池システムの故障を検出する目的で実装されている。本発明に係る診断方法は、他のタイプの燃料電池において制限なく実施できることが理解される。
【0040】
この診断方法は、前述のような燃料電池の単セルの個々の電圧値を測定するためのデバイスを実装している。システムのダイナミクスとそれが構成する異なるセルの空間的不均一性を考慮するために、本発明に係る診断方法は、電気化学システムのセルの端子で実行される電圧測定から抽出された特定波形を特徴付ける、以下では「シェイプレット(shapelet)変換」と呼ばれる時系列分析ツールを必要とする。
【0041】
図6を参照すると、本発明に係る診断方法の特定の実施形態では、この方法は、電池のセルに対してリアルタイムで実行される電圧測定を処理するプロセス6Aと、同じセルで実行されるが、誤動作の状態を含む既知の動作状態にある電圧測定のオフライン処理のプロセス6Bとを含む。
【0042】
時間分析ツールは、リアルタイム診断に用いられるデータベース61(図6)のデータから特定波形又は「シェイプレット」40(図4)を抽出するために使用される。時間分析ツールは、期間が既知であり、考慮される故障に応じて事前に定義されているウインドウ41で使用される。2回目は、SSM-SVM分類ツールが(故障の数に応じて)考慮された次元空間に適用される。
【0043】
燃料電池のセルの電圧は、温度、ガス分布、相対湿度、活性層上の触媒の分布など、電池(又は「スタック」)内の物理的状態により、本来均一ではなく、測定サンプル間の時間相関を考慮する必要がある。時間間隔でサンプリングされたセルの電圧(ウインドウ41)は、本発明に係る診断方法の変数と見なされる。
【0044】
この取得ウインドウは、数学的に次のように定義される。
T=[T(1)、...、T(l)]=[v、...、vlw] (1)
ここで、viはインデックスiでサンプリングされたベクトルであり、ncell個のセルのすべての電圧値で構成される。
【0045】
このベクトルは、v=[v(1)、v(2)、...、v(ncell)]である。lは、取得ウインドウの幅である。
【0046】
各観測値Tは、行列の形で数学的に表現できる動的な時系列であり、そのサイズは一方ではセルの数で定義され、他方では観測の長さlで定義され、その点の数は測定デバイスのサンプリング周期(又は取得頻度)で定義される。
【0047】
オフラインプロセス6Bにおいて、学習データベース71は、前述の測定装置によって取得されたN個のオフライン測定値から成り立つ。これは、異なる故障に対応する、等級付けされたクラスΩ0、Ω1、Ω2、…、ΩCによって分類される。インデックスクラス0は、正常な動作状態(故障なし)として定義されている。
【0048】
観測値Tiのセット上のクラスの間隔、つまりgε{0、1、...、C}は事前にわかっている。これらのすべてのクラスでデータベース71を構成する観測値78の数はそれぞれN、N、...、Nであり、式N+N+・・・+N=Nを満たす。
【0049】
2つのプロセス、リアルタイム6A及びオフライン6Bにおける特定波形(「シェイプレット」)の生成について、より詳細に説明する。
【0050】
特定波形を識別するには、候補と呼ばれ、ベクトルSCjiで生成される適格な信号を大量に生成する必要がある。
【0051】
特定波形の期間がlであると仮定すると、観測時間lを考慮して候補が選択される。例えば、以下の式に従って、観測値Tに対してl-l+1までの候補が考慮される。
SCji={T(j)、T(j+1)、…、T(j+l-1)}、j=1、…、l-l+1 (2)
ここで、SCjiは行列Tのj番目の候補を表す。SCjiはTから発生するため、配置されている空間もgである。従って、学習ベース71から生成される候補の数は、(l-l+1)Nである。
【0052】
この方法では、時間lとlが各クラスに対して事前に定義されている。この定義は、学習データベースを確立するときに経験的に取得される。
【0053】
候補を分類及び特徴づけるためには、3つの操作が必要である。1つ目は、候補SCijと観測値Tkの間の距離を計算することである。これは、次のように、候補SCijとこの観測値Tkによって生成されたすべての候補との間の最小値に等しくなる。
【数1】
【0054】
この距離は候補ごとに計算され、この同じクラスの平均距離も定義される。
【数2】
【0055】
上記の2つの値は、次の2次判別式に従って、同じクラスの各候補の品質係数を計算するのに用いられる。
【数3】
【0056】
各クラスのすべての候補が評価されると、それらは品質係数に従って降順で分類される。同じ観測ベースの2つの候補特定波形が冗長インデックスを取得する場合、保持されるのは最高の品質係数を有するものである。残りの候補のうち、選択されるのは最高の品質係数を有する候補である。
【0057】
説明した特定波形を抽出する手順は、既知のソフトウェア技術を用いたアルゴリズムの形で簡単に実施できる。従って、特定波形74をオフラインプロセス6Bで生成し、特定波形40をリアルタイムプロセス6Aで生成することができる。
【0058】
次に、リアルタイム診断中に特定波形を抽出する例をより具体的に説明する。任意の診断ウインドウT(図4)の場合、リアルタイム測定64(図6を参照)から発生するこの任意ベースの特定波形の特性は、学習ベース71から発生するものとの距離を計算することによって決定され、適切なものとして選択される。
【0059】
この計算により、図6を参照してSSM-SVM分類ツール63を初期化するために用いられる特性化フィールドのサイズを知ることもできる。
【0060】
次に、本発明に係る診断方法における、このSSM-SVM分類ツールの実施の例について説明する。
【0061】
学習データから発生する非線形分類の問題を解決するために(特に、2より多いクラスが考慮されるため)、以下で用いられる方法は「カーネルトリック(kernel trick)」として知られている。
【0062】
最初に、関数Φにより、ベクトルの多次元空間への射影が実行される。
【0063】
ベクトルは次のように定義される。
【数4】
【0064】
例えば、クラスiの場合、球体は次のように計算される:
【数5】
【0065】
ここで、Rとaはそれぞれ、球iの円の半径と中心である。
【0066】
使用される関数Φは、ガウスコア、つまり以下のとおりである:
【数6】
【0067】
SSM-SVM分類は、次の最適化問題を解決することになる:
【数7】
【0068】
与えられたインデックスiについて、半径Rの二乗と調整変数の和に調整パラメータDを掛けたものの和を最小化し、以下の制約で学習段階での正しい調整を可能にする。
-サポートベクトルznに適用された関数と球体の中心との間の絶対距離の2乗から、半径の2乗を引き、調整変数を引いたものは、ゼロ以下でなければならない。
-調整変数はゼロ以上である。
【0069】
以下を考慮すると、
【数8】
最適化問題(8)の解は次のとおりである:
【数9】
【0070】
式(9)では、2つの非負のラグランジュ乗数
【数10】
が見つかる。それらは、(8)で説明された制約に関連付けられている。従って、最適化の問題を解決するには、Lの極値を見つける必要がある。
【数11】
【数12】
【数13】
【0071】
球iの半径Rは、以下に説明するKarush-Kuhn-Tucker条件(KKT条件)の後に計算できる。
【数14】
【0072】
従って、
【数15】
である、すべてのznに対して、以下となる。
【数16】
【0073】
SSM-SVMアルゴリズムは、これらの分析計算に基づいてエンコードできる。ここで説明する実施例では、2を超えるクラスの数と2を超えるサイズのスペースで操作が行われる。
【0074】
このアルゴリズムにより、2次問題を線形問題の合計に分割し、それらを1つずつ処理できる。各ラグランジュ乗数は個別に計算され、クラスを含む球体を記述するサポートベクトルは各反復で更新される。
【0075】
従って、前述のSSM-SVM法では、図5を参照して特定波形を分類できる。さらに、特定波形(又は「シェイプレット」)をSSM-SVM分類に関連付けると、現在の診断方法で通常観察されるものよりも高いエラー率のパフォーマンスを実現できる。
【0076】
SSM-SVM法を使用すると、学習モードでのオフライン観測から生じる特定波形75の分類77の結果と、リアルタイムで実行される電圧測定から生じる特定波形65の分類66の結果を同時に取得できる。
【0077】
SSM-SVM学習モード76から生じる分類結果は、リアルタイム測定から生じる特定波形の変換62から生じる特定ポイントのSSM-SVM63処理で使用される。
【0078】
次に、本発明に係る診断方法で実施されるリアルタイム診断戦略について、図6を参照して説明する。電気化学システムのセルの端子の電圧値は、図1~3を参照して前述した測定装置を用いて測定される。これらの測定値は、時間Lwで1hzのサンプリング周波数でデジタル化され、その後、計算に使用されるリアルタイムデータテーブル61として保存される。
【0079】
リアルタイムデータは、スライディング取得ウインドウに沿って収集される。テーブルが保存されると、変換62により特定波形で最小距離が計算される。
【0080】
特定波形が特定ポイント65によって特徴付けられ、グラフィック表示されると、SSM-SVMアルゴリズム63によって分析され、図5に示すように、球体によって定義された体積内の位置に従ってクラスが割り当てられる。各クラスは、動作状態(正常又は既知の故障の説明)に関連付けられている。
【0081】
次に、診断68の結果を生成するために、診断ルール67が分類66の結果に適用され、動作診断69が設定される(正常又は故障、故障の種類など)。これは、電気化学システムの管理、場合によってはユーザ又はシステムの保守を担当する担当者に伝えられる。これらの操作は、新しい取得(ウインドウ)ごとに、システムの各起動時に何度も繰り返される。
【0082】
特定波形の分類を実行するために、特にニューロン又はK最近傍(kNN)又はガウス混合モデル(GMM)タイプのネットワークを呼び出す他の数学的手法を用いることができることに留意すべきである。
【0083】
もちろん、本発明は、説明した例に限定されるものではなく、本発明の枠組みから逸脱することなくこれらの例に多くの修正を加えることができる。本発明の異なる特性、構造、変形例及び実施形態は、相互に非互換又は排他的でない限り、様々な組み合わせに従って当然に互いに関連付けることができる。特に、前述のすべての変形例及び実施形態を組み合わせることができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6