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特許7222002正極活物質複合粒子および正極板の製造方法および正極活物質複合粒子の製造方法
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  • 特許-正極活物質複合粒子および正極板の製造方法および正極活物質複合粒子の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-06
(45)【発行日】2023-02-14
(54)【発明の名称】正極活物質複合粒子および正極板の製造方法および正極活物質複合粒子の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/36 20060101AFI20230207BHJP
   H01M 4/139 20100101ALI20230207BHJP
   H01G 11/86 20130101ALN20230207BHJP
   H01G 11/38 20130101ALN20230207BHJP
【FI】
H01M4/36 C
H01M4/139
H01G11/86
H01G11/38
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2021013476
(22)【出願日】2021-01-29
(65)【公開番号】P2022117012
(43)【公開日】2022-08-10
【審査請求日】2022-01-31
(73)【特許権者】
【識別番号】520184767
【氏名又は名称】プライムプラネットエナジー&ソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000291
【氏名又は名称】弁理士法人コスモス国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】上薗 知之
(72)【発明者】
【氏名】大久保 壮吉
(72)【発明者】
【氏名】宮島 桃香
【審査官】立木 林
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-190831(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00-4/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極活物質粒子と,
前記正極活物質粒子の表面上に存在するとともに前記正極活物質粒子より小径である導電粒子と,
前記正極活物質粒子の表面上にて前記正極活物質粒子の表面と前記導電粒子とを結合するバインダ樹脂とを有し,
前記バインダ樹脂は,前記正極活物質粒子の表面上に複数の部位が互いに間を開けて斑状に分布して付着しているものであり,
前記導電粒子は,斑状に分布している前記バインダ樹脂の上に載っているものである正極活物質複合粒子。
【請求項2】
集電部材と,前記集電部材の表面上の正極活物質合材層とを有する正極板を製造する正極板の製造方法であって,
前記正極活物質合材層,請求項1に記載の正極活物質複合粒子を原料として乾式プロセスにより前記集電部材の表面上に堆積させて形成る正極板の製造方法
【請求項3】
正極活物質粒子からなる正極活物質粒子群と,前記正極活物質粒子より小径である導電粒子からなる導電粒子群と,前記正極活物質粒子より小径であるバインダ樹脂粒子からなるバインダ樹脂粒子群とを混合することで,個々の前記正極活物質粒子の表面上に前記導電粒子および前記バインダ樹脂粒子が付着している複合状態の粒子を得る複合化工程と, 前記複合化工程で得た複合状態の粒子を加熱して,前記バインダ樹脂粒子が熱で軟化した状態を経由させることで,個々の前記正極活物質粒子の表面上に前記導電粒子がバインダ樹脂により結合されている正極活物質複合粒子を得る結合工程とを有する正極活物質複合粒子の製造方法。
【請求項4】
集電部材の表面上に,正極活物質複合粒子を堆積させた堆積層を形成する成膜工程と, 前記成膜工程で得られた堆積層を前記集電部材の表面上に固定して正極活物質合材層とする定着工程とを有し,
前記成膜工程では,請求項の製造方法により製造された正極活物質複合粒子を用いる正極板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示技術は,正極活物質複合粒子,およびそれを用いた正極板の製造方法,および正極活物質複合粒子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
主粒子に副粒子を担持させてなる複合粒子およびその製造方法として,特許文献1に記載されているものを挙げることができる。同文献の技術では,結着用樹脂からなる樹脂粒子と着色剤との凝集物を,結着用樹脂のガラス転移点以上の温度に加熱することとしている。これにより,着色剤の複数が樹脂粒子により形成された結着樹脂部を介して接合されてなるトナー粒子が得られるとしている。結着用樹脂の樹脂粒子が主粒子に相当するとすれば,それに接合されることとなる着色剤が副粒子に相当すると解することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2010-49116号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
電池の製造技術では,その正極板の製造において,集電部材の表面上に正極活物質合材層を形成する。正極活物質合材層には,正極活物質のみならず添加材が含まれる。そのため,正極活物質を主粒子とし添加材を副粒子とする複合粒子を用いて正極活物質合材層を形成することが考えられる。本発明者らは,そのような複合粒子の製造に特許文献1の技術を応用することを考えた。しかしながら,特許文献1の技術を正極活物質合材層に応用することには問題点があった。それは,正極活物質はトナーの結着用樹脂と比べて著しく軟化しにくいということである。このため,正極活物質合材層の形成に適した正極活物質複合粒子を得ることができなかった。
【0005】
本開示技術は,前記した従来の技術が有する問題点を解決するためになされたものである。すなわちその課題とするところは,正極活物質合材層の形成に適した正極活物質複合粒子それを用いた正極板の製造方法および正極活物質複合粒子の製造方法提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示技術の一態様における正極活物質複合粒子は,正極活物質粒子と,正極活物質粒子の表面上に存在するとともに正極活物質粒子より小径である導電粒子と,正極活物質粒子の表面上にて正極活物質粒子の表面と導電粒子とを結合するバインダ樹脂とを有する複合粒子である。
【0007】
上記態様の正極活物質複合粒子では,正極活物質粒子の表面と導電粒子とがバインダ樹脂により結合されている。このため,他の粒子(キャリア粒子)と混和させ,さらに成膜プロセスに供しても,複合粒子としての状態を維持する。これにより,集電箔上の正極活物質合材層の原材料とするのに適している。導電粒子が正極活物質粒子の表面上に存在するとは,導電粒子が正極活物質粒子に直に接触していることを要しない。バインダ樹脂を介して正極活物質粒子の表面上に固定されているものであってもよい。
【0008】
上記態様の正極活物質複合粒子では,バインダ樹脂は,正極活物質粒子の表面上に複数の部位が互いに間を開けて斑状に分布して付着しているものであり,導電粒子は,斑状に分布しているバインダ樹脂の上に載っているものである。このようになっていると,正極活物質複合粒子の状態であっても,正極活物質粒子そのものが電池内にて電解液と接触でき,イオン移動に支障がない。
【0009】
本開示技術の別の一態様における正極板の製造方法では,集電部材と,集電部材の表面上の正極活物質合材層とを有する正極板を製造するに際して,正極活物質合材層,上記のいずれかの態様の正極活物質複合粒子を原料として乾式プロセスにより集電部材の表面上に堆積させて形成る。正極活物質合材層の原料として上記の正極活物質複合粒子を使用することで,正極活物質合材層が良好に形成される
【0010】
本開示技術のさらに別の一態様における正極活物質複合粒子の製造方法は,複合化工程と結合工程とにより正極活物質複合粒子を製造する方法である。複合化工程では,正極活物質粒子からなる正極活物質粒子群と,正極活物質粒子より小径である導電粒子からなる導電粒子群と,正極活物質粒子より小径であるバインダ樹脂粒子からなるバインダ樹脂粒子群とを混合することで,個々の正極活物質粒子の表面上に導電粒子およびバインダ樹脂粒子が付着している複合状態の粒子を得る。結合工程では,複合化工程で得た複合状態の粒子を加熱して,バインダ樹脂粒子が熱で軟化させた状態を経由させることで,個々の正極活物質粒子の表面上に導電粒子がバインダ樹脂により結合されている正極活物質複合粒子を得る。
【0011】
上記態様の正極活物質複合粒子の製造方法では,まず複合化工程を行うことで,正極活物質粒子と導電粒子とバインダ樹脂粒子の複合状態を得る。その後に結合工程で,正極活物質粒子と導電粒子とのバインダ樹脂による結合を強化する。こうすることで,後に成膜工程に供しても正極活物質粒子から導電粒子が剥がれ落ちることのない安定した正極活物質複合粒子が得られる。
【0012】
本開示技術のさらに別の一態様における正極板の製造方法は,集電部材の表面上に,正極活物質複合粒子を堆積させた堆積層を形成する成膜工程と,成膜工程で得られた堆積層を集電部材の表面上に固定して正極活物質合材層とする定着工程とを有し,成膜工程では,上記態様の正極活物質複合粒子の製造方法で得られた正極活物質複合粒子を用いる。成膜工程で使用する正極活物質複合粒子が結合工程を経ているので,正極活物質粒子からの導電粒子の剥がれ落ちが生じることもなく良好な成膜がなされる。
【発明の効果】
【0013】
本開示技術によれば,正極活物質合材層の形成に適した正極活物質複合粒子それを用いた正極板の製造方法および正極活物質複合粒子の製造方法提供されている。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】実施の形態に係る正極活物質複合粒子の外観図である。
図2】正極活物質複合粒子の表面上の添加材粒子の付着状況を示す断面図である。
図3】混和体の外観図である。
図4】正極板の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下,本開示技術を具体化した実施の形態について,添付図面を参照しつつ詳細に説明する。本形態は,リチウムイオン電池の正極活物質およびそれを用いた正極板,さらにそれらの製造方法に関して本開示技術を具体化したものである。
【0016】
本形態に係る正極活物質複合粒子は,図1に示されるような外観のものである。図1の正極活物質複合粒子1は,正極活物質粒子2と添加材粒子3とにより構成されているものである。正極活物質粒子2は,例えば三元系複合金属酸リチウムのような,リチウムイオン電池の正極活物質として機能する物質の粒子である。添加材粒子3は,導電材その他の,リチウムイオン電池の正極板において正極活物質とともに使用される物質の粒子である。以下の説明では,添加材粒子3は導電材の粒子であることとし,導電粒子3と称する。
【0017】
図1から明らかなように導電粒子3は,正極活物質粒子2の表面上に分布している。導電粒子3は,正極活物質粒子2よりも小径なものである。図2に示されるように導電粒子3は,バインダ樹脂4により正極活物質粒子2の表面に結合されている。バインダ樹脂4は,正極活物質粒子2の表面上のあちこちに互いに間を開けて斑状に分布して付着している。導電粒子3は,斑状のバインダ樹脂4の上に載っている。これにより正極活物質粒子2とその表面上の複数の導電粒子3とは,導電粒子3が容易に剥がれ落ちてしまうことのない正極活物質複合粒子1をなしている。図2では1箇所のバインダ樹脂4に1個の導電粒子3しか載っていないように描いているが,1箇所のバインダ樹脂4に複数個の導電粒子3が載っている箇所があってもよい。
【0018】
正極活物質粒子2の表面には,バインダ樹脂4に覆われていない隙間領域5がある。隙間領域5では正極活物質粒子2自体が外部に露出している。隙間領域5では,電池として完成させたものにおいて,正極活物質と電解液との間でのイオン移動ができる。ある程度の面積の隙間領域5があるということは,電池としての充電性能が,バインダ樹脂4によりあまり妨げられてはいないということである。
【0019】
ただしこのことは,個々の斑状のバインダ樹脂4同士が繋がっていてはならない,ということまでは意味しない。斑状のバインダ樹脂4同士が繋がっている箇所があってもよい。図1の正極活物質複合粒子1では,主粒子である正極活物質粒子2の直径が3~10μm程度であり,副粒子である導電粒子3は主粒子より小径であり,一般的には数100nm程度(一次粒子はさらに小径)である。顕微鏡で正極活物質複合粒子1を観察する場合には,走査型電子顕微鏡を用いて5000~20000倍程度の倍率にすると図1のような全体像を見ることができる。
【0020】
続いて,上記の正極活物質複合粒子1を用いた正極板の製造方法を説明する。ここで説明する正極板の製造方法において使用する原材料は,以下のものである。
・活物質:ニッケルコバルトマンガン酸リチウム(住友金属鉱山製)
・導電材:アセチレンブラック(デンカ製Li-400)
・バインダ樹脂:ポリフッ化ビニリデン(アルケマ製301F)
・配合比:活物質/導電材/バインダ樹脂=90/5/5(重量%)
・集電箔:アルミ箔(12μm厚)
【0021】
工程は次の手順による。
(1)複合化 →(2)熱処理 →(3)混和 →(4)成膜 →(5)定着
【0022】
(1)の複合化は,活物質と導電材とバインダ樹脂とを複合粉体の状態とする工程である。この工程では,上記3種の粉体材料を混合して複合粉体の状態とする。3種の粉体材料を適当な容器(例えば日本コークス工業製「MPミキサー」の球形タンク)に入れて撹拌する。10000rpmで10分間程度の撹拌により,複合粉体が得られる。複合粉体では,正極活物質粒子の表面上に導電粒子およびバインダ樹脂粒子が付着して複合状態となっている。
【0023】
(2)の熱処理は,複合化で得られた複合粉体を一旦高温状態とする工程である。複合粉体を金属製のトレーに薄く広げ,所定の温度に昇温した加熱炉に所定の時間入れる。これにより,バインダ樹脂が一旦溶融して,活物質粒子の表面上に導電材の粒子がバインダ樹脂樹脂により結合された状態となる。前述の正極活物質複合粒子1は,この熱処理工程を経た後のものである。
【0024】
(3)の混和は,熱処理後の複合粉体をキャリア粒子と混合する工程である。キャリア粒子とは,(4)の成膜工程で必要となる鉄粉である。キャリア粒子は,最終的に正極板上の正極活物質層の成分となるものではないため上記の原材料のところに挙げてはいないが,例えばパウダーテック製MF96-100(直径:100μm程度)を使用することができる。複合粉体とキャリア粒子とをともにポリエチレンボトル等の適当な容器に入れて撹拌する。複合粉体とキャリア粒子との配合比は,例えば次の程度でよい。
複合粉体/キャリア粒子=11.6/88.4(重量%)
【0025】
複合粉体およびキャリア粒子を入れた容器を105rpm程度の回転速度で回転させることで複合粉体とキャリア粒子とが逆極性に摩擦帯電し,キャリア粒子と複合粉体との混和体が得られる。図3に示すように混和体7は,キャリア粒子6の表面上に多数の正極活物質複合粒子1(複合粉体)が付着しているものである。顕微鏡で混和体7を観察する場合には,500~1500倍程度の倍率にすることで図3のような全体像を見ることができる。混和体7において正極活物質複合粒子1は,キャリア粒子6の表面上に単に静電気力で吸着しているに留まる。この点で,正極活物質複合粒子1において導電粒子3が正極活物質粒子2の表面上にバインダ樹脂4により固定されているのとは異なる状況にある。
【0026】
(4)の成膜は,集電箔の表面上に正極活物質層を形成する工程である。本形態では静電転写法による乾式成膜で正極活物質複合粒子の堆積層を形成する。その装置の現像器に混和体を収納して装置を作動させると,現像器によりマグネットロールのスリーブ上に混和体の層が形成される。スリーブ上の層状の混和体は,スリーブの回転とともに転写箇所へ搬送される。転写箇所では,マグネットロールと集電箔とが対面しており,両者間には電界が印加されている。集電箔は搬送されている。
【0027】
転写箇所の諸条件は,例えば次のようなものである。
・スリーブ回転速度:14[m/分](周速として)
・電界強度:150[V/m]
・集電箔の搬送速度:1.5[m/分](スリーブ回転に対して順方向としたが逆方向でも可)
【0028】
転写箇所では電界により,混和体の正極活物質複合粒子がキャリア粒子から離脱して集電箔へ向かって飛翔する。これにより正極活物質複合粒子がスリーブから集電箔に転写される。こうして,混練溶媒等の液成分を用いない乾式プロセスにより集電箔上に正極活物質複合粒子の堆積層が形成される。この堆積層が正極活物質層となる。転写箇所を通過したスリーブ上には,正極活物質複合粒子を失ったキャリア粒子の層が残っている。このキャリア粒子は,複合粉体との混和に再使用可能である。
【0029】
(5)の定着は,成膜された正極活物質複合粒子の堆積層を集電箔に固定する工程である。そのため集電箔および堆積層を加熱する。(4)の成膜を乾式プロセスで行っているため,成膜後に乾燥工程を経ず直ちに定着工程を行うことができる。例えば,成膜後の集電箔を熱板(160℃程度)で上下から挟み,軽く加圧しながら30秒程度保持すればよい。これにより,正極活物質複合粒子に含まれているバインダ樹脂が一旦溶融し,集電箔と正極活物質複合粒子とが接合される。正極活物質複合粒子同士も接合される。
【0030】
これにより図4に示すような,集電箔8の表面上に正極活物質合材層9を有する正極板10が得られる。集電箔8は,正極板10において集電部材として機能する部材である。正極活物質合材層9は,正極活物質粒子と導電粒子とバインダ樹脂とでできている。図4に示されるものでは集電箔8の片面にのみ正極活物質合材層9が設けられているが,両面に正極活物質合材層9を設けてもよい。そのためには上記のプロセスを集電箔8の表裏両面のいずれに対しても行えばよい。
【0031】
以下,本形態の正極活物質およびそれを用いた正極板を種々の条件で作製して特性評価を行った結果を述べる。
【0032】
まず,(2)の熱処理後の正極活物質複合粒子における熱処理温度の影響についての評価試験の結果を述べる。ここでは,熱処理の温度を次の6水準とし,熱処理時間は30分とした(「熱処理なし」を除く)。
熱処理なし,130℃,140℃,150℃,160℃,180℃
【0033】
それぞれの熱処理後(ただし「熱処理なし」については複合化後)の粒子の表面状態を走査型電子顕微鏡を用いて観察し評価した。その結果,次のことが分かった。
・「熱処理なし」を含めた全水準にて,正極活物質粒子の表面に導電粒子が付着している。バインダ樹脂も導電樹脂の下に存在していると考えられる。
【0034】
次に,上記6水準の正極活物質複合粒子を(3)の混和の処理に供したものを走査型電子顕微鏡を用いて観察し評価した。混和時間は,次の5水準とした。
1分,10分,20分,30分,45分
【0035】
観察の結果,次のことが分かった。
・「熱処理なし」の場合,熱処理を行ったものと比較して,いずれの混和時間であっても,キャリア粒子に載っていない微粒子が多く見られた。これは,混和処理の際に正極活物質複合粒子から剥がれ落ちたバインダ樹脂や導電粒子であると考えられる。
【0036】
・混和処理後のキャリア粒子の表面上の正極活物質(複合)粒子の付着状況については,熱処理条件により次の傾向が見られる。
・・「熱処理なし」ではいずれの混和時間でもごく少数しか付着していない。
・・熱処理温度130℃,140℃では,混和時間が20分以上であればある程度の付着が見られる。
・・熱処理温度150℃以上では,混和時間が10分以上であればある程度の付着が見られる。特に,熱処理温度160℃以上かつ混和時間20分以上の場合,相当な数の付着が見られる。
【0037】
続いて,(3)の混和後の処理物を用いて(4)の成膜および(5)の定着を行い,正極板を走査型電子顕微鏡で観察した。その結果,次のことが分かった。
・熱処理を行ったいずれの水準でも,集電箔の表面上に正極活物質合材層が形成されていることが確認された。これは,(3)の混和の段階にて,正極活物質複合粒子からバインダ樹脂や導電粒子が剥がれ落ちることもなく,キャリア粒子と正極活物質複合粒子との混和体が良好に形成されたためと考えられる。これには,(2)の熱処理の時点でバインダ樹脂が一旦溶融して正極活物質粒子と導電粒子とを結合させたことが貢献していると解される。
【0038】
・しかし「熱処理なし」のものでは,正極活物質合材層が形成されなかった。これは,(3)の混和の段階にて,キャリア粒子と正極活物質複合粒子との混和体が形成されなかったためと考えられる。混和体が形成されなかったため,マグネットロールのスリーブ上にはキャリア粒子のみの層が形成され,そこに正極活物質複合粒子が含まれていなかったものと解される。この原因は,(2)の熱処理を行っていないため,(3)の混和のときに導電粒子が剥がれて正極活物質複合粒子が解体してしまったためと考えられる。
【0039】
以上詳細に説明したように本実施の形態に係る正極活物質複合粒子は,正極活物質粒子の表面上に,正極活物質粒子より小径の導電粒子を斑状のバインダ樹脂で結合した構造のものである。その正極活物質複合粒子の製造過程においては,複合化後の粒子を熱処理することで,導電粒子がバインダ樹脂により正極活物質粒子にしっかりと結合されるようにしている。このため,乾式成膜プロセスにて集電箔上に正極活物質複合粒子の堆積層を形成でき,定着工程を経ることで良好な正極板を得ることができる。
【0040】
本実施の形態および実施例は単なる例示にすぎず,本開示技術を何ら限定するものではない。したがって本開示技術は当然に,その要旨を逸脱しない範囲内で種々の改良,変形が可能である。例えば,複合化,熱処理,混和,成膜,定着の各工程で使用する処理装置は,記載したものに限らず,同等の機能を有する他の機種の装置でもよい。
【0041】
特に成膜工程では,前述の静電転写法による乾式成膜に限らず,他の方式の乾式成膜を用いてもよい。例えば,ガスデポジション法による乾式成膜でもよい。
【符号の説明】
【0042】
1 正極活物質複合粒子
2 正極活物質粒子
3 添加材粒子,導電粒子
4 バインダ樹脂
5 隙間領域
8 集電箔
9 正極活物質合材層
10 正極板
図1
図2
図3
図4