(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-06
(45)【発行日】2023-02-14
(54)【発明の名称】抗菌・防カビのポリエステル積層構造
(51)【国際特許分類】
B32B 27/36 20060101AFI20230207BHJP
B32B 7/022 20190101ALI20230207BHJP
B32B 27/18 20060101ALI20230207BHJP
【FI】
B32B27/36
B32B7/022
B32B27/18 F
(21)【出願番号】P 2021157010
(22)【出願日】2021-09-27
【審査請求日】2021-09-27
(32)【優先日】2021-06-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】TW
(73)【特許権者】
【識別番号】501296612
【氏名又は名称】南亞塑膠工業股▲分▼有限公司
【氏名又は名称原語表記】NAN YA PLASTICS CORPORATION
【住所又は居所原語表記】NO.201,TUNG HWA N.RD.,TAIPEI,TAIWAN
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】廖徳超
(72)【発明者】
【氏名】曹俊哲
(72)【発明者】
【氏名】劉岳欣
【審査官】大村 博一
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-067142(JP,A)
【文献】国際公開第2016/047568(WO,A1)
【文献】国際公開第99/027026(WO,A1)
【文献】特表2002-538257(JP,A)
【文献】特開平09-057923(JP,A)
【文献】特開2009-119866(JP,A)
【文献】特開平09-057922(JP,A)
【文献】国際公開第2013/001750(WO,A1)
【文献】特開2012-111818(JP,A)
【文献】仲川 勤,包装用高分子フィルムの衝撃強さ,高分子,13巻11号,日本,高分子学会,1964年10月20日,p.898-902,https://www.jstage.jst.go.jp/article/kobunshi1952/13/11/13_11_898/_pdf,[2022年10月3日検索],インターネット
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
C08J 5/00-5/02;5/12-5/22
B29C 48/00-48/96
C08K 3/00-13/08
C08L 1/00-101/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに反対側の2つの表面を有する主構造支持層と、前記主構造支持層の2つの前記表面にそれぞれ形成された2つの抗菌・防カビ機能層とを備える、ポリエステル積層構造であって、
前記主構造支持層は、耐衝撃ポリエステル材料で形成されると共に、前記ポリエステル積層構造に20kg-cm/cm以上である耐衝撃強さを付与し、
前記抗菌・防カビ機能層のそれぞれは、抗菌・防カビのポリエステル材料で形成されると共に、前記抗菌・防カビのポリエステル材料は、前記抗菌・防カビ機能層に抗菌・防カビ能力を付与する抗菌・防カビ添加剤を含み、
前記抗菌・防カビ添加剤は、前記抗菌・防カビ機能層に分散する複数のガラスビーズを含み、前記ガラスビーズのそれぞれの外面に複数の銀ナノ粒子が分布
し、
前記主構造支持層において、前記耐衝撃ポリエステル材料は、
ポリエステル樹脂基材と、
前記ポリエステル樹脂基材に分散し且つポリオレフィンエラストマー(POE)である強靭化剤と、
前記ポリエステル樹脂基材に分散する相溶化剤とを、含み、
前記相溶化剤は、前記強靭化剤と前記ポリエステル樹脂基材との相容性を向上させるように配合され、
前記相溶化剤を配合することで、前記強靭化剤を0.5~1.5μmの粒子径で前記ポリエステル樹脂基材に分散することによって、前記耐衝撃ポリエステル材料に20kg-cm/cm以上である前記耐衝撃強さを付与する
ことを特徴とする抗菌・防カビのポリエステル積層構造。
【請求項2】
前記主構造支持層及び2つの前記抗菌・防カビ機能層は、共押出(co-extrusion)により、サンドイッチ構造を有する抗菌・防カビのポリエステルシート材を形成し、
前記主構造支持層の厚さは、前記抗菌・防カビ機能層のぞれぞれの厚さより厚く、前記主構造支持層の厚さは、80~4,000μmであり、前記抗菌・防カビ機能層のぞれぞれの厚さは、10~200μmである、請求項1に記載の抗菌・防カビのポリエステル積層構造。
【請求項3】
前記主構造支持層において、前記相溶化剤は、メタクリル酸グリセリルをグラフトしたポリオレフィンエラストマー相溶化剤(POE-g-GMA)及び無水マレイン酸をグラフトしたポリオレフィンエラストマー相溶化剤(POE-g-MAH)の中の少なくとも1つである、
請求項1に記載の抗菌・防カビのポリエステル積層構造。
【請求項4】
前記耐衝撃ポリエステル材料の総重量を100wt%として、前記ポリエステル樹脂基材の含有量は、70~95wt%であり、前記強靭化剤の含有量は、5~15wt%であり、前記相溶化剤の含有量は、2~15wt%であり、
前記強靭化剤の含有量は前記相溶化剤の含有量と同一又はより多いと共に、前記相溶化剤に対する前記強靭化剤の重量比(前記強靭化剤:前記相溶化剤)は、1:1~4:1である、
請求項1に記載の抗菌・防カビのポリエステル積層構造。
【請求項5】
前記強靭化剤の分子構造は全て、ポリオレフィンエラストマー(POE)であると共に、前記相溶化剤は、メタクリル酸グリセリルをグラフトしたポリオレフィンエラストマー相溶化剤(POE-g-GMA)であり、前記相溶化剤の分子構造には、主鎖及び主鎖に溶融グラフトされた側鎖を有し、
前記主鎖は、ポリオレフィンエラストマー(POE)であると共に、前記側鎖は、メタクリル酸グリセリル(GMA)であり、
前記メタクリル酸グリセリルは、混練において開環反応(ring cleavage)を起こし、前記メタクリル酸グリセリルにおけるエポキシ基は、前記開環反応の後に前記ポリエステル樹脂基材の分子構造におけるエステル基(ester group)と化学反応を行う、
請求項1に記載の抗菌・防カビのポリエステル積層構造。
【請求項6】
前記抗菌・防カビ機能層のそれぞれにおいて、前記抗菌・防カビのポリエステル材料は、
ポリエステル樹脂基材と、
溶融押出成形により前記ポリエステル樹脂基材に分散する複数の機能性ポリエステルマスターバッチとを、含み、
前記機能性ポリエステルマスターバッチのそれぞれは、ポリエステル樹脂マトリックス及び前記抗菌・防カビ添加剤を含み、前記抗菌・防カビ添加剤における複数の前記ガラスビーズは、前記ポリエステル樹脂マトリックスに分散する、請求項1に記載の抗菌・防カビのポリエステル積層構造。
【請求項7】
抗菌・防カビのポリエステル材料を100wt%として、前記ポリエステル樹脂基材の含有量は、80~98wt%であり、複数の前記機能性ポリエステルマスターバッチの含有量は、2~20wt%であり、
前記機能性ポリエステルマスターバッチのそれぞれにおいて、前記抗菌・防カビ添加剤に対する前記ポリエステル樹脂マトリックスの重量比(前記ポリエステル樹脂マトリックス:前記抗菌・防カビ添加剤)は、70~99:1~30である、
請求項6に記載の抗菌・防カビのポリエステル積層構造。
【請求項8】
前記抗菌・防カビのポリエステル積層構造は、引張成形プロセスにより延伸されたポリエステル材料になるように形成され、
前記抗菌・防カビ機能層のそれぞれにおいて、複数の前記ガラスビーズの中の少なくとも一部の前記ガラスビーズが前記抗菌・防カビ機能層の表層に分布することにより、複数の前記
銀ナノ粒子の中の少なくとも一部の前記
銀ナノ粒子が外部環境に曝され、前記抗菌・防カビ機能層に前記抗菌・防カビ能力を付与する、
請求項6に記載の抗菌・防カビのポリエステル積層構造。
【請求項9】
前記ポリエステル樹脂基材は、ポリエチレンテレフタレートであると共に、前記機能性ポリエステルマスターバッチにおける前記ポリエステル樹脂マトリックスは、ポリエチレンテレフタレートであり、
前記ポリエステル樹脂基材は、第1の屈折率を有し、前記ポリエステル樹脂マトリックスは、第2の屈折率を有し、前記ガラスビーズは、第3の屈折率を有し、
前記第1の屈折率は、1.55~1.60であり、前記第2の屈折率は、前記第1の屈折率の95~105%であり、前記第3の屈折率は、前記第1の屈折率の95~105%である、
請求項6に記載の抗菌・防カビのポリエステル積層構造。
【請求項10】
前記ガラスビーズのそれぞれにおいて、前記ガラスビーズのマトリックスは、可溶性ガラス粉末であり、前記ガラスビーズの粒子径は、10μm以下であり、前記ガラスビーズの密度は、2~3g/cm
3であり、前記ガラスビーズの耐熱温度は、500℃以上である、
請求項6に記載の抗菌・防カビのポリエステル積層構造。
【請求項11】
前記抗菌・防カビ添加剤は、細菌・カビに対して抗菌能力・防カビ能力を有し、
前記細菌は、大腸菌、黄色ブドウ球菌、肺炎桿菌、サルモネラ、緑膿菌及び薬剤耐性黄色ブドウ球菌を含み、
前記カビは、クロコウジカビ、ペニシリウム・ピノフィラム、カエトミウム グロボスム、グリオクラディウム・ビレンス及びアウレオバシジウム・プルランスを含む、
請求項6に記載の抗菌・防カビのポリエステル積層構造。
【請求項12】
前記主構造支持層のマトリックスは、ポリエチレンテレフタレートであると共に、前記抗菌・防カビ機能層のそれぞれのマトリックスは、ポリエチレンテレフタレートである、
請求項1~11のいずれか一項に記載の抗菌・防カビのポリエステル積層構造。
【請求項13】
互いに反対側の2つの表面を有する主構造支持層と、前記主構造支持層の2つの前記表面の片方に形成された抗菌・防カビ機能層とを備える、ポリエステル積層構造であって、
前記主構造支持層は、耐衝撃ポリエステル材料で形成されると共に、前記ポリエステル積層構造に20kg-cm/cm以上である耐衝撃強さを付与し、
前記抗菌・防カビ機能層は、抗菌・防カビのポリエステル材料で形成されると共に、前記抗菌・防カビのポリエステル材料は、前記抗菌・防カビ機能層に抗菌・防カビ能力を付与する抗菌・防カビ添加剤を含み、前記抗菌・防カビ添加剤は、前記抗菌・防カビ機能層に分散する複数のガラスビーズを含み、前記ガラスビーズのそれぞれの外面に複数の銀ナノ粒子が分布
し、
前記主構造支持層において、前記耐衝撃ポリエステル材料は、
ポリエステル樹脂基材と、
前記ポリエステル樹脂基材に分散し且つポリオレフィンエラストマー(POE)である強靭化剤と、
前記ポリエステル樹脂基材に分散する相溶化剤とを、含み、
前記相溶化剤は、前記強靭化剤と前記ポリエステル樹脂基材との相容性を向上させるように配合され、
前記相溶化剤を配合することで、前記強靭化剤を0.5~1.5μmの粒子径で前記ポリエステル樹脂基材に分散することによって、前記耐衝撃ポリエステル材料に20kg-cm/cm以上である前記耐衝撃強さを付与する
ことを特徴とする抗菌・防カビのポリエステル積層構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層構造に関し、特に、抗菌・防カビのポリエステル積層構造に関する。
【背景技術】
【0002】
市場の需要に基づいて、スーツケース、食品トレー、冷凍トレーなどの製品は、抗菌性及び防カビ能力が要求されている。材料の表面に抗菌性・防カビ性を持たせるために、既存の技術はほとんど、コーティング法又はスプレー法によって実現されている。これらの方法を使用すると、材料の表面に抗菌及び防カビ性を持たせることができるが、抗菌・防カビ効果を長期間維持することができない。さらに、これらの材料の表面で対応できる細菌・カビの種類は限られている。
【0003】
尚、従来の技術において、ABS、PC、PPなどのシートに抗菌・防カビ能力を持つフィルムを貼り合わせることを採用することを有するが、このような貼り合わせ方法は、材料のコストが高いと共に、材料は単一の材質で形成されていないため、材料のリサイクルが困難となる問題が生じてしまう。
【0004】
そこで、本発明者は、上述した問題が改善可能であることに鑑みて、鋭意研究を行い学理を併せて運用した結果、設計が合理的で且つ前記問題を効果的に改善することができる方法として本発明に至った。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明が解決しようとする技術の課題は、従来技術の不足に対し、抗菌・防カビのポリエステル積層構造を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の技術的課題を解決するために、本発明が採用する一つの技術的手段は、抗菌・防カビのポリエステル積層構造を提供することである。抗菌・防カビのポリエステル積層構造は、互いに反対側の2つの表面を有する主構造支持層と、前記主構造支持層の2つの前記表面にそれぞれ形成された2つの抗菌・防カビ機能層とを備える、ポリエステル積層構造であって、前記主構造支持層は、耐衝撃ポリエステル材料で形成されると共に、前記ポリエステル積層構造に20kg-cm/cm以上である耐衝撃強さを付与し、前記抗菌・防カビ機能層のそれぞれは、抗菌・防カビのポリエステル材料で形成されると共に、前記抗菌・防カビのポリエステル材料は、前記抗菌・防カビ機能層に抗菌・防カビ能力を付与する抗菌・防カビ添加剤を含み、前記抗菌・防カビ添加剤は、前記抗菌・防カビ機能層に分散する複数のガラスビーズを含み、前記ガラスビーズのそれぞれの外面に複数の銀ナノ粒子が分布している。
【0007】
好ましくは、前記主構造支持層及び2つの前記抗菌・防カビ機能層は、共押出(co-extrusion)により、サンドイッチ構造を有する抗菌・防カビのポリエステルシート材を形成し、なかでも、前記主構造支持層の厚さは、前記抗菌・防カビ機能層のぞれぞれの厚さより厚く、前記主構造支持層の厚さは、80~4,000μmであり、前記抗菌・防カビ機能層のぞれぞれの厚さは、10~200μmである。
【0008】
好ましくは、前記主構造支持層において、前記耐衝撃ポリエステル材料は、ポリエステル樹脂基材と、前記ポリエステル樹脂基材に分散し且つポリオレフィンエラストマー(POE)である強靭化剤と、前記ポリエステル樹脂基材に分散する相溶化剤とを、含み、前記相溶化剤は、前記強靭化剤と前記ポリエステル樹脂基材との相容性を向上させるように配合され、前記相溶化剤を配合することで、前記強靭化剤を0.5~1.5μmの粒子径で前記ポリエステル樹脂基材に分散することによって、前記耐衝撃ポリエステル材料に20kg-cm/cm以上である前記耐衝撃強さを付与する。
【0009】
好ましくは、前記主構造支持層において、前記相溶化剤は、メタクリル酸グリセリルをグラフトしたポリオレフィンエラストマー相溶化剤(POE-g-GMA)及び無水マレイン酸をグラフトしたポリオレフィンエラストマー相溶化剤(POE-g-MAH)の中の少なくとも1つである。
【0010】
好ましくは、前記耐衝撃ポリエステル材料の総重量を100wt%として、前記ポリエステル樹脂基材の含有量は、70~95wt%であり、前記強靭化剤の含有量は、5~15wt%であり、前記相溶化剤の含有量は、2~15wt%であり、なかでも、前記強靭化剤の含有量は、前記相溶化剤の含有量と同一又はより多いと共に、前記相溶化剤に対する前記強靭化剤の重量比(前記強靭化剤:前記相溶化剤)は、1:1~4:1である。
【0011】
好ましくは、前記強靭化剤の分子構造は全て、ポリオレフィンエラストマー(POE)であると共に、前記相溶化剤は、メタクリル酸グリセリルをグラフトしたポリオレフィンエラストマー相溶化剤(POE-g-GMA)であり、なかでも、前記相溶化剤の分子構造に主鎖及び前記主鎖に溶融グラフトされた側鎖を有し、前記主鎖は、ポリオレフィンエラストマー(POE)であると共に、前記側鎖は、メタクリル酸グリセリル(GMA)であり、前記メタクリル酸グリセリルは、混練において開環反応(ring cleavage)を起こし、前記メタクリル酸グリセリルにおけるエポキシ基は、前記開環反応の後に前記ポリエステル樹脂基材の分子構造におけるエステル基(ester group)と化学反応を行い、前記化学反応は、相容性の向上の要である。
【0012】
好ましくは、前記抗菌・防カビ機能層のそれぞれにおいて、前記抗菌・防カビのポリエステル材料は、ポリエステル樹脂基材と、溶融押出成形により前記ポリエステル樹脂基材に分散する複数の機能性ポリエステルマスターバッチとを、含み、なかでも、前記機能性ポリエステルマスターバッチのそれぞれは、ポリエステル樹脂マトリックス及び前記抗菌・防カビ添加剤を含み、前記抗菌・防カビ添加剤における複数の前記ガラスビーズは、前記ポリエステル樹脂マトリックスに分散される。
【0013】
好ましくは、前記抗菌・防カビのポリエステル材料を100wt%として、前記ポリエステル樹脂基材の含有量は、80~98wt%であり、複数の前記機能性ポリエステルマスターバッチの含有量は、2~20wt%であり、なかでも、前記機能性ポリエステルマスターバッチのそれぞれにおいて、前記抗菌・防カビ添加剤に対する前記ポリエステル樹脂マトリックスの重量比(前記ポリエステル樹脂マトリックス:前記抗菌・防カビ添加剤)は、70~99:1~30である。
【0014】
好ましくは、前記抗菌・防カビのポリエステル積層構造は、引張成形により延伸されたポリエステル材料になるように形成され、なかでも、前記抗菌・防カビ機能層のそれぞれにおいて、複数の前記ガラスビーズの中の少なくとも一部の前記ガラスビーズが前記抗菌・防カビ機能層の表層に分布していることにより、複数の前記ナノ銀粒子の中の少なくとも一部の前記ナノ銀粒子が外部環境に曝されると共に、前記抗菌・防カビ機能層に前記抗菌・防カビ能力を付与する。
【0015】
好ましくは、前記ポリエステル樹脂基材は、ポリエチレンテレフタレートであると共に、前記機能性ポリエステルマスターバッチにおける前記ポリエステル樹脂マトリックスは、ポリエチレンテレフタレートであり、なかでも、前記ポリエステル樹脂基材は、第1の屈折率を有し、前記ポリエステル樹脂マトリックスは、第2の屈折率を有し、前記ガラスビーズは、第3の屈折率を有し、前記第1の屈折率は、1.55~1.60であり、前記第2の屈折率は、前記第1の屈折率の95~105%であり、前記第3の屈折率は、前記第1の屈折率の95~105%である。
【0016】
好ましくは、前記ガラスビーズのそれぞれにおいて、前記ガラスビーズのマトリックスは、可溶性ガラス粉末であり、前記ガラスビーズの粒子径は、10μm以下であり、前記ガラスビーズの密度は、2~3g/cm3であり、前記ガラスビーズの耐熱温度は、500℃以上である。
【0017】
好ましくは、前記抗菌・防カビ添加剤は、細菌・カビに対して抗菌力・防カビ能力を有し、前記細菌は、大腸菌、黄色ブドウ球菌、肺炎桿菌、サルモネラ、緑膿菌及び薬剤耐性黄色ブドウ球菌を含み、前記カビは、クロコウジカビ、ペニシリウム・ピノフィラム、カエトミウム グロボスム、グリオクラディウム・ビレンス及びアウレオバシジウム・プルランスを含む。
【0018】
好ましくは、前記主構造支持層のマトリックスは、ポリエチレンテレフタレートであると共に、前記抗菌・防カビ機能層のそれぞれのマトリックスは、ポリエチレンテレフタレートである。
【0019】
上記の技術的課題を解決するために、本発明が採用するもう一つの技術的手段は、抗菌・防カビのポリエステル積層構造を提供することである。抗菌・防カビのポリエステル積層構造は、互いに反対側の2つの表面を有する主構造支持層と、前記主構造支持層の2つの前記表面の片方に形成された抗菌・防カビ機能層とを備える、ポリエステル積層構造であって、前記主構造支持層は、耐衝撃ポリエステル材料で形成されると共に、前記ポリエステル積層構造に20kg-cm/cm以上である耐衝撃強さを付与し、前記抗菌・防カビ機能層は、抗菌・防カビのポリエステル材料で形成されると共に、前記抗菌・防カビのポリエステル材料は、前記抗菌・防カビ機能層に抗菌・防カビ能力を付与する抗菌・防カビ添加剤を含み、前記抗菌・防カビ添加剤は、前記抗菌・防カビ機能層に分散する複数のガラスビーズを含み、前記ガラスビーズのそれぞれの外面に複数の銀ナノ粒子が分布している。
【発明の効果】
【0020】
本発明の有利な効果として、本発明に係る抗菌・防カビのポリエステル積層構造は、「ポリエステル積層構造の表層は、抗菌・防カビ能力を有する抗菌・防カビ機能層であると共に、ポリエステル積層構造の裏層は、支持するための主構造支持層である」、「前記主構造支持層は、耐衝撃ポリエステル材料で形成されると共に、ポリエステル積層構造に20kg-cm/cm以上である耐衝撃強さを付与する」、「前記抗菌・防カビ機能層のそれぞれは、抗菌・防カビのポリエステル積層構造の表層に抗菌・防カビ性を付与する抗菌・防カビのポリエステル材料で形成される」といった技術特徴により、前記抗菌・防カビのポリエステル積層構造は、抗菌・防カビ及び耐衝撃性が要求されている製品(例えば、スーツケース、食品トレー、冷凍トレーなど)に用いられる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本発明の第一実施形態に係る抗菌・防カビのポリエステル積層構造を示す模式図である。
【
図3】
図1におけるIII部分の部分拡大図である。
【
図4】本発明の第二実施形態に係る抗菌・防カビのポリエステル積層構造を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の特徴及び技術内容がより一層分かるように、以下の本発明に関する詳細な説明と添付図面を参照されたい。しかし、提供される添付図面は参考と説明のために提供するものに過ぎず、本発明の請求の範囲を制限するためのものではない。
【0023】
以下、所定の具体的な実施態様を説明し、当業者は、本明細書に開示された内容に基づいて本発明の利点と効果を理解することができる。本発明は、他の異なる具体的な実施態様によって実行または適用でき、本明細書における各細部についても、異なる観点と用途に基づいて、本発明の構想から逸脱しない限り、各種の修正と変更を行うことができる。また、事前に説明するように、本発明の添付図面は、簡単な模式的説明であり、実際のサイズに基づいて描かれたものではない。以下の実施形態に基づいて本発明に係る技術内容を更に詳細に説明するが、開示される内容によって本発明の保護範囲を制限することはない。
【0024】
理解すべきことは、本明細書では、「第1」、「第2」、「第3」といった用語を用いて各種の素子又は信号を叙述することがあるが、これらの素子又は信号は、これらの用語によって制限されるものではない。これらの用語は主に、1つの素子ともう1つの素子、又は1つの信号ともう1つの信号を区別するためのものである。また、本明細書において使用される「または」という用語は、実際の状況に応じて、関連して挙げられる項目におけるいずれか1つ又は複数の組み合わせを含むことがある。
【0025】
[第一実施形態]
図1~3に示すように、本発明に係る第一実施形態において、抗菌・防カビのポリエステル積層構造E(antibacterial and antifungal polyester laminated structure)を提供する。前記抗菌・防カビのポリエステル積層構造Eは、例えば、共射出(co-extrusion)で形成されたサンドイッチ構造(A-B-A)であってもよい。
【0026】
本発明の一つの実施形態として、前記サンドイッチ構造の2つの表層は、抗菌・防カビ能力を有する抗菌・防カビ機能層Aであると共に、前記サンドイッチ構造の中間層は、支持するための主構造支持層Bである。尚、前記抗菌・防カビのポリエステル積層構造Eは、直接に使用されるか、若しくは、真空成形プロセス(vacuum forming process)やブリスター成形プロセル(blister molding process)などの引張成形プロセスにより延伸されたポリエステルシート材として使用されてもよい。
【0027】
本発明の一つの実施形態として、前記抗菌・防カビのポリエステル積層構造Eの各層のマトリックスはいずれも、ポリエステル材料(例えば、PET)である。即ち、前記抗菌・防カビのポリエステル積層構造Eの各層のマトリックスは、同一の材質で形成される。このように、前記抗菌・防カビのポリエステル積層構造Eのリサイクル及び廃棄処理を行うことが比較的に容易である。尚、前記抗菌・防カビのポリエステル積層構造Eは、抗菌・防カビ能力及び高い耐衝撃強度などの特性を有する。従いまして、前記抗菌・防カビのポリエステル積層構造Eは、抗菌及び防カビが要求されている製品(例えば、スーツケース、食品トレー、冷凍トレーなど)に用いられる。
【0028】
図1~3に示すように、更に具体的に説明すると、前記抗菌・防カビのポリエステル積層構造Eは、主構造支持層B及び2つの抗菌・防カビ機能層Aとを備える。前記主構造支持層Bは、互いに反対側の2つの表面を有する。また、2つの前記抗菌・防カビ機能層Aは、主構造支持層Bの2つの表面にそれぞれ形成される。
【0029】
前記主構造支持層Bは、耐衝撃ポリエステル材料100(impact resistant polyester material)で形成されると共に、ポリエステル積層構造Eに20kg-cm/cm以上である耐衝撃強さ(impact strength)を付与することができる。尚、前記抗菌・防カビ機能層Aのそれぞれは、抗菌・防カビのポリエステル材料200(antibacterial and antifungal polyester material)で形成されると共に、抗菌・防カビのポリエステル積層構造Eの2つの表層に抗菌・防カビ性を付与することができる。
【0030】
厚さについて、前記主構造支持層Bの厚さは、前記抗菌・防カビ機能層Aのそれぞれの厚さより厚い。前記主構造支持層Bの厚さは、80~4,000μmであり、前記抗菌・防カビ機能層Aのそれぞれの厚さは、10~200μmである。換言すると、前記主構造支持層Bの厚さは、前記抗菌・防カビ機能層Aのそれぞれの厚さの2~400倍であるが、本発明はこれに制限されるものではない。以下にて、前記主構造支持層Bを形成する耐衝撃ポリエステル材料100の特徴、及び前記抗菌・防カビ機能層Aを形成する抗菌・防カビのポリエステル材料200の特徴を説明する。
【0031】
[耐衝撃ポリエステル材料]
図2に示すように、前記主構造支持層Bの耐衝撃ポリエステル材料100は、ポリエステル樹脂基材101と、強靭化剤102(耐衝撃性改質剤とも称す)と、相溶化剤(図面なし)とを含む。
【0032】
本発明の一つの目的としては、強靭化剤102とポリエステル樹脂基材101との相容性を向上させること、及びポリエステル樹脂基材101における強靭化剤102の分散性を向上させることにある。このように、本発明の実施形態における耐衝撃ポリエステル材料100は、相対的に高い耐衝撃強さ(impact strength)を有する。例えば、通常のポリエステル材料の耐衝撃強さは、5kg-cm/cm以下である。それに対し、本発明の実施形態における耐衝撃ポリエステル材料100の耐衝撃強さは、20kg-cm/cm以上となるように向上させることであり、好ましくは、28~50kg-cm/cmとなるように向上させる。
【0033】
本実施形態において、前記ポリエステル樹脂基材101は、耐衝撃ポリエステル材料100のマトリックスである。前記ポリエステル樹脂基材101は、二塩基酸と二価アルコール(又は、その誘導体)との縮合重合反応により得た高分子ポリマーである。即ち、前記ポリエステル樹脂基材101は、ポリエステルであり、好ましくは、ポリエチレンテレフタレート(PET)であるが、本発明はこれに制限されるものではない。
【0034】
含有量について、前記耐衝撃ポリエステル材料100の総重量を100wt%として、前記ポリエステル樹脂基材101の含有量は、70~95wt%であり、70~90wt%であることは特に好ましい。特筆すべきことは、本明細書における「基材」または「マトリックス」は、組成物の割合が半分以上に占める材料である。
【0035】
更に、
図2に示すように、前記耐衝撃ポリエステル材料100に高い耐衝撃強さを与えるために、前記耐衝撃ポリエステル材料100に前記強靭化剤102(耐衝撃性改質剤とも称す)を添加すると共に、前記強靭化剤102は、ポリエステル樹脂基材101に分散される。強靭化剤として、前記強靭化剤は、ポリオレフィンエラストマー(polyolefin elastomer,POE)であり、また、ポリオレフィンエラストマーは、ポリオレフィン熱可塑性エラストマー(polyolefin thermoplastic elastomer)とも称す。前記強靭化剤102は、ポリエステル樹脂基材101に分散されることで、耐衝撃ポリエステル材料100の耐衝撃強さを向上させることができる。
【0036】
含有量について、前記耐衝撃ポリエステル材料100の総重量を100wt%として、前記強靭化剤102の含有量は、5~15wt%であり、7~10wt%であることは特に好ましい。
【0037】
上述した構成により、前記耐衝撃ポリエステル材料100は、強靭化剤102の添加により高い耐衝撃強さを与えることができる。前記強靭化剤102の含有量が前記含有量の下限値より低くなると、前記耐衝撃ポリエステル材料100が所望の耐衝撃強さを満たさず、高い耐衝撃強さが要求された製品に適用することができない。一方、前記強靭化剤102の含有量が前記含有量の上限値より高くなると、前記強靭化剤102は、ポリエステル樹脂基材101に均一に分散されることができないため、凝集または沈殿が生じてしまい、それによって、最終製品の成形効果や耐衝撃強度の表現に影響することがある。
【0038】
別の観点から、本発明の一つの目的は、ポリエステル材料の耐衝撃強さを向上させることにより、耐衝撃強さ、高い鋼性及び低い材料コストを同時に持つポリエステルを達成することにある。このような目的を達成するために、本発明の実施形態の耐衝撃ポリエステル材料100において、強靭化剤(耐衝撃性改質剤とも称す)として、ポリオレフィンエラストマー(polyolefin elastomer,POE)を使用する。
【0039】
アクリルエラストマー又はポリエステルエラストマーに対して、ポリオレフィンエラストマーは、より優れた靱性及び比較的に低い材料コストを有するため、ポリエステル材料の耐衝撃強さを向上させる際に、ポリオレフィンエラストマーを使用することはかなり有利である。しかしながら、ポリオレフィンエラストマーとポリエステル材料との相容性が悪くて、添加改質法によりポリオレフィンエラストマーとポリエステル材料とを直接に混合すると、ポリオレフィンエラストマーが凝集しやすくなるので、ポリエステル材料の耐衝撃強さを効果的に向上させることができない。
【0040】
このように、ポリオレフィンエラストマーとポリエステルとの相容性を改質すること、粘度マッチング及び混練・分散により、ポリエステル材料に分散するポリオレフィンエラストマーの分散粒子径を、0.5~1.5μmにし、好ましくは、0.5~1.2μmにする。このような分散粒子径によって、本発明の実施形態に係る耐衝撃ポリエステル材料100は、高い耐衝撃性を果たせる。
【0041】
より具体的に説明すると、前記相溶化剤(図面なし)は、ポリエステル樹脂基材に分散される。前記相溶化剤を配合することにより、強靭化剤102とポリエステル樹脂基材101との相容性を向上させる。
【0042】
相溶化剤として、前記相溶化剤は、ポリオレフィンエラストマー相溶化剤である。具体的に、前記相溶化剤は、メタクリル酸グリセリルをグラフトしたポリオレフィンエラストマー相溶化剤(polyolefin elastomer grafted with glycidyl methacrylate,POE-g-GMA)及び無水マレイン酸をグラフトしたポリオレフィンエラストマー相溶化剤(polyolefin elastomer grafted with maleic anhydride,POE-g-MAH)の中の少なくとも1つである。好ましくは、前記相溶化剤は、メタクリル酸グリセリルをグラフトしたポリオレフィンエラストマー相溶化剤(POE-g-GMA)である。
【0043】
更に説明すると、前記相溶化剤を配合することで、前記強靭化剤102を0.5~1.5μmの粒子径で前記ポリエステル樹脂基材101に分散することによって、前記耐衝撃ポリエステル材料100に20kg-cm/cm以上である耐衝撃強さを付与する。即ち、前記相溶化剤により、強靭化剤102の、ポリエステル樹脂基材101での相容性及び分散性は、効果的に向上し、それによって、前記強靭化剤102は、小さい粒子径でポリエステル樹脂基材101に分散されることができると共に、凝集しにくくなる。
【0044】
本発明の一つの好ましい実施形態において、前記強靭化剤102は、0.5~1.2μmの粒子径で前記ポリエステル樹脂基材101に分散されると共に、前記耐衝撃ポリエステル材料100の耐衝撃強さは、28~50kg-cm/cm以上であり、30~45kg-cm/cmであることは特に好ましい。
【0045】
含有量について、前記耐衝撃ポリエステル材料100の総重量を100wt%として、前記相溶化剤の含有量は、2~15wt%であり、2~5wt%であることは特に好ましい。
【0046】
上述した構成により、前記相溶化剤により、前記強靭化剤102は、小さい粒子径で前記ポリエステル樹脂基材101に分散されることができる。前記相溶化剤の含有量が前記含有量の下限値より低くなると、前記相溶化剤は、前記強靭化剤102を小さい粒子径で前記ポリエステル樹脂基材101に分散させるという役割をうまく果たせない。一方、前記相溶化剤の含有量が前記含有量の上限値より高くなると、前記相溶化剤は、ポリエステル材料の成形効果に影響することがある。
【0047】
更に説明すると、前記強靭化剤102の含有量と相溶化剤の含有量とが対応関係を有する。具体的に、前記強靭化剤102の含有量は前記相溶化剤の含有量と同一又はより多い。尚、前記相溶化剤に対する前記強靭化剤102の重量比は、1:1~4:1であることが好ましく、1:1~2:1であることが特に好ましい。
【0048】
本発明の一つの実施形態において、前記強靭化剤102の分子構造はすべて、ポリオレフィンエラストマー(POE)である。前記相溶化剤の分子構造は、主鎖(main chain)及び側鎖(side chain)を有すると共に、前記主鎖は、ポリオレフィンエラストマー(POE)である。それによって、前記相溶化剤の主鎖により、前記相溶化剤と強靭化剤102との相容性が良好となる(それは、両者の分子構造が同一であるだからである)。
【0049】
本発明に係る一つの実施形態において、前記相溶化剤は、メタクリル酸グリセリルをグラフトしたポリオレフィンエラストマー相溶化剤(POE-g-GMA)である。前記相溶化剤の分子構造は、主鎖及び前記主鎖に溶融グラフトされた側鎖を有し、前記主鎖は、ポリオレフィンエラストマー(POE)であると共に、前記側鎖は、メタクリル酸グリセリル(GMA)である。
【0050】
前記メタクリル酸グリセリルは、混練において開環反応(ring cleavage)を起こす。前記メタクリル酸グリセリルにおけるエポキシ(epoxy)基は、前記開環反応の後に前記ポリエステル樹脂基材の分子構造におけるエステル基(ester group)と化学反応を行い、それによって、前記強靭化剤102が、より均一にポリエステル樹脂基材101に分散されることができる。
【0051】
本発明の一つの実施形態において、前記耐衝撃ポリエステル材料100は、前記強靭化剤102(POE)のポリエステル樹脂基材101での分散性を向上させるため、例えば、まず押出造粒によりポリエステルマスターバッチを形成することで、前記強靭化剤102をポリエステル材料に第1回分散させ、次に、前記ポリエステルマスターバッチが射出成形又は押出成形により射出物又は押出物として成形されることで、前記強靭化剤102をポリエステル材料に第2回分散させることができる。
【0052】
本発明の一つの実施形態において、前記強靭化剤102(POE)のポリエステル樹脂基材101での分散性及び相容性を向上させるため、前記ポリエステル樹脂基材101のメルトフローインデックスと強靭化剤102のメルトフローインデックスとが対応関係を有する。
【0053】
具体的に説明すると、前記ポリエステル樹脂基材101(PET)は、第1のメルトフローインデックスを有すると共に、前記強靭化剤102(POE)は、第2のメルトフローインデックスを有する。なかでも、前記ポリエステル樹脂基材101の前記第1のメルトフローインデックスは、55g/10min~65g/10minである。また、前記強靭化剤102の前記第2のメルトフローインデックスは、前記ポリエステル樹脂基材101の前記第1のメルトフローインデックスの75~125%であり、80~120%であることは好ましい。例えば、前記ポリエステル樹脂基材101の前記第1のメルトフローインデックスは約60g/10minであると共に、前記強靭化剤102(POE)の前記第2のメルトフローインデックスは約50g/10minである。
【0054】
説明すべきことは、本明細書における「メルトフローインデックス」(melt flow index,MI)は、メルトフローレート(MFR)とも称す。メルトフローインデックスは、ポリマーメルトを一定の温度・圧力で標準開口部(2.095mm)から10分間に押出された樹脂重量である。
【0055】
本発明の一つの実施形態において、前記ポリエステル樹脂基材101は、連続相であり、前記強靭化剤102は、前記連続相に分散する分散相である。前記分散相と前記連続相とが共同作用することにより、前記耐衝撃ポリエステル材料の表面には、島状構造(island structure)を形成する。
【0056】
説明すべきことは、前記「島状構造」とは、2つの高分子ポリマー(ポリエステル樹脂基材101及び強靭化剤102)の相容性が悪く、2つの高分子ポリマーを混ざると、分散相が連続相に分散され、海に島を分散するように非均質系となる。島状構造の2つの相が作用するメカニズムにより、ポリマー特性を改良することができる。
【0057】
[抗菌・防カビのポリエステル材料]
図3に示すように、前記抗菌・防カビ機能層Aのそれぞれにおいて、前記抗菌・防カビのポリエステル材料200は、良好な抗菌・防カビ能力を有する。前記抗菌・防カビのポリエステル材料200は、一定時間を使用しても、ある程度の抗菌・防カビ能力を維持すると共に、前記抗菌・防カビのポリエステル材料200の抗菌・防カビ能力は、比較的に多い細菌とカビの種類に対応することができる。
【0058】
上述した目的を達成するために、本実施形態の抗菌・防カビのポリエステル材料200は、ポリエステル樹脂基材201(polyester resin substrate material)と、溶融押出成形により前記ポリエステル樹脂基材201に分散する複数の機能性ポリエステルマスターバッチ202(functional polyester master-batches)を含む。なかでも、本実施形態の抗菌・防カビのポリエステル材料200は、機能性ポリエステルマスターバッチ202の導入により抗菌・防カビ能力を得る。
【0059】
より具体的に説明すると、前記機能性ポリエステルマスターバッチ202のそれぞれは、ポリエステル樹脂マトリックス2021(polyester resin matrix)と、抗菌・防カビ添加剤2022(antibacterial and antifungal additive)とを含む。なかでも、前記抗菌・防カビ添加剤2022は、前記ポリエステル樹脂マトリックス2021に分散する複数のガラスビーズ2022a(glass beads)を含み、前記ガラスビーズ2022aのそれぞれの外面に複数の銀ナノ粒子2022b(silver nanoparticles)が分布している。それによって、本実施形態の抗菌・防カビのポリエステル材料200は、機能性ポリエステルマスターバッチ202の導入により抗菌・防カビ能力(abilities of antibacterial and antifungal)を得る。
【0060】
より詳しく説明すると、複数の銀ナノ粒子2022bは、前記ガラスビーズ2022aの外面に分散するように分布していることから、複数の前記銀ナノ粒子2022bは、互いに凝集することがないと共に、ガラスビーズ2022aの外面にナノサイズで分散され、それによって、前記抗菌・防カビ能力を与える。
【0061】
説明すべきことは、前記ガラスビーズ2022a及びその外面に分布する複数の銀ナノ粒子2022bが機能性ポリエステルマスターバッチ202を介してポリエステル樹脂基材201に分散されることによって、前記抗菌・防カビのポリエステル材料200は、ナノサイズで分散している複数の銀ナノ粒子2022bを含むことによって、抗菌・防カビ能力を有する。
【0062】
含有量について、前記抗菌・防カビのポリエステル材料200の総重量を100wt%として、前記ポリエステル樹脂基材201の含有量は、80~98wt%であることが好ましく、90~98wt%であることは特に好ましい。尚、複数の前記機能性ポリエステルマスターバッチ202の含有量は、2~20wt%であることが好ましく、2~10wt%であることは特に好ましい。
【0063】
更に説明すると、前記機能性ポリエステルマスターバッチ202において、前記ポリエステル樹脂マトリックス2021と前記抗菌・防カビ添加剤2022(ガラスビーズ2022a及び銀ナノ粒子2022bを含む)との重量比は、70~99:1~30であることが好ましく、85~95:5~15であることが特に好ましい。全体的に、抗菌・防カビのポリエステル材料200に対して、複数の前記銀ナノ粒子2022bの含有量は、0.1~5.0wt%であることが好ましく、0.2~2.0wt%であることが特に好ましい。
【0064】
上述した構成により、機能性ポリエステルマスターバッチ202での抗菌・防カビ添加剤2022は、ポリエステル材料に十分な抗菌・防カビ性を与える。前記抗菌・防カビ添加剤2022の含有量が前記含有量の下限値より低くなると、前記銀ナノ粒子2022bの濃度が不足となり、十分な抗菌・防カビ性を果たせないことがある。一方、前記抗菌・防カビ添加剤2022の含有量が前記含有量の上限値より高くなると、前記ガラスビーズ2022aの濃度が高すぎて、前記ガラスビーズ2022aをポリエステル樹脂基材201に均一に分散することができないと共に、過量のガラスビーズ2022aがポリエステル材料の成形効果に影響することがある。
【0065】
本発明の一つの実施形態において、前記ガラスビーズ2022aのそれぞれにおいて、複数の前記銀ナノ粒子2022bは、物理吸着(physical adsorption)によりガラスビーズ2022aの外面に分布しているが、本発明はこれに制限されるものではない。
【0066】
特筆すべきことは、前記銀ナノ粒子2022bは、ガラスビーズ2022aを担体にすると共に、ナノサイズでガラスビーズ2022aの外面に分散することから、前記銀ナノ粒子2022bは凝集しにくくなる。尚、前記機能性ポリエステルマスターバッチ202は、溶融押出により、ポリエステル樹脂基材201に分散する時に、前記ガラスビーズ2022aが破裂する場合がある。しかしながら、ほとんどの銀ナノ粒子2022bは依然として、凝集することがなく、ナノサイズでガラスビーズ2022aの外面に分散・付着されることによって、十分な抗菌・防カビ能力を与える。
【0067】
本発明の一つの実施形態において、前記抗菌・防カビのポリエステル材料200において、複数の前記ガラスビーズ2022aの中の少なくとも一部のガラスビーズ2022aが抗菌・防カビのポリエステル材料200の表層に分布していることにより、複数の前記ナノ銀粒子2022bの少なくとも一部のナノ銀粒子2022bが外部環境に曝されると共に、前記抗菌・防カビのポリエステル材料200に前記抗菌・防カビ能力を付与する。
【0068】
本発明の一つの実施形態において、前記抗菌・防カビのポリエステル材料200は、延伸されることで延伸されたポリエステル材料であってもよい。説明すべきことは、前記抗菌・防カビのポリエステル材料200が延伸された後に、前記抗菌・防カビのポリエステル材料200の表層に分布しているガラスビーズ2022aは、抗菌・防カビのポリエステル材料200の表面により突出し(
図3を参照)、それによって、外部環境に曝されたナノ銀粒子2022bの数が上昇することで、前記抗菌・防カビのポリエステル材料200の抗菌・防カビ能力をより高くにすることができる。
【0069】
ポリエステル樹脂基材の材料として、ポリエステル樹脂基材201は、抗菌・防カビのポリエステル材料200のマトリックスであると共に、二塩基酸と二価アルコール(又は、その誘導体)との縮合重合反応により得たものである。尚、前記機能性ポリエステルマスターバッチ202におけるポリエステル樹脂マトリックス2021も、二塩基酸と二価アルコール(又は、その誘導体)との縮合重合反応により得たものである。
【0070】
説明すべきことは、
図3に示すように、前記ポリエステル樹脂基材201の材質は、ポリエステル樹脂マトリックス2021の材質は基本的に同一であるため、前記ポリエステル樹脂基材201とポリエステル樹脂マトリックス2021との相容性が良好であり、明瞭な境界が存在しない。
【0071】
本発明の一つの実施形態において、前記抗菌・防カビのポリエステル材料200を高い透明度及び低いヘイズ値を維持させるため、異なる材料の屈折率の間に対応関係を有する。
【0072】
例えば、前記ポリエステル樹脂基材201は、第1の屈折率を有し、前記ポリエステル樹脂マトリックス2021は、第2の屈折率を有し、前記ガラスビーズ2022aは、第3の屈折率を有する。なかでも、前記第1の屈折率は、1.55~1.60であり、1.57~1.59であることが特に好ましい。尚、前記第2の屈折率は、前記第1の屈折率の95~105%であり、前記第3の屈折率は、前記第1の屈折率の95~105%である。
【0073】
上述した異なる材料の屈折率の間の対応関係によると、前記抗菌・防カビのポリエステル材料200は、高い透明度及び低いヘイズ値を果たせる。
【0074】
例えば、前記抗菌・防カビのポリエステル材料200の可視光透過率(visible light transmittance)は、80%以上であることが好ましく、90%以上であることが特に好ましい。前記抗菌・防カビのポリエステル材料200のヘイズ値(haze)は、5%以下であることが好ましく、3%以下であることが特に好ましい。
【0075】
本発明の一つの実施形態において、前記機能性ポリエステルマスターバッチ202におけるポリエステル樹脂マトリックス2021は、低い結晶化度を有するポリエチレンテレフタレート(PET)であると共に、前記ポリエステル樹脂マトリックス2021の結晶化度は、5~15%である。
【0076】
説明すべきことは、従来の技術において、コーティング方法やスプレー方法により材料表面の抗菌・防カビ処理を行う場合、材料に優れた透明性を与えるが、このような製品は、耐久性が不良であると共に、抑制できる菌の種類が制限されている。尚、従来の内部添加法のマスターバッチの担体として、ポリプロピレン(PP)及びポリブチレンテレフタレート(PBT)であることは多いが、それらとポリエステル(PET)との相容性が不良であるため、製品の透明性及び伸び性が不良となる。
【0077】
従来の技術に対して、本発明に係る実施形態における抗菌・防カビのポリエステル材料200において、マスターバッチの担体として、低い結晶化度を有するポリエチレンテレフタレート(PET)を使用する。前記機能性ポリエステルマスターバッチ202は、二軸スクリュー押出機(twin-screw extruder)により、ナノ銀粒子2022bが付着されたガラスビーズ2022aを分散させると共に、加工過程においてPETポリエステル材料(例えば、ポリエステル樹脂基材201)を導入させることによって、前記抗菌・防カビのポリエステル材料200に優れた抗菌・防カビ能力、可視光透過率及び伸び性を与える。
【0078】
本発明の一つの実施形態において、前記ガラスビーズ2022aの構成は、好ましい範囲を有する。例えば、前記ガラスビーズ2022aのマトリックスは、可溶性ガラス粉末(soluble glass powder)であり、前記ガラスビーズ2022aの粒子径は、10μm以下(好ましくは、3~10μmである)であり、前記ガラスビーズ2022aの密度は、2~3g/cm3(好ましくは、2.3~2.8g/cm3である)であると共に、前記ガラスビーズ2022aの耐熱温度は、500℃以上である。
【0079】
上述した構成により、前記ガラスビーズ2022aは、十分な量のナノ銀粒子2022bが付着された上で、ポリエステル樹脂マトリックス2021に分散されることができる。前記ガラスビーズ2022aは、二軸押出プロセスでの高温及び高圧を耐えられると共に、十分な量のナノ銀粒子2022bが付着されることにより、前記抗菌・防カビのポリエステル材料200に抗菌・防カビ能力を与える。
【0080】
抗菌・防カビ能力について、前記抗菌・防カビ添加剤は、大腸菌(Escherichia coli)、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)、肺炎桿菌(Pneumoniae)、サルモネラ(Salmonella)、緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)及び薬剤耐性黄色ブドウ球菌(Methicillin-resistant staphylococcus aureus)を含む細菌に対して、抗菌効果を果たせる。
【0081】
尚、前記抗菌・防カビ添加剤は、クロコウジカビ(Aspergillus niger)、ペニシリウム・ピノフィラム(Penicillium tetrapine)、カエトミウム グロボスム(Chaetomium globosum)、グリオクラディウム・ビレンス(Gliocladium virens)及びアウレオバシジウム・プルランス(Aureobasidium pullulans)を含むカビに対して防カビ効果を果たせる。
【0082】
抗菌試験について、前記抗菌・防カビのポリエステル材料200は、大腸菌、黄色ブドウ球菌、肺炎桿菌、サルモネラ、緑膿菌及び薬剤耐性黄色ブドウ球菌との六つの細菌に対して、SGS認証(抗菌活性値がいずれも2を超える)を満たし、優れた抗菌効果を示す。防カビ試験について、前記抗菌・防カビのポリエステル材料200は、クロコウジカビ、ペニシリウム・ピノフィラム、カエトミウム グロボスム、グリオクラディウム・ビレンス及びアウレオバシジウム・プルランスとの五つのカビに対して、SGS認証(レベル0、カビの成長がない)を満たし、優れた防カビ効果を示す。
【0083】
説明すべきことは、本発明に係る図面なしの実施形態において、前記抗菌・防カビ添加剤は、ポリエステル樹脂基材に直接に分散される。即ち、前記抗菌・防カビ添加剤は、機能性ポリエステルマスターバッチを介してポリエステル樹脂基材に分散されることでなく、ポリエステル樹脂基材に直接に分散される。より具体的に説明すると、本実施形態の抗菌・防カビのポリエステル材料は、ポリエステル樹脂基材及び抗菌・防カビ添加剤を含む。前記抗菌・防カビ添加剤は、前記ポリエステル樹脂基材に分散する複数のガラスビーズを含み、前記ガラスビーズのそれぞれの外面に複数の銀ナノ粒子が分布することにより、前記ポリエステル材料に抗菌・防カビ能力を与える。
【0084】
[第二実施形態]
図4に示すように、本発明の第二実施形態において、抗菌・防カビのポリエステル積層構造E’を提供する。本実施形態に係る抗菌・防カビのポリエステル積層構造E’は、前記第一実施形態と大抵同一であるが、それらの相違点は、本実施形態に係る抗菌・防カビのポリエステル積層構造E’は、サンドイッチ構造でなく、二層積層構造である。
【0085】
具体的に説明すると、本実施形態に係る抗菌・防カビのポリエステル積層構造E’は、主構造支持層B及び抗菌・防カビ機能層Aを備える。前記主構造支持層Bは、互いに反対側の2つの表面を有する。また、前記抗菌・防カビ機能層Aは、主構造支持層Bの片面に形成される。
【0086】
前記主構造支持層Bは、耐衝撃ポリエステル材料で形成されると共に、抗菌・防カビのポリエステル積層構造E’に20kg-cm/cm以上である耐衝撃強さを付与する。
【0087】
前記抗菌・防カビ機能層Aは、抗菌・防カビのポリエステル材料で形成されると共に、抗菌・防カビのポリエステル材料は、抗菌・防カビ機能層Aに抗菌・防カビ能力を付与する抗菌・防カビ添加剤を含み、抗菌・防カビ添加剤は、前記抗菌・防カビ機能層Aに分散する複数のガラスビーズを含み、ガラスビーズのそれぞれの外面に複数の銀ナノ粒子が分布している。
【0088】
[実施形態による有利な効果]
本発明の有利な効果として、本発明に係る抗菌・防カビのポリエステル積層構造は、「ポリエステル積層構造の表層は、抗菌・防カビ能力を有する抗菌・防カビ機能層であると共に、ポリエステル積層構造の裏層は、支持するための主構造支持層である」、「前記主構造支持層は、耐衝撃ポリエステル材料で形成されると共に、ポリエステル積層構造に20kg-cm/cm以上である耐衝撃強さを付与する」、「前記抗菌・防カビ機能層のそれぞれは、抗菌・防カビのポリエステル積層構造の表層に抗菌・防カビ性を付与する抗菌・防カビのポリエステル材料で形成される」といった技術特徴により、前記抗菌・防カビのポリエステル積層構造は、抗菌・防カビ及び耐衝撃性が要求されている製品(例えば、スーツケース、食品トレー、冷凍トレーなど)に用いられる。
【0089】
以上に開示された内容は、ただ本発明の好ましい実行可能な実施態様であり、本発明の請求の範囲はこれに制限されない。そのため、本発明の明細書及び図面内容を利用して成される全ての等価な技術変更は、いずれも本発明の請求の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0090】
E、E’…抗菌・防カビのポリエステル積層構造
A…抗菌・防カビ機能層
B…主構造支持層
100…耐衝撃ポリエステル材料
101…ポリエステル樹脂基材
102…強靭化剤
200…抗菌・防カビのポリエステル材料
201…ポリエステル樹脂基材
202…機能性ポリエステルマスターバッチ
2021…ポリエステル樹脂マトリックス
2022…抗菌・防カビ添加剤
2022a…ガラスビーズ
2022b…ナノ銀粒子