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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-06
(45)【発行日】2023-02-14
(54)【発明の名称】心血管移植片
(51)【国際特許分類】
   A61L 27/50 20060101AFI20230207BHJP
   A61F 2/06 20130101ALI20230207BHJP
   A61L 27/26 20060101ALI20230207BHJP
   A61L 27/18 20060101ALI20230207BHJP
   A61L 27/58 20060101ALI20230207BHJP
   A61L 33/06 20060101ALI20230207BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20230207BHJP
   A61K 31/727 20060101ALI20230207BHJP
   A61K 31/616 20060101ALI20230207BHJP
   A61P 7/02 20060101ALI20230207BHJP
【FI】
A61L27/50 300
A61F2/06
A61L27/26
A61L27/18
A61L27/58
A61L33/06 300
A61K45/00
A61K31/727
A61K31/616
A61P7/02
【請求項の数】 17
(21)【出願番号】P 2021175279
(22)【出願日】2021-10-27
(62)【分割の表示】P 2019546371の分割
【原出願日】2018-04-03
(65)【公開番号】P2022017400
(43)【公開日】2022-01-25
【審査請求日】2021-10-27
(31)【優先権主張番号】62/479,554
(32)【優先日】2017-03-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/611,431
(32)【優先日】2017-12-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】520228337
【氏名又は名称】ゼルティス アーゲー
(74)【代理人】
【識別番号】110001379
【氏名又は名称】弁理士法人大島特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】バーク、ルーク・デイビッド
(72)【発明者】
【氏名】コックス、マーティン・アントニウス・ヨハネス
(72)【発明者】
【氏名】セレロ、オレリー
【審査官】鶴見 秀紀
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2015/0017392(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2002/19402(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2003/0044418(US,A1)
【文献】Macromolecular Bioscience,2016年,Vol.16,pp.350-362
【文献】Journal of Thrombosis and Thrombolysis,Vol.15,No.3,2003年,pp.165-169
【文献】Thrombosis Research,2003年,Vol.112,No.1-2,pp.99-104
【文献】Journal of Thrombosis and Thrombolysis,2000年,Vol.10,No.2,pp.189-196
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61L 27/00-27/60
A61F 2/06
A61L 33/06
A61K 31/00-31/80
A61K 45/00
A61P 7/02
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
血栓形成作用を低減するための心血管移植片であって、
柔らかいブロックと共有結合した硬いブロックを有する超分子化合物の繊維状ネットワークで作られた内壁を備える管状構造を含み、
前記硬いブロックは、2-ウレイド-4[1H]-ピリミジノン(UPy)化合物を含み、
前記繊維状ネットワークは、平均繊維径が1~10μmの繊維を有する生体吸収性の電界紡糸不織繊維ネットワークであり、
前記管状構造は、2~8mmの内径と、200~900μmの壁厚を有し、
前記繊維は、前記管状構造において長手方向の軸を中心とした周方向に、前記周方向の線形弾性剛性前記周方向に垂直な方向の線形弾性剛性に対する比が1/2以上(但し、2~8の範囲を除く。)となるように整列していることを特徴とする心血管移植片。
【請求項2】
請求項1に記載の心血管移植片であって、
前記心血管移植片は、αIIbβ3阻害剤、ヘパリンおよびアスピリン(商標)の投与と組み合わせて移植されるように適合されることを特徴とする心血管移植片。
【請求項3】
請求項1または2に記載の心血管移植片であって、
前記内壁は少なくとも20μmの厚さを有し、
前記内壁は細孔を有し、前記細孔の平均細孔径は5~10μmであることを特徴とする心血管移植片。
【請求項4】
請求項1または2に記載の心血管移植片であって、
前記内壁は細孔を有し、前記内壁の平均有孔度が50~80%であり、前記細孔の平均細孔径は5~8μmであることを特徴とする心血管移植片。
【請求項5】
請求項1または2に記載の心血管移植片であって、
前記管状構造の内径は3~6mmで、前記管状構造の壁厚は200~800μmであることを特徴とする心血管移植片。
【請求項6】
請求項1または2に記載の心血管移植片であって、
前記管状構造の内径は4~8mmで、前記管状構造の壁厚は300~900μmであることを特徴とする心血管移植片。
【請求項7】
請求項1または2に記載の心血管移植片であって、
前記管状構造の内径は5mm以下であることを特徴とする心血管移植片。
【請求項8】
請求項1または2に記載の心血管移植片であって、
前記繊維の平均繊維径が、4~8μmであることを特徴とする心血管移植片。
【請求項9】
請求項1または2に記載の心血管移植片であって、
前記繊維の平均繊維径が、4~6μmであることを特徴とする心血管移植片。
【請求項10】
請求項1または2に記載の心血管移植片であって、
前記柔らかいブロックは、生分解性ポリエステル、ポリウレタン、ポリカーボネート、ポリ(オルト)エステル、ポリホスホエステル、ポリ無水物、ポリホスファゼン、ポリヒドロキシアルカノエート、ポリビニルアルコール、ポリプロピレンフマレート、またはそこれらの任意の組み合わせを含むことを特徴とする心血管移植片。
【請求項11】
請求項1または2に記載の心血管移植片であって、
前記柔らかいブロックの分子量の範囲は、500~3000Daであることを特徴とする心血管移植片。
【請求項12】
請求項1または2に記載の心血管移植片であって、
前記硬いブロックは、前記UPy化合物に対して1~5の範囲の鎖延長部を含むことを特徴とする心血管移植片。
【請求項13】
請求項1または2に記載の心血管移植片であって、
前記内壁は疎水性であり、前記内壁の水接触角は110~140度であることを特徴とする心血管移植片。
【請求項14】
請求項1または2に記載の心血管移植片であって、
冠動脈バイパス移植片であることを特徴とする心血管移植片。
【請求項15】
請求項1または2に記載の心血管移植片であって、
透析アクセスのための動静脈移植片であることを特徴とする心血管移植片。
【請求項16】
請求項1または2に記載の心血管移植片であって、
前記管状構造は、前記心血管移植片の崩壊を防ぐ耐性を提供するための編組構造、ポリマーストランド、化合物、またはこれらの組み合わせによって補強された外壁を有することを特徴とする心血管移植片。
【請求項17】
請求項1に記載の心血管移植片であって、
前記心血管移植片の移植が、αIIbβ3阻害剤の投与と組み合わせて行われるようにαIIbβ3阻害剤をさらに含むことを特徴とする心血管移植片。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血栓形成効果を抑制するための電界紡糸コーティング、移植片または材料に関する。
【背景技術】
【0002】
管径が6mm以下の血管が関与する血管疾患は、臨床的介入が必要な疾患症例の大部分を占めている。これらの多くの場合、好ましい介入は、患者の別の場所から採取した自家血管または合成血管移植片を利用した血管再建またはバイパス手術である。このような合成移植片は、さまざまな寸法と構成を有するものとして入手でき、一般に、織布または樹枝状のアセンブリとされた、ポリ(テトラフルオロエチレン)(PTFE)やポリ(エーテルテレフタレート)(PET)などの医療用ポリマーの小セットを有する。
【0003】
臨床環境で主に観察される合成血管移植片の障害の形態は、移植片の血流と減少と血栓症につながる静脈(流出)吻合部の進行性内膜過形成である。これは、循環血液と接触する移植材料の異物血栓形成性とともに、移植片と天然血管の間の接続、移植片材料と自然組織の機械的特性(追従性など)の不一致に起因する流れの摂動によって引き起こされると考えられている。しかし、血栓症の正確なメカニズムは、現在でもこの分野の研究の主要な焦点のままである。
【0004】
止血には、損傷した組織または血管からの出血を止める無数の生物学的プロセスが含まれる。止血の主なメカニズムは、血小板としても知られている循環血小板の活性化と付着である。組織への損傷から数秒以内に、放出されたタンパク質は血小板を「活性化」させ、その表面に付着構造を発現させ、損傷部位に結合し、さらなる血液損失を防ぐ「プラグ」を形成し始める。さらに、活性化された血小板は、カスケード効果でさらに循環する血小板を補充および活性化するためのさらなる化学シグナルを放出し、これらの血小板は損傷部位または他の活性化血小板のいずれかに結合する。
【0005】
血管内血栓は、止血プロセスの病理学的障害から生じる。多くの場合、乱流、異物と循環血小板との相互作用、損傷した血管壁からのシグナル伝達タンパク質の放出などにより、血管内で血小板の活性化、付着、凝集が起こる。これらの血小板が活性化されると、さらに成長する血栓に付着する循環血小板がさらに活性化されるため、血管の閉塞が発生し、血流が制限または完全に止められる。これらの条件は、通常600mL/分未満の低体積流量の血管で悪化する。これが起こるのは、成長中の血栓の近くに長時間にわたって残っている循環血小板、および流動の低下による付着血小板のせん断応力の低減により、活性化血小板が除去される可能性が低下するためである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】米国特許出願公開第2010/0280594号明細書
【文献】国際公開第2014/185779号
【非特許文献】
【0007】
【文献】Dobrovolskaia et al, 2012 Nanoparticle size and surface charge determine effects of PAMAM dendrimers on human platelets in vitro. Molecular pharmaceutics. 2012;9(3): 382-393. doi:10.1021/mp200463e
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、血栓形成性が非常に低下した血管移植片を提供することにより、当分野の技術に進歩をもたらす。
【課題を解決するための手段】
【0009】
血栓形成作用を低減するための心血管移植片が、冠動脈バイパス移植片または透析アクセス用の動静脈移植片などの用途のために提供される。心臓血管移植片は、柔らかいブロックと共有結合した硬いブロックを有する超分子化合物の繊維状ネットワークで作られた内壁を備えた管状構造を含む。前記硬いブロックは、2-ウレイド-4[1H]-ピリミジノン(UPy)化合物を含む。前記硬いブロックは、前記UPy化合物に対して1~5の範囲、より好ましくは1.5~3の範囲の鎖延長部を含み得る。前記柔らかいブロックは、生分解性ポリエステル、ポリウレタン、ポリカーボネート、ポリ(オルト)エステル、ポリホスホエステル、ポリ無水物、ポリホスファゼン、ポリヒドロキシアルカノエート、ポリビニルアルコール、ポリプロピレンフマレート、またはこれらの任意の組み合わせを含む。前記柔らかいブロックの分子量の範囲は、500~3000Daである。
【0010】
前記繊維状ネットワークは、平均繊維径が1~10μmの繊維を有する生体吸収性の電界紡糸不織繊維ネットワークである。前記管状構造は、2~8mmの内径と、200~900μmの壁厚を有する。
【0011】
前記実施形態の別の変形形態では、前記内壁は細孔を有し、前記内壁の平均有孔度が50~80%であり、前記細孔の平均細孔径は5~8μmである。
【0012】
前記実施形態のさらに別の変形携帯では、前記管状構造の内径は3~6mmで、前記管状構造の壁厚は200~800μmである。
【0013】
前記実施形態のさらに別の変形形態では、前記管状構造の内径は4~8mmで、前記管状構造の壁厚は300~900μmである。
【0014】
前記実施形態のさらに別の変形形態では、前記管状構造の内径は5mm以下である。
【0015】
前記実施形態のさらに別の変形形態では、前記繊維の平均繊維径が、4~8μmである。
【0016】
前記実施形態のさらに別の変形形態では、前記繊維の平均繊維径が、4~6μmである。
【0017】
前記実施形態のさらに別の変形形態では、前記内壁は疎水性であり、前記内壁の水接触角は110~140度である。
【0018】
前記実施形態のさらに別の変形形態では、前記管状構造は、前記心血管移植片の崩壊を防ぐ耐性を提供するための編組構造、ポリマーストランド、化合物、またはこれらの組み合わせによって補強された外壁を有する。
【0019】
前記実施形態のさらに別の変形形態では、前記心血管移植片は、αIIbβ3阻害剤をさらに含み得る。
【0020】
前記実施形態のさらに別の変形形態では、前記心血管移植片の移植は、αIIbβ3阻害剤の投与と組み合わせて行われ得る。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1図1A図1Cは、PTFE不織布と比較した、本発明の例示的実施形態による超分子ポリマー(SP)ミクロン(μm)およびサブミクロン電界紡糸繊維上の血小板付着および活性化のSEM画像(倍率10,000倍)を示す。図1Aは、平均直径4~6μmのSP電界紡糸繊維での血小板の付着と広がりの様子を高倍率画像を示す。図1Bは、平均直径が1μm未満のSP電界紡糸繊維の血小板の付着と広がりの様子を高倍率画像で示す。図1Cは、平均直径が1μm未満の不織布PTFE繊維での血小板の付着と広がりの様子を高倍率画像で示す。
図2図2A図2Cは、PTFE不織布と比較した、本発明の例示的実施形態による、SPミクロン繊維およびサブミクロン繊維上に広がる血小板を示す。図2Aは、平均直径が4~6μmのSP電界紡糸繊維での血小板拡散挙動の低倍率画像を示す。図2Bは、平均直径が1μm未満のSP電界紡糸繊維での血小板拡散挙動の低倍率画像を示す。図2Cは、平均直径が1μm未満の不織布PTFE繊維の血小板拡散挙動の低倍率画像を示す。
図3図3A図3Cは、本発明の例示的実施形態による、血液灌流後の試験材料の表面多孔度の分析方法を示す。各画像は、(図3A):元のSEM画像、(図3B):図3Aから切り抜きされ強調されたコントラスト画像、(図3C):図3Bから生成されたバイナリ画像であり、ImageJ(商標)ソフトウェアで自動閾値処理を行って、図3Cから絶対黒/白ピクセルとして27.35%の全体有孔度を得た。
図4図4は、本発明の例示的実施形態による、血小板凝集/拡散による血液灌流後の試験材料についてSEM下で観察される有孔度の低下を、初期有孔度のパーセンテージとして示した図である。
図5図5は、本発明の例示的な実施形態による、試験表面からの灌流血液中の活性化αIIbβ3の検出を示す。
図6図6は、本発明の例示的な実施形態による、電界紡糸されたSP材料およびPTFE不織布材料への血小板付着を、アブシキシマブの添加ありの場合と添加なしの場合で、複数の倍率でのSEM画像を示す。
図7図7A図7Cは、本発明の例示的実施形態による、ヘパリンを投与した動物(図7A)、ヘパリンおよびアスピリン(商標)を投与した動物(図7B)、およびヘパリン、アスピリン(商標)およびプラビックス(商標)を投与した動物(図7C)に移植して得たサンプルのSEM画像拡大図(250倍)を示す。
図8A図8Aは、本発明の例示的な実施形態に従って、6ヶ月間移植した後の6mmの頸動脈介在移植片の血管造影を示し、矢印は遠位部(上)および近位部(下)吻合を示す。
図8B図8Bは、発明の例示的な実施形態に従って、6ヶ月間移植した後の6mmの頸動脈介在移植片の血管造影を示し、矢印は遠位部(上)および近位部(下)吻合を示す。
図8C図8Cは、発明の例示的な実施形態に従って、6ヶ月間移植した後の7mmの頸動脈介在移植片の血管造影を示し、矢印は遠位部(上)および近位部(下)吻合を示す。
図9図9は、本発明の例示的実施形態による、36週間移植した6mmおよび7mmの頸動脈介在移植片について、遠位吻合の直前に測定された移植片の内径を示す。
図10図10は、本発明の例示的実施形態による小径移植片における細孔径に対する漸増注入量のデータを示し、細孔の大部分の細孔径が5~10μmの範囲にあることを示している。本発明による心臓血管移植片の平均細孔径は、肺動脈弁で観察される、すなわち望ましい大きさとは異なる。
図11図11は、例示的実施形態による繊維の整列によって耐疲労性を増加できることを示す図であり、耐疲労性は、ISO 5840にそった大動脈条件下での超分子ポリマーバルブの加速摩耗テスター(AWT)における故障までのサイクル数として表される。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明は、超分子ポリマー(SP)から製造された電界紡糸メッシュを有することによって血栓形成性が非常に低下した心臓血管移植片に関する。好ましくは、血管移植片は、不織メッシュおよび/または大径繊維である。本発明はまた、電界紡糸を介してそのような移植片を製造する方法に関する。本発明はさらに、血管バイパス/再構築、または透析処置、および小径血管の他の障害の処置のための静脈アクセスの反復を可能にする人体への血管移植片の移植に関する。
【0023】
心臓血管移植片の設計について、以下に定義するように、本発明者らは、SPから製造された血管移植片での予期しない血小板の挙動を本明細書で実証および説明した。PTFEなどの広く利用可能な「生体適合性」材料とは全く異なり、血小板の活性化と付着は、顕著な広がり、凝集、または糸状仮足の形成なしに観察された。このような結果は、血栓および/または狭窄が重要な問題となる小径移植片に理想的な材料であることを証明している。さらに、採用されたSP材料は生体吸収性であり、組織の浸潤と再成長が可能となる。これにより、長期の再構築、新生内膜形成、血管の狭窄を引き起こす継続的な炎症反応のリスクが大幅に軽減される。
【0024】
血栓形成作用を抑制するための心血管移植片の定義
血栓形成作用を低減するための心臓血管移植片は、柔らかいブロックと共有結合した硬いブロックを有する超分子化合物の繊維状ネットワークで作られた内壁を備える管状構造によって定義される。硬いブロックは、2-ウレイド-4[1H]-ピリミジノン(UPy)化合物を含む。繊維状ネットワークは、平均繊維径が1~10μmの繊維を有する生体吸収性の電界紡糸不織繊維ネットワークである。管状構造は、2~8mmの内径と、200~900μmの壁厚を有する。
【0025】
心臓血管移植片のバリエーションは、個別の、または該当する場合は任意の組み合わせでの、以下の構造的側面によって定められる。
・厚さが少なくとも20μmで、平均細孔径が5~10μmの内壁。
・平均細孔径が5~8μmで、平均有孔度が50~80%の細孔を有する内壁。
・内径が3~6mmで壁厚が200~800μmの管状構造。
・内径が3~8mmで壁厚が300~900μmの管状構造。
・内径が5mm以下の管状構造。
・4~8μmの、または4~6μmの平均繊維径の繊維。
・生分解性ポリエステル、ポリウレタン、ポリカーボネート、ポリ(オルト)エステル、ポリホスホエステル、ポリ無水物、ポリホスファゼン、ポリヒドロキシアルカノエート、ポリビニルアルコール、ポリプロピレンフマレート、またはそこれらの任意の組み合わせを含む柔らかいブロック。
・500~3000Daの分子量の柔らかいブロック。
・UPy化合物に対して1~5の範囲、より好ましくは1.5~3の範囲の鎖延長部を含む硬いブロック。
・移植片の内壁が疎水性であり、内壁の水接触角は110~140度であること。
・心血管移植片が、冠動脈バイパス移植片であること。
・管状構造が、心血管移植片の崩壊を防ぐ耐性を提供するための編組構造、ポリマーストランド、化合物、またはこれらの組み合わせによって補強された外壁を有すること。
・心血管移植片が、血栓形成作用をさらに低減させる、αIIbβ3阻害剤をさらに含むこと。
・心血管移植片が、血栓形成作用をさらに低減させる、αIIbβ3阻害剤の投与と組み合わせとして提供されること。
【0026】
本明細書で言及される超分子ポリマー(SP)としては、ウレイド-ピリミジノン(UPy)四重水素結合モチーフおよびポリマー骨格、例えば生分解性ポリエステル、ポリウレタン、ポリカーボネート、ポリ(オルトエステル)、ポリホスホエステル、ポリ無水物、ポリホスファゼン、ポリヒドロキシアルカノエート、ポリビニルアルコール、およびポリプロピレンフマレートからなる群から選択されるポリマー骨格を含み得る。ポリエステルの例としては、ポリカプロラクトン、ポリ(L-ラクチド)、ポリ(DL-ラクチド)、ポリ(バレロラクトン)、ポリグリコリド、ポリジオキサノン、およびそれらのコポリエステルが挙げられる。ポリカーボネートの例としては、ポリ(トリメチレンカーボネート)、ポリ(ジメチルトリメチレンカーボネート)、ポリ(ヘキサメチレンカーボネート)が挙げられる。
【0027】
同じ血小板の付着の低下が、特性を慎重に選択し、必要な表面特性を確保するために材料を処理した場合に代替の非超分子ポリマーとともに発生し得る。これらのポリマーとしては、生分解性または非生分解性のポリエステル、ポリウレタン、ポリカーボネート、ポリ(オルトエステル)、ポリホスホエステル、ポリ無水物、ポリホスファゼン、ポリヒドロキシアルカノエート、ポリビニルアルコール、ポリプロピレンフマレート等が挙げられる。ポリエステルの例としては、ポリカプロラクトン、ポリ(L-ラクチド)、ポリ(DL-ラクチド)、ポリ(バレロラクトン)、ポリグリコリド、ポリジオキサノン、およびこれらのコポリエステル等が挙げられる。ポリカーボネートの例としては、ポリ(トリメチレンカーボネート)、ポリ(ジメチルトリメチレンカーボネート)、ポリ(ヘキサメチレンカーボネート)等が挙げられる。
【0028】
さらに、移植片の管腔表面の形態は、血栓形成特性に重要な役割を果たす。ヒトの血液を用いて試験管内で行われた実験により、不織布メッシュの繊維径が重要であり、4~6μmの大径繊維が小径繊維よりも好ましいことが明らかになった。
【0029】
超分子ポリマーで作られた足場上の血小板凝集
さまざまな表面形態の電界紡糸SP材料のサンプルを、酸化インジウムスズ(ITO)でコーティングされたPETシートにコーティングした。これらのサンプルは、一定せん断率のフローセルを介して、トロンビンの活性化を阻害するために3.2%クエン酸塩を含むヒト血液に灌流にさらし、血小板の挙動を具体的に調査できるようにした。灌流の30分後、フローセルを取り外し、エタノール脱水を用いて材料の表面を固定し、走査型電子顕微鏡(SEM)で特性評価した。ネガティブコントロールは、サンプル被覆なしのPET-ITOシート上で実施され、有意な血小板付着を示さなかった。ポジティブコントロールは、コラーゲンでコーティングしたPET-ITO上で実施され、有意な血小板クラスター形成を示した。すべての実験は、複数の健康な献血者を対象に3回反復して行われた。
【0030】
電界紡糸SPメッシュは、市販のPTFE不織布材料と比較して、血小板活性の大幅な低下を示した。この効果は、直径の大きい繊維で最も明確であったが、PTFE不織布と同様の形態で、サブミクロン繊維でも広がりの減少は明らかであった。SP繊維および不織布PTFEへの血小板付着のSEM画像を高倍率(10,000倍)で示す。繊維への血小板の付着と活性化が明確に観察されるが、PTFE不織布と比較して、血小板の凝集と拡散は著しく低下している。すべての基体の低倍率(1,000倍)SEM画像も示されており、より広い領域での血小板の拡散と凝集の減少を示している。
【0031】
UPyベースの電界紡糸繊維は、同様の形態の市販の生体適合性材料と比較して、ヒトの血液中の血小板の拡散と凝集の減少を示す。観察された血小板の挙動は通常とは異なり、組織の再構築を達成するための生体吸収性デバイスに非常に適合している。活性化された血小板コーティングの存在により、その後の再構築段階と再上皮化が誘発される。しかし、活性血小板層が存在すると、しばしば重篤な血栓形成反応をもたらし、合成材料で構成される小径導管の急速な閉塞をもたらす。従って、この実証された血小板反応は、生体吸収性基材上での新生組織の形成にとって理想的な状況を表しており、これは完全な非血栓形成性の生体表面をもたらすものと理論化されている。さらに、超分子ケミストリの性質により合成ポリマーの機械的特性にある程度の柔軟性がもたらされ、これにより、デバイスの特性の調整可能性が向上し、血液反応がさらに改善される。
【0032】
試験材料上の血液製剤の表面被覆率の定量化は、SEMで観察された表面の総有孔度の減少の分析に基づくものとした。ImageJ(商標)ソフトウェアを使用して分析を実施し、その段階の概要は図3A図3Cに記載されている。簡単に述べると、SEM画像は、切り抜きとコントラスト強調、およびバイナリ画像(黒または白のピクセルのみを含む画像)への変換によって作成される。このバイナリ画像を、ImageJ(商標)の「閾値」機能、イメージ内の黒ピクセルの総数をカウントする機能を用いて分析する。このプロセスは、血液灌流前のサンプル表面の3つの特徴的なSEM画像に対して行われ、血液灌流後の表面のSEM画像と有孔度の変化が報告される。図4は、表面上への灌流後のすべての材料サンプルにおける血液製剤による表面コーティングによる有孔度の減少を示している。
【0033】
トロンビン不活性化ヒト血液を使用した血流実験に加えて、全血を使用して静的実験を実施した。これらの実験では、健康なドナーからの血液を、試験材料のサンプルとともに96ウェルプレートに入れた。サンプルチャンバを振盪インキュベータで37℃で20分間インキュベートした後、ピペットで血液を取り出し、フローサイトメトリーで特性評価した。
【0034】
これらの実験では、電界紡糸SP材料とともにインキュベートした血液中の糖タンパク質αIIbβ3の場合の細胞接着は、不織布PTFEからの流出血液サンプルの場合と比較して予想外の50%の減少が示され、また他の接着糖タンパク質、P-セレクチンの接着低下は観察されなかった(図5)。
【0035】
インテグリンαIIbβ3の不活性化による超分子ポリマーの繊維への血小板付着の非常に効果的な阻害
さまざまなサンプルでの全血実験のサイトメトリーから生じる結果に基づいて、電界紡糸SP繊維による血小板活性化および接着は、インテグリンαIIbβ3に強力にかつ特異的に依存するという仮定が得られた。
【0036】
付着のメカニズムを確認するために、αIIbβ3の阻害剤であるアブシキシマブ(ReoPro(商標))を、臨床的に適切な用量である10μg/mlのクエン酸入りの健康な血液に加えた。続けて、制御されたせん断速度フローセルを30分間使用して、繊維径4~6μmの電界紡糸不織布SP材料のサンプル材料および不織布PTFEのサンプルに血液を灌流した。フロー後、走査型電子顕微鏡を使用してサンプルを固定し、かつ画像化し、血小板付着を直接的な可視化できるようにした。アブシキシマブ(ReoPro(商標))の添加により、対照と比較して血小板接着が大幅に減少した(図6)。さらに、その効果は、PTFE不織布繊維材料の場合と比較して大幅に誇張された。生理学的に適切な用量での臨床的に利用可能な単一の薬剤(ReoPro(商標))を用いて合成ポリマー材料(XP)への血小板の付着をほぼ完全な阻害する能力が得られることは、さまざまな血液接触用途に適用できる新発見であると考えられる。
【0037】
上記のSEM画像からカウントした試験材料への吸収された血小板の数は、PTFE不織布の場合の78%(236から51)と比較して、アブシキシマブの追加後のSP電界紡糸材料で97%の減少(226から6)を示した。灌流後の糖タンパク質IIb/IIIaレベルに関する試験管内での血栓形成試験の上記データとともに、電界紡糸SP材料の血小板吸収阻害剤としてのアブシキシマブの明らかな特定の有効性に基づいて、糖タンパク質IIb/IIIaの阻害を標的とする作用メカニズムを有するあらゆる抗血小板化学療法薬が、SP電界紡糸材料に対して同様に誇張された効果を発揮することが提示されている。この拡張される効果のメカニズムは明確でないが、見かけの表面電荷密度の違いおよび/またはSP電界紡糸材料の関連する疎水性によってもたらされると仮定されている。表面電荷密度、または材料表面の単位面積あたりの電荷は、タンパク質の結合に影響することが知られている。この効果は、これらのタンパク質内の電荷分布が、異なった表面/同様に帯電した表面からの誘引効果/反発効果をそれぞれもたらすために発生する。さらに、かなりの程度の表面粗さを示す材料は、平坦な表面からのマイクロスケールの突起や、これらの表面のナノスケールの粗さや突起などの曲率領域で総電荷密度が増加するため、この効果をさらに誇張または悪化させる可能性がある。血小板活性化に対する表面電荷のこのような効果は、樹状突起の合成ポリマーに関する文献、Dobrovolskaiaら,2010(非特許文献1)で確立されている。
【0038】
さらに、電界紡糸繊維およびポリマーコーティングにアブシキシマブなどの化学療法剤を含めることが知られている(特許文献1)。SP電界紡糸材料と糖タンパク質IIb/IIIa阻害剤、特にアブシキシマブとの間に明らかな特異的相互作用があるので、この方法により非常に効果的な抗血栓効果が実現され得る。生体吸収性の電界紡糸超分子構築物と、アブシキシマブまたは糖タンパク質IIb/IIIa阻害を標的とする他の化合物との組み合わせは、この組み合わせにより、冠動脈バイパス移植などの用途で、従来は不可能であった身体自身の組織の再生が可能となり得るので特に効果的であると予想される。そのような化学療法剤を含める他の方法も同様に可能であると考えられ、そのような方法としては、限定しないが、共有結合か、または繊維表面での吸収、不織布表面にコーティングされたキャリア材料に含められることで電界紡糸繊維材料への取り込みも含まれる。さらに別の可能な方法は、経口投与、静脈内投与またはその他の方法で化学療法剤を投与することである。この投与は、心臓血管移植片の移植前、移植中、または移植後に行うことができる。
【0039】
大型動物モデルにおける電界紡糸超分子ポリマー(SP)材料の小径移植片の血栓閉塞における血小板の役割
電界紡糸SP材料の小径移植片の生体内の血栓閉塞における血小板の役割を実証するため、血小板の抑制を目的としたさまざまな投薬戦略をもって、ヒツジモデルに冠動脈バイパス移植片として4mm移植片を移植した。比較的低い流量(一般に<120mL/分)と、湾曲した移植片経路と、小さい直径との組み合わせが、合成移植片の最悪のシナリオを示すと予想され、これにより生体内での抗血小板治療の有効性を否定的に評価することが可能となる。
【0040】
手術の前に、ヘパリン、アスピリン(商標)およびプラビックス(商標)の組み合わせを動物に投薬した。ヘパリンはトロンビンの発生による凝固経路の確立された阻害剤であるため、観察されたすべての凝固反応は血小板の発生によるものとみなすことができる。アスピリンとプラビックスは両方とも二次血小板活性化に作用するが、これは活性化血小板がさらに循環する血小板を活性化する能力である。プラビックスはより強力な薬剤である。移植片は、外植、固定、および組織学およびSEMを介した特性化の前に4時間移植された。図7に見られるように、血小板抑制処置の増加により、移植片の不織布表面での血栓形成が大幅に減少した。これらの結果は、血小板の活性化と凝集が生体内の血栓形成の主要なメカニズムであることを示している。
【0041】
大型動物モデルにおけるSP電界紡糸材料の小径移植片の長期の血栓応答
SP電界紡糸材料の6および7mm移植片を含む小径移植片をヒツジモデルの頸動脈介在物として(それぞれn=4およびn=2)移植し、小径移植片の長期血栓形成反応を実証する。移植直後に血管造影と超音波検査により、そしてその後0日目、7日目、14日目、21日目、28日目、およびその後は1か月に1回の超音波検査により移植片の開通性を評価した。移植片の近位部、遠位部、および中間部を、この期間の内腔直径の変化について評価した。試験動物の半分を6ヶ月時点で屠殺し、肉眼的組織学的特性化のために移植片を外植し、残りの動物は12ヶ月で屠殺し外植する計画とした。
【0042】
動物は、手術時に開始して、1日2回90日間にわたって0.4mLの「Lovenox(登録商標)」エノキサパリン(商標)(低分子量ヘパリン)を投薬し、かつ屠殺まで1日1回、125mgのアスピリン(商標)を投薬した。
【0043】
図8に見られるように、血管造影は、6ヶ月の時点で外植前に移植片の良好な開通性を示した。図9は、試験過程にデータをとった遠位吻合(血栓性閉塞が最も起こりやすい)の直径を示す。
【0044】
超分子ポリマーの製造方法
例示的な一実施形態では、超分子ポリマーは、2017年12月28日出願の米国特許米国仮出願第62/611431号に記載されているレシピの1つを使用して作成することができ、当該米国特許出願は、本願が出願する優先権の基礎出願であり、その全内容は、参照により本明細書の一部とする。
【0045】
これらのレシピによれば、超分子化合物は、柔らかいブロックと共有結合した硬いブロックとして定義される。硬いブロックはUPy部分をベースとしている。柔らかいブロックは、超分子化合物の骨格である。特にポリカプロラクトンと比較して、本発明の意図および目的に対して驚くほどの有利な効果を示したため、ポリカーボネート(PC)を使用した。
【0046】
柔らかいブロックと硬いブロックの比率は、材料特性に影響する。ここでは、硬いブロックセクション内の構成成分の比率が耐久性などの特性に大きな影響を与えることを説明する。ここでは、硬いブロック内の当該比率と、機械的特性(耐久性)を向上させる柔らかいブロックの形成に使用されるポリマーの長さの特定の組み合わせを説明する。硬いブロック内の2-ウレイド-4[1H]-ピリミジノン化合物(UPy化合物)と鎖延長部との比率(R)は、UPy化合物に対して鎖延長部が1.5~3の範囲である。
【0047】
[PCLポリマー-XP1]
分子量800g/mol(30.0g、37.5mmol、真空下で乾燥)のテレケリックヒドロキシ末端ポリカプロラクトン、1,6-ヘキサンジオール(4.4g、37mmol)、およびUPy-モノマー(6.3g、37mmol)は80℃で乾燥DMSO(105mL)に溶解した。この反応混合物に、ヘキサメチレンジイソシアネート(18.8g、111.5mmol)を攪拌しながら添加し、続いて1滴のスズオクトエート(tin dioctoate)を添加した。この反応混合物を80℃で一晩撹拌した。翌日、反応混合物を25℃に冷却し、水に混合物を沈殿させるために追加のDMSOを加えることにより粘度を下げた。ポリマーを白色の弾性固体として収集し、クロロホルム/メタノール(7/3v/v)に再溶解し、過剰のメタノールで再沈殿させた。これにより、50℃の真空下で乾燥した後、透明な弾性固体が得られた。SEC(THF、PS-標準):Mn=13kg/mol、D=1.6。国際公開第2014/185779号(特許文献2)も参照。
【0048】
PCポリマー
分子量が500~3000g/mlのポリカーボネートで作られたポリマーは、XP1と同様の方法で合成された。ポリカーボネートの長さと構成成分間の望ましい比率に応じて変更がなされた。モル比は次のように表現できる。A(ポリカーボネート)は1に固定される。B(鎖延長部)は0~3の間で変えられ、D(Upy)は0.3~2の間で変えられ、Cは、AとBとDの合計モル量の0.8~1.2倍に常に等しくなる。モル比B/DはRと表記されている。表1は、前述の指示に従って得られた超分子ポリマーの例(全てを網羅していない)のリストを提示している。
【0049】
表1 材料のリスト
【0050】
例えば、耐久性に影響を与える可能性がある機能は、足場内の繊維の整列である。好ましい繊維の整列は、管状インプラントの場合、軸が血流の方向であるインプラントの仮想的な軸の周りの円周方向である。図11から、整列により耐疲労性を増加させられることが明確にわかる。好ましい繊維方向と好ましい繊維方向に垂直な線との間の線形弾性剛性比として定義される整列は、最大8:1まで変化した。図11は、電界紡糸超分子ポリマー心臓弁における整列の比較に基づいているが、同じ原理が心臓血管移植片に適用されると考えられる。
【0051】
補足情報
1.範囲(耐久性を中心に)
・モル比Rは、0~3の範囲で変化した。1.5を超えるモル比で増強された/最適な耐疲労性が得られた。
・PCの長さは500~3000g/molで変化した。PCの長さが1000の場合、増強された/最良の耐疲労性が得られた。
・鎖延長部の質量比は0~15で変化した。高HD比(9w%以上)で増強された/最良の耐疲労性が得られた。
【0052】
2.足場構造
・[厚さ]は、数μmからmmの間で変えることができるが、好ましい厚さは200~800μm、さらに好ましくは250~550μmである(平均300~500μmが良い結果をもたらす)。
・[繊維径]は、1μm~20μmの広い範囲で得られる。好ましくは、3~15μmの範囲で、さらに好ましくは4~10μmの範囲で実施する。
・[繊維の整列]は、特に電界紡糸がガイドされていない場合に耐久性を高める別のパラメーターであり、ランダム分布から1:2(円周方向:軸方向)の組織化(軸方向の剛性は周方向の剛性の2倍を意味する)をもたらす。繊維は、無限大:1~1:2の比率で整列できる。耐久性が大幅に向上するため、2:1~8:1の比率で実施することが望ましい。
・[細孔径]:マトリックス材料は、直径が1~300μm、好ましくは5~100μmの細孔を含む。
・[有孔度]:マトリックス材料は繊維ネットワークを構成し、有孔度は50%~80%である。
【0053】
心血管移植片の作製方法
心臓血管移植片を作製するための例示的な一実施形態では、例えば以下のレシピの1つで得られる超分子ポリマー(SP)材料を、クロロホルムとヘキサフルオロイソプロパノールの溶媒混合物に11.5重量%の濃度に溶解する。この溶液は、シリンジポンプを介して、5~10kVの電圧に維持された平滑末端のステンレス鋼ニードルに供給され、静電駆動のホイップジェットが生成される。このジェットは、1~4kVの負の電圧に帯電した円筒形のコレクターに引き付けられ、非常に多孔性の高い繊維性不織布コーティングが形成される。厚さ0.5mmの電界紡糸ポリマー材料を堆積させた後、先端が柔らかいスパチュラで分離することによりコレクターデバイスからの除去がなされ、壁厚が0.5mmの電界紡糸チューブ状移植片が得られる。
【0054】
結論
本願に記載のデータは、血小板の活性化、付着および拡散に対する本発明の心臓血管移植片の予期しない効果を実証している。既知の生体適合性合成ポリマーと比較した場合の、心臓血管移植片での血小板の発生による血栓形成について定量化可能な減少が実証されている(例:図4:、電界紡糸SP材料で27%の有孔度減少、PTFEで59%の有孔度減少)。さらに、特異な細胞接着タンパク質糖タンパク質IIb/IIIaへのこれまで未知で予期せぬ依存性が示されている。この予期しない相互作用は、SPの電界紡糸繊維の表面電荷の結果に基づくものと仮定される。特定の糖タンパク質に対する血小板接着のこの依存性により、細胞接着分子に対してより広範な阻害を必要とするPTFEなどの既知の生体適合性合成ポリマーとは対照的に、単一の化学療法剤によって血小板の発生による血栓症に強い影響を与えること可能となる。部位特異的かつ非常に効果的な血小板阻害を提供するためのSP材料の電界紡糸繊維によるそのような化学療法剤の組み込みまたは表面吸収について、さらなる調査を行うことが提案されている。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8A
図8B
図8C
図9
図10
図11