IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 台湾立凱電能科技股▲ふん▼有限公司の特許一覧

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-06
(45)【発行日】2023-02-14
(54)【発明の名称】正極材料の顆粒構造及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/525 20100101AFI20230207BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20230207BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20230207BHJP
   C01G 53/00 20060101ALI20230207BHJP
【FI】
H01M4/525
H01M4/505
H01M4/36 C
C01G53/00 A
【請求項の数】 18
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2021176679
(22)【出願日】2021-10-28
(65)【公開番号】P2022121369
(43)【公開日】2022-08-19
【審査請求日】2021-12-07
(31)【優先権主張番号】110104766
(32)【優先日】2021-02-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】TW
(73)【特許権者】
【識別番号】517232729
【氏名又は名称】台湾立凱電能科技股▲ふん▼有限公司
【氏名又は名称原語表記】Advanced Lithium Electrochemistry Co.,Ltd.
【住所又は居所原語表記】No. 2-1, Singhua Rd., Taoyuan Dist., Taoyuan City,330,Taiwan,
(74)【代理人】
【識別番号】110001139
【氏名又は名称】SK弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100130328
【弁理士】
【氏名又は名称】奥野 彰彦
(74)【代理人】
【識別番号】100130672
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 寛之
(72)【発明者】
【氏名】余▲ヂィン▼豪
(72)【発明者】
【氏名】呉乃立
(72)【発明者】
【氏名】林佳▲シィン▼
【審査官】結城 佐織
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第108390039(CN,A)
【文献】特表2011-526732(JP,A)
【文献】特開2020-119784(JP,A)
【文献】特開2001-006672(JP,A)
【文献】特開2016-033902(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/525
H01M 4/505
H01M 4/36
C01G 53/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
組み込まれてコア層を形成し、かつ少なくともニッケル、コバルト及びマンガンを含む前駆体を提供する工程(a)と、
少なくともカリウム、アルミニウム及び硫黄を含む金属塩、及びリチウムイオン化合物を提供する工程(b)と、
前記金属塩、前記リチウムイオン化合物及び前記前駆体を混合して、混合物を形成する工程(c)と、
前記混合物を熱処理工程を行い反応させて、前記コア層、第一の被覆層及び第二の被覆層を含み、前記コア層がカリウム、アルミニウム及びLi-M-O系材料を含み、ここで、Mがニッケル、コバルト、マンガン、マグネシウム、チタン、アルミニウム、スズ、クロム、バナジウム、モリブデン及びこれらの組み合わせから選ばれ、前記第一の被覆層が前記コア層に被覆され、前記第二の被覆層が前記第一の被覆層に被覆され、前記第一の被覆層がカリウムとアルミニウムを含み、かつ前記第一の被覆層のカリウム含有量が前記コア層のカリウム含有量より高く、前記第二の被覆層が硫黄を含む、正極材料の顆粒構造を形成する工程(d)と、
を含むことを特徴とする、正極材料の顆粒構造の製造方法。
【請求項2】
前記Li-M-O系材料は、ニッケルコバルトマンガン酸リチウムであることを特徴とする、請求項1に記載の正極材料の顆粒構造の製造方法。
【請求項3】
前記正極材料の顆粒構造の粒子径は、3μmから10μmの範囲であることを特徴とする、請求項1に記載の正極材料の顆粒構造の製造方法。
【請求項4】
前記正極材料の顆粒構造におけるカリウムのモルパーセントは、0.01モル%から0.2モル%の範囲であり、前記正極材料の顆粒構造におけるアルミニウムのモルパーセントは、0.01モル%から0.2モル%の範囲であることを特徴とする、請求項1に記載の正極材料の顆粒構造の製造方法。
【請求項5】
前記第一の被覆層は第一の厚さを有し、前記第二の被覆層は第二の厚さを有し、前記第一の厚さは前記第二の厚さより大きいことを特徴とする、請求項1に記載の正極材料の顆粒構造の製造方法。
【請求項6】
前記第一の厚さの厚さ範囲は12nmから70nmの範囲であり、前記第二の厚さの厚さ範囲は1nmから3nmの範囲であり、かつ前記第一の厚さの厚さ範囲及び前記第二の厚さの厚さ範囲は、X線光電子分光計及び飛行時間型二次イオン質量分析計による分析結果から分かることを特徴とする、請求項5に記載の正極材料の顆粒構造の製造方法。
【請求項7】
前記前駆体は、少なくともニッケル、コバルト、マンガンを含む第一の水溶液と、少なくともシュウ酸を含む第二の水溶液との共沈殿によって形成されることを特徴とする、請求項1に記載の正極材料の顆粒構造の製造方法。
【請求項8】
前記工程(b)は、さらに、前記金属塩及び前記リチウムイオン化合物を水に共溶解させて、第三の水溶液を形成する工程(b1)を含むことを特徴とする、請求項1に記載の正極材料の顆粒構造の製造方法。
【請求項9】
前記前駆体に対する前記金属塩の重量パーセントは0.1wt%から2wt%の範囲であることを特徴とする、請求項1に記載の正極材料の顆粒構造の製造方法。
【請求項10】
前記熱処理工程は保温工程を含み、かつ前記保温工程の温度は700℃以上であることを特徴とする、請求項1に記載の正極材料の顆粒構造の製造方法。
【請求項11】
前記熱処理工程は、さらに、第一の熱処理工程及び第二の熱処理工程を含み、前記第二の熱処理工程の最高温度が第一の熱処理工程の最高温度よりも高いことを特徴とする、請求項1に記載の正極材料の顆粒構造の製造方法。
【請求項12】
前記金属塩がミョウバンであることを特徴とする、請求項1に記載の正極材料の顆粒構造の製造方法。
【請求項13】
カリウム、アルミニウム及びLi-M-O系材料を含み、ここで、Mがニッケル、コバルト、マンガン、マグネシウム、チタン、アルミニウム、スズ、クロム、バナジウム、モリブデン及びこれらの組み合わせから選ばれるコア層と、
前記コア層に被覆され、カリウムとアルミニウムを含み、かつそのカリウム含有量は前記コア層のカリウム含有量よりも高い第一の被覆層と、
前記第一の被覆層に被覆され、硫黄を含む第二の被覆層と、
を含むことを特徴とする、正極材料の顆粒構造。
【請求項14】
前記Li-M-O系材料はニッケルコバルトマンガン酸リチウムであることを特徴とする、請求項13に記載の正極材料の顆粒構造。
【請求項15】
前記正極材料の顆粒構造の粒子径は、3μmから10μmの範囲であることを特徴とする、請求項13に記載の正極材料の顆粒構造。
【請求項16】
前記正極材料の顆粒構造におけるカリウムのモルパーセントは、0.01モル%から0.2モル%の範囲であり、前記正極材料の顆粒構造におけるアルミニウムのモルパーセントは0.01モル%から0.2モル%の範囲であることを特徴とする、請求項13に記載の正極材料の顆粒構造。
【請求項17】
前記第一の被覆層は第一の厚さを有し、前記第二の被覆層は第二の厚さを有し、前記第一の厚さは前記第二の厚さよりも大きいことを特徴とする、請求項13に記載の正極材料の顆粒構造。
【請求項18】
前記第一の厚さの厚さ範囲は12nmから70nmの範囲であり、前記第二の厚さの厚さ範囲は1nmから3nmの範囲であり、かつ前記第一の厚さの厚さ範囲及び前記第二の厚さの厚さ範囲は、X線光電子分光計及び飛行時間型二次イオン質量分析計による分析結果から分かることを特徴とする、請求項17に記載の正極材料の顆粒構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二次電池の正極材料、特に電圧とサイクル寿命を向上させる正極材料の顆粒構造及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、技術の進歩と環境意識の高まりに伴い、再利用可能な二次電池に対する要求が日々高まっている。二次電池を使用する一般的なデバイスには、スマートフォン、ノートパソコン、デジタルカメラ、電気自動車などが含まれる。小型化とますます複雑化する機能の要求に対応するために、これらのデバイスは、使用される二次電池に一定の性能が要求されている。
【0003】
多くの種類の二次電池において、リチウムイオン電池は、エネルギー密度が高く、動作電圧が高く、サイクル寿命が長いなどの利点があり、現在非常に人気があり、発展潜在力を持つ選択肢である。しかし、充放電の過程で、リチウムイオン電池の正極材料の表面が電解液と反応しやすいことで、電圧やサイクル寿命などの性能が低下し、電池の性能に悪影響を及ぼす。
【0004】
そこで、電圧とサイクル寿命を向上させる正極材料の顆粒構造及びその製造方法をどのように開発するかは、本技術分野が解決しようとする重要課題である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、静電容量とサイクル寿命を向上させる正極材料の顆粒構造及びその製造方法を提供することにある。正極材料の顆粒構造は、少なくとも2つの被覆層を有し、かつ異なる層は異なる元素組成を有する。少なくとも2つの被覆層は、例えば、内層となる第一の被覆層及び外層となる第二の被覆層である。例えば、内層の第一の被覆層にはカリウムとアルミニウムなどの成分を含み、リチウムイオンの遷移に有利であり、例えば、外層の第二の被覆層には硫黄を含み、充放電の過程での正極材料と電解液との反応を防止することで、サイクル寿命、静電容量及び安定度などの性能を向上させる目的を達成する。
【0006】
本発明の別の目的は、電圧とサイクル寿命を向上させる正極材料の顆粒構造及びその製造方法を提供することにある。例えばニッケル、コバルト、マンガンを含む前駆体に、例えばカリウム、アルミニウム、硫黄を含む金属塩、及び例えばリチウムイオン化合物を混合して添加することにより、熱処理後に少なくとも2つの被覆層を有する正極材料の顆粒構造を形成することができる。このうち、少なくとも2つの被覆層は、例えばX線光電子分光計(X-ray photoelectron spectroscopy、XPS)と飛行時間型二次イオン質量分析計(Time-of-flight secondary ion mass spectrometer、TOF-SIMS)により分析して、被覆の組成及び被覆の厚さを分かり得る。少なくとも2つの被覆層が異なる組成成分を有し、例えば、それぞれ例えばカリウム、アルミニウム、硫黄などの成分を含むため、リチウムイオンの遷移を向上させるとともに、充放電の過程での正極材料と二次電池における電解液との反応を防止するなどの役割を同時に達成するのに役立つ。
【0007】
本発明のまた別の目的は、電圧とサイクル寿命を向上させる正極材料の顆粒構造及びその製造方法を提供することにある。例えば特定範囲の割合のミョウバンを利用して前駆体に添加し、例えば二段階の熱処理により、少なくとも2つの被覆層を有する正極材料の顆粒構造を形成し、かつ前記正極材料構造のカチオンの転位の程度が小さく、良好な層状構造を有する。その製造プロセスは簡単で低コストであり、正極材料顆粒の製品競争力の向上に寄与する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明は、コア層、第一の被覆層及び第二の被覆層を含む正極材料の顆粒構造を提供する。第一の被覆層はコア層に被覆されている。第二の被覆層は第一の被覆層に被覆されている。コア層は、カリウムとアルミニウムを含む。第一の被覆層には、カリウムとアルミニウムを含み、かつ第一の被覆層におけるカリウム含有量は、コア層のカリウム含有量よりも高い。第二の被覆層には、硫黄を含む。コア層及び第一の被覆層におけるカリウムとアルミニウムは、リチウムイオンの遷移に有利であり、これによって、電池の静電容量性能を向上させる。第二の被覆層における硫黄は、正極材料の顆粒構造と電解液との反応を防止し、電池サイクル寿命と安定度を向上させることができる。
【0009】
一実施形態では、コア層はLi-M-O系材料であり、ここで、Mがニッケル、コバルト、マンガン、マグネシウム、チタン、アルミニウム、スズ、クロム、バナジウム、モリブデン、及びこれらの組み合わせから選ばれる。
【0010】
一実施形態では、Li-M-O系材料はニッケルコバルトマンガン酸リチウムである。
【0011】
一実施形態では、正極材料の顆粒構造の粒子径は3μmから10μmの範囲である。
【0012】
一実施形態では、正極材料の顆粒構造におけるカリウムのモルパーセントは0.01モル%から0.2モル%の範囲であり、アルミニウムのモルパーセントは0.01モル%から0.2モル%の範囲である。
【0013】
一実施形態では、第一の被覆層は第一の厚さを有し、第二の被覆層は第二の厚さを有し、第一の厚さは第二の厚さよりも大きい。
【0014】
一実施形態では、第一の厚さの厚さ範囲は12nmから70nmの範囲であり、第二の厚さの厚さ範囲は1nmから3nmの範囲であり、かつ第一の厚さの厚さ範囲及び第二の厚さの厚さ範囲は、X線光電子分光計(XPS)及び飛行時間型二次イオン質量分析計(TOF-SIMS)による分析結果から分かり得る。
【0015】
前述の目的を達成するために、本発明はまた、組み込まれてコア層を形成し、かつ少なくともニッケル、コバルト及びマンガンを含む前駆体を提供する工程(a)、少なくともカリウム、アルミニウム及び硫黄を含む金属塩、及びリチウムイオン化合物を提供する工程(b)、金属塩、リチウムイオン化合物及び前駆体を混合して、混合物を形成する工程(c)、及び混合物を熱処理工程を行い反応させて、コア層、第一の被覆層及び第二の被覆層を含み、第一の被覆層がコア層に被覆され、第二の被覆層が第一の被覆層に被覆され、第一の被覆層がカリウムとアルミニウムを含み、かつ第二の被覆層中には硫黄を含む、正極材料の顆粒構造を形成する工程(d)、を含む正極材料の顆粒構造の製造方法を提供する。
【0016】
一実施形態では、コア層はLi-M-O系材料を含み、ここで、Mがニッケル、コバルト、マンガン、マグネシウム、チタン、アルミニウム、スズ、クロム、バナジウム、モリブデン及びこれらの組み合わせから選ばれる。
【0017】
一実施形態では、Li-M-O系材料はニッケルコバルトマンガン酸リチウムである。
【0018】
一実施形態では、正極材料の顆粒構造の粒子径は3μmから10μmの範囲である。
【0019】
一実施形態では、正極材料の顆粒構造におけるカリウムのモルパーセントは0.01モル%から0.2モル%の範囲であり、アルミニウムのモルパーセントは0.01モル%から0.2モル%の範囲である。
【0020】
一実施形態では、第一の被覆層は第一の厚さを有し、第二の被覆層は第二の厚さを有し、第一の厚さは第二の厚さよりも大きい。
【0021】
一実施形態では、第一の厚さの厚さ範囲は12nmから70nmの範囲であり、第二の厚さの厚さ範囲は1nmから3nmの範囲であり、かつ第一の厚さの厚さ範囲及び第二の厚さの厚さ範囲は、X線光電子分光計(XPS)及び飛行時間型二次イオン質量分析計(TOF-SIMS)による分析結果から分かり得る。
【0022】
一実施形態では、前駆体は、少なくともニッケル、コバルト、マンガンを含む第一の水溶液と少なくともシュウ酸を含む第二の水溶液との共沈殿によって形成される。
【0023】
一実施形態では、工程(b)は、さらに、金属塩及びイオン化合物を水に共溶解させて、第三の水溶液を形成する工程(b1)を含む。
【0024】
一実施形態では、前駆体に対する金属塩の重量パーセントは0.1wt%から2wt%の範囲である。
【0025】
一実施形態では、熱処理工程は保温工程を含み、かつ保温工程の温度が700℃以上であり、これによって、正極材料の顆粒構造の結晶格子を層状構造に配列させる。
【0026】
一実施形態では、熱処理工程は、さらに、第一の熱処理工程及び第二の熱処理工程を含み、第二の熱処理工程の最高温度が第一の熱処理工程の最高温度よりも高く、これによって、正極材料の顆粒構造の結晶格子を好ましい層状構造に配列させる。
【0027】
一実施形態では、金属塩はミョウバンである。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1図1は、本発明にかかる正極材料の顆粒構造の概略構造図である。
図2A図2Aは、本発明にかかる正極材料の顆粒構造のSEM画像である。
図2B図2Bは、本発明にかかる正極材料の顆粒構造のSEM画像である。
図2C図2Cは、本発明にかかる正極材料の顆粒構造のSEM画像である。
図3図3は、本発明にかかる正極材料の顆粒構造の製造方法のフローチャートである。
図4A図4Aは、本発明の一実施形態における第一の熱処理工程の温度時間変化を示すグラフである。
図4B図4Bは、本発明の一実施形態における第二の熱処理工程の温度時間変化を示すグラフである。
図5A図5Aは、本発明の実施例二及び実施例三のXPSスペクトルである。
図5B図5Bは、本発明の実施例二及び実施例三のXPSスペクトルである。
図5C図5Cは、本発明の実施例二及び実施例三のXPSスペクトルである。
図6A図6Aは、本発明の実施例二及び実施例三におけるカリウム元素のTOF-SIMSスペクトル。
図6B図6Bは、本発明の実施例二及び実施例三におけるアルミニウム元素のTOF-SIMSスペクトルである。
図7A図7Aは、ミョウバンを添加していない対照群と本発明の実施例一、実施例二、実施例三の、異なる充放電速度での充放電試験の結果である。
図7B図7Bは、ミョウバンを添加していない対照群と本発明の実施例一、実施例二、実施例三の、異なる充放電速度での充放電試験の結果である。
図8A図8Aは、ミョウバンを添加していない対照群と本発明の実施例一、実施例二、実施例三の、ある充放電速度、電圧及び温度の条件での静電容量試験の結果である。
図8B図8Bは、ミョウバンを添加していない対照群と本発明の実施例一、実施例二、実施例三の、ある充放電速度、電圧及び温度の条件での静電容量試験の結果である。
図9A図9Aは、ミョウバンを添加していない対照群と本発明の実施例一、実施例二、実施例三の、別の充放電速度、電圧及び温度の条件での静電容量試験の結果である。
図9B図9Bは、ミョウバンを添加していない対照群と本発明の実施例一、実施例二、実施例三の、別の充放電速度、電圧及び温度の条件での静電容量試験の結果である。
図10A図10Aは、ミョウバンを添加していない対照群と本発明の実施例一、実施例二、実施例三の、また別の充放電速度、電圧及び温度の条件での静電容量試験の結果である。
図10B図10Bは、ミョウバンを添加していない対照群と本発明の実施例一、実施例二、実施例三の、また別の充放電速度、電圧及び温度の条件での静電容量試験の結果である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明の特徴と利点を示すいくつかの典型的な実施形態について、後述の説明において記述する。本発明は異なる態様において様々な変化を有することができ、いずれも本発明の範囲から逸脱することなく、かつその説明及び図面は本質的に例示するために用いられものであり、本発明を限定する意図はないことを理解されたい。
【0030】
図1は本発明の正極材料の顆粒構造の概略構造図である。正極材料の顆粒構造1は、コア層10、第一の被覆層20及び第二の被覆層30を含む。第一の被覆層20はコア層10に被覆されている。第二の被覆層30は第一の被覆層20に被覆されている。コア層10はカリウムとアルミニウムを含む。第一の被覆層20にはカリウムとアルミニウムを含み、かつ第一の被覆層20におけるカリウム含有量は、前記コア層10のカリウム含有量よりも高い。第二の被覆層30には硫黄を含む。コア層10及び第一の被覆層20におけるカリウムとアルミニウムは、リチウムイオンの遷移に有利であり、これによって、電池の静電容量性能を向上させる。第二の被覆層30における硫黄は、正極材料の顆粒構造と電解液との反応を防止し、電池サイクル寿命と安定度を向上させることができる。
【0031】
図2Aから図2Cは、本発明の正極材料の顆粒構造のSEM画像である。本実施形態では、正極材料の顆粒構造1はLi-M-O系材料であり、ここで、Mがニッケル、コバルト、マンガン、マグネシウム、チタン、アルミニウム、スズ、クロム、バナジウム、モリブデン及びこれらの組み合わせから選ばれ、例えば、化学式LiNiCoMnで表されるニッケルコバルトマンガン酸リチウムであり、このうち、x+y+z=1、かつ0<x<1、0<y<1、0<z<1。好ましくは、ニッケルの含有量が高いニッケルコバルトマンガン酸リチウムであり、例えば、化学式LiNi0.8Co0.1Mn0.1で表されるニッケル、コバルト、マンガンのモル比が8:1:1であるリチウムニッケルコバルトマンガン酸化物である。正極材料の顆粒構造1を走査型電子顕微鏡(Scanning electron microscope、SEM)で観察した結果は、図2Aから図2Cに示されており、正極材料の顆粒構造1の粒子径は3μmから10μmの範囲であることが分かる。本実施形態では、正極材料の顆粒構造1におけるカリウムのモルパーセントは0.01モル%から0.2モル%の範囲であり、アルミニウムのモルパーセントは0.01モル%から0.2モル%の範囲である。
【0032】
本実施形態では、第一の被覆層20は第一の厚さH1を有し、第二の被覆層30は第二の厚さH2を有し、第一の厚さH1は第二の厚さH2よりも大きい。第一の厚さH1の厚さ範囲は12nmから70nmの範囲であり、第二の厚さH2の厚さ範囲は1nmから3nmの範囲である。第一の厚さH1及び第二の厚さH2の厚さ範囲は、例えばX線光電子分光計(X-ray photoelectron spectroscopy、XPS)による表面分析、及び例えば飛行時間型二次イオン質量分析計(TOF-SIMS)による深さ方向分析の結果から分かり得る。本発明では、例えばオージェ電子分光装置(Auger electron spectroscopy、AES)などの表面分析及び深さ方向分析を行うことができる任意の検出装置が適用可能であり、これに限定されないことに注意すべきである。
【0033】
前述の正極材料の顆粒構造1によれば、本発明はまた、正極材料の顆粒構造1の製造方法を提供する。図3は本発明の正極材料の顆粒構造の製造方法のフローチャートである。まず、工程S1に示すように、組み込まれて正極材料の顆粒構造1のコア層10を形成する前駆体を提供する。ニッケルコバルトマンガン酸リチウム材料の形成を例として、前駆体は少なくともニッケル、コバルト及びマンガンを含む。当然、本発明はこれに限定されない。本実施形態では、前駆体は、例えば第一の水溶液と第二の水溶液との共沈殿によって形成することができる。第一の水溶液は少なくともニッケル、コバルト、マンガンを含み、例えば、硫酸ニッケル(NiSO)水溶液、硫酸コバルト(CoSO)水溶液、硫酸マンガン(MnSO)水溶液を混合した水溶液であってもよい。第二の水溶液は、少なくともシュウ酸(H)を含み、例えば、シュウ酸水溶液、水酸化ナトリウム水溶液、アンモニア水を混合した水溶液であってもよい。
【0034】
また、工程S2に示すように、金属塩及びリチウムイオン化合物を提供する。本実施形態では、金属塩の組成元素は、少なくともカリウム、アルミニウム及び硫黄を含み、例えば、ミョウバン(KAl(SO)であってもよい。リチウムイオン化合物は、例えば、水酸化リチウム一水和物(LiOH・HO)であってもよい。
【0035】
その後、工程S3に示すように、金属塩、リチウムイオン化合物及び前駆体を混合して、混合物を形成する。本実施形態では、均一に混合するように、金属塩及びリチウムイオン化合物は前駆体と混合する前に、例えば予め水に共溶解して第三の水溶液を形成してもよい。本実施形態では、前駆体に対する金属塩の重量パーセントは0.1wt%から2wt%の範囲である。
【0036】
最後に、工程S4に示すように、混合物を、例えば焼成である熱処理工程を行い反応させて、正極材料の顆粒構造1を形成する。本実施形態では、熱処理工程は、保温工程及び降温工程を含み、かつ保温工程の温度は700℃以上である。温度を例えば700℃に安定的に維持することにより、正極材料の顆粒構造1の結晶格子配列を良好な層状構造に形成させることができる。降温工程は、正極材料の顆粒構造1における酸素欠陥の発生を低減させ、電池の性能を向上させるのに有利である。本実施形態では、熱処理工程は、例えば第一の熱処理工程及び第二の熱処理工程をさらに含み、かつ第二の熱処理工程の最高温度が第一の熱処理工程の最高温度よりも高い。第一の熱処理工程の最高温度は、例えば700℃であってもよく、第二の熱処理工程の最高温度は、例えば775℃であってもよい。二段階の高温焼成により、正極材料の顆粒構造1におけるカチオンの転位を低減させ、結晶格子を好ましい層状配列構造に形成させ、さらに電池の性能を向上させることができる。
【実施例
【0037】
以下、本発明の製造プロセスと効果について、例により詳細に説明する。
【0038】
実施例一
【0039】
第一の水溶液と第二の水溶液とを混合し共沈殿させて、前駆体を形成する。第一の水溶液は金属イオンを含む水溶液であり、0.24Mの硫酸ニッケル六水和物(NiSO・6HO)水溶液、0.03Mの硫酸コバルト七水和物(CoSO・7HO)水溶液及び0.03Mの硫酸マンガン一水和物(MnSO・HO)水溶液を混合してなる。第二の水溶液はシュウ酸を含む水溶液であり、0.33Mのシュウ酸(H)水溶液、0.3Mの水酸化ナトリウム(NaOH)水溶液及び0.075Mのアンモニア水(NHOH)水溶液を混合してなる。形成される前駆体はNi0.8Co0.1Mn0.1・2HOである。
【0040】
少なくともカリウム、アルミニウム及び硫黄を含む金属塩、リチウムイオン化合物及び前駆体を水に共溶解させて、第三の水溶液を形成する。金属塩はミョウバン(KAl(SO)であり、イオン化合物は水酸化リチウム一水和物(LiOH・HO)である。前駆体に対するミョウバンの重量パーセントは0.3wt%である。
【0041】
図4Aは、本発明の一実施形態にかかる第一の熱処理工程の温度時間変化を示すグラフである。図4Bは、本発明の一実施形態にかかる第二の熱処理工程の温度時間変化を示すグラフである。第三の水溶液と前駆体を混合して、混合物を形成する。混合物を研磨した後、一回目の焼成を行う。一回目の焼成の温度時間変化を示すグラフは図4Aに示されている。開始温度は室温(25℃)から始まり、混合物の表面に残される水分を除去するように、1.94℃/minの加熱速度で1時間20分維持し、180℃に達する。水和物の結晶水を除去するように、0.17℃/minの加熱速度で7時間維持し、250℃に達する。シュウ酸イオンを分解させ、混合物を酸化させるように、0.14℃/minの加熱速度で12時間維持し、350℃に達する。水酸化リチウムを融解させるように、0.4℃/minの加熱速度で6時間15分維持し、500℃に達する。リチウムイオンを結晶格子構造に埋め込ませるように、2.22℃/minの加熱速度で1時間30分維持し、700℃に達する。最後に、結晶格子を層状構造に配列させるように、700℃で12時間保温する。一回目の焼成処理された混合物を取り出し、研磨し、ふるい分けして二回目の焼成を行う。二回目の焼成の温度時間変化を表すグラフは図4Bに示されている。開始温度は室温(25℃)から始まり、毎分5℃の加熱速度で2.5時間維持し、775℃に達する。結晶格子を好ましい層状構造に配列させるように、775℃で20時間保温する。最後に、結晶格子構造にける酸素欠陥の発生を低減させるように、毎分-0.78℃の加熱速度で8時間維持し、400℃に達する。二回目の焼成処理された混合物を取り出し、研磨し、ふるい分けして、元素組成が異なる複数の層を有する正極材料の顆粒構造が得られる。二段階の焼成により、正極材料の顆粒構造におけるカチオンの転位が低減され、かつ良好な層状配列構造を有する。
【0042】
実施例二
【0043】
実施例二は、前駆体に対するミョウバンの重量パーセントが0.5wt%である以外は、実施例一の製造プロセスとほぼ同じである。
【0044】
実施例三
【0045】
実施例三は、前駆体に対するミョウバンの重量パーセントが1wt%である以外は、実施例一の製造プロセスとほぼ同じである。
【0046】
図5Aから図5Cは、本発明の実施例二及び実施例三のXPSスペクトルである。実施例二及び実施例三では、X線光電子分光計(X-ray photoelectron spectroscopy、XPS)により表面分析し、それぞれ図5A図5B及び図5Cが得られる。図5A図5B及び図5Cでは、それぞれカリウム、アルミニウム及び硫黄の結合エネルギーの区間に明確なピークが見られる。このことから、ミョウバン(KAl(SO4))の組成元素におけるカリウム、アルミニウム及び硫黄はいずれも正極材料の顆粒構造に残っていることが分かる。
【0047】
図6Aは、本発明の実施例二及び実施例三におけるカリウム元素のTOF-SIMSスペクトル。図6Bは本発明の実施例二及び実施例三におけるアルミニウム元素のTOF-SIMSスペクトルである。実施例二及び実施例三では、飛行時間型二次イオン質量分析計(Time-of-flight secondary ion mass spectrometer、TOF-SIMS)により深さ方向分析し、スパッタリング深さ300ナノメートル内にカリウム元素及びアルミニウム元素のシグナルがあり、それぞれ図6A及び図6Bに示されており、硫黄元素は明確なシグナルがない。前述のXPSの分析結果と組み合わせると、硫黄元素は正極材料の顆粒構造の表面の深さ約1ナノメートルから3ナノメートルに存在し、カリウム元素とアルミニウム元素は正極材料の顆粒構造の内部にドープされていることが分かる。なお、図6Aによれば、正極材料の顆粒構造の表面近傍でのカリウム元素のドーピング濃度は内部より高い、かつカリウム元素のドーピング濃度がより高い部分の厚さは30ナノメートルから70ナノメートルである。図6Bによれば、アルミニウム元素の異なる深さでのドーピング濃度はほぼ同じである。
【0048】
図7Aから図7Bは、ミョウバンを添加していない対照群と本発明の実施例一、実施例二、実施例三の、0.1C、0.2C、0.5C、1C、2C、5C、0.1Cの順の充放電速度で、それぞれ静電容量試験を5サイクル行った結果である。本試験は正極材料の顆粒構造により製造されたボタン電池で行う。ボタン電池の電極は、正極材料の顆粒、導電性カーボンブラック及びポリフッ化ビニリデン(PVDF)を8:1:1の割合で混合して製造されたものである。電解液は、1.2Mのヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF)、炭酸エチレン(EC)、炭酸ジメチル(DMC)及び4wt%の炭酸フルオロエチレン(FEC)を含む。試験温度は室温(25℃)で、電位区間は2.8V-4.3Vである。図から分かるように、実施例一、実施例二及び実施例三の高い充放電速度での静電容量と静電容量保存率は、いずれもミョウバンを添加していない対照群より顕著に高く、特にミョウバンを0.5wt%添加した実施例二のほうが最も優れている。
【0049】
図8Aから図8Bは、ミョウバンを添加していない対照群と本発明の実施例一、実施例二、実施例三の、充放電速度0.3C、電位区間2.8V-4.3V及び室温(25℃)の条件での静電容量試験の結果である。下記の表一は、試験結果を比較するものである。本試験は、正極材料の顆粒構造により製造されたボタン電池で行い、その組成が前記と同じであるため、説明を省略する。図8Aに示すように、サイクル回数が高い場合、実施例一、実施例二及び実施例三の静電容量は、いずれもミョウバンを添加していない対照群より高く、特に実施例二のほうが最も優れている。図8Bに示すように、サイクル回数が高い場合、実施例一、実施例二及び実施例三の静電容量保存率は、いずれもミョウバンを添加していない対照群より高く、特に実施例二のほうが最も優れている。下記の表一に示すように、ミョウバンを添加していない場合、100回目のサイクルにおける静電容量は143mAh/g、静電容量保存率は79%である。これに対し、実施例二の100回目のサイクルにおける静電容量は162mAh/g、静電容量保存率は86%である。このことから、本発明の正極材料の顆粒構造は、リチウムイオンの遷移に有利でありカリウムとアルミニウムを含む内層と、正極材料と電解液との反応を防止でき硫黄を含む外層とにより、サイクル寿命、静電容量及び安定度などの性能を向上させる目的を達成することが分かる。
【表1】
【0050】
図9Aから図9Bは、ミョウバンを添加していない対照群と本発明の実施例一、実施例二、実施例三の、充放電速度0.5C、電位区間2.8V-4.3V及び温度55℃の条件での静電容量試験の結果である。下記の表二は、試験結果を比較するものである。本試験は、正極材料の顆粒構造により製造されたボタン電池で行い、その組成が前記と同じであるため、説明を省略する。図9Aに示すように、サイクル回数が低い場合、実施例一、実施例二及び実施例三の静電容量は近似しており、いずれもミョウバンを添加していない対照群より顕著に高い。サイクル回数が高い場合、実施例二の静電容量性能のほうが最も優れている。本試験では、実施例一、実施例二及び実施例三の静電容量は、いずれもミョウバンを添加していない対照群より顕著に高いことに注意すべきである。図9Bに示すように、サイクル回数が高い場合、実施例一、実施例二及び実施例三の静電容量保存率は、いずれもミョウバンを添加していない対照群より顕著に高く、特に実施例二のほうが最も優れている。下記の表二に示すように、ミョウバンを添加していない場合、100回目のサイクルにおける静電容量は142mAh/g、静電容量保存率は75%である。これに対し、実施例二の100回目のサイクルにおける静電容量は172mAh/g、静電容量保存率は87%である。このことから、本発明の正極材料の顆粒構造は、リチウムイオンの遷移に有利でありカリウムとアルミニウムを含む内層と、正極材料と電解液との反応を防止でき硫黄を含む外層とにより、充放電速度及び温度が高い時のサイクル寿命、静電容量及び安定度などの性能を向上させる目的を達成することが分かる。
【表2】
【0051】
図10Aから図10Bは、ミョウバンを添加していない対照群と本発明の実施例一、実施例二、実施例三の、充放電速度0.3C、電位区間2.8V-4.5V及び室温(25℃)の条件での静電容量試験の結果である。下記の表三は、試験結果を比較するものである。本試験は、正極材料の顆粒構造により製造されたボタン電池で行い、その組成が前記と同じであるため、説明を省略する。図10Aに示すように、サイクル回数が高い場合、実施例一、実施例二及び実施例三の静電容量は、いずれもミョウバンを添加していない対照群より高く、特に実施例二のほうが最も優れている。図10Bに示すように、サイクル回数が高い場合、実施例一、実施例二及び実施例三の静電容量保存率は、いずれもミョウバンを添加していない対照群より顕著に高く、特に実施例二のほうが最も優れている。下記の表三に示すように、ミョウバンを添加していない場合、100回目のサイクルにおける静電容量は119mAh/g、静電容量保存率は66%である。これに対し、実施例二の100回目のサイクルにおける静電容量は151mAh/g、静電容量保存率は82%である。このことから、本発明の正極材料の顆粒構造は、リチウムイオンの遷移に有利でありカリウムとアルミニウムを含む内層と、正極材料と電解液との反応を防止でき硫黄を含む外層とにより、カットオフ電圧が高い時のサイクル寿命、静電容量及び安定度などの性能を向上させる目的を達成することが分かる。
【表3】
【0052】
上記の試験から、元素組成が異なる複数の層を有する正極材料の顆粒構造は、電池のサイクル寿命、初期静電容量及び静電容量保存率などの性能を向上できることが分かる。高温、高い充放電速度及び高いカットオフ電圧の条件での性能の差がより顕著であることに注意すべきである。100回目のサイクルにおけるデータを比較すると、実施例二は、ミョウバンを添加していない対照群より、静電容量が19-32mAh/g、静電容量保存率が7-12%増加している。現在の最良条件は実施例二であり、すなわち、前駆体に対するミョウバンの重量パーセントは0.5wt%である。
【0053】
上記のように、本発明は、静電容量とサイクル寿命を向上させる正極材料の顆粒構造及びその製造方法を提供する。正極材料の顆粒構造は少なくとも2つの被覆層を有し、かつ異なる層は異なる元素組成を有する。少なくとも2つの被覆層は、例えば内層となる第一の被覆層及び外層となる第二の被覆層である。内層の第一の被覆層には、例えばカリウムとアルミニウムなどの成分を含み、リチウムイオンの遷移に有利であり、外層の第二の被覆層には、例えば硫黄を含み、充放電の過程での正極材料と電解液との反応を防止でき、これによって、サイクル寿命、静電容量及び安定度などの性能を向上させる目的を達成する。正極材料の顆粒構造の製造方法は、例えばニッケル、コバルト、マンガンを含む前駆体に、例えばカリウム、アルミニウム、硫黄を含む金属塩と、例えばリチウムイオン化合物とを混合して添加することにより、熱処理後に少なくとも2つの被覆層を有する正極材料の顆粒構造を形成することができる。少なくとも2つの被覆層は、例えばX線光電子分光計(X-ray photoelectron spectroscopy、XPS)と飛行時間型二次イオン質量分析計(Time-of-flight secondary ion mass spectrometer、TOF-SIMS)により分析して、被覆の組成及び被覆の厚さを分かり得る。少なくとも2つの被覆層は異なる組成成分を有し、例えば、それぞれ例えばカリウム、アルミニウム、硫黄などの成分を含むため、リチウムイオンの遷移を向上させるとともに、充放電の過程での正極材料と二次電池における電解液との反応を防止するなどの役割を同時に達成する。本発明の正極材料の顆粒構造の製造方法は、さらに、例えば特定範囲の割合のミョウバンを利用して前駆体に添加し、例えば二段階の熱処理により、少なくとも2つの被覆層を有する正極材料の顆粒構造を形成し、かつ前記正極材料構造のカチオンの転位の程度が小さく、良好な層状構造を有する。その製造プロセスは簡単で低コストであり、正極材料顆粒の製品競争力の向上に寄与する。
【0054】
本発明は、当業者なら様々な修正を加えることができるが、特許請求の範囲によって定義される本発明の範囲から逸脱することはない。
【符号の説明】
【0055】
1...正極材料の顆粒構造
10...コア層
20...第一の被覆層
30...第二の被覆層
H1...第一の厚さ
H2...第二の厚さ
S1、S2、S3、S4...工程
図1
図2A
図2B
図2C
図3
図4A
図4B
図5A
図5B
図5C
図6A
図6B
図7A
図7B
図8A
図8B
図9A
図9B
図10A
図10B