IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ オートリブ ディベロップメント エービーの特許一覧

<>
  • 特許-エアバッグ装置及び車両用シート 図1
  • 特許-エアバッグ装置及び車両用シート 図2
  • 特許-エアバッグ装置及び車両用シート 図3
  • 特許-エアバッグ装置及び車両用シート 図4
  • 特許-エアバッグ装置及び車両用シート 図5
  • 特許-エアバッグ装置及び車両用シート 図6
  • 特許-エアバッグ装置及び車両用シート 図7
  • 特許-エアバッグ装置及び車両用シート 図8
  • 特許-エアバッグ装置及び車両用シート 図9
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-06
(45)【発行日】2023-02-14
(54)【発明の名称】エアバッグ装置及び車両用シート
(51)【国際特許分類】
   B60R 21/207 20060101AFI20230207BHJP
   B60R 21/233 20060101ALI20230207BHJP
   B60R 21/2338 20110101ALI20230207BHJP
   B60N 2/42 20060101ALI20230207BHJP
【FI】
B60R21/207
B60R21/233
B60R21/2338
B60N2/42
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2021548410
(86)(22)【出願日】2020-08-05
(86)【国際出願番号】 JP2020030094
(87)【国際公開番号】W WO2021059766
(87)【国際公開日】2021-04-01
【審査請求日】2022-01-03
(31)【優先権主張番号】P 2019172381
(32)【優先日】2019-09-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】503358097
【氏名又は名称】オートリブ ディベロップメント エービー
(74)【代理人】
【識別番号】100098143
【弁理士】
【氏名又は名称】飯塚 雄二
(72)【発明者】
【氏名】清水 貴之
(72)【発明者】
【氏名】中島 敦
【審査官】瀬戸 康平
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/114723(WO,A1)
【文献】特開2012-081958(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2006/0119083(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60N 2/42
B60R 21/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
座面を形成するシートクッションと背もたれを形成するシートバックとを有する車両用シートに装備されるエアバッグ装置であって、
前記シートバックの左右側部に収容され、膨張ガスを発生する一対のインフレータと、
ロールされ、又は折り畳まれた状態で前記シートバッグ内に収容され、前記インフレータから放出される膨張ガスによって展開するエアバッグとを備え、
前記エアバッグは、前記シートバックの側部から前方に向かって展開し、少なくとも乗員の腰部から肩部の移動を拘束する左右一対のサイドチャンバと、前記一対のサイドチャンバ同士を連結し、前記エアバッグの展開時に乗員の頭部の上方に位置する連結部とを含み
収容状態の前記エアバッグの下端付近に連結された第1の端部と、前記シートクッションの側部に連結された第2の端部を有する帯状の第2の接続部材を、前記シートの左右両側に更に備えたことを特徴とするエアバッグ装置。
【請求項2】
座面を形成するシートクッションと背もたれを形成するシートバックとを有する車両用シートに装備されるエアバッグ装置であって、
前記シートバックの左右側部に収容され、膨張ガスを発生する一対のインフレータと、
ロールされ、又は折り畳まれた状態で前記シートバッグ内に収容され、前記インフレータから放出される膨張ガスによって展開するエアバッグとを備え、
前記エアバッグは、前記シートバックの側部から前方に向かって展開し、少なくとも乗員の腰部から肩部の移動を拘束する左右一対のサイドチャンバと、前記一対のサイドチャンバ同士を連結し、前記エアバッグの展開時に乗員の頭部の上方に位置する連結部とを含み、
収容状態の前記エアバッグの下端付近に連結された第1の端部と、前記シートクッションの側部に連結された第2の端部とを有する第2の接続部材を前記シートの左右両側に更に備え、
前記第1の端部が前記第2の端部よりも幅広に成形されたことを特徴とするエアバッグ装置。
【請求項3】
前記エアバッグの連結部は、前記サイドチャンバから繋がる膨張可能な上部チャンバから構成され、
前記上部チャンバは、前記シートバックの上縁付近から展開し、乗員の頭部を包むように展開することを特徴とする請求項1又は2に記載のエアバッグ装置。
【請求項4】
前記上部チャンバは、前記シートバックの上端の後縁付近から展開するように構成されていることを特徴とする請求項に記載のエアバッグ装置。
【請求項5】
前記インフレータから放出された膨張ガスは、前記サイドチャンバから前記上部チャンバに流れるように構成されていることを特徴とする請求項3又は4に記載のエアバッグ装置。
【請求項6】
前記エアバッグは、収容時に当該エアバッグを前記シートバックに固定するための第1の接続部材を複数備えたことを特徴とする請求項1乃至の何れか1項に記載のエアバッグ装置。
【請求項7】
前記第1の接続部材は、前記シートバックの左右側部において、前記インフレータの上部と下部に少なくとも1コずつ設けられることを特徴とする請求項に記載のエアバッグ装置。
【請求項8】
前記第1の接続部材は、前記シートバックの左右側部において、乗員の頭部領域、胸部から腹部の領域、腰部領域にそれぞれ設けられることを特徴とする請求項に記載のエアバッグ装置。
【請求項9】
前記第2の接続部材の前記第1の端部が、展開状態における前記サイドチャンバの前端部付近に連結されることを特徴とする請求項1乃至9の何れか1項に記載のエアバッグ装置。
【請求項10】
前記シートクッションの内部又は底部において車幅方向に沿って延び、左右一対の前記第2の接続部材の第2の端部同士を連結する下方連結部をさらに備えたことを特徴とする請求項1乃至9の何れか1項に記載のエアバッグ装置。
【請求項11】
前記一対の第2の接続部材と、前記下方連結部とは1本のテザーとして成形されていることを特徴とする請求項10に記載のエアバッグ装置。
【請求項12】
前記下方連結部は、前記シートクッションの前後方向中央よりも前方において車幅方向に延びることを特徴とする請求項10又は11に記載のエアバッグ装置。
【請求項13】
前記エアバッグが展開した時に、前記第2の接続部材に生じる張力により、前記下方連結部が前記シートクッションを上方に押し上げるように構成されていることを特徴とする請求項12に記載のエアバッグ装置。
【請求項14】
請求項1乃至13の何れか1項に記載のエアバッグ装置を備えた車両用シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用シート及び当該シートに装備されるエアバッグ装置に関する。特に、座席に着座した乗員の姿勢に関わらず、当該乗員を確実に拘束可能なエアバッグ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両の事故発生時に乗員を保護するために1つまたは複数のエアバッグを車両に設けることは周知である。エアバッグは、例えば、ステアリングホイールの中心付近から膨張して運転者を保護する、いわゆる運転者用エアバッグ、自動車の窓の内側で下方向に展開して車両横方向の衝撃や横転、転覆事故時に乗員を保護するカーテンエアバッグ、更には、車両横方向の衝撃時に乗員を保護すべく乗員とサイドパネルとの間で展開するサイドエアバッグなどの様々な形態がある。
【0003】
近年では、車両の自動運転技術の進歩に伴い、乗員がシートを大きくリクライニングしてリラックスした姿勢など様々な着座姿勢を採ることが想定され、そのような状況においても乗員を適切に保護する必要がある。
【0004】
しかしながら、車両用シートに搭載される周知のサイドエアバッグ装置は、シートの左右片側又は両側からエアバッグを展開するものであるため、様々な姿勢の乗員を適切に保護することが困難であった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上記のような状況に鑑みてなされたものであり、座席に着座した乗員の姿勢に関わらず、当該乗員を確実に拘束可能なエアバッグ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
以下に、上記課題を解決するための手段に及び、その効果について説明する。なお、本発明において、乗員が正規の姿勢で進行方向を向いて座席に着座した際に、乗員が向いている方向を「前方」、その反対方向を「後方」と称し、座標の軸を示すときは「前後方向」と言う。また、乗員が正規の姿勢で座席に着座した際に、乗員の右側を「右方向」、乗員の左側を「左方向」と称し、座標の軸を示すときは「左右方向」と言う。更に、乗員が正規の姿勢で座席に着座した際に、乗員の頭部方向を「上方」、乗員の腰部方向を「下方」と称し、座標の軸を示すときは「上下方向」と言う。
【0007】
上記目的を達成するために、本発明は、座面を形成するシートクッションと背もたれを形成するシートバックとを有する車両用シートに装備されるエアバッグ装置であって、前記シートバックの左右側部に収容され、膨張ガスを発生する一対のインフレータと、ロールされ、又は折り畳まれた状態で前記シートバック内に収容され、前記インフレータから放出される膨張ガスによって展開するエアバッグとを備える。そして、前記エアバッグは、前記シートバックの側部から前方に向かって展開し、少なくとも乗員の腰部から肩部の移動を拘束する左右一対のサイドチャンバと、前記一対のサイドチャンバ同士を連結し、前記エアバッグの展開時に乗員の頭部の上方に位置する連結部とを含むように構成される。
【0008】
本発明のように、乗員の腰部から肩部の移動を拘束する左右一対のサイドチャンバと、これら一対のサイドチャンバ同士を連結し、乗員の頭部の上方に位置する連結部とを含むように構成することにより、エアバッグはドーム状に展開し、シートに着座している乗員を覆うようになる。その結果、少なくとも左右方向、上方向、斜め上方向への乗員の移動を確実に拘束でき、乗員の頭部から腰部に渡って適切に保護することが可能となる。
【0009】
前記エアバッグの連結部は、前記サイドチャンバから繋がる膨張可能な上部チャンバから構成され、当該上部チャンバは、前記シートバックの上縁付近から展開し、乗員の頭部を包むように展開するように構成することができる。
【0010】
このように、膨張可能な上部チャンバが乗員の頭部を包むように展開することにより、頭部への衝撃を緩和することが可能となる。
【0011】
前記上部チャンバは、前記シートバックの上端の後縁付近から展開するように構成することができる。
【0012】
上部チャンバがシートバックの上端の後縁付近から展開することにより、当該上部チャンバが乗員の後頭部の後ろから前方に向かって覆い被さるようになるため、エアバッグ展開時に乗員の頭部に直接ぶつかって衝撃を与えることを回避できるとともに、乗員の頭部周辺の広い範囲に保護領域を形成することが可能となる。
【0013】
前記インフレータから放出された膨張ガスは、前記サイドチャンバから前記上部チャンバに流れるように構成することができる。
【0014】
膨張ガスがサイドチャンバから上部チャンバに流れるように構成することにより、最初にサイドチャンバが展開して乗員の横方向の移動を速やかに拘束すると共に、その後、上部チャンバの展開によって乗員の頭部をソフトに保護することができる。すなわち、衝撃に弱い頭部及び頚部に対して、エアバッグの展開初期の段階から大きな衝撃を加えることがなくなる。
【0015】
前記エアバッグは、収容時に当該エアバッグを前記シートバックに固定するための第1の接続部材を複数備えることができる。
【0016】
複数の第1の接続部材によってエアバッグをシートバックに固定することにより、当該エアバッグの展開時にシートバックとエアバッグとの間に隙間が生じる可能性を低減できる。その結果、例えば、車両の衝突の際に乗員がエアバッグに接したときに、乗員がエアバッグとシートバックとの隙間からはみ出してしまうようなことがなく、確実に乗員を拘束することができる。
【0017】
前記第1の接続部材は、前記シートバックの左右側部において、前記インフレータの上部と下部に少なくとも1コずつ設けることができる。
【0018】
第1の接続部材を、インフレータの上部と下部に少なくとも1コずつ設けることによって、エアバッグの展開初期の段階で最も大きな圧力が発生する箇所付近(インフレータ周辺)を固定することができ、エアバッグの展開挙動が安定することになる。
【0019】
前記第1の接続部材は、前記シートバックの左右側部において、乗員の頭部領域、胸部から腹部の領域、腰部領域に設けることができる。
【0020】
第1の接続部材を、乗員の頭部領域、胸部から腹部の領域、腰部領域に設けることにより、シートに着座している乗員の腰部から上の範囲全体を拘束、保護することが可能となる。
【0021】
収容状態の前記エアバッグの下端付近に連結された第1の端部と、前記シートクッションの側部に連結された第2の端部を有する帯状の第2の接続部材を、前記シートの左右両側に更に備えることができる。
【0022】
エアバッグの下端付近とシートクッションの側部とを連結する帯状の第2の接続部材を設けることにより、シートに着座している乗員の腰部付近における拘束性能を向上させることができる。すなわち、乗員の重心位置に近い腰部がエアバッグを外側に押し倒す方向に移動した時に、第2の接続部材によって、エアバッグを確実に保持し、乗員が横方向に飛び出してしまうような事態を回避可能となる。
【0023】
収容状態の前記エアバッグの下端付近に連結された第1の端部と、前記シートクッションの側部に連結された第2の端部とを有する第2の接続部材を前記シートの左右両側に更に備え、前記第1の端部を前記第2の端部よりも幅広に成形することができる。
【0024】
第2の接続部材において、エアバッグに連結される第1の端部をシートクッションに連結される第2の端部よりも幅広に成形することにより、エアバッグの下端部における展開挙動が安定することになる。
【0025】
前記第2の接続部材の前記第1の端部を、展開状態における前記サイドチャンバの前端部付近に連結することができる。
【0026】
第2の接続部材をサイドチャンバの前端部付近に連結することにより、サイドチャンバの展開姿勢を適切な状態に保持することができる。仮に、第2の接続部材をサイドチャンバの後端部付近に連結した場合には、エアバッグが展開した時に、サイドチャンバの前方部分が暴れてしまい、挙動が安定しないことが想定される。この点、第2の接続部材をサイドチャンバの前端部付近に連結すれば、展開したサイドチャンバの前方部分の姿勢を確実に保持でき、乗員の拘束性能が向上する。
【0027】
前記シートクッションの内部又は底部において概ね車幅方向に沿って延び、左右一対の前記第2の接続部材の第2の端部同士を連結する下方連結部をさらに備えることができる。シートクッションの下に車幅方向に延びる下方連結部を備えることにより、第2の接続部材の第2の端部をより確実に固定することができる。
【0028】
前記一対の第2の接続部材と、前記下方連結部とは1本のテザーとして成形することができる。第2の接続部材と下方連結部とを1本のテザーとすることにより、構造の簡略化(部品点数の減少)に加えて、連結部を省略することにより、全体としての強度を高めることができる。
【0029】
前記下方連結部は、前記シートクッションの前後方向中央よりも前方において車幅方向に延びるように構成することができる。
【0030】
下方連結部をシートクッションの前後方向中央よりも前方に配置することにより、エアバッグが展開した時に第2の連結部材の第1の端部よりも第2の端部の方が前方に位置することになり、第2の連結部材に適切な張力を付与することができる。
【0031】
ここで、前記エアバッグが展開した時に、前記第2の接続部材に生じる張力により、前記下方連結部が前記シートクッションを上方に押し上げるように構成することが好ましい。
【0032】
第2の接続部材の張力によって、下方連結部がシートクッションを上方に押し上げると、シートクッションの中心より前方部分が乗員の大腿部を持ち上げる格好となり、乗員の前方への移動を適切に拘束することができ、所謂「サブマリン現象」の可能性を低減可能となる。このような効果は、特に、シートを比較的大きくリクライニングしているような状況で顕著となる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
図1図1は、本発明の第1実施例に係るエアバッグ装置を車両用シートに搭載した様子を示す側面図(A)、正面図(B)であり、車両用シートに関しては透視で示すものとする。
図2図2は、本発明の第1実施例に係るエアバッグ装置に採用されるエアバッグの構造を示すものであり、(A)がエアバッグを展開した状態(収容前の状態)を示す平面図であり、(B)がロールした状態(収容時の状態)を示す正面図である。
図3図3は、本発明の第1実施例に係るエアバッグ装置の作動状態(エアバッグの展開状態)を示すものであり、(A)が車両幅方向の側面から見た様子を示し、(B)が正面から見た様子を示すものである。
図4図4(A)~(D)は、本発明の第1実施例に係るエアバッグ装置の変形例を示す側面図であり、車両用シートに関しては透視で示すものとする。
図5図5(A)は、第1実施例の変形例に係るエアバッグの構造を示す平面図であり、(B)~(D)は第2の接続部材のバリエーションを示す平面図である。
図6図6は、本発明の第2実施例に係るエアバッグ装置を車両用シートに搭載した様子を示す側面図であり、車両用シートに関しては透視で示すものとする。
図7図7は、本発明の第2実施例に係るエアバッグ装置の作動前の状態(収容状態)を示すものであり、(A)が車両進行方向正面から見た様子を示し、(B)が車両幅方向の側面から見た様子を示すものである。
図8図8は、本発明の第2実施例に係るエアバッグ装置の作動状態(エアバッグの展開状態)を車両進行方向正面から見た様子を示す概略斜視図であり、(A)がシートをリクライニングしていない又は小さくリクライニングした状態を示し、(B)がシートを大きくリクライニングした状態を示す。
図9図9は、本発明の第2実施例に係るエアバッグ装置の作動状態(エアバッグの展開状態)を車両幅方向の側面から見た様子を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、本発明の実施形態に係る車両用シートについて、添付図面に基づいて詳細に説明する。なお、繰り返しになるが、各図に表示する「前」とは車両の前方(進行方向)、「後」とは車両の後方(進行方向と反対側)、「内」とは車幅方向の内側(乗員側)、「外」とは車幅方向外側(ドアパネル側)をそれぞれ示す。
【0035】
(第1実施例)
図1は、本発明の第1実施例に係るエアバッグ装置1を車両用シート(2,3)に搭載した様子を示す側面図(A)、正面図(B)であり、車両用シート(2,3)に関しては透視で示すものとする。図2は、第1実施例に係るエアバッグ装置1に採用されるエアバッグ14の構造を示すものであり、(A)がエアバッグ14を展開した状態(収容前の状態)を示す平面図であり、(B)がロールした状態(収容時の状態)を示す正面図である。
【0036】
本実施例に係るエアバッグ装置1は、座面を形成するシートクッション3と背もたれを形成するシートバック2とを有する車両用シートに装備される。エアバッグ装置1は、シートバック2の左右側部に収容され、膨張ガスを発生する一対のインフレータ12a,12bと、ロールされ、又は折り畳まれた状態でシートバッグ2内に収容され、インフレータ12a,12bから放出される膨張ガスによって展開するエアバッグ14とを備える。なお、本実施例においては、シートバック2はヘッドレスト一体型となっているが、ヘッドレストを別部材として装備したシートにも適用することができる。
【0037】
エアバッグ14は、シートバック2の側部から前方に向かって展開し、少なくとも乗員の腰部から肩部の移動を拘束する左右一対のサイドチャンバ16a,16bと、一対のサイドチャンバ16a,16b同士を連結し、エアバッグ14の展開時に乗員の頭部の上方に位置する連結部18とを含むように構成される。サイドチャンバ16a,16bは、左右対称の形状とすることができる。また、連結部18は、収容前の広げた状態でエアバッグ14の長手方向中心に位置し(図2)、サイドチャンバ16a,16bと同一のファブリックによって一体的に成形されている。
【0038】
エアバッグ14の連結部18は、サイドチャンバ16a,16bから繋がる膨張可能な上部チャンバとして構成され、当該上部チャンバは、シートバック2の上縁付近から、乗員の頭部を包むように展開するように構成されている(図3)。インフレータ12a,12bから放出された膨張ガスが、サイドチャンバ12a,12bから上部チャンバ(18)に流れ込むようになっている。なお、連結部材18は膨張可能なチャンバとして構成する他に、非膨張領域として構成することもできる。この場合には、上下方向の厚みが薄くなる。
【0039】
本実施例に係るエアバッグ装置1は、ロール状に圧縮されたエアバッグ14をシートバック2に固定するための第1の接続部材(タブ)22a,22b,22c,22dを備えている。第1の接続部材22a,22b,22c,22dは、シートバック2の左右側部において、インフレータ12a,12bの上部と下部に1コずつ配置される。なお、インフレータ12a,12bは、エアバッグ14のインフレータ導入部20a、20bから導入されるようになっている。
【0040】
第1の接続部材22a,22b,22c,22dを、インフレータ12a,12bの上部と下部に設けることによって、エアバッグ14の展開初期の段階で最も大きな圧力が発生する箇所付近(インフレータ周辺)を固定することができ、エアバッグ14の展開挙動が安定することになる。
【0041】
なお、第1の接続部材は、シートバック2の左右側部において、乗員の頭部領域、胸部から腹部の領域、腰部領域に設けることができる。この場合には、シートに着座している乗員の全ての範囲を拘束、保護することが可能となる。
【0042】
本実施例に係るエアバッグ装置1は、さらに、収容状態のエアバッグ14の下端付近に連結された第1の端部(24a1,24b1)と、シートクッション3の側部に連結された第2の端部(24a2,24b2)を有する帯状の第2の接続部材24a,24bを、シートの左右両側に備えている。第2の接続部材24a,24bは、エアバッグ14と同一の素材(布)によって形成されたテザーとすることができる。ここで、第2の接続部材24a,24bの第1の端部(24a1,24b1)は、展開状態におけるサイドチャンバ16a,16bの前端部付近に連結されている。
【0043】
図3は、第1実施例に係るエアバッグ装置1の作動状態(エアバッグ14の展開状態)を示すものであり、(A)が車両幅方向の側面から見た様子を示し、(B)が正面から見た様子を示すものである。
【0044】
車両の側面衝突等が発生すると、インフレータ12a,12bから膨張ガスが放出されて、エアバッグ14が膨張・展開する。エアバッグ14の膨張が始まると、ガスが最初にサイドチャンバ16a,16bに流れ、その後、連結部18を構成する上部チャンバに流れ込む。すると、サイドチャンバ16a,16bが、シートバック2の側部から前方に向かって展開する。続いて、乗員の頭部の上方に位置する連結部18のチャンバが前方に向かって展開する。
【0045】
本実施例に係るエアバッグ14は、乗員の腰部から肩部の移動を拘束する左右一対のサイドチャンバ16a,16bと、これら一対のサイドチャンバ16a,16b同士を連結し、乗員の頭部の上方に位置する連結部18とを含むように構成されているため、エアバッグ14はドーム状に展開し、シート3に着座している乗員を左右及び上部から覆うようになる。その結果、少なくとも左右方向、上方向、斜め上方向への乗員の移動を確実に拘束でき、乗員の頭部から腰部に渡って適切に保護することが可能となる。
【0046】
また、連結部18が膨張可能な上部チャンバとして形成されているため、当該連結部18が乗員の頭部を包むように展開し(図3(B))、頭部への衝撃を適切に吸収することが可能となる。
【0047】
また、膨張ガスがサイドチャンバ16a,16bから上部チャンバ18に流れるように構成しているため、最初にサイドチャンバ16a,16bが展開して乗員の横方向の移動を速やかに拘束すると共に、その後、上部チャンバ18の展開によって乗員の頭部をソフトに保護することができる。すなわち、衝撃に弱い頭部及び頚部に対して、エアバッグ14の展開初期の段階で大きな衝撃を加えることなく、比較的ソフトに拘束(保護)することが可能となる。
【0048】
連結部18を構成する上部チャンバは、シートバック2の上端の後縁付近から展開する。上部チャンバ18がシートバック2の上端の後縁付近から展開することにより、当該上部チャンバ18が乗員の後頭部の後ろから前方に向かって覆い被さるようにようになる。このため、上部チャンバ18がエアバッグ14の展開時に乗員の頭部に直接衝撃を与えることを回避できるとともに、乗員の頭部周辺の広い範囲に保護領域を形成することが可能となる。なお、シートバックとヘッドレストが、別部材として構成される場合には、連結部材18はシートバックの上端からヘッドレストを飛び越えて前方に展開するような格好となる。
【0049】
また、複数の第1の接続部材22a,22b,22c,22dによってエアバッグ14をシートバック2に固定するため、当該エアバッグ14の展開時にシートバック2とエアバッグ14との間に隙間が生じる可能性を低減できる。その結果、例えば、車両の衝突の際に乗員がエアバッグ14に接したときに、乗員がエアバッグ14とシートバック2との隙間からはみ出してしまうようなことがなく、確実に乗員を拘束することができる。
【0050】
また、エアバッグ14の下端付近とシートクッション3の側部とを連結する帯状の第2の接続部材24a,24bを設けているため、シート(2,3)に着座している乗員の腰部付近における拘束性能を向上させることができる。すなわち、乗員の重心位置に近い腰部がエアバッグ14を外側に押し倒す方向に移動した時に、第2の接続部材24a,24bによって、エアバッグ14を確実に保持し、乗員が横方向に飛び出してしまうような事態を回避可能となる。
【0051】
また、第2の接続部材24a,24bの第1の端部(24a1,24b1)をサイドチャンバ16a,16bの前端部付近に連結することにより、サイドチャンバ16a,16bの展開姿勢を適切な状態に保持することができる。仮に、第2の接続部材24a,24bの第1の端部(24a1,24b1)をサイドチャンバ16a,16bの後端部付近に連結した場合には、エアバッグ14が展開した時に、サイドチャンバ16a,16bの前方部分が暴れてしまい、挙動が安定しない事態が予想される。この点、第2の接続部材24a,24bの第1の端部(24a1,24b1)をサイドチャンバ16a,16bの前端部付近に連結すれば、展開したサイドチャンバ16a,16bの前方部分の姿勢を適切に保持(制御)でき、乗員の拘束性能が向上する。
【0052】
図4(A)~(D)は、第1実施例に係るエアバッグ装置1の変形例を示す側面図であり、車両用シートに関しては透視で示すものとする。これら4つの変形例は、何れもインフレータ(12a,12b)の配置が異なるものである。(A)、(B)図に示す例では、インフレータ12a,12bは、シートバック2の下端部に配置され、これに伴って、第1の接続部材22c,22d(22a,22b)は、乗員の頭部付近と腰部付近に配置される。なお、(A)と(B)との違いは、インフレータ12a,12bからを挿入する方向のみである。すなわち、(A)図の例では、インフレータ12a,12bは上方から挿入され、(B)図の例では、インフレータ12a,12bは下方から挿入される。
【0053】
(C)、(D)図に示す例では、インフレータ12a,12bは、シートバック2の上端部に配置され、これに伴って、第1の接続部材22c,22d(22a,22b)は、乗員の肩部付近と腰部付近に配置される。なお、(A)と(B)との違いは、インフレータ12a,12bからを挿入する方向のみである。すなわち、(A)図の例では、インフレータ12a,12bは上方から挿入され、(B)図の例では、インフレータ12a,12bは下方から挿入される。
【0054】
その他の変形例として、単一のインフレータをシートバック2の背面に配置し、そこから膨張ガスをシートバック2の両側にガイドするように構成することも可能である。
【0055】
(第1実施例の変形例)
図5(A)は、第1実施例の変形例に係るエアバッグの構造を示す平面図であり、(B)~(D)は第2の接続部材のバリエーションを示す平面図である。図5(A)は、図2(A)に対応する図面であり、第2の接続部材(124a,124b)の形状のみが異なるものであるため、当該部分についてのみ説明する。
【0056】
図5(A)に示すように、第2の接続部材(124a,124b)の第1の端部(124a1,124b1)が第2の端部(124a2,124b2)よりも幅広に成形されている。この例では、第2の接続部材(124a,124b)は概ね台形に成形されているが、図5(B)~(D)に示すように、中間部分が内側に湾曲した形状の部材224や、所定の範囲で端部の幅が一定に成形された形状の部材324や、三角形状に成形された部材424のような他のバリエーションを採用することができる。
【0057】
図5に示す変形例の第2の接続部材(124a,124b)においては、エアバッグに連結される第1の端部124a1,124b1をシートクッションに連結される第2の端部124a2、124b2よりも幅広に成形することにより、エアバッグの下端部における展開挙動が安定することになる。なお、図5に構造の第2の接続部材(124a,124b)は、後述する第2実施例に適用することもできる。
【0058】
(第2実施例)
図6は、本発明の第2実施例に係るエアバッグ装置1を車両用シート(2,3)に搭載した様子を示す側面図であり、車両用シート(2,3)に関しては透視で示すものとする。図7は、第2実施例に係るエアバッグ装置1の作動前の状態(収容状態)を示すものであり、(A)が車両進行方向正面から見た様子を示し、(B)が車両幅方向の側面から見た様子を示すものである。図8は、第2実施例に係るエアバッグ装置1の作動状態(エアバッグの展開状態)を車両進行方向正面から見た様子を示す概略斜視図であり、(A)がシートバック2をリクライニングしていない又は小さくリクライニングした状態を示し、(B)がシートバック2を大きくリクライニングした状態を示す。図9は、第2実施例に係るエアバッグ装置1の作動状態(エアバッグの展開状態)を車両幅方向の側面から見た様子を示す概略図である。
【0059】
以下に説明する第2実施例において、既に説明した第1実施例と同一又は相当する構成要素については、同一の参照符号を付し、重複した説明は省略するが、同様の機能及び作用効果を奏するものである。
【0060】
本実施例に係るエアバッグ装置1は、シートクッション3の内部又は底部において概ね車幅方向に沿って延び、左右一対の第2の接続部材24a,24bの第2の端部24a2,24b2同士を連結する下方連結部30をさらに備えている。一対の第2の接続部材24a,24bと、下方連結部30とは1本のテザーとして成形することができる。下方連結部30としては、布製のテザー以外に、金属製のワイヤー等を採用することができる。なお、下方連結部30は、シートクッション3の内部又は、シートクッション3とシートフレームとの間を通るように配置することができる。
【0061】
図6に示すように、収容状態におけるロール状のエアバッグ14はシートバック2の縦方向の中心線C2よりも後方に位置し、中心線C2に沿って固定される。ここで、シートバック2に関して、符号2aはサイドサポートを示し、符号2bは受け面(乗員の背中が接する面)を示す。また、中心線C2は、シートバック2の前後方向において、概ね受け面2bと背面との中間部分を通る線を意味する。なお、ロール状のエアバッグ14は、シートバック2の中心線C2の上、もしくは前方に配置することも可能である。
【0062】
第2の接続部材24b(24a)の第2の端部24b2(24a2)と下方連結部30との連結位置は、シートクッション3の前後方向中心線C3よりも前方である。すなわち、下方連結部30は、シートクッション3の前後方向中央(乗員の腰中心)よりも前方において車幅方向に延びるように配置される。また、第2の接続部材24b(24a)の長さは、エアバッグ装置1が作動していない状況において、シートバック2のリクライニング動作を阻害しない範囲で、できるだけ短く設定することが好ましい。
【0063】
なお、エアバッグ装置1の配置に関する上述した各種の条件については、下方連結部30以外は、第1実施例にも適用可能である。
【0064】
図7に示すようなエアバッグ装置1が作動する前の状態から、エアバッグ装置1が作動すると、インフレータ12a,12bから膨張ガスが放出されて、エアバッグ14が膨張・展開する(図8図9)。エアバッグ14の膨張が始まると、ガスが最初にサイドチャンバ16a,16bに流れ、その後、連結部18を構成する上部チャンバに流れ込む。すると、サイドチャンバ16a,16bが、シートバック2の側部から前方に向かって展開する。続いて、乗員の頭部の上方に位置する連結部18のチャンバが前方に向かって展開する。ここまでの動作は、上述した第1実施例と同じである。
【0065】
エアバッグ14が展開すると、図8及び図9に示すように、第2の接続部材24a,24bに張力が発生し、当該第2の接続部材24a,24bに連結された下方連結部30がシートクッション3を上方に押し上げることになる。第2の接続部材24a,24bの張力によって、下方連結部30がシートクッション3を上方に押し上げると、シートクッション3の中心より前方部分が乗員の大腿部を持ち上げる格好となり、乗員の前方への移動を適切に拘束することができ、所謂「サブマリン現象」の可能性を低減可能となる。なお、図8において、下方連結部30の位置、形状を理解しやすくするため、シートクッション3を部分的に透視で描いている。
【0066】
本実施例においては、シートがリクライニングされていない(シートバック2が垂直に近い状態)の時に比べ、シートを大きくリクライニングしているような状況(シートバック2が大きく傾いている状態(図8(B)参照))で、下方連結部30によるシートクッション3の持ち上げ効果が顕著になる。シートバック2が後方に傾いた状態でエアバッグ14が展開すると、エアバッグ14の下端部が後方に移動すると共にシートクッション3の大腿部の少なくとも前方部分が部分的に上昇する。すなわち、エアバッグ14の下端部がシートクッション3から離れる方向に移動することになる。そうすると、エアバッグ14の下端部に連結された第2の接続部材24a,24b及び下方連結部30に加わる張力が高くなり、シートクッション3が強い力で上方に持ち上げられることになる。なお、下方連結部30の材質、形状、設置位置によっては、シートクッション3を全体的に後方に傾斜させるように変形することもある。
【0067】
本実施例においては、シートクッション3の下に車幅方向に延びる下方連結部30を備えることにより、第2の接続部材24a,24bの第2の端部(24a2,24b2)をより確実に固定することができる。なお、下方連結部30は、上述したように柔軟なテザーによって構成することもできるが、テザーに代えて、硬質な金属や樹脂からなるプレートを採用することができる。下方連結部30を硬質なプレートによって構成した場合には、乗員の大腿部を持ち上げる効果が大きくなる。
【0068】
また、第2の接続部材24a,24bと下方連結部30とを1本のテザーとした場合には、構造の簡略化(部品点数の減少)に加えて、連結部を省略することにより、全体としての強度を高めることができる。
【0069】
下方連結部30をシートクッション3の前後方向中央C3よりも前方に配置することにより、エアバッグ14が展開した時に第2の連結部材24a,24bの第1の端部(24a1,24b1)よりも第2の端部(24a2,24b2)の方が前方に位置することになり、第2の連結部材24a,24bに適切な張力を付与することができる。
【0070】
本発明について実施例を参照して説明したが、本発明は上記実施例に限定されるものではない。すなわち、本発明の技術的思想の範囲を逸脱することなく、適宜変更可能なものである。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9