(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-06
(45)【発行日】2023-02-14
(54)【発明の名称】植物病原菌に対する抗菌活性を有する機能性ペプチド
(51)【国際特許分類】
C07K 7/06 20060101AFI20230207BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20230207BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20230207BHJP
A01P 3/00 20060101ALI20230207BHJP
A01N 27/00 20060101ALI20230207BHJP
C12N 15/29 20060101ALI20230207BHJP
C12N 1/15 20060101ALI20230207BHJP
C12N 1/19 20060101ALI20230207BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20230207BHJP
C12N 5/04 20060101ALN20230207BHJP
C07K 14/415 20060101ALN20230207BHJP
【FI】
C07K7/06
C12N15/63 Z ZNA
C12N5/10
A01P3/00
A01N27/00
C12N15/29
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/04
C07K14/415
(21)【出願番号】P 2021575594
(86)(22)【出願日】2020-03-06
(86)【国際出願番号】 JP2020009813
(87)【国際公開番号】W WO2020184469
(87)【国際公開日】2020-09-17
【審査請求日】2021-09-07
(31)【優先権主張番号】P 2019042524
(32)【優先日】2019-03-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504174135
【氏名又は名称】国立大学法人九州工業大学
(73)【特許権者】
【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人東海国立大学機構
(73)【特許権者】
【識別番号】500433225
【氏名又は名称】学校法人中部大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】阿部 円佳
(72)【発明者】
【氏名】近藤 聡
(72)【発明者】
【氏名】島田 武彦
(72)【発明者】
【氏名】花田 耕介
(72)【発明者】
【氏名】望田 啓子
(72)【発明者】
【氏名】柘植 尚志
【審査官】田ノ上 拓自
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-031431(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0054911(US,A1)
【文献】感染植物アポプラストに分泌される植物-病原菌相互作用に 関与するペプチド因子の同定,KAKENー研究課題をさがす2017 年度 実績報告書, 2018年12月17日,p.1-3,https://kaken.nii.ac.jp/report/KAKENHI-PROJECT-15H02433/15H024332017jisseki/,検索日:2022年8月5日
【文献】MOLECULAR PLANT PATHOLOGY, 2007年,Vol.8, No.2,p.215-221,DOI: 10.1111/J.1364-3703.2007.00384.X
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K 1/00-19/00
C12N 15/00-15/90
C12N 5/10
A01P 3/00
A01N 27/00
C12N 1/15
C12N 1/19
C12N 1/21
C12N 5/04
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アミノ酸配列:ERTRKFWR(配列番号2)からなる、ペプチド。
【請求項2】
請求項
1記載のペプチドをコードする核酸。
【請求項3】
請求項
2記載の核酸を有する組換えベクター。
【請求項4】
請求項
3記載の組換えベクターを有する形質転換体。
【請求項5】
上記組換えベクターにより形質転換された植物細胞又は植物体であることを特徴とする請求項
4記載の形質転換体。
【請求項6】
請求項
1記載のペプチドを含む、植物病原菌に対する殺菌作用又は抗菌作用を示す組成物。
【請求項7】
請求項
1記載のペプチドを含む農薬。
【請求項8】
植物病原菌に対する殺菌用又は抗菌用である請求項
7記載の農薬。
【請求項9】
上記植物病原菌は、灰色かび病菌 (Botrytis cinerea)、アブラナ科炭そ病菌 (Colletotrichum destructivum)、ウリ類炭素病菌(Colletotrichum orbiculare)、萎凋病菌 (Fusarium oxysporum)及びいもち病菌(Pyricularia oryzae)からなる群から選ばれる1以上の植物病原糸状菌であることを特徴とする請求項
8記載の農薬。
【請求項10】
上記植物病原菌は、イネ白葉枯病菌(Xanthomonas oryzae pv. oryzae)又はトマト斑葉細菌病菌(Pseudomonas syringae pv. tomato)であることを特徴とする請求項
8記載の農薬。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物病原糸状菌等の植物病原菌に対して抗菌活性を示す機能性ペプチドに関し、また、当該機能性ペプチドを含む農薬、当該機能性ペプチドを用いた植物病原菌の防除方法に関する。
【背景技術】
【0002】
植物病害に起因して作物収量が減少することが、食糧問題の一因となっている。作物収量を上げるためには、殺菌剤により植物病原菌から植物を防除する必要がある。近年、化学物質を主成分とする農薬や化学肥料の使用量を低減した、いわゆる環境保全型農業が推進されている。そこで、化学物質に代わる、環境保全型農業に適した物質の開発が望まれる。
【0003】
このような物質として、100以下のアミノ酸からなるペプチド性物質が挙げられる。中でも、植物由来の抗菌活性を有するペプチドとして、ディフェンシンが知られている。ディフェンシンは、システインを多く含有する塩基性タンパク質であって、多くの植物種で報告されている。しかしながら、ディフェンシンは、抗菌活性を発現するには、その高次構造を維持する必要があり、また、40アミノ酸以上の比較的長いペプチドであるため合成が困難で高価であるといった問題がある。非特許文献1には,イネ由来ディフェンシンの部分ペプチドを合成し、その抗菌活性を検討した結果が開示されている。しかしながら、非特許文献1に開示されたディフェンシンの部分ペプチドは、いもち病、立枯病イネバカ苗病に対する効果しか示されていない。
【0004】
また、特許文献1には、アブラナ科に属するキャベツ及びコマツナに由来するディフェンシン遺伝子を植物に導入することで複合病害抵抗性を付与できることが開示されている。特許文献2には、シロイヌナズナ由来の抗菌活性を有するペプチドを単離したことが開示されている。特許文献3には、食用キノコの一つであるタモギタケから抽出したイネいもち病菌に対する抗菌活性を有するペプチドが開示されている。特許文献4には、イネ由来の抗菌活性を有するディフェンシン様のタンパク質から設計した10~16個の抗菌活性を有する部分ペプチドが開示されている。特許文献5には、シロイヌナズナ由来の抗菌活性を有するペプチドを単離したことが開示されている。特許文献6には、タイワンカブトムシ幼虫の体液から調整した、40~66個のアミノ酸からなる抗菌性ペプチドが開示されている。特許文献7には、DNAシャッフリングによってディフェンシンに基づいて植物病原菌に対する抗菌ペプチドを得る方法が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2004-329215号公報
【文献】特表2006-512052号公報
【文献】特許第4257119号
【文献】特許第5988200号
【文献】特許第4445855号
【文献】国際公開WO2003/033532号
【文献】米国特許第8,865,967号
【非特許文献】
【0006】
【文献】J. Pestic. Sci. 42(4), 172-175, 2017
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、幅広い種類の植物病原菌に対する抗菌活性を有し、且つ、合成が容易な短い機能性ペプチドは知られていない。そこで、本発明は、上述した実情に鑑み、幅広い種類の植物病原菌に対する抗菌活性を有する機能性ペプチド、当該機能性ペプチドをコードする核酸、当該機能性ペプチドを含む農薬、当該機能性ペプチドを用いた植物病原菌の防除方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した目的を達成するため本発明者が鋭意検討した結果、萎凋病菌を接種したトマトの導管液に特異的に発現しているペプチドのなかから幅広い種類の植物病原菌に対する抗菌活性を有するペプチドを同定するに至り、本発明を完成するに至った。
【0009】
本発明は以下を包含する。
(1)アミノ酸配列:YYGFPAFSERTRKFWRIWKGKTS(配列番号1)からなる又は当該アミノ酸配列に対して85%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなる、若しくは配列番号1に示したアミノ酸配列における連続する5以上のアミノ酸配列からなる、機能性ペプチド。
(2)上記連続する5以上のアミノ酸配列は、配列番号1に示したアミノ酸配列におけるN末端から数えて9~22アミノ酸残基の範囲のアミノ酸配列であることを特徴とする(1)記載の機能性ペプチド。
(3)以下(a)~(j)からなる群から選ばれる1つのアミノ酸配列からなることを特徴とする(1)記載の機能性ペプチド。
(a)アミノ酸配列:ERTRKFWR(配列番号2)
(b)アミノ酸配列:RTRKFWRI(配列番号3)
(c)アミノ酸配列:TRKFWRIW(配列番号4)
(d)アミノ酸配列:RKFWRIWK(配列番号5)
(e)アミノ酸配列:KFWRIWKG(配列番号6)
(f)アミノ酸配列:FWRIWKGK(配列番号7)
(g)アミノ酸配列:WRIWKGKT(配列番号8)
(h)アミノ酸配列:RKFWR(配列番号9)
(i)アミノ酸配列:KFWRI(配列番号10)
(j)アミノ酸配列:WRIWK(配列番号11)
(4)上記(1)~(3)いずれかに記載の機能性ペプチドをコードする核酸。
(5)上記(4)記載の核酸を有する組換えベクター。
(6)上記(5)記載の組換えベクターを有する形質転換体。
(7)上記組換えベクターにより形質転換された植物細胞又は植物体であることを特徴とする(6)記載の形質転換体。
(8)上記(1)~(3)いずれかに記載の機能性ペプチドを含む、植物病原菌に対する殺菌作用又は抗菌作用を示す組成物。
(9)上記(1)~(3)いずれかに記載の機能性ペプチドを含む農薬。
(10)植物病原菌に対する殺菌用又は抗菌用である(9)記載の農薬。
(11)上記植物病原菌は、灰色かび病菌 (Botrytis cinerea)、アブラナ科炭そ病菌 (Colletotrichum destructivum)、ウリ類炭素病菌(Colletotrichum orbiculare)、萎凋病菌 (Fusarium oxysporum)及びいもち病菌(Pyricularia oryzae)からなる群から選ばれる1以上の植物病原糸状菌であることを特徴とする(10)記載の農薬。
(12)上記植物病原菌は、イネ白葉枯病菌(Xanthomonas oryzae pv. oryzae)又はトマト斑葉細菌病菌(Pseudomonas syringae pv. tomato)であることを特徴とする(10)記載の農薬。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る機能性ペプチドは、幅広い種類の植物病原菌に対して優れた抗菌活性を有し、また容易に合成することができる。このため、本発明に係る機能性ペプチドは、例えば、植物病原菌に対して殺菌作用又は抗菌作用を有する組成物若しくは農薬として使用することができる。
【0011】
また、本発明に係る機能性ペプチドをコードする核酸を使用することで、宿主内で当該機能性ペプチドを発現させることができる。植物細胞又は植物体が上記機能性ペプチドを発現することで、幅広い種類の植物病原菌に対する耐性が向上することとなる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】TsORF18-2について、5種類の植物病原糸状菌に対する抗菌活性を評価した結果を示す写真である。
【
図2】TsORF18-2について、灰色かび病菌 (Botrytis cinerea)とともにトマトの葉に接種した結果を示す写真である。
【
図3】TsORF18-2について、アブラナ科炭そ病菌 (Colletotrichum destructivum)とともにハクサイの葉に接種した結果を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
<機能性ペプチド>
本発明に係る機能性ペプチドは、配列番号1に示したアミノ酸配列YYGFPAFSERTRKFWRIWKGKTSからなる、又は当該アミノ酸配列に対して85%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなる。ここで、配列番号1に示したアミノ酸配列は、萎凋病に感染したトマトから採取した道管液及び非感染のトマトから採取した導管液に含まれるペプチドを網羅的に解析し、幅広い種類の植物病原菌に対して抗菌活性を有するペプチドとして同定されたものである。すなわち、本発明に係る機能性ペプチドは、少なくとも、植物病原菌に対して抗菌活性を有するといった機能を有している。よって、本発明に係る機能性ペプチドは、植物病原菌に対する抗菌活性に基づいて農薬或いは農薬用組成物として使用することができる。
【0014】
配列番号1に示したアミノ酸配列に対して85%以上の同一性を有するアミノ酸配列とは、具体的には、配列番号1のアミノ酸配列に対して1~3個のアミノ酸が欠失、置換又は付加したアミノ酸配列を意味する。本発明に係る機能性ペプチドとしては、特に、配列番号1に示したアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を有することが好ましく、配列番号1に示したアミノ酸配列に対して95%以上の同一性を有することがより好ましい。配列番号1に示したアミノ酸配列に対してこの範囲の同一性を有するアミノ酸配列は、配列番号1のアミノ酸からなるペプチドと同じく、植物病原菌に対する抗菌活性を示す蓋然性が高い。
【0015】
特に、配列番号1のアミノ酸配列に対して1~3個のアミノ酸が欠失、置換又は付加したアミノ酸配列としては、特に限定されないが、1~3個のアミノ酸を欠失、置換又は付加する位置がN末端近傍であることが好ましい。より具体的に、1~3個のアミノ酸を欠失、置換又は付加する位置としては、配列番号1に示したアミノ酸配列におけるN末端から数えて1~8番目の範囲、好ましくは1~5番目の範囲とする。1~3個のアミノ酸を欠失、置換又は付加する位置をこの範囲とすることで、植物病原菌に対する抗菌活性を高く維持することができる。
【0016】
なお、配列番号1に示したアミノ酸配列と異なるアミノ酸配列は、例えば部位特異的突然変異誘発法を利用した変異導入用キット(例えばMutant-K(タカラバイオ社製)やMutant-G(タカラバイオ社製))などを用いて、あるいは、タカラバイオ社のLA PCR in vitro Mutagenesis シリーズキットを用いて配列番号1に示したアミノ酸配列をコードする核酸に対して所望の変異を導入することで作製することができる。
【0017】
ところで、本発明に係る機能性ペプチドは、配列番号1に示したアミノ酸配列からなるもの(23アミノ酸残基の長さ)に限定されず、当該アミノ酸配列における連続する5以上のアミノ酸からなるものであってもよい。配列番号1に示したアミノ酸配列における連続する5以上のアミノ酸からなるペプチドを以下、部分ペプチドと称する場合もある。この部分ペプチドとしては、特に限定されないが、配列番号1のアミノ酸配列から選択された連続する5~15のアミノ酸配列、好ましくは5~10のアミノ酸配列、より好ましくは5~8のアミノ酸配列、更に好ましく8のアミノ酸からなるペプチドを挙げることができる。
【0018】
特に、部分ペプチドとしては、特に、配列番号1に示したアミノ酸配列におけるN末端から数えて9~22アミノ酸残基の範囲、好ましくは10~22アミノ酸残基の範囲、より好ましくは11~20アミノ酸残基の範囲から選ばれることが好ましい。部分ペプチドがこの範囲のアミノ酸配列を有することで、より優れた抗菌活性を示すことができる。
【0019】
より具体的に、部分ペプチドとしては、以下(a)~(j)からなる群から選ばれる1つであることが好ましい。これら部分ペプチドは、植物病原菌に対して特に優れた抗菌活性を示すことができる。
(a)アミノ酸配列:ERTRKFWR(配列番号2)
(b)アミノ酸配列:RTRKFWRI(配列番号3)
(c)アミノ酸配列:TRKFWRIW(配列番号4)
(d)アミノ酸配列:RKFWRIWK(配列番号5)
(e)アミノ酸配列:KFWRIWKG(配列番号6)
(f)アミノ酸配列:FWRIWKGK(配列番号7)
(g)アミノ酸配列:WRIWKGKT(配列番号8)
(h)アミノ酸配列:RKFWR(配列番号9)
(i)アミノ酸配列:KFWRI(配列番号10)
(j)アミノ酸配列:WRIWK(配列番号11)
【0020】
本発明に係る機能性ペプチド(上述した部分ペプチドを含む)は、従来公知の手法によって容易に製造することができる。ペプチドを合成する方法としては、例えば、固相合成法及び液相合成法を挙げることができる。固相合成法では、Fmoc法(フルオレニルメチルオキシカルボニル法)やtBoc法(t-ブチルオキシカルボニル法)等を適用して所望のアミノ酸配列を有する機能性ペプチドを合成することができる。
【0021】
また、本発明に係る機能性ペプチドは、アミノ酸配列をコードする核酸を製造し、当該核酸を用いた遺伝子工学的手法により製造することもできる。すなわち、例えば、上述した機能性ペプチドをコードする核酸を化学的に合成し、発現ベクターに組み込み、得られた発現ベクターを適切な宿主細胞に導入して形質転換体を得る。この形質転換体を培養し、機能性ペプチドを産生させた後、形質転換体及び/又は培地から回収すればよい。
【0022】
発現ベクターとしては、機能性ペプチドをコードする核酸を有し、任意の宿主細胞中で機能性ペプチドを発現できるものであれば特に制限されない。発現ベクターとしては、例えば、プラスミドベクター、ウイルスベクター等を挙げることができる。なお、宿主細胞としては、特に限定されず、大腸菌や枯草菌などの細菌、酵母や糸状菌等の真菌を利用することができる。また、宿主細胞としては、昆虫細胞やほ乳類細胞などの動物細胞を使用しても良い。例えば、宿主細胞として大腸菌を使用する場合、少なくとも、プロモーター領域、開始コドン、本発明に係る機能性ペプチドをコードする核酸、終止コドン、ターミネーター領域及び複製開始点を含む発現ベクターを使用することができる。
【0023】
本発明に係る機能性ペプチドは、上述のような形質転換体を培養し、該形質転換体から回収した後、精製することができる。機能性ペプチドを単離、精製する方法としては、特に限定されないが、例えば塩析、溶媒沈澱法等の溶解度を利用する方法、透析、限外濾過、ゲル濾過、ドデシル硫酸ナトリウム-ポリアクリルアミドゲル電気泳動など分子量の差を利用する方法、イオン交換クロマトグラフィーやヒドロキシルアパタイトクロマトグラフィーなどの荷電を利用する方法、アフィニティークロマトグラフィーなどの特異的親和性を利用する方法、逆相高速液体クロマトグラフィーなどの疎水性の差を利用する方法、等電点電気泳動などの等電点の差を利用する方法などが挙げられる。
【0024】
また、本発明に係る機能性ペプチドは、例えば、ヒスチジンタグ或いはFlagタグ等を付加したものとして形質転換体に産生させることもできる。この場合、機能性ペプチドは、当該タグに親和性を有する物質を用いることにより、より簡便に単離、精製することができる。
【0025】
さらに、本発明に係る機能性ペプチドは、いわゆる無細胞タンパク質合成系を利用して合成することができる。無細胞タンパク質合成系では、例えば、大腸菌、ウサギ網状赤血球、コムギ胚芽からの抽出液を利用することができる。
【0026】
<機能性ペプチドにおける抗菌活性>
本発明に係る機能性ペプチドは、幅広い種類の植物病原菌に対して抗菌活性を有する。ここで抗菌活性とは、植物病原菌の感染防止活性及び感染した植物病原菌に対する殺菌活性の両者を含む意味である。本発明に係る機能性ペプチドが抗菌活性を示す植物病原菌としては、植物病原糸状菌を広く例示することができる。より具体的に、植物病原菌としては、Botrytis属に属する植物病原糸状菌、Colletotrichum属に属する植物病原糸状菌、Fusarium属に属する植物病原糸状菌及びPyricularia属に属する植物病原糸状菌を挙げることができる。
【0027】
Botrytis属に属する植物病原糸状菌としては、Botrytis aclada、Botrytis byssoidea、Botrytis cinerea、Botrytis convoluta、Botrytis diospyri、Botrytis elliptica、Botrytis fabae、Botrytis galanthina、Botrytis gladiolorum、Botrytis paeoniae、Botrytis polyblastis、Botrytis sp.、Botrytis squamosa及びBotrytis tulipaeを挙げることができる。
【0028】
Colletotrichum属に属する植物病原糸状菌としては、Colletotrichum actinidiicola、Colletotrichum acutatum、Colletotrichum aenigma、Colletotrichum ampelopsidis、Colletotrichum belamcandium、Colletotrichum boninense sensu lato、Colletotrichum capsici、Colletotrichum carthami、Colletotrichum caudatum、Colletotrichum chrysanthemi、Colletotrichum circinans、Colletotrichum coccodes、Colletotrichum coffeanum、Colletotrichum corchori、Colletotrichum crassipes、Colletotrichum cypripedii、Colletotrichum daphnicola、Colletotrichum dematium、Colletotrichum destructivum、Colletotrichum durionis、Colletotrichum echinochloae、Colletotrichum elasticae、Colletotrichum fatsiae、Colletotrichum fioriniae、Colletotrichum fuscum、Colletotrichum gloeosporioides、Colletotrichum godetiae、Colletotrichum graminicola、Colletotrichum hibisci、Colletotrichum higginsianum、Colletotrichum horii、Colletotrichum hydrangeae、Colletotrichum kahawae、Colletotrichum karstii、Colletotrichum koyasuensis、Colletotrichum lappae、Colletotrichum liliacearum、Colletotrichum lilii、Colletotrichum lindemuthianum、Colletotrichum malvarum、Colletotrichum medicaginis-denticulatae、Colletotrichum metake、Colletotrichum moricola、Colletotrichum morinum、Colletotrichum musae、Colletotrichum nigrum、Colletotrichum nymphaeae、Colletotrichum orbiculare、Colletotrichum panacicola、Colletotrichum paniculatae、Colletotrichum pehkinense、Colletotrichum phaseolorum、Colletotrichum sansevieriae、Colletotrichum sasicola、Colletotrichum siamense、Colletotrichum sophorae-japonicae、Colletotrichum spaethianum、Colletotrichum spinaciae、Colletotrichum sublineolum、Colletotrichum tabacum、Colletotrichum theobromicola、Colletotrichum trichellum、Colletotrichum trifolii、Colletotrichum tropicale、Colletotrichum truncatum、Colletotrichum villosum及びColletotrichum yoshinoiを挙げることができる。
【0029】
Fusarium属に属する植物病原糸状菌としては、Fusarium acuminatum、Fusarium ananatum、Fusarium anguioides、Fusarium arthrosporioides、Fusarium asiaticum、Fusarium avenaceum、Fusarium brasiliense、Fusarium commune、Fusarium conglutinans var. betae、Fusarium cuneirostrum、Fusarium decemcellulare、Fusarium dimerum var. dimerum、Fusarium foetens、Fusarium fujikuroi、Fusarium graminearum、Fusarium guttiforme、Fusarium lactis、Fusarium lagenariae、Fusarium lateritium、Fusarium merismoides、Fusarium oxysporum、Fusarium pallidoroseum、Fusarium pallidum、Fusarium phaseoli、Fusarium phyllophilum、Fusarium poae、Fusarium proliferatum、Fusarium redolens、Fusarium ricini、Fusarium roseum、Fusarium solani、Fusarium striatum、Fusarium subglutinans及びFusarium verticillioidesを挙げることができる。
【0030】
Pyricularia属に属する植物病原糸状菌としては、Pyricularia grisea、Pyricularia higginsii、Pyricularia oryzae、Pyricularia panici及びPyricularia zingiberisを挙げることができる。
【0031】
これらの他にも植物病原菌としては、例えば、Alternaria属に属する菌、Cladosporium属に属する菌、Claviceps属に属する菌、Sclerotinia属に属する菌、Septoria属に属する菌、Pseudoperonospora属に属する菌及びPuccinia属に属する菌を挙げることができる。
【0032】
特に、本発明に係る機能性ペプチドによる抗菌活性が高い植物病原糸状菌としては、特に、Botrytis cinerea、Colletotrichum destructivum、Colletotrichum orbiculare、Fusarium oxysporum及びPyricularia oryzae(Magnaporthe oryzaeと同義)を挙げることができる。
【0033】
さらに、本発明に係る機能性ペプチドは、植物病原糸状菌のみならず、Xanthomonas oryzae pv. oryzae及びPseudomonas syringae pv. Tomato等の植物病原細菌に対する抗菌活性も有している。
【0034】
Xanthomonas属に属する植物病原細菌としては、Xanthomonas campestris pv. malloti、Xanthomonas axonopodis pv. phaseoli、Xanthomonas alfalfae pv. alfalfae、Xanthomonas arboricola pv. pruni、Xanthomonas translucens pv. poae、Xanthomonas campestris pv. fici、Xanthomonas oryzae pv. oryzae、Xanthomonas oryzae pv. oryzicola、Xanthomonas axonopodis pv. phaseoli、Xanthomonas translucens pv. translucens、Xanthomonas arboricola、Xanthomonas campestris pv. raphani、Xanthomonas campestris pv. campestris、Xanthomonas cucurbitae、Xanthomonas citri subsp. citri、Xanthomonas hortorum pv. hederae、Xanthomonas axonopodis pv. manihotis、Xanthomonas arboricola pv. juglandis、Xanthomonas campestris pv. nigromaculans、Xanthomonas albilineans、Xanthomonas axonopodis pv. vasculorum、Xanthomonas campestris、Xanthomonas cucurbitae、Xanthomonas axonopodis pv. glycines、Xanthomonas campestris pv. cannabis、Xanthomonas translucens pv. phleipratensis、Xanthomonas theicola、Xanthomonas vesicatoria、Xanthomonas euvesicatoria、Xanthomonas hortorum pv. carotae、Xanthomonas axonopodis pv. allii、Xanthomonas arboricola pv. celebensis、Xanthomonas axonopodis pv. ricini、Xanthomonas hortorum pv. pelargonii、Xanthomonas translucens pv. cerealis、Xanthomonas campestris pv. mangiferaeindicae、Xanthomonas vasicola pv. holcicola、Xanthomonas axonopodis pv. lespedezae、Xanthomonas translucens pv. cerealis、Xanthomonas hortorum、Xanthomonas axonopodis pv. Vitians及びXanthomonas citri subsp. Malvacearumを挙げることができる。
【0035】
以上のように、本発明に係る機能性ペプチドは、幅広い種類の植物病原菌に対して抗菌作用を有するため、抗菌作用を示す植物病原菌に起因して生じる植物病害を防除することができる。具体的に、本発明に係る機能性ペプチドにより防除しうる植物病害としては、例えば、いもち病、ごま葉枯病、紋枯病、馬鹿苗病、白葉枯病菌といったイネの病害を挙げることができる。また、本発明に係る機能性ペプチドにより防除しうる植物病害としては、特に限定されないが、うどんこ病、赤かび病、さび病、紅色雪腐病、雪腐小粒菌核病、黒穂病、裸黒穂病、なまぐさ黒穂病、眼紋病、葉枯病、ふ枯病、黄斑病、雲形病、網斑病、斑点病、斑葉病、リゾクトニア属菌による苗立枯れ病、ひょう紋病、南方さび病、グレイリーフスポット病、紫斑病、黒とう病、黒点病、褐紋病、褐色輪紋病、菌核病、炭そ病、夏疫病、緋色腐敗病、粉状そうか病及び白かび病を挙げることができる。
【0036】
<機能性ペプチドを含む農薬及び組成物>
本発明に係る機能性ペプチドは、幅広い種類の植物病原菌に対して抗菌作用を有するため、農薬或いは農薬用組成物として使用することができる。ここで、農薬用組成物とは、農薬を製造する際に使用することができる組成物を意味する。例えば、本発明に係る機能性ペプチドは、植物病原菌、特に植物病原糸状菌に対する殺菌作用を有する殺菌剤として利用することができる。より具体的に、機能性ペプチド化合物は、そのまま農薬として用いても良いが、通常は適当な固体担体、液体担体等、界面活性剤及びその他の製剤用補助剤と混合して乳剤、EW剤、液剤、懸濁剤、水和剤、顆粒水和剤、粉剤、DL粉剤、微粒剤、微粒剤F、粒剤、錠剤、油剤、エアゾル、フロアブル剤、ドライフロアブル、マイクロカプセル剤等の任意の剤型にして使用することができる。
【0037】
固体担体としては、例えば澱粉、活性炭、大豆粉、小麦粉、木粉、魚粉、粉乳等の動植物性粉末、タルク、カオリン、ベントナイト、炭酸カルシウム、ゼオライト、珪藻土、ホワイトカーボン、クレー、アルミナ、硫安、尿素等の無機物粉末が挙げられる。
【0038】
液体担体としては、例えば水;イソプロピルアルコール、エチレングリコール等のアルコール類;シクロヘキサノン、メチルエチルケトン等のケトン類;ジオキサン、テトラヒドロフラン等のエーテル類;ケロシン、軽油等の脂肪族炭化水素類;キシレン、トリメチルベンゼン、テトラメチルベンゼン、メチルナフタリン、ソルベントナフサ等の芳香族炭化水素類;クロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素類;ジメチルアセトアミド等の酸アミド類;脂肪酸のグリセリンエステル等のエステル類;アセトニトリル等のニトリル類;ジメチルスルホキシド等の含硫化合物類等が挙げられる。
【0039】
界面活性剤としては、例えばアルキルベンゼンスルホン酸金属塩、ジナフチルメタンジスルホン酸金属塩、アルコール硫酸エステル塩、アルキルアリールスルホン酸塩、リグニンスルホン酸塩、ポリオキシエチレングリコールエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアリールエーテル、ポリオキシエチレンソルビタンモノアルキレート等が挙げられる。
【0040】
その他の補助剤としては、例えばカルボキシメチルセルロース、アラビアゴム、アルギン酸ナトリウム、グアーガム、トラガントガム、ポリビニルアルコール等の固着剤あるいは増粘剤、金属石鹸等の消泡剤、脂肪酸、アルキルリン酸塩、シリコーン、パラフィン等の物性向上剤、着色剤等を用いることができる。
【0041】
殺菌剤の種々の製剤、またはその希釈物の施用は、通常、一般に行われている施用方法、即ち、散布(例えば噴霧、ミスティング、アトマイジング、散粉、散粒、水面施用、箱施用等)、土壌施用(例えば混入、潅注等)、表面施用(例えば塗布、粉衣、被覆等)、浸漬、毒餌、くん煙施用等により行うことができる。
【0042】
さらに、本発明に係る機能性ペプチドを有効成分とする殺菌剤は、機能性ペプチド単独で有効成分としても十分有効であることはいうまでもないが、必要に応じて他の肥料、農薬、例えば殺虫剤、殺ダニ剤、殺線虫剤、他の殺菌剤、抗ウイルス剤、誘引剤、除草剤、植物生長調整剤などと混用、併用することができる。
【0043】
以上のように構成された農薬は、上述した植物病原菌により植物病害を生じうる植物に対して施用することができる。施用対象植物としては、特に限定されないが、例えば、農作物:トウモロコシ、イネ、コムギ、オオムギ、ライムギ、エンバク、ソルガム、ワタ、ダイズ、ピーナッツ、ソバ、テンサイ、セイヨウアブラナ、ヒマワリ、サトウキビ、タバコ、ナス科野菜(ナス、トマト、ピーマン、トウガラシ、ジャガイモ等)、ウリ科野菜(キュウリ、カボチャ、ズッキーニ、スイカ、メロン、スカッシュ等)、アブラナ科野菜(ダイコン、カブ、セイヨウワサビ、コールラビ、ハクサイ、キャベツ、カラシナ、ブロッコリー、カリフラワー等)、キク科野菜(ゴボウ、シュンギク、アーティチョーク、レタス等)、ユリ科野菜(ネギ、タマネギ、ニンニク、アスパラガス等)、セリ科野菜(ニンジン、パセリ、セロリ、アメリカボウフウ等)、アカザ科野菜(ホウレンソウ、フダンソウ等)、シソ科野菜(シソ、ミント、バジル等)、イチゴ、サツマイモ、ヤマノイモ、サトイモ等;花卉;観葉植物;シバ;果樹:仁果類(リンゴ、セイヨウナシ、ニホンナシ、カリン、マルメロ等)、核果類(モモ、スモモ、ネクタリン、ウメ、オウトウ、アンズ、プルーン等)、カンキツ類(ウンシュウミカン、オレンジ、レモン、ライム、グレープフルーツ等)、堅果類(クリ、クルミ、ハシバミ、アーモンド、ピスタチオ、カシューナッツ、マカダミアナッツ等)、液果類(ブルーベリー、クランベリー、ブラックベリー、ラズベリー等)、ブドウ、カキ、オリーブ、ビワ、バナナ、コーヒー、ナツメヤシ、ココヤシ等;果樹以外の樹:チャ、クワ、ヤトロファ(ナンヨウアブラギリ)、花木、街路樹(トネリコ、カバノキ、ハナミズキ、ユーカリ、イチョウ、ライラック、カエデ、カシ、ポプラ、ハナズオウ、フウ、プラタナス、ケヤキ、クロベ、モミノキ、ツガ、ネズ、マツ、トウヒ、イチイ)が挙げられる。
【0044】
なかでも、上述した機能性ペプチドを有効成分とする農薬は、アブラナ科植物、ウリ類植物及びイネ科植物に対して施用することが好ましい。
【0045】
<形質転換植物>
本発明に係る機能性ペプチドは、上述のように、幅広い種類の植物病原菌に対して抗菌作用を有する。このため、当該機能性ペプチドを高発現する形質転換植物は、上述した植物病害に対して抵抗性を示すといった特徴を備える。形質転換植物は、所定の植物細胞に上述した機能性ペプチドをコードする核酸を発現可能に導入した形質転換植物細胞と、当該形質転換植物細胞を植物体に再生した形質転換植物体の両者を含む意味である。本発明に係る形質転換植物は、上述した機能性ペプチドを発現することで、上述した植物病原菌に対する抵抗性が向上したものとなる。
【0046】
より具体的に、形質転換植物としては、特に限定されないが、トウモロコシ、イネ、コムギ、オオムギ、ライムギ、エンバク、ソルガム、ワタ、ダイズ、ピーナッツ、ソバ、テンサイ、セイヨウアブラナ、ヒマワリ、サトウキビ、タバコ、ナス科野菜(ナス、トマト、ピーマン、トウガラシ、ジャガイモ等)、ウリ科野菜(キュウリ、カボチャ、ズッキーニ、スイカ、メロン、スカッシュ等)、アブラナ科野菜(ダイコン、カブ、セイヨウワサビ、コールラビ、ハクサイ、キャベツ、カラシナ、ブロッコリー、カリフラワー等)、キク科野菜(ゴボウ、シュンギク、アーティチョーク、レタス等)、ユリ科野菜(ネギ、タマネギ、ニンニク、アスパラガス等)、セリ科野菜(ニンジン、パセリ、セロリ、アメリカボウフウ等)、アカザ科野菜(ホウレンソウ、フダンソウ等)、シソ科野菜(シソ、ミント、バジル等)、イチゴ、サツマイモ、ヤマノイモ、サトイモ等;花卉;観葉植物;シバ;果樹:仁果類(リンゴ、セイヨウナシ、ニホンナシ、カリン、マルメロ等)、核果類(モモ、スモモ、ネクタリン、ウメ、オウトウ、アンズ、プルーン等)、カンキツ類(ウンシュウミカン、オレンジ、レモン、ライム、グレープフルーツ等)、堅果類(クリ、クルミ、ハシバミ、アーモンド、ピスタチオ、カシューナッツ、マカダミアナッツ等)、液果類(ブルーベリー、クランベリー、ブラックベリー、ラズベリー等)、ブドウ、カキ、オリーブ、ビワ、バナナ、コーヒー、ナツメヤシ、ココヤシ等;果樹以外の樹:チャ、クワ、ヤトロファ(ナンヨウアブラギリ)、花木、街路樹(トネリコ、カバノキ、ハナミズキ、ユーカリ、イチョウ、ライラック、カエデ、カシ、ポプラ、ハナズオウ、フウ、プラタナス、ケヤキ、クロベ、モミノキ、ツガ、ネズ、マツ、トウヒ、イチイ)が挙げられる。
【0047】
なお、本発明に係る形質転換植物の作製方法は、特に限定されず、概略、上述した機能性ペプチドをコードする核酸を発現ベクターに組み込み、得られた発現ベクターを植物に導入するといった方法により、上述した機能性ペプチドを発現する形質転換植物を作製することができる。
【0048】
発現ベクターは、植物内で発現を可能とするプロモーターと、上述した機能性ペプチドをコードする核酸とを含むように構築する。発現ベクターの母体となるベクターとしては、従来公知の種々のベクターを用いることができる。例えば、プラスミド、ファージ、またはコスミド等を用いることができ、導入される植物細胞や導入方法に応じて適宜選択することができる。具体的には、例えば、pBR322、pBR325、pUC19、pUC119、pBluescript、pBluescriptSK、pBI系のベクター等を挙げることができる。特に、植物体へのベクターの導入法がアグロバクテリウムを用いる方法である場合には、pBI系のバイナリーベクターを用いることが好ましい。pBI系のバイナリーベクターとしては、具体的には、例えば、pBIG、pBIN19、pBI101、pBI121等を挙げることができる。
【0049】
プロモーターは、植物体内で上記機能性ペプチドをコードする核酸を発現させることが可能なプロモーターであれば特に限定されるものではなく、公知のプロモーターを好適に用いることができる。特に、プロモーターとしては、植物体内において下流の遺伝子を恒常的に発現させる恒常発現プロモーターを使用することが好ましい。かかるプロモーターとしては、例えば、カリフラワーモザイクウイルス35Sプロモーター(CaMV35S)、各種アクチン遺伝子プロモーター、各種ユビキチン遺伝子プロモーター、ノパリン合成酵素遺伝子のプロモーター、タバコのPR1a遺伝子プロモーター、トマトのリブロース1,5-二リン酸カルボキシラーゼ・オキシゲナーゼ小サブユニット遺伝子プロモーター、ナピン遺伝子プロモーター等を挙げることができる。この中でも、カリフラワーモザイクウイルス35Sプロモーター、アクチン遺伝子プロモーター又はユビキチン遺伝子プロモーターをより好ましく用いることができる。上記各プロモーターを用いれば、植物細胞内に導入されたときに任意の遺伝子を強く発現させることが可能となる。
【0050】
また、プロモーターとしては、植物における部位特異的に発現させる機能を有するものを使用することもできる。このようなプロモーターとしては、従来公知の如何なるプロモーターを使用することができる。このようなプロモーターを使用して、上記機能性ペプチドを部位特異的に発現させることができる。
【0051】
さらに、プロモーターとしては、病害に応答して発現を誘導する遺伝子プロモーターを使用することができる。かかるプロモーターとしては、例えば、plant defensin 1.2(PDF1.2)遺伝子プロモーター、pathogenesis-related 1 (PR1) 遺伝子プロモーター、PR2遺伝子プロモーター、PR5遺伝子プロモーター等を挙げることができる。このようなプロモーターを使用して、上記機能性ペプチドを病原菌感染時特異的に発現させることができる。
【0052】
なお、発現ベクターは、プロモーター及び上記機能性ペプチドをコードする核酸に加えて、さらに他のDNAセグメントを含んでいてもよい。当該他のDNAセグメントは特に限定されるものではないが、ターミネーター、選別マーカー、エンハンサー、翻訳効率を高めるための塩基配列等を挙げることができる。また、上記発現ベクターは、さらにT-DNA領域を有していてもよい。T-DNA領域は特にアグロバクテリウムを用いて上記組換え発現ベクターを植物体に導入する場合に遺伝子導入の効率を高めることができる。
【0053】
転写ターミネーターは転写終結部位としての機能を有していれば特に限定されるものではなく、公知のものであってもよい。例えば、具体的には、ノパリン合成酵素遺伝子の転写終結領域(Nosターミネーター)、カリフラワーモザイクウイルス35Sの転写終結領域(CaMV35Sターミネーター)等を好ましく用いることができる。この中でもNosターミネーターをより好ましく用いることできる。上記発現ベクターにおいては、転写ターミネーターを適当な位置に配置することにより、植物細胞に導入された後に、不必要に長い転写物を合成させるといった現象の発生を防止することができる。
【0054】
形質転換体選別マーカーとしては、例えば薬剤耐性遺伝子を用いることができる。かかる薬剤耐性遺伝子の具体的な一例としては、例えば、ハイグロマイシン、ブレオマイシン、カナマイシン、ゲンタマイシン、クロラムフェニコール等に対する薬剤耐性遺伝子を挙げることができる。これにより、上記抗生物質を含む培地中で生育する植物体を選択することによって、形質転換された植物体を容易に選別することができる。
【0055】
発現ベクターの構築方法についても特に限定されるものではなく、適宜選択された母体となるベクターに、上記プロモーター及び上記機能性ペプチドをコードする核酸並びに必要に応じて上記他のDNAセグメントを所定の順序となるように導入すればよい。例えば、上記機能性ペプチドをコードする核酸とプロモーター(必要に応じて転写ターミネーター等)とを連結して発現カセットを構築し、これをベクターに導入すればよい。発現カセットの構築では、例えば、各DNAセグメントの切断部位を互いに相補的な突出末端としておき、ライゲーション酵素で反応させることで、当該DNAセグメントの順序を規定することが可能となる。なお、発現カセットにターミネーターが含まれる場合には、上流から、プロモーター、上記機能性ペプチドをコードする核酸、ターミネーターの順となっていればよい。また、発現ベク
ターを構築するための試薬類、すなわち制限酵素やライゲーション酵素等の種類についても特に限定されるものではなく、市販のものを適宜選択して用いればよい。
【0056】
上述した発現ベクターは、一般的な形質転換方法によって対象の植物内に導入される。発現ベクターを植物細胞に導入する方法(形質転換方法)は特に限定されるものではなく、植物細胞に応じた適切な従来公知の方法を用いることができる。具体的には、例えば、アグロバクテリウムを用いる方法や直接植物細胞に導入する方法を用いることができる。発現ベクターを直接植物細胞に導入する方法としては、例えば、マイクロインジェクション法、エレクトロポレーション法(電気穿孔法)、ポリエチレングリコール法、パーティクルガン法、プロトプラスト融合法、リン酸カルシウム法等を用いることができる。
【0057】
また、DNAを直接植物細胞に導入する方法を採るなら、対象とする遺伝子の発現に必要な転写ユニット、例えばプロモーターや転写ターミネーターと、上記機能性ペプチドをコードする核酸を含んだDNAであれば十分であり、ベクター機能は必須ではない。さらに、転写ユニットを有さない、上記機能性ペプチドのコード領域のみを含むDNAであっても、宿主の転写ユニット内にインテグレートし、対象となる機能性ペプチドを発現することができればよい。
【0058】
上記発現ベクターや、発現ベクターを含まず対象となる機能性ペプチドをコードする核酸を含んだ発現カセットが導入される植物細胞としては、例えば、花、葉、根等の植物器官における各組織の細胞、カルス、懸濁培養細胞等を挙げることができる。ここで、発現ベクターは、生産しようとする種類の植物体に合わせて適切なものを適宜構築してもよいが、汎用的な発現ベクターを予め構築しておき、それを植物細胞に導入してもよい。
【0059】
形質転換の結果得られる腫瘍組織やシュート、毛状根などは、そのまま細胞培養、組織培養又は器官培養に用いることが可能であり、また従来知られている植物組織培養法を用い、適当な濃度の植物ホルモン(オーキシン、サイトカイニン、ジベレリン、アブシジン酸、エチレン、ブラシノライド等)の投与などにより植物体に再生させることができる。
【0060】
再生方法としては、カルス状の形質転換細胞をホルモンの種類、濃度を変えた培地へ移して培養し、不定胚を形成させ、完全な植物体を得る方法が採用される。使用する培地としては、LS培地、MS培地などが例示される。
【0061】
また、本発明に係る形質転換植物は、上述した機能性ペプチドをコードする核酸を含む発現ベクターを宿主細胞に導入して形質転換植物細胞を得て、該形質転換植物細胞から形質転換植物体を再生し、得られた形質転換植物体から植物種子を得て、該植物種子から得られる後代の植物も含む意味である。形質転換植物体から植物種子を得るには、例えば、形質転換植物体を発根培地から採取し、水を含んだ土を入れたポットに移植し、一定温度下で生育させて、花を形成させ、最終的に種子を形成させる。また、種子から植物体を生産するには、例えば、形質転換植物体上で形成された種子が成熟したところで、単離して、水を含んだ土に播種し、一定温度、照度下で生育させることにより、植物体を生産する。このようにして生産された植物は、上述した機能性ペプチドを発現するため、上述した植物病原菌に対する優れた抵抗性を示す。
【実施例】
【0062】
以下、実施例を用いて本発明を更に詳細に説明するが、本発明の技術範囲は以下の実施例に限定されるものではない。
【0063】
本実施例では、以下の順に従って植物病原糸状菌に対して抗菌活性を有する機能性ペプチド及びその部分ペプチドを同定した。
1.萎凋病に感染/非感染トマトの導管液採取
2.プロテオーム解析
3.導管液中のペプチド同定
4.機能性ペプチドの合成
5.植物病原糸状菌に対する抗菌活性の評価
以下、上記1.~5.を順に説明する。
【0064】
<1.萎凋病に感染/非感染トマトの導管液採取>
トマト品種ポンテローザをくみあいニッピ園芸培土で育成した。本葉が2枚展開したトマト苗を掘り取り、根を水道水で洗浄した。根をトマト萎凋病菌(Fusarium oxysporum CK3-1株)のbud cell懸濁液(1×106細胞/ml)に約30秒間浸漬した後、くみあいニッピ園芸培土を入れたビニールポットに移植し、人口気象器(25℃、明14時間、暗10時間)で育成した。対照区として、非接種苗を同様に育成した。移植7、9、11、13日後に、接種苗と非接種苗の第1本葉直下を切断し、ポットを横に倒し、茎の切断面を2.0mlプラスチックチューブに入れた。室温下で12時間静置し、切断面から流出する導管液を回収した。回収液量を測定した後、セルロースフィルター(MinisartRC15、Sartrium Stedim)でろ過し、-80℃で保存した。
導管液のタンパク質濃度の測定には、Bio-Rad DC Protein Assay Kit(Bio-Rad)を用いた。検量線の作成には牛血清アルブミン(BSA)を用いた。
【0065】
<2.プロテオーム解析>
導管液タンパク質のゲル内トリプシン消化
トマト萎凋病菌接種及び非接種苗から採取した導管液サンプル(12μl、約10μg)に4μlの4×サンプル緩衝液(和光純薬)を加え、SDS-PAGEにより約2.5cm泳動後、ゲルを6分割し、さらに1mm角のみじん切りにした。ゲル内消化はRosefeld et al.(1992)の方法(Rosenfeld, J., Capdevielle, J., Guillemot, J.C. and Ferrara, P. (1992). In-gel digestion of proteins for internal sequence analysis after one- or two-dimensional gel electrophoresis. Anal. Biochem. 203: 173-179)を参考に行った。
【0066】
先ず、ゲルをミリQ水(超純水)、50mM炭酸アンモニウム/50%アセトニトリルでそれぞれ1回洗浄後、アセトニトリルで乾固させた。50mMのトリス(2-カルボキシエチル)ホスフィンを加え、60℃下で10分間静置した後、100mMの2-ヨードアセトミドを加え、室温で1時間静置した。ゲルをミリQ水(超純水)、50mM炭酸アンモニウム/50%アセトニトリルでそれぞれ1回洗浄後アセトニトリルで乾固させ、Lys-C/トリプシン(0.01mg/ml、プロメガ社製)を加えてゲルを膨潤させた。膨潤ゲルに20μlの50mM炭酸アンモニウムを加えたのち、37℃下で16時間反応させた。20%トリフロロ酢酸を用いて反応液をpH=2に調整した後、デュラポアメンブレンのPVDF0.1μm(メルクミリポア社製)でろ過し、減圧濃縮後、0.1%トリフロロ酢酸/2%アセトニトリルに溶解した。
【0067】
nano LC-MS/MS解析
nano-LC-MS/MS解析には、Q Exactive Hybrid Quadrupole-Orbitrap Mass Spectrometer(サーモフィッシャー・サイエンティフィック社製)にDionex U3000 gradient pump(サーモフィッシャー・サイエンティフィック社製)を組み合わせたシステムを用いた。トラップカラム(L-column ODS、300μmI.D.×5mm、5μm粒径、化学物質評価研究機構)及び分析カラム(NTCC-360、100μmI.D.×125mm、3μm粒径、日京テクノス)を用いて、移動相A(0.5%酢酸)、移動相B(0.5%酢酸含有80%アセトニトリル)を用いた。流速は0.5μl/分で行い、グラディエントはアセトニトリル濃度を100分間で5%Bから35%B、1分間で35%Bから100%B、3分間100%B、1分間で100%Bから5%B、最後に10分間5%Bで行った。
【0068】
<3.導管液中のペプチド同定>
nano LC-MS/MS解析で検出されたタンパク質の解析には、Proteome Discoverer 2.0.0.802 (サーモフィッシャー・サイエンティフィック社製)を用いた。データベースには、トマトsORFデータベース(ITAG2.4_gene_models_sORF)、トマトタンパク質データベース(ITAG2.4_protein)、トマト萎凋病菌タンパク質データベース(fusarium_oxysporum_f._sp._lycopersici_4827_2_protein)を用いた。その結果、非接種トマト特異的に発現が確認された4ペプチド(TsORF6、11、19、29と命名)、接種トマト特異的に発現している4ペプチド(TsORF8、15、18、30と命名)、非接種及び接種トマトに共通して発現している6ペプチド(TsORF10、16、17、21、24、25と命名)を見出した。
【0069】
本実施例で同定した上記14種類のペプチドは、上記トマトタンパク質データベース(ITAG2.4_protein)及びトマト萎凋病菌タンパク質データベース(fusarium_oxysporum_f._sp._lycopersici_4827_2_protein)には登録されておらず、トマトsORFデータベース(ITAG2.4_gene_models_sORF)のみに登録されているペプチドである。このトマトsORFデータベースは、sORF finder: a program package to identify small open reading frames with high coding potential K Hanada, K Akiyama, T Sakurai, T Toyoda, K Shinozaki, SH Shiu Bioinformatics 26 (3), 399-400に開示された手法をトマトに適用し、通常のORFがないとされてきた遺伝子間領域に見いだした10~100アミノ酸残基のペプチドをコードするフレーム(sORF:small open reading frame)に関する情報を格納したデータベースである。
【0070】
<4.機能性ペプチドの合成>
本実施例では、同定したペプチドの内、TsORF18と命名した65アミノ酸残基のペプチド(mdfimlaaaivkesfiflligllaaILLSLEIFERKFSRSVWYYGFPAFSERTRKFWRIWKGKTS:配列番号12)を解析対象とした。なお、上記アミノ酸配列の表記のうち小文字で示した領域はシグナルペプチドに相当する。このペプチドのうち、シグナルペプチドを除いた40アミノ酸残基からなる領域(TsORF18-40 a.a.)と、TsORF18-40 a.a.を以下の2つの領域(TsORF18-1及びTsORF18-2)に分け、それぞれ化学的に合成した。
TsORF18-1:ILLSLEIFERKFSRSVWYYGFP(配列番号13)
TsORF18-2:YYGFPAFSERTRKFWRIWKGKT(配列番号40)
TsORF18-40 a.a:ILLSLEIFERKFSRSVWYYGFPAFSERTRKFWRIWKGKTS(配列番号14)
【0071】
また、本実施例では、TsORF18-2のアミノ酸配列に基づいて、8アミノ酸残基からなる部分ペプチド(表1)と、5アミノ酸残基からなる部分ペプチド(表2)を設計し、それぞれ化学的に合成した。
【0072】
【0073】
【0074】
<5.植物病原糸状菌に対する抗菌活性の評価>
5-1.プレート抗菌試験
本実施例では、灰色かび病菌 (Botrytis cinerea)、アブラナ科炭そ病菌 (Colletotrichum destructivum)、ウリ類炭素病菌(Colletotrichum orbiculare)、萎凋病菌 (Fusarium oxysporum)及びいもち病菌(Pyricularia oryzae)に対する抗菌活性を胞子の発芽を観察することで評価した。本実施例では、まず、これら糸状菌の胞子懸濁液100μl(約104個)を96穴マイクロプレートに分注した。
【0075】
次に、供試するペプチド(TsORF18-1、TsORF18-2、TsORF18-40 a.a.、TsORF18(全長)及びTsORF18-2の部分ペプチド(表1及び2))を各ウェルに添加した。なお、ペプチドの濃度は1μM、10μM又は100μMとした。その後、25℃で1日又は2日間培養した。
【0076】
培養終了後、各ウェルを顕微鏡で観察し、供試したペプチドによる抗菌活性を評価した。本実施例では、抗菌活性の低い順にレベル0~3として定義した。顕微鏡観察の結果、菌糸がウェル全体に伸長しており抗菌活性が見られない場合「レベル0」とし、菌糸がウェルの半分未満に伸長しており成長を疎開している場合「レベル1」とし、未発芽の胞子が存在しており一部発芽阻害する場合「レベル2」とし、全ての胞子が未発芽であり完全発芽阻害する場合「レベル3」とした。
【0077】
一例として、TsORF18-2を供試したときの顕微鏡観察結果を
図1に示した。なお、
図1に示す上段の写真は無処理のコントロールである。
図1に示すように、TsORF18-2を供試したとき、灰色かび病菌 (Botrytis cinerea)、アブラナ科炭そ病菌 (Colletotrichum destructivum)、ウリ類炭素病菌(Colletotrichum orbiculare)、萎凋病菌 (Fusarium oxysporum)及びいもち病菌(Pyricularia oryzae)の全てが完全に発芽阻害されていた。
【0078】
5-2.灰色かび病菌の葉接種試験
本実施例では、灰色かび病菌 (Botrytis cinerea)及び供試ペプチドを含む懸濁液を植物の葉に滴下し、病斑を目視により観察することで、供試ペプチドの抗菌活性を評価した。
【0079】
まず、ジャガイモ煎汁培地(PDB)に灰色かび病菌 (Botrytis cinerea)の胞子を、胞子濃度が5×105個/mlとなるように懸濁し、PDB懸濁胞子液を調製した。次に、供試ペプチド(TsORF18-2)の最終濃度が0、1μM、10μM又は100μMとなるように、PDB懸濁胞子液に供試ペプチドを添加した。なお、供試ペプチドとしては、TsORF18-2の他にTsORF18(全長)、TsORF18-40a.a.も同様に使用した。TsORF18(全長)はDMSOに溶解し、TsORF18-2及びTsORF18-40a.aはMiliQ水に溶解したものを使用した。
【0080】
次に、トマト(品種名「ポンテローザ」)の葉の表及び裏に、供試ペプチドを添加したPDB懸濁胞子液を10μlずつ滴下した。この状態で、25℃で2日間インキュベートした。その後、葉の表及び裏を目視で観察した。葉の表を撮像した写真を
図2に示した。
図2に示すように、100μMのTsORF18-2を含むPDB懸濁胞子液を滴下しても、灰色かび病の病斑は観察されなかった。この結果から、100μMのTsORF18-2は、灰色かび病菌に対して極めて優れた抗菌活性を示すことが明らかとなった。
【0081】
図示しないが、TsORF18(全長)を使用した場合、TsORF18-40a.aを使用した場合には、灰色かび病菌に対する阻害効果は見られなかった。
【0082】
5-3.炭そ病菌の葉接種試験
本実施例では、アブラナ科炭そ病菌 (Colletotrichum destructivum)及び供試ペプチドを含む懸濁液を植物の葉に滴下し、病斑を目視により観察することで、供試ペプチドの抗菌活性を評価した。
【0083】
まず、水にアブラナ科炭そ病菌 (Colletotrichum destructivum)の胞子を、胞子濃度が5×105個/mlとなるように懸濁し、水懸濁胞子液を調製した。次に、供試ペプチド(TsORF18(全長)、TsORF18-40a.a及びTsORF18-2)の最終濃度が0、1μM、10μM又は100μMとなるように、水懸濁胞子液に供試ペプチドを添加した。
【0084】
次に、ハクサイ(品種名「黄ごころ85」)の葉の表及び裏に、供試ペプチドを添加した水懸濁胞子液を10μlずつ滴下した。この状態で、25℃で4日間インキュベートした。その後、葉の表及び裏を目視で観察した。葉の表を撮像した写真を
図3に示した。
図3に示すように、TsORF18-2では1μM、10μM又は100μMいずれの濃度でも、炭そ病の病斑は観察されなかった。また、TsORF18(全長)を使用した場合には何れの濃度での炭そ病の病斑が観察された。しかし、TsORF18の全長からシグナルペプチドを除いたTsORF18-40 a.a.を使用した場合には、10μM又は100μMの濃度で炭そ病の病斑は観察されなかった。
【0085】
これらの結果から、TsORF18-2及びTsORF18-40 a.a.は、炭そ病菌に対して極めて優れた抗菌活性を示すことが明らかとなった。
【0086】
5-4.他の植物病原菌に対する抗菌試験
本実施例では、ナス科植物青枯病菌(Ralstonia solanacearum)、軟腐病菌(Erwinia carotovora subsp. carotovora)、イネ白葉枯病菌(Xanthomonas oryzae pv. oryzae)及びトマト斑葉細菌病菌(Pseudomonas syringae pv. tomato)に対する抗菌活性を評価した。本実施例では、まず、これら微生物を培養し、培養液(OD600=0.1)100μlを96穴マイクロプレートに分注した。
【0087】
次に、供試ペプチドを各ウェルに最終濃度100μMとなるように添加した。また、ネガティブコントロールとして供試ペプチドに代えて水を添加した。その後、28℃で一昼夜培養し、OD600を測定した。測定したOD600値を用いて下記式により増殖率を算出した。
[増殖率(%)]=(1-OD600[ペプチド添加])/OD600[水添加]×100
【0088】
5-5.結果
上記5-1、5-2及び5-3の実験結果をまとめて表3に示した。
【0089】
【0090】
また、上記5-4の実験結果を表4に示した。
【0091】
【0092】
表3及び4に示したように、TsORF18-2(配列番号40)のペプチドは、灰色かび病菌 (Botrytis cinerea)、アブラナ科炭そ病菌 (Colletotrichum destructivum)、ウリ類炭素病菌(Colletotrichum orbiculare)、萎凋病菌 (Fusarium oxysporum)及びいもち病菌(Pyricularia oryzae)といった幅広い植物病原糸状菌の発芽を阻害することができた。また、TsORF18-2(配列番号40)のペプチドは、イネ白葉枯病菌(Xanthomonas oryzae pv. oryzae)及びトマト斑葉細菌病菌(Pseudomonas syringae pv. tomato)といった植物病原細菌に対して増殖を阻害することができた。
【0093】
また、表3に示したように、TsORF18-2(配列番号40)のペプチドの部分ペプチドについても、灰色かび病菌 (Botrytis cinerea)、アブラナ科炭そ病菌 (Colletotrichum destructivum)、ウリ類炭素病菌(Colletotrichum orbiculare)、萎凋病菌 (Fusarium oxysporum)及びいもち病菌(Pyricularia oryzae)といった幅広い植物病原糸状菌の発芽を阻害することができた。
【0094】
特に、TsORF18-2(配列番号40)のペプチドの部分ペプチドとしては、配列番号40のアミノ酸配列におけるC末端近傍の少なくとも5アミノ酸残基、より好ましくはC末端近傍の少なくとも8アミノ酸残基とすることが好ましい。このような部分ペプチド、より具体的には、(a)アミノ酸配列:ERTRKFWR(配列番号2)、(b)アミノ酸配列:RTRKFWRI(配列番号3)、(c)アミノ酸配列:TRKFWRIW(配列番号4)、(d)アミノ酸配列:RKFWRIWK(配列番号5)、(e)アミノ酸配列:KFWRIWKG(配列番号6)、(f)アミノ酸配列:FWRIWKGK(配列番号7)、(g)アミノ酸配列:WRIWKGKT(配列番号8)、(h)アミノ酸配列:RKFWR(配列番号9)、(i)アミノ酸配列:KFWRI(配列番号10)及び(j)アミノ酸配列:WRIWK(配列番号11)には、植物病原糸状菌に対する非常に優れた発芽阻害活性があることが明らかになった。
【0095】
なお、表3においてこれら植物病原糸状菌に対する発芽阻害効果が見られなかった部分ペプチドについても、濃度等の諸条件を検討することによって同様に発芽阻害効果を示す可能性がある。
【配列表】