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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-07
(45)【発行日】2023-02-15
(54)【発明の名称】転炉炉体鉄皮の補修方法
(51)【国際特許分類】
   C21C 5/42 20060101AFI20230208BHJP
【FI】
C21C5/42
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2019050935
(22)【出願日】2019-03-19
(65)【公開番号】P2020152943
(43)【公開日】2020-09-24
【審査請求日】2021-11-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090697
【弁理士】
【氏名又は名称】中前 富士男
(74)【代理人】
【識別番号】100127155
【氏名又は名称】来田 義弘
(74)【代理人】
【識別番号】100176142
【弁理士】
【氏名又は名称】清井 洋平
(72)【発明者】
【氏名】姫野 優
(72)【発明者】
【氏名】鶴園 弘明
(72)【発明者】
【氏名】鳥谷 嘉幸
(72)【発明者】
【氏名】筒井 雄史
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 幸太郎
【審査官】瀧澤 佳世
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-193122(JP,A)
【文献】特開平05-140629(JP,A)
【文献】特開2015-139832(JP,A)
【文献】特開2012-193433(JP,A)
【文献】特開平03-249113(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C21C 5/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
局所的に変形している転炉炉体鉄皮の補修方法であって、
転炉炉体の内面にライニングされている耐火物を除去して転炉炉体鉄皮を露出させる工程と、
前記転炉炉体内に三次元測定器を設置して前記転炉炉体鉄皮の形状を測定する工程と、
前記転炉炉体鉄皮の形状実測値と形状設計値との差分を算出して該転炉炉体鉄皮の変形量とする工程と、
補修すべき転炉炉体鉄皮変形部を含む周辺領域の変形量を等高線図で表して、切断線とすべき等高線を決定し、前記切断線となる等高線の三次元座標値をプロジェクターに入力する工程と、
前記プロジェクターを前記転炉炉体内に設置し、前記切断線を前記転炉炉体鉄皮の内面に照射して前記切断線の罫書きを行う工程と、
罫書き線に沿って前記転炉炉体鉄皮を切断し、切断箇所に新設鉄皮を溶接する工程とを備えることを特徴とする転炉炉体鉄皮の補修方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、転炉炉体鉄皮の補修方法に関する。
【背景技術】
【0002】
転炉は、空気や酸素等の酸性化ガスと窒素等のキャリアガスを用いた反応剤を溶銑中に吹込むことにより、溶銑に含まれている珪素や炭素等の不純物の精錬除去を行う設備である。
転炉炉体の内面には、溶銑及び精錬反応による発熱に耐え得る耐火煉瓦がライニングされているが、転炉炉体の外殻を構成する炉体鉄皮は、長年の高温操業における熱応力やクリープ変形等によって徐々に材質及び強度が劣化し、変形が進行していく。炉体鉄皮の材質及び強度の劣化が進行すると、炉体鉄皮に亀裂が生じ、最悪の場合、炉体割れや溶銑流出といった危険な事故に繁がる。また、炉体変形が進行すると、炉体支持構造物(トラニオンリング)と炉体鉄皮との接触による干渉が生じ、炉体脱落のおそれがある。そのため、炉体鉄皮の劣化状況や操業状況によるものの、操業開始から5~10年程度経過した時点で炉体鉄皮の補修を実施して延命を図っている。
【0003】
例えば、特許文献1には、転炉鉄皮の劣化周辺部を、隅部が鉄皮の厚みの2~5倍程度の曲率をもち、且つ一辺が300~3400mmの範囲に渡る矩形状に切断除去し、切断線撤去跡に新設鉄皮を装着して溶接する、劣化した転炉鉄皮の補修方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第2936072号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、鉄皮の劣化程度及び変形範囲にもよるが、特許文献1記載の方法の場合、鉄皮の劣化部を完全に含むように劣化周辺部を矩形状に切断するため補修範囲が広くなり、工期が長期化し費用がかさむ。補修工事期間中は転炉の操業を停止して補修工事を行うため、工期の短縮、転炉の早期立ち上げができれば生産メリットは非常に大きい。
【0006】
本発明はかかる事情に鑑みてなされたもので、従来に比べて工期の短縮と費用の削減を図ることが可能な転炉炉体鉄皮の補修方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明は、局所的に変形している転炉炉体鉄皮の補修方法であって、以下の工程を備えることを特徴としている。
(1)転炉炉体の内面にライニングされている耐火物を除去して転炉炉体鉄皮を露出させる工程
(2)前記転炉炉体内に三次元測定器を設置して前記転炉炉体鉄皮の形状を測定する工程
(3)前記転炉炉体鉄皮の形状実測値と形状設計値との差分を算出して該転炉炉体鉄皮の変形量とする工程
(4)補修すべき転炉炉体鉄皮変形部を含む周辺領域の変形量を等高線図で表して、切断線とすべき等高線を決定し、前記切断線となる等高線の三次元座標値をプロジェクターに入力する工程
(5)前記プロジェクターを前記転炉炉体内に設置し、前記切断線を前記転炉炉体鉄皮の内面に照射して前記切断線の罫書きを行う工程
(6)罫書き線に沿って前記転炉炉体鉄皮を切断し、切断箇所に新設鉄皮を溶接する工程
【0008】
特許文献1では、転炉炉体鉄皮(以下、単に「鉄皮」と呼ぶ。)の補修範囲は矩形状とされている。補修範囲を縮小するため、矩形状の補修範囲を縮小した場合、後述するように、変形量の等高線を横切る形で鉄皮を切断することになり、切断面と新設鉄皮との肌合わせが悪化(段付き)する。肌合わせが悪化した場合、切断面と新設鉄皮の溶接部に応力集中が生じ、短期間で溶接部に亀裂・破断が発生するおそれがある。溶接亀裂は一般に余寿命予測が難しいといわれており、肌合わせの悪化は補修による余命延長効果を損なうおそれがある。
【0009】
本発明では、鉄皮変形部を変形量の等高線に沿って切断、除去することにより、切断面と新設鉄皮との間で良好な肌合わせを確保することができる。その結果、従来技術のように補修範囲を大きく取った場合と同等以上の肌合わせを確保したまま、補修範囲を大幅に縮小することが可能となる。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る転炉炉体鉄皮の補修方法では、鉄皮変形部を変形量の等高線に沿って切断、除去することにより、従来に比べて工期の短縮と費用の削減を図ることが可能となり、転炉の早期立ち上げによる生産メリットを享受することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】(A)本発明の一実施の形態に係る転炉炉体鉄皮の補修方法が適用される転炉炉体の立面図、(B)同転炉炉体の平面図である。
図2】(A)鉄皮の形状実測値と形状設計値を重ね合わせた転炉炉体の平面図、(B)同転炉炉体の立断面図である。
図3】鉄皮変形部を含む周辺領域の変形量を示した等高線図である。
図4】各切断線における切断面と新設鉄皮との肌合わせを模式的に表したグラフである。
図5】(A)プロジェクターが設置された転炉炉体の平面図、(B)同転炉炉体の立断面図である。
図6】鉄皮の内面に描かれた罫書き線の形状図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
続いて、添付した図面を参照しつつ、本発明を具体化した実施の形態について説明し、本発明の理解に供する。
【0013】
本発明の一実施の形態に係る転炉炉体鉄皮の補修方法が適用される転炉炉体10(以下、単に「炉体」と呼ぶ。)を図1(A)、(B)に示す。炉体10は、お碗状の炉底部10a、円筒状の直胴部10b、及び炉口10dに向けて縮径する絞り部10cを有し、外殻を構成する鉄皮(転炉炉体鉄皮)13と、鉄皮13の内面側に配置される耐火物(図示省略)とから概略構成されている。直胴部10bには、炉体10を傾動可能に支持する一対のトラニオン12を備えるトラニオンリング11が環装されている。直胴部10bと絞り部10cの境界領域となる絞り開始部付近は複数のリブ15で補強され、外方に向けて延出する出鋼口14が設けられている。
【0014】
図1(A)、(B)に示すように、本実施の形態では、出鋼口14の斜め下方に、局所的に外方に膨出する鉄皮変形部16が生じている。
【0015】
以下、本発明の一実施の形態に係る転炉炉体鉄皮の補修方法について説明する。
[STEP1]
炉体10の内面にライニングされている耐火物を全て除去して鉄皮13を露出させる。
【0016】
[STEP2]
炉体10内に三次元測定器(図示省略)を設置して鉄皮13の形状を三次元座標値として測定する。その際、3基以上(本実施の形態では3基)の基準マーカー25を鉄皮13の内面に設置し(図5(A)、(B)参照)、各基準マーカー25の三次元座標値も測定する。
三次元測定器としては、測定対象にレーザーを放射状に照射することにより表面形状の三次元座標を取得することができる三次元レーザースキャナーなどを使用することができる。
【0017】
[STEP3]
三次元測定器により測定した鉄皮13の三次元座標値(形状実測値)と鉄皮13の三次元CADデータ(形状設計値)との差分を算出して鉄皮13の変形量とする。
前記差分の算出には、形状実測値の三次元座標について、形状設計値の座標系と座標軸を揃える必要がある。本実施の形態では、形状設計値の座標系を円柱座標系とし、炉口10dプロフィールの近似円中心を原点とする。直胴部10bの任意の高さ位置におけるプロフィールの近似円中心と原点とを通る軸(炉体中心軸)をZ軸、Z軸に垂直で原点を通る平面上に出鋼口14の中心を投影した点と原点を通る軸をX軸とする。
【0018】
形状実測値17の形状設計値18の座標系への変換では、図2(A)、(B)に示すように、まず形状実測値17の炉口10dプロフィールの近似円中心aを原点とした上で、直動部10bにおける形状実測値プロフィールのうち、形状設計値18の円形プロフィールに最も近い平断面bの近似円中心cを採り、aとcを結ぶ軸をZ軸とする。X軸は、形状設計値18の座標系と同様に、Z軸に垂直で原点を通る平面上に出鋼口14の中心dを投影した点と原点を通る軸とする。
【0019】
以上のように、形状設計値の座標系に合わせて座標変換した三次元座標値(形状実測値)と三次元CADデータ(形状設計値)の差分を鉄皮13の変形量とする。
なお、[STEP2]で測定した各基準マーカー25の三次元座標値も、同様にして形状設計値の座標系に合わせて座標変換する。
【0020】
[STEP4]
補修すべき鉄皮変形部16を含む周辺領域の変形量を等高線図で表して、切断線とすべき等高線を決定する。
図3は、鉄皮変形部16を含む周辺領域の変形量を、炉体10内から当該周辺領域を見たときの等高線図として表したものである。同図において、符号20で示される曲線は、炉外方向への変形量が75mmの等高線であり、本実施の形態における切断線である。一方、符号22で示される直線は、特許文献1記載の方法による矩形状の切断線、符号21で示される直線は、特許文献1記載の方法における矩形状の補修範囲をさらに縮小した場合の切断線である。
【0021】
切断線20、21、22における切断面20a、21a、22aと新設鉄皮20b、21b、22bとの肌合わせを模式的に表したグラフを図4に示す。
切断線20の位置では、等高線と切断線が一致しているため、切断面20aの変形量は一定であり、新設鉄皮20bと肌合わせは一致する一方、切断線21、22の位置では、切断線が等高線を横切るため、位置によって切断面21a、22aの変形量に差を生じ、新設鉄皮21b、22bと肌合わせが一致しないことが同図よりわかる。特に、矩形状の補修範囲を縮小した切断線21の場合、切断面と新設鉄皮の肌合わせが悪化することが同図よりわかる。
【0022】
なお、切断線の決定に当たっては、補修範囲の最小化だけではなく、他の躯体構造物(本実施の形態では、出鋼口14やリブ15)との干渉を回避することが望ましい。
【0023】
[STEP5]
切断線20となる等高線の三次元座標値をプロジェクターに入力する。
プロジェクターとしては、例えば、レーザーマーカーなどを使用することができる。
なお、入力する三次元座標値は、[STEP3]にて合せ込みを行った形状設計値の座標系における三次元座標値であり、プロジェクターを座標系中心とした三次元座標値となる。
【0024】
[STEP6]
炉体10内にプロジェクター24を設置し(図5(A)、(B)参照)、鉄皮13の内面に切断線20を照射して切断線20の罫書きを行う(図6参照)。併せて、切断線20の三次元座標値に基づいてオフラインにて新設鉄皮及び裏当て板の加工を行う。
炉体10内にプロジェクター24を設置して鉄皮13の内面に切断線20を照射する際は、先ず、プロジェクター24と各基準マーカー25との距離をレーザー距離計等を用いて測定する。そして、[STEP3]において形状設計値の座標系に座標変換した各基準マーカー25の三次元座標値に基づいて、プロジェクター24の位置(三次元座標値)を割り出す。プロジェクター24の三次元座標値と座標系中心とのズレを基に、プロジェクター24に入力されている切断線20となる等高線の三次元座標値を補正した後、鉄皮13の内面に切断線20を照射する。切断線20の罫書きは、鉄皮13の内面に照射された切断線20を作業員が罫書きすることにより行う。
【0025】
[STEP7]
鉄皮13の内面に描かれた罫書き線26(図6参照)に沿って鉄皮13を切断し、切断箇所に新設鉄皮を溶接する。
鉄皮13の切断は、三次元自動ガス切断機もしくは手動により行う。
なお、切断箇所に新設鉄皮を溶接する際は以下の要領で行う。
切断面に溶接開先加工を施した後、裏当て板を取り付ける。開先加工の形状は溶接時の溶込み性と溶接量を考慮して決定するが、一般に30°程度の開先角度を確保する。溶接部の欠陥や後割れ等が発生しないようにするため、予熱及び後熱管理並びに溶接部の手入れを行いながら施工を行う。
【0026】
[STEP8]
溶接完了後は、溶接部に対して超音波検査及び磁粉探傷などの非破壊検査を実施し、溶接部の健全性の確認を行う。
【0027】
以上、本発明の一実施の形態について説明してきたが、本発明は何ら上記した実施の形態に記載の構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載されている事項の範囲内で考えられるその他の実施の形態や変形例も含むものである。
【符号の説明】
【0028】
10:炉体(転炉炉体)、10a:炉底部、10b:直胴部、10c:絞り部、10d:炉口、11:トラニオンリング、12:トラニオン、13:鉄皮(転炉炉体鉄皮)、14:出鋼口、15:リブ 、16:鉄皮変形部、17:形状実測値、18:形状設計値、17a、18a:直径、20、21、22:切断線、20a、21a、22a:切断面、20b、21b、22b:新設鉄皮、24:プロジェクター、25:基準マーカー、26:罫書き線
図1
図2
図3
図4
図5
図6