(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-07
(45)【発行日】2023-02-15
(54)【発明の名称】軸部材の結合構造及び流体機械
(51)【国際特許分類】
F04C 29/00 20060101AFI20230208BHJP
F04C 18/18 20060101ALI20230208BHJP
F04B 39/00 20060101ALI20230208BHJP
【FI】
F04C29/00 D
F04C18/18 B
F04C29/00 B
F04B39/00 103G
(21)【出願番号】P 2019065886
(22)【出願日】2019-03-29
【審査請求日】2021-06-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】平野 貴之
(72)【発明者】
【氏名】正木 大輔
(72)【発明者】
【氏名】柏 真太郎
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼荷 直樹
(72)【発明者】
【氏名】篠田 史也
【審査官】田谷 宗隆
(56)【参考文献】
【文献】実開昭63-057380(JP,U)
【文献】特開2010-144576(JP,A)
【文献】特開2015-034538(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04C 29/00
F04C 18/18
F04B 39/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸部材と、当該軸部材が圧入される圧入孔を備える被圧入部材との結合構造であって、
前記軸部材は、一端側から他端側に向かって、第1円柱部、第2円柱部、第3円柱部、及び、第4円柱部を有し、この順で直径が大きくなるように構成され、
前記圧入孔は、一端側から他端側に向かって、第1内径部、第2内径部、及び、第3内径部を有し、この順で内径が大きくなるように構成され、
前記圧入孔は、前記第1内径部の他端側の端部と、前記第2内径部の一端側の端部とを連結するテーパ状の連結面、又は径方向に延びる段差状の連結面を有するとともに、前記第2内径部の他端側の端部と、前記第3内径部の一端側の端部とを連結するテーパ状の連結面、又は径方向に延びる段差状の連結面を有し、
前記第2円柱部が前記第1内径部に圧入され、
前記第3円柱部が前記第2内径部に圧入され、
前記第4円柱部が前記第3内径部に圧入され、
前記第2円柱部の一端側の端部から前記第3円柱部の一端側の端部までの軸方向長さAが、前記第1内径部の他端側の端部から前記第2内径部の他端側の端部までの軸方向長さBよりも長く、
前記第2円柱部の一端側の端部から前記第4円柱部の一端側の端部までの軸方向長さCが、前記第1内径部の他端側の端部から前記第3内径部の他端側の端部までの軸方向長さDよりも長く、
各軸方向長さが、(A-B)<(C-D)の関係を満たすことを特徴とする軸部材の結合構造。
【請求項2】
前記第3円柱部には、セレーションが形成されている請求項1に記載の軸部材の結合構造。
【請求項3】
前記第1円柱部は、前記圧入孔から突出することなく構成されている請求項1又は2に記載の軸部材の結合構造。
【請求項4】
前記第1円柱部の軸方向長さは、前記第2円柱部の軸方向長さの半分以下である請求項1~3のいずれか一項に記載の軸部材の結合構造。
【請求項5】
前記第4円柱部よりも前記軸部材の他端側に、前記第4円柱部よりも直径が大きい第5円柱部を有し、
前記第5円柱部の一端側の端部が、前記被圧入部材における前記圧入孔の周囲の端面に当接する請求項1~4のいずれか一項に記載の軸部材の結合構造。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載の軸部材の結合構造を有する流体機械。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軸部材の結合構造及び軸部材の結合構造を有する流体機械に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、ロータリコンプレッサについて記載している。
図7に示すように、ロータ80の圧入孔80aにシャフト81を圧入することによって、シャフト81とロータ80とを結合している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1のシャフト81(軸部材)とロータ80(被圧入部材)との結合構造では、シャフト81を圧入する際に圧力のかかる方向がずれやすいため、ロータ80の圧入孔80aの中心線に対して、シャフト81の軸心がずれた状態になりやすい。圧入孔80aの中心線とシャフト81の軸心とを合わせることは、ロータ80の回転を安定させてロータリコンプレッサの性能向上を図るうえで重要な要素となっている。
【0005】
本発明は、こうした実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、被圧入部材の圧入孔の中心線に対して、軸部材の軸心を合わせた状態とすることが容易な軸部材の結合構造及びこの軸部材の結合構造を有する流体機械を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するための軸部材の結合構造は、軸部材と、当該軸部材が圧入される圧入孔を備える被圧入部材との結合構造であって、前記軸部材は、一端側から他端側に向かって、第1円柱部、第2円柱部、第3円柱部、及び、第4円柱部を有し、この順で直径が大きくなるように構成され、前記圧入孔は、一端側から他端側に向かって、第1内径部、第2内径部、及び、第3内径部を有し、この順で内径が大きくなるように構成され、前記第2円柱部が前記第1内径部に圧入され、前記第3円柱部が前記第2内径部に圧入され、前記第4円柱部が前記第3内径部に圧入され、前記第2円柱部の一端側の端部から前記第3円柱部の一端側の端部までの軸方向長さAが、前記第1内径部の他端側の端部から前記第2内径部の他端側の端部までの軸方向長さBよりも長く、前記第2円柱部の一端側の端部から前記第4円柱部の一端側の端部までの軸方向長さCが、前記第1内径部の他端側の端部から前記第3内径部の他端側の端部までの軸方向長さDよりも長く、各軸方向長さが、(A-B)<(C-D)の関係を満たすことを要旨とする。
【0007】
この構成によれば、第2円柱部が第1内径部に圧入され、第3円柱部が第2内径部に圧入され、第4円柱部が第3内径部に圧入されることにより、軸部材を圧入孔のより奥側に挿入した段階で圧入が行われている。そのため、圧入の際に軸部材にかかる圧力の方向のずれを抑制することができる。また、軸方向長さAが軸方向長さBよりも長く、軸方向長さCが軸方向長さDよりも長いことにより、第2円柱部が第1内径部に圧入され始めた直後において、第3円柱部は第2内径部に圧入されてなく、第4円柱部も第3内径部に圧入されていない。さらに、各軸方向長さが、(A-B)<(C-D)の関係を満たすことにより、第3円柱部が第2内径部に圧入され始めた直後において、第4円柱部は第3内径部に圧入されていない。第2円柱部、第3円柱部、及び、第4円柱部が順次圧入されるよう
に構成されているため、軸部材に段階的に圧力をかけることができる。圧入初期の圧力を相対的に低くすることができるため、圧力の方向のずれを抑制することができる。これにより、被圧入部材の圧入孔の中心線に対して、軸部材の軸心を合わせた状態とすることが容易になる。
【0008】
上記軸部材の結合構造について、前記第3円柱部には、セレーションが形成されていることが好ましい。この構成によれば、第3円柱部が第2内径部に圧入される際に塑性流動を生じさせて、軸部材と被圧入部材の結合をより強固にすることができる。
【0009】
上記軸部材の結合構造について、前記第1円柱部は、前記圧入孔から突出することなく構成されていることが好ましい。この構成によれば、第1円柱部が圧入孔から突出しないことにより、軸部材の結合構造を小型化することが可能になる。
【0010】
上記軸部材の結合構造について、前記第1円柱部の軸方向長さは、前記第2円柱部の軸方向長さの半分以下であることが好ましい。この構成によれば、軸部材の圧入領域をより大きく確保することができるため、軸部材と被圧入部材の結合力を向上させることができる。
【0011】
上記軸部材の結合構造について、前記第4円柱部よりも前記軸部材の他端側に、前記第4円柱部よりも直径が大きい第5円柱部を有し、前記第5円柱部の一端側の端部が、前記被圧入部材における前記圧入孔の周囲の端面に当接することが好ましい。この構成によれば、圧入の際に圧入孔内で生じた切粉が使用時に外部へ飛散することを抑制することができる。
【0012】
上記軸部材の結合構造を有する流体機械であることが好ましい。この構成によれば、上記軸部材の結合構造の機能を奏する流体機械とすることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明の軸部材の結合構造及び軸部材の結合構造を有する流体機械によれば、被圧入部材の圧入孔の中心線に対して、軸部材の軸心を合わせた状態とすることが容易になる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図6】(a)~(d)は、シャフトをロータに圧入する状態を説明する図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
軸部材の結合構造及び軸部材の結合構造を有する流体機械の実施形態を説明する。
以下、流体機械をルーツ式流体機械である燃料電池用水素循環ポンプに具体化した実施形態について説明する。
【0016】
図1に示すように、燃料電池用水素循環ポンプ10は、ハウジング11と、ハウジング11内で回転可能に保持された軸部材としての第1回転軸40と、同じくハウジング11内で回転可能に保持された軸部材としての第2回転軸41とを有する。第1回転軸40は、第1ロータ60に一体回転可能に結合されている。第2回転軸41は、第2ロータ61に一体回転可能に結合されている。具体的には、第1回転軸40の一端側が、第1ロータ
60の第1圧入孔70に圧入された状態で両者は結合されている。また、第2回転軸41の一端側が、第2ロータ61の第2圧入孔65に圧入された状態で両者は結合されている。第1回転軸40が第1ロータ60に結合され、第2回転軸41が第2ロータ61に結合されていることにより、第1回転軸40と第2回転軸41の回転に伴って第1ロータ60と第2ロータ61を回転させて、水素を圧送し、循環させることができるように構成されている。
【0017】
ハウジング11について説明する。
図1に示すように、ハウジング11は、エンドハウジング12と、ロータハウジング13と、ギヤハウジング14と、モータハウジング15とを備える。エンドハウジング12、ロータハウジング13、及び、ギヤハウジング14は、図示しないボルトによって互いに接合されている。ギヤハウジング14とモータハウジング15は、ボルト16によって接合されている。エンドハウジング12とロータハウジング13との間には、Oリング17が配置されている。ロータハウジング13とギヤハウジング14との間にも、Oリング17が配置されている。
【0018】
エンドハウジング12とロータハウジング13とによってロータ室18が形成される。ロータハウジング13とギヤハウジング14とによってギヤ室19が形成される。ギヤハウジング14とモータハウジング15とによってモータ室20が形成される。ロータ室18には、図示しない吸入ポート及び吐出ポートが形成されている。
【0019】
図1に示すように、ロータハウジング13には、第1回転軸40が挿通される第1軸孔21と、第2回転軸41が挿通される第2軸孔22とが形成されている。第1軸孔21及び第2軸孔22は、ロータハウジング13を貫通している。
【0020】
第1軸孔21内には、第1回転軸40用の軸封装置21aと、軸受装置21bとが設けられている。ギヤハウジング14には、第1回転軸40の他端側の端部が挿入される凹部14aが形成されている。凹部14a内には、軸受装置14bが設けられている。これら軸封装置21a、軸受装置21b、及び、軸受装置14bによって、第1回転軸40は回転可能に保持されている。
【0021】
第2軸孔22内には、第2回転軸41用の軸封装置22aと、軸受装置22bとが設けられている。ギヤハウジング14には、第2回転軸41が挿通される貫通孔14cが形成されている。この貫通孔14cの中心線は、第2軸孔22の中心線と同軸上となっている。貫通孔14c内には、軸受装置14dと、軸封装置14eとが設けられている。
【0022】
モータハウジング15には、第2回転軸41の他端側の端部が挿入される凹部15aが形成されている。凹部15a内には、軸受装置15bが設けられている。これら軸封装置22a、軸受装置22b、軸受装置14d、軸封装置14e、及び、軸受装置15bにより、第2回転軸41は回転可能に保持されている。
【0023】
モータハウジング15には、ステータ23が固定されており、図示しないハーネスによりステータ23に電流が流れるように構成されている。モータハウジング15内において、第2回転軸41の他端側にモータロータ24が固定されている。ステータ23及びモータロータ24によって、第2回転軸41に回転動力を付与することができるように構成されている。
【0024】
図1に示すように、ギヤ室19内において、第1回転軸40には第1ギヤ19aが固定され、第2回転軸41には第2ギヤ19bが固定されている。第1ギヤ19aと第2ギヤ19bは互いに噛み合っており、第2回転軸41に付与された回転動力が第1回転軸40
に伝達されるように構成されている。
【0025】
第1ロータ60及び第2ロータ61について説明する。
第1ロータ60と第2ロータ61は同一形状で構成されているため、以下では、第1ロータ60について説明し、第2ロータ61の説明は省略する。
【0026】
図2、3に示すように、第1ロータ60は、山歯60a及び谷歯60bを有する二葉型に構成されている。第1ロータ60は、アルミニウム系金属で構成されたロータ本体62と、ロータ本体62の外周に形成された樹脂層63とを有する。ロータ本体62の中央部には、ロータ本体62を厚さ方向に貫通する第1圧入孔70が形成されている。ロータ本体62の厚さ方向における樹脂層63の長さは、ロータ本体62の厚さよりも若干大きく構成されている。そのため、樹脂層63は、ロータ本体62の厚さ方向の両端部から、ロータ本体62の厚さ方向に突出した状態で形成されている。第1圧入孔70の内部には、後述するように、内径の異なる複数の内径部が設けられている。第1圧入孔70には第1回転軸40の一端側が圧入されており、第1回転軸40の先端部40aが、第1ロータ60の第1圧入孔70の一端側の端部70aに位置している。
【0027】
図4に示すように、第1ロータ60の第1圧入孔70には、一端側から他端側に向かって、第1内径部71、第2内径部72、及び、第3内径部73を有し、この順で内径が大きくなるように構成されている。第3内径部73の他端側の端部73aが、第1圧入孔70の他端側の端部となっている。各内径部の間には、第1圧入孔70の縦断面視でテーパ状の連結面74が形成されている。
【0028】
ここで、第1内径部71の他端側の端部71aから第2内径部72の他端側の端部72aまでの軸方向長さをBとし、第1内径部71の他端側の端部71aから第3内径部73の他端側の端部73aまでの軸方向長さをDとする。
【0029】
第1回転軸40及び第2回転軸41について説明する。
図1に示すように、第1回転軸40と第2回転軸41は、ハウジング11内で回転可能に保持されている。そして、ロータ室18内において、第1回転軸40の一端側が第1ロータ60の第1圧入孔70に圧入されている。また、第2回転軸41の一端側が第2ロータ61の第2圧入孔65に圧入されている。第1回転軸40における第1圧入孔70に圧入された部位(以下、「圧入部位」ともいう。)と、第2回転軸41における第2圧入孔65に圧入された部位(以下、「圧入部位」ともいう。)とは同一形状で構成されているため、以下では、第1回転軸40の圧入部位について説明し、第2回転軸41の圧入部位の説明は省略する。
【0030】
図3に示すように、第1回転軸40の圧入部位は、後述するように直径の異なる複数の円柱部を有する。複数の円柱部が、第1ロータ60の複数の内径部に圧入することにより、第1回転軸40と第1ロータ60とは結合される。第1回転軸40と第1ロータ60が結合した状態において、第1回転軸40の先端部40aは、第1ロータ60の第1圧入孔70の一端側の端部70aに位置する。すなわち、第1回転軸40の先端部40aは、第1圧入孔70から突出することなく構成されており、第1ロータ60のロータ本体62の端面と略面一な状態となっている。第1回転軸40及び第2回転軸41の材質は、鉄系金属で構成されており、第1ロータ60及び第2ロータ61よりも高強度となるように構成されている。
【0031】
図5に示すように、第1回転軸40の圧入部位は、一端側から他端側に向かって、第1円柱部51、第2円柱部52、第3円柱部53、及び、第4円柱部54を有し、この順で直径が大きく構成されている。第1円柱部51の軸方向長さは、第2円柱部52の軸方向
長さの半分以下となっている。第4円柱部54よりも第1回転軸40の他端側には、第4円柱部54よりも直径が大きく構成された第5円柱部55を有する。第5円柱部55の外径は、第1圧入孔70の他端側の端部73aにおける内径よりも大きく構成されている。後述のように、第5円柱部55は、第1圧入孔70に圧入されないため、第5円柱部55は、圧入部位の他端側に位置している。各円柱部の間には、周方向に延びる溝部56が形成されている。この溝部56は、各円柱部を第1圧入孔70に圧入した際に発生する切粉を収容する収容部としての機能を有している。第3円柱部53の外周には、軸方向に延びるセレーション57が全周に形成されている。
【0032】
第1円柱部51の直径は第1内径部71の内径よりも小さく、第2円柱部52の直径は第2内径部72の内径よりも小さく、第3円柱部53の直径は第3内径部73の内径よりも小さく構成されている。そのため、第1円柱部51と第1内径部71が第1回転軸40の径方向に重なる位置にあるとき、第1円柱部51と第1内径部71の間には、第1回転軸40の径方向に所定の間隔をおいた隙間が形成される。同様に、第2円柱部52と第2内径部72が第1回転軸40の径方向に重なる位置にあるとき、第2円柱部52と第2内径部72の間には、第1回転軸40の径方向に所定の間隔をおいた隙間が形成される。同様に、第3円柱部53と第3内径部73が第1回転軸40の径方向に重なる位置にあるとき、第3円柱部53と第3内径部73の間には、第1回転軸40の径方向に所定の間隔をおいた隙間が形成される。これらの隙間が形成されることにより、第1円柱部51は第1内径部71に隙間嵌めされ、第2円柱部52は第2内径部72に隙間嵌めされ、第3円柱部53は第3内径部73に隙間嵌めされる。
【0033】
また、第2円柱部52の直径は第1内径部71の内径よりも大きく、第3円柱部53の直径は第2内径部72の内径よりも大きく、第4円柱部54の直径は第3内径部73の内径よりも大きく構成されている。これにより、第2円柱部52と第1内径部71が第1回転軸40の径方向に重なる位置にあるとき、第2円柱部52は第1内径部71に圧入される。同様に、第3円柱部53と第2内径部72が第1回転軸40の径方向に重なる位置にあるとき、第3円柱部53は第2内径部72に圧入される。同様に、第4円柱部54と第3内径部73が第1回転軸40の径方向に重なる位置にあるとき、第4円柱部54は第3内径部73に圧入される。第3円柱部53の外周にセレーション57が形成されていることによって、第3円柱部53と第2内径部72とは、塑性流動が生じた状態で圧入される。
【0034】
ここで、第1円柱部51~第5円柱部55は、厳密に円柱状の形状のみを意味するのではなく、例えば、軸方向に沿って外径が若干変化する形状を含むものとする。軸方向に沿って外径が若干変化する形状としては、例えば、各円柱部の一端側と他端側の少なくともいずれか一方が先細となる形状や、中央部が縮径した形状等が挙げられる。また、各円柱部の横断面形状が、円形から若干変形した形状を含むものとする。円形から若干変形した形状としては、例えば、楕円形状等が挙げられる。
【0035】
図5に示すように、第2円柱部52の一端側の端部52aから第3円柱部53の一端側の端部53aまでの軸方向長さをAとし、第2円柱部52の一端側の端部52aから第4円柱部54の一端側の端部54aまでの軸方向長さをCとする。軸方向長さAは、軸方向長さBよりも長く構成されている。軸方向長さCは、軸方向長さDよりも長く構成されている。各軸方向長さは、(A-B)<(C-D)の関係を満たすように構成されている。
【0036】
軸方向長さAは、第2円柱部52における第1内径部71に最初に圧入される箇所から、第3円柱部53における第2内径部72に最初に圧入される箇所までの軸方向長さと言い換えることができる。同様に、軸方向長さCは、第2円柱部52における第1内径部71に最初に圧入される箇所から、第4円柱部54における第3内径部73に最初に圧入さ
れる箇所までの軸方向長さと言い換えることができる。
【0037】
軸方向長さBは、第1内径部71における第2円柱部52が最初に圧入される箇所から、第2内径部72における第3円柱部53が最初に圧入される箇所までの軸方向長さと言い換えることができる。同様に、軸方向長さDは、第1内径部71における第2円柱部52が最初に圧入される箇所から、第3内径部73における第4円柱部54が最初に圧入される箇所までの軸方向長さと言い換えることができる。
【0038】
第1回転軸40と第1圧入孔70の圧入機構について説明する。
図6(a)に示すように、第1回転軸40の先端部40aを、第1圧入孔70の他端側から挿入する。第1円柱部51の一部が、第1圧入孔70の第1内径部71に挿入された段階で、第2円柱部52の一端側の端部52aは、第2内径部72内に位置し、第3円柱部53の一端側の端部53aは、第3内径部73内に位置した状態となる。この状態で、第1回転軸40の径方向における、第1円柱部51と第1内径部71との間、第2円柱部52と第2内径部72との間、及び、第3円柱部53と第3内径部73との間は、所定の隙間を有した状態となる。所定の隙間を有することにより、第1円柱部51は第1内径部71に隙間嵌めされ、第2円柱部52は第2内径部72に隙間嵌めされ、第3円柱部53は第3内径部73に隙間嵌めされる。これにより、第1回転軸40の軸心を第1圧入孔70の中心線に合わせた状態で、第1回転軸40を第1圧入孔70に挿入することが容易になる。
【0039】
図6(b)に示すように、第1回転軸40をさらに挿入すると、第2円柱部52の一端側の端部52aが、第1圧入孔70のより奥側まで移動して、第1内径部71の他端側の端部71aに当接する。この状態で、第1円柱部51は、第1内径部71内において所定の隙間を有している。また、第3円柱部53の一端側の端部53aは、第2内径部72の他端側の端部72aに当接してなく、第3円柱部53は、第3内径部73内において、所定の隙間を有している。また、第4円柱部54の一端側の端部54aは、第3内径部73の他端側の端部73aに当接していない。すなわち、軸方向長さAが軸方向長さBよりも長く、軸方向長さCが軸方向長さDよりも長いことにより、第2円柱部52が第1内径部71に圧入され始めた直後において、第3円柱部53と第4円柱部54は、それぞれ、第2内径部72と第3内径部73に圧入されていない。そのため、第1円柱部51と第3円柱部53とを、隙間嵌めした状態で移動するガイド部材として用いることができる。これにより、第1回転軸40の軸心を第1圧入孔70の中心線に合せた状態で、第2円柱部52を第1内径部71に圧入することが容易になる。
【0040】
図6(c)に示すように、第1回転軸40をさらに挿入すると、第3円柱部53の一端側の端部53aが、第2内径部72の他端側の端部72aに当接する。この状態で、第4円柱部54の一端側の端部54aは第3内径部73の他端側の端部73aに当接していない。すなわち、各軸方向長さが、(A-B)<(C-D)の関係を満たすことにより、第3円柱部53が第2内径部72に当接した際に、第4円柱部54は第3内径部73に当接していない。言い換えれば、第3円柱部53が第2内径部72に圧入され始めた直後において、第4円柱部54は第3内径部73に圧入されていない。
【0041】
図6(d)に示すように、第1回転軸40をさらに挿入して、第1円柱部51の先端部51aを第1内径部71の一端側の端部70aに位置させる。すなわち、第1回転軸40の先端部40aを、第1ロータ60のロータ本体62の端面と略面一な状態とする。この状態で、第4円柱部54は第3内径部73に圧入された状態となる。また、第5円柱部55の一端側の端部55aが、ロータ本体62の他端側における第1圧入孔70の周囲の端面62aに当接して、第1圧入孔70を塞いだ状態となる。
【0042】
以上の機構により、第1回転軸40は第1圧入孔70に圧入される。本実施形態の結合機構を備える燃料電池用水素循環ポンプは、ハウジング11と、ハウジング11内で回転可能に保持された第1回転軸40及び第2回転軸41と、第1回転軸40に結合された第1ロータ60と、第2回転軸41に結合された第2ロータ61とを備えた構成となる。
【0043】
本実施形態の作用及び効果について説明する。
(1)第2円柱部52が第1内径部71に圧入され、第3円柱部53が第2内径部72に圧入され、第4円柱部54が第3内径部73に圧入されることにより、第1回転軸40を第1圧入孔70のより奥側に挿入した段階で圧入が行われている。そのため、圧入の際に第1回転軸40にかかる圧力の方向のずれを抑制することができる。また、軸方向長さAが軸方向長さBよりも長く、軸方向長さCが軸方向長さDよりも長いことにより、第2円柱部52が第1内径部71に圧入され始めた直後において、第3円柱部53は第2内径部72に圧入されてなく、第4円柱部54も第3内径部73に圧入されていない。さらに、各軸方向長さが、(A-B)<(C-D)の関係を満たすことにより、第3円柱部53が第2内径部72に圧入され始めた直後において、第4円柱部54は第3内径部73に圧入されていない。第2円柱部52、第3円柱部53、及び、第4円柱部54が順次圧入されるように構成されている。詳細には、A>Bであることにより第2円柱部52と第3円柱部53の圧入開始タイミングがずれる。C>Dであることにより第2円柱部52と第4円柱部54との圧入開始タイミングがずれる。さらに、(A-B)<(C-D)であることにより第3円柱部53と第4円柱部54の圧入開始タイミングがずれる。このため、第1回転軸40に段階的に圧力を加えることができる。圧入初期の圧力を相対的に低くすることができるため、圧力の方向のずれを抑制することができる。これにより、第1ロータ60の第1圧入孔70の中心線に対して、第1回転軸40の軸心を合わせた状態とすることが容易になる。
【0044】
(2)第2円柱部52、第3円柱部53、及び、第4円柱部54が、順次圧入されるため、各円柱部が圧入され始めた直後に発生した切粉を、第1圧入孔70の外部へ排出することが可能になる。圧入の際に生じた切粉を、第1圧入孔70の内部に閉じ込めるのではなく、第1圧入孔70の外部へ排出することができるため、必要以上に切粉が第1圧入孔70内に堆積されることを抑制することができる。各円柱部の間に設けられる溝部56を小さくすることが可能になるため、第1回転軸40の強度を向上させることができる。
【0045】
(3)第1回転軸40の一端側である圧入部位を、第1ロータ60の第1圧入孔70に圧入するだけで、第1回転軸40と第1ロータ60とを結合させることができるため、作業効率を向上させることができる。
【0046】
(4)第3円柱部53には、セレーション57が形成されている。したがって、第3円柱部53が第2内径部72に圧入される際に塑性流動を生じさせて、第3円柱部53と第2内径部72の結合をより強固にすることができる。また、第2円柱部52の圧入が開始された後に第3円柱部53の圧入が開始されるため、第3円柱部53に塑性流動に伴う高い圧力が加わった際に、圧力の方向がずれることを好適に抑制することができる。
【0047】
(5)第1回転軸40の先端部40aは、第1圧入孔70の一端側の端部70aに位置する。したがって、第1回転軸40の先端部40aが第1圧入孔70から突出した態様に比べて、軸部材の結合構造を小型化することが可能になる。特に、ルーツ式流体機械では、第1回転軸40で第1ロータ60を片持ち状態で保持するため、流体機械の小型化に貢献する。
【0048】
(6)第1円柱部51の軸方向長さは、第2円柱部52の軸方向長さの半分以下である。したがって、第1回転軸40の圧入領域をより大きく確保することができるため、第1
回転軸40と第1ロータ60の結合力を向上させることができる。
【0049】
(7)第4円柱部54よりも第1回転軸40の他端側に、第4円柱部54よりも直径が大きい第5円柱部55を有し、第5円柱部55の一端側の端部55aが、第1ロータ60の他端側における第1圧入孔70の周囲の端面62aに当接する。したがって、圧入の際に第1圧入孔70内で生じた切粉が使用時に外部へ飛散することを抑制することができる。
【0050】
本実施形態は、以下のように変更して実施することができる。本実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
○本実施形態では、第3円柱部53にセレーション57が形成されていたが、セレーション57は省略されていてもよい。また、セレーションを形成するのは第3円柱部53に限定されず、第2円柱部52と第4円柱部54の少なくとも一方にセレーションが形成されていてもよい。第2円柱部52、第3円柱部53、第4円柱部54の全てにセレーションが形成されていてもよい。
【0051】
○本実施形態では、第1回転軸40と第1ロータ60とを結合した状態において、第1円柱部51の先端部51aが、第1圧入孔70の一端側の端部70aに位置していたが、この態様に限定されない。すなわち、第1円柱部51の先端部51aは、第1圧入孔70の一端側の端部70aから突出していてもよいし、第1圧入孔70の一端側の端部70aよりも第1圧入孔70の他端側に位置していてもよい。
【0052】
○第1円柱部51の軸方向長さは、第2円柱部52の軸方向長さの半分以下である態様に限定されない。第1円柱部51の軸方向長さは、第2円柱部52の軸方向長さの半分より長く構成されていてもよい。第2円柱部52の軸方向長さの半分より長く構成されていることにより、第1円柱部51の隙間嵌めによるガイド部材としての機能を向上させることができる。
【0053】
○本実施形態では、第1円柱部51と第1内径部71が第1回転軸40の径方向に重なる位置にあるとき、第1円柱部51と第1内径部71の間には、第1回転軸40の径方向に所定の間隔をおいた隙間が形成されていた。同様に、第2円柱部52と第2内径部72の間、及び、第3円柱部53と第3内径部73の間には、第1回転軸40の径方向に所定の間隔をおいた隙間が形成されていたが、この態様に限定されない。すなわち、第1円柱部51と第1内径部71の間、第2円柱部52と第2内径部72の間、及び、第3円柱部53と第3内径部73の間は隙間を有してなく、圧入されない程度に両者が当接していてもよい。両者が当接していても、第1円柱部51と第3円柱部53とを第1圧入孔70内を移動させることにより、ガイド部材として用いることができる。
【0054】
○第5円柱部55は省略されていてもよい。
○本実施形態において、第1回転軸40の各円柱部の間には溝部56が形成されていたが、溝部56は省略されていてもよい。例えば、各円柱部が、径方向に延びる連結面を介して段差状に繋がっていてもよいし、各円柱部が、縦断面視でテーパ状の連結面を介して繋がっていてもよい。また、溝部56を第1回転軸40の各円柱部に形成することに代えて、第1圧入孔70の内周に溝部を形成してもよい。
【0055】
○本実施形態において、第1圧入孔70の各内径部の間には、縦断面視でテーパ状の連結面74が形成されていたが、この態様に限定されない。各内径部が、径方向に延びる連結面を介して段差状に繋がっていてもよい。
【0056】
○本実施形態の流体機械は、ルーツ式流体機械である燃料電池用水素循環ポンプに限定
されない。燃料電池用水素循環ポンプ以外のルーツ式流体機械であってもよく、例えば、エアコンディショナーや除湿機等に用いられるルーツ式流体機械であってもよい。また、流体機械は、ルーツ式以外であってもよく、例えば、スクロール型、レシプロ型、ベーン型の流体機械であってもよい。また、本実施形態の軸部材の結合構造は、軸部材と、軸部材が圧入される圧入孔を備える被圧入部材との結合構造であれば、流体機械以外の軸部材の結合構造に適用することもできる。
【0057】
○第1回転軸40における第1円柱部51よりも一端側に、第1円柱部51よりも外径の小さい円柱部が設けられていてもよい。
○本実施形態では、第1回転軸40と第1ロータ60の結合、及び、第2回転軸41と第2ロータ61結合の両方が本実施形態の軸部材の結合構造を有するように構成されていたが、この態様に限定されない。第1回転軸40と第1ロータ60の結合、及び、第2回転軸41と第2ロータ61の結合のいずれか一方が本実施形態の軸部材の結合構造を有するように構成されていてもよい。
【符号の説明】
【0058】
51…第1円柱部、51a…第1円柱部の一端側の端部、52…第2円柱部、52a…第2円柱部の一端側の端部、53…第3円柱部、53a…第3円柱部の一端側の端部、54…第4円柱部、54a…第4円柱部の一端側の端部、71…第1内径部、71a…第1内径部の他端側の端部、72…第2内径部、72a…第2内径部の他端側の端部、73…第3内径部、73a…第3内径部の他端側の端部。