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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-07
(45)【発行日】2023-02-15
(54)【発明の名称】気液分離器
(51)【国際特許分類】
   H01M 8/04 20160101AFI20230208BHJP
   B01D 45/08 20060101ALI20230208BHJP
【FI】
H01M8/04 N
B01D45/08 Z
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019118965
(22)【出願日】2019-06-26
(65)【公開番号】P2021005498
(43)【公開日】2021-01-14
【審査請求日】2022-03-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】株式会社アイシン
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】弁理士法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】西村 実海
(72)【発明者】
【氏名】山田 俊秀
(72)【発明者】
【氏名】中根 英樹
(72)【発明者】
【氏名】梶尾 克宏
(72)【発明者】
【氏名】藥師 二咲代
【審査官】橋本 敏行
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-147159(JP,A)
【文献】特開平03-293009(JP,A)
【文献】特開2000-070632(JP,A)
【文献】特表2007-503296(JP,A)
【文献】実開昭63-020920(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/00-8/2495
B01D 45/00-45/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハウジングと、
前記ハウジングの内部に備えられ含水ガスから水を分離する気液分離部と、
重力が作用する方向である前記ハウジングの底部に備えられ前記気液分離部で分離された水を溜める貯水部と、を備えると共に、
前記気液分離部が、重力が作用する方向に対して横向き姿勢の中心軸に沿って延びる筒状の分離空間と、前記分離空間に含水ガスを供給する導入管と、前記分離空間の内壁から前記中心軸の方向に所定幅で張り出し、且つ、前記分離空間の第1端部壁から前記中心軸に沿って延出する少なくとも一つの衝突壁と、前記分離空間で含水ガスから分離した水および水が分離した脱水ガスを送り出すドレン開口と、を有しており、
前記導入管は、含水ガスを前記中心軸の周りで旋回させるように供給方向が設定され、前記衝突壁が、前記中心軸に沿う方向で前記分離空間の全長より短い延出長に形成されることで、前記衝突壁の延出方向の端部と、前記第1端部壁に対向する位置に形成された第2端部壁との間に合流空間が形成され、この合流空間の底部に前記ドレン開口が形成されている気液分離器。
【請求項2】
前記分離空間の前記底部側の前記内壁が、前記第1端部壁から前記ドレン開口に向けて低くなる傾斜姿勢で形成されている請求項1に記載の気液分離器。
【請求項3】
前記衝突壁を複数有する場合には、前記衝突壁が前記分離空間に供給された含水ガスを、旋回方向での下流側の前記衝突壁に順次案内するように前記中心軸に沿う方向視における姿勢が設定され、
複数の前記衝突壁において、重力が作用する方向の反対側となる上面が前記合流空間に近接する位置ほど低くなる傾斜姿勢で形成されている請求項1又は2に記載の気液分離器。
【請求項4】
前記ドレン開口が、前記中心軸に沿う方向に延びる開口であるスリット状部を有している請求項1~3のいずれか一項に記載の気液分離器。
【請求項5】
前記衝突壁の前記分離空間の前記内壁側の基端部に、当該衝突壁の厚さ方向に連通する連通部が形成されている請求項1~4のいずれか一項に記載の気液分離器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池のアノードから排出されるガスから水を分離するために用いられる気液分離器の技術に関する。
【背景技術】
【0002】
上記構成の気液分離器として特許文献1には、下部に貯水部を有し、貯水部より高い位置に導入口と導出口とを有する気液分離器本体を備えた気液分離器の技術が記載されている。
【0003】
この特許文献1に記載の気液分離器では、気液分離器本体の内部、且つ、導入口と導出口との中間位置に縦壁状の衝突壁を備えると共に、貯水部より上側に跳ね返り低減板を備えている。この構成から、導入口から導入された含水ガスは衝突壁に衝突することによりガスに含まれる水が分離し、分離した水が貯溜部に貯溜される。そして、水が分離したガスは導出口から排出される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2017-147159号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
燃料電池は、アノード側に水素ガスを供給し、カソード側に酸素を含む空気を供給することにより発電が実現する。また、燃料電池のアノード側から排出されるアノードオフガスには未反応の水素と水とが含まれており、燃料電池では、未反応の水素ガスを再利用するため、アノードオフガスをアノード側に還元する還元流路に気液分離器を備え、還元されるアノードオフガスに含まれる水を分離除去している。
【0006】
特許文献1の気液分離器は、燃料電池スタックから水平方向に排出されるアノードオフガスを、導入口から本体の内部に受け入れ、このアノードオフガスを本体内部の板状の衝突壁部に衝突させて流速を低下させ、この流速の低下に伴いアノードオフガスに含まれる水を分離すると共に、この後に衝突壁部の下端を通過させる際のガスの流れの変化を利用してアノードオフガスに含まれる水を更に分離するものである。
【0007】
また、この特許文献1の気液分離器では、導出口にアノードオフガスが流れる際にガス中の水を分離できるように、導出口が比較的高い位置に配置されている。このように、特許文献1の気液分離器では、導入口から受け入れたアノードオフガスを水平方向に流し、縦壁状の衝突壁に衝突させる構成であるため、アノードオフガスの一部は衝突壁に衝突せずに流れることもあり、分離性能の向上が望まれるものであった。特に、導出部が高い位置に形成されるため、気液分離器の大型化を招くものであり、改善の余地があった。
【0008】
更に、貯水部(特許文献1では貯溜部)からの水を排出する排水流路を形成し、この排水流路を開閉する開閉弁(特許文献1では排水弁)を備えた気液分離器を考えると、開閉弁が開放し水が排出された後に未反応の水素を含むアノードオフガスが排出される不都合を抑制するため、排水流路をオリフィスのように小径に形成することも考えられる。
【0009】
しかしながら、小径の排水流路が形成されたものでは、燃料電池車(FCV)を寒冷地で停車させ、燃料電池の発電を停止した場合には、排水流路の内部で水が凍結し、この後の燃料電池の発電に支障に繋がるものであった。そこで、寒冷地で燃料電池の発電を停止する場合には、開閉弁を開放して貯溜部の水を排出する処理だけでなく、水素を含まないガス等を、気液分離器の内部に供給して掃気することにより、気液分離器の内部の水滴を除去する処理も行われていた。しかしながら、水を排出し、掃気を行っても気液分離器の内面に水滴が残留する現象まで解消することが困難であった。
【0010】
このような理由から、含水ガスの水の分離性能を低下させることなく小型化が可能な気液分離器が求められる。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る気液分離器の特徴構成は、ハウジングと、前記ハウジングの内部に備えられ含水ガスから水を分離する気液分離部と、重力が作用する方向である前記ハウジングの底部に備えられ前記気液分離部で分離された水を溜める貯水部と、を備えると共に、前記気液分離部が、重力が作用する方向に対して横向き姿勢の中心軸に沿って延びる筒状の分離空間と、前記分離空間に含水ガスを供給する導入管と、前記分離空間の内壁から前記中心軸の方向に所定幅で張り出し、且つ、前記分離空間の第1端部壁から前記中心軸に沿って延出する少なくとも一つの衝突壁と、前記分離空間で含水ガスから分離した水および水が分離した脱水ガスを送り出すドレン開口と、を有しており、前記導入管は、含水ガスを前記中心軸の周りで旋回させるように供給方向が設定され、前記衝突壁が、前記中心軸に沿う方向で前記分離空間の全長より短い延出長に形成されることで、前記衝突壁の延出方向の端部と、前記第1端部壁に対向する位置に形成された第2端部壁との間に合流空間が形成され、この合流空間の底部に前記ドレン開口が形成されている点にある。
【0012】
この特徴構成によると、含水ガスが導入管から気液分離部に供給された場合には、分離空間の内部の衝突壁に衝突するように中心軸を中心に旋回し、且つ、中心軸に沿って移動する。これにより、含水ガスが衝突壁に衝突する際に、含水ガスに含まれる水が分離し、分離した水と、水が分離した脱水ガスとが衝突壁の延出方向の端部を通過し、合流空間に達する。そして、水と脱水ガスとは合流空間の底部のドレン開口から下方に送り出され、水は、貯水部に落下して回収され、脱水ガスはハウジングから排出される。
つまり、この構成では、衝突壁が横向きに延出する姿勢で配置されているため、例えば、複数の衝突壁を縦長に配置したものと比較して上下方向での寸法の縮小が可能となる。しかも、横向きに含水ガスを送る際に中心軸の周り含水ガスを旋回させ、複数の衝突壁に衝突させるため、水の分離性能を高め、横方向での寸法の縮小も可能で全体的な小型化も実現する。
その結果、含水ガスの水の分離性能を低下させることなく小型化が可能な気液分離器が構成された。
【0013】
他の構成として、前記分離空間の前記底部側の前記内壁が、前記第1端部壁から前記ドレン開口に向けて低くなる傾斜姿勢で形成されても良い。
【0014】
これによると、分離空間において含水ガスから分離した水が、底部側の内壁に沿ってドレン開口に向けて自重によって流れることになり、分離空間の内部に水滴を残留させることがない。
【0015】
他の構成として、前記衝突壁を複数有する場合には、前記衝突壁が前記分離空間に供給された含水ガスを、旋回方向での下流側の前記衝突壁に順次案内するように前記中心軸に沿う方向視における姿勢が設定され、複数の前記衝突壁において、重力が作用する方向の反対側となる上面が前記合流空間に近接する位置ほど低くなる傾斜姿勢で形成されても良い。
【0016】
これによると、分離空間に供給された含水ガスは複数の衝突壁に順次接触する状態で中心軸を中心に旋回する。更に、複数の衝突壁において重力が作用する方向の反対側となる上面が、合流空間に近接する位置ほど低い傾斜姿勢で形成されるため燃料電池の発電が停止した際に、衝突壁の上面に水滴が付着する状態で残留しても、上面の水滴が合流空間に向けて流れ、ドレン開口から貯水部に回収することが可能となる。
【0017】
他の構成として、前記ドレン開口が、前記中心軸に沿う方向に延びる開口であるスリット状部を有しても良い。
【0018】
これによると、ドレン開口がスリット状部を有するため、気液分離器が燃料電池車(FCV)に備えられたものであり、燃料電池車が傾斜地において停車する場合のように気液分離器が傾斜する状況にあっても、分離空間の水を確実に排出できる。
【0019】
他の構成として、前記衝突壁の前記分離空間の前記内壁側の基端部に、当該衝突壁の厚さ方向に連通する連通部が形成されても良い。
【0020】
これによると、分離空間に残留した水滴が衝突壁の連通部を介して流れることが可能となり、分離空間に水滴が残留する不都合を解消できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】一部が切り欠かれた気液分離器の斜視図である。
図2】気液分離器の正面図である。
図3図2のIII-III線断面図である。
図4】一部が切り欠かれた気液分離器の平面図である。
図5】気液分離部の縦断面図である。
図6】気液分離器の縦断面図である。
図7】ドレン開口の形状を示す横断面図である。
図8】別実施形態(a)の気液分離部の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
〔基本構成〕
図1図6には燃料電池車(FCV)に搭載される燃料電池のアノード側から排出されるアノードオフガス(含水ガスの一例)に含まれる水を分離する気液分離器Aが示されている。気液分離器Aは、導入管1と、排出口2と、気液分離部3と、貯水部4とをハウジングHに備えている。また、貯水部4に溜められた水の排出を制御する電磁開閉弁5がハウジングのHの外部に備えられている。
【0023】
燃料電池は、アノード側に水素ガスを含むアノードガス(燃料ガス)を加湿して供給すると共に、カソード側に酸素と空気とを含むカソードガス(酸化剤ガス)を供給することにより発電が実現する。アノードガスを加湿する理由は、燃料電池のアノード側を湿潤させるためである。
【0024】
このように発電が行われるため、アノード側から排出されるアノードオフガス(含水ガスの一例)には未反応の水素ガスと水とが含まれる。燃料電池では、アノード側に供給されるアノードガスの一部に未反応の水素ガスを再利用するため、アノードオフガスをアノード側に戻す還元経路中に気液分離器Aを備えている。
【0025】
つまり、気液分離器Aは、含水ガスとしてのアノードオフガスが供給されることにより、そのアノードオフガスに含まれる水を分離して貯水部4に回収し、水が分離した脱水ガスとしてのアノードオフガスを排出口2から排出する。このように排出されたアノードオフガスが、燃料電池のアノード側に供給されることにより未反応の水素ガスの再利用を実現している。
【0026】
〔ハウジング、導入口、排出口〕
図1図3図6に示すように、ハウジングHは、導入管1と排出口2と気液分離部3とを有する上ハウジング11の上フランジ部11fと、貯水部4と電磁開閉弁5とを有する下ハウジング15の下フランジ部15fとを複数の締結ボルト6で締結した構造を有している。尚、上フランジ部11fと下フランジ部15fとを超音波による溶着等の他の手段によって締結しても良い。
【0027】
上ハウジング11と下ハウジング15とは樹脂材料で形成され、上ハウジング11と下ハウジング15とが締結された状態では、これらの中間に内部空間Sが形成される。尚、上ハウジング11と下ハウジング15とは、アルミニウム等の金属で形成されても良い。
【0028】
図3に示すように、上ハウジング11には内部空間Sと分離された分離空間Tに気液分離部3が形成されている。気液分離部3の詳細は後述する。
【0029】
図1図6に示すように、分離空間Tは、上ハウジング11において上方に膨出して一体形成された膨出部12の内部に形成された空間である。分離空間Tは、重力が作用する方向に対して横向き姿勢となる中心軸X(分離空間Tの中心に仮想した軸)に沿って延びている。膨出部12には、分離空間Tに連通するように中心軸Xに交差し、且つ、水平方向に延びる筒状の導入管1が形成されている。分離空間Tは、膨出部12において、外部壁12W(第1壁部の一例)と、これに対向する位置にある閉塞プレート13(第2壁部の一例)との間に形成されている。
【0030】
導入管1は、アノードオフガスを送る導入路1Rを内部に形成しており、アノードオフガスを分離空間Tの上側において水平方向に送り込むように導入管1による供給方向が設定されている。この供給方向の設定により、図3に矢印で示すように、アノードオフガスは分離空間Tにおいて中心軸Xを中心に反時計廻りに旋回する。
【0031】
図1図6に示すように、膨出部12のうち分離空間Tの側部開口12aを閉塞する位置に閉塞プレート13(端部壁の一例)が複数のビス13aにより着脱自在に固定されている。閉塞プレート13は樹脂材料で形成されるものであるが、アルミニウム等の金属で形成されても良い。また、閉塞プレート13は、複数のビス13aによる固定に限らず、超音波などで固定されても良い。尚、このように固定した場合に閉塞プレート13は着脱不可となる。
【0032】
図3図4に示すように、膨出部12のうち内部空間Sに排出口2が形成されている。排出口2は、導入管1の延出方向と直交する姿勢で、導入管1より低い位置に配置されている。尚、排出口2の位置は導入管1より低い位置に限るものではないが、導入管1より低い位置であることが好ましい。
【0033】
〔ハウジング、貯水部〕
図3図6に示すように、下ハウジング15には、中央部が下方に張り出す底壁部16が一体形成され、この底壁部16の内面側に中央ほど大きく窪む、すり鉢状の空間で貯水部4が構成されている。尚、貯水部4より上方の空間と、上ハウジング11の分離空間Tを除く空間とを合わせた領域が内部空間Sとなる。
【0034】
図1図2図6に示すように、底壁部16の下端部には横側方に張り出す排水ブロック17が一体形成されている。この排水ブロック17の内部には、貯水部4の底部に連通する排水流路17aが形成され、この排水ブロック17の外面には、排水流路17aからの水を排出する排水管17bが形成されている。更に、排水ブロック17には、排水流路17aに流れる水の排出を制御する電磁開閉弁5が備えられている。
【0035】
尚、電磁開閉弁5が開放され、貯水部4の水が排出される際に未反応の水素を含むアノードオフガスの排出を抑制し、一定流量の排出を可能にするため、排水流路17aはオリフィスのように小径に形成されている。
【0036】
図6に示すように、電磁開閉弁5は、バネ付勢力により排水流路17aを閉塞する位置に保持される弁体5aと、通電によりバネ付勢力に抗して弁体5aを作動させる電磁ソレノイド5bと、排水流路17aの外端部に当接する樹脂製またはゴム製のシール膜5cとを備えている。
【0037】
この構成から、電磁ソレノイド5bを駆動しない状態では、バネ付勢力により弁体5aが閉塞位置に保持され、シール膜5cが排水流路17aの流出口を閉塞するため貯水部4に水が貯溜される。これに対し電磁ソレノイド5bを駆動した場合には、弁体5aの作動に伴いシール膜5cが排水流路17aの流出口から離間し、貯水部4の水が排水流路17aから排水管17bに流れ、外部に排出される。
【0038】
〔気液分離部〕
図3図5図6に示すように、分離空間Tのうち外部壁12Wに連なる部位(中心軸Xに沿う方向での一方の端部側)に導入管1の導入路1Rが連通している。分離空間Tは、外部壁12Wと対向する部位が側方に開放しており、この開放部分が閉塞プレート13で閉塞されている。このように、閉塞プレート13は、外部壁12Wに対向する位置に配置されている。導入管1は、中心軸Xに対して直交する姿勢で形成されている。
【0039】
気液分離部3は、複数の衝突壁21を備えている。つまり、衝突壁21は、分離空間Tの外部壁12Wから中心軸Xの方向に所定幅で張り出し、且つ、中心軸Xに沿って延びる領域において、中心軸Xに沿う方向での分離空間Tの全長より短い延出長で形成されている。更に、複数の衝突壁21の延出方向の端部と、閉塞プレート13との間に合流空間Taが形成され、この合流空間Taの底部にドレン開口22が形成されている。
【0040】
図3に示すように、分離空間Tに供給されたアノードオフガス(含水ガス)が、旋回方向での下流側の衝突壁21に順次案内されるように、中心軸Xに沿う方向視における複数の衝突壁21の姿勢が設定されている。
【0041】
尚、この構成の気液分離器Aにおいて、分離空間Tの底部の内面と、衝突壁21の上面とが水平姿勢であるものを想定すると、燃料電池での発電が停止し、アノードオフガスが気液分離器Aに供給されない状況では、複数の衝突壁21の上面に水滴が付着して残留することも考えられる。
【0042】
このような不都合を解消するため、図5図6に示すように、分離空間Tの底部側の内壁12bと、複数の衝突壁21のうち重力が作用する方向の反対側となる上面とが、合流空間Taのドレン開口22に近接する位置ほど低くなる傾斜姿勢で形成されている。分離空間Tの内壁12bが傾斜する角度は、水平を基準に8°程度に設定されるが任意の角度でも良い。
【0043】
これにより、分離空間Tの底部側の内壁12bと、複数の衝突壁21の上面とに水滴が付着する場合でも、これらの水滴が合流空間Taに向けて流れ、この分離空間Tの底部のドレン開口22から下方に排出され、貯水部4に回収される。
【0044】
図7に示すように、ドレン開口22は、合流空間Taの底部において、この合流空間Taの周方向に延びる開口本体22aと、分離空間Tの底部で、この底部において隣接する位置関係で配置される一対の衝突壁21の間において、中心軸Xに沿って延びる方向に形成されたスリット状部22bとを有している。
【0045】
〔気液分離器による水の分離および実施形態の作用効果〕
このような構成から、図3図6に示すように気液分離部3では、分離空間Tに対し上ハウジング11の横方向での外端側に導入管1からのアノードオフガスが供給された場合、そのアノードオフガスは、分離空間Tの内部において中心軸Xを中心に旋回しながら供給位置と反対側の閉塞プレート13の方向に移動する。
【0046】
また、分離空間Tの内部でアノードオフガスが旋回することにより、アノードオフガスは複数の衝突壁21に順次衝突する形態で接触する。この接触によりアノードオフガスに含まれる水は衝突壁21の表面で水滴化する。更に、アノードオフガスのうち衝突壁21に接触しないものでも旋回に伴う遠心力や、運動方向の変化に伴い水滴化する。
【0047】
アノードオフガスの一部は、最終的には閉塞プレート13の内面に衝突することや、閉塞プレート13によってアノードオフガスの流動方向が下方に変更されることにより、流速が大きく低下し、この閉塞プレート13の部位においても、アノードオフガスに含まれる水が分離し、水滴化する。図5図6に示すように、側部開口12aのうち、底部側に位置する開口側内壁12cは、ドレン開口22に近接する位置ほど低くなる傾斜姿勢で形成されているので、閉塞プレート13の内面で水滴化した水もドレン開口22に向けて流れる。
【0048】
そして、合流空間Taに流れた水と、脱水されたアノードオフガスとは、ドレン開口22から排出され、水はドレン開口22の下方の貯水部4に貯溜される。これに対し、ドレン開口22を通過した脱水状態のアノードオフガスは、内部空間Sにおいてドレン開口22より高い位置の排出口2に向かって流れ、この排出口2から排出される。尚、排出口2に向けて流れるアノードオフガスに水が含まれる場合には、内部空間Sにおいて上方に流れる際に、その重量により分離し貯水部4に回収される。
【0049】
このように気液分離器Aでは、アノードオフガスを横方向(水平方向)に単純に移動させるのではなく、横向き姿勢の中心軸Xの周りでの旋回により複数の衝突壁21に接触させ、効率的な水の分離を可能にしている。そのため、例えば、複数の衝突壁21を縦長に配置したものと比較して上下方向での寸法の縮小が可能となり、しかも、横方向での寸法の縮小も可能にし、結果として全体的に小型化を実現している。
【0050】
この気液分離器Aでは、貯水部4に貯留される水量を、ECU等の制御装置が燃料電池の発電量から推定し、このように推定された水量が排出を必要とする場合に制御装置が電磁開閉弁5を開放して水を排出する制御が行われる。尚、貯水部4に貯留された水量を検知するセンサを備え、このセンサの検知結果に基づいて電磁開閉弁5を開放するように気液分離器Aを構成しても良い。
【0051】
また、燃料電池車が寒冷地で停車し、燃料電池での発電を停止した時点で排水流路17aに水が残存する場合には、排水流路17aの内部で水が凍結し、この後の燃料電池で発電に支障をきたすことも考えられた。このような不都合を解消するため、寒冷地で燃料電池の発電を停止した場合には、電磁開閉弁5を開放して貯水部4の水を排出している。
【0052】
特に、分離空間Tの底部側の内壁12bと、複数の衝突壁21の上面とが傾斜姿勢であり、側部開口12aの底部側に開口側内壁12cが傾斜姿勢で形成されているため、発電を停止した時点で分離空間Tの複数の衝突壁21等に水滴が付着していても気液分離器Aの温度が氷点下に低下する以前に、水滴を自重によってドレン開口22に流し出すことが可能である。このようにドレン開口22から排出された水は、貯水部4から外部に排出されるため水が排水流路17aの内部で凍結する不都合を招くこともない。
【0053】
〔別実施形態〕
本発明は、上記した実施形態以外に以下のように構成しても良い(実施形態と同じ機能を有するものには、実施形態と共通の番号、符号を付している)。
【0054】
(a)図8に示すように、衝突壁21のうち分離空間Tの内壁側の基端部に、衝突壁21の厚さ方向に貫通する連通孔21a(連通部の一例)を形成する。このように衝突壁21に連通孔21aを形成することにより、分離空間Tの内部に残留した水滴を、連通孔21aに流し、排出を容易にする。
【0055】
この別実施形態(a)では、連通部として連通孔21aを示していたが、例えば、衝突壁21の一部を切り欠いた切欠空間(不図示)を連通部として形成することも可能である。実施形態に記載したように複数の衝突壁21は、合流空間Taに近い位置ほど低い位置となる傾斜姿勢で形成されているため、衝突壁21の上面に水滴が存在していても排出が可能であるが、連通孔21aや切欠空間が形成されることにより水の排出を一層良好に行える。
【0056】
(b)ハウジングHの素材に撥水性を有する樹脂材料を用いることや、ハウジングHの内面に撥水性塗料を塗布する。これにより、ハウジングの内部に水滴を残留させる現象を抑制し、水滴が排水流路17aの内部で凍結する不都合が抑制される。
【0057】
(c)分離空間Tに対して導入管1から供給される位置を、実施形態とは逆に、下側に設定しても良い。この場合、アノードオフガスが旋回する方向を、実施形態のものと逆向きに設定する。このように導入方向を設定したものであってもアノードオフガスを、中心軸Xを中心に旋回させ、良好に水を分離できる。
【0058】
(d)アノードオフガスを上側に排出するように排出口2を上下向きの開口として形成する。このように形成することにより、アノードオフガスが上側に流れる際に、重力によりアノードオフガスに含まれる水を分離することが期待できる。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明は、燃料電池のアノードから排出されるガスから水を分離する気液分離器に利用できる。
【符号の説明】
【0060】
1 導入管
3 気液分離部
4 貯水部
12W 外部壁(第1端部壁)
13 閉塞プレート(第2端部壁)
21 衝突壁
21a 連通孔(連通部)
22 ドレン開口
22b スリット状部
H ハウジング
T 分離空間
Ta 合流空間
X 中心軸
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8