(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-07
(45)【発行日】2023-02-15
(54)【発明の名称】ロータコア及び回転電機
(51)【国際特許分類】
H02K 1/22 20060101AFI20230208BHJP
H02K 15/02 20060101ALI20230208BHJP
【FI】
H02K1/22 Z
H02K15/02 K
(21)【出願番号】P 2019132042
(22)【出願日】2019-07-17
【審査請求日】2022-03-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【氏名又は名称】山口 洋
(72)【発明者】
【氏名】脇坂 岳顕
(72)【発明者】
【氏名】竹田 和年
(72)【発明者】
【氏名】平山 隆
【審査官】稲葉 礼子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/126053(WO,A1)
【文献】特開2012-217318(JP,A)
【文献】国際公開第2007/063581(WO,A1)
【文献】特開2003-199303(JP,A)
【文献】特開2005-160231(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 1/22
H02K 15/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに積層された複数の電磁鋼板と、
積層方向に隣り合う前記電磁鋼板同士の間に設けられ、前記電磁鋼板同士をそれぞれ接着する接着部と、を備え、
前記電磁鋼板の25℃での降伏強度が570~900MPaであり、
前記接着部が下記式(1)を満たす、ロータコア。
[前記接着部の25℃での降伏強度(MPa)]≧[前記電磁鋼板の25℃での降伏強度(MPa)]・・・(1)
【請求項2】
前記接着部の25℃での引張弾性率が5000MPa超20000MPa以下である、請求項1に記載のロータコア。
【請求項3】
前記接着部が、平均直径1~10mmの点状である、請求項1又は2に記載のロータコア。
【請求項4】
前記接着部が、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂及びアクリル樹脂のいずれか一種あるいは二種以上を含む接着剤から形成されている、請求項1~3のいずれか一項に記載のロータコア。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載のロータコアを備える、回転電機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロータコア及び回転電機に関する。
【背景技術】
【0002】
回転電機に使用されるコア(鉄心)は、複数の電磁鋼板が互いに積層された積層コアが用いられる。複数の電磁鋼板は、かしめ、溶接、接着等の方法により積層される。しかし、かしめによる積層や溶接による積層の場合には、加工時の機械的応力や熱応力、さらには、層間短絡により素材である電磁鋼板の磁気特性が劣化し、積層コアの性能が充分に発揮されない場合がある。
【0003】
こうした問題に対し、例えば、特許文献1には、樹脂(接着剤)を用いて複数の電磁鋼板が互いに積層された積層コアが提案されている。特許文献1の積層コアによれば、電磁鋼板同士が互いに強固に接着されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
積層コアのうちロータコア用の電磁鋼板には、回転電機の小型化を目的としたロータの高速回転化を背景に高強度が要求されるようになっている。このため、接着により積層されたロータコアを高速回転させた場合、接着された箇所(接着部)が高速回転による遠心力により破壊されないことが求められる。
【0006】
本発明は、前述した事情に鑑みてなされたものであって、高強度な電磁鋼板同士を互いに接着したロータコアを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するために、本発明は以下の手段を提案している。
[1]互いに積層された複数の電磁鋼板と、積層方向に隣り合う前記電磁鋼板同士の間に設けられ、前記電磁鋼板同士をそれぞれ接着する接着部と、を備え、前記電磁鋼板の25℃での降伏強度が570~900MPaであり、前記接着部が下記式(1)を満たす、ロータコア。
[前記接着部の25℃での降伏強度(MPa)]≧[前記電磁鋼板の25℃での降伏強度(MPa)]・・・(1)
[2]前記接着部の25℃での引張弾性率が5000MPa超20000MPa以下である、[1]に記載のロータコア。
[3]前記接着部が、平均直径1~10mmの点状である、[1]又は[2]に記載のロータコア。
[4]前記接着部が、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂及びアクリル樹脂のいずれか一種あるいは二種以上を含む接着剤から形成されている、[1]~[3]のいずれか一項に記載のロータコア。
[5][1]~[4]のいずれか一項に記載のロータコアを備える、回転電機。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、高強度な電磁鋼板同士を互いに接着したロータコアを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の一実施形態に係るロータコアを備えた回転電機の平面図である。
【
図2】
図1に示す回転電機が備えるロータの側面図である。
【
図3】本発明の一実施形態に係るロータコアにおいて、電磁鋼板の第1面の平面図である。
【
図4】本発明の他の実施形態に係るロータコアにおいて、電磁鋼板の第1面の平面図である。
【
図5】本発明の他の実施形態に係るロータコアを備えた回転電機の平面図である。
【
図6】
図5に示す回転電機が備えるロータの斜視図である。
【
図7】
図5に示すロータコアにおいて、電磁鋼板の第1面の平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本明細書において、数値範囲を示す「~」は、その前後に記載された数値を下限値及び上限値として含むことを意味する。
【0011】
以下、図面を参照し、本発明の一実施形態に係るロータコアと、このロータコアを備えた回転電機とについて説明する。なお、本実施形態では、回転電機として電動機、具体的には交流電動機、より具体的には同期電動機、より一層具体的には永久磁石界磁型電動機を一例に挙げて説明する。この種の電動機は、例えば、電気自動車等に好適に採用される。
【0012】
図1に示すように、回転電機10は、ステータ20と、ロータ30と、ケース50と、回転軸60と、を備える。ステータ20及びロータ30は、ケース50に収容される。ステータ20は、ケース50に固定される。
本実施形態では、回転電機10として、ロータ30がステータ20の内側に位置するインナーロータ型を採用している。しかしながら、回転電機10として、ロータ30がステータ20の外側に位置するアウターロータ型を採用してもよい。また、本実施形態では、回転電機10が、12極18スロットの三相交流モータである。しかしながら、極数やスロット数、相数等は適宜変更することができる。
回転電機10は、例えば、各相に実効値10A、周波数100Hzの励磁電流を印加することにより、回転数1000rpmで回転することができる。
【0013】
ステータ20は、ステータコア21と、図示しない巻線と、を備える。
ステータコア21は、環状のコアバック部22と、複数のティース部23と、を備える。コアバック部22は、コアバック部の外周縁22aと、コアバック部の内周縁22b(
図1に示す破線)とで囲まれた領域のことである。以下では、ステータコア21(又はコアバック部22)の中心軸線O方向を軸方向といい、ステータコア21(又はコアバック部22)の径方向(中心軸線Oに直交する方向)を径方向といい、ステータコア21(又はコアバック部22)の周方向(の中心軸線O周りに周回する方向)を周方向という。
【0014】
コアバック部22は、ステータ20を軸方向から見た平面視において円環状に形成されている。
複数のティース部23は、コアバック部22から径方向の内側に向けて(径方向に沿ってコアバック部22の中心軸線Oに向けて)突出する。複数のティース部23は、周方向に同等の間隔をあけて配置されている。本実施形態では、中心軸線Oを中心とする中心角20度おきに18個のティース部23が設けられている。複数のティース部23は、互いに同等の形状で、かつ同等の大きさに形成されている。
前記巻線は、ティース部23に巻き回されている。前記巻線は、集中巻きされていてもよく、分布巻きされていてもよい。
【0015】
ロータ30は、ステータ20(ステータコア21)に対して径方向の内側に配置されている。ロータ30は、ロータコア31と、複数の永久磁石32と、を備える。
ロータコア31は、ステータ20と同軸に配置される環状(円環状)に形成されている。ロータコア31内には、前記回転軸60が配置されている。回転軸60は、ロータコア31に固定されている。
複数の永久磁石32は、ロータコア31に固定されている。本実施形態では、2つ1組の永久磁石32が1つの磁極を形成している。複数組の永久磁石32は、周方向に同等の間隔をあけて配置されている。本実施形態では、中心軸線Oを中心とする中心角30度おきに12組(全体では24個)の永久磁石32が設けられている。
【0016】
本実施形態では、永久磁石界磁型電動機として、埋込磁石型モータが採用されている。ロータコア31には、ロータコア31を軸方向に貫通する複数の貫通孔33が形成されている。複数の貫通孔33は、複数の永久磁石32に対応して設けられている。各永久磁石32は、対応する貫通孔33内に配置された状態でロータコア31に固定されている。各永久磁石32のロータコア31への固定は、例えば永久磁石32の外面と貫通孔33の内面とを接着剤により接着すること等により、実現することができる。なお、永久磁石界磁型電動機として、埋込磁石型モータに代えて表面磁石型モータを採用してもよい。
【0017】
ステータコア21及びロータコア31は、いずれも積層コアである。積層コアは、複数の電磁鋼板40が積層されることで形成されている。
なおステータコア21及びロータコア31それぞれの積厚は、例えば、50.0mmとされる。ステータコア21の外径は、例えば、250.0mmとされる。ステータコア21の内径は、例えば、165.0mmとされる。ロータコア31の外径は、例えば、163.0mmとされる。ロータコア31の内径は、例えば、30.0mmとされる。ただし、これらの値は一例であり、ステータコア21の積厚、外径や内径、及びロータコア31の積厚、外径や内径はこれらの値に限られない。ここで、ステータコア21の内径は、ステータコア21におけるティース部23の先端部を基準としている。ステータコア21の内径は、全てのティース部23の先端部に内接する仮想円の直径である。
【0018】
ステータコア21及びロータコア31を形成する各電磁鋼板40は、例えば、母材となる電磁鋼板を打ち抜き加工すること等により形成される。電磁鋼板40の化学組成は特に限定されない。
【0019】
電磁鋼板40は、高強度を有する高張力電磁鋼板である。ここで、高張力電磁鋼板とは、25℃での降伏強度が570~900MPaである電磁鋼板をいう。電磁鋼板40が高張力電磁鋼板であることで、本実施形態のロータコア31は、高速回転時(例えば、10,000rpm以上)の遠心力にも耐えられる。
電磁鋼板40の25℃での降伏強度は、570~900MPaである。電磁鋼板40の25℃での降伏強度が上記下限値以上であると、ロータコア31は、高速回転時の遠心力にも耐えられる。電磁鋼板40の25℃での降伏強度は、大きいほど好ましいが、金型でのプレス打ち抜き作業が困難となるため、上限を900MPaとする。
電磁鋼板40の25℃での降伏強度は、JIS Z2241:2011に準じた方法により測定できる。
電磁鋼板40の25℃での降伏強度は、電磁鋼板40の化学組成、結晶粒径、析出物の分散状態等を調整することにより制御できる。
【0020】
電磁鋼板の加工性や、積層コアの鉄損を改善するため、電磁鋼板40の両面は、絶縁被膜で被覆されている。絶縁被膜を構成する物質としては、例えば、(1)無機化合物、(2)有機樹脂、(3)無機化合物と有機樹脂との混合物、等が適用できる。無機化合物としては、例えば、(1)重クロム酸塩とホウ酸の複合物、(2)リン酸塩とシリカの複合物、等が挙げられる。有機樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、アクリルスチレン樹脂、ポリエステル樹脂、シリコーン樹脂、フッ素樹脂等が挙げられる。
有機樹脂は、後述する接着剤に含まれる有機樹脂と同じでもよく、異なっていてもよい。
【0021】
互いに積層される電磁鋼板40間での絶縁性能を確保するために、絶縁被膜の厚さ(電磁鋼板40片面あたりの厚さ)は0.1μm以上とすることが好ましい。
一方で、絶縁被膜が厚くなるに連れて絶縁効果が飽和する。また、絶縁被膜が厚くなるに連れて占積率が低下し、積層コアとしての性能が低下する。したがって、絶縁被膜は、絶縁性能が確保できる範囲で薄い方がよい。絶縁被膜の厚さ(電磁鋼板40片面あたりの厚さ)は、0.1μm以上5μm以下が好ましく、0.1μm以上2μm以下がより好ましい。
絶縁被膜の厚さは、例えば、電磁鋼板40を厚さ方向に切断した切断面を顕微鏡等により観察することで測定できる。
【0022】
電磁鋼板40が薄くなるに連れて次第に鉄損の改善効果が飽和する。また、電磁鋼板40が薄くなるに連れて電磁鋼板40の製造コストは増す。そのため、鉄損の改善効果及び製造コストを考慮すると、電磁鋼板40の厚さは0.10mm以上とすることが好ましい。
一方で、電磁鋼板40が厚すぎると、電磁鋼板40のプレス打ち抜き作業が困難になる。そのため、電磁鋼板40のプレス打ち抜き作業を考慮すると電磁鋼板40の厚さは0.65mm以下とすることが好ましい。
また、電磁鋼板40が厚くなると鉄損が増大する。そのため、電磁鋼板40の鉄損特性を考慮すると、電磁鋼板40の厚さは0.35mm以下が好ましく、0.25mm以下がより好ましく、0.20mm以下がさらに好ましい。
上記の点を考慮し、各電磁鋼板40の厚さは、例えば、0.10mm以上0.65mm以下が好ましく、0.10mm以上0.35mm以下がより好ましく、0.10mm以上0.25mm以下がさらに好ましく、0.10mm以上0.20mm以下が特に好ましい。なお電磁鋼板40の厚さには、絶縁被膜の厚さも含まれる。
電磁鋼板40の厚さは、例えば、マイクロメータ等により測定できる。
【0023】
図2に示すように、ロータコア31を形成する複数の電磁鋼板40は、厚さ方向に積層されている。厚さ方向とは、電磁鋼板40の厚さ方向であって、電磁鋼板40の積層方向に相当する。本実施形態では、積層方向に隣り合う電磁鋼板40同士が、後述する接着部35によって接着されている。図示の例では、積層方向に隣り合う電磁鋼板40同士は、接着のみによって固定されていて、他の手段(例えば、かしめ等)によっては固定されていない。
【0024】
図3に示すように、ロータコア31を形成する複数の電磁鋼板40同士は、電磁鋼板40の表面(第1面)40aに設けられた接着部35によって固定されている。ロータコア31は、回転軸60を配置可能な開口部61を有する。ロータコア31は、永久磁石32を配置可能な貫通孔33を有する。
【0025】
接着部35は、積層方向に隣り合う電磁鋼板40同士の間に設けられ、分断されることなく硬化した一連の接着剤である。接着剤としては、例えば、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂及びアクリル樹脂のいずれか一種あるいは二種以上を含む接着剤等が用いられる。
【0026】
接着剤は、1液型であってもよく、2液型であってもよい。
接着剤としては、例えば、エポキシ樹脂系接着剤、フェノール樹脂系接着剤、不飽和ポリエステル樹脂系接着剤、ウレタン樹脂系接着剤、アクリル樹脂系接着剤を例示できる。なかでも、25℃での降伏強度が大きい接着部が得られやすい観点から、エポキシ樹脂系接着剤が好ましい。
【0027】
エポキシ樹脂系接着剤は、エポキシ樹脂と硬化剤を含む。
エポキシ樹脂としては、特に限定されず、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールAD型エポキシ樹脂、アミン型エポキシ樹脂、脂環型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂を例示できる。なかでも、塗布性が良好であることから、フェノールノボラック型エポキシ樹脂が好ましい。
エポキシ樹脂系接着剤に含まれる硬化剤は、1種でもよく、2種以上でもよい。
【0028】
エポキシ樹脂のガラス転移温度(Tg)は、80~150℃が好ましく、100~150℃がより好ましく、120~150℃がさらに好ましい。エポキシ樹脂のTgが上記下限値以上であると、耐熱性に優れ、高速回転時の遠心力に耐えられるロータコアが得られやすい。エポキシ樹脂のTgが上記上限値以下であると、電磁鋼板との密着性が得られやすい。
なお、エポキシ樹脂のTgは、JISK7121-1987に準じ、示差走査熱量測定(DSC)法で測定した中間点ガラス転移温度である。
【0029】
エポキシ樹脂の数平均分子量(Mn)は、1200~20000が好ましく、2000~18000がより好ましく、2500~16000がさらに好ましい。エポキシ樹脂のMnが上記下限値以上であると、高速回転時の遠心力に耐えられるロータコアが得られやすい。エポキシ樹脂のMnが上記上限値以下であると、エポキシ樹脂系接着剤の粘度を低減し、塗布性を良好にしやすい。
なお、エポキシ樹脂のMnは、標準物質としてポリスチレンを用い、JIS K7252-1:2008に記載のサイズ排除クロマトグラフィー(SEC:Size-Exclusion Chromatography)により測定できる。
【0030】
硬化剤は、一般に使用される熱硬化型のエポキシ樹脂硬化剤を使用できる。硬化剤としては、特に限定されず、例えば、酸無水物系硬化剤(フタル酸無水物、ヘキサヒドロフタル酸無水物、4-メチルヘキサヒドロフタル酸無水物等)、フェノールノボラック樹脂、ジシアンジアミド(DICY)を例示できる。エポキシ樹脂系接着剤に含まれる硬化剤は、1種でもよく、2種以上でもよい。
【0031】
フェノール樹脂は、フェノール類(フェノール等)とアルデヒド類(ホルムアルデヒド等)とを原料とする熱硬化性樹脂である。フェノール樹脂としては、酸触媒を用いて縮合重合させたフェノールノボラック樹脂と、アルカリ触媒下で合成させたフェノールレゾール樹脂とが挙げられる。
硬化剤としては、高速回転時の遠心力に耐えられるロータコアが得られやすい観点から、フェノールノボラック樹脂が好ましい。
【0032】
エポキシ樹脂系接着剤中の硬化剤の含有量は、硬化剤の種類に応じて適宜設定できる。例えば、硬化剤としてフェノールノボラック樹脂を用いる場合、エポキシ樹脂系接着剤中の硬化剤の含有量は、エポキシ樹脂100質量部に対して、5~35質量部が好ましい。
【0033】
エポキシ樹脂系接着剤は、エポキシ樹脂及び硬化剤に加えて、アクリル樹脂を含んでもよい。エポキシ樹脂にアクリル樹脂をグラフト重合させたアクリル変性エポキシ樹脂を用いてもよい。
【0034】
アクリル樹脂としては、特に限定されない。アクリル樹脂に用いる単量体としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸等の不飽和カルボン酸、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリレートを例示できる。なお、(メタ)アクリレートとは、アクリレート又はメタクリレートを意味する。
【0035】
アクリル樹脂の数平均分子量(Mn)は、5000~100000が好ましく、6000~80000がより好ましく、7000~60000がさらに好ましい。アクリル樹脂のMnが上記下限値以上であると、高速回転時の遠心力に耐えられるロータコアが得られやすい。アクリル樹脂のMnが上記上限値以下であると、エポキシ樹脂系接着剤の粘度を低減し、塗布性を良好にしやすい。
なお、アクリル樹脂のMnは、エポキシ樹脂のMnと同様の方法で測定できる。
【0036】
エポキシ樹脂系接着剤がアクリル樹脂を含む場合、アクリル樹脂の含有量は、特に限定されず、例えば、エポキシ樹脂とアクリル樹脂との合計量に対して、20~80質量%とすることができる。
【0037】
不飽和ポリエステル樹脂は、不飽和二塩基酸と二価アルコールとを縮合重合させて不飽和ポリエステルを得、これにビニル系単量体を反応させて三次元構造とした熱硬化性樹脂である。不飽和ポリエステル樹脂としては、フマル酸や無水マレイン酸と、エチレングリコールやプロピレングリコールとを加熱して縮合重合させ、これにスチレンを共重合させたものが挙げられる。
【0038】
ウレタン樹脂は、ウレタン結合を有する重合体の総称である。ウレタン樹脂は、イソシアネート基を有する化合物と水酸基を有する化合物との付加重合により得られる。ウレタン樹脂としては、ジイソシアネートとジオールモノマーとが付加重合したものが挙げられる。
【0039】
接着部35の25℃での引張弾性率は、5000MPa超20000MPa以下が好ましく、7000MPa~18000MPaがより好ましく、10000MPa~15000MPaがさらに好ましい。接着部35の25℃での引張弾性率が上記下限値超であると、高速回転時の遠心力に耐えられるロータコアが得られやすい。接着部35の25℃での引張弾性率が上記上限値以下であると、電磁鋼板40に付与する応力歪が大きくなることを抑制し、ロータコアの磁性の劣化を抑制しやすい。
【0040】
接着部35の25℃での引張弾性率は、共振法により測定される。具体的には、JIS R1602:1995に準拠して引張弾性率を測定する。
接着部35の25℃での引張弾性率は、接着剤の種類、接着剤に含まれる樹脂の組成、接着剤に含まれる樹脂の数平均分子量、接着剤の添加量等によって調整できる。例えば、接着剤に含まれる樹脂の数平均分子量を大きくすると、引張弾性率が大きくなる傾向がある。
【0041】
接着方法としては、例えば、電磁鋼板40に接着剤を塗布した後、加熱及び圧着のいずれか又は両方により接着する方法が採用できる。
加熱手段は、例えば、高温槽や電気炉内での加熱、又は直接通電する方法等、どのような手段でもよい。
【0042】
安定して充分な接着強度を得るために、接着部35の厚さは1μm以上が好ましい。
一方で、接着部35の厚さが100μmを超えると接着力が飽和する。また、接着部35が厚くなるに連れて占積率が低下し、積層コアの鉄損等の磁気特性が低下する。したがって、接着部35の厚さは1μm以上100μm以下が好ましく、1μm以上10μm以下がより好ましい。
接着部35の厚さは、絶縁被膜の厚さと同様の方法により測定できる。
接着部35の厚さは、電磁鋼板40に塗布する接着剤の塗布量や接着方法により調整できる。
【0043】
図3に示すように、接着部35は、円形をなす複数の点状に形成されている。より具体的に言うと、接着部35は、各ロータコア31において、平均直径が5mmの点状に形成されている。
ここで示した平均直径は、一例である。点状の接着部35の平均直径は、1~10mmとすることが好ましく、3~7mmとすることがより好ましい。平均直径が上記下限値以上であると、電磁鋼板40同士を充分に接着しやすい。平均直径が上記上限値以下であると、積層コアの鉄損を抑制しやすい。
平均直径は、電磁鋼板40同士を剥離した接着部35の接着剤跡の直径を定規により測定することで求められる。接着剤跡の平面視形状が真円でない場合、その直径は平面視での接着剤跡の外接円(真円)の直径とする。
図3の接着部35の形成パターンは一例であり、電磁鋼板40同士の間に設けられる接着部35の数、形状、及び配置は、必要に応じて適宜変更できる。
【0044】
接着部35の形成パターンは、例えば、
図4に示すロータコア31Aのような形成パターンであってもよい。ロータコア31Aにおいて、接着部35は、互いに異なる円周上に配置される第1接着部35aと、第2接着部35bと、を備えている。第1接着部35aは、ロータコア31における接着部35と同様の位置に形成されている。第2接着部35bは、第1接着部35aに対して、ロータコア31Aの径方向内側に形成されている。すなわち、ロータコア31Aにおいては、ロータコア31における接着部35に加えて、第2接着部35bが形成されている。このため、ロータコア31Aでは、ロータコア31に比べて、より強固に電磁鋼板40同士が接着される。第1接着部35aの平均直径は、5mmである。第2接着部35bの平均直径は、3mmである。
【0045】
一般に、接着剤を硬化させる際には、硬化収縮が生じる。この硬化収縮により、電磁鋼板40に圧縮応力や引張応力が加わる。これら応力が電磁鋼板40に加わることにより、歪が生じる。特に熱硬化型接着剤の場合、電磁鋼板40と接着部との熱膨張係数の差により、加わる応力が大きくなる。電磁鋼板40の歪は、回転電機10の鉄損を増大させる。
ロータコア31を構成する電磁鋼板40の歪は、回転電機10の鉄損に影響を与える。
本実施形態では、接着部35が部分的に設けられているので、接着部35が全面に設けられている場合に比べて、硬化収縮により電磁鋼板40に加わる応力が低減されている。
【0046】
接着部35による電磁鋼板40の接着面積率は、1~40%が好ましく、1~30%がより好ましく、1~20%がさらに好ましい。接着面積率が上記下限値以上であると、高速回転時の遠心力に耐えられるロータコアが得られやすい。接着面積率が上記上限値以下であると、鉄損の抑制効果がより優れる。
接着部35による電磁鋼板40の接着面積率とは、電磁鋼板40の第1面40aの面積に対する、第1面40aのうちの接着部35が設けられた領域(接着領域)の面積の割合である。電磁鋼板40の第1面40aの面積は、開口部61及び貫通孔33を除いた領域の面積である。接着部35が設けられた領域とは、電磁鋼板40の第1面40aのうち、分断されることなく硬化した一連の接着剤が設けられている領域(接着領域)である。接着部35が設けられた領域の面積は、例えば、剥離後の電磁鋼板40の第1面40aを撮影し、その撮影結果を画像解析することによって求められる。
【0047】
接着部35は、下記式(1)を満たす。
[接着部35の25℃での降伏強度(MPa)]≧[電磁鋼板40の25℃での降伏強度(MPa)]・・・(1)
接着部35の25℃での降伏強度は、下記式(2)により計算できる。
[接着部35の25℃での降伏強度(MPa)]=[接着部35の25℃での接着強度(MPa)]×[接着領域の面積(mm2)]/[電磁鋼板40の第1面40aの面積(mm2)]・・・(2)
接着部35の25℃での接着強度は、JIS K6850:1999に準じた方法により測定できる。
電磁鋼板40の25℃での降伏強度は、JIS Z2241:2011に準じた方法により測定できる。
【0048】
一般に、接着剤の硬化物は、電磁鋼板に比べて降伏強度が小さい。このため、複数のロータコアを接着により積層してロータを構成し、ロータを高速回転させた場合、複数のロータコアの間の接着部を起点として、ロータが破壊されやすい。
接着部35が上記式(1)を満たすことにより、ロータ30を高速回転させても、複数のロータコア31の間の接着部35を起点として、ロータ30が破壊されることを防げる。
なお、上記式(1)において、接着部35の25℃での降伏強度と電磁鋼板40の25℃での降伏強度とが等しい場合、接着部35と電磁鋼板40とが同時に破壊するものと考えられる。
【0049】
以上説明したように、本実施形態に係るロータコア31は、25℃での降伏強度が570~900MPaである電磁鋼板40により構成される。
加えて、本実施形態に係るロータコア31は、接着部35の25℃での降伏強度が、電磁鋼板40の25℃での降伏強度以上である。
この構成により、高強度な電磁鋼板40を備え、高速回転に耐えられるロータ30を提供できる。
ロータコア31は、積層方向に隣り合う電磁鋼板40同士の間に設けられ、電磁鋼板40同士をそれぞれ接着する接着部35を備える。
この構成により、電磁鋼板40同士を互いに接着でき、ロータコア31の磁性の劣化を抑制できる。
【0050】
なお、本発明の技術的範囲は前記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
【0051】
ロータコアの形状は、前記実施形態で示した形状に限定されるものではない。具体的には、ロータコアの外径の寸法、積厚、開口部の数、開口部の位置等は、所望の回転電機の特性に応じて任意に設計可能である。
前記実施形態におけるロータでは、2つ1組の永久磁石32が1つの磁極を形成しているが、本発明はこれに限られない。例えば、1つの永久磁石が1つの磁極を形成していてもよく、3つ以上の永久磁石が1つの磁極を形成していてもよい。
【0052】
例えば、
図5に示す回転電機10Aのように、ロータとしては、ロータコア31aと永久磁石32aとを備えるロータ30aであってもよい。回転電機10Aは、ステータ20と、ロータ30aと、ケース50と、回転軸60aと、を備える。
図1の回転電機10と同じ構成には、同じ符号を付して、その説明を省略する。
ロータコア31aは、1つの永久磁石32aが1つの磁極を形成している。永久磁石32aは、周方向に同等の間隔をあけて配置されている。ロータコア31aでは、中心軸線Oを中心とする中心角90度おきに4組の永久磁石32aが設けられている。
【0053】
図6に示すように、ロータ30aは、複数の電磁鋼板40bが積層されることで形成されている。
ロータコア31aの積厚は、ロータコア31の積厚と同様である。ロータコア31aの内径は、ロータコア31の内径と同様である。ロータコア31aの外径は、ロータコア31の外径と同様である。
電磁鋼板40bは高張力電磁鋼板である。電磁鋼板40bの25℃での降伏強度は、電磁鋼板40の25℃での降伏強度と同様である。
【0054】
図7に示すように、ロータコア31aでは、開口部61aの周囲と、貫通孔33aの周囲とに、接着部35が複数の点状に形成されている。
接着部35による電磁鋼板40bの接着面積率は、接着部35による電磁鋼板40の接着面積率と同様である。電磁鋼板40bの第1面40cの面積は、開口部61a及び貫通孔33aを除いた領域の面積である。
【0055】
前記実施形態では、回転電機として、永久磁石界磁型電動機を一例に挙げて説明したが、回転電機の構造は、以下に例示するようにこれに限られず、さらには以下に例示しない種々の公知の構造も採用可能である。
前記実施形態では、同期電動機として、永久磁石界磁型電動機を一例に挙げて説明したが、本発明はこれに限られない。例えば、回転電機がリラクタンス型電動機や電磁石界磁型電動機(巻線界磁型電動機)であってもよい。
前記実施形態では、交流電動機として、同期電動機を一例に挙げて説明したが、本発明はこれに限られない。例えば、回転電機が誘導電動機であってもよい。
前記実施形態では、電動機として、交流電動機を一例に挙げて説明したが、本発明はこれに限られない。例えば、回転電機が直流電動機であってもよい。
前記実施形態では、回転電機として、電動機を一例に挙げて説明したが、本発明はこれに限られない。例えば、回転電機が発電機であってもよい。
【0056】
その他、本発明の趣旨に逸脱しない範囲で、前記実施形態における構成要素を周知の構成要素に置き換えることは適宜可能であり、また、前記した変形例を適宜組み合わせてもよい。
【実施例】
【0057】
以下、実施例及び比較例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0058】
[実施例1]
図3に示すように、電磁鋼板の第1面の所定の位置に点状に接着剤を塗布し、複数の電磁鋼板を積層し、圧着することによりロータコアを得た。
接着部の25℃での降伏強度は700MPaであった。接着部の25℃での降伏強度は、下記式(2)により計算した。
[接着部の25℃での降伏強度]=[接着部の25℃での接着強度]×[接着領域の面積]/[電磁鋼板の第1面の面積]・・・(2)
接着部の25℃での接着強度は、JIS K6850:1999に準じた方法により測定した。
上記式(2)において、「[接着領域の面積]/[電磁鋼板の第1面の面積]×100」を[接着面積率]として、剥離後の電磁鋼板の第1面を撮影し、その撮影結果を画像解析することによって求めた。接着面積率は、20%であった。
接着部の厚さは、1.5μmであった。接着部の厚さは、電磁鋼板を厚さ方向に切断した切断面を顕微鏡により観察し、無作為に選択した10箇所の厚さの平均値である。
電磁鋼板の25℃での降伏強度は600MPaであった。電磁鋼板の25℃での降伏強度は、JIS Z2241:2011に準じた方法により測定した。
電磁鋼板としては、板厚0.20mmの電磁鋼板を用いて、外径163.0mmのロータコアを得た。
【0059】
実施例1で用いた接着剤を硬化させ、JIS R1602:1995に準じた方法で引張弾性率を測定した。測定温度は25℃とした。引張弾性率を測定した結果を表1に示す。
【0060】
[実施例2]
接着部の降伏強度が800MPaとなる接着剤を用いた以外は、実施例1と同様にして、ロータコアを得た。実施例1と同様の方法で測定した引張弾性率の値を表1に示す。
【0061】
[実施例3]
電磁鋼板として、25℃での降伏強度が850MPaである電磁鋼板を用い、接着部の降伏強度が900MPaとなる接着剤を用い、接着面積率を40%とした以外は、実施例1と同様にして、ロータコアを得た。実施例1と同様の方法で測定した引張弾性率の値を表1に示す。
【0062】
[実施例4]
接着部の降伏強度が1000MPaとなる接着剤を用い、接着面積率を5%とした以外は、実施例1と同様にして、ロータコアを得た。実施例1と同様の方法で測定した引張弾性率の値を表1に示す。
【0063】
[比較例1]
電磁鋼板として、25℃での降伏強度が500MPaである電磁鋼板を用いた以外は、実施例1と同様にして、ロータコアを得た。実施例1と同様の方法で測定した引張弾性率の値を表1に示す。
【0064】
[比較例2]
電磁鋼板として、25℃での降伏強度が1000MPaである電磁鋼板を用い、接着部の降伏強度が100MPaとなる接着剤を用い、接着面積率を0.5%とした以外は、実施例1と同様にして、ロータコアを得た。実施例1と同様の方法で測定した引張弾性率の値を表1に示す。
【0065】
<接着性の評価>
各例で用いた電磁鋼板40から矩形状の鋼板(幅25mm×長さ100mm)を切り出し、重ね長さ12.5mmとなるように2枚の鋼板を重ね合わせ、重ね合わせ部を形成した。各例で得られたロータコアの接着面積率となるように、各例で用いた接着剤を前記重ね合わせ部に塗布し、圧着して試験片を得た。
各例の試験片について、JIS K6850:1999に準じて引張せん断接着強さ試験を行い、接着強度(MPa)を測定した。引張試験環境は常温(25℃)とした。試験速度は3mm/分とした。試験片のn数は3とした。3つの試験片の接着強度の平均値を算出した。この接着強度の平均値を下記式(3)に代入して、試験片の降伏強度(MPa)を算出した。
[試験片の25℃での降伏強度]=[試験片の25℃での接着強度(平均値)]×[試験片の接着面積率]/100・・・(3)
試験片の降伏強度と、電磁鋼板の降伏強度とを比較して、下記評価基準に基づいて、接着性を判定し、評価した。結果を表1に示す。判定の結果がA、Bの試験片を合格とした。
《評価基準》
A:試験片の降伏強度が電磁鋼板の降伏強度よりも大きい。
B:試験片の降伏強度と電磁鋼板の降伏強度とが等しい。
C:試験片の降伏強度が電磁鋼板の降伏強度よりも小さい。
【0066】
【0067】
表1に示すように、本発明を適用した実施例1~4では、接着性の判定の結果がAであり、高強度な電磁鋼板同士を互いに接着できていた。
一方、高張力電磁鋼板を備えない比較例1は、接着性の判定の結果はAであるものの、電磁鋼板の降伏強度が低く、高速回転時の遠心力に耐えられない。
電磁鋼板の25℃での降伏強度が本発明の範囲外で、かつ、接着面積率が小さい比較例2は、接着性の判定の結果がCだった。
【0068】
以上の結果から、本発明のロータコアによれば、高強度な電磁鋼板同士を互いに接着できることが分かった。このことは、本発明のロータコアは、高速回転時の遠心力に耐えられることを意味する。
【符号の説明】
【0069】
31 ロータコア
33 貫通孔
35 接着部
40 電磁鋼板
40a 電磁鋼板の表面(第1面)
61 開口部