(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-07
(45)【発行日】2023-02-15
(54)【発明の名称】無方向性電磁鋼板および無方向性電磁鋼板の製造方法
(51)【国際特許分類】
C22C 38/00 20060101AFI20230208BHJP
C22C 38/60 20060101ALI20230208BHJP
C21D 8/12 20060101ALI20230208BHJP
H01F 1/147 20060101ALI20230208BHJP
【FI】
C22C38/00 303U
C22C38/60
C21D8/12 A
H01F1/147 166
(21)【出願番号】P 2022549794
(86)(22)【出願日】2022-03-31
(86)【国際出願番号】 JP2022016651
【審査請求日】2022-08-19
(31)【優先権主張番号】P 2021060959
(32)【優先日】2021-03-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【氏名又は名称】大浪 一徳
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【氏名又は名称】山口 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100217249
【氏名又は名称】堀田 耕一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100221279
【氏名又は名称】山口 健吾
(74)【代理人】
【識別番号】100207686
【氏名又は名称】飯田 恭宏
(74)【代理人】
【識別番号】100224812
【氏名又は名称】井口 翔太
(72)【発明者】
【氏名】森重 宣郷
(72)【発明者】
【氏名】市江 毅
(72)【発明者】
【氏名】安田 雅人
(72)【発明者】
【氏名】浦郷 将英
(72)【発明者】
【氏名】村上 史展
(72)【発明者】
【氏名】▲浜▼田 大地
(72)【発明者】
【氏名】柴山 淳史
(72)【発明者】
【氏名】水上 和実
(72)【発明者】
【氏名】板橋 大輔
【審査官】河口 展明
(56)【参考文献】
【文献】特表2020-509182(JP,A)
【文献】国際公開第2018/097006(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/111570(WO,A1)
【文献】高田智明,高純度試薬中の微量不純物分析,TOSOH Research & Technology Review(東ソー研究・技術報告),日本,東ソー,2010年,Vol.54,p.25-33,https://www.tosoh.co.jp/technology/assets/2010_02_03.pdf
【文献】高純度試薬-塩酸,日本工業規格 JIS K 9902-1994,日本,1994年,ttp://www.kikakurui.com/k9/K9902-1994-01.html
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00-38/60
C21D 8/12
C23G 1/08
H01F 1/147
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学成分として、質量%で、
C:0.005%以下、
Si:2.0%以上4.5%以下、
Mn:0.01%以上5.00%以下、
S、SeおよびTeのうち1種または2種以上の合計:0.0003%以上0.0050%以下、
Al:0.01%以上5.00%以下、
N:0.0005%以上0.0050%以下、
P:1.0%以下、を含有し、
残部がFeおよび不純物からなる母材を備え、
前記母材の板厚方向の断面において、前記母材の表面から板厚方向に2.0~5.0μmの範囲に存在する円相当径が50~500nmの析出物の個数密度N
2-5が0.30個/μm
2以下であり、かつ、
前記個数密度N
2-5と、前記母材の表面~2.0μmの範囲に存在する円相当径が50~500nmの析出物の個数密度N
0-2との関係が、式(1)を満たすことを特徴とする無方向性電磁鋼板。
(N
2-5)/(N
0-2) ≦
0.4 ・・・ 式(1)
【請求項2】
更に、前記母材の前記化学成分として、質量%で、
Cu:1.0%以下、
Sn:1.0%以下、
Ni:1.0%以下、
Cr:1.0%以下、
Sb:1.0%以下
からなる群から選択される1種または2種以上含有することを特徴とする請求項1に記載の無方向性電磁鋼板。
【請求項3】
更に、前記母材の前記化学成分として、質量%で、
Ti:0.0010以上0.0030%以下、
Nb:0.0010以上0.0030%以下、
V:0.0010以上0.0030%以下、
Zr:0.0010以上0.0030%以下の1種または2種以上からなる群から選択される1種または2種以上含有することを特徴とする請求項1または2に記載の無方向性電磁鋼板。
【請求項4】
鉄損W
15/50が2.5W/kg以下であり、前記鉄損W
15/50とヒステリシス損W
15hとの関係が、式(2)を満たすことを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の無方向性電磁鋼板。
0.8 ≦ (W
15h)/(W
15/50) ・・・ 式(2)
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載の無方向性電磁鋼板の製造方法であって、
溶鋼を鋳造してスラブを得る工程と、
前記スラブを加熱後、熱間圧延を施して熱延鋼板とする熱間圧延工程と、
前記熱延鋼板に酸洗を施して酸洗板を得る酸洗工程と、
前記酸洗板に冷間圧延を施して冷延鋼板を得る冷間圧延工程と、
前記冷延鋼板に仕上焼鈍を施す仕上焼鈍工程と、を含み、
前記酸洗工程において使用する酸洗溶液がCu、Hg、Ag、Pb、Cd、Co、Zn、Niの1種または2種以上を含有し、各元素の濃度の合計が、質量%で、0.00001%以上1.00000%以下であり、pHが-1.5以上
6.0以下、液温が15℃以上100℃以下であり、前記熱延鋼板と前記酸洗溶液との接触時間が5秒以上200秒以下となるように酸洗を行うことを特徴とする無方向性電磁鋼板の製造方法。
【請求項6】
前記熱間圧延工程と前記酸洗工程との間に前記熱延鋼板に熱延板焼鈍を施して熱延焼鈍板を得る熱延板焼鈍工程を有することを特徴とする請求項5に記載の無方向性電磁鋼板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無方向性電磁鋼板および無方向性電磁鋼板の製造方法に関する。本願は、2021年03月31日に、日本に出願された特願2021-060959号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
無方向性電磁鋼板は、高級グレードの場合、Siを2質量%~5質量%程度含有する。この時、鋼板の特定方位に偏った磁気特性を示さないように、各結晶の結晶軸方位をできるかぎりランダムに配置させる。このような無方向性電磁鋼板は磁気特性に優れ、例えば、回転機のステーターおよびローターの鉄心材料などとして利用される。
【0003】
このような無方向性電磁鋼板では、磁気特性を向上させるために、種々の開発がなされている。特に、近年の省エネルギー化の要請に伴って、さらなる低鉄損化が求められている。鉄損は、渦電流損とヒステリシス損とから構成されている。
【0004】
渦電流損の低減については、鋼成分として、SiやAl、Mnなどの元素を添加して固有抵抗を増加させることが有効である。また、ヒステリシス損の低減については、鋼中の不純物や析出物を減少させることが有効である。
【0005】
しかしながら、鋼成分としてAlを添加すると、渦電流損が低減されるものの、鋼中にAlN析出物を形成して、ヒステリシス損が劣化する課題があった。
【0006】
特許文献1には、仕上焼鈍のガス成分を制御することで、表面近傍のAl系析出物の個数密度を制御した無方向性電磁鋼板を製造する技術が開示されている。特許文献2および特許文献3には、熱延板焼鈍の条件および酸洗処理条件を制御することで、被膜特性に優れた方向性電磁鋼板を製造する技術が開示されている。さらに、特許文献4には、酸洗処理条件、焼鈍分離剤の添加物条件および仕上焼鈍条件を制御することで、被膜特性と磁気特性に優れた方向性電磁鋼板を製造する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】日本国特開2018-204052号公報
【文献】日本国特開2003-193141号公報
【文献】日本国特開2019-99827号公報
【文献】日本国特開2014-196559号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
近年の地球環境問題の高まりから、電気機器においては小型、高出力、高エネルギー効率が要求され、モーター類の鉄心材料である無方向性電磁鋼板にも、さらなる鉄損の低減が求められている。
【0009】
上記の特許文献1には、仕上焼鈍のガス成分を制御することで、表面から深さ2.0μmまでの範囲内に存在する50~500nmのAl系析出物の個数密度を制御する技術が開示されている。50~500nmの範囲に限定されているのは、鉄損、特にヒステリシス損に影響をおよぼす析出物サイズが50~500nmだからである。しかし、深さ2.0μmより内層側のAlN析出物の制御については十分ではない。鋼板内側のAlN析出物の制御が不十分だと、ヒステリシス損が劣化する問題が生じる。また、特許文献2~4には、磁気特性に優れ、及び、または、被膜密着性に優れた方向性電磁鋼板を得る方法として、表面と板厚中心において、MnやCuの濃度に差異を生じさせることが開示されている。しかしながら、AlN析出物の制御については十分でない場合がある。
【0010】
そこで、本発明は、上記課題等を鑑みてなされたものであり、本発明の目的とするところは、低鉄損であり磁気特性に優れた無方向性電磁鋼板、およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、本発明により以下の態様が提供される。
(1)
化学成分として、質量%で、
C:0.005%以下、
Si:2.0%以上4.5%以下、
Mn:0.01%以上5.00%以下、
S、SeおよびTeのうち1種または2種以上の合計:0.0003%以上0.0050%以下、
Al:0.01%以上5.00%以下、
N:0.0005%以上0.0050%以下、
P:1.0%以下、を含有し、
残部がFeおよび不純物からなる母材を備え、
前記母材の板厚方向の断面において、前記母材の表面から板厚方向に2.0~5.0μmの範囲に存在する円相当径が50~500nmの析出物の個数密度N2-5が0.30個/μm2以下であり、かつ、
前記個数密度N2-5と、前記母材の表面~2.0μmの範囲に存在する円相当径が50~500nmの析出物の個数密度N0-2との関係が、式(1)を満たすことを特徴とする無方向性電磁鋼板。
(N2-5)/(N0-2) ≦ 0.4 ・・・ 式(1)
(2)
更に、前記母材の前記化学成分として、質量%で、
Cu:1.0%以下、
Sn:1.0%以下、
Ni:1.0%以下、
Cr:1.0%以下、
Sb:1.0%以下
からなる群から選択される1種または2種以上含有することを特徴とする(1)に記載の無方向性電磁鋼板。
(3)
更に、前記母材の前記化学成分として、質量%で、
Ti:0.0010以上0.0030%以下、
Nb:0.0010以上0.0030%以下、
V:0.0010以上0.0030%以下、
Zr:0.0010以上0.0030%以下の1種または2種以上
からなる群から選択される1種または2種以上含有することを特徴とする(1)または(2)に記載の無方向性電磁鋼板。
(4)
鉄損W15/50が2.5W/kg以下であり、前記鉄損W15/50とヒステリシス損W15hとの関係が、式(2)を満たすことを特徴とする(1)~(3)のいずれか1項に記載の無方向性電磁鋼板。
0.8 ≦ (W15h)/(W15/50) ・・・ 式(2)
(5)
(1)~(4)のいずれか1項に記載の無方向性電磁鋼板の製造方法であって、
溶鋼を鋳造してスラブを得る工程と、
前記スラブを加熱後、熱間圧延を施して熱延鋼板とする熱間圧延工程と、
前記熱延鋼板に酸洗を施して酸洗板を得る酸洗工程と、
前記酸洗板に冷間圧延を施して冷延鋼板を得る冷間圧延工程と、
前記冷延鋼板に仕上焼鈍を施す仕上焼鈍工程と、を含み、
前記酸洗工程において使用する酸洗溶液がCu、Hg、Ag、Pb、Cd、Co、Zn、Niの1種または2種以上を含有し、各元素の濃度の合計が、質量%で、0.00001%以上1.00000%以下であり、pHが-1.5以上6.0以下、液温が15℃以上100℃以下であり、前記熱延鋼板と前記酸洗溶液との接触時間が5秒以上200秒以下となるように酸洗を行うことを特徴とする無方向性電磁鋼板の製造方法。
(6)
前記熱間圧延工程と前記酸洗工程との間に前記熱延鋼板に熱延板焼鈍を施して熱延焼鈍板を得る熱延板焼鈍工程を有することを特徴とする(5)に記載の無方向性電磁鋼板の製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明の上記態様によれば、低鉄損であり磁気特性に優れた無方向性電磁鋼板、およびその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明者らは、無方向性電磁鋼板において、ヒステリシス損を低減するために、特に表層における析出物の制御方法について鋭意検討を行った結果、以下の知見を見出した。
【0014】
Cu、Hg、Ag、Pb、Cd、Co、ZnおよびNiのうちから1種または2種以上(本明細書においてこれらを「Cu等」と称することがある)を含む溶液と無方向性電磁鋼板とを接触させる。無方向性電磁鋼板は析出物としてMnS、MnSe、MnTe(本明細書においてこれらを「MnS等」と称することがある)を含んでおり、MnS等の析出物はAlN等の析出物と同様、ヒステリシス損を劣化させるものとして働く。本発明では、MnS等がCu等を含む溶液に接触すると、MnS等におけるMnの一部、特にMnS等の表層のMnがCu等に置換する現象を活用して、MnS等の析出物とAlN析出物の複合析出を促進することで、析出物の個数を減少させて、低鉄損を実現することができる。
【0015】
以下に本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。
なお、特に断らない限り、数値a及びbについて「a~b」という表記は「a以上b以下」を意味するものとする。かかる表記において数値bのみに単位を付した場合には、当該単位が数値aにも適用されるものとする。また、「未満」または「超」と示す数値には、その値は数値範囲に含まれない。
以下、本実施形態に係る無方向性電磁鋼板について具体的に説明する。
【0016】
[化学成分]
まず、本実施形態に係る無方向性電磁鋼板の母材の化学成分について説明する。なお、以下では特に断りのない限り、「%」との表記は「質量%」を表わすものとする。また、以下で説明する元素以外の残部は、Feおよび不純物である。ここで、不純物とは、原材料に含まれる成分、または製造の過程で混入する成分であって、意図的に母材鋼板に含有させたものではない成分を指す。また、無方向性電磁鋼板の素材であるスラブの化学成分は基本的には無方向性電磁鋼板の化学成分に準じたものになる。
【0017】
C:0.005%以下
Cは、最終的な無方向性電磁鋼板において磁気時効を起こす可能性があるため好ましくない。したがって、Cの含有量は、0.005%以下であり、好ましくは、0.0040%以下である。また、Cの含有量は、低いほど好ましいが、コストを考慮すると、下限は0.0005%以上としてもよい。
【0018】
Si:2.0%以上4.5%以下
Siは、無方向性電磁鋼板の電気抵抗を高めることで、鉄損の原因の一つである渦電流損失を低減する。Siの含有量が2.0%未満である場合、最終的な無方向性電磁鋼板の渦電流損失を十分に抑制することが困難になるため好ましくない。Siの含有量が4.5%超である場合、加工性が低下するため好ましくない。したがって、Siの含有量は、2.0%以上4.5%以下であり、好ましくは、2.2%以上4.5%以下であり、さらに好ましくは、2.4%以上4.5%以下である。
Siの下限は、極めて好ましくは、2.8%以上である。
【0019】
Mn:0.01%以上5.00%以下
MnはSiと同様に電気抵抗を増加させる作用を有しており、鉄損の原因の一つである渦電流損失を低減するとともに、S、SeおよびTeと析出物を形成して、後述する酸洗条件と組み合わせることにより、鋼板表面の表層領域におけるAlN析出を促進させる。Mnの含有量が0.01%未満である場合、渦電流損失の低減効果が十分でないため好ましくない。また、表層領域におけるAlN析出を促進させるためのMnS、MnSeおよびMnTeの絶対量が不足するため好ましくない。Mnの含有量が5.0%超である場合、加工性が低下するため好ましくない。したがって、Mnの含有量は、0.01%以上5.00%以下である。
【0020】
S、SeおよびTeのうち1種または2種以上の合計:合計0.0003%以上0.0050%以下
S、SeおよびTeは、上述したMnと共に析出物を形成して、後述する酸洗条件と組み合わせることにより、表層域におけるAlN析出を促進させる。S、SeおよびTeは、3種とも無方向性電磁鋼板に含有されていてもよいが、少なくともいずれか1種が無方向性電磁鋼板に含有されていればよい。S、SeおよびTeの含有量の合計が0.0003%未満である場合、鋼板表面の表層領域におけるAlN析出を促進させるためのMnS、MnSeおよびMnTeの絶対量が不足するため好ましくない。S、SeおよびTeの含有量の合計が0.0050%超である場合、MnS、MnSeおよびMnTeの析出量が多くなり過ぎて、ヒステリシス損が劣化するため好ましくない。したがって、S、SeおよびTeのうち1種または2種以上の含有量は、合計で0.0.0003%以上0.0050%以下であり、好ましくは、0.0003%以上0.0040%以下であり、さらに好ましくは、0.0003%以上0.0030%以下である。
【0021】
Al:0.01%以上5.00%以下
Alは、Siと同様に電気抵抗を増加させる作用を有しており、鉄損の原因の一つである渦電流損失を低減する。また、Alは後述のNと共に鋼中にヒステリシス損を劣化させるAlN析出物を形成する。Alの含有量が0.01%未満である場合、渦電流損失の低減効果が十分でないため好ましくない。Alの含有量が5.00%超である場合、加工性が低下するため好ましくない。したがって、Alの含有量は、0.01%以上5.00%以下であり、好ましくは、0.01%以上4.00%以下である。
【0022】
N:0.0005%以上0.0050%以下
Nは、上述したように、酸可溶性Alと共にAlNを形成してヒステリシス損を劣化させる。N:0.0005%未満の場合、製造コストが高くなり過ぎるため好ましくない。Nの含有量が0.0050%超の場合、AlN析出量が多くなり過ぎて、ヒステリシス損が劣化するため好ましくない。したがって、Nの含有量は、0.0005%以上0.0050%以下であり、好ましくは、0.0010%以上0.0040%以下であり、さらに好ましくは、0.0010%以上0.0030%以下である。
【0023】
P:1.0%以下
Pは磁束密度を低下させることなく強度を高める作用がある。しかし、Pを過剰に含有させると鋼の靱性を損ない、鋼板に破断が生じやすくなる。そのため、P量の上限は1.0%とする。好ましくは0.150%以下、より好ましくは0.120%以下である。P量の下限は特に限定しないが、製造コストも考慮すると0.001%以上としてもよい。
【0024】
Cu、Sn、Ni、Cr、またはSbのいずれか1種または2種以上:各々の含有量で0%以上1.0%以下
上述の元素の他に、更にA群元素として集合組織を改善して磁束密度を向上させる元素であるCu、Sn、Ni、Cr、またはSbからなる群から選択される1種または2種以上を、各々の含有量で0%以上1.0%以下含有してもよい。これらの元素の含有量は、好ましくは各々の含有量で0.0005%以上0.3000%以下であってもよい。
【0025】
Ti、Nb、V、またはZrのいずれか1種または2種以上:各々の含有量で0.0010%以上0.0030%以下
また、B群元素として更に鋼中にてNと析出物を形成することでAlN析出を抑制する元素であるTi、Nb、V、Zrからなる群から選択される1種または2種以上を、各々の含有量で0.0010%以上0.0030%以下含有してもよい。スラブが上記の元素を含有する場合、製造される無方向性電磁鋼板の粒成長性をさらに向上してヒステリシス損を低減することができる。一方、含有量が0.0030%超の場合、鋼中の析出物が増加して、むしろヒステリシス損が劣化する場合があるので、Ti、Nb、V、Zrからなる群から選択される1種または2種以上、各々の含有量は、0.0030%以下としてもよい。
【0026】
<析出物>
ここでいう析出物とは、MnS系とAlNの複合析出物を指す。
本発明者らは、鋼板表面から板厚方向に2.0~5.0μmの範囲に存在する析出物の個数密度が、ヒステリシス損に大きな影響を及ぼすことを見出した。詳細なメカニズムは不明であるが、鋼板表面から板厚方向に0.0μm~2.0μmの極表層の範囲に析出物を促進させ、鋼板表面から板厚方向に2.0~5.0μmの範囲に存在する析出物の個数密度を減少させることで、ヒステリシス損に優れた無方向性電磁鋼板を得ることができる。ここで、本発明者らは、極表層の0.0μm~2.0μmの極表層の範囲の析出物個数密度に比較して、2.0~5.0μmの範囲に存在する析出物の個数密度の方が、ヒステリシス損におよぼす影響が大きいことを見出した。
【0027】
仕上焼鈍板(製品板)の母材の板厚方向の断面において、鋼板(母材)表面からの板厚方向に2.0~5.0μmの範囲に存在する円相当径が50~500nmの析出物の個数密度:N2-5が0.30個/μm2以下であり、かつ、前記母材の表面~2.0μmの範囲に存在する円相当径が50~500nmの析出物の個数密度:N0-2の関係が、式(1)を満たす。
(N2-5)/(N0-2) ≦ 0.5 ・・・ 式(1)
鋼板表面からの板厚方向に2.0~5.0μmの範囲に存在する相当径が50~500nmの析出物の個数密度が0.30個/μm2超の場合、ヒステリシス損が劣化するため好ましくない。また、鋼板(母材)表面からの板厚方向に2.0~5.0μmの範囲に存在する円相当径が50~500nmの析出物の個数密度:N2-5と、前記母材の表面~2.0μmの範囲に存在する円相当径が50~500nmの析出物の個数密度:N0-2の比が、0.5超の場合、ヒステリシス損が劣化するため好ましくない。したがって、(N2-5)/(N0-2)は0.5以下であり、さらに好ましくは、0.4以下である。
【0028】
無方向性電磁鋼板に含まれる析出物は、TEM-EDS(Transmission Electron Microscope-Energy Dispersive X-ray Spectroscopy)または、SEM-EDS(Scanning Electron Microscope-Energy Dispersive X-ray Spectroscopy)を用いて特定すればよい。例えば、熱延鋼板から圧延方向および板厚方向に平行な断面が観察面となる薄膜試料を採取し、TEM-EDSまたは、SEM-EDSでの観察および定量分析結果に基づいて、鋼中で析出物を形成し得る元素からなる析出物を、観察視野中で特定すればよい。特定された析出物の面積を円に換算したときの直径を、円相当径と定義する。観察視野(観察面積)が、鋼板表面から板厚方向に5.0μmの範囲を含むようにサンプルを作成し、鋼板表面から板厚方向に5.0μmの範囲に存在する円相当径が50~500nmの析出物を特定して、例えば、観察視野は、少なくとも5μm×10μmの範囲とすればよい。なお、円相当径を導出するために、TEM-EDSまたは、SEM-EDS観察で得られた像をスキャナ等で読み込み、市販の画像解析ソフトを用いて解析してもよい。また、ここでの鋼板表面は、母材と、絶縁被膜との界面を指す。
画像解析ソフトを使用しない場合は、簡易的に、スキャナ等で読み込んだ画像もしくは印刷した画像において、各析出物の最大長さと最小長さを目視計測し、平均値を円相当径としても良い。なお、TEM-EDS測定サンプルは、薄片でもよいし、レプリカ法などにより析出物を抽出してもよい。レプリカ法の場合は、鋼板表面の場所が解析時にわかるように、マーキング等を施してもよい。SEM-EDSサンプルは、鋼板の断面を研磨して準備してもよい。析出物を判別しやすくするために、エッチング処理を施してもよい。SEM観察は、二次電子像でもよいし、反射電子像でもよい。
【0029】
<磁気特性>
磁気特性に優れるという観点から、本実施形態に係る無方向性電磁鋼板では、さらに鉄損W15/50とヒステリシス損W15hとが制御されてもよい。具体的には、本実施形態に係る無方向性電磁鋼板において、鉄損W15/50が2.5W/kg以下であり、鉄損W15/50とヒステリシス損W15hの関係が式(2)を満たしてもよい。
0.8 ≦ (W15h)/(W15/50) ・・・ 式(2)
【0030】
なお、磁束密度などの電磁鋼板の磁気特性は、公知の方法により測定することができる。例えば、電磁鋼板の磁気特性は、JIS C2550:2011に規定されるエプスタイン試験に基づく方法、またはJIS C2556:2015に規定される単板磁気特性試験法(Single Sheet Tester:SST)などを用いることにより測定することができる。なお、研究開発において、真空溶解炉などで鋼塊が形成された場合では、実機製造と同等サイズの試験片を採取することが困難となる。この場合、例えば、幅55mm×長さ55mmとなるように試験片を採取して、単板磁気特性試験法に準拠した測定を行っても構わない。さらに、エプスタイン試験に基づく方法と同等の測定値が得られるように、単板磁気特性試験法に準拠した測定結果に補正係数を掛けても構わない。本実施形態では、単板磁気特性試験法に準拠した測定法により測定する。
【0031】
<金属組織>
仕上焼鈍板(製品板)における平均フェライト結晶粒径Dave(μm)は50μm以上であってもよい。平均フェライト結晶粒径は、JIS G 0551:2020に準拠して求めてもよい。
【0032】
<製造方法>
無方向性電磁鋼板が上記で説明した成分組成になるように調整された溶鋼を鋳造することで、スラブが形成される。なお、スラブの鋳造方法は、特に限定されない。また、研究開発において、真空溶解炉などで鋼塊が形成されても、上記成分について、スラブが形成された場合と同様の効果が確認できる。
【0033】
[熱間圧延工程]
スラブを加熱して熱間圧延を施すことで熱延鋼板に加工される。スラブ加熱温度は、特に限定されない。スラブの加熱温度の上限値は、特に定めないが、スラブ加熱時にS化合物、N化合物等の再固溶したものが、その後微細析出し、磁気特性を劣化させることを回避するために、通常のスラブ加熱温度は1250℃以下としてもよく、好ましくは1200℃以下としてもよい。
【0034】
次に、スラブ加熱後、熱間圧延されて熱延鋼板に加工される。熱延仕上温度は、700℃以上1000℃以下であってもよく、巻取温度は、500℃以上900℃以下であってもよい。熱延仕上温度および巻取温度を前記範囲内に制御することで、熱間圧延におけるMnS等の析出を制御し、後工程で実施される酸洗における条件制御と組み合わせることで、さらなる鉄損低減効果を得ることが可能となる。加工後の熱延鋼板の板厚は、例えば、1.5mm以上3.5mm以下であってもよい。熱延鋼板の板厚が1.5mm未満である場合、熱間圧延後の鋼板形状が劣位となる場合があるため、好ましくない。熱延鋼板の板厚が3.5mm超である場合、冷間圧延の工程での圧延負荷が大きくなるため好ましくない。
【0035】
[酸洗工程]
本発明の無方向性電磁鋼板の製造方法は、Cu、Hg、Ag、Pb、Cd、Co、ZnおよびNiのうちから1種または2種以上(本明細書においてこれらを「Cu等」と称することがある)を含有し、各元素の濃度の合計が0.00001%以上1.00000%以下である酸洗溶液と熱延鋼板を接触させ、酸洗板を得る。
【0036】
熱延鋼板は析出物としてMnS、MnSe、MnTe(本明細書においてこれらを「MnS等」と称することがある)を含んでおり、これらの析出物はインヒビターとして働く。MnS等がCu等を含む酸洗溶液に接触すると、MnS等におけるMnの一部、特にMnS等の表層のMnがCu等に置換する。この現象を活用して、MnS等の析出物とAlN析出物の複合析出を促進することで、仕上焼鈍板(製品板)における鋼板表面から板厚方向に2.0~5.0μmの析出物の個数を減少させて、低鉄損を実現することができる。
【0037】
熱延鋼板にCu等を含有する酸洗溶液を接触させることによって板厚方向の析出物制御が可能となるメカニズムは、以下のように推定される。
酸洗溶液は、Cu、Hg、Ag、Pb、Cd、Co、ZnおよびNiのうちから1種または2種以上を含有する。これらの元素はS、SeおよびTeと親和性が非常に高い。これらの元素は無方向性電磁鋼板の鋼板表面に露出したMnS、MnSeおよびMnTe析出物のMnと酸洗溶液中で置換して、化合物を形成する。この置換反応は、MnS等の析出物のうち、特に酸洗溶液と接するMnS等の析出物の表面側で起こりやすい。MnS等の析出物の表面側で、Mnが他の金属元素(Cu等)と置換されると、仕上焼鈍等において、MnS等の析出物とAlN析出物の複合析出が促進される。これにより、仕上焼鈍板(製品板)における鋼板表面~2.0μmにおける析出物が増加し、鋼板表面から2.0μmより内層側(特に表面から板厚方向に2.0μm~5.0μm)の析出物を抑制することができる。この反応は、Cu、Hg、Ag、Pb、Cd、Co、ZnおよびNiのうちから1種または2種以上が含有される酸洗溶液がMnS、MnSeおよびMnTeに触れると発生する。また、鋼板表層にひび割れやボイド等の欠陥があると、酸洗溶液はそれらの空間を通って鋼板内に浸入して、鋼板の最表面に露出したMnS等だけでなく、鋼板表層の一定深さの範囲のMnS等とも反応すると考えられる。一定深さの範囲、例えば、表面から板厚方向に10μmの範囲のMnS等の反応を促進させることを目的として、酸洗の前に、ショットブラスト処理などによって鋼板表面にひび割れの欠陥を導入しても構わない。この場合、仕上焼鈍後の析出物分布状態について、鋼板表面からの板厚方向に2.0~5.0μmの範囲に存在する相当径が50~500nmの析出物の個数密度が抑制できていればよい。
【0038】
酸洗溶液のCu、Hg、Ag、Pb、Cd、Co、ZnおよびNiのうち1種または2種以上の濃度の合計が0.00001%未満である場合、板厚方向のインヒビター制御の効果が不十分となり好ましくない。酸洗溶液のCu、Hg、Ag、Pb、Cd、Co、ZnおよびNiのうち1種または2種以上の濃度の合計が1.00000%超である場合、磁性向上の効果が飽和するので好ましくない。したがって、酸洗溶液のCu、Hg、Ag、Pb、Cd、Co、ZnおよびNiのうち1種または2種以上の濃度の合計を0.00001%以上1.00000%以下とする。
【0039】
また、概して酸洗溶液のpHは低い方が好ましい。pHの低い酸洗溶液は、高い酸洗効果を有し、鋼板の最表面に露出したMnS等だけでなく、鋼板表層の一定深さの範囲、例えば、表面から板厚方向に10μmの範囲のMnS等とも反応して、仕上焼鈍等におけるAlN析出に影響をおよぼすと考えられる。ただし、溶液のpHが-1.5未満である場合、酸性が強くなり過ぎて溶液の取扱いが困難となるので好ましくない。溶液のpHが7.0以上である場合、酸洗処理の効果は十分に得られず、板厚方向の析出物制御の効果が不十分となることがある。したがって、溶液のpHを-1.5以上7.0未満である。溶液のpHは低いほど酸洗効果が高まり、板厚方向の析出物制御の効果が高まることから、溶液のpHは、好ましくは-1.5以上6.0以下であり、より好ましくは-1.5以上5.0以下である。なお、溶液が含有する酸成分としては、硫酸、塩酸、硝酸、リン酸等である。
【0040】
また、溶液の液温が15℃未満である場合、酸洗処理効果は十分に得られず、板厚方向の析出物制御の効果が不十分となるので好ましくない。溶液の液温が100℃超である場合、溶液の取扱いが困難となり好ましくない。したがって、溶液の液温は15℃以上100℃以下である。
【0041】
また、熱延鋼板が溶液と接触する時間が5秒未満である場合、接触時間が十分でなく、酸洗の効果が不十分となるので好ましくない。鋼板が溶液に接触する時間が200秒超である場合、接触させるための設備が長大となるので好ましくない。したがって、鋼板が溶液に接触する時間を5秒以上200秒以下である。
【0042】
[冷間圧延工程]
必要に応じて熱延鋼板に熱延板焼鈍を施して、熱延焼鈍板を得る熱延板焼鈍工程を有してもよい。酸洗された熱延鋼板は、1回の冷間圧延、または中間焼鈍を挟んだ複数回の冷間圧延にて圧延されることで、冷延鋼板に加工される。なお、中間焼鈍を挟んだ複数回の冷間圧延にて圧延する場合、前段の熱延板焼鈍を省略することも可能である。ただし、熱延板焼鈍を施す場合、鋼板形状がより良好になるため、冷間圧延にて鋼板が破断する可能性を軽減することができる。なお、冷間圧延に供する前に、鋼板の表面に付着したスケール等を除去するために、上述の酸洗を行なうことが好ましい。酸洗は、板厚方向の析出物制御のためには、熱間圧延以降、仕上焼鈍前までの間に、少なくとも一回施されれば良い。複数回の冷間圧延にて圧延する場合、冷間圧延におけるロール摩耗を軽減する観点からは、各冷間圧延工程の前に、酸洗処理が施されることが好ましい。なお、最終冷延後の板厚は、特に限定されないが、鉄損低減の観点から、0.35mm以下が好ましく、さらに好ましくは0.30mm以下であってもよい。
【0043】
また、冷間圧延のパス間、圧延ロールスタンド間、または圧延中に、鋼板は、300℃程度以下で加熱処理されてもよい。このような場合、最終的な無方向性電磁鋼板の磁気特性を向上させることができる。なお、熱延鋼板は、3回以上の冷間圧延によって圧延されてもよいが、多数回の冷間圧延は、製造コストを増大させるため、熱延鋼板は、1回または2回の冷間圧延によって圧延されることが好ましい。冷間圧延はタンデムミルで圧延してもよいし、ゼンジミアミルなどのリバース圧延で行ってもよい。リバース圧延で行う場合、それぞれの冷間圧延におけるパス回数は、特に限定されないが、製造コストの観点から、9回以下が好ましい。
【0044】
[仕上焼鈍工程]
冷延鋼板は、仕上焼鈍される。仕上焼鈍における雰囲気ガス組成は、特に限定されない。昇温速度や昇温ヒートパターンは、特に限定されない。焼鈍温度は、好適な平均フェライト結晶粒径を得るために、900℃以上で行うことが好ましい。例えば、800℃以上の焼鈍時間は、10秒以上300秒以下であってもよい。
【0045】
その後、必要に応じて、絶縁皮膜を表面に形成させ、本発明の無方向性電磁鋼板とすることができる。
【0046】
以上の工程により、最終的な無方向性電磁鋼板を製造することができる。本実施形態に係る製造方法によれば、磁気特性に優れた無方向性電磁鋼板を製造することができる。
【実施例】
【0047】
以下に、実施例を示しながら、本発明の一実施形態に係る無方向性電磁鋼板の製造方法、および無方向性電磁鋼板について、より具体的に説明する。なお、以下に示す実施例は、本実施形態に係る無方向性電磁鋼板のあくまでも一例に過ぎず、本実施形態に係る無方向性電磁鋼板が以下に示す実施例に限定されるものではない。
【0048】
<実施例1>
実験室で表1に記載の化学成分を有する合金(鋼No.A1~A25及びa1~a11)を溶製した。なお、表1において、Cu、Sn、Ni、Cr、及びSbの各含有量はA群元素の欄に記載した。同様に、Ti、Nb、V、及びZrの各含有量は、B群元素の欄に記載した。上記の合金を厚さ2.0mmまで熱間圧延した後、表2の記載にしたがって熱延板焼鈍を施し、表2に示す酸洗条件で酸洗板を得た。(製法Nо.B9及びB10)その後、酸洗板を厚さ0.3mmまでの冷間圧延、および仕上焼鈍を施して無方向性電磁鋼板を得た。仕上焼鈍後の無方向性電磁鋼板から試験片を切り出し、JIS C 2556:2015の単板磁気特性試験法に従って磁気特性を測定した。ここで、磁気測定値は、圧延方向、および、圧延方向と直角方向の平均値とした。ここでは、鉄損W15/50が2.5W/kg以下であり、かつ(W15h)/(W15/50)が0.8以上である例を合格ラインとした。析出物は、圧延方向および板厚方向に平行な断面が観察面となる薄膜試料を採取し、TEM-EDSにより観察した。得られた観察像より、鋼板表面から板厚方向に2.0μmの範囲、および、鋼板表面からの板厚方向に2.0~5.0μmの範囲に存在する各析出物の最大長さと最小長さを目視計測し、平均値が50~500nmの析出物の個数密度を計測した。計測した析出物は、TEM-EDSにより、MnS系とAlNの複合析出物であることを確認した。観察視野は、5μm×10μmの範囲とした。
【0049】
【0050】
【0051】
このとき、表3に示すように、本発明例である鋼No.A1~A25と本発明例である製法Nо.B9及びB10の組み合わせは、磁気特性に優れ、析出物分布も規定の範囲を満たしていた。なお、仕上焼鈍後の母鋼板の成分は、表1に記載の化学成分と同等であった。
一方、比較例である鋼No.a1~a11と本発明例である製法Nо.B9及びB10の組み合わせは、磁気特性が劣り、所望の無方向性電磁鋼板を得ることは出来なかった。また、符号c3、c5、c6、及びc10は冷延破断を起こした。
【0052】
【0053】
<実施例2>
実験室で表1に記載の化学成分を有する合金(鋼No.A24、及びA25)を溶製した。なお、表1において、Cu、Sn、Ni、Cr、及びSbの各含有量はA群元素の欄に記載した。同様に、Ti、Nb、V、及びZrの各含有量は、B群元素の欄に記載した。上記の合金を厚さが2.0mmまで熱間圧延した後、表2の記載にしたがって熱延板焼鈍を施し、表2に示す酸洗条件で酸洗板を得た。(製法Nо.B1~B10、及びb1~b4)酸洗板を厚さ0.3mmまでの冷間圧延、および仕上焼鈍を施して無方向性電磁鋼板を得た。仕上焼鈍後の無方向性電磁鋼板から試験片を切り出し、JIS C 2556:2015の単板磁気特性試験法に従って磁気特性を測定した。ここで、磁気測定値は、圧延方向、および、圧延方向と直角方向の平均値とした。析出物は、圧延方向および板厚方向に平行な断面が観察面となるように鋼板試料を採取し、鏡面研磨した後、SEM-EDSにより観察した。得られた反射電子像を画像解析し、鋼板表面から板厚方向に2.0μmの範囲、および、鋼板表面からの板厚方向に2.0~5.0μmの範囲に存在する円相当径が50~500nmの析出物の個数密度を計測した。析出物個数密度の解析は、5μm×10μmの面積において、10視野で行った。
【0054】
このとき、表4に示すように、本発明例である鋼No.A24、及びA25と本発明例である製法Nо.B1~B10の組み合わせは、磁気特性に優れ、析出物分布も規定の範囲を満たしていた。なお、仕上焼鈍後の母鋼板の成分は、表1に記載の化学成分と同等であった。
一方、比較例である鋼No.a1~a11と本発明例である製法Nо.B9及びB10の組み合わせは、磁気特性が劣り、所望の無方向性電磁鋼板を得ることは出来なかった。
【0055】
【産業上の利用可能性】
【0056】
前述したように、本発明によれば、磁気特性が優れた無方向性電磁鋼板が製造出来て利用可能性が高いものである。
【要約】
母材の板厚方向の断面において、前記母材の表面から板厚方向に2.0~5.0μmの範囲に存在する円相当径が50~500nmの析出物の個数密度N2-5が0.30個/μm2以下であり、かつ、前記個数密度N2-5と、前記母材の表面~2.0μmの範囲に存在する円相当径が50~500nmの析出物の個数密度N0-2との関係が、式(1)を満たすことを特徴とする無方向性電磁鋼板。
(N2-5)/(N0-2) ≦ 0.5 ・・・ 式(1)