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特許7222470無機粒子凝集用凝集剤とその製造方法並びに土壌固化剤と該土壌固化剤を用いる土壌固化方法、放射性物質の拡散防止方法、汚染土壌の除染方法及び不透水層形成方法
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  • 特許-無機粒子凝集用凝集剤とその製造方法並びに土壌固化剤と該土壌固化剤を用いる土壌固化方法、放射性物質の拡散防止方法、汚染土壌の除染方法及び不透水層形成方法 図1
  • 特許-無機粒子凝集用凝集剤とその製造方法並びに土壌固化剤と該土壌固化剤を用いる土壌固化方法、放射性物質の拡散防止方法、汚染土壌の除染方法及び不透水層形成方法 図2
  • 特許-無機粒子凝集用凝集剤とその製造方法並びに土壌固化剤と該土壌固化剤を用いる土壌固化方法、放射性物質の拡散防止方法、汚染土壌の除染方法及び不透水層形成方法 図3
  • 特許-無機粒子凝集用凝集剤とその製造方法並びに土壌固化剤と該土壌固化剤を用いる土壌固化方法、放射性物質の拡散防止方法、汚染土壌の除染方法及び不透水層形成方法 図4
  • 特許-無機粒子凝集用凝集剤とその製造方法並びに土壌固化剤と該土壌固化剤を用いる土壌固化方法、放射性物質の拡散防止方法、汚染土壌の除染方法及び不透水層形成方法 図5
  • 特許-無機粒子凝集用凝集剤とその製造方法並びに土壌固化剤と該土壌固化剤を用いる土壌固化方法、放射性物質の拡散防止方法、汚染土壌の除染方法及び不透水層形成方法 図6
  • 特許-無機粒子凝集用凝集剤とその製造方法並びに土壌固化剤と該土壌固化剤を用いる土壌固化方法、放射性物質の拡散防止方法、汚染土壌の除染方法及び不透水層形成方法 図7
  • 特許-無機粒子凝集用凝集剤とその製造方法並びに土壌固化剤と該土壌固化剤を用いる土壌固化方法、放射性物質の拡散防止方法、汚染土壌の除染方法及び不透水層形成方法 図8
  • 特許-無機粒子凝集用凝集剤とその製造方法並びに土壌固化剤と該土壌固化剤を用いる土壌固化方法、放射性物質の拡散防止方法、汚染土壌の除染方法及び不透水層形成方法 図9
  • 特許-無機粒子凝集用凝集剤とその製造方法並びに土壌固化剤と該土壌固化剤を用いる土壌固化方法、放射性物質の拡散防止方法、汚染土壌の除染方法及び不透水層形成方法 図10
  • 特許-無機粒子凝集用凝集剤とその製造方法並びに土壌固化剤と該土壌固化剤を用いる土壌固化方法、放射性物質の拡散防止方法、汚染土壌の除染方法及び不透水層形成方法 図11
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-07
(45)【発行日】2023-02-15
(54)【発明の名称】無機粒子凝集用凝集剤とその製造方法並びに土壌固化剤と該土壌固化剤を用いる土壌固化方法、放射性物質の拡散防止方法、汚染土壌の除染方法及び不透水層形成方法
(51)【国際特許分類】
   C09K 17/42 20060101AFI20230208BHJP
   G21F 9/12 20060101ALI20230208BHJP
   G21F 9/28 20060101ALI20230208BHJP
   G21F 9/30 20060101ALI20230208BHJP
   B09C 1/00 20060101ALI20230208BHJP
   C09K 3/00 20060101ALI20230208BHJP
【FI】
C09K17/42 P
G21F9/12 511A
G21F9/12 501F
G21F9/28 Z ZAB
G21F9/30 501V
G21F9/28 511C
B09C1/00
C09K3/00 S
【請求項の数】 17
(21)【出願番号】P 2019044905
(22)【出願日】2019-03-12
(65)【公開番号】P2020147652
(43)【公開日】2020-09-17
【審査請求日】2022-03-02
(73)【特許権者】
【識別番号】504203572
【氏名又は名称】国立大学法人茨城大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000001317
【氏名又は名称】株式会社熊谷組
(73)【特許権者】
【識別番号】596118530
【氏名又は名称】テクノス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100176164
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 州志
(72)【発明者】
【氏名】熊沢 紀之
(72)【発明者】
【氏名】杉原 輝俊
【審査官】齊藤 光子
(56)【参考文献】
【文献】特開平07-171557(JP,A)
【文献】特開2004-151457(JP,A)
【文献】特開平08-169712(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 17/00-17/52
G21F 9/00
B09C 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質構造を有し、陽イオン交換性能が認められる無機粒子無機カチオンの全部又は一部が少なくともカチオン性高分子によって置換された形態で、前記無機粒子に前記カチオン性高分子が含まれる凝集剤であって、前記カチオン性高分子によって置換されていない前記無機粒子を凝集する無機粒子凝集用凝集剤。
【請求項2】
前記無機粒子が、焼成バーミキュライト、ゼオライト、モンモリナイト、及びベントナイトの少なくとも一種から選ばれる無機粒子であることを特徴とする請求項1に記載の無機粒子凝集用凝集剤。
【請求項3】
前記無機粒子が、ベントナイトであることを特徴とする請求項2に記載の無機粒子凝集用凝集剤。
【請求項4】
前記カチオン性高分子の含有量が、前記無機粒子凝集用凝集剤の100質量部に対して30~45質量%であることを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載の無機粒子凝集用凝集剤。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載の無機粒子凝集用凝集剤を製造する方法であって、
水溶液中に前記無機粒子を分散させる工程と、前記無機粒子が分散した水溶液に前記カチオン性高分子を添加し、又は添加しながら所定時間攪拌する工程と、前記攪拌工程後の前記水溶液を静置する工程と、前記静置する工程の後に生成する沈殿物を前記水溶液から分別して回収する工程と、を有することを特徴とする無機粒子凝集用凝集剤の製造方法。
【請求項6】
前記無機粒子と前記カチオン性高分子との配合比率が、質量比において無機粒子:カチオン性高分子=1:3.0を超え9.6未満であることを特徴とする請求項5に記載の無機粒子凝集用凝集剤の製造方法。
【請求項7】
請求項1~4のいずれか一項に記載の無機粒子凝集用凝集剤を製造する方法であって、水溶液中に前記無機粒子を分散させる工程と、前記無機粒子が分散した水溶液にあらかじめ電解質溶液を添加し、攪拌を行いながら、引き続き前記水溶液に前記カチオン性高分子を添加する工程、前記攪拌工程で生成する沈降物を前記水溶液から分別して回収する工程と、有することを特徴とする無機粒子凝集用凝集剤の製造方法。
【請求項8】
前記電解質溶液として前記カチオン性高分子含む水溶液を使用するとともに、前記無機粒子と前記カチオン性高分子との配合比率が、質量比において無機粒子:カチオン性高分子=1:0.4を超え4未満であることを特徴とする請求項7に記載の無機粒子凝集用凝集剤の製造方法。
【請求項9】
請求項1~4の何れか一項に記載の無機粒子凝集用凝集剤を有し、前記無機粒子と組合して使用されることを特徴とする土壌固化剤。
【請求項10】
請求項9に記載の土壌固化剤を用いて、前記無機粒子と前記無機粒子凝集用凝集剤とを同時に土壌に混合することにより前記土壌の固化を行うことを特徴とする土壌固化方法。
【請求項11】
請求項9に記載の土壌固化剤を用いて、前記無機粒子をあらかじめ混合させた土壌に前記無機粒子凝集用凝集剤を混合させる方法、及び前記無機粒子凝集用凝集剤をあらかじめ混合した土壌に前記無機粒子を混合する方法、のどちらかの方法を行うことにより前記土壌の固化を行うことを特徴とする土壌固化方法。
【請求項12】
請求項9に記載の土壌固化剤を用いて、前記無機粒子と前記無機粒子凝集用凝集剤とを、放射性物質により汚染された土壌に同時に散布する工程により、前記土壌の少なくとも表層を固化させることを特徴とする放射性物質の拡散防止方法。
【請求項13】
請求項9に記載の土壌固化剤を用いて、前記無機粒子と前記無機粒子凝集用凝集剤とをこの順で放射性物質により汚染された土壌に散布することにより、前記放射性物質が前記無機粒子に取り込まれた後の前記無機粒子を含む土壌の少なくとも表面を前記無機粒子凝集用凝集剤で固化させることを特徴とする放射性物質の拡散防止方法。
【請求項14】
請求項9に記載の土壌固化剤を用いて、前記無機粒子と前記無機粒子凝集用凝集剤とを、放射性物質により汚染された土壌に同時に散布する工程により前記土壌の少なくとも一部を固化させた後、前記土壌の表層を剥離除去する工程を有することを特徴とする放射性物質による汚染土壌の除染方法。
【請求項15】
請求項9に記載の土壌固化剤を用いて、前記無機粒子と前記無機粒子凝集用凝集剤とをこの順で放射性物質により汚染された土壌に散布する工程により、前記放射性物質が前記無機粒子に取り込まれた後の前記無機粒子を含む土壌の少なくとも一部を前記無機粒子凝集用凝集剤で固化させた後、前記固化された土壌の表層を剥離除去する工程を有することを特徴とする放射性物質による汚染土壌の除染方法。
【請求項16】
請求項9に記載の土壌固化剤を用いて、前記無機粒子凝集用凝集剤及び前記無機粒子を、現地で発生する発生土と混合する混合土の製造工程と、前記混合土を不透水層の形成対象である地盤表面に敷設する工程と、を有することを特徴とする不透水層形成方法。
【請求項17】
請求項9に記載の土壌固化剤を用いて、前記無機粒子凝集用凝集剤と前記無機粒子とを有する土壌固化剤を2枚の不織布間に挟んでなる不透水シートを不透水形成対象とする地盤表面に敷設する工程と、前記不透水シートの少なくとも片側表面を覆土で覆う工程と、を有することを特徴とする不透水層形成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
土壌固化方法、放射線物質の拡散防止、汚染土壌の除染方法、及び不透水層形成方法等の目的に使用されるゼオライトやベントナイト等の多孔質無機粒子の単独又は前記多孔質無機粒子を含む土壌の凝集を促進する機能、又は前記凝集を助ける機能を有する凝集剤、並びに前記凝集剤を有する土壌固化剤と該土壌固化剤を用いる土壌固化方法、放射線物質の拡散防止方法、汚染土壌の除染方法及び不透水層形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
陽イオン交換性能を有する多孔質無機粒子は、重金属や有害有機物を吸着し、再利用可能で安全な土壌に改質するため、他の凝集剤等とともに土壌固化剤の成分として使用することができる(例えば、特許文献1を参照)。
【0003】
また、上記多孔質無機粒子は、放射性セシウム汚染土壌の除染方法にも適用が提案されている(例えば、特許文献2~6を参照)。上記多孔質無機粒子の一種であるベントナイトやゼオライトは、セシウムに対する吸着及び捕集の作用に加えて、サクション作用を利用できるため、放射性物質によって汚染された土壌に対して大きな除染効果を有することが知られている。その場合、放射性物質を吸着及び捕集したベントナイトを凝集させるための有機又は無機の凝集剤を併用することにより、放射性物質を含む土壌を固化し、放射性物質の固定化を行うことができる。それにより、放射性物質の拡散防止方法、及び前記放射性物質による汚染土壌の除去方法において顕著な効果が得られる。
【0004】
また、上記多孔質無機粒子は、廃棄物処分場からの化学物質の流出を防止するため遮水性を有する不透水層を形成する方法にも適用することが提案されている(例えば、特許文献7を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2003-321676号公報
【文献】特開2013-185941号公報
【文献】特開2013-88237号公報
【文献】特開2015-199057号公報
【文献】特開2017-111063号公報
【文献】特開2014-139553号公報
【文献】特開平11-210096号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
土壌に含まれる重金属、有害有機物又はセシウム等の放射性物質の吸着及び捕集のための土壌固化剤に、陽イオン交換性能を有する多孔質無機粒子を適用するときは、前記特許文献1~5に開示されるように、有機及び無機の凝集剤の少なくともどちらかを併用することにより、それらの有害物質によって汚染された土壌を前記多孔質無機粒子とともに固化させる方法が一般的である。それにより、重金属、有害有機物又は放射性物質の拡散を防止でき、また、それらの有害物質によって汚染された土壌の除去が容易となり、確実な除染ができる等の効果が得られる。
【0007】
また、前記陽イオン交換性能を有する多孔質無機粒子は、前記特許文献6及び7に開示されるように、有機及び無機の凝集剤と併用しないで溝堀内に敷設する方法(前記特許文献6を参照)、或いは発生土と混同し、そしてこれを突き固めることにより不透水層を形成する方法(前記特許文献7を参照)にも利用されている。ここで、前記不透水層は、前記多孔質無機粒子の一種であるベントナイトが吸水によって膨潤することから、その機能を利用して形成される。
【0008】
しかしながら、前記特許文献1~5に記載の発明は、有機及び無機凝集剤の少なくともどちらかを併用しても、前記多孔質無機粒子を含む土壌の凝集効果を確実に得るためには1日以上の長時間の放置が必要となる。そのため、汚染物質の拡散防止又は汚染土壌の除染を迅速に行えないという問題がある。これは、従来の有機及び/又は無機凝集剤を使って広大な土壌に散布するだけでは凝集剤の希釈化により土壌の凝集速度が遅くなることに起因する。さらに、土壌の凝集速度を高め、且つ、十分な凝集力を確保しようとする場合には有機及び/又は無機の凝集剤の配合量を多くする必要があり、材料及び処理のコスト上昇が避けられなかった。
【0009】
また、前記特許文献3に記載されたポリイオン複合体による凝集剤は、ポリ陽イオン及びポリ陰イオンに加えて、沈殿のない均一なポリイオン複合体を作製するため無機塩を添加する必要があるが、無機塩を含む土壌は植物の生育を阻害するという問題がある。加えて、ポリ陽イオン及びポリ陰イオンは吸湿しやすいため、保管や取扱いが煩雑になるだけでなく、材料コストが通常の凝集剤に比べて高いという課題もある。
【0010】
前記特許文献2に記載されたポリイオン複合体に代わる凝集剤として、前記特許文献3には酸化マグネシウム、また、前記特許文献4及び5にはカチオン性高分子とアニオン性高分子とを当量質量比が異なる状態で混合したコロイド水溶液がそれぞれ提案されている。しかしながら、前記多孔質無機粒子を含む土壌の除染処理において、凝集速度が遅いこと、凝集剤の配合量が多くなる傾向にあること、凝集剤の作製、管理及び取扱いが煩雑であること、並びに凝集剤の材料コストが高いこと等によって処理費用が高くなるという技術課題は、前記ポリイオン複合体による凝集剤と同様に、前記酸化マグネシウム及び前記コロイド水溶液においても残されていた。特に、放射性物質の拡散防止方法に有機沈殿剤を適用する場合は、前記有機沈殿剤を構成する有機物が土壌中に残存することになるため土壌に及ぼす影響を無視することができなかった。
【0011】
また、前記陽イオン交換性能を有する多孔質無機粒子を、有機及び/又は無機の凝集剤と併用しないで単独で使用する場合においても、土壌の凝集効果を十分に得るには長時間の放置が必要であること、土壌の凝集力が有機及び/又は無機の凝集剤と併用する場合に比べて小さいこと、等の問題を有している。さらに、前記特許文献6及び7に記載の発明では、土壌の凝集剤が使用されないため、激しい風や雨水又は乾燥等によって前記多孔質無機粒子を含む土壌そのものが散失する場合があり、環境の変化による影響を受けやすくなる。例えば、汚染物質の拡散防止の目的のため不透水機能を有するせき止め壁等を形成するとき、十分なせき止め効果が長期間に亘って十分に得られないという問題がある。
【0012】
本発明は、係る問題を解決するためになされたものであり、土壌固化方法、放射線物質の拡散防止、汚染土壌の除染方法、及び不透水層形成方法等の目的に使用されるベンゼオライトやトナイト等の多孔質無機粒子の単独又は該多孔質無機粒子を含む土壌の凝集を促進する機能、又は前記凝集を助ける機能を有し、且つ、管理及び取扱いが容易で、材料コストの上昇を抑えることができる凝集剤、並びに前記凝集剤を有する土壌固化剤を用いることにより土壌固化性能、放射線物質の拡散防止効果、放射性物質による汚染土壌の除染効果、及び不透水層形成能のそれぞれの特性を大幅に向上することができる土壌固化方法、放射線物質の拡散防止方法、汚染土壌の除染方法及び不透水層形成方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者は、ベンゼオライトやトナイト等の多孔質無機粒子の凝集を迅速に行うことができるだけでなく、土壌への環境負荷が小さく、且つ、取扱いが容易で材料コストの低減が可能な凝集剤として、前記無機粒子中の無機カチオンの全部又は一部が少なくともカチオン性高分子によってあらかじめ置換された無機粒子が、カチオン性高分子の使用量を低減することができるため、従来から知られているカチオン性高分子及び/又はアニオン性高分子からなる有機凝集剤に比べて、コスト及び土壌への環境負荷の点で優位にあるだけでなく、凝集速度及び凝集力の点においても従来の無機凝集剤及び有機凝集剤に比べて優れる特性を有することを見出して本発明に至った。
【0014】
すなわち、本発明の構成は以下の通りである。
[1]本発明は、多孔質構造を有し、陽イオン交換性能が認められる無機粒子無機カチオンの全部又は一部が少なくともカチオン性高分子によって置換された形態で、前記無機粒子に前記カチオン性高分子が含まれる凝集剤であって、前記カチオン性高分子によって置換されていない前記無機粒子を凝集する無機粒子凝集用凝集剤を提供する。
[2]本発明は、前記無機粒子が、焼成バーミキュライト、ゼオライト、モンモリナイト、及びベントナイトの少なくとも一種から選ばれる無機粒子であることを特徴とする前記[1]に記載の無機粒子凝集用凝集剤を提供する。
[3]本発明は、前記無機粒子が、ベントナイトであることを特徴とする前記[2]に記載の無機粒子凝集用凝集剤を提供する。
[4]本発明は、前記カチオン性高分子の含有量が、前記無機粒子の100質量部に対して30~45質量%であることを特徴とする前記[1]~[3]のいずれか一項に記載の無機粒子凝集用凝集剤を提供する。
[5]本発明は、前記[1]~[4]のいずれか一項に記載の無機粒子凝集用凝集剤を製造する方法であって、水溶液中に前記無機粒子を分散させる工程と、前記無機粒子が分散した水溶液に前記カチオン性高分子を添加し、又は添加しながら所定時間攪拌する工程と、前記攪拌工程後の前記水溶液を静置する工程と、前記静置する工程の後に生成する沈殿物を前記水溶液から分別して回収する工程と、を有することを特徴とする無機粒子凝集用凝集剤の製造方法を提供する。
[6]本発明は、前記無機粒子と前記カチオン性高分子との配合比率が、質量比において無機粒子:カチオン性高分子=1:3.0を超え9.6未満であることを特徴とする前記[5]に記載の無機粒子凝集用凝集剤の製造方法を提供する。
[7]本発明は、前記[1]~[4]のいずれか一項に記載の無機粒子凝集用凝集剤を製造する方法であって、水溶液中に前記無機粒子を分散させる工程と、前記無機粒子が分散した水溶液にあらかじめ電解質溶液を添加し、攪拌を行いながら、引き続き前記水溶液に前記カチオン性高分子を添加する工程、前記攪拌工程で生成する沈降物を前記水溶液から分別して回収する工程と、有することを特徴とする無機粒子凝集用凝集剤の製造方法。
[8]本発明は、前記電解質溶液として前記カチオン性高分子含む水溶液を使用するとともに、前記無機粒子と前記カチオン性高分子との配合比率が、質量比において無機粒子:カチオン性高分子=1:0.4を超え4未満であることを特徴とする前記[7]に記載の無機粒子凝集用凝集剤の製造方法を提供する。
[9]本発明は、前記[1]~[4]の何れか一項に記載の無機粒子凝集用凝集剤を有し、前記無機粒子と組合せて使用されることを特徴とする土壌固化剤を提供する。
[10]本発明は、前記[9]に記載の土壌固化剤を用いて、前記無機粒子と前記無機粒子凝集用凝集剤とを同時に土壌に混合することにより前記土壌の固化を行うことを特徴とする土壌固化方法を提供する。
[11]本発明は、前記[9]に記載の土壌固化剤を用いて、前記無機粒子をあらかじめ混合させた土壌に前記無機粒子凝集用凝集剤を混合させる方法、及び前記無機粒子凝集用凝集剤をあらかじめ混合した土壌に前記無機粒子を混合する方法、のどちらかの方法を行うことにより前記土壌の固化を行うことを特徴とする土壌固化方法を提供する。
[12]本発明は、前記[9]に記載の土壌固化剤を用いて、前記無機粒子と前記無機粒子凝集用凝集剤とを、放射性物質により汚染された土壌に同時に散布する工程により、前記土壌の少なくとも表層を固化させることを特徴とする放射性物質の拡散防止方法を提供する。
[13]本発明は、前記[9]に記載の土壌固化剤を用いて、前記無機粒子と前記無機粒子凝集用凝集剤とをこの順で放射性物質により汚染された土壌に散布することにより、前記放射性物質が前記無機粒子に取り込まれた後の前記無機粒子を含む土壌の少なくとも表面を前記無機粒子凝集用凝集剤で固化させることを特徴とする放射性物質の拡散防止方法を提供する。
[14]本発明は、前記[9に記載の土壌固化剤を用いて、前記無機粒子と前記無機粒子凝集用凝集剤とを、放射性物質により汚染された土壌に同時に散布する工程により前記土壌の少なくとも一部を固化させた後、前記土壌の表層を剥離除去する工程を有することを特徴とする放射性物質による汚染土壌の除染方法を提供する。
[15]本発明は、前記[9に記載の土壌固化剤を用いて、前記無機粒子と前記無機粒子凝集用凝集剤とをこの順で放射性物質により汚染された土壌に散布する工程により、前記放射性物質が前記無機粒子に取り込まれた後の前記無機粒子を含む土壌の少なくとも一部を前記無機粒子凝集用凝集剤で固化させた後、前記固化された土壌の表層を剥離除去する工程を有することを特徴とする放射性物質による汚染土壌の除染方法を提供する。
[16]本発明は、前記[9]に記載の土壌固化剤を用いて、前記無機粒子凝集用凝集剤及び前記無機粒子を、現地で発生する発生土と混合する混合土の製造工程と、前記混合土を不透水層の形成対象である地盤表面に敷設する工程、とを有することを特徴とする不透水層形成方法を提供する。
[17]本発明は、前記[9]に記載の土壌固化剤を用いて、前記無機粒子凝集用凝集剤と前記無機粒子とを有する土壌固化剤を2枚の不織布間に挟んでなる不透水シートを不透水形成対象とする地盤表面に敷設する工程と、前記不透水シートの少なくとも片側表面を覆土で覆う工程と、を有することを特徴とする不透水層形成方法を提供する。
[発明の効果]
【発明の効果】
【0015】
本発明の実施形態による無機粒子凝集用凝集剤は、無機カチオンの全部又は一部が置換されたカチオン性高分子を含むものの、本体が粘土材又は充填剤として使用される低コストの汎用無機粒子からなり、且つ、カチオン性高分子の含有量が少ないことから、材料コストの低減が可能である。また、従来のカチオン性高分子及び/又はアニオン性高分子からなる有機凝集剤に比べて、吸湿による影響をほとんど受けず、物性的にも安定していることから保管及び取扱い性に優れる。さらに、本発明の実施形態による無機粒子は、無機粒子同士を凝集させる機能を有するカチオン性高分子があらかじめ含まれているため、従来の無機凝集剤及び有機凝集剤に比べて凝集速度が速く、且つ、強い凝集力を発現することができる。
【0016】
以上のように優れた凝集機能を有する本発明の凝集剤を含む土壌固化剤は、土壌固化性能、放射線物質の拡散防止効果、放射性物質による汚染土壌の除染効果、及び不透水層形成能のそれぞれの特性を大幅に向上することができる。したがって、本発明の実施形態による土壌固化剤を、土壌固化方法、放射線物質の拡散防止方法、汚染土壌の除染方法及び不透水層形成方法に適用することにより、効率的な処理作業を短期間に低コストで行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の無機粒子凝集用凝集剤の一種であるベントナイトの構造を示す模式図である。
図2】本発明の無機粒子凝集用凝集剤による無機粒子の凝集について推定される凝集機構を模式的に示す図である。
図3】本発明の土壌固定化剤を使用した放射性物質の拡散防止方法の工程を示す図である。
図4】本発明の土壌固定化剤を使用した汚染土壌の除染方法の工程を示す図である。
図5】実施例1の複合体を製造するときのベントナイトに対するpDADMACの配合比と透過率(凝集沈殿能)の関係を示す図である。
図6】ベントナイトに対するpDADMACの配合比率が1:4.8で調製された複合体及び該複合体の製造時の原料として使用するベントナイト単体の加熱重量変化を示す図である。
図7】実施例2の複合体を製造するときのベントナイトに対するpDADMACの配合比と透過率(凝集沈殿能)の関係を示す図である。
図8】本発明の実施例3において、pDADMACとベントナイトの複合体のFT-IR測定結果を示す図である。
図9】本発明の実施例3において、pDADMACとベントナイトの複合体のX線測定結果を示す図である。
図10】本発明の実施例4において、無機粒子凝集用凝集体を添加した後の経過時間に伴って変化するベントナイト分散水溶液の透過率を示す図である。
図11】本発明の実施例5において、ろ過によって分別される残渣物(凝集による沈殿物)から検出された放射能の測定結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明による無機粒子凝集用凝集剤とその製造方法並びに前記凝集剤を有する土壌固化剤と該土壌固化剤を用いる土壌固化方法、放射性物質の拡散防止方法、汚染土壌の除染方法及び不透水層形成方法について以下に説明する。
【0019】
<無機粒子凝集用凝集剤>
本発明の無機粒子凝集用凝集剤の原料となる、多孔質構造を有し、且つ、陽イオン交換性能が認められる無機粒子についてベントナイトを例にして説明する。図1は、ベントナイトの構造を模式的に示す図であり、基本的な構造は、Haruo Sto、 Journal of MMIJ、Vol.125 P.1-12,2009から引用したものである。多孔質構造を有し、陽イオン交換性能が認められる無機粒子の一種として知られているベントナイトは、モンモリナイト系粘土鉱物であり、一般的にはモンモリナイトの理想的組成であるAl・4SiO・2HOに対して一部Na、K、Ca、Mg等の無機塩と見なし得る形態を有する。図1に示すように、構造的にはイオンの配列層が平行に積み重なったサンドイッチ構造をなしており、三層構造をなしている2枚のケイ酸塩層が平行に配列し、その間に層間位置ができ、この層間位置(図中に示す「interlayer position」)にアルカリ金属やアルカリ土金属等の無機イオン又は水分子の層が挟まれている。この層間位置を占めるイオンとケイ酸塩層との間の結合は他より弱いため、塩類溶液中に浸漬すると容易に常温で速やかに交換される。前記塩類溶液の代りに、例えば脂肪族アンモニウム塩基のような有機のカチオンが作用すると、塩基交換が行われていわゆる有機ベントナイトが生成される。この有機ベントナイトは、カチオン交換前の無機イオンを含むベントナイトと異なり、親水性がなく、むしろ有機液体によく膨潤する性質を有するようになる。
【0020】
本発明の無機粒子凝集用凝集剤は、図1に示すベントナイトに含まれるカチオン(図中に示す「Exchangerable cations」)として従来の低分子アンモニウム塩基に変え、カチオン性高分子塩基を導入したものである。その意味では、ベントナイトとカチオン性高分子との一種の包接化合物とも言える化合物である。ベントナイトの層間位置にカチオン性高分子塩基を導入することにより、低分子アンモニウム塩基に比べて、使用中にカチオンの流出を抑制できるため長期安定性が優れるだけでなく、分子が長鎖であるため無機粒子間の凝集させるときのイオン結合点が多くなり、無機粒子の凝集速度と凝集力の両者を向上させることができる。
【0021】
さらに、本発明の無機粒子凝集用凝集剤は、従来の有機ベントナイトと同じように、親水性が小さくなるため耐湿性に優れるという利点を有する。加えて、カチオン交換を行う前のベントナイト粘土と同じように微粉状で使用できるため、カチオン性高分子の単独系に比べて、保管及び取扱い性が格段に向上する。さらに、材料コストが安価なベントナイト粘土に、高価なカチオン性高分子が少量含まれる材料であることから、カチオン性高分子を単独で土壌に多量に使用する場合に比べて、材料コストの低減を図ることができる。
【0022】
本発明の無機粒子凝集用凝集剤は、ベントナイト中の無機カチオンの全部又は一部が少なくともカチオン性高分子によって置換されるものであるが、前記カチオン性高分子が前記凝集剤の表面に吸着又は付着していてもよい。ベントナイト中の無機カチオンがカチオン性高分子で置換されていることは、フーリエ変換赤外吸収スペクトル(FT-IR)及びX線回折によって解析することができる。FT-IR測定では、例えば、C-H変角振動及びC-H伸縮振動の有無からカチオン性高分子の存在を確認することができる。X線回折による解析においては、カチオン性高分子が前記層間位置に挿入し層間距離が拡大していることを、底面反射の低角側へのシフトを観測することによって確認することができる。
【0023】
土壌固化方法、放射性物質の拡散防止方法、汚染土壌の除染方法及び不透水層形成方法に使用する土壌固化剤の一成分としてカチオン性高分子を使用する場合、ベントナイト及びカチオン性高分子をそれぞれ別々に土壌に配合することにより、負に帯電するベントナイト同士をイオン結合させて凝集させる方法が一般的に行われる。しかしながら、カチオン性高分子だけではベントナイトの凝集が十分ではなく、所望の効果が得られにくいことから、前記特許文献1~5に開示されているように、通常は、カチオン性高分子と、アニオン性高分子、無機凝集剤、及びセメントの少なくともいずれかとの併用によってベントナイトの凝集能を高める方法が検討されている。
【0024】
本発明は、上記のような従来の方法とは異なり、ベントナイトとカチオン性高分子とからなる一種の包接化合物を、ベントナイトの凝集剤として使用することにより、ベントナイトとは別々にカチオン性高分子を土壌に散布する方法に比べて、ベントナイトの凝集力の向上が図れるだけでなく、凝集速度を速めることができるという相乗的な効果が得られることを見出してなされたものである。さらに、この相乗的な効果は、カチオン性高分子とアニオン性高分子とを含む有機の凝集剤やそれ以外の無機の凝集剤と比べても、同等以上で得られることが分かり、土壌固化、放射性物質の拡散防止、汚染土壌の除染及び不透水層形成の各処理を、効率的に、且つ、低コストで行うことができる。
【0025】
前記多孔質構造を有し、陽イオン交換性能が認められる多孔質無機粒子としては、上記のベントナイトの他にも、例えば、焼成バーミキュライト、ゼオライト及びモンモリナイトが挙げられる。本発明においては、これらベントナイト、焼成バーミキュライト、ゼオライト及びモンモリナイトの少なくとも一種から選ばれる無機粒子を使用することができる。これらの無機粒子の中では、土壌に含まれる重金属、有害有機物又はセシウム等の放射性物質の吸着及び捕集の能力が高く、材料コストが安価で、且つ、使用実績があることからベントナイトを使用することが好ましい。
【0026】
本発明で使用するカチオン性高分子としては、例えば、カチオン化セルロース、カチオン化でんぷん、アミノ基を有する高分子若しくは4級アンモニウム塩の高分子から選択される少なくとも1種が使用できる。これらのカチオン性高分子は、1種又は2種以上を使用することができる。
【0027】
なお、イオン性高分子として、上記のカチオン性高分子とは異なるアニオン高分子を使用が考えられるが、陽イオン交換性能が認められる無機粒子の骨格が負帯電を有する傾向にあるため、前記無粒子とアニオン高分子との電荷の反発によりイオン交換が進まなくなる。それだけでなく、前記無粒子の凝集効果も小さくなる傾向になるため、本発明においてはアニオン高分子を使用することが難しい。
【0028】
本発明による無機粒子凝集用凝集剤が、カチオン性高分子の単独のものに比べて、無機粒子の凝集速度を速くし、且つ、強い凝集力が得られる理由及びその機構は、現在検討中であり詳細に分かっていないが、現時点で推定される凝集機構をカチオン性高分子の単独系の場合と対比して以下に説明する。
【0029】
本発明の無機粒子凝集用凝集剤による無機粒子の凝集について推定される凝集機構を、カチオン性高分子の単独系と対比して模式的に図2に示す。図2の(a)は、本発明の無機粒子凝集用凝集剤1を土壌中に散布して行う無機粒子2の凝集挙動を模式的に示す図である。図2に(a)に示す無機粒子凝集用凝集剤1は、あらかじめ陽イオンの交換によりカチオン性高分子3が包接されており、カチオン性高分子3の末端が無機粒子凝集用凝集剤1の内部から表面に飛び出するもの3aと、カチオン性高分子3が無機粒子凝集用凝集剤1の表面に吸着しているもの3bの混在している例である。しかしながら、本発明の無機粒子凝集用凝集剤1は、図2に示す例に限定されない。例えば、無機粒子凝集用凝集剤1として、カチオン性高分子3が無機粒子凝集用凝集剤1に内部に包接されるだけで、その表面にカチオン性高分子3が吸着されない場合も含まれる。他方、図2の(b)は、カチオン高分子3の単独系を土壌中に散布して行う無機粒子2の凝集挙動を模式的に示す図である。
【0030】
図2の(a)に示すように、無機粒子凝集用凝集剤1の表面には無機粒子2とイオン結合することができるイオン結合点が多く存在するため、無機粒子凝集用凝集剤1がカチオンに帯電する凝集剤として機能するものと見なしてもよく、その無機粒子凝集用凝集剤1の周辺に存在する多くの無機粒子2とイオン結合しやすくなる。それにより、無機粒子凝集用凝集剤1を核にして無機粒子2の凝集を迅速に行うことができる。さらに、イオン結合力が増すため、無機粒子2の凝集力も高くなるものと考えられる。
【0031】
それに対して、図2の(b)に示すように、カチオン性高分子3の単独系を土壌中に散布して無機粒子2の凝集を行う場合は、近接する無機粒子2の間に存在するカチオン性高分子3が無い場合、又は量が少ない場合は無機粒子2の会合が進まないだけでなく、無機粒子2の間のイオン結合力も図2の(a)に示す場合に比べて小さくなる。加えて、会合する無機粒子2の数が少なくなることから凝集粒子のサイズが小さくなる。結果的に、無機粒子2の凝集に伴って生まれる土壌の凝集力も小さな値しか得られなくなる。
【0032】
図2の(a)に示す凝集挙動から容易に理解されるように、無機粒子3の凝集速度及び凝集力は、無機粒子凝集用凝集剤1に包接、及びその表面に吸着されるカチオン性高分子3の量によって大きな影響を受ける。無機粒子凝集用凝集剤1に含まれるカチオン性高分子3の量が少なくなると、凝集速度及び凝集力の低下がみられる。逆に、無機粒子凝集用凝集剤1に含まれるカチオン性高分子3の量が多い場合、無機粒子凝集用凝集剤1の表面に吸着されるカチオン性高分子3の量が多くなり、カチオン性高分子3による被覆層が形成されるようになる。その場合、カチオン性高分子同士の荷電反発により、無機粒子凝集用凝集剤1に含まれるカチオン性高分子3の量が制限を受ける。また、無機粒子凝集用凝集剤1の表面の正の帯電量が増え、わずかに負に帯電している無機粒子3とのイオン等電量からのずれが大きくなるため、無機粒子3の凝集速度及び凝集力の低下がみられるようになる。
【0033】
以上のように、無機粒子凝集用凝集剤1は、含まれるカチオン性高分子3の量を最適化することが好ましい。そこで、本発明の無機粒子凝集用凝集剤1は、カチオン性高分子3の含有量が前記無機粒子凝集用凝集剤の100質量部に対して30~45質量%であることが好ましく、より好ましくは30~40質量%である。本発明においては、無機粒子の凝集能を十分に確保するため、少なくともカチオン性高分子3の含有量としては30質量%以上が好ましい。他方、カチオン性高分子3の含有量の上限値としては、高価で、吸湿性の高いカチオン性高分子の添加量を少なくするため、無機粒子の凝集能を十分に確保できる範囲にすることから45質量%以下が好ましく、40質量%以下がより好ましい、含有量が45質量%以下であれば、高価で吸湿性の高いカチオン性高分子の添加量を少なくできるため、製造コストの低減及び凝集剤の取扱い性の向上を図りつつ、優れた無機粒子の凝集能を実現することができる。さらに、カチオン性高分子の含有量が40質量%以下であれば、これらの効果を十分に達成することができる。
【0034】
ここで、無機粒子凝集用凝集剤1に含まれるカチオン性高分子3の含有量は、例えば、熱重量測定装置(TGA)によって無機粒子凝集用凝集剤1及び無機粒子2単独の加熱重量変化をそれぞれ測定し、両者の加熱減量の差から求めることができる。無機粒子凝集用凝集剤1に含まれるカチオン性高分子3の含有量の範囲については、後述の実施例によって技術的な臨界的意義を説明する。
【0035】
本発明の無機粒子凝集用凝集剤を土壌に散布する場合は、効率的で、且つ、均一な散布を行うため、通常、前記無機粒子凝集用凝集剤を含む懸濁液(以下、凝集剤懸濁液という)の形態で行うのが実用的である。本発明の無機粒子凝集用凝集剤の配合量は、前記凝集剤懸濁液の粘度、前記凝集剤懸濁液中での無機粒子の分散性、及び土壌への浸透性の点から、前記凝集剤懸濁液の総量に対して0.1~20質量%が好ましく、さらに0.5~15質量%がより好ましい。本発明においては、農薬散布の場合と同じように、凝集剤懸濁液に代えて、微粉状粉末の状態で手播き若しくは機械播き、又は空中から散布する方法を採用してもよい。
【0036】
<無機粒子凝集用凝集剤の製造方法>
本発明の無機粒子凝集用凝集剤の製造方法について説明する。本発明の無機粒子凝集用凝集剤は、水溶液中で攪拌分散及び静置によるイオン交換法によって製造することが実用的である。この方法は、陽イオン交換性能が認められる多孔質無機粒子として、ベントナイト、焼成バーミキュライト、ゼオライト及びモンモリナイトの少なくともいずれかの無機粒子を蒸留水等の水溶液中に分散させる工程と、前記無機粒子が分散した水溶液にカチオン性高分子を静かに添加し、又は添加しながら所定時間攪拌する工程と、前記攪拌工程後の前記水溶液を静置する工程と、前記静置する工程の後に生成する沈殿物を前記水溶液から分別して回収する工程とを有する。これらの工程を経て、前記無機粒子の層間位置で無機カチオンとカチオン性高分子とのイオン交換が行われる。本発明の無機粒子凝集用凝集剤は、イオン交換が進行するに伴い、前記無機粒子が親水性から疎水性に変化するため水溶液中で沈殿物として得ることができる。
【0037】
上記カチオン性高分子を静かに添加し、又は添加しながら攪拌する工程は、1時間以上の攪拌を行うことが実用的であり、好ましくは3時間以上、より好ましくは6時間以上である。攪拌時間の上限値は特に決める必要は無いが、攪拌時間が24時間を超えても製造される無機粒子凝集用凝集剤の性状及び物性には大きな違いがないことから24時間以下にするのが実用的である。前記攪拌工程後の水溶液を静置する工程は、室温で行うのが実用的であるが、生成する沈殿物の沈殿を速めるため室温~4℃の温度で冷却した状態で静置してもよい。
【0038】
上述したように、本発明の無機粒子凝集用凝集剤は、前記無機粒子の凝集速度及び凝集力の点から、前記カチオン性高分子の含有量が前記無機粒子凝集用凝集剤の100質量部に対して30~45質量%であることが好ましく、より好ましくは30~40質量%である。本発明の無機粒子凝集用凝集剤を上記攪拌法で製造するときは、前記無機粒子中に前記カチオン性高分子をそのような配合量で含有させるため、前記無機粒子と前記カチオン性高分子との配合比率を、質量比において1:3.0を超え9.6未満になるように前記カチオン高分子を添加する必要がある。さらに、前記の比率を、1:3.0を超え6.0未満とすることにより無機粒子の凝集効果をより高めることができる。これらの配合比率は、前記無機粒子に含まれる前記カチオン性高分子の含有量の好ましい範囲として規定される前記30~45質量%及び30~40質量%をそれぞれ実現するために必要な範囲に対応する。
【0039】
前記無機粒子と前記カチオン性高分子との配合比率が、前記無機粒子1に対して前記カチオン性高分子が9.6以上であると、前記カチオン性高分子同士が塊又は沈殿物となって前記無機粒子凝集用凝集剤の表面に付着又は吸着することが顕著になる。前記カチオン性高分子は単独でも無機粒子の凝集剤としての機能を有するが、本発明の無機粒子凝集用凝集剤に比べると凝集能が劣るため、前記カチオン性高分子の配合比率が大きくなりすぎると、凝集能の向上がみられず、逆に、凝集能の低下がみられるようになる。この凝集能の低下は、前記無機粒子の質量比を1とするとき、前記カチオン性高分子の質量比が5.6を超える範囲から有意差としてみられる。さらに、カチオン性高分子の配合比率が9.6以上の場合には、前記無機粒子凝集用凝集剤とカチオン性高分子とを混合した混合物と同じ挙動を示すようになる。したがって、優れた凝集能を保持しつつ、高価なカチオン性高分子の添加量の少なくするという目的を達成するためには、前記無機粒子と前記カチオン性高分子との配合比率が1:3を超え6未満の範囲になるように調整することがより好ましい。本発明の無機粒子凝集用凝集剤を上記攪拌法で製造するときの前記無機粒子と前記カチオン性高分子との配合比率の好適な範囲については、後述の実施例によって詳細に説明する。
【0040】
本発明の無機粒子凝集用凝集剤は、上記の方法以外にも、例えば、フロキュエーション法によって製造してもよい。フロキュエーション法とは、水溶液中で一次粒子に分散された前記陽イオン交換性能が認められる多孔質無機粒子を静かに沈降させ、緩い結合で再凝集した状態(フロック)を造り出す方法である。前記無機粒子が緩い結合で再凝集した状態(フロック)は、前記無機粒子が分散した水溶液中に電解質を添加して形成することできる。
【0041】
フロキュエーション法は、電解質の添加により、無機粒子の緩い会合体であるフロック状態を任意に造り出すことができる。このフロック状態は、カチオン性高分子の挿入を容易にするため、効率的で迅速なカチオン交換反応を行う上で有効な形態である。そのため、上記の攪拌分散及び静置による方法に比べて、前記カチオン性高分子の分子量や構造の違いによる影響(材料に対する特異性)を小さくできる。したがって、前記カチオン性高分子として使用できる材料の選択幅を広げることができるという利点を有する。
【0042】
上記電解質としては、例えば、無機塩やイオン性の低分子又は高分子等を使用することができるが、本発明においては前記カチオン性高分子を使用することが好ましい。前記カチオン性高分子を使用する場合は、電解質として機能するカチオン性高分子によって前記無機粒子が緩い結合で再凝集し始め、その状態で分散している前記水溶液中に、引き続き、軽く攪拌しながら前記カチオン性高分子を添加することにより、前記無機粒子の緩い結合内でイオン交換が行われるため、前記無機粒子と前記カチオン性高分子とからなる複合体の沈降がおきる。その沈降物を前記水溶液から分別し、回収して得られる複合体を、本発明の無機粒子凝集用凝集剤として使用することができる。このフロキュエーション法は、無機塩や異なるイオン性の低分子又は高分子を使用する必要がないため、反応系を単純化できるとともに、無機粒子凝集用凝集剤に不純物や別の成分の混入を防止することができる。
【0043】
本発明の無機粒子凝集用凝集剤をフロキュエーション法で製造するときは、前記無機粒子と前記カチオン性高分子との配合比率が、質量比において1:0.4を超え4未満となるように前記カチオン高分子を添加することが好ましく、無機粒子の凝集能をさらに向上させるためには配合比率として1:0.8~3.2がより好ましい。この配合比率の範囲において、前記カチオン性高分子の含有量を、前記無機粒子凝集用凝集剤の100質量部に対して30~45質量%の範囲に、より好ましくは30~40質量%の範囲になるように調製することができる。このように、フロキュエーション法は、上記攪拌法に比べて、前記カチオン性高分子の配合比率を小さくできるという利点を有する。本発明の無機粒子凝集用凝集剤をフロキュエーション法で製造するときの前記無機粒子と前記カチオン性高分子との配合比率の好適な範囲については、後述の実施例によって詳細に説明する。
【0044】
<土壌固化剤及び土壌固化方法>
本発明の無機粒子凝集用凝集剤は、従来の無機凝集剤や無機凝集剤と同じように、前記無機粒子を含む土壌固化剤の凝集剤として使用することができる。
【0045】
本発明の無機粒子凝集用凝集剤を土壌固定化剤として使用するときは、前記無機粒子凝集用凝集剤を前記無機粒子とあらかじめ混合した状態で散布する方法、又は前記無機粒子を土壌に散布した後、その土壌に前記無機粒子凝集用凝集剤を散布する方法、若しくはその逆の順序で散布する方法、のどちらの方法でも行うことができる。これらの場合、土壌表面に散布される前記無機粒子が、無機粒子のリッチな層を形成するため、その層を凝集させることができる。また、散布後の前記無機粒子を土壌中で所定時間放置した後では両者の部分的な混合がみられるが、その場合でも本発明の無機粒子凝集用凝集剤を用いて、前記無機粒子を該無機粒子と混合した土壌とともに凝集させることができる。本発明の無機粒子凝集用凝集剤は、土壌に含まれる前記無機粒子の量を多くすることにより、前記無機粒子が土壌と混合した状態でも優れた凝集速度と凝集力が得られる。
【0046】
また、前記土壌固化剤としては、本発明の無機粒子凝集用凝集剤を、従来の有機凝集剤及び/又は無機充填剤と併用してもよい。例えば、土壌に含まれる前記無機粒子の量が少ない場合、土壌の固化は従来の有機凝集剤及び/又は無機充填剤で行い、他方、本発明の無機粒子凝集用凝集剤を、土壌から脱落しやすい前記無機粒子の凝集を行う目的で、土壌の凝集を助けるための凝集促進剤又は凝集力を向上させるための凝集補強材として使用することができる。
【0047】
ここで使用する前記無機粒子とは、ベントナイト、焼成バーミキュライト、ゼオライト及びモンモリナイトの少なくともいずれかからなる陽イオン交換性能が認められる多孔質無機粒子であり、カチオン性高分子とのイオン交換が行われる前の無機粒子である。
【0048】
前記無機粒子として、ベントナイト、焼成バーミキュライト、ゼオライト及びモンモリナイトとは異なる他の無機粒子を併用してもよい。前記他の無機粒子としては、放射性物質又は重金属等を吸着及び補足できる機能を有するものであり、例えば、雲母、スメクタイト等が挙げられる。前記他の無機粒子は、多くがやや負に帯電しているため、ベントナイト、焼成バーミキュライト、ゼオライト及びモンモリナイトの少なくともいずれかの無機粒子とともに、本発明の無機粒子凝集用充填剤によって同時に凝集させることができる。その場合、併用する他の無機粒子は、ベントナイト、焼成バーミキュライト、ゼオライト及びモンモリナイトの少なくともいずれかからなる無機粒子とあらかじめ混合してから散布しても良いし、それぞれ別々に分けて散布してもよい。
【0049】
例えば、ベントナイト、焼成バーミキュライト、ゼオライト及びモンモリナイトの少なくともいずれかからなる無機粒子と、前記他の無機粒子とを混合した材料をあらかじめ散布した土壌を所定期間放置した後、その土壌に本発明の無機粒子凝集用凝集剤を散布する。また、ベントナイト、焼成バーミキュライト、ゼオライト及びモンモリナイトの少なくともいずれかからなる無機粒子をあらかじめ土壌に散布し、所定期間放置した後、その土壌に、本発明の無機粒子凝集用凝集剤と前記他の無機粒子とを混合したものを散布してもよい。逆に、前記他の無機粒子をあらかじめ散布した土壌を所定期間放置した後、その土壌に、本発明の無機粒子凝集用凝集剤と、ベントナイト、焼成バーミキュライト、ゼオライト及びモンモリナイトの少なくともいずれかからなる無機粒子とを混合したものを散布してもよい。これらの散布方法は、ベントナイト、焼成バーミキュライト、ゼオライト及びモンモリナイトの少なくともいずれかからなる無機粒子、又はそれら無機粒子と前記他の無機粒子との併用系に放射性物質等の有害物質を吸着及び補足させるために十分な時間を確保できることから、後述の放射性物質の拡散防止方法及び汚染土壌の除染方法において好適に行われる。
【0050】
また、本発明の無機粒子凝集用凝集剤を、ベントナイト、焼成バーミキュライト、ゼオライト及びモンモリナイトの少なくともいずれかからなる無機粒子及び/又は前記他の無機粒子とあらかじめ混合したものを土壌に散布する場合は、これら無機粒子にあらかじめ本発明の無機粒子凝集用凝集剤が含まれるため、凝集速度を速めることができる。したがって、この散布方法は、後述の土壌固化剤及び不透水層形成方法において好適に適用することができる。
【0051】
ベントナイト、焼成バーミキュライト、ゼオライト及びモンモリナイトの少なくともいずれかからなる無機粒子、及び前記他の無機粒子の平均粒径としては0.01~20μmの範囲にあるものが使用できるが、好ましくは1~2μmである。また、これらの無機粒子の最大粒径は100μm以下、好ましくは50μm以下である。平均粒径が0.01μm未満であると、無機粒子の凝集が起こりやすく、散布するときの材料の調整や塗布等におけて取扱い性及び作業性の低下が顕著になる。また、20μmを超えると、前記の連続層中に大きな径を有する無機粒子が混在するようになるため、凝集後に形成される土壌連続層の機械強度が大きく低下するため、土壌連続層の剥離が困難になる。さらに、前記の構造物の表面に存在する細かな溝や段差に付着する放射性物質の除染が確実にできなくなり、除染残りが発生しやすい。同じ理由から、これらの無機粒子の最大粒径は、100μm以下、好ましくは50μm以下であることが好ましい。
【0052】
ベントナイト、焼成バーミキュライト、ゼオライト及びモンモリナイトの少なくともいずれかからなる無機粒子、又はそれら無機粒子と前記他の無機粒子との併用系を土壌に散布する場合は、散布作業を簡便に、且つ均一で広範囲に行うため、通常、これらの無機粒子を含む懸濁液(以下、無機粒子懸濁液という。)の形態で行うのが実用的である。また、本発明の無機粒子凝集用凝集剤をこれらの無機粒子とあらかじめ混合して使用する場合においても、前記無機粒子懸濁液の形態で使用することが好適である。前記無機粒子懸濁液は、形態が水溶液であり、焼成バーミキュライト、ゼオライト及びモンモリナイトの少なくともいずれかからなる無機粒子、又はそれら無機粒子と前記他の無機粒子との併用系以外の他の成分は水であるが、水を主成分とする水系媒体を使用しても良い。水系媒体は、水が80質量%以上、好ましくは90質量%以上、さらに好ましくは95質量%以上を占める媒体である。水以外には、例えば、水溶性のメチルアルコール、エチルアルコール、2プロパノール等のアルコール類、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン等のエーテル類又はアセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類の溶媒を少量配合して使用してもよい。
【0053】
本発明の無機粒子凝集用凝集剤及び/又はこれらの無機粒子の配合量は、前記懸濁液の粘度、前記懸濁液中の無機粒子の分散性、及び土壌への浸透性の点から、前記無機粒子懸濁液の総量に対して1~20質量%が好ましく、さらに5~15質量%がより好ましい。ただし、懸濁液を用いて散布する方法を適用することが困難な地域では、前記無機粒子、前記他の無機粒子、及び本発明の無機粒子凝集用凝集剤の少なくともいずれかは、微粉状粉末の状態で手播き若しくは機械播き、又は空中から土壌に散布する方法を採用してもよい。
【0054】
本発明の無機粒子凝集用凝集剤は、焼成バーミキュライト、ゼオライト及びモンモリナイトの少なくともいずれかからなる無機粒子、又は該無機粒子と前記他の無機粒子との併用系の全量に対して、凝集性及び環境への影響の点から0.05~20質量%、好ましくは0.1~15質量%で使用することが好ましい。この範囲であれば、前記無機粒子の凝集速度及び凝集力において十分な効果を得ることができる。本発明の無機粒子凝集用凝集剤の配合量が0.05質量%未満であると前記無機粒子の凝集速度が遅く、さらに弱い凝集力しか得られない。また、前記無機粒子凝集用凝集剤の配合量が20質量%を超える場合は前記無機粒子の凝集効果が飽和する傾向にある。本発明の無機粒子凝集用凝集剤は、20質量%に近い配合量で使用する場合でも、その中に含まれるカチオン性高分子の量が質量的に少ない。そのため、土壌に残存するカチオン性高分子の量を少なくでき、環境への負荷を低減することが可能である。
【0055】
本発明の土壌固化剤及び土壌固化方法は様々な用途に適用できる。そこで、具体的な適用例として、放射性物質の拡散防止方法と汚染土壌の除染方法及び不透水層形成法について以下に説明する。
【0056】
[放射性物質の拡散防止方法]
本発明の土壌固化剤を、前記で述べたように凝集液の形態で放射性物質の拡散防止方法に適用するときは、本発明の無機粒子凝集剤が含まれる前記凝集剤懸濁液、又は前記無機粒子が含まれる無機粒子懸濁液の4~30℃における粘度を0.1~100mPa・sの範囲に調整することが好ましい。
【0057】
土壌固定の施工作業は通年において4~30℃の外部環境で行われるものであり、この粘度範囲は塗布や含浸による施工性、及び乾燥後に形成される固定土壌の連続層の厚さから決められる。また、セシウム等の放射性物質は土壌表面から深さ方向に数センチ以内に局在しており、本発明の土壌固定剤で固定する汚染土壌からなる連続層は数センチ以内の厚さまで形成できれば、放射性物質の汚染拡大防止機能を十分に果たすことができる。本発明においては、土壌固化剤の粘度が0.1mPa・s以上であれば、土壌固定剤の塗布性と浸透性を確保しながら、乾燥後に形成される固定土壌の連続層を厚く形成することができ、放射性物質の汚染拡大に対して大きな抑制効果を奏することができる。さらに、汚染土壌は強固に固定された連続層として形成されるため、破断や亀裂の発生を防止し放射性物質の外部への拡散を防止することができる。また、粘度が100mPa・s以下であれば、土壌固定剤の操作性や施工性の顕著な低下を防ぐとともに、土壌への浸透性を維持できることから、結果的に土壌固定剤で固定された汚染土壌からなる連続層を厚く形成し、多くの放射性物質を厚い汚染土壌中に閉じ込めておくことができる。それによって、効率的な汚染拡大防止を図ることができる。
【0058】
本発明の放射性物質の拡散防止方法は、放射性セシウムにより汚染された土壌に、前記無機粒子(又は前記無機粒子からなる粘土微粒子)を含む無機粒子懸濁液と、本発明の無機粒子凝集用凝集剤又は該無機粒子凝集用凝集剤を含む前記凝集剤懸濁液と、をこの順に散布することによって、放射性セシウムを前記無機粒子中に十分に取り込んだ後、当該放射性セシウムを取り込んだ前記無機粒子(又は前記無機粒子からなる粘土微粒子)を含む土壌を固化させることが好ましい。それによって、放射性物質の拡散防止の効果を高めることができる。前記無機粒子(又は前記無機粒子からなる粘土微粒子)は、放射性物質を選択的に吸着して、土壌固定の処理中及び処理後に起きやすい放射性物質の外部への漏れや飛散を抑制するために有効な成分である。
【0059】
本発明では、前記無機粒子の中で、放射性物質吸着剤としての実績、取扱い性及び低コスト等の点からベントナイト及びゼオライトが好適である。その中で、ベントナイトは、土壌固定化剤が乾燥するときに、乾燥時に周辺の水分を吸収する効果、所謂サンクション効果が他の無機粒子よりも優れるため、放射性物質を外部へ逃さないということから特に有用である。ベントナイトは、ベントナイト鉱山で採掘した状態のものから粗粒分を除き、最大粒径を100μm以下、好ましくは50μm以下に調整したものをそのまま使用できるため、安価に入手できる。
【0060】
本発明で使用する無機粒子(又は前記無機粒子からなる粘土微粒子)を有する懸濁液において、前記無機粒子(又は前記無機粒子からなる粘土微粒子)の含有量は、上述したように、前記無機粒子懸濁液を100質量部としたときに、0.05~20質量%が好ましく、0.1~15質量%がより好ましく、さらに0.5~10質量%が特に好ましい。前記粘土微粒子の含有量が0.05質量%以上で放射性物質の吸着効果が十分に得られ、放射性物質の捕捉能力により除染処理中及び長期保管中に放射性物質の外部への漏れや飛散を避けることができる。また、前記粘土微粒子の含有量が20質量%以下のとき、放射性物質の吸着効果が十分に得られるだけでなく、前記懸濁液そのものの粘度の急激な上昇を抑制できるため、吹き付けや流し込み時の作業性や施工性の大幅な低下を防ぐことができる。前記無機粒子(又は粘土微粒子)は無機質であるために、その含有量が多くなるほど前記懸濁液中での偏析が発生しやすくなり、取扱い性が劣るだけでなく、土壌固定層の離散、破断又は亀裂の発生要因となる場合があるため、前記の上限値を設定することが好ましい。上記で述べたように、本発明においては無機粒子としてベントナイトが好適であるが、ベントナイトは増粘剤や止水材として使用される場合が多い。そのため、ベントナイトを本発明の土壌固定剤とともに使用する場合、その含有量が多くなると、粘度の急激な上昇がみられ塗布作業性が大幅に低下するため、前記懸濁液中のベントナイトの含有量は好ましくは15質量%以下であり、より好ましくは10質量%以下である。一方で、ベントナイトによる放射性物質の吸着を確実に行うため下限値は好ましくは0.1質量%であり、より好ましくは0.5質量%以上である。
【0061】
次に、本発明の土壌固化剤を使用した放射性物質の拡散防止方法の工程を、図3を参照しながら説明する。
【0062】
(S1)土壌固化剤の調整:
上記で説明したような配合比率に基づいて、本発明の無機粒子凝集用凝集剤を含む水溶液を調整する。必要に応じて、焼成バーミキュライト、ゼオライト及びモンモリナイトの少なくともいずれかからなる無機粒子、又は該無機粒子と前記他の無機粒子との併用系の所定量を、本発明の無機粒子凝集用凝集剤を含む水溶液中に同時に配合してもよい。また、塗布又は散布を容易に、且つ確実に行うために、土壌固化剤の水溶液の粘度の調整も行う。また、本発明の無機粒子凝集用凝集剤の他にも、必要に応じて、公知の有機凝集剤、無機凝集剤、高分子接着剤、可塑剤、分散剤、界面活性剤、増粘剤、粘度調整剤、防腐剤、着色剤、又は防臭剤等を配合することができる。
【0063】
(S2)土壌固化剤の汚染土壌への散布又は塗布:
上記(S1)で調整した土壌固化剤は、放射性物質が付着した土壌へ室温(通年で4~30℃の範囲)で散布又は塗布される。散布又は塗布は、汚染土壌の場所や設置形態に応じて、吹き付け法、流し込み法又は刷毛塗り法等によって行われるが、広範囲の除染を行う場合にはスプレー等による吹き付け法が一般的に使用され、空中からの散布を行ってもよい。また、散布又は塗布において、本発明の土壌固化剤をあらかじめ加温して粘度調整することができる。さらに、散布又は塗布のときに、加温できる塗布装置又はスプレー装置を用いても良い。
【0064】
(S3)乾燥:
上記(S2)の工程の後、本発明の土壌固化剤を乾燥して水又は水系媒体を揮散させる。乾燥は、外気温度で所定時間(通常は1時間~1週間)行われるが、必要に応じて、塗布又は散布場所に熱風を加えて乾燥を速める方法を採用しても良い。本発明の無機粒子凝集用凝集剤は凝集速度が速いため、通常、1日以内の乾燥時間で所望の凝集力を得ることができる。
【0065】
(S4)土壌固化剤で固定された無機粒子又は汚染土壌からなる連続層の形成:
本発明の土壌固化溶液を乾燥後、本発明の無機粒子凝集用凝集剤によって固定された前記無機粒子、若しくは該無機粒子と前記他の無機粒子との併用系からなる連続層、又はそれらの無機粒子が含まれる汚染土壌からなる連続層が、土壌表面及びその近くに形成される。前記連続層の厚さは、無機粒子だけからなる層の場合は0.1mm~10mm位の範囲であり、無機粒子を含む土壌の場合は数mm~100mm位の範囲であり、通常は数十mmで形成される。
【0066】
(S5)粘土微粒子を有する懸濁液の汚染土壌への散布又は塗布:
前記無機粒子、若しくは該無機粒子と前記他の無機粒子との併用系からなる粘土微粒子を有する懸濁液の散布又は塗布する本工程は、図3に示すように上記(S2)の工程の前に行うのが最も効果的である。前記粘土微粒子による放射性物質の選択的な吸着及び捕捉を促進させるため、前記粘土微粒子を、放射性物質を含む土壌とできるだけ直に接触させる必要があるためである。本工程の後、前記粘土微粒子を含む土壌が完全に乾燥する前に上記(S2)~(S4)の工程を経ることによって前記粘土微粒子を含む土壌が確実に固化されるため、放射性物質の外部への漏れや飛散を抑制することができる。このとき、必要であれば、本工程の後、長期間放置や熱風等を利用した乾燥工程を導入して土壌をほぼ完全に乾燥させた後、上記(S2)の工程において土壌固化剤の散布又は塗布を行っても良い。本工程において散布又は塗布は、上記(S2)の工程の場合と同じように、汚染土壌の場所や設置形態に応じて、吹き付け法、流し込み法又は刷毛塗り法等によって行われる。
【0067】
本発明の無機粒子凝集用凝集剤は、単独でも放射性物質の選択的な吸着及び捕捉を行うことができるが、後述の実施例5で説明するように単独では凝集効果がほとんど得られない。そのため、前記S1の工程において、本発明の無機粒子凝集用凝集剤だけを含む水溶液を調整して散布する場合は、S5の工程を行うことが必須の条件となる。本発明の汚染拡大防止方法においては、前記無機粒子の凝集性を確保するだけでなく、放射性セシウム等の放射性物質を補足して取り込む効果が高めるため、本発明の土壌固化剤とともに、前記無機粒子を有する懸濁液を使用することが好ましい。
【0068】
以上のようにして、本発明による放射性物質の拡散防止方法は、セシウム等の放射性物質を固定化した土壌の連続層中に閉じ込めることができる。本発明による放射性物質の拡散防止方法は、住宅地や田畑等の平地土壌だけでなく、除染が困難な山林や雑木林等にも適用することができる。山林等に適用した場合、汚染された土壌や落ち葉等を除去しないで、セシウム等の放射性物質の飛散又は拡散を防止した状態で放置することが可能となる。そのため、セシウム等の放射性物質による人体への悪影響が無くなるまで長期間放置することができ、汚染された土壌、落ち葉又は木々の除去や撤去を行う必要がなくなる。さらに、植物の生育をほとんど阻害しないため、環境に対する負荷を非常に小さくできるという効果も得られる。このように、本発明による放射性物質の拡散防止方法は、放射性物質の有効な除染方法の一つとみなすことができる。
【0069】
[土壌固化剤による汚染土壌の除染方法]
本発明の土壌固化剤を使用した汚染土壌の除染方法の工程を、図4を参照しながら説明する。図4に示すように、本発明による汚染土壌の除染方法は、図3に示す(S1)~(S5)の工程と同じ工程を経て、無機粒子(又は粘土微粒子)及び汚染土壌からなる連続層の形成を行う。その後、以下の(S6)~(S9)の工程を追加して、無機粒子及び汚染土壌からなる連続層を剥離又は除去して除染を行う。図4に示す(S6)~(S6)の工程においては、汚染土壌をできるだけ剥離及び除去を行う必要があるため、無機粒子からなる連続層だけでなく、所定時間放置した後、その連続層の下部に形成される汚染土壌からなる連続層も合わせて剥離及び除去を行う。その場合、両者の連続層に間に存在する無機粒子と汚染土壌とが混合した層も剥離及び除去を行う。剥離及び除去を行う連続層の厚さとしては、剥離及び除去を無機粒子だけからなる層より厚くして行う必要があることから、数mm~100mm位の範囲で実用的であるが、必要に応じて、その厚さが10mmを超えてもよい。
【0070】
ここで、本発明の土壌固化剤を放射性物質の汚染土壌の除染方法として適用するときは、前記の汚染拡大防止方法と同じように、本発明の無機粒子凝集剤が含まれる前記凝集剤懸濁液、又は前記無機粒子が含まれる無機粒子懸濁液の4~30℃における粘度を0.1~100mPa・sの範囲に調整することが好ましい。
【0071】
(S6)土壌固化剤で固定された無機粒子及び汚染土壌からなる連続層の剥離、除去:
本発明の土壌固化剤で固定された汚染土壌からなる連続層は、手動で又は剥離装置を用いて剥離する。前記連続層は通常、薄膜で形成されるため容易に剥離することができる。剥離装置は、前記の連続層の片面を固定した後、この固定面又は固定点を起点にしてゆっくりと移動させながら剥離操作を行うものを用いても良い。本発明においては、前記剥離層が剥離に十分に耐えうるような強度と適度の弾性を有するため、操作性と作業性に優れる。また、必要に応じて、前記連続層の剥離部分に熱風又は寒風を当てながら剥離を行っても良い。熱風は、水又は水系媒体の揮散のため又は前記連続層に柔軟性を持たせるために使用する。寒風は、逆に、前記の連続層をやや固くして、剥離時の強度を上げるときに使用する。
【0072】
(S7)土壌固化剤で固定された無機粒子及び汚染土壌からなる連続層の保管・保存:
上記の(S6)の工程で剥離、除去した後、土壌固化剤で固定された無機粒子及び汚染土壌からなる連続層はセシウム等の放射性物質を含むため、放射性物質が外部へ飛散又は漏洩しないような処置が施された場所に集めて保管、保存される。最終的に、人体に全く影響が出ないレベルに放射線量の低減が確認される段階まで密閉状態で保管・保存された後、通常の土壌として戻されるか、又は産業廃棄物として廃棄される。
【0073】
(S8)土壌固化剤で固定された無機粒子及び汚染土壌の篩分け又は分級:
この工程は、前記汚染土壌を減容化するために行うものであり、次の2つの方法を採用することができる。第1の方法として、上記(S6)の工程において剥離、除去された前記無機粒子及び汚染土壌を十分に乾燥・固化させた後、固化した前記無機粒子及び汚染土壌の篩分け選別を行う。篩分けは、所定のメッシュ径を有するアルミニウム等の金属製の篩を用いて、固化した土壌部分のみを選り分けて除去する。この第1の方法において篩から落ちた固化していない土壌は元の場所に戻して再利用し、篩に残存している固化した大粒径の土壌の塊のみを保管又は保存する。本発明では上記(S5)の工程を導入したときに、本発明の土壌固化剤とともに前記汚染土壌に含まれるバーミュキライト、ゼオライト、モンモリナイト、及びベントナイト等の無機粒子(又は粘土微粒子)によってセシウム等の放射性物質を吸着、捕捉する効果が得られるため、前記放射性物質のほとんどは凝集又は固化した大粒径の無機粒子及び土壌の塊に残存することになる。他方、篩から落ちた固化していない土壌は、放射性物質の除去率が約80%以上と非常に高くなる。このようにして、後述する(S9)の工程で大粒径の土壌塊のみを別の場所に保管、保存し、前記汚染土壌の減容化を図ることができる。したがって、前記汚染土壌の減容化を実現するために実施する第1の方法は、上記(S5)の工程を導入することにより大きな効果を得ることができる。
【0074】
前記汚染土壌を減容化するための第2の方法は、前記特許文献2にも記載されているように、「放射性セシウムの多くは粘土質の微粒子成分に強く吸着・固定化されているため、粗い粒子を洗浄しながら、微細粒子だけを分級して集め、放射性セシウムを含む微細粒子成分のみを放射性廃棄土として処理する」という考え方に基づいて、前記汚染土壌を水の存在下で分級、洗浄するものである。この第2の方法において行う分級は、通常0.1mm未満の分級サイズで実施するが、除染地域の地質及び放射性物質の除染率に応じて最適な分級サイズを設定することができる。前記0.1mm未満の分級サイズで選別された粘土質の微粒子成分以外の他の無機粒子及び土壌は、放射性物質の含有量が非常に小さいため、放射線量の検査を行い、放射線量を確認した後、元の場所に戻すことができる。仮に、放射線量が許容値以下に低下しなかった場合は、本工程の分級、洗浄工程を繰り返すか、若しくは、所定の期間放置して放射線量の低下を確認した後、通常の土壌として戻すか、又は産業廃棄物として廃棄する。
【0075】
(S9)篩分け後の大粒径の無機粒子及び土壌の塊の保管・保存:
前記(S8)の工程において、第1の方法によって篩分けされた大粒径で凝集した無機粒子及び土壌の塊のみを別の場所に移して隔離した状態で保管、保存する。同様に、第2の方法によって分級し、選別された粘土質の微粒子成分についても隔離した状態で保管・保存する。
【0076】
以上のように、本発明の土壌固化剤による汚染土壌の除染方法は、(A)前記無機粒子と本発明の無機粒子凝集用凝集剤とを、放射性物質により汚染された土壌に同時に散布する工程により前記土壌の少なくとも一部を固化させ、前記土壌の表層を剥離除去する工程と、を有する方法、及び(B)前記無機粒子と本発明の無機粒子凝集用凝集剤とをこの順で放射性物質により汚染された土壌に散布する工程により、前記放射性物質が前記無機粒子に取り込まれた後の前記無機粒子を含む土壌の少なくとも一部を前記無機粒子凝集用凝集剤で固化させ、前記固化された土壌の表層を剥離除去する工程と、を有する方法、の(A)及び(B)のどちらかを採用することができる。
【0077】
また、本発明の土壌固化剤による汚染土壌の除染方法は、放射性物質が付着した無機粒子及び土壌、又は放射性物質を含有する無機粒子及び土壌から放射線を迅速、且つ効率的で効果的に低減するために図4に示す(S1)~(S7)の工程によって放射性物質汚染土壌を密閉状態で保管・保存し、さらに前記放射性物質汚染土壌そのものの減容化を図るためには図4に示す(S1)~(S9)の工程によって処理を行うことが好ましい。
【0078】
<不透水層形成方法>
本発明の無機粒子凝集用凝集剤を有する土壌固化剤を用いて行う不透水層形成方法を説明する。
【0079】
本発明で使用するバーミュキライト、ゼオライト、モンモリナイト、及びベントナイト等の無機粒子は多孔質の材料であるが、それらの中でもベントナイトは、給水によって大きな体積膨張を起こすため、例えば、現地の発生土とベントナイトとを混合し、それを突き固めることにより、ベントナイトを含む混合土からなる不透水層を形成することができる。本発明による不透水層は、この方法と同じように、本発明の土壌固化剤を用いて、本発明の無機粒子凝集用凝集剤及びベントナイトを、現地で発生する発生土と混合する混合土の製造工程と、前記混合土を不透水層の形成対象である地盤表面に敷設する工程と、を有する。
【0080】
本発明の不透水層形成方法においては、前記無機粒子凝集用凝集剤によってイオン結合を介してベントナイト同士が凝集しており、ベントナイト同士が疑似の網目構造を形成するようになる。それにより、吸水したときに大きな体積膨張を起こさせることができる。これは、給水する水がベントナイト粒子の内部に吸収されるだけでなく、ベントナイト粒子の間にも水が浸入して保水効果が高まるためと考えられる。したがって、本発明の不透水層形成方法は、前記無機粒子凝集用凝集剤を含まない従来方法に比べて、大きな体積膨張によって土壌間に強い拘束力を発生させるため不透水機能を高めることができる。加えて、ベントナイト粒子間でも凝集力が得られるため土壌の保持力が高くなり、不透水層を形成している土壌そのものの散失を抑制できる。また、温度や湿度等の気候環境の変化による影響を受けづらく、長期間に亘って構築する必要がある不透水層の亀裂や破損等を防止できるという利点を有する。
【0081】
本発明の不透水層形成方法は、前記特許文献7に開示されているように、施工作業の簡素化及び低コスト化のため、本発明の無機粒子凝集用凝集剤とベントナイト等の無機粒子とを有する土壌固化剤を2枚の不織布間に挟んでなる不透水シートを、不透水層の形成に使用してもよい。その方法の工程としては、本発明の無機粒子凝集用凝集剤とベントナイト等の無機粒子とを有する土壌固化剤を2枚の不織布間に挟んでなる不透水シートを不透水形成対象とする地盤表面に敷設する工程と、前記不透水シートの少なくとも片側表面、必要に応じて前記不透水シートの両側表面を覆土で覆う工程と、を有する。この方法では、前記不透水シートに含まれるベントナイト等の無機粒子を本発明の無機粒子凝集用凝集剤によって凝集させることができるため、前記不透水シートそのものの強度及び耐久性の向上を図ることができる。
【0082】
以上のように、本発明の不透水層形成方法は、従来の方法と比べて、強固で、且つ、長期にわたって確実な不透水効果が得られる。そのため、ヘドロ、掘削廃土、焼却廃土、工場廃土等、多くの汚染された土壌を不透水層形成のために再利用するという従来の目的の他にも、例えば、汚染物質の拡散防止の目的のため遮水機能を有する不透水のせき止め壁等を形成するときにも有用な方法として適用が可能である。
【実施例
【0083】
本発明を実施例によって説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0084】
[実施例1]
多孔質構造を有し、陽イオン交換性能が認められる無機粒子としてベントナイト(ベンチナイトドンミン:株式会社ボルクレイジャパン)を、カチオン性高分子として下記(1)式で示されるポリジアリルジメチルアンモニウム塩酸塩(あるいはクロリド)(センカ株式会社商品名ユニセンスFPA1001L:分子量10~50万、以下pDADMACと略す。)を用いて、pDADMACとベントナイトの複合体からなる無機粒子凝集用凝集体を作製した。ベントナイトとpDADMACとベントナイトの複合体の作製は、ベントナイトに添加するpDADMACの量を変えることにより、以下の方法で行った。
【0085】
【化1】
【0086】
まず、ベントナイトを蒸留水中に分散させた。次いで、前記蒸留水中に分散させたベントナイトの質量に対して、pDADMACの配合比(質量比)がベントナイト:pDADMAC=1:1.6~9.6の範囲に含まれる8点で変えてpDADMAC水溶液を調製し、配合比が異なる8種類の前記pDADDAC水溶液を用いてそれぞれ独立に、前記ベントナイトを分散した水溶液に静かに加えて6時間攪拌後、1晩静置した。その静置後に生成する沈殿物をろ過によって回収することにより、pDADMACとベントナイトとからなり、両者の配合比率が異なる8種類の複合体を得た。
【0087】
得られたpDADMACとベントナイトの複合体の8種類について、無機粒子の凝集性能を評価した。凝集性能評価用の無機粒子としては、pDADMACとベントナイトとからなる複合体を作製するときに使用したものと同じベントナイトを使用した。凝集性能評価用の無機粒子として使用するベントナイトの所定量(0.1g、0.4g及び0.7gの3種類)を、蒸留水70mlを入れた100mlのガラス容器内それぞれ独立に加え、よく懸濁させた。このようにして沈殿瓶中の水溶液にそれぞれ異なる量でベントナイトが分散された各試料に、前記8種類のpDADMACとベントナイトの複合体をそれぞれ独立に加えて振蕩させ、10分間で自然沈降させた後、3000回転で10分間の条件で遠心分離させた。遠心分離後に得られる各試料の上澄み液を用いて可視紫外分光光度計によって波長660nmで透過率を測定した。本実施例において凝集性能評価用として調整された試料の数は、計24個である。図5に、本実施例の複合体を製造するときのベントナイトに対するpDADMACの配合比と透過率(凝集沈殿能)の関係を示す。図5には、代表的な評価結果として、ベントナイトの量が0.7gである場合を示している。凝集性能評価用の無機粒子として使用するベントナイトの量が0.1g又は0.4gである場合も図5に示すものと同じような傾向を示すが、分散されるベントナイト量が最も多い0.7gにおいて、本実施例の複合体によるベントナイトの凝集効果を明確に把握することができる。なお、ベントナイトの量が0.7gを超える分散水溶液は、懸濁しきれないベントナイトにより透過率測定結果の信頼性が低下するため、検討から除外した。
【0088】
図5において、上澄み液の透過率が高い試料は、水溶液中に浮遊しているベントナイトの量が少ないことを示しており、ベントナイトに対する凝集沈殿能が高いことを意味する。図5に示すように、本実施例の複合体が含まれないときのベントナイト分散液の透過率は65%であることから、無機凝集用凝集体であるpDADMACとベントナイトの複合体を添加することによりベントナイトの凝集沈殿を促進できることが分かる。また、ベントナイトの凝集沈殿性能については、複合体作製時のベントナイトに対するpDADMACの配合比率によって違いがみられており、作製時のベントナイトに対するpDADMACの配合比(質量比)が、ベントナイト:pDADMAC=1:3.0を超え9.6未満の範囲で高い凝集沈殿能を示した。特に、ベントナイトに対するpDADMACの配合比が3.0を超え6.0未満の範囲で上澄み液の透過率が最も高くなり、最も優れた凝集沈殿能を有することが確認された。図5には示していないが、この傾向は、分散される無機粒子として含まれるベントナイトの量を変えても同じである。
【0089】
なお、図5には、pDADMACの配合比が9.6を超える場合の評価結果を示していないが、pDADMACの配合比率が9.6以上と高すぎる場合はpDADMAC単独の凝集が顕著にみられ、複合体の単独で無機粒子凝集用凝集剤として機能する試料を得ることが困難であった。
【0090】
本実施例の複合体において、配合比率がベントナイト:pDADMAC=1:3.2、1:4.8及び1:9.6(それぞれ質量比)の各試料について、複合体に含まれるpDADMACの含有量を熱重量測定によって求めた。熱重量測定は、高分解能作動型熱分析装置(リガク製のThermo plus EVO)を用いて、10℃/分の昇温速度で室温から1000℃まで昇温して行った。ベントナイト単独、及び前記3種の複合体についてそれぞれ熱重量測定を行い、ベントナイト単独と複合体の間で測定された加熱減量データの差分から、複合体に含まれるpDADMACの含有量を求めた。図6に、熱重量測定例を示す。
【0091】
図6は、本実施例においてベントナイトに対するカチオン性高分子の配合比がベントナイト:pDADMAC=1:4.8(質量比)で調製された複合体及び該複合体の製造時の原料として使用するベントナイト単体の加熱重量変化を示す図である。図6に示すように、ベントナイト単体は結晶水が含まれるため、100℃までの加熱において、それに相当する減量がみられた。その後、約600℃までは重量変化がほとんどみられなかった(図中、ベントナイト単体で示す曲線)。他方、ベントナイトに対するpDADMACの配合比が1:4.8で調製された複合体は、600℃までの加熱においてベントナイトに含まれる結晶水及びpDADMACの両者による減量がみられた(図中、pDADMAC-ベントナイト複合体で示す曲線)。pDADMACは高分子材料であることから、加熱分解による減量は150℃まで起きにくく、仮に加熱減量があっても減量は非常に小さいと考えられる。また、前記複合体は、500~600℃の間ではわずかな減量しか観測されておらず、この温度域でベントナイトに含まれるpDADMACの分解がほぼ完了したものと考えることができる。したがって、前記複合体で観測された150~550℃までの重量減量の差が、前記複合体に含まれるpDADMACの含有量とみなすことができる。その結果、ベントナイトに対するカチオン性高分子の配合比が1:4.8で調製された複合体は、前記複合体に含まれるpDADMACの含有量が38.4質量%であることが確認された。
【0092】
ベントナイトに対するカチオン性高分子の配合比が1:3.2及び1:9.6で調製された複合体試料についても、上記と同じ方法で測定した加熱重量変化の測定データから同様な操作によってそれぞれの複合体に含まれるpDADMACの含有量を求めた。その結果、カチオン性高分子の配合比が1:3.2及び1:9.6で調製された複合体は、pDADMACの含有量がそれぞれ38.2質量%及び41.8質量であった。一方、ベントナイトに対するカチオン性高分子の配合比率が最も低いベントナイト:pDADMAC=1:1.6で調製された複合体(図5を参照)は、pDADMACの含有量が30質量%未満であることを確認している。
【0093】
以上のように、本実施例による複合体は、ベントナイトに対するpDADMACの配合比によってpDADMACの含有量が大きく変化していないことが分かった。そして、ベントナイトの高い凝集能を実現するために必要なpDADMACの含有量としては、ベントナイトに対するpDADMACの配合比率が1:3.0を超え9.6未満で調製された複合体に対応する形で、前記無機粒子凝集用凝集剤の100質量部に対して30~45質量%が好ましいことが分かる。さらに、ベントナイトの凝集沈殿性を高めるためには、ベントナイトに対するpDADMACの配合比が1:3.2~5.6で調製された複合体に対応する形で、pDADMACの含有量が30~40質量%がより好ましい。
【0094】
[実施例2]
複合体の製造方法として、実施例1による攪拌分散及び静置の方法に代えて、フロキュエーション法を採用すること以外は、実施例1と同じベントナイト及びpDADMACを用いてpDADMACとベントナイトの複合体を作製した。
【0095】
まず、ベントナイトを蒸留水中に分散させた。次いで、前記蒸留水中に分散させたベントナイトの質量に対して、pDADMACの配合比(質量比)がベントナイト:pDADMAC=1:0.4~5.6の範囲に含まれる8点で変えてpDADMAC水溶液を調製し、配合比が異なる8種類の前記pDADDAC水溶液を用いてそれぞれ独立に、前記ベントナイトを分散した水溶液を軽く攪拌しながら、少量の前記pDADDAC水溶液を添加した。そして、前記水溶液にベントナイトのフロック状態の形成が確認されたことを確認した後、前記水溶液の攪拌を行いながら、残りのpDADDAC水溶液を徐々に添加した。前記pDADDAC水溶液の添加が全て完了した時点で、前記pDADDAC水溶液の添加によって生成した沈降物をろ過によって回収することにより、pDADMACとベントナイトとからなり、両者の配合比率が異なる8種類の複合体を得た。
【0096】
得られたpDADMACとベントナイトの複合体の8種類について、無機粒子の凝集性能を評価した。凝集性能評価用の無機粒子としては、pDADMACとベントナイトとからなる複合体を作製するときに使用したものと同じベントナイトを使用した。凝集性能評価用の無機粒子として使用するベントナイトの所定量(0.1g、0.4g及び0.7gの3種類)を、蒸留水70mlを入れた100mlのガラス容器内それぞれ独立に加え、よく懸濁させた。このようにして沈殿瓶中の水溶液にそれぞれ異なる量でベントナイトが分散された各試料に、前記8種類のpDADMACとベントナイトの複合体をそれぞれ独立に加えて振蕩させ、10分間で自然沈降させた後、3000回転で10分間の条件で遠心分離させた。遠心分離後に得られる各試料の上澄み液を用いて実施例1と同じ方法で上澄み液の透過率を測定した。本実施例において凝集性能評価用として調整された試料の数は、計24個である。図7に、本実施例の複合体を製造するときのベントナイトに対するpDADMACの配合比と透過率(凝集沈殿能)の関係を示す。
【0097】
図7に示すように、本実施例の複合体が含まれないときのベントナイト分散液の透過率は65%であることから、複合体を添加することによりベントナイトの凝集沈殿を促進できることが分かる。しかしながら、pDADMACの配合比とベントナイトの凝集沈殿能との関係を示す挙動が、図5に示すものとはやや異なる。図7に示す本実施例は、ベントナイトの高い凝集沈殿能を示すpDADMACの配合比率が図5の場合に比べて低くなっており、ベントナイト:pDADMAC=1:0.8で調製された複合体において最も高い凝集沈殿能を示した。また、ベントナイトに対するpDADMACの配合比が高くなると、ベントナイトの凝集沈殿能の低下が大きくなる傾向にあるため、pDADMACの配合比の範囲としては4.0未満が好ましく、さらに3.2以下がより好ましいことが分かった。この傾向は、分散される無機粒子として含まれるベントナイトの量を変えても同じである。したがって、フロキュレーション法によって複合体を製造する場合は、ベントナイトに対するpDADMACの配合比として、質量比においてベントナイト:pDADMAC=1:0.4を超え、4.0未満が好ましく、さらに、ベントナイト:pDADMAC=1:0.8~3.2がより好ましい。
【0098】
本実施例において、ベントナイトに対するカチオン性高分子の配合比が1:0.8で調製された複合体試料について、実施例1と同じ方法で測定した加熱重量変化の測定データから実施例1と同じ処理操作によって前記複合体に含まれるpDADMACの含有量を求めた。その結果、pDADMACの配合比が1:0.8で調製された複合体は、pDADMACの含有量が34.1質量%であった。一方、ベントナイトに対するカチオン性高分子の配合比が1:4.0以上で調製された複合体は、pDADMACの含有量が45質量%を超えることを確認した。
【0099】
本実施例による複合体は、実施例1の製造方法(攪拌方法)によって作製した複合体と同じように、複合体に含まれるpDADMACの含有量の好ましい範囲が30~45質量%の範囲に含まれる。さらに、複合体に含まれるpDADMACの含有量のより好ましい範囲として規定する30~40質量%にも含まれる。このように、ベントナイトの高い凝集沈殿能を実現するために必要なpDADMACの含有量は、複合体の製造方法にはあまり影響を受けないことが分かる。したがって、本発明の複合体による無機粒子の凝集沈殿能は、前記複合体に含まれるpDADMACの含有量によって決めることができる。すなわち、本発明の無機粒子凝集用凝集剤に含まれるカチオン性高分子は、前記無機粒子凝集用凝集剤の100質量部に対して30~45質量%の範囲で設定するのが好ましく、さらに30~40質量%の範囲に設定することがより好ましい。
【0100】
本実施例によるフロキュエーション法は、複合体に含まれるカチオン性高分子の配合比率を上記攪拌法に比べて小さくすることができる。さらに、フロキュエーション法は、無機粒子の緩い会合体であるフロック状態の形成により、カチオン性高分子の無機粒子への挿入を容易にすることができるため、効率的で迅速なカチオン交換反応を行うとき有効な製造方法である。さらに、実施例1による攪拌分散及び静置による製造方法に比べて、前記カチオン性高分子の分子量や構造の違いによる影響(材料に対する特異性)を小さくできるため、前記カチオン性高分子として使用できる材料の選択幅を広げることができるという利点を有する。
【0101】
[実施例3]
上記実施例1で得られたベントナイトとpDADMACの複合体は、pDADMACがベントナイト中の無機イオンとのカチオン交換によってベントナイト中に挿入されることを検証するため、本実施例で検討を行った。検証は、フーリエ変換赤外吸収スペクトル(FT-IR)及びX線回折(X線回折装置としてリガク・UltimaIVを使用)による測定で行った。ベントナイトとpDADMACの複合体は、図5に示すように、ベントナイトに対するpDADMACの配合比率において最も優れた凝集沈殿能を有する1:4.8で調製された複合体を測定用試料とした。図8及び図9に、FT-IR測定結果及びX線測定結果をそれぞれ示す。
【0102】
図8には、pDADMACとベントナイトの複合体(pDADMAC-bentonaite)及びカチオン交換処理前の無機(Na)イオンを有するベントナイト(Na-bentonaite)に加えて、参考のためにカチオン高分子及びアニオン高分子を含むイオン複合体によって凝集沈殿させたベントナイト(PIC沈殿されたbentonite)のFT-IR測定結果を合わせて示している。pDADMACとベントナイトの複合体は、FT-IR測定結果をPIC沈殿されたbentoniteのそれと対比することによって、ベントナイト中にイオン性高分子が含まれることを確認することができる。
【0103】
図8に示すように、pDADMAC-bentonaite複合体は、参考として示すPIC沈殿されたbentoniteと同じように、C-H変角振動(図中左側の点線で囲む部分)及びC-H伸縮振動(図中右側の点線で囲む部分)が観測された。このことから、pDADMAC-bentonaite複合体は、ベントナイトにpDADMAC(有機物)が吸着して含まれることが確認された。
【0104】
また、図9には、pDADMACとベントナイトの複合体(pDADMAC-bentonaite)、並びにカチオン交換処理前の無機(Na)イオンを有するベントナイト(Na-bentonaite)及び放射性物質であるセシウムを吸着した後のベントナイト(Cs-bentonaite)のX線測定結果をそれぞれ示している。
【0105】
図9に示すように、pDADMAC-bentonaite複合体は、Na-bentonaite及びCs-bentonaiteと対比すると、X線測定において底面反射が低角側(矢印で示す方向)にシフトしている。この低角側へのシフトはベントナイトの層間距離が拡大していることを意味する。pDADMACは、Na及びCsの無機イオンに比べて分子半径が大きいため、図9に示すX線測定結果から、ベントナイトの層間へpDADMACが挿入していることが分かる。このように、ベントナイトはイオン置換によってベントナイトに包接されることが確認された。
【0106】
[実施例4]
本発明の無機粒子凝集用凝集剤が有する凝集速度及び凝集力を把握するため、上記実施例1で得られたpDADMACとベントナイトの複合体を、pDADMACの単独系からなる凝集剤と対比することにより、それぞれのベントナイトに対する凝集能の比較を行った。pDADMACとベントナイトの複合体としては、図5に示すように、ベントナイトに対するpDADMACの配合比において最も優れた凝集沈殿能を有する4.8の配合比で調製された複合体を用いた。また、比較用の凝集剤として使用するpDADMACの単独系は、添加量を4点で変えて、それぞれベントナイトが分散された水溶液中に添加した。
【0107】
まず、ベントナイト(ベンチナイトドンミン:株式会社ボルクレイジャパン)の各0.2gを蒸留水に分散した後、pDADMACとベントナイトの複合体の場合は0.1gを添加し、他方、pDADMACの単独系の場合はそれぞれ0.1g、0.07g、004g及び0.01gを添加し、ベントナイトが分散している各蒸留水の透過率を所定時間ごとに可視紫外分光光度計によって波長660nmで測定した。pDADMACの単独系において、ベントナイトが分散している蒸留水に添加する量を変えた理由は、凝集剤の使用量に応じてベントナイトの凝集能が変化するため、pDADMACの単独系を、pDADMACとベントナイトの複合体に含まれるpDADMACだけの換算量が含まれる添加量の範囲内で評価を行う必要があると考えためである。
【0108】
本実施例において透過率測定は、pDADMACとベントナイトの複合体の1つの試料及びpDADMACの単独系の4つの試料を用いて、それらの各試料をそれぞれベントナイトが分散している蒸留水中に添加してから3分経過した後に最初の透過率測定を行い、その後、5分毎に測定を繰り返して行った。無機粒子凝集用凝集体を添加した後の経過時間に伴って変化するベントナイトが分散している各蒸留水の透過率を図10に示す。
【0109】
図10に示すように、上記実施例1によるpDADMACとベントナイトの複合体は、添加してから3分後にすでに透過率が70%を超え、それから5分後にはほぼ100%の透過率を示した。それに対して、pDADMACの単独系は、濃度が低くなるに伴い透過率の上昇が大きくなる傾向にあるものの、透過率立ち上がり傾斜が最も大きな0.01gをみても、pDADMACとベントナイトの複合体に比べると透過率の立ち上がりが小さいことが分かる。また、図10に示すいずれの試料も、経過時間とともに透過率が飽和する傾向にあるが、pDADMACとベントナイトの複合体は透過率の飽和値がほぼ100%を示した。一方、DADMACの単独系の場合は、配合量が最も少ない0.01gにおいて最も高い飽和値を示すが、その配合量においてもpDADMACとベントナイトの複合体と比べると、透過率の飽和値がやや小さくなっている。以上のことから、pDADMACとベントナイトの複合体は、pDADMACの単独系に比べて、ベントナイトの凝集速度が速いだけでなく、凝集能においても優れることが確認できる。
【0110】
本実施例で評価したpDADMACとベントナイトの複合体は、作製時のベントナイトに対するpDADMACの配合比が図5に示す4.8であるものを使用した。そのため、pDADMACとベントナイトの複合体に含まれるpDADMACの量は、図10に示すpDADMACの単独系添加において0.01g~0.04gの間に位置する配合量であると推察される。したがって、前記pDADMACとベントナイトの複合体は、凝集速度を速めることができるだけでなく、優れた凝集能を得るために必要なpDADMACの使用量を、pDADMACの単独系に比べて少なくできるという利点を有する。それにより、無機粒子凝集用凝集剤を含む土壌中において、該土壌中に残存する有機沈殿剤に起因する有機物の量を少なくするという環境負荷の低減要求に対して応えることができる。
【0111】
なお、図10において、pDADMACの単独系は、濃度の高い系が濃度の低い系より透過率が小さくなり、凝集能の低下が観測された。これは、pDADMACが過剰過ぎると、pDADMACが拡散し、再浮遊することが一因であると考えられる。また、pDADMACによる凝集沈殿反応は電荷の中和反応であるため、ある程度少ない量のpDADMACの方が、電荷バランスが取れてしまった可能性があるとも考えられるが、詳細は不明である。
【0112】
[実施例5]
本実施例において、本発明の実施例による無機粒子凝集用凝集剤を用いて、放射性物質でセシウム(Cs)によって汚染された落ち葉からCsを捕集及び補足する例を説明する。土壌の表面に堆積した落ち葉が放射性物質によって汚染された場合、前記落ち葉に付着した放射性物質が降雨等によって流されるため、放射性物質が雨水に抽出された状態で土壌中に進入することにより前記土壌が汚染されることが考えられる。本実施例は、このケースを想定したときの汚染土壌の除去方法を模擬したものである。
【0113】
Csで汚染された落ち葉からのCs抽出液と、Cs吸着前のベントナイト及び本発明の実施例による無機粒子凝集用凝集剤(pDADMACとベントナイトの複合体)とを混合した水溶液を、JIS規格3801に基づく濾紙(2種)を用いてろ過を行い、ろ過によって分別される残渣(凝集による沈殿物)から放射能の検出を行うことにより、Cs(137Cs)の回収状況を調べた。本実施例においては、比較のために、pDADMACを含まないCs吸着前のベントナイト単独系、前記無機粒子凝集用凝集剤の単独系についても同じ方法でCs(137Cs)の回収状況を調べた。図11に、ろ過によって分別される残渣物(凝集による沈殿物)から検出された放射能の測定結果を示す。
【0114】
図11に示すように、ろ過によって分別される残渣(凝集による沈殿物)から137Csが検出されたのは、Cs抽出液と、Cs吸着前のベントナイト及びpDADMACとベントナイトの複合体と、を混合した系(Bentonite+複合体)だけである。それ以外の、pDADMACを含まない吸着前のベントナイト単独系(Bentonite単独)及びpDADMACとベントナイトの複合体の単独系(複合体単独)の場合は、137Csの濃度が検出限界以下であり、137Csが検出されなかった。これは、(Bentonite+複合体)の場合は、Cs抽出液から吸着されたCsを含むベントナイトの凝集が前記pDADMACとベントナイトの複合体によって進行し、結果的に、Csを含むベントナイトの凝集体が大きな塊となって、2種の濾紙(保持粒子径が約5μmである濾紙)を通過することができない数μm以上の大きな残渣物(凝集による沈殿物)として回収できたためである。他方、Bentonite単独及び複合体単独では、それらの粒子の凝集がほとんど見られず、2種の濾紙によって回収した残渣(凝集による沈殿物)が非常に小さいか、又はほとんど無かったため、結果的に137Csの検出がされなかったことに起因する。
【0115】
なお、本実施例では具体的に述べなかったが、図11に示すように、2種の濾紙を用いてろ過した後の水溶液を、再度、0.45μmフィルタを通過させる処理を行い、0.45μmフィルタを通過する液に含まれる溶存態137CsをGe半導体検出器で精密に測定してもよい。それにより、図11に示す3種類の試料について、Cs抽出液からの137Csの吸着及び捕集が確実にできているかどうかを確認することができる。例えば、Bentonite+複合体の試料は、0.45μmフィルタの通過液に含まれる137Csの量が少ないことが容易に推察できる。
【0116】
このように、本実施例のベントナイトとpDADMACの複合体を、ベントナイト等の放射性物質を吸着する無機粒子を含む土壌に適用することにより、前記ベントナイトの凝集を促進又は助けることができるため、汚染土壌の処理を効率的に、且つ迅速に行うことができる。
【0117】
さらに、本発明の実施形態による無機粒子業種用凝集剤は、無機カチオンの全部又は一部が置換されたカチオン性高分子を含むものの、本体が低コストの汎用無機充填剤として使用される無機粒子であり、カチオン性高分子の含有量が少ないことから、材料コストの低減が可能である。また、従来のカチオン性高分子及び/又はアニオン性高分子からなる有機凝集剤に比べて、吸湿による影響をほとんど受けず、物性的にも安定していることから保管及び取扱い性に優れる。さらに、本発明の実施形態による無機粒子は、無機粒子同士を凝集させる機能を有するカチオン性高分子があらかじめ含まれているため、従来の無機凝集剤及び有機凝集剤に比べて凝集速度が速く、且つ、強い凝集力を発現することができる。
【0118】
以上のように、本発明の実施形態による無機粒子業種用凝集剤は優れた凝集機能を有するため、土壌固化性能、放射線物質の拡散防止効果、放射性物質による汚染土壌の除染効果、及び不透水層形成能のそれぞれの特性を大幅に向上することができる。そして、本発明の実施形態による土壌固化剤を、土壌固化方法、放射線物質の拡散防止方法、汚染土壌の除染方法及び不透水層形成方法に適用することにより、効率的な処理作業を従来に比べて短期間に低コストで行うことができる。
【符号の説明】
【0119】
1・・・無機粒子凝集用凝集剤、2・・・無機粒子、3・・・カチオン性高分子
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