(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-07
(45)【発行日】2023-02-15
(54)【発明の名称】フィルムコンデンサ
(51)【国際特許分類】
H01G 4/32 20060101AFI20230208BHJP
H01G 4/30 20060101ALI20230208BHJP
【FI】
H01G4/32 540
H01G4/32 511L
H01G4/32 511K
H01G4/30 201Z
H01G4/30 201K
H01G4/30 201L
(21)【出願番号】P 2020570379
(86)(22)【出願日】2019-11-14
(86)【国際出願番号】 JP2019044694
(87)【国際公開番号】W WO2020161984
(87)【国際公開日】2020-08-13
【審査請求日】2021-07-09
(31)【優先権主張番号】P 2019020504
(32)【優先日】2019-02-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】390022460
【氏名又は名称】株式会社指月電機製作所
(73)【特許権者】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】小笹 千一
(72)【発明者】
【氏名】菊池 公明
(72)【発明者】
【氏名】城岸 賢
【審査官】田中 晃洋
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-219752(JP,A)
【文献】国際公開第2010/101170(WO,A1)
【文献】特開平02-106912(JP,A)
【文献】実開昭64-000323(JP,U)
【文献】実開昭60-116226(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01G 4/32
H01G 4/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
誘電体樹脂フィルムの一方の面に金属層が設けられた金属化フィルムが巻回又は積層されてなるコンデンサ素子と、
前記金属層を介して前記誘電体樹脂フィルムが積層されている方向において、前記コンデンサ素子の外面を被覆する被覆体と、
前記被覆体の外面を含んで前記コンデンサ素子の外周を覆う外装体と、を備えるフィルムコンデンサであって、
前記誘電体樹脂フィルムは、硬化性樹脂を主成分として含み、
前記被覆体は、熱可塑性樹脂からな
り、
前記被覆体は、前記コンデンサ素子の外面に巻き回した巻回フィルムであり、
前記巻回フィルムは、少なくとも一面が粗面化されているか、又は、両面に凸凹形状が設けられている、フィルムコンデンサ。
【請求項2】
前記誘電体樹脂フィルムが積層されている方向において、前記被覆体の厚みは、前記コンデンサ素子の厚みの0.5%以上、5%以下である、請求項1に記載のフィルムコンデンサ。
【請求項3】
前記巻回フィルムは、前記外装体側の面のみが粗面化されている、請求項
1に記載のフィルムコンデンサ。
【請求項4】
前記巻回フィルムは、少なくとも一面が粗面化されており、
前記巻回フィルムの粗面化された面の表面粗さRaは、0.05μm以上、0.3μm以下である、請求項
1に記載のフィルムコンデンサ。
【請求項5】
前記巻回フィルムは、両面に凸凹形状が設けられており、
前記巻回フィルムは、一面に設けられた凸部が、他面に設けられた凹部の位置に設けられている、請求項
1に記載のフィルムコンデンサ。
【請求項6】
前記巻回フィルムは、両面に凸凹形状が設けられており、
前記凸凹形状の凸部の高さは、0.01mm以上、0.1mm以下である、請求項
1に記載のフィルムコンデンサ。
【請求項7】
誘電体樹脂フィルムの一方の面に金属層が設けられた金属化フィルムが巻回又は積層されてなるコンデンサ素子と、
前記金属層を介して前記誘電体樹脂フィルムが積層されている方向において、前記コンデンサ素子の外面を被覆する被覆体と、
前記被覆体の外面を含んで前記コンデンサ素子の外周を覆う外装体と、を備えるフィルムコンデンサであって、
前記被覆体の25℃における弾性率は、前記誘電体樹脂フィルムの25℃における弾性率に対して30%以上、150%以下であり、
前記被覆体の125℃における弾性率は、前記誘電体樹脂フィルムの125℃における弾性率に対して1%以上、30%以下であ
り、
前記被覆体は、前記コンデンサ素子の外面に巻き回した巻回フィルムであり、
前記巻回フィルムは、少なくとも一面が粗面化されているか、又は、両面に凸凹形状が設けられている、フィルムコンデンサ。
【請求項8】
前記誘電体樹脂フィルムは、硬化性樹脂を主成分として含み、
前記被覆体は、熱可塑性樹脂からなる、請求項
7に記載のフィルムコンデンサ。
【請求項9】
誘電体樹脂フィルムの一方の面に金属層が設けられた金属化フィルムが巻回又は積層されてなるコンデンサ素子と、
前記金属層を介して前記誘電体樹脂フィルムが積層されている方向において、前記コンデンサ素子の外面を被覆する被覆体と、
前記被覆体の外面を含んで前記コンデンサ素子の外周を覆う外装体と、を備えるフィルムコンデンサであって、
前記被覆体は、前記コンデンサ素子の外面に巻き回した巻回フィルムであり、
前記巻回フィルムは、少なくとも一面が粗面化されているか、又は、両面に凸凹形状が設けられている、フィルムコンデンサ。
【請求項10】
前記巻回フィルムと前記外装体との間、又は、前記巻回フィルムと前記コンデンサ素子との間には、部分的に空隙を有する、請求項
9に記載のフィルムコンデンサ。
【請求項11】
前記巻回フィルムは、前記外装体側の面のみが粗面化されている、請求項
7又は
9に記載のフィルムコンデンサ。
【請求項12】
前記巻回フィルムは、少なくとも一面が粗面化されており、
前記巻回フィルムの粗面化された面の表面粗さRaは、0.05μm以上、0.3μm以下である、請求項
7又は
9に記載のフィルムコンデンサ。
【請求項13】
前記巻回フィルムは、両面に凸凹形状が設けられており、
前記巻回フィルムは、一面に設けられた凸部が、他面に設けられた凹部の位置に設けられている、請求項
7又は
9に記載のフィルムコンデンサ。
【請求項14】
前記巻回フィルムは、両面に凸凹形状が設けられており、
前記凸凹形状の凸部の高さは、0.01mm以上、0.1mm以下である、請求項
7又は
9に記載のフィルムコンデンサ。
【請求項15】
前記誘電体樹脂フィルムが積層されている方向において、前記被覆体の厚みは、前記コンデンサ素子の厚みの0.5%以上、5%以下である、請求項
7又は
9に記載のフィルムコンデンサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィルムコンデンサに関する。
【背景技術】
【0002】
コンデンサの一種として、可撓性のある樹脂フィルムを誘電体として用いながら、樹脂フィルムを挟んで互いに対向する第1の対向電極及び第2の対向電極を配置した構造のフィルムコンデンサがある。フィルムコンデンサのコンデンサ素子は、通常、誘電体としての樹脂フィルムを巻回してなる略円柱状の形態をなしており、当該円柱の互いに対向する第1端面及び第2端面上には、それぞれ、第1の外部電極及び第2の外部電極が形成されている。そして、第1の対向電極は第1の外部電極と電気的に接続され、第2の対向電極は第2の外部電極と電気的に接続されている。
【0003】
コンデンサ素子を構成する誘電体樹脂フィルムとして、例えば、特許文献1には、熱硬化性樹脂を主成分とする誘電体樹脂フィルムを用いることが記載されている。特許文献1には、ポリプロピレンのような熱可塑性樹脂を主成分とする誘電体樹脂フィルムを用いたコンデンサ素子に対し、熱硬化性樹脂を主成分とする誘電体樹脂フィルムを用いたコンデンサ素子の方が、耐熱性が高くなることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
図7は、従来のフィルムコンデンサの一例を模式的に示す断面図である。
図7に示すフィルムコンデンサ100は、コンデンサ素子10を備えている。コンデンサ素子10は、金属化フィルムの巻回体20と、巻回体20の両側方に形成された第1の外部電極21及び第2の外部電極22とを備えている。第1の外部電極21には第1のリード線31が電気的に接続され、第2の外部電極22には第2のリード線32が電気的に接続されている。フィルムコンデンサ100は、さらに、コンデンサ素子10の外周を覆う外装樹脂40を備えている。
【0006】
フィルムコンデンサの外装としては、コンデンサ素子をエポキシ樹脂などの熱硬化性樹脂で被覆することや、エポキシ樹脂などの熱硬化性樹脂を充填した樹脂ケースで被覆することが一般的である。樹脂ケースの材料としては、ポリフェニレンサルファイドなどの樹脂が用いられる。
【0007】
特許文献1に記載されているような耐熱性の高いフィルムコンデンサにおいては、その使用環境が常温から125℃近くの高温まであり、温度変化が大きい。このとき、フィルムコンデンサに繰り返し熱衝撃がかかることにより、等価直列抵抗(ESR)が増大するという問題が発生することがあった。
【0008】
本発明は、上記の問題を解決するためになされたものであり、高温域で繰り返し使用してもESRの増大を抑制することができるフィルムコンデンサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、コンデンサ素子と外装体との間の熱伝導や熱膨張による熱衝撃性を緩和することにより、ESRの増大を抑制することができると考え、本発明を完成させた。
【0010】
本発明のフィルムコンデンサは、誘電体樹脂フィルムの一方の面に金属層が設けられた金属化フィルムが巻回又は積層されてなるコンデンサ素子と、上記金属層を介して上記誘電体樹脂フィルムが積層されている方向において、上記コンデンサ素子の外面を被覆する被覆体と、上記被覆体の外面を含んで上記コンデンサ素子の外周を覆う外装体と、を備える。
【0011】
第1の態様において、上記誘電体樹脂フィルムは、硬化性樹脂を主成分として含み、上記被覆体は、熱可塑性樹脂からなる。
【0012】
第2の態様において、上記被覆体の25℃における弾性率は、上記誘電体樹脂フィルムの25℃における弾性率に対して30%以上、150%以下であり、上記被覆体の125℃における弾性率は、上記誘電体樹脂フィルムの125℃における弾性率に対して1%以上、30%以下である。
【0013】
第3の態様において、上記被覆体は、上記コンデンサ素子の外面に巻き回した巻回フィルムであり、上記巻回フィルムは、少なくとも一面が粗面化されているか、又は、両面に凸凹形状が設けられている。
【0014】
第4の態様において、上記被覆体は、上記コンデンサ素子の外面に設けた被膜であり、上記被膜は、その内部に気泡を有する。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、高温域で繰り返し使用してもESRの増大を抑制することができるフィルムコンデンサを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】
図1は、本発明の第1実施形態に係るフィルムコンデンサの一例を模式的に示す断面図である。
【
図2】
図2は、コンデンサ素子を構成する金属化フィルムの巻回体の一例を模式的に示す斜視図である。
【
図3】
図3は、巻回フィルムの一例を模式的に示す断面図である。
【
図4】
図4は、巻回フィルムの別の一例を模式的に示す断面図である。
【
図5】
図5は、本発明の第1実施形態に係るフィルムコンデンサの別の一例を模式的に示す断面図である。
【
図6】
図6は、本発明の第2実施形態に係るフィルムコンデンサの一例を模式的に示す断面図である。
【
図7】
図7は、従来のフィルムコンデンサの一例を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明のフィルムコンデンサについて説明する。
しかしながら、本発明は、以下の構成に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において適宜変更して適用することができる。
以下において記載する本発明の個々の望ましい構成を2つ以上組み合わせたものもまた本発明である。
【0018】
本発明のフィルムコンデンサは、誘電体樹脂フィルムの一方の面に金属層が設けられた金属化フィルムが巻回又は積層されてなるコンデンサ素子と、上記金属層を介して上記誘電体樹脂フィルムが積層されている方向において、上記コンデンサ素子の外面を被覆する被覆体と、上記被覆体の外面を含んで上記コンデンサ素子の外周を覆う外装体と、を備える。
【0019】
本発明のフィルムコンデンサにおいて、誘電体樹脂フィルムは、硬化性樹脂を主成分として含み、被覆体は、熱可塑性樹脂からなることが望ましい。
【0020】
熱可塑性樹脂は、熱硬化性樹脂に比べて、高温での熱伝導率が低く、弾性率が小さい。したがって、コンデンサ素子と外装体との間に熱可塑性樹脂からなる被覆体を介在させることにより、コンデンサ素子と外装体との間の熱伝達を阻害するとともに、熱膨張ストレスを抑えることができる。その結果、コンデンサ素子と外装体との間に生じる熱衝撃性を緩和することができ、それによりESRの増大を抑制することができる。
【0021】
誘電体樹脂フィルムが積層されている方向において、被覆体の厚みは、コンデンサ素子の厚みの0.5%以上であることが望ましい。被覆体が厚くなるほど、コンデンサ素子と外装体との間に生じる熱衝撃性を緩和することができる。一方で、被覆体が厚くなるほど、フィルムコンデンサのサイズが大きくなる。そのため、誘電体樹脂フィルムが積層されている方向において、被覆体の厚みは、コンデンサ素子の厚みの5%以下であることが望ましい。
なお、被覆体の厚みは、光学式膜厚計を用いて測定することができる。
【0022】
以下、本発明のフィルムコンデンサの一実施形態として、第1の金属化フィルムと第2の金属化フィルムとが積層された状態で巻回されてなる巻回型のフィルムコンデンサを例にとって説明する。
なお、本発明のフィルムコンデンサは、第1の金属化フィルムと第2の金属化フィルムとが積層されてなる積層型のフィルムコンデンサであってもよい。
【0023】
以下に示す各実施形態は例示であり、異なる実施形態で示した構成の部分的な置換又は組み合わせが可能であることは言うまでもない。第2実施形態以降では、第1実施形態と共通の事項についての記述は省略し、異なる点についてのみ説明する。特に、同様の構成による同様の作用効果については、実施形態毎には逐次言及しない。
【0024】
[第1実施形態]
本発明の第1実施形態に係るフィルムコンデンサでは、被覆体は、コンデンサ素子の外面に巻き回した巻回フィルムである。
【0025】
図1は、本発明の第1実施形態に係るフィルムコンデンサの一例を模式的に示す断面図である。
図1に示すフィルムコンデンサ1は、コンデンサ素子10を備えている。コンデンサ素子10は、金属化フィルムの巻回体20と、巻回体20の両側方に形成された第1の外部電極21及び第2の外部電極22とを備えている。後述するように、巻回体20は、第1の誘電体樹脂フィルムの一方の面に第1の金属層が設けられた第1の金属化フィルムと、第2の誘電体樹脂フィルムの一方の面に第2の金属層が設けられた第2の金属化フィルムとが積層された状態で巻回されたものである。第1の外部電極21には第1のリード線31が電気的に接続され、第2の外部電極22には第2のリード線32が電気的に接続されている。
【0026】
図1に示すフィルムコンデンサ1は、さらに、被覆体の一例である巻回フィルム50と、外装体の一例である外装樹脂40とを備えている。巻回フィルム50は、コンデンサ素子10の外面に巻き回されており、金属層を介して誘電体樹脂フィルムが積層されている方向において、コンデンサ素子10の外面を被覆している。また、外装樹脂40は、巻回フィルム50の外面を含んでコンデンサ素子10の外周を覆っている。
【0027】
図2は、コンデンサ素子を構成する金属化フィルムの巻回体の一例を模式的に示す斜視図である。
図2に示す金属化フィルムの巻回体20においては、第1の金属化フィルム11と第2の金属化フィルム12とが積層された状態で巻回されている。第1の金属化フィルム11は、第1の誘電体樹脂フィルム13と、第1の誘電体樹脂フィルム13の一方の面に設けられた第1の金属層(対向電極)15とを備え、第2の金属化フィルム12は、第2の誘電体樹脂フィルム14と、第2の誘電体樹脂フィルム14の一方の面に設けられた第2の金属層(対向電極)16とを備えている。
【0028】
図2に示すように、第1の金属層15及び第2の金属層16は、第1の誘電体樹脂フィルム13又は第2の誘電体樹脂フィルム14を挟んで互いに対向している。
図2には示されていないが、第1の金属層15は、第1の外部電極21と電気的に接続され、第2の金属層16は、第2の外部電極22と電気的に接続される。
【0029】
第1の誘電体樹脂フィルム13及び第2の誘電体樹脂フィルム14は、それぞれ異なる構成を有していてもよいが、同一の構成を有していることが望ましい。
【0030】
第1の金属層15は、第1の誘電体樹脂フィルム13の一方の面において一方側縁にまで届くが、他方側縁にまで届かないように形成される。他方、第2の金属層16は、第2の誘電体樹脂フィルム14の一方の面において一方側縁にまで届かないが、他方側縁にまで届くように形成される。第1の金属層15及び第2の金属層16は、例えばアルミニウム層などから構成される。
【0031】
第1の金属層15における第1の誘電体樹脂フィルム13の側縁にまで届いている側の端部、及び、第2の金属層16における第2の誘電体樹脂フィルム14の側縁にまで届いている側の端部がともに積層されたフィルムから露出するように、第1の誘電体樹脂フィルム13と第2の誘電体樹脂フィルム14とが互いに幅方向(
図2中、矢印で示す方向)にずらされて積層される。
図2に示すように、第1の誘電体樹脂フィルム13及び第2の誘電体樹脂フィルム14が積層された状態で巻回されることによって金属化フィルムの巻回体20となり、第1の金属層15及び第2の金属層16が端部で露出した状態を保持して、積み重なった状態とされる。
【0032】
図2では、第2の誘電体樹脂フィルム14が第1の誘電体樹脂フィルム13の外側になるように、かつ、第1の誘電体樹脂フィルム13及び第2の誘電体樹脂フィルム14の各々について、第1の金属層15及び第2の金属層16の各々が内方に向くように巻回されている。
【0033】
金属化フィルムの巻回体20は、断面形状が楕円又は長円のような扁平形状にプレスされ、断面形状が真円であるときよりコンパクトな形状とされることが望ましい。また、金属化フィルムの巻回体20は、円柱状の巻回軸を備えていてもよい。巻回軸は、巻回状態の金属化フィルムの中心軸線上に配置されるものであり、金属化フィルムを巻回する際の巻軸となるものである。
【0034】
第1の外部電極21及び第2の外部電極22は、上述のようにして得られた金属化フィルムの巻回体20の各端面上に、例えば亜鉛などを溶射することによって形成される。第1の外部電極21は、第1の金属層15の露出端部と接触し、それによって第1の金属層15と電気的に接続される。他方、第2の外部電極22は、第2の金属層16の露出端部と接触し、それによって第2の金属層16と電気的に接続される。
【0035】
本発明の第1実施形態では、コンデンサ素子を構成する誘電体樹脂フィルムは、硬化性樹脂を主成分として含む。
【0036】
本明細書において、「主成分」とは、重量百分率が最も大きい成分を意味し、好ましくは、重量百分率が50重量%を超える成分を意味する。したがって、誘電体樹脂フィルムは、主成分以外の成分として、例えば、シリコーン樹脂等の添加剤や、後述する第1有機材料及び第2有機材料等の出発材料の未硬化部分を含んでもよい。
【0037】
硬化性樹脂は、熱硬化性樹脂であってもよいし、光硬化性樹脂であってもよい。
本明細書において、熱硬化性樹脂とは、熱で硬化し得る樹脂を意味しており、硬化方法を限定するものではない。したがって、熱で硬化し得る樹脂である限り、熱以外の方法(例えば、光、電子ビームなど)で硬化した樹脂も熱硬化性樹脂に含まれる。また、材料によっては材料自体が持つ反応性によって反応が開始する場合があり、必ずしも外部から熱又は光等を与えずに硬化が進むものについても熱硬化性樹脂とする。光硬化性樹脂についても同様であり、硬化方法を限定するものではない。
【0038】
硬化性樹脂は、ウレタン結合及びユリア結合の少なくとも一方を有していてもよいし、有していなくてもよい。
なお、ウレタン結合及び/又はユリア結合の存在は、フーリエ変換赤外分光光度計(FT-IR)を用いて確認することができる。
【0039】
誘電体樹脂フィルムは、第1有機材料と第2有機材料との硬化物からなることが望ましい。例えば、第1有機材料が有する水酸基(OH基)と第2有機材料が有するイソシアネート基(NCO基)とが反応して得られる硬化物等が挙げられる。
【0040】
上記の反応によって硬化物を得る場合、出発材料の未硬化部分がフィルム中に残留してもよい。例えば、誘電体樹脂フィルムは、イソシアネート基及び水酸基の少なくとも一方を含んでもよい。この場合、誘電体樹脂フィルムは、イソシアネート基及び水酸基のいずれか一方を含んでもよいし、イソシアネート基及び水酸基の両方を含んでもよい。
なお、イソシアネート基及び/又は水酸基の存在は、フーリエ変換赤外分光光度計(FT-IR)を用いて確認することができる。
【0041】
第1有機材料は、分子内に複数の水酸基を有するポリオールであることが望ましい。ポリオールとしては、例えば、ポリビニルアセトアセタール等のポリビニルアセタール、フェノキシ樹脂等のポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール等が挙げられる。第1有機材料として、2種以上の有機材料を併用してもよい。
【0042】
第2有機材料は、分子内に複数の官能基を有する、イソシアネート化合物、エポキシ樹脂又はメラミン樹脂であることが望ましい。第2有機材料として、2種以上の有機材料を併用してもよい。
【0043】
イソシアネート化合物としては、例えば、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)及びトリレンジイソシアネート(TDI)等の芳香族ポリイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)等の脂肪族ポリイソシアネート等が挙げられる。これらのポリイソシアネートの変性体、例えば、カルボジイミド又はウレタン等を有する変性体であってもよい。
【0044】
エポキシ樹脂としては、エポキシ環を有する樹脂であれば特に限定されず、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビフェニル骨格エポキシ樹脂、シクロペンタジエン骨格エポキシ樹脂、ナフタレン骨格エポキシ樹脂等が挙げられる。
【0045】
メラミン樹脂としては、構造の中心にトリアジン環、その周辺にアミノ基3個を有する有機窒素化合物であれば特に限定されず、例えば、アルキル化メラミン樹脂等が挙げられる。その他、メラミンの変性体であってもよい。
【0046】
誘電体樹脂フィルムは、望ましくは、第1有機材料及び第2有機材料を含む樹脂溶液をフィルム状に成形し、次いで、熱処理して硬化させることによって得られる。
【0047】
誘電体樹脂フィルムは、他の機能を付加するための添加剤を含むこともできる。例えば、レベリング剤を添加することで平滑性を付与することができる。添加剤は、水酸基及び/又はイソシアネート基と反応する官能基を有し、硬化物の架橋構造の一部を形成する材料であることがより望ましい。このような材料としては、例えば、エポキシ基、シラノール基及びカルボキシル基からなる群より選択される少なくとも1種の官能基を有する樹脂等が挙げられる。
【0048】
また、誘電体樹脂フィルムは、蒸着重合膜を主成分として含んでもよい。蒸着重合膜は、蒸着重合法により成膜されたものを指し、基本的には硬化性樹脂に含まれる。
【0049】
誘電体樹脂フィルムの厚みは特に限定されないが、0.5μm以上、5μm以下であることが望ましい。
なお、誘電体樹脂フィルムの厚みは、光学式膜厚計を用いて測定することができる。
【0050】
コンデンサ素子を構成する金属層に含まれる金属の種類は特に限定されないが、金属層は、アルミニウム(Al)、チタン(Ti)、亜鉛(Zn)、マグネシウム(Mg)、スズ(Sn)及びニッケル(Ni)からなる群より選ばれるいずれか1種を含むことが望ましい。
【0051】
金属層の厚みは特に限定されないが、金属層の破損を抑制する観点から、金属層の厚みは、5nm以上、40nm以下であることが望ましい。
なお、金属層の厚みは、金属化フィルムを厚み方向に切断した断面を、電界放出型走査電子顕微鏡(FE-SEM)等の電子顕微鏡を用いて観察することにより特定することができる。
【0052】
本発明の第1実施形態では、フィルムコンデンサの外装体は、
図1に示すようなコンデンサ素子10を被覆する外装樹脂40であってもよいし、後述の
図6に示すようなコンデンサ素子10との間に充填樹脂41を充填した樹脂ケース42であってもよい。
【0053】
外装樹脂40又は充填樹脂41の材料としては、例えば、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、ウレタン樹脂などの熱硬化性樹脂が用いられる。エポキシ樹脂の硬化剤には、アミン硬化剤、イミダゾール硬化剤を使用してもよい。また、外装樹脂40又は充填樹脂41には、樹脂のみを使用してもよいが、強度の向上を目的として、補強剤を添加してもよい。補強剤には、シリカ、アルミナなどを用いることができる。
【0054】
樹脂ケース42の材料としては、例えば、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、液晶ポリマー(LCP)などの樹脂が用いられる。
【0055】
本発明の第1実施形態では、被覆体は、
図1に示すようなコンデンサ素子10の外面に巻き回した巻回フィルム50である。
【0056】
巻回フィルム50は、例えば、ポリプロピレン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルイミド、ポリアリレートなどの熱可塑性樹脂からなる。
【0057】
誘電体樹脂フィルムが積層されている方向において、巻回フィルムの厚みは、コンデンサ素子の厚みの0.5%以上であることが望ましい。また、誘電体樹脂フィルムが積層されている方向において、巻回フィルムの厚みは、コンデンサ素子の厚みの5%以下であることが望ましい。
【0058】
1枚の巻回フィルムの厚みは特に限定されないが、10μm以上、30μm以下であることが望ましい。
なお、巻回フィルムの厚みは、光学式膜厚計を用いて測定することができる。
【0059】
巻回フィルムは、少なくとも一面が粗面化されているか、又は、両面に凸凹形状が設けられていることが望ましい。
この場合、巻回フィルムと外装体との間、又は、巻回フィルムとコンデンサ素子との間に、部分的な空隙が生じやすくなる。したがって、コンデンサ素子と外装体との間に生じる熱衝撃性を緩和する効果が得られる。
【0060】
図3は、巻回フィルムの一例を模式的に示す断面図である。
図3では、
図1の破線で囲まれた部分を拡大して示している。
図3に示す巻回フィルム50aは、外装樹脂40側の面のみが粗面化されている。
【0061】
巻回フィルムの少なくとも一面が粗面化されている場合、
図3に示すように、外装体側の面のみが粗面化されていることが望ましいが、コンデンサ素子側の面のみが粗面化されていてもよいし、外装体側の面及びコンデンサ素子側の面の両方が粗面化されていてもよい。
【0062】
巻回フィルムの少なくとも一面が粗面化されている場合、コンデンサ素子と外装体との間に生じる熱衝撃性を緩和する効果を得る観点から、巻回フィルムの粗面化された面の表面粗さRaは、0.05μm以上であることが望ましい。一方、巻回フィルムの粗面化された面の表面粗さRaは、0.3μm以下であることが望ましい。
なお、表面粗さRaは、JIS B 0601:2013において規定される算術平均粗さRaを意味する。表面粗さRaは、非接触式のレーザー表面粗さ計(例えば、キーエンス社製VK-X210)を使用して測定することができる。
【0063】
図4は、巻回フィルムの別の一例を模式的に示す断面図である。
図4では、
図1の破線で囲まれた部分を拡大して示している。
図4に示す巻回フィルム50bは、両面に凸凹形状が設けられており、一面に設けられた凸部が、他面に設けられた凹部の位置に設けられている。
【0064】
巻回フィルムの両面に凸凹形状が設けられている場合、
図4に示すように、一面に設けられた凸部が、他面に設けられた凹部の位置に設けられていることが望ましいが、両面に設けられている凸凹の形状やサイズ、配置等は特に限定されない。
【0065】
巻回フィルムの両面に凸凹形状が設けられている場合、コンデンサ素子と外装体との間に生じる熱衝撃性を緩和する効果を得る観点から、凸凹形状の凸部の高さは、0.01mm以上であることが望ましい。一方、凸凹形状の凸部の高さは、0.1mm以下であることが望ましい。
なお、凸部の高さは、
図4中、Hで示す長さを意味する。
【0066】
巻回フィルムの両面に凸凹形状が設けられている場合、巻回フィルムの表面には、1cm2当たり10個以上、50個以下の凸部が設けられていることが望ましく、15個以上、30個以下の凸部が設けられていることが望ましい。
【0067】
図5は、本発明の第1実施形態に係るフィルムコンデンサの別の一例を模式的に示す断面図である。
図5に示すフィルムコンデンサ1Aは、コンデンサ素子10の最外周部に巻回フィルム50を備えるだけでなく、コンデンサ素子10の最内周部に巻回フィルム51を備え、さらに、最内周部と最外周部の中間部に巻回フィルム52を備えている。
【0068】
本発明の第1実施形態に係るフィルムコンデンサは、コンデンサ素子の最外周部に加えて、最内周部に巻回フィルムを備えてもよい。また、本発明の第1実施形態に係るフィルムコンデンサは、
図5に示すように、コンデンサ素子の最内周部と最外周部に加えて、その中間部に巻回フィルムを備えてもよい。
【0069】
以下、本発明の第1実施形態をより具体的に開示した実施例を示す。なお、本発明の第1実施形態は、これらの実施例のみに限定されるものではない。
【0070】
(実施例1)
ポリビニルアセタールとポリイソシアネートの混合物を硬化させた熱硬化性樹脂からなる誘電体樹脂フィルムを準備した。この誘電体樹脂フィルムにアルミニウムを蒸着して電極とした金属化フィルムを巻回することでコンデンサ素子を得た。得られたコンデンサ素子の最外周部に、熱可塑性樹脂であるポリプロピレン(以下、PP)からなり、片面の表面粗さRaが0.01μmであるフィルム、0.05μmであるフィルム、又は、0.3μmであるフィルムを巻回した(
図3参照)。PPフィルムの巻回厚みは、金属化フィルムの巻回厚みに対して0.5%とした。
これらのコンデンサ素子の両端面に亜鉛を溶射して電極を引き出し、引出電極にリード線を溶接した後、エポキシ樹脂で外装することで、実施例1のフィルムコンデンサを作製した(
図1参照)。
【0071】
比較例として、金属化フィルムを巻回したコンデンサ素子の最外周部にPPフィルムを巻回しないフィルムコンデンサを作製した(
図7参照)。
【0072】
各々のフィルムコンデンサに対して、-40℃と125℃の試験槽に交互に1000回曝す熱衝撃試験を実施し、電気特性の劣化を確認した。
【0073】
比較例のフィルムコンデンサでは、熱衝撃試験前後のESR比が平均135%まで増加した。これに対し、実施例1のフィルムコンデンサでは、試験前後のESR比が平均107%(PPフィルムのRaが0.05μmであるもの)及び平均103%(PPフィルムのRaが0.3μmであるもの)であり、試験前後でESRはほとんど増加しなかった。PPフィルムのRaが0.01μmであるものは試験前後のESR比が平均122%であり、試験前後でESRは増加したものの、比較例に比べるとESRの増大を抑制することができていた。
【0074】
実施例1において、ESRの増大が抑制された理由は、コンデンサ素子の最外周部に巻回したPPフィルムによる被覆が、高温時にその弾性率が低下して軟らかくなるとともに表面粗さとも相まって、コンデンサ素子と外装体の間の熱膨張ストレスと温度の急変による熱衝撃とを緩和したためと考えられる。実施例1の結果から、表面粗さRaは0.05μm以上であることが望ましいと考えられる。
【0075】
(実施例2)
ポリビニルアセタールとポリイソシアネートの混合物を硬化させた熱硬化性樹脂からなる誘電体樹脂フィルムを準備した。この誘電体樹脂フィルムにアルミニウムを蒸着して電極とした金属化フィルムを巻回することでコンデンサ素子を得た。得られたコンデンサ素子の最外周部に、熱可塑性樹脂であるPPからなり、表面をエンボス加工して1cm
2当たり25個の凸部を有し、凸部の高さが0.01mm又は0.1mmの凸凹形状にしたフィルムを巻回した(
図4参照)。PPフィルムの巻回厚みは、実施例1と同様にした。
実施例1と同様に、フィルムコンデンサを作製し、熱衝撃試験を実施した。
【0076】
実施例2のフィルムコンデンサでは、熱衝撃試験前後のESR比はともに平均102%であり、試験前後でESRはほとんど増加しなかった。
【0077】
実施例2において、ESRの増大が抑制された理由は、コンデンサ素子の最外周部に巻回したPPフィルムによる被覆が、実施例1と同様にコンデンサ素子と外装体の間の熱膨張ストレスと温度の急変による熱衝撃とを緩和したためと考えられる。実施例2の結果から、凸部の高さは0.01mmもあれば充分と考えられる。
【0078】
(実施例3)
ポリビニルアセタールとポリイソシアネートの混合物を硬化させた熱硬化性樹脂からなる誘電体樹脂フィルムを準備した。この誘電体樹脂フィルムにアルミニウムを蒸着して電極とした金属化フィルムを巻回することでコンデンサ素子を得た。得られたコンデンサ素子に対し、熱可塑性樹脂であるPPからなり、片面の表面粗さRaが0.3μmであるフィルムを、コンデンサ素子の最内周部と最外周部に巻回した構成とした。また、コンデンサ素子の最内周部と最外周部に加え、その中間部にも巻回した構成とした(
図5参照)。最外周部のPPフィルムの巻回厚みは、金属化フィルムの巻回厚みに対して0.5%とした。
実施例1と同様にして、フィルムコンデンサを作製し、熱衝撃試験を実施した。
【0079】
実施例3のフィルムコンデンサでは、熱衝撃試験前後のESR比は平均102%(PPフィルムを最内周部と最外周部に巻回したもの)及び平均104%(PPフィルムを中間部にも巻回したもの)であり、PPフィルムを最外周部のみに巻回した実施例1と同程度に増加しなかった。
【0080】
実施例3において、ESRの増大が抑制された理由は、PPフィルムをコンデンサ素子の最外周部だけでなく最内周部や中間部に巻回しても、コンデンサ素子と外装体の間の熱膨張ストレスと温度の急変による熱衝撃とを緩和する効果が実施例1と同程度に得られるためと考えられる。
【0081】
[第2実施形態]
本発明の第2実施形態に係るフィルムコンデンサでは、被覆体は、コンデンサ素子の外面に設けた被膜である。
【0082】
図6は、本発明の第2実施形態に係るフィルムコンデンサの一例を模式的に示す断面図である。
図6に示すフィルムコンデンサ2は、コンデンサ素子10を備えている。コンデンサ素子10は、金属化フィルムの巻回体20と、巻回体20の両側方に形成された第1の外部電極21及び第2の外部電極22とを備えている。
図1に示すフィルムコンデンサ1と同様、巻回体20は、第1の誘電体樹脂フィルムの一方の面に第1の金属層が設けられた第1の金属化フィルムと、第2の誘電体樹脂フィルムの一方の面に第2の金属層が設けられた第2の金属化フィルムとが積層された状態で巻回されたものである。第1の外部電極21には第1のリード線31が電気的に接続され、第2の外部電極22には第2のリード線32が電気的に接続されている。
【0083】
図6に示すフィルムコンデンサ2は、さらに、被覆体の一例である被膜60と、外装体の一例である充填樹脂41及び樹脂ケース42とを備えている。被膜60は、コンデンサ素子10の外面に設けられており、金属層を介して誘電体樹脂フィルムが積層されている方向において、コンデンサ素子10の外面を被覆している。また、コンデンサ素子10との間に充填樹脂41を充填した樹脂ケース42は、被膜60の外面を含んでコンデンサ素子10の外周を覆っている。
【0084】
本発明の第2実施形態では、フィルムコンデンサの外装体は、
図6に示すようなコンデンサ素子10との間に充填樹脂41を充填した樹脂ケース42であってもよいし、前述の
図1に示すようなコンデンサ素子10を被覆する外装樹脂40であってもよい。
【0085】
本発明の第2実施形態では、被覆体は、
図6に示すようなコンデンサ素子10の外面に設けた被膜60である。
【0086】
被膜60は、例えば、ポリカーボネート、ポリアリレートなどの熱可塑性樹脂からなる。
【0087】
誘電体樹脂フィルムが積層されている方向において、被膜の厚みは、コンデンサ素子の厚みの0.5%以上であることが望ましい。また、誘電体樹脂フィルムが積層されている方向において、被膜の厚みは、コンデンサ素子の厚みの5%以下であることが望ましい。
【0088】
被膜は、その内部に気泡を有することが望ましい。
この場合、粗面化された巻回フィルムや凸凹形状が設けられた巻回フィルムと同様に、コンデンサ素子と外装体との間に生じる熱衝撃性を緩和する効果が得られる。
なお、被膜の内部に気泡が存在することは、走査型電子顕微鏡(SEM)などを用いた断面観察により確認することができる。
【0089】
その他の構成は、本発明の第1実施形態と同様である。
【0090】
以下、本発明の第2実施形態をより具体的に開示した実施例を示す。なお、本発明の第2実施形態は、これらの実施例のみに限定されるものではない。
【0091】
(実施例4)
ポリビニルアセタールとポリイソシアネートの混合物を硬化させた熱硬化性樹脂からなる誘電体樹脂フィルムを準備した。この誘電体樹脂フィルムにアルミニウムを蒸着して電極とした金属化フィルムを巻回することでコンデンサ素子を得た。得られたコンデンサ素子の両端面に亜鉛を溶射して電極を引き出し、引出電極にリード線を溶接した。続いて、熱可塑性樹脂であるポリカーボネートのテトラヒドロフラン溶液中に浸漬し、溶剤を除去することで被膜を形成した。被膜の厚みは、金属化フィルムの巻回厚みに対して0.5%とした。その後、エポキシ樹脂を充填したPPSからなる樹脂ケースで外装することで、実施例4のフィルムコンデンサを作製した(
図6参照)。
実施例1と同様に、フィルムコンデンサに対して熱衝撃試験を実施した。
【0092】
実施例4のフィルムコンデンサでは、熱衝撃試験前後のESR比は平均105%であり、試験前後でESRの増加は小さかった。
【0093】
実施例4において、ESRの増大が抑制された理由は、熱硬化性樹脂からなる誘電体樹脂フィルムを備えるコンデンサ素子に熱可塑性樹脂であるポリカーボネートの被覆を設けたことにより、コンデンサ素子の最外周部にPPフィルムを巻回した場合と同様の効果が得られたためと考えられる。
【0094】
なお、被膜の表面を粗さなくても実施例1と同様の効果が得られた理由としては、熱可塑性樹脂の溶液中に浸漬し、溶剤を除去することで形成した被膜には、微小な気泡が含まれることが多く、その気泡による弾性率と熱伝達スピードの低下による効果が寄与したものと考えられる。したがって、気泡による効果をより確実にするためには、浸漬後の溶剤除去を加熱下で行う、あるいは、発泡剤を添加するなどの方法も有効であると考えられる。
【0095】
[その他の実施形態]
本発明のフィルムコンデンサは、コンデンサ素子と外装体との間の熱膨張ストレスを抑えることによって、あるいは、コンデンサ素子と外装体との間の熱伝達を阻害することによって、熱衝撃性を緩和し、それによりESRの増大を抑制するものである。
したがって、以下の特徴を有するフィルムコンデンサも、本発明のフィルムコンデンサに含まれる。
【0096】
本発明の第3実施形態に係るフィルムコンデンサは、誘電体樹脂フィルムの一方の面に金属層が設けられた金属化フィルムが巻回又は積層されてなるコンデンサ素子と、上記金属層を介して上記誘電体樹脂フィルムが積層されている方向において、上記コンデンサ素子の外面を被覆する被覆体と、上記被覆体の外面を含んで上記コンデンサ素子の外周を覆う外装体と、を備えるフィルムコンデンサであって、上記被覆体の25℃における弾性率は、上記誘電体樹脂フィルムの25℃における弾性率に対して30%以上、150%以下であり、上記被覆体の125℃における弾性率は、上記誘電体樹脂フィルムの125℃における弾性率に対して1%以上、30%以下である。
【0097】
本発明の第3実施形態に係るフィルムコンデンサにおいて、上記被覆体の125℃における弾性率は、上記誘電体樹脂フィルムの125℃における弾性率に対して10%以下であることが望ましく、5%以下であることがより望ましい。
【0098】
なお、25℃又は125℃における弾性率は、動的粘弾性測定装置(DMA)を用いて測定される貯蔵弾性率を意味する。
【0099】
本発明の第4実施形態に係るフィルムコンデンサは、誘電体樹脂フィルムの一方の面に金属層が設けられた金属化フィルムが巻回又は積層されてなるコンデンサ素子と、上記金属層を介して上記誘電体樹脂フィルムが積層されている方向において、上記コンデンサ素子の外面を被覆する被覆体と、上記被覆体の外面を含んで上記コンデンサ素子の外周を覆う外装体と、を備えるフィルムコンデンサであって、上記被覆体は、上記コンデンサ素子の外面に巻き回した巻回フィルムであり、上記巻回フィルムは、少なくとも一面が粗面化されているか、又は、両面に凸凹形状が設けられている。
【0100】
本発明の第4実施形態に係るフィルムコンデンサにおいて、上記巻回フィルムと上記外装体との間、又は、上記巻回フィルムと上記コンデンサ素子との間には、部分的に空隙を有することが望ましい。
【0101】
本発明の第5実施形態に係るフィルムコンデンサは、誘電体樹脂フィルムの一方の面に金属層が設けられた金属化フィルムが巻回又は積層されてなるコンデンサ素子と、上記金属層を介して上記誘電体樹脂フィルムが積層されている方向において、上記コンデンサ素子の外面を被覆する被覆体と、上記被覆体の外面を含んで上記コンデンサ素子の外周を覆う外装体と、を備えるフィルムコンデンサであって、上記被覆体は、上記コンデンサ素子の外面に設けた被膜であり、上記被膜は、その内部に気泡を有する。
【0102】
本発明の第3実施形態、第4実施形態及び第5実施形態に係るフィルムコンデンサにおいて、誘電体樹脂フィルムは、熱硬化性樹脂などの硬化性樹脂を主成分として含んでもよいし、熱可塑性樹脂を主成分として含んでもよい。また、被覆体は、熱可塑性樹脂から構成されてもよいし、熱硬化性樹脂などの硬化性樹脂から構成されてもよい。中でも、上記誘電体樹脂フィルムは、硬化性樹脂を主成分として含むことが望ましく、上記被覆体は、熱可塑性樹脂からなることが望ましい。
【0103】
その他、本発明のフィルムコンデンサは、上記実施形態及び実施例に限定されるものではなく、フィルムコンデンサの構成、製造条件等に関し、本発明の範囲内において、種々の応用、変形を加えることが可能である。
【符号の説明】
【0104】
1,1A,2,100 フィルムコンデンサ
10 コンデンサ素子
11 第1の金属化フィルム
12 第2の金属化フィルム
13 第1の誘電体樹脂フィルム
14 第2の誘電体樹脂フィルム
15 第1の金属層
16 第2の金属層
20 金属化フィルムの巻回体
21 第1の外部電極
22 第2の外部電極
31 第1のリード線
32 第2のリード線
40 外装樹脂(外装体)
41 充填樹脂(外装体)
42 樹脂ケース(外装体)
50,50a,50b 巻回フィルム(被覆体)
51,52 巻回フィルム
60 被膜(被覆体)