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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-07
(45)【発行日】2023-02-15
(54)【発明の名称】新規化合物及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C09B 11/28 20060101AFI20230208BHJP
   C09B 57/00 20060101ALI20230208BHJP
   C09B 67/20 20060101ALI20230208BHJP
   C09B 67/44 20060101ALI20230208BHJP
   C09K 9/02 20060101ALI20230208BHJP
【FI】
C09B11/28 N CSP
C09B57/00 Z
C09B67/20 F
C09B67/44 A
C09K9/02 B
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2018162404
(22)【出願日】2018-08-31
(65)【公開番号】P2020033489
(43)【公開日】2020-03-05
【審査請求日】2021-08-25
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成28年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、プログラム・マネージャー(PM)の育成・活躍推進プログラム事業、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】503359821
【氏名又は名称】国立研究開発法人理化学研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110003063
【氏名又は名称】弁理士法人牛木国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100080089
【弁理士】
【氏名又は名称】牛木 護
(74)【代理人】
【識別番号】100121153
【弁理士】
【氏名又は名称】守屋 嘉高
(74)【代理人】
【識別番号】100194892
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 麻美
(72)【発明者】
【氏名】神野 伸一郎
(72)【発明者】
【氏名】澤田 大介
(72)【発明者】
【氏名】榎本 秀一
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 恭良
【審査官】井上 明子
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第08134017(US,B1)
【文献】特開2016-050894(JP,A)
【文献】特開2012-219258(JP,A)
【文献】国際公開第2002/014434(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09B
C09K 9/02
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表される化合物。
【化1】
一般式(1)中、
1は、それぞれ独立に水素原子、炭素数1~6のアルキル基もしくは炭素数6~14のアリール基を示すか、2つのR1同士が結合して環を形成してもよく、又は2つのR1が結合している窒素原子と共にヘテロ環を形成していてもよい。
2は、それぞれ独立に水素原子、炭素数1~6のアルキル基もしくは炭素数6~14のアリール基を示すか、2つのR2同士が結合して環を形成してもよく、又は2つのR2が結合している窒素原子と共にヘテロ環を形成していてもよい。
3及びR4は、それぞれ独立に水素原子、炭素数1~6のアルキル基又は置換されていてもよい炭素数6~14のアリール基を示す。
5及びR6は、それぞれ独立にハロゲン原子、炭素数1~6のアルキル基又はカルボキシル基を示すが、R1とR5が結合して環を形成してもよく、R2とR6が結合して環を形成してもよい。
m及びnはそれぞれ独立に0~3の数を示す。
Xは、炭素数1~4のアルキル基、アジ基(N3)、ハロゲン原子、シアノ基(CN)又は(CH2)C(=O)Rで表されるカルボニル基(Rは水素原子又は炭素数1~4のアルキル基を示す)を示す。
【請求項2】
一般式(1)中のR3及びR4が、それぞれ独立に、下記式(2)で表されるアリール基である、請求項1に記載の化合物。
【化2】
式(2)中、
7は、カルボキシル基又はアルコキシカルボニル基であり、
8は、それぞれ独立にハロゲン原子、炭素数1~6のアルキル基又はカルボキシル基を示すが、複数のR8が結合して環を形成していてもよい。
lは0~4の数を示す。
【請求項3】
一般式(1)中のXが、メチル基、アジ基(N3)、ヨウ素原子、シアノ基(CN)又は(CH2)C(=O)CH3で表されるカルボニル基である、請求項1又は2に記載の化合物。
【請求項4】
一般式(1’)で表される化合物と求核剤とを反応させることを特徴とする、請求項1~3のいずれか1項に記載の一般式(1)で表される化合物の製造方法。
【化3】
一般式(1’)中、
1は、それぞれ独立に水素原子、炭素数1~6のアルキル基もしくは炭素数6~14のアリール基を示すか、2つのR1同士が結合して環を形成してもよく、又は2つのR1が結合している窒素原子と共にヘテロ環を形成していてもよい。
2は、それぞれ独立に水素原子、炭素数1~6のアルキル基もしくは炭素数6~14のアリール基を示すか、2つのR2同士が結合して環を形成してもよく、又は2つのR2が結合している窒素原子と共にヘテロ環を形成していてもよい。
3及びR4は、それぞれ独立に水素原子、炭素数1~6のアルキル基又は置換されていてもよい炭素数6~14のアリール基を示す。
5及びR6は、それぞれ独立にハロゲン原子、炭素数1~6のアルキル基又はカルボキシル基を示すが、R1とR5が結合して環を形成してもよく、R2とR6が結合して環を形成してもよい。
m及びnはそれぞれ独立に0~3の数を示す。
【請求項5】
一般式(1’)中のR3及びR4が、それぞれ独立に、下記式(2)で表されるアリール基である、請求項4に記載の製造方法。
【化4】
式(2)中、
7は、カルボキシル基又はアルコキシカルボニル基であり、
8は、それぞれ独立にハロゲン原子、炭素数1~6のアルキル基又はカルボキシル基を示すが、複数のR8が結合して環を形成していてもよい。
lは0~4の数を示す。
【請求項6】
求核剤が、炭素数1~4のアルキルグリニャール試薬、炭素数1~4のアルキルリチウム、ヨードトリメチルシラン及びトリメチルシリルシアニドから選ばれる少なくとも1種である、請求項4又は5に記載の製造方法。
【請求項7】
求核剤が、(CH3)C(=O)Rで表されるケトン(Rは水素原子又は炭素数1~4のアルキル基を示す)、トリメチルシリルアジド及びアジ化ナトリウムから選ばれる少なくとも1種と、塩基との反応により得られるものである、請求項4又は5に記載の製造方法。
【請求項8】
請求項1~3のいずれか1項に記載の一般式(1)で表される化合物を含む、色素組成物。
【請求項9】
外部刺激によるクロミック機能を有する請求項8に記載の色素組成物。
【請求項10】
少なくとも1種のアミノベンゾピラノキサンテン系色素化合物を含む、吸収波長λ1の組成物を準備すること、
前記少なくとも1種のアミノベンゾピラノキサンテン系色素化合物の9位に、少なくとも1種の置換基を導入することにより、前記組成物の吸収波長をλ2(但しλ1<λ2)にシフトさせること、を含む方法であって、前記アミノベンゾピラノキサンテン系色素化合物が、下記の構造
【化5】
(上記式中、R a 及びR b はそれぞれ、無置換のアミノ基、モノ置換アミノ基又はジ置換アミノ基であって、ジ置換アミノ基の場合は2つの置換基が互いに結合して環を形成していてもよく、1以上の置換基が上記の環と縮環を形成していてもよい。*はアミノベンゾピラノキサンテン系色素化合物の9位の位置を示す。A及びBのベンゼン環それぞれのオルト位の水素原子はカルボキシ基又は炭素数1~6のアルコキシカルボニル基で置換されていてもよい。)
を有する化合物である方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、近赤外発光を示す新規有機π共役系化合物及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近赤外光は物質や生体等に対して非侵襲且つ高透過である。そのため、近赤外光は情報通信、光イメージング、光線力学療法、酸素モニター、セキュリティカメラ、ナイトビジョンなど様々な分野での利用が期待されている。
【0003】
近赤外光発光体としてガリウム系の無機発光体が使用されているが、この無機発光体は重金属の使用による環境毒性や高い製造コストなどの問題を有している。
したがって、安価で加工成形がしやすく、環境負荷の少ない新たな有機近赤外光発光体の開発が望まれている。
【0004】
これまで、有機近赤外光発光体として、シアニン系色素、ローダミン系色素、フタロシアニン系色素などが開発されているが、その種類は限られている。
本発明者らが開発した、ローダミン系色素が2分子縮合したアミノベンゾピラノキサンテン系(ABPX)色素化合物は、酸との反応によって、中性型、モノカチオン型及びジカチオン型の3つの構造をとり得ること、及びジカチオン型が高い発光効率を有する優れた発光材料であることが開示されている(特許文献1~2)。しかしながら、その発光波長は長くても680nm程度であり、近赤外域(700nm超え)には達していない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】米国特許第8134017号明細書
【文献】特開2017-88879号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従って、本発明は、加工成形がしやすく、環境負荷が少なく、近赤外発光を示す新規有機化合物及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を行った結果、以下の化合物及びその製造方法が上述した課題を解決できることを見出し、本発明に想到するに至った。
【0008】
即ち、本発明は、次の発明を提供するものである。
【0009】
<1>
下記一般式(1)で表される化合物。
【化1】
一般式(1)中、
1は、それぞれ独立に水素原子、炭素数1~6のアルキル基もしくは炭素数6~14のアリール基を示すか、2つのR1同士が結合して環を形成してもよく、又は2つのR1が結合している窒素原子と共にヘテロ環を形成していてもよい。
2は、それぞれ独立に水素原子、炭素数1~6のアルキル基もしくは炭素数6~14のアリール基を示すか、2つのR2同士が結合して環を形成してもよく、又は2つのR2が結合している窒素原子と共にヘテロ環を形成していてもよい。
3及びR4は、それぞれ独立に水素原子、炭素数1~6のアルキル基又は置換されていてもよい炭素数6~14のアリール基を示す。
5及びR6は、それぞれ独立にハロゲン原子、炭素数1~6のアルキル基又はカルボキシル基を示すが、R1とR5が結合して環を形成してもよく、R2とR6が結合して環を形成してもよい。
m及びnはそれぞれ独立に0~3の数を示す。
Xは、炭素数1~4のアルキル基、アジ基(N3)、ハロゲン原子、シアノ基(CN)又は(CH2)C(=O)Rで表されるカルボニル基(Rは水素原子又は炭素数1~4のアルキル基を示す)を示す。
<2>
一般式(1)中のR3及びR4が、それぞれ独立に、下記式(2)で表されるアリール基である、<1>に記載の化合物。
【化2】
式(2)中、
7は、カルボキシル基又はアルコキシカルボニル基であり、
8は、それぞれ独立にハロゲン原子、炭素数1~6のアルキル基又はカルボキシル基を示すが、複数のR8が結合して環を形成していてもよい。
lは0~4の数を示す。
<3>
一般式(1)中のXが、メチル基、アジ基(N3)、ヨウ素原子、シアノ基(CN)又は(CH2)C(=O)CH3で表されるカルボニル基である、<1>又は<2>に記載の化合物。
<4>
一般式(1’)で表される化合物と求核剤とを反応させることを特徴とする、<1>~<3>のいずれか1項に記載の一般式(1)で表される化合物の製造方法。
【化3】
一般式(1’)中、
1は、それぞれ独立に水素原子、炭素数1~6のアルキル基もしくは炭素数6~14のアリール基を示すか、2つのR1同士が結合して環を形成してもよく、又は2つのR1が結合している窒素原子と共にヘテロ環を形成していてもよい。
2は、それぞれ独立に水素原子、炭素数1~6のアルキル基もしくは炭素数6~14のアリール基を示すか、2つのR2同士が結合して環を形成してもよく、又は2つのR2が結合している窒素原子と共にヘテロ環を形成していてもよい。
3及びR4は、それぞれ独立に水素原子、炭素数1~6のアルキル基又は置換されていてもよい炭素数6~14のアリール基を示す。
5及びR6は、それぞれ独立にハロゲン原子、炭素数1~6のアルキル基又はカルボキシル基を示すが、R1とR5が結合して環を形成してもよく、R2とR6が結合して環を形成してもよい。
m及びnはそれぞれ独立に0~3の数を示す。
<5>
一般式(1')中のR3及びR4が、それぞれ独立に、下記式(2)で表されるアリール基である、<4>に記載の製造方法。
【化4】
式(2)中、
7は、カルボキシル基又はアルコキシカルボニル基であり、
8は、それぞれ独立にハロゲン原子、炭素数1~6のアルキル基又はカルボキシル基を示すが、複数のR8が結合して環を形成していてもよい。
lは0~4の数を示す。
<6>
求核剤が、炭素数1~4のアルキルグリニャール試薬、炭素数1~4のアルキルリチウム、ヨードトリメチルシラン及びトリメチルシリルシアニドから選ばれる少なくとも1種である、<4>又は<5>に記載の製造方法。
<7>
求核剤が、(CH3)C(=O)Rで表されるケトン(Rは水素原子又は炭素数1~4のアルキル基を示す)、トリメチルシリルアジド及びアジ化ナトリウムから選ばれる少なくとも1種と、塩基との反応により得られるものである、<4>又は<5>に記載の製造方法。
<8>
<1>~<3>のいずれか1項に記載の一般式(1)で表される化合物を含む、色素組成物。
<9>
外部刺激によるクロミック機能を有する<8>に記載の色素組成物。
<10>
少なくとも1種のアミノベンゾピラノキサンテン系色素化合物を含む、吸収波長λ1の組成物を準備すること、
前記少なくとも1種のアミノベンゾピラノキサンテン系色素化合物の9位に置換基を導入することにより、前記組成物の吸収波長をλ2(但しλ1<λ2)にシフトさせること、を含む方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明の化合物は、近赤外発光を示し、各種有機溶媒に溶解するため加工成形がしやすく、また環境負荷が少ない。したがって、本発明の化合物は、各種分野に使用される有機近赤外発光体として有用な、新規化合物として期待される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施例1で得られた化合物の吸収スペクトル(図1A)及び蛍光スペクトル(図1B)である。
図2】本発明の化合物のDFT計算によるHOMO及びLUMOのエネルギー準位と分子軌道を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0013】
[化合物]
本発明の化合物は、下記一般式(1)で表されるものである。
【0014】
【化5】
【0015】
一般式(1)中、R1は、それぞれ独立に水素原子、炭素数1~6のアルキル基もしくは炭素数6~14のアリール基を示すか、2つのR1同士が結合して環を形成してもよく、又は2つのR1が結合している窒素原子と共にヘテロ環を形成していてもよい。
一般式(1)中、R2は、それぞれ独立に水素原子、炭素数1~6のアルキル基もしくは炭素数6~14のアリール基を示すか、2つのR2同士が結合して環を形成してもよく、又は2つのR2が結合している窒素原子と共にヘテロ環を形成していてもよい。
【0016】
一般式(1)のR1及びR2で表される炭素数1~6のアルキル基は、直鎖状でも分岐状でもよく、シクロアルキル基及びビシクロアルキル基も含まれる。具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、s-ブチル基、t-ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等が挙げられる。これらのなかでも、メチル基及びエチル基が好ましい。
【0017】
一般式(1)のR1及びR2で表される炭素数6~14のアリール基は、単環式であっても多環式であってもよく、ベンゼン環又は縮合環2個以上が単結合を介して結合した基、2価の有機基(例えば、ビニレン基等のアルケニレン基)を介して結合した基、及びヘテロアリール基も含まれる。具体的には、フェニル基、アルキルフェニル基、アルコキシフェニル基、1-ナフチル基、2-ナフチル基、1-アントラセニル基、2-アントラセニル基、9-アントラセニル基、2-ビフェニル基、3-ビフェニル基、4-ビフェニル基、チエニル基、ピリジル基、インドリル基等が挙げられる。アリール基の水素原子はハロゲン原子等で置換されていてもよい。これらのなかでも、フェニル基が好ましい。
【0018】
一般式(1)の2つのR1同士又は2つのR2同士が結合して環を形成している場合、2つのR1又は2つのR2はそれぞれ酸素原子及び硫黄原子等のヘテロ原子を介して結合してもよく、R1又はR2が結合する窒素原子と共に表すと、例えば以下の構造が挙げられる。
【化6】
【0019】
一般式(1)のR1又はR2が結合している窒素原子と共にヘテロ環を形成している場合としては、R1又はR2が結合する窒素原子と共に表すと、例えば以下の構造が挙げられる。
【化7】
【0020】
一般式(1)中、R3及びR4は、それぞれ独立に水素原子、炭素数1~6のアルキル基又は置換されていてもよい炭素数6~14のアリール基を示す。
【0021】
一般式(1)のR3及びR4で表される炭素数1~6のアルキル基は、直鎖状でも分岐状でもよく、シクロアルキル基及びビシクロアルキル基も含まれる。具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、s-ブチル基、t-ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等が挙げられる。
【0022】
一般式(1)のR3及びR4で表される置換されていてもよい炭素数6~14のアリール基は、単環式であっても多環式であってもよく、ベンゼン環又は縮合環2個以上が単結合を介して結合した基、2価の有機基(例えば、ビニレン基等のアルケニレン基)を介して結合した基、及びヘテロアリール基も含まれる。具体的には、フェニル基、アルキルフェニル基、アルコキシフェニル基、1-ナフチル基、2-ナフチル基、1-アントラセニル基、2-アントラセニル基、9-アントラセニル基、2-ビフェニル基、3-ビフェニル基、4-ビフェニル基、チエニル基、ピリジル基、インドリル基等が挙げられる。また、置換アリール基としては、下記式(2)で表されるアリール基が挙げられる。一般式(1)のR3及びR4は、下記式(2)で表されるアリール基であることが好ましい。
【0023】
【化8】
式(2)中、R7は、カルボキシル基又はメトキシカルボニル基、エトキシカルボニル等のアルコキシカルボニル基であり、R8は、それぞれ独立にフッ素原子、塩素原子、臭素原子及びヨウ素原子等のハロゲン原子、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、s-ブチル基、t-ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基等の炭素数1~6のアルキル基又はカルボキシル基を示すが、複数のR8が結合して環を形成していてもよい。lは0~4の数を示す。なお、R8が複数ある場合、それらはそれぞれ同一でも異なっていてもよい。
【0024】
一般式(1)中、R5及びR6は、それぞれ独立にハロゲン原子、炭素数1~6のアルキル基又はカルボキシル基を示すが、R1とR5が結合して環を形成してもよく、R2とR6が結合して環を形成してもよい。
5が複数ある場合、それらはそれぞれ同一でも異なっていてもよい。また、R6が複数ある場合、それらはそれぞれ同一でも異なっていてもよい。
【0025】
一般式(1)のR5及びR6で表されるハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子及びヨウ素原子が挙げられる。
【0026】
一般式(1)のR5及びR6で表される炭素数1~6のアルキル基は、直鎖状でも分岐状でもよく、シクロアルキル基及びビシクロアルキル基も含まれる。具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、s-ブチル基、t-ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等が挙げられる。R5又はR6が複数ある場合、それらはそれぞれ同一であっても異なっていてもよい。
【0027】
一般式(1)中、m及びnはそれぞれ独立に0~3の数を示す。
【0028】
一般式(1)中、Xは、炭素数1~4のアルキル基、アジ基(N3)、ハロゲン原子、シアノ基(CN)又は(CH2)C(=O)Rで表されるカルボニル基(Rは炭素数1~4のアルキル基を示す)を示す。Rで表される炭素数1~4のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、s-ブチル基、t-ブチル基等が挙げられるが、メチル基が好ましい。
【0029】
一般式(1)で表される化合物は、R3及びR4が共に式(2)で表される置換アリール基であるもの、具体的には以下の一般式(1-1)で表されるものが好ましい。
【化9】
一般式(1-1)中、
1は、それぞれ独立に水素原子、炭素数1~6のアルキル基もしくは炭素数6~14のアリール基を示すか、2つのR1同士が結合して環を形成してもよく、又は2つのR1が結合している窒素原子及び該窒素原子と隣接するベンゼン環と共にヘテロ環を形成していてもよい。
2は、それぞれ独立に水素原子、炭素数1~6のアルキル基もしくは炭素数6~14のアリール基を示すか、2つのR2同士が結合して環を形成してもよく、又は2つのR2が結合している窒素原子と共にヘテロ環を形成していてもよい。
5及びR6は、それぞれ独立にハロゲン原子、炭素数1~6のアルキル基又はカルボキシル基を示すが、R1とR5が結合して環を形成してもよく、R2とR6が結合して環を形成してもよい。
m及びnはそれぞれ独立に0~3の数を示す。
Xは、炭素数1~4のアルキル基、アジ基(N3)、ハロゲン原子、シアノ基(CN)又は(CH2)C(=O)Rで表されるカルボニル基(Rは水素原子又は炭素数1~4のアルキル基を示す)を示す。
7は、カルボキシル基又はアルコキシカルボニル基であり、
8は、それぞれ独立にハロゲン原子、炭素数1~6のアルキル基又はカルボキシル基を示すが、複数のR8が結合して環を形成していてもよい。
lは0~4の数を示す。
一般式(1-1)中のR1、R2、R5、R6、R7、R8、X、l、m及びnの具体的なものとしては、それぞれ、一般式(1)及び(2)で例示したものと同様のものが挙げられる。
【0030】
[化合物の製造方法]
一般式(1)で表される化合物は、例えば、一般式(1')で表される化合物と求核剤とを反応させることにより製造することができる。
【0031】
【化10】
【0032】
一般式(1')中、R1は、それぞれ独立に水素原子、炭素数1~6のアルキル基もしくは炭素数6~14のアリール基を示すか、2つのR1同士が結合して環を形成してもよく、又はR1が結合している窒素原子と共にヘテロ環を形成していてもよい。
一般式(1')中、R2は、それぞれ独立に水素原子、炭素数1~6のアルキル基もしくは炭素数6~14のアリール基を示すか、2つのR2同士が結合して環を形成してもよく、又はR2が結合している窒素原子と共にヘテロ環を形成していてもよい。
1及びR2の具体例としては、上述した一般式(1)におけるR1及びR2と同様のものが挙げられる。
【0033】
一般式(1')中、R3及びR4は、それぞれ独立に水素原子、炭素数1~6のアルキル基又は置換されていてもよい炭素数6~14のアリール基を示す。R3及びR4の具体例としては、上述した一般式(1)におけるR3及びR4と同様のものが挙げられる。
【0034】
一般式(1')中、R5及びR6は、それぞれ独立にハロゲン原子、炭素数1~6のアルキル基又はカルボキシル基を示すが、R1とR5が結合して環を形成してもよく、R2とR6が結合して環を形成してもよい。R5及びR6の具体例としては、上述した一般式(1)におけるR5及びR6と同様のものが挙げられる。
【0035】
一般式(1')中、m及びnはそれぞれ独立に0~3の数を示す。
【0036】
一般式(1')で表される化合物は、既報により製造することができる。
例えば、一般式(1')において、R3及びR4が、それぞれ一般式(2)で表されるアリール基である場合、即ち、一般式(1')で表される化合物が以下の一般式(1'-1)で表されるジカチオン型のアミノベンゾピラノキサンテン(ABPX)系化合物である場合には、例えば、特開2017-88879号公報に記載の方法により製造することができる。
【化11】
一般式(1’-1)中、
1は、それぞれ独立に水素原子、炭素数1~6のアルキル基もしくは炭素数6~14のアリール基を示すか、2つのR1同士が結合して環を形成してもよく、又は2つのR1が結合している窒素原子と共にヘテロ環を形成していてもよい。
2は、それぞれ独立に水素原子、炭素数1~6のアルキル基もしくは炭素数6~14のアリール基を示すか、2つのR2同士が結合して環を形成してもよく、又は2つのR2が結合している窒素原子と共にヘテロ環を形成していてもよい。
5及びR6は、それぞれ独立にハロゲン原子、炭素数1~6のアルキル基又はカルボキシル基を示すが、R1とR5が結合して環を形成してもよく、R2とR6が結合して環を形成してもよい。
m及びnはそれぞれ独立に0~3の数を示す。
7は、カルボキシル基又はアルコキシカルボニル基であり、
8は、それぞれ独立にハロゲン原子、炭素数1~6のアルキル基又はカルボキシル基を示すが、複数のR8が結合して環を形成していてもよい。
lは0~4の数を示す。
より具体的には、
第1工程:特開2017-88879号公報に記載の方法により、特開2017-88879号公報の一般式(3)で表される化合物又は一般式(7)で表される化合物、即ち中性型のアミノベンゾピラノキサンテン系化合物を得る工程、及び
第2工程:第1工程により得られた中性型のアミノベンゾピラノキサンテン系化合物を後述する溶媒中で、ジカチオン型となるよう酸を加え、中性型からジカチオン型へ変換する工程
により、ジカチオン型のアミノベンゾピラノキサンテン系化合物である一般式(1'-1)で表される化合物が得られる。
【0037】
第2工程で加えられる酸としては、硫酸、塩酸、硝酸、トリフルオロ酢酸、トリフルオロメタンスルホン酸、メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸などが挙げられる。加える酸の量は、通常、中性型のアミノベンゾピラノキサンテン系化合物の溶液に対して、0.1~10体積%となる量、好ましくは2.5~5.0体積%となる量である。
【0038】
このとき、メタノール、エタノール等のアルコールを系に共存させることにより、式(1'-1)のR7で表される基がアルコキシカルボニル基であるジカチオン型のアミノベンゾピラノキサンテン系化合物が得られる。
ここで加えられるアルコールの量は、中性型のアミノベンゾピラノキサンテン系化合物に対して2.0~20 モル当量となる量、好ましくは5.0~10 モル当量となる量である。
【0039】
中性型からジカチオン型への変換に用いられる溶媒は、中性型のアミノベンゾピラノキサンテン系化合物を溶解でき、これと反応しない溶媒から適宜選択されるが、具体的に、トルエン、キシレン、ベンゼン、ジクロロメタン、ジクロロエタン等が挙げられる。
【0040】
中性型からジカチオン型への変換は、通常、室温で行なってもよいが、特にメタノール等のアルコールを共存させ、R7がアルコキシカルボニル基であるジカチオン型のアミノベンゾピラノキサンテン系化合物を得る場合は、80℃で12~24時間加熱して反応することが好ましい。
【0041】
また、一般式(1')において、R3及びR4が、それぞれ水素原子又はアルキル基である場合、例えば、J. Org. Chem. 2017, 82, 13626-13631のScheme 4に記載の方法に準じて、より具体的には以下の方法により、一般式(1')で表される化合物を製造することができる。
【化12】
【0042】
一般式(1')で表される化合物と求核剤との反応は、一般式(1')で表される化合物及び求核剤を溶解でき、これらと反応しない溶媒中で行なうことが好ましい。
【0043】
この溶媒としては、ジクロロメタン、ジクロロエタン等の有機溶媒が挙げられる。
また、求核剤は、一般式(1')で表される化合物に対して、過剰量、具体的には1~50倍当量使用することが好ましく、10~25倍当量使用することがより好ましい。
【0044】
この一般式(1')で表される化合物と求核剤との反応の第1の態様は、溶媒中の一般式(1')で表される化合物に、アルキルグリニャール試薬、メチルリチウム等の炭素数1~4のアルキルリチウム、ヨードトリメチルシラン及びトリメチルシリルシアニドから選ばれる1種の求核剤を混合し、反応させるものである。
【0045】
アルキルグリニャール試薬としては、塩化メチルマグネシウム、臭化メチルマグネシウム、塩化エチルマグネシウム、臭化エチルマグネシウム、塩化プロピルマグネシウム、臭化プロピルマグネシウム、塩化イソプロピルマグネシウム、臭化イソプロピルマグネシウム、塩化ブチルマグネシウム、臭化ブチルマグネシウム、塩化イソブチルマグネシウム、臭化イソブチルマグネシウム、塩化s-ブチルマグネシウム、臭化s-ブチルマグネシウム、塩化t-ブチルマグネシウム、臭化t-ブチルマグネシウム等が挙げられるが、これらのなかでも臭化メチルマグネシウムが好ましい。
【0046】
第1の態様の反応の反応温度は、0~50℃、好ましくは15~30℃であり、反応時間は、5~60分程である。
【0047】
一般式(1')で表される化合物と求核剤との反応の第2の態様は、溶媒中の一般式(1')で表される化合物に、(CH3)C(=O)Rで表されるケトン(Rは水素原子又は炭素数1~4のアルキル基を示す)、トリメチルシリルアジド及びアジ化ナトリウムから選ばれる1種を塩基の存在下で、反応させるものである。
【0048】
(CH3)C(=O)Rで表されるケトンとしては、アセトアルデヒド、アセトン、エチルメチルケトン、メチルプロピルケトン、メチルイソブチルケトン等が挙げられるが、これらのなかでもアセトンが好ましい。
【0049】
この反応で用いられる塩基としては、ジアザビシクロウンデセン、トリエチルアミン、N,N-ジイソプロピルエチルアミン、ナトリウムtert-ブトキシド、カリウムtert-ブトキシド等が挙げられる。
また、ここで加えられる塩基の量は、一般式(1’)で表される化合物に対して2.0~20 モル当量となる量、好ましくは5.0~10 モル当量となる量である。
【0050】
第2の態様の反応の反応温度は、0~50℃、好ましくは15~30℃であり、反応時間は、30~90分程である。
【0051】
一般式(1-1)で表される化合物は、例えば、一般式(1'-1)で表される化合物と求核剤とを反応させることにより製造することができる。一般式(1'-1)で表される化合物と求核剤との反応は、上述した一般式(1')で表される化合物と求核剤との反応と同様に行なうことができる。
【0052】
また、一般式(1)で表される化合物の別の製造方法としては、例えば、特開2017-88879号公報に記載の製造方法において、一般式(2)で表される化合物の代わりに、一般式(2)で表される化合物の5位の炭素原子に本願一般式(1)の置換基Xが導入された化合物を用いる方法も挙げられる。
【0053】
反応終了後、反応生成物をカラムクロマトグラフィー又は再結晶等の公知の精製方法で精製することにより、一般式(1)で表される化合物を得ることができる。
【0054】
[化合物の特性]
一般式(1)で表される化合物は、可視光域~近赤外光域(特に約600~750nm)の光を吸収し、近赤外光域(750~2500nm)の光を発光する。助色団である置換基R1~R6及びXによる多少の影響はあるものの、一般式(1)で表される化合物から置換基R1~R6を除いた骨格が発色団であるため、一般式(1)で表される化合物は近赤外光域の光を発光するものである。
【0055】
また、一般式(1-1)で表される化合物において、lが0でありR7がカルボキシル基である化合物、即ち、下記一般式(1-1-1)で示される化合物は、外部刺激により可逆的に構造が変化するクロミック機能を有する。
【0056】
外部刺激としては、熱(温度変化)、光、電気、圧力、溶媒、酸性度、ある種の化合物の添加又は除去等を挙げることができる。例えば、ある種の化合物として、酸及び/又はフェノール類の添加又は除去により、一般式(1-1-1)で表される化合物は、以下のように一般式(1-1-2)で表される構造に可逆的に変化し、吸収波長が変化する。
【化13】
【0057】
[色素組成物]
本発明の色素組成物は、本発明の一般式(1)で表される化合物を1種又2種以上含有するものである。本発明の色素組成物は、その用途や形態に応じて、適宜一般式(1)で表される化合物以外の成分を含有することができ、また一般式(1)で表される化合物以外の色素化合物を含んでいてもよい。
本発明の本発明の一般式(1)で表される化合物は、上述した特性を有するため、これを含む色素組成物は、近赤外線領域(700nm超)の光を発光する。また、本発明の組成物が、発色剤として本発明の一般式(1)で表される化合物、特には一般式(1-1-1)で表される化合物と、顕色剤として酸又はフェノール類とを有する場合、該組成物はクロミック機能を有する。
なお、本発明において、「色素」とは可視光域~近赤外光域の光を吸収又は放出する物質をいうものであって、人間の眼によって色を認識できる物質に限られない。
【0058】
したがって、本発明の一般式(1)で表される化合物を含む色素組成物は、これを含む近赤外蛍光プローブ、近赤外蛍光イメージング剤、近赤外蛍光造影剤、光線力学療法剤、情報・通信用有機材料、レーザー等に使用できる。また、本発明の一般式(1-1-1)で表される化合物を含む色素組成物は、これを含むリライタブル印刷用インク組成物、示温材料、感熱紙、感圧紙、消せるインク、情報・通信用有機材料、近赤外蛍光センサー等に使用できる。
【0059】
また、本発明は、少なくとも1種のアミノベンゾピラノキサンテン系色素化合物を含む、吸収波長λ1の組成物を準備すること、
前記少なくとも1種のアミノベンゾピラノキサンテン系色素化合物の9位に置換基を導入することにより、前記組成物の吸収波長をλ2(但しλ1<λ2)にシフトさせること、を含む方法にも関する。
【0060】
前記アミノベンゾピラノキサンテン系色素化合物はローダミン系色素が2分子縮合した下記の構造を有する。9位の位置に※を付した。また、Ra及びRbはそれぞれ、置換アミノ基(モノ置換及びジ置換アミノ基のいずれであってもよく、ジ置換の態様では、2つの置換基が互いに結合して環を形成していてもよく、また1以上の置換基が、下記の環と縮環を形成していてもよい)もしくは無置換のアミノ基を表す。9位以外のCに結合した1以上の水素原子は、他の原子団によって置換されていてもよい。特に、A及びBのベンゼン環それぞれのオルト位の水素原子が、カルボキシル基又はアルコキシ(例えば、C1~C6のアルコキシ)カルボニル基で置換されているのが好ましい。
【化14】
【0061】
前記アミノベンゾピラノキサンテン系色素化合物は、例えば、特開2017-88879号公報の[0073]~[0087]中に記載の化合物(7-1)~(7-139)を、酸(例えば硫酸)等を作用することでγ-ブチロラクトン環を開環することで、又は酸(例えば硫酸)等の存在下、アルコール(例えばC1~C6のアルコール)と反応させて、さらにエステル化することで得ることができる。
【0062】
前記組成物は、含有する少なくとも1種のアミノベンゾピラノキサンテン系色素化合物に起因する吸収を、波長λ1に有する(例えば、λ1は可視光域の任意の波長である)。前記組成物は、前記少なくとも1種のアミノベンゾピラノキサンテン系色素化合物とともに、液体ないし固体の媒体を含んでいてもよい。該色素化合物は媒体中に溶解していても、分散していてもよい。
【0063】
前記方法の一態様は、前記組成物に、前記色素化合物の9位に置換基(置換基の例には、前記一般式(1)中のXが表す各基が含まれる)を導入可能な試薬を添加することによって実施できる。該試薬の例には、求核試薬が含まれ、具体的には、本発明の製造方法に利用可能な上記したグリニャール試薬等が含まれる。前記試薬を添加することにより、前記色素化合物の9位に置換基が導入され、それにより、前記色素化合物の発色団のπ電子系が拡張し、吸収波長が長波長シフトする。即ち、前記色素化合物を含有する前記組成物の吸収波長が、λ2(但しλ1<λ2)にシフトする。λ2は、例えば近赤外光域(750~2500nm)である。
【0064】
また、前記方法の他の態様では、前記色素化合物とともに、前記色素化合物の9位に置換基を導入可能な試薬を含む組成物が用いられる。前記組成物は、前記色素化合物と前記試薬とをそれぞれ化学的ないし物理的に隔てる基材をさらに含んでいてもよい。該基材は、外部刺激(温度変化、圧力変化、添加剤の添加等の刺激)を与えられることによって、前記色素化合物と前記試薬とをそれぞれ化学的ないし物理的に隔てる機能を喪失する基材である。例えば、マイクロカプセル等を利用可能である。本態様の組成物に外部刺激を与えると、化学的ないし物理的に隔てられていた前記色素化合物と前記試薬とが接触し、前記色素化合物の9位に置換基が導入される。それにより、前記色素化合物の発色団のπ電子系が拡張し、吸収波長が長波長シフトする。即ち、前記色素化合物を含有する前記組成物の吸収波長が、λ2(但しλ1<λ2)にシフトする。λ2は、例えば近赤外光域(750~2500nm)である。
【実施例
【0065】
以下、実施例及び比較例を挙げて、本願発明をさらに詳細に説明するが、本願発明は下記の例に制限されるものではない。
【0066】
1H-NMR及び13C-NMRは、Varian NMR System 600(Agilent Technologies社製)を用いて測定した。
MSスペクトルは、G-6520(Agilent Technologies社製)を用いて測定した。
吸収スペクトルは、JASCO V-570(日本分光社製)を用いて測定した。
蛍光スペクトルは、Hitachi F-7100(日立ハイテクサイエンス社製)を用いて測定した。
【0067】
[実施例1]
下記化合物1を特開2017-088879号公報に記載の手法により合成した。
化合物1(1.0 g, 1.5 mmol)を、1,2-ジクロロエタン(100 mL)中で、硫酸(1 mL)存在下、メタノール(12 mL)と80℃で12時間反応させた。該反応液に塩基を加えて硫酸を中和した後、クロロホルムで抽出を行い、溶媒を除去して、ジカチオン型のメチルエステル化合物1'を粗生成物として得た。
続いて、ジクロロメタン(20 mL)中で、上記で得られた粗生成物のジカチオン型のメチルエステル化合物1'と過剰量のCH3MgBr(2.9 g, 25 mmol)とを、室温で5分間反応させることにより、緑色の呈色体を得、これをODSカラムを用いた逆相クロマトグラフィーにより分離精製を行うことにより、化合物3を得た。
この反応の反応式を以下に示す。
【0068】
【化15】
【0069】
化合物3のデータ:
1H NMR (CDCl3, 600 MHz): δ 8.10 (bd, 1H, J = 7.8 Hz), 8.07 (bd, 1H, J = 7.8 Hz), 7.61-7.52 (m, 4H), 7.11 (bd, 1H, J = 7.8 Hz), 6.92 (bd, 1H, J = 7.8 Hz), 6.71 (d, 1H, J = 9.0 Hz), 6.66 (d, 1H, J = 2.4 Hz), 6.65 (d, 1H, J = 9.0 Hz), 6.62 (d, 1H, J = 2.4 Hz), 6.59 (dd, 1H, J = 9.6, 2.4 Hz), 6.54 (dd, 1H, J = 9.6, 2.4 Hz), 6.23 (s, 1H), 3.82 (s, 3H), 3.61(s, 3H), 3.45-3.42 (m, 8H), 3.26 (q, 1H, J = 7.2 Hz), 1.22-1.20 (m, 12H), 0.87 (d, 3H, J = 7.2 Hz). 13C NMR (CDCl3, 125 MHz): δ 167.5, 166.6, 166.0, 155.6, 155.0, 152.3, 151.9, 151.7, 150.9, 134.5, 134.3, 133.5, 133.2, 131.6, 130.6, 130.4, 130.2, 130.1, 129.2, 128.2, 127.7, 120.7, 119.4, 113.3, 113.1, 112.3, 112.1, 96.8, 95.9, 52.8, 52.7, 45.5, 45.4, 33.8, 21.1, 12.7. HRMS (ESI, positive mode): m/z calcd for C45H45N2O6 + [M]+ 709.3277; Found 709.3278.
【0070】
化合物3をクロロホルム(CHCl3)に溶解し、吸収スペクトル及び蛍光スペクトルを測定したところ、極大吸収波長は680nmを示し、722nmをピークトップとする近赤外域に蛍光発光を示した。
また、クロロホルム以外の種々の有機溶媒中における化合物3の吸収スペクトル及び蛍光スペクトルを同様に測定した。クロロホルム以外のスペクトル測定に用いた溶媒は、テトラヒドロフラン(THF)、アセトン、メタノール(CH3OH)、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)及びアセトニトリル(CH3CN)であり、いずれの溶媒に対しても化合物3は溶解した。各スペクトルの測定結果を図1に示す。吸収波長は溶媒間で大きな差がみられなかった。一方、DMFを用いた場合、クロロホルムと比べて発光帯が25nm長波長側にシフトした。また、いずれの溶媒においても高いモル吸光係数(ε)を示した。各溶媒における極大吸収波長(λabs)、極大蛍光波長(λfl)及びモル吸光係数(ε)を表1にまとめる。
【0071】
[比較例1]
化合物3の代わりに、化合物1のジカチオン体である化合物1++を用いた以外は、実施例1と同様にして吸収スペクトル及び蛍光スペクトルを測定した。
なお、化合物1++のスペクトル測定には、化合物1のクロロホルム溶液に、1.0体積%となるようにトリフルオロ酢酸を加えた溶液を用いた。結果を図1及び表1に記載する。
【化16】
【0072】
化合物3及び化合物1++のクロロホルム中での吸収スペクトルを比較すると、極大吸収波長は83nm長波長側に大きくシフトした。また、化合物3及び化合物1++のクロロホルム中での蛍光スペクトルを比較すると、極大蛍光波長は101nm長波長側に大きくシフトした。
本結果より、アミノベンゾピラノキサンテン系化合物における9位の炭素原子にメチル基が導入された化合物3は、同位置にメチル基を有さない化合物1++と比べて発色団のπ電子系が拡張し、キノイド型構造を形成した結果、大きなレッドシフトを示すと考えられる。
【0073】
【表1】
【0074】
[実施例2]
ジカチオン型のメチルエステル化合物1'を実施例1と同様にして得た。ジクロロメタン(20 mL)中で、粗生成物のジカチオン型のメチルエステル化合物1'とアセトン(8.7 g, 0.15 mol)とジアザビシクロウンデセン(DBU;0.46 g, 3 mmol)とを、室温で30分間反応させることにより、緑色の呈色体を得、これをODSカラムを用いた逆相クロマトグラフィーにより分離精製を行うことにより、化合物4を得た。
この反応の反応式を以下に示す。
【0075】
【化17】
【0076】
化合物4のデータ:
1H NMR (CDCl3, 600 MHz): δ 8.16 (dd, 1H, J = 7.8, 1.2 Hz), 8.05 (dd, 1H, J = 7.8, 1.2 Hz), 7.64-7.53 (m, 4H), 7.04 (dd, 1H, J = 7.8, 1.2 Hz), 6.96 (dd, 1H, J = 7.8, 1.2 Hz), 6.73 (d, 1H, J = 9.0 Hz), 6.68 (d, 1H, J = 2.4 Hz), 6.63 (d, 1H, J = 9.0 Hz), 6.62 (d, 1H, J = 2.4 Hz), 6.61 (dd, 1H, J = 9.0, 2.4 Hz), 6.53 (dd, 1H, J = 9.0, 2.4 Hz), 6.26 (s, 1H), 4.04 (t, 1H, J = 4.8 Hz), 3.87 (s, 3H), 3.61 (s, 3H), 3.47-3.44 (m, 8H), 2.66 (dd, 1H, J = 17, 4.2 Hz), 2.46 (dd, 1H, J = 17, 4.2 Hz), 1.65 (s, 3H), 1.24-1.21 (m, 12H). 13C NMR (CDCl3, 125 MHz): δ 203.6, 167.8, 167.2, 166.3, 165.9, 155.6, 154.8, 152.3, 151.9, 151.6, 151.5, 134.5, 134.3, 133.3, 131.7, 131.2, 130.7, 130.6, 130.2, 130.1, 129.1, 128.5, 127.9, 127.5, 119.3, 118.1, 113.2, 112.7, 112.3, 111.8, 96.8, 96.7, 96.5, 52.6, 50.4, 45.4, 45.2, 33.3, 29.7, 12.6. HRMS (ESI, positive mode): m/z calcd for C47H47N2O7 + [M]+ 751.3383; Found 751.3384.
【0077】
また、実施例1で得られた化合物3と下記構造式で表される化合物5について、DFT計算(B3LYP/6-31G**)により、HOMOとLUMOのエネルギー準位を算出した。結果を図2に示す。
【化18】
【0078】
HOMO-LUMO間のエネルギーギャップが小さくなるほど、極大吸収波長は長波長化する。実施例1で約600~750nmの光を吸収し、近赤外光域(750~900nm)の光を発光することが確認できた化合物3と、母核を共通にする化合物5とのHOMO-LUMO間のエネルギーギャップはほぼ同等であるから、化合物5も化合物3と同等の吸収波長及び蛍光波長を有することが示唆された。
【産業上の利用可能性】
【0079】
本発明の一般式(1)で表される化合物は、ライフサイエンス、医療、オプトエレクトロニクス及びセキュリティ等の分野において、リライタブル印刷、至温材料、感熱紙、感圧紙、センサー、イメージング剤、記録媒体、カメラ及び太陽電池等に有用な化合物として期待される。
図1
図2