(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-07
(45)【発行日】2023-02-15
(54)【発明の名称】物体内部の光学特性を計測する計測装置及び方法
(51)【国際特許分類】
G01N 21/17 20060101AFI20230208BHJP
【FI】
G01N21/17 610
(21)【出願番号】P 2018219125
(22)【出願日】2018-11-22
【審査請求日】2021-11-09
(73)【特許権者】
【識別番号】504143441
【氏名又は名称】国立大学法人 奈良先端科学技術大学院大学
(74)【代理人】
【識別番号】100114476
【氏名又は名称】政木 良文
(72)【発明者】
【氏名】高谷 剛志
(72)【発明者】
【氏名】田中 賢一郎
(72)【発明者】
【氏名】舩冨 卓哉
(72)【発明者】
【氏名】向川 康博
(72)【発明者】
【氏名】青砥 隆仁
【審査官】古川 直樹
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/168711(WO,A1)
【文献】特開2016-080393(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/00 - G01N 21/01
G01N 21/17 - G01N 21/61
Optica
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
物体内部の光学特性を計測する計測装置であって、
前記物体を透過可能な光を用いてパターン画像を前記物体に向けて投影するプロジェクタと、
前記プロジェクタから投影された前記パターン画像の光の内、前記物体の表面及び内部の各3次元位置で反射した光が、前記光を感知可能な撮像面上に入射して結像することにより合成された合成画像をディジタル画像信号に変換して出力する撮像装置と、
前記物体を横切る所定の第1平面内において少なくとも1方向に正弦関数で表される光強度の周期的な振幅変化を有する前記パターン画像の画像データであって、前記正弦関数の互いに異なる複数の空間周波数に各別に対応する複数の前記パターン画像の前記画像データを生成して、前記プロジェクタに入力することにより、前記プロジェクタに対して前記空間周波数が互いに異なる複数の前記パターン画像を、前記空間周波数を時間的に順次変化させながら各別に、前記物体に向けて投影させるパターン画像生成部と、
前記パターン画像生成部において生成された前記画像データにおける複数の前記空間周波数、及び、前記撮像装置から出力される前記複数の空間周波数に各別に対応した複数の前記合成画像の前記ディジタル画像信号を入力として、これらの入力に対して所定の相関演算処理を行い、前記物体の表面及び内部の特定の3次元位置から反射した光の信号振幅を抽出して、抽出した各3次元位置の前記信号振幅に基づいて前記物体の表面及び内部の各3次元位置における前記光学特性を算出するデータ処理部と、を備え、
前記プロジェクタと前記撮像装置の各光学系の焦点距離が互いに異なっていることを特徴とする計測装置。
【請求項2】
前記プロジェクタと前記撮像装置の各光学系の光軸が互いに平行であって、前記第1平面と直交していることを特徴とする請求項1に記載の計測装置。
【請求項3】
前記プロジェクタが透視投影プロジェクタであり、前記撮像装置が平行投影カメラで構成されていることを特徴とする請求項1または2に記載の計測装置。
【請求項4】
前記データ処理部が、前記複数の前記ディジタル画像信号の順次変化する前記各空間周波数に各別に対応する複数の光強度に、前記各空間周波数に対応する角周波数の正弦関数値を各別に乗じて得られる第1データ列と、前記複数の光強度に、前記各空間周波数に対応する前記角周波数の余弦関数値を各別に乗じて得られる第2データ列に対して、離散的フーリエ変換を各別に施して得られた各演算結果に基づいて、前記信号振幅の抽出を行うことを特徴とする請求項1~3の何れか1項に記載の計測装置。
【請求項5】
前記パターン画像の前記光強度の周期的な振幅変化が、前記第1平面内の直交する2方向の変化であることを特徴とする請求項1~4の何れか1項に記載の計測装置。
【請求項6】
物体内部の光学特性を計測する計測方法であって、
前記物体を透過可能な光を用いてパターン画像を前記物体に向けて投影するプロジェクタと、
前記プロジェクタから投影された前記パターン画像の光の内、前記物体の表面及び内部の各3次元位置で反射した光が、前記光を感知可能な撮像面上に入射して結像することにより合成された合成画像をディジタル画像信号に変換して出力する撮像装置を用いて、
前記物体を横切る所定の第1平面内において少なくとも1方向に正弦関数で表される光強度の周期的な振幅変化を有する前記パターン画像の画像データであって、前記正弦関数の互いに異なる複数の空間周波数に各別に対応する複数の前記パターン画像の前記画像データを生成して、前記プロジェクタに入力することにより、前記プロジェクタに対して前記空間周波数が互いに異なる複数の前記パターン画像を、前記空間周波数を時間的に順次変化させながら各別に、前記物体に向けて投影させるパターン画像生成工程と、
前記パターン画像生成工程において生成された前記画像データにおける複数の前記空間周波数、及び、前記撮像装置から出力される前記複数の空間周波数に各別に対応した複数の前記合成画像の前記ディジタル画像信号を入力として、これらの入力に対して所定の相関演算処理を行い、前記物体の表面及び内部の特定の3次元位置から反射した光の信号振幅を抽出して、抽出した各3次元位置の前記信号振幅に基づいて前記物体の表面及び内部の各3次元位置における前記光学特性を算出するデータ処理工程と、を備え、
前記プロジェクタと前記撮像装置の各光学系の焦点距離が互いに異なっていることを特徴とする計測方法。
【請求項7】
前記プロジェクタと前記撮像装置の各光学系の光軸が互いに平行であって、前記第1平面と直交していることを特徴とする請求項6に記載の計測方法。
【請求項8】
前記プロジェクタが透視投影プロジェクタであり、前記撮像装置が平行投影カメラで構成されていることを特徴とする請求項6または7に記載の計測方法。
【請求項9】
前記データ処理工程において、前記複数の前記ディジタル画像信号の順次変化する前記各空間周波数に各別に対応する複数の光強度に、前記各空間周波数に対応する角周波数の正弦関数値を各別に乗じて得られる第1データ列と、前記複数の光強度に、前記各空間周波数に対応する前記角周波数の余弦関数値を各別に乗じて得られる第2データ列に対して、離散的フーリエ変換を各別に施して得られた各演算結果に基づいて、前記信号振幅の抽出を行うことを特徴とする請求項6~8の何れか1項に記載の計測方法。
【請求項10】
前記パターン画像の前記光強度の周期的な振幅変化が、前記第1平面内の直交する2方向の変化であることを特徴とする請求項6~9の何れか1項に記載の計測方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、物体内部の3次元空間における光学特性を計測する計測装置及び方法に関し、特に、プロジェクタ・カメラシステムを用いた計測装置及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
物体内部の計測は、困難な課題ではあるが、生体イメージング、医学イメージング、工業検査等の様々な応用において重要である。蛍光X線分析技術、テラヘルツ・イメージング、赤外リフレクトグラフィ等の物体内部の鮮明な観測を可能にする様々なイメージング技術が開発されている。しかしながら、これらの技術は、電磁波の様々な特徴を利用するものであるが、入手困難な高価な装置を必要とする。これに対して、プロジェクタ・カメラシステムは、比較的低コストであり、容易に入手可能である。
【0003】
プロジェクタ・カメラシステムを用いた物体内部の3次元空間における光学特性を計測する計測装置及び方法としては、レーダ技術の1つである合成開口技術と共焦点撮像技術を応用することで物体によって遮蔽された箇所の撮像を可能にした第1の従来技術(下記の非特許文献1参照)、プロジェクタの焦点距離を物理的に変更しつつ、空間的に高周波な周期パターンを投影することで、対象物体の形状と対象シーンにおける大域照明画像を復元した第2の従来技術(下記の非特許文献2参照)、平行系のプロジェクタ‐カメラシステムを用いて異なる空間周波数の周期パターンを複数回投影した際の表面下散乱成分の変化から物体内部画像を復元した第3の従来技術(下記の非特許文献3参照)等が存在する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】Marc Levoy,Billy Chen,Vaibhav Vaish,Mark Horowitz,Ian McDowall,and Mark Bolas.2004.Synthetic aperture confocal imaging.In ACM Transactions on Graphics(ToG),Vol.23.ACM,825-834.
【文献】Supreeth Achar and Srinivasa G Narasimhan.2014.Multi focus structured light for recovering scene shape and global illumination.In European Conference on Computer Vision.Springer,205-219.
【文献】Kenichiro Tanaka,Yasuhiro Mukaigawa,Hiroyuki Kubo,Yasuyuki Matsushita,and Yasushi Yagi.2017.Recovering Inner Slices of Layered Translucent Objects by Multi-Frequency Illumination.IEEE transactions on pattern analysis and machine intelligence 39,4(2017),746-757.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記第1の従来技術では、対象物体とシステムの間にある遮蔽物の影響を軽減できるという利点があるが、合成開口技術を適用するためには物理的にシステムを移動するか、同様のシステムを複数個用意する必要があり、システム構成が複雑化または大型化するという問題がある。
【0006】
上記第2の従来技術では、物理的にプロジェクタの焦点距離を変更することによって時空間的な周波数変調を行っていると解釈でき、後述する本願発明内容と類似するが、物理的にプロジェクタの焦点距離を変更するためには、手動で実施するか特殊な機械構造を利用する必要がある。よって、焦点距離の変更を手動で行う場合は計測処理が煩雑化し、特殊な機械構造を利用する場合は、システム構成が複雑化するという問題がある。
【0007】
上記第3の従来技術では、異なる空間周波数の周期パターンを投影する点で、後述する本願発明内容と類似するが、平行系の光学系を必要とし、また対象物体を少数の離散的な層から成ると仮定することによって最適化計算を適用しているため、より複雑な内部構造に対応できないという問題がある。
【0008】
本発明は、上述の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、プロジェクタ及びカメラを計測時に移動することなく、且つ、プロジェクタ及びカメラの焦点距離を物理的に変更することなく、複雑な内部構造にも対応可能な、物体内部の3次元空間における光学特性を計測する計測装置及び方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る計測装置は、物体内部の光学特性を計測する計測装置であって、
前記物体を透過可能な光を用いてパターン画像を前記物体に向けて投影するプロジェクタと、
前記プロジェクタから投影された前記パターン画像の光の内、前記物体の表面及び内部の各3次元位置で反射した光が、前記光を感知可能な撮像面上に入射して結像することにより合成された合成画像をディジタル画像信号に変換して出力する撮像装置と、
前記物体を横切る所定の第1平面内において少なくとも1方向に正弦関数で表される光強度の周期的な振幅変化を有する前記パターン画像の画像データであって、前記正弦関数の互いに異なる複数の空間周波数に各別に対応する複数の前記パターン画像の前記画像データを生成して、前記プロジェクタに入力することにより、前記プロジェクタに対して前記空間周波数が互いに異なる複数の前記パターン画像を、前記空間周波数を時間的に順次変化させながら各別に、前記物体に向けて投影させるパターン画像生成部と、
前記パターン画像生成部において生成された前記画像データにおける複数の前記空間周波数、及び、前記撮像装置から出力される前記複数の空間周波数に各別に対応した複数の前記合成画像の前記ディジタル画像信号を入力として、これらの入力に対して所定の相関演算処理を行い、前記物体の表面及び内部の特定の3次元位置から反射した光の信号振幅を抽出して、抽出した各3次元位置の前記信号振幅に基づいて前記物体の表面及び内部の各3次元位置における前記光学特性を算出するデータ処理部と、を備え、
前記プロジェクタと前記撮像装置の各光学系の焦点距離が互いに異なっていることを第1の特徴とする。
【0010】
本発明に係る計測方法は、物体内部の光学特性を計測する計測方法であって、
前記物体を透過可能な光を用いてパターン画像を前記物体に向けて投影するプロジェクタと、前記プロジェクタから投影された前記パターン画像の光の内、前記物体の表面及び内部の各3次元位置で反射した光が、前記光を感知可能な撮像面上に入射して結像することにより合成された合成画像をディジタル画像信号に変換して出力する撮像装置を用いて、
前記物体を横切る所定の第1平面内において少なくとも1方向に正弦関数で表される光強度の周期的な振幅変化を有する前記パターン画像の画像データであって、前記正弦関数の互いに異なる複数の空間周波数に各別に対応する複数の前記パターン画像の前記画像データを生成して、前記プロジェクタに入力することにより、前記プロジェクタに対して前記空間周波数が互いに異なる複数の前記パターン画像を、前記空間周波数を時間的に順次変化させながら各別に、前記物体に向けて投影させるパターン画像生成工程と、
前記パターン画像生成工程において生成された前記画像データにおける複数の前記空間周波数、及び、前記撮像装置から出力される前記複数の空間周波数に各別に対応した複数の前記合成画像の前記ディジタル画像信号を入力として、これらの入力に対して所定の相関演算処理を行い、前記物体の表面及び内部の特定の3次元位置から反射した光の信号振幅を抽出して、抽出した各3次元位置の前記信号振幅に基づいて前記物体の表面及び内部の各3次元位置における前記光学特性を算出するデータ処理工程と、を備え、
前記プロジェクタと前記撮像装置の各光学系の焦点距離が互いに異なっていることを第1の特徴とする。
【0011】
上記第1の特徴の計測装置及び方法によれば、後述するように、プロジェクタ及びカメラを計測時に移動することなく、且つ、プロジェクタ及びカメラの焦点距離を物理的に変更することなく、計測対象物体の内部構造が複雑であっても、物体内部の3次元空間における光学特性を計測することができる。
【0012】
更に、上記第1の特徴の計測装置及び方法は、前記第1平面が前記プロジェクタの光学系の光軸と直交していること、或いは、前記第1平面が前記撮像面と平行であることが、好ましい一実施態様である。
【0013】
更に、上記第1の特徴の計測装置及び方法は、前記プロジェクタと前記撮像装置の各光学系の光軸が互いに平行であって、前記第1平面と直交していることが、より好ましい一実施態様である。
【0014】
更に、上記第1の特徴の計測装置及び方法は、前記プロジェクタが透視投影プロジェクタであり、前記撮像装置が平行投影カメラで構成されていることが、好ましい一実施態様である。
【0015】
これらの好適な実施態様によれば、後述するように、プロジェクタに入力するパターン画像の画像データを生成する処理、及び、物体の表面及び内部の特定の3次元位置から反射した光の信号振幅を抽出して物体の表面及び内部の各位置における光学特性を算出する処理の簡素化及び高精度化が図れる。
【0016】
更に、本発明に係る計測装置は、上記第1の特徴に加えて、前記データ処理部が、前記複数の前記ディジタル画像信号の順次変化する前記各空間周波数に各別に対応する複数の光強度に、前記各空間周波数に対応する角周波数の正弦関数値を各別に乗じて得られる第1データ列と、前記複数の光強度に、前記各空間周波数に対応する前記角周波数の余弦関数値を各別に乗じて得られる第2データ列に対して、離散的フーリエ変換を各別に施して得られた各演算結果に基づいて、前記信号振幅の抽出を行うことを第2の特徴とする。
【0017】
更に、本発明に係る計測方法は、上記第1の特徴に加えて、前記データ処理工程において、前記複数の前記ディジタル画像信号の順次変化する前記各空間周波数に各別に対応する複数の光強度に、前記各空間周波数に対応する角周波数の正弦関数値を各別に乗じて得られる第1データ列と、前記複数の光強度に、前記各空間周波数に対応する前記角周波数の余弦関数値を各別に乗じて得られる第2データ列に対して、離散的フーリエ変換を各別に施して得られた各演算結果に基づいて、前記信号振幅の抽出を行うことを第2の特徴とする。
【0018】
更に、上記第1または第2の特徴の計測装置及び方法は、前記パターン画像の前記光強度の周期的な振幅変化が、前記第1平面内の直交する2方向の変化であることが、好ましい一実施態様である。
【0019】
当該好適な実施態様によれば、後述するように、パターン画像の光強度の周期的な振幅変化が1方向のみの場合と比べて、算出された光学特性の誤差が軽減され、光学特性を算出する処理の高精度化が図れる。
【0020】
更に、上記第1または第2の特徴の計測装置及び方法は、前記光学特性が、前記物体の表面及び内部の各3次元位置における反射率であることが好ましい。
【発明の効果】
【0021】
本発明に係る計測装置及び方法によれば、プロジェクタ及びカメラを計測時に移動することなく、且つ、プロジェクタ及びカメラの焦点距離を物理的に変更することなく、複雑な内部構造にも対応可能な、物体内部の3次元空間における光学特性を計測する計測装置及び方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本発明に係る計測装置であるプロジェクタ・カメラシステムの概略の構成例を模式的に示す図。
【
図2】
図1に示すプロジェクタ・カメラシステムのプロジェクタ、撮像装置、及び、計測対象物が好適に配置された概略の構成例を模式的に示す図。
【
図3】評価実験に用いたプロジェクタ・カメラシステムの構成を示す図。
【
図4】評価実験に用いた計測対象の物体の概略の構成を模式的に示す図。
【
図5】評価実験により復元された4層の内部反射率の算出結果を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明に係る計測装置及び方法(以下、適宜、「本装置」及び「本方法」と称す。)の実施形態について、図面を参照して説明する。
【0024】
[計測装置の概略構成]
本装置10は、
図1に模式的に示すように、計測対象の物体60の内部の3次元空間における光学特性を計測する計測装置であって、プロジェクタ20、撮像装置30、パターン画像生成部40、及び、データ処理部50を備え、プロジェクタ・カメラシステムとして構成される。
【0025】
既存のプロジェクタ・カメラシステムは、計測対象物の3次元形状計測に一般的に用いられているが、本発明では、当該プロジェクタ・カメラシステムを、計測対象物の表面だけでなく、物体内部の3次元空間における光学特性の計測に応用する。
【0026】
プロジェクタ20は、パターン画像生成部40から入力される画像データD1に基づいて、物体60を横切る所定の第1平面内において少なくとも1方向に正弦関数で表される光強度の周期的な振幅変化を有するパターン画像を生成し、物体60を透過可能な光を用いて当該パターン画像を物体60に向けて光学的に投影するように構成されている。尚、本明細書において、「光学的に」とは、光学レンズ等の光学素子を備えて構成される光学設備(適宜、「光学系」と称す)を使用することを意味する。
【0027】
本実施形態では、プロジェクタ20として、一般的な透視投影プロジェクタの使用を想定している。よって、上記第1平面の位置が上記第1平面に垂直な方向に後退すると、つまり、プロジェクタ20から遠ざかると、上記第1平面上に投影されるパターン画像は相似的に拡大される。
【0028】
立体的な物体60が、例えば白色光等の可視光に対して透明或いは半透明であって、物体内部において、当該可視光に対する反射率及び透過率が、3次元空間的に変化している場合等では、プロジェクタ20は、当該可視光を用いて、当該パターン画像を物体60に向けて投影する。
【0029】
プロジェクタ20は、上記パターン画像が、物体60の計測対象領域に投影されるように、プロジェクタ20の光学系の配置及び焦点距離が予め設定され、設定された配置及び焦点距離が計測期間を通じて維持される。尚、プロジェクタ20の投影方式及び投影メカニズムは、投影する光の波長等に適合していれば、特定の方式等に限定されるものではなく、一般に市販されている透視投影プロジェクタを使用することができる。また、プロジェクタ20の電気的及び光学的仕様(例えば、フレームレート、焦点距離、解像度、等)は、計測内容に応じたものを適宜使用すればよく、特定の仕様に限定されるものではない。プロジェクタ20の具体的な構造は、本発明の本旨ではないので、詳細な説明は割愛する。
【0030】
撮像装置30は、プロジェクタ20から投影される光を感知可能な光電変換素子がアレイ状に配置されてなるイメージセンサ(CCDセンサ、MOSセンサ、等)と、物体60の表面及び内部の各3次元位置で反射してイメージセンサの表面である撮像面に向かって入射する光を、当該撮像面上に結像させるための光学系と、イメージセンサから出力される光電変換された電気信号を増幅等して、所定の出力形式のディジタル画像信号D2として出力する信号処理回路部を備えて構成される。プロジェクタ20から投影される光が、例えば、白色光等の可視光の場合、撮像装置30として、一般に市販されているRGBカメラを備えた構成が想定される。尚、使用するイメージセンサは、計測内容に応じて、カラーセンサ以外に、モノクロームセンサを使用しても構わない。
【0031】
撮像装置30は、物体60の計測対象領域から入射する光が撮像可能に、撮像装置30の配置及び光学系の焦点距離が予め設定され、設定された配置及び焦点距離が計測期間を通じて維持される。また、撮像装置30の電気的及び光学的仕様(例えば、フレームレート、焦点距離、解像度、等)は、計測内容に応じたものを適宜使用すればよく、特定の仕様に限定されるものではない。撮像装置30の具体的な構造は、本発明の本旨ではないので、詳細な説明は割愛する。
【0032】
パターン画像生成部40は、上記第1平面内において少なくとも1方向に正弦関数で表される光強度の周期的な振幅変化を有するパターン画像の画像データD1を生成する。ここで、上記第1平面上に投影された1つのパターン画像上の少なくとも1方向の周期的な振幅変化を表す空間周波数が、時間的に順次変化するように、上記第1平面上における空間周波数の異なる複数のパターン画像に対応する画像データD1が作成される。作成された画像データD1は、各空間周波数に対応する画像データD1を空間周波数別に順次、プロジェクタ20に向けて送信するのが好ましい。各空間周波数の対応する画像データD1を全て一括して、プロジェクタ20に向けて送信してもよいが、この場合、プロジェクタ20側で、受信した画像データD1を一時的に保存するのに必要なメモリ容量が大幅に増加するため、プロジェクタ20側のリソース量及び処理量の負担を軽減するためには、各空間周波数に対応する画像データD1を各別に順次送信するのが好ましい。
【0033】
本実施形態では、パターン画像上の少なくとも1方向(x方向)に沿った周期的な振幅変化がxを変数とする正弦関数で表される画像データD1が作成される。つまり、第1平面上の3次元位置(x,y,z)に照射される光の強度L(x,y,z)は、下記の数1で表される。数1に示されるように、強度L(x,y,z)は、y方向には一様である。尚、3次元位置(x,y,z)を規定するxyz直交座標系において、第1平面は、xy面に平行な面となり、z軸は第1平面に垂直な軸となる。更に、第1平面は、物体60を横切る(接する場合を含む)範囲内において任意のz値を取り得る。
【0034】
【0035】
上記数1において、D(z)はオフセット値を、A(z)は振幅を、ω(z)は角周波数を、φは位相を夫々示す。
【0036】
上述のように、本実施形態では、プロジェクタ20が透視投影プロジェクタであるので、上記第1平面が上記第1平面に垂直な+z方向に後退すると、上記第1平面上に投影されるパターン画像は相似的に拡大され、結果として、上記第1平面上における空間周波数f(z)(=ω(z)/2π)は、zの増加とともに低下する。つまり、プロジェクタ20から投影された1つのパターン画像は、パターン画像の投影される第1平面が物体60を横切る位置(z値)に応じて、第1平面上での空間周波数f(z)が増減する。一方、上述したように、第1平面が物体60を横切る位置(z値)が同じでも、空間周波数f(z)は時間的に順次変化する。つまり、第1平面上で観測されるパターン画像の空間周波数f(z)は、パターン画像生成部40が生成しプロジェクタ20に入力された画像データD1によって、空間的(z方向)且つ時間的に変調される。
【0037】
尚、以下の説明において、上述の時間的に順次変化する空間周波数f(z)及び角周波数ω(z)は、順次変化する時間の順序を規定するインデックスi(i=1~n)を用いて、適宜、f(z)[i]及びω(z)[i]と表記する。nは、時間的に順次変化する空間周波数f(z)の総数であり、計測内容に応じて予め設定されるが、本実施形態では、一例として、100~1000程度の範囲内で設定される。また、空間周波数f(z)[i]のパターン画像が投影されている期間を時点[i]と称す。従って、時点[i]では、空間周波数f(z)[i]のパターン画像だけが、1時点前の空間周波数f(z)[i-1]のパターン画像、及び、1時点後の空間周波数f(z)[i+1]のパターン画像の何れとも重複されずに投影される。つまり、各時点[i]の期間内では、空間周波数f(z)[i]のパターン画像は、静止画像として投影される。
【0038】
一方、或る特定の時点[i]で撮像装置30の撮像面上で結像した画像は、物体60の表面及び内部の各3次元位置(x,y,z)まで、それより前方(‐z方向)に存在する物体60を透過して到達した光の一部が、当該3次元位置(x,y,z)での反射率に応じて反射し、反射しなかった他の一部が、それより後方(+z方向)に向けて透過し、当該後方の3次元位置(x,y,z+Δz)で当該3次元位置での反射率に応じて反射した光を、全て合成して得られる合成画像となる。尚、各時点[i]の時間的な長さは、撮像面上での当該合成画像の露光時間より長くなるように設定され、使用するプロジェクタ20及び撮像装置30の仕様に依存して決まる。従って、撮像装置30側では、各時点[i]の期間中、静止画像として投影された空間周波数f(z)[i]のパターン画像だけに対応した合成画像が撮像面上で結像するため、各時点[i]に同期して、各時点[i]の合成画像に対応したディジタル画像信号D2が離散的に出力される。ここで、各時点[i]において、パターン画像は静止画像として一定期間継続して投影されるため、プロジェクタ20と撮像装置30の間の同期は容易に確立することができる。
【0039】
以上より、或る特定の時点[i]で撮像装置30から出力されるディジタル画像信号D2が示す合成画像内には、当該特定の時点[i]におけるz軸上の各位置の第1平面上の2次元位置(x,y)におけるパターン画像の光強度の振幅と物体60の反射率及び透過率の情報がz方向に重畳されて含まれている。
【0040】
パターン画像生成部40は、例えば、パーソナルコンピュータ等の汎用コンピュータ上で、各時点[i]における上述のパターン画像の画像データD1を生成する処理(本方法のパターン画像生成工程に相当)コンピュータ・プログラムを実行するコンピュータ・ソフトウェア手段として構成することができる。
【0041】
データ処理部50は、パターン画像生成部40において生成された画像データD1における複数の空間周波数f(z)[i](i=1~n)、及び、撮像装置30から出力される複数の空間周波数f(z)[i]に各別に対応した複数の合成画像の前記ディジタル画像信号D2を入力として、これらの入力に対して後述する相関演算処理を行い、物体60の表面及び内部の特定の3次元位置(x,y,z)から反射した光の信号振幅を抽出して、抽出した各3次元位置(x,y,z)の信号振幅に基づいて、後述する要領で、物体60の表面及び内部の各3次元位置(x,y,z)における光学特性を算出する。尚、本実施形態では、当該光学特性として、反射率R(x,y,z)を算出する。
【0042】
データ処理部50は、例えば、パーソナルコンピュータ等の汎用コンピュータ上で、物体60の表面及び内部の特定の3次元位置(x,y,z)から反射した光の信号振幅を抽出する処理、及び、抽出した各3次元位置(x,y,z)の信号振幅に基づいて、物体60の表面及び内部の各3次元位置(x,y,z)における光学特性を算出する処理(両処理は、本方法のデータ処理工程に相当)を行うコンピュータ・プログラムを実行するコンピュータ・ソフトウェア手段として構成することができる。
【0043】
パターン画像生成部40及びデータ処理部50は、夫々、コンピュータ・ソフトウェア手段として構成することができるが、夫々のコンピュータ・プログラムを実行するハードウェアとしてのコンピュータは、1台または2台の汎用コンピュータに限定されるものではなく、単体の専用のハードウェアとして構成されてもよく、更に、パターン画像生成部40及びデータ処理部50の各専用のハードウェアを個別に設けてもよい。
【0044】
次に、撮像装置30の撮像面上で観測される合成画像と、当該合成画像のディジタル画像信号D2から任意の第1平面上の任意の3次元位置(x,y,z)における物体60の反射率(x,y,z)の算出手順を説明する。
【0045】
以下、説明を容易にするため、
図2に示すように、プロジェクタ・カメラシステムは、プロジェクタ20が透視投影プロジェクタであり、撮像装置30が平行投影カメラで構成され、プロジェクタ20及び撮像装置30の各光学系の光軸が第1平面と直交するようにプロジェクタ20及び撮像装置30が好適に配置されている場合を想定する。つまり、プロジェクタ20の投影面と撮像装置30の撮像面と第1平面が互いに平行である。
【0046】
尚、
図2に示すシステム構成では、プロジェクタ20が物体60と撮像装置30の間を遮蔽しないように、ビームスプリッタ(ハーフミラー)21をプロジェクタ20と物体60の間に介装して、プロジェクタ20の光学系の光軸を屈曲させている。これにより、プロジェクタ20及び撮像装置30の各光学系の光軸を同軸にでき、プロジェクタ20の投影面と撮像装置30の撮像面と第1平面の各xy座標の原点(x=0、y=0)を一致させることができる。ここで、プロジェクタ20の投影中心を、z=0であると規定する。尚、実際のシステム構成(例えば、後述する
図3に示す実験用のシステム構成)において、必ずしもビームスプリッタは必要ではなく、プロジェクタ20及び撮像装置30の各光学系の光軸が同軸でなく平行に設定されていれば、プロジェクタ20の投影面上の座標系と撮像装置30の撮像面上の座標系の相対関係は平行移動のみとなるので、以下に説明する演算内容と同様の演算が可能である。尚、以下の説明において、z=0からの光軸(z軸)上の距離を「深さ」と称する場合、z値を深さzと称する場合がある。
【0047】
また、撮像装置30が平行投影カメラで構成されているため、第1平面上のパターン画像は同じ寸法で、つまり、拡大も縮小もされずに、撮像面上に結像される。
【0048】
尚、プロジェクタ20が透視投影プロジェクタであり、撮像装置30が平行投影カメラで構成される場合は、各光学系の焦点距離は当然に等しくない。本装置及び本方法において、プロジェクタ20と撮像装置30の各光学系の焦点距離が等しくないことが必要条件となる。従って、
図2に示すプロジェクタ・カメラシステムの構成は、当該条件を満足する一実施態様である。実際の実施態様において、プロジェクタ・カメラシステムの構成として、プロジェクタ20が透視投影プロジェクタであり、撮像装置30が透視投影カメラで構成されてもよく、また、プロジェクタ20が平行投影プロジェクタであり、撮像装置30が透視投影カメラで構成されてもよい。
【0049】
[撮像装置の撮像面上で観測される合成画像]
先ず、撮像装置30の撮像面上で観測される合成画像について説明する。上述したように、第1平面上に投影されるパターン画像は、上記数1に示すようにxを変数とする正弦関数で表され、角周波数ω(z)はzの増加とともに低下する。ここで、物体60の最前面の第1平面のz値をz1とし、当該第1平面(z=z1)でのパターン画像の角周波数ω(z)をω1とすると、任意のzでの第1平面における角周波数ω(z)は、下記の数2で示される。つまり、プロジェクタ20として透視投影プロジェクタを使用することで、パターン画像に対して、z方向に自然な空間周波数の変調が得られる。
【0050】
【0051】
撮像面上の画素(x,y)で観測される合成画像の光強度I(x,y)は、異なる深さzでの全ての光強度の積分値として、下記の数3で表される。ここで、撮像装置30と物体60の最前面(z=z1)の間には、何も存在しないと想定する。
【0052】
【0053】
各3次元位置(x,y,z)が上記数1で示される光強度L(x,y,z)のパターン画像で照射され、各3次元位置(x,y,z)において反射率R(x,y,z)で反射した光が、撮像面上の画素(x,y)に到達するまでに、物体60内を通過する場合は減衰するので、上記数3の右辺内の各3次元位置(x,y,z)から画素(x,y)に到達する光の強度Ip(x,y,z)は、下記の数4で表される。
【0054】
【0055】
上記数4のE(x,y,z)は、3次元位置(x,y,z)で反射した光が画素(x,y)に至るまでの光強度の減衰率であり、3次元位置(x,y,z)での光の透過率をT(x,y,z)とすると、下記の数5のように定式化できる。
【0056】
【0057】
ここで、上述のように、撮像装置30と物体60の最前面(z=z1)の間には、何も存在しないと想定しているため、上述のビームスプリッタ21は、仮想的なもので、物体60から撮像面に向けて入射する光は、ビームスプリッタ21で反射せず、100%透過するものと想定している。しかし、仮に、ビームスプリッタ21が物理的に存在し、ビームスプリッタ21での光の透過率が100%でない場合は、上記数5の右辺に一定の透過率を乗ずればよい。
【0058】
任意の深さzの第1平面上に照射されるパターン画像の光強度L(x,y,z)のオフセット値D(z)と振幅A(z)は、理想的には深さzに対して均質であるが、実際は、物体60の影響を受ける。例えば、深さz2(z2>z1)への照射は、深さz1の各点から減衰している場合があり得るため、結果として不均質なオフセット値D(x,y,z)と振幅A(x,y,z)となる。
【0059】
深さz1におけるオフセット値D(z1)と振幅A(z1)は、パターン画像生成部40が生成した画像データD1により一意的に決まる。深さz(z>z1)でのオフセット値D(x,y,z)と振幅A(x,y,z)は、深さz1におけるオフセット値D(z1)と振幅A(z1)に、深さz1から3次元位置(x,y,z)までの光の減衰率G(x,y,z)を乗じて、下記の数6及び数7で表される。また、減衰率G(x,y,z)は、下記の数8のように定式化できる。但し、数8右辺中の変数x*と変数y*は、数9で与えられる。
【0060】
【0061】
【0062】
【0063】
【0064】
以上より、撮像面上の画素(x,y)で観測される合成画像の光強度I(x,y)は、数3から変形して、下記の数10で表される。但し、数10右辺のオフセット値D*(x,y,z)と振幅A*(x,y,z)は、下記の数11及び数12で与えられる。
【0065】
【0066】
【0067】
【0068】
[反射率(x,y,z)の算出手順(データ処理工程)]
次に、数10で与えられる撮像面上の合成画像の光強度I(x,y)を示すディジタル画像信号D2から任意の第1平面上の任意の3次元位置(x,y,z)における物体60の反射率(x,y,z)の算出手順を説明する。
【0069】
光強度I(x,y)は、数10に示すように、深さzに依存する空間周波数f(z)(=ω(z)/2π)によって空間的に変調されている。よって、空間的な相関処理によって、特定の空間周波数を有する信号、つまり、特定の深さzの信号を抽出できる。しかし、空間的な相関処理は、反射率マップの空間周波数の影響を受ける。本願発明者は、本問題を解くために、直接変換技術(ホモダイン検波)を採用する。直接変換により、複雑な信号中から特定の周波数を有する信号を検出することができる。
【0070】
ここで、本装置及び本方法において、プロジェクタ20と撮像装置30の各光学系の焦点距離が等しくないことが必要条件となっているが、仮に、当該条件が満足されない場合、物体60を横切る第1平面上において、上記数2で示される角周波数ω(z)による空間的な変調が、撮像面上で合成画像が形成される過程でそのまま真逆の空間的な復調が生じるため、光強度I(x,y)が空間的に変調された状態でなくなり、よって後述するような直接変換による反射率(x,y,z)の算出が不可能となる。
【0071】
さて、上述したように、パターン画像生成部40は、空間周波数f(z)(=ω(z)/2π)を時間的に順次変化させながら、空間周波数f(z)の異なる複数のパターン画像に対応する画像データD1を作成し、プロジェクタ20は、受信した画像データD1に基づいて、空間周波数f(z)の異なる複数のパターン画像を順次、物体60に向けて投影する。従って、時点[i]において撮像面上で観測される合成画像の光強度I(x,y)をI(x,y)[i]とすると、撮像装置30は、プロジェクタ20が複数のパターン画像を順次投影する時点[i]に同期して、各時点[i]で投影され撮像面上で観測される合成画像の光強度I(x,y)[i]を光電変換して得られるディジタル画像信号D2を出力する。
【0072】
従って、データ処理部50がディジタル画像信号D2から得られる時点[i]での合成画像の光強度I(x,y)[i]は、下記の数13で表される。
【0073】
【0074】
上記数13の両辺に、角周波数がω(w)[i]の正弦波信号を乗じると、下記の数14が得られる。
【0075】
【0076】
上記数14右辺の積分内の全ての項は、時間の順序を規定するインデックスiに依存する。ここで、z=wの場合のみ、つまり、ω(z)[i]-ω(w)[i]=0となる場合には、上記数14右辺の積分内の第3項は、上記インデックスiに依存しなくなり、上記数14の連続的な信号I(x,y)[i]sin(ω(w)[i]x)の直流(DC)成分となる。当該連続的な信号のDC成分は、周知の離散的フーリエ変換(DFT)を行うことで、容易に抽出することができる。離散的フーリエ変換の演算子を〈F{s[i]}〉DCと規定すると、上記数14右辺の積分内の第3項は、下記の数15に示すように抽出される。
【0077】
【0078】
同様に、上記数13の両辺に、角周波数がω(w)[i]の余弦波信号を乗じて、上述の離散的フーリエ変換(DFT)を行うと、下記の数16が得られる。
【0079】
【0080】
cos2φ+sin2φ=1であるので、数15及び数16から下記の数17が導出される。
【0081】
【0082】
本項の算出対象である任意の3次元位置(x,y,z)における物体60の反射率R(x,y,z)は、上記数12を変形して、下記の数18で与えられる。
【0083】
【0084】
上述したように、深さz1の前方(z<z1)に何も存在しないと想定しているので、数18右辺の分母のE(x,y,z)は、深さz1では、E(x,y,z1)=1となる。更に、深さz1における振幅A(x,y,z1)は、A(z1)として既知である。以上より、深さz1における物体60の反射率R(x,y,z1)は、下記の数19で表される。
【0085】
【0086】
次に、任意の3次元位置(x,y,z)における物体60の透過率T(x,y,z)は、下記の数20で与えられると想定する。
【0087】
【0088】
ここで、深さz1より僅かに後方の深さz2(z2=z1+Δz)における減衰率E(x,y,z2)と振幅A(x,y,z2)は、夫々、数5と数7で算出できる。従って、深さz2における物体60の反射率R(x,y,z2)は、数18に基づいて算出できる。上記手順を繰り返すと、深さz1より後方の任意の深さz(z>z1)における物体60の反射率R(x,y,z)を算出できる。
【0089】
[評価実験]
次に、
図3に示す実験用のプロジェクタ・カメラシステムを用いて、上記本装置及び本方法を評価した結果を説明する。尚、上記システムでは、プロジェクタ20としてSKテレコム社製のレーザプロジェクタ202(型番:LB-UH6CB、解像度:1280×720)を使用し、撮像装置30として、エドモンド・オプティクス社製のテレセントリックレンズ31(商品コード:#55-348)を装着したFLIR社製のRGBカメラ32(商品名:Grasshopper3、解像度:1920×1440)を使用した。また、投影パターンの観測を阻害する物体60からの鏡面反射が撮像装置30の撮像面に入射するのを防止するため、レーザプロジェクタ202とテレセントリックレンズ31の各前面(物体60側)に、偏光子23,33を設置している。
図3に示す実験用のシステム設定では、
図2の説明用のシステム構成で想定したビームスプリッタ21は使用していない。このため、プロジェクタ20及び撮像装置30の各光学系の光軸は互いに平行であるが、同軸ではない。また、当該システム設定では、深さz
1は252.83mmであり、深さz
1におけるオフセット値と振幅をD(z
1)=A(z
1)=127に設定した。また、深さz
1における正弦波パターンの空間周波数を、0.78125≦f(z)≦500mHz(Hz=1/m)の範囲内で0.78125mHz刻みで順次変化させた。インデックスiの総数nは600となる。
【0090】
使用したレーザプロジェクタ202は完全なフォーカス・フリーではなく、我々が確認したところ、合焦範囲として少なくとも250mmが必要である。
【0091】
また、使用したテレセントリックレンズ31は、実用上の制約があり、被写界深度が浅く、作動距離も限られている。設定した撮像装置30では、被写界深度が60mm、近端の作動距離が130mmである。
【0092】
計測対象の物体60として、
図4に示すように、4枚のオーバーヘッド・プロジェクタ(OHP)用のシート61~64を10mm間隔で前後(z方向)に重ね合わせたものを使用した。各シート61~64には、手前から順に文字A,B,C,Dが夫々印刷されている。
【0093】
図5(A)~(D)に、最前面からの+z方向の深さが0mm、10mm、20mm、30mmでの各内部反射率の算出結果を示す。
図5(A)(深さ:0mm)では、文字Aが他の文字B~Dに比べて極めて鮮明に確認できる。
図5(B)(深さ:10mm)及び
図5(C)(深さ:20mm)においても、文字B及びCが夫々、他の文字に比べて鮮明に確認できる。
図5(D)(深さ:30mm)では、文字C及びDの両方が確認できるが、文字A及びBは殆ど確認できない。
【0094】
図5(A)~(D)に示す実験結果は、本装置及び本方法によって、様々な物体内部の反射率を復元できることを十分に示している。
【0095】
[別実施形態]
次に、上記実施形態の変形例(別実施形態)について説明する。
【0096】
〈1〉上記実施形態では、プロジェクタ20及び撮像装置30の各光学系の光軸が同軸であり、各光軸が第1平面に直交するため、第1平面は、プロジェクタ20の投影面及び撮像装置30の撮像面の両方と平行である。このため、第1平面上に投影されたx方向に正弦関数で表される光強度の周期的な振幅変化を有するパターン画像は、プロジェクタ20の投影面上においても同じx方向に正弦関数で表される光強度の周期的な振幅変化を有し、撮像装置30の撮像面上においても、結像された合成画像の内の当該パターン画像に対応する成分は、同じx方向に正弦関数で表される光強度の周期的な振幅変化を有する。
【0097】
このため、xy平面が投影面と平行でプロジェクタ20の光学系の光軸がz軸となるプロジェクタ20側の直交座標系と、第1平面上の3次元位置を規定する直交座標系の間で座標変化を行う必要がなく、パターン画像生成部40は、第1平面上において方向に正弦関数で表される光強度の周期的な振幅変化を有するパターン画像の画像データD1を、同じ座標系で作成することができる。
【0098】
更に、xy平面が撮像面と平行で撮像装置30の光学系の光軸がz軸となる撮像装置30側の直交座標系と、第1平面上の3次元位置を規定する直交座標系の間で座標変化を行う必要がないため、数10で与えられる撮像面上の合成画像の光強度I(x,y)を示すディジタル画像信号D2から任意の第1平面上の任意の3次元位置(x,y,z)における物体60の反射率(x,y,z)の算出する過程において、第1平面上の直交座標系と撮像装置30側の直交座標系の間で座標変換を行うことなく、同じ座標系で処理を行うことができる。
【0099】
しかしながら、プロジェクタ20と撮像装置30の間の配置は、
図2及び
図3に例示した相対的な位置関係に限定されるものではないため、一般的に、プロジェクタ20と撮像装置30の各光学系の光軸は互いに平行とはならないシステム設定もあり得る。この場合、プロジェクタ20側の直交座標系と撮像装置30側の直交座標系の一方を、第1平面上の直交座標系に一致させ、他方と第1平面上の直交座標系の間で座標変換を行えば、パターン画像生成部40とデータ処理部50は、上記実施形態で説明した内容の処理が同様に行える。
【0100】
ここで、プロジェクタ20と撮像装置30の各光学系の光軸は互いに平行とはならない設定では、プロジェクタ20側の直交座標系を第1平面上の直交座標系に一致させる第1の実施態様の方が、撮像装置30側の直交座標系を第1平面上の直交座標系に一致させる第2の実施態様より好ましいと考えられる。その理由として、一般的に、撮像装置30に使用する撮像素子に比べて、プロジェクタ用素子の空間解像度が低く、ダイナミックレンジも低いため、第2の実施態様より第1の実施態様の方が、座標変換に伴う誤差を抑制できると考えられる。
【0101】
〈2〉上記実施形態では、合成画像の光強度I(x,y)に対して、空間的な相関処理として、直接変換技術(ホモダイン検波)を採用して、特定の深さzの信号を抽出した。しかし、空間的な相関処理として、ヘテロダイン検波を採用しても同様の結果が得られる。
【0102】
ヘテロダイン検波の場合、数14において、数13の両辺に乗じる正弦波信号の角周波数がω(w)[i]=ω(z)[i]ではなく、ω(w)[i]=ω(z)[i]+Δωとする。その結果、数14右辺の積分内の第3項の角周波数は、Δωとなる。ここで、Δωとして、微小な値を設定すると、ローパスフィルタ処理を施すことで、当該第3項を抽出することができる。また、当該第3項には、DCからΔωまでの周波数成分が含まれるため、更に、ホモダイン検波を行うことで、角周波数Δωの信号を抽出することもできる。しかし、本装置及び本方法において、ヘテロダイン検波を採用した場合、直接変換技術(ホモダイン検波)を採用する場合と比較して、数15及び数16に示すDC成分を抽出するための処理数が増えるので、直接変換技術(ホモダイン検波)を使用すれば十分である。
【0103】
〈3〉上記実施形態では、パターン画像は、第1平面上の光の強度L(x,y,z)が、xを変数とする正弦関数で表される1方向(x方向)に沿って周期的に振幅変化する場合を想定したが、x及びyを変数とする正弦関数で表される2方向(例えば、x方向とy方向、つまり、直交する2方向)に沿って周期的な振幅変化するようにしてもよい。
【0104】
上述の評価実験とは別にシミュレーションにより、上述の評価実験より複雑な内部構造の物体60を計測対象とした場合について評価した結果、パターン画像が1方向(x方向)に沿って周期的に振幅変化する場合は、物体内部の反射率の算出結果の誤差の大きい部分が、物体内部の比較的深い箇所で、当該1方向と直交する方向(y方向)に沿って発生し易いことが確認されている。従って、パターン画像を、x及びyを変数とする正弦関数で表される2方向に沿って周期的な振幅変化させると、上述の誤差の発生が抑制され好ましい。
【0105】
以下、パターン画像の光強度L(x,y,z)が2方向に沿って周期的な振幅変化する場合について、上述の反射率(x,y,z)の算出手順で説明した数式がどのように変更されるかを、主要な数式についてのみ説明する。
【0106】
数13は、下記の数21のように変更され、数2は、下記の数22及び数23に分解される。
【0107】
【0108】
【0109】
次に、数21の両辺に、x方向に対して、角周波数がωx(w)[i]の正弦波信号を乗じると、上記数14に代えて、下記の数24が得られる。
【0110】
【0111】
ここで、z=wの場合のみ、上記数24右辺の積分内の第3項は、上記インデックスiに依存しなくなり、上記数24の連続的な信号I(x,y)[i]sin(ωx(w)[i]x)のDC成分となる。当該連続的な信号のDC成分は、周知の離散的フーリエ変換(DFT)を行うことで、上記数15に代えて、下記の数25として、容易に抽出することができる。
【0112】
【0113】
同様に、上記数21の両辺に、角周波数がωx(w)[i]の余弦波信号を乗じて、上述の離散的フーリエ変換(DFT)を行うと、上記数16に代えて、下記の数26が得られる。
【0114】
【0115】
cos2φx+sin2φx=1であるので、数25及び数26から、上記数17に代えて、下記の数27が導出される。
【0116】
【0117】
次に、数21の両辺に、y方向に対して、角周波数がωy(w)[i]の正弦波信号を乗じると、上記数14に代えて、下記の数28が得られる。
【0118】
【0119】
ここで、z=wの場合のみ、上記数28右辺の積分内の第5項は、上記インデックスiに依存しなくなり、上記数28の連続的な信号I(x,y)[i]sin(ωy(w)[i]y)のDC成分となる。当該連続的な信号のDC成分は、周知の離散的フーリエ変換(DFT)を行うことで、上記数15に代えて、下記の数29として、容易に抽出することができる。
【0120】
【0121】
同様に、上記数21の両辺に、角周波数がωy(w)[i]の余弦波信号を乗じて、上述の離散的フーリエ変換(DFT)を行うと、上記数16に代えて、下記の数30が得られる。
【0122】
【0123】
cos2φy+sin2φy=1であるので、数29及び数30から、上記数17に代えて、下記の数31が導出される。
【0124】
【0125】
以上より、振幅A*(x,y,z)は、x方向及びy方向夫々での直接変換処理により、数27及び数31の2通りの算出結果が得られる。このため、上記数18で与えられる本項の算出対象である任意の3次元位置(x,y,z)における物体60の反射率R(x,y,z)も2通りの算出結果が得られる。よって、最も簡易な方法としては、上記数18右辺の分子の振幅A*(x,y,z)として、数27及び数31の2通りの算出結果の平均値を使用することが考えられる。更に、任意の3次元位置(x,y,z)において、振幅A*(x,y,z)の2通りの算出結果の差分ΔA*(x,y,z)が所定の閾値A*
th以上の場合(ΔA*(x,y,z)≧A*
th)、振幅A*(x,y,z)の2通りの算出結果の内、周囲の振幅A*(x,y,z)との差が小さい方の算出結果を選択する等の方法も考えられる。
【0126】
以上の要領で、本項の算出対象である任意の3次元位置(x,y,z)における物体60の反射率R(x,y,z)が算出されると、パターン画像の第1平面上の光の強度L(x,y,z)が、x及びyを変数とする正弦関数で表される2方向に沿って周期的な振幅変化する場合においても、上記実施形態で説明したパターン画像の第1平面上の光の強度L(x,y,z)が、xを変数とする正弦関数で表される1方向(x方向)に沿って周期的に振幅変化する場合と同様に、上記数19により、深さz1における物体60の反射率R(x,y,z1)を算出し、以降、同じ手順を繰り返して、深さz1より後方の任意の深さz(z>z1)における物体60の反射率R(x,y,z)を算出できる。
【0127】
〈4〉上記実施形態では、物体内部の光学特性として、任意の3次元位置(x,y,z)における物体60内部の反射率(x,y,z)を算出する実施態様を具体的に説明したが、反射率に代えて、或いは、追加して、物体内部の各3次元位置(x,y,z)における物体60内部の透過率、散乱係数、吸収係数等を、反射率(x,y,z)と同様に、撮像面上の合成画像の光強度I(x,y)を示すディジタル画像信号D2から算出するようにしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0128】
本発明の計測装置及び方法は、物体内部の3次元空間における光学特性を計測する計測装置及び方法に利用できる。一例として、人体や食品等の物体内部の可視化装置に応用できる。より具体的には、本発明の計測装置及び方法によって、眼底検査装置や皮下撮像装置等の医療機器を安価に実現でき、更に、家庭向けの簡易装置の実現も期待できる。
【符号の説明】
【0129】
10 : 計測装置
21 : ビームスプリッタ
22 : レーザプロジェクタ
23 : 偏光子
20 : プロジェクタ
30 : 撮像装置
31 : テレセントリックレンズ
32 : RGBカメラ
33 : 偏光子
40 : パターン画像生成部
50 : データ処理部
60 : 物体(計測対象物)
61~64: OHPシート