(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-07
(45)【発行日】2023-02-15
(54)【発明の名称】船舶用プロペラ
(51)【国際特許分類】
B63H 1/20 20060101AFI20230208BHJP
B63H 1/26 20060101ALI20230208BHJP
【FI】
B63H1/20 B
B63H1/26 D
B63H1/20 A
(21)【出願番号】P 2018248032
(22)【出願日】2018-12-28
【審査請求日】2021-11-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000110435
【氏名又は名称】ナカシマプロペラ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002217
【氏名又は名称】弁理士法人矢野内外国特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】櫻井 貴哉
【審査官】福田 信成
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-125047(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2006/0270287(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第102630207(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B63H 1/20
B63H 1/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
外周面に溝部が形成されたボスと、
一端側に基部が形成されたブレードと、を備え、
前記ボスの溝部に前記ブレードの基部を挿入して構成される船舶用プロペラであって、
前記ボスの溝部を構成している内壁面に突出部が設けられて前記ブレードの基部の挿入方向に沿って延びており、
前記ブレードの基部を構成している外壁面に陥没部が設けられて当該ブレードの基部の挿入方向に沿って延びており、
前記ボスの溝部に前記ブレードの基部を挿入すると前記突出部と前記陥没部が嵌合した状態とな
り、
前記突出部の頂点とその両斜面及び陥没部の底点とその両斜面が互いに接して隙間を生じないように嵌合している、
ことを特徴とする船舶用プロペラ。
【請求項2】
前記突出部の頂点よりも径方向外側の前記内壁面が径方向外側へ向かうにつれて溝幅寸法を広げる方向に傾斜しており、
前記陥没部の底点よりも径方向外側の前記外壁面が径方向外側へ向かうにつれて基部厚寸法を広げる方向に傾斜しており、
前記内壁面と前記外壁面が接した状態となる、ことを特徴とする請求項1に記載の船舶用プロペラ。
【請求項3】
前記突出部の頂点よりも径方向内側の前記内壁面が径方向内側へ向かうにつれて溝幅寸法を広げる方向に傾斜しており、
前記
陥没部の底点よりも径方向内側の前記外壁面が径方向内側へ向かうにつれて基部厚寸法を広げる方向に傾斜しており、
前記内壁面と前記外壁面が接した状態となる、ことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の船舶用プロペラ。
【請求項4】
前記内壁面の外縁と前記外壁面の外縁が一致するとともに当該外壁面の外縁から湾曲部が形成されて翼体部につながっている、ことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の船舶用プロペラ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、船舶用プロペラに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、繊維強化プラスチック製のブレードを採用した船舶用プロペラが知られている(特許文献1及び特許文献2参照)。かかる船舶用プロペラは、ボスの溝部にブレードの基部を挿入して構成される。
【0003】
このような船舶用プロペラは、ブレードに大きな荷重か掛かると、ブレードが変形してピッチ角が小さくなる。例えば、加速時や曳航時のほか荒天に起因してブレードに大きな荷重が掛かると、ブレードが変形してピッチ角が小さくなる。また、船体後方におけるウェイクの速度差に起因してブレードに大きな荷重が掛かると、ブレードが変形してピッチ角が小さくなる。このため、エンジンに過大な負荷が掛かるのを防ぐことができ、かつキャビテーションの発生を抑えることができるのである。
【0004】
ところで、船舶用プロペラが回転している際には、ブレードを押し倒そうとするモーメントがはたらくこととなる。つまり、船舶用プロペラが回転している際には、ブレードの前進面に大きな荷重が掛かるため、ブレードを前方へ押し倒そうとするモーメントがはたらくこととなる。そのため、ボスの溝部を構成している内壁面に局所的に荷重が掛かり、ボスの溝部近傍における応力が大きくなってしまうという問題があった。また、ブレードの基部を構成している外壁面にも局所的に荷重が掛かり、この部分における接触圧力が大きくなってしまうという問題もあった。
【0005】
ここで、
図11から
図13を用いて、従来の船舶用プロペラにおける問題点について詳しく説明する。これらの図は、ボス6とブレード7の計算用モデルを組み合わせたものである(ボス6の溝部61にブレード7の基部71を挿入したものである)。これらの図には、船舶用プロペラの回転方向を矢印Rにて示している。また、これらの図には、ブレード7を押し倒そうとするモーメントを矢印Mにて示している。
【0006】
従来の船舶用プロペラにおいて、ボス6の溝部61は、いわゆるアリ溝であって、径方向外側へ向かうにつれて両側の内壁面61sが徐々に近づくテーパ断面形状となっている。ブレード7の基部71は、いわゆるアリであって、径方向外側へ向かうにつれて両側の外壁面71sが徐々に近づくテーパ断面形状となっている。船舶用プロペラは、ボス6の溝部61にブレード7の基部71を挿入して構成される。
【0007】
前述したように、船舶用プロペラが回転している際には、ブレード7を押し倒そうとするモーメントがはたらくこととなる(
図11の矢印M参照)。ブレード7を押し倒そうとするモーメントがはたらいた場合、ブレード7の固定部分である基部71には、これを回転させようとする大きな荷重が作用する。すると、基部71を拘束している溝部61の両側の内壁面61sにも大きな荷重が作用する。
【0008】
具体的に説明すると、傾倒方向側(船舶用プロペラの反回転方向側)の内壁面61sには、この内壁面61sにおける径方向外側部分に大きな荷重F1が掛かることとなる。このため、当該部分は、荷重F1に押され、かつ内壁面61sに沿って基部71が滑り込もうとする動きにより、径方向外側へ押し上げられる(
図11の二点鎖線参照)。従って、この部分における変位が大きくなり(
図12の(A)における領域D1参照)、ひいては応力が大きくなってしまうという問題があった(
図12の(B)における領域S1参照)。また、荷重F1が溝部61の溝幅寸法Wを広げようとするので、内壁面61sと底壁面61tをつなぐ湾曲部分においても応力が大きくなってしまうという問題があった(
図12の(B)における領域S2参照)。
【0009】
更に、ブレード7の基部71に着目すると、基部71の傾倒方向側(船舶用プロペラの反回転方向側)の外壁面71sには、作用反作用の法則に基づいて荷重F1に対向する荷重F2が掛かることとなる。従って、この部分における接触圧力が大きくなってしまうという問題もあった(
図13の(B)における領域P1参照)。
【0010】
他方、反傾倒方向側(船舶用プロペラの回転方向側)の内壁面61sには、この内壁面61sにおける径方向内側部分に大きな荷重F3が掛かることとなる。このため、当該部分は、荷重F3に押され、かつ内壁面61sに沿って基部71が滑り出ようとする動きにより、径方向外側へ押し上げられる(径方向外側へずり変形が生じる:
図11の二点鎖線参照)。従って、この部分における変位が大きくなり(
図12の(A)における領域D3参照)、ひいては応力が大きくなってしまうという問題があった(
図12の(B)における領域S3参照)。また、荷重F3が溝部61の溝幅寸法Wを広げようとするので、内壁面61sと底壁面61tをつなぐ湾曲部分においても応力が大きくなってしまうという問題があった(
図12の(B)における領域S4参照)。
【0011】
更に、ブレード7の基部71に着目すると、基部71の反傾倒方向側(船舶用プロペラの回転方向側)の外壁面71sには、作用反作用の法則に基づいて荷重F3に対向する荷重F4が掛かることとなる。従って、この部分における接触圧力が大きくなってしまうという問題もあった(
図13の(B)における領域P2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【文献】特開2014-125055号公報
【文献】特開2012-66699号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
ボスの溝部にブレードの基部を挿入して構成される船舶用プロペラであって、ボスの溝部近傍における応力を低減でき、更にはブレードの基部表面における接触圧力を低減できる船舶用プロペラを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0014】
第一の発明は、
外周面に溝部が形成されたボスと、
一端側に基部が形成されたブレードと、を備え、
前記ボスの溝部に前記ブレードの基部を挿入して構成される船舶用プロペラであって、
前記ボスの溝部を構成している内壁面に突出部が設けられて前記ブレードの基部の挿入方向に沿って延びており、
前記ブレードの基部を構成している外壁面に陥没部が設けられて当該ブレードの基部の挿入方向に沿って延びており、
前記ボスの溝部に前記ブレードの基部を挿入すると前記突出部と前記陥没部が嵌合した状態となり、
前記突出部の頂点とその両斜面及び陥没部の底点とその両斜面が互いに接して隙間を生じないように嵌合している、ものである。
【0015】
第二の発明は、第一の発明に係る船舶用プロペラにおいて、
前記突出部の頂点よりも径方向外側の前記内壁面が径方向外側へ向かうにつれて溝幅寸法を広げる方向に傾斜しており、
前記陥没部の底点よりも径方向外側の前記外壁面が径方向外側へ向かうにつれて基部厚寸法を広げる方向に傾斜しており、
前記内壁面と前記外壁面が接した状態となる、ものである。
【0016】
第三の発明は、第一又は第二の発明に係る船舶用プロペラにおいて、
前記突出部の頂点よりも径方向内側の前記内壁面が径方向内側へ向かうにつれて溝幅寸法を広げる方向に傾斜しており、
前記陥没部の底点よりも径方向内側の前記外壁面が径方向内側へ向かうにつれて基部厚寸法を広げる方向に傾斜しており、
前記内壁面と前記外壁面が接した状態となる、ものである。
【0017】
第四の発明は、第一から第三のいずれかの発明に係る船舶用プロペラにおいて、
前記内壁面の外縁と前記外壁面の外縁が一致するとともに当該外壁面の外縁から湾曲部が形成されて翼体部につながっている、ものである。
【発明の効果】
【0018】
第一の発明に係る船舶用プロペラは、ボスの溝部を構成している内壁面に突出部が設けられてブレードの基部の挿入方向に沿って延びている。また、ブレードの基部を構成している外壁面に陥没部が設けられてブレードの基部の挿入方向に沿って延びている。そして、ボスの溝部にブレードの基部を挿入すると突出部と陥没部が嵌合した状態となる。かかる船舶用プロペラによれば、ブレードを押し倒そうとするモーメントがはたらき、ボスの溝部を構成している内壁面に局所的に荷重が掛かっても、ボスの溝部近傍における応力を低減することが可能となる。また、ブレードの基部を構成している外壁面に局所的に荷重が掛かっても、ブレードの基部表面における接触圧力を低減することが可能となる。
【0019】
第二の発明に係る船舶用プロペラは、突出部の頂点よりも径方向外側の内壁面が径方向外側へ向かうにつれて溝幅寸法を広げる方向に傾斜している。また、陥没部の底点よりも径方向外側の外壁面が径方向外側へ向かうにつれて基部厚寸法を広げる方向に傾斜している。そして、内壁面と外壁面が接した状態となる。かかる船舶用プロペラによれば、内壁面の径方向外側部分に荷重が掛かっても、ボスの溝部近傍における応力を低減することが可能となる。また、外壁面の径方向外側部分に荷重が掛かっても、ブレードの基部表面における接触圧力を低減することが可能となる。
【0020】
第三の発明に係る船舶用プロペラは、突出部の頂点よりも径方向内側の内壁面が径方向内側へ向かうにつれて溝幅寸法を広げる方向に傾斜している。また、陥没部の底点よりも径方向内側の外壁面が径方向内側へ向かうにつれて基部厚寸法を広げる方向に傾斜している。そして、内壁面と外壁面が接した状態となる。かかる船舶用プロペラによれば、内壁面の径方向内側部分に荷重が掛かっても、ボスの溝部近傍における応力を低減することが可能となる。また、外壁面の径方向内側部分に荷重が掛かっても、ブレードの基部表面における接触圧力を低減することが可能となる。
【0021】
第四の発明に係る船舶用プロペラは、内壁面の外縁と外壁面の外縁が一致するとともに外壁面の外縁から湾曲部が形成されて翼体部につながっている。かかる船舶用プロペラによれば、翼体部の剛性が高まるので、内壁面に局所的な荷重が掛かるのを抑え、ボスの溝部近傍における応力を確実に低減することが可能となる。また、翼体部の剛性が高まるので、外壁面に局所的な荷重が掛かるのを抑え、ブレードの基部表面における接触圧力を確実に低減することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図8】ボスの溝部とブレードの基部を組み合わせた状態を示す図。
【
図9】ボスの溝部近傍における変位分布と応力分布を示す図。
【
図10】ブレードの基部における変位分布と接触圧力分布を示す図。
【
図11】(従来構造)ボスの溝部とブレードの基部を組み合わせた状態を示す図。
【
図12】(従来構造)ボスの溝部近傍における変位分布と応力分布を示す図。
【
図13】(従来構造)ブレードの基部における変位分布と接触圧力分布を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0023】
まず、
図1から
図6を用いて、本願の発明に係る船舶用プロペラ1について簡単に説明する。本願において、「径方向内側」とは、船舶用プロペラ1の回転軸Aに垂直に近づく方向を意味し、「径方向外側」とは、船舶用プロペラ1の回転軸Aから垂直に遠ざかる方向を意味する。
【0024】
船舶用プロペラ1は、エンジンの駆動力を推進力に変換するものである。船舶用プロペラ1は、主にボス2とブレード3とリテーナ4を備えている。なお、船舶用プロペラ1は、いわゆる四枚翼プロペラであるが、これに限定するものではない。また、船舶用プロペラ1は、いわゆるハイスキュープロペラであるが、これに限定するものでもない。
【0025】
ボス2は、プロペラシャフトに取り付けられる。ボス2は、金属製(例えばアルミニウム青銅)の形成物に切削加工などを加えて作成される。ボス2は、その外周面に溝部21が形成されている。溝部21は、回転軸Aを中心として右方へ旋回する螺旋形状となっている。溝部21は、いわゆるアリ溝であって、後述する突出部22を考慮しなければ、径方向外側へ向かうにつれて両側の内壁面21sが徐々に近づくテーパ断面形状となっている(
図7の(A)における二点鎖線参照)。また、ボス2には、後端面2rから前方へ向けて四つのボルト穴23が設けられている。それぞれのボルト穴23は、各溝部21の開口端に対して左側近傍(回転軸Aを中心とする左旋回側近傍)に設けられている。
【0026】
ブレード3は、ボス2に取り付けられる(
図5参照)。ブレード3は、繊維強化プラスチック製(例えば炭素繊維強化プラスチック)の形成物に表面加工などを加えて作成される。ブレード3は、その一端側に基部31が形成されている。基部31は、ボス2の溝部21と同様に右方へ旋回する螺旋形状となっている。基部31は、いわゆるアリであって、後述する陥没部32を考慮しなければ、他端側(ボス2にブレード3を取り付けた状態では径方向外側)へ向かうにつれて両側の外壁面31sが徐々に近づくテーパ断面形状となっている(
図7の(B)における二点鎖線参照)。また、ブレード3には、基部31と一体的に翼体部33が形成されている。翼体部33は、一般的な翼形状よりも後退角が大きくなっている。
【0027】
リテーナ4は、ボス2に取り付けられる(
図6参照)。リテーナ4は、金属製(例えばアルミニウム青銅)の形成物に切削加工などを加えて作成される。リテーナ4は、中央に穴41が開いた円環形状となっている。また、リテーナ4には、その後端面4rから前方へ突き抜ける四つのボルト挿通穴43が設けられている。それぞれのボルト挿通穴43は、リテーナ4を取り付ける際にボルト穴23に重なる位置に設けられている。それぞれのボルト挿通穴43は、ボルト44の頭部が収まる大径穴部とボルト44の軸部が収まる小径穴部がつながった形状となっている。従って、ボルト44を用いてリテーナ4を取り付けても、リテーナ4の後端面4rからボルト44の頭部が突き出ない。なお、リテーナ4には、その後端面4rから前方へ向けて複数のボルト穴45が設けられている。これらのボルト穴45は、図示しないキャップを取り付ける際に利用される。
【0028】
次に、
図7を用いて、本船舶用プロペラ1の特徴的な部分について説明する。
図7は、コンピュータによるシミュレーションに用いたボス2とブレード3の計算用モデルを示している。これらの計算用モデルは、シミュレーションの結果に対して信頼を得られる程度に簡略化されている。
【0029】
本船舶用プロペラ1は、ボス2の溝部21を構成している内壁面21sに突出部22が設けられている。突出部22は、内壁面21sにおける最も径方向外側にある点(以降「外縁Pa」とする)を通り、内壁面21sと底壁面21tをつなぐ湾曲部分に接する線(二点鎖線参照)に対して隆起している部分である。そして、突出部22は、基部31の挿入方向に沿って延びている。そのため、突出部22は、連続的に円弧状に延びる凸形状として表れる(
図5参照)。但し、突出部22の詳細な形状について限定するものではない。
【0030】
他方、本船舶用プロペラ1においては、ブレード3の基部31を構成している外壁面31sに陥没部32が設けられている。陥没部32は、外壁面31sにおける最も径方向外側にある点(以降「外縁Pb」とする)を通り、外壁面31sと底壁面31tをつなぐ湾曲部分に接する線(二点鎖線参照)に対して陥没している部分である。そして、陥没部32は、基部31の挿入方向に沿って延びている。そのため、陥没部32は、連続的に円弧状に延びる凹形状として表れる(
図5参照)。但し、陥没部32の詳細な形状について限定するものではない。
【0031】
このようにすることで、ボス2の溝部21にブレード3の基部31を挿入すると突出部22と陥没部32が嵌合した状態となる(
図5参照)。このとき、突出部22の頂点22pとその両斜面及び陥没部32の底点32bとその両斜面が互いに接して隙間を生じない。また、ボス2の溝部21にブレード3の基部31を挿入した状態においては、ボス2の後端面2rから基部31の後端面31rが僅かに突出するように設計されている(
図6参照)。そのため、リテーナ4を取り付けると、ブレード3の基部31を適宜な荷重で押し込むこととなる。こうして、ボス2に対してブレード3がガタつくことなく、完全に固定されるのである。
【0032】
次に、
図7から
図10を用いて、本船舶用プロペラ1の特徴的な部分を説明し、その効果について述べる。これらの図は、ボス2とブレード3の計算用モデルを組み合わせたものである(ボス2の溝部21にブレード3の基部31を挿入したものである)。これらの図には、船舶用プロペラ1の回転方向を矢印Rにて示している。また、これらの図には、ブレード3を押し倒そうとするモーメントを矢印Mにて示している。
【0033】
前述したように、船舶用プロペラ1が回転している際には、ブレード3を押し倒そうとするモーメントがはたらくこととなる。ブレード3を押し倒そうとするモーメントがはたらいた場合、ブレード3の固定部分である基部31には、これを回転させようとする大きな荷重が作用する。すると、基部31を拘束している溝部21の両側の内壁面21sにも大きな荷重が作用する。
【0034】
具体的に説明すると、傾倒方向側(船舶用プロペラ1の反回転方向側)の内壁面21sには、この内壁面21sにおける径方向外側部分(頂点22pよりも径方向外側部分:以降「内壁面211」とする)に大きな荷重F1が掛かることとなる。本船舶用プロペラ1においては、突出部22と陥没部32の嵌合により、内壁面21sに沿って基部31が滑り込もうとしないので、内壁面211の近傍部分が押し上げられない。また、内壁面211が垂直に近い大きな角度で荷重F1を受け止めるので、この内壁面211近傍における変位を抑えることができる(
図9の(A)における領域D1参照)。従って、この部分における応力を低減することが可能となる(
図9の(B)における領域S1参照)。また、内壁面21sと底壁面21tをつなぐ湾曲部分についても応力を低減することが可能となる(
図9の(B)における領域S2参照)。
【0035】
更に、ブレード3の基部31に着目すると、基部31の傾倒方向側(船舶用プロペラ1の反回転方向側)の外壁面31sには、作用反作用の法則に基づいて荷重F1に対向する荷重F2が掛かることとなる。本船舶用プロペラ1においては、外壁面31s(以降「内壁面311」とする)が垂直に近い大きな角度で荷重F2を受け止めるので、この外壁面311近傍における変位を抑えることができる(
図10の(A)における領域D2参照)。このように、本船舶用プロペラ1においては、ブレード3を押し倒そうとするモーメントがはたらいても、ブレード3の基部31における変位を抑えて片当たりを防ぐことができ、ひいては基部31表面における接触圧力を低減できるのである(
図10の(B)における領域P1参照)。
【0036】
他方、反傾倒方向側(船舶用プロペラ1の回転方向側)の内壁面21sには、この内壁面21sにおける径方向内側部分(頂点22pよりも径方向内側部分:以降「内壁面212」とする)に大きな荷重F3が掛かることとなる。本船舶用プロペラ1においては、突出部22と陥没部32の嵌合により、内壁面21sに沿って基部31が滑り出ようとしないので、内壁面212の近傍部分が押し上げられない(径方向外側へずり変形が生じない)。また、内壁面212が垂直に近い大きな角度で荷重F3を受け止めるので、この内壁面212近傍における変位を抑えることができる(
図9の(A)における領域D3参照)。従って、この部分における応力を低減することが可能となる(
図9の(B)における領域S3参照)。また、内壁面21sと底壁面21tをつなぐ湾曲部分についても応力を低減することが可能となる(
図9の(B)における領域S4参照)。
【0037】
更に、ブレード3の基部31に着目すると、基部31の反傾倒方向側(船舶用プロペラ1の回転方向側)の外壁面31sには、作用反作用の法則に基づいて荷重F3に対向する荷重F4が掛かることとなる。本船舶用プロペラ1においては、外壁面31s(以降「内壁面312」とする)が垂直に近い大きな角度で荷重F4を受け止めるので、この外壁面312近傍における変位を抑えることができる(
図10の(A)における領域D4参照)。このように、本船舶用プロペラ1においては、ブレード3を押し倒そうとするモーメントがはたらいても、ブレード3の基部31における変位を抑えて片当たりを防ぐことができ、ひいては基部31表面における接触圧力を低減できるのである(
図10の(B)における領域P2参照)。
【0038】
以上のように、本船舶用プロペラ1は、ボス2の溝部21を構成している内壁面21sに突出部22が設けられてブレード3の基部31の挿入方向に沿って延びている。また、ブレード3の基部31を構成している外壁面31sに陥没部32が設けられてブレード3の基部31の挿入方向に沿って延びている。そして、ボス2の溝部21にブレード3の基部31を挿入すると突出部22と陥没部32が嵌合した状態となる。かかる船舶用プロペラ1によれば、ブレード3を押し倒そうとするモーメントがはたらき、ボス2の溝部21を構成している内壁面21sに局所的に荷重が掛かっても、ボス2の溝部21近傍における応力を低減することが可能となる。また、ブレード3の基部31を構成している外壁面31sに局所的に荷重が掛かっても、ブレード3の基部31表面における接触圧力を低減することが可能となる。
【0039】
次に、同じく
図7から
図10を用いて、本船舶用プロペラ1の他の特徴的な部分を説明し、その効果について述べる。ここでは、頂点22pよりも径方向外側の内壁面21sを両側とも「内壁面211」とし、頂点22pよりも径方向内側の内壁面21sを両側とも「内壁面212」とする。また、底点32bよりも径方向外側の外壁面31sを両側とも「外壁面311」とし、底点32bよりも径方向内側の外壁面31sを両側とも「内壁面312」とする。
【0040】
本船舶用プロペラ1において、内壁面211は、径方向外側へ向かうにつれて溝幅寸法Wを広げる方向に傾斜している。従って、突出部22の頂点22pにおける溝幅寸法Wよりも径方向外側における溝幅寸法Wのほうが大きくなっている。他方、外壁面311は、径方向外側へ向かうにつれて基部厚寸法Tを広げる方向に傾斜している。従って、陥没部32の底点32bにおける基部厚寸法Tよりも径方向外側における基部厚寸法Tのほうが大きくなっている。このため、ボス2の溝部21にブレード3の基部31を挿入すると、内壁面211と外壁面311が隙間なく完全に接することとなる。
【0041】
このようにしたのは、傾倒方向側(船舶用プロペラ1の反回転方向側)の内壁面211が垂直に近い大きな角度で荷重F1を受け止めるためである。また、外壁面311が垂直に近い大きな角度で荷重F2を受け止めるためである。加えて、傾倒方向側(船舶用プロペラ1の反回転方向側)のみならず、反傾倒方向側(船舶用プロペラ1の回転方向側)にも同様の技術的思想を適用したのは、本船舶用プロペラ1の回転方向に関わらず、効果を奏するためである。但し、傾倒方向側(船舶用プロペラ1の反回転方向側)のみに適用するとしてもよい。
【0042】
以上のように、本船舶用プロペラ1は、突出部22の頂点22pよりも径方向外側の内壁面211が径方向外側へ向かうにつれて溝幅寸法Wを広げる方向に傾斜している。また、陥没部32の底点32bよりも径方向外側の外壁面311が径方向外側へ向かうにつれて基部厚寸法Tを広げる方向に傾斜している。そして、内壁面211と外壁面311が接した状態となる。かかる船舶用プロペラ1によれば、内壁面21sの径方向外側部分(内壁面211)に荷重が掛かっても、ボス2の溝部21近傍における応力を低減することが可能となる。また、外壁面31sの径方向外側部分(外壁面311)に荷重が掛かっても、ブレード3の基部31表面における接触圧力を低減することが可能となる。
【0043】
更に、本船舶用プロペラ1において、内壁面212は、径方向内側へ向かうにつれて溝幅寸法Wを広げる方向に傾斜している。従って、突出部22の頂点22pにおける溝幅寸法Wよりも径方向内側における溝幅寸法Wのほうが大きくなっている。他方、外壁面312は、径方向内側へ向かうにつれて基部厚寸法Tを広げる方向に傾斜している。従って、陥没部32の底点32bにおける基部厚寸法Tよりも径方向内側における基部厚寸法Tのほうが大きくなっている。このため、ボス2の溝部21にブレード3の基部31を挿入すると、内壁面212と外壁面312が隙間なく完全に接することとなる。
【0044】
このようにしたのは、反傾倒方向側(船舶用プロペラ1の回転方向側)の内壁面212が垂直に近い大きな角度で荷重F3を受け止めるためである。また、外壁面312が垂直に近い大きな角度で荷重F4を受け止めるためである。加えて、反傾倒方向側(船舶用プロペラ1の回転方向側)のみならず、傾倒方向側(船舶用プロペラ1の反回転方向側)にも同様の技術的思想を適用したのは、本船舶用プロペラ1の回転方向に関わらず、効果を奏するためである。但し、反傾倒方向側(船舶用プロペラ1の回転方向側)のみに適用するとしてもよい。
【0045】
以上のように、本船舶用プロペラ1は、突出部22の頂点22pよりも径方向内側の内壁面212が径方向内側へ向かうにつれて溝幅寸法Wを広げる方向に傾斜している。また、陥没部32の底点32bよりも径方向内側の外壁面312が径方向内側へ向かうにつれて基部厚寸法Tを広げる方向に傾斜している。そして、内壁面212と外壁面312が接した状態となる。かかる船舶用プロペラ1によれば、内壁面21sの径方向内側部分(内壁面212)に荷重が掛かっても、ボス2の溝部21近傍における応力を低減することが可能となる。また、外壁面31sの径方向内側部分(外壁面312)に荷重が掛かっても、ブレード3の基部31表面における接触圧力を低減することが可能となる。
【0046】
最後に、
図7と
図8を用いて、本船舶用プロペラ1の他の特徴的な部分を説明し、その効果について述べる。
【0047】
本船舶用プロペラ1においては、内壁面21sの外縁Paと外壁面31sの外縁Pbが一致するとともに外壁面31sの外縁Pbから湾曲部34が形成されて翼体部33につながっている。これについても、あらゆる計算用モデルを用いてシミュレーションを行い、その結果として見出された形状といえる。
【0048】
このように、本船舶用プロペラ1は、内壁面21sの外縁Paと外壁面31sの外縁Pbが一致するとともに外壁面31sの外縁Pbから湾曲部34が形成されて翼体部33につながっている。かかる船舶用プロペラ1によれば、翼体部33の剛性が高まるので、内壁面21sに局所的な荷重が掛かるのを抑え、ボス2の溝部21近傍における応力を確実に低減することが可能となる。また、翼体部33の剛性が高まるので、外壁面31sに局所的な荷重が掛かるのを抑え、ブレード3の基部31表面における接触圧力を確実に低減することが可能となる。
【符号の説明】
【0049】
1 船舶用プロペラ
2 ボス
21 溝部
21s 内壁面
211 内壁面
212 内壁面
22 突出部
22p 頂点
3 ブレード
31 基部
31s 外壁面
311 外壁面
312 外壁面
32 陥没部
32b 底点
33 翼体部
34 湾曲部
A 回転軸
W 溝幅寸法
T 基部厚寸法
Pa 外縁
Pb 外縁