(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-07
(45)【発行日】2023-02-15
(54)【発明の名称】電動式スクレーパーの替刃
(51)【国際特許分類】
E04G 23/02 20060101AFI20230208BHJP
【FI】
E04G23/02 Z
(21)【出願番号】P 2019098980
(22)【出願日】2019-05-28
【審査請求日】2022-03-17
(73)【特許権者】
【識別番号】591043673
【氏名又は名称】株式会社岡田金属工業所
(74)【代理人】
【識別番号】100174816
【氏名又は名称】永田 貴久
(74)【代理人】
【識別番号】100192692
【氏名又は名称】谷 昌樹
(72)【発明者】
【氏名】岡田 保
【審査官】山口 敦司
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-66609(JP,A)
【文献】特開2019-177515(JP,A)
【文献】特開平5-202621(JP,A)
【文献】特表2008-531302(JP,A)
【文献】特開2018-178444(JP,A)
【文献】特開2016-68176(JP,A)
【文献】実開平7-25142(JP,U)
【文献】米国特許出願公開第2016/0273235(US,A1)
【文献】国際公開第2018/090082(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04G 23/02
E04F 21/00
E04F 21/16
E04F 21/20
E04F 21/32
B24B 23/04
E04G 19/00
A47L 13/08
A47L 17/06
B23D 79/06
B23D 51/10
B23D 61/18
B27B 9/00
B27B 19/09
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
振幅の小さな往復円運動をする駆動源に取設固定することで、建材表面にある接着剤残滓、突出金属を除去するスクレーパーの替刃であって、その先端部分において刃の厚みは一定であり、形成される切り歯は、刃の表裏面に垂直な面で切削されてなり、且つアサリが設けられていないことを特徴とする電動式スクレーパーの替刃。
【請求項2】
該切り歯の平面形状は、同一形状の二等辺三角形を連続させた形状である請求項1記載の電動式スクレーパーの替刃。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般に「振動マルチツール」と呼ばれる、振幅(回動角)の非常に小さな往復円運動をする駆動源に取設固定することで、建材表面にある接着剤残滓、釘、タッカーネイル等の一切を除去するためのスクレーパー替刃の構造に関するものである。
なお以下本明細書中で「円弧振動」という語句を使用するが、「振幅(回動角)の小さな往復円運動」のことを指すものとする。
【背景技術】
【0002】
スクレーパーは、物の外面や表面を薄く削り取る作業に用いる工具であり、建築工事、特に在来施設を残す形で美化・強化を図るリフォーム工事では、使用頻度の高い工具の一つとなっている。例えば室内リフォームを行なう際に、既存の壁紙や石膏ボードを剥がし取った上で新しいものと取り換える、ということが行なわれる。その時、壁紙や石膏ボードを大まかに剥がした跡には、釘類(釘、タッカーネイル等)や接着剤などの残滓が残っているのが普通である。従って、作業を進めてゆくには残滓除去(下地調整作業)が必須となり、これが存外面倒である。
【0003】
接着剤の残滓除去は、表面から釘やタッカーネイルが出ている場合には、釘抜きで抜くか金槌で打ち込むかで対応し、固化した接着剤が付着している場合には、スクレーパーで削ぎ落す、ということが基本となる。
即ち釘抜き・金槌・スクレーパーを携行し、接着剤残滓の種類状況を見極めてその中から適切な工具を取り出して使用する、というのが作業の基本となる。
スクレーパーは、先端が鋭利になったナイフエッジを対象物に押し当てる工具であるので接着剤の除去には適しているが、打ち込まれた釘に当たってしまうと刃部分が破損する恐れがあり危険である。故に、固化した接着剤に押し当ててこれを剥がしている作業にあっても、接着剤下に釘の頭が潜んでいないかを確認しながらの作業となる。勿論釘を発見したならば、そこを避けるか、一旦作業を中断し釘除去作業に切り替える必要がある。
【0004】
釘類の処理に対しては釘抜きや金槌が用いられるが、釘類を接着剤が覆ってしまっているという状況では、釘抜きも金槌も使いづらい。そのような場合、釘抜きや金槌で接着剤残滓を除去することは難しいので、ヤットコやニッパーを用いて除去する必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
故に、効率的な作業を行なうためには幾種類もの工具が必要となるし、釘等が隠れていないかを終始気にしながらの作業となっていた。
【0007】
一方、振動マルチツールと呼ばれる工具がある。これは、円弧振動する駆動源に替刃やパッドを取設固定することで、切断・掻き取り・研磨・研削を行なうというものである。そうした替刃の中に、先端が鋭利になったナイフエッジで形成されているものがスクレーパーとして市販されている。
【0008】
接着剤跡にこの刃を押し込んでゆくと、押し込み力と円弧振動との複合によって接着剤は多少容易に剥がせるようになる。しかしながら、釘等に出くわすことによる支障に関しては動力式であっても変わりはない。
【課題を解決するための手段】
【0009】
そこで本発明者は上記点に鑑み鋭意研究の結果遂に本発明を成したものでありその特徴とするところは、振幅の小さな往復円運動をする駆動源に取設固定することで、建材表面にある接着剤残滓、突出金属を除去するスクレーパーの替刃であって、その先端部分において刃の厚みは一定であり、形成される切り歯は、刃の表裏面に垂直な面で切削されてなり、且つアサリが設けられていない点にある。
【0010】
即ち本発明に係る電動式スクレーパーの替刃は先ず第一に、先端が鋭利に形成されていない。また、先端部分の厚みが一定であり、いわゆる「アサリ」も付けられていない。更にまた切り歯が、ジグソーで切断するかの如く、刃の表裏面に垂直な面で切削されており歯が斜めを向いていない。即ち、鋸切り歯の如きものが設けられているが、鋸とは呼べない切り歯構造を具備する替刃と言える。
【0011】
以上から、接着剤残滓を掻き取る能力を備えながら、釘等に出くわしてもこれを切断しながら進んで行けるだけの強度も備えることとなる。
【0012】
まず、接着剤残滓を掻き取る能力を備えることとなる理由を説明する。ナイフエッジを有する従来のスクレーパーの場合は楔状先端が接着剤残滓に嵌り込み、接着剤残滓と基材との隙間を楔先端が切り広げるというものであるため、剥がされた接着剤残滓が刃先端に付着しやすい。
一方本発明替刃の場合には、ナイフエッジというものを有していない。その代わりに切り歯を有している。従って、この切り歯が円弧振動することで、接着剤残滓の底部分(基材に近い部分)を破断しながら進むことになる。刃の厚みは接着剤残滓の厚みよりも小さいことも多くその場合には、接着剤残滓の麓を抉りながら残滓内に突入することになる。そしてこのような状況では、抉られた残滓が刃に付着するということにはなり難い。
【0013】
次に、釘等に出くわしてもこれを切断しながら進んで行けるだけの強度も備えることとなる理由を説明する。鋸の刃は切り歯を有するが、通常各切り歯は鋸刃の広い面に対して非直角に切削される面で構成される。ところが本発明においてスクレーパーは、鋸状切り歯を有しておりその切り歯は、広い面に対して直角な面だけで構成される。
即ち、平坦な薄板の一側面を、該側面に対して垂直な面で切削することによって切り歯が形成される。刃全体は円弧振動することになるがその時切り歯を構成する面は、釘等を正面に捉えながら接触してゆくことになり、刃こぼれを起こす可能性は低くなる。加えてナイフエッジというものを持たないので、非常に高い強度となる。
【0014】
また、切り歯の平面形状について、同一形状の二等辺三角形を連続させた形状とする点を請求項2で提案している。この形状を「ジグザグ形状」と言い。ジグザグ形状の切り歯のことを「ジグザグ切り歯」と呼ぶものとする。切り歯をジグザグ形状とすることにより刃が円弧振動をしている場合における切削能力が右方向・左方向で等しくなるので作業時に違和感を感じなくて済むことになる。
【0015】
なお本発明は、作業のさなかに釘等に出くわしても、そのまま突き進み当該釘等を切断してゆくものであるので、切り歯部分の強度(硬度・靭性)は高い方が好ましい。そのような改良は適宜加えて良いし、本発明はそうした改良を妨げるものではない。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係る電動式スクレーパーの替刃は、振幅の小さな往復円運動をする駆動源に取設固定することで、建材表面にある接着剤残滓、突出金属を除去するスクレーパーの替刃であって、その先端部分において刃の厚みは一定であり、形成される切り歯は、刃の表裏面に垂直な面で切削されてなり、且つアサリが設けられていない点を特徴とするものであり、以下述べるような効果を有する極めて高度な発明である。
【0017】
(1) スクレーパーでありながら、鋸刃の如き切り歯を有しているので、接着剤残滓・突出金属のいずれであっても除去することができる。
(2) 切り歯は、刃の表裏面に垂直な面で切削されているので、刃こぼれを起こしにくい。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明に係る電動式スクレーパーの替刃の一例を示す概略平面図である。
【
図2】(a)(b)は、本発明に係る電動式スクレーパーの替刃の切り歯付近を示すものであり、(a)は概略平面図、(b)はそのA部分拡大図である。
【
図3】(a)(b)は、本発明に係る電動式スクレーパーの替刃の切り歯付近を示すものであり、(a)は概略正面図、(b)はそのB部分拡大図である。
【
図4】(a)(b)は、本発明に係る電動式スクレーパーの替刃が作業する面の一例を示すものであり、同図(a)は作業する面が露呈する前、(b)は露呈後を示すものである。
【
図5】本発明に係る電動式スクレーパーの替刃を取設しようとしている振動マルチツールの一例を示す概略斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
図1は、本発明に係る電動式スクレーパーの替刃1(以下「本発明替刃1」という)の一例を示すものである。本発明替刃1は振動マルチツール用のものであって、図より明らかなように本例の本発明替刃1は、レシプロ動させたときの切削能力が往復等しくなるようにジグザグ状に形成されたジグザグ切り歯2を備えている。
【0020】
なおジグザグ切り歯2が設けられている側とは反対側に、振動マルチツールとの連結機構部が設けられる。本例の場合には、振動マルチツール側の突起(図示せず)に連結孔3を嵌め込んで合体させるようにしている。但し連結機構部の構造に関しては種々なものがあり、図示した構造に限定されるものではない。
図5は、振動マルチツールに本発明替刃1を取り付けようとしている状態の一例を示すものである。
【0021】
ジグザグ切り歯2は、平面図とその中のA部分の拡大図である
図2(a)(b)と、正面図とその中のB部分の拡大図である
図3(a)(b)にて明らかとなっているように、刃の一側面端部に、その広い面4に対して直角な面のみで切削した形状の目立てを施したものである。またジグザグ状切削については、
図2から明らかなように、歯先21を頂点とする同一形状の二等辺の連続繰り返しで構成されている。切り歯をジグザグにすると切削能力が往動・復動で変わらないわけであるが、通常の切り歯のように往動と復動で能力に違いがある場合には、片方(往動又は復動)で切り歯が滑り、他方では滑らないという構造上の特徴が原因となり、振動マルチツールを押しているにもかかわらず、押す方向から片方側に反れてしまうという挙動をみせる。特に接着剤跡が広範囲にあって、振動マルチツールがその中を突き進んでゆくような場合にはその傾向が強い。従って本発明の如く切り歯がジグザグである場合、取り扱いが楽になる。
【0022】
更に通常鋸刃は「アサリ」を有しているが、
図3からも明らかなように本発明替刃1は「アサリ」或いはそれに代わる構造を備えていない。アサリがないことによって、スクレーパー作業中に切り歯が下地側(躯体面・壁面等)を傷つける危険性が激減する。
【0023】
図4(a)(b)は、壁体A上に化粧ボードBを張設した状態〔同図(a)〕と、化粧ボードBを剥がした状態〔同図(b)〕を示すものである。同図(b)の状態が本発明替刃1の作業部分ということになる。同図(b)の状態では、大小様々な接着剤跡X、タッカーネイルYの頭部分が露呈する。接着剤もタッカーネイルも、壁体Aと化粧ボードBを接合するために使用されたものであり、化粧ボードBを剥がした段階ではタッカーネイルYの頭は、おおよそ該化粧ボードBの厚み分だけ壁体A表面から離れている。また、剥がす際に化粧ボードBの一部が接着剤側に残っていることもある。
なお、化粧ボードBの撤去方法に関しては、「剥がす」という語句で示すことができるものであればどのような方法でも良く、本発明は関与しない。また詳述もしない。
【0024】
剥がし作業は、本発明替刃1を装着した振動マルチツールのスイッチを入れ接着剤跡XやタッカーネイルYに向けて壁体A上を動かしてやるだけである。釘等の金属部材の切断も想定しているので材質は、硬さだけでなく靭性を備えたものが必要となる。
【符号の説明】
【0025】
1 本発明に係る電動式スクレーパーの替刃
2 ジグザグ切り歯
21 歯先
3 連結孔
4 (鋸刃の)広い面
A 壁体
B 化粧ボード
X 接着剤跡
Y タッカーネイル