(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-07
(45)【発行日】2023-02-15
(54)【発明の名称】三層構造シームレスカプセル
(51)【国際特許分類】
A61K 9/48 20060101AFI20230208BHJP
A23L 5/00 20160101ALI20230208BHJP
A61K 9/60 20060101ALI20230208BHJP
A61K 9/62 20060101ALI20230208BHJP
A61K 9/64 20060101ALI20230208BHJP
A61K 31/375 20060101ALI20230208BHJP
A61K 31/51 20060101ALI20230208BHJP
A61K 31/525 20060101ALI20230208BHJP
A61K 31/714 20060101ALI20230208BHJP
A61K 35/744 20150101ALI20230208BHJP
A61K 35/745 20150101ALI20230208BHJP
A61K 47/04 20060101ALI20230208BHJP
A61K 47/32 20060101ALI20230208BHJP
A61K 47/36 20060101ALI20230208BHJP
A61K 47/38 20060101ALI20230208BHJP
A61K 47/42 20170101ALI20230208BHJP
A61K 47/44 20170101ALI20230208BHJP
A61P 1/14 20060101ALI20230208BHJP
A61P 3/02 20060101ALI20230208BHJP
【FI】
A61K9/48
A23L5/00 C
A61K9/60
A61K9/62
A61K9/64
A61K31/375
A61K31/51
A61K31/525
A61K31/714
A61K35/744
A61K35/745
A61K47/04
A61K47/32
A61K47/36
A61K47/38
A61K47/42
A61K47/44
A61P1/14
A61P3/02 102
A61P3/02 104
A61P3/02 105
A61P3/02 106
A61P3/02 107
(21)【出願番号】P 2019236605
(22)【出願日】2019-12-26
(62)【分割の表示】P 2018228373の分割
【原出願日】2014-10-03
【審査請求日】2019-12-26
【審判番号】
【審判請求日】2021-07-19
(73)【特許権者】
【識別番号】391010976
【氏名又は名称】富士カプセル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107984
【氏名又は名称】廣田 雅紀
(74)【代理人】
【識別番号】100096482
【氏名又は名称】東海 裕作
(74)【代理人】
【識別番号】100131093
【氏名又は名称】堀内 真
(74)【代理人】
【識別番号】100150902
【氏名又は名称】山内 正子
(74)【代理人】
【識別番号】100141391
【氏名又は名称】園元 修一
(72)【発明者】
【氏名】増田 幸司
(72)【発明者】
【氏名】西村 直樹
(72)【発明者】
【氏名】中野 博史
(72)【発明者】
【氏名】下川 義之
(72)【発明者】
【氏名】加藤 健治
【合議体】
【審判長】前田 佳与子
【審判官】鳥居 敬司
【審判官】渕野 留香
(56)【参考文献】
【文献】特開平07-069867(JP,A)
【文献】特開2009-159934(JP,A)
【文献】特表2012-519727(JP,A)
【文献】国際公開第2008/081539(WO,A1)
【文献】特開2006-223306(JP,A)
【文献】特開平04-041434(JP,A)
【文献】特開2008-050264(JP,A)
【文献】特開2005-065629(JP,A)
【文献】特開昭56-059709(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 9/00-9/72
CAPlus/BIOSIS/MEDLINE/EMBASE(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コアと、前記コアを被包する保護層と、前記保護層を被包する水溶性ゲル化剤を含む皮膜層とを備えた三層構造カプセルであって、前記コアは水と配合禁忌の関係にある物質と第一油性物質と
比表面積100~500m
2
/gの多孔性微粒子粉末とを含有し、前記保護層は
第一油性物質に対して融点差が2℃以上の第二油性物質を含有し、前記水溶性ゲル化剤が親水性高分子から選択されることを特徴とする三層構造シームレスカプセル。
【請求項2】
水溶性ゲル化剤が、ゼラチン、カラギーナン、寒天、ジェランガム、ファーセレラン、ユーケマ藻類、ペクチン、アルギン酸塩類、プルラン、グルコマンナン、アラビアゴム、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、デンプン類から選択される1種又は2種以上であることを特徴とする請求項1記載の三層構造シームレスカプセル。
【請求項3】
コアにおいて、第一油性物質100質量部に対して多孔性微粒子粉末を0.1~20質量部含有することを特徴とする請求項1又は2記載の三層構造シームレスカプセル。
【請求項4】
多孔性微粒子粉末が気相法シリカであることを特徴とする請求項1~3のいずれか記載の三層構造シームレスカプセル。
【請求項5】
気相法シリカがアエロジルであることを特徴とする請求項4記載の三層構造シームレスカプセル。
【請求項6】
コアに含有されている第一油性物質が硬化油であることを特徴とする請求項1~5のいずれか記載の三層構造シームレスカプセル。
【請求項7】
融点が30~60℃の硬化油であることを特徴とする請求項6記載の三層構造シームレスカプセル。
【請求項8】
保護層が、第一油性物質より融点が2℃以上高い第二油性物質を含有することを特徴とする請求項
1記載の三層構造シームレスカプセル。
【請求項9】
水溶性ゲル化剤がゼラチンであることを特徴とする請求項1~
8のいずれか記載の三層構造シームレスカプセル。
【請求項10】
水溶性ゲル化剤がゼラチン及びペクチンであることを特徴とする請求項1~
9のいずれか記載の三層構造シームレスカプセル。
【請求項11】
コアと、前記コアを被包する保護層と、前記保護層を被包する皮膜層とを備えた三層構造シームレスカプセルの作製方法であって、以下の工程(a)~(d)を備えたことを特徴とする作製方法。
(a)水と配合禁忌の関係にある物質と第一油性物質と
比表面積100~500m
2
/gの多孔性微粒子粉末とを含有するコア液を調製する工程;
(b)
第一油性物質に対して融点差が2℃以上の第二油性物質を含有する保護液を調製する工程;
(c)水溶性ゲル化剤と水とを含有する皮膜液を調製する工程;
(d)同心三重ノズルを用い、外側ノズルからは前記皮膜液を、内側ノズルからは前記コア液を、中間ノズルからは前記保護液を吐出させて三層液滴とし、かかる三層液滴を硬化液と接触させて皮膜液を硬化させる工程;
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、三層構造シームレスカプセルに関し、より詳しくは、コアと、前記コアを被包する保護層と、前記保護層を被包する水溶性ゲル化剤を含む皮膜層とを備えた三層構造カプセルであって、前記コアは水と配合禁忌の関係にある物質と第一油性物質と多孔性微粒子粉末とを含有し、前記保護層は第二油性物質を含有することを特徴とする三層構造シームレスカプセルに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、様々な有効成分をコアに含有させたカプセルが種々報告されている。これらのカプセルにおける皮膜の材料としては、ゼラチンや、寒天及び水溶性高分子の混合物などが広く用いられている。
【0003】
ゼラチンや、寒天及び水溶性高分子の混合物を材料とする皮膜には水を含有しているため、水と配合禁忌の関係にある物質をコアに含有させる場合には、皮膜とコアを隔離しなければならない。
【0004】
皮膜とコアに含有される成分とを隔離したカプセルとして、例えば、内包されている腸内有用細菌が、常温において非流動性の疎水性物質を介して、カプセル皮膜から隔離されてなる腸内有用細菌含有カプセル(特許文献1参照)や、ビフィズス菌粉末に保護剤を添加し、融点30~45℃、融点幅3℃以下の硬化油に懸濁してカプセル核液とし、ゼラチンを用いて皮膜を形成することを特徴とするビフィズス菌含有ソフトカプセル(特許文献2参照)や、内容物と該内容物を被覆する皮膜よりなるシームレスカプセルにおいて、該内容物が親水性物質であり、該内容物と皮膜との間にショ糖の低級脂肪酸エステルが介在することを特徴とする親水性物質を内容物とするシームレスカプセル(特許文献3参照)が提案されている。しかしながら、かかるカプセルでは皮膜とコアに含有される成分との隔離が不十分であり、コアに含有される成分が直接カプセル皮膜に接触することを一時的に防ぐことが可能であるにすぎず、皮膜や硬化油やその他の物質に含まれている水が経時的にコアに含有される成分と接するという問題があった。
【0005】
また、酸、水分または熱に弱い内容物質を常温で非流動性である疎水性物質に懸濁し、これをカプセル化した後に常温通風乾燥し、ついでこの乾燥カプセルをさらに真空乾燥または真空凍結乾燥させることを特徴とする酸、水分または熱に弱い内容物質を包含するカプセル(特許文献4参照)が提案されている。かかるカプセルによって、水分に弱い内容物を保護することが可能となるが、真空乾燥や真空凍結という複雑な工程が必要であると共にコストもかかるという問題があった。
【0006】
一方、カプセルの作製において、気相法シリカなどの多孔性微粒子粉末は、アグロメレート化調合物において、活性化合物の放出速度を調整するための充填剤(特許文献5参照)や、ソフトカプセルの親油性媒体中におけるコートされた有用物質の顆粒の沈降抑制剤(特許文献6参照)や、ソフトカプセルにおける皮膜の付着性又は滑走性の改善剤(特許文献7参照)として用いることが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開昭62-263128号公報
【文献】特開昭61-151127号公報
【文献】特開平3-52639号公報
【文献】特開平07-069867号公報
【文献】特表2006-517929号公報
【文献】特表2007-525413号公報
【文献】特開平6-247845号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、コアと皮膜層とが隔離され、コアに含有される水と配合禁忌の関係にある物質と水との接触が防止され、水と配合禁忌の関係にある物質を安定に維持することが可能な三層構造シームレスカプセルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、コアに硬化油を含有するカプセルを作製する過程で、後述する参考例に記載のように、硬化油にアエロジル(登録商標)を分散させ、かかる硬化油を融点以上に加温した状態で、冷却した中鎖脂肪酸トリグリセライド(MCT)中に滴下したところ、硬化油とMCTの間に界面が生じて硬化油がMCT中に溶解することがなく球状となり、かつ、球状を保ったまま硬化油の融点以下に冷却されて固化することを見いだした。そこで、かかる現象を応用し、ビフィズス菌と硬化油とアエロジルとを含有するコア、前記コアを被包する硬化油を含有する保護層、前記保護層を被包するゼラチンを含む皮膜層とを備えた三層構造シームレスカプセルを作製したところ、コアと皮膜層が隔離され、ビフィズス菌が安定的に維持されていることを見いだし、本発明を完成した。
【0010】
すなわち、本発明は、以下に開示されるとおりのものである。
(1)コアと、前記コアを被包する保護層と、前記保護層を被包する水溶性ゲル化剤を含む皮膜層とを備えた三層構造カプセルであって、前記コアは水と配合禁忌の関係にある物質と第一油性物質と多孔性微粒子粉末とを含有し、前記保護層は第二油性物質を含有し、前記水溶性ゲル化剤が親水性高分子から選択されることを特徴とする三層構造シームレスカプセル。
(2)水溶性ゲル化剤が、ゼラチン、カラギーナン、寒天、ジェランガム、ファーセレラン、ユーケマ藻類、ペクチン、アルギン酸塩類、プルラン、グルコマンナン、アラビアゴム、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、デンプン類から選択される1種又は2種以上であることを特徴とする上記(1)記載の三層構造シームレスカプセル。
(3)コアにおいて、第一油性物質100質量部に対して多孔性微粒子粉末を0.1~20質量部含有することを特徴とする上記(1)又は(2)記載の三層構造シームレスカプセル。
(4)多孔性微粒子粉末が気相法シリカであることを特徴とする上記(1)~(3)のいずれか記載の三層構造シームレスカプセル。
(5)気相法シリカがアエロジルであることを特徴とする上記(4)記載の三層構造シームレスカプセル。
(6)コアに含有されている第一油性物質が硬化油であることを特徴とする上記(1)~(5)のいずれか記載の三層構造シームレスカプセル。
(7)融点が30~60℃の硬化油であることを特徴とする上記(6)記載の三層構造シームレスカプセル。
(8)保護層が、第一油性物質に対して融点差が2℃以上の第二油性物質を含有することを特徴とする上記(1)~(7)のいずれか記載の三層構造シームレスカプセル。
(9)保護層が、第一油性物質より融点が2℃以上高い第二油性物質を含有することを特徴とする上記(8)記載の三層構造シームレスカプセル。
(10)水溶性ゲル化剤がゼラチンであることを特徴とする上記(1)~(9)のいずれか記載の三層構造シームレスカプセル。
(11)水溶性ゲル化剤がゼラチン及びペクチンであることを特徴とする上記(1)~(9)のいずれか記載の三層構造シームレスカプセル。
(12)水と配合禁忌の関係にある物質が、ビフィズス菌、乳酸菌、ビタミンB1、ビタミンB2、ビタミンB12、又はビタミンCであることを特徴とする上記(1)~(11)のいずれか記載の三層構造シームレスカプセル。
(13)コアと、前記コアを被包する保護層と、前記保護層を被包する皮膜層とを備えた三層構造シームレスカプセルの作製方法であって、以下の工程(a)~(d)を備えたことを特徴とする作製方法。
(a)水と配合禁忌の関係にある物質と第一油性物質と多孔性微粒子粉末とを含有するコア液を調製する工程;
(b)第二油性物質を含有する保護液を調製する工程;
(c)水溶性ゲル化剤と水とを含有する皮膜液を調製する工程;
(d)同心三重ノズルを用い、外側ノズルからは前記皮膜液を、内側ノズルからは前記コア液を、中間ノズルからは前記保護液を吐出させて三層液滴とし、かかる三層液滴を硬化液と接触させて皮膜液を硬化させる工程;
【発明の効果】
【0011】
本発明の三層構造シームレスカプセルによれば、コアと皮膜層とが隔離され、コアに含有される水と配合禁忌の関係にある物質と水との接触が防止され、水と配合禁忌の関係にある物質を安定に維持することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】三層構造シームレスカプセルの構造を示す図である。
【
図2】三層構造シームレスカプセルの三次元表示画像を示す図である。
【
図3】アエロジルを分散させた硬化油を融点以上に加温した状態で、冷却した中鎖脂肪酸トリグリセライド(MCT)中に滴下した状態を示す図である。
【
図4】滴下した硬化油が融点以下に冷却されることによって、球状を保ったまま固化した状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の三層構造シームレスカプセルとしては、コアと、前記コアを被包する保護層と、前記保護層を被包する水溶性ゲル化剤を含む皮膜層とを備えた三層構造カプセルであって、前記コアは水と配合禁忌の関係にある物質と第一油性物質と多孔性微粒子粉末とを含有し、前記保護層は第二油性物質を含有することを特徴とする三層構造シームレスカプセルであれば特に制限されず、水と配合禁忌の関係にある物質を安定的に維持することが可能なシームレスカプセルである。
【0014】
また、本発明の三層構造シームレスカプセルの作製方法としては、コアと、前記コアを被包する保護層と、前記保護層を被包する皮膜層とを備えた三層構造シームレスカプセルの作製方法であって、
(a)水と配合禁忌の関係にある物質と第一油性物質と多孔性微粒子粉末とを含有するコア液を調製する工程;
(b)第二油性物質を含有する保護液を調製する工程;
(c)水溶性ゲル化剤と水とを含有する皮膜液を調製する工程;
(d)同心三重ノズルを用い、外側ノズルからは前記皮膜液を、内側ノズルからは前記コア液を、中間ノズルからは前記保護液を吐出させて三層液滴とし、かかる三層液滴を硬化液と接触させて皮膜液を硬化させる工程;
の工程(a)~(d)を備えたことを特徴とする作製方法であれば特に制限されず、かかる作製方法により、水と配合禁忌の関係にある物質を安定的に維持することが可能な上記本発明の三層構造シームレスカプセルを作製することが可能となる。
【0015】
本発明の三層構造シームレスカプセルや、本発明の三層構造シームレスカプセルの作製方法(以下、総称して「本件発明」ともいう。)において、コアとしては、水と配合禁忌の関係にある物質と第一油性物質と多孔性微粒子粉末とを含有していれば特に制限されず、保護層によって被包されることによって皮膜層と隔離される。
【0016】
上記水と配合禁忌の関係にある物質としては、水との接触により不安定となる物質であれば特に制限されないが、ビフィドバクテリアム・ロンガム、ビフィドバクテリアム・ビフィダムなどのビフィズス菌、スプレプトコックス・フェシウム、ラクトコックス・ラクチス亜種・ラクチス、ラクトバチルス・ヘルベティクス、ラクトバチルス・アシドフィルス、ラクトバチルス・カゼイなどの乳酸菌に例示される、水との接触により生育能力が低下する腸内細菌や、ビタミンB1、ビタミンB2、ビタミンB12、又はビタミンCなどの、水との接触により分解が生じるビタミンを挙げることができ、ビフィズス菌又は乳酸菌を好適に挙げることができる。
【0017】
本件発明において、多孔性微粒子粉末としては、粒子内部に多数の細孔を有するものであれば特に制限されず、気相法シリカや湿式法シリカなどの非晶質合成シリカ、アルミナ、アルミナ水和物、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、二酸化チタンなどの公知の微粒子粉末を挙げることができるが、空隙率が高い観点から、好ましくは気相法シリカや湿式法シリカなどの非晶質合成シリカ、アルミナ又はアルミナ水和物、より好ましくは気相法シリカや湿式法シリカなどの非晶質合成シリカ、さらに好ましくは気相法シリカを挙げることができる。
【0018】
非晶質合成シリカは、製造方法によって気相法シリカと湿式法シリカとその他のシリカに分類され、湿式法シリカは、更に製造方法によって沈降法シリカ、ゲル法シリカ、ゾル法シリカに分類される。
【0019】
気相法シリカは、湿式法に対して乾式法とも呼ばれ、一般的には火炎加水分解法によって作られる。具体的には四塩化ケイ素を水素及び酸素とともに燃焼して作る方法が一般的に知られているが、四塩化ケイ素の代わりにメチルトリクロロシランやトリクロロシランなどのシラン類も、単独又は四塩化ケイ素と混合した状態で使用することができる。気相法シリカとしてはアエロジル(登録商標)(日本アエロジル社製)や、レオロシール(登録商標)(トクヤマ社製)などの市販品を用いることができる。
【0020】
沈降法シリカは、ケイ酸ソーダと硫酸をアルカリ条件で反応させて製造され、粒子成長したシリカ粒子が凝集・沈降し、その後濾過、水洗、乾燥、粉砕・分級の行程を経て製造される。沈降法シリカとしては、ニップシール(登録商標)(東ソー・シリカ社製)などの市販品を用いることができる。
【0021】
ゲル法シリカは、ケイ酸ソーダと硫酸を酸性条件下で反応させて製造される。熟成中に微小粒子は溶解し、他の一次粒子同士を結合するように再析出するため、明確な一次粒子は消失し、内部空隙構造を有する比較的硬い凝集粒子を形成する。ゲル法シリカとしては、ニップジェル(登録商標)(東ソー・シリカ社製)やサイロイド(登録商標)、サイロジェット(登録商標)(グレースジャパン社製)などの市販品を用いることができる。
【0022】
ゾル法シリカは、コロイダルシリカとも呼ばれ、ケイ酸ソーダの酸などによる複分解やイオン交換樹脂層を通して得られるシリカゾルを加熱熟成して得られる。ゾル法シリカとしては、スノーテックス(登録商標)(日産化学工業社製)などの市販品を用いることができる。
【0023】
多孔性微粒子粉末の比表面積は40m2/g以上、好ましくは100~500m2/gを挙げることができる。
【0024】
本件発明において、多孔性微粒子粉末を2種以上併用することもできる。例えば、粉砕した気相法シリカと湿式法シリカとの併用や、微粉砕した湿式法シリカとアルミナあるいはアルミナ水和物との併用や、気相法シリカとアルミナあるいはアルミナ水和物との併用が挙げられる。
【0025】
コアにおいて、第一油性物質100質量部に対して多孔性微粒子粉末を0.1~20質量部、好ましくは1~10質量部、より好ましくは2~8質量部、さらに好ましくは3~6質量部含有していることが好ましい。
【0026】
本件発明において、第一油性物質や第二油性物質における油性物質としては、硬化油、部分硬化油、サフラワー油、亜麻仁油、ゴマ油、オリーブ油、大豆油、からし油、ナタネ油、コーン油、ヒマシ油、月見草油、パーム核油、ホホバ油、綿実油、ヤシ油、落花生油、カカオ脂、ラード、ヘッド、EPA、DHA、サメ肝油、タラ肝油などの動植物油や、中鎖脂肪酸トリグリセリド(MCT)や、グリセリン脂肪酸エステルや、脂肪酸アシルエステルや、流動パラフィンなどから選択される1種又は2種以上を用いることができ、上記硬化油としては、硬化ヒマシ油、硬化大豆油、硬化菜種油、硬化ヤシ油、カカオ脂、硬化パーム核油、牛脂硬化油、豚脂硬化油を挙げることができる。
【0027】
第一油性物質における油性物質と第二油性物質は同じ油性物質でも異なる油性物質でもよいが、第二油性物質は、第一油性物質に対して融点差が2℃以上であることや、第一油性物質より融点が2℃以上高いことが好ましい。第二油性物質として、第一油性物質に対して融点差が2℃以上である油性物質や、第一油性物質より融点が2℃以上高い油性物質を用いることで、一方の油性物質が他の油性物質よりも早く凝固し、第一油性物質と第二油性物質とが互いに溶け込むことをより防ぐことが可能となる。なお、硬化油などのように融点が一定の規格幅の温度である油性物質においては、一定の規格幅の温度における上限と下限の和の2分の1(中間)の温度を融点として採用する。
【0028】
第一油性物質としては、硬化油を用いることが好ましく、融点が30~60℃、好ましくは33~37℃の硬化油を用いることがより好ましい。
【0029】
本件発明における上記コアやコア液、及び/又は上記保護層や保護液には、レシチンや各種界面活性剤、アルコール類などの界面活性を調整できる添加剤や、ショ糖酢酸イソ酪酸エステル(SAIB)などの比重調整剤や、ビタミンE、BHT、BHAに代表される抗酸化剤などを含有してもよい。
【0030】
本件発明において、水溶性ゲル化剤としては、ゼラチン、カラギーナン、寒天、ジェランガム、ファーセレラン、ユーケマ藻類、ペクチン、アルギン酸塩類、プルラン、グルコマンナン、アラビアゴム、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、デンプン類などの親水性高分子から選択される1種又は2種以上を挙げることができ、ゼラチン、カラギーナン、寒天、ジェランガム、ファーセレラン、ユーケマ藻類といった、冷却によってゲル化する水溶性ゲル化剤を好適に挙げることができる。また、腸溶性カプセルとするためには、水溶性ゲル化剤としてゼラチン、ペクチン及びアルギン酸塩類から選ばれる二種以上を用いることができ、好ましくはゼラチン及びペクチンを用いることができる。
【0031】
さらに、本件発明における上記皮膜層や皮膜液には、グリセリンなどの可塑剤、リン酸ナトリウムなどのpH調整剤、クエン酸三ナトリウム、メタリン酸ナトリウムなどのキレート剤、乳酸カルシウム、塩化カリウムなどのゲル化促進剤、ポリグリセリン脂肪酸エステル、レシチンなどの界面活性剤、甘味料、香料、防腐剤、着色剤などを含有してもよい。なお、水溶性ゲル化剤と水とを含有する皮膜液を用いてシームレスカプセルを作製した場合の皮膜層には水が含まれる。
【0032】
本発明の三層構造シームレスカプセルの作製方法において、水と配合禁忌の関係にある物質と第一油性物質と多孔性微粒子粉末とを含有するコア液を調製する方法としては、第一油性物質に水と配合禁忌の関係にある物質と多孔性微粒子粉末を加えて分散させる方法を挙げることができ、分散方法としては、人の手による撹拌に加え、プロペラ撹拌、タービン型撹拌、ホモミキサー型撹拌など、従来公知の方法を用いることができる。
【0033】
本発明の三層構造シームレスカプセルの作製方法における硬化液としては、水溶性ゲル化剤と水とを含有する皮膜液に触れることで水溶性ゲル化剤と水とを含有する皮膜液を硬化させる液であれば特に制限されず、例えば冷却によってゲル化する水溶性ゲル化剤を用いる場合には、皮膜液との界面張力を生ずるMCT、流動パラフィン、大豆油、オリーブ油、サフラワー油などの植物油を含有する疎水性液体を挙げることができる。なお、例えばペクチンやアルギン酸塩など、カルシウムイオンと反応してゲル化するゲル化剤を採用する場合には、カプセル形成後に、カルシウム水溶液などのゲル化助剤に浸漬することで水溶性ゲル化剤のゲル化を強化することも可能である。
【実施例】
【0034】
(三層構造シームレスカプセルの作製)
同心三重ノズル(富士カプセル社製)を用い、最も外側のノズルからは表1に示す組成からなる皮膜液を、最も内側のノズルからは表2に示す組成からなるコア液を、中間のノズルからは表3に示す組成からなる保護液を吐出させて三層液滴とし、かかる三層液滴をMCTからなる硬化液と接触させて皮膜液を硬化させることにより、コアと、前記コアを被包する保護層と、前記保護層を被包する皮膜層とを備えた三層構造シームレスカプセル(実施品)を作製した。得られた三層構造シームレスカプセル(実施品)の構造を
図1に示す。比較例として、表2に代わって表4に示す組成(アエロジルなし)からなるコア液を用いたカプセル(比較品)を上記と同様に作製した。なお、比較品については核と皮膜層との間に界面が生じず、三層構造とならなかった。
【0035】
【0036】
【0037】
【0038】
【0039】
(ビフィズス菌の生存率)
ビフィズス菌は水との接触により生育能力が低下することや、死滅することが知られている。そこで、作製したカプセルに含まれるビフィズス菌の生菌数を測定し、コアと皮膜層が保護層によって隔離され、ビフィズス菌と水との接触が抑制されているかを調べた。
【0040】
上記の方法で作製した実施品及び比較品において、カプセル作製直後(初期値)、35℃で4週間、及び35℃で8週間保存後にビフィズス菌の生菌数を測定し、35℃で4週間、35℃で8週間保存後のビフィズス菌の生菌数を三層構造シームレスカプセル作製直後の生菌数(初期値)で割った値の百分率を表5に示す。生菌数の測定は、はっ酵乳・乳酸菌飲料中のビフィズス菌の菌数測定法(社団法人全国はっ酵乳乳酸菌飲料協会冊子(2000))に記載の方法に準じて行った。
【0041】
【0042】
表5に示すように、実施品(アエロジルあり)では35℃で8週間保存しても生菌数が82%と高かったが、比較品(アエロジルなし)では、35℃4週間保存で26%、35℃8週間ではわずか5%であった。したがって、本発明の三層構造シームレスカプセルは、コアと皮膜層が保護層によって隔離され、ビフィズス菌と水との接触が抑制されることにより、ビフィズス菌を安定的に維持可能であることが明らかとなった。
【0043】
(三層構造シームレスカプセルの三次元表示画像)
上記の方法で作製した三層構造シームレスカプセル(実施品)を35℃で4週間保存後に、モリブデンターゲットによるラング法(透過法)による観察を行い、三次元表示画像を高分解能3DX線顕微鏡「NANO3DX」(リガク社製)によって得た。得られた三次元表示画像を
図2に示す。
【0044】
図2に示すように、作製した三層構造シームレスカプセルにおいて、コアと保護層、保護層と皮膜層とが混ざることなくきれいに凝固し、保護層によってコアと皮膜層が完全に隔離されていることが明らかとなった。
【0045】
また、三次元表示画像に用いた三層構造シームレスカプセル(実施品:N=10)の核、保護層、皮膜層、総カプセルの平均質量はそれぞれ67、46、25、138mgであり、カプセル粒径は6.5mmであった。
【0046】
(三層構造シームレスカプセルの崩壊試験)
上記の方法で作製した実施品の崩壊試験を文献(第16改正日本薬局方解説書 東京広川書店刊行 B589(2011))に記載の方法に準じて行った。崩壊試験第一液を用いた試験、崩壊試験第二液を用いた試験をそれぞれ18個の三層構造シームレスカプセルについて行った。
【0047】
崩壊試験第一液を用いた試験により、120分後にも18個の三層構造シームレスカプセル全てにおいて崩壊はみられなかった。一方、崩壊試験第二液を用いた試験により、20分後には18個の三層構造シームレスカプセルがすべて崩壊した。したがって、上記記載のゼラチンとペクチンを用いた本発明の三層構造シームレスカプセルは、腸溶性を有するカプセルであることが明らかとなった。
【0048】
(参考例)
10℃に冷却した融点-5℃以下のMCTに、40℃以上に加温した融点が35℃の硬化油を滴下した。その結果、硬化油とMCTとの間に界面が生じず、硬化油が瞬時にMCT中に溶け込んだ(図示なし)。
【0049】
一方、上記硬化油にアエロジルを分散したものを、40℃以上に加温した状態で、10℃に冷却した上記MCTに滴下したところ、
図3に示すように硬化油がMCT中に溶解することなく球状を保ち、
図4に示すように融点以下に硬化油が冷却されることによって球状を保ったまま固化した。なお、
図3において、滴下した直後の硬化油は透明であるため、硬化油の位置を矢印で示した。したがって、アエロジルを分散した硬化油とMCTは界面を生ずることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明の三層構造シームレスカプセルは、医薬、医薬部外品、食品などの分野において、水と配合禁忌の関係にある物質を安定に保持できるカプセル製剤として利用可能である。