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  • 特許-低膨張性コンクリート組成物 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-07
(45)【発行日】2023-02-15
(54)【発明の名称】低膨張性コンクリート組成物
(51)【国際特許分類】
   C04B 28/04 20060101AFI20230208BHJP
   C04B 18/08 20060101ALI20230208BHJP
   C04B 18/14 20060101ALI20230208BHJP
【FI】
C04B28/04
C04B18/08 Z
C04B18/14 A
C04B18/14 F
C04B18/14 Z
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2017233384
(22)【出願日】2017-12-05
(65)【公開番号】P2019099425
(43)【公開日】2019-06-24
【審査請求日】2020-01-30
【審判番号】
【審判請求日】2021-08-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000200301
【氏名又は名称】JFEミネラル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083253
【弁理士】
【氏名又は名称】苫米地 正敏
(72)【発明者】
【氏名】吉澤 千秋
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 哲哉
(72)【発明者】
【氏名】須藤 達也
【合議体】
【審判長】井上 猛
【審判官】土屋 知久
【審判官】宮部 裕一
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-19529(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B7/00-32/02
C04B40/00-40/06
C04B103/00-111/94
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
細骨材の一部として未エージングの製鋼スラグを含むコンクリート組成物であって、
結合材としてセメントと高炉スラグ微粉末とフライアッシュを含み、結合材中でのセメントの割合が20vol%以上、フライアッシュの割合が60vol%以上80vol%未満、高炉スラグ微粉末の割合が20vol%以下(但し、0vol%の場合を含まない。)であることを特徴とする低膨張性コンクリート組成物。
【請求項2】
細骨材中での未エージングの製鋼スラグの割合が40vol%以下であることを特徴とする請求項1に記載の低膨張性コンクリート組成物。
【請求項3】
未エージングの製鋼スラグが転炉脱炭スラグ又は/及び溶融還元スラグであることを特徴とする請求項1又は2に記載の低膨張性コンクリート組成物。
【請求項4】
請求項1~3のいずれかのコンクリート組成物からなることを特徴とする低膨張性コンクリート硬化体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、未エージングの製鋼スラグ細骨材を含む低膨張性コンクリート組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、コンクリートの骨材としては天然砂(細骨材)や天然の砕石(粗骨材)が用いられてきたが、これらの骨材資源は涸渇しつつあり、また、骨材採取による自然環境破壊が問題になるなど、社会全体として資源の有効利用を図る必要性が高まっている。このため、近年、鉄鋼製造プロセスで副生するスラグの利用が検討され、高炉スラグについては、骨材として広く使用されるようになり、JISに規定されるまでになっている。
【0003】
これに対して、製鋼スラグは、遊離CaOや遊離MgOを含んでおり、これらが水と反応して膨張し、コンクリートにひび割れを生じさせて強度を低下させるという問題があるため、コンクリートの骨材に用いるのは難しいとされてきた。
遊離CaOなどによる製鋼スラグの体積膨張を抑制するにはエージング処理が有効であり、例えば、特許文献1には、製鋼スラグをコンクリートの骨材などとしても利用できるようにするため、製鋼スラグを特定の方法により短時間で蒸気エージングする方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2007-106631号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、製鋼スラグのエージング処理は手間と時間がかかるため、骨材の製造コストが高くなる問題がある。また、特許文献1の方法は、エージング処理を短時間で行うとしているが、特別な設備と手法を用いるため、より製造コストが高くなる。
したがって本発明の目的は、以上のような従来技術の課題を解決し、細骨材として未エージングの製鋼スラグを用いたコンクリート組成物であって、体積膨張やこれに伴うひび割れを生じにくい低膨張性コンクリート組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決すべく実験と検討を重ねた結果、細骨材として未エージングの製鋼スラグを用いたコンクリート組成物において、結合材として、セメントとともに多量のフライアッシュ若しくはシリカフュームを配合することにより、優れた低膨張性能が得られることを見出した。
【0007】
本発明は、このような知見に基づきなされたもので、以下を要旨とするものである。
[1]細骨材の一部として未エージングの製鋼スラグを含むコンクリート組成物であって、
結合材としてセメントとフライアッシュ又は/及びシリカフュームを含み、結合材中でのフライアッシュ又は/及びシリカフュームの割合が[フライアッシュ量]+[シリカフューム量]×3の合計で60vol%以上80vol%以下であることを特徴とする低膨張性コンクリート組成物。
【0008】
[2]細骨材の一部として未エージングの製鋼スラグを含むコンクリート組成物であって、
結合材としてセメントと高炉スラグ微粉末とフライアッシュ又は/及びシリカフュームを含み、結合材中でのセメントの割合が20vol%以上、フライアッシュ又は/及びシリカフュームの割合が[フライアッシュ量]+[シリカフューム量]×3の合計で60vol%以上80vol%未満、高炉スラグ微粉末の割合が20vol%以下であることを特徴とする低膨張性コンクリート組成物。
【0009】
[3]上記[1]又は[2]のコンクリート組成物において、細骨材中での未エージングの製鋼スラグの割合が40vol%以下であることを特徴とする低膨張性コンクリート組成物。
[4]上記[1]~[3]のいずれかのコンクリート組成物において、未エージングの製鋼スラグが転炉脱炭スラグ又は/及び溶融還元スラグであることを特徴とする低膨張性コンクリート組成物。
[5]上記[1]~[4]のいずれかのコンクリート組成物からなることを特徴とする低膨張性コンクリート硬化体。
【発明の効果】
【0010】
本発明のコンクリート組成物は、細骨材として未エージングの製鋼スラグを用いたコンクリート組成物でありながら、体積膨張やこれに伴うひび割れなどを生じにくい優れた低膨張性能を有する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】陸砂からなる細骨材の80~20vol%を未エージングの製鋼スラグ細骨材(溶融還元スラグ細骨材)で置換するとともに、結合材の種類と配合量を変えて作製したコンクリート(モルタル)の供試体について、80℃の水中養生を行った後の最長で材齢200日までの水浸膨張比を示すグラフ
図2図1の試験と同様の製鋼スラグ細骨材(溶融還元スラグ細骨材)を用い、細骨材中の製鋼スラグ細骨材の割合が20vol%(残部は陸砂)で表1に示す結合材配合比で作製したコンクリート(モルタル)の供試体について、所定日数にわたって20℃、40℃、さらに80℃で水中養生を行った後の材齢28日、91日、121日、140日、153日での各水浸膨張比を示すグラフ
図3図2と同じ試験において、一部の供試体について、材齢による水浸膨張比の推移を示すグラフ
図4図2の供試体と同様の条件で作製された供試体について、材齢による圧縮強度の推移を示すグラフ
図5図2の供試体と同様の条件で作製された供試体の一部について、材齢7日と材齢28日での積算細孔容積を示すグラフ
図6図2の試験で用いた供試体の一つ(本発明材)のSEM画像であり、上段が材齢28日での拡大倍率が異なるSEM画像、下段が材齢168日での拡大倍率が異なるSEM画像
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明のコンクリート組成物は、細骨材の一部として未エージングの製鋼スラグを含み、結合材としてセメントとフライアッシュ又は/及びシリカフュームを含み、結合材中でのフライアッシュ又は/及びシリカフュームの割合が[フライアッシュ量]+[シリカフューム量]×3の合計で60vol%以上80vol%以下であること、若しくは、結合材としてセメントと高炉スラグ微粉末とフライアッシュ又は/及びシリカフュームを含み、結合材中でのセメントの割合が20vol%以上、フライアッシュ又は/及びシリカフュームの割合が[フライアッシュ量]+[シリカフューム量]×3の合計で60vol%以上80vol%未満、高炉スラグ微粉末の割合が20vol%以下であることを特徴とする。
【0013】
本発明のコンクリート組成物は、フライアッシュ又は/及びシリカフューム(以下、説明の便宜上「フライアッシュ・シリカフューム」という場合がある。)の配合量が、従来のコンクリート組成物において混和材として配合されているフライアッシュ・シリカフューム量に較べてかなり多いのが特徴であり、これにより、細骨材の一部として未エージングの製鋼スラグを含んでいても優れた低膨張性能が得られる。その機構は、コンクリートの初期材齢と長期材齢において、それぞれ下記(i)、(ii)のような膨張抑制作用が得られ、両作用が複合化することによるものと考えられ、このような機構は以下に示すような試験結果とも符合する。
【0014】
(i)フライアッシュやシリカフュームは軽いため、これをセメント及び水と混合すると空気が巻き込まれることでコンクリートに気孔が生じやすく、フライアッシュ・シリカフュームが多量に配合される本発明のコンクリート組成物は気孔の割合が非常に多くなる。そして、コンクリートの初期材齢においては、この気孔により膨張が吸収されることで、コンクリートの膨張が抑制される。
(ii)経時的にフライアッシュ・シリカフュームのSiO分と製鋼スラグ(細骨材)の遊離CaO、遊離MgOが反応して、体積が小さい水和物であるxCaO-ySiO-zHO[C-S-H]及びxMgO-ySiO-zHO[M-S-H]が生成するため、収縮方向に体積変化を生じ、これが膨張を相殺するので、コンクリートの長期材齢での膨張が抑制される。
【0015】
本発明のコンクリート組成物において、細骨材の一部として含まれる製鋼スラグ(未エージングの製鋼スラグ)は、鉄鋼製造プロセスの製鋼工程で発生するスラグである。製鋼スラグには、溶銑予備処理スラグ(脱燐スラグ、脱珪スラグ、脱硫スラグなど)、転炉脱炭スラグ、溶融還元スラグ、電気炉スラグなどあり、これらの1種以上を用いることができるが、なかでも転炉脱炭スラグや溶融還元スラグは遊離CaOや遊離MgOの含有量が多いので、これを用いる場合には本発明の有効性は特に高いと言える。
【0016】
未エージングの製鋼スラグとは、鉄鋼製造プロセスで発生してから6ヶ月未満の鉄鋼スラグであって、人為的なエージング処理(例えば、蒸気エージング、温水エージング、加圧エージングなど)を施していない製鋼スラグである。
なお、以下に説明する図表中において、OPCはセメント(普通ポルトランドセメント)、FAはフライアッシュ、SFはシリカフューム、GGBSは高炉スラグ微粉末を、それぞれ意味する。
【0017】
陸砂からなる細骨材の80~20vol%を未エージングの製鋼スラグ(溶融還元スラグ、CaO含有量:30質量%、MgO含有量:16質量%、粒度:0-10mm)からなる細骨材(以下、製鋼スラグ細骨材という)で置換するとともに、結合材の種類(セメント、フライアッシュ、シリカフューム、高炉スラグ微粉末)と配合量を変えたコンクリート(モルタル)の供試体を作製した。フライアッシュとしては、フライアッシュII種を用いた。コンクリートの水・結合材比は30%とし、混和剤にはポリカルボン酸系のAE剤と消泡剤を用い、コンクリートの空気量を4.5±1.0%に調整した。粗骨材には、製鋼スラグ(脱燐スラグ)+硬質砂岩砕石を用いた。
【0018】
供試体の作製では、JIS A1132に従い、100×100×400mmの型枠に2層でほぼ等しい層に分け、コンクリートを詰めた。突き棒で各層とも40回ずつ突き、上面を均し、コンクリートゲージ用のプラグをコンクリートに張った。これをラップフィルムで包み、さらにアルミ箔で包んで封緘養生し、72時間後に脱型した。
このようにして得られた供試体を20℃の水中で養生し、材齢28日後に80℃水浸養生を最長で材齢200日まで行った。JIS A1129-2に従い、各材齢毎にコンタクトストレインゲージを用いて長さ変化を測定することにより膨張率を求め、水浸膨張比の評価を行った。その結果を図1に示す。
【0019】
ここで、図1中の表記において、「製鋼スラグ20」とは、細骨材中の製鋼スラグ細骨材の割合が20vol%(残部は陸砂)という意味であり、その後のカッコ書き内の符号と数値は、結合材の種類と配合割合(mass%)を示している。例えば、「製鋼スラグ20-(OPC30+GGBS60+SF10)」とは、細骨材中の製鋼スラグ細骨材の割合が20vol%(残部は陸砂)であって、結合材がセメント(普通ポルトランドセメント)30mass%+高炉スラグ微粉末60mass%+シリカフューム10mass%からなる、という意味であり、また、「製鋼スラグ40-(OPC30+GGBS35+FA35)」とは、細骨材中の製鋼スラグ細骨材の割合が40vol%(残部は陸砂)であって、結合材がセメント(普通ポルトランドセメント)30mass%+高炉スラグ微粉末35mass%+フライアッシュ35mass%からなる、という意味であり、他の例の表記もこれに準じた意味である。
【0020】
図1によれば、例えば、細骨材中の製鋼スラグ細骨材の割合が20vol%(残部は陸砂)であって、結合材がシリカフューム10質量%又はフライアッシュ35質量%を含む場合には、材齢200日でもほとんど膨張を生じていないことが分かる。また、結合材がシリカフューム10質量%とフライアッシュ35質量%では、ほぼ同等の結果が得られている。
【0021】
以上の結果を踏まえ、図1の試験と同様の製鋼スラグ細骨材を用い、細骨材中の製鋼スラグ細骨材の割合が20vol%(残部は陸砂)であって、表1に示す結合材配合比のコンクリート(モルタル)の供試体を作製した。フライアッシュとしては、フライアッシュII種を用いた。コンクリートの水・結合材比は50%とし、JIS R5201に従い供試体を作製した。配合はJIS R5201に示す配合比に基づき、普通ポルトランドセメント(OPC)、高炉スラグ微粉末(GGBS)、フライアッシュ(FA)を体積比で組み合わせた結合材450gに対し、豊浦産標準砂1350gに相当する体積になるように製鋼スラグ細骨材と豊浦標準砂を組み合わせて配合し、水は225gを計量し、モルタルミキサーで3分間練り上げた。次に、JIS A1146に従い、ゲージプラグを取り付けた40×40×160mmの型枠にモルタルを2層に詰めた。1層目は型枠の1/2の高さまで詰め、突き棒(35×35mm、質量1000g)を用いて15回突いた。さらに2層目は型枠の上面を超えるまでモルタルを詰め、突き棒で15回突き、モルタルが平滑になるようにストレートエッジで型枠の上面を均した。これをラップフィルムで包み、20℃の湿気箱に入れ、封緘養生し、72時間後に脱型した。
このようにして得られた各供試体について、水浸膨張比、圧縮強度、積算細孔容積を調べた。それらの結果を図2図5に示す。
【0022】
【表1】
【0023】
ここで、図2図5中の符号と数値の表記は結合材の種類と配合割合(vol%)を示しており、例えば、「OPC30+GGBS60+SF10」とは、結合材がセメント(普通ポルトランドセメント)30vol%+高炉スラグ微粉末60vol%+シリカフューム10vol%からなる、という意味であり、また、「OPC30+GGBS35+FA35」とは、結合材がセメント(普通ポルトランドセメント)30vol%+高炉スラグ微粉末35vol%+フライアッシュ35vol%からなる、という意味であり、他の例の表記もこれに準じた意味である。
また、図2図4において、下線を付したものが本発明材となる供試体である。
【0024】
図2図3は、各コンクリート(モルタル)の水浸膨張比を示している。この試験では、材齢28日までは20℃水浸養生を行い、材齢29日~120日までは40℃水浸養生を行い、材齢121日以降は80℃水浸養生を行った。JIS A1129-3に従い、ダイヤルゲージを有する測定器を用い、各材齢毎にプラグの先端から先端までの長さを測定することで膨張率を求め、水浸膨張比の評価を行った。図2は、材齢28日、材齢91日、材齢121日、材齢140日、材齢153日での水浸膨張比を示している。また、図3は、一部のコンクリートについて、材齢による水浸膨張比の推移を示している。
【0025】
図2図3によれば、結合材がセメントとフライアッシュからなる場合には、結合材中でのフライアッシュの割合が60vol%以上80vol%以下において、また、結合材がセメントと高炉スラグ微粉末とフライアッシュからなる場合には、結合材中でのフライアッシュの割合が60vol%以上80vol%未満、セメントの割合が20vol%以上、高炉スラグ微粉末の割合が20vol%以下において、それぞれ長期材齢(材齢140日以上)での優れた低膨張性能が得られており、結合材としてセメントのみを用いた場合(OPC100)に較べて、格段に優れた長期材齢での低膨張性能が得られている。
【0026】
また、図1の結果からして、結合材としてフライアッシュに代えてシリカフュームを配合した場合には、フライアッシュ量のほぼ1/3の量で同等の効果が得られるものと考えられる。
このため本発明では、結合材として、セメントとフライアッシュ又は/及びシリカフュームを含む場合には、結合材中でのフライアッシュ又は/及びシリカフュームの割合を[フライアッシュ量]+[シリカフューム量]×3の合計で60vol%以上80vol%以下とする。また、結合材として、セメントと高炉スラグ微粉末とフライアッシュ又は/及びシリカフュームを含む場合には、結合材中でのセメントの割合を20vol%以上、フライアッシュ又は/及びシリカフュームの割合を[フライアッシュ量]+[シリカフューム量]×3の合計で60vol%以上80vol%未満、高炉スラグ微粉末の割合を20vol%以下とする。
【0027】
図4は、各コンクリート(モルタル)の材齢による圧縮強度の推移を示している。この試験では、図2の供試体と同様の水中養生をした供試体について、JIS R5201に従い圧縮強度の測定を行った。
図4によれば、結合材の種類や配合によって圧縮強度に差はあるが、フライアッシュ・シリカフュームを高配合したコンクリート(本発明例)であっても十分な圧縮強度が得られている。また、この図4の結果と図2図3の結果から、次のようなことが言える。すなわち、図4によれば、普通ポルトランドセメントの配合量が多いほど高い圧縮強度が得られており、一般には圧縮強度が大きいほど拘束力が大きくなるので膨張しにくく、低膨張性のコンクリートとなると考えられている。しかし、図2図3によれば、図4において圧縮強度が高くない本発明材のコンクリートの方が低膨張であり、したがって、本発明材のコンクリートの場合には、コンクリートの強度によって膨張が抑えられるのではないことが示唆される。
【0028】
図5は、一部のコンクリート(モルタル)について、材齢7日と材齢28日での積算細孔容積を測定した結果を示している。この積算細孔容積は、コンクリート内に存在する気孔の積算容積であり、その測定はmicromeritics社製の水銀圧入式ポロシメーター「AutoPoreIV 9520」を用いて行った。この装置は、試料に圧力をかけて水銀を圧入し、その量と圧力の関係から細孔径が測定できる装置である。
【0029】
図5によれば、フライアッシュを多く含む本発明材は、フライアッシュが軽いため混合時に空気を巻き込みやすく、このため、コンクリートが気孔を多く含み、ごく初期の材齢(材齢7日)では積算細孔容積が大きいが、材齢28日になると積算細孔容積が大きく低下している。これは、数十日程度の初期材齢では、気孔が膨張を吸収しているためであると考えられる。
また、図6は、本発明材(OPC30vol%+GGBS0vol%+FA70vol%)のSEM画像であり、上段が材齢28日での拡大倍率が異なる画像、下段が材齢168日での拡大倍率が異なる画像である。これによれば、材齢28日では水和反応はごく僅かしか生じていないが、材齢168日では顕著な水和反応が生じているのが確認できる。
【0030】
以上の結果から、本発明のコンクリート組成物は、上記(i)、(ii)として記載したように、初期材齢では気孔により膨張が吸収されることでコンクリートの膨張が抑制され、長期材齢ではフライアッシュ・シリカフュームのSiO分と製鋼スラグ(細骨材)の遊離CaO、遊離MgOの反応(水和反応)によりコンクリートの膨張が抑制され、これらの作用が複合化することにより初期材齢~長期材齢にわたって安定した低膨張性能が得られるものと考えられる。
【0031】
本発明において、細骨材中での未エージングの製鋼スラグ(製鋼スラグ細骨材)の割合は40vol%以下が好ましい。細骨材中での未エージングの製鋼スラグの割合が40vol%を超えると、結合材としてフライアッシュ・シリカフュームを多量に配合しても、十分な低膨張性能が得られないおそれがある。
また、本発明では、セメントとして、普通ポルトランドセメント、高炉セメントなどの1種以上を用いることができる。
【0032】
本発明のコンクリート組成物は、結合材、骨材及び水を含むものであるが、粗骨材が配合されないもの(モルタル)でもよい。すなわち、本発明のコンクリート組成物はモルタルを含む。
製鋼スラグ細骨材以外の細骨材としては、例えば、天然砂(山砂、海砂、川砂など)、砕砂、軽量骨材、石炭ガス化スラグ、高炉スラグ細骨材などが挙げられ、これらの1種以上を用いることができる。また、粗骨材としては、例えば、砕石、砂利、高炉スラグ粗骨材、軽量骨材、石炭ガス化スラグなどが挙げられ、これらの1種以上を用いることができる。細骨材、粗骨材の粒度は、通常の粒度レベルでよい。
【0033】
本発明のコンクリート組成物は、必要に応じて、さらに混和材料を配合することができる。混和材料(混和剤、混和材)としては、例えば、AE剤、減水剤、AE減水剤、高性能AE減水剤、AE助剤、消泡剤、促進剤、急結剤、遅延剤、防錆剤、膨張材などが挙げられ、これらの1種以上を用いることができる。
また、水・結合材比は、大きい方が間隙が大きいため、膨張の吸収量が大きくなる。また、水・結合材比が30%よりも小さい領域では、自己収縮による体積減少を製鋼スラグ細骨材の膨張により緩和することができる。
本発明のコンクリート組成物によれば、長期間にわたってひび割れなどが生じない低膨張性コンクリート硬化体を得ることができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6