(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-07
(45)【発行日】2023-02-15
(54)【発明の名称】水処理方法及び水処理装置
(51)【国際特許分類】
C02F 3/04 20230101AFI20230208BHJP
C02F 3/10 20230101ALI20230208BHJP
【FI】
C02F3/04
C02F3/10 A
(21)【出願番号】P 2018001643
(22)【出願日】2018-01-10
【審査請求日】2020-09-14
【審判番号】
【審判請求日】2022-04-01
(73)【特許権者】
【識別番号】507214083
【氏名又は名称】メタウォーター株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100174001
【氏名又は名称】結城 仁美
(72)【発明者】
【氏名】武田 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 重浩
【合議体】
【審判長】三崎 仁
【審判官】金 公彦
【審判官】山田 倍司
(56)【参考文献】
【文献】特開昭59-222294(JP,A)
【文献】特開昭57-84788(JP,A)
【文献】特表平7-507715(JP,A)
【文献】特開2005-13927(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 3/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
微生物を担持したろ材が充填されてなるろ材充填層に対して被処理水を散布して、前記被処理水を前記微生物と接触させることにより好気的に生物処理して処理水を得る散水ろ床を用いた水処理方法であって、
被処理水供給量及び循環比を含む、前記ろ材充填層に対する前記被処理水の供給パターンが、0.004(m)以上0.0100(m)以下である前記ろ材の平均粒子径dとの関係で、下式(1)を満たし、
{(1+r)・Q}
1/3・d
-2/3>32・・・(1)
[式(1)中、dは前記ろ材の平均粒子径d(m)であり、Qは前記ろ材充填層に対する、単位面積当たりの一日の被処理水供給量Q(m
3/m
2/日)であり、rは循環比であり、0≦r≦3を満たす。]
前記ろ材の平均粒子径dを求めた母集団についての標準偏差が、下式(2)を満たす、
SD×d
-1
<0.01・・・(2)
[式(2)中、SDは標準偏差である。]
水処理方法。
【請求項2】
前記ろ材が、該ろ材の内部を貫通する貫通孔を有さない、孔無しろ材である、請求項1に記載の水処理方法。
【請求項3】
前記ろ材は、中実な円柱状である、請求項1又は2に記載の水処理方法。
【請求項4】
微生物を担持したろ材が充填されてなり、被処理水を前記微生物と接触させることにより好気的に生物処理する、ろ材充填層と、
前記ろ材充填層に対して被処理水を散布する散水部と、を含む散水ろ床を備える水処理装置であって、
被処理水供給量及び循環比を含む、前記ろ材充填層に対する前記被処理水の供給パターンが、0.004(m)以上0.0100(m)以下である前記ろ材の平均粒子径dとの関係で、下式(1)を満たすように前記散水部への被処理水供給態様を制御する制御装置を備え
、さらに、
前記ろ材充填層に充填された前記ろ材に関し、前記ろ材の平均粒子径dを求めた母集団についての標準偏差が、下式(2)を満たす、
ることを特徴とする水処理装置。
{(1+r)・Q}
1/3・d
-2/3>32・・・(1)
[式(1)中、dは前記ろ材の平均粒子径d(m)であり
、Qは、前記散水部を介した、前記ろ材充填層に対する、単位面積当たりの一日の被処理水供給量Q(m
3/m
2/日)であり、rは循環比であり、0≦r≦3を満たす。]
SD×d
-1
<0.01・・・(2)
[式(2)中、SDは標準偏差である。]
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水処理方法及び水処理装置に関するものであり、特に、散水ろ床を用いた水処理方法及び散水ろ床を含む水処理装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
有機物を含む被処理水を処理する方法の一つに、微生物の代謝を利用して被処理水中の有機物を無機化又は不溶化して除去する、生物処理が挙げられる。かかる生物処理に含まれる方途の一つとして、微生物を担持させたろ材からなるろ材層に対して被処理水を散布し、ろ材層に存在する微生物によって有機物を好気的に生物処理させる水処理方法である、散水ろ床法を活用した水処理装置が種々提案されてきた。散水ろ床法を活用した水処理装置には、曝気動力が不要であるという利点がある。
【0003】
特許文献1では、比重0.9のポリプロピレン又はポリウレタン等の材質よりなる円筒状ろ材により構成され、空隙率が90%程度のろ床を有する散水ろ床装置が開示されている。また、特許文献2では、粒径が約5mmから約10mmの礫をろ材とし、ろ床の層厚を約350mmとしたろ床を備える水質改善用の人工湿地が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第5676757号
【文献】特開2014-231042号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記したような従来の技術では、ろ床から、ろ床バエ、カタツムリ、及び貝等の生物、並びに、臭気等が発生することを十分に抑制することができなかった。そこで、本発明は、ろ材充填層からの生物及び臭気の発生を抑制することができる、水処理方法及び水処理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明の水処理方法は微生物を担持したろ材が充填されてなるろ材充填層に対して被処理水を散布して、前記被処理水を前記微生物と接触させることにより好気的に生物処理して処理水を得る散水ろ床を用いた水処理方法であって、下式(1)を満たすことを特徴とする。
{(1+r)・Q}1/3・d-2/3>32・・・(1)
[式(1)中、dは前記ろ材の平均粒子径d(m)であり、Qは前記ろ材充填層に対する、単位面積当たりの一日の被処理水供給量Q(m3/m2/日)であり、rは循環比であり、0≦r≦3を満たす。]
上記式(1)を満たす本発明の水処理方法によれば、ろ材充填層からの生物及び臭気の発生を抑制することができる。なお、「ろ材の平均粒子径d(m)」は、微生物を担持していない状態のろ材の平均粒子径を指す。また、「ろ材の平均粒子径d(m)」は、ろ材の形状にかかわらず、後述する式(2)に従う「球体相当径」として算出することができる。
【0007】
ここで、本発明の水処理方法において、前記平均粒子径dは0.0100(m)以下であることが好ましい。平均粒子径dが0.0100(m)以下であるろ材を用いることで、ろ材充填層からの生物及び臭気の発生を一層良好に抑制することができるとともに、被処理水と微生物との接触効率を高めて、水処理効率を高めることができる。
【0008】
さらに、本発明の水処理方法は、前記ろ材が、該ろ材の内部を貫通する貫通孔を有さない、孔無しろ材であることが好ましい。孔無しろ材を用いることで、ろ材充填層からの生物及び臭気の発生を一層良好に抑制することができる。
【0009】
また、この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明の水処理装置は微生物を担持したろ材が充填されてなり、被処理水を前記微生物と接触させることにより好気的に生物処理する、ろ材充填層と、前記ろ材充填層に対して被処理水を散布する散水部と、を含む散水ろ床を備える水処理装置であって、下式(1)を満たすように前記散水部への被処理水供給態様を制御する制御装置と、を備えることを特徴とする。
{(1+r)・Q}1/3・d-2/3>32・・・(1)
[式(1)中、dは前記ろ材の平均粒子径d(m)であり、Qは、前記散水部を介した、前記ろ材充填層に対する、単位面積当たりの一日の被処理水供給量Q(m3/m2/日)であり、rは循環比であり、0≦r≦3を満たす。]
上記式(1)を満たす制御を実施する制御装置を備える本発明の水処理装置によれば、ろ材充填層からの生物及び臭気の発生を抑制することができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明の水処理方法及び水処理装置によれば、ろ材充填層からの生物及び臭気の発生を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明に従う代表的な水処理装置の概略構成を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の一例に係る実施形態を、詳細に説明する。本発明の水処理方法は、本発明の水処理装置にて好適に実施することができる。本発明の水処理方法は、本発明の水処理装置の構成に限定されることなく、本発明の水処理方法の必須条件を満たす限りにおいて、あらゆる構成の水処理装置において実施することが可能である。
【0013】
(水処理方法)
本発明の水処理方法は微生物を担持したろ材が充填されてなるろ材充填層に対して被処理水を散布して、被処理水を前記微生物と接触させることにより好気的に生物処理して処理水を得る散水ろ床を用いた水処理方法であって、下式(1)を満たすことを特徴とする。
{(1+r)・Q}1/3・d-2/3>32・・・(1)
[式(1)中、dはろ材の平均粒子径d(m)であり、Qはろ材充填層に対する、単位面積当たりの一日の被処理水供給量Q(m3/m2/日)であり、rは循環比であり、0≦r≦3を満たす。]
なお、上記{(1+r)・Q}1/3・d-2/3に従って算出される値は、通常、100以下であり、好ましくは、70以下でありうる。
【0014】
なお、以下では、散水ろ床に備えられたろ材充填層に対して被処理水を供給する側である、水の流れ方向の上流側を「前段側」と称し、ろ材充填層から処理済水が流出する側である、水の流れ方向の下流側を「後段側」と称する。また、本発明の水処理方法の処理対象である被処理水は、有機排水を含む。有機排水とは、有機物を含む排水であり、具体的には、下水、畜産排水、及び工場排水などが挙げられる。また、被処理水中に含まれる有機物としては、固形有機物及び溶解性有機物が挙げられる。
【0015】
上記式(1)を満たす本発明の水処理方法によれば、ろ材充填層からの生物及び臭気の発生を抑制することができる。その理由は明らかではないが、ろ材の平均粒子径dと、被処理水供給量Qと、循環比rとが上記関係を満たすように調節することで、ろ材充填層を構成する複数のろ材間の間隙により形成される被処理水の流路のサイズと、かかる流路を流れる被処理水量との関係が最適化されることに起因すると推察される。かかる最適化の結果、ろ材充填層内にて生物及び臭気が生じることが抑制されるとともに、仮に生じた場合であっても、ろ材充填層の外部にそれらが拡散することが良好に抑制されうる。
【0016】
被処理水供給量Qは、一般的に「散水負荷」とも称され、ろ材充填層の表面積1m2当たりの、一日に供給される被処理水量(m3)に相当する値である。被処理水供給量Qは、特に限定されることなく、通常、1(m3/m2/日)以上25(m3/m2/日)以下の範囲でありうる。
【0017】
循環比rは、散水ろ床から流出した処理水のうち、再度散水ろ床に返送する返送水の量を、散水ろ床の前段側から送出されてきた有機排水の量にて除した値である。なお、一般的に、「返送水」は「循環水」とも称され得る。例えば、処理水を全く返送しない場合には、循環比rの値は「0」である。また、有機排水の3倍量の返送水を散水ろ床に戻す場合には、循環比rの値は「3」となる。なお、循環比rが「0」超の場合には、ろ材充填層に対して散布される「被処理水」は、前段側から送出されてきた有機排水、及び返送水を含む。
【0018】
そして、ろ材充填層を形成するろ材としては、ポリウレタン製ろ材、ポリエチレングリコール製ろ材等の、有機排水の好気的処理に際して用いられうる既知のあらゆる性状のろ材が挙げられる。中でも、平均粒子径dが0.0100(m)以下であるろ材が好ましく、平均粒子径dが0.0083m)以下であるろ材がより好ましい。なお、平均粒子径dは、通常、0.0020m以上であり得る。ここで、ろ材の「平均粒子径d」は、下式(2)に基づいて算出されうる球体相当径とする。
d=(6×V×n-1×π-1)1/3・・・(2)
ここで、nはろ材の個数であり、Vはn個のろ材の総体積であり、πは円周率である。式(2)中、nは、例えば、1000以上の値であり、具体的には、1000であり得る。
【0019】
さらに、ろ材充填層における被処理水と微生物との接触効率及びろ過効率を両立する観点から、ろ材の「平均粒子径d」を求めた母集団について算出し得る、標準偏差SDが式:SD×d-1<0.01の関係を満たすことが好ましい。
【0020】
ろ材には、有機排水の好気的処理に寄与し得る限りにおいて特に限定されることなく、あらゆる微生物が担持されてなる。それらの微生物は、例えば、馴養運転などの既知の方法によりろ材表面に担持させることができる。
【0021】
ここで、通常、散水ろ床では、被処理水が流路を流れる間にろ材に担持された微生物により生物処理される。被処理水が流れるための流路は、ろ材充填層に充填されたろ材間に生じた間隙が連続することにより形成される。したがって、ろ材の径が大きい場合には、間隙により形成され得る流路の断面積も大きい。しかし、流路の断面積が過度に大きい場合には、流路内にろ床バエ、カタツムリ、及び貝(の幼生)等の生物が入り込み、繁殖し、さらに繁殖したこれらの生物がろ材充填層の外へと出ていきやすくなる。同様に、流路の断面積が過度に大きい場合には、ろ材充填層内で生じた臭気が、流路を通じてろ材充填層の外へと拡散し易くなる。そこで、平均粒子径dが上記上限値以下であるろ材を用いることで、ろ材充填層内に形成される流路の断面積が過度に大きくなることを効果的に抑制することができる。これにより、上記したような生物及び臭気が生じることと、仮に生物及び臭気が発生した場合であってもそれらがろ材充填層の外へと拡散していくこととを効果的に抑制することができる。
【0022】
なお、概して、被処理水をろ材充填層にて好気的に生物処理する散水ろ床を用いた水処理装置では、ろ材充填層全体に対する被処理水の散布は固定式又は可動式の散水部を通じて継続的に行われるが、ろ材充填層に含まれる無数の流路のうちの一つの流路に関しては、被処理水が断続的に供給されうる。このため、上記一例に係る水処理装置において、ろ材充填層内に形成された流路の断面積が被処理水の水滴により閉塞可能な程度に小さければ、一つの流路のうちの少なくとも一部が一時的に被処理水の水滴により閉塞された状態となりうると考えられる。従って、例えば、水滴により一つの流路に含まれる2箇所以上のポイントが閉塞されている限りにおいては、閉塞されたポイント間に該当する流路の内部と、ろ材充填層の外部との間が連通しない。このため、流路の内部にて生じた生物及び臭気等が、ろ材充填層の外部へと拡散していくことを効果的に抑制することができる。ろ材充填層内にて形成されうる無数の流路についても同様のことがいえる。よって、このような「水滴による閉塞」にも起因して、ろ材充填層からの生物及び臭気の発生を一層良好に抑制することができると推察される。
【0023】
また、一つの流路内に、複数の水滴が断続的に配置されて存在する場合に、水滴が自重により徐々に降下することがあり得る。このことによって、ろ材充填層内部で生じた生物及び臭気がろ材充填層の前段側から外部環境へと拡散することを効果的に抑制することができると推察される。
【0024】
さらにまた、ろ材の平均粒子径dが上記上限値以下であれば、ろ材表面に担持された微生物と被処理水との接触効率を高めることにより、ろ材充填層における水処理効率を高めることができる。これは、平均粒子径dが上記上限値以下であるろ材により形成されるろ材充填層(以下、「小ろ材充填層」とも称する)は、平均粒子径dが上記上限よりも大きいろ材により形成されるろ材充填層(以下、「大ろ材充填層」とも称する)よりもろ材充填層の単位体積当たりの表面積が大きくなるこのため、同じ厚さの小ろ材充填層及び大ろ材充填層を想定した場合、小ろ材充填層の方が、大ろ材充填層よりも、ろ材充填層を流下する間に微生物と接触する機会が多くなるため、水処理効率が高くなると推察される。
【0025】
さらに、ろ材の平均比重が、1.00超1.15以下であることが好ましい。なお、「ろ材の平均比重」とは、微生物を担持していない状態のろ材の平均比重を指す。ろ材の平均比重が上記範囲内であれば、後述する洗浄を実施する際にろ材を良好に流動させることができるため、洗浄効率を高めることができる。
【0026】
さらにまた、ろ材の形状は、特に限定されることなく、円柱状、球状、及びランダム形状等あらゆる形状であり得る。中でも、ろ材が、該ろ材の内部を貫通する貫通孔を有さない形状であること、換言すれば、ろ材が「孔無しろ材」であることが好ましい。ここで、ろ材の形状が、「ろ材の内部を貫通する貫通孔を有さない」とは、ろ材が中実のろ材であるか、或いは、空孔を有したとしても、かかる空孔がろ材内部を貫通していないことを意味する。
【0027】
仮に、ろ材充填層を形成するろ材が、例えば円筒状等の、ろ材の内部を貫通する貫通孔を有する「孔空きろ材」である場合には、かかる貫通孔が流路の一部を形成することがある。従って、貫通孔を有するろ材を充填してろ材充填層を形成するにあたり、ろ材充填層からの生物及び臭気の発生を抑制する観点から、貫通孔の径も充分に小さくする必要がある。ここで、貫通孔を有するろ材よりなるろ材充填層では、ろ材間の間隙、及びろ材の貫通孔により流路が形成されるため、ろ材の外表面のみならず、貫通孔内にも固形物が蓄積し得る。しかし、貫通孔内では、後述する洗浄工程にて、せん断力が作用し難いため、径の小さい貫通孔内には、洗浄工程にて固形物を充分にふるい落とすことができず、使用に伴って固形物が固着していく虞がある。よって、ろ材が該ろ材の内部を貫通する貫通孔を有さない「孔無しろ材」であることで、「孔空きろ材」を使用した場合と比較して、貫通孔の閉塞に起因するろ材充填層のろ過性能の低下を予防することができる。
【0028】
特に、ろ材が中実な円柱状であることが好ましく、円柱底面の直径dxと円柱の高さhとが、0.8≦(dx/h)≦1.2を満たす円柱状であることがより好ましい。ろ材充填層からの生物及び臭気の発生を一層良好に抑制することができるとともに、被処理水と微生物との接触効率を高めて、水処理効率を高めることができるからである。
【0029】
ここで、水処理を継続することで、ろ材充填層中に、きょう雑物及び生物処理により不溶化された有機物等が蓄積することで、水処理効率が低下することがある。そこで、本発明の水処理方法において、洗浄工程を実施することが好ましい。洗浄工程においては、ろ材充填層を浸漬させた上で、ろ材を流動させることで、ろ材間の間隙及びろ材の表面に蓄積した固形物を、ろ材からふるい落とし、洗浄排水として散水ろ床外へと排出することができる。なお、洗浄工程を実施する頻度は、特に限定されることなく、例えば、週1回~2カ月に1回の範囲であり得る。なお、本発明による水処理方法によれば、洗浄間隔を比較的長くした場合であっても、ろ材充填層からの生物及び臭気の発生を抑制することができる。これは、本発明による水処理方法では、上述したような、ろ材充填層内の流路のサイズと、かかる流路を流れる被処理水量との関係が最適化されるという効果に起因して、ろ材充填層からの生物及び臭気の発生を抑制することができるためである。
【0030】
(水処理装置)
本発明の水処理方法を好適に実施することができる、本発明の水処理装置の概略構成の一例について、
図1を参照して説明する。
図1に示す水処理装置100は被処理水を処理する。水処理装置100は、散水部11及びろ材充填層12を有する散水ろ床10と、制御装置40を備えている。
【0031】
水処理装置100は、図示しないが、散水ろ床10の前段側に、調整池、沈砂池、及び/又は最初沈殿池等の種々の構成部を備えることがある。例えば、水処理装置100が最初沈殿池を備える場合には、散水ろ床10に流入する被処理水は、最初沈殿池にて、固形有機物のうちの沈殿性有機物が分離除去された状態の有機排水を含んで、散水ろ床10へと流入する。
【0032】
散水ろ床10は、散水部11及び微生物を担持したろ材が充填されてなるろ材充填層12を備える。さらに、散水ろ床10は、処理水流出口13と、ろ材充填層12を構成するろ材を流動させるための空気を散水ろ床10内に導入するための空気導入口14を備えうる。
【0033】
散水部11は、被処理水ライン1を通じて前段側から送水されてきた被処理水をろ材充填層12に対して散布する散布機構である。なお、被処理水ライン1には、任意で、送水ポンプ2が備えられていても良い。散水部11は、被処理水をろ材充填層12に対して散布することが可能な限りにおいて特に限定されることなく、複数の散水口を有する散水面を備えるシャワーヘッド、或いは管表面に複数の散水口を有する散水管等により構成されうる。かかる散水部11は、固定式であっても良いし、ろ材充填層12の表面上に満遍なく散水可能とするために、例えば、所定の位置を回転中心として回転可能に構成されていても良い。
【0034】
ろ材充填層12は、図示しないスクリーンにより支持されてなる。スクリーンとしては、特に限定されることなく、例えば、散水ろ床において一般的に使用される金網、有孔板、及び有孔ブロックを用いることができる。なお、適切なスクリーンを選択するにあたり、用いるろ材の平均粒子径d及び比重等に基づいて、適切な目開き及び材質の部材を任意に選択することができる。
【0035】
そして、ろ材充填層12から、処理水が流出し、散水ろ床10の下部に備えられた処理水流出口13より流出ライン20を経て、散水ろ床10の外へと流出する。なお、流出した処理水は、図示しない最終沈殿池等に送水される。流出ライン20には流出ラインバルブ21が設けられていても良い。さらに、流出ライン20は流出ラインバルブ21の前段側で分岐ライン22に連結していても良い。かかる分岐ライン22には、分岐ラインバルブ23が設けられていても良い。流出ラインバルブ21及び分岐ラインバルブ23は、後述する洗浄の際に、適宜開閉されうる。
【0036】
さらに、流出ライン20は、返送水を散水ろ床10に導入可能とするための、返送水ライン50と接続されていても良い。返送水ライン50は、処理水を返送可能である限りにおいて特に限定されることなく、あらゆる態様にて流出ライン20と接続されることが可能である。
図1では、一例として、流出ラインバルブ21が三方弁として実装されており、流出ラインバルブ21にて流出ライン20と返送水ライン50とが接続された態様を示す。そして、返送水ライン50の他端は、例えば、送水ポンプ2の前段側にて被処理水ライン1に対して接続されうる。なお、返送水ライン50は、返送水ポンプ51及び返送水バルブ52を備え得る。後述する制御装置40により、返送水ポンプ51の駆動力及び返送水バルブ52の開度等を調節することで、流出水から返送水を引き抜く量である返送水量を制御することができる。
【0037】
散水ろ床10の下部であって、ろ材充填層12よりも後段側の空間には、エアレーションポンプ等により構成される送風機30から送られてきた空気を導入し得る送風ライン31が配置されていても良い。そして、送風機30を駆動することで、ろ材充填層12の後段側からろ材充填層12に向かう方向の空気を送ることができる。このようにして、洗浄工程の際に、ろ材充填層12を構成するろ材を流動させることができる。
【0038】
上述したような、水処理装置100に備えられうる各構成部は、制御装置40によってそれぞれ制御されうる。即ち、制御装置40は、上記各構成部を必要に応じて制御することで、散水部11への被処理水供給態様を制御する。ここで、(散水部11への)「被処理水供給態様」とは、被処理水供給量Q及び循環比rを含む供給パターンを指す。制御装置40は、特に限定されることなく、CPU(Central Processing Unit)等の演算装置、及びメモリ等の記録装置等を備えるコンピュータや、各構成部の動作状態等を表示するためのモニタ等の表示装置を含んでいても良い。そして、制御装置40では、(水処理方法)の項目にて以下に詳述する各種処理を実現するように、機能することができる。
【0039】
例えば、ろ材充填層12に対する被処理水供給量Qは、例えば、制御装置40により、被処理水ライン1に備えられた送水ポンプ2の送水量を調節することにより、制御することができる。また、例えば、制御装置40により、返送水ライン50に備えられた返送水ポンプ51の送水量を制御し、及び/又は、返送水バルブ52の開度を調節することにより、循環比rの値を制御することができる。
【0040】
例えば、上述したろ材充填層12に対して被処理水を供給して処理水を得るための運転をする工程、即ち、水処理工程の際の制御は以下の通りであり得る。制御装置40により、所定の循環比rとなるように返送水ポンプ51の送水量、返送水バルブ52の開度、及び送水ポンプ2の送水量等を制御する。散水部11を経てろ材充填層12へ供給された被処理水は、ろ材充填層12内に形成された流路を流下しつつろ材表面に担持された微生物と接触して生物処理されて処理水となり、ろ材充填層12から流出する。そして、処理水は、処理水流出口13より流出ライン20を経て、散水ろ床10の外へと流出する。なお、水処理工程の間、分岐ラインバルブ23は閉塞している。
【0041】
そして、例えば、上述した洗浄工程は、まず、制御装置40により、流出ラインバルブ21を閉塞状態として、送水ポンプ2を駆動し続けて散水部11からの散水による被処理水の供給を継続することで、ろ材充填層12を浸漬させる。そして、ろ材充填層12が浸漬状態となった後に送水ポンプ2の駆動を停止するとともに送風機30を駆動して送風ライン31を通じてろ材充填層12に対して空気を送る。かかる空気に起因して、水中にてろ材が流動することで、ろ材間の間隙に蓄積していた固形物、及びろ材に対して付着していた固形物をふるい落とすことができる。その後、送風機30の駆動を停止して、分岐ラインバルブ23を開放して固形物が分散した洗浄排水を、分岐ライン22を通じて一気に排出する。
【0042】
なお、一例として、制御装置40により上記各種操作が実施されるものとして説明したが、本発明の水処理装置は、制御装置といった自動制御可能な構造部によらず、すべて手動で制御することももちろん可能である。
【0043】
以上、一例を用いて本発明の水処理装置及び水処理方法について説明したが、本発明の水処理装置及び水処理方法は、上記一例に限定されることはなく、本発明の水処理装置及び水処理方法には、適宜変更を加えることができる。
【0044】
例えば、本発明の水処理装置及び水処理方法を、オキシデーションディッチ法に従う水処理装置及び水処理設備に置換して使用することができる。これは、本発明の水処理装置及び水処理方法では、ろ材充填層の単位体積当たりの水処理能力が高いため、ろ材充填層の層厚を薄くすることができることに起因する。概して、オキシデーションディッチ法に従う水処理装置は、水槽等の設備自体の高さが低い。このため、かかる水処理装置を改造して従来的な散水ろ床装置を単純に導入しようとしても、実装不可能であった。しかし、上述のように、本発明の水処理方法及び水処理装置では、従来よりも薄厚のろ材充填層にて充分な水処理能を発揮することができるため、オキシデーションディッチ法に従う水処理装置を改造する際に、好適に導入することが可能である。従って、オキシデーションディッチ法に従う水処理装置を改造して、散水ろ床を用いた本発明の水処理方法及び水処理装置を導入することで、低ランニングコスト及び水処理性能の安定性といった利点をもたらすことができる。
【実施例】
【0045】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明は下記の実施例に何ら限定されるものではない。実施例、比較例において、被処理水としては下水処理場の最初沈殿池流出水を用いた。また、実施例、比較例にて用いた水処理装置の装置構成は、
図1に示した構成に従うものであった。散水ろ床10の構造体に相当するカラムの内径は40mm、高さは1100mmであった。
【0046】
(実施例1)
図1に示す散水ろ床10に相当するカラム内に、目開き0.0025mの金網を配置し、その上に直径0.0040(m)、高さ0.0040(m)の中実円柱状担体(ポリウレタン製、比重:1.005)を、層厚みが70cmとなるように充填した。なお、用いた中実円柱状担体の球体相当径は、表1に示す値であった。
かかる構成の散水ろ床を、表1に示す被処理水供給量Q(m
3/m
2/日)、及び循環比rにて運転して、3ヶ月間水処理を実施した。洗浄頻度は、週2回とした。3カ月経過した段階で、ハエの発生の有無、及び臭気の発生を評価した。結果を表1に示す。
なお、ハエの発生の有無は目視にて判定し、臭気の発生は、6段階臭気強度表示法の区分による臭気強度を0.5刻みの数値で判定した値を得て、以下の基準に従って評価した。
A:臭気強度が2.5以下
B:臭気強度が2.5超
【0047】
(実施例2)
ろ材充填層の形成に用いるろ材を、直径0.0075(m)、高さ0.0075(m)の中実円柱状担体(ポリウレタン製、比重:1.005)に変更した以外は実施例1と同様にして水処理、及び各種評価を行った。結果を表1に示す。なお、用いた中実円柱状担体の球体相当径は、表1に示す値であった。
【0048】
(実施例3)
被処理水供給量Q(m3/m2/日)を表1に示す通りに変更した以外は実施例1と同様にして水処理、及び各種評価を行った。結果を表1に示す。
【0049】
(実施例4)
被処理水供給量Q(m3/m2/日)を表1に示す通りに変更した以外は実施例2と同様にして水処理、及び各種評価を行った。結果を表1に示す。
【0050】
(実施例5)
洗浄頻度を月1回とした以外は実施例1と同様にして水処理、及び各種評価を行った。結果を表1に示す。
【0051】
(比較例1)
ろ材充填層の形成に用いるろ材を、直径0.0500(m)球状担体(ポリプロピレン製、比重:1.01)に変更した。また、被処理水供給量Q(m3/m2/日)を表1に示す通りに変更した。これらの点以外は実施例1と同様にして水処理、及び各種評価を行った。結果を表1に示す。
【0052】
(比較例2)
ろ材充填層の形成に用いるろ材を、直径0.0750(m)の球状担体(ポリプロピレン製、比重:1.01)に変更した。また、被処理水供給量Q(m3/m2/日)を表1に示す通りに変更した。これらの点以外は実施例1と同様にして水処理、及び各種評価を行った。結果を表1に示す。
【0053】
(比較例3)
ろ材充填層の形成に用いるろ材を、直径0.0500(m)の球状担体(ポリプロピレン製、比重:1.01)に変更した。また、被処理水供給量Q(m3/m2/日)を表1に示す通りに変更した。これらの点以外は実施例1と同様にして水処理、及び各種評価を行った。結果を表1に示す。
【0054】
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明の水処理方法及び水処理装置によれば、ろ材充填層からの生物及び臭気の発生を抑制することができる。
【符号の説明】
【0056】
1 被処理水ライン
2 送水ポンプ
10 散水ろ床
11 散水部
12 ろ材充填層
13 処理水流出口
14 空気導入口
20 流出ライン
21 流出ラインバルブ
22 分岐ライン
23 分岐ラインバルブ
30 送風機
31 送風ライン
40 制御装置
50 返送水ライン
51 返送水ポンプ
52 返送水バルブ
100 水処理装置