(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-07
(45)【発行日】2023-02-15
(54)【発明の名称】エンジンシステム
(51)【国際特許分類】
F02D 21/08 20060101AFI20230208BHJP
F01N 3/023 20060101ALI20230208BHJP
F01N 3/033 20060101ALI20230208BHJP
F02D 9/04 20060101ALI20230208BHJP
F02M 26/10 20160101ALI20230208BHJP
【FI】
F02D21/08 301Z
F01N3/023 A
F01N3/033 G
F01N3/033 J
F02D9/04 C
F02M26/10
(21)【出願番号】P 2018191640
(22)【出願日】2018-10-10
【審査請求日】2021-09-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】110000936
【氏名又は名称】弁理士法人青海国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】清水 辰吾
(72)【発明者】
【氏名】井上 優
(72)【発明者】
【氏名】吉本 雄亮
(72)【発明者】
【氏名】中野 晴太
(72)【発明者】
【氏名】山岸 伶
【審査官】小関 峰夫
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-083034(JP,A)
【文献】特開2003-343287(JP,A)
【文献】特開2004-285862(JP,A)
【文献】特開2008-095599(JP,A)
【文献】国際公開第2015/177969(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01N 3/023
F01N 3/033
F02D 9/04
F02D 21/08
F02D 43/00
F02M 26/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンから排気された排気ガスが通過する排気管内に設けられ、前記排気ガスに含まれる粒子状物質を捕捉する第1フィルタと、
前記排気管内に設けられ、前記排気管内の圧力を調整する圧力調整機構と、
前記排気管内における前記第1フィルタの上流側の圧力が所定の目標値となるように前記圧力調整機構を制御する制御部と、
を備え
、
前記目標値は、初期状態の前記第1フィルタの圧力損失、および、前記圧力調整機構によって調整可能な最大圧力値に基づいて決定されるエンジンシステム。
【請求項2】
エンジンから排気された排気ガスが通過する排気管内に設けられ、前記排気ガスに含まれる粒子状物質を捕捉する第1フィルタと、
前記排気管内に設けられ、前記排気管内の圧力を調整する圧力調整機構と、
前記排気管内における前記第1フィルタの上流側の圧力が所定の目標値となるように前記圧力調整機構を制御する制御部と、
を備え
、
前記制御部は、前記第1フィルタの圧力損失に基づいて、前記排気管内における前記第1フィルタの上流側の圧力が前記目標値となるように、前記圧力調整機構を制御するエンジンシステム。
【請求項3】
エンジンから排気された排気ガスが通過する排気管内に設けられ、前記排気ガスに含まれる粒子状物質を捕捉する第1フィルタと、
前記排気管の流路幅を調整するバルブを含み、前記排気管内に設けられ、前記排気管内の圧力を調整する圧力調整機構と、
前記排気管内における前記第1フィルタの上流側の圧力が所定の目標値となるように前記圧力調整機構を制御する制御部と、
を備え
、
前記制御部は、前記バルブの開度を制御することにより、前記排気管内における前記第1フィルタの上流側の圧力を前記目標値とするエンジンシステム。
【請求項4】
前記圧力調整機構は、
前記排気管における前記バルブが配される箇所をバイパスするバイパス路と、
前記バイパス路内に設けられ、前記排気ガスに含まれる粒子状物質を捕捉する第2フィルタと、
をさらに含む請求項
3に記載のエンジンシステム。
【請求項5】
エンジンから排気された排気ガスが通過する排気管内に設けられ、前記排気ガスに含まれる粒子状物質を捕捉する第1フィルタと、
前記排気管内に設けられ、前記排気管内の圧力を調整する圧力調整機構と、
前記排気管内における前記第1フィルタの上流側の圧力が所定の目標値となるように前記圧力調整機構を制御する制御部と、
を備え
、
前記圧力調整機構は、
複数のメッシュフィルタと、
前記メッシュフィルタが前記排気管内に位置する挿入位置と、前記メッシュフィルタが前記排気管外に位置する退避位置とに、前記メッシュフィルタを移動させる移動部と、
を含み、
前記制御部は、前記移動部を制御することにより、前記排気管内における前記第1フィルタの上流側の圧力を前記目標値とするエンジンシステム。
【請求項6】
エンジンから排気された排気ガスが通過する排気管内に設けられ、前記排気ガスに含まれる粒子状物質を捕捉する第1フィルタと、
前記排気管内に設けられ、前記排気管内の圧力を調整する圧力調整機構と、
前記排気管内における前記第1フィルタの上流側
と下流側との差圧が
、前記エンジンの負荷が大きくなるに従って大きく設定される目標圧力損失となるように前記圧力調整機構を制御する制御部と、
を備えるエンジンシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
EGR(Exhaust Gas Recirculation)は、エンジンの燃焼室から排気された排気ガスを、吸気管から吸気された空気に混入させて循環させる技術である。EGRによって排気ガスが燃焼室に還流されると、燃焼室内の酸素濃度が低下し、燃焼温度が低減する。このため、窒素酸化物(NOx)の生成が抑制されるとともに、燃費を向上させることができる。EGRが採用されたエンジンシステムは、排気管におけるフィルタの上流側と、吸気管とを接続するEGR管と、EGR管に設けられたEGRバルブとを備える(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
燃焼室に還流させる排気ガス(EGRガス)の流量に対する、EGRバルブの開度の設定(チューニング)は、新品のフィルタが排気管に配された状態で行われる。一方、エンジンの運転時間が経過するに従って、排気ガスに含まれる粒子状物質(煤、および、アッシュ)のフィルタへの堆積量が増加する。そうすると、排気管の圧力損失が増加し、EGRバルブの上流側の圧力が上昇する。チューニング時と比べて、EGRバルブの上流側の圧力が高くなると、チューニング時よりも大流量のEGRガスが還流されてしまう。そうすると、エンジンに不具合が生じるおそれがある。
【0005】
本発明は、エンジンの不具合を抑制することが可能なエンジンシステムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明のエンジンシステムは、エンジンから排気された排気ガスが通過する排気管内に設けられ、排気ガスに含まれる粒子状物質を捕捉する第1フィルタと、排気管内に設けられ、排気管内の圧力を調整する圧力調整機構と、排気管内における第1フィルタの上流側の圧力が所定の目標値となるように圧力調整機構を制御する制御部と、を備え、目標値は、初期状態の第1フィルタの圧力損失、および、圧力調整機構によって調整可能な最大圧力値に基づいて決定される。
【0008】
上記課題を解決するために、本発明の他のエンジンシステムは、エンジンから排気された排気ガスが通過する排気管内に設けられ、排気ガスに含まれる粒子状物質を捕捉する第1フィルタと、排気管内に設けられ、排気管内の圧力を調整する圧力調整機構と、排気管内における第1フィルタの上流側の圧力が所定の目標値となるように圧力調整機構を制御する制御部と、を備え、制御部は、第1フィルタの圧力損失に基づいて、排気管内における第1フィルタの上流側の圧力が目標値となるように、圧力調整機構を制御する。
【0009】
上記課題を解決するために、本発明の他のエンジンシステムは、エンジンから排気された排気ガスが通過する排気管内に設けられ、排気ガスに含まれる粒子状物質を捕捉する第1フィルタと、排気管の流路幅を調整するバルブを含み、排気管内に設けられ、排気管内の圧力を調整する圧力調整機構と、排気管内における第1フィルタの上流側の圧力が所定の目標値となるように圧力調整機構を制御する制御部と、を備え、制御部は、バルブの開度を制御することにより、排気管内における第1フィルタの上流側の圧力を目標値とする。
【0010】
また、圧力調整機構は、排気管におけるバルブが配される箇所をバイパスするバイパス路と、バイパス路内に設けられ、排気ガスに含まれる粒子状物質を捕捉する第2フィルタと、をさらに含んでもよい。
【0011】
上記課題を解決するために、本発明の他のエンジンシステムは、エンジンから排気された排気ガスが通過する排気管内に設けられ、排気ガスに含まれる粒子状物質を捕捉する第1フィルタと、排気管内に設けられ、排気管内の圧力を調整する圧力調整機構と、排気管内における第1フィルタの上流側の圧力が所定の目標値となるように圧力調整機構を制御する制御部と、を備え、圧力調整機構は、複数のメッシュフィルタと、メッシュフィルタが排気管内に位置する挿入位置と、メッシュフィルタが排気管外に位置する退避位置とに、メッシュフィルタを移動させる移動部と、を含み、制御部は、移動部を制御することにより、排気管内における第1フィルタの上流側の圧力を目標値とする。
上記課題を解決するために、本発明の他のエンジンシステムは、エンジンから排気された排気ガスが通過する排気管内に設けられ、排気ガスに含まれる粒子状物質を捕捉する第1フィルタと、排気管内に設けられ、排気管内の圧力を調整する圧力調整機構と、排気管内における第1フィルタの上流側と下流側との差圧が、エンジンの負荷が大きくなるに従って大きく設定される目標圧力損失となるように圧力調整機構を制御する制御部と、を備える。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、エンジンの不具合を抑制することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】実施形態にかかるエンジンシステムを説明する図である。
【
図2】GPFの圧力損失、および、目標圧力損失を説明する図である。
【
図3】GPFの圧力損失と、圧力調整機構による圧力損失と、目標圧力損失との関係を説明する図である。
【
図4】圧力制御部および圧力調整機構を用いた圧力調整処理の流れを説明するフローチャートである。
【
図5】第1の変形例の圧力調整機構を説明する図である。
【
図6】第2の変形例の圧力調整機構を説明する図である。
【
図7】第3の変形例のエンジンシステムを説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。かかる実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値等は、発明の理解を容易にするための例示に過ぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0015】
(エンジンシステム100)
図1は、本実施形態にかかるエンジンシステム100を説明する図である。なお、
図1中、信号の流れを破線の矢印で示す。
【0016】
図1に示すように、車両に搭載されるエンジンシステム100には、中央処理装置(CPU)、プログラム等が格納されたROM、ワークエリアとしてのRAM等を含むマイクロコンピュータでなるECU(Engine Control Unit)10が設けられる。ECU10によりエンジンE全体が統括制御される。ただし、以下では、本実施形態に関係する構成や処理について詳細に説明し、本実施形態と無関係の構成や処理については説明を省略する。
【0017】
エンジンシステム100を構成するエンジンEは、シリンダブロック102と、クランクケース104と、シリンダヘッド106と、オイルパン110とを含む。クランクケース104は、シリンダブロック102と一体形成されている。シリンダヘッド106は、シリンダブロック102におけるクランクケース104とは反対側に接合される。オイルパン110は、クランクケース104におけるシリンダブロック102とは反対側に接合される。
【0018】
シリンダブロック102には、複数のシリンダボア112が形成されている。複数のシリンダボア112において、それぞれピストン114が摺動可能にコネクティングロッド116に支持されている。そして、エンジンEでは、シリンダボア112と、シリンダヘッド106と、ピストン114の冠面とによって囲まれた空間が燃焼室118として形成される。
【0019】
また、エンジンEでは、クランクケース104およびオイルパン110に囲まれた空間がクランク室120として形成される。クランク室120内には、クランクシャフト122が回転可能に支持されており、ピストン114がコネクティングロッド116を介してクランクシャフト122に連結される。
【0020】
シリンダヘッド106には、吸気ポート124および排気ポート126が燃焼室118に連通するように設けられる。吸気ポート124と燃焼室118との間には、吸気弁128の先端(傘部)が位置し、排気ポート126と燃焼室118との間には、排気弁130の先端(傘部)が位置している。
【0021】
また、シリンダヘッド106および不図示のヘッドカバーに囲まれた空間には、吸気弁駆動機構134および排気弁駆動機構136が設けられる。吸気弁駆動機構134は、電磁コイルを用いて、排気弁130とは独立して吸気弁128を駆動する。吸気弁128は、吸気弁駆動機構134によって駆動されることで軸方向に移動し、吸気ポート124と燃焼室118との間を開閉する。排気弁駆動機構136は、電磁コイルを用いて、吸気弁128とは独立して排気弁130を駆動する。排気弁130は、排気弁駆動機構136により駆動されることで軸方向に移動し、排気ポート126と燃焼室118との間を開閉する。
【0022】
吸気ポート124の上流側には、吸気マニホールドを含む吸気管140が連通される。吸気管140内には、スロットル弁142、および、スロットル弁142より上流側にエアクリーナ144が設けられる。スロットル弁142は、アクセル(図示せず)の開度に応じてアクチュエータにより開閉駆動される。エアクリーナ144にて浄化された空気は、吸気管140、吸気ポート124を通じて燃焼室118に吸入される。
【0023】
シリンダヘッド106には、燃料噴射口が燃焼室118に開口するようにインジェクタ150が設けられるとともに、先端が燃焼室118内に位置するように点火プラグ152が設けられる。インジェクタ150から燃焼室118に噴射された燃料は、吸気ポート124から燃焼室118に供給された空気と混ざり混合気となる。そして、所定のタイミングで点火プラグ152が点火され、燃焼室118内で生成された混合気に含まれる燃料が燃焼される。かかる燃焼により、ピストン114が往復運動を行い、その往復運動が、コネクティングロッド116を通じてクランクシャフト122の回転運動に変換される。
【0024】
排気ポート126の下流側には、排気マニホールドを含む排気管160が連通され、排気管160内に三元触媒170、GPF172、および、圧力調整機構200が設けられる。
【0025】
三元触媒(Three-Way Catalyst)170は、例えば、プラチナ(Pt)、パラジウム(Pd)、ロジウム(Rh)等の触媒成分を含む。三元触媒170は、排気ポート126から排出された排気ガス中の炭化水素(HC:Hydro Carbon)、一酸化炭素(CO)、窒素酸化物を除去する。
【0026】
GPF(Gasoline Particulate Filter)172(第1フィルタ)は、排気管160内における三元触媒170の下流側に設けられる。GPF172は、排気ポート126から排気された排気ガス中の粒子状物質(煤、および、アッシュ)を捕捉する。GPF172は、例えば、ウォールフロー型のフィルタである。本実施形態においてGPF172は、粒子状物質を捕捉する機能を有するとともに、排気ガスを浄化する触媒(例えば、三元触媒170と同様の、炭化水素、一酸化炭素、窒素酸化物を除去する三元触媒)を含む。
【0027】
エンジンシステム100は、排気管160にGPF172を備える構成により、GPF172に粒子状物質を堆積させて、排気ガスから除去することができる。そして、GPF172に堆積した粒子状物質(煤(炭素))は、燃焼(酸化反応)によってGPF172から除去され、GPF172が再生される(再生処理)。
【0028】
このように、三元触媒170およびGPF172によって浄化された排気ガスは、マフラ174を通じて外部に排気される。
【0029】
EGR管180は、排気管160における三元触媒170の上流側と、吸気管140におけるスロットル弁142の下流側とに接続される。EGR管180は、排気管160を流通する排気ガスの一部を吸気管140に還流させる(以下、還流させた排気ガスを「EGRガス」と称する)。
【0030】
EGR管180には、EGRクーラ182が設けられており、EGRクーラ182で冷却されたEGRガスは、吸気管140、吸気ポート124を通じて燃焼室118に還流する。EGRバルブ184は、EGR管180におけるEGRクーラ182の下流側に設けられる。EGRバルブ184は、EGR管180を開閉して流路幅を調整することで、EGR管180を流れるEGRガスの流量を制御する。EGR管180を介して吸気管140に流入したEGRガスは、スロットル弁142を通過した吸気とともに燃焼室118に供給される。
【0031】
また、エンジンシステム100には、吸入空気量センサ190、スロットル開度センサ192、クランク角センサ194、アクセル開度センサ196、差圧センサ198が設けられる。
【0032】
吸入空気量センサ190は、エンジンEに流入する吸入空気量を検出する。スロットル開度センサ192は、スロットル弁142の開度を検出する。クランク角センサ194は、クランクシャフト122のクランク角を検出する。アクセル開度センサ196は、アクセル(図示せず)の開度を検出する。差圧センサ198は、排気管160における、GPF172の上流側と下流側の圧力差(差圧)を検出する。
【0033】
これら各センサ190~198は、ECU10に接続されており、検出値を示す信号をECU10に出力する。
【0034】
ECU10は、各センサ190~198から出力された信号を取得してエンジンEを制御する。ECU10は、エンジンEを制御する際、信号取得部12、駆動制御部14、バルブ制御部16、圧力制御部18(制御部)として機能する。
【0035】
信号取得部12は、各センサ190~198が検出した値を示す信号を取得する。また、信号取得部12は、クランク角センサ194から取得したクランク角を示す信号に基づいてエンジンEの回転数(クランクシャフトの回転数)を導出するとともに、吸入空気量センサ190から取得した吸入空気量を示す信号に基づいてエンジンEの負荷(エンジン負荷)を導出する。かかる吸入空気の圧力からエンジン負荷を求める技術は、既存の様々な技術を利用可能なので、ここではその説明を省略する。
【0036】
駆動制御部14は、信号取得部12が取得した信号に基づいて、スロットル弁用アクチュエータ(図示せず)、インジェクタ150、点火プラグ152を制御する。
【0037】
バルブ制御部16は、エンジン負荷に応じて、不図示のアクチュエータを駆動させ、EGRバルブ184を開閉制御する。具体的に説明すると、不図示のメモリは、エンジン負荷(吸入空気量)と、EGRバルブ184の開度とが関連付けられたEGRマップを保持しており、バルブ制御部16は、EGRマップを参照して、EGRバルブ184の開度を決定する。そして、バルブ制御部16は、決定した開度となるように、EGRバルブ184を開閉制御する。なお、本実施形態において、EGRマップは、排気管160(EGRバルブ184の上流側)の圧力が後述する目標値であるとして作成される。
【0038】
このように、EGRガスを燃焼室118に還流させることにより、燃焼室118内の酸素濃度を低下させることができ、燃焼温度を低減することが可能となる。これにより、燃焼室118内における窒素酸化物の生成を抑制することができ、また、燃費を向上させることが可能となる。
【0039】
ところで、EGRガスの流量に対する、EGRバルブ184の開度の設定(チューニング)は、新品(初期状態)のGPF172が排気管160に配された状態で行われる。つまり、従来、EGRマップは、排気管160の圧力損失が最も小さい状態で作成される。例えば、EGRマップは、エンジンシステム100が搭載された車両の製造過程で作成される。
【0040】
一方、上記したように、エンジンEの運転時間が経過する(走行距離が長くなる)に従って、排気ガスに含まれる粒子状物質のGPF172への堆積量が増加する。そうすると、GPF172の圧力損失が増加する。これにより、排気管160の圧力が上昇し、EGRバルブ184の上流側の圧力が上昇する。EGRバルブ184の開度の設定(従来のEGRマップの作成)時と比べてEGRバルブ184の上流側の圧力が高くなると、EGRバルブ184を開いたときに、EGRバルブ184の開度に対して設定された流量よりも大流量のEGRガスが還流されてしまう。その結果、燃焼室118における燃焼が変化して、排気ガス中の炭化水素等が増加したり、エンジン出力やトルクが想定より小さくなったり、意図せずエンジンEが停止したり(エンストが生じたり)、エンジンEの振動および音が想定より大きくなったりする場合がある。
【0041】
そこで、エンジンシステム100は、圧力制御部18および圧力調整機構200を備え、排気管160内の圧力を所定の目標値に維持する。また、本実施形態のエンジンシステム100では、初期状態のGPF172が排気管160に配され、かつ、圧力調整機構200によって排気管160内の圧力を目標値とした状態でEGRマップが作成される。
【0042】
圧力調整機構200は、バルブ210と、アクチュエータ212とを含む。バルブ210は、排気管160を開閉して流路幅を調整する。バルブ210は、排気管160におけるGPF172とマフラ174との間(GPF172の下流側)に設けられる。アクチュエータ212は、バルブ210を開閉駆動する。
【0043】
圧力制御部18は、GPF172の圧力損失に基づいて、排気管160内におけるGPF172の上流側の圧力が目標値となるように、アクチュエータ212を駆動して、バルブ210の開度を制御する。
【0044】
図2は、GPF172の圧力損失、および、目標圧力損失を説明する図である。
図2中、目標圧力損失を実線で示し、初期状態のGPF172の圧力損失を破線で示し、粒子状物質が堆積したGPF172の圧力損失の変化を一点鎖線で示す。
【0045】
図2に示すように、GPF172の圧力損失は、GPF172における粒子状物質の堆積量に拘わらず(初期状態、堆積量の多少に拘わらず)、エンジン負荷が上昇するに従って上昇する。
【0046】
また、GPF172の圧力損失は、エンジン負荷が等しい場合、GPF172における粒子状物質の堆積量によって異なる。例えば、GPF172における粒子状物質の堆積量が相対的に多い場合、GPF172の圧力損失は相対的に大きい。また、初期状態や再生処理を実行した後等のGPF172における粒子状物質の堆積量が相対的に少ない場合、GPF172の圧力損失は相対的に小さい。つまり、圧力調整機構200を備えない場合、排気管160の圧力損失は、GPF172の圧力損失と実質的に等しくなり、GPF172における粒子状物質の堆積量によって変動する。
【0047】
そこで、圧力調整機構200によって、排気管160の圧力損失を目標圧力損失まで高めることで、排気管160(EGRバルブ184の上流側)の圧力を目標値に維持する。目標値は、初期状態のGPF172の圧力損失、および、圧力調整機構200によって調整可能な最大圧力値に基づいて決定される。例えば、GPF172の圧力損失が最も小さく、圧力調整機構200の圧力損失が最大(バルブ210が全閉)の際の排気管160(GPF172の上流側)の圧力を目標値とする。
【0048】
また、目標圧力損失は、排気管160の圧力が目標値となる際の排気管160全体の圧力損失であり、下記式(1)で示される。
目標圧力損失PLa = GPF172の圧力損失PLg + 圧力調整機構200による圧力損失PLp …式(1)
目標圧力損失PLaは、
図2に示すように、エンジン負荷が大きくなるに従って大きくなる(漸増する)。つまり、目標圧力損失PLaは、エンジン負荷ごとに異なる値となる。
【0049】
したがって、圧力制御部18は、差圧センサ198による検出値が目標圧力損失になるように、バルブ210の開度を制御する。
【0050】
図3は、GPF172の圧力損失PLgと、圧力調整機構200による圧力損失PLpと、目標圧力損失PLaとの関係を説明する図である。
図3中、GPF172の圧力損失PLgを破線で示し、圧力調整機構200による圧力損失PLpを実線で示す。
【0051】
図3に示すように、GPF172の圧力損失PLgが大きい(GPF172における粒子状物質の堆積量が多い)場合、圧力制御部18は、バルブ210の開度を大きくして、圧力調整機構200による圧力損失PLpを小さくする。また、GPF172の圧力損失PLgが小さい(GPF172における粒子状物質の堆積量が少ない)場合、圧力制御部18は、バルブ210の開度を小さくして、圧力調整機構200による圧力損失PLpを大きくする。
【0052】
このように、圧力制御部18は、排気管160全体の圧力損失が目標圧力損失PLaとなるように、圧力調整機構200(バルブ210)を制御することにより、排気管160(GPF172の上流側)の圧力を目標値に維持することができる。
【0053】
(圧力調整処理)
続いて、圧力制御部18および圧力調整機構200を用いた圧力調整処理について説明する。
図4は、圧力制御部18および圧力調整機構200を用いた圧力調整処理の流れを説明するフローチャートである。本実施形態において、所定の時間間隔毎に生じる割込によって圧力調整処理が繰り返し遂行される。所定の時間は、例えば、エンジンEが1サイクルする(吸気行程、圧縮行程、燃焼行程、排気行程が実行される)時間である。
【0054】
図4に示すように、圧力制御部18は、差圧センサ198の検出値が、現在のエンジン負荷に基づく目標圧力損失PLaであるか否かを判定する(判定処理:S110)。そして、圧力制御部18は、差圧センサ198の検出値が目標圧力損失PLaではない、すなわち、目標圧力損失PLa未満であると判定した場合(S110におけるNO)、圧力調整処理S120に処理を移す。
【0055】
圧力制御部18は、目標圧力損失PLaとなるように、バルブ210の開度を制御し(圧力調整処理S120)、当該圧力調整処理を終了する。
【0056】
一方、圧力制御部18は、差圧センサ198の検出値が目標圧力損失PLaであると判定した場合(S110におけるYES)、当該圧力調整処理を終了する。つまり、差圧センサ198の検出値(排気管160の圧力損失)が目標圧力損失PLaである場合、圧力調整処理S120を実行しない。
【0057】
以上説明したように、本実施形態のエンジンシステム100は、圧力調整機構200を備えることで、排気管160の圧力損失を敢えて高い状態とし、排気管160の圧力を目標値に維持する。つまり、GPF172の圧力損失(堆積量)に拘らず、排気管160の圧力を目標値とすることができる。これにより、GPF172における粒子状物質の堆積量に拘わらず、EGRマップに従った流量でEGRガスを還流することが可能となる。したがって、EGRガスが意図せず大量に燃焼室118に供給されてしまう事態を回避することができる。これにより、エンジンEの不具合を抑制することが可能となる。
【0058】
また、上記したように、目標値は、初期状態のGPF172の圧力損失、および、圧力調整機構200によって調整可能な最大圧力値に基づいて決定される。これにより、GPF172における粒子状物質の堆積量に拘らず、圧力調整機構200によってGPF172の上流側の圧力を目標値に維持することができる。
【0059】
また、圧力調整機構200を備える構成により、排気管160内の圧力を相対的に高く維持することができる。これにより、排気ガスと三元触媒170との接触確率を向上させることができ、三元触媒170による排気ガスの浄化効率を向上させることが可能となる。
【0060】
(第1の変形例)
図5は、第1の変形例の圧力調整機構300を説明する図である。
図5に示すように、圧力調整機構300は、複数のフィルタ機構310を含む。フィルタ機構310は、メッシュフィルタ320と、移動部322とを含む。
【0061】
メッシュフィルタ320は、排気管160におけるGPF172と、マフラ174との間に設けられる。メッシュフィルタ320は、網目構造のフィルタであり、排気管160の流路断面全面に亘る大きさである。
【0062】
移動部322は、例えば、アクチュエータである。移動部322は、メッシュフィルタ320を挿入位置と退避位置との間で移動させる。挿入位置は、メッシュフィルタ320が排気管160内に配される位置であり、メッシュフィルタ320によって排気管160の流路が覆われる位置である。退避位置は、メッシュフィルタ320が排気管160外に配される位置である。
【0063】
第1の変形例において、圧力制御部18は、移動部322を制御して、1または複数のメッシュフィルタ320を挿入位置から退避位置に移動させたり、退避位置から挿入位置に移動させたりすることにより、排気管160内におけるGPF172の上流側の圧力を目標値とする。
【0064】
例えば、不図示のメモリは、目標値とするための、差圧センサ198の検出値に対する、挿入位置に配するメッシュフィルタ320の数が関連付けられたフィルタマップを保持している。そして、圧力制御部18は、差圧センサ198の検出値に基づいて、フィルタマップを参照し、挿入位置に配するメッシュフィルタ320の数を決定する。なお、圧力制御部18によって、挿入位置に位置させたメッシュフィルタ320の数が多い場合、圧力調整機構300による圧力損失が大きくなる。また、圧力制御部18によって、挿入位置に位置させたメッシュフィルタ320の数が少ない場合、圧力調整機構300による圧力損失が小さくなる。
【0065】
第1の変形例にかかる圧力調整機構300においても、排気管160の圧力損失を敢えて高い状態とし、排気管160内の圧力を目標値に維持することができる。これにより、エンジンEの不具合を抑制することが可能となる。
【0066】
(第2の変形例)
図6は、第2の変形例の圧力調整機構400を説明する図である。
図6に示すように、圧力調整機構400は、バルブ210と、アクチュエータ212と、バイパス路410と、GPF420とを含む。なお、上記圧力調整機構200と実質的に等しい構成要素については、同一の符号を付して説明を省略する。
【0067】
バイパス路410は、排気管160におけるGPF172の下流側から分岐され、バルブ210が配される箇所の下流側に再接続される。つまり、バイパス路410は、排気管160におけるバルブ210が配される箇所をバイパスする。
【0068】
GPF420(第2フィルタ)は、バイパス路410に設けられる。GPF420は、上記GPF172と同様に、排気ポート126から排気された排気ガス中の粒子状物質(煤、および、アッシュ)を捕捉する。GPF420は、例えば、ウォールフロー型のフィルタである。GPF420は、粒子状物質を捕捉する機能を有するとともに、排気ガスを浄化する触媒(例えば、三元触媒170と同様の、炭化水素、一酸化炭素、窒素酸化物を除去する三元触媒)を含む。
【0069】
第2の変形例にかかる圧力調整機構400においても、排気管160の圧力損失を敢えて高い状態とし、排気管160内の圧力を目標値に維持することができる。これにより、エンジンEの不具合を抑制することが可能となる。
【0070】
また、圧力調整機構400は、GPF172に加えて、GPF420を備える。これにより、排気ガスの浄化効率を向上させることができる。
【0071】
(第3の変形例)
図7は、第3の変形例のエンジンシステム500を説明する図である。
図7に示すように、エンジンシステム500は、差圧センサ198に代えて、排気圧センサ510を備える点、および、圧力制御部58の機能以外、エンジンシステム100と実質的に等しい。したがって、上記エンジンシステム100と実質的に等しい構成要素については、同一の符号を付して説明を省略する。
【0072】
排気圧センサ510は、排気管160におけるEGR管180の接続箇所と、三元触媒170との間に設けられる。排気圧センサ510は、排気管160におけるEGR管180の接続箇所と、三元触媒170との間の圧力を検出する。
【0073】
圧力制御部58(制御部)は、排気圧センサ510による検出値が目標値となるように、圧力調整機構200(バルブ210)を制御(例えば、フィードバック制御)する。
【0074】
第3の変形例にかかるエンジンシステム500においても、排気管160内の圧力を目標値に維持することができる。これにより、エンジンEの不具合を抑制することが可能となる。
【0075】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明はかかる実施形態に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0076】
なお、上記実施形態および変形例において、圧力調節機構200、300、400が設けられる車両として、EGR管180およびEGRバルブ184を備える車両を例に挙げて説明した。しかし、EGR管180およびEGRバルブ184は必須の構成ではない。例えば、EGR管180およびEGRバルブ184を備えない車両において排気管160内におけるGPF172の上流側の圧力が所定の目標値となるように圧力調整処理を行うことで、排気ポート126を通じて燃焼室118に流入するEGRガス(内部EGR)の流量を調整することができる。
【0077】
また、上記実施形態および変形例において、ECU10が圧力制御部18、58(制御部)として機能する構成を例に挙げて説明した。しかし、圧力制御部18、58は、ECU10と別体で構成されてもよい。
【0078】
また、上記実施形態におよび変形例において、GPF172が触媒を含む構成を例に挙げて説明したが、GPF172は粒子状物質を捕捉できればよく、触媒を含まずともよい。同様に、GPF420は、粒子状物質を捕捉できればよく、触媒を含まずともよい。
【0079】
また、上記実施形態および変形例において、エンジンEとしてガソリンエンジンを例に挙げて説明した。しかし、圧力調整機構200、300、400は、エンジンの種類に限らず粒子状物質を捕捉するフィルタを備える排気管に設けられていればよい。例えばディーゼルエンジンを備える車両にあっては、圧力調整機構200、300、400は、排気管におけるDPF(Diesel Particulate Filter)の下流側に設けられていてもよい。
【0080】
また、上記実施形態および変形例において、圧力調整機構200、300、400が、排気管160におけるGPF172の下流側に設けられる構成を例に挙げて説明した。しかし、圧力調整機構200、300、400は、排気管160におけるGPF172の上流側(例えば、三元触媒170とGPF172との間)に設けられてもよい。
【0081】
また、上記実施形態において、1サイクル毎に生じる割込によって圧力調整処理が繰り返し遂行される構成を例に挙げて説明した。しかし、1サイクルより長い所定の時間間隔毎に生じる割込によって圧力調整処理が繰り返し遂行されてもよい。この場合、再生処理の実行後にも圧力調整処理が遂行されてもよい。再生処理を行うと、GPF172の圧力損失が急激に小さくなる。そこで、再生処理が行われた後に、圧力調整処理を行うことにより、排気管160の圧力を直ちに目標値まで上昇させることができる。また、所定のエンジン負荷の際に、圧力調整処理が遂行されてもよい。
【0082】
また、上記実施形態および第1、第2の変形例において、圧力制御部18は、差圧センサ198の検出値に基づいて、GPF172の圧力損失を導出する構成を例に挙げて説明した。しかし、GPF172の圧力損失の導出方法に限定はない。例えば、エンジンEの運転条件や運転時間(走行距離)に基づいて、GPF172における粒子状物質の堆積量を推定し、推定した堆積量に基づいてGPF172の圧力損失を導出してもよい。
【0083】
また、上記実施形態および第1、第2の変形例において、差圧センサ198が、三元触媒170とGPF172との間(GPF172の上流側)と、GPF172と圧力調整機構200、300、400との間(GPF172の下流側)とに設けられる構成を例に挙げて説明した。しかし、差圧センサ198は、排気管160における三元触媒170の上流側と、圧力調整機構200、300、400の下流側の圧力差を検出できればよい。例えば、差圧センサ198は、GPF172の上流側と、圧力調整機構200、300、400の下流側との圧力差を検出してもよい。つまり、差圧センサ198は、三元触媒170とGPF172との間(もしくは、三元触媒170の上流側)と、圧力調整機構200、300、400とマフラ174との間に設けられてもよい。
【0084】
また、上記第1の変形例において、1の移動部322が1のメッシュフィルタ320を移動させる構成を例に挙げて説明した。しかし、1の移動部322が複数のメッシュフィルタ320を移動させてもよい。
【0085】
また、上記第2の変形例において、バイパス路410にGPF420が設けられる構成を例に挙げて説明した。しかし、GPF420に代えて、または、加えて、バイパス路410にメッシュフィルタが設けられていてもよい。
【0086】
また、上記第3の変形例において、排気圧センサ510が、排気管160におけるEGR管180の接続箇所と、三元触媒170との間の圧力を検出する場合を例に挙げて説明した。しかし、排気圧センサ510は、排気管160における三元触媒170とGPF172との間の圧力を検出してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0087】
本発明は、エンジンシステムに利用できる。
【符号の説明】
【0088】
18、58 圧力制御部(制御部)
100、500 エンジンシステム
172 GPF(第1フィルタ)
200、300、400 圧力調整機構
210 バルブ
320 メッシュフィルタ
322 移動部
410 バイパス路
420 GPF(第2フィルタ)