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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-07
(45)【発行日】2023-02-15
(54)【発明の名称】鉄道車両の戸袋巻込み検出装置
(51)【国際特許分類】
   B61D 19/02 20060101AFI20230208BHJP
   B61D 37/00 20060101ALI20230208BHJP
   B61K 13/04 20060101ALI20230208BHJP
【FI】
B61D19/02 E
B61D19/02 S
B61D19/02 V
B61D37/00 G
B61K13/04
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2018245148
(22)【出願日】2018-12-27
(65)【公開番号】P2020104689
(43)【公開日】2020-07-09
【審査請求日】2021-12-10
(73)【特許権者】
【識別番号】521475989
【氏名又は名称】川崎車両株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】弁理士法人有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中岸 慶太
【審査官】志水 裕司
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-053528(JP,A)
【文献】特開2009-120056(JP,A)
【文献】実開平05-096373(JP,U)
【文献】実開平06-056442(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B61D 19/00
B61D 37/00
B61K 13/04
E05F 15/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄道車両の乗降口を開閉する側引戸を開くときに戸袋に物体が巻き込まれたことを検出する戸袋巻込み検出装置であって、
前記側引戸のスライド方向の加速度を取得する加速度取得部と、
前記側引戸の開動作の後期において、前記加速度取得部で取得された加速度の絶対値の時系列データにおける最大値が所定の閾値よりも大きいと、戸袋巻込みが発生したと判定する判定部と、を備える、鉄道車両の戸袋巻込み検出装置。
【請求項2】
前記判定部は、前記側引戸の開動作の開始後に前記加速度の絶対値の時系列データがゼロに収束した時点から前の時間に遡って最初に現れるピーク値を、前記側引戸の開動作の後期における前記最大値とみなす、請求項1に記載の鉄道車両の戸袋巻込み検出装置。
【請求項3】
前記判定部は、前記最大値が前記所定の閾値以下であっても、前記加速度の絶対値の時系列データにおいて前記側引戸の開動作の基準時点から前記最大値の時点までに要した戸開動作時間が所定時間よりも長いと、戸袋巻込みが発生したと判定する、請求項1又は2に記載の鉄道車両の戸袋巻込み検出装置。
【請求項4】
前記側引戸は、開動作中における完全開位置に到達する前の中間時点において減速するように制御されるものであり、
前記判定部は、前記加速度の絶対値の時系列データにおける前記減速によるピーク値を検出することで前記中間時点を特定し、前記中間時点を前記基準時点とする、請求項3に記載の鉄道車両の戸袋巻込み検出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、鉄道車両の乗降口を開閉する側引戸を開くときに戸袋に物体が巻き込まれたことを検出する戸袋巻込み検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
都会の通勤車両のように乗車率が非常に高くなる鉄道車両では、側引戸の近くに人や物が位置するため、側引戸が開動作して戸袋に収納される際に、物体(例えば、カバンや衣服等)が側引戸に引き摺られて戸袋に巻き込まれる可能性がある。そのため、現状の鉄道車両では、側引戸に注意書きステッカーを貼ることで乗客の注意を促している。また、側引戸窓構造を平滑化することで戸袋への物体の巻込み防止を図ることも提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第3621733号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、側引戸が開動作する際の戸袋への物体の巻込みに対する対策を施しても、予想外の使用態様等によって戸袋巻込みが発生する可能性はある。そのため、戸袋への物体の巻込みが発生したら、それを迅速に検出して対処することが望まれる。
また、側引戸の開動作時に戸袋巻込みの発生が検出された場合に、戸袋巻込みを解消するために側引戸を閉側に戻す制御を行うと、乗客が予期しない側引戸の動作により、側引戸に別の物体(例えば、カバンや衣服等)が挟まれる戸挟みが発生する可能性が生じる。
【0005】
そこで本発明の一態様は、鉄道車両の乗降口を開閉する側引戸を開くときに戸袋に物体が巻き込まれたことを好適に検出することを目的とする。また、本発明の他態様は、戸袋巻込みを容易に解消でき且つその解消時に戸挟みが発生することを防止することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一態様に係る鉄道車両の戸袋巻込み検出装置は、鉄道車両の乗降口を開閉する側引戸を開くときに戸袋に物体が巻き込まれたことを検出する戸袋巻込み検出装置であって、前記側引戸のスライド方向の加速度を取得する加速度取得部と、前記側引戸の開動作の後期において、前記加速度取得部で取得された加速度の絶対値の時系列データにおける最大値が所定の閾値よりも大きいと、戸袋巻込みが発生したと判定する判定部と、を備える。
【0007】
前記構成によれば、側引戸の開動作において戸袋に物体(例えば、カバンや衣服等)が巻き込まれる事象の発生を好適に検出できる。具体的には、側引戸の開動作中に戸袋巻込みが生じると、物体が戸袋に巻き込まれ始める初期段階に抵抗が一旦生じる。そして、物体が戸袋に巻き込まれた後に当該抵抗が軽減されて側引戸が完全開位置に到達することで、抵抗エネルギーが解放されて加速する効果によって完全開位置への到達時に側引戸に生じるショック(加速度)が増加する。よって、開動作の後期における側引戸の最大加速度が所定の閾値よりも大きい場合に、戸袋巻込みが発生したと判断することができる。
【0008】
本開示の一態様に係る鉄道車両の側引戸制御装置は、鉄道車両の乗降口を開閉する側引戸を駆動するアクチュエータを制御する装置であって、前記側引戸を開くときに戸袋に物体が巻き込まれる戸袋巻込みが発生したことを検出する戸袋巻込み検出部と、前記戸袋巻込みの発生が検出されると、前記側引戸が開閉自在になるように前記アクチュエータをフリー状態にする制御部と、を備える。
前記構成によれば、戸袋巻込み発生時にアクチュエータがフリー状態にされて側引戸が開閉自在になるので、戸袋巻込みを人間が手動で解消することができる。しかも、戸袋巻込みを自動で解消することはせず、側引戸を閉側に戻す制御は行われないので、側引戸に別の物体が挟まれる戸挟みが発生することも防止できる。
【発明の効果】
【0009】
本開示の一態様によれば、鉄道車両の乗降口を開閉する側引戸を開くときに戸袋に物体が巻き込まれたことを好適に検出することができる。また、本開示の他態様によれば、戸袋巻込みを容易に解消でき且つその解消時に戸挟みが発生することを防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施形態に係る鉄道車両のドア装置及びその近傍を示す側面図である。
図2】(A)は正常な開動作時のアクチュエータを示す模式図、(B)は正常な閉動作時のアクチュエータを示す模式図、(C)は開動作における戸袋巻込み検出時のアクチュエータを示す模式図である。
図3図1に示す戸袋巻込み検出装置のブロック図である。
図4図3に示す戸袋巻込み検出装置の処理内容を説明するフローチャートである。
図5】正常な戸開動作時における加速度(絶対値)の時系列データのグラフである。
図6】戸袋巻込みが発生した戸開動作時における加速度(絶対値)の時系列データのグラフである。
図7】変形例に係る図3相当の図面である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して実施形態を説明する。
【0012】
図1は、実施形態に係る鉄道車両1のドア装置3及びその近傍を示す側面図である。図1に示すように、鉄道車両1は、乗降口2a(ドア開口部)が形成された側構体2と、乗降口2aを開閉するための両開き式のドア装置3とを備える。ドア装置3は、互いに近接及び離反してスライド開閉する第1側引戸11及び第2側引戸12を有する。第1側引戸11及び第2側引戸12の戸先には、第1弾性部材13及び第2弾性部材14(戸先ゴム)がそれぞれ取り付けられている。第1側引戸11及び第2側引戸12は、開動作時には側構体2に設けられた戸袋2bに収容される。
【0013】
第1側引戸11及び第2側引戸12の上部には、それぞれ滑車4が取り付けられている。滑車4は、乗降口2aの上方に設置されたガイドレール5に案内される。第1側引戸11及び第2側引戸12の上方には、ブラケット6を介して第1側引戸11及び第2側引戸12をスライド開閉するためのアクチュエータ7が設置されている。本実施形態のアクチュエータ7は、圧縮空気を用いて駆動する空気式アクチュエータであるが、モータを用いて駆動する電動式アクチュエータであってもよい。アクチュエータ7の配置や側引戸11,12の案内機構等は、種々のものが考えられ、これに限定されるものではない。
【0014】
第1側引戸11には、第1加速度センサ31が取り付けられている。第2側引戸12には、第2加速度センサ32が取り付けられている。第1加速度センサ31及び第2加速度センサ32は、第1側引戸11及び第2側引戸12のスライド方向(即ち、車両長手方向)の加速度を検出するように設置されている。第1加速度センサ31及び第2加速度センサ32は、側引戸制御装置40に通信可能に接続されている。第1加速度センサ31及び第2加速度センサ32は、側引戸制御装置40に対して無線接続又は有線接続のいずれかの態様で接続されている。
【0015】
図2(A)は、正常な開動作時のアクチュエータ7を示す模式図である。図2(B)は、正常な閉動作時のアクチュエータ7を示す模式図である。図2(C)は、開動作における戸袋巻込み検出時のアクチュエータ7を示す模式図である。図2(A)に示すように、アクチュエータ7は、空気圧シリンダ20、切替弁21及び逃がし弁22を備える。空気圧シリンダ20は、ピストンによって互いに仕切られた第1室S1及び第2室S2を有する。切替弁21は、空気ダメ(空気圧力源)からの圧縮空気を第1室S1に導き且つ第2室S2を大気開放する第1状態(図2(A))と、空気ダメからの圧縮空気を第2室S2に導き且つ第1室S1を大気開放する第2状態(図2(B))とに択一的に切り替え可能に構成されている。
【0016】
即ち、図2(A)に示すように、切替弁21が前記第1状態になって第1室S1が加圧されると、空気圧シリンダ20によって側引戸11,12が開動作するように駆動される。図2(B)に示すように、切替弁21が前記第2状態になって第2室S2が加圧されると、空気圧シリンダ20によって側引戸11,12が閉動作するように駆動される。なお、空気圧シリンダ20は、流体圧シリンダであれば空気以外の流体を利用したものでもよい。
【0017】
逃がし弁22は、空気圧シリンダ20の少なくとも第1室S1に接続されている。本実施形態では、逃がし弁22が切替弁21よりも空気ダメ側に配置されているため、逃がし弁22は、切替弁21の状態によって第1室S1及び第2室S2に択一的に接続可能である。逃がし弁22は、空気ダメと切替弁21とを連通させて第1室S1及び第2室S2のいずれか一方を空気ダメに連通させた正常状態(図2(A)(B))と、第1室S1及び第2室S2の両方が大気開放された非常状態(図2(C))とに択一的に切り替え可能に構成されている。即ち、逃がし弁22が前記非常状態になった場合、空気圧シリンダ20がフリー状態になり、側引戸11,12が開閉自在になる。
【0018】
なお、この構成の場合、戸開動作時(第1室S1の加圧時)も戸閉動作時(第2室S2の加圧時)も、逃がし弁22を非常状態に切り替えることで空気圧シリンダ20をフリー状態にできるが、逃がし弁22を切替弁21と第1室S1との間に介在させて、戸開動作時(第1室S1の加圧時)のみ空気圧シリンダ20をフリー状態にできる構成としてもよい。また、逃がし弁22を設ける代わりに、切替弁21が、前記第1状態及び前記第2状態に加え、第1室S1及び第2室S2を大気開放する第3状態を更に備え、前記第1~第3状態を択一的に切り替え可能にした構成としてもよい。即ち、切替弁21が逃がし弁を兼ねてもよい。
【0019】
図3は、図1に示す側引戸制御装置40のブロック図である。図3に示すように、側引戸制御装置40は、第1側引戸11及び第2側引戸12を駆動するアクチュエータ7の制御等を行う装置である。側引戸制御装置40は、ハードウェア面において、プロセッサ、揮発性メモリ、不揮発性メモリ及びI/Oインターフェース等を有する。側引戸制御装置40は、機能面において、戸袋巻込み検出部41、制御部42及び出力部43を有する。戸袋巻込み検出部41及び制御部42は、不揮発性メモリに保存されたプログラムに基づいてプロセッサが揮発性メモリを用いて演算処理することで実現される。出力部43は、I/Oインターフェース等により実現される。
【0020】
戸袋巻込み検出部41は、第1側引戸11及び第2側引戸12を開くときに戸袋2bに物体(例えば、カバンや衣服等)が巻き込まれたことを検出するための装置である。戸袋巻込み検出部41は、加速度取得部44及び判定部45を有する。加速度取得部44は、第1加速度センサ31及び第2加速度センサ32の検出信号を受信し、第1側引戸11のスライド方向の加速度と第2側引戸12のスライド方向の加速度とを算出する。
【0021】
判定部45は、第1側引戸11及び第2側引戸12の開動作の後期において、加速度取得部44で取得された加速度の絶対値の時系列データにおける最大値Amaxが所定の閾値Athよりも大きいと、戸袋巻込みが発生したと判定する。本実施形態では、判定部45は、第1加速度センサ31から取得される加速度の時系列データと、第2加速度センサ32から取得される加速度の時系列データとの両方についてそれぞれ判定を行い、各時系列データのいずれか一方でも最大値Amaxが閾値Athよりも大きいとの条件が成立すると、戸袋巻込みが発生したと判定する。なお、判定部45は、第1側引戸11又は第2側引戸12のいずれか一方のみの加速度データに基づいて判定を行ってもよい。
【0022】
制御部42は、戸袋巻込み検出部41によって戸袋巻込みの発生が検出されると、側引戸11,12が開閉自在になるようにアクチュエータ7をフリー状態にする。具体的には、制御部42は、戸袋巻込みの発生が検出されると、逃がし弁22を非常状態に切り替えて空気圧シリンダ20の第1室S1及び第2室S2を大気開放する。なお、本実施形態では、戸袋巻込みが発生した側引戸11,12のみ開閉自在になるように、側引戸11,12のアクチュエータ7をフリー状態にすべく1つの空気圧シリンダ20のみ大気開放しているがそれに限らない。例えば、戸袋巻込みの発生が検出されると、それが検出された側引戸が設けられた鉄道車両1の全ての側引戸がフリー状態になるようにしてもよいし、特定の複数の側引戸がフリー状態になるようにしてもよい。
【0023】
出力部43は、戸袋巻込み検出部41において戸袋巻込み発生が検出されると、警報装置50に警報信号を出力する。警報装置50は、側引戸制御装置40から警報信号を受信すると、表示や音等によって運転士等に戸袋巻込みが発生した旨を報知する。
【0024】
図4は、図3に示す側引戸制御装置40の処理内容を説明するフローチャートである。図5は、正常な戸開動作時における加速度(絶対値)の時系列データのグラフである。図6は、戸袋巻込みが発生した戸開動作時における加速度(絶対値)の時系列データのグラフである。なお、図6は、戸袋巻込み発生時の加速度を取得するために、厚さ約8mmの発泡ポリエチレン製シートを戸袋に巻き込ませることで戸袋巻込みを模擬した際の実験データである。以下、図2及び3の構成や図5及び6のグラフを適宜参照しながら、図4のフローチャートに沿って戸袋巻込み検出の処理の流れを説明する。なお、以下では説明の便宜上、第1側引戸11の加速度についてのみ説明するが、第2側引戸12の加速度についても同様である。
【0025】
ドア装置3のアクチュエータ7に側引戸11,12の開動作の指令があると、加速度取得部44は、第1加速度センサ31の検出値を継続的に受信して加速度を算出する(ステップS1)。判定部45は、加速度取得部44で算出された加速度の絶対値の時系列データにおいて、加速が発生したか否かを判定する(ステップS2)。例えば、図5及び6の例では、時刻t1よりも前の時点では、側引戸11が閉じた状態で静止して加速度の絶対値がゼロであるため、ステップS2においてNoと判定される。他方、時刻t1の時点では、側引戸11の開動作が開始して加速度の絶対値がゼロよりも大きくなるため、ステップS2においてYesと判定される。
【0026】
ステップS2でYesと判定されると、判定部45は、加速度取得部44で算出された加速度の絶対値の時系列データにおいて、加速度がゼロに収束したか否かを判定する(ステップS3)。具体的には、判定部45は、加速度の絶対値の時系列データにおいて、加速度がゼロ又はゼロ近傍である状態が所定時間(例えば、0.5秒)にわたって継続すると、加速度がゼロに収束したと判断する(ステップS3)。例えば、図5及び6の例では、時刻t4の時点では、第1側引戸11の開動作が完了(静止)して加速度の絶対値が継続的にゼロ又はゼロ近傍の値になっているため、ステップS3においてYesと判定される。
【0027】
ステップS3でYesと判定されると、判定部45は、加速度がゼロに収束した時点(時刻t4から前の時間に遡って最初に現れるピーク値を特定する(ステップS4)。例えば、図5及び6の例では、時刻t3において当該ピーク値Amaxが特定される。判定部45は、当該ピーク値Amaxを側引戸11の開動作の後期における最大加速度とみなす。このようにすれば、開動作中の側引戸11に物体が当たって側引戸11のスライド速度が変動することで、側引戸11の開動作に要する時間が一定でなくても、側引戸11の開動作の後期における加速度の時系列データの最大値を適切に把握することができる。
【0028】
次いで、判定部45は、ピーク値Amaxが所定の閾値Athよりも小さいか否かを判定する(ステップS5)。閾値Athは、開動作時に戸袋巻込みが発生せずに正常に開動作が完了したときのピーク値よりも大きい値である。即ち、図5に示すように、正常な開動作の場合には、ピーク値Amaxが閾値Athよりも小さくなる。
【0029】
他方、図6に示すように、戸袋巻込み発生時には、ピーク値Amaxが閾値Athよりも大きくなる。具体的には、側引戸11の開動作中に戸袋巻込みが生じると、物体が側引戸11と共に戸袋2bに巻き込まれ始める初期段階に抵抗が一旦生じる。そして、物体が戸袋2bに巻き込まれた後に当該抵抗が軽減されて側引戸11が完全開位置に到達することで、抵抗エネルギーが解放されて加速する効果によって完全開位置への到達時に側引戸11に生じるショック(加速度)が増加する。なお、閾値Athの決定に際しては、正常時のピーク値Amaxと戸袋巻込み発生時のピーク値Amaxとを予め実験で取得し、両者の中間の値を閾値Athに設定するとよい。
【0030】
ステップS5でYesと判定されると、側引戸11,12の開動作において戸袋2bに物体(例えば、カバンや衣服等)が巻き込まれる戸袋巻込みが発生しているため、制御部42は、逃がし弁22を駆動して前記非常状態(図2(C))に切り替え、空気圧シリンダ20の加圧側の第1室S1を大気開放させる(ステップS6)。これにより、空気圧シリンダ20がフリー状態になって側引戸11,12が開閉自在になり、人間が手で側引戸11,12をスライドさせることできる。また、戸袋巻込みの発生が検知されると(ステップS5:Yes)、出力部43から警報装置50に警報信号を送信し、警報装置50が表示や音等によって運転士等に戸袋巻込み発生を報知する(ステップS7)。
【0031】
このように、戸袋巻込み発生時にアクチュエータ7がフリー状態にされて側引戸11,12が開閉自在になるので、戸袋巻込みを人間が手動で解消することが可能になる。しかも、戸袋巻込みを自動で解消することはせず、側引戸11,12を閉側に戻す制御は行われないので、側引戸11,12に別の物体が挟まれる戸挟みが発生することも防止される。また、戸袋巻込みが発生した側引戸11,12のみを開閉自在にすることで、巻込みが発生していない側引戸で新たな戸袋巻込みや戸挟みが発生することも防止される。
【0032】
ステップS5でNoと判定されると、一応は戸袋巻込みが発生していないと考えられるが、念のため戸袋巻込み検出のためのサブ判定を行う。即ち、判定部45は、先ず前記加速度の絶対値の時系列データにおいて側引戸11の開動作の基準時点からピーク値Amaxの時点t3までに要した戸開動作時間Tを特定する(ステップS8)。
【0033】
ここで、側引戸制御装置40は、側引戸11、12の開動作中において完全開位置に到達する前の中間時点t2において減速するようにアクチュエータ7を制御する。そこで、本実施形態では、判定部45は、前記加速度の絶対値の時系列データにおける当該減速によるピークPを検出することで中間時点t2を特定し、中間時点t2を前記基準時点とする。
【0034】
即ち、判定部45は、側引戸11の開動作の基準時点t2からピーク値Amaxの時点t3までに要した時間を戸開動作時間Tとして特定する(ステップS8)。そして、判定部45は、戸開動作時間Tが所定時間Tthよりも長いか否かを判定する(ステップS9)。所定時間Tthは、開動作時に戸袋巻込みが発生せずに正常に開動作が完了したときの基準時点t2からピーク値Amaxの時点t3までに要する時間よりも短い。即ち、図5に示すように、正常な開動作の場合には、戸開動作時間Tが所定時間Tthよりも短くなる。ステップS9でNoと判定されると、戸開動作時間Tにも異常は認められないため、ステップS6,S7をスキップしてそのまま終了する。
【0035】
他方、図6に示すように、戸袋巻込み発生時には、戸開動作時間Tが正常時よりも長くなる。具体的には、側引戸11の開動作中に戸袋巻込みが生じると、物体が側引戸11と共に戸袋2bに巻き込まれ始める初期段階に抵抗が一旦生じる。そして、物体が戸袋2bに巻き込まれた後に当該抵抗が軽減されて側引戸11が完全開位置に到達することで、抵抗エネルギーが解放されて加速する効果によって完全開位置への到達時に側引戸11に生じるショック(加速度)が増加する。なお、所定時間Tthの決定に際しては、正常時の基準時点t2からピーク値Amaxの時点t3までに要する時間と、戸袋巻込み発生時の基準時点t2からピーク値Amaxの時点t3までに要する時間とを予め実験で取得し、両者の中間の値を所定時間Tthに設定するとよい。
【0036】
側引戸11の開動作中に戸袋巻込みが生じると、物体が戸袋2bに巻き込まれ始める初期段階に抵抗が生じるため、側引戸11が完全開位置に到達するまでに余分に時間が掛かることになる。よって、側引戸11の開動作の基準時点t2から開動作の後期における最大加速度の時点t3までに要した戸開動作時間Tが所定時間Tthよりも長い場合に、戸袋巻込みが発生している可能性が高いと判断できる。ステップS9でYesと判定されると、戸袋巻込みが発生している可能性があるため、ステップS6,S7を実行する。
【0037】
以上のように、本実施形態では、加速度を参照したメイン判定(ステップS5)のみならず開動作の時間を参照したサブ判定(ステップS9)も用いることで、戸袋巻込みの検出可能性が高められる。なお、判定部45は、ステップS8,S9を省いた処理を実施する構成としてもよい。
【0038】
また、本実施形態では、戸開動作時間Tの基準時点が中間時点t2とされるため、当該基準時点を開動作の開始時点t1とする場合に比べ、側引戸11の動作時間の監視対象から開動作初期が除外される。これにより、開動作初期における戸袋巻込みとは異なる外乱を排除でき、戸袋巻込みの検出精度が向上する。なお、戸開動作時間Tの基準時点を開動作の開始時点t1としてもよい。
【0039】
なお、図7に変形例として示すように、側引戸11,12を駆動するアクチュエータは、流体圧シリンダの代わりに電動モータ107を用いたものであってもよい。その場合、制御部42は、戸袋巻込み検出部41によって戸袋巻込みの発生が検出されると、電動モータ107の回路をオープンにし、側引戸11,12を開閉自在にするとよい。そうすれば、側引戸11,12が電動モータ107により駆動される電動式である場合にも、戸袋巻込みの解消と戸挟み発生の防止とを好適に実現できる。
【0040】
なお、本発明は前述した実施形態に限定されるものではなく、その構成を変更、追加、又は削除することができる。例えば、判定部45は、加速度がゼロに収束した時点から前の時間に遡って最初に現れるピーク値を最大加速度として特定する代わりに、側引戸の開動作開始時点から開動作完了時点までの期間の後期として、当該期間のうち開動作完了時点から前に遡った所定割合区間の加速度を対象として最大加速度を特定してもよい。またドア装置3は、両開き式ではなく片開き式であってもよい。また、戸袋巻込み検出部41は、加速度や開動作の時間を参照して戸袋巻込みを判定する態様に限られず、側引戸11,12の開動作時に戸袋2bに物体が進入したことを物理的に検出するセンサ(例えば、光センサ)により戸袋巻込みの発生を検出してもよい。
【符号の説明】
【0041】
1 鉄道車両
2a 乗降口
2b 戸袋
7 アクチュエータ
11 第1側引戸
12 第2側引戸
20 空気圧シリンダ
22 逃がし弁
40 側引戸制御装置
41 戸袋巻込み検出部(戸袋巻込み検出装置)
42 制御部
44 加速度取得部
45 判定部
S2 第2室
S1 第1室
T 戸開動作時間
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7