(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-07
(45)【発行日】2023-02-15
(54)【発明の名称】研磨用組成物
(51)【国際特許分類】
C09K 3/14 20060101AFI20230208BHJP
C09G 1/02 20060101ALI20230208BHJP
H01L 21/304 20060101ALN20230208BHJP
【FI】
C09K3/14 550Z
C09K3/14 550D
C09G1/02
H01L21/304 622D
(21)【出願番号】P 2019024751
(22)【出願日】2019-02-14
【審査請求日】2022-01-31
(73)【特許権者】
【識別番号】000116127
【氏名又は名称】ニッタ・デュポン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104444
【氏名又は名称】上羽 秀敏
(72)【発明者】
【氏名】山▲崎▼ 智基
【審査官】高崎 久子
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-132944(JP,A)
【文献】国際公開第2017/150158(WO,A1)
【文献】特開2017-197590(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K3/14
B24B37/00
C09G1/02
H01L21/304;21/463
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水と、
砥粒と、
ベンジルトリメチルアンモニウム塩を除く塩基性化合物と、
ベンジルトリメチルアンモニウム塩と、
窒素を含有する水溶性高分子とを含
み、
前記水溶性高分子は、ポリビニルピロリドン及びポリビニルアルコールのグラフト共重合体を含む、研磨用組成物。
【請求項2】
請求項1に記載の研磨用組成物であって、
前記ベンジルトリメチルアンモニウム塩
の含有率は0.003~0.010重量%であり、
前記水溶性高分子
の含有率は0.0007~0.0032重量%である、研磨用組成物。
【請求項3】
請求項1
又は2に記載の研磨用組成物であって、
前記塩基性化合物は、アンモニア、アミン類、4級アンモニウム塩、アルカリ金属の水酸化物、及び炭酸塩からなる群から選択される1又は2以上を含む、研磨用組成物。
【請求項4】
請求項1~
3のいずれか1項に記載の研磨用組成物であって、
前記砥粒は、コロイダルシリカを含む、研磨用組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、研磨用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体製品の製造において、超精密加工は極めて重要な技術である。近年LSIデバイスの微細化が進み、それに伴って精密研磨後の半導体ウェーハの表面粗さや平坦性への要求が厳しくなる傾向にある。
【0003】
一般に、シリコンウェーハは、ロット管理のため、ハードレーザマーキングが施される。具体的には、精密加工前に、ウェーハの表裏いずれかの面にレーザを照射することにより、SEMI-OCR、SEMI-2DCODE(T7)などの規格に従った識別コードを刻印する。
【0004】
以下の特許文献1は、ベンジルトリメチルアンモニウム塩(BTMAC)を含有する研磨用組成物を開示するが、レーザマーク周辺部の盛上りの問題(後述)に全く言及していない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ハードレーザマーキングでは、レーザが照射された時にレーザマーク周辺部が変質する。精密研磨時に、レーザマーク周辺部の研磨レートがシリコンの研磨レートよりも低いと、レーザマーク周辺部が盛上る。そのため、レーザマーク周辺部の研磨レートはシリコンの研磨レートと同程度でなければならない。
【0007】
本発明の目的は、研磨レートを低下させることなく、レーザマーク周辺部の盛上りを抑制できる研磨用組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一実施形態による研磨用組成物は、水と、砥粒と、塩基性化合物と、ベンジルトリメチルアンモニウム塩(BTMAC)と、窒素を含有する水溶性高分子とを含む。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、研磨レートを低下させることなく、レーザマーク周辺部の盛上りを抑制できる研磨用組成物が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、BTMACの濃度とレーザマーク周辺部の盛上りとの相関関係を示すグラフである。
【
図2】
図2は、BTMACの濃度とシリコンの研磨レートとの相関関係を示すグラフである。
【
図3】
図3は、PVP-PVAの濃度とレーザマーク周辺部の盛上りとの相関関係を示すグラフである。
【
図4】
図4は、PVP-PVAの濃度とシリコンの研磨レートとの相関関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の一実施形態による研磨用組成物を詳述する。
【0012】
本発明の一実施形態による研磨用組成物は、水と、砥粒と、塩基性化合物と、ベンジルトリメチルアンモニウム塩(BTMAC)と、窒素を含有する水溶性高分子とを含む。
【0013】
ベンジルトリメチルアンモニウム塩、及び窒素を含有する水溶性高分子の両者は、研磨用組成物中の砥粒に電荷的に作用し、マイナス電荷を帯びる酸化膜に砥粒が近接しやすくなり、その結果、レーザマーク周辺部の盛上りを低減すると考えられる。その効果は、高分子の方が大きいと考えられる(後述する比較例1~8参照)。
【0014】
しかし、高分子は分子量が大きいため、砥粒に作用し、砥粒の表面に吸着すると、砥粒自身のメカニカル研磨力を低下させてしまい、その結果、シリコン面に対して研磨レートを大きく低下させてしまうと考えられる。
【0015】
ベンジルトリメチルアンモニウム塩及び水溶性高分子を含む場合は、両者は砥粒に作用し、ベンジルトリメチルアンモニウム塩が作用した砥粒と、高分子が作用した砥粒とが、それぞれ同時に存在すると考えられる。上記両者の一方が砥粒に一旦作用すると、他方が同じ砥粒に作用することは、電荷的に難しいと考えられる。
【0016】
レーザマークの研磨については高分子が作用した砥粒が主に作用し、シリコンの研磨についてはベンジルトリメチルアンモニウム塩が作用した砥粒が主に作用し、その結果、研磨レートを低下させることなく、レーザマーク周辺部の盛上りを抑制できると考えられる。
【0017】
ベンジルトリメチルアンモニウム塩は0.003~0.010重量%でもよい。水溶性高分子は0.0007~0.0032重量%でもよい。
【0018】
水溶性高分子は、ポリビニルピロリドン(PVP)及びポリビニルアルコール(PVA)のグラフト共重合体を含んでもよい。
【0019】
塩基性化合物は、アンモニア、アミン類、4級アンモニウム塩、アルカリ金属の水酸化物、及び炭酸塩からなる群から選択される1又は2以上を含んでもよい。
【0020】
砥粒は、コロイダルシリカを含んでもよい。
【0021】
コロイダルシリカは、この分野で常用されるものを使用することができる。コロイダルシリカの粒径は、特に限定されないが、例えば二次平均粒子径で20~130nmのものを用いることができる。コロイダルシリカの粒径は1種でもよく、2種以上でもよい。
【0022】
コロイダルシリカの含有量は、特に限定されないが、例えば研磨用組成物(原液)全体の0.15~20重量%である。研磨用組成物は、研磨時に10~80倍に希釈されて使用される。本実施形態による研磨用組成物は、シリカの濃度が100~5000ppm(質量ppm。以下同じ。)になるように希釈して用いることが好ましい。
【0023】
水溶性高分子は、半導体ウェーハの表面に吸着して、半導体ウェーハの表面を改質する。これによって研磨の均一性が向上し、表面粗さを低減することができる。水溶性高分子は、PVP及びPVAのグラフト共重合体が好ましいが、これに限定されることなく、ポリビニルピロリドン(PVP)等のビニルポリマー、アルキル化ポリビニルピロリドン、ビニルピロリドン/酢酸ビニル子ポリマー、ビニルピロリドン/メタクリル酸アルキルアミノコポリマー、ビニルピロリドン/プロピルメタクリルアミド-塩化トリメチルアンモニウムコポリマー、ビニルピロリドン/(ジメチルアミノプロピル)メタクリルアミド)コポリマー、ビニルピロリドン/(ジメチルアミノプロピル)メタクリルアミド/メタクロイルアミノプロピルラウリルジメチル塩化アンモニウム)ターポリマー、(ビニルピロリドン/アクリル酸/メタクリル酸ラウリル)ターポリマー、(ビニルピロリドン/ビニルカプロラクタム/メタクリル酸ジメチルアミノエチル)ターポリマー、(ビニルカプロラクタム/ビニルピロリドン/(ジメチルアミノプロピル)メタクリルアミド)ターポリマー、等を用いることができる。
【0024】
水溶性高分子は、エチレンオキサイド基以外のアルキレンオキシサイド基を有さない高分子が好ましい。
【0025】
水溶性高分子の含有量は、特に限定されないが、例えば研磨用組成物(原液)全体の0.0001~1.2質量%である。
【0026】
塩基性化合物は、半導体ウェーハの表面をエッチングして化学的に研磨する。塩基性化合物は、例えば、アミン化合物、無機アルカリ化合物等である。
【0027】
アミン化合物は、例えば、第一級アミン、第二級アミン、第三級アミン、第四級アンモニウム及びその水酸化物、複素環式アミン等である。具体的には、アンモニア、水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)、水酸化テトラエチルアンモニウム(TEAH)、水酸化テトラブチルアンモニウム(TBAH)、メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、ヘキシルアミン、シクロヘキシルアミン、エチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ジエチレントリアミン(DETA)、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、N-(β-アミノエチル)エタノールアミン、無水ピペラジン、ピペラジン六水和物、1-(2-アミノエチル)ピペラジン、N-メチルピペラジン、ピペラジン塩酸塩、炭酸グアニジン等が挙げられる。
【0028】
無機アルカリ化合物は、例えば、アルカリ金属の水酸化物、アルカリ金属の塩、アルカリ土類金属の水酸化物、アルカリ土類金属の塩等が挙げられる。無機アルカリ化合物は、具体的には、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム等である。
【0029】
上述した塩基性化合物は、一種を単独で使用してもよいし、二種以上を混合して使用してもよい。上述した塩基性化合物の中でも、アンモニア、アミン類、アルカリ金属の水酸化物、アルカリ金属の炭酸塩が特に好ましい。
【0030】
塩基性化合物の含有量(二種以上含有する場合は、その総量)は、特に限定されないが、例えば研磨用組成物全体の0.01~1.6質量%である。
【0031】
本実施形態による研磨用組成物は、pH調整剤をさらに含んでいてもよい。本実施形態による研磨用組成物のpHは、好ましくは8.0~12.0である。
【0032】
本実施形態による研磨用組成物は、上記の他、研磨用組成物の分野で一般に知られた配合剤を任意に配合することができる。
【0033】
本実施形態による研磨用組成物は、砥粒、塩基性化合物、BTMAC、水溶性高分子、その他の配合材料を適宜混合して水を加えることによって作製される。本実施形態による研磨用組成物は、あるいは、砥粒、塩基性化合物、BTMAC、水溶性高分子、その他の配合材料を、順次、水に混合することによって作製される。これらの成分を混合する手段としては、ホモジナイザ、超音波等、研磨用組成物の技術分野において常用される手段が用いられる。
【0034】
以上で説明した研磨用組成物は、適当な濃度となるように水で希釈した後、半導体ウェーハの研磨に用いられる。
【0035】
本実施形態による研磨用組成物は、シリコンウェーハの両面研磨に好適に用いることができる。
【実施例】
【0036】
以下、実施例によって本発明をより具体的に説明する。本発明はこれらの実施例に限定されない。
【0037】
表1に示す実施例1~4及び比較例1~8の研磨用組成物を作製した。
【表1】
【0038】
表1の配合量は、すべて希釈後のものであり、残部は水である。コロイダルシリカには、二次平均粒子径が120nmのものと20nmのものとを使用した。表1に示した配合量は、2種類のコロイダルシリカの総量であり、全て同一である。
【0039】
シリコンの研磨促進剤として、塩基性化合物を用いた。塩基性化合物には、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド(TMAH)、炭酸水素カリウム(KHCO3)、炭酸カリウム(K2CO3)を用いた。
【0040】
レーザマーク周辺部の研磨促進剤として、ベンジルトリメチルアンモニウム塩(BTMAC)及び窒素を含有する水溶性高分子を用いた。水溶性高分子には第一工業製薬社製ピッツコールV-7154を用いた。これは、ポリビニルピロリドン(PVP)及びポリビニルアルコール(PVA)のグラフト共重合体であった。PVA/PVP(wt%)は50/50であった。幹PVA重合度は1700であった。幹PVAケン化度は完全であった。枝PVPの数平均分子量は約13000であった。枝PVPの重量平均分子量は約80000であった。重合度、平均分子量等の分析には、GPC-MALS(Gel Permeation Chromatography - Multi Angle Light Scattering)を用いた。これは、GPC(ゲル浸透クロマトグラフィ)及びMALS(多角度光散乱検出器)を組み合わせた装置である。この分析によると、測定によって絶対分子量及び平均二乗半径(RMS半径)が得られ、それらから分岐パラメータ(g値)が得られた。これにより、グラフト共重合体の構造を解析できた。
【0041】
実施例1~4は全て、BTMACとPVP-PVAグラフト共重合体とを含む。比較例1はこれら両者を含まない。比較例2~5はBTMACのみを含む。比較例6~8はPVP-PVAグラフト共重合体のみを含む。
【0042】
研磨装置にスピードファム社製DSM20B-5P-4Dを用い、研磨パッドにニッタ・ハース株式会社製EXTERION(登録商標)SL-31を用い、研磨用組成物(研磨スラリー)に31倍体積希釈したニッタ・ハース株式会社製Nanopure(登録商標)NP6610を用い、12インチのシリコンウェーハ(ハードレーザマーク付きグラインディング上がり)を30分間研磨した。続けて、研磨用組成物に31倍体積希釈した表1に記載されたものを用い、同じシリコンウェーハを90秒間研磨した。
【0043】
90秒間の研磨後、ウェーハのレーザマーク(LM)周辺部の盛上りを評価した。具体的には、Veeco社製Wyko NT9300(非接触型干渉顕微鏡)を用いて、レーザマークT7コード端部を測定し、特定ドット周辺部分の断面プロファイルから盛上りの高さを測定した。レーザマーク盛上りの数値が正の場合は研磨後のレーザマーク周辺部が突出していることを示し、ゼロ又は負の場合は突出していないことを示す。
【0044】
BTMACとPVP-PVAグラフト共重合体とを含む実施例1~5は、レーザマーク周辺部の盛上りを小さく抑えることができた。両者を含んでいない比較例1は、レーザマーク周辺部の盛上りが非常に大きくなった。BTMACを含んでいても、PVP-PVAグラフト共重合体を含んでいない比較例2~5は、レーザマーク周辺部の盛上りが大きくなった。逆に、PVP-PVAグラフト共重合体を含んでいても、BTMACを含んでいない比較例6も、レーザマーク周辺部の盛上りが大きくなった。また、PVP-PVAグラフト共重合体を含んでいても、BTMACを含んでいない比較例7及び8は、レーザマーク周辺部の盛上りを小さく抑えることができたが、シリコンの研磨レートが低下してしまった。
【0045】
以上、本発明の実施の形態を説明した。上述した実施の形態は本発明を実施するための例示に過ぎない。よって、本発明は上述した実施の形態に限定されることなく、その趣旨を逸脱しない範囲内で上述した実施の形態を適宜変形して実施することが可能である。