(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-07
(45)【発行日】2023-02-15
(54)【発明の名称】作業機械
(51)【国際特許分類】
E02F 9/20 20060101AFI20230208BHJP
【FI】
E02F9/20 N
(21)【出願番号】P 2019058540
(22)【出願日】2019-03-26
【審査請求日】2021-10-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000005522
【氏名又は名称】日立建機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001829
【氏名又は名称】弁理士法人開知
(72)【発明者】
【氏名】森木 秀一
(72)【発明者】
【氏名】成川 理優
(72)【発明者】
【氏名】金井 政樹
(72)【発明者】
【氏名】塩飽 晃司
(72)【発明者】
【氏名】井村 進也
【審査官】石川 信也
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2011/049079(WO,A1)
【文献】特開2001-227001(JP,A)
【文献】特開2012-021290(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02F 9/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
機械本体に搭載された作業装置と、
前記機械本体及び前記作業装置を駆動する複数のアクチュエータと、
前記機械本体の位置に関する情報である位置情報を取得する位置情報取得装置と、
前記作業装置の姿勢に関する情報である姿勢情報を取得する姿勢情報取得装置と、
前記機械本体及び前記作業装置の移動が許容される領域である作業領域と、前記位置情報取得装置で取得された前記位置情報と、前記姿勢情報取得装置で取得された姿勢情報とに基づいて、前記複数のアクチュエータのうち少なくとも1つのアクチュエータの動作を制限するコントローラを備え、
前記コントローラは、前記作業領域を要求作業領域に変更することを指示する変更指示が入力された場合に、前記作業領域、前記機械本体の位置情報、及び、前記作業装置の姿勢情報に基づいて前記作業領域の前記要求作業領域への変更の可否を判断し、変更が可能であると判断された場合にのみ前記作業領域に前記要求作業領域を上書きして前記作業領域を変更する
作業機械であって、
前記作業機械の動作状態を取得して前記作業機械が動作中であるかどうかを判定し、前記作業機械が動作中ではないと判定した場合には、前記作業領域の変更が可能であると判断し、
前記作業機械が動作中であると判定した場合には、前記複数のアクチュエータのうち少なくとも1つのアクチュエータの動作が制限されているかどうかを判定し、動作が制限されていると判定した場合には、前記作業領域の変更が不可であると判断することを特徴とする作業機械。
【請求項2】
請求項1記載の作業機械において、
前記作業領域の変更指示は、施工現場における他の作業機械の移動に際して前記作業機械の外部で生成され、前記作業機械に設けられた通信装置を介して前記コントローラに入力されることを特徴とする作業機械。
【請求項3】
請求項
1記載の作業機械において、
前記コントローラは、前記複数のアクチュエータのうち少なくとも1つのアクチュエータの動作が制限されていないと判定した場合には、前記要求作業領域の境界が前記作業領域の境界よりも前記機械本体又は前記作業装置から遠いかどうかを判定し、遠いと判定した場合には、前記作業領域の変更が可能であると判断することを特徴とする作業機械。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、作業機械に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、油圧ショベルなどの作業機械においては、作業に際して作業機械が周囲の障害物等に干渉しないように動作させることが求められる。そこで、オペレータの操作を補助する技術として、予め定設定した範囲内に作業機が入った場合に自動的に動作速度を減速して停止させる技術が提案されており、例えば、特許文献1には、下部走行体に上部旋回体を縦軸回りに旋回自在に設け、該上部旋回体に対して変位自在な作業アタッチメントを設けた旋回系作業機械に、該旋回系作業機械の現在位置を検出するための現在位置検出手段と、上部旋回体の方位を検出するための方位検出手段と、作業アタッチメントの上部旋回体に対する変位量を検出するための変位量検出手段と、地図データに基づく建物や施設等の障害物に対応させた三次元の障害物座標を記憶する記憶手段と、前記検出した現在位置、方位、および作業アタッチメントの上部旋回体に対する変位量から作業アタッチメント位置の三次元座標を演算する作業アタッチメント位置演算手段と、該演算された作業アタッチメント位置座標が、前記記憶される障害物座標に基づいて設定される干渉回避範囲内にあるか否かの判定をする作業アタッチメント位置座標判定手段と、作業アタッチメント位置座標が干渉回避範囲内にある場合に作業アタッチメントの三次元方向の移動速度を設定するための移動速度設定手段と、該移動速度設定手段により設定された移動速度となるよう上部旋回体の旋回用アクチュエータおよび作業アタッチメント用アクチュエータの速度制御部に制御指令を出力する制御指令出力手段とが備えられている旋回系作業機械が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記従来技術においては、単独の作業機械が動作する場合における周囲物への干渉防止については考慮されているものの、施工現場では複数の作業機械が同時に作業を行うことも十分に考えられるため、干渉防止の対象となる周囲物が移動するような場合、すなわち、複数の作業機械間における干渉防止についてさらに考慮する必要がある。
【0005】
本発明は上記に鑑みてなされたものであり、複数の作業機械間での干渉を抑制することができる作業機械を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本願は上記課題を解決する手段を複数含んでいるが、その一例を挙げるならば、機械本体に搭載された作業装置と、前記機械本体及び前記作業装置を駆動する複数のアクチュエータと、前記機械本体の位置に関する情報である位置情報を取得する位置情報取得装置と、前記作業装置の姿勢に関する情報である姿勢情報を取得する姿勢情報取得装置と、前記機械本体及び前記作業装置の移動が許容される領域である作業領域と、前記位置情報取得装置で取得された前記位置情報と、前記姿勢情報取得装置で取得された姿勢情報とに基づいて、前記複数のアクチュエータのうち少なくとも1つのアクチュエータの動作を制限するコントローラを備え、前記コントローラは、前記作業領域を要求作業領域に変更することを指示する変更指示が入力された場合に、前記作業領域、前記機械本体の位置情報、及び、前記作業装置の姿勢情報に基づいて前記作業領域の前記要求作業領域への変更の可否を判断し、変更が可能であると判断された場合にのみ前記作業領域に前記要求作業領域を上書きして前記作業領域を変更する作業機械であって、前記作業機械の動作状態を取得して前記作業機械が動作中であるかどうかを判定し、前記作業機械が動作中ではないと判定した場合には、前記作業領域の変更が可能であると判断し、前記作業機械が動作中であると判定した場合には、前記複数のアクチュエータのうち少なくとも1つのアクチュエータの動作が制限されているかどうかを判定し、動作が制限されていると判定した場合には、前記作業領域の変更が不可であると判断するものとする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、複数の作業機械間での干渉を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本実施の形態に係る作業機械の一例である油圧ショベルの外観を模式的に示す外観図である。
【
図2】コントローラの処理機能を示す機能ブロック図である。
【
図3】動作制限部の演算処理の詳細を説明するための図である。
【
図4】動作制限信号を算出するための算出マップの一例を示す図である。
【
図5】本体制御部の演算処理の一例を示す機能ブロック図である。
【
図6】領域変更可否判断部の処理内容を示すフローチャートである。
【
図7】領域変更可否判断部における処理内容を具体的に説明する図である。
【
図8】領域変更可否判断部における処理内容を具体的に説明する図である。
【
図9】領域変更可否判断部における処理内容を具体的に説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の一実施の形態を
図1~
図10を参照しつつ説明する。
【0010】
なお、本実施の形態では、作業機械の一例として、作業装置(作業機)を備える油圧ショベルを例示して説明するが、例えば、ホイールローダなどの作業機械のほか、ロードローラなどの道路機械やクレーンなどにも本発明を適用することが可能である。
【0011】
また、以下の説明では、同一の構成要素が複数存在する場合、符号(数字)の末尾にアルファベットを付すことがあるが、当該アルファベットを省略して当該複数の構成要素をまとめて表記することがある。例えば、4つの慣性計測装置13a~13dが存在するとき、これらをまとめて慣性計測装置13と表記することがある。
【0012】
図1は、本実施の形態に係る作業機械の一例である油圧ショベルの外観を模式的に示す外観図である。
【0013】
図1において、油圧ショベルM1は、垂直方向にそれぞれ回動する複数の被駆動部材(ブーム11、アーム12、バケット(作業具)8)を連結して構成された多関節型の作業装置(フロント作業機)15と、上部旋回体10と、上部旋回体10とともに油圧ショベルM1の機械本体(以下、単に本体と称する場合がある)を構成する下部走行体9とを備え、上部旋回体10は下部走行体9に対して旋回可能に設けられている。
【0014】
作業装置15のブーム11の基端は上部旋回体10の前部に垂直方向に回動可能に支持されており、アーム12の一端はブーム11の先端に垂直方向に回動可能に支持されており、アーム12の他端にはバケットリンク8aを介してバケット8が垂直方向に回動可能に支持されている。
【0015】
ブーム11、アーム12、バケット8、上部旋回体10、および下部走行体9は、油圧アクチュエータであるブームシリンダ5、アームシリンダ6、バケットシリンダ7、旋回油圧モータ4、および左右の走行油圧モータ3(左側3bのみ図示)によりそれぞれ駆動される。走行油圧モータ3は、左右一対のクローラをそれぞれ駆動することで移動装置として機能する。
【0016】
オペレータが搭乗する運転室16には、作業装置15の油圧アクチュエータ5~7、および上部旋回体10の旋回油圧モータ4を操作するための操作信号を出力する右操作レバー装置1cおよび左操作レバー装置1dと、下部走行体9の左右の走行油圧モータ3を操作するための操作信号を出力する走行用右操作レバー装置1aおよび走行用左操作レバー装置1bと、ゲートロックレバー1eと、コントローラ100とが設けられている。
【0017】
操作レバー装置1a,1b,1c,1dは、それぞれ、操作信号として電気信号を出力する電気式の操作レバー装置であり、オペレータによって前後左右に傾倒操作される操作レバーと、この操作レバーの傾倒方向および傾倒量(レバー操作量)に応じた電気信号を生成する電気信号生成部とを有する。操作レバー装置1c,1dから出力された電気信号は、電気配線を介してコントローラ100)に入力される。本実施の形態では、右操作レバー装置1cの操作レバーの前後方向の操作がブームシリンダ5の操作に対応し、同動作レバーの左右方向の操作がバケットシリンダ7の操作に対応している。一方、左操作レバー装置1dの操作レバーの前後方向の操作が旋回油圧モータ4の操作に対応し、同操作レバーの左右方向の操作がアームシリンダ6の操作に対応している。
【0018】
ブームシリンダ5、アームシリンダ6、バケットシリンダ7、旋回油圧モータ4、および左右の走行油圧モータ3の動作制御は、エンジンや電動モータなどの原動機(本実施例では、エンジン14)によって駆動される油圧ポンプ装置2から油圧アクチュエータ3、4~7に供給される作動油の方向および流量をコントロールバルブ20で制御することにより行う。
【0019】
コントロールバルブ20は、コントローラ100から出力される制御信号により駆動される。走行用右操作レバー装置1aおよび走行用左操作レバー装置1bの操作に基づいてコントローラ100から制御信号がコントロールバルブ20に出力されることにより、下部走行体9の左右の走行油圧モータ3の動作が制御される。また、操作レバー装置1c,1dからの操作信号に基づいてコントローラ100から制御信号がコントロールバルブ20に出力されることにより、油圧アクチュエータ4~7の動作が制御される。ブーム11はブームシリンダ5の伸縮により上部旋回体10に対して上下方向に回動し、アーム12はアームシリンダ6の伸縮によりブーム11に対して上下および前後方向に回動し、バケット8はバケットシリンダ7の伸縮によりアーム12に対して上下および前後方向に回動する。
【0020】
オペレータが搭乗する運転室16の上部には、通信装置500が設けられている。通信装置500は、請求項に記載の領域変更要求受信部と作業領域送信部を兼ねており、要求作業領域(後述)を受信するとともに、作業領域の変更可否と現在の作業領域を送信する。
【0021】
ブーム11の上部旋回体10との連結部近傍と、アーム12のブーム11との連結部近傍と、バケットリンク8aと、上部旋回体10とには、それぞれ、姿勢情報を取得するための姿勢情報取得装置としての慣性計測装置(IMU:Inertial Measurement Unit)13a~13dが配置されている。慣性計測装置13aは水平面に対するブーム11の角度(ブーム角度)を検出する姿勢情報取得装置(ブーム姿勢センサ)であり、慣性計測装置13bは水平面に対するアーム12の角度(アーム角度)を検出する姿勢情報取得装置(アーム姿勢センサ)であり、慣性計測装置13cは水平面に対するバケットリンク8aの角度を検出する姿勢情報取得装置(バケット姿勢センサ)である。また、慣性計測装置13dは、水平面に対する上部旋回体10の傾斜角度(ロール角、ピッチ角)を検出する姿勢情報取得装置(本体姿勢センサ)である。
【0022】
慣性計測装置13a~13dは、角速度及び加速度を計測するものである。慣性計測装置13a~13dが配置された上部旋回体10や各被駆動部材8、11、12が静止している場合を考えると、各慣性計測装置13a~13dに設定されたIMU座標系における重力加速度の方向(つまり、鉛直下向き方向)と、各慣性計測装置13a~13dの取り付け状態(つまり、各慣性計測装置13a~13dと上部旋回体10や各被駆動部材8,11,12との相対的な位置関係)とに基づいて、上部旋回体10や各被駆動部材8,11,12の水平面に対する角度を検出することができる。ここで、慣性計測装置13a~13cは、ブーム11、アーム12、及びバケット(作業具)8のそれぞれの姿勢情報(角度信号)を取得する姿勢情報取得装置を構成している。
【0023】
なお、姿勢情報取得装置としては慣性計測装置(IMU)を用いる場合に限られるものではなく、例えば、傾斜角センサを用いて姿勢情報を取得するように構成しても良い。また、各被駆動部材8,11,12の連結部分にポテンショメータを配置し、上部旋回体10や各被駆動部材8,11,12の相対的な向き(姿勢情報)を検出し、検出結果から各被駆動部材8,11,12の姿勢(水平面に対する角度)を求めても良い。また、ブームシリンダ5,アームシリンダ6,及びバケットシリンダ7にそれぞれストロークセンサを配置し、ストローク変化量から上部旋回体10や各被駆動部材8,11,12の各接続部分における相対的な向き(姿勢情報)を算出し、その結果から各被駆動部材8,11,12の姿勢(水平面に対する角度)を求めるように構成しても良い。
【0024】
上部旋回体10には、機械本体の位置に関する情報である位置情報を取得する位置情報取得装置としての測位装置18a,18bが設けられている。測位装置18a,18bは、例えば、全球測位衛星システム(GNSS:Global Navigation Satellite System)である。GNSSとは複数の衛星からの信号を受信し、地球上の自己位置を知る衛星測位システムのことである。測位装置18a,18bは、地球上空に位置する複数のGNSS衛星(図示しない)からの信号(電波)を受信するものであり、得られた信号に基づいて演算を行うことで、測位装置18a,18bの地球座標系における位置を取得する。油圧ショベルM1に対する測位装置18a,18bの搭載位置は予めわかっているので、測位装置18a,18bの地球座標系における位置を取得することで、施工現場の基準点に対する油圧ショベルM1の位置や向き(方位)を位置情報として取得することができる。
【0025】
コントローラ100には、走行用右操作レバー装置1a、走行用左操作レバー装置1b、右操作レバー装置1c、左操作レバー装置1dからの操作信号、測位装置18a、18bからの本体位置情報、慣性計測装置13a~13dからの姿勢情報、通信装置500からの要求作業領域(後述)と、が入力されており、これらの入力に基づいて制御信号を出力してコントロールバルブ20を駆動するとともに、通信装置500へ作業領域の変更可否および現在の作業領域を出力する。
【0026】
図2は、コントローラの処理機能を示す機能ブロック図である。
【0027】
図2において、コントローラ100は、作業領域記憶部110と、動作制限部120と、本体制御部130と、動作状態取得部140と、領域変更可否判断部150とを備えている。
【0028】
作業領域記憶部110は、通信装置500からの要求作業領域と、領域変更可否判断部150からの作業領域の変更可否と、に応じて、作業領域の変更可否が可であった場合に現在の作業領域を要求作業領域へ変更し、動作制限部120および通信装置500へ出力する。一方で、作業領域の変更可否が否であった場合には現在の作業領域を変更することなく、動作制限部120および通信装置500へ出力する。
【0029】
動作制限部120は、作業領域記憶部110からの現在の作業領域と、測位装置18a、18bからの本体位置情報と、慣性計測装置13a~13dからの姿勢情報と、に応じて動作制限信号を演算し、本体制御部130と領域変更可否判断部150へ出力する。動作制限部120の演算内容については後に詳述する。
【0030】
本体制御部130は、右操作レバー装置1c、左操作レバー装置1dからの操作信号と、動作制限部120からの動作制限信号に基づいて、制御信号を演算して出力し、それぞれの信号に対応したコントロールバルブ20内の各方向制御弁を駆動する。本体制御部130の演算内容については後に詳述する。
【0031】
動作状態取得部140は、測位装置18a、18bからの本体位置情報と、慣性計測装置13a~13dからの姿勢情報と、に基づき油圧ショベルM1の動作状態を演算し、領域変更可否判断部150へ出力する。ここで、動作状態とは、油圧ショベルの移動速度と、旋回速度と、バケットの移動速度である。
【0032】
領域変更可否判断部150は、通信装置500からの要求作業領域と、動作状態取得部140からの動作状態と、作業領域記憶部110からの現在の作業領域と、動作制限部120からの動作制限信号と、を入力とし、これらに基づき、作業領域の変更可否を演算し、作業領域記憶部110と通信装置500へ出力する。なお、現在の作業領域と、動作制限信号と、はコントローラ100の演算周期の1周期前の値を用いる。領域変更可否判断部150で行う演算の詳細は後述する。
【0033】
図3は、動作制限部の演算処理の詳細を説明するための図である。
【0034】
図3においては、作業機械である油圧ショベルM1の本体(上部旋回体10)や作業装置15の動作が許容される範囲として施工現場に予め設定されている作業領域A1内に油圧ショベルM1が配置されている様子を示している。油圧ショベルM1には、旋回中心を限定として前方を正とするにx軸と、旋回軸及びx軸に垂直に左側方を正とするy軸とを有する本体座標系が設定されている。また、作業領域A1は、全ての内角が180度未満である多角形で設定されているものとする。
【0035】
動作制限部120は、現在の作業領域A1の境界と、油圧ショベルM1の機械本体や作業装置15との距離に応じて動作制限信号を演算する。具体的には、まず、油圧ショベルM1の旋回中心と作業装置15の先端部(作業装置15のうち旋回中心から水平距離が最も遠い部分)とにそれぞれ演算の基準となる点(以降、基準点10a,15aと称する)を設定する。
【0036】
そして、機械本体の基準点10aについては、基準点10aからy軸に沿った右方向における作業領域A1の境界までの距離L0R、基準点10aからy軸に沿った左方向における作業領域A1の境界までの距離L0L、基準点10aからx軸に沿った前方向における作業領域A1の境界までの距離L0F、及び、基準点10aからy軸に沿った後方向における作業領域A1の境界までの距離L0Bをそれぞれ算出し、距離L0F,L0B,L0R,L0Lに応じて油圧ショベルM1の前方向、後方向、右方向、左方法の移動速度を制限するように動作制限信号を演算する。
【0037】
同様に、作業装置15の基準点15aについては、基準点15aからy軸に沿った右方向における作業領域A1の境界までの距離L1R、基準点15aからy軸に沿った左方向における作業領域A1の境界までの距離L1L、及び、基準点10aからx軸に沿った前方向における作業領域A1の境界までの距離L1Fをそれぞれ算出し、距離L1F,L1R,L1Lに応じて、作業装置15の伸長方向の速度や左右方向の旋回速度を制限するように動作制限信号を演算する。
【0038】
図4は、動作制限信号を算出するための算出マップの一例を示す図である。
【0039】
図4においては、作業装置15の基準点15aのy軸方向に沿った右方向における作業領域A1の境界までの距離L1Rに対する動作制限信号の算出マップの一例を代表して示している。すなわち、動作制限部120は、
図4に示すように、距離L1Rが0(ゼロ)≦L1R≦L1R1を満たす場合には、右旋回の速度比率を0(ゼロ)%とする動作制限信号を生成し、距離L1RがL1R1<L1R<L1R2を満たす場合には、L1Rが大きくなるに従って右旋回の速度比率が100%に向けて大きくなるような動作制限信号を生成し、距離L1RがL1R2≦L1Rを満たす場合には、右旋回の速度比率を100%とする動作制限信号を生成して出力する。
【0040】
他の距離L1F,L1L,L0F,L0B,L0R,L0Lに対しても同様に、対応する油圧アクチュエータの速度比率を演算し動作制限信号として出力する。
【0041】
図5は、本体制御部の演算処理の一例を示す機能ブロック図である。
【0042】
図5においては、右旋回に関する制御信号の演算の一例を代表して示している。すなわち、本体制御部130は、
図5に示すように、予め定めた演算用のマップ131を用いて操作レバー装置1dからの右旋回の操作信号に応じた右旋回速度(すなわち、操作レバー装置1dの操作量によって要求される右旋回速度)を演算し、演算された右旋回速度に対して右旋回の動作制限信号を演算子132において乗算し、右旋回の制御信号としてコントロールバルブ20に出力する。なお、マップ131は右旋回の操作信号が大きいほど、右旋回速度が大きくなるように予め設定される。また、
図4に示したように、右旋回の動作制限信号は右旋回の速度比率であり、右旋回の速度比率(動作制限信号)が小さくなるほど、右旋回速度が小さくなるように右旋回の制御信号が演算される。
【0043】
他の距離L1F,L1L,L0F,L0B,L0R,L0Lに対しても同様に、対応する油圧アクチュエータの速度比率を演算し動作制限信号として出力する。
【0044】
図6は、領域変更可否判断部の処理内容を示すフローチャートである。
【0045】
図6において、コントローラ100の領域変更可否判断部150は、まず、動作状態取得部140で取得された動作状態に基づいて油圧ショベルM1が動作しているかどうかを判定し(ステップS1501)、判定結果がNOの場合には、作業領域A1の変更が可能であると判断し(ステップS1502)、処理を終了する。なお、本実施の形態においては、移動速度や旋回速度、バケットの移動速度を動作状態として取得し、移動速度が予め定めた値より大きい場合(例えば、0(ゼロ)より大きい場合)には動作していると判定する場合を例示して説明したが、例えば、ゲートロックレバー1eの位置を動作情報として用い、ゲートロックレバー1eが下げ上体であるである場合、すなわち、オペレータによる操作レバー装置1d等の操作が有効である場合を動作していると判定するように構成しても良い。
【0046】
また、ステップS1501での判定結果がYESの場合、すなわち、油圧ショベルM1が動作していると判定した場合には、続いて、動作制限部120の動作制限信号から油圧ショベルM1が動作制限中であるかどうか(例えば、動作制限信号が95%未満であるかどうか)を判定し(ステップS1503)、判定結果がYESの場合には、作業領域A1の変更が不可であると判断し(ステップS1505)、処理を終了する。
【0047】
また、ステップS1503での判定結果がNOの場合、すなわち、油圧ショベルM1が動作制限中では無いと判定した場合には、続いて、要求作業領域の境界は作業領域の境界よりも作業機械(基準点10a及び基準点15a)から遠いかどうかを判定し(ステップS1504)、判定結果がYESの場合には、作業領域の変更が可能であると判定して(ステップS1502)、処理を終了し、判定結果がNOの場合には、作業領域の変更が不可であると判定して(ステップS1505)、処理を終了する。
【0048】
なお、ステップS1505では、要求作業領域を形成する多角形の各辺のうち作業領域A1と異なる辺の全てについて、その距離が作業領域の境界よりも作業機械(基準点10a及び基準点15a)から遠いかどうかを判定する。また、ステップS1505では、判定対象の辺について一つでも要求作業領域の方が近い場合(すなわち、要求作業領域の境界を形成する各辺において、作業領域の境界を形成する各辺よりも近いものが一辺でもある場合)にはでの判定結果をNOとしてステップS1505に進んで作業領域の変更不可とし、判定対象の全ての辺について要求作業領域の方が作業領域よりも遠い場合にのみ判定結果をYESとしてステップS1502に進んで作業領域の変更可とする。
【0049】
図7~
図9は、領域変更可否判断部における処理内容を具体的に説明する図であり、要求作業領域と作業領域との関係や作業機械の動作状態をそれぞれ変えた場合を例示する図である。
図7~
図9においては、作業領域A1及び要求作業領域A2の内部に油圧ショベルM1が配置され、油圧ショベルM1が移動している場合(ここでは、油圧ショベルM1の旋回動作によって作業装置15の基準点15aが点線m1方向に移動している場合)を例示している。
【0050】
図7においては、現在の作業領域A1と異なる要求作業領域A2の境界の辺に対して、油圧ショベルM1(詳しくは、作業装置15の基準点15a)が遠ざかる方向に旋回動作している。なお、油圧ショベルM1に対する動作制限中ではないものとする。
【0051】
この場合、領域変更可否判断部150の処理では、
図6のステップS1501において動作中である(YES)と判定し、ステップS1503で動作制限中ではない(NO)と判定し、ステップS1504で要求作業領域の境界が現在の作業領域よりも狭まる(NO)と判定して、作業領域の変更不可とする(ステップS1505)。このような処理により、作業領域A1の変更に起因する油圧ショベルM1の動作の急減速や急停止、すなわち、動作制限の条件を急に満たすことによる油圧ショベルM1の動作の急変を防ぐことができる。
【0052】
図8においては、現在の作業領域A1と異なる要求作業領域A2の境界の辺に対して、油圧ショベルM1(詳しくは、作業装置15の基準点15a)が近づく方向に旋回動作している。
【0053】
この場合、領域変更可否判断部150の処理では、
図6のステップS1501において動作中である(YES)と判定し、ステップS1503で動作制限中である(YES)と判定した場合には作業領域の変更不可とし(ステップS1505)、また、ステップS1503で動作制限中ではない(NO)と判定した場合であっても、ステップS1504で要求作業領域の境界が現在の作業領域よりも狭まる(NO)と判定して、作業領域の変更不可とする(ステップS1505)。こうすることで、作業領域A1の変更に起因する油圧ショベルM1の動作の急減速や急停止、すなわち、動作制限の条件を急に満たすことによる油圧ショベルM1の動作の急変を防ぐことができる。
【0054】
図9においては、現在の作業領域A1と異なる要求作業領域A2の境界の辺に対して、油圧ショベルM1(詳しくは、作業装置15の基準点15a)が近づく方向に旋回動作している。なお、油圧ショベルM1に対する動作制限中ではないものとする。
【0055】
この場合、領域変更可否判断部150の処理では、
図6のステップS1501において動作中である(YES)と判定し、ステップS1503で動作制限中ではない(NO)と判定し、ステップS1504で要求作業領域の境界が現在の作業領域よりも広がる(YES)と判定して、作業領域の変更可とする(ステップS1502)。こうすることで、作業領域A1の変更に起因する油圧ショベルM1の動作の急加速など、すなわち、動作制限の条件を急に満たさなくなることによる油圧ショベルM1の動作の急変を防ぎつつ、作業領域を変更することができる。
【0056】
以上のように構成した本実施の形態における効果を説明する。
【0057】
従来技術においては、単独の作業機械が動作する場合における周囲物への干渉防止については考慮されているものの、施工現場では複数の作業機械が同時に作業を行うことも十分に考えられるため、干渉防止の対象となる周囲物が移動するような場合、すなわち、複数の作業機械間における干渉防止についてさらに考慮する必要があった。
【0058】
これに対して本実施の形態においては、機械本体(上部旋回体10及び下部走行体9)に搭載された作業装置15と、機械本体および作業装置15を駆動する複数のアクチュエータ(例えば、ブームシリンダ5、アームシリンダ6、バケットシリンダ7、旋回油圧モータ4、走行油圧モータ3(3b))と、機械本体の位置に関する情報である位置情報を取得する測位装置18a,18bと、作業装置の姿勢に関する情報である姿勢情報を取得する慣性計測装置13a~13cと、機械本体及び作業装置15の移動が許容される領域である作業領域と、位置情報取得装置で取得された位置情報と、姿勢情報取得装置で取得された姿勢情報とに基づいて、複数のアクチュエータのうち少なくとも1つのアクチュエータの動作を制限するコントローラ100とを備えた油圧ショベルM1において、コントローラ100は、作業領域を要求作業領域に変更することを指示する変更指示が入力された場合に、作業領域、機械本体の位置情報、及び、作業装置の姿勢情報に基づいて作業領域の要求作業領域への変更の可否を判断し、変更が可能であると判断された場合にのみ作業領域に要求作業領域を上書きして作業領域を変更するように構成したので、複数の作業機械間での干渉を抑制することができる。
【0059】
例えば、
図10に示すよう同じ現場で複数台の建設機械が稼動する状況においては、それぞれに作業領域を設定し、それぞれの建設機械がそれぞれの作業領域を逸脱することがないように制御する方法が考えられる。
図10は、作業現場の状況の一例を示す図である。
図10においては、複数台の建設機械M1,M2が稼動しており、それぞれが作業領域A1,A3を設定している場合を例示している。なお、作業現場には管制制御装置Sが配置されている場合を例示している。
【0060】
図10に示すような状況においては、従来技術を適用した場合、相互の作業領域に重複が生じていると建設機械間の干渉が発生する可能性があった。また、一方の建設機械M1の作業領域A1に対して、他方の建設機械M2が経路Rを走行する状況において、管制制御装置及び車載通信端末装置でボタン操作に応じて保護領域の設定や解除を行う場合を想定すると、一方の建設機械M1の作業領域A1が破棄されるまで、他方の建設機械M2は経路Rを走行できないという課題が生じる。また、建設機械M1の作業領域A1を解除する場合、オペレータがボタン操作によって解除を指示したり建設機械M1が退避したりする必要があり、建設機械M2の作業が遅延する可能性があった。
【0061】
これに対して本実施の形態においては、複数の作業機械間での干渉を抑制することができるとともに、作業効率の低下を抑制することができる。
【0062】
次に上記の各実施の形態の特徴について説明する。
【0063】
(1)上記の実施の形態では、機械本体(例えば、上部旋回体10及び下部走行体9)に搭載された作業装置15と、前記機械本体及び前記作業装置を駆動する複数のアクチュエータ(例えば、ブームシリンダ5、アームシリンダ6、バケットシリンダ7、旋回油圧モータ4、走行油圧モータ3(3b))と、前記機械本体の位置に関する情報である位置情報を取得する位置情報取得装置(例えば、測位装置18a,18b)と、前記作業装置の姿勢に関する情報である姿勢情報を取得する姿勢情報取得装置(例えば、慣性計測装置13a~13c)と、前記機械本体及び前記作業装置の移動が許容される領域である作業領域A1と、前記位置情報取得装置で取得された前記位置情報と、前記姿勢情報取得装置で取得された姿勢情報とに基づいて、前記複数のアクチュエータのうち少なくとも1つのアクチュエータの動作を制限するコントローラ100とを備えた作業機械(例えば、油圧ショベルM1)において、前記コントローラは、前記作業領域を要求作業領域に変更することを指示する変更指示が入力された場合に、前記作業領域、前記機械本体の位置情報、及び、前記作業装置の姿勢情報に基づいて前記作業領域の前記要求作業領域への変更の可否を判断し、変更が可能であると判断された場合にのみ前記作業領域に前記要求作業領域を上書きして前記作業領域を変更する作業機械であって、前記作業機械の動作状態を取得して前記作業機械が動作中であるかどうかを判定し、前記作業機械が動作中ではないと判定した場合には、前記作業領域の変更が可能であると判断し、前記作業機械が動作中であると判定した場合には、前記複数のアクチュエータ(例えば、ブームシリンダ5、アームシリンダ6、バケットシリンダ7、旋回油圧モータ4、走行油圧モータ3(3b))のうち少なくとも1つのアクチュエータの動作が制限されているかどうかを判定し、動作が制限されていると判定した場合には、前記作業領域の変更が不可であると判断するものとした。
【0064】
これにより、複数の作業機械間での干渉を抑制することができる。
【0065】
(2)また、上記の実施の形態では、(1)の作業機械(例えば、油圧ショベルM1)において、前記作業領域の変更指示は、施工現場における他の作業機械(例えば、油圧ショベルM1)の移動に際して前記作業機械の外部で生成され、前記作業機械に設けられた通信装置を介して前記コントローラに入力されるものとした。
【0068】
(3)また、上記の実施の形態では、(1)の作業機械(例えば、油圧ショベルM1)において、前記コントローラ100は、前記複数のアクチュエータ(例えば、ブームシリンダ5、アームシリンダ6、バケットシリンダ7、旋回油圧モータ4、走行油圧モータ3(3b))のうち少なくとも1つのアクチュエータの動作が制限されていないと判定した場合には、前記要求作業領域の境界が前記作業領域の境界よりも前記機械本体又は前記作業装置から遠いかどうかを判定し、遠いと判定した場合には、前記作業領域の変更が可能であると判断するものとした。
【0069】
<付記>
なお、本発明は上記の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲内の様々な変形例や組み合わせが含まれる。また、本発明は、上記の実施の形態で説明した全ての構成を備えるものに限定されず、その構成の一部を削除したものも含まれる。また、上記の各構成、機能等は、それらの一部又は全部を、例えば集積回路で設計する等により実現してもよい。また、上記の各構成、機能等は、プロセッサがそれぞれの機能を実現するプログラムを解釈し、実行することによりソフトウェアで実現してもよい。
【0070】
また、本実施の形態においては、油圧ショベルM1にコントローラ100を搭載した構成を説明したが、例えば、コントローラ100を油圧ショベルM1から分離して配置し、油圧ショベルM1の遠隔操作を可能とした油圧ショベル(建設機械)M1の制御システムとして構成しても良い。また、領域変更可否判断部150のみを油圧ショベルM1から分離して、例えば、
図10にした管制制御装置Sに配置するように構成しても良い。
【符号の説明】
【0071】
1a…走行用右操作レバー装置、1b…走行用左操作レバー装置、1c…右操作レバー装置、1d…左操作レバー装置、1e…ゲートロックレバー、2…油圧ポンプ装置、3(3b)…走行油圧モータ、4…旋回油圧モータ、5…ブームシリンダ、6…アームシリンダ、7…バケットシリンダ、8…バケット(作業具)、8a…バケットリンク、9…下部走行体、10…上部旋回体、10a…基準点、11…ブーム、12…アーム、13a~13d…慣性計測装置(IMU)、14…エンジン、15…作業装置(フロント作業機)、15a…基準点、16…運転室、18a,18b…測位装置、20…コントロールバルブ、100…コントローラ、110…作業領域記憶部、120…動作制限部、130…本体制御部、131…マップ、132…演算子、140…動作状態取得部、150…領域変更可否判断部、500…通信装置、M1…油圧ショベル