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特許7222790圧延制御装置、圧延制御方法および圧延機
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-07
(45)【発行日】2023-02-15
(54)【発明の名称】圧延制御装置、圧延制御方法および圧延機
(51)【国際特許分類】
   B21B 37/52 20060101AFI20230208BHJP
   B21B 35/00 20060101ALI20230208BHJP
【FI】
B21B37/52
B21B35/00
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019069975
(22)【出願日】2019-04-01
(65)【公開番号】P2020168637
(43)【公開日】2020-10-15
【審査請求日】2021-10-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(74)【代理人】
【識別番号】100111453
【弁理士】
【氏名又は名称】櫻井 智
(72)【発明者】
【氏名】片山 裕之
(72)【発明者】
【氏名】清水 隆広
(72)【発明者】
【氏名】松谷 祐紀
【審査官】池田 安希子
(56)【参考文献】
【文献】特開昭54-123554(JP,A)
【文献】特開平08-323416(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第107107136(CN,A)
【文献】韓国公開特許第10-2009-0051618(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21B 37/00-37/78
B21B 27/00-35/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧延材を圧延する圧延機を駆動するモータが、停止から目標回転速度になるまで、フィードバック制御によって前記モータの回転が加速される加速期間において、前記圧延機の出側では、前記加速期間の開始前と比べて、前記圧延材に付与するトルクを上げる制御をし、前記圧延機の入側では、前記加速期間の開始前と比べて、前記圧延材に付与するトルクを下げる制御をする圧延制御装置であって
前記モータの回転速度指令値と前記モータの回転速度との偏差を用いて前記回転速度を自動調節するための速度制御信号を生成する速度制御部と、
前記速度制御信号と前記モータの電流値との偏差を用いて前記モータの電流を自動調節するための電流制御信号である電流指令値を生成する電流制御部と、
前記加速期間のうち、前記加速期間の開始時に、前記フィードバック制御において、前記回転速度指令値の上昇に前記回転速度を追従させるための補償を実行するモータ回転速度補償部と、を備え、
前記電流指令値に基づいて、前記モータは駆動されており、
前記モータ回転速度補償部は、当該モータ回転速度補償部の補償値を前記電流制御部に出力して前記電流制御部に前記電流指令値を上げさせることによって前記補償を実行する、
延制御装置。
【請求項2】
圧延材を圧延する圧延機を駆動するモータが、停止から目標回転速度になるまで、フィードバック制御によって前記モータの回転が加速される加速期間において、前記圧延機の出側では、前記加速期間の開始前と比べて、前記圧延材に付与するトルクを上げる制御をし、前記圧延機の入側では、前記加速期間の開始前と比べて、前記圧延材に付与するトルクを下げる制御をする圧延制御装置であって
前記モータの回転速度指令値と前記モータの回転速度との偏差を用いて前記回転速度を自動調節するための速度制御信号を生成する速度制御部と、
前記速度制御信号と前記モータのトルク値との偏差を用いて前記モータのトルクを自動調節するためのトルク制御信号であるトルク指令値を生成するトルク制御部と、
前記加速期間のうち、前記加速期間の開始時に、前記フィードバック制御において、前記回転速度指令値の上昇に前記回転速度を追従させるための補償を実行するモータ回転速度補償部と、を備え、
前記トルク指令値に基づいて、前記モータは駆動されており、
前記モータ回転速度補償部は、当該モータ回転速度補償部の補償値を前記トルク制御部に出力して前記トルク制御部に前記トルク指令値を上げさせることによって前記補償を実行する、
延制御装置。
【請求項3】
前記モータ回転速度補償部は、前記補償を実行する補償期間において、補償値の大きさを一定にする、請求項1または2に記載の圧延制御装置。
【請求項4】
前記モータ回転速度補償部は、前記補償を実行する補償期間において、前記補償期間の開始から終了に向かうに従って補償値を下げる、請求項1または2に記載の圧延制御装置。
【請求項5】
圧延材を圧延する圧延機を駆動するモータが、停止から目標回転速度になるまで、フィードバック制御によって前記モータの回転が加速される加速期間において、前記圧延機の出側では、前記加速期間の開始前と比べて、前記圧延材に付与するトルクを上げる制御をし、前記圧延機の入側では、前記加速期間の開始前と比べて、前記圧延材に付与するトルクを下げる制御をする圧延制御方法であって、
前記モータの回転速度指令値と前記モータの回転速度との偏差を用いて前記回転速度を自動調節するための速度制御信号を生成する速度制御ステップと
前記速度制御信号と前記モータの電流値との偏差を用いて前記モータの電流を自動調節するための電流制御信号である電流指令値を電流制御部で生成する電流制御ステップと
前記加速期間のうち、前記加速期間の開始時に、前記フィードバック制御において、前記回転速度指令値の上昇に前記回転速度を追従させるための補償をモータ回転速度補償部で実行するモータ回転速度補償ステップ、を備え、
前記電流指令値に基づいて、前記モータは、駆動されており
前記モータ回転速度補償ステップは、当該モータ回転速度補償部の補償値を前記電流制御部に出力して前記電流制御部に前記電流指令値を上げさせることによって前記補償を実行する、
圧延制御方法。
【請求項6】
圧延材を圧延する圧延機を駆動するモータが、停止から目標回転速度になるまで、フィードバック制御によって前記モータの回転が加速される加速期間において、前記圧延機の出側では、前記加速期間の開始前と比べて、前記圧延材に付与するトルクを上げる制御をし、前記圧延機の入側では、前記加速期間の開始前と比べて、前記圧延材に付与するトルクを下げる制御をする圧延制御方法であって
前記モータの回転速度指令値と前記モータの回転速度との偏差を用いて前記回転速度を自動調節するための速度制御信号を生成する速度制御ステップと
前記速度制御信号と前記モータのトルク値との偏差を用いて前記モータのトルクを自動調節するためのトルク制御信号であるトルク指令値をトルク制御部で生成するトルク制御ステップと
前記加速期間のうち、前記加速期間の開始時に、前記フィードバック制御において、前記回転速度指令値の上昇に前記回転速度を追従させるための補償をモータ回転速度補償部で実行するモータ回転速度補償ステップと、を備え、
前記トルク指令値に基づいて、前記モータは、
駆動されており
前記モータ回転速度補償ステップは、前記モータ回転速度補償部の補償値を前記トルク制御部に出力して前記トルク制御部に前記トルク指令値を上げさせることによって前記補償を実行する
圧延制御方法
【請求項7】
請求項1~のいずれか一項に記載の圧延制御装置を備える圧延機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧延制御装置、圧延制御方法および圧延機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の冷間圧延技術として、例えば、特許文献1に開示された冷間圧延方法がある。この方法は、鋼板コイルが、出側テンションリールと入側テンションリールにそれぞれ巻き掛けられ、その相互間に配設された圧延機にて鋼板コイルを往復移動させつつ交互に繰り返し圧下することによって冷間圧延を行う。出側テンションリールと入側テンションリールとによって、圧延材の長手方向に沿って圧延材に張力が付与される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2015-85371号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
圧延材(例えば、上記鋼板コイル)を圧延する圧延機は、モータによって駆動される。モータが停止から目標回転速度になるまで、フィードバック制御によってモータの回転が加速される。加速により圧延材に過大な張力がかかると、圧延材が板切れをする。これを防止するために上記加速の期間(以下、加速期間)において、圧延機の出側では、加速期間の開始前と比べて、圧延材に付与するトルクを上げる制御がされ、圧延機の入側では、加速期間の開始前と比べて、圧延材に付与するトルクを下げる制御がされる。これにより、加速期間中に圧延材に過大なまたは過少な張力がかかることがなく、一定の張力になるように抑制している。
【0005】
上述した張力制御がされても、加速期間中に圧延材が張力変動や板切れすることがある。特に、圧延材が薄いとき、張力変動や板切れが発生し易い。本発明者らは、その原因を究明し、本発明を創作した。
【0006】
本発明の目的は、圧延機を駆動するモータが停止から目標回転速度になるまで、フィードバック制御によってモータの回転が加速される加速期間中に、圧延材の張力変動や板切れを防止することができる、圧延制御装置、圧延制御方法および圧延機を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1局面に係る圧延制御装置は、圧延材を圧延する圧延機を駆動するモータが、停止から目標回転速度になるまで、フィードバック制御によって前記モータの回転が加速される加速期間において、前記圧延機の出側では、前記加速期間の開始前と比べて、前記圧延材に付与するトルクを上げる制御をし、前記圧延機の入側では、前記加速期間の開始前と比べて、前記圧延材に付与するトルクを下げる制御をする圧延制御装置であって、前記モータの回転速度指令値と前記モータの回転速度との偏差を用いて前記回転速度を自動調節するための速度制御信号を生成する速度制御部と、前記速度制御信号と前記モータの電流値との偏差を用いて前記モータの電流を自動調節するための電流制御信号である電流指令値を生成する電流制御部と、前記加速期間のうち、記加速期間の開始時に、前記フィードバック制御において、前記モータの回転速度指令値の上昇に前記モータの回転速度を追従させるための補償を実行するモータ回転速度補償部を備え、前記電流指令値に基づいて、前記モータは駆動されており、前記モータ回転速度補償部は、当該モータ回転速度補償部の補償値を前記電流制御部に出力して前記電流制御部に前記電流指令値を上げさせることによって前記補償を実行する。
【0008】
本発明者らは、加速期間の開始よりもモータの回転開始が遅くなれば、圧延材に張力変動や板切れが発生する場合があることを見出した。そこで、モータ回転速度補償部は、加速期間のうち、速期間の開始時に、フィードバック制御において、モータの回転速度指令値の上昇にモータの回転速度を追従させるための補償を実行する。これにより、加速期間の開始から、モータを回転させることができるので、加速期間の開始から、モータの回転速度は、モータの回転速度指令値の上昇に追従させることができる。従って、本発明の第1局面に係る圧延制御装置によれば、加速期間中に圧延材の張力変動や板切れを防止することができる。そして、上記構成は、例えば、モータ駆動部がサイリスタ制御によって、モータを駆動する場合に用いることができる
【0011】
本発明の第2局面に係る圧延制御装置は、圧延材を圧延する圧延機を駆動するモータが、停止から目標回転速度になるまで、フィードバック制御によって前記モータの回転が加速される加速期間において、前記圧延機の出側では、前記加速期間の開始前と比べて、前記圧延材に付与するトルクを上げる制御をし、前記圧延機の入側では、前記加速期間の開始前と比べて、前記圧延材に付与するトルクを下げる制御をする圧延制御装置であって、前記モータの回転速度指令値と前記モータの回転速度との偏差を用いて前記回転速度を自動調節するための速度制御信号を生成する速度制御部と、前記速度制御信号と前記モータのトルク値との偏差を用いて前記モータのトルクを自動調節するためのトルク制御信号であるトルク指令値を生成するトルク制御部と、前記加速期間のうち、前記加速期間の開始時に、前記フィードバック制御において、前記回転速度指令値の上昇に前記回転速度を追従させるための補償を実行するモータ回転速度補償部と、を備え、前記トルク指令値に基づいて、前記モータは駆動されており、前記モータ回転速度補償部は、当該モータ回転速度補償部の補償値を前記トルク制御部に出力して前記トルク制御部に前記トルク指令値を上げさせることによって前記補償を実行する。
【0012】
この構成は、例えば、モータ駆動部がインバータ制御によって、モータを駆動する場合に用いることができる。
【0013】
上記構成において、前記モータ回転速度補償部は、前記補償を実行する補償期間において、補償値(前記補償の大きさ)を一定にする。
【0014】
この構成は、補償の仕方の一例である。
【0015】
上記構成において、前記モータ回転速度補償部は、前記補償を実行する補償期間において、前記補償期間の開始から終了に向かうに従って補償値(前記補償の大きさ)を下げる。
【0016】
この構成は、補償の仕方の別の例である。
【0017】
本発明の第局面に係る圧延制御方法は、圧延材を圧延する圧延機を駆動するモータが、停止から目標回転速度になるまで、フィードバック制御によって前記モータの回転が加速される加速期間において、前記圧延機の出側では、前記加速期間の開始前と比べて、前記圧延材に付与するトルクを上げる制御をし、前記圧延機の入側では、前記加速期間の開始前と比べて、前記圧延材に付与するトルクを下げる制御をする圧延制御方法であって、前記モータの回転速度指令値と前記モータの回転速度との偏差を用いて前記回転速度を自動調節するための速度制御信号を生成する速度制御ステップと、前記速度制御信号と前記モータの電流値との偏差を用いて前記モータの電流を自動調節するための電流制御信号である電流指令値を電流制御部で生成する電流制御ステップと、前記加速期間のうち、前記加速期間の開始時に、前記フィードバック制御において、前記回転速度指令値の上昇に前記回転速度を追従させるための補償をモータ回転速度補償部で実行するモータ回転速度補償ステップ、を備え、前記電流指令値に基づいて、前記モータは、駆動されており、前記モータ回転速度補償ステップは、当該モータ回転速度補償部の補償値を前記電流制御部に出力して前記電流制御部に前記電流指令値を上げさせることによって前記補償を実行する。本発明の第3局面に係る圧延制御方法は、本発明の第1局面に係る圧延制御装置を方法の観点から規定しており、本発明の第1局面に係る圧延制御装置と同様の作用効果を有する
【0018】
本発明の第4局面に係る圧延制御方法は、圧延材を圧延する圧延機を駆動するモータが、停止から目標回転速度になるまで、フィードバック制御によって前記モータの回転が加速される加速期間において、前記圧延機の出側では、前記加速期間の開始前と比べて、前記圧延材に付与するトルクを上げる制御をし、前記圧延機の入側では、前記加速期間の開始前と比べて、前記圧延材に付与するトルクを下げる制御をする圧延制御方法であって、前記モータの回転速度指令値と前記モータの回転速度との偏差を用いて前記回転速度を自動調節するための速度制御信号を生成する速度制御ステップと、前記速度制御信号と前記モータのトルク値との偏差を用いて前記モータのトルクを自動調節するためのトルク制御信号であるトルク指令値をトルク制御部で生成するトルク制御ステップと、前記加速期間のうち、前記加速期間の開始時に、前記フィードバック制御において、前記回転速度指令値の上昇に前記回転速度を追従させるための補償をモータ回転速度補償部で実行するモータ回転速度補償ステップと、を備え、前記トルク指令値に基づいて、前記モータは、
駆動されており、前記モータ回転速度補償ステップは、前記モータ回転速度補償部の補償値を前記トルク制御部に出力して前記トルク制御部に前記トルク指令値を上げさせることによって前記補償を実行する。本発明の第局面に係る圧延制御方法は、本発明の第局面に係る圧延制御装置を方法の観点から規定しており、本発明の第局面に係る圧延制御装置と同様の作用効果を有する。
【0019】
本発明の第局面に係る圧延機は、本発明の第1局面に係る圧延制御装置を備える圧延機である。
【0020】
本発明の第局面に係る圧延機は、本発明の第1局面に係る圧延制御装置を圧延機の観点から規定しており、本発明の第1局面に係る圧延制御装置と同様の作用効果を有する。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、圧延機を駆動するモータが停止から目標回転速度になるまで、フィードバック制御によってモータの回転が加速される加速期間中に、圧延材の張力変動や板切れを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】実施形態における圧延システムの構成を示すブロック図である。
図2】比較形態において、ミルモータの回転速度指令値、補償値、ミルモータの回転速度、第2モータのトルク指令値、第2テンションリールの実張力、第1モータのトルク指令値、第1テンションリールの実張力のそれぞれのタイムチャートを示す図である。
図3】実施形態において、ミルモータの回転速度指令値、補償値、ミルモータの回転速度、第2モータのトルク指令値、第2テンションリールの実張力、第1モータのトルク指令値、第1テンションリールの実張力のそれぞれのタイムチャートを示す図である。
図4】実施形態によるミルモータの加速制御を説明するフローチャートの前半である。
図5】同後半である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図面に基づいて本発明の実施形態を詳細に説明する。各図において、同一符号を付した構成は、同一の構成であることを示し、その構成について、既に説明している内容については、その説明を省略する。
【0024】
圧延機として、タンデム型とリバース型とがある。タンデム型は、タンデムに配置された複数の圧延機で順番に圧延材を圧延する。リバース型は、2つのリールによって圧延材を1回以上往復させて、1台の圧延機で圧延材を圧延する。実施形態では、リバース型を例にして説明する。
【0025】
図1は、実施形態における圧延システム100の構成を示すブロック図である。圧延システム100は、圧延対象である圧延材WKを自動的に所定の目標の厚み(板厚)となるように冷間圧延するシステムであり、例えば、圧延機1と、第1テンションリール2と、第2テンションリール3と、第1デフレクタロール4と、第2デフレクタロール5と、第1張力計6と、第2張力計7と、を備える。圧延システム100は、第1テンションリール2および第2テンションリール3に巻回された帯状の圧延材WKを、第1テンションリール2と第2テンションリール3と間に配設された圧延機1によって圧延する。
【0026】
圧延機1は、一対のワークロール11-1,11-2を備える。ワークロール11-1とワークロール11-2との間には、ロールギャップRGが設けられている。ワークロール11-1は、圧延材WKを上側から押圧する。ワークロール11-2は、圧延材WKを下側から押圧する。圧延材WKは、ロールギャップRGを通過する際に、一対のワークロール11-1,11-2によって押圧されて薄く延ばされる。
【0027】
第1デフレクタロール4は、圧延機1と第1テンションリール2との間に配置されている。第2デフレクタロール5は、圧延機1と第2テンションリール3との間に配置されている。
【0028】
圧延材WKが図1の矢印A方向に送られている場合、第1テンションリール2、第2テンションリール3、第1デフレクタロール4および第2デフレクタロール5は、以下のように機能する。第1テンションリール2は、入側テンションリールとなり、巻回された圧延材WKにトルクを付与しながら圧延機1へ供給する。第1デフレクタロール4は、第1テンションリール2から引き出された圧延材WKの方向を水平方向に変更する。第2デフレクタロール5は、圧延機1から送られてきた水平方向の圧延材WKを第2テンションリール3の方向に変更する。第2テンションリール3は、出側テンションリールとなり、圧延機1で圧延された圧延材WKにトルクを付与しながら巻き取って収容する。
【0029】
圧延材WKが矢印A方向と逆方向に送られている場合、第1テンションリール2、第2テンションリール3、第1デフレクタロール4および第2デフレクタロール5は、以下のように機能する。第2テンションリール3は、入側テンションリールとなり、巻回された圧延材WKにトルクを付与しながら圧延機1へ供給する。第2デフレクタロール5は、第2テンションリール3から引き出された圧延材WKの方向を水平方向に変更する。第1デフレクタロール4は、圧延機1から送られてきた水平方向の圧延材WKを第1テンションリール2の方向に変更する。第1テンションリール2は、出側テンションリールとなり、圧延機1で圧延された圧延材WKにトルクを付与しながら巻き取って収容する。
【0030】
第1張力計6は、第1デフレクタロール4上の圧延材WKに作用している張力を計測する。第2張力計7は、第2デフレクタロール5上の圧延材WKに作用している張力を計測する。
【0031】
圧延システム100は、第1モータ21と、第1モータ駆動部22と、第2モータ23と、第2モータ駆動部24と、ミルモータ25と、ミルモータ駆動部26と、速度検出器27と、圧延制御装置30と、を備える。なお、圧延制御装置30は、圧延機1に備えられていてもよい。
【0032】
第1モータ21は、第1モータ駆動部22によって駆動され、第1テンションリール2を回転させる。第2モータ23は、第2モータ駆動部24によって駆動され、第2テンションリール3を回転させる。ミルモータ25は、圧延機1を駆動するモータの一例であり、ミルモータ駆動部26によって駆動され、一対のワークロール11-1,11-2を回転させる。これらの駆動部は、サイリスタ制御やインバータ制御によって、これらのモータを駆動する。速度検出器27は、ミルモータ25の回転速度vを検出する。
【0033】
圧延制御装置30は、圧延システム100を制御する。この制御には、第1モータ21の制御、第2モータ23の制御およびミルモータ25の制御が含まれる。圧延制御装置30は、自動速度調節器301(ASR:Automatic Speed Regulator)と、自動電流調節器302(ACR:Automatic Current Regulator)と、ミル起動補償器303と、を備える。自動速度調節器301および自動電流調節器302によって、ミルモータ25の回転速度vがフィードバック制御される。
【0034】
圧延制御装置30は、コンピュータ、デジタル回路等によって構成される。コンピュータは、ハードウェア(CPU(Central Processing Unit)、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、HDD(Hard Disk Drive)等)、及び、ソフトウェア等によって実現される。
【0035】
自動速度調節器301は、速度制御部の一例であり、ミルモータ25の回転速度指令値V1とミルモータ25の回転速度vとの偏差D1を用いてミルモータ25の回転速度vを自動調節するための速度制御信号S1を生成する。詳しく説明する。ミルモータ25の回転速度指令値V1は、圧延制御装置30がミルモータ25の回転速度制御をするときに、圧延制御装置30が生成する回転速度の命令値であり、圧延制御装置30に予めプログラムされている。自動速度調節器301には、ミルモータ25の回転速度指令値V1と速度検出器27が検出したミルモータ25の回転速度vとが入力される。自動速度調節器301は、これらの偏差D1を比例積分した値を出力する。この値は、ミルモータ25の回転速度vを自動調節するための速度制御信号S1である。このように、自動速度調節器301は、PI制御によってミルモータ25の速度制御信号S1を出力する。
【0036】
自動電流調節器302は、電流制御部の一例であり、速度制御信号S1とミルモータ25の電流値Iとの偏差D2を用いてミルモータ25の電流を自動調節するための電流制御信号S2である電流指令値を生成する。詳しく説明する。自動電流調節器302には、速度制御信号S1と、ミルモータ駆動部26がミルモータ25に供給している電流の電流値Iとが入力される。自動電流調節器302は、これらの偏差D2を求め、偏差D2とミル起動補償器303から出力される補償値V2とを加算した値を比例積分した値を出力する。この値は、ミルモータ25の電流を自動調節するための電流制御信号S2(電流指令値)である。このように、自動電流調節器302は、PI制御によってミルモータ25の電流制御信号S2を出力する。ミルモータ駆動部26は、電流制御信号S2(電流指令値)に基づいて、ミルモータ25を駆動する。
【0037】
ミル起動補償器303は、モータ回転速度補償部の一例であり、圧延機1が起動するとき(すなわち、ミルモータ25を停止から目標回転速度にするとき)、ミルモータ25の回転速度指令値V1の上昇にミルモータ25の回転速度vを追従させるための補償を実行する。ミル起動補償器303が出力する補償値V2は、電流値である。補償値V2は、ミルモータ25の定格電流より小さい値であり、実際に圧延システム100を稼働させて、圧延システム100の管理者が決定する。ミル起動補償器303は、自動電流調節器302に電流指令値を上げさせることによって、上記補償を実行する。
【0038】
ミル起動補償器303は、デジタル回路のようなハードウェアでもよいし、コンピュータソフトウェアでもよい。
【0040】
自動電流調節器302(電流制御部の一例)は、ミルモータ駆動部26がサイリスタ制御によってミルモータ25を駆動する場合に用いられる。自動電流調節器302は、電流指令値(電流制御信号S2)をミルモータ駆動部26に送り、ミルモータ駆動部26は、電流指令値に基づいて、ミルモータ25を駆動する。
【0041】
ミルモータ駆動部26がインバータ制御によってミルモータ25を駆動する場合、自動電流調節器302の替わりに、自動トルク調節器(ATR:Automatic Torque Regulator)が用いられ、ミル電流Iの替わりに、ミルモータ25のトルク値を検出するトルク検出器が用いられる。自動トルク調節器(トルク制御部の一例)は、速度制御信号S1とミルモータ25のトルク値との偏差を用いてミルモータ25のトルクを自動調節するためのトルク制御信号であるトルク指令値を生成する。自動トルク調節器は、トルク指令値(トルク制御信号)をミルモータ駆動部26に送り、ミルモータ駆動部26は、トルク指令値に基づいて、ミルモータ25を駆動する。この場合、ミル起動補償器303が出力する補償値V2は、トルク値である。ミル起動補償器303は、自動トルク調節器にトルク指令値を上げさせることによって、ミルモータ25の回転速度指令値V1の上昇にミルモータ25の回転速度vを追従させるための補償を実行する。
【0042】
圧延制御装置30は、ミルモータ25(圧延機1を駆動するモータ)が、停止から目標回転速度になるまで、フィードバック制御によってミルモータ25の回転を加速させる。圧延制御装置30は、この加速期間において、圧延機1の出側では、加速期間の開始前と比べて、圧延材WKに付与するトルクを上げる制御をし、圧延機1の入側では、加速期間の開始前と比べて、圧延材WKに付与するトルクを下げる制御をする。これにより、加速期間中に、圧延材WKに過大な張力がかかることを抑制している。
【0043】
ミル起動補償器303(モータ回転速度補償部)がないとき、加速期間の開始から遅れてミルモータ25の回転が開始することを、図および図を用いて説明する。図1に示す圧延システム100において、ミル起動補償器303を備えない形態を比較形態とする。図2は、比較形態において、ミルモータ25の回転速度指令値V1、補償値V2、ミルモータ25の回転速度v、第2モータ23のトルク指令値、第2テンションリール3の実張力、第1モータ21のトルク指令値、第1テンションリール2の実張力のそれぞれのタイムチャートを示す図である。これは、加速期間の開始前および加速期間のタイムチャートである。第1テンションリール2が圧延機1の入側に位置し、第2テンションリール3が圧延機1の出側に位置し、圧延材WKが矢印A方向に送られるとする。
【0044】
図2には、7つのタイムチャートA0~A6が示されている。タイムチャートA0は、自動速度調節器301に入力するミルモータ25の回転速度指令値V1のタイムチャートを示す。横軸は、経過時間を示す。縦軸は、ミルモータ25の回転速度指令値V1を示す。この値は、回転速度指令値V1の最大値が100のとき、この最大値に対して何%であるを示す値(相対値)である。
【0045】
タイムチャートA1は、ミル起動補償器303が出力する補償値V2のタイムチャートを示す。横軸は、経過時間を示す。縦軸は、補償値V2(電流値)を示す。この値は、ミルモータ25の定格電流が100のとき、定格電流に対して何%であるかを示す値(相対値)である。
【0046】
タイムチャートA2は、速度検出器27が検出したミルモータ25の回転速度vのタイムチャートを示す。横軸は、経過時間を示す。縦軸は、ミルモータ25の回転速度vを示す。この値は、ミルモータ25の回転速度vの最大値が100のとき、この最大値に対して何%であるかを示す値(相対値)である。
【0047】
タイムチャートA3は、第2モータ23のトルク指令値のタイムチャートを示す。第2モータ23は、第2テンションリール3(圧延機1の出側に位置するテンションリール)を駆動する。横軸は、経過時間を示す。縦軸は、第2モータ23のトルク指令値を示す。この値は、トルク指令値の最大値が100のとき、この最大値に対して何%であるかを示す値(相対値)である。圧延制御装置30は、第2モータ23のトルク指令値を第2モータ駆動部24へ送る。第2モータ駆動部24は、このトルク指令値に従って第2モータ23を駆動する。
【0048】
タイムチャートA4は、第2テンションリール3の実張力のタイムチャートと示す。この実張力は、第2張力計7によって計測された、圧延材WKに作用する張力である。横軸は、経過時間を示す。縦軸は、張力を示す。この値は、張力の最大値が100のとき、この最大値に対して何%であるかを示す値(相対値)である。
【0049】
タイムチャートA5は、第1モータ21のトルク指令値のタイムチャートを示す。第1モータ21は、第1テンションリール2(圧延機1の入側に位置するテンションリール)を駆動する。横軸は、経過時間を示す。縦軸は、第1モータ21のトルク指令値を示す。この値は、トルク指令値の最大値が100のとき、この最大値に対して何%であるかを示す値(相対値)である。圧延制御装置30は、第1モータ21のトルク指令値を第1モータ駆動部22へ送る。第1モータ駆動部22は、このトルク指令値に従って第1モータ21を駆動する。
【0050】
タイムチャートA6は、第1テンションリール2の実張力のタイムチャートを示す。この実張力は、第1張力計6によって計測された、圧延材WKに作用する張力である。横軸は、経過時間を示す。縦軸は、張力を示す。この値は、張力の最大値が100のとき、この最大値に対して何%であるかを示す値(相対値)である。
【0051】
時刻t1は、圧延制御装置30にミル起動を命令する入力がされた時刻である。時刻t1より前は、ミルモータ25の停止期間(加速期間の開始前)である。時刻t1から加速期間が開始する。図2では加速期間の途中まで示されている。タイムチャートA0を参照して、圧延制御装置30は、時刻t1で、回転速度指令値V1について、0から目標回転速度まで上昇させる処理を開始する。回転速度指令値V1は、加速期間中、時間の経過に従って徐々に大きくなる。タイムチャートA1を参照して、比較形態は、ミル起動補償器303を備えないので、加速期間を含む全ての期間で補償値V2はゼロとしている。
【0052】
タイムチャートA3およびタイムチャートA5を参照して、上記処理の開始(時刻t1)と同期して、圧延制御装置30は、第2モータ23のトルク指令値を上げ、第1モータ21のトルク指令値を下げる。
【0053】
タイムチャートA2を参照して、時刻t1より遅い時刻t2で、ミルモータ25の回転が開始する。すなわち、加速期間の開始から遅れてミルモータ25の回転が開始する。
【0054】
ミルモータ25の回転が開始する時刻は、時刻t1より遅れた時刻t2である。時刻t1~時刻t2の期間では、ミルモータ25の回転速度指令値V1は、徐々に大きくなっているが、ミルモータ25は停止したままである。ミルモータ25が停止しているとき、一対ワークロール11-1,11-2と圧延材WKには静摩擦力が作用し、ミルモータ25が回転しているとき、一対のワークロール11-1,11-2と圧延材WKには動摩擦力が作用する。静摩擦力は動摩擦力より大きいので、回転速度指令値V1が小さいとき、ミルモータ25の駆動力は、静摩擦力に抗することができず、ミルモータ25は回転を開始することができない。これが原因で、ミルモータ25の回転の開始が遅れると考えられる。
【0055】
時刻t2でミルモータ25の回転が開始することにより、ミルモータ25の回転速度指令値V1の上昇に追従して、ミルモータ25の回転速度vが上昇する。
【0056】
時刻t1~時刻t2の期間、ミルモータ25は回転していないので、圧延材WKは矢印A方向に送られていない。従って、この期間、第2テンションリール3の実張力が大きくなり(タイムチャートA4)、かつ、第1テンションリール2に実張力が小さくなる(タイムチャートA6)。従って、時刻t1~時刻t2の期間は、これの前の期間と比べて、圧延材WKの長手方向に沿って圧延材WKに作用する張力が変動し、圧延機1の出側では圧延材WKに作用する張力が大きくなり、圧延機1の入側では圧延材WKに作用する張力が小さくなる。
【0057】
この張力が大きくなることが原因で圧延材WKの張力変動や板切れが発生することがある。特に、圧延材WKが薄い場合、張力変動や板切れが発生し易い。詳しく説明する。圧延材WKが厚いとき、第1テンションリール2および第2テンションリール3が圧延材WKに付与するトルクが大きくされている。圧延材WKに付与されるトルクがもともと大きいので、時刻t1~時刻t2の期間に、圧延材WKに作用する張力が大きくなっても、この影響は小さく、圧延材WKが張力変動や板切れすることはない。
【0058】
これに対して、圧延材WKが薄いとき、第1テンションリール2および第2テンションリール3が圧延材WKに付与するトルクが小さくされている。このため、時刻t1~時刻t2の期間に、圧延材WKに作用する張力が大きくなると、この影響を大きく受けて、圧延材WKが張力変動や板切れすることがある。
【0059】
実施形態によれば、加速期間の開始からミルモータ25の回転を開始させることができる。これを図1および図3を用いて説明する。図3は、実施形態において、ミルモータ25の回転速度指令値V1、補償値V2、ミルモータ25の回転速度v、第2モータ23のトルク指令値、第2テンションリール3の実張力、第1モータ21のトルク指令値、第1テンションリール2の実張力のそれぞれのタイムチャートを示す図である。これは、加速期間T1の開始前、加速期間T1、加速期間T1の終了後のタイムチャートである。第1テンションリール2が圧延機1の入側に位置し、第2テンションリール3が圧延機1の出側に位置し、圧延材WKが矢印A方向に送られるとする。
【0060】
図3には、7つのタイムチャートB0~B6が示されている。図3に示す時刻t1と時刻t2は、図2に示す時刻t1と時刻t2と同じである。時刻t3は、加速期間T1が終了する時刻である。時刻t1~時刻t3が加速期間T1となる。加速期間T1は、予め調べられており、圧延制御装置30に加速期間T1の値が予め記憶されている。
【0061】
タイムチャートB0は、タイムチャートA0と同様に、自動速度調節器301に入力するミルモータ25の回転速度指令値V1のタイムチャートを示す。横軸および縦軸は、タイムチャートA0の横軸および縦軸と同じである。加速期間T1の終了後、ミルモータ25の回転速度指令値V1は一定となる。
【0062】
タイムチャートB1は、タイムチャートA1と同様に、ミル起動補償器303が出力する補償値V2のタイムチャートを示す。横軸および縦軸は、タイムチャートA1の横軸および縦軸と同じである。ミル起動補償器303は、加速期間T1の全期間で、0より大きい所定値(所定値は電流値である)を補償値V2として出力し、加速期間T1の開始前および終了後、補償値V2として0を出力する。
【0063】
ミル起動補償器303が上記所定値を補償値V2として出力する期間が、ミルモータ25の回転速度指令値V1の上昇にミルモータ25の回転速度vを追従させるための補償を実行する補償期間T2となる。実施形態では、補償期間T2が加速期間T1と一致している。ミル起動補償器303は、補償期間T2において、補償値V2(補償の大きさ)を一定にしている。
【0064】
タイムチャートB2は、タイムチャートA2と同様に、速度検出器27が検出したミルモータ25の回転速度vのタイムチャートを示す。横軸および縦軸は、タイムチャートA2の横軸および縦軸と同じである。加速期間T1中の補償値V2により、時刻t1でミルモータ25の回転を開始させることができるので、時刻t1から、ミルモータ25の回転速度vは、ミルモータ25の回転速度指令値V1の上昇に追従させることができる。
【0065】
タイムチャートB3は、タイムチャートA3と同様に、第2モータ23のトルク指令値のタイムチャートを示す。横軸および縦軸は、タイムチャートA3の横軸および縦軸と同じである。圧延制御装置30は、加速期間T1が終了すると(時刻t3)、第2モータ23のトルク指令値を下げる。
【0066】
タイムチャートB4は、タイムチャートA4と同様に、第2テンションリール3の実張力のタイムチャートと示す。横軸および縦軸は、タイムチャートA4の横軸および縦軸と同じである。
【0067】
タイムチャートB5は、タイムチャートA5と同様に、第1モータ21のトルク指令値のタイムチャートを示す。横軸および縦軸は、タイムチャートA5の横軸および縦軸と同じである。圧延制御装置30は、加速期間T1が終了すると(時刻t3)、第1モータ21のトルク指令値を上げる。
【0068】
タイムチャートB6は、タイムチャートA6と同様に、第1テンションリール2の実張力のタイムチャートと示す。横軸および縦軸は、タイムチャートA6の横軸および縦軸と同じである。
【0069】
実施形態によれば、加速期間T1が開始したとき(時刻t1)、ミルモータ25の回転を開始させることができる(時刻t1)。よって、ミルモータ25の回転が開始するタイミングが、第2モータ23のトルク指令値が上がるタイミングおよび第1モータ21のトルク指令値が下がるタイミングと一致させることができ(時刻t1)、かつ、ミルモータ25の回転を加速から等速するタイミングが、第2モータ23のトルク指令値が下がるタイミングおよび第1モータ21のトルク指令値が上がるタイミングと一致させることができる(時刻t3)。この結果、第1テンションリール2の実張力および第2テンションリール3の実張力は、加速期間T1の開始前、加速期間T1、加速期間T1の終了後において、大きく変動することなく、ほぼ一定にすることができる。
【0070】
以上より、実施形態によれば、加速期間T1中に、圧延材WKの張力変動や板切れを防止することができる。
【0071】
図4は、実施形態によるミルモータ25の加速制御を説明するフローチャートの前半である。図5は、同後半である。図1図4および図5を用いて、この加速制御を説明する。図1および図4を参照して、ミルモータ25は、停止している(S1)。圧延制御装置30は、ミル起動を命令する入力がされたか否か判断する(S2)。圧延制御装置30は、ミル起動を命令する入力がされていないと判断したとき(S2でNo)、処理S2を繰り返す。
【0072】
圧延制御装置30は、ミル起動を命令する入力がされたと判断したとき(S2でYes)、ミルモータ25の回転速度指令値V1を、0から目標回転速度まで上昇させる処理(以下、上昇処理)を開始し、かつ、圧延制御装置30に備えられるタイマー(不図示)をスタートさせて、加速期間T1の計測を開始する(S3、図3の時刻t1)。
【0073】
圧延制御装置30は、上昇処理の開始と同期させて、第2モータ23のトルク指令値を上げ、かつ、第1モータ21のトルク指令値を下げる(S4、時刻t1)。ミル起動補償器303は、上昇処理の開始と同期させて、補償値V2を0から所定値に切り換える処理をする(S5、時刻t1)。
【0074】
図1および図5を参照して、圧延制御装置30は、上記タイマーが計測した時間が加速期間T1の終了に到達したか否かを判断する(S6)。圧延制御装置30は、上記タイマーが計測した時間が加速期間T1の終了に到達していないと判断したとき(S6でNo)、圧延制御装置30は、ミルモータ25の回転速度指令値V1を、目標回転速度まで上昇させる処理を継続する(S7)。そして、圧延制御装置30は、処理S6をする。
【0075】
圧延制御装置30は、上記タイマーが計測した時間が加速期間T1の終了に到達していると判断したとき(S6でYes)、圧延制御装置30は、ミルモータ25の回転速度指令値V1を目標回転速度に固定する処理(固定処理)を開始する(S8、図3の時刻t3)。
【0076】
圧延制御装置30は、固定処理の開始と同期させて、第2モータ23のトルク指令値を下げ、かつ、第1モータ21のトルク指令値を上げる(S9、時刻t3)。ミル起動補償器303は、固定処理の開始と同期させて、補償値V2を所定値から0に切り換える処理をする(S10、時刻t3)。
【0077】
実施形態の変形例について説明する。ミルモータ25が停止状態から回転し始めると、一対のワークロール11-1,11-2と圧延材WKに作用する摩擦力は、静摩擦力から動摩擦力に変わるので、摩擦力が小さくなる。よって、少なくとも加速期間T1の開始時を補償期間T2にすれば、加速期間T1の開始から、ミルモータ25の回転を開始させることができると考えられる。図3では、補償期間T2と加速期間T1とが一致しているが、これに限定されない。補償期間T2は、少なくとも加速期間T1の開始時(時刻t1)を含めばよく、加速期間T1より短くてもよい。
【0078】
図3では、補償期間T2中の補償値V2は、一定であるが、これに限定されない。上述したように、ミルモータ25が停止状態から回転し始めると、摩擦力が小さくなるので、加速期間T1の開始時に補償値V2を大きくし、その後、補償値V2を下げてもよい。補償値V2は、階段状に下げてもよいし、徐々に下げてもよい。すなわち、補償期間T2の開始から終了に向かうに従って補償値V2(補償の大きさ)を下げてもよい。
【0079】
図1を参照して、実施形態では、圧延材WKに張力を付与する装置として、テンションリール(第1テンションリール2、第2テンションリール3)を用いているが、これに限定されず、例えば、ブライドルロールでもよい。
【符号の説明】
【0080】
1 圧延機
2 第1テンションリール
3 第2テンションリール
21 第1モータ
22 第1モータ駆動部
23 第2モータ
24 第2モータ駆動部
25 ミルモータ
26 ミルモータ駆動部
27 速度検出器
30 圧延制御装置
100 圧延システム
301 自動速度調節器
302 自動電流調節器
303 ミル起動補償器
A 圧延材が送られる方向
D1,D2 偏差
I ミルモータへ供給されている電流の電流値
S1 速度制御信号
S2 電流制御信号
T1 加速期間
T2 補償期間
V1 ミルモータの回転速度指令値
V2 補償値
v ミルモータの回転速度
WK 圧延材
図1
図2
図3
図4
図5