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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-07
(45)【発行日】2023-02-15
(54)【発明の名称】電磁誘導加熱装置
(51)【国際特許分類】
   H05B 6/12 20060101AFI20230208BHJP
【FI】
H05B6/12 323
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019089883
(22)【出願日】2019-05-10
(65)【公開番号】P2020187854
(43)【公開日】2020-11-19
【審査請求日】2022-02-02
(73)【特許権者】
【識別番号】399048917
【氏名又は名称】日立グローバルライフソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】庄司 浩幸
【審査官】吉澤 伸幸
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/039166(WO,A1)
【文献】実開昭61-036986(JP,U)
【文献】特開2015-164108(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05B 6/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被加熱物を誘導加熱する加熱コイルと、
2個のスイッチング素子の直列体である第一の上下アームと、
2個のスイッチング素子の直列体である第二の上下アームと、
直流電圧を交流電圧に変換して前記加熱コイルに供給するインバータ回路と、
を備えた電磁誘導加熱装置であって、
前記インバータ回路は、
前記第一の上下アームのスイッチング素子を駆動することで、ハーフブリッジ方式インバータとして動作する第一のインバータ回路と、
前記第二の上下アームのスイッチング素子を駆動することで、ハーフブリッジ方式インバータとして動作する第二のインバータ回路と、
前記第一、第二の上下アームのスイッチング素子を駆動することで、フルブリッジ方式インバータとして動作する第三のインバータ回路と、
で構成されており、
前記第一のインバータ回路の出力端子と直流電源の正電極もしくは負電極又は正負電極の間には、第一の加熱コイルと第一の共振コンデンサの直列体、前記第一の加熱コイルとの共振コンデンサと第の共振コンデンサの直列体が接続され、
前記第二のインバータ回路の出力端子と直流電源の正電極もしくは負電極又は正負電極の間には、第二の加熱コイルと前記第の共振コンデンサの直列体、前記第二の加熱コイルと前記第の共振コンデンサと前記第の共振コンデンサの直列体が接続され、
前記第三のインバータ回路の出力端子間には、前記第一の加熱コイルと前記第三の共振コンデンサと前記第二の加熱コイルの直列体が接続されており、
前記第一の加熱コイルと前記第二の加熱コイルの近接部での電位差が前記直流電圧の電圧以下であり、
前記第一の共振コンデンサと前記第二の共振コンデンサは、前記第三の共振コンデンサよりも容量が小さいことを特徴とする電磁誘導加熱装置。
【請求項2】
請求項1に記載の電磁誘導加熱装置において、
前記第一の加熱コイルが内側、前記第二の加熱コイルが外側となるように、両加熱コイルが同心円状に設置され、
前記第一の上下アームの出力端子が前記第一の加熱コイルの外周側に接続されるとともに、前記第二の上下アームの出力端子が前記第二の加熱コイルの内周側に接続されることを特徴とする電磁誘導加熱装置。
【請求項3】
請求項1に記載の電磁誘導加熱装置において、
前記第一の加熱コイルが右側、前記第二の加熱コイルが左側となるように、両加熱コイルが隣接して設置され、
前記第一の上下アームの出力端子が前記第一の加熱コイルの外周側に接続されるとともに、前記第二の上下アームの出力端子が前記第二の加熱コイルの外周側に接続されることを特徴とする電磁誘導加熱装置。
【請求項4】
請求項1から請求項3の何れか一項に記載の電磁誘導加熱装置において、
前記被加熱物が磁性体である場合、前記第三のインバータ回路は、前記第一の加熱コイルと前記第二の加熱コイルに高周波電流を供給して、前記被加熱物を加熱することを特徴とする電磁誘導加熱装置。
【請求項5】
請求項に記載の電磁誘導加熱装置において、
前記第三のインバータ回路は、前記第一の上下アームと前記第二の上下アームのスイッチング周波数を制御することで、前記高周波電流の大きさを制御することを特徴とする電磁誘導加熱装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、異なる材質の被加熱物に対し所望の電力を供給して誘導加熱を行うインバータ方式の電磁誘導加熱装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、火を使わずに鍋などの被加熱物を加熱するインバータ方式の電磁誘導加熱装置が広く用いられるようになってきている。電磁誘導加熱装置は、加熱コイルに高周波電流を流し、加熱コイルに近接して配置された金属製の被加熱物に渦電流を発生させ、被加熱物自体の電気抵抗により発熱させるものである。一般的に、被加熱物が固有抵抗の大きい鉄等の磁性体である場合は加熱し易く、固有抵抗の小さい銅やアルミ等の非磁性体である場合は加熱し難い。
【0003】
被加熱物が磁性体と非磁性体の何れであっても適切に加熱できる従来例として、特許文献1に開示される電磁誘導加熱装置がある。この特許文献の電磁誘導加熱装置は、調理鍋が磁性鍋か非磁性鍋かを判別し、その判別結果に応じてリレー(同文献の図1、符号20)を切り替えることで、高周波インバータの回路方式を、非磁性鍋の加熱時にはハーフブリッジ方式に、磁性鍋の加熱時にはフルブリッジ方式に変更すると共に、共振コンデンサの容量も同時に切り替え、異なる材質の被加熱物を誘導加熱するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第4909968号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1では、高抵抗の磁性鍋を加熱する場合には、高周波インバータの回路方式と共振コンデンサの容量を切り替えるスイッチ(リレー)をオン状態にし、インバータをフルブリッジ回路方式に切り替えると共に、第一の共振コンデンサ(同文献の図1、符号12)と第二の共振コンデンサ(同、符号15)および第三の共振コンデンサ(同、符号13)を利用して磁性鍋を誘導加熱する。
【0006】
一方、低抵抗の非磁性鍋を加熱する場合には、スイッチ(リレー)をオフ状態にし、インバータをハーフブリッジ回路方式に切り替えると共に、容量の大きい第三の共振コンデンサを完全に切り離し、容量の小さい第一の共振コンデンサと第二の共振コンデンサを利用して非磁性鍋を誘導加熱する。
【0007】
このように、高周波インバータの回路方式と共振コンデンサの容量を切り替えるためにスイッチ(リレー)が必要となり、小型化の妨げになっていた。
【0008】
本発明の目的は、上記の課題に対処することであり、特に、インバータ方式や共振コンデンサを切り替えるためのスイッチ(リレー)を用いることなく、異なる材質の被加熱物に対して所望の電力を効率良く供給できるインバータ方式の電磁誘導加熱装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を達成するために、本発明の電磁誘導加熱装置は、被加熱物を誘導加熱する加熱コイルと、2個のスイッチング素子の直列体である第一の上下アームと、2個のスイッチング素子の直列体である第二の上下アームと、直流電圧を交流電圧に変換して前記加熱コイルに供給するインバータ回路と、を備えたものであって、前記インバータ回路は、前記第一の上下アームのスイッチング素子を駆動することで、ハーフブリッジ方式インバータとして動作する第一のインバータ回路と、前記第二の上下アームのスイッチング素子を駆動することで、ハーフブリッジ方式インバータとして動作する第二のインバータ回路と、前記第一、第二の上下アームのスイッチング素子を駆動することで、フルブリッジ方式インバータとして動作する第三のインバータ回路と、で構成されており、前記第一のインバータ回路の出力端子と直流電源の正電極もしくは負電極又は正負電極の間には、第一の加熱コイルと第一の共振コンデンサの直列体、前記第一の加熱コイルとの共振コンデンサと第の共振コンデンサの直列体が接続され、前記第二のインバータ回路の出力端子と直流電源の正電極もしくは負電極又は正負電極の間には、第二の加熱コイルと前記第の共振コンデンサの直列体、前記第二の加熱コイルと前記第の共振コンデンサと前記第の共振コンデンサの直列体が接続され、前記第三のインバータ回路の出力端子間には、前記第一の加熱コイルと前記第三の共振コンデンサと前記第二の加熱コイルの直列体が接続されており、前記第一の加熱コイルと前記第二の加熱コイルの近接部での電位差が前記直流電圧の電圧以下であり、前記第一の共振コンデンサと前記第二の共振コンデンサは、前記第三の共振コンデンサよりも容量が小さいものとした。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、インバータ方式や共振コンデンサを切り替えるためのスイッチ(リレー)を用いることなく、異なる材質の被加熱物対して所望の電力を効率良く供給することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施例1の電磁誘導加熱装置の回路構成図。
図2】実施例1の磁性体加熱時の動作波形。
図3】実施例1の磁性体加熱時のスイッチング周波数とコイル電流の関係図。
図4】実施例1の非磁性体加熱時の動作波形。
図5】実施例1の非磁性体加熱時のスイッチング素子のオン時間とコイル電流の関係図。
図6】実施例1の磁性体加熱時の加熱コイルと上下アームの接続図。
図7】実施例1の非磁性体加熱時の加熱コイルと上下アームの接続図。
図8】実施例2の磁性体加熱時の加熱コイルと上下アームの接続図。
図9】実施例2の非磁性体加熱時の加熱コイルと上下アームの接続図。
図10】実施例3の電磁誘導加熱装置の回路構成図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施例について、図面を用いながら説明する。なお、各図において、符号が同一のものは同一の構成要件あるいは類似の機能を備えた構成要件を示しており、適宜重複説明を省略している。
【実施例1】
【0013】
図1は実施例1の電磁誘導加熱装置の回路構成図である。なお、本実施例の電磁誘導加熱装置は、金属筐体の上部に耐熱ガラス製のトッププレートを設置し、トッププレートの下方に配置した加熱コイルに高周波電流を供給することで、トッププレート上面の所定位置に載置した金属製の被加熱物を誘導加熱するものであるが、以下ではこのような周知構成の説明は省略する。
【0014】
図1において、直流電源1は、図示しない商用交流電源から供給される交流電圧を整流し直流電圧を出力する電源である。この直流電源1の正電極と負電極間には、パワー半導体スイッチング素子(以下、単に「スイッチング素子」と称する)5aと5bが直列に接続された第一の上下アーム3と、スイッチング素子5cと5dが直列に接続された第二の上下アーム4が接続されている。
【0015】
スイッチング素子5a~5dのそれぞれにはダイオード6a~6dが逆方向に並列接続されており、また、スイッチング素子5a~5dのそれぞれにはスナバコンデンサ7a~7dが並列に接続されている。このスナバコンデンサ7a~7dは、スイッチング素子5a~5dのターンオフ時の遮断電流によって充電あるいは放電され、各スイッチング素子に印加される電圧の変化が低減することによりターンオフ損失を抑制するものである。
【0016】
第一の上下アーム3の出力端子Aには、第一の加熱コイル11の一端が接続されており、第一の加熱コイル11の他端Bと直流電源1の負電極間には第一の共振コンデンサ12が接続されている。
【0017】
同様に、第二の上下アーム4の出力端子Cには、第二の加熱コイル14の一端が接続されており、第二の加熱コイル14の他端Dと直流電源1の負電極間には第二の共振コンデンサ15が接続されている。
【0018】
また、第一の加熱コイル11の他端Bと第二の加熱コイル14の他端Dの間には、第三の共振コンデンサ13が接続されている。
【0019】
ここで、加熱コイル11、14と被加熱物である金属製鍋(図示せず)は磁気的に結合するため、金属製鍋を加熱コイル11、14側からみた等価回路に変換すると、金属製鍋の等価抵抗と等価インダクタンスが直列に接続された構成になる。等価抵抗及び等価インダクタンスは、金属製鍋の材質によって異なり、低抵抗の非磁性体の場合は、等価抵抗及び等価インダクタンスのどちらも小さくなり、高抵抗の磁性体の場合は、どちらも大きくなる。
【0020】
本実施例の電磁誘導加熱装置では、被加熱物の材質や設定火力に応じて第一の上下アーム3と第二の上下アーム4の駆動方法を変更することにより被加熱物を加熱する。以下では、鉄に代表される磁性体加熱時と、アルミに代表される非磁性体加熱時の制御の違いを説明する。
<磁性体加熱時の制御>
まず、図2図3を用いて、磁性体加熱時の制御を説明する。
【0021】
図2は、被加熱物が鉄鍋等の磁性体の場合の動作波形である。波形はスイッチング素子5a~5dのゲート駆動信号vg(5a)~vg(5d)、加熱コイル11、14の電流i(11)、i(14)、共振コンデンサ12、15の電流i(12)、i(15)、共振コンデンサ13の電圧v(13)、上下アーム3、4の各素子の電流i(5a)~i(5d)、i(6a)~i(6d)である。なお、加熱コイル11、14に流れる電流i(11)、i(14)の向きは、図1に示す一点鎖線の矢印方向を正方向としている。
【0022】
本実施例では、被加熱物が鉄鍋等の磁性体の場合は、フルブリッジ回路方式のインバータ回路を用いて金属製鍋を誘導加熱する。具体的には、図2に示すように第一の上下アーム3の上アーム5aと第二の上下アーム4の下アーム5dをほぼ同時にオンオフし、第一の上下アーム3の下アーム5bと第二の上下アーム4の上アーム5cをほぼ同時にオンオフする。これにより、上下アーム3と上下アーム4と第一の加熱コイル11と第三の共振コンデンサ13と第二の加熱コイル14の直列共振負荷回路から構成されるフルブリッジ回路方式のインバータ回路として機能する。スイッチング素子5a~5dはダイオード6a~6dに電流が流れている期間にターンオンさせることが出来ており、スイッチング損失の少ないソフトスイッチング動作が可能となる。
【0023】
前述のように、高抵抗の磁性体は等価抵抗が大きいため共振負荷回路には電流が流れ難い。従って、フルブリッジ回路方式に変更することによりインバータ回路の出力電圧をハーフブリッジ回路方式の2倍に高め所望の出力を得ることができる。被加熱物が鉄の場合は元々抵抗が大きいため、約20kHzの周波数で第一の上下アーム3、第二の上下アーム4を駆動する。このため、第三の共振コンデンサ13の容量は、約20kHzの駆動周波数に合わせて設定する。図2より第一の共振コンデンサ12と第二の共振コンデンサ15にも電流i(12、15)が僅かに流れているが、第一と第二の共振コンデンサ12、15の容量を第三の共振コンデンサ13の容量よりも十分に小さい値に設定しているからである。詳細については後述する。
【0024】
図3は、磁性体加熱時におけるスイッチング周波数と加熱コイル11、14の電流i(11)、i(14)の関係を示している。前述のように、高抵抗の磁性体は等価抵抗が大きいため、スイッチング周波数の変化に対する電流変化の割合が小さく、インバータ回路の周波数制御によって容易に加熱コイル電流を制御できる。
<非磁性体加熱時の制御>
次に、図4図5を用いて、非磁性体加熱時の制御を説明する。
【0025】
図4は、被加熱物がアルミ鍋等の非磁性体の場合の動作波形である。なお、図4のvg(5a)等の意味は図2と同等である。
【0026】
本実施例では、被加熱物が銅鍋やアルミ鍋等の非磁性体の場合は、主にハーフブリッジ回路方式のインバータ回路を用いて金属製鍋を誘導加熱する。具体的には、第一の上下アーム3と第二の上下アームの上アーム同士(スイッチング素子5a、5c)がオンしている期間と下アーム同士(スイッチング素子5b、5d)がオンしている期間を設ける。これにより、第一の上下アーム3と、第一の加熱コイル11および第一の共振コンデンサ12~第三の共振コンデンサ13の合成容量から構成される変形ハーフブリッジのSEPP(Single Ended Push-Pull)方式インバータ回路と、第二の上下アーム4と、第二の加熱コイル14および第一の共振コンデンサ12~第三の共振コンデンサ13の合成容量から構成されるSEPP(Single Ended Push-Pull)方式インバータ回路として機能する。
【0027】
また、本実施例では、図4に示すように、第一の上下アーム3の上アーム(スイッチング素子5a)と第二の上下アーム4の下アーム(スイッチング素子5d)が同時にオンしている期間が生じているが、スイッチング素子5a~5dはダイオード6a~6dに電流が流れている期間にターンオンしソフトスイッチング動作を実現しているため動作上問題はない。このため、本実施例では、スイッチング制御の1周期に占めるスイッチング素子5aのオン時間の割合(以下、オン時間duty)と、スイッチング素子5cのオン時間dutyを異なるものにすることができる。
【0028】
前述のように、低抵抗の非磁性体は等価抵抗が小さいため所望の出力を得るには大きな電流を流す必要がある。被加熱物の表皮抵抗は周波数の平方根に比例する特徴があり、銅又はアルミなどの低抵抗の被加熱物を加熱する場合には、周波数を高くすることが有効である。従って、上下アーム3、4を例えば約90kHzの周波数で駆動できるように第一、第二の共振コンデンサ12、15の容量を設定することになり、第三の共振コンデンサ13の容量よりも十分に小さい値になる。したがって、第一の共振コンデンサ12と第二の共振コンデンサ15の電圧は図4に示すように、ほぼ同じ大きさとなる。前述の磁性体加熱時に第一の共振コンデンサ12と第二の共振コンデンサ15に僅かに電流i(12)、i(15)が流れた理由は、第三の共振コンデンサ13に対して容量が大きく異なるからである。
【0029】
図5は非磁性体加熱時におけるスイッチング素子5a、5cのオン時間dutyと加熱コイル11、14の電流i(11)、i(14)の関係を示している。ここでは、スイッチング素子5aと5cを同時刻にターンオンし同じオン時間dutyで動作した場合の一例である。前述のように、低抵抗の非磁性体は等価抵抗が小さいため、周波数変化に対する電流変化の割合が大きく制御が難しい。そこで、非磁性体加熱の場合はオン時間dutyを可変することによって加熱コイル電流を制御する。
<電磁誘導加熱装置内での第一、第二の加熱コイルの配置>
以上で説明した制御を被加熱物の種別に応じて使い分けることで、電磁誘導加熱装置は、磁性体加熱時も非磁性体加熱時も、設定火力の実現に必要な所望の電力を被加熱物に供給することができる。一方で、省電力化のためには、各加熱コイルの巻数をより多く確保し、所望の火力を実現する際の加熱コイル電流を低減することも求められる。しかしながら、1つの被加熱物の加熱に2つ以上の加熱コイルを用いる電磁誘導加熱装置では、両加熱コイル間には高い共振電圧が発生することもあるため、加熱コイル間には十分な絶縁距離を確保する必要があった。
【0030】
このため、1つの被加熱物の加熱に2つ以上の加熱コイルを用いる従来の電磁誘導加熱装置では、規格によって定まる寸法の金属筐体内に全加熱コイルを収納することを優先すると、巻数の少ない小さな加熱コイルを利用しなければならず、省電力の実現が困難であった。一方で、省電力化を優先すると、巻数の多い大きな加熱コイルを複数収納するためにより大きな金属筐体を利用しなければならず、金属筐体の寸法を規格サイズ以下に収めることが困難であった。そこで、以下では、各加熱コイルの巻数を増やしつつ、金属筐体の寸法も抑制できる、加熱コイル配置を図6図7を用いて説明する。
【0031】
図6は、図1に示した第一、第二の加熱コイル11、14と第一、第二の上下アーム3、4の接続を、第一、第二の加熱コイル11、14の具体的な配置とともに示した構成図である。ここに示すように、同心円状に巻回した第一の加熱コイル11と第二の加熱コイル14は、第一の加熱コイル11を内側に、第二の加熱コイル14を外側に配置している。このように加熱コイルを配置した場合、第一の加熱コイル11の外周部と第二の加熱コイル14の内周部の間には、上述した絶縁距離を確保する必要があるが、両加熱コイル間の隙間を狭くすることができれば、各加熱コイルの巻数をより多く確保することを可能となる。
【0032】
そこで、図6に示すように、上下アーム3の出力端子Aを第一の加熱コイル11の外周部に接続し、上下アーム4の出力端子Cを第二の加熱コイル14の内周部に接続した。これにより、磁性体の加熱時には、上下アーム3の出力端子Aと上下アーム4の出力端子Cとの間には最大でも直流電源1の電圧という比較的低い電圧しか印加されないため、第一の加熱コイル11と第二の加熱コイルの対向部では何れの位置でも近接部の電位差が直流電源1の電圧以下となり、両加熱コイル間の隙間を狭くしても、十分な絶縁距離を確保することが可能である。
【0033】
なお、図6のように、第一の加熱コイル11を外周から内周に向かって右巻に巻回し、第二の加熱コイル14を内周から外周に向かって右巻に巻回すると、磁性体をフルブリッジ回路方式で加熱する場合には、第一の加熱コイル11の電流i(11)と第二の加熱コイル14の電流i(14)は、逆位相となり両加熱コイル間で磁束のキャンセルが懸念されるが、磁性体加熱においては各加熱コイルが発生する磁束が鍋に鎖交するため渦電流の発生に大きな影響はない。
【0034】
一方、非磁性体をハーフブリッジ回路方式で加熱する場合は、図7の一点鎖線の矢印に示すように、第一の加熱コイル11の電流i(11)と第二の加熱コイル14の電流i(14)は同位相となり磁束のキャンセルはない。そのため、非磁性体加熱時においては2つの加熱コイルが作る磁束によって、鍋にはその磁束を打ち消す方向に大きな渦電流が流れ所望の発熱量を得ることができる。非磁性体加熱時は、第一の上下アーム3の出力端子Aと第二の上下アーム4の出力端子Cの電圧は同電位となるため、第一の加熱コイル11と第二の加熱コイルとの隙間はフルブリッジ回路方式における電位差を考慮して絶縁距離を確保すれば良い。尚、各加熱コイルの巻回方向については、各々逆方向にしても同様の動作となる。
【0035】
以上で説明したように、本実施例の電磁誘導加熱装置によれば、第一の加熱コイルと第二の加熱コイルの近接部の電位差が直流電圧の電圧以下となるような回路構成とすることで、両加熱コイル間の絶縁距離を狭くし、絶縁距離を狭くした分だけ各加熱コイルの巻数を増やすことができる。また、異なる材質の被加熱物対を加熱するために用意された複数のインバータ回路を、スイッチ(リレー)を用いることなく切り替え、何れの材質の被加熱物であっても所望の電力を効率良く供給することができる。
【実施例2】
【0036】
次に、図8図9を用いて、本発明の実施例2に係る電磁誘導加熱装置を説明する。なお、実施例1との共通点は重複説明を省略する。
【0037】
図8は、実施例2の第一、第二の加熱コイル11、14と第一、第二の上下アーム3、4の接続構成図である。ここでは、半月状に巻回した第一の加熱コイル11と第二の加熱コイル14と各上下アームとの接続方法を示している。
【0038】
本実施例では、第一の加熱コイル11を右側に、第二の加熱コイル14を左側に配置している。本実施例のように加熱コイルを配置した場合も、第一の加熱コイル11の直線部の最外周と第二の加熱コイル14の直線部の最外周との隙間(絶縁距離)を狭くできれば、その分、各加熱コイルの巻数をより多く確保することを可能となる。
【0039】
そこで、本実施例では、上下アーム3の出力端子Aを第一の加熱コイル11の外周部に、上下アーム4の出力端子Cを第二の加熱コイル14の外周部に接続している。これにより、上下アーム3の出力端子Aと上下アーム4の出力端子Cとの間には最大でも直流電源1の電圧しか印加されないため、第一の加熱コイル11の直線部の最外周と第二の加熱コイルの直線部の最外周との隙間を狭くすることが可能である。
【0040】
なお、図8のように、第一の加熱コイル11を外周から内周に向かって左巻に巻回し、第二の加熱コイル14を外周から内周に向かって右巻に巻回すると、磁性体をフルブリッジ回路方式で加熱する場合は、図8の一点鎖線の矢印に示すように、各加熱コイルの直線部における第一の加熱コイル11の電流i(11)と第二の加熱コイル14の電流i(14)は逆位相となり磁束のキャンセルが懸念されるが、磁性体加熱においては各加熱コイルが発生する磁束が鍋に鎖交するため渦電流の発生に大きな影響はない。
【0041】
一方、非磁性体をハーフブリッジ回路方式で加熱する場合は、図9の一点鎖線の矢印に示すように、各加熱コイルの直線部における第一の加熱コイル11の電流i(11)と第二の加熱コイル14の電流i(14)は同位相となり磁束のキャンセルはない。そのため、非磁性体加熱時においては2つの加熱コイルが作る磁束によって、鍋にはその磁束を打ち消す方向に大きな渦電流が流れ所望の発熱量を得ることができる。非磁性体加熱時は、第一の上下アーム3の出力端子Aと第二の上下アーム4の出力端子Cの電圧は同電位となるため、第一の加熱コイル11と第二の加熱コイルとの隙間はフルブリッジ回路方式における電位差を考慮して絶縁距離を確保すれば良い。
【実施例3】
【0042】
図10は実施例3の電磁誘導加熱装置の回路構成図である。図1と同一部分については同一符号を付しており重複説明は省略する。
【0043】
本実施例では、第一の加熱コイル11の他端Bと直流電源1の正負電極間には、第一の共振コンデンサ12a、12bが接続されている。同様に、第二の加熱コイル14の他端Dと直流電源1の正負電極間には第二の共振コンデンサ15a、15bが接続されている。
【0044】
このような回路構成の本実施例では、被加熱物がアルミ鍋等の非磁性体の場合、第一の上下アーム3と、第一の加熱コイル11および第一の共振コンデンサ12a、12b、第二の共振コンデンサ15a、15b、第三の共振コンデンサ13の合成容量から構成されるハーフブリッジ方式のインバータ回路と、第二の上下アーム4と、第二の加熱コイル14および第一の共振コンデンサ12a、12b、第二の共振コンデンサ15a、15b、第三の共振コンデンサ13の合成容量から構成されるハーフブリッジ方式のインバータ回路として機能する。
【0045】
実施例1では、上アームがオンした場合のみ直流電源1から電流が流れるが、本実施例では、下アームがオンした場合においても直流電源1から電流が流れるため、直流電源1のリップル電流を低減することが可能となる。インバータ回路の前段にコンバータが接続されている場合には、インバータ回路とコンバータの間に電解コンデンサやフィルムコンデンサが接続されるため、リップル電流が小さくなることによりコンデンサのサイズを小さくできる。また、コンデンサの内部抵抗による発熱量を低減できるため、信頼性を向上することが可能である。
【符号の説明】
【0046】
1 直流電源、
3 第一の上下アーム、
4 第二の上下アーム、
5a~5d スイッチング素子、
6a~6d ダイオード、
7a~7d スナバコンデンサ、
11 第一の加熱コイル、
14 第二の加熱コイル、
12、12a、12b 第一の共振コンデンサ、
15、15a、15b 第二の共振コンデンサ、
13 第三の共振コンデンサ
図1
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図10