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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-07
(45)【発行日】2023-02-15
(54)【発明の名称】電池パック
(51)【国際特許分類】
   H01M 50/204 20210101AFI20230208BHJP
   H01M 50/24 20210101ALI20230208BHJP
   H01M 50/571 20210101ALI20230208BHJP
   H01M 10/0562 20100101ALI20230208BHJP
【FI】
H01M50/204 401Z
H01M50/204 401D
H01M50/24
H01M50/571
H01M10/0562
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2019108915
(22)【出願日】2019-06-11
(65)【公開番号】P2020202103
(43)【公開日】2020-12-17
【審査請求日】2022-03-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000000158
【氏名又は名称】イビデン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】熊野 圭司
(72)【発明者】
【氏名】苅谷 悟
【審査官】守安 太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-219984(JP,A)
【文献】特開2015-037006(JP,A)
【文献】特開2018-073540(JP,A)
【文献】特開2018-073802(JP,A)
【文献】特開2011-113803(JP,A)
【文献】特開2008-103245(JP,A)
【文献】特開2017-208329(JP,A)
【文献】特開2009-218010(JP,A)
【文献】特開2015-041598(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第111384322(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 50/20
H01M 50/50
H01M 10/05
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
硫化物系固体電解質を用いた電池セルを、電池ケース内に収容した電池パックであって、
前記電池ケースが、前記電池セル及び硫化水素センサーを収容する電池セル収容部と、
硫化水素ガスを吸着可能な吸着材が、包装材で気密に包囲されてなる吸着材収容部と、
を有するとともに、
前記硫化水素センサーが前記硫化水素ガスを検知した際、前記吸着材収容部内の前記吸着材を開放して、前記吸着材と、前記電池セル収容部内に存在する気体とを接触可能にする開放機構を有する、電池パック。
【請求項2】
前記開放機構は、前記包装材を貫通させる貫通機構又は前記包装材を破断させる破断機構を有する、請求項1に記載の電池パック。
【請求項3】
前記電池セル収容部と前記吸着材収容部とは、開閉弁を介して連結されており、
前記開放機構は、前記開閉弁を開閉させる開閉機構を有する、請求項1に記載の電池パック。
【請求項4】
前記吸着材収容部は、前記電池セルよりも鉛直方向下側に配置される、請求項2又は3に記載の電池パック。
【請求項5】
前記吸着材収容部は、前記吸着材収容部内の内圧が高まることで前記吸着材を開放させることが可能な開放口を備えており、
前記開放機構は、前記吸着材収容部内を加圧する加圧機構を有する、請求項1に記載の電池パック。
【請求項6】
前記吸着材は粉末状であるとともに、
前記吸着材収容部は、前記電池セルよりも鉛直方向上側に配置される、請求項5に記載の電池パック。
【請求項7】
前記開放口は、前記電池セルの真上に配置される、請求項6に記載の電池パック。
【請求項8】
前記開放口は、複数個配置される、請求項5~7のいずれか1項に記載の電池パック。
【請求項9】
前記吸着材収容部内は、真空状態又は減圧状態である、請求項1~8のいずれか1項に記載の電池パック。
【請求項10】
前記硫化水素センサーは、外部へ報知するための報知手段に接続されており、
前記硫化水素センサーが前記硫化水素ガスを検知した際、前記外部への報知を行う、請求項1~9のいずれか1項に記載の電池パック。
【請求項11】
前記包装材は、ガス非透過性又はガス難透過性の材料から構成されている、請求項1~10のいずれか1項に記載の電池パック。
【請求項12】
前記包装材は、JIS K 6275-1(2009)又はJIS K 7126-1(2006)に準拠して測定されるガス透過率が、窒素ガス及び酸素ガスに対してともに100cc/cm/mm/秒/cmHg×1010以下であり、かつ、水蒸気に対して10000cc/cm/mm/秒/cmHg×1010以上の材料から構成されている、請求項1~10のいずれか1項に記載の電池パック。
【請求項13】
前記包装材は、塩酸ゴム、ポリアミド、ポリアセタール、酢酸セルロース、ポリブタジエン-アクリロニトリル、ポリスチレン、ポリウレタン、クロロスルフォン化ポリエチレン及びクロロプレンゴムから選択される少なくとも一種から構成される、請求項12に記載の電池パック。
【請求項14】
前記吸着材は、活性炭、ゼオライト、金属ケイ酸塩、シリカゲル、並びに、亜鉛、鉄、ニッケル、スズ、銅及び銀から選択される少なくとも一種の金属、該金属の酸化物及び該金属の水酸化物からなる群から選択される少なくとも一種である、請求項1~13のいずれか1項に記載の電池パック。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硫化物系固体電解質を用いた電池セルを、電池ケース内に収容した電池パックに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境保護の観点から電動モータで駆動する電気自動車又はハイブリッド車などの開発が盛んに進められている。この電気自動車又はハイブリッド車などには、駆動用電動モータの電源となるための、複数の電池セルが直列又は並列に接続された電池パックが搭載されている。
【0003】
また、この電池セルには、鉛蓄電池やニッケル水素電池などに比べて、高容量かつ高出力が可能なリチウムイオン二次電池が主として用いられている。そして、リチウムイオン二次電池の中でも、可燃性の有機溶媒からなる電解液を用いないことから、安全性の高い全固体型リチウムイオン二次電池が注目を集めている。この全固体型リチウムイオン二次電池では、有機溶媒を用いた電解液の代わりに、例えば硫化物系固体電解質が好適に用いられる。
【0004】
しかしながら、この硫化物系固体電解質を有する全固体型リチウムイオン二次電池では、電池外から流入した空気が硫化物系固体電解質と接触すると、空気中の水分により硫化水素ガス(HS)が発生することがある。硫化水素ガスは、電極を腐食させるとともに、毒性が高いため人体への影響も懸念される。
【0005】
そこで、発生した硫化水素ガスを吸着する必要があり、例えば特許文献1では、全固体型リチウムイオン二次電池とともに多孔質吸着材を容器(電池ケース)に収容するとともに、容器内に、硫化水素の分子より大きい分子、例えば、窒素、アルゴン、二酸化炭素などの気体を充填して加圧している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2013-65451号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記特許文献1では、多孔質吸着材に備えられた細孔の大きさの平均が、硫化水素の分子径よりも大きく、容器内に充填された気体の分子径よりも小さいことから、発生した硫化水素ガスを選択的に細孔内に捕獲する吸着機構となっている。しかしながら、多孔質吸着材は、気体が充填された容器内で露出しているとともに、容器内に充填された気体は加圧された状態である。また、多孔質吸着材に備えられた細孔の大きさの平均が、容器内に充填された気体の分子径よりも小さいとはいえ、細孔の孔径にも分布があることから、一部の細孔において、容器内に充填された気体の分子径よりも大きい場合もあるため、多孔質吸着材の細孔が、充填された窒素などの気体により閉塞され、硫化水素ガスの吸着性能が経時的に劣化するおそれがあった。また、多孔質吸着材の種類も、充填される気体の分子径により制限されるという問題があった。
【0008】
本発明はこのような状況に鑑みてなされたものであり、硫化水素ガスに対する吸着性能の経時的な劣化を防ぐとともに、多孔質吸着材の種類の制限がない電池パックを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の目的は、電池パックに係る下記(1)により達成される。
(1) 硫化物系固体電解質を用いた電池セルを、電池ケース内に収容した電池パックであって、
前記電池ケースが、前記電池セル及び硫化水素センサーを収容する電池セル収容部と、
硫化水素ガスを吸着可能な吸着材が、包装材で気密に包囲されてなる吸着材収容部と、
を有するとともに、
前記硫化水素センサーが前記硫化水素ガスを検知した際、前記吸着材収容部内の前記吸着材を開放して、前記吸着材と、前記電池セル収容部内に存在する気体とを接触可能にする開放機構を有する、電池パック。
【0010】
また、電池パックに係る本発明の好ましい実施形態は、下記(2)~(14)のいずれかであることを特徴とする。
(2) 前記開放機構は、前記包装材を貫通させる貫通機構又は前記包装材を破断させる破断機構を有する、上記(1)に記載の電池パック。
(3) 前記電池セル収容部と前記吸着材収容部とは、開閉弁を介して連結されており、
前記開放機構は、前記開閉弁を開閉させる開閉機構を有する、上記(1)に記載の電池パック。
(4) 前記吸着材収容部は、前記電池セルよりも鉛直方向下側に配置される、上記(2)又は(3)に記載の電池パック。
【0011】
(5) 前記吸着材収容部は、前記吸着材収容部内の内圧が高まることで前記吸着材を開放させることが可能な開放口を備えており、
前記開放機構は、前記吸着材収容部内を加圧する加圧機構を有する、上記(1)に記載の電池パック。
(6) 前記吸着材は粉末状であるとともに、
前記吸着材収容部は、前記電池セルよりも鉛直方向上側に配置される、上記(5)に記載の電池パック。
(7) 前記開放口は、前記電池セルの真上に配置される、上記(6)に記載の電池パック。
(8) 前記開放口は、複数個配置される、上記(5)~(7)のいずれか1つに記載の電池パック。
【0012】
(9) 前記吸着材収容部内は、真空状態又は減圧状態である、上記(1)~(8)のいずれか1つに記載の電池パック。
(10) 前記硫化水素センサーは、外部へ報知するための報知手段に接続されており、
前記硫化水素センサーが前記硫化水素ガスを検知した際、前記外部への報知を行う、上記(1)~(9)のいずれか1つに記載の電池パック。
(11) 前記包装材は、ガス非透過性又はガス難透過性の材料から構成されている、上記(1)~(10)のいずれか1つに記載の電池パック。
(12) 前記包装材は、JIS K 6275-1(2009)又はJIS K 7126-1(2006)に準拠して測定されるガス透過率が、窒素ガス及び酸素ガスに対してともに100cc/cm/mm/秒/cmHg×1010以下であり、かつ、水蒸気に対して10000cc/cm/mm/秒/cmHg×1010以上の材料から構成されている、上記(1)~(10)のいずれか1つに記載の電池パック。
(13) 前記包装材は、塩酸ゴム、ポリアミド、ポリアセタール、酢酸セルロース、ポリブタジエン-アクリロニトリル、ポリスチレン、ポリウレタン、クロロスルフォン化ポリエチレン及びクロロプレンゴムから選択される少なくとも一種から構成される、上記(12)に記載の電池パック。
(14) 前記吸着材は、活性炭、ゼオライト、金属ケイ酸塩、シリカゲル、並びに、亜鉛、鉄、ニッケル、スズ、銅及び銀から選択される少なくとも一種の金属、該金属の酸化物及び該金属の水酸化物からなる群から選択される少なくとも一種である、上記(1)~(13)のいずれか1つに記載の電池パック。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る電池パックによれば、硫化水素ガスに対する吸着性能の経時的な劣化を防ぎ、硫化水素ガスが発生した際に十分な吸着性能を発揮することができる。また、硫化水素ガスを吸着可能な吸着材であれば、多孔質吸着材の種類の制限もない。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、本発明に係る電池パックの第1実施形態を模式的に示す図である。
図2図2は、本発明に係る電池パックの第2実施形態を模式的に示す図である。
図3図3は、本発明に係る電池パックの第3実施形態を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
<第1実施形態>
図1は、本発明に係る電池パックの第1実施形態を模式的に示す図である。本実施形態に係る電池パック1は、硫化物系固体電解質を用いた電池セル10を、電池ケース20内に収容したものである。また、電池ケース20は、電池セル10及び硫化水素センサー50を収容する電池セル収容部20Aと、硫化水素ガスを吸着可能な吸着材30が、包装材25で気密に包囲されてなる吸着材収容部20Bとを有する。
【0016】
硫化物系固体電解質を用いた電池セル10は、図示は省略するが、正極と負極とで硫化物系固体電解質を挟み、セル全体を例えばシール部材で気密に包囲したものであり、電池ケース20に収容される。そして、外的要因などにより、電池ケース20、更には電池セル10が損傷し、それに伴ってシール部材が破断して空気中などに含まれる水分が硫化物系固体電解質と接触すると、硫化水素ガスが発生する場合がある。
【0017】
そこで、発生した硫化水素ガスを吸着するために、本実施形態に係る電池パック1は、電池ケース20内に、硫化水素ガスを吸着可能な吸着材30を備えている。さらに、電池パック1は、電池ケース20内に、硫化水素センサー50が硫化水素ガスを検知した際、吸着材収容部20B内の吸着材30を開放して、吸着材30と、電池セル収容部20A内に存在する気体とを接触可能にする開放機構60を備えている。
【0018】
ここで、本発明に係る電池パック1が、上記開放機構60を備える理由を以下に説明する。
【0019】
上述の通り、特許文献1では、多孔質吸着材に備えられた細孔の大きさの平均が、硫化水素の分子径よりも大きく、容器内に充填された気体の分子径よりも小さいことから、発生した硫化水素ガスを選択的に細孔内に捕獲する吸着機構となっているものの、一部の細孔においては、容器内に充填された気体の分子径よりも大きい場合もあるため、多孔質吸着材の細孔が、充填された窒素などの気体により閉塞され、硫化水素ガスの吸着性能が経時的に劣化するおそれがあった。また、多孔質吸着材の種類も、充填される気体の分子径により制限されるという問題があった。
【0020】
そこで、本発明者らは、吸着材30を包装材25で気密に包囲することで、吸着材30外に存在する窒素ガスや酸素ガスなどの気体の侵入を防ぐとともに、電池セル10から硫化水素ガスが発生した際には、硫化水素センサー50で硫化水素ガスを検知し、当該検知に基づき吸着材30を包装材25から開放して、電池セル10から発生した硫化水素ガスと接触可能にする開放機構60を採用することを考えた。そして、このような開放機構60によれば、硫化水素ガスが発生していないときにおいて、電池ケース20内に存在する窒素ガスや酸素ガスが包装材25を透過して、吸着材30の細孔を閉塞してしまうことを抑制できること、また、電池セル10から硫化水素ガスが発生した際には、吸着材30と硫化水素ガスとを接触可能にすることで、効果的に硫化水素ガスを吸着できることを見出した。
【0021】
以下、電池パック1の各構成要素につき詳細に説明する。
【0022】
(電池ケース)
電池ケース20は、硫化物系固体電解質を用いた電池セル10及び硫化水素センサー50を収容する電池セル収容部20Aと、硫化水素ガスを吸着可能な吸着材30が、包装材25で気密に包囲されてなる吸着材収容部20Bとを有する。
【0023】
(電池セル収容部)
電池セル収容部20Aは、電池ケース20内における、硫化物系固体電解質を用いた電池セル10及び硫化水素センサー50が収容された部分である。
【0024】
硫化物系固体電解質を用いた電池セル10は、正極と負極とで硫化物系固体電解質を挟み、セル全体を例えばシール部材で気密に包囲したものであり、電池ケース20に収容されて自動車などの使用機器に装着される。上述の通り、硫化物系固体電解質を用いた電池セル10は、外的要因などにより、電池セル10が破損して空気中などに含まれる水分が硫化物系固体電解質と接触することで、硫化水素ガスの発生源となり得る。なお、図1に示すように、電池セル10は、高容量化などを目的として複数の電池セル10を直列又は並列に接続した状態で(接続の状態は図示を省略する。)、電池ケース20に収容されることが多いが、必要に応じて電池セル10を単体で使用するものであってもよい。
【0025】
硫化水素センサー50は、電池セル収容部20Aにおいて、電池セル10から発生した硫化水素ガスを検知する役割を果たす。なお、硫化水素センサー50は、硫化水素ガスを検知できるものであれば特に制限はなく、電解センサー、薄膜センサー、セラミックセンサー、有機材料センサー、電解材料センサー、熱電対センサー等、公知のものを使用することができる。
【0026】
なお、電池セル収容部20Aは、気密であってもよいが、空気が流入するように外部に通じていてもよい。外部に通じていることにより、電池セル10を空冷することができる。また、本実施形態において、電池セル10は重量物であるため、例えば、通気性を有するメッシュ状の台座40に載置されている。更に、台座40には、電池セル10に近接して硫化水素センサー50が載置されている。
【0027】
(吸着材収容部)
吸着材収容部20Bは、電池ケース20内における、硫化水素ガスを吸着可能な吸着材30が、包装材25で気密に包囲されてなる部分である。
【0028】
硫化水素ガスを吸着可能な吸着材30は、硫化水素ガスを吸着できる材料であれば制限はなく、活性炭、ゼオライト、金属ケイ酸塩、シリカゲル、並びに、亜鉛、鉄、ニッケル、スズ、銅及び銀等の金属、これら金属の酸化物、これら金属の水酸化物等を挙げることができる、また、これらを単独で使用してもよく、あるいは混合して使用してもよい。
【0029】
活性炭としては、特に種類が限定されるものではなく、例えば、ヤシガラ、石炭、木炭等を主原料としたものが挙げられる。
【0030】
金属ケイ酸塩としては、例えば、特許第6164900号公報に記載の、銅、亜鉛、マンガン、コバルト、ニッケルから選ばれる少なくとも1種の金属を含む金属ケイ酸塩であることが好ましい。
【0031】
ゼオライトとしては、特に種類に限定されるものではなく、例えば、β型ゼオライト、Y型ゼオライト、フェリエライト、ZSM-5型ゼオライト、モルデナイト、フォージサイト、ゼオライトA及びゼオライトL等が挙げられる。
【0032】
なお、吸着速度向上の観点からは、吸着材30として、活性炭、ゼオライト、シリカゲルのいずれかを用いることが好ましい。また、吸着力向上の観点からは、吸着材30として、金属ケイ酸塩、又は、亜鉛、鉄、ニッケル、スズ、銅及び銀から選択される少なくとも一種の金属、該金属の酸化物及び該金属の水酸化物からなる群から選択される少なくとも一種のいずれかを用いることが好ましい。
【0033】
また、吸着材30は、粉末状でもよく、そのまま後述する包装材25に収容してもよい。また、吸着材30の粉末を適当なバインダーで結着してシート状に加工してもよく、あるいは、適当な支持体の片面又は両面に吸着材30の粉末を層状に一体化してもよく、これらシートや支持体と一体化したものを包装材25で気密に包囲する形態であってもよい。
【0034】
なお、吸着材30が粉末状である場合の粉末の平均粒子径は、微小なほど単位質量当たりの表面積が大きくなることから好ましく、具体的には、0.5~100μmであることが好ましく、0.5~10μmであることがより好ましい。
【0035】
バインダーとしては、スチレンブタジエンゴム(SBR)、シリコーン樹脂、アクリル樹脂、ポリスチレン、ポリブタジエン等を用いることができる。中でも、硫化水素ガスの透過性が特に高いことから、スチレンブタジエンゴム(SBR)を用いることがより好ましい。バインダーの使用量としては、吸着材30とバインダーとの合計量に対して0.5~5質量%が好ましい。
【0036】
支持体としては、吸着材30の粉末を支持できるものであれば、特に限定されるものではなく、樹脂などの有機系材料、金属やガラスなどの無機系材料を含めて様々なものを用いることができる。なお、吸着材30と支持体との界面にも硫化水素ガスが到達しやすいように、支持体には多数の微細な貫通孔が形成されていてもよい。
【0037】
続いて、包装材25は、ガス非透過性又はガス難透過性の材料から構成されていることが好ましく、具体的には、金属箔などのように実質的に気体を透過させない材料が好ましい。包装材25が、ガス非透過性又はガス難透過性の材料から構成されていることで、電池セル収容部20A内で硫化水素ガスが発生していないときにおいて、窒素ガスや酸素ガスが包装材25を透過して、吸着材30の細孔を閉塞してしまうことを抑制できる。
【0038】
また、包装材25は、非極性分子のガス透過率よりも極性分子のガス透過率が大きい材料からなるシートやフィルム等であってもよい。ここで、大気中に多く存在する窒素ガスや酸素ガスは、比較的分子径が大きいとともに、いわゆる非極性分子であり、その一方で、電池セル10から発生し得る硫化水素ガスや、大気中などに存在する水蒸気は、窒素ガスや酸素ガスに比べ比較的分子径が小さいとともに、いわゆる極性分子である。よって、包装材25は、比較的に分子径の小さい硫化水素ガスや水蒸気を透過しやすく、比較的分子径の大きい窒素ガスや酸素ガスを透過し難い材料からなるといえる。具体的に、包装材25は、ガス透過率が、窒素ガス及び酸素ガスに対してともに100cc/cm/mm/秒/cmHg×1010以下であり、かつ、水蒸気に対して10000cc/cm/mm/秒/cmHg×1010以上であることが好ましい。
【0039】
なお、包装材25における窒素ガスや酸素ガスの透過を効果的に抑制するためには、ガス透過率が、窒素ガス及び酸素ガスに対してともに50cc/cm/mm/秒/cmHg×1010以下であることがより好ましく、10cc/cm/mm/秒/cmHg×1010以下であることが更に好ましい。また、包装材25における水蒸気の透過を効果的に発揮させるためには(本来の目的は硫化水素ガスを効果的に透過させること)、ガス透過率が、水蒸気に対してともに12000cc/cm/mm/秒/cmHg×1010以上であることがより好ましく、15000cc/cm/mm/秒/cmHg×1010以上であることが更に好ましい。
【0040】
ここで、包装材25の材料物性を、非極性分子のガス透過率が低く、かつ、極性分子のガス透過率が高いものとする理由を以下に説明する。
【0041】
上述の通り、特許文献1では、多孔質吸着材に備えられた細孔の大きさの平均が、硫化水素の分子径よりも大きく、容器内に充填された気体の分子径よりも小さいことから、発生した硫化水素ガスを選択的に細孔内に捕獲する吸着機構となっているものの、一部の細孔においては、容器内に充填された気体の分子径よりも大きい場合もあるため、多孔質吸着材の細孔が、充填された窒素などの気体により閉塞され、硫化水素ガスの吸着性能が経時的に劣化するおそれがあった。また、多孔質吸着材の種類も、充填される気体の分子径により制限されるという問題があった。
【0042】
そこで、本発明者らは、吸着材30を気密に包囲する包装材25として、硫化水素ガスは比較的に容易に透過させつつ、吸着材30の細孔を閉塞し得るものとして空気中に多く存在する窒素ガスや酸素ガスを遮断する材料物性を有するものを採用すれば、硫化水素ガスが発生していないときにおいて、窒素ガスや酸素ガスが包装材25を透過して吸着材30の細孔を閉塞することを抑制できること、また、電池セル10から硫化水素ガスが発生した際には、包装材25が選択的に硫化水素ガスを透過させることで、吸着材30の細孔を閉塞することなく、効果的に硫化水素ガスを吸着できるのではないかと考えた。
【0043】
そして、硫化水素ガスを比較的に容易に透過させつつ、窒素ガスや酸素ガスを遮断可能な材料物性を規定する方法として、硫化水素ガスは極性分子であり、窒素ガスや酸素ガスは非極性分子であることに着目し、包装材25として非極性分子のガス透過率よりも極性分子のガス透過率が大きいものを採用することで本発明の課題を解決できることを見出した。
【0044】
なお、水蒸気(水分子)は、硫化水素ガスと分子径が近い極性分子であり、一般的なガス透過率の文献値においては、水蒸気のガス透過率により記載されていることが多いことから、本発明においては水蒸気に対するガス透過率で代替することにより規定する。また、ガスの透過率は、ゴムフィルムについてはJIS K 6275-1(2009)、プラスチックフィルムについてはJIS K 7126-1(2006)に規定されているため、本発明においては、これらJISに基づくガス透過率を採用する。
【0045】
このようなガス透過率を満足し得る材料として、例えば、塩酸ゴム、ポリアミド、ポリアセタール、酢酸セルロース、ポリブタジエン-アクリロニトリル、ポリスチレン、ポリウレタン、クロロスルフォン化ポリエチレン及びクロロプレンゴムを挙げることができる。なお、材料の種類によっては、ガス透過率の数値範囲に幅があり、一例として、ポリアミドのガス透過率は、窒素ガスに対しては0.1~0.2cc/cm/mm/秒/cmHg×1010、酸素ガスに対しては0.38cc/cm/mm/秒/cmHg×1010、水蒸気に対しては700~17000cc/cm/mm/秒/cmHg×1010である(株式会社潤工社のホームページ;http://junkosha.co.jp/technical/tec8.html、「2-3 チューブ材料のガス透過性」を参照)。この場合、例えばポリマーの重合度、結晶化度の調整や、あるいは変性などの公知の手段により、上記の好ましいガス透過率を満足するように適宜調整することができる。
【0046】
なお、上記ガス透過率を満足し得る材料のうち、窒素ガス及び酸素ガスに対するガス透過率が相対的により低い、塩酸ゴム、ポリアミド、ポリアセタールのいずれかを採用することが好ましい。
【0047】
包装材25の厚さは特に制限されるものではなく、一般的な紙やシート、フィルムと同程度で構わず、例えば0.05mm~0.25mmが適当である。ただし、窒素ガスや酸素ガスの透過を効果的に抑制するための観点より、包装材25の厚さは0.08mm以上であることが好ましく、0.10mm以上であることがより好ましい。また、水蒸気ガスや硫化水素ガスの透過を効果的に発揮させるための観点より、包装材25の厚さは0.20mm以下であることが好ましく、0.15mm以下であることがより好ましい。
【0048】
また、包装材25は、吸着材30を収容した状態で、その端部(四隅)をホットシールするなどして密封、すなわち気密に密封している。なお、密封の際、包装材25の内部に窒素ガスや酸素ガスが入り込まないよう、例えば、包装材25の内部を真空又は真空に近い状態にした状態(すなわち、真空状態又は減圧状態)で吸着材30を収容することが好ましい。このようにすることで、開放機構60により、吸着材30と電池セル収容部20A内に存在する気体とを接触可能にする前から、包装材25内に存在しうる窒素ガスや酸素ガスなどの気体を極力減らすことができ、包装材25内の気体が、吸着材30の細孔を閉塞してしまうことを抑制できるため、吸着材30がより高い硫化水素ガスの吸着効果を得ることができる。なお、「真空状態」とは気圧がゼロの状態を示し、「減圧状態」とは大気圧に比べて気圧が低い状態を示す。
【0049】
上記のようにして構成された、吸着材収容部20Bは、電池セル10から硫化水素ガスが発生していない状態では、包装材25の内部に窒素ガスや酸素ガスが入り込めず、例え吸着材30の細孔が窒素ガスや酸素ガスの分子径よりも大きい場合であっても、吸着材30の細孔が閉塞されることがないため、硫化水素ガスの吸着性能が経時的に劣化せず、吸着材30の製造時に近い状態で維持されている。
【0050】
なお、吸着材収容部20Bは、図1に示すように、電池セル10よりも鉛直方向下側に配置されることが好ましい。硫化水素ガスは空気よりも重いため、吸着材収容部20Bが硫化水素ガスの発生源である電池セル10よりも下方に配置されることで、吸着材30が効果的に硫化水素ガスを吸着することができる。
【0051】
(開放機構)
開放機構60は、硫化水素センサー50が硫化水素ガスを検知した際、吸着材収容部20B内の吸着材30を開放して、吸着材30と、電池セル収容部20A内に存在する気体(硫化水素、空気など)とを接触可能にする役割を果たす。そして、図1に示すように、この開放機構60は、硫化水素センサー50に接続されており、硫化水素センサー50における硫化水素ガスの検知に連動して、吸着材収容部20B内の吸着材30を開放するための所定の動作を行う。
【0052】
例えば、開放機構60は、包装材25を貫通させる貫通機構を有しており、具体的にはニードルを挙げることができる。また、別の例として、開放機構60は、包装材25を破断させる破断機構を有しており、具体的には刃先を挙げることができる。すなわち、電池セル10から発生した硫化水素ガスが硫化水素センサー50で検知された場合、開放機構60であるニードルや刃先は、硫化水素センサー50での検知に連動して、包装材25に貫通孔を開けたり、包装材25を切断する。これにより、発生した硫化水素ガスは、上記貫通孔や切断箇所から吸着材収容部20B内に流入することができるため、吸着材30により容易に吸着される。
【0053】
また、図示は省略するが、包装材25として比較的融点の低いゴムやプラスチックなどの材料を用いた場合、例えば、金属メッシュを包装材25に貼り付けるような形態を用いることもできる。この場合、開放機構60として、金属メッシュに接続されたヒーター(熱源)とすることができる。そして、電池セル10から発生した硫化水素ガスが硫化水素センサー50で検知された場合、開放機構60であるヒーターは、硫化水素センサー50での検知に連動して発熱を開始することで、金属メッシュが加熱される。更に、加熱された金属メッシュと接触する包装材25が溶融することにより、包装材25に穴が開けられるため、発生した硫化水素ガスは、吸着材収容部20B内に流入することが可能となる。
【0054】
なお、別の方法として、ニクロム線などの電熱線をメッシュ状に組んだ金属体を包装材25に貼り付けるとともに、開放機構60として、上記電熱線に接続されたスイッチとすることもできる。この場合、電池セル10から発生した硫化水素ガスが硫化水素センサー50で検知された場合、開放機構60であるスイッチをONにすることで、電熱線の加熱を行うことで、上記と同様、加熱された電熱線と接触する包装材25が溶融することにより、包装材25に穴を開けることもできる。
【0055】
また、加熱により包装材25を溶融させて穴を開ける場合には、包装材25として、熱収縮性フィルムを用いることが好ましい。熱収縮性フィルムを用いることで、包装材25は、熱収縮により破断しやすくなり、加熱温度の低い段階で容易に包装材25に穴を開けることができ、硫化水素ガス発生の初期段階で、吸着材30による吸着を開始することが可能となる。この場合、包装材25に、薄肉部を形成することにより、熱収縮の際に薄肉部を起点として熱収縮フィルムが破断しやすくなるため好ましい。なお、薄肉部は、線状の他、適度な間隔でドット状に形成されていてもよい。
【0056】
熱収縮性フィルムの具体的な材料としては、例えば、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリエチレンテレフタラート、ポリエチレン、ポリプロピレンなどを用いることができる。
【0057】
<第2実施形態>
図2は、本発明に係る電池パックの第2実施形態を模式的に示す図である。本実施形態に係る電池パック1は、開放機構60と吸着材収容部20Bとの間に、開閉弁26を設置している点で、第1実施形態と異なる。その他の構成は、第1実施形態と同様である。すなわち、電池セル収容部20Aと吸着材収容部20Bとは、開閉弁26を介して、互いに気体が行き来可能なように連結されている。この場合、開放機構60は、開閉弁26を開閉させる開閉機構を有するものとすることができ、具体的には開閉弁26を開閉するための開閉スイッチとすることができる。そして、硫化水素ガスの発生前の状態では、開閉弁26を閉状態にしておき、電池セル10から発生した硫化水素ガスが硫化水素センサー50で検知された場合、開放機構60である開閉スイッチにより開閉弁26を開状態に切り替えることで、硫化水素ガスが開閉弁26を通じて吸着材収容部20B内に流入し、吸着材30により吸着される。
【0058】
<第3実施形態>
図3は、本発明に係る電池パックの第3実施形態を模式的に示す図である。吸着材30が粉末状の場合には、図3に示すように、電池パック1が、吸着材収容部20Bが電池セル10よりも鉛直方向上側に配置されるとともに、吸着材収容部20Bに、吸着材収容部20B内の内圧が高まることで吸着材30を開放させることが可能な開放口27が設けられた形態を有していてもよい。この場合、開放機構60として、吸着材収容部20Bの内部を加圧する加圧機構とすることができる。
【0059】
本実施形態においては、電池セル10から発生した硫化水素ガスが硫化水素センサー50で検知された場合、開放機構60である加圧手段は、硫化水素センサー50での検知に連動して、吸着材収容部20B内の加圧を行う。これにより、吸着材収容部20B内の内圧が高まることで、開放口27が開放されるため、吸着材収容部20Bに収容された粉末状の吸着材30が開放口27より噴出して、電池セル10に降り注がれる。よって、電池セル10から発生した硫化水素ガスは、吸着材30により吸着される。
【0060】
ここで、吸着材収容部20B内の内圧が高まることで吸着材30を開放させることが可能な開放口27としては、包装材25よりも破断しやすい材料(例えば、包装材25と同種材料であるが厚さの薄いものや、包装材25と同じ厚さであるが、強度の弱い材料など)を採用することができる。あるいは、吸着材収容部20B内の内圧が高まることに連動して、開放口27を開くことのできる機構を有するものであってもよい。
【0061】
なお、吸着材30が粉末状の場合であっても、吸着材収容部20Bが電池セル10よりも鉛直方向下側に配置されるものであっても構わないが、この場合は、開放口27から噴出される吸着材30が直接的に電池セル10に降り注がれるわけではないため、吸着材30の硫化水素ガスの吸着効果が十分に期待できないおそれがある。よって、吸着材収容部20Bが、電池セル10よりも鉛直方向上側に配置されることが好ましい。
【0062】
また、開放口27が、電池セル10の真上に配置される場合には、粉末状の吸着材30を効率よく電池セル10に降り注ぐことができるため、特に好ましい。更に、図3においては、開放口27は吸着材収容部20Bに1個だけ配置されているが、複数個配置されることで、電池セル10が複数個存在する場合などに、広範囲にわたって粉末状の吸着材30を降り注ぐことができるため、特に好ましい。
【0063】
以上、図面を参照しながら各種の実施の形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例又は修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。また、発明の趣旨を逸脱しない範囲において、上記実施の形態における各構成要素を任意に組み合わせてもよい。
【0064】
なお、上記の基本構成に加えて、硫化水素センサー50は、外部へ報知するための報知手段(図示は省略)に接続されており、硫化水素センサー50が、硫化水素ガスを検知した際、外部への報知を行うような構成であってもよい。上記報知手段を有することにより、硫化水素ガスの発生を外部に報知することにより、電池パック1から避難することができる。
【符号の説明】
【0065】
1 電池パック
10 電池セル
20 電池ケース
20A 電池セル収容部
20B 吸着材収容部
25 包装材
26 開閉弁
27 開放口
30 吸着材
40 台座
50 硫化水素センサー
60 開放機構
図1
図2
図3