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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-07
(45)【発行日】2023-02-15
(54)【発明の名称】積雪状況観測システム
(51)【国際特許分類】
   G01W 1/00 20060101AFI20230208BHJP
   G01W 1/14 20060101ALI20230208BHJP
   G01S 17/95 20060101ALI20230208BHJP
   G01F 23/292 20060101ALN20230208BHJP
【FI】
G01W1/00 J
G01W1/14 B
G01W1/14 Q
G01S17/95
G01F23/292 B
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019131247
(22)【出願日】2019-07-16
(65)【公開番号】P2021015094
(43)【公開日】2021-02-12
【審査請求日】2022-03-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】110000936
【氏名又は名称】弁理士法人青海国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】浅井 孝行
(72)【発明者】
【氏名】村田 巌
(72)【発明者】
【氏名】永井 祐一
【審査官】前田 敏行
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-241459(JP,A)
【文献】特開2017-110983(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01W 1/00
G01W 1/14
G01S 17/95
G01F 23/292
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
雪または氷についての光の吸収係数が所定値以上である波長の第1レーザ光を発振する第1光源と、
雪または氷についての光の吸収係数が前記所定値未満である波長の第2レーザ光を発振する第2光源と、
雪または氷を前記第1レーザ光で融解することで形成される穴の底部で反射される前記第2レーザ光に基づいて、前記底部までの距離を導出する距離導出部と、
前記距離導出部で導出された距離の推移に基づいて、雪または氷の融解速度を導出する融解速度導出部と、
前記融解速度導出部で導出された融解速度に基づいて、雪または氷の硬度を導出する硬度導出部と、
を備える積雪状況観測システム。
【請求項2】
前記第1レーザ光および前記第2レーザ光を合波して出射する光カプラを備える請求項1に記載の積雪状況観測システム。
【請求項3】
前記第1光源から出射された前記第1レーザ光の光路上に設けられ、所定方向の直線偏光を通過させる偏光フィルタと、
前記第1レーザ光の光路上において前記偏光フィルタに対して前記第1光源とは反対側に設けられ、入射された光の偏光方向を所定角度だけ変化させて出射する偏光素子と、
を備える請求項1または2に記載の積雪状況観測システム。
【請求項4】
前記硬度導出部で導出された雪または氷の硬度に基づいて、雪または氷の上に、前記積雪状況観測システムが適用された航空機が着陸できるか否かを判定する着陸判定部を備える請求項1から3のいずれか1項に記載の積雪状況観測システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積雪状況を観測する積雪状況観測システムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、地上に固定された支柱に支持されたレーザ光源を用いて、積雪の深さを測定する技術が開示されている。かかる技術では、積雪がないときにおいてレーザ光を地面に照射し、地面での反射光を受光するまでの時間と、積雪時においてレーザ光を積雪表面に照射し、積雪表面での反射光を受光するまでの時間との差分に基づいて、積雪の深さを導出する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2011-149894号公報
【非特許文献】
【0004】
【文献】櫻井俊光著、「中赤外レーザーを用いた革新的氷床内部連続分析システムの基礎研究」、科学研究費助成事業 研究成果報告書、大学共同利用機関法人 情報・システム研究機構 国立情報学研究所、平成29年6月2日、第1版
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、雪山などにおいて災害が生じた際には、人命救助などのためヘリコプターが出動し、雪や氷の上に着陸する状況が起こり得る。このとき、雪や氷の上にヘリコプターが着陸可能であるか否かを判断する必要がある。
【0006】
着陸可否の判断方法の一例としては、登山隊が地上から先行して雪山に登っていき、その登山隊が、ヘリコプターの着陸可能な位置を判断する方法が挙げられる。また、着陸可否の判断方法の他の例としては、搭乗しているレスキュー隊がヘリコプターから降下し、そのレスキュー隊が、ヘリコプターの着陸可能な位置を判断する方法が挙げられる。
【0007】
しかし、登山隊が判断する方法では、登山隊が目的位置に到達するまでに時間がかかり、ヘリコプターを早急に着陸させることができない。また、レスキュー隊が判断する方法では、高度な技能が必要なため、レスキュー隊への負担が大きい。
【0008】
このため、雪や氷の上にヘリコプターが着陸可能であるか否かを、例えば、雪や氷の硬度を通じて迅速に判断できることが望まれている。
【0009】
そこで、本発明は、雪または氷の硬度を迅速に把握することができる積雪状況観測システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明の積雪状況観測システムは、雪または氷についての光の吸収係数が所定値以上である波長の第1レーザ光を発振する第1光源と、雪または氷についての光の吸収係数が所定値未満である波長の第2レーザ光を発振する第2光源と、雪または氷を第1レーザ光で融解することで形成される穴の底部で反射される第2レーザ光に基づいて、底部までの距離を導出する距離導出部と、距離導出部で導出された距離の推移に基づいて、雪または氷の融解速度を導出する融解速度導出部と、融解速度導出部で導出された融解速度に基づいて、雪または氷の硬度を導出する硬度導出部と、を備える。
【0011】
また、積雪状況観測システムは、第1レーザ光および第2レーザ光を合波して出射する光カプラを備えてもよい。
【0012】
また、積雪状況観測システムは、第1光源から出射された第1レーザ光の光路上に設けられ、所定方向の直線偏光を通過させる偏光フィルタと、第1レーザ光の光路上において偏光フィルタに対して第1光源とは反対側に設けられ、入射された光の偏光方向を所定角度だけ変化させて出射する偏光素子と、を備えてもよい。
【0013】
また、積雪状況観測システムは、硬度導出部で導出された雪または氷の硬度に基づいて、雪または氷の上に、積雪状況観測システムが適用された航空機が着陸できるか否かを判定する着陸判定部を備えてもよい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、雪または氷の硬度を迅速に把握することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本実施形態の積雪状況観測システムの構成を示す概略図である。
図2】偏光フィルタおよび偏光素子について説明する説明図である。
図3】雪等の層、雪等の深さ、経過時間、雪等の硬度の関係を説明する説明図である。
図4】本測定より前に行われるプレ測定時の距離導出部の動作を説明するフローチャートである。
図5】本測定時の動作を説明するフローチャートである。
図6】硬度の取得処理を説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の実施形態の一態様について詳細に説明する。かかる実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値等は、発明の理解を容易にするための例示に過ぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0017】
図1は、本実施形態の積雪状況観測システム10の構成を示す概略図である。積雪状況観測システム10は、例えば、ヘリコプターやオスプレイなどの定点滞空(ホバリング)が可能な航空機1に適用される。
【0018】
積雪状況観測システム10では、波長が異なる2種類のレーザ光(第1レーザ光および第2レーザ光)が用いられる。積雪状況観測システム10では、第1レーザ光で雪または氷を融解させつつ、融解によって形成される穴の底部までの距離を第2レーザ光で測定する。以下、雪または氷のことを総称して、雪等ということがある。
【0019】
図1では、第1レーザ光および第2レーザ光の光軸を太い実線で示している。また、図1では、第1レーザ光の進行方向を実線の矢印で示し、第2レーザ光の進行方向を一点鎖線の矢印で示し、制御信号の流れを破線の矢印で示している。
【0020】
積雪状況観測システム10は、第1光源12、第2光源14、光カプラ16、出射部18、ハーフミラー20、波長フィルタ22、34、光検出部24、偏光フィルタ30、慣性航法装置40、ジンバル42、エンコーダ44、偏光素子32、出射方向制御部50、光出射制御部52、距離導出部54、融解速度導出部56、硬度導出部58、着陸判定部60を含んで構成される。
【0021】
ここで、雪等に光を照射したとき、光が雪等に吸収されると、その吸収された光のエネルギーによって雪等が融解される。雪等における光の吸収係数は、光の波長に依存している。具体的には、雪等は、可視光や近赤外光の吸収係数が低く、中赤外光の吸収係数が高い。例えば、雪等は、3μmや11μmなどの波長において、光の吸収ピークが存在する。
【0022】
このため、第1レーザ光は、雪等に効率よく吸収されて雪等を融解させるために、雪等についての光の吸収係数が所定値以上である波長の光に設定される。具体的には、第1レーザ光は、吸収係数が高い中赤外光に設定される。
【0023】
第1光源12は、このような第1レーザ光を発振する。例えば、第1光源は、10.6μmのレーザ光を発振する炭酸ガスレーザや、2.8μmのレーザ光を発振するエルビウム添加フッ化物光ファイバレーザなどである。なお、非特許文献1には、レーザ光によって氷を融解させる技術が記載されている。
【0024】
第2レーザ光は、距離の測定に用いられるため、雪等で効率よく反射されることが好ましい。また、雪等に照射された光は、雪等に吸収され難い場合には、雪等で反射し易くなる。このため、第2レーザ光は、雪等で効率よく反射させるために、雪等についての光の吸収係数が所定値未満である波長の光に設定される。具体的には、第2レーザ光は、吸収係数が低い可視光や近赤外光に設定される。
【0025】
第2光源14は、このような第2レーザ光を発振する。例えば、第2光源は、緑色光(例えば、0.53μm)や近赤外光(例えば、1.55μm)のレーザ光を発振する半導体レーザなどである。
【0026】
また、第1レーザ光は、例えば、連続光であり、雪等を融解させる間継続して出射される。第2レーザ光は、例えば、光強度変調されたパルス光であり、所定のパルス間隔で繰り返し出射される。また、第2レーザ光は、第1レーザ光で雪等を融解させている間、第1レーザ光と並行して連続的に出射される。
【0027】
光カプラ16は、例えば、光ファイバカプラである。光カプラ16は、2個の1次側ポートと1個の2次側ポートとを有する。1次側ポートの一方には、第1光源12から出射された第1レーザ光が入射され、1次側ポートの他方には、第2光源14から出射された第2レーザ光が入射される。光カプラ16は、各1次側ポートに入射された第1レーザ光と第2レーザ光とを合波して2次側ポートから出射させる。また、光カプラ16は、2次側ポートに入射された光を2個の1次側ポートのそれぞれから出射させる。
【0028】
出射部18は、光カプラ16の2次側に設けられている。出射部18には、光カプラ16の2次側ポートから出射された光(第1レーザ光と第2レーザ光とを合波した光)が入射される。出射部18は、例えば、出射部18を通じて出射される出射光(第1レーザ光と第2レーザ光とを合波した光)の光軸の方向を変更可能なレンズなどを含んで構成される。出射部18は、出射光を測定対象である雪等に向かって出射させる。
【0029】
ここで、例えば、概ね平な地面の上に測定対象の雪等が存在しているとする。積雪状況観測システム10の使用時には、その雪等の上空に航空機1を定点滞空させる。このため、出射光は、基本的には、航空機1から鉛直下方に出射され、雪等に照射される。
【0030】
なお、出射光は、航空機1から鉛直下方に出射される態様に限らない。例えば、出射部18は、定点滞空する航空機1から斜め下方に向かって出射光を出射させてもよい。この場合、雪山の斜面などの雪等に垂直に出射光を照射させることができる。
【0031】
また、出射光は、第1レーザ光と第2レーザ光とが合波された光である。このため、積雪状況観測システム10では、出射光において、第1レーザ光の光軸と第2レーザ光の光軸とが一致している。
【0032】
出射光のうち第1レーザ光は、雪等に吸収され易い。このため、第1レーザ光が照射された位置における雪等は、その雪等に吸収される第1レーザ光のエネルギーによって融解される。また、第1レーザ光のうち雪等に吸収されなかった第1レーザ光は、雪等の表面で反射され、反射された第1レーザ光の一部は、出射部18に戻る。
【0033】
出射光のうち第2レーザ光は、雪等に吸収され難く、反射し易い。このため、第2レーザ光は、第1レーザ光によって融解される位置における雪等の表面で反射する。反射した第2レーザ光の一部は、出射部18に戻る。
【0034】
光カプラ16と出射部18との間には、ハーフミラー20が設けられている。ハーフミラー20は、光カプラ16側から照射された光を出射部18側に透過させる。また、ハーフミラー20には、出射部18に戻った反射光(第1レーザ光および第2レーザ光)が、出射部18側から照射される。ハーフミラー20は、その反射光を光カプラ16側に透過させるとともに、出射部18と光カプラ16とを通る光軸に直交する方向に反射させる。
【0035】
ハーフミラー20で反射された反射光の光路上には、波長フィルタ22および光検出部24が設けられている。波長フィルタ22は、所定波長範囲の光を遮光し、それ以外の波長の光を通過させる。具体的には、波長フィルタ22は、第1レーザ光を遮光し、第2レーザ光を通過させる。光検出部24は、例えば、フォトダイオードであり、波長フィルタ22を通過した第2レーザ光を受光する。なお、第1レーザ光は、波長フィルタ22によって遮光されるため、光検出部24には到達しない。
【0036】
また、雪等の表面で反射されて出射部18に戻った反射光(第1レーザ光および第2レーザ光)は、光カプラ16の2次側ポートに入射されて、2個の1次側ポートの各々から出射される。
【0037】
ここで、第1レーザ光は、雪等を融解させるエネルギーが必要なため、第2レーザ光に比べ、レーザ光の強度が極端に大きい。例えば、第2レーザ光の強度は、mW単位であるが、第1レーザ光の強度は、W単位である。このため、雪等で反射された第1レーザ光が第1光源12および第2光源14に到達すると、第1光源12および第2光源14を損傷するおそれがある。そこで、第1光源12と光カプラ16との間の第1レーザ光の光路上には、第1光源12側から順に、偏光フィルタ30、偏光素子32が設けられている。
【0038】
図2は、偏光フィルタ30および偏光素子32について説明する説明図である。偏光フィルタ30は、所定方向(例えば、鉛直方向)の直線偏光を通過させ、それ以外の偏光成分を遮光する。偏光素子32は、例えば、ポッケルスセルであり、入射された光の偏光方向を所定角度(例えば、角度θ)だけ変化させて出射する。
【0039】
第1光源12から出射された第1レーザ光には、様々な偏光成分が含まれている。この第1レーザ光が偏光フィルタ30を通過すると、第1レーザ光は、鉛直方向の直線偏光となる。その後、鉛直方向の直線偏光となった第1レーザ光が偏光素子32を通過すると、第1レーザ光は、鉛直方向に対して角度θだけ偏光方向が傾斜された直線偏光となる。そして、このような直線偏光の第1レーザ光が、光カプラ16および出射部18を通じて出射される。
【0040】
第1レーザ光の一部が、雪等で吸収されずに反射されて出射部18に到達したとする。この場合、光カプラ16を通じて偏光素子32に入射される第1レーザ光は、出射時と同様に、鉛直方向に対して角度θだけ偏光方向が傾斜された直線偏光となっている。この第1レーザ光が偏光素子32を通過すると、第1レーザ光は、さらに角度θだけ偏光方向が傾斜され、鉛直方向に対して角度2θだけ偏光方向が傾斜された直線偏光となる。
【0041】
その後、角度2θだけ偏光方向が傾斜された第1レーザ光が偏光フィルタ30に照射されると、偏光フィルタ30は、その第1レーザ光の偏光方向が所定方向(例えば、鉛直方向)に一致していないため、その第1レーザ光を遮光する。つまり、積雪状況観測システム10では、第1レーザ光を出射させることができ、かつ、反射された第1レーザ光を第1光源12に到達させないようにすることができる。これにより、積雪状況観測システム10では、反射された第1レーザ光によって第1光源12が損傷することを防止できる。
【0042】
なお、反射された第2レーザ光については、第1光源12に到達するおそれがある。しかし、第2レーザ光は、上述のように、第1レーザ光よりもレーザ光の強度が極端に小さい。このため、第2レーザ光によって第1光源12が損傷する可能性は低い。したがって、第2レーザ光が第1光源12に到達したとしても、実際には問題がない。
【0043】
図1に戻って、第2光源14と光カプラ16との間の第2レーザ光の光路上には、波長フィルタ34が設けられている。波長フィルタ34は、所定波長範囲の光を遮光し、それ以外の波長の光を通過させる。具体的には、波長フィルタ34は、第1レーザ光を遮光し、第2レーザ光を通過させる。つまり、積雪状況観測システム10では、第2レーザ光を出射させることができ、かつ、反射された第1レーザ光を第2光源14に到達させないようにすることができる。これにより、積雪状況観測システム10では、反射された第1レーザ光によって第2光源14が損傷することを防止できる。
【0044】
なお、反射された第2レーザ光については、第2光源14に到達するおそれがある。しかし、第2レーザ光が第1光源12に到達することと同様に、第2レーザ光が第2光源14に到達したとしても、実際には問題がない。
【0045】
慣性航法装置40は、例えば、INU(Inertial Navigation Unit)である。慣性航法装置40は、航空機1における姿勢(互いに直交する3軸の各軸周りの角度(ロール、ピッチ、ヨー))を検出する。また、慣性航法装置40は、航空機1における各軸方向の加速度、速度および距離を検出する。なお、慣性航法装置40は、航空機1にすでに搭載されているものを用いてもよい。
【0046】
ジンバル42は、出射部18を駆動させて、出射部18の姿勢(例えば、ピッチおよびヨー)を変更させる。その結果、出射光の出射方向が変更される。エンコーダ44は、航空機1を基準とした出射部18の姿勢(例えば、ピッチおよびヨー)を検出する。つまり、エンコーダ44によって、航空機1を基準とした出射光の出射方向が検出される。
【0047】
出射方向制御部50、光出射制御部52、距離導出部54、融解速度導出部56、硬度導出部58、着陸判定部60は、中央処理装置(CPU)、プログラム等が格納されたROM、ワークエリアとしてのRAM等を含む半導体集積回路により機能する。
【0048】
出射方向制御部50は、慣性航法装置40で検出された航空機1の姿勢等と、エンコーダ44で検出された航空機1を基準とした出射部18の姿勢とに基づいて、絶対的な出射方向を導出する。出射方向制御部50は、導出された絶対的な出射方向が、目標方向(例えば、鉛直下方)となるように、ジンバル42に出射部18を駆動させて、出射部18の姿勢を変更させる。
【0049】
光出射制御部52は、第1レーザ光を連続光として発振させ、第2レーザ光をパルス光として発振させる。光出射制御部52は、例えば、1秒間に数十パルス程度の第2レーザ光を出射させる。なお、第2レーザ光のパルス間隔は、この例に限らない。また、光出射制御部52は、第1レーザ光をパルス光として発振させてもよい。この場合、光出射制御部52は、例えば、1秒間に数百パルス程度の第1レーザ光を出射させるというように、第1レーザ光のパルス間隔を第2レーザ光のパルス間隔よりも短くしてもよい。
【0050】
また、光出射制御部52は、第1レーザ光および第2レーザ光の出射時刻を制御する。具体的には、光出射制御部52は、まず、本測定の開始前のプレ測定として、第1レーザ光を出射させず、第2レーザ光を出射させる。その後、所定時間が経過すると、光出射制御部52は、本測定を開始し、第2レーザ光に加え、第1レーザ光を出射させる。
【0051】
距離導出部54は、光検出部24で受光された第2レーザ光に基づいて、雪等の表面までの距離を導出する。以下、測定対象の雪等を融解させる前における雪等の表面を、基準表面と呼ぶことがある。また、航空機1(出射部18)から基準表面までの距離を、基準距離と呼ぶことがある。
【0052】
第1レーザ光を出射させない状態において第2レーザ光が出射されると(プレ測定時)、第2レーザ光は、基準表面で反射される。距離導出部54は、まず、基準表面で反射された第2レーザ光に基づいて、基準距離を導出する。具体的には、距離導出部54は、第2レーザ光の出射時刻から受光時刻までの経過時間から基準距離を導出する。
【0053】
その後、本測定が開始されて、第1レーザ光が測定対象の雪等に照射されると、測定対象の雪等が融解され始め、第1レーザ光が照射された位置において穴(窪み)70が形成される。穴70は、例えば、直径5mm程度の円形に形成される。この穴70は、第1レーザ光の照射の継続にしたがって深くなっていく。
【0054】
第2レーザ光は、第1レーザ光が照射される位置とほぼ同位置に照射される。このため、第2レーザ光は、第1レーザ光によって雪等が融解されると、第1レーザ光によって形成された穴70の底部72に照射されることとなる。以下、穴70の底部72における雪等の表面を、測定表面と呼ぶことがある。また、航空機1(出射部18)から測定表面までの距離を、測定距離と呼ぶことがある。
【0055】
第1レーザ光の照射開始後(本測定開始後)、距離導出部54は、測定表面で反射された第2レーザ光に基づいて、測定距離を導出する。具体的には、距離導出部54は、第2レーザ光の出射時刻から受光時刻までの経過時間から測定距離を導出する。距離導出部54は、第2レーザ光のパルス間隔毎に測定距離の導出を繰り返す。
【0056】
融解速度導出部56は、測定距離の推移に基づいて、測定対象の雪等の融解速度を導出する。具体的には、融解速度導出部56は、測定距離と基準距離との差分から基準表面に対する穴70の深さを導出する。そして、融解速度導出部56は、第1レーザ光の単位照射時間に対する穴70の深さの推移に基づいて、測定対象の雪等の融解速度を導出する。なお、融解速度導出部56は、第2レーザ光のパルス間隔(出射間隔)を、第1レーザ光の単位照射時間として用いてもよい。
【0057】
硬度導出部58は、融解速度に基づいて、測定対象の雪等の硬度(硬さ)を導出する。例えば、硬度導出部58には、雪等の融解速度と硬度とが関連付けられた硬度テーブルが記憶されている。硬度テーブルは、例えば、実験やシミュレーションなどによって予め作成される。硬度導出部58は、導出された融解速度と硬度テーブルとから、測定対象の雪等の硬度を導出する。なお、硬度の導出方法は、硬度テーブルを用いる態様に限らない。例えば、硬度導出部58は、融解速度と硬度との関係を示す関数を用いて硬度を導出してもよい。
【0058】
着陸判定部60は、導出された雪等の硬度に基づいて、測定対象の雪等の上に航空機1が着陸できるか否かを判定する。例えば、着陸判定部60は、基準表面から所定深さに至るまでに、所定硬度以上の雪等の層の深さが所定深さ(厚さ)以上ある場合に、航空機1が着陸可能であると判定する。また、着陸判定部60は、基準表面から所定深さに至るまでに、所定硬度以上の雪等の層の深さが所定深さ(厚さ)以上ない場合に、航空機1が着陸不可能であると判定する。
【0059】
また、地面については、第1レーザ光が照射されたとしても融解されない。このため、地面に第1レーザ光および第2レーザ光が照射された場合、融解速度導出部56で導出される融解速度は、ほぼゼロとなる。この場合、導出される硬度は、所定硬度以上となるが、導出される深さは、それ以上増加しない。そこで、着陸判定部60は、第2レーザ光が所定硬度以上の層に到達したが、その所定硬度以上の層の深さが所定深さに到達せずに所定時間が経過した場合には、第2レーザ光が地面に到達したとみなし、航空機1が着陸可能であると判定してもよい。
【0060】
図3は、雪等の層、雪等の深さ、経過時間、雪等の硬度の関係を説明する説明図である。図3(a)は、雪等の層と深さとの関係を例示している。図3(b)は、プレ測定開始からの経過時間と雪等の深さとの関係を例示している。図3(c)は、雪等の硬度と深さとの関係を例示している。図3(a)、図3(b)、図3(c)の雪等の深さは、基準表面からの深さを示している。
【0061】
ここでは、図3(a)に示すように、地面の直上に雪等の硬い層があり、さらにその上に雪等の柔らかい層があるとする。
【0062】
図3(b)に示すように、時刻T0から時刻T1までは、プレ測定が行われており、第1レーザ光が出射されていない。このため、時刻T0から時刻T1までは、雪等が融解されず、第2レーザ光に基づいて導出される深さが変化していない。
【0063】
時刻T1になると本測定が開始され、第1レーザ光が出射される。これにより、まず、柔らかい層の雪等が融解され始める。その後、柔らかい層の雪等に第1レーザ光を照射し続けると、その柔らかい層の雪等に形成される穴70の深さが深くなっていく。このとき、柔らかい層では、第1レーザ光の単位照射時間に融解される雪等の量が多い。これは、柔らかい層では、雪等の密度が小さく、比熱が小さいため、少ないエネルギーで雪等を融解させることができるからである。つまり、柔らかい層では、単位時間あたりの深さの変化が大きく、融解速度が高い。この場合、図3(c)に示すように、雪等の硬度は小さい。
【0064】
図3(b)の時刻T2になると、穴70の深さが、柔らかい層から硬い層に達している。その後、硬い層の雪等に第1レーザ光を照射し続けると、その穴70の深さがさらに深くなっていく。このとき、硬い層では、第1レーザ光の単位照射時間に融解される雪等の量が少ない。これは、硬い層では、雪等の密度が大きく、比熱が大きいため、エネルギーを多く消費しないと雪等を融解させることができないからである。つまり、硬い層では、単位時間あたりの深さの変化が小さく、融解速度が低い。この場合、図3(c)に示すように、雪等の硬度は、柔らかい層よりも大きくなっている。
【0065】
また、図3(b)の時刻T3になると、穴70が地面にまで達している。その後、地面に第1レーザ光を照射し続けても、穴70の深さは変化しない。つまり、地面では、単位時間あたりの深さの変化がほとんどなく、融解速度がほぼゼロとなる。この場合、図3(c)に示すように、地面の硬度は、雪等の硬い層以上となっている。
【0066】
このように、雪等の融解速度は、その雪等の硬度に関連付けられる。なお、図3(b)では、時間に対する深さの変化を概念的に示すために、直線的に示していた。しかし、時間に対する深さの変化は、直線的に限らず、曲線的であってもよい。
【0067】
図4は、本測定より前に行われるプレ測定時の距離導出部54の動作を説明するフローチャートである。プレ測定時には、第2レーザ光を出射するが、第1レーザ光を出射しないため、測定対象の雪等は、まだ融解されていない。
【0068】
まず、距離導出部54は、光出射制御部52から第2レーザ光の出射時刻を取得する(S100)。次に、距離導出部54は、光検出部24から第2レーザ光の受光時刻を取得する(S110)。次に、距離導出部54は、第2レーザ光の出射時刻から受光時刻までの経過時間を導出する(S120)。次に、距離導出部54は、導出された経過時間に基づいて基準距離を導出する(S130)。
【0069】
図5は、本測定時の動作を説明するフローチャートである。本測定時には、第1レーザ光および第2レーザ光の両方が出射されるため、測定対象の雪等は融解される。図5に示す一連の処理は、例えば、第2レーザ光のパルス毎に行われる。例えば、第2レーザ光が出射されると、まず、硬度の取得が行われる(S200)。
【0070】
図6は、硬度の取得処理を説明するフローチャートである。まず、距離導出部54は、光出射制御部52から第2レーザ光の出射時刻を取得する(S210)。次に、距離導出部54は、光検出部24から第2レーザ光の受光時刻を取得する(S220)。次に、距離導出部54は、第2レーザ光の出射時刻から受光時刻までの経過時間を導出する(S230)。次に、距離導出部54は、導出された経過時間に基づいて測定距離を導出する(S240)。
【0071】
次に、融解速度導出部56は、距離導出部54によって導出された測定距離に基づいて、基準表面からの穴70の深さを導出する(S250)。具体的には、融解速度導出部56は、基準距離と測定距離との差分を導出し、基準表面に対する深さとする。次に、融解速度導出部56は、基準表面からの深さと第2レーザ光のパルス間隔とに基づいて、測定対象の雪等の融解速度を導出する(S260)。
【0072】
次に、硬度導出部58は、融解速度導出部56によって導出された融解速度に基づいて、測定対象の雪等の硬度を導出する(S270)。具体的には、硬度導出部58は、導出された融解速度と硬度テーブルとから、測定対象の雪等の硬度を導出する。
【0073】
図5に戻って説明すると、ステップS200の後、着陸判定部60は、導出された硬度が、所定硬度以上であるか否かを判定する(S310)。
【0074】
所定硬度以上ではない場合(S310におけるNO)、着陸判定部60は、基準表面からの深さが、所定深さ以上であるか否かを判定する(S320)。ここでの所定深さは、例えば、航空機1の脚部の高さに基づいて設定される。所定深さ以上ではない場合(S320におけるNO)、着陸判定部60は、ステップS200の処理に戻る。そして、次の第2レーザ光が出射されると、再び硬度の取得処理(図6のフローチャートの処理)が行われる。
【0075】
一方、所定深さ以上である場合(S320におけるYES)、着陸判定部60は、柔らかい雪等の層が深いため、着陸不可であると判定し(S330)、一連の処理を終了する。
【0076】
また、所定硬度以上である場合(S310におけるYES)、着陸判定部60は、硬い層の深さ(厚さ)を導出する(S340)。例えば、硬度導出部58は、硬度が所定硬度未満から所定硬度に切り替わった時点における基準表面からの深さ(境界深さ)をバッファに記憶させておく。着陸判定部60は、基準表面からの現時点の深さと、境界深さとの差分を導出して、硬い層の深さとする。
【0077】
次に、着陸判定部60は、硬い層の深さが所定深さ以上であるか否かを判定する(S350)。ここでの所定深さは、例えば、航空機1の重量に基づいて設定される。所定深さ以上である場合(S350におけるYES)、着陸判定部60は、雪等の硬い層が十分に厚いため、着陸可能であると判定し(S360)、一連の処理を終了する。
【0078】
一方、所定深さ以上ではない場合(S350におけるNO)、着陸判定部60は、硬度が所定硬度未満から所定硬度以上に切り替わってから、所定時間が経過したか否かを判定する(S370)。ここでの所定時間は、例えば、硬い層の雪等が所定深さだけ融解されるまでに要する時間(例えば、10秒)以上に設定される。
【0079】
所定時間が経過していない場合(S370におけるNO)、着陸判定部60は、ステップS200の処理に戻る。そして、次の第2レーザ光が出射されると、再び硬度の取得処理(図6のフローチャートの処理)が行われる。一方、所定時間が経過した場合(S370におけるYES)、着陸判定部60は、硬い層が地面であるとみなして、着陸可能であると判定し(S360)、一連の処理を終了する。
【0080】
以上のように、本実施形態の積雪状況観測システム10では、第1レーザ光で雪または氷を融解させつつ、融解により形成された穴70の底部72までの距離の推移(穴70の深さの推移)を第2レーザ光で測定する。そして、本実施形態の積雪状況観測システム10では、融解させた位置における雪または氷の融解速度に基づいて、雪または氷の硬度を導出する。
【0081】
したがって、本実施形態の積雪状況観測システム10によれば、雪または氷の硬度を迅速に把握することができる。その結果、本実施形態の積雪状況観測システム10では、航空機1が雪または氷の上に着陸可能であるか否かを迅速に判断することができる。
【0082】
また、本実施形態の積雪状況観測システム10では、光カプラ16で第1レーザ光および第2レーザ光を合波して、第1レーザ光の光軸と第2レーザ光の光軸とを一致させている。これにより、本実施形態の積雪状況観測システム10では、第2レーザ光を用いた測定距離の導出誤差を抑えることができる。また、本実施形態の積雪状況観測システム10では、第1レーザ光で融解させる面積が小さくても、第2レーザ光による距離の測定を行うことができるため、第1レーザ光の照射面積を小さくすることが可能となる。
【0083】
また、本実施形態の積雪状況観測システム10では、第1レーザ光の光路上に偏光フィルタ30および偏光素子32が設けられている。このため、本実施形態の積雪状況観測システム10では、第1レーザ光を出射可能であるとともに、反射された第1レーザ光で第1光源12が損傷することを防止できる。
【0084】
また、本実施形態の積雪状況観測システム10では、航空機1の着陸の可否についても判定しているため、航空機1の着陸の可否の判断を人間が行わなくてよい。
【0085】
なお、積雪状況観測システム10において、雪等の硬度の導出までを行い、着陸判定部60による着陸可否の判定を行わないようにしてもよい。その場合、積雪状況観測システム10により導出された雪等の硬度に基づいて、人間が、着陸可否を判断してもよい。
【0086】
また、積雪状況観測システム10において、出射光を、雪山の斜面などに対して概ね垂直となるように出射させてもよい。斜面では、柔らかい雪が深く積もると、表層雪崩の可能性が高くなる。このため、斜面の積雪に対して硬度を測定することで、表層雪崩の可能性を推測することが可能となる。つまり、本実施形態の積雪状況観測システム10は、航空機1の着陸可否の判断に利用できるだけでなく、広く、積雪状況を観測することに利用できる。
【0087】
また、積雪状況観測システム10において、出射光の出射方向を所定時間ごとにずらし、所定エリアを出射光で走査させてもよい。例えば、航空機1を着陸させるエリアについて出射光を走査させるようにすれば、着陸可否の判断の信頼性を高めることができる。
【0088】
以上、添付図面を参照しながら本発明の実施形態について説明したが、本発明はかかる実施形態に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【産業上の利用可能性】
【0089】
本発明は、積雪状況を観測する積雪状況観測システムに利用できる。
【符号の説明】
【0090】
1 航空機
10 積雪状況観測システム
12 第1光源
14 第2光源
16 光カプラ
30 偏光フィルタ
32 偏光素子
54 距離導出部
56 融解速度導出部
58 硬度導出部
60 着陸判定部
70 穴
72 底部
図1
図2
図3
図4
図5
図6