(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-07
(45)【発行日】2023-02-15
(54)【発明の名称】車両
(51)【国際特許分類】
B60K 11/04 20060101AFI20230208BHJP
B60K 11/06 20060101ALI20230208BHJP
B60W 10/30 20060101ALI20230208BHJP
B60W 20/00 20160101ALI20230208BHJP
B60K 6/442 20071001ALN20230208BHJP
B60K 6/40 20071001ALN20230208BHJP
【FI】
B60K11/04 K
B60K11/06
B60K11/04 L
B60W10/30 900
B60W20/00
B60K6/442 ZHV
B60K6/40
(21)【出願番号】P 2019140775
(22)【出願日】2019-07-31
【審査請求日】2022-03-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】110000936
【氏名又は名称】弁理士法人青海国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】長田 健志
(72)【発明者】
【氏名】上田 和明
【審査官】塩澤 正和
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-135052(JP,A)
【文献】特開2005-318675(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60K 11/04
B60K 11/06
B60W 10/30
B60W 20/00
B60K 6/442
B60K 6/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
外気が流通する外気流路と、
前記外気流路に隣接して設けられ、冷却対象をそれぞれ収容する複数のケースと、
前記複数のケースのうち第1ケースの内部空間と、前記第1ケースに隣接する第2ケースの内部空間と、前記外気流路とを相互に連通させる通気口と、
前記通気口に設けられ、複数の開閉パターンで前記通気口を開閉することにより、前記第1ケースの内部空間と前記第2ケースの内部空間と前記外気流路との連通状態を切り替える弁と、
を備え
、
前記通気口は、前記第1ケースと前記第2ケースと前記外気流路の境界部分に設けられ、
前記弁は、前記外気流路における前記外気の流通方向に対して交差する方向に延びる回動軸を中心に回動可能に設けられ、前記回動軸から三方向に張り出す3つの弁体を有し、
前記回動軸を中心に前記弁を回動させることにより、前記第1ケースの内部空間と前記第2ケースの内部空間と前記外気流路との連通状態を切り替える、車両。
【請求項2】
前記開閉パターンは、
前記外気流路と前記第1ケースの内部空間と前記第2ケースの内部空間とを相互に連通させない第1パターンと、
前記外気流路と前記第1ケースの内部空間とを連通させず、かつ、前記外気流路と前記第2ケースとを連通させ、かつ、前記第1ケースの内部空間と前記第2ケースの内部空間とを連通させない第2パターンと、
前記外気流路と前記第1ケースの内部空間とを連通させず、かつ、前記外気流路と前記第2ケースの内部空間とを連通させず、かつ、前記第1ケースの内部空間と前記第2ケースの内部空間とを連通させる第3パターンと、
前記外気流路と前記第1ケースの内部空間とを連通させ、かつ、前記外気流路と前記第2ケースの内部空間とを連通させず、かつ、前記第1ケースの内部空間と前記第2ケースの内部空間とを連通させない第4パターンと、
前記外気流路と前記第1ケースの内部空間と前記第2ケースの内部空間とを相互に連通させる第5パターンと、
を含む、請求項
1に記載の車両。
【請求項3】
外気が流通する外気流路と、
前記外気流路に隣接して設けられ、冷却対象をそれぞれ収容する複数のケースと、
前記複数のケースのうち第1ケースの内部空間と、前記第1ケースに隣接する第2ケースの内部空間と、前記外気流路とを相互に連通させる通気口と、
前記通気口に設けられ、複数の開閉パターンで前記通気口を開閉することにより、前記第1ケースの内部空間と前記第2ケースの内部空間と前記外気流路との連通状態を切り替える弁と、
を備え、
前記開閉パターンは、
前記外気流路と前記第1ケースの内部空間と前記第2ケースの内部空間とを相互に連通させない第1パターンと、
前記外気流路と前記第1ケースの内部空間とを連通させず、かつ、前記外気流路と前記第2ケースとを連通させ、かつ、前記第1ケースの内部空間と前記第2ケースの内部空間とを連通させない第2パターンと、
前記外気流路と前記第1ケースの内部空間とを連通させず、かつ、前記外気流路と前記第2ケースの内部空間とを連通させず、かつ、前記第1ケースの内部空間と前記第2ケースの内部空間とを連通させる第3パターンと、
前記外気流路と前記第1ケースの内部空間とを連通させ、かつ、前記外気流路と前記第2ケースの内部空間とを連通させず、かつ、前記第1ケースの内部空間と前記第2ケースの内部空間とを連通させない第4パターンと、
前記外気流路と前記第1ケースの内部空間と前記第2ケースの内部空間とを相互に連通させる第5パターンと、
を含む、車両。
【請求項4】
前記
複数のケースは、
前記第1ケースと、
前記第2ケースと、
前記第2ケースに隣接する第3ケースと、
を含み、
前記通気口は、
前記第1ケースの内部空間と前記第2ケースの内部空間と前記外気流路とを相互に連通させる第1通気口と、
前記第2ケースの内部空間と前記第3ケースの内部空間と前記外気流路とを相互に連通させる第2通気口と、
を含み、
前記弁は、
前記第1通気口に設けられ、前記第1ケースの内部空間と前記第2ケースの内部空間と前記外気流路との連通状態を切り替える第1弁と、
前記第2通気口に設けられ、前記第2ケースの内部空間と前記第3ケースの内部空間と前記外気流路との連通状態を切り替える第2弁と、
を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の車両。
【請求項5】
前記
複数のケース内にそれぞれ設けられる温度計と、
前記温度計により検出された前記
複数のケース内の温度に基づいて、前記弁の前記開閉パターンを制御する制御部と、
をさらに備える、請求項1~4のいずれか一項に記載の車両。
【請求項6】
前記
複数のケースのうち少なくとも1つのケース内の温度が冷却条件を満たす場合、
前記制御部は、当該ケースの内部空間と前記外気流路とを連通させるように、前記弁を制御する、請求項5に記載の車両。
【請求項7】
前記
複数のケースのうち相隣接する2つ以上のケース内の温度が冷却条件を満たす場合、
前記制御部は、当該2つ以上のケースの内部空間を相互に連通させ、かつ、当該2つ以上のケースのうち、前記外気の流通方向の上流側および下流側のケースの内部空間と前記外気流路とを連通させるように、前記弁を制御する、請求項5または6に記載の車両。
【請求項8】
前記
複数のケースのうち相隣接する2つ以上のケース内の温度が冷却条件を満たさない場合、
前記制御部は、当該2つ以上のケースの内部空間を相互に連通させず、かつ、当該2つ以上のケースの内部空間と前記外気流路とを連通させないように、前記弁を制御する、請求項5~7のいずれか一項に記載の車両。
【請求項9】
前記車両はハイブリッド車両であり、
前記複数のケースのうち前記第1ケースに収容される前記冷却対象は、前記車両のエンジンを含み、
前記複数のケースのうち前記第1ケース以外のケースに収容される前記冷却対象は、前記車両のバッテリを含み、
前記車両の走行モードがEVモードであり、かつ、前記第1ケース内の温度が冷却条件を満たさない場合、
前記制御部は、前記第1ケース
および前記第1ケース以外のケースを含む2つ以上のケースの内部空間を相互に連通させ、かつ、当該2つ以上のケースの内部空間と前記外気流路とを連通させないように、前記弁を制御する、請求項5~8のいずれか一項に記載の車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、特許文献1には、エンジンルームの熱管理やエンジンルームから車外に放出される音の低減のため、エンジンをカバーで覆ってカプセル構造化することが開示されている。また、特許文献2には、電動車両に搭載されるバッテリユニット数の増加を抑制しつつ、車両の衝突時における衝撃を抑制するため、複数のバッテリモジュール群を複数のケースに分けて収容することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2013-119384号公報
【文献】特開2018-069809号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、エンジン、トランスミッション、モータ、バッテリ等の冷却対象となる複数の装置をケース(防音カバー)で覆うカプセル構造では、車両の走行状況によって各装置の発熱状況が変化する。このため、複数のケースを用いて各装置を個別に覆い、各ケースの内部空間を空冷するための通気口と、その開閉機構をそれぞれ設けることが好ましい。これにより、各ケースの内部空間を個別に冷却または保温して、各装置の温度を制御することが可能となる。
【0005】
ここで、各ケースの内部空間を効率良く空冷するためには、各ケースに外気の流入口および流出口となる2箇所以上の通気口を設けることが好ましい。しかし、各ケースに2箇所以上の通気口を設けると、これら通気口の開閉機構の設置数が増加し、コスト増につながるという問題があった。また、通気口の設置数や開口面積が増えると、ケース(防音カバー)による防音性能が低下するという問題もあった。
【0006】
そこで、本発明は、車両に搭載される複数の冷却対象を複数のケースに分けて収容する構造において、各ケースの通気口およびその開閉機構の設置数を低減しつつ、各ケース内の効率の良い温度制御と防音性能を両立することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明のある観点によれば、
外気が流通する外気流路と、
前記外気流路に隣接して設けられ、冷却対象をそれぞれ収容する複数のケースと、
前記複数のケースのうち第1ケースの内部空間と、前記第1ケースに隣接する第2ケースの内部空間と、前記外気流路とを相互に連通させる通気口と、
前記通気口に設けられ、複数の開閉パターンで前記通気口を開閉することにより、前記第1ケースの内部空間と前記第2ケースの内部空間と前記外気流路との連通状態を切り替える弁と、
を備え、
前記通気口は、前記第1ケースと前記第2ケースと前記外気流路の境界部分に設けられ、
前記弁は、前記外気流路における前記外気の流通方向に対して交差する方向に延びる回動軸を中心に回動可能に設けられ、前記回動軸から三方向に張り出す3つの弁体を有し、
前記回動軸を中心に前記弁を回動させることにより、前記第1ケースの内部空間と前記第2ケースの内部空間と前記外気流路との連通状態を切り替える、車両が提供される。
【0009】
開閉パターンは、外気流路と第1ケースの内部空間と第2ケースの内部空間とを相互に連通させない第1パターンと、外気流路と第1ケースの内部空間とを連通させず、かつ、外気流路と第2ケースとを連通させ、かつ、第1ケースの内部空間と第2ケースの内部空間とを連通させない第2パターンと、外気流路と第1ケースの内部空間とを連通させず、かつ、外気流路と第2ケースの内部空間とを連通させず、かつ、第1ケースの内部空間と第2ケースの内部空間とを連通させる第3パターンと、外気流路と第1ケースの内部空間とを連通させ、かつ、外気流路と第2ケースの内部空間とを連通させず、かつ、第1ケースの内部空間と第2ケースの内部空間とを連通させない第4パターンと、外気流路と第1ケースの内部空間と第2ケースの内部空間とを相互に連通させる第5パターンと、を含むようにしてもよい。
また、上記課題を解決するために、本発明の別の観点によれば、
外気が流通する外気流路と、
前記外気流路に隣接して設けられ、冷却対象をそれぞれ収容する複数のケースと、
前記複数のケースのうち第1ケースの内部空間と、前記第1ケースに隣接する第2ケースの内部空間と、前記外気流路とを相互に連通させる通気口と、
前記通気口に設けられ、複数の開閉パターンで前記通気口を開閉することにより、前記第1ケースの内部空間と前記第2ケースの内部空間と前記外気流路との連通状態を切り替える弁と、
を備え、
前記開閉パターンは、
前記外気流路と前記第1ケースの内部空間と前記第2ケースの内部空間とを相互に連通させない第1パターンと、
前記外気流路と前記第1ケースの内部空間とを連通させず、かつ、前記外気流路と前記第2ケースとを連通させ、かつ、前記第1ケースの内部空間と前記第2ケースの内部空間とを連通させない第2パターンと、
前記外気流路と前記第1ケースの内部空間とを連通させず、かつ、前記外気流路と前記第2ケースの内部空間とを連通させず、かつ、前記第1ケースの内部空間と前記第2ケースの内部空間とを連通させる第3パターンと、
前記外気流路と前記第1ケースの内部空間とを連通させ、かつ、前記外気流路と前記第2ケースの内部空間とを連通させず、かつ、前記第1ケースの内部空間と前記第2ケースの内部空間とを連通させない第4パターンと、
前記外気流路と前記第1ケースの内部空間と前記第2ケースの内部空間とを相互に連通させる第5パターンと、
を含む、車両が提供される。
【0010】
複数のケースは、第1ケースと、第2ケースと、第2ケースに隣接する第3ケースと、を含み、通気口は、第1ケースの内部空間と第2ケースの内部空間と外気流路とを相互に連通させる第1通気口と、第2ケースの内部空間と第3ケースの内部空間と外気流路とを相互に連通させる第2通気口と、を含み、弁は、第1通気口に設けられ、第1ケースの内部空間と第2ケースの内部空間と外気流路との連通状態を切り替える第1弁と、第2通気口に設けられ、第2ケースの内部空間と第3ケースの内部空間と外気流路との連通状態を切り替える第2弁と、を含むようにしてもよい。
【0011】
複数のケース内にそれぞれ設けられる温度計と、温度計により検出された複数のケース内の温度に基づいて、弁の開閉パターンを制御する制御部と、をさらに備えるようにしてもよい。
【0012】
複数のケースのうち少なくとも1つのケース内の温度が冷却条件を満たす場合、制御部は、当該ケースの内部空間と外気流路とを連通させるように、弁を制御するようにしてもよい。
【0013】
複数のケースのうち相隣接する2つ以上のケース内の温度が冷却条件を満たす場合、制御部は、当該2つ以上のケースの内部空間を相互に連通させ、かつ、当該2つ以上のケースのうち、外気の流通方向の上流側および下流側のケースの内部空間と外気流路とを連通させるように、弁を制御するようにしてもよい。
【0014】
複数のケースのうち相隣接する2つ以上のケース内の温度が冷却条件を満たさない場合、制御部は、当該2つ以上のケースの内部空間を相互に連通させず、かつ、当該2つ以上のケースの内部空間と外気流路とを連通させないように、弁を制御するようにしてもよい。
【0015】
車両はハイブリッド車両であり、複数のケースのうち第1ケースに収容される冷却対象は、車両のエンジンを含み、複数のケースのうち第1ケース以外のケースに収容される冷却対象は、車両のバッテリを含み、車両の走行モードがEVモードであり、かつ、第1ケース内の温度が冷却条件を満たさない場合、制御部は、第1ケースおよび第1ケース以外のケースを含む2つ以上のケースの内部空間を相互に連通させ、かつ、当該2つ以上のケースの内部空間と外気流路とを連通させないように、弁を制御するようにしてもよい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、車両に搭載される複数の冷却対象を複数のケースに分けて収容する構造において、各ケースの通気口およびその開閉機構の設置数を低減しつつ、各ケース内の効率の良い温度制御と防音性能を両立することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の第1の実施形態に係る車両の構成を示す概略図である。
【
図2】同実施形態に係る車両のカプセル構造を示す模式図である。
【
図3】同実施形態に係るバルブの開閉パターンIを示す断面図である。
【
図4】同実施形態に係るバルブの開閉パターンIIを示す断面図である。
【
図5】同実施形態に係るバルブの開閉パターンIIIを示す断面図である。
【
図6】同実施形態に係るバルブの開閉パターンIVを示す断面図である。
【
図7】同実施形態に係るバルブの開閉パターンVを示す断面図である。
【
図8】同実施形態に係る弁の開閉パターンと空気の流れを示す模式図である。
【
図9】同実施形態に係る弁の開閉パターンと空気の流れを示す模式図である。
【
図10】同実施形態に係る弁の開閉パターンと空気の流れを示す模式図である。
【
図11】同実施形態に係る弁の開閉パターンと空気の流れを示す模式図である。
【
図12】同実施形態に係る弁の開閉パターンと空気の流れを示す模式図である。
【
図13】同実施形態に係る弁の開閉パターンと空気の流れを示す模式図である。
【
図14】同実施形態に係る弁の開閉パターンと空気の流れを示す模式図である。
【
図15】同実施形態に係る弁の開閉パターンと空気の流れを示す模式図である。
【
図16】同実施形態に係る制御部による弁の開閉制御を説明するためのテーブルである。
【
図17】同実施形態に係る制御部による弁の開閉制御を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の実施形態の一態様について詳細に説明する。かかる実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値等は、発明の理解を容易にするための例示に過ぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0019】
[1.車両の構成]
まず、
図1を参照して、本発明の第1の実施形態に係る車両1の全体構成について説明する。
図1は、本実施形態に係る車両1の全体構成を示す概略図である。
【0020】
本実施形態では、車両1が動力源としてエンジンおよびモータの双方を備えたハイブリッド車両、特に、シリーズ・パラレル式(パワースプリット式)のハイブリッド自動車である例について説明する。しかし、本発明の車両は、ハイブリッド車両の例に限定されず、動力源としてエンジンのみを備えた車両、または、動力源としてモータのみを備えた電気車両など、各種の動力源を有する車両に適用可能である。
【0021】
図1に示すように、車両1は、エンジン10と、動力分割機構12と、減速機構(トランスミッション)14と、第1モータジェネレータ16と、第1インバータ18と、バッテリ20と、第2インバータ22と、第2モータジェネレータ24と、制御部26とを備える。さらに、車両1は、ディファレンシャルギヤ34と、ドライブシャフト36と、駆動輪(前輪30および後輪32)とを備える。
【0022】
エンジン10は、車両1を走行させるための駆動力を発生させる。例えば、エンジン10は、ガソリンまたは軽油などの燃料を燃焼させて、ピストンを往復運動させる。当該ピストンの往復運動の動力は、エンジン10の出力軸に接続されたコネクティングロッドを通じて、クランクシャフトの回転運動の動力に変換される。エンジン10により生成された回転動力は、動力分割機構12に伝達される。
【0023】
動力分割機構12は、エンジン10の回転動力を、第1モータジェネレータ16を回転させる動力と、前輪30および後輪32を回転させる動力とに分割する。動力分割機構12は、エンジン10、減速機構14および第1モータジェネレータ16に接続されている。動力分割機構12は、例えば、サンギヤ、プラネタリギヤ、リングギヤ、キャリア等からなる遊星歯車機構を備える。かかる動力分割機構12は、エンジン10から伝達される動力を分割して、減速機構14と第1モータジェネレータ16に伝達する。
【0024】
減速機構14は、エンジン10または第2モータジェネレータ24等の動力源から伝達される回転動力のトルクや回転数等を変換し、当該変換された回転動力を出力軸へと伝達する。減速機構14は、歯車や軸などからなる複数のギヤ機構を備えた組立部品である。減速機構14は、例えば、多段の減速機構でもよく、または無段変速機構(CVT;Continuously Variable Transmission)でもよい。例えば、減速機構14は、例えば、多段の減速機構でもよく、無段変速機構(CVT)でもよい。減速機構14は、動力分割機構12または第2モータジェネレータ24の出力軸の回転速度を複数段階で減速し、減速された回転動力を出力する。減速機構14は、減速された回転動力を、ディファレンシャルギヤ34およびドライブシャフト36等を介して前輪30および後輪32に伝達する。このようにして、エンジン10または第2モータジェネレータ24等の動力源が発生させた駆動力により、車両1が走行する。
【0025】
第1モータジェネレータ16は、モータおよび発電機として機能できるが、主に発電機として機能する。第1モータジェネレータ16は、エンジン10から動力分割機構12を介して伝達される動力を用いて、バッテリ20に蓄電するための電力を発生させる。第1モータジェネレータ16の回転子が動力分割機構12のサンギヤの回転に伴って回転することにより、第1モータジェネレータ16は、交流電力を発生させ、第1インバータ18に出力する。
【0026】
第1インバータ18は、第1モータジェネレータ16およびバッテリ20に電気的に接続されている。第1インバータ18は、第1モータジェネレータ16によって発電された交流電力を直流電力に変換して、バッテリ20に出力する。
【0027】
バッテリ20は、電力を充放電可能な二次電池である。バッテリ20としては、例えば、リチウムイオン電池、リチウムイオンポリマー電池、ニッケル水素電池、ニッケルカドミウム電池または鉛蓄電池が用いられるが、これら以外の電池が用いられてもよい。バッテリ20は、第1モータジェネレータ16から第1インバータ18を介して供給された直流電力を蓄電する。バッテリ20に蓄電された電力は、主に、車両1を走行させるための駆動力を発生させるために用いられる。なお、バッテリ20は、車両1に設けられる各種の補器(例えば、空調機器または音響機器等)と電気的に接続されていてもよく、当該補器はバッテリ20から供給される電力を用いて動作してもよい。
【0028】
バッテリ20は、第2インバータ22を介して第2モータジェネレータ24に電気的に接続されている。第2インバータ22は、バッテリ20から供給された直流電力を交流電力に変換して、第2モータジェネレータ24に出力する。
【0029】
第2モータジェネレータ24は、モータおよび発電機として機能できるが、主にモータとして機能する。第2モータジェネレータ24は、バッテリ20の電力を用いて、車両1を走行させるための駆動力を発生させる。第2モータジェネレータ24の回転子は、減速機構14に接続されている。第2モータジェネレータ24により生成された回転動力は、減速機構14に伝達される。
【0030】
制御部26は、車両1に設けられる各装置を制御する。制御部26は、例えば、プロセッサ、記憶素子等が搭載された半導体集積回路で構成される。制御部26は、物理的に1つの電子制御ユニット(ECU:Electronic Control Unit)で構成されてもよい。あるいは、制御部26は、複数のECU(例えば、エンジンECU、モータECU、トランスミッションECU等)で構成されて、制御部26の制御機能が複数のECUに分担されてもよい。ECUは、中央演算処理装置(CPU:Central Processing Unit)、CPUが使用するプログラムや演算パラメータ等を記憶するROM(Read Only Memory)、CPUによる演算処理において適宜変化するパラメータ等を一時記憶するRAM(Random Access Memory)等を備えてもよい。制御部26は、車両1に搭載される制御対象の各装置を制御するために、例えば、CAN(Controller Area Network)通信を用いて、各装置と通信することができる。
【0031】
[2.カプセル構造の構成]
次に、
図2を参照して、本実施形態に係る車両1に設けられる冷却対象を覆うカプセル構造(防音および冷却機構)について説明する。
図2は、本実施形態に係る車両1のカプセル構造を示す模式図である。
【0032】
図2に示すように、カプセル構造は、車両1に設けられる各種の冷却対象(例えば、エンジン10、減速機構14、バッテリ20等)の周囲を覆うためのカバー構造である。このカプセル構造は、主として、冷却対象を冷却若しくは保温等する温度制御機能と、冷却対象から発生する音を遮断する防音機能を有するが、それ以外にも、冷却対象を保護する機能、防塵機能または防水機能などを有してもよい。
【0033】
冷却対象は、その動作に伴って発熱する装置であり、冷却対象となる装置である。冷却対象が音を発生する装置である場合には、冷却対象は、カプセル構造による防音対象装置にもなりうる。本実施形態では、冷却対象が、主に、エンジン10、減速機構14、バッテリ20である例について説明する。しかし、本発明の冷却対象は、かかる例に限定されず、冷却対象となりうる装置、もしくは当該装置に付随して設けられる装置であれば、車両1に搭載される任意の装置であってよい。
【0034】
図2に示すように、本実施形態に係る車両1のカプセル構造は、複数のケース50A、50B、50Cと、1つの外気流路52と、複数の通気口54A、54Bと、複数の温度計56A、56B、56Cと、複数の弁60A、60Bと、を備える。
【0035】
まず、ケース50A、50B、50Cの構成について説明する。ケース50A、50B、50Cは、複数の冷却対象を個別に収容するための収容部材である。個々のケース50A、50B、50Cの内部空間51A、51B、51C(以下、それぞれ「ケース50」、「内部空間51」と総称する場合もある。)は、冷却対象を収容するための収容室として機能する。本実施形態では、3つのケース50A、50B、50Cが設けられる例について説明する。なお、ケースの設置数は、複数であれば、2つ、または4つ以上であってもよい。
【0036】
ケース50は、例えば、上面、下面、前面、後面および左右両側面を有する略直方体形状の箱状であり、冷却対象の全周を覆う。これにより、ケース50内で冷却対象をほぼ気密に収容することができるとともに、冷却対象から発生する音がケース50の外部に漏れないように遮蔽することもできる。
【0037】
なお、ケースの形状は、本実施形態に係るケース50のように直方体形状でなくても、冷却対象の周囲を覆うことができる形状であれば、任意の形状であってよい。また、防音性の向上の観点からは、できるだけケースに開口部を設けない方が好ましいが、ケースの一部に、通気用または装置連結用の開口部が形成されていてもよい。また、車両1の他の部材(例えばエンジンカバー、アンダーカバー、フロアパネル等)とケースを連結することによって、冷却対象を覆う構造であってもよく、この場合、ケース自体の1面または複数面が開口していてもよい。
【0038】
ケース50の素材としては、アルミニウム、チタン、スチール等の金属、または合成樹脂などを用いることができる。ケース50を構成する壁面は、防音壁として機能するので、ケース50を防音性を有する素材で形成してもよいし、金属性のケース50に、防音性を有する部材を取り付けてもよい。
【0039】
図2に示すように、本実施形態では、3つのケース50A、50B、50Cが、1つの外気流路52に隣接して設けられる。これら3つのケース50は、車両1の前後方向X(外気の流通方向)に連続的に並設されている。ケース50A(第1ケース)は、外気流路52の上流側(車両1の前方側)に配置される。ケース50C(第3ケース)は、外気流路52の下流側(車両1の後方側)に配置される。ケース50B(第2ケース)は、ケース50A(第1ケース)とケース50C(第3ケース)の間に配置され、両ケース50A、50Cと隣接している。
【0040】
このように相隣接する複数のケース50の作製方法は、特に限定されない。例えば、
図2に示すように、1つの箱型のケースの内部に2つの隔壁53A、53Bを設け、当該ケースの内部空間を3つの内部空間51A、51B、51Cに区画することで、相隣接する3つのケース50A、50B、50Cを作製してもよい。あるいは、3つの箱型のケースを車両前後方向Xに連結することにより、相隣接する3つのケースを作製してもよい。ケースの設置数が2つまたは4つ以上である場合も同様にして、相隣接する複数のケースを作製できる。
【0041】
以上の構成の3つのケース50内にそれぞれ、冷却対象が収容される。
図2の例では、ケース50A(第1ケース)内にエンジン10が収容され、ケース50B(第2ケース)内に減速機構14が収容され、ケース50C(第3ケース)内にバッテリ20が収容される。
【0042】
エンジン10、減速機構14およびバッテリ20は、その動作に応じて発熱する装置であり、その動作状況や動作環境によっては、冷却することが求められる冷却対象となりうる。エンジン10は、車両1の前方に配置され、その出力軸に減速機構14が接続されている。また、バッテリ20は、車両1の後方に配置される。説明の便宜上、
図2の例では、エンジン10、減速機構14、バッテリ20を、その順に単純に並べて図示してあるが、車両1内におけるこれら冷却対象の配置は、適宜変更されてもよい。
【0043】
また、
図2では図示を省略しているが、エンジン10、減速機構14およびバッテリ20以外の装置を、ケース50内に収容してもよい。例えば、ケース50B(第2ケース)内に、減速機構14以外にも、モータや発電機(例えば、
図1に示した第1モータジェネレータ16、第2モータジェネレータ24)、またはギヤ機構(例えば、
図1に示した動力分割機構12)等を収容してもよい。また、ケース50C(第3ケース)内に、バッテリ20以外にも、インバータ(例えば、
図1に示した第1インバータ18、第2インバータ22)またはコンバータ等を収容してもよい。各ケース50内に収容される装置は、車両の種類や、搭載される装置構成、設置スペースの制約等に応じて、適宜変更可能である。
【0044】
次に、上記ケース50内に収容された冷却対象を冷却または保温するための冷却機構の構成について説明する。
【0045】
外気流路52は、車両1の外部の空気(即ち、外気)を車両1内のケース50に沿って流通させるための流路である。外気流路52は、車両1の前後方向X(以下、単に「車両前後方向X」という場合もある。)に延びるように配置され、車両前方から車両1内に導入された外気を、車両後方に向けて誘導する。
【0046】
外気流路52の車両前後方向Xの長さは、ケース50の車両前後方向Xの長さよりも長い。外気流路52の幅は、ケース50の幅と同程度である。ここで、「幅」とは、車両1の幅方向Y(
図2の紙面に対して垂直方向。以下、単に「車幅方向Y」という場合もある。)の長さである。外気流路52の先端開口(吸気口)は、車両1の前部側に配置され、例えば、フロントグリル等の周辺に配置されてもよい。外気流路52の後端開口(排気口)は、車両1の後部側に配置され、例えば、アンダーカバー等の周辺に車外に露出して配置されてもよい。フロントグリルの吸気口等から流入した外気が、外気流路52の先端開口から外気流路52内に導入され、外気流路52の後端開口から車外に排出される。
【0047】
外気流路52内を流れる外気は、ケース50A、50B、50C内に収容された冷却対象を空冷するための冷媒として機能する。当該空冷時の熱交換により昇温した空気は、外気流路52内を車両後方に向けて流れて、外気流路52の後端開口から排出される。車両1の走行に伴い車両1前方から車両1内に流入する走行風を用いて、外気流路52内に外気を流通させてもよい。あるいは、ファン等により強制的に発生させた空気流を用いて、外気流路52内に外気を流通させてもよい。
【0048】
通気口54A、54B(以下、「通気口54」と総称する場合もある。)は、上記の複数のケース50の内部空間51と外気流路52とを連通させるための開口部である。通気口54は、相隣接する2つのケース50、50と外気流路52との境界部分に形成され、当該2つのケース50、50の内部空間51、51と外気流路52とを相互に連通させる。
【0049】
具体的には、通気口54A(第1通気口)は、相隣接する2つのケース50A、50Bと、外気流路52との境界部分に形成され、ケース50Aの内部空間51Aと、ケース50Bの内部空間51Bと、外気流路52とを相互に連通させる。かかる通気口54Aを形成するために、ケース50A、50Bそれぞれの上面の一部が切り欠かれ、ケース50A、50Bの間の隔壁53Aの上部が切り欠かれている。
【0050】
同様に、通気口54B(第2通気口)は、相隣接する2つのケース50B、50Cと、外気流路52との境界部分に形成され、ケース50Bの内部空間51Bと、ケース50Cの内部空間51Cと、外気流路52とを相互に連通させる。かかる通気口54Bを形成するために、ケース50B、50Cそれぞれの上面の一部が切り欠かれ、ケース50B、50Cの間の隔壁53Bの上部が切り欠かれている。
【0051】
温度計56A、56B、56C(以下、「温度計56」と総称する場合もある。)は、各ケース50A、50B、50C内に配置され、各ケース50A、50B、50Cの内部空間51A、51B、51Cの温度TA、TB、TCを検出する。各温度計56により検出された温度TA、TB、TCは、制御部26に出力される。制御部26は、温度TA、TB、TCに基づいて、弁60A、60Bによる通気口54A、54Bの開閉パターンを制御する。この開閉制御の詳細は後述する。
【0052】
弁60A、60B(以下、「弁60」と総称する場合もある。)は、通気口54A、54Bを開閉するための開閉機構であり、例えばシャッター部材として機能する。弁60A(第1弁)は、通気口54A(第1通気口)に設けられ、複数の開閉パターンで当該通気口54Aを開閉する。弁60B(第2弁)は、通気口54B(第2通気口)に設けられ、複数の開閉パターンで当該通気口54Bを開閉する。弁60は、制御部26の指令に応じて回動して、通気口54を開閉する。かかる弁60の開閉動作により、各ケース50の内部空間51と外気流路52の連通状態だけでなく、相隣接する2つのケース50、50の内部空間51、51の連通状態も切り替えることができる。
【0053】
上述したように、通気口54は、相隣接する2つのケース50、50の内部空間51、51と外気流路52を含む3つの空間を相互に連通させる開口部である。弁60は、通気口54を複数の開閉パターンで開閉することにより、これら3つの空間の連通状態を切り替える三方弁として機能する。このために、弁60は、例えばT字型の断面形状を有し、当該3つの空間に跨る通気口54を多様に開放/閉鎖できるように構成されている。
【0054】
弁60は、通気口54において、回動軸を中心に回動可能に設けられる。当該回動軸は、外気流路52における外気の流通方向(即ち、車両前後方向X)に対して交差する方向に延びる軸である。例えば、
図2に示す弁60は、外気の流通方向に対して垂直な方向(即ち、車幅方向Y)に延びる回動軸を中心に回動可能である。弁60は、例えば、電動の回転式弁であり、不図示のアクチュエータ等の駆動装置により回動する。弁60の回動動作(開閉動作)は、制御部26により制御される。
【0055】
弁60の大きさおよび形状は、通気口54の大きさおよび形状に対応している。車幅方向Yの弁60の幅は、当該方向における通気口54の幅と略同一か、または若干小さい程度である。上記のように、通気口54が、車幅方向Yに細長い帯状の開口部であれば、弁60も、当該通気口54のほぼ全体を閉鎖できるような細長い部材で形成される。
【0056】
本実施形態に係る弁60は、回動軸から三方向に張り出す少なくとも3つの弁体を有する。例えば、
図2に示すように、前方側の通気口54Aを開閉する弁60Aは、T字型の断面形状を有し、2つのケース50A、50Bの上面と隔壁53Aにそれぞれ対応する3つの弁体61、62、63(
図3参照。)を備えてもよい。かかる弁60Aを通気口54A内で回動軸を中心に回動させることにより、ケース50Aの内部空間51Aと、ケース50Bの内部空間51Bと、外気流路52という3つの空間の連通状態を切替可能である。同様に、後方側の弁60Bも、T字型の断面形状を有し、2つのケース50B、50Cの上面と隔壁53Bにそれぞれ対応する3つの弁体を備えてもよい。かかる弁60Bを通気口54B内で回動軸を中心に回動させることにより、ケース50Bの内部空間51Bと、ケース50Cの内部空間51Cと、外気流路52という3つの空間の連通状態を切替可能である。
【0057】
上記構成の通気口54と弁60を設けることにより、外気流路52の外気を各ケース50の内部空間51に流入させたり、各ケース50の内部空間51の空気を外気流路52に流出させたり、相隣接する2つのケース50、50間で空気を流入出させたり、これら空気の流れを遮断したりできる。これにより、各ケース50の内部空間51の温度を制御し、各ケース50内の冷却対象を空冷したり、保温したりできるようになる。
【0058】
[3.弁の構成と開閉パターン]
次に、
図3~
図7を参照して、本実施形態に係る弁60の構成と、弁60による通気口54の開閉パターンについて、より詳細に説明する。
図3~
図7は、本実施形態に係る弁60による通気口54の開閉パターンI~Vを示す断面図である。なお、以下では、
図2に示した上流側の通気口54Aを開閉する弁60Aの開閉パターンについて説明するが、下流側の通気口54Bを開閉する弁60Bの開閉パターンも同様である。
【0059】
図3~
図7に示すように、通気口54Aを開閉する弁60Aは、例えば、T字型の断面形状を有し、回動軸65から三方向に張り出した3つの弁体61、62、63を備える。3つの弁体61、62、63はそれぞれ、上流側のケース50Aの上面57Aと、下流側のケース50Bの上面57Bと、ケース50Aとケース50Bの境界である隔壁53Aに対応している。通気口54A内で弁60Aが回動したときに、弁体61、62、63が上面57A、57Bや隔壁53Aと干渉せず、かつ、通気口54Aを適切に閉鎖できるように、各弁体61、62、63の張出長さや形状等が調整されている。
【0060】
なお、
図3~
図7に示すように、弁60Aの断面形状がT字型であれば、3つの弁体61、62、63を用いて通気口54Aを適切に開閉できる。しかし、弁60Aの断面形状は、通気口54を開閉可能な形状であれば、例えば、Y字型、十字型、三角形状、ギヤ状、星形、湾曲形状など、任意の形状であってよい。
【0061】
かかる弁60Aによる通気口54Aの開閉パターンは、少なくとも以下の5つの開閉パターンI~Vを含む。
【0062】
(1)開閉パターンI(第1パターン)
図3に示すように、開閉パターンIは、外気流路52と、上流側のケース50A(第1ケース)の内部空間51Aと、下流側のケース50B(第2ケース)の内部空間51Bとを相互に連通させないパターンである。
【0063】
開閉パターンIでは、外気流路52と内部空間51A間の部分の通気口54Aが弁体61により閉鎖され、外気流路52と内部空間51B間の部分の通気口54Aが弁体62により閉鎖され、かつ、内部空間51Aと内部空間51B間の部分の通気口54Aが弁体63により閉鎖される。したがって、外気流路52と内部空間51Aと内部空間51Bは、相互に連通しない状態となり、これら3つの空間の間で空気が流出入しない。
【0064】
かかる開閉パターンIでは、外気流路52の外気がケース50A、50Bの内部空間51A、51Bに流入しないので、内部空間51A、51Bが保温される。したがって、ケース50A、50Bにそれぞれ収容されたエンジン10と減速機構14を保温したい場合や、エンジン10と減速機構14の暖気を促進したい場合に、開閉パターンIは有用である。
【0065】
(2)開閉パターンII(第2パターン)
図4に示すように、開閉パターンIIは、外気流路52とケース50Bの内部空間51Bを連通させる一方、外気流路52とケース50Aの内部空間51Aとを連通させず、かつ、ケース50Aの内部空間51Aとケース50Bの内部空間51Bとを連通させないパターンである。開閉パターンIの弁60Aの位置を基準としたときに、開閉パターンIIの弁60Aは、時計回りに90度回転している。
【0066】
開閉パターンIIでは、外気流路52と内部空間51A間の部分の通気口54Aが弁体63により閉鎖され、かつ、内部空間51Aと内部空間51B間の部分の通気口54Aが弁体62により閉鎖される。一方、外気流路52と内部空間51B間の部分の通気口54Aは、弁60Aにより閉鎖されず、開放されている。したがって、外気流路52と内部空間51Aは相互に連通しない状態となり、内部空間51Aと内部空間51Bは、相互に連通しない状態となる。一方、外気流路52と内部空間51Bは相互に連通した状態となる。
【0067】
かかる開閉パターンIIでは、外気流路52の外気がケース50Aの内部空間51Aに流入せず、内部空間51Aと内部空間51Bとの間で空気が流出入しないので、内部空間51Aが保温される。一方、外気流路52の外気がケース50Bの内部空間51Bに流入するので、内部空間51Bの温度を低下させることができる。したがって、ケース50Aに収容されたエンジン10を冷却することなく、ケース50Bに収容された減速機構14を冷却したい場合に、開閉パターンIIは有用である。
【0068】
(3)開閉パターンIII(第3パターン)
図5に示すように、開閉パターンIIIは、外気流路52とケース50Aの内部空間51Aとを連通させず、かつ、外気流路52とケース50Bの内部空間51Bを連通させない一方、ケース50Aの内部空間51Aとケース50Bの内部空間51Bとを連通させるパターンである。開閉パターンIの弁60Aの位置を基準としたときに、開閉パターンIIIの弁60Aは、時計回りに180度回転している。
【0069】
開閉パターンIIIでは、外気流路52と内部空間51A間の部分の通気口54Aが弁体62により閉鎖され、かつ、外気流路52と内部空間51B間の部分の通気口54Aが弁体61により閉鎖される。一方、内部空間51Aと内部空間51B間の部分の通気口54Aは、弁60Aにより閉鎖されず、開放されている。したがって、外気流路52と内部空間51Aは相互に連通しない状態となり、外気流路52と内部空間51Bは、相互に連通しない状態となる。一方、内部空間51Aと内部空間51Bは相互に連通した状態となる。
【0070】
かかる開閉パターンIIIでは、外気流路52の外気がケース50A、50Bの内部空間51A、51Bに流入しない一方、内部空間51Aと内部空間51Bとの間で空気が流出入する。このため、内部空間51Aと内部空間51Bの間で、熱交換が生じる。したがって、ケース50Aに収容されたエンジン10の熱を、ケース50Bに収容された減速機構14に伝えたり、逆に、減速機構14の熱をエンジン10に伝えたりしたい場合に、開閉パターンIIIは有用である。
【0071】
(4)開閉パターンIV(第4パターン)
図6に示すように、開閉パターンIVは、外気流路52とケース50Aの内部空間51Aを連通させる一方、外気流路52とケース50Bの内部空間51Bとを連通させず、かつ、ケース50Aの内部空間51Aとケース50Bの内部空間51Bとを連通させないパターンである。開閉パターンIの弁60Aの位置を基準としたときに、開閉パターンIVの弁60Aは、時計回りに270度回転している。
【0072】
開閉パターンIVでは、外気流路52と内部空間51B間の部分の通気口54Aが弁体63により閉鎖され、かつ、内部空間51Aと内部空間51B間の部分の通気口54Aが弁体61により閉鎖される。一方、外気流路52と内部空間51A間の部分の通気口54Aは、弁60Aにより閉鎖されず、開放されている。したがって、外気流路52と内部空間51Bは相互に連通しない状態となり、内部空間51Aと内部空間51Bは、相互に連通しない状態となる。一方、外気流路52と内部空間51Aは相互に連通した状態となる。
【0073】
かかる開閉パターンIVでは、外気流路52の外気がケース50Bの内部空間51Bに流入せず、内部空間51Aと内部空間51Bとの間で空気が流出入しないので、内部空間51Bが保温される。一方、外気流路52の外気がケース50Aの内部空間51Aに流入するので、内部空間51Aの温度を低下させることができる。したがって、ケース50Bに収容された減速機構14を冷却することなく、ケース50Aに収容されたエンジン10を冷却したい場合に、開閉パターンIVは有用である。
【0074】
(5)開閉パターンV(第5パターン)
図7に示すように、開閉パターンVは、外気流路52と、上流側のケース50Aの内部空間51Aと、下流側のケース50Bの内部空間51Bとを相互に連通させるパターンである。開閉パターンIの弁60Aの位置を基準としたときに、開閉パターンVの弁60Aは、時計回りに例えば45度回転している。
【0075】
開閉パターンVでは、通気口54Aのうち、外気流路52と内部空間51A間の部分も、外気流路52と内部空間51B間の部分も、内部空間51Aと内部空間51B間の部分も、弁60Aにより閉鎖されない。したがって、外気流路52と内部空間51Aと内部空間51Bは、相互に連通した状態となり、これら3つの空間の間で空気が自由に流出入する。
【0076】
かかる開閉パターンVでは、外気流路52の外気がケース50A、50Bの内部空間51A、51Bの双方に流入する。さらに、内部空間51Aと内部空間51Bとの間で空気が流出入する。従って、外気流路52の外気が大量に内部空間51A、51Bを通過するので、内部空間51A、51Bの温度を大幅に低下させることができる。したがって、ケース50A、50Bにそれぞれ収容されたエンジン10と減速機構14を強く冷却したい場合に、開閉パターンVは有用である。
【0077】
以上のように、本実施形態では、相隣接するケース50、50の境界位置に通気口54と弁60を設け、制御部26により弁60の開閉パターンを制御する。これにより、複数の開閉パターンで通気口54を開閉でき、相隣接する2つのケース50、50の内部空間51、51と外気流路52との連通状態を多様に切替可能となる。よって、少ない設置数の通気口54と弁60で、複数のケース50の内部空間51の温度を個別に制御することができる。つまり、ケース50の設置数よりも少ない設置数の通気口54および弁60を設置するだけで、各ケース50内の温度を制御可能となる。例えば、
図2に示すように3つのケース50A、50B、50Cを設ける場合、2つの通気口54A、54Bと2つの弁60A、60Bを設置すればよい。
【0078】
したがって、通気口54および弁60の設置数を低減できるので、カプセル構造の冷却機構の装置構成を簡素化でき、装置コストを低減できる。さらに、上記ケース50を用いたカプセル構造によれば、ケース50に形成される開口部の数と開口面積を低減でき、カプセル構造による密閉性が高いので、カプセル構造の防音性も向上できる。
【0079】
[3.弁の開閉制御のための判定条件]
次に、
図8~
図15を参照して、本実施形態に係る弁60の開閉制御のための判定条件と、判定結果に基づく弁60の開閉制御について詳細に説明する。
図8~
図15は、本実施形態に係る弁60の開閉パターンと空気の流れを示す模式図である。なお、説明の便宜上、
図8~
図15では、ケース50、外気流路52、通気口54、温度計56および弁60を図示し、エンジン10、減速機構14およびバッテリ20等の図示は省略してある。
【0080】
制御部26は、各温度計56A、56B、56Cから、各ケース50A、50B、50Cの内部空間51A、51B、51Cの温度TA、TB、TCを取得する。そして、制御部26は、取得した温度TA、TB、TCが、予め規定された判定条件を満たすか否かに基づいて、弁60A、60Bの開閉パターンI~Vを制御する。判定条件は、例えば、各ケース50内の温度TA、TB、TCが冷却条件を満たすか否か、および、車両1の走行モードが特定のモードであるか否か、などである。冷却条件は、例えば、各ケース50内の温度TA、TB、TCが、ケース50ごとに設定された上限温度TA_MAX、TB_MAX、TC_MAX以上であるか否か、などである。
【0081】
制御部26は、判定条件として、例えば、以下の5つの判定条件を満たすか否かを判定し、弁60A、60Bの開閉パターンI~Vを制御する。5つの判定条件については、その序数が大きいほど、優先度が高い判定条件である。すなわち、「第1判定条件」<「第2判定条件」<「第3判定条件」<「第4判定条件」<「第5判定条件」の順で優先される。2つ以上の判定条件を重複して満たす場合、序数が大きい方の判定条件が優先される。
【0082】
(1)第1判定条件
第1判定条件は、各ケース50内の温度が、予め設定された冷却条件を満たすか否かである。例えば、第1判定条件は、各ケース50A、50B、50C内の温度TA、TB、TCが、ケース50A、50B、50Cにそれぞれ設定された上限温度TA_MAX、TB_MAX、TC_MAX以上であるか否かである。制御部26は、この第1判定条件を判定する。この判定の結果、いずれか1つのケース50の温度TA、TB、TCが第1判定条件を満たす場合、制御部26は、そのケース50A、50B、50Cの内部空間51と外気流路52が連通状態となるように、弁60A、60Bを制御する。
【0083】
例えば、ケース50A内の温度T
Aが上限温度T
A_MAX以上であり、ケース50B、50Cの温度T
B、T
Cが上限温度T
B_MAX、T
C_MAX未満であると判定された場合を考える(T
A≧T
A_MAX、T
B<T
B_MAX、T
C<T
C_MAX)。この場合、
図8に示すように、制御部26は、弁60Aを開閉パターンIVに、弁60Bを開閉パターンIに制御する。これにより、外気流路52からケース50Aに外気が流入して、ケース50Aと外気流路52とが熱交換を行うことで、ケース50A内のエンジン10のみが好適に冷却される。
【0084】
(2)第2判定条件
第2判定条件は、複数のケース50A、50B、50C内の温度TA、TB、TCのうち、隣接する2つ以上のケース50の温度が冷却条件を満たすか否かである。例えば、第2判定条件は、隣接する2つ以上のケース50の温度TA、TB、TCが、対応する上限温度TA_MAX、TB_MAX、TC_MAX以上であるか否かである。制御部26は、この第2判定条件を判定する。この判定の結果、第2判定条件を満たす場合、制御部26は、隣接する2つ以上のケース50の内部空間51が相互に連通状態となり、かつ、当該隣接する2つ以上のケース50のうち、外気流路52における外気の流通方向の最上流および最下流のケース50の内部空間51と外気流路52が連通状態となるように、弁60A、60Bを制御する。
【0085】
例えば、隣接する2つのケース50A、50Bの温度T
A、T
Bが上限温度T
A_MAX、T
B_MAX以上であり、ケース50Cの温度T
Cが上限温度T
C_MAX未満であると判定された場合を考える(T
A≧T
A_MAX、T
B≧T
B_MAX、T
C<T
C_MAX)。この場合、
図9に示すように、制御部26は、弁60Aを開閉パターンVに、弁60Bを開閉パターンIVに制御する。これにより、外気流路52からケース50Aに積極的に外気を取り込み、ケース50Aからケース50Bに外気が循環され、ケース50Bから外気流路52に外気が排出される。したがって、ケース50A内のエンジン10、およびケース50B内の減速機構14が好適に冷却される。
【0086】
また、隣接する3つのケース50A、50B、50Cの温度T
A、T
B、T
Cが上限温度T
A_MAX、T
B_MAX、T
C_MAX以上であると判定された場合を考える(T
A≧T
A_MAX、T
B≧T
B_MAX、T
C≧T
C_MAX)。この場合、
図10に示すように、制御部26は、弁60Aおよび弁60Bを開閉パターンVに制御する。これにより、ケース50A、50B、50Cが相互に連通するとともに、ケース50A、50B、50Cが外気流路52とも連通する。この結果、外気流路52からケース50A、50B、50Cに積極的に外気を取り込み、ケース50Aからケース50Bを通じてケース50Cに外気を循環させ、ケース50Cから外気流路52に外気を排出させる。したがって、ケース50A内のエンジン10、ケース50B内の減速機構14、およびケース50C内のバッテリ20が好適に冷却される。
【0087】
(3)第3判定条件
第3判定条件は、複数のケース50A、50B、50C内の温度TA、TB、TCのうち、隣接する2つ以上のケース50の温度が冷却条件を満たしていないか否か、例えば、隣接する2つ以上のケース50の温度TA、TB、TCが、対応する上限温度TA_MAX、TB_MAX、TC_MAX未満であるか否かである。制御部26は、この第3判定条件を判定する。この判定の結果、第3判定条件を満たす場合、制御部26は、隣接する2つ以上のケース50の内部空間51が相互に連通しない状態となり、かつ、当該隣接する2つ以上のケース50と外気流路52が連通しない状態となるように、弁60A、60Bを制御する。
【0088】
例えば、隣接する2つのケース50A、50Bの温度T
A、T
Bが上限温度T
A_MAX、T
B_MAX未満であり、ケース50Cの温度T
Cが上限温度T
C_MAX以上であると判定された場合を考える(T
A<T
A_MAX、T
B<T
B_MAX、T
C≧T
C_MAX)。この場合、
図11に示すように、制御部26は、弁60Aを開閉パターンIに、弁60Bを開閉パターンIIに制御する。これにより、ケース50Aとケース50Bとケース50Cが相互に連通することなく、ケース50Cが外気流路52と連通する。この結果、外気流路52からケース50Cに外気を取り込みつつ、冷却条件を満たしていないケース50A、50Bを保温できる。これにより、ケース50C内のバッテリ20を好適に冷却しつつ、ケース50A、50B内のエンジン10、減速機構14を保温できる。
【0089】
また、隣接する3つのケース50A、50B、50Cの温度T
A、T
B、T
Cが上限温度T
A_MAX、T
B_MAX、T
C_MAX未満であると判定された場合を考える(T
A<T
A_MAX、T
B<T
B_MAX、T
C<T
C_MAX)。この場合、
図12に示すように、制御部26は、弁60A、60Bの双方を開閉パターンIに制御する。これにより、ケース50Aとケース50Bとケース50Cと外気流路52が相互に連通しない状態となる。この結果、冷却条件を満たしていないケース50A、50B、50C内のエンジン10、減速機構14、バッテリ2を保温できる。
【0090】
(4)第4判定条件
第4判定条件は、バッテリ20を収容するケース50C内の温度TCが上限温度TC_MAX未満であり、かつ、ケース50Cを含む隣接する2つ以上のケース50の温度が、対応する上限温度未満であり、かつ、当該隣接する2つ以上のケース50のうち、外気流路52の上流側のケース50の温度が下流側のケース50の温度よりも高いか否かである。制御部26は、この第4判定条件を判定する。この判定の結果、第4判定条件を満たす場合、制御部26は、隣接する2つ以上のケース50の内部空間51が相互に連通状態となり、かつ、当該隣接する2つ以上のケース50と外気流路52が連通しない状態となるように、弁60A、60Bを制御する。
【0091】
例えば、ケース50Aの温度T
Aが上限温度T
A_MAX以上であり、隣接する2つのケース50B、50Cの温度T
B、T
Cが上限温度T
B_MAX、T
C_MAX未満であり、かつ、温度T
Bが温度T
C以上であると判定された場合を考える(T
A≧T
A_MAX、T
B<T
B_MAX、T
C<T
C_MAX、T
B≧T
C)。この場合、
図13に示すように、制御部26は、弁60Aを開閉パターンIVに、弁60Bを開閉パターンIIIに制御する。これにより、ケース50Bとケース50Cが相互に連通するとともに、ケース50Aが外気流路52と連通し、ケース50Aとケース50Bが相互に連通しない。この結果、外気流路52からケース50Aに外気が取り込まれて、ケース50A内が冷却される。さらに、冷却条件を満たしていないケース50B、50C間で熱交換して、ケース50B内の熱を、より低温のケース50C内に伝えて、温度T
B、T
Cを平均化することができる。これにより、ケース50A内のエンジン10を好適に冷却しつつ、ケース50B内の熱を用いて、ケース50C内のバッテリ20を好適に保温および暖気できる。
【0092】
また、隣接する3つのケース50A、50B、50C内の温度T
A、T
B、T
Cが上限温度T
A_MAX、T
B_MAX、T
C_MAX未満であり、温度T
Aが温度T
B以上であり、かつ、温度T
Bが温度T
C以上であると判定された場合を考える(T
A<T
A_MAX、T
B<T
B_MAX、T
C<T
C_MAX、T
A≧T
B、T
B≧T
C)。この場合、
図14に示したように、制御部26は、弁60A、60Bの双方を開閉パターンIIIに制御する。これにより、ケース50Aとケース50Bとケース50Cとが相互に連通する。この結果、冷却条件を満たしていないケース50A、50B、50C間で熱交換して、温度T
A、T
B、T
Cを平均化することができる。特に、T
A≧T
B≧T
Cの温度勾配により、ケース50Aからケース50Bを通じてケース50C内に熱が伝達されて、ケース50Cのバッテリ20を好適に保温および暖気できる。
【0093】
(5)第5判定条件
第5条件は、車両1がハイブリッド車両であり、当該車両1の走行モードがEVモード(ハイブリッド車両が、エンジン10を停止させた状態で、第2モータジェネレータ24の駆動力で走行するモード)に設定されている場合を前提としている。
【0094】
第5判定条件は、走行モードがEVモードであるか否かと、エンジン10を収容するケース50Aが冷却条件を満たしているか否かなどである。例えば、第5判定条件は、走行モードがEVモードであり、かつ、ケース50Aの温度TAが上限温度TA_MAX未満であり、温度TAが温度TB、TC以下であるか否かである。制御部26は、この第5判定条件を判定する。この判定の結果、第5判定条件を満たす場合、制御部26は、全てのケース50間で連通状態となり、かつ、当該全てのケース50と外気流路52が連通しない状態となるように、弁60A、60Bを制御する。
【0095】
例えば、温度T
Aが温度T
B以下であり、温度T
Bが温度T
C以下であり、エンジン10を収容するケース50Aの温度T
Aが上限温度T
A_MAX未満であると判定された場合を考える(T
A≦T
B≦T
C、T
A<T
A_MAX)。この場合、
図15に示したように、制御部26は、弁60A、60Bの双方を開閉パターンIIIに制御して、ケース50Aとケース50Bとケース50Cとを相互に連通させた状態とする。これにより、EVモード中に、ケース50A、50B、50C間で熱交換して、温度T
A、T
B、T
Cを平均化することができる。特に、T
A≦T
B≦T
Cの温度勾配により、ケース50Cからケース50Bを通じてケース50A内に熱が伝達されて、ケース50A内のエンジン10を好適に保温および暖気できる。したがって、EVモードでは熱を帯びにくいエンジン10の始動や再始動のための暖気を行うことが可能となる。
【0096】
[4.判定結果に基づく弁の開閉制御]
次に、
図16を参照して、本実施形態に係る総合判定結果に基づく弁60の開閉制御について詳細に説明する。
図16は、本実施形態に係る制御部26による弁60の開閉制御を説明するためのテーブルである。
【0097】
なお、
図16の左側のテーブルでは、走行モードがEVモードである場合、および、冷却条件を満たしている場合を「〇」で表し、EVモード以外の走行モードである場合、および、冷却条件を満たしていない場合を「×」で表し、条件判定しない場合を「-」で表す。
図16の右側のテーブルでは、その条件下で適応される判定条件と、制御された弁60の開閉パターンと、各ケース50内の温度制御状態を示している。
【0098】
図16に示すように、制御部26は、上述した第1~第5判定条件(
図8~
図15参照。)を組み合わせて各ケース50の冷却条件を判定する。そして、制御部26は、その判定結果に応じて、各弁60A、60Bの開閉パターンを、開閉パターンI~V(
図3~
図7参照。)のいずれかに決定し、各弁60A、60Bを制御する。
【0099】
例えば、
図16に示す番号1の条件では、各ケース50A、50B、50C内の温度T
A、T
B、T
Cが冷却条件を満たしている(以下では、それぞれ「T
A=〇」、「T
B=〇」、「T
C=〇」等という。)。この場合、第2判定条件が適用され、
図10に示したように、弁60A、60Bの双方が開閉パターンVに制御される。この結果、全てのケース50A、50B、50Cの内部空間51A、51B、51Cが冷却される。
【0100】
番号2の条件では、TA=×、TB=〇、TC=〇である。この場合、第2判定条件が適用され、弁60Aが開閉パターンIIに制御され、弁60Bが開閉パターンVに制御される。この結果、ケース50B、50Cの内部空間51B、51Cが冷却され、ケース50Aの内部空間51Aが保温される。
【0101】
番号3の条件では、TA=〇、TB=×、TC=〇である。この場合、第1判定条件が適用され、弁60Aが開閉パターンIVに制御され、弁60Bが開閉パターンIIに制御される。この結果、ケース50A、50Cの内部空間51A、51Cが冷却され、ケース50Bの内部空間51Bが保温される。
【0102】
番号4の条件では、T
A=×、T
B=×、T
C=〇である。この場合、ケース50A、50Bについて第3判定条件が適用され、ケース50Cについて第1判定条件が適用される。これにより、
図11に示したように、弁60Aが開閉パターンIに制御され、弁60Bが開閉パターンIIに制御される。この結果、ケース50Cの内部空間51Cが冷却され、ケース50A、50Bの内部空間51A、51Bが保温される。
【0103】
番号5の条件では、T
A=〇、T
B=〇、T
C=×である。この場合、第2判定条件が適用される。これにより、
図9に示したように、弁60Aが開閉パターンVに制御され、弁60Bが開閉パターンIVに制御される。この結果、ケース50A、50Bの内部空間51A、51Bが冷却され、ケース50Cの内部空間51Cが保温される。
【0104】
番号6の条件では、TA=×、TB=〇、TC=×である。この場合、第1判定条件が適用され、弁60Aが開閉パターンIIに制御され、弁60Bが開閉パターンIVに制御される。この結果、ケース50Bの内部空間51Bが冷却され、ケース50A、50Cの内部空間51A、51Cが保温される。
【0105】
番号7の条件では、T
A=〇、T
B=×、T
C=×である。さらに、T
B≧T
Cを満たさない。この場合、ケース50B、50Cについて第3判定条件が適用され、ケース50Aについて第1判定条件が適用され、第4判定条件は適用されない。これにより、
図8に示したように、弁60Aが開閉パターンIVに制御され、弁60Bが開閉パターンIに制御される。この結果、ケース50Aの内部空間51Aが冷却され、ケース50B、50Cの内部空間51B、51Cが保温され、ケース50Bとケース50C間で熱交換はない。
【0106】
番号8の条件では、TA=×、TB=×、TC=×である。さらに、TA≧TBを満たすが、TB≧TCを満たさない。この場合、ケース50A、50B、50Cについて第3判定条件が適用され、ケース50A、50Bについて第4判定条件も適用される。これにより、弁60Aが開閉パターンIIIに制御され、弁60Bが開閉パターンIに制御される。この結果、ケース50A、50B、50Cの内部空間51A、51B、51Cが保温されつつ、ケース50Aとケース50B間で熱交換が行われ、ケース50A内のエンジン10の熱でケース50B内の減速機構14が暖気される。
【0107】
番号9の条件では、T
A=×、T
B=×、T
C=×である。さらに、T
A≧T
Bを満たさず、T
B≧T
Cも満たさない。この場合、ケース50A、50B、50Cについて第3判定条件が適用される。これにより、
図12に示したように、弁60Aが開閉パターンIに制御され、弁60Bが開閉パターンIに制御される。この結果、ケース50A、50B、50Cの内部空間51A、51B、51Cが保温されつつ、ケース50Aとケース50Bとケース50C間で熱交換はない。
【0108】
番号10の条件では、T
A=〇、T
B=×、T
C=×である。さらに、T
B≧T
Cを満たす。この場合、ケース50Aについて第1判定条件が適用され、ケース50B、50Cについて第3判定条件と第4判定条件が適用される。これにより、
図13に示したように、弁60Aが開閉パターンIVに制御され、弁60Bが開閉パターンIIIに制御される。この結果、ケース50Aの内部空間51Aが冷却され、ケース50B、50Cの内部空間51B、51Cが保温されつつ、ケース50Bとケース50C間で熱交換が行われ、ケース50B内の減速機構14の熱でケース50C内のバッテリ20が暖気される。
【0109】
番号11の条件では、T
A=×、T
B=×、T
C=×である。さらに、T
A≧T
BもT
B≧T
Cも満たす。この場合、ケース50A、50B、50Cについて第3判定条件が適用され、ケース50A、50B、50Cについて第4判定条件も適用される。これにより、
図14に示したように、弁60Aおよび弁60Bが開閉パターンIIIに制御される。この結果、ケース50A、50B、50Cの内部空間51A、51B、51Cが保温されつつ、ケース50Aとケース50B間と、ケース50Bとケース50C間で熱交換が行われる。これにより、ケース50A内のエンジン10の熱でケース50B内が暖気され、さらに、当該ケース50B内の熱でケース50C内のバッテリ20が暖気される。
【0110】
番号12の条件では、TA=×、TB=×、TC=×である。さらに、TB≧TCを満たすが、TA≧TBを満たさない。この場合、ケース50A、50B、50Cについて第3判定条件が適用され、ケース50B、50Cについて第4判定条件も適用される。これにより、弁60Aが開閉パターンIに制御され、弁60Bが開閉パターンIIIに制御される。この結果、ケース50A、50B、50Cの内部空間51A、51B、51Cが保温されつつ、ケース50Bとケース50C間で熱交換が行われ、ケース50B内の減速機構14の熱でケース50C内のバッテリ20が暖気される。
【0111】
番号13の条件では、車両1の走行モードがEVモードに設定されており(「EV=〇」)、T
A=×である。さらに、T
A≦T
B≦T
Cを満たす。この場合、ケース50A、50B、50Cについて第5判定条件が適用される。これにより、
図15に示したように、弁60Aが開閉パターンIIIに制御され、弁60Bが開閉パターンIIIに制御される。この結果、ケース50A、50B、50Cの内部空間51A、51B、51Cが保温されつつ、ケース50Aとケース50B間と、ケース50Bとケース50C間で熱交換が行われる。これにより、ケース50C内のバッテリ20の熱でケース50Bが暖気され、さらに、当該ケース50B内の熱でケース50A内のエンジン10が暖気される。
【0112】
[5.EVモード時の開閉制御フロー]
次に、
図17を参照して、本実施形態に係る車両1がハイブリッド車両である場合において、EVモードによる走行中に、バッテリ20が加熱し、エンジン10が冷えてしまった際に、エンジン10側に熱を流して保温するための開閉制御フローの具体例について説明する。
図17は、本実施形態に係る制御部26による弁60の開閉制御を示すフローチャートである。
【0113】
図17に示すように、まず、制御部26は、各ケース50A、50B、50Cに設けられた温度計56A、56B、56Cから、各ケース50A、50B、50Cの内部空間51A、51B、51Cの温度T
A、T
B、T
Cを取得する(S100)。
【0114】
次いで、制御部26は、車両1が走行中であるか否かを判定する(S102)。例えば、車速を検出することにより、走行中であるか否かを判定することができる。検出された車速が0km/hより大きければ、制御部26は、車両1が走行中であると判定し、S104に進む。一方、検出された車速が0kmであれば、制御部26は、車両1が停止中であると判定し、S120に進む。
【0115】
さらに、制御部26は、車両1のエンジン10が停止中であるか否かを判定する(S104)。例えば、エンジン回転数Neを検出することにより、エンジン10が停止中であるか否かを判定することができる。検出されたエンジン回転数が0rpmであれば、制御部26は、エンジン10が停止中であると判定し、S106に進む。一方、検出されたエンジン回転数が0rpmより大きければ、制御部26は、エンジン10が動作中であると判定し、S120に進む。
【0116】
なお、車両1が走行中であり(S102のYES)、かつ、エンジン10が停止中である(S104のYES)場合、走行モードがEVモードであることになる。このEVモードでは、車両1は、バッテリ20からの電力を用いて第2モータジェネレータ24の駆動力で走行している。
【0117】
次いで、制御部26は、S100で取得した温度TA、TB、TCが、所定条件(例えば、TA≦TB≦TC)を満たすか否かを判定する(S106)。TA≦TB≦TCを満たす場合には、バッテリ20の周辺の温度TCよりも、減速機構14の周辺の温度TBが低く、エンジン10の周辺の温度TAがさらに低いことを表す。この場合には、バッテリ20を収容するケース50Cから、減速機構14を収容するケース50Bを通じて、エンジン10を収容するケース50Aに、バッテリ20の熱を好適に伝達できる。そこで、TA≦TB≦TCを満たす場合には、S108に進む。一方、TA≦TB≦TCを満たさない場合には、S120に進む。
【0118】
さらに、制御部26は、エンジン10が冷めているため、暖気が必要か否かを判定する(S108)。例えば、エンジン油温、または排気装置の触媒温度を検出することにより、エンジン10の暖気が必要か否かを判定することができる。エンジン油温または触媒温度が所定の下限値以下である場合には、制御部26は、エンジン10の暖気が必要であると判定し、S110に進む。一方、エンジン油温または触媒温度が所定の下限値より大きい場合には、制御部26は、エンジン10の暖気が必要ないと判定し、S120に進む。
【0119】
上記S108でエンジン10の暖気が必要であると判定された場合、制御部26は、弁60A、60B双方の開閉パターンを開閉パターンIII(
図5参照。)に制御する(S110)。この開閉制御により、
図15に示したように、ケース50C内のバッテリ20の熱がケース50Bを通じてケース50A内に伝達されて、ケース50A内の温度T
Aを上昇させることができる。したがって、ケース50A内のエンジン10を好適に保温および暖気できる。したがって、EVモードによる走行中に、バッテリ20が加熱し、エンジン10が冷えてしまったときでも、エンジン10の始動や再始動のために適切に暖気することができる。
【0120】
一方、上記S102~S108でNOと判定された場合、制御部26は、弁60A、60Bに対して通常の開閉制御を行う(S120)。ここで、通常の開閉制御とは、例えば、上述した第1~第4判定条件(冷却条件)に基づく弁60A、60Bの開閉制御(即ち、
図16に示した番号1~12の開閉制御)である。
【0121】
[6.まとめ]
以上、本実施形態に係る車両1における、エンジン10、減速機構14およびバッテリ20等の冷却対象となる装置(パワーユニット)を覆うカプセル構造と、制御部26による弁60の開閉制御について、詳細に説明した。
【0122】
本実施形態に係るカプセル構造によれば、冷却対象をそれぞれ収容する複数のケース50を備え、相隣接する2つのケース50、50と外気流路52の境界部分に1つの通気口54を設け、当該通気口54内に1つの弁60を設ける。これにより、相隣接する2つのケース50、50と外気流路52という3つの空間を1つの通気口54で連通し、かつ、1つの弁60により通気口54を開閉して、当該3つの空間の連通状態を自在に切り替えることができる。
【0123】
このように本実施形態では、相隣接する2つのケース50、50と外気流路52に跨るように、1つの通気口54と1つの弁60からなる開閉機構が配置されている。そして、弁60の開閉パターンI~Vを切り替えることで、各ケース50の内部空間51の冷却、保温および熱交換を制御する。これにより、少ない設置数の通気口54と弁60を用いて、各ケース50内に収容されている冷却対象を個別に冷却および保温することが可能である。さらに、ケース50から外気流路52に放熱したり、相隣接する2以上のケース50、50間で熱交換して、一方のケース50内の熱で他方のケース50内を温めたり、一方のケース50内の冷気で他方のケース50内を冷却したりすることもできる。
【0124】
さらに、本実施形態では、各ケース50内の温度状態に基づいて、制御部26により各弁60による各通気口54の開閉を、複数の開閉パターンI~Vで制御することができる。これにより、車両1の動作状態や走行状況等に応じて、各々のパワーユニット(エンジン10、減速機構14およびバッテリ20等の冷却対象)の発熱状況が変化したとしても、その変化後の各ケース50内の温度に応じて、制御部26により各弁60の開閉パターンを制御できる。したがって、各々のパワーユニットの発熱状況や温度状態に応じて、各パワーユニットを適切に冷却、保温または暖気することができる。
【0125】
加えて、本実施形態では、ケース50によりパワーユニットのほぼ全周を覆い、ケース50に形成される開口部(通気口54)の数が少なく、その開口面積も小さい。このため、ケース50の防音性が高く、ケース50内のパワーユニットから車外に放出される音を効果的に抑制することもできる。
【0126】
よって、本実施形態によれば、カプセル構造における開口部(通気口54)やその開閉機構(弁60)の設置数を低減しつつ、各ケース50内の温度制御と防音性能を両立することが可能である。
【0127】
以上、添付図面を参照しながら本発明の実施形態について説明したが、本発明はかかる実施形態に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0128】
例えば、上述した実施形態では、エンジン10、減速機構14、バッテリ20それぞれを3つのケース50A、50B、50Cに収容する例を挙げて説明した。しかし、本発明は、かかる例に限定されない。例えば、複数の冷却対象を2つのケース50A、50Bに分けて収容してもよいし、4つ以上のケース50に分けて収容してもよい。
【0129】
また、2つのケース50A、50Bを用いる場合、例えば、エンジン10を第1ケース50Aに収容し、減速機構14およびバッテリ20を共に第2ケース50Bに収容してもよい。あるいは、エンジン10および減速機構14を共に第1ケース50Aに収容し、バッテリ20を第2ケース50Bに収容してもよい。
【0130】
なお、上記実施形態では、ケース50の上面に沿って1つの外気流路52が設けられ、弁60は、外気流路52の位置に合わせてケース50の上面側に配置される例について説明した。しかし、本発明は、かかる例に限定されない。外気流路52は、ケース50の左側面、右側面、底面、前面または後面に沿って設けられてもよい。また、複数の外気流路52がケース50の周辺に設けられてもよい。外気流路52がケース50の左側面、右側面、底面、前面または後面に沿って配置される場合には、通気口54と弁60も、外気流路52の位置に合わせて、ケース50の側面側、底面側、前面側または後面側に配置されてもよい。
【0131】
また、上記実施形態では、3つのケース50A、50B、50Cの温度TA、TB、TCが所定の上限温度TA_MAX、TB_MAX、TC_MAX以上になったときに、弁60A、60Bの開閉パターンを即座に切り替える例について説明した。しかし、上限温度TA_MAX、TB_MAX、TC_MAXの近傍では、温度TA、TB、TCの推移によって、チャタリングが生じうる。そこで、温度TA、TB、TCが一旦、上限温度TA_MAX、TB_MAX、TC_MAX以上となった後は、上限温度より低い所定温度まで低下しないと、開閉パターンを切り替えないようにする、所謂、チャタレス処理を行ってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0132】
本発明は、ガソリン自動車、ハイブリッド自動車、電気自動車等の車両に適用可能である。
【符号の説明】
【0133】
1 車両
10 エンジン
14 減速機構
20 バッテリ
26 制御部
50A、50B、50C ケース
51A、51B、51C 内部空間
52 外気流路
53A、53B 隔壁
54A、54B 通気口
56A、56B、56C 温度計
60A、60B 弁
61、62、63 弁体
65 回動軸