(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-07
(45)【発行日】2023-02-15
(54)【発明の名称】繊維処理剤及びそれを含む繊維表面処理用品
(51)【国際特許分類】
D06M 15/643 20060101AFI20230208BHJP
C08L 101/00 20060101ALI20230208BHJP
C08L 83/04 20060101ALI20230208BHJP
C08G 77/382 20060101ALI20230208BHJP
【FI】
D06M15/643
C08L101/00
C08L83/04
C08G77/382
(21)【出願番号】P 2019158439
(22)【出願日】2019-08-30
【審査請求日】2022-06-21
(31)【優先権主張番号】P 2018230137
(32)【優先日】2018-12-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】弁理士法人翔和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】杉山 和啓
(72)【発明者】
【氏名】松原 繁宏
(72)【発明者】
【氏名】阿部 祐樹
【審査官】横山 敏志
(56)【参考文献】
【文献】特開昭63-179916(JP,A)
【文献】特開平02-099671(JP,A)
【文献】特開平07-097770(JP,A)
【文献】特開2003-034784(JP,A)
【文献】特開平04-227717(JP,A)
【文献】国際公開第2017/221533(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D06M 15/00-15/715
C08L 101/00
C08L 83/04
C08G 77/382
C08L 51/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
揮発性溶媒と、該揮発性溶媒に溶解可能
な2種以上のポリマーの混合物とを含み、
2種以上の前記ポリマーは、25℃における水への溶解度が50mg/100g未満であり、
2種以上の前記ポリマーの混合物の含有割合が3質量%以上15質量%以下であり、
2種以上の前記ポリマーの混合物は、25℃での降伏応力が0.6MPa以上であり、
2種以上の前記ポリマーの混合物は、水との接触角が90度以上であ
り、
2種以上の前記ポリマーの混合物は、(A1)25℃での降伏応力が0.6MPa以上であり、且つ水との接触角が90度より小さいポリマーと、(A2)25℃での降伏応力が0.6MPaより小さく、且つ水との接触角が90度以上であるポリマーとを含み、
前記(A1)のポリマー、及び前記(A2)のポリマーはいずれもポリシロキサン骨格を主鎖とするものであり、
前記(A1)のポリマー中のポリシロキサン骨格の割合が40質量%以上70質量%未満であり、
前記(A2)のポリマー中のポリシロキサン骨格の割合が70質量%以上である、繊維処理剤。
【請求項2】
2種以上の前記ポリマーの混合物中の各ポリマーは、シリコーングラフト共重合体である、請求項
1に記載の繊維処理剤。
【請求項3】
前記シリコーングラフト共重合体のグラフト鎖は、重量平均分子量が800以上であり、その側鎖が、N-アシルアルキレンイミン、アクリル酸、アクリル酸エステル、及びアクリルアミドのうちの少なくとも一種である、請求項
2に記載の繊維処理剤。
【請求項4】
前記ポリマーの混合物における前記(A1)のポリマーの割合が20質量%以上80質量%以下である、請求項
1~3の何れか1項に記載の繊維処理剤。
【請求項5】
25℃における粘度が20mPa・s以下である、請求項1~
4の何れか1項に記載の繊維処理剤。
【請求項6】
2種以上の前記ポリマーに加え、(B)25℃における水への溶解度が50mg/100g以上のポリマーを含有する、請求項1~
5の何れか1項に記載の繊維処理剤。
【請求項7】
請求項1~
6の何れか1項に記載の繊維処理剤と、該繊維処理剤を充填した手動式のミストスプレー容器とを有する繊維表面処理用品。
【請求項8】
請求項1~
6の何れか1項に記載の繊維処理剤を、噴霧容器又は塗工容器に充填した、繊維表面処理用品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維処理剤及びそれを含む繊維表面処理用品に関する。
【背景技術】
【0002】
繊維製物品である下穿き等の内側に取り付けて、主として尿を吸収するタイプの吸収性物品が知られている。特許文献1には、斯かる吸収性物品の一種として、多量の尿が一度に排泄されても漏れ出さないようにすることを目的として、排泄された尿の横流れを堰き止める防漏カフを具備する男性失禁用パッドが記載されている。同文献に記載の男性失禁用パッドは、排泄量が多い使用者に対しては十分満足できるものである。
【0003】
この技術とは別に、本出願人は、先に、繊維の柔軟性、平滑性、及び撥水性を向上させるとともに、濃色化に優れた繊維表面処理剤として、シリコーン系の繊維表面処理剤を提案した(特許文献2参照)。同文献には、繊維表面処理剤を繊維の表面に付着させる方法として、吹き付け法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2015-188714号公報
【文献】特開平4-163374号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
高齢の男性のなかには排尿時に尿をすべて出し切れずに、排尿終了後に少量の尿漏れ、言い換えれば排尿後尿滴下が生じて尿が衣服に染み出してしまうことを問題にしている人が少なくない。特許文献1に記載の男性失禁用パッドは高吸収容量を有するものであることから、少量の尿漏れへの直接的な対策となるものではない。高吸収容量のパッドを着用することは不可能ではないが、その場合には、高吸収容量であることでパッドが嵩高となり、そのことに起因してパッドを装着していることを他人に気付かれないかという不安を抱く人が少なくない。また使用者のなかにはパッドの使用そのものに抵抗を感じる人もいる。従って、男性失禁用パッドのような大掛かりな物品を使用せず、普段使いの下穿きなどの衣料をそのまま使用しながらも、前記問題を解決し得る技術に対する要望は高く、該技術は未だ提供されていない。
【0006】
特許文献2に記載の処理剤の塗工方法に関しては、吹き付け法が採用されているので、使用者が簡単に均一に撥水剤を塗工できる。しかし、特許文献2に記載の技術は、前述した排泄量の少ない使用者が使用することを想定していない。
【0007】
使用者が吹き付け法によって、繊維製物品に繊維処理剤を噴霧した場合、噴霧された処理剤の液滴が全て繊維製物品に付着することはなく、一部の液滴は飛散してしまう。飛散した繊維処理剤の一部は例えば床に付着することがある。床が特にフローリング床である場合には、処理剤の種類によっては床が滑り易くなることがある。
【0008】
従って本発明の課題は、普段使用している下穿き等の衣料をそのまま使用しながら、身体から排泄された体液が衣料から染み出してしまうことを効果的に防止しつつ、意図せず床に付着した場合であっても床が滑り難い繊維処理剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、揮発性溶媒と、該揮発性溶媒に溶解可能な1種のポリマー又は2種以上のポリマーの混合物とを含み、
1種の前記ポリマー又は2種以上の前記ポリマーは、25℃における水への溶解度が50mg/100g未満であり、
1種の前記ポリマー又は2種以上の前記ポリマーの混合物の含有割合が3質量%以上15質量%以下であり、
1種の前記ポリマー又は2種以上の前記ポリマーの混合物は、25℃での降伏応力が0.6MPa以上であり、
1種の前記ポリマー又は2種以上の前記ポリマーの混合物は、水との接触角が90度以上である、繊維処理剤を提供するものである。
【0010】
また本発明は、前記の繊維処理剤と、該繊維処理剤を充填した手動式のミストスプレー容器とを有する繊維表面処理用品を提供するものである。
【0011】
また本発明は、前記の繊維処理剤を、噴霧容器又は塗工容器に含有する、繊維表面処理用品を提供するものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、普段使用している下穿き等の衣料をそのまま使用しながら、身体から排泄された体液が衣料から染み出してしまうことを効果的に防止しつつ、意図せず床に付着した場合であっても床が滑り難い繊維処理剤が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下本発明を、その好ましい実施形態に基づき説明する。本発明の繊維処理剤は、その使用状態において一般に液体である。本発明の繊維処理剤は、例えば手動式のミストスプレー容器内に収容されており、該スプレー容器から繊維に噴霧されるものである。
【0014】
本発明の繊維処理剤は、その構成成分の一つとして、揮発性溶媒を含んでいる。揮発性溶媒は、繊維処理剤の使用温度において飽和蒸気圧が3000Pa以上の物質であることが好ましい。揮発性溶媒としては、水や有機溶媒が挙げられる。水と水溶性有機溶媒との混合溶媒を揮発性溶媒として用いてもよい。有機溶媒からなる揮発性溶媒の例としては、アルコール、エステル、ニトリル、エーテル、炭化水素、ケトン、アミン、酢酸などが挙げられる。これらの揮発性溶媒は1種を単独で用いることができ、あるいは2種以上を組み合わせて用いることもできる。2種以上の揮発性溶媒を組み合わせて用いる場合、前記の飽和蒸気圧とは、複数用いた揮発性溶媒のうち最も飽和蒸気圧が低い揮発性溶媒の飽和蒸気圧のことである。これらの揮発性溶媒のうち、後述するポリマーの溶解性と繊維処理剤の乾燥時間とを両立させる観点から、水、アルコールが好ましく、水、エタノール、プロパノールからなる群から選ばれる1種又は2種以上の組み合わせを用いることがより好ましい。
【0015】
揮発性溶媒としてアルコールを用いる場合には、炭素数が1以上5以下である一価又は多価の脂肪族アルコールを用いることが好ましく、炭素数が2以上4以下である一価のアルコール、例えば、エタノール、プロパノール及びブタノールなどを用いることがより好ましい。揮発性溶媒としてエステルを用いる場合には、炭素数が1以上4以下である一価又は多価の脂肪族アルコールと、炭素数が1以上4以下である一価又は多価の脂肪酸とのエステルを用いることが好ましく、炭素数が1以上2以下である一価の脂肪族アルコールと、炭素数が1以上4以下である一価の脂肪酸とのエステル、例えば酢酸エチル、プロピオン酸メチル及び酢酸ブチルなどを用いることがより好ましい。揮発性溶媒としてニトリルを用いる場合には、炭素数が2以上3以下であるアルカンのニトリル、例えばアセトニトリルなどを用いることが好ましい。また、引火及び発火を防止する観点から、水と他の揮発性溶媒を併用することが好ましく、揮発性溶媒の合計100質量部中に水を、5質量部以上含有することが好ましく、10質量部以上含有することがより好ましく、そして、50質量部以下含有することが好ましく、20質量部以下含有することがより好ましい。
【0016】
本発明の繊維処理剤には、本発明の効果を損なわない限りにおいて、上述した揮発性溶媒に加えて、不揮発性溶媒が含まれていてもよい。尤も、本発明の繊維処理剤に含まれる溶媒は、揮発性溶媒のみであることが本発明の効果が確実に奏される観点から好ましい。
【0017】
本発明の繊維処理剤は、揮発性溶媒に加えて、該揮発性溶媒に溶解可能なポリマーを含んでいる。揮発性溶媒に溶解可能なポリマーとは、本繊維処理剤に用いる揮発性溶媒100gへの溶解度が25℃において1g以上である高分子化合物のことである。本発明の繊維処理剤は、それに含まれる揮発性溶媒に溶解可能なポリマーを1種のみ含むか、又は2種以上の混合物の状態で含んでいる。本発明の効果を損なわない限りにおいて、本発明の繊維処理剤は、それに含まれる揮発性溶媒に溶解不能なポリマーを含むことが許容される。尤も、本発明の繊維処理剤は、それに含まれる揮発性溶媒に溶解可能なポリマーのみを含むことが、本発明の効果が確実に奏される観点から好ましい。以下の説明においては、揮発性溶媒に溶解可能なポリマーのことを「溶解性ポリマー」ともいう。本発明の繊維処理剤に溶解性ポリマーが含まれていることで、本発明の繊維処理剤によって処理された繊維は、その撥水性が良好なものとなる。
【0018】
揮発性溶媒への溶解性ポリマーの溶解度は例えば、次の方法で測定される。すなわち、密閉容器中で100gの揮発性溶媒を25℃で撹拌しながら溶解性ポリマーを加えて24時間撹拌して溶解させる。揮発性溶媒への溶解性ポリマーの添加量を増やしていき、該溶解性ポリマーが溶解しきれずに液中に残存することを目視で確認し、そのときの溶解性ポリマーの溶解量を溶解度(g)とする。溶解性ポリマーが固体である場合には、16メッシュアンダーの粉体の状態で溶解させる。
【0019】
本発明の繊維処理剤に含まれる溶解性ポリマーは、25℃における水への溶解度が50mg/100g未満である。25℃における水への溶解度が50mg/100g未満であるポリマーを用いて繊維製物品の表面を処理すると、体液が衣料から染み出してしまうことを効果的に防止し得る。25℃における水への溶解度は、繊維表面に撥水性を付与し易くする観点から、好ましくは40mg/100g以下であって、より好ましくは30mg/100g以下、更に好ましくは20mg/100g以下、より更に好ましくは20mg/100g未満である。
【0020】
本発明の繊維処理剤は、処理の対象物である繊維又は繊維製物品の撥水性を高める観点から、溶解性ポリマーの含有量が、3質量%以上が好ましく、4質量%以上がより好ましく、4.5質量%以上が更に好ましい。また、本発明の繊維処理剤は、繊維処理剤の処理効率及び噴霧容易性の観点から、溶解性ポリマーの含有量が、15質量%以下が好ましく、10質量%以下がより好ましく、7質量%以下が更に好ましい。本発明の繊維処理剤は、溶解性ポリマーの含有量が、3質量%以上15質量%以下が好ましく、4質量%以上10質量%以下がより好ましく、4.5質量%以上7質量%以下が更に好ましい。上述の含有量は、本発明の繊維処理剤が溶解性ポリマーを1種のみ含む場合には、当該溶解性ポリマーの含有量のことであり、溶解性ポリマーを2種以上含む場合には、すべての溶解性ポリマーの合計の含有量のことである。
【0021】
本発明の繊維処理剤に含まれる溶解性ポリマーは、本発明の効果が確実に奏される観点から、25℃での降伏応力が0.6MPa以上が好ましく、1MPa以上がより好ましく、1.5MPa以上が更に好ましい。溶解性ポリマーの降伏応力の上限値に特に制限はないが、良好に噴霧できる観点から、25℃での降伏応力が20MPa以下であることが好ましく、10MPa以下であることがより好ましく、5MPa以下であることが更に好ましい。溶解性ポリマーの降伏応力が前記の値以上であることによって、本発明の繊維処理剤が意図せず処理対象物以外の物品に付着した場合に、例えば床に付着した場合に、床が滑りやすくなることが効果的に防止される。この理由は、本発明の繊維処理剤に、降伏応力が前記の値以上である溶解性ポリマーが含まれていると、該繊維処理剤から形成される被膜が硬くなることによるものである。降伏応力を25℃で測定する理由は、本発明の繊維処理剤は通常室温で使用されるものであることによる。
【0022】
溶解性ポリマーの降伏応力とは、本発明の繊維処理剤に溶解性ポリマーが1種のみ含まれている場合には、当該溶解性ポリマーの降伏応力のことである。本発明の繊維処理剤に溶解性ポリマーが2種以上の混合物の状態で含まれている場合には、溶解性ポリマーの混合物の降伏応力のことである。本発明の繊維処理剤に溶解性ポリマーが2種以上の混合物の状態で含まれている場合には、溶解性ポリマーの混合物の降伏応力が前記の値以上である限り、当該混合物を構成する各溶解性ポリマーの降伏応力は前記の値以上であることを要しない。詳細には、溶解性ポリマーの混合物の降伏応力が前記の値以上である限り、(i)溶解性ポリマーの混合物を構成する一部の溶解性ポリマーの降伏応力が前記の値以上であり、且つ残部の溶解性ポリマーの降伏応力が前記の値未満であってもよく、(ii)溶解性ポリマーの混合物を構成するすべての溶解性ポリマーの降伏応力が前記の値以上であってもよく、あるいは(iii)溶解性ポリマーの混合物を構成するすべての溶解性ポリマーの降伏応力が前記の値未満であってもよい。
【0023】
溶解性ポリマーの降伏応力は次に述べる方法で測定される。すなわち、本発明の繊維処理剤を5時間静置し、気泡を十分に除去した後にバットに流延し、25℃、50%RHで48時間乾燥し、更に真空乾燥機内で80℃の加熱下に48時間乾燥して、厚さ1mmの膜を形成する。この膜から、幅2mm、長さ10mm超の矩形状の試験片を切り出す。試験片の長手方向の各端部を引張試験機の各チャックにセットする。引張試験機として、例えば株式会社エー・アンド・デイ製のテンシロン「RTCシリーズ」を用いる。チャック間距離は10mmとする。引張速度1000mm/minで引っ張り、試験片の弾性限界を超えて塑性変形が始まる応力を測定する。測定は5回行い、平均値を降伏応力(単位:MPa)とする。
【0024】
本発明の繊維処理剤に含まれる溶解性ポリマーは、水との接触角が、好ましくは90度以上、より好ましくは100度以上である。接触角は、繊維処理剤で処理した繊維表面の疎水度の指標となるものである。接触角の数値が大きいほど繊維処理剤の疎水性が強いことを意味し、接触角の数値が小さいほど繊維処理剤の疎水性が弱いことを意味する。接触角の上限値に特に制限はないが、上限値が150度程度に高ければ、本発明の効果は十分に奏される。
【0025】
前記の接触角とは、本発明の繊維処理剤に溶解性ポリマーが1種のみ含まれている場合には、当該溶解性ポリマーと水との接触角のことである。本発明の繊維処理剤に溶解性ポリマーが2種以上の混合物の状態で含まれている場合には、前記の接触角とは溶解性ポリマーの混合物と水との接触角のことである。本発明の繊維処理剤に溶解性ポリマーが2種以上の混合物の状態で含まれている場合には、溶解性ポリマーの混合物の接触角が90度以上である限り、当該混合物を構成する各溶解性ポリマーの接触角は90度以上であることを要しない。詳細には、溶解性ポリマーの混合物の接触角が90度以上である限り、(i)溶解性ポリマーの混合物を構成する一部の溶解性ポリマーの接触角が90度以上であり、且つ残部の溶解性ポリマーの接触角が90度未満であってもよく、(ii)溶解性ポリマーの混合物を構成するすべての溶解性ポリマーの接触角が90度以上であってもよく、あるいは(iii)溶解性ポリマーの混合物を構成するすべての溶解性ポリマーの接触角が90度未満であってもよい。
【0026】
接触角は次に述べる方法で測定される。上述した降伏応力と同様にして測定サンプルの膜を形成する。すなわち、本発明の繊維処理剤を5時間静置し、気泡を十分に除去した後にバットに流延し、25℃,50%RHで48時間乾燥し、更に真空乾燥機内で80℃の加熱下に48時間乾燥して膜を形成する。この膜を測定サンプルとする。測定環境は、温度23±2℃、相対湿度50±5%RHとする。測定サンプルにおける接触角の測定対象面に、1μLのイオン交換水の液滴を付着させ、該液滴と膜との接触面が見える側面からの状態を録画する。録画によって得られた複数の画像に基づき接触角を測定する。測定装置として例えば協和界面科学株式会社製の全自動接触角計DM-701を用いる。複数の画像のうち、液滴の輪郭が鮮明な画像を10枚選択し、その10枚の画像それぞれについて、基準面に対する液滴の接触角を計測する。それらの接触角の平均値を、溶解性ポリマーと水との接触角とする。
【0027】
本発明の繊維処理剤によって繊維に撥水性を付与することの利点は以下のとおりである。ブリーフやトランクス等の繊維製物品である下穿きの外面に、本発明の繊維処理剤によって撥水性を付与すれば、該下穿きの内面に存在する繊維がパッドの代わりに少量の尿を吸収するとともに、吸収した尿の外面への染み出しを抑制するので、失禁用パッドのような物品を着用することなく、少量の尿漏れ対策、言い換えれば排尿後尿滴下対策として極めて有効なものとなる。
【0028】
本発明の繊維処理剤に溶解性ポリマーが2種以上の混合物の状態で含まれている場合、溶解性ポリマーの混合物を構成する溶解性ポリマーの少なくとも1種が、(A1)25℃での降伏応力が0.6MPa以上であり、且つ水との接触角が90度より小さい溶解性ポリマーであり、且つ別の溶解性ポリマーの少なくとも1種が、(A2)25℃での降伏応力が0.6MPaより小さく、且つ水との接触角が90度以上である溶解性ポリマーであることが、滑り防止の観点から好ましい。この効果を一層顕著なものとする観点から、前記の(A1)の溶解性ポリマーは、その降伏応力が、0.6MPa以上であることがより好ましく、1.5MPa以上であることが更に好ましい。また前記の(A1)の溶解性ポリマーは、その接触角が、70度以下であることがより好ましく、50度以下であることが更に好ましい。一方、(A2)の溶解性ポリマーは、その降伏応力が、0.4MPa以下であることがより好ましい。また(A2)の溶解性ポリマーは、その接触角が、90度以上であることがより好ましく、100度以上であることが更に好ましい。前記の(A1)の溶解性ポリマーは、1種を単独で用いることができ、2種以上を組み合わせて用いることもできる。同様に、(A2)の溶解性ポリマーは、1種を単独で用いることができ、2種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0029】
本発明の繊維処理剤に溶解性ポリマーが2種以上の混合物の状態で含まれている場合、溶解性ポリマーの混合物を構成する溶解性ポリマーは、前記の(A1)及び(A2)の溶解性ポリマーのみであってもよく、あるいは(A1)及び(A2)の溶解性ポリマー、並びにそれ以外の溶解性ポリマーであってもよい。滑り防止の効果を一層顕著なものとする観点からは、溶解性ポリマーの混合物を構成する溶解性ポリマーは、前記の(A1)及び(A2)の溶解性ポリマーのみであることが好ましい。
【0030】
前記の(A1)の溶解性ポリマーの降伏応力及び水との接触角は、上述した方法で測定する。この場合、(A1)の溶解性ポリマーを揮発性溶媒に溶解した溶液を調製し、該溶液を用い、上述の方法に従い測定用の膜を形成し、該膜を用いて降伏応力及び接触角を測定すればよい。(A2)の溶解性ポリマーについても同様である。
【0031】
本発明の繊維処理剤に前記の(A1)及び(A2)の溶解性ポリマーが含まれている場合、滑り防止の観点から、溶解性ポリマーの全量に対する(A1)の溶解性ポリマーの割合は20質量%以上が好ましく、30質量%以上がより好ましく、40質量%以上が更に好ましい。また、繊維表面に撥水性を付与する観点から、溶解性ポリマーの全量に対する(A1)の溶解性ポリマーの割合は90質量%以下が好ましく、70質量%以下がより好ましく、50質量%以下が更に好ましい。溶解性ポリマーの全量に対する(A1)の溶解性ポリマーの割合は、20質量%以上90質量%以下が好ましく、30質量%以上70質量%以下がより好ましく、40質量%以上50質量%以下が更に好ましい。
【0032】
一方、繊維表面に撥水性を付与する観点から、溶解性ポリマーの全量に対する(A2)の溶解性ポリマーの割合は10質量%以上が好ましく、30質量%以上がより好ましく、50質量%以上が更に好ましい。また、滑り防止の観点から、溶解性ポリマーの全量に対する(A2)の溶解性ポリマーの割合は80質量%以下が好ましく、70質量%以下がより好ましく、60質量%以下が更に好ましい。溶解性ポリマーの全量に対する(A2)の溶解性ポリマーの割合は、10質量%以上80質量%以下が好ましく、30質量%以上70質量%以下がより好ましく、50質量%以上60質量%以下が更に好ましい。
【0033】
本発明の繊維処理剤に前記の(A1)及び(A2)の溶解性ポリマーが含まれている場合、(A1)の溶解性ポリマーと(A2)の溶解性ポリマーとの比率は、〔(A1)の溶解性ポリマーの質量/(A2)の溶解性ポリマーの質量〕の値で表して、滑り防止の観点から、0.25以上が好ましく、0.43以上がより好ましく、0.7以上が更に好ましい。また、〔(A1)の溶解性ポリマーの質量/(A2)の溶解性ポリマーの質量〕の値は、繊維表面に撥水性を付与する観点から、9以下が好ましく、2.5以下がより好ましく、1以下が更に好ましい。〔(A1)の溶解性ポリマーの質量/(A2)の溶解性ポリマーの質量〕の値は、0.25以上9以下が好ましく、0.43以上2.5以下がより好ましく、0.7以上1以下が更に好ましい。
【0034】
本発明の繊維処理剤に含まれる溶解性ポリマーは、滑り防止と繊維表面に撥水性を付与する観点とから、シリコーン系ポリマーであることが好ましい。シリコーン系ポリマーとしては、シリコーンレジン、(アクリル酸/ジメチコン)共重合体、シリコーングラフト共重合体等が挙げられ、それらのうち、シリコーングラフト共重合体であることがより好ましい。これらの利点を一層顕著にする観点から、シリコーングラフト共重合体におけるグラフト鎖の重量平均分子量は、800以上であることが好ましく、900以上10000以下であることがより好ましく、1000以上5200以下であることが更に好ましい。本発明の繊維処理剤に溶解性ポリマーが1種のみ含まれている場合には、当該溶解性ポリマーのグラフト鎖の重量平均分子量が前記の値以上であることが好ましい。本発明の繊維処理剤に溶解性ポリマーが2種以上の混合物の状態で含まれている場合には、(i)溶解性ポリマーの混合物を構成する少なくとも1種の溶解性ポリマーのグラフト鎖の重量平均分子量が前記の値以上であることが好ましく、(ii)溶解性ポリマーの混合物を構成するすべての溶解性ポリマーのグラフト鎖の重量平均分子量が前記の値以上であることがより好ましい。重量平均分子量は、例えば株式会社東ソー製のゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)(DP-8020)により、標準ポリスチレン換算値として求めることができる。
【0035】
本発明の繊維処理剤に含まれる溶解性ポリマーとしては、上述した溶解性を有し、且つ上述した降伏応力を有するものであれば、その種類に特に制限はない。該ポリマーとしては、例えばシリコーン系ポリマー、アクリル系樹脂、又はフッ素系ポリマーなどが挙げられる。シリコーン系ポリマーとしては、シリコーンレジン、(アクリル酸/ジメチコン)共重合体、シリコーングラフト共重合体等が挙げられ、本発明者が種々検討した結果、溶解性ポリマーとしてポリシロキサン骨格を主鎖とする後述するシリコーングラフト共重合体を用いると、極めて満足すべき結果が得られることが判明した。ポリシロキサン骨格とは-O-Si-O-Si-結合からなる構造であり、典型的にはシリコーンが挙げられる。シリコーンとしては、各種の変性シリコーンを用いることが一層の滑り防止の観点から好ましい。変性シリコーンとしては、例えば脂肪酸変性シリコーン及びアクリルシリコーンが挙げられるが、これらに限られない。変性シリコーンのうち、シリコーングラフト共重合体を用いると、本発明の効果が一層顕著なものとなるので好ましい。本発明の繊維処理剤に溶解性ポリマーが1種のみ含まれている場合には、当該溶解性ポリマーがシリコーングラフト共重合体であることが好ましい。本発明の繊維処理剤に溶解性ポリマーが2種以上の混合物の状態で含まれている場合には、(i)溶解性ポリマーの混合物を構成する少なくとも1種の溶解性ポリマーがシリコーングラフト共重合体であることが好ましく、(ii)溶解性ポリマーの混合物を構成するすべての溶解性ポリマーがシリコーングラフト共重合体であることがより好ましい。
【0036】
シリコーングラフト共重合体としては、ポリシロキサン骨格を主鎖とし、側鎖にN-アシルアルキレンイミン、アクリル酸、アクリル酸塩、アクリル酸エステル又はアクリルアミドから誘導される基を有するものを用いることが、滑り防止性の観点、及び繊維に撥水性を付与する観点等から好ましい。シリコーングラフト共重合体には、大別すると、架橋点が物理的な相互作用によって生じる物理架橋体、共有結合で結ばれた化学架橋体の2種が存在する。揮発性溶媒に溶解しやすい観点から、本発明においては物理架橋体を用いることが好適である。
【0037】
物理架橋型のシリコーングラフト共重合体としては、例えばポリ(N-アシルアルキレンイミン)変性シリコーン、ポリ(N,N-ジメチルアクリルアミド)変性シリコーン、脂肪酸変性シリコーン、アクリルシリコーン、糖変性シリコーン(特開昭63-139106号公報)、ポリグリセリン変性シリコーン(特開2004-339244号公報)、ポリアミノ酸変性シリコーン(特開2002-145724号公報)、シリコーングラフトアクリレートポリマー(特開平4-342513号公報)、シリコーンPEGブロックポリマー(特開平4-234307公報)などが例示される。これらのうち、ポリ(N-アシルアルキレンイミン)変性シリコーン、ポリ(N,N-ジメチルアクリルアミド)変性シリコーンを用いることが、揮発性溶媒への溶解性が高いことから好ましい。
【0038】
上述のポリ(N-アシルアルキレンイミン)変性シリコーンとしては、例えば、分子内にポリ(N-アシルアルキレンイミン)のセグメントと、オルガノポリシロキサンのセグメントとを有し、オルガノポリシロキサンのセグメントの末端又は側鎖のケイ素原子の少なくとも1個にアルキレン基を介して、前記のポリ(N-アシルアルキレンイミン)のセグメントが結合してなるものが好ましい。アルキレン基の炭素数は好ましくは2~20である。このアルキレン基に代えて、該アルキレン基における隣り合うメチレン基の間、又は該アルキレン基の末端に、窒素原子、酸素原子、イオウ原子等のヘテロ原子を含んでいる基を用いてもよい。ヘテロ原子の数は1~3個であることが好ましい。
【0039】
好ましいポリ(N-アシルアルキレンイミン)変性シリコーンの具体的な例としては、ポリ(N-ホルミルエチレンイミン)変性シリコーン、ポリ(N-アセチルエチレンイミン)変性シリコーン、ポリ(N-プロピオニルエチレンイミン)変性シリコーン等が挙げられる。なかでも、重量平均分子量が約20,000~200,000で、ポリマー中のポリ(N-プロピオニルエチレンイミン)セグメントの割合が約3~50質量%のポリ(N-プロピオニルエチレンイミン)変性シリコーン(INCI名:ポリシリコーン-9)が好ましい。
【0040】
上述のポリ(N,N-ジメチルアクリルアミド)変性シリコーンとしては、例えば、分子内にオルガノポリシロキサンのセグメントと、不飽和単量体由来の重合体セグメントとを有し、オルガノポリシロキサンのセグメントの末端又は側鎖のケイ素原子の少なくとも1個にアルキレン基を介して、前記の不飽和単量体由来の重合体セグメントが結合してなるものが好ましい。具体的には、不飽和単量体由来の重合体セグメント中に、N,N-ジメチルアクリルアミド(DMAAm)由来の繰り返し単位を含有するオルガノポリシロキサングラフトポリマーが挙げられる。前記のアルキレン基の炭素数は好ましくは2~20である。このアルキレン基に代えて、該アルキレン基における隣り合うメチレン基の間、又は該アルキレン基の末端に、窒素原子、酸素原子、イオウ原子等のヘテロ原子を含んでいる基を用いてもよい。ヘテロ原子の数は1~3個であることが好ましい。前記不飽和単量体由来の重合体セグメント中、DMAAm由来の繰返し単位以外の部分は、DMAAmと共重合可能な不飽和単量体(但しDMAAmを除く)由来の繰返し単位からなっている。DMAAmと共重合可能な不飽和単量体由来の繰返し単位としては、オレフィン、ハロゲン化オレフィン、ビニルエステル、(メタ)アクリル酸エステル類、又は(メタ)アクリルアミド類(但し、DMAAmを除く)等の不飽和単量体由来の繰返し単位が挙げられる。
【0041】
DMAAmと共重合可能なオレフィンの具体例としては、エチレン、プロピレン、イソブチレンが挙げられる。ハロゲン化オレフィンの具体例としては、塩化ビニル、フッ化ビニル、ビニリデンクロリド、ビニリデンフルオライドが挙げられる。ビニルエステルの具体例としては、ギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、バーサチック酸ビニル等が挙げられる。(メタ)アクリル酸エステル類の具体例としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸tert-ブチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸デシル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル等の炭素数1以上16以下のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステル;(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチル等の水酸基が置換した炭素数1以上16以下のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステル;及び(メタ)アクリル酸ポリエチレングリコール、(メタ)アクリル酸ポリエチレングリコールモノメチルエーテル等が挙げられる。DMAAmを除く(メタ)アクリルアミド類の具体例としては、アクリルアミド、メタクリルアミド等の(メタ)アクリルアミド;N,N-ジエチル(メタ)アクリルアミド等のN,N-ジアルキル(メタ)アクリルアミド類(但しDMAAmは除く);N-イソプロピル(メタ)アクリルアミド、N-tert-ブチル(メタ)アクリルアミド、N-シクロヘキシル(メタ)アクリルアミド、N-tert-オクチル(メタ)アクリルアミド等のN-アルキル(メタ)アクリルアミド類;ジアセトン(メタ)アクリルアミド等の窒素原子上の置換基にカルボニル基を有するN-モノ置換(メタ)アクリルアミド類;N,N-ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド等の窒素原子上の置換基にアミノ基を有するN-モノ置換(メタ)アクリルアミド類;N-メチロール(メタ)アクリルアミド、N-ヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミド等の窒素原子上の置換基に水酸基を有するN-モノ置換(メタ)アクリルアミド類が挙げられる。
【0042】
好ましいポリ(N,N-ジメチルアクリルアミド)変性シリコーンの具体的な例としては、ポリマー中のポリ(N,N-ジメチルアクリルアミド)セグメントの割合が約50質量%~90質量%のN,N-ジメチルアクリルアミド変性シリコーンが挙げられる。
【0043】
本発明の繊維処理剤に含まれる溶解性ポリマーとして、上述したシリコーングラフト共重合体を用いると、滑り防止性が一層向上する理由は完全には明確ではないが、本発明者は次のように考えている。繊維処理剤から揮発性溶媒が揮発して溶解性ポリマーが凝固して膜を形成するときに、撥水性部位である主鎖のポリシロキサン骨格が膜の表面に集まるとともに、親水性部位である側鎖が膜の内部に集まるようになる。その結果、硬い膜が形成されやすくなり、そのことに起因して膜の滑り防止性が向上するものと考えられる。尤も本発明の範囲はこの理論に拘束されない。
【0044】
特に、本発明の繊維処理剤が2種以上の溶解性ポリマーの混合物を含み、該混合物が前記の(A1)の溶解性ポリマー及び(A2)の溶解性ポリマーを含む場合、これら(A1)及び(A2)の溶解性ポリマーは、いずれもポリシロキサン骨格を主鎖とするシリコーンであることが好ましい。この場合、(A1)の溶解性ポリマー中のポリシロキサン骨格の割合は、40質量%以上70質量%未満であることが好ましく、50質量%以上70質量%未満であることがより好ましい。(A1)の溶解性ポリマー中のポリシロキサン骨格の割合がこの範囲内であることによって、シリコーン主鎖でなくグラフト鎖の物性が支配的になり、降伏応力が大きくなるという有利な効果が奏される。
【0045】
一方、(A2)の溶解性ポリマー中のポリシロキサン骨格の割合は、70質量%以上であることが好ましい。また、(A2)の溶解性ポリマー中のポリシロキサン骨格の割合は、99質量%以下であることが好ましく、90質量%以下であることがより好ましい。特に、(A2)の溶解性ポリマー中のポリシロキサン骨格の割合は、70質量%以上99質量%以下であることが好ましく、70質量%以上90質量%以下であることがより好ましい。(A2)の溶解性ポリマー中のポリシロキサン骨格の割合がこの範囲内であることによって、シリコーンの疎水的な性質が発現するという有利な効果が奏される。
【0046】
(A1)及び(A2)の溶解性ポリマー中のポリシロキサン骨格の割合は、例えば溶解性ポリマーを重クロロホルム中に溶解させ、核磁気共鳴(1H-NMR)装置「Mercury 400」(Varian社製)を用いて測定できる。
【0047】
前記のアクリル樹脂としては、例えば、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸エステル、又はメタクリル酸エステル等のアクリル酸誘導体を主成分として単独又は共重合して得られるものを使用することができる。具体的には、(アクリル酸/t‐ブチルアクリルアミド)共重合体等の(アクリル酸/アクリルアミド)共重合体、(アクリル酸/アクリルアミド/アクリル酸エチル)共重合体等の(アクリル酸/アクリルアミド/アクリル酸アルキルエステル)共重合体、(アルキルアクリルアミド/アクリル酸/アルキルアミノアルキルアクリルアミド/ポリエチレングリコールメタクリレート)共重合体、アクリル酸アルキルエステル重合体、メタアクリル酸アルキルエステル共重合体、(アクリル酸/アクリル酸アルキルエステル)共重合体、(アクリル酸/メタクリル酸アルキルエステル)共重合体、(メタクリル酸/アクリル酸アルキルエステル)共重合体、(メタクリル酸/メタクリル酸アルキルエステル)共重合体、(アクリル酸アルキルエステル/t‐ブチルアクリルアミド)共重合体、(アクリル酸アルキルエステル/オクチルアクリルアミド)共重合体等の(アクリル酸アルキルエステル/アクリルアミド)共重合体、(アクリル酸/アクリル酸アルキルエステル/t‐ブチルアクリルアミド)共重合体等の(アクリル酸/アクリル酸アルキルエステル/アルキルアクリルアミド)共重合体、(メタクリル酸/アクリル酸アルキルエステル/アルキルアクリルアミド)共重合体、(メタクリロイルオキシエチルカルボキシベタイン/メタクリル酸アルキルエステル)共重合体、(アルキルアクリルアミド/アルキルアミノアルキルアクリルアミド/ポリエチレングリコールメタクリレート)共重合体、(オクチルアクリルアミド/アクリル酸ヒドロキシプロピル/メタクリル酸ブチルアミノエチル)共重合体、(アルキルアクリルアミド/アクリル酸アルキルエステル/アルキルアミノアルキルアクリルアミド/ポリエチレングリコールメタクリレート)共重合体、(アクリル酸アルキルエステル/ジアセトンアクリルアミド)共重合体、(スチレン/アクリル酸)共重合体、(スチレン/アクリル酸アルキルエステル)共重合体、(スチレン/アクリルアミド)共重合体、ウレタン‐アクリル系共重合体、(ビニルピロリドン/アクリル酸/メタクリル酸)共重合体、(ビニルピロリドン/アクリル酸アルキルエステル/メタクリル酸)共重合体、(オクチルアクリルアミド/アクリル酸ヒドロキシプロピル/メタクリル酸ブチルアミノエチル)重合体、(メタクリロイルオキシエチルカルボキシベタイン/メタクリル酸アルキルエステル)重合体、(アクリル酸/アクリル酸アルキルエステル/メタクリル酸エチルアミンオキシド)共重合体等が挙げられる。
【0048】
前記のフッ素系ポリマーとしては、例えば、ポリテトラフルオロエチレンやポリフッ化ビニリデン等のフッ素化オレフィンを重合したもの並びにさらに一部を修飾したものなどが挙げられる。
【0049】
撥水処理剤に含まれるポリマーとして、シリコーン系ポリマー、アクリル系樹脂、及びフッ素系ポリマー以外に、上述した溶解性を有し且つ上述した降伏応力を有する他のポリマーを使用することもできる。他の溶解性ポリマーとしては、例えば、(ビニルメチルエーテル/マレイン酸)共重合体、(ビニルメチルエーテル/マレイン酸アルキルエステル)共重合体、(ビニルメチルエーテル/マレイン酸ブチル)共重合体等のマレイン酸系重合体が挙げられる。
【0050】
本発明の繊維処理剤は、25℃での水への溶解度が50mg/100g未満であり、25℃での降伏応力が0.6MPa以上であり、且つ水との接触角が90度以上である溶解性ポリマーに加えて、(B)25℃における水への溶解度が50mg/100g以上のポリマーを含有してもよい。本発明の繊維処理剤におけるポリマー(B)の含有量は、0.01質量%以上7.5質量%以下が好ましく、0.1質量%以上5質量%以下がより好ましく、0.4質量%以上3.5質量%以下が更に好ましい。
【0051】
ポリマー(B)としては、例えば揮発性溶媒に溶解させたときにイオン化しない非イオン性樹脂、前記アクリル樹脂等における水溶性モノマー含有量が高い水溶性ポリマーや塩を形成する水溶性ポリマーが挙げられる。非イオン性樹脂としては、(ビニルピロリドン/メタクリルアミド/ビニルイミダゾール)共重合体、ポリビニルカプロラクタム等が挙げられる。
【0052】
本発明の繊維処理剤は、上述した揮発性溶媒及び溶解性ポリマーに加えて他の成分を含んでいてもよい。そのような他の成分としては、例えば尿臭低減を目的とした消臭剤/抗菌剤/香料や、洗濯による除去性向上を目的とした界面活性剤/可塑剤や、排泄された尿の速乾性向上を目的とした吸水剤や、処理後の視認性向上を目的とした染料、顔料などが挙げられる。これらの他の成分は、本発明の繊維処理剤中に、総和で、好ましくは5質量%以下含まれる。発明の効果を一層顕著なものとする観点からは、本発明の繊維処理剤は、揮発性溶媒及び溶解性ポリマーのみを含有していることが好ましい。揮発性溶媒は、繊維処理剤に含まれる成分を溶解し得る媒体となるものであり、繊維処理剤における揮発性溶媒の含有量は、該成分の残部とすることができる。
【0053】
本発明の繊維処理剤は、これを噴霧するときのミストの均一性の観点から、その粘度が、25℃において、好ましくは20mPa・s以下、より好ましくは15mPa・s以下、更に好ましくは10mPa・s以下である。粘度の下限値に特に制限はなく、低ければ低いほど好ましいが、5mPa・s程度に粘度が低ければ本発明の効果は十分に奏される。繊維処理剤の粘度は、B型粘度計を用いて測定される。B型粘度計としては例えば東京計器株式会社製のB型粘度計を用いることができる。測定条件は、スピンドルNo.M1、回転数は粘度に応じて適切に選択される。
【0054】
本発明の繊維処理剤は、例えば、該処理剤を、繊維そのもの及び衣料等の繊維製物品(以下これらを総称して「繊維等」ともいう。)に直接噴霧して適用することができる。噴霧によって本発明の繊維処理剤を繊維等に適用する場合には、該繊維処理剤を手動式のミストスプレー容器内に収容した繊維表面処理用品を用いればよい。この繊維表面処理用品を使用する場合には、ミストスプレー容器から該繊維処理剤を繊維等に噴霧すればよい。手動式のミストスプレー容器は手動式スプレイヤーを具備するものである。なお繊維表面処理用品は、ミストスプレー容器の代わりに、エアゾールスプレー容器等の噴霧容器、又はスティック容器やロールオン容器等の塗工容器を用い、噴霧容器又は塗工容器内に本発明の繊維処理剤を充填したものであってもよい。
【0055】
手動式スプレイヤーは、ガスなどの噴射剤を用いないスプレイヤーであり、具体的にはフィンガー用スプレートリガーを例示できる。ミストスプレー容器は、ミストの粒径の細かさ、及びミスト径の均一性が良好である観点から、圧縮手段を備えた蓄圧式のものであってよい。
【0056】
本発明の繊維処理剤を繊維等に適用する量は、繊維等の撥水性を向上させる観点から、2g/m2以上であることが好ましく、6g/m2以上であることがより好ましく、20g/m2以上であることが更に好ましい。また、160g/m2以下であることが好ましく、100g/m2以下であることがより好ましく、60g/m2以下であることが更に好ましい。本発明の繊維処理剤を繊維等に適用する量は、2g/m2以上160g/m2以下であることが好ましく、6g/m2以上100g/m2以下であることがより好ましく、20g/m2以上60g/m2以下であることが更に好ましい。
【0057】
本発明の繊維処理剤を、例えば使用者の肌に直接当接する下着に施す場合、下着の面のうち、使用者の肌から遠い側の面、及び使用者の肌に近い側の面のうちの少なくとも一方の面に適用することができる。本発明の繊維処理剤が下着に撥水性を付与できるものであるため、使用者の肌から遠い側の面に繊維処理剤を適用すると、液体の滲み出しを効果的に防止し得ることから好ましい。特にブリーフやトランクス等の下穿きの外面に、本発明の繊維処理剤によって撥水性を付与すれば、該下穿きがパッドの代わりに少量の尿を吸収するとともに、吸収した尿の外面への染み出しを抑制するので、失禁用パッドのような物品を着用することなく、少量の尿漏れ対策、言い換えれば排尿後尿滴下対策として極めて有効なものとなる。
【0058】
本発明の繊維処理剤によれば、相対向する二面(例えば表面及び裏面)を有する繊維製物品の一方の面のみに、尿等の体液の透過を防止する被膜を形成し、他方の面には該被膜を形成しないようにすることが可能である。このような「繊維製物品の片面撥水化」による利点として、繊維製物品の撥水化が必要最小限に抑えられ、繊維製物品が本来有する諸物性が維持される点が挙げられる。繊維製物品を従来公知の撥水処理方法に従って撥水化すると、撥水化が必要以上に進行し、吸水性、柔軟性、通気性などの、本来低下させたくない物性が大きく低下する場合があるが、本発明の繊維処理剤によれば、繊維製物品の片面撥水化が容易に可能である。しかも本発明の繊維処理剤は、意図せず処理対象物以外の例えば床に付着したとしても、床が滑りやすくなることが効果的に防止できる。
【0059】
片面撥水化の対象となる繊維製物品の一例として、JIS L-1907の滴下法による吸水時間が30秒以下、好ましくは20秒以下、より好ましくは15秒以下、更に好ましくは1秒以下の吸水性を有するもの(以下、「吸水性繊維製物品」ともいう。)が挙げられる。吸水性繊維製物品は、水及び種々の水性液を吸収することができ、例えば、体液の一種である汗、尿、血液を吸収することができる。吸水性繊維製物品は、典型的には、吸水性繊維を主体とするものである。該吸水性繊維としては、例えば、木材パルプ、綿、麻等の天然繊維が用いられる。吸水性繊維製物品における吸水性繊維の含有量は、該吸水性繊維製物品の全質量に対して、好ましくは50質量%以上、より好ましくは70質量%以上である。吸水性繊維製物品は、例えば、厚み0.3~20mm程度のシート状の繊維製物品、より具体的には、織物(織布)、編物、不織布、紙の何れか1種又は2種以上を含む形態であり得る。
【0060】
本発明の繊維処理剤は、吸水性繊維製物品を含む種々の繊維製物品の片面撥水化に使用することができ、例えば、下記(1)~(10)の用途に好適である。一般に、下記(1)~(6)は、比較的少量の液体、具体的には好ましくは1mL以下程度、より好ましくは0.5mL以下程度の量の液体を吸収する用途であり、下記(7)~(10)は、それよりも多量の液体、具体的には好ましくは1~100mL程度、より好ましくは1~10mL程度の量の液体を吸収する用途である。
【0061】
(1)靴下(吸水性繊維製物品)の非肌対向面の撥水化による、靴及び中敷きへの足汗の移行防止(靴の防臭)。ここでいう「非肌対向面」とは、吸水性繊維製物品の使用時に使用者の肌側とは反対側に向けられる面(相対的に使用者の肌から遠い側)であり、以下特に断らない限り同じである。なお、吸水性繊維製物品における非肌対向面とは反対側の面(使用時に使用者の肌側に向けられる面)は、「肌対向面」である。
(2)女性用下着(吸水性繊維製物品)の非肌対向面の撥水化による、ボトム(下半身に着ける衣服)への排泄物(おりもの、経血等)の移行防止。
(3)女性用ブラジャー(吸水性繊維製物品)の非肌対向面の撥水化による、衣服への母乳の移行防止。
(4)画用紙(吸水性繊維製物品)の裏面の撥水化による、水性インクの裏移り防止。
(5)不織布(吸水性繊維製物品)の片面の撥水化による、隠蔽性の向上。隠蔽性が向上した不織布は、例えばドリップシートとして好適である。ドリップシートは、肉や魚などの食材から染み出す(ドリップ(血液など)を吸収保持するシート状物であり、食材の鮮度を保持するために使用される。片面撥水化によって隠蔽性が向上した不織布からなるドリップシートで食材を被覆することで、該不織布の撥水化された片面(食材側とは反対側の面)によってドリップの裏抜けが防止されるとともに、該食材から染み出す血液などのドリップが外部から見えにくくなる。
(6)テーブルクロスの裏面の撥水化による、テーブルへの汚れ移行防止。
【0062】
(7)雑巾・台拭き(吸水性繊維製物品)の片面の撥水化による、手への汚れ付着防止。
(8)よだれ掛け(吸水性繊維製物品)の内面(使用者の身体側の面)の撥水化による、衣服へのよだれや食べこぼしの汚れ移行防止。
(9)足拭きマット(吸水性繊維製物品)の片面の撥水化による、床濡れ防止、滑り防止、カビ・雑菌の繁殖防止。
(10)シーツ・布団カバー・枕カバー(吸水性繊維製物品)の裏面(使用者の身体側とは反対側の面)の撥水化による、敷布団・掛布団・枕への汗の移行防止(防湿)。
【0063】
本発明の繊維処理剤は、下記(11)~(15)の用途にも好適である。下記(11)~(15)は、前述の片面撥水化である必要は無く、繊維製物品の相対向する両面が撥水化されてもよい場合があり得る。
【0064】
(11)ズボン(吸水性繊維製物品)の肌対向面の撥水化による、尿汚れ付着防止。
(12)靴・靴下・帽子(吸水性繊維製物品)の肌対向面の撥水化による、汗のべたつき軽減。
(13)シーツ(吸水性繊維製物品)の表面(使用者の身体側の面)の撥水化による、汗のべたつき軽減。
(14)肌着(吸水性繊維製物品)の肌対向面の撥水化による、汗のべたつき軽減。
(15)肌着(吸水性繊維製物品)の非肌対向面の撥水化による、汗シミ防止。
【実施例】
【0065】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。しかし本発明の範囲は、かかる実施例に制限されない。
【0066】
〔実施例1ないし6及び比較例1ないし7〕
以下の表1に示すシリコーングラフト共重合体を溶解性ポリマーとして用いた。揮発性溶媒としてエタノールを用いた。エタノールに対する各溶解性ポリマーは5質量%の濃度とした。これらの溶解性ポリマーとエタノールとを用いて繊維処理剤を調製した。繊維処理剤における各溶解性ポリマーの比率は同表に示すとおりである。
繊維処理剤を手動式のミストスプレー容器に充填して繊維表面処理用品を製造した。スプレイヤーとしては、株式会社三谷バルブ製の品番Z-155-C110-1-290(95-0)を用いた。スプレイヤーは、1プッシュ当たりの吐出量が0.15mLのものであった。ボトルは竹本容器株式会社製のPH-100 No.2白を用いた。
【0067】
〔実施例7ないし22〕
以下の表3に示すポリマー及びポリマー混合物を溶解性ポリマーとして用いた。揮発性溶媒、ポリマー含有量は表3に示すとおりに配合し、繊維処理剤を調製した。繊維処理剤を手動式のミストスプレー容器に充填して繊維表面処理用品を製造した。スプレイヤーとしては、株式会社三谷バルブ製の品番Z-155-C110-1-290(95-0)を用いた。スプレイヤーは、1プッシュ当たりの吐出量が0.15mLのものであった。ボトルは竹本容器株式会社製のPH-100 No.2白を用いた。
【0068】
実施例及び比較例に用いたポリマーの詳細は表2に示すとおりである。また各ポリマーの25℃における降伏応力、及び水との接触角は表2に示すとおりである。
・ポリマーA:ポリ(N-プロピオニルエチレンイミン)変性シリコーン(INCI名:ポリシリコーン-9)、重量平均分子量:約11万、グラフト鎖の重量平均分子量:約5000、ポリシロキサン骨格の割合:88質量%、25℃のエタノール100gへの溶解度50g。
・ポリマーB:ポリ(N-プロピオニルエチレンイミン)変性シリコーン(INCI名:ポリシリコーン-9)、重量平均分子量:約7万、グラフト鎖の重量平均分子量:約1000、ポリシロキサン骨格の割合:71質量%、25℃のエタノール100gへの溶解度67g。
・ポリマーC:ポリ(N-プロピオニルエチレンイミン)変性シリコーン(INCI名:ポリシリコーン-9)、重量平均分子量:約10万、グラフト鎖の重量平均分子量:約3000、ポリシロキサン骨格の割合:51質量%、25℃のエタノール100gへの溶解度50g。
・ポリマーD:ポリ(N,N-ジメチルアクリルアミド)変性シリコーン、重量平均分子量:約7万、グラフト鎖の重量平均分子量:約1000、ポリシロキサン骨格の割合:75質量%、25℃のエタノール100gへの溶解度50g。
・ポリマーE:ポリ(アクリル酸)変性シリコーン、重量平均分子量:約6万、グラフト鎖の重量平均分子量:約2000、ポリシロキサン骨格の割合:80質量%、25℃のエタノール100gへの溶解度50g。ポリマーEは後述する製造方法により製造した。
・ポリマーF:(アクリレーツ/アクリル酸ラウリル/アクリル酸ステアリル/メタクリル酸エチルアミンオキシド)コポリマー(ダイヤフォーマー Z-631、三菱ケミカル株式会社製、有効成分30質量%、エタノール63質量%、水7質量%)。
・ポリマーG:(アクリレーツ/アクリル酸ラウリル/アクリル酸ステアリル/メタクリル酸エチルアミンオキシド)コポリマー(ダイヤフォーマー Z-632、三菱ケミカル株式会社製、有効成分30質量%、エタノール54質量%、水16質量%)。
・ポリマーH:(アクリレーツ/アクリル酸ラウリル/アクリル酸ステアリル/メタクリル酸エチルアミンオキシド)コポリマー(ダイヤフォーマー Z-651、三菱ケミカル株式会社製、有効成分30質量%、エタノール60質量%、水10質量%)。
・ポリマーI:シリコーンレジン(KR-251、信越化学工業株式会社製、有効成分20質量%、トルエン80質量%)。
・ポリマーJ:(アクリレーツ/ジメチコン)コポリマー(KP-541、信越化学工業株式会社製、有効成分60質量%、イソプロパノール40質量%)。
・ポリマーK:トリ(トリメチルシロキシ)シリルプロピルカルバミド酸プルラン(TSPL-30-ID、信越化学工業株式会社製、有効成分30質量%、イソドデカン70質量%)。
・ポリマーL:(ビニルメチルエーテル/マレイン酸イソプロピル)コポリマー(ガントレッツ ES-335I、アイエスピー・ジャパン株式会社製、有効成分50質量%、イソプロパノール50質量%)。
・ポリマーM:(ビニルメチルエーテル/マレイン酸ブチル)コポリマー(ガントレッツ ES-435、アイエスピー・ジャパン株式会社製、有効成分50質量%、イソプロパノール50質量%)。
・ポリマーN:(アクリレーツ/t‐ブチルアクリルアミド)コポリマー(ウルトラホールド ストロング、BASF社製)。
・ポリマーO:(オクチルアクリルアミド/アクリル酸ヒドロキシプロピル/メタクリル酸ブチルアミノエチル)コポリマー(アンフォマー 28-4910、アクゾノーベル株式会社製)。
・ポリマーP:(メタクリロイルオキシエチルカルボキシベタイン/メタクリル酸アルキル)コポリマー(ユカフォーマー 202、三菱ケミカル株式会社製、有効成分30質量%、エタノール70質量%)。
・ポリマーQ:酢酸ビニル・ビニルピロリドン共重合体(ルビスコール VA37E、BASF社製、有効成分50質量%、エタノール50質量%)。
・ポリマーR:(ビニルピロリドン/メタクリルアミド/ビニルイミダゾール)コポリマー(ルビセット Clear AT2、BASF社製、重量平均分子量:27万、有効成分25質量%、水75質量%)。
・ポリマーS:ポリビニルカプロラクタム(ルビスコール Plus、BASF社製、重量平均分子量:8万、有効成分40質量%、エタノール60質量%)。
・ポリマーT:フルオロアルキルアクリレートコポリマー(エフトーン GMW-605、ダイキン工業株式会社製、有効成分20~30質量%、水70~80質量%、酢酸5質量%未満)。
【0069】
<ポリマーEの製造方法>
先ず、ラジカル反応性オルガノポリシロキサンを合成し、これを用いてポリマーEのポリ(アクリル酸)変性シリコーンを合成した。
<ラジカル反応性オルガノポリシロキサンの合成>
還流冷却管、温度計、窒素導入管、撹拌装置を取り付けたセパラブルフラスコに反応性官能基を有するオルガノポリシロキサンとして、側鎖一級アミノプロピル変性オルガノポリシロキサン(重量平均分子量50000、単位質量当たりのアミノ基のモル数;1/1970mol/g、信越化学工業(株)製)を200g、N-アセチル-DL-ホモシステインチオラクトンを16g仕込んだ。窒素雰囲気下で、100℃に昇温し、3時間撹拌し、スルファニル基を有するラジカル反応性オルガノポリシロキサンを合成した。
<ポリマーEの合成>
還流冷却器、温度計、窒素導入管、撹拌装置を取り付けたセパラブルフラスコにエタノール17gを仕込んだ。窒素雰囲気下80℃の還流下で撹拌しながら、下記溶液(a)および溶液(b)をそれぞれ別の滴下ロートに入れ、同時に3時間かけて滴下した。その後、エタノールを還流させながら1時間撹拌したのち、下記溶液(c)を1時間かけて滴下した。
・溶液(a):アクリル酸(富士フィルム和光純薬(株)製)7.5g、エタノール110gを混合した溶液。
・溶液(b):上記合成例にて合成したラジカル反応性オルガノポリシロキサン 30g、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)「V-65B」(富士フィルム和光純薬(株)製、アゾ系重合開始剤)0.4g、エタノール30gを混合した溶液。
・溶液(c):2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)「V-65B」(富士フィルム和光純薬(株)製、アゾ系重合開始剤)0.4g、エタノール20gを混合した溶液。
滴下終了後、エタノールを還流させながら1時間撹拌した。反応混合物から室温(25℃)、減圧下(20kPa)で4時間かけてエタノールを除去し、ポリマーEを含む混合物を白色固体として得た。
【0070】
<水に対する溶解度測定方法>
1Lガラスビーカーに水を500g加え、回転子(フッ素樹脂(PTFE)製、φ8mm×50mm)を用い、回転数100rpmで攪拌しながら、25℃の恒温槽にて保温する。各種ポリマーを0.1g添加し、10分後に目視にて均一透明な状態になっているか否かを確認する。均一透明でなくなるまで各種ポリマーを0.1gずつ追加で添加し、水への溶解度を測定する。なお、各種ポリマーは、溶媒に溶解した溶液として入手した場合は、溶媒を除去してから測定を実施した。
ポリマーを50g添加しても均一透明の場合、その時点で測定を終了し、25℃の水100gに対する溶解度は10g以上と判断する。ポリマーを0.1g添加したときに均一透明でない場合、25℃の水100gに対する溶解度は20mg未満と判断する。
・水:オルガノ株式会社製の純水装置G-10DSTSETで製造した25℃における導電率が1μS/cm以下の純水。
【0071】
<繊維処理剤の外観>
表1及び表3の各繊維処理剤10gをガラス製透明容器(容量20mL)中に個別に入れ、25℃に保ち、外観をそれぞれ目視により観察した。結果を表1及び表3に示す。
【0072】
〔評価〕
実施例及び比較例で得られた繊維表面処理用品を用いて繊維製物品を処理して、繊維処理剤の滑り防止性、及び繊維処理剤による液のバリア性を以下の方法で評価した。それらの結果を表1及び表3に示す。
【0073】
〔繊維処理剤の滑り防止性〕
大阪ガス株式会社製のフローリング仕上げ材 148-W281型を用意した。フローリング仕上げ材は、縦909mm×幅151.5mmの矩形状のものであった。フローリング仕上げ材の床面に、床用ワックス(株式会社リンレイ製のリンレイオール)を標準使用条件で3回処理し、評価用の床面を得た。標準使用条件として、床の単位面積あたり5mL/m2~15mL/m2の比率で床用ワックスを処理した。評価用の床面を縦方向に二等分する位置にて床面を区分し、一方の二等分した床面の領域に対して、該床面の上方20cmの位置から該床面の全域に対し、ミストスプレー容器を複数回プッシュして繊維処理剤が150mg/m2付着するように均一に噴霧した後、5分間静置して乾燥させた。他方の二等分した床面の領域に対しては、繊維処理剤を噴霧しなかった。こうして、一方の二等分した領域が処理剤の膜の形成された処理面となり、他方の二等分した領域が未処理面となった防滑性評価用の床面を作製した。ポリエステル85質量%、綿10質量%及びポリウレタン5質量%の靴下を履かせた5名のパネラーを、防滑性評価用の床面の縦方向に、未処理面から処理面に向かって歩行させた。そして処理面でUターンした際の滑りの程度を評価させた。パネラーの評価の平均を、滑り防止性の評価結果とした。評価点が大きいほど、高評価となる。
(滑りの危険性の評価基準)
1点:未処理面と比べものにならないほど極めて滑る。
2点:未処理面に比べて大いに滑る。
3点:未処理面に比べて滑る。
4点:未処理面に比べて若干滑る。
5点:未処理面と同じ程度に滑らない。
【0074】
〔繊維処理剤による人工尿のバリア性〕
10cm×10cmの布からなる第1の繊維製物品(日本規格協会製のカナキン3号)を、垂直な台に載置し、該繊維製物品の上方10cmの位置から該繊維製物品の上面の全域に対し、ミストスプレー容器を6回プッシュして繊維処理剤を噴霧した後、10分間静置して乾燥させた。こうして、繊維製物品の片面全体に繊維処理剤が適用された処理剤付与繊維製物品を得た。次いで、水平な台の上に、10cm×10cmの布からなる別の第2の繊維製物品(日本規格協会製のカナキン3号)を載置し、第2の繊維製物品の上に、処理剤付与繊維製物品を、処理剤の適用された面が第2の繊維製物品に対向するように、重ね合わせた。第1の繊維製物品は下穿きを想定したものであり、第2の繊維製物品はアウター衣料のズボンを想定したものである。この状態下に、処理剤付与繊維製物品における処理剤の適用されていない面へ向けて人工尿を0.5mL滴下した。滴下直後、その上に第1及び第2の繊維製物品の面積よりも大きい底面積を持つアクリル板を載置し、1g/cm2の圧力を60秒間にわたり加えた。この圧力は、下穿きに加わる装着圧を想定したものである。次いで、アクリル板を取り除き、人工尿の滴下の前後における第1の繊維製物品の質量を測定し、質量の変化を求めた。この値を第1の繊維製物品の質量変化量(W1)とする。同様に、人工尿の滴下の前後における第2の繊維製物品の質量を測定し、質量の変化を求めた。この値を人工尿の滲み出し量(W2)とする。第1の繊維製物品の質量変化量(W1)及び滲み出し量(W2)の合計値に対する、第1の繊維製物品の質量変化量(W1)の割合を、バリア性(%)として算出した。バリア性はその値が100%に近いほど滲み出し量が少なくバリア性の高いものと評価できる。本評価ではバリア性が90%以上である場合を「A」とし、90%未満である場合を「B」とした。
【0075】
人工尿の組成は、尿素1.940質量%、塩化ナトリウム0.795質量%、硫酸マグネシウム0.110質量%、塩化カルシウム0.062質量%、硫酸カリウム0.197質量%、ポリオキシエチレンラウリルエーテル(約0.07質量%)、及び水(残部)であり、表面張力を23℃において53±1dyne/cmに調整したものである。
【0076】
実施例1に関しては、生理食塩水(大塚生食注、株式会社大塚製薬工場製)を人工尿の代わりに用いて、繊維処理剤による生理食塩水のバリア性を同様に評価した。
【0077】
【0078】
【0079】
【0080】
表1及び表3に示す結果から明らかなとおり、ポリマーの降伏応力が0.6MPa以上であるとの条件(I)を満たし、且つ水との接触角が90度より大きいとの条件(II)を満たす各実施例の繊維処理剤で処理された繊維製物品は、人工尿に対するバリア性が高く、しかも各実施例の繊維処理剤の膜が形成された床は滑り難いことが分かる。それに対し、条件(I)のみを満す比較例3及び5乃至7の繊維製物品は人工尿に対するバリア性が低く、条件(II)のみを満す比較例1、2及び4の繊維処理剤の膜が形成された床は滑り易いことが分かる。また実施例1の繊維処理剤で処理された繊維製物品は、人工尿に対するバリア性が高く、さらに生理食塩水に対するバリア性も高いことが分かった。以上のことから、各実施例の繊維処理剤によれば、普段使用している下穿き等の衣料をそのまま使用しながら、身体から排泄された体液が衣料から染み出してしまうことを効果的に防止でき、意図せず床に付着した場合であっても床が滑り難くなることが期待できる。