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特許7222878風防用帯電防止膜形成用組成物、及びそれを用いた時計と時計の製造方法
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  • 特許-風防用帯電防止膜形成用組成物、及びそれを用いた時計と時計の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-07
(45)【発行日】2023-02-15
(54)【発明の名称】風防用帯電防止膜形成用組成物、及びそれを用いた時計と時計の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C09K 3/16 20060101AFI20230208BHJP
   C09D 165/00 20060101ALI20230208BHJP
   C09D 181/00 20060101ALI20230208BHJP
   C03C 17/32 20060101ALI20230208BHJP
   G04B 39/00 20060101ALI20230208BHJP
【FI】
C09K3/16 108B
C09D165/00
C09D181/00
C03C17/32 A
G04B39/00 L
G04B39/00 Z
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2019234171
(22)【出願日】2019-12-25
(65)【公開番号】P2021102695
(43)【公開日】2021-07-15
【審査請求日】2022-05-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000001960
【氏名又は名称】シチズン時計株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001771
【氏名又は名称】弁理士法人虎ノ門知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】赤尾 祐司
(72)【発明者】
【氏名】北嶋 泰夫
【審査官】中野 孝一
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-128494(JP,A)
【文献】特開2013-191294(JP,A)
【文献】特開平6-299143(JP,A)
【文献】特開平8-176535(JP,A)
【文献】特開平10-168389(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K3/16
G04B1/00-99/00
C03C15/00-23/00
C09D1/00-10/00
C09D101/00-201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性高分子と、アセチレン系界面活性剤と、沸点180℃以上の水溶性有機溶媒と、イソプロピルアルコールおよびエタノールから選ばれる少なくとも1種のアルコールと、水とを含み、
前記導電性高分子を0.03質量%以上5.0質量%以下の量で、前記アセチレン系界面活性剤を0.01質量%以上1.0質量%以下の量で、前記沸点180℃以上の水溶性有機溶媒を0.1質量%以上10.0質量%以下の量で含む、
風防用帯電防止膜形成用組成物。
【請求項2】
前記導電性高分子が、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)-ポリ(スチレンスルホナート)である、
請求項1に記載の風防用帯電防止膜形成用組成物。
【請求項3】
さらにエポキシ基を有するシランカップリング剤を含む、
請求項1または2に記載の風防用帯電防止膜形成用組成物。
【請求項4】
基材と前記基材の表面に形成された帯電防止膜とを有する風防を備える時計であって、
前記帯電防止膜は、前記基材における文字板側の表面に形成されており、
前記基材は、ガラスまたはプラスチックを含み、
前記帯電防止膜は、導電性高分子を含む、
時計。
【請求項5】
前記導電性高分子が、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)-ポリ(スチレンスルホナート)である、
請求項4に記載の時計。
【請求項6】
基材と前記基材の表面に形成された帯電防止膜とを有する風防を備える時計の製造方法であって、
前記基材における文字板側となる表面に、風防用帯電防止膜形成用組成物を付着し、60℃以上130℃以下に加熱して、前記帯電防止膜を形成する工程を含み、
前記基材は、ガラスまたはプラスチックを含み、
前記風防用帯電防止膜形成用組成物は、導電性高分子と、アセチレン系界面活性剤と、沸点180℃以上の水溶性有機溶媒と、イソプロピルアルコールおよびエタノールから選ばれる少なくとも1種のアルコールと、水とを含み、前記導電性高分子を0.03質量%以上5.0質量%以下の量で、前記アセチレン系界面活性剤を0.01質量%以上1.0質量%以下の量で、前記沸点180℃以上の水溶性有機溶媒を0.1質量%以上10.0質量%以下の量で含み、
前記帯電防止膜は、前記導電性高分子を含む、
時計の製造方法。
【請求項7】
前記導電性高分子が、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)-ポリ(スチレンスルホナート)である、
請求項6に記載の時計の製造方法。
【請求項8】
前記風防用帯電防止膜形成用組成物が、さらにエポキシ基を有するシランカップリング剤を含む、
請求項6または7に記載の時計の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、風防用帯電防止膜形成用組成物、及びそれを用いた時計と時計の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、透光性を有する基材を備える時計用のカバー部材が記載されている。この時計用カバー部材において、上記基材の一方の面には、酸化ケイ素(SiO2)からなる層と、窒化ケイ素(SiN)からなる層とが、交互に積層してなる反射防止層が形成されている。また、上記基材の他方の面には、少なくとも透明導電膜層を有する帯電防止層が形成されている。上記帯電防止層は、ITO(Indium Tin Oxide)を用いて形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2017-128494号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1の時計用カバー部材は、帯電防止性能が劣っている。
【0005】
そこで、本発明の目的は、帯電防止性能に優れる帯電防止膜が形成できるカバー部材として風防用帯電防止膜形成用組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の風防用帯電防止膜形成用組成物は、導電性高分子と、アセチレン系界面活性剤と、沸点180℃以上の水溶性有機溶媒と、イソプロピルアルコールおよびエタノールから選ばれる少なくとも1種のアルコールと、水とを含み、上記導電性高分子を0.03質量%以上5.0質量%以下の量で、上記アセチレン系界面活性剤を0.01質量%以上1.0質量%以下の量で、上記沸点180℃以上の水溶性有機溶媒を0.1質量%以上10.0質量%以下の量で含む。
【発明の効果】
【0007】
本発明の風防用帯電防止膜形成用組成物によれば、帯電防止性能に優れる帯電防止膜が形成できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、実施形態の時計の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明を実施するための形態(実施形態)につき、詳細に説明する。以下の実施形態に記載した内容により本発明が限定されるものではない。また、以下に記載した構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のものが含まれる。さらに、以下に記載した構成は適宜組み合わせることが可能である。また、本発明の要旨を逸脱しない範囲で構成の種々の省略、置換または変更を行うことができる。
【0010】
<風防用帯電防止膜形成用組成物>
実施形態の風防用帯電防止膜形成用組成物は、導電性高分子と、アセチレン系界面活性剤と、沸点180℃以上の水溶性有機溶媒と、イソプロピルアルコールおよびエタノールから選ばれる少なくとも1種のアルコールと、水とを含む。また、実施形態の風防用帯電防止膜形成用組成物は、上記導電性高分子を0.03質量%以上5.0質量%以下の量で、上記アセチレン系界面活性剤を0.01質量%以上1.0質量%以下の量で、上記沸点180℃以上の水溶性有機溶媒を0.1質量%以上10.0質量%以下の量で含む。溶解性の観点から、上記導電性高分子を0.03質量%以上1.0質量%以下の量で含むことが好ましい。
【0011】
実施形態の風防用帯電防止膜形成用組成物は、たとえば一例として時計の風防を構成する基材の表面に帯電防止膜を形成することができる。たとえば、時計の風防を構成する基材の表面に実施形態の風防用帯電防止膜形成用組成物を塗布等により付着し、加熱して帯電防止膜を形成できる。形成された帯電防止膜は、加熱の際に、沸点180℃以上の水溶性有機溶媒、アルコール、水が蒸発するため、少なくとも導電性高分子を含む導電性高分子膜である。ところで、特許文献1のように、帯電防止膜をITO(Indium Tin Oxide)等の無機化合物により形成することもできる。しかしながら、ITO膜は、真空蒸着装置を使用して形成する必要があり、煩雑であり高コストとなる。また、真空蒸着装置を用いるため、基材がプラスチックであるとITO膜を形成できない。さらに、ITO膜は、温度変化によりひびが入ることがある。これに対して、導電性高分子膜は、上記のように塗布等による付着および加熱を経て形成できる。すなわち、簡便に形成でき、コストを抑えられる。また、基材がプラスチックであっても導電性高分子膜を形成できる。さらに、導電性高分子膜は、温度変化によりひびが入り難いととともに、帯電防止性能にも優れている。
【0012】
また、従来、基材がプラスチックの場合には、界面活性剤を用いて帯電防止膜が形成されることがある。界面活性剤で形成された帯電防止膜では、空気中の水分を利用して、表面抵抗を下げることにより、帯電を防止する。このため、湿度が低いと帯電防止性能を発揮し難い。これに対して、実施形態の風防用帯電防止膜形成用組成物を用いて形成した帯電防止膜では、導電性高分子の働きにより、帯電を防止する。このため、湿度に関係なく帯電防止性能を発揮できる。したがって、基材における文字板側の表面に帯電防止膜を設けた場合も、帯電防止性能を発揮できる。
【0013】
また、エレクトレットモータを使用した時計では、静電誘導力で起動するため、時計のケース内を低湿度に保つ必要があり、風防が帯電しやすく、風防の帯電により風防の帯電部分と時刻などを表示する指針との間で静電引力が発生しやすい。そのため、運針ムラが発生する場合がある。このような時計であっても、実施形態の風防用帯電防止膜形成用組成物によれば帯電防止性能に優れる帯電防止膜が形成できるため、運針ムラを抑制できる。
【0014】
上記のように、形成された帯電防止膜には、導電性高分子が含まれるため、優れた帯電防止性能が発揮される。また、実施形態の風防用帯電防止膜形成用組成物において、導電性高分子が上記の量で含まれていると、優れた帯電防止性能が発揮できる帯電防止膜が得られる。また、導電性高分子が上記の量で含まれていると、風防の見栄えにも影響を与え難い。
【0015】
導電性高分子としては、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)-ポリ(スチレンスルホナート)(PEDOT/PSS;Poly(3,4-ethylenedioxythiophene)/poly(styrenesulfonate))、ポリアニリン、ポリアセチレン、ポリチオフェン、ポリピロール、ポリフェニレンビニレン、ポリチエニレンビニレン、これらの誘導体が挙げられる。導電性高分子は、1種単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。
【0016】
これらのうちで、導電性高分子としては、帯電防止性能の観点から、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)-ポリ(スチレンスルホナート)が好適に用いられる。
【0017】
アセチレン系界面活性剤を用いると、基材に実施形態の風防用帯電防止膜形成用組成物を付着させる際、実施形態の風防用帯電防止膜形成用組成物がはじかれ難くなる。したがって、薄く均一に付着できる。また、実施形態の風防用帯電防止膜形成用組成物において、アセチレン系界面活性剤が上記の量で含まれていると、上記機能が充分に発揮される。
【0018】
アセチレン系界面活性剤としては、アセチレンアルコール、アセチレンジオール、およびこれらにアルキレンオキサイドを付加した化合物が挙げられる。アセチレン系界面活性剤は、1種単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。
【0019】
アセチレンアルコールとしては、HOCR12-C≡CH(R1、R2は、それぞれ炭素数1~8のアルキル基を示す。)で表される化合物が挙げられる。具体的には、R1がメチル基、R2がイソブチル基である化合物、R1およびR2がメチル基である化合物、R1がメチル基、R2がエチル基である化合物が挙げられる。
【0020】
アセチレンジオールとしては、HOCR12-C≡C-CR12OH(R1、R2は、同一でも異なっていてもよく、それぞれ炭素数1~8のアルキル基を示す。)で表される化合物が挙げられる。具体的には、R1がメチル基、R2がイソブチル基である化合物、R1およびR2がメチル基である化合物、R1がメチル基、R2がエチル基である化合物、R1がメチル基、R2がイソペンチル基である化合物が挙げられる。
【0021】
また、これらにアルキレンオキサイドを付加した化合物としては、上記アセチレンアルコールまたはアセチレンジオールに、エチレンオキサイドまたはプロピレンオキサイドを付加した化合物が挙げられる。
【0022】
これらのうちで、アセチレン系界面活性剤としては、膜形成のしやすさの観点から、2,5,8,11-テトラメチル-6-ドデシン-5,8-ジオール,エトキシラテドが好適に用いられる。
【0023】
沸点180℃以上の水溶性有機溶媒は、基材に付着させた実施形態の風防用帯電防止膜形成用組成物を加熱する際、徐々にゆっくり蒸発する。上記水溶性有機溶媒がゆっくり蒸発していくと、その間に導電性高分子の分子間のパス(いいかえると、導電性を発現するための電子が移動できる道筋)が形成できる。したがって、優れた帯電防止性能が発揮できる帯電防止膜が得られる。また、実施形態の風防用帯電防止膜形成用組成物において、沸点180℃以上の水溶性有機溶媒が上記の量で含まれていると、上記機能が充分に発揮される。
【0024】
沸点180℃以上の水溶性有機溶媒としては、ジメチルスルホキシド(沸点189℃)、エチレングリコール(沸点197.6℃)、N-メチルピロリドン(沸点202℃)が挙げられる。沸点180℃以上の水溶性有機溶媒は、1種単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。
【0025】
これらのうちで、ジメチルスルホキシドとしては、パス形成のしやすさの観点から、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)-ポリ(スチレンスルホナート)が好適に用いられる。
【0026】
実施形態の風防用帯電防止膜形成用組成物において、残部は、イソプロピルアルコールおよびエタノールから選ばれる少なくとも1種のアルコールおよび水である。なお、本明細書において、イソプロピルアルコールおよびエタノールから選ばれる少なくとも1種のアルコールについて、単にアルコール成分ともいう。アルコール成分は、イソプロピルアルコール、エタノールを単独で用いてもよく、両者を併用してもよい。アルコール成分および水は、実施形態の風防用帯電防止膜形成用組成物において、アセチレン系界面活性剤および導電性高分子の両者を溶解させる役割を有する。
【0027】
アルコール成分としては、相溶性の観点から、イソプロピルアルコールが好適に用いられる。
【0028】
実施形態の風防用帯電防止膜形成用組成物は、さらにエポキシ基を有するシランカップリング剤を含んでいてもよい。エポキシ基を有するシランカップリング剤を用いると、特に基材がガラスの場合に、基材に帯電防止膜を強固に付けられる。また、実施形態の風防用帯電防止膜形成用組成物の安定性も向上する。
【0029】
エポキシ基を有するシランカップリング剤は、具体的には、無機材料と親和性や反応性を有する加水分解基(X)と、有機材料と化学結合するエポキシ基(Y)とを有するケイ素化合物である。たとえば、上記シランカップリング剤は、X3-nMenSi-R-Y(Xは加水分解基、Yはエポキシ基、Meはメチル基、Rは炭素数2~3のアルキレン基を示し、nは0または1である。)で表される化合物である。加水分解性基(X)としては、CH3O-(メトキシ基)、CH3CH2O-(エトキシ基)、CH3OCH2CH2O-(2-メトキシエトキシ基)が挙げられる。また、R(アルキレン基)としては、エチレン基、プロピレン基が挙げられる。
【0030】
エポキシ基を有するシランカップリング剤としては、たとえば、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジイソプロペノキシシランが挙げられる。エポキシ基を有するシランカップリング剤は、1種単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。
【0031】
また、実施形態の風防用帯電防止膜形成用組成物は、エポキシ基を有するシランカップリング剤を含む場合は、エポキシ基を有するシランカップリング剤を0.01質量%以上0.5質量%以下の量で含むことが好ましい。
【0032】
なお、エポキシ基を有するシランカップリング剤を用いる場合は、風防用帯電防止膜形成用組成物は、導電性高分子と、アセチレン系界面活性剤と、沸点180℃以上の水溶性有機溶媒と、エポキシ基を有するシランカップリング剤とを含み、残部が、アルコール成分および水である。
【0033】
実施形態の風防用帯電防止膜形成用組成物は、さらに水溶性ポリウレタンおよび水溶性ポリエステルから選ばれる少なくとも1種の水溶性樹脂を含んでいてもよい。水溶性樹脂は、水溶性ポリウレタン、水溶性ポリエステルを単独で用いてもよく、両者を併用してもよい。水溶性樹脂を用いると、帯電防止膜の密着性が向上できる。このため、基材の他、パッキングまたは有機塗装された外装部品にも帯電防止膜をより好適に形成できるようになる。
【0034】
また、実施形態の風防用帯電防止膜形成用組成物は、水溶性樹脂を含む場合は、水溶性樹脂を0.01質量%以上2.5質量%以下の量で含むことが好ましい。
【0035】
なお、水溶性樹脂を用いる場合は、風防用帯電防止膜形成用組成物は、導電性高分子と、アセチレン系界面活性剤と、沸点180℃以上の水溶性有機溶媒と、水溶性樹脂とを含み、残部が、アルコール成分および水である。
【0036】
実施形態の風防用帯電防止膜形成用組成物は、たとえば、以下の手順により調製できる。まず、導電性高分子を含む水溶液を用意し、これを攪拌しながら、アルコール成分を少しずつ加え、次いで、他の成分を加える。さらに、最終的な濃度調整のため、アルコール成分および/または水を添加してもよい。このようにして、実施形態の風防用帯電防止膜形成用組成物を得ることができる。
【0037】
<時計および時計の製造方法>
図1は、実施形態の時計の断面図である。なお、実施形態の時計は、腕時計である。図1に示すように、実施形態の時計は、風防10を備え、風防10は、基材11と基材11の表面に形成された帯電防止膜12とを有する。具体的には、帯電防止膜12は、基材11における文字板31側の表面に形成されている。また、風防10は、パッキング32を介して時計ケース20に取り付けられている。これにより、時計内部に塵、埃、水分などが浸入しないような気密構造が形成されている。ここで、時計ケース20は、胴21および裏蓋22が嵌合されて形成されている。また、胴21および裏蓋22の間には、パッキング33が設けられている。なお、時計ケース20内には、ムーブメント34および文字板31が一体に、中枠35により保持され、収納されている。また、文字板31上には指針36が設けられており、胴21および文字板31の外周領域の間には、見きり37が設けられている。
【0038】
基材11は、ガラスまたはプラスチックを含む。ガラスとしては、サファイアガラス、ソーダガラス、強化クリスタルガラスが挙げられる。プラスチックとしては、アクリル樹脂、ポリカーボネートなどが挙げられる。帯電防止膜は、導電性高分子を含む。導電性高分子は、たとえば、実施形態の風防用帯電防止膜形成用組成物において例示した導電性高分子である。導電性高分子としては、帯電防止性能の観点から、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)-ポリ(スチレンスルホナート)が好適に用いられる。
【0039】
基材11の厚さは、通常0.5mm以上8mm以下である。帯電防止膜12の厚さは、通常4nm以上1μm以下である。
【0040】
実施形態の時計は、たとえば、実施形態の風防用帯電防止膜形成用組成物を用いて製造できる。すなわち、実施形態の時計の製造方法は、基材11と上記基材11の表面に形成された帯電防止膜12とを有する風防10を備える時計の製造方法であって、基材11における文字板31側となる表面に、風防用帯電防止膜形成用組成物を付着し、60℃以上130℃以下に加熱して、上記帯電防止膜を形成する工程を含む。
【0041】
基材11は、ガラスまたはプラスチックを含む。基材11の詳細については、上述の通りである。また、上記風防用帯電防止膜形成用組成物は、導電性高分子と、アセチレン系界面活性剤と、沸点180℃以上の水溶性有機溶媒と、イソプロピルアルコールおよびエタノールから選ばれる少なくとも1種のアルコールと、水とを含み、上記導電性高分子を0.03質量%以上5.0質量%以下の量で、上記アセチレン系界面活性剤を0.01質量%以上1.0質量%以下の量で、上記沸点180℃以上の水溶性有機溶媒を0.1質量%以上10.0質量%以下の量で含む。上記風防用帯電防止膜形成用組成物の詳細については、上述の通りである。
【0042】
風防用帯電防止膜形成用組成物の付着は、たとえばスプレー塗布等の塗布により行ってもよく、ディップにより行ってもよい。基材11に付着させた風防用帯電防止膜形成用組成物の加熱は、沸点180℃以上の水溶性有機溶媒、アルコール成分および水が蒸発するまで行えばよい。たとえば上記温度範囲で1時間以上3時間以下行う。また、加熱は、空気中で行ってもよく、窒素ガスなど不活性ガス中で行ってもよい。
【0043】
これにより、導電性高分子を含む帯電防止膜12が形成される。帯電防止膜12は、温導電性高分子により構成されているため、温度変化によりひびが入りにくいととともに、帯電防止性能に優れる。また、風防10の見栄えにも影響を与え難い。さらに、エレクトレットモータを使用した時計であっても、帯電による運針ムラが抑制できる。
【0044】
なお、帯電防止膜12は、少なくとも導電性高分子を含み、アセチレン系界面活性剤を含んでいてもよい。
【0045】
その他、風防用帯電防止膜形成用組成物がエポキシ基を有するシランカップリング剤を含む場合は、帯電防止膜12は、該シランカップリング剤に由来する化合物を含んでいてもよい。また、風防用帯電防止膜形成用組成物が水性樹脂を含む場合は、帯電防止膜12は、該水性樹脂を含んでいてもよい。
【0046】
上記実施形態の時計では、基材11における文字板31側の表面に帯電防止膜12を形成している。これに対して、基材11における文字板31側とは反対側の表面に帯電防止膜12を形成してもよい。また、上記実施形態の時計では、基材11における文字板31側の表面に帯電防止膜12を直接形成している。これに対して、基材11における文字板31側の表面に、反射防止膜などの中間層を介して帯電防止膜12を形成してもよい。また、上記実施形態の時計では、基材11の表面に帯電防止膜12を形成している。これに対して、パッキング32、33の表面に帯電防止膜12を形成してもよい。さらに、上記実施形態の時計は、指針36が設けられた腕時計であるが、デジタル時計であってもよく、掛け時計、置き時計、懐中時計などであってもよい。これらいずれの場合も、優れた帯電防止性能が発揮できる。
【0047】
以上より、本発明は以下に関する。
[1] 導電性高分子と、アセチレン系界面活性剤と、沸点180℃以上の水溶性有機溶媒と、イソプロピルアルコールおよびエタノールから選ばれる少なくとも1種のアルコールと、水とを含み、上記導電性高分子を0.03質量%以上5.0質量%以下の量で、上記アセチレン系界面活性剤を0.01質量%以上1.0質量%以下の量で、上記沸点180℃以上の水溶性有機溶媒を0.1質量%以上10.0質量%以下の量で含む、風防用帯電防止膜形成用組成物。
上記風防用帯電防止膜形成用組成物によれば、帯電防止性能に優れる帯電防止膜が形成できる。
【0048】
[2] 上記導電性高分子が、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)-ポリ(スチレンスルホナート)である、[1]に記載の風防用帯電防止膜形成用組成物。
上記風防用帯電防止膜形成用組成物によれば、帯電防止性能により優れる帯電防止膜が形成できる。
【0049】
[3] さらにエポキシ基を有するシランカップリング剤を含む、[1]または[2]に記載の風防用帯電防止膜形成用組成物。
特に基材がガラスの場合に、基材に帯電防止膜を強固に付けられる。
【0050】
[4] 基材と上記基材の表面に形成された帯電防止膜とを有する風防を備える時計であって、上記帯電防止膜は、上記基材における文字板側の表面に形成されており、上記基材は、ガラスまたはプラスチックを含み、上記帯電防止膜は、導電性高分子を含む、時計。
上記時計は、帯電防止性能に優れる。
【0051】
[5] 上記導電性高分子が、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)-ポリ(スチレンスルホナート)である、[4]に記載の時計。
上記時計は、帯電防止性能により優れる。
【0052】
[6] 基材と上記基材の表面に形成された帯電防止膜とを有する風防を備える時計の製造方法であって、上記基材における文字板側となる表面に、風防用帯電防止膜形成用組成物を付着し、60℃以上130℃以下に加熱して、上記帯電防止膜を形成する工程を含み、上記基材は、ガラスまたはプラスチックを含み、上記風防用帯電防止膜形成用組成物は、導電性高分子と、アセチレン系界面活性剤と、沸点180℃以上の水溶性有機溶媒と、イソプロピルアルコールおよびエタノールから選ばれる少なくとも1種のアルコールと、水とを含み、上記導電性高分子を0.03質量%以上5.0質量%以下の量で、上記アセチレン系界面活性剤を0.01質量%以上1.0質量%以下の量で、上記沸点180℃以上の水溶性有機溶媒を0.1質量%以上10.0質量%以下の量で含み、上記帯電防止膜は、上記導電性高分子を含む、時計の製造方法。
上記時計の製造方法によれば、帯電防止性能に優れる時計が得られる。
【0053】
[7] 上記導電性高分子が、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)-ポリ(スチレンスルホナート)である、[6]に記載の時計の製造方法。
上記時計の製造方法によれば、帯電防止性能により優れる時計が得られる。
【0054】
[8] 上記風防用帯電防止膜形成用組成物が、さらにエポキシ基を有するシランカップリング剤を含む、[6]または[7]に記載の時計の製造方法。
特に基材がガラスの場合に、基材に帯電防止膜を強固に付けられる。
【0055】
[実施例]
[実施例1-1]
まず、導電性高分子としてポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)-ポリ(スチレンスルホナート)を含む水溶液を用意した。導電性高分子を含む水溶液に対して、攪拌しながら、イソプロピルアルコールを少しずつ加え、次いで、ジメチルスルホキシド、アセチレン系界面活性剤として2,5,8,11-テトラメチル-6-ドデシン-5,8-ジオール,エトキシラテド、エポキシ基を有するシランカップリング剤として3-グリシドキシプロピルトリメトキシシランをさらに加えた。次いで、最終的な濃度調整のため、得られた溶液に水を加え、風防用帯電防止膜形成用組成物を作製した。
上記風防用帯電防止膜形成用組成物は、導電性高分子を0.074質量%、アセチレン系界面活性剤を0.029質量%、沸点180℃以上の水溶性有機溶媒を0.369質量%、エポキシ基を有するシランカップリング剤を0.123質量%の量で含み、残部は、イソプロピルアルコール(7.628質量%)および水(91.777質量%)であった。
【0056】
[実施例1-2]
エポキシ基を有するシランカップリング剤を加えなかった以外は、実施例1-1と同様にして、風防用帯電防止膜形成用組成物を作製した。
上記風防用帯電防止膜形成用組成物は、導電性高分子を0.074質量%、アセチレン系界面活性剤を0.029質量%、沸点180℃以上の水溶性有機溶媒を0.369質量%の量で含み、残部は、イソプロピルアルコール(7.628質量%)および水(91.900質量%)であった。
【0057】
[実施例1-3]
まず、導電性高分子としてポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)-ポリ(スチレンスルホナート)を含む水溶液を用意した。導電性高分子を含む水溶液に対して、攪拌しながら、イソプロピルアルコールを少しずつ加え、次いで、ジメチルスルホキシド、アセチレン系界面活性剤として2,5,8,11-テトラメチル-6-ドデシン-5,8-ジオール,エトキシラテド、エポキシ基を有するシランカップリング剤として3-グリシドキシプロピルトリメトキシシランをさらに加えた。次いで、最終的な濃度調整のため、得られた溶液に水を加え、風防用帯電防止膜形成用組成物を作製した。
上記風防用帯電防止膜形成用組成物は、導電性高分子を0.516質量%、アセチレン系界面活性剤を0.200質量%、沸点180℃以上の水溶性有機溶媒を2.583質量%、エポキシ基を有するシランカップリング剤を0.861質量%の量で含み、残部は、イソプロピルアルコール(53.393質量%)および水(42.447質量%)であった。
【0058】
[実施例2-1]
実施例1-1で得られた風防用帯電防止膜形成用組成物を、厚さ1mmのサファイアガラス基材にスプレー塗布し、空気中80℃で1時間加熱した。加熱により、サファイアガラス基材上に、導電性高分子を含む膜を作製した。
また、実施例1-1で得られた風防用帯電防止膜形成用組成物を、厚さ2mmのアクリル樹脂基材にスプレー塗布し、空気中80℃で1時間加熱した。この加熱により、アクリル樹脂基材上に、導電性高分子を含む膜を作製した。
このように、基材と上記基材の表面に形成された帯電防止膜とを有する風防を作製した。
また、これらの風防を用いてエレクトレットモータを使用した時計を組んだ。ここで、帯電防止膜は、文字板側となるようにした。
【0059】
[実施例2-2]
実施例1-2で得られた風防用帯電防止膜形成用組成物を用いた以外は、実施例2-1と同様にして、サファイアガラス基材およびアクリル樹脂基材上に、導電性高分子を含む膜を作製した。すなわち、基材と上記基材の表面に形成された帯電防止膜とを有する風防を作製した。また、これらの風防を用いて、実施例2-1と同様にして、エレクトレットモータを使用した時計を組んだ。
【0060】
[実施例2-3]
実施例1-3で得られた風防用帯電防止膜形成用組成物を用いた以外は、実施例2-1と同様にして、サファイアガラス基材およびアクリル樹脂基材上に、導電性高分子を含む膜を作製した。すなわち、基材と上記基材の表面に形成された帯電防止膜とを有する風防を作製した。また、これらの風防を用いて、実施例2-1と同様にして、エレクトレットモータを使用した時計を組んだ。
[比較例1]
厚さ1mmのサファイアガラス基材をそのまま風防として用いて、エレクトレットモータを使用した時計を組んだ。また、厚さ2mmのアクリル樹脂基材をそのまま風防として用いて、エレクトレットモータを使用した時計を組んだ。
【0061】
<帯電防止機能の評価方法および評価結果>
作製した時計について、風防の表面を布で擦り、運針の状態を観察した。運針の状態に変化が見られない場合を合格とし、針が一時的に止まるなど、運針の状態に変化がある場合を不合格とした。実施例2-1~2-3で得られた時計の評価結果は、いずれも合格であった。一方、比較例1で得られた時計の評価結果は、不合格であった。
【符号の説明】
【0062】
10 風防
11 基材
12 帯電防止膜
20 時計ケース
21 胴
22 裏蓋
31 文字板
32 パッキング
33 パッキング
34 ムーブメント
35 中枠
36 指針
37 見きり
図1