(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-07
(45)【発行日】2023-02-15
(54)【発明の名称】二酸化炭素を還元するガス拡散電極
(51)【国際特許分類】
C25B 11/081 20210101AFI20230208BHJP
C25B 1/02 20060101ALI20230208BHJP
C25B 1/23 20210101ALI20230208BHJP
C25B 1/26 20060101ALI20230208BHJP
【FI】
C25B11/081
C25B1/02
C25B1/23
C25B1/26 A
(21)【出願番号】P 2019570373
(86)(22)【出願日】2018-06-19
(86)【国際出願番号】 EP2018066293
(87)【国際公開番号】W WO2018234322
(87)【国際公開日】2018-12-27
【審査請求日】2021-06-17
(32)【優先日】2017-06-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】515266223
【氏名又は名称】コベストロ、ドイチュラント、アクチエンゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】COVESTRO DEUTSCHLAND AG
(74)【代理人】
【識別番号】100114188
【氏名又は名称】小野 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100119253
【氏名又は名称】金山 賢教
(74)【代理人】
【識別番号】100124855
【氏名又は名称】坪倉 道明
(74)【代理人】
【識別番号】100129713
【氏名又は名称】重森 一輝
(74)【代理人】
【識別番号】100137213
【氏名又は名称】安藤 健司
(74)【代理人】
【識別番号】100143823
【氏名又は名称】市川 英彦
(74)【代理人】
【識別番号】100183519
【氏名又は名称】櫻田 芳恵
(74)【代理人】
【識別番号】100196483
【氏名又は名称】川嵜 洋祐
(74)【代理人】
【識別番号】100160749
【氏名又は名称】飯野 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100160255
【氏名又は名称】市川 祐輔
(74)【代理人】
【識別番号】100146318
【氏名又は名称】岩瀬 吉和
(74)【代理人】
【識別番号】100127812
【氏名又は名称】城山 康文
(72)【発明者】
【氏名】リッターマイヤー,アンドレ
(72)【発明者】
【氏名】ベンツ,ミヒャエル
(72)【発明者】
【氏名】エイデン,シュテファニー
(72)【発明者】
【氏名】ブールバッハ,トマス
【審査官】関口 貴夫
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/184388(WO,A1)
【文献】特表2010-521277(JP,A)
【文献】特開2013-067859(JP,A)
【文献】国際公開第2012/118065(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2016/0017503(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25B 11/00-11/097
C25B 1/00- 1/55
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
二酸化炭素を電気化学的に一酸化炭素に変換する方法であって、
ガス拡散電極で二酸化炭素をカソード反応させてCOを形成し、アノード側で塩素または酸素を同時に生成し、
前記ガス拡散電極が、少なくとも1つのシート状の導電性支持体と、前記支持体に塗布されたガス拡散層と電極触媒とを含み、
前記ガス拡散層が、少なくとも電極触媒と疎水性ポリマーとの混合物からなり、
銀が電極触媒として機能し、
前記電極触媒が高多孔質の凝集ナノ粒子の形態の銀を含み、
前記ナノ粒子がBET法で測定した少なくとも2m
2/gの表面積を有することを特徴とする、方法。
【請求項2】
前記ガス拡散電極の電極触媒および疎水性ポリマーが粉末状で前記支持体に塗布され、圧縮されて前記ガス拡散層を形成することを特徴とする、請求項
1に記載の方法。
【請求項3】
前記ガス拡散電極の前記疎水性ポリマーがフッ素置換ポリマーであることを特徴とする、請求項
1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記反応における電流密度が少なくとも2kA/m
2であることを特徴とする、請求項1~
3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
クロロアルカリ電解において、二酸化炭素を電気分解して一酸化炭素を生成するためのガス拡散電極の使用であって、
前記ガス拡散電極が、少なくとも1つのシート状の導電性支持体と、前記支持体に塗布されたガス拡散層と電極触媒とを含み、
前記ガス拡散層が、少なくとも電極触媒と疎水性ポリマーとの混合物からなり、
銀が電極触媒として機能し、
前記電極触媒が高多孔質の凝集ナノ粒子の形態の銀を含み、
前記ナノ粒子がBET法で測定した少なくとも2m
2/gの表面積を有することを特徴とする、使用。
【請求項6】
アルカリ塩化物、および、二酸化炭素脱分極カソードとしてのガス拡散電極を含む、アルカリ塩化物の電解のための電解装置であって、
前記ガス拡散電極が、少なくとも1つのシート状の導電性支持体と、前記支持体に塗布されたガス拡散層と電極触媒とを含み、
前記ガス拡散層が、少なくとも電極触媒と疎水性ポリマーとの混合物からなり、
銀が電極触媒として機能し、
前記電極触媒が高多孔質の凝集ナノ粒子の形態の銀を含み、
前記ナノ粒子がBET法で測定した少なくとも2m
2/gの表面積を有することを特徴とする、電解装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電極触媒として多孔質銀粉末に基づいた、二酸化炭素(CO2)を還元するガス拡散電極(GDE)、および二酸化炭素をCOに電気化学的に還元するためのその使用に関する。
【0002】
本発明は、それ自体既知のガス拡散電極に由来し、通常、ガス拡散電極は、導電性支持体、ガス拡散層および触媒活性成分を含み、クロロアルカリ電解で使用される。当該既知の電極は、カソードの酸素還元に使用される。
【背景技術】
【0003】
ガス拡散電極は、固体、液体、気体の3つの状態の物質が互いに接触し、固体の電子伝導性触媒が液相と気相との間の電気化学反応を触媒する電極である。
【0004】
電解セル内の二酸化炭素を還元するためのさまざまな提案が、原則として、先行技術から工業規模で知られている。本明細書での基本的な考え方は、電解(例えば、クロロアルカリ電解)用の水素含有カソードを二酸化炭素GDEに置き換えることである。
【0005】
二酸化炭素GDEを、工業用電解槽で使用することができるようにするためには、多くの基本要件を満たす必要がある。したがって、使用される触媒および他のすべての材料は、化学的に安定している必要がある。同様に、電極は通常、面積が2m2を超える大きなサイズ(工業用サイズ)の電解槽に設置されて動作されるため、高度な機械的安定性を必要とする。さらなる特性は、高い導電率、小さい層厚、大きい内部表面積、および電極触媒の高い電気化学的活性である。気体空間と液体空間とが互いに分離されたまま不透過性であるように、適切な疎水性細孔および親水性細孔、ならびに気体および電解液を伝導する適切な細孔構造が同様に必要である。長期安定性および低い製造コストは、工業的に使用可能な酸素脱分極電極が満たさなければならないさらなる特定の要件である。
【0006】
さらなる重要な特性は、好ましくは4kA/m2を超える高電流密度での低電位と、一酸化炭素への高い選択性である。触媒として標準的な銀粒子とは別に、二酸化炭素から一酸化炭素への電気化学的還元では、さまざまな銀の形態と金および炭素ベースの触媒とが知られている。
【0007】
Horiらは、多結晶金触媒は、5mA/cm2の電流で、一酸化炭素に対して87%の選択性を達成すると述べている。
【0008】
Y.Chenら(JACS(2012)19969)は、6mA/cm2の電流密度および-0.4ボルトの電位で、98%の選択性を示す金ナノ粒子を開発した。金以外に、銀は二酸化炭素を一酸化炭素に還元する触媒としても知られている。
【0009】
Luらは、二酸化炭素から一酸化炭素を生成する電極触媒としてのナノ多孔質銀が、20mA/cm2の電流密度および-0.6ボルトで、90%の選択性を示すことを明らかにすることができた(Nat.Com.5(2014))。
【0010】
LuおよびJiaoによる論文(Nanoenergy 2016)では、さらなるナノ多孔質銀系について記載している。すべてに同様の成果(20mA/cm2の電流密度で90%の選択性)がある。これらのナノ多孔質系の製造は非常に複雑で、工業規模で実施することは難しく、多孔性を高めることは困難である。
【0011】
さらに、工業用途では、少なくとも200~400mA/cm2の非常に高い電流密度を達成する必要がある。これは、これまでいかなる触媒の文献でも実証されていない。
【0012】
金属銀および極めて微細な銀ナノ粒子の製造はよく知られており、多くの出版物および特許に記載されている。多孔質の銀材料は、例えば、単分散ポリスチレン粒子を結晶化し、粒子間の隙間を銀で満たし、続いてポリスチレン粒子を浸出させることにより、コロイド経路を介して製造することができる。この製造方法は非常に複雑で、工業用途には適さない(Chem.Mater.2002,14,2199-2208)。別の製造方法では、コロイド粒子の代わりに高分子ゲルが鋳型として利用される(Chem.Mater.2001,13,1114-1123)が、これも同様に複雑である。さらに、これらの製造方法はすべて多段階工程であり、最高800℃の高い焼結温度も必要である。
【0013】
他の製造方法では、最初に複雑な方法でAlAgまたはCuAg合金を製造し、次に銅またはアルミニウムを浸出させるが、ここでも、合金の製造に高温が必要である(Nanoenergy 2016)。さらに、モノリス、すなわち、さらに加工してGDEを得ることには適さない非常に大きな粒子が、通常は得られる。
【0014】
Chem.Commun.,2009,301-303には、より難度の低い条件が記載されている。ここでは、多孔質粒子は、圧力下のイオン液体で製造される。しかし、イオン液体は高価であるため、この手法でも安価な触媒は得られない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0015】
【文献】Y.Chenら,JACS,2012,19969
【文献】Luら,Nat.Com.5,2014
【文献】LuおよびJiao,Nanoenergy 2016
【文献】Chem.Mater.2002,14,2199-2208
【文献】Chem.Mater.2001,13,1114-1123
【文献】Nanoenergy 2016
【文献】Chem.Commun.,2009,301-303
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
したがって、本発明の目的は、二酸化炭素の還元が高電流密度(2kA/m2超)で、高い選択性(50%超)で起こる、ガス拡散電極およびその製造方法を提供することであった。
【課題を解決するための手段】
【0017】
驚くべきことに、硝酸銀の濃度を上げることで銀ナノ粒子の合成を改変し、安定剤を省くと、多孔質粉末に基づいた、二酸化炭素を還元するためのGDEでうまく使用することができる選択的電極触媒が得られることがわかった。ミクロンサイズの銀粒子は、硝酸銀、クエン酸ナトリウム、水素化ホウ素ナトリウムなどの出発物質の濃度を高め、銀核を成長させることにより形成する必要がある。驚くべきことに、バルク粒子ではなく、使用されるプロセス塩に応じて、例えば最大8g/m2の非常に高いBET表面積を有することがある、多孔質粒子が形成される。多孔質粒子は、凝集ナノ粒子で構成されている。ナノ粒子のサイズ、したがって多孔度は、出発物質の添加、混合、および濃縮の方法によって制御することができる。一次粒子は、好ましくは100nm未満の直径を有する。多孔質触媒を製造するために、硝酸銀およびクエン酸三ナトリウムを水に溶解させる。そこに、水に溶解したNaBH4、KBH4またはホルムアルデヒドなどの還元剤からなる溶液を、撹拌しながら添加する。多孔質粒子は1μmを超える粒径で形成され、その後、ろ過、洗浄、乾燥される。
【0018】
選択的GDEは、本発明による方法により多孔質粒子をフルオロポリマーと混合し、続いて、得られた粉末混合物を支持要素にプレスすることにより、これらの多孔質粒子を用いて得られる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明は、二酸化炭素を還元するガス拡散電極であって、ガス拡散電極が、少なくとも1つのシート状の導電性支持体と、支持体に塗布されたガス拡散層と電極触媒とを含み、ガス拡散層が、少なくとも電極触媒と疎水性ポリマーとの混合物からなり、銀が電極触媒として作用する、ガス拡散電極において、電極触媒が高多孔質の凝集ナノ粒子の形態の銀を含み、ナノ粒子がBET法で測定した少なくとも2m2/gの表面積を有することを特徴とする、ガス拡散電極を提供する。
【0020】
ガス拡散電極のPTFEおよび銀からなる触媒活性コーティングの厚さは、好ましくは20~1000μm、特に好ましくは100~800μm、極めて特に好ましくは200~600μmである。
【0021】
電極触媒の割合は、電極触媒および疎水性ポリマーの総重量に基づいて、好ましくは80~97重量%、特に好ましくは90~95重量%である。
【0022】
疎水性ポリマーの割合は、電極触媒と疎水性ポリマーの総重量に基づいて、好ましくは20~3重量%、特に好ましくは10~5重量%である。
【0023】
疎水性ポリマーがフッ素置換ポリマー、特に好ましくはポリテトラフルオロエチレン(PTFE)である新規のガス拡散電極の実施形態がさらに好ましい。
【0024】
ガス拡散電極のさらに好ましい変形形態は、電極が5mg/cm2~300mg/cm2、好ましくは10mg/cm2~250mg/cm2の範囲の触媒活性成分の総負荷を有することを特徴とする。
【0025】
銀粒子が1~100μmの範囲、好ましくは2~90μmの範囲の平均凝集体直径(レーザー光散乱により測定されたd50)を有する銀ナノ粒子の凝集体として存在することを特徴とする、ガス拡散電極の実施形態が好ましい。
【0026】
銀ナノ粒子が、画像分析を備えた走査型電子顕微鏡によって測定される、50~150nmの範囲の平均直径を有する、ガス拡散電極も好ましい。
【0027】
新規のガス拡散電極は、好ましくは、銀、ニッケル、コーティングされたニッケル、例えば、銀コーティングニッケル、ポリマー、ニッケル銅合金、またはコーティングニッケル銅合金、例えばそれからシート状の織物構造が作製される銀めっきニッケル銅合金からなる群から選択される材料からなる支持体を有する。
【0028】
導電性支持体は、原則として、ガーゼ、不織布、発泡体、メッシュ織物、編組またはエキスパンデッドメタルであり得る。支持体は、好ましくは金属、特に好ましくはニッケル、銀または銀めっきニッケルからなる。支持体は、1つ以上の層を有し得る。多層支持体は、2つ以上のガーゼ、不織布、発泡体、メッシュ織物、編組、またはエキスパンデッドメタルを重ね合わせて構成することができる。本明細書では、ガーゼ、不織布、発泡体、メッシュ織物、編組、エキスパンデッドメタルは、異なる場合がある。これらは、例えば、厚さ、または多孔度が異なる場合があり、あるいはメッシュ開口が異なる場合がある。2つ以上のガーゼ、不織布、発泡体、メッシュ織物、編組またはエキスパンデッドメタルは、例えば、焼結または溶接によって互いに接合され得る。ニッケルまたは銀で構成され、ワイヤ直径が0.04~0.4mm、メッシュ開口が0.2~1.2mmのガーゼを使用することが好ましい。
【0029】
ガス拡散電極の支持体は、ニッケル、銀、またはニッケルと銀との組み合わせに基づくことが好ましい。
【0030】
支持体が、ガーゼ、メッシュ織物、形成ループニット、引き抜きループニット、不織布、エキスパンデッドメタルまたは発泡体、好ましくはメッシュ織物の形態で存在する、ガス拡散電極の形態も好ましい。
【0031】
二酸化炭素電解のさまざまな形態は、原則として、GDEの設置方法と、それによるイオン交換膜とGDEとの間の距離の確立方法とによって区別することができる。多くのセル設計では、イオン交換膜とGDEとの間にギャップを設けることができ、これは有限ギャップ配置として知られている。ギャップは1~3mmで、例えば、KHCO3がギャップを流れる。電極の直立配置では、流れは上から下に向かって(流下膜式セルの原理については、例えば、国際公開第2001/057290号を参照)、または下から上に(ガスポケットの原理については、例えば、独国特許出願公開第4444114号を参照)起こる。
【0032】
本発明の特定の実施形態は、親水性領域および疎水性領域の両方を有するガス拡散電極を備えた、ポリマー結合電極を提供する。これらのガス拡散電極は、特にPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)を使用した場合、高い化学的安定性を有する。
【0033】
PTFEの割合が高い領域は疎水性であり、電解液はこの領域には浸透し得ないが、PTFEの割合が低いか、PTFEがない場所では浸透し得る。触媒自体は親水性でなければならない。
【0034】
そのようなPTFE-触媒混合物の製造は、原則として、例えば、水、PTFEおよび触媒の分散液の使用により実施される。水溶液中のPTFE粒子を安定化させるために、特に乳化剤を添加し、増粘剤を分散液の処理に使用することが好ましい。この湿式製造法に代わるものとしては、PTFE粉末と触媒粉末との乾式混合による製造がある。
【0035】
本発明のガス拡散電極は、上述のように、湿式、分散および乾式方法により製造することができる。乾式製造法が特に好ましい。
【0036】
分散法は、主に、例えばPEM(高分子電解質膜)燃料電池またはHCl GDE膜電解(国際公開第2002/18675号)に導入されたような、高分子電解質を備えた電極に選択される。
【0037】
GDEを液体電解質で使用する場合、乾式法によってより適切なGDEが得られる。湿式または分散法では、水の蒸発および340℃でのPTFEの焼結により、強い機械的プレスを行うことができる。これらの電極は、通常、多くの開放細孔を有する。他方、不適切な乾燥条件下では、液体電解質が貫通できる亀裂が、電極に急速に形成される可能性がある。この理由から、例えば空気亜鉛電池またはアルカリ燃料電池などの、液体電解質を使用する用途では、乾式法が確立されている。
【0038】
乾式法では、触媒は、ポリマー成分(好ましくはPTFE)と激しく混合される。粉末混合物は、プレス、好ましくは圧延法によるプレスにより、シート状構造を有するように形成することができ、その後、支持体に塗布される(例えば、独国特許出願公開第3710168号、欧州特許出願公開第144002号を参照)。同様に使用することができる好ましい代替物が、独国特許出願公開第102005023615号に記載されており、ここでは、粉末混合物を支持体に散布し、支持体と一緒にプレスする。
【0039】
特に好ましい実施形態では、電極は、乾式法で、銀および/またはその酸化物ならびにPTFEからなる粉末混合物から製造される。同様に、ドープした銀および/またはその酸化物、あるいは銀および/またはその酸化物と銀およびPTFEとの混合物を使用することが可能である。触媒およびPTFEは、例えば、米国特許第6838408号に記載されているような乾式混合プロセスで処理し、粉末を圧縮してシートにする。
【0040】
その後、シートを機械的な力で一緒にプレスする。シート形成工程と、シートおよび支持体のプレス工程との両方は、例えば、圧延法によって実施することができる。プレス力は、とりわけ、GDEの細孔径および多孔度に影響を及ぼす。細孔径および多孔度は、GDEの性能に影響を及ぼす。
【0041】
別の方法として、本発明によるGDEの製造は、独国特許出願公開第10148599号に記載されている様式と類似の様式で、触媒粉末混合物を支持体に直接塗布することにより実施することができる。
【0042】
特に好ましい実施形態では、粉末混合物は、触媒粉末と結合剤と任意のさらなる成分とを混合することにより製造される。混合は、好ましくは、ビーターブレードなどの高速回転する混合要素を有する混合装置で行われる。粉末混合物の成分を混合するために、混合要素は、10~30m/sの速度で、または4000~8000rpmの回転速度で回転することが好ましい。混合後、粉末混合物は、ふるいにかけることが好ましい。ふるい分けは、好ましくは、メッシュ開口が0.04~2mmのメッシュなどを備えたふるい分け装置によって実施する。
【0043】
回転する混合要素を有する混合装置での混合は、粉末混合物にエネルギーを生成し、その結果、粉末混合物は強力な加熱を受ける。粉末の加熱が強すぎると、GDE性能の低下が観察されるため、混合工程中の温度は35~80℃が好ましい。これは、例えば、液体窒素または他の不活性な熱吸収物質などの冷却剤の追加によって、混合中に冷却することで達成することができる。温度を制御するさらなる可能な方法は、混合を中断して粉末混合物を冷却するか、適切な混合装置を選択するか、ミキサー内の充填量を変更することである。
【0044】
粉末混合物の導電性支持体への塗布は、例えば、散布により実施する。粉末混合物の支持体への散布は、例えば、ふるいによって行うことができる。フレーム状の鋳型を支持体上に配置することには特に利点があり、鋳型は、支持体をちょうど包囲するように選択されることが好ましい。別の方法として、鋳型を支持体の領域より小さくすることもできる。この場合、支持体のコーティングされていない縁は、粉末混合物を散布し、支持体と一緒にプレスした後も、電気化学的に活性なコーティングがないままである。鋳型の厚さは、支持体に塗布される粉末混合物の量の関数として選択することができる。鋳型に粉末混合物を充填する。余分な粉末は、スクレーパーで除去することができる。その後、鋳型を除去する。
【0045】
特に好ましい実施形態では、次の工程で、粉末混合物を支持体と一緒にプレスする。プレスは、特にローラーによって行うことができる。一対のローラーを使用することが好ましい。ただし、ローラーまたは板のいずれかを移動させながら、実質的に平らな板上で1つのローラーを使用することもできる。さらに、プレスは、加圧パンチによって実施することができる。プレス中の力は、特に0.01~7kN/cmである。
【0046】
本発明によるGDEは、原則として、1つ以上の層で構成することができる。多層GDEを製造するために、異なる組成および異なる特性を有する粉末混合物を層状に支持体に塗布する。異なる粉末混合物の層は、好ましくは、個々の層ごとに支持体と一緒にプレスするのではなく、最初に連続して塗布し、その後、1つの工程で支持体と一緒にプレスする。例えば、電気化学的に活性な層よりも高い結合剤含有量、特に高いPTFE含有量を有する粉末混合物の層を、塗布することができる。6~100%の高いPTFE含有量を有するそのような層は、ガス拡散層として作用し得る。
【0047】
代替または追加として、PTFEで構成されるガス拡散層も塗布することができる。高いPTFE含有量を有する層は、例えば、最下層として直接支持体に塗布することができる。異なる組成を有するさらなる層を塗布して、ガス拡散電極を製造することができる。多層GDEの場合、所望の物理的および/または化学的特性を標的化方式で設定することができる。これらには、とりわけ、層の疎水性または親水性、導電率、気体透過性が含まれる。したがって、例えば、特性の勾配は、特性の大きさを層ごとに増減させることによって構築することができる。
【0048】
GDEの個々の層の厚さは、支持体に塗布する粉末混合物の量によって、またプレス中のプレス力によっても設定することができる。塗布する粉末混合物の量は、例えば、粉末混合物を支持体上に散布するために支持体上に配置する鋳型の厚さを介して設定することができる。独国特許出願公開第10148599号の方法では、シートは粉末混合物から製造する。ここでは、シートの厚さまたは密度は、互いに独立して設定することはできない。なぜなら、ローラーの直径、ローラーの間隔、ローラーの素材、クランプ力、周速度などの圧延パラメータが、これらの特性に重大な影響を及ぼすためである。
【0049】
粉末混合物または異なる粉末混合物からなる層を支持体と一緒にプレスする際のプレス力は、例えば、0.01~7kN/cmの範囲の線形プレス力を有するローラープレスによってもたらされる。
【0050】
二酸化炭素GDEは、特に、アルカリ金属塩化物、好ましくは塩化ナトリウムまたは塩化カリウム、特に好ましくは塩化ナトリウム、または塩酸の電気分解用の電解セルにおいて、カソードとして接続されることが好ましい。
【0051】
二酸化炭素GDEは、塩素電解またはO2電解のカソードとして特に好ましく使用される。
【0052】
したがって、本発明は、特にクロロアルカリ電解において、二酸化炭素を電気分解して一酸化炭素を生成するための新規のガス拡散電極の使用をさらに提供する。
【0053】
本発明は、二酸化炭素を一酸化炭素に電気化学的に変換する方法であって、二酸化炭素が上記の新規ガス拡散電極でカソード反応して一酸化炭素が形成され、アノード側で塩素または酸素が同時に生成されることを特徴とする方法も提供する。
【0054】
好ましい工程では、反応における電流密度は、少なくとも2kA/m2、好ましくは少なくとも4kA/m2である。
【0055】
本発明はまた、新規のガス拡散電極を二酸化炭素脱分極カソードとして含む電解装置を提供する。
【0056】
本発明はさらに、ガス拡散電極であって、ガス拡散電極が少なくとも1つのシート状の導電性支持要素と、ガス拡散層と、支持要素に塗布された電極触媒とを含むことと、ガス拡散層が銀粒子とPTFEとの混合物からなり、銀粒子およびフルオロポリマーは粉末状で支持要素に塗布および圧縮され、銀粒子は電極触媒を形成することとを特徴とする、ガス拡散電極を提供する。
【0057】
上述の本発明による製造方法から得られたガス拡散電極が好ましい。
【0058】
[実施例]
以下の例に従って製造されたGDEを、酸素電解で使用した。アノード空間と、イオン交換膜によって分離されたカソード空間とからなる実験セルを、本目的のために使用した。濃度300g/lのKHCO3溶液を、イリジウムでコーティングされたチタン電極を備えた市販のDSAで酸素が生成されたアノード空間で使用した。カソード空間は、旭硝子社製の市販のカチオン交換膜F133型によってアノード空間から分離した。GDEとカチオン交換膜との間には、300g/lの濃度を有するNaHCO3溶液がポンプ圧送により循環される電解質ギャップを設けた。GDEには、濃度が99.5容量%を超える二酸化炭素を、気体空間を介して供給した。アノード、膜、ガス拡散電極の面積は、それぞれ3cm2であった。電解液の温度は、25℃であった。電気分解の電流密度は、すべての実験で4kA/m2であった。
【0059】
GDEは、以下のように製造した。7重量%のPTFE粉末、93重量%の銀粉末(例えばFerro社製のType 331)からなる粉末混合物3.5kgを、Ika社製モデルA11ベーシックミルで、粉末混合物の温度が55℃を超えないように混合した。これは、混合操作を中断し、粉末混合物を冷却することで達成した。合計で、混合は、10秒間の混合時間で3回行った。混合後、粉末混合物を1.0mmのメッシュ開口を有するふるいを通してふるい分けした。その後、ふるい分けした粉末混合物を、導電性支持要素に塗布した。支持要素は、ワイヤの厚さが0.14mmでメッシュ開口が0.5mmのニッケルで構成されたガーゼであった。塗布は、厚さ1mmの鋳型を用いて行い、1.0mmのメッシュ開口を有するふるいを使用して粉末を塗布した。鋳型の厚さを超えて突出した余分な粉末は、スクレーパーで除去した。鋳型を除去した後、粉末混合物が塗布された支持体を、0.4~1.7kN/cmのプレス力でローラープレスによりプレスした。ガス拡散電極をローラープレスから取り出した。
【0060】
[実施例1]
(本発明による)多孔質銀触媒の製造
0.1モルのAgNO3溶液400ml(AgNO3 6.796g)をクエン酸三ナトリウム0.8gと混合した。0.2モルの水素化ホウ素ナトリウム(NaBH4 3.024g)溶液400mlを、撹拌しながら最初の溶液にすばやく加え(約15秒、Re>10000)、1時間撹拌した。沈殿物をろ過し、水で洗浄し、50℃で一晩乾燥させた。
【0061】
粉末は、BET、レーザー光散乱、および走査型電子顕微鏡法によって特性評価した。
【0062】
粒径は、直径約145nmで、BET表面積(N2吸着)は2.23m2/gである。
【0063】
[実施例2]
低多孔質銀触媒の製造
0.1モルのAgNO3(AgNO3 6.796g)溶液400mlをクエン酸三ナトリウム0.8gと混合する。撹拌しながら、0.2モルの水素化ホウ素ナトリウム(NaBH4 3.024g)溶液400mlをゆっくりと最初の溶液に滴下し(約1時間)、1時間撹拌した。沈殿物をろ過し、水で洗浄し、50℃で一晩乾燥させた。粉末は、BET、レーザー光散乱、および走査型電子顕微鏡法によって特性評価する。
【0064】
粒径は、直径約290nmで、BET表面積(N2吸着)は0.99m2/gである。
【0065】
多孔質銀を使用したGDEの製造
GDEは、乾式法で、例1および例2の銀粉末93重量%と、Ames Goldsmith社製のLCP-1銀、ならびにDYNEON社製のPTFE TF2053 7重量%を、Ika社製モデルA11ベーシックミルで混合し、続いてローラープレスにより0.5kN/cmの力でプレスして製造した。電極は、上記の電解セルで使用し、2kA/m
2および4kA/m
2で動作させた。COのファラデー効率を下表に示す。
【表1】
【0066】
実施例は、両方の二酸化炭素GDEが、高電流密度でも一酸化炭素を生成することを示している。ただし、多孔質銀をより多く含む電極は、従来の銀よりも一酸化炭素に対する選択性が大幅に高いことが非常に明確にわかる。2kA/m2での選択性は1桁であり、工業用途で非常に興味深い。多孔度が通常低いLCP-1銀粒子を使用すると、COは生成されず、水素のみが生成される。
【0067】
BET測定は、以下の条件で実施した。
【0068】
極低温条件下での気体の物理吸着を使用して、密質微細固体または多孔質固体の比表面積(SSA)を測定する。サンプルのSSAを測定するために、窒素は、0.05~0.30p/p0(p0=測定温度での窒素の飽和圧力)の圧力範囲で77Kの気体として使用する。サンプルの到達可能な表面積に物理吸着される窒素の量は、サンプルを含む測定セルに、明確に定義された量の窒素ガスを導入することにより、静的容量分析器で測定する。同時に、平衡状態に達した後、導入されたガスによる圧力上昇を記録する。表面に吸着された窒素の量は圧力上昇に寄与し得ないため、(平衡状態での)圧力上昇はすべて、測定セルの総面積が大きくなるほど小さくなる。サンプルに吸着された窒素のモル量によって、吸着されたガスの既知の吸着断面積にモル量を乗算することで、サンプルの総面積の計算が可能になる。
【0069】
77Kで吸着を測定する前に、すべての脱着可能な分子をサンプル表面から蒸発させる必要がある。したがって、サンプルは、200℃で数時間、真空条件下に維持した。
【0070】
次に、純度クラス5.0の窒素を使用して、DIN ISO標準9277に類似した様式で測定を実施する。
【0071】
準備機器は、SmartVacPrep(Micromeritics社製)およびガス吸着分析器Gemini 2360である。
【0072】
粒径は、Malvern社製のMastersizer MS2000 Hydro MU装置で、レーザー光散乱法によって取得した。