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特許7223005増加した表面積およびメソ孔性を有するシリカコーティング炭酸カルシウムの調製
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-07
(45)【発行日】2023-02-15
(54)【発明の名称】増加した表面積およびメソ孔性を有するシリカコーティング炭酸カルシウムの調製
(51)【国際特許分類】
   C01F 11/18 20060101AFI20230208BHJP
   C08L 101/00 20060101ALI20230208BHJP
   C08K 9/02 20060101ALI20230208BHJP
   C01B 33/193 20060101ALI20230208BHJP
【FI】
C01F11/18 H
C08L101/00
C08K9/02
C01B33/193
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2020532035
(86)(22)【出願日】2018-12-07
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-02-25
(86)【国際出願番号】 EP2018084006
(87)【国際公開番号】W WO2019115396
(87)【国際公開日】2019-06-20
【審査請求日】2021-09-29
(31)【優先権主張番号】17306749.7
(32)【優先日】2017-12-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】319006807
【氏名又は名称】イメルテック ソシエテ パル アクシオン サンプリフィエ
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100123766
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 七重
(72)【発明者】
【氏名】ヤコブ アレクサンドラ
【審査官】神野 将志
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-070164(JP,A)
【文献】特表2000-500113(JP,A)
【文献】米国特許第06136085(US,A)
【文献】特開2005-263550(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01F 11/18
C08L 101/00
C08K 9/02
C01B 33/193
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
BET表面積が約1m 2 /g~約80m 2 /gの炭酸カルシウム粒子を含む水性炭酸塩スラリーを調製するステップ、
少なくとも1種のケイ酸塩組成物を水性炭酸塩スラリーに添加して、炭酸塩-ケイ酸塩スラリーを得るステップ、
少なくとも1種の酸性化合物を添加することによって、炭酸塩-ケイ酸塩スラリーのpHを低下させ、シリカコーティング炭酸カルシウム粒子を含むpH調整済スラリーを得るステップ、および
シリカコーティング炭酸カルシウム粒子を単離するステップ
を含むプロセスであって、
ケイ酸塩組成物がシリカと金属酸化物とを含み、
ケイ酸塩組成物中のシリカと金属酸化物とのモル比が1.1:1~5:1の範囲であり、
少なくとも1種の酸性化合物を添加するステップが、pH調整済スラリーの最終pHが約7~約10の範囲であるように制御され、
シリカコーティング炭酸カルシウム粒子が、2nm~50nmの範囲の平均細孔直径を有する多孔質コーティングを含み、シリカコーティング炭酸カルシウム粒子のBET表面積の、炭酸カルシウムコアの炭酸カルシウム粒子前駆体のBET表面積に対する比が、約1.1:1~約80:1の範囲であり、
酸性化合物が水溶性ヒドロキシカルボン酸又はその塩を含む、プロセス。
【請求項2】
炭酸カルシウム粒子が、沈降炭酸カルシウム粒子、重質炭酸カルシウム粒子、廃棄物炭酸カルシウム粒子、およびこれらの混合物からなる群から選択される、請求項1に記載のプロセス。
【請求項3】
炭酸カルシウム粒子が、少なくとも1つのヒドロキシル基を含む有機化合物によって、少なくとも部分的にコーティングされる、請求項1または2に記載のプロセス。
【請求項4】
水性炭酸塩、
炭酸塩-ケイ酸塩スラリー、および
pH調整済スラリー
のうちの少なくとも1つに、分散剤を添加するステップをさらに含む、請求項1~3のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項5】
ケイ酸塩組成物が、シリカと、アルカリ金属およびアルカリ土類金属からなる群から選択される少なくとも1種の金属の酸化物とを含み、
シリカと金属酸化物とのモル比が1.1:1~5:1の範囲であり、
炭酸塩-ケイ酸塩スラリー中のシリカと炭酸カルシウムとのモル比が1:1~1:100の範囲である、
請求項1~4のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項6】
酸性化合物が、
2以上のpKaを有する有機酸、および
2未満のpKaを有する酸を含む酸性組成物
のうちの少なくとも1つを含む、請求項1~5のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項7】
酸性化合物が、グリコール酸、3-ヒドロキシプロピオン酸、乳酸、グリセリン酸、リンゴ酸、酒石酸、ジヒドロキシ酒石酸、3-ヒドロキシ酪酸、4-ヒドロキシ酪酸、アスコルビン酸、クエン酸、イソクエン酸、およびこれらの塩からなる群から選択される少なくとも1つを含む、請求項1~のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項8】
少なくとも1種の酸性化合物を、炭酸塩-ケイ酸塩スラリーに添加するステップが、pH調整済スラリーの最終pHが約7~約7.5の範囲であるように制御される、請求項1~のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項9】
少なくとも部分的に中和した炭酸塩-ケイ酸塩スラリーを、15℃~95℃の範囲の温度で、10分~120分の範囲の期間にわたってエージングするステップ
をさらに含む、請求項1~のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項10】
単離するステップが、シリカコーティング炭酸塩粒子を濾過、洗浄、乾燥、およびミル粉砕するステップを含む、請求項1~のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項11】
単離するステップが、シリカコーティング炭酸塩粒子を濾過、洗浄、乾燥、およびミル粉砕するステップを含み、洗浄するステップが、
(i)シリカコーティング炭酸カルシウム粒子の濾過ケーキを、洗浄液で洗浄するステップ、および
(ii)シリカコーティング炭酸塩粒子を洗浄液に分散させ、シリカコーティング炭酸塩粒子を洗浄液から濾過するステップ
のうちの少なくとも1つを含むようにし、
洗浄液が、水を含み、分散剤または洗浄剤を含んでもよい、
請求項1~10のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項12】
シリカコーティング粒子が、少なくとも部分的にシリカコーティングで覆われた炭酸カルシウムコアを含み、
シリカコーティングする粒子のBET表面積が、30m2/g~200m2/gの範囲であり、
シリカコーティング粒子のBET表面積の、炭酸カルシウムコアの炭酸カルシウム粒子前駆体のBET表面積に対する比が、1:1~10:1の範囲であり、
シリカコーティングの平均細孔直径が、2nm~50nmの範囲である、
請求項1~11のいずれか1項に記載のプロセスによって得られるシリカコーティング炭酸カルシウム粒子。
【請求項13】
請求項12に記載のシリカコーティング炭酸塩粒子を含む物品または組成物であって、紙製品、シーラント、ポリマー、化粧品、チョーク、塗料、収着剤、歯科用組成物、およびアンチケーキング剤からなる群から選択される、物品または組成物。
【請求項14】
請求項12に記載のシリカコーティング炭酸カルシウム粒子を、酸性組成物に接触させることによって得られる中空シリカ球。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この出願は、一般に材料技術に関し、より詳細には、炭酸カルシウム前駆体に対して増加した表面積およびメソ孔性を有する、シリカコーティング炭酸カルシウム粒子の調製および使用に関する。
【背景技術】
【0002】
炭酸カルシウム(CaCO3)は、最も一般的かつ広く用いられている材料の1つであり、ゴム、プラスチック、塗料、紙、インク、食品、および医薬品を含めた様々な材料における用途が見出されている。炭酸カルシウム粒子は、沈降炭酸カルシウム(PCC)および重質炭酸カルシウム(GCC)などの、多くの形態において生成される。炭酸カルシウムの改質版は、この比較的高価でない鉱物の特徴を変質させ、より高価な、希少な、または環境に不都合な他の材料を再現し、取って代わることができるため、とりわけ有用である。この文脈において、コア材料としての炭酸カルシウムをベースとするコア-シェル粒子であって、これらのシェルが機能性表面コーティングであるコア-シェル粒子の生成および使用に、大きな関心が生じている。
シリカコーティング炭酸カルシウム粒子には、様々な実現可能な用途が見出されている。例えば、シリカコーティング粒子の表面を装飾するヒドロキシル基は、紙、シーラント、およびゴムなどの材料を強化する相互結合(inter-bond)を作り出すために用いることができる。シリカのヒドロキシル基は、例えば、得られる表面改質粒子の特性を根本的に変化させることができるシラン系表面改質剤を用いた、さらなる化学的機能化のための基礎としても機能しうる。シリカコーティング炭酸カルシウムは、顔料および白化剤としても用いられ、塗料および着色接着剤において有用であることが見出されている。しかしながら、公知のシリカコーティング炭酸カルシウム粒子の使用は、炭酸カルシウム前駆体の特性によって限定されることも多い。
炭酸カルシウムによる1つの問題は、ほとんどの状況において、ある種の塗料などの酸性液体におけるPCCおよびGCCなどの炭酸カルシウム粒子の使用を妨げる、酸感受性に関する。
【0003】
公知の炭酸カルシウム粒子による他の問題は、比較的小さい表面積および細孔サイズの広い分布に関する。公知のシリカコーティング炭酸カルシウム粒子において用いられる炭酸カルシウム前駆体(例えば、GCCおよびPCC)の表面積が小さいことによって、一般に、得られるシリカコーティングにおける表面積が小さくなる。このように表面積が小さいことは、例えば、粒子の表面を装飾しうる反応性基および/または機能性基の濃度を制限することによって、公知のシリカコーティング炭酸カルシウム粒子の実用性に悪影響を及ぼしうる。細孔サイズの分布が広いことは、例えば、粒子の表面の細孔の濃度を制限することによって、公知の材料の収着特性に悪影響を及ぼす場合があり、公知のシリカコーティング炭酸カルシウム粒子の実用性に悪影響を及ぼしうる。
【発明の概要】
【0004】
現在入手可能なシリカコーティング炭酸カルシウム粒子に対して、大きい外表面積、狭い細孔サイズ分布、および上昇した耐酸性を有するシリカコーティング炭酸カルシウム粒子を生成するためのプロセスを発見する必要性が存在することを、本発明者は認識してきた。
以下の開示は、驚くべきことに、前駆体炭酸カルシウム粒子の表面積と比較して、大きい外表面積を示すシリカコーティング炭酸カルシウム粒子の調製および使用を記載している。本開示のシリカコーティング炭酸カルシウム粒子はまた、主としてメソ孔質の特徴を有する、殊の外鮮明な細孔サイズ分布を示しうる。本開示のシリカコーティング炭酸カルシウム粒子はまた、他のシリカコーティング炭酸カルシウム粒子と比較して、上昇した耐酸性を示しうる。
【0005】
本開示の実施形態は以下のものを含み、当業者の1人がこれらを作成し使用することができるように、本明細書に記載する。
(1)いくつかの実施形態は、炭酸カルシウム粒子を含む水性炭酸塩スラリーを調製するステップ、少なくとも1種のケイ酸塩組成物を水性炭酸塩スラリーに添加して、炭酸塩-ケイ酸塩スラリーを得るステップ、少なくとも1種の酸性化合物を添加することによって、炭酸塩-ケイ酸塩スラリーのpHを低下させ、シリカコーティング炭酸カルシウム粒子を含むpH調整済スラリーを得るステップ、およびシリカコーティング炭酸カルシウム粒子を単離するステップを含むプロセスであって、ケイ酸塩組成物がシリカと金属酸化物とを含み、ケイ酸塩組成物中のシリカと金属酸化物とのモル比が1.1:1~5:1の範囲であり、少なくとも1種の酸性化合物を添加するステップが、pH調整済スラリーの最終pHが約7~約10の範囲であるように制御され、シリカコーティング炭酸カルシウム粒子が、2nm~50nmの範囲の平均細孔直径を有する多孔質コーティングを含む、プロセスに関する。
(2)いくつかの実施形態は、上のプロセスによって得られるシリカコーティング炭酸カルシウム粒子であって、シリカコーティング粒子が、少なくとも部分的にシリカコーティングで覆われた炭酸カルシウムコアを含み、シリカコーティングする粒子のBET表面積が、30m2/g~200m2/gの範囲であり、シリカコーティング粒子のBET表面積の、炭酸カルシウムコアの炭酸カルシウム粒子前駆体のBET表面積に対する比が、1.2:1~10:1の範囲であり、シリカコーティングの平均細孔直径が、2nm~50nmの範囲である、シリカコーティング炭酸カルシウム粒子に関する。
(3)いくつかの実施形態は、上のシリカコーティング炭酸塩粒子を含む物品または組成物であって、紙製品、シーラント、ポリマー、化粧品、チョーク、塗料、収着剤、歯科用組成物、およびアンチケーキング剤からなる群から選択される、物品または組成物に関する。
【0006】
本開示のさらなる目的、利点、および他の特性は、一部は以下の記載において説明され、一部は以下を調査する際に当業者には明らかとなるであろうが、あるいは本開示の実践からわかりうる。本開示は、下に具体的に記載するものの他の実施形態、およびこれらとは異なる実施形態を包含し、本明細書における詳細は、本開示から逸脱することなく、様々な点において変更することができる。これに関しては、本明細書における記載は、事実上、説明のためのものであり、制限するものではないことを理解されたい。
この開示の実施形態を、以下を示す図に照らして、後続の記載において説明する。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】市販のPCC、Socal(登録商標) 31の表面積対Socal(登録商標) 31から形成された、シリカコーティングPCCの表面積を比較する棒グラフである。
図2】市販のPCC、Socal(登録商標) 31対Socal(登録商標) 31から形成された、シリカコーティングPCCについての、細孔容積(cm3/g・nm)対細孔直径(nm)を図にしたグラフである。
図3(a)】市販のPCC、Socal(登録商標) 31の50k拡大におけるSEM顕微鏡写真である。
図3(b)】市販のPCC、Socal(登録商標) 31の25k拡大におけるSEM顕微鏡写真である。
図3(c)】Socal(登録商標) 31から形成されたシリカコーティングPCCを、酸で処理することによって形成された中空シリカ球の50k拡大におけるSEM顕微鏡写真である。
図3(d)】Socal(登録商標) 31から形成されたシリカコーティングPCCを、酸で処理することによって形成された中空シリカ球の25k拡大におけるSEM顕微鏡写真である。
図4(a)】市販のPCC、Socal(登録商標) 31のSEM顕微鏡写真である。
図4(b)】Socal(登録商標) 31から形成されたシリカコーティングPCCのSEM顕微鏡写真である。
図4(c)】市販のPCC、Socal(登録商標) 31の表面における、Caの元素分布を示すエネルギー分散型X線(EDX)マップである。
図4(d)】Socal(登録商標) 31から形成されたシリカコーティングPCCの表面における、Caの元素分布を示すエネルギー分散型X線(EDX)マップである。
図4(e)】市販のPCC、Socal(登録商標) 31の表面における、Siの元素分布を示すエネルギー分散型X線(EDX)マップである。
図4(f)】Socal(登録商標) 31から形成されたシリカコーティングPCCの表面における、Siの元素分布を示すエネルギー分散型X線(EDX)マップである。
図5】市販のPCC、Socal(登録商標) 31の比表面積(BETによって得た)対異なる酸を用いてSocal(登録商標) 31から形成された、シリカコーティングPCC粒子の表面積を比較する棒グラフ、およびシリカコーティングPCC粒子を酸と反応させることによって形成された対応するシリカシェルの表面積を比較する棒グラフである。
図6】市販のPCC、Socal(登録商標) 31対異なる酸を用いてSocal(登録商標) 31から形成された、シリカコーティングPCC粒子について、BJH法によって得た、細孔容積(cm3/g・nm)対細孔直径(nm)を図にしたグラフである。
図7】市販のPCC、Socal(登録商標) 31について、および異なる酸を用いてSocal(登録商標) 31から形成されたシリカコーティングPCC粒子について、pH対時間を図にした耐酸性のグラフである。
図8(a)】塩酸を用いてSocal(登録商標) 31から形成された、シリカコーティングPCC粒子の50k拡大におけるSEM顕微鏡写真である。
図8(b)】塩酸を用いてSocal(登録商標) 31から形成された、シリカコーティングPCC粒子の25k拡大におけるSEM顕微鏡写真である。
図8(c)】CO2を用いてSocal(登録商標) 31から形成された、シリカコーティングPCC粒子の50k拡大におけるSEM顕微鏡写真である。
図8(d)】CO2を用いてSocal(登録商標) 31から形成された、シリカコーティングPCC粒子の25k拡大におけるSEM顕微鏡写真である。
図8(e)】クエン酸を用いてSocal(登録商標) 31から形成された、シリカコーティングPCC粒子の50k拡大におけるSEM顕微鏡写真である。
図8(f)】クエン酸を用いてSocal(登録商標) 31から形成された、シリカコーティングPCC粒子の25k拡大におけるSEM顕微鏡写真である。
図9】市販のPCC、Socal(登録商標) 31の比表面積(BETによって得た)対分散剤を添加した場合およびしない場合の両方の、異なる酸を用いてSocal(登録商標) 31から形成された、シリカコーティングPCC粒子の表面積を比較する棒グラフである。
図10】市販のPCC、Socal(登録商標) 31対分散剤を添加した場合およびしない場合の両方の、HClを用いてSocal(登録商標) 31から形成された、シリカコーティングPCC粒子について、BJH法によって得た、細孔容積(cm3/g・nm)対細孔直径(nm)を図にしたグラフである。
図11(a)】分散剤を添加せずに、塩酸を用いてSocal(登録商標) 31から形成された、シリカコーティングPCC粒子の50k拡大におけるSEM顕微鏡写真である。
図11(b)】分散剤を添加して、塩酸を用いてSocal(登録商標) 31から形成された、シリカコーティングPCC粒子の50k拡大におけるSEM顕微鏡写真である。
図11(c)】分散剤を添加せずに、クエン酸を用いてSocal(登録商標) 31から形成された、シリカコーティングPCC粒子の50k拡大におけるSEM顕微鏡写真である。
図11(d)】分散剤を添加して、クエン酸を用いてSocal(登録商標) 31から形成された、シリカコーティングPCC粒子の50k拡大におけるSEM顕微鏡写真である。
図12】分散剤を添加した場合およびしない場合の両方の、市販のPCC、Socal(登録商標) 31について、および異なる酸を用いてSocal(登録商標) 31から形成されたシリカコーティングPCC粒子について、pH対時間を図にした耐酸性のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
この開示の実施形態は、シリカコーティング炭酸カルシウム粒子を生成するための様々なプロセス、および様々な用途におけるこれらの粒子の使用を含む。本明細書において用いる「約」および「およそ」という用語は、参照した量または値とほぼ同じであることを指し、指定した量または値の±5%を包含することを理解されたい。「メソ孔質」、「メソ孔性」、および「メソ孔」という用語は、約2nm~約50nmの範囲の直径を有する細孔を含有する材料を指す。いくつかの実施形態では、シリカコーティング炭酸カルシウム粒子は、2nm~50nmの範囲の平均細孔直径を有する多孔質コーティングを含む。平均細孔直径は、粒子のBJH(Barrett-Joyner-Halenda)細孔サイズ(細孔直径)を表しうる。BJH細孔サイズは、BET表面積計算に用いるものと同じN2吸着等温線から決定されうる(BET法による測定、AFNOR規格X11-6212および622、またはISO 9277)。BJH細孔サイズの決定は、Barrett et al., Am. Chem. Soc., 73 (1951), pages 373-380に記載されており、その内容は参照により本明細書に組み込まれる。市販のMicromeritics TRISTAR 3000、およびMicromeritics VACPREP 061などの、任意の好適な装置を用いてよい。粒子は、細孔サイズ測定の前に、例えば、オーブン中で105℃において一晩、続いて窒素流下、180℃で30分、および窒素流下、30分の冷却によって脱ガスされうる。等温線は、例えば、0.05~0.98の範囲の相対圧P/P0について測定されうる。平均細孔サイズは、細孔直径を指す。
【0009】
いくつかの実施形態は、(1)炭酸カルシウム粒子を含む水性炭酸塩スラリーを調製するステップ、(2)少なくとも1種のケイ酸塩組成物を水性炭酸塩スラリーに添加して、炭酸塩-ケイ酸塩スラリーを得るステップ、(3)少なくとも1種の酸性化合物を添加することによって、炭酸塩-ケイ酸塩スラリーのpHを低下させ、シリカコーティング炭酸カルシウム粒子を含むpH調整済スラリーを得るステップ、および(4)シリカコーティング炭酸カルシウム粒子を単離するステップ、を含むプロセスに関する。このプロセスは、次の条件、(a)ケイ酸塩組成物がシリカと金属酸化物とを含み、(b)ケイ酸塩組成物中のシリカと金属酸化物とのモル比が1.1:1~5:1の範囲であり、(c)少なくとも1種の酸性化合物を添加するステップが、pH調整済スラリーの最終pHが約7~約10の範囲であるように制御され、(d)シリカコーティング炭酸カルシウム粒子が、2nm~50nmの範囲の平均細孔直径を有する多孔質コーティングを含む、を満足するように行う。
【0010】
水性炭酸塩スラリーを調製するステップ(1)では、未加工鉱物形態の炭酸カルシウムを含めて、関連する技術分野において公知の任意の炭酸カルシウム粒子を用いてよい。異なる炭酸カルシウム粒子の混合物を用いてもよい。いくつかの例では、ステップ(1)は、沈降炭酸カルシウム(PCC)または重質炭酸カルシウム(GCC)などの加工炭酸カルシウムを用いて行う。当技術分野において公知の任意のPCCまたはGCCを用いてよく、異なるPCCおよび/または異なるGCCの混合物を用いてもよい。PCCは、石灰ベースのプロセス、乾燥消石灰ベースのプロセス、CaSO4ベースのプロセス、またはCaCl2ベースのプロセスなど、任意の公知のプロセスによって生成されうる。いくつかの実施形態では、水性炭酸塩スラリーは、石灰ベースのPCCを用いて調製する。
炭酸カルシウム粒子の多形としては、カルサイト、アラゴナイト、およびバテライトを挙げることができる。いくつかの実施形態では、炭酸カルシウム粒子の多形は、カルサイトに限定される。炭酸カルシウム粒子の基本的な結晶モルフォロジーとしては、長斜方形(擬球)、偏三角面体、針状、および花状と共に、遥かに一般的でない様々な他のモルフォロジーを挙げることができる。いくつかの実施形態では、炭酸カルシウム粒子の基本的な結晶モルフォロジーは、長斜方形に限定される。
水性炭酸塩スラリーを調製するステップ(1)では、水性炭酸塩スラリーのスラリー濃度は、約10g/L~約750g/Lの範囲であってよい。特定の実施形態では、水性炭酸塩スラリーのスラリー濃度は、約10~150g/L、または約75~250g/L、または約150~200g/L、または約100~250g/L、または約175~350g/L、または約200~475g/L、または約250~450g/Lの範囲に限定される。
【0011】
水性炭酸塩スラリーにおける炭酸カルシウム粒子の凝結は、ランダムであっても制御されてもよい。いくつかの実施形態では、水性炭酸塩スラリーを調製するステップ(1)は、水性炭酸塩スラリー中の炭酸カルシウム粒子が、約20nm~約1,000nmの範囲の長さを有するナノファイバーを生成するように制御して実施する。いくつかの実施形態では、炭酸カルシウムナノファイバーの長さは、40nm~約500nmの範囲に限定される。いくつかの実施形態では、炭酸カルシウム凝結体を生成するようにステップ(1)を制御する場合、凝結体のメジアンサイズ(D50、Sedigraphにより測定)は、レーザー回折を用いて測定する場合、約0.5μm~約50μmでありうる。いくつかの実施形態では、炭酸カルシウム凝結体の凝結体メジアンサイズが、約2μm~約25μmの範囲に限定されるように、ステップ(1)を制御する。
【0012】
水性炭酸塩スラリーを調製するステップ(1)では、炭酸カルシウム粒子のBET表面積は、約2m2/g~約200m2/gの範囲であってよい。いくつかの実施形態では、炭酸カルシウム粒子のBET表面積が、約1m2/g~約80m2/gの範囲に限定される方法で、または他の実施形態では、約1m2/g~約25m2/gに限定される方法で、水性炭酸塩スラリーを調製する。後続の実験セクションにおいて説明するように、この開示のプロセスを用いることによって、シリカコーティング炭酸カルシウム粒子のBET表面積に、水性炭酸塩スラリーを調製するために用いた炭酸カルシウム粒子のBET表面積に対する著しい増加をもたらしうることが発見された。炭酸カルシウム粒子は、メソ孔質であってもよく、メソ孔質でなくてもよい。
【0013】
水性炭酸塩スラリーを調製するステップ(1)では、炭酸カルシウム粒子は、表面処理炭酸カルシウム粒子であってよい。表面改質剤としては、非限定例によって、シリコーンおよびシランなどのケイ素含有化合物、ポリアクリレート、EDTA、ならびに当技術分野において公知の他の表面改質剤を挙げることができる。ケイ素含有表面改質剤は、追加の官能基、例えば、アルキレン基、アルコキシ基、アミノ基、アリール基、カルバメート基、エポキシ基、エステル基、エーテル基、ハライド基、ヘテロアリール基、スルフィドおよび/またはジスルフィド基、ヒドロキシル基、イソシアネート基、ニトリル基、イオン性(荷電)基、ならびにこれらの混合物を含有しうる。好適な表面改質剤の例は、モノ炭酸およびポリ炭酸、対応する酸無水物、酸クロリド、エステルおよび酸アミド、アルコール、アルキルハライド、アミノ酸、イミン、ニトリル、イソニトリル、エポキシ化合物、モノアミンおよびポリアミン、ジカルボニル化合物、シラン、ならびに金属化合物である。いくつかの実施形態では、疎水性基および/または疎油性(oleophobic)基を含有する表面改質剤としては、シラン、炭酸、炭酸誘導体、例えば、酸無水物および酸ハライド、特に酸クロリド、アルコール、アルキルハライド、例えば、アルキルクロリド、アルキルブロミドおよびアルキルヨージドを挙げることができ、ここでアルキル残基は、特にフッ素で置換されてもよい。
【0014】
水性炭酸塩スラリーを調製するステップ(1)では、水性媒体は水のみを含んでもよく、または水性媒体は水と分散剤などの追加の薬剤を含んでもよい。好適な分散剤は、アルカリ土類金属炭酸塩の処理において一般に用いられる、従来の分散剤材料から選択されうる。このような分散剤は、当業者によって認識されているであろう。分散剤は、一般に、アニオン種を供給することができる水溶性塩であり、アニオン種は有効量において、アルカリ土類金属炭酸塩粒子の表面に吸着することによって、粒子の凝結を抑制しうる。非溶媒和塩は、好適には、ナトリウムなどのアルカリ金属カチオンを含む。好適な分散剤の例としては、水溶性縮合リン酸塩、例えば、ポリメタリン酸塩(ナトリウム塩の一般形態:(NaPO3x)、例えば、メタリン酸テトラナトリウム、もしくはいわゆる「ヘキサメタリン酸ナトリウム」(グラハム塩)、ポリケイ酸の水溶性塩;高分子電解質;アクリル酸もしくはメタクリル酸のホモポリマーもしくはコポリマーの塩;または好適には約20,000未満の質量平均分子量を有する、アクリル酸の他の誘導体のポリマーの塩も挙げられる。いくつかの実施形態では、水性炭酸塩スラリーを調製するステップ(1)には、ヘキサメタリン酸ナトリウムおよび/またはポリアクリレートナトリウムを含有する水性媒体の使用が関与し、後者は好適には、約1,500~約10,000の範囲内の質量平均分子量を有する。
【0015】
いくつかの実施形態では、このプロセスは、水性炭酸塩スラリー、炭酸塩-ケイ酸塩スラリー、およびpH調整済スラリーのうちの少なくとも1つに、分散剤を添加する追加のステップを含む。添加する分散剤は、上述の1種または複数の分散剤を含みうる。いくつかの場合、添加する分散剤は、有機酸、炭水化物化合物、金属塩、およびこれらの混合物から選択される。
水性炭酸塩スラリーを調製するステップ(1)では、炭酸カルシウム粒子は、有機化合物、例えば、限定するものではないがクエン酸または糖によって、少なくとも部分的にコーティングされうる。例えば、いくつかの実施形態では、炭酸カルシウム粒子は、炭水化物によって、少なくとも部分的にコーティングされる。いくつかの実施形態では、炭酸カルシウム粒子は、有機分散剤またはキレート剤、例えば、限定するものではないがヘキサメタリン酸ナトリウムによって、少なくとも部分的にコーティングされる。
【0016】
炭酸塩-ケイ酸塩スラリーを調製するステップ(2)では、ケイ酸塩組成物としては、ケイ酸リチウム、ケイ酸ナトリウム、ケイ酸カリウム、またはこれらの様々な混合物を挙げることができる。いくつかの実施形態では、ケイ酸塩組成物は、シリカ(SiO2)と、アルカリ金属およびアルカリ土類金属から選択される少なくとも1種の金属の酸化物とを含有する組成物であってよい。例えば、金属酸化物は、Li2O、Na2O、およびK2Oから選択される少なくとも1種の金属酸化物であってよい。ケイ酸塩組成物中のシリカと金属酸化物とのモル比は、約1:1~約5:1の範囲であってよい。いくつかの実施形態では、炭酸塩-ケイ酸塩スラリーは、シリカと金属酸化物とのモル比が約3:1~約4:1の範囲であるケイ酸塩組成物を用いて調製する。水性炭酸塩スラリーに添加するケイ酸塩組成物は、液相中にあっても、固相中にあってもよい。ケイ酸塩組成物は、水とシリカと金属酸化物とを含むケイ酸塩溶液またはスラリーの形態であってもよく、ケイ酸塩溶液またはスラリー中のシリカの濃度は、約0.5mol/L~約10mol/Lの範囲である。いくつかの実施形態では、ケイ酸塩溶液またはスラリーの濃度は、約1.0mol/L~約1.5mol/Lの範囲である。
【0017】
炭酸塩-ケイ酸塩スラリーを調製するステップ(2)では、ケイ酸塩組成物は、液体組成物が約1.2kg/m3~約2.0kg/m3の範囲の密度を有する、シリカと酸化ナトリウム(Na2O)との液体組成物の形態であってもよく、または固体組成物が約0.4kg/m3~約1.6kg/m3の範囲の密度を有する、シリカと酸化ナトリウムとの固体組成物の形態であってもよく、または固体組成物が約1.1kg/m3~約1.5kg/m3の範囲の密度を有する、シリカと酸化リチウム(Li2O)との固体組成物の形態であってもよく、または固体組成物が約1.1kg/m3~約1.5kg/m3の範囲の密度を有する、シリカと酸化カリウム(K2O)との固体組成物の形態であってもよい。いくつかの実施形態では、シリカ組成物は、シリカと酸化ナトリウムとを含有し、約1.3kg/m3~約1.5kg/m3の範囲の密度を有する。
【0018】
炭酸塩-ケイ酸塩スラリーを調製するステップ(2)では、ケイ酸塩組成物は15~35質量%のシリカと5~35質量%の酸化ナトリウムとを含有するケイ酸ナトリウム組成物であってもよく、または15~35質量%のシリカと1~10質量%の酸化リチウムとを含有するケイ酸リチウム組成物であってもよく、または15~35質量%のシリカと5~20質量%の酸化カリウムとを含有するケイ酸カリウム組成物であってもよい。いくつかの実施形態では、シリカ組成物は、25~30質量%のシリカと5~10質量%の酸化ナトリウムとを含有するケイ酸ナトリウム組成物に限定される。
炭酸塩-ケイ酸塩スラリーを調製するステップ(2)では、炭酸塩-ケイ酸塩スラリー中の炭酸カルシウムとシリカとのモル比は、約1:1~約100:1の範囲であってよい。いくつかの実施形態では、炭酸塩-ケイ酸塩スラリー中の炭酸カルシウムとシリカとのモル比は、約1.5:1~約5:1の範囲に限定される。
【0019】
炭酸塩-ケイ酸塩スラリーを調製するステップ(2)では、水性炭酸塩スラリーの温度が約15℃~約95℃の範囲に制御されるように、水性炭酸塩スラリーへのシリカ組成物の添加を行ってもよい。いくつかの実施形態では、添加ステップの際の水性炭酸塩スラリーの温度を、約20℃~約25℃の範囲に制御する。添加ステップ(2)の際、ケイ酸塩組成物を連続的に添加してもよく、または滴下によって添加してもよい。いくつかの実施形態では、1キロリットルの水性炭酸塩スラリー当たり、約1.7~約255または約8.5~約25.5(モルのケイ酸塩毎分)の範囲の添加速度で、水性炭酸塩スラリーにケイ酸塩組成物を添加する。水性炭酸塩スラリーへのケイ酸塩組成物の添加の際、水性炭酸塩スラリーを、最高1,000rpmの速度で撹拌してもよい。いくつかの実施形態では、撹拌速度は、約600rpm~約800rpmの範囲に限定されうる。いくつかの実施形態では、ケイ酸塩組成物に水性炭酸塩スラリーを添加するように、添加の方式を変更してもよい。
【0020】
炭酸塩-ケイ酸塩スラリーのpHを低下させるステップ(3)では、酸性化合物は、強酸、例えば、塩酸、硝酸、硫酸、臭化水素酸もしくはヨウ化水素酸、および当技術分野において公知の他の強酸、または弱酸、例えば、カルボン酸、リン酸、ホウ酸もしくはフッ化水素酸、および当技術分野において公知の他の弱酸であってよい。いくつかの実施形態では、酸性化合物は塩酸であり、ガス状形態で用いてもよく、水性溶液または非水性溶液として用いてもよい。酸性化合物として用いる塩酸溶液の濃度は、約0.1M~12M(すなわち、濃縮水性濃HCl)の範囲であってよい。いくつかの実施形態では、酸性化合物は、2未満のpKaを有する酸を含む。
【0021】
炭酸塩-ケイ酸塩スラリーのpHを低下させるステップ(3)では、酸性化合物は、2以上のpKaを有する有機酸であってもよい。例えば、いくつかの実施形態では、酸性化合物は、モノカルボン酸、ジカルボン酸、トリカルボン酸、およびこれらの塩から選択される、少なくとも1種の水溶性有機カルボン酸を含む。酸性化合物は、水溶性ヒドロキシカルボン酸またはその塩を含んでもよい。例えば、酸性化合物は、ギ酸、グリオキシル酸、シュウ酸、グリコール酸、マロン酸、3-ヒドロキシプロピオン酸、乳酸、グリセリン酸、フマル酸、マレイン酸、オキサロ酢酸、3-ブテン酸、クロトン酸、メチルマロン酸、コハク酸、リンゴ酸、酒石酸、ジヒドロキシ酒石酸、酪酸、3-ヒドロキシ酪酸、4-ヒドロキシ酪酸、1,1-シクロプロパンジカルボン酸、イタコン酸、メサコン酸、ジメチルマロン酸、グルタル酸、メチルコハク酸、ペンタン酸、アスコルビン酸、クエン酸、イソクエン酸、3-メチルグルタル酸、ヘキサン酸、およびこれらの塩から選択される、少なくとも1種の有機酸を含んでもよい。
【0022】
炭酸塩-ケイ酸塩スラリーのpHを低下させるステップ(3)では、酸性化合物は、水溶性のC2-C30脂肪酸および/または芳香族有機酸であってよく、脂肪酸は、完全に飽和していてもよく、または不飽和であってもよい。酸性化合物は、塩、または遊離酸と塩との混合物を含みうる。いくつかの実施形態では、酸性化合物としては、ポリマー酸、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、フマル酸、およびマレイン酸を含めたエチレン性不飽和カルボン酸モノマーから調製されるポリマー酸などを挙げることができる。これらのポリマーは、光散乱技法によって決定される、約1,000,000未満、または50,000未満の質量平均分子量を有しうる。
【0023】
いくつかの実施形態では、酸化合物は、リン酸、メタリン酸、ヘキサメタリン酸、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、亜硫酸、酢酸、ホウ酸、没食子酸、グルタル酸、安息香酸、オキシ安息香酸、サリチル酸(salicyclic acid)、クエン酸、ギ酸、フルオロホウ酸、およびこれらの混合物から選択される。これらの酸、および上述の他の酸の混合物を、炭酸塩-ケイ酸塩スラリーのpHを低下させるステップ(3)の際に、二酸化炭素の使用と組み合わせてもよい。いくつかの実施形態では、少なくとも1種の緩衝酸が、酸性化合物として作用してもよく、または酸性化合物の成分として含まれてもよい。例えば、いくつかの実施形態では、酸性化合物は、弱い緩衝酸としてクエン酸を含む。
【0024】
炭酸塩-ケイ酸塩スラリーのpHを低下させるステップ(3)では、炭酸塩-ケイ酸塩スラリーの温度が約15℃~約95℃の範囲であるように、炭酸塩-ケイ酸塩スラリーへの酸性化合物の添加を行ってもよい。いくつかの実施形態では、酸性化合物の添加の際の炭酸塩-ケイ酸塩スラリーの温度を、約20℃~約25℃の範囲に制御する。酸性化合物の添加の際、撹拌の速度が1,000rpm以下であるように、炭酸塩-ケイ酸塩スラリーを撹拌してもよい。いくつかの実施形態では、酸性化合物の添加の際、炭酸塩-ケイ酸塩スラリーを撹拌する速度を、約600rpm~約800rpmの範囲に制御する。酸性化合物は、連続的にまたは滴加によって添加してよく、滴加の速度は、1キロリットルの炭酸塩-ケイ酸塩スラリー当たり、約1.7~約255または約8.5~約25.5(モルの酸化合物毎分)の範囲であってよい。酸化合物の添加の速度、炭酸塩-ケイ酸塩スラリーの撹拌の速度、および炭酸塩-ケイ酸塩スラリーの温度は、炭酸塩-ケイ酸塩スラリーのpHを低下させるステップ(3)の際のゲル化を、防止または最小化するために制御されうる。
炭酸塩-ケイ酸塩スラリーのpHを低下させるステップ(3)では、炭酸カルシウムと酸化合物中の酸基とのモル比が約100:1~約1:1の範囲であるように、酸化合物の量を制御してもよい。いくつかの実施形態では、炭酸カルシウムと酸化合物とのモル比は、約9:1~約4:1の範囲に限定される。
炭酸塩-ケイ酸塩スラリーのpHを低下させるステップ(3)では、pH調整済スラリーの最終pHは、約7~約9、または約7~約8、または約7~約7.5の範囲であってよい。いくつかの実施形態では、pH調整済スラリーの最終pHは、およそ7である。
【0025】
シリカコーティング炭酸カルシウム粒子を形成するプロセスは、1~150分の範囲の期間にわたって、pH調整済スラリーをエージングする追加のステップを含んでもよい。いくつかの実施形態では、pH調整済スラリーのエージングは、15℃~95℃の範囲の温度で行い、約1rpm~約1,000rpmの範囲の速度で、pH調整済スラリーを撹拌しながら行ってもよい。いくつかの実施形態では、pH調整済スラリーの温度が約60℃~約80℃の範囲であるように、pH調整済スラリーのエージングを制御する。pH調整済スラリーのエージングは、1分~約150分の範囲の期間にわたって行ってよいが、いくつかの実施形態では、エージングの期間が約90分~約120分の範囲であるように限定される。
【0026】
シリカコーティング炭酸カルシウム粒子を単離するステップ(4)は、シリカコーティング炭酸塩粒子を濾過、洗浄、乾燥、および/またはミル粉砕するステップを含んでもよいが、これらのステップに限定されない。いくつかの実施形態では、シリカコーティング炭酸塩粒子を洗浄するステップは、(i)シリカコーティング炭酸カルシウム粒子の濾過ケーキを、洗浄液で洗浄するステップ、および(ii)シリカコーティング炭酸塩粒子を洗浄液に分散させ、次いで、シリカコーティング炭酸塩粒子を洗浄液から濾過するステップのうちの少なくとも1つを含む。洗浄液は、水を含有し、分散剤および/または洗浄剤を含有してもよい。いくつかの実施形態では、上のステップ(i)および/または(ii)の実行は、上のステップ(i)および/または(ii)を実行することによって得たものではないシリカコーティング炭酸カルシウム粒子に対して、改善された特徴を有するシリカコーティング炭酸カルシウム粒子の形成をもたらすことができる。例えば、いくつかの実施形態では、ステップ(i)および/または(ii)の実行によって、シリカコーティング炭酸カルシウム粒子のBET表面積が増加しうる、またはシリカコーティング炭酸カルシウム粒子のメソ孔性が増加しうる。いくつかの実施形態では、ステップ(i)および(ii)のうちの少なくとも1つを、少なくとも2回実行してもよい。
シリカコーティング炭酸カルシウム粒子を単離するステップ(4)では、乾燥は、約50℃~約200℃の範囲の温度で起こりうる。いくつかの実施形態では、乾燥は、約80℃~約120℃の範囲の温度で起こる。シリカコーティング炭酸カルシウム粒子のミル粉砕は、ピンミル、ハンマーミル、または分級ミルを用いて行ってよい。
【0027】
本開示のいくつかの実施形態は、上述のプロセスによって得られるシリカコーティング炭酸カルシウム粒子に関する。本開示のシリカコーティング炭酸カルシウム粒子は、少なくとも部分的にシリカコーティングで覆われた炭酸カルシウムコアを含みうるが、次の特徴、(a)シリカコーティング炭酸カルシウム粒子のBET表面積が、約30m2/g~約200m2/gの範囲である、(b)シリカコーティング炭酸カルシウム粒子のBET表面積の、炭酸カルシウムコアの炭酸カルシウム粒子前駆体のBET表面積に対する比が、約1.1:1~約80:1の範囲である、(c)シリカコーティングの平均細孔直径が、2nm~50nmの範囲である、のうちの少なくとも1つを満足する。いくつかの実施形態では、シリカコーティング炭酸カルシウム粒子のBET表面積は、約50m2/g~約80m2/gの範囲である。シリカコーティング炭酸カルシウム粒子の平均細孔サイズは、約5nm~約20nmの範囲であってもよく、比(b)は約2:1~約6:1の範囲であってもよい。
【0028】
本開示のいくつかの実施形態は、上述のプロセスによって得られるシリカコーティング炭酸塩粒子を含有する物品または組成物に関する。物品または組成物は、いくつかの用途を挙げると、紙製品、接着剤、シーラント、ポリマー、化粧品、チョーク、塗料、収着剤、歯科用組成物、またはアンチケーキング剤でありうる。シリカコーティング炭酸塩粒子の用途としてはまた、いくつかの例を挙げると、浄水材料、排水汚泥処理材料、化粧品または農業用途のためのキャリア剤、口腔用組成物、および臭気制御剤を挙げることができる。本開示の実施形態としてはまた、シリカコーティング炭酸カルシウム粒子を、酸性組成物で処理することによって得られる中空シリカ球が挙げられる。
【0029】
(実施形態)
本開示の実施形態[1]は、炭酸カルシウム粒子を含む水性炭酸塩スラリーを調製するステップ、少なくとも1種のケイ酸塩組成物を水性炭酸塩スラリーに添加して、炭酸塩-ケイ酸塩スラリーを得るステップ、少なくとも1種の酸性化合物を添加することによって、炭酸塩-ケイ酸塩スラリーのpHを低下させ、シリカコーティング炭酸カルシウム粒子を含むpH調整済スラリーを得るステップ、およびシリカコーティング炭酸カルシウム粒子を単離するステップを含むプロセスであって、ケイ酸塩組成物がシリカと金属酸化物とを含み、ケイ酸塩組成物中のシリカと金属酸化物とのモル比が1.1:1~5:1の範囲であり、少なくとも1種の酸性化合物を添加するステップが、pH調整済スラリーの最終pHが約7~約10の範囲であるように制御され、シリカコーティング炭酸カルシウム粒子が、2nm~50nmの範囲の平均細孔直径を有する多孔質コーティングを含む、プロセスに関する。
本開示の実施形態[2]は、炭酸カルシウム粒子が、沈降炭酸カルシウム粒子、重質炭酸カルシウム粒子(ground calcium carbonate particles)、廃棄物炭酸カルシウム粒子(waste calcium carbonate particles)、およびこれらの混合物からなる群から選択される、実施形態[1]のプロセスに関する。
本開示の実施形態[3]は、炭酸カルシウム粒子が、少なくとも1つのヒドロキシル基を含む有機化合物によって、少なくとも部分的にコーティングされる、実施形態[1]または[2]のプロセスに関する。
本開示の実施形態[4]は、水性炭酸塩、炭酸塩-ケイ酸塩スラリー、およびpH調整済スラリーのうちの少なくとも1つに、分散剤を添加するステップをさらに含む、実施形態[1]~[3]のプロセスに関する。
【0030】
本開示の実施形態[5]は、ケイ酸塩組成物が、シリカと、アルカリ金属およびアルカリ土類金属からなる群から選択される少なくとも1種の金属の酸化物とを含み、シリカと金属酸化物とのモル比が1.1:1~5:1の範囲であり、炭酸塩-ケイ酸塩スラリー中のシリカと炭酸カルシウムとのモル比が1:1~1:100の範囲である、実施形態[1]~[4]のプロセスに関する。
本開示の実施形態[6]は、酸性化合物が、2以上のpKaを有する有機酸;および2未満のpKaを有する酸を含む酸性組成物のうちの少なくとも1つを含む、実施形態[1]~[5]のプロセスに関する。
本開示の実施形態[7]は、酸性化合物が、水溶性ヒドロキシカルボン酸またはその塩を含む、実施形態[1]~[6]のプロセスに関する。
【0031】
本開示の実施形態[8]は、酸性化合物が、ギ酸、グリオキシル酸、シュウ酸、グリコール酸、マロン酸、3-ヒドロキシプロピオン酸、乳酸、グリセリン酸、フマル酸、マレイン酸、オキサロ酢酸、3-ブテン酸、クロトン酸、メチルマロン酸、コハク酸、リンゴ酸、酒石酸、ジヒドロキシ酒石酸、酪酸、3-ヒドロキシ酪酸、4-ヒドロキシ酪酸、1,1-シクロプロパンジカルボン酸、イタコン酸、メサコン酸、ジメチルマロン酸、グルタル酸、メチルコハク酸、ペンタン酸、アスコルビン酸、クエン酸、イソクエン酸、3-メチルグルタル酸、ヘキサン酸、およびこれらの塩からなる群から選択される少なくとも1つを含む、実施形態[1]~[7]のプロセスに関する。
本開示の実施形態[9]は、少なくとも1種の酸性化合物を、炭酸塩-ケイ酸塩スラリーに添加するステップが、pH調整済スラリーの最終pHが約7~約7.5の範囲であるように制御される、実施形態[1]~[8]のプロセスに関する。
本開示の実施形態[10]は、少なくとも部分的に中和した炭酸塩-ケイ酸塩スラリーを、15℃~95℃の範囲の温度で、10分~120分の範囲の期間にわたってエージングするステップをさらに含む、実施形態[1]~[9]のプロセスに関する。
本開示の実施形態[11]は、単離するステップが、シリカコーティング炭酸塩粒子を濾過、洗浄、乾燥、およびミル粉砕するステップを含む、実施形態[1]~[10]のプロセスに関する。
【0032】
本開示の実施形態[12]は、単離するステップが、シリカコーティング炭酸塩粒子を濾過、洗浄、乾燥、およびミル粉砕するステップを含み、洗浄するステップが、(i)シリカコーティング炭酸カルシウム粒子の濾過ケーキを、洗浄液で洗浄するステップ、および(ii)シリカコーティング炭酸塩粒子を洗浄液に分散させ、シリカコーティング炭酸塩粒子を洗浄液から濾過するステップのうちの少なくとも1つを含むようにし、洗浄液が、水を含み、分散剤または洗浄剤を含んでもよい、実施形態[1]~[11]のプロセスに関する。
【0033】
本開示の実施形態[13]は、シリカコーティング粒子が、少なくとも部分的にシリカコーティングで覆われた炭酸カルシウムコアを含み、シリカコーティングする粒子のBET表面積が、30m2/g~200m2/gの範囲であり、シリカコーティング粒子のBET表面積の、炭酸カルシウムコアの炭酸カルシウム粒子前駆体のBET表面積に対する比が、1:1~10:1の範囲であり、シリカコーティングの平均細孔直径が、2nm~50nmの範囲である、実施形態[1]~[12]のプロセスによって得られるシリカコーティング炭酸カルシウム粒子に関する。
実施形態[14]は、実施形態[13]のシリカコーティング炭酸塩粒子を含む物品または組成物であって、紙製品、シーラント、ポリマー、化粧品、チョーク、塗料、収着剤、歯科用組成物、およびアンチケーキング剤からなる群から選択される、物品または組成物に関する。
実施形態[15]は、実施形態[13]のシリカコーティング炭酸カルシウム粒子を、酸性組成物に接触させることによって得られる中空シリカ球に関する。
【実施例
【0034】
以下の例は、説明目的のみのために提供するものであり、本開示の範囲を限定するものでは決してない。本開示の実施形態は、下に説明する材料と比較して、他の炭酸カルシウム粒子、ケイ酸塩系化合物、酸および分散剤、ならびに追加の成分および添加剤など、異なる成分または追加の成分の使用を採用する場合がある。本開示の実施形態はまた、シリカコーティング炭酸塩粒子の調製について、下に説明する条件とは異なるプロセス条件の使用を採用する場合がある。
(検討概要)
下に説明する実施例では、シリカコーティングの表面積、メソ孔性、および耐酸性を制御し、強化するために用いることができる要素を特定するため、異なるプロセス条件を用いて、シリカコーティング炭酸塩粒子を調製した。下の比較検討は、本開示のプロセスが、炭酸カルシウム粒子コアの表面積およびメソ孔性に対して、シリカコーティングの表面積およびメソ孔性が増加したシリカコーティング炭酸塩粒子を生成できることを示している。比較検討はまた、表面積の増加の大きさ、およびメソ孔性の割合を、コーティングプロセスの際の酸および任意の分散剤の正体次第で制御できることを実証している。
【0035】
(材料)
市販の沈降炭酸カルシウム(PCC)のサンプルを用い、これは、Socal(登録商標) 31およびSocal(登録商標)92G(両方ともImerys PCC Franceによって供給された)を含んでいた。Tate & Lyleによって供給され、糖(スクロース)精製プロセスから得たPCC廃棄物サンプルも試験した。市販の重質炭酸カルシウム(GCC)のサンプルも用い、これは、ImerCarb 3L、ImerCarb 5L、およびIntraCarb 60スラリー(すべてImerys Performance Materialsによって供給された)を含んでいた。液体ケイ酸ナトリウム(Na2O+約4SiO2)(密度=1.35)はシグマ-アルドリッチ(Sigma-Alrich)から入手し、これは7.5~8.5質量%のNa2Oと、25.5~28.5質量%のSiO2とを含有していた。濃塩酸(ACS試薬級、37%)は、シグマ-アルドリッチから入手した。クエン酸(ACS試薬、99.5%以上)は、シグマ-アルドリッチから入手した。ヘキサメタリン酸(hexmetaphosphate)ナトリウム(結晶質、+200メッシュ、96%)は、シグマ-アルドリッチ(Sigma-Alrich)から入手した。下に記載する分散剤のすべての調製のためには、脱イオン水を用いた。
【0036】
(コーティングプロセス)
実施例1のシリカコーティング炭酸塩粒子を調製するために用いたコーティングプロセスを、表1を参照しながら以下に説明する。実施例2~6のプロセスは、表2および3に指定するように条件を変更したことを除いて、実施例1と同じ方法で実行した。
【表1】
【0037】
1Lビーカー中、600mLの脱イオン水に、90グラムのSocal(登録商標) 31を加え(150g/L)、得られた混合物を約5分、周囲温度(約23℃)で機械的に撹拌することによって、水性炭酸塩スラリーを調製した。撹拌水性炭酸塩スラリーに、周囲温度で、得られる炭酸塩-ケイ酸塩スラリー中の炭酸カルシウムとシリカとの得られるモル比が3:1であるように、水性ケイ酸ナトリウム溶液(約1:4のNa2O/SiO2)を滴加によって加えた(約10mL/分)。次いで、激しい機械的撹拌下の炭酸塩-ケイ酸塩スラリーに、周囲温度で、得られるスラリーのpHが安定な7のpHに達するまで、濃塩酸を滴加によって加えた。塩酸の滴加の速度は、粘性ゲルの形成が防止されるように調整した(とりわけ、7~8のpH)。次いで、120分のエージング期間の間、強い機械的撹拌のもと、得られたスラリーを80℃に加熱し、得られた生成物スラリーを真空補助によってブフナー漏斗を通して濾過し、シリカコーティング炭酸塩粒子の初期濾過ケーキを得た。初期濾過ケーキを脱イオン水で洗浄し、次いで500mLの脱イオン水中に再分散させ、ブフナー漏斗を通して再濾過し-このプロセスを2回実行-、最終濾過ケーキを得た。次いで、最終濾過ケーキを、120℃のオーブン中で12時間乾燥させ、ハンマーミルによってミル粉砕し、実施例1のシリカコーティング炭酸塩粒子を得た。
【0038】
実施例1のシリカコーティング炭酸塩粒子の機械的撹拌水性分散体を、塩酸を用いて4のpHに酸性化し、酸性化分散体を1時間撹拌することによって、シリカシェルを調製した。この期間の後、得られた水性分散体を真空補助によってブフナー漏斗を通して濾過し、シリカシェルの濾過ケーキを得て、次いでこれを脱イオン水によって洗浄し、再濾過し、120℃のオーブン中で12時間乾燥させた。
【0039】
(シリカコーティング炭酸カルシウム粒子の表面積およびBJH細孔サイズ分布に関するシリカコーティングの効果)
本明細書において用いる場合、「BET表面積」は、BET法により、粒子の表面上に吸着され、表面を完全に覆う単分子層を形成する窒素の量によって決定される、粒子状炭酸カルシウム材料の単位質量に対する粒子の表面の面積を指す(BET法による測定、AFNOR規格X11-621および622、またはISO 9277)。特定の実施形態では、BET表面積は、ISO9277、またはこれと同等の任意の方法によって決定される。
図1に示すように、実施例1のシリカコーティング炭酸塩粒子のBET表面積(40.7m2/g)は、PCCコア粒子のBET表面積(参照サンプル1)(19.7mm2/g)の2倍超であった。そのため、本開示のコーティングプロセスは、炭酸カルシウムコア粒子の表面積と比較して、著しく大きい表面積を有するシリカコーティングを生成することを実証している。
【0040】
出発PCC粒子(参照サンプル1)および実施例1のシリカコーティング炭酸塩粒子のBJH(Barrett-Joyner-Halenda)細孔サイズは、BJHモデルを用いて測定した。BJHモデルは、BET表面積計算に用いるものと同じN2吸着等温線から誘導される(BET法による測定、AFNOR規格X11-6212および622、またはISO 9277)。BJHモデルは、Barrett et al., Am. Chem. Soc., 73 (1951), pages 373-380に記載されており、その内容は参照により本明細書に組み込まれる。例えば、Micromeritics TRISTAR 3000およびMicromeritics VACPREP 061が用いられうる。サンプルは、例えば、オーブン中で105℃において一晩、続いて窒素流下、180℃で30分、および窒素流下、30分の冷却によって脱ガスされうる。等温線は、例えば、0.05~0.98の範囲の相対圧P/P0について測定されうる。平均細孔サイズは、細孔直径を指す。多孔質容積は累積値であり、1.7~50nmの細孔サイズについて、脱着分岐に関するBJHによって得られる。測定した細孔容積対細孔直径を、図2に示す。
【0041】
図2に示すように、実施例1のシリカコーティング炭酸塩粒子は、参照サンプル1の出発PCC粒子と比較して、実質的に大きいメソ孔性を示した。参照サンプル1の出発PCC粒子は、2~50nmの図2の水平軸の間のメソ孔質範囲に最大ピークを示さなかったが、一方、実施例1のシリカコーティング炭酸塩粒子は、およそ15nmに最大ピークを示した。そのため、本開示のコーティングプロセスは、炭酸カルシウムコア粒子のメソ孔性と比較して、著しく大きいメソ孔性の度合いを有するシリカコーティングを生成することを実証している。
図3(a)~3(d)に示すように、出発PCC粒子(参照サンプル1)、実施例1のシリカコーティング炭酸塩粒子、および実施例1のシリカシェルを、25kVおよび50kVレベルの拡大において、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて描画した。これらの画像は、実施例1のコーティングプロセスが、炭酸カルシウムの酸除去に耐えるのに十分に強固なシリカコーティングで、効率的にPCC粒子をコーティングし、出発PCC粒子の当初の形状を維持するシリカシェルを生成したことを示している。
【0042】
図4(a)~4(f)に示すように、出発PCC粒子(参照サンプル1)および実施例1のシリカコーティング炭酸塩粒子を、25kVレベルの拡大において、SEMを用いて描画したが、これらのサンプルを、CaおよびSiの両方の元素分布を示すエネルギー分散型X線(EDX)マッピングを用いる描画もした。これらの画像は、実施例1のコーティングプロセスが、PCC粒子の表面にわたって均一に分布したシリカコーティングで、効率的にPCC粒子をコーティングしたことを示している。
【0043】
(シリカコーティング炭酸カルシウム粒子の表面積、BJH細孔サイズ分布、および耐酸性に関する酸源の効果)
シリカコーティングプロセスの際に用いた酸源が有する、得られるシリカコーティング炭酸カルシウム粒子の表面積、BJH細孔サイズ分布、および耐酸性に関する効果を調査するため、別の検討を行った。この検討についてのプロセスパラメータを表2にまとめるが、この検討では、酸源である塩酸、二酸化炭素、およびクエン酸を、それぞれ実施例1、2、および3で用いた。
【表2】

この検討は、実施例3の弱い(大きいpKa)有機酸(クエン酸)の使用によって、実施例1の強い(小さいpKa)無機酸(塩酸)、および実施例2の非常に弱い酸(二酸化炭素)の使用と比較して、得られるシリカコーティング炭酸カルシウム粒子の表面積およびメソ孔性が甚だしく増加することを示した。
【0044】
図5に示すように、実施例3(クエン酸)のシリカコーティング炭酸カルシウム粒子のBET表面積(約75m2/g)は、実施例1(塩酸)(約40m2/g)および実施例2(二酸化炭素)(約25m2/g)のシリカコーティング粒子のBET表面積より、遥かに大きかった。クエン酸によるBET表面積の増加は、図5に示すように、対応するシリカシェルについては、さらにより甚だしい。参照サンプル1の出発PCC粒子に対して増加した表面積を有するシリカコーティングを生成する観点から、クエン酸がより効果的な酸源であることは、この実験データから明らかである。下の検討に記載するように、塩酸によって形成されるシリカコーティング炭酸カルシウム粒子の表面積は、シリカコーティングの形成の際に、分散剤を含むことによって増加しうることが見出された。
【0045】
図6に示すように、実施例1、2、および3のシリカコーティング炭酸カルシウム粒子のメソ孔性について、同様の傾向が観察された。シリカコーティングの形成の際、酸源としてクエン酸を用いることは、メソ孔性における甚だしい改善をもたらした。実施例3(クエン酸)のBJH細孔サイズ分布は、約12nmに鮮明な最大ピークを示しているが、一方、実施例1(塩酸)および実施例2(二酸化炭素)のシリカコーティング粒子についての細孔サイズ分布は、鮮明な最大ピークを示さなかった。
【0046】
いずれの特定の理論にも束縛されるものではないが、実施例3において用いたクエン酸によって起こったメソ孔性の甚だしい改善は、クエン酸とPCC粒子の炭酸塩表面との間の相互作用によってもたらされ、結合したクエン酸塩はさらにケイ酸塩と相互作用し、それによってメソ孔の発生をもたらすスペーサーまたはテンプレートとして作用しうると考えられる。
【0047】
図7に示すように、実施例1、2、および3のシリカコーティング炭酸カルシウム粒子を上述の耐酸性試験に供すると、実施例1(塩酸)のシリカコーティング粒子についてのpHの増加の速度は、実施例2(二酸化炭素)および実施例3(クエン酸)のシリカコーティング粒子についての増加の速度と比較して、わずかに小さかった。これは、塩酸の存在下で形成されたシリカコーティングは、他の酸の存在下で形成されたシリカコーティングと比較して、PCCコア上により高い被覆率を有することを示すようである。図7は、参照サンプル1の出発PCC粒子についての耐酸性データも含む。pH上昇の速度は、実施例1、2、および3のシリカコーティング炭酸カルシウム粒子と比較して、参照サンプル1については著しく大きかった。
【0048】
図8(a)~8(f)に示すように、実施例1、2、および3のシリカコーティング粒子を、25kVおよび50kVレベルの拡大において、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて描画した。図8(e)および8(f)の画像は、実施例1(塩酸)および実施例2(二酸化炭素)のシリカコーティング中には存在しない、実施例3(クエン酸)のシリカコーティング中に相互混合したラメラ粒子が存在することを示すようである。いずれの特定の理論にも束縛されるものではないが、これらのラメラ粒子は、クエン酸とPCC粒子の炭酸カルシウムとの相互作用によって、および/または得られたクエン酸塩とケイ酸塩との相互作用によって形成されたクエン酸化合物から構成されうると考えられる。
【0049】
(シリカコーティング炭酸カルシウム粒子の表面積、BJH細孔サイズ分布、および耐酸性に関する分散剤の効果)
シリカコーティングプロセスの際に存在する分散剤が有する、得られるシリカコーティング炭酸カルシウム粒子の表面積、BJH細孔サイズ分布、および耐酸性に関する効果を調査するため、別の検討を行った。この検討についてのプロセスパラメータを表3にまとめるが、この検討では、シリカコーティング炭酸カルシウム粒子は、分散剤のヘキサメタリン酸ナトリウム((NaPO36)ありおよびなしの両方で、塩酸およびクエン酸を用いて調製した。
【0050】
この検討は、酸源として塩酸を用いた場合、分散剤の存在下でシリカコーティングプロセスを実行することによって、シリカコーティングの表面積およびメソ孔性が甚だしく増加するが、酸源としてクエン酸を用いた場合、シリカコーティングの表面積およびメソ孔性は増加しないことを示した。酸源として塩酸またはクエン酸のいずれかを用いた場合、分散剤の存在によって、シリカコーティング粒子の耐酸性が改善するようである。
【表3】
【0051】
図9に示すように、実施例4[HCl+(NaPO36]のシリカコーティング粒子のBET表面積(68.4m2/g)は、実施例1[HCl]のシリカコーティング粒子のBET表面積(40.7m2/g)より著しく大きく、このことは、酸源として塩酸を用いた場合、分散剤のヘキサメタリン酸(hexamethphosphate)ナトリウムの存在によって、シリカコーティングの表面積が大きく増加することを表している。対照的に、実施例6[クエン酸+(NaPO36]のシリカコーティング粒子のBET表面積(62.9m2/g)は、実施例5[クエン酸]のシリカコーティング粒子のBET表面積(75.4m2/g)より小さく、このことは、酸源としてクエン酸を用いた場合、分散剤のヘキサメタリン酸(hexamethphosphate)ナトリウムの存在によって、シリカコーティングの表面積が実際には減少することを表している。
図10に示すように、実施例4[HCl+(NaPO36]のシリカコーティング粒子は、実施例1[HCl]のシリカコーティング粒子と比較して遥かに鮮明なメソ孔性の分布を示し、このことは、酸源として塩酸を用いた場合、分散剤のヘキサメタリン酸(hexamethphosphate)ナトリウムの存在によって、シリカコーティングのメソ孔性が大きく増加することを表している。
【0052】
図11(a)~11(d)に示すように、実施例1、4、5、および6のシリカコーティング粒子を、50kVレベルの拡大において、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて描画した。図11(c)および11(d)の画像は、実施例5[クエン酸]および実施例6[クエン酸+(NaPO36]のシリカコーティング中に、相互混合したラメラ粒子が存在することを示しているようである。図11(d)-実施例6[クエン酸+(NaPO36]に対応する-の画像において、より少量のこれらのラメラ粒子が存在するように見えることは、注目に値する。いずれの特定の理論にも束縛されるものではないが、分散剤のヘキサメタリン酸ナトリウムが存在することにより、クエン酸とPCC粒子の炭酸カルシウムとの相互作用によって、および/または得られたクエン酸塩とケイ酸塩との相互作用によって形成されるクエン酸化合物の形成が減少し、実施例6について観察されたBET表面積の減少がもたらされうると理論化される。
【0053】
図12に示すように、実施例1および4~6のシリカコーティング炭酸カルシウム粒子を上述の耐酸性試験に供すると、実施例4[HCl+(NaPO36]および実施例6[クエン酸+(NaPO36]のシリカコーティング粒子についてのpHの上昇の速度は、実施例1[HCl]および実施例5[クエン酸]のシリカコーティング粒子についてのpHの上昇の速度と比較して、著しく低かった。そのため、このデータは、分散剤のヘキサメタリン酸ナトリウムの存在下で形成されたシリカコーティングは、この分散剤の非存在下で形成されたシリカコーティングと比較して、PCCコア上により高い被覆率を有することを表している。
【0054】
上の記載は、当業者が本発明を作成し、使用することができるように提示され、特定の用途と要件との関係において提供される。本明細書に開示する実施形態への様々な変更が、当業者には容易に明らかとなり、本明細書に規定する一般原理は、本発明の趣旨および範囲から逸脱することなく、他の実施形態および用途に適応されうる。したがって、この発明は、示された実施形態に限定することを意図するものではなく、本明細書に開示する原理および特性と調和する最も広い範囲に一致するものとする。これに関して、本開示内の特定の実施形態は、広く考えた本発明のあらゆる利益を示すものではない。
図1
図2
図3(a)-3(b)】
図3(c)-3(d)】
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12