(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-07
(45)【発行日】2023-02-15
(54)【発明の名称】β-ラクタマーゼ変異体
(51)【国際特許分類】
C12N 15/55 20060101AFI20230208BHJP
C12N 9/86 20060101ALI20230208BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20230208BHJP
C12N 1/15 20060101ALI20230208BHJP
C12N 1/19 20060101ALI20230208BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20230208BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20230208BHJP
A61K 38/46 20060101ALI20230208BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20230208BHJP
A61P 31/04 20060101ALI20230208BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20230208BHJP
A61K 31/431 20060101ALI20230208BHJP
A61K 31/407 20060101ALI20230208BHJP
A61K 31/546 20060101ALI20230208BHJP
A61K 35/74 20150101ALI20230208BHJP
【FI】
C12N15/55 ZNA
C12N9/86
C12N15/63 Z
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
A61K38/46
A61P43/00 121
A61P43/00 111
A61P31/04
A61K45/00
A61K31/431
A61K31/407
A61K31/546
A61K35/74 A
(21)【出願番号】P 2020543711
(86)(22)【出願日】2018-10-24
(86)【国際出願番号】 EP2018079223
(87)【国際公開番号】W WO2019081614
(87)【国際公開日】2019-05-02
【審査請求日】2021-08-16
(32)【優先日】2017-10-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】520146802
【氏名又は名称】ダ・ヴォルテッラ
(73)【特許権者】
【識別番号】518375786
【氏名又は名称】バイオアスター
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ジャン・ドゥ・ギュンツブルク
(72)【発明者】
【氏名】ジャン-デニス・ドキエ
【審査官】竹内 祐樹
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/144496(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/144495(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/057744(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-15/90
C07K 1/00-19/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
UniProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
β-ラクタマーゼ活性を有するポリペプチドであって、前記ポリペプチドは、配列番号1に対して少なくとも
90%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み、前記ポリペプチドは、
- 位置10及び22の各々における置換、
- 位置10及び34の各々における置換、
- 位置10及び130の各々における置換、
- 位置10、22、及び34の各々における置換、
- 位置10、22、及び130の各々における置換、
- 位置10、34、及び130の各々における置換、又は
- 位置10、22、34、及び130の各々における置換
を含み、
前記位置は、配列番号1に示される配列中の位置に対応し、
位置10における置換がV10Aであり、位置22における置換がQ22H又はQ22Nであり、位置34における置換がQ34Rであり、位置130における置換がE130Dであり、前記ポリペプチドは、配列番号1の野生型VIM-2と比較して、安定性に関して向上した特性を有する、ポリペプチド。
【請求項2】
配列番号1の第1の残基に対応する残基が、メチオニン残基に置き換えられる、請求項
1に記載のポリペプチド。
【請求項3】
そのN末端にシグナルペプチドを更に含む、請求項1
又は2に記載のポリペプチド。
【請求項4】
配列番号1に示される配列と比較して、そのN末端又はC末端にトランケーションを含む、請求項1から
3のいずれか一項に記載のポリペプチド。
【請求項5】
- 配列番号1の残基237~240のC末端トランケーション
- 配列番号1の残基236~240のC末端トランケーション、又は
- 配列番号1の残基235~240のC末端トランケーション
を含む、請求項
4に記載のポリペプチド。
【請求項6】
配列番号4~23のいずれか1つのアミノ酸配列、又はβ-ラクタマーゼ活性を有するそのフラグメントを含む又はこれからなる、請求項1から
4のいずれか一項に記載のポリペプチド。
【請求項7】
請求項1から
6のいずれか一項に記載のポリペプチドをコードする核酸配列を含む、単離核酸
分子。
【請求項8】
適切な発現宿主における前記ポリペプチドの発現を指示する1つ又は複数の制御配列に作動可能に連結されている、請求項
7に記載の核酸
分子を含む、核酸コンストラクト。
【請求項9】
請求項
8に記載の核酸コンストラクトを含む、組換え宿主細胞。
【請求項10】
請求項1から
6のいずれか一項に記載のポリペプチドを含む、組成物。
【請求項11】
経口投与可能であり、腸の所望の部分におい
て前記ポリペプチドを放出することができる、請求項
10に記載の組成物。
【請求項12】
腸の所望の部分が、空腸、回腸、盲腸、又は結腸である、請求項11に記載の組成物。
【請求項13】
個別投与、連続投与、又は同時投与のための、
(a)請求項1から
6のいずれか一項に記載のポリペプチド、又は請求項
10から12のいずれか一項に記載の組成物、及び
(b)(a)の又は(a)の組成物に含有される前記ポリペプチドに感受性を有するβ-ラクタム系抗生物質
を含む、キッ
ト。
【請求項14】
医薬として使用するための、請求項1から
6のいずれか一項に記載のポリペプチド。
【請求項15】
それを必要とする対象においてβ-ラクタム系抗生物質を不活性化するための方法において使用するための、請求項1から
6のいずれか一項に記載のポリペプチド、請求項
10から12のいずれか一項に記載の組成物、請求項13に記載のキッ
ト、又は請求項
9に記載の組換え宿主細胞。
【請求項16】
前記ポリペプチド又は前記組成物又は前記宿主細胞が、前記ポリペプチドに感受性を有するβ-ラクタム系抗生物質と組み合わせて使用するためのものである、細菌感染を治療するための方法において使用するための、請求項1から
6のいずれか一項に記載のポリペプチド、請求項
10から12のいずれか一項に記載の組成物、請求項13に記載のキッ
ト、又は請求項
9に記載の宿主細胞。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、β-ラクタマーゼ活性を有する単離ポリペプチド、及びポリペプチドをコードする核酸配列に関する。本発明の単離ポリペプチドは、VIM型サブグループに属するサブクラスB1メタロ-β-ラクタマーゼであり、プロテアーゼ安定性の向上、熱安定性等の本来の安定性の向上、β-ラクタム系抗生物質等の1つ又は複数のβ-ラクタム化合物に対する活性の向上、及び/又は宿主細胞における生産性の向上等、特性が向上している。
【背景技術】
【0002】
多くの抗菌剤、特に抗生物質は、細菌感染の治療に使用されうる。しかし、抗生物質は感染部位の病原体を攻撃するだけでなく、健康な対象、特に腸に見られる常在菌叢にも影響を及ぼす。500種以上の10兆個以上の細菌から構成される結腸共生菌叢(別名、結腸細菌叢)の抗生物質による変化は、耐性菌の選抜及び耐性菌による潜在的なコロニー形成、通常の消化過程の破壊、クロストリジウム・ディフィシル(Clostridium difficile)のような日和見腸管病原体による腸のコロニー形成及び感染、抗生物質関連の下痢、又は免疫の変化、代謝障害、若しくはアレルギーのような腸内毒素症に関連するその他の疾患、等の副作用を生じさせる可能性がある。腸、特に回腸後方(late ileum)及び結腸に残存する活性抗生物質を分解することが可能な酵素を投与することによって、これらの副作用を軽減できる。この方法については、特に、WO2004/016248又は米国特許出願公開第20050249716号に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】WO2004/016248
【文献】米国特許出願公開第20050249716号
【文献】WO95/22625
【文献】WO96/00343
【文献】EP897985
【文献】WO93/13795
【文献】WO2012/007536
【非特許文献】
【0004】
【文献】Clinical Laboratory Standard Institute、document M07-A10: Methods for Dilution Antimicrobial Susceptibility Tests for Bacteria That Grow Aerobically; Approved Standard -Tenth Edition
【文献】Poirelら、Characterization of VIM-2, a carbapenem-hydrolyzing metallo-beta-lactamase and its plasmid- and integron-borne gene from a Pseudomonas aeruginosa clinical isolate in France; Antimicrob. Agents Chemother、2000、44(4):891~7頁
【文献】Docquierら、On functional and structural heterogeneity of VIM-type metallo-beta-lactamases、J. Antimicrob. Chemother、2003、51:257~266頁
【文献】EMBOSSパッケージ(http://emboss.org)バージョン2.8.0.
【文献】Needleman及びWunsch、1970、J. Mol. Biol.、48:443~453頁
【文献】Chang及びCohen、1979、Molecular General Genetics、168:111~115頁
【文献】Young及びSpizizin、1961、Journal of Bacteriology、81:823~829頁
【文献】Dubnau及びDavidoff-Abelson、1971、Journal of Molecular Biology、56:209~221頁
【文献】Shigekawa及びDower、1988、Biotechniques、6:742~751頁
【文献】Koehler及びThorne、1987、Journal of Bacteriology、169:5771~5278頁
【文献】Becker及びGuarente、Abelson, J. N.及びSimon, M. I.ら編、Guide to Yeast Genetics and Molecular Biology、Methods in Enzymology、194:182~187頁、Academic Press, Inc.出版、New York
【文献】Itoら、1983、Journal of Bacteriology、153:163頁
【文献】Hinnenら、1978、Proceedings of the National Academy of Sciences USA、75:1920頁
【文献】Protein Purification、J.-C. Janson及びLars Rydenら編、VCH Publishers、New York、1989
【文献】Studier, F. W.、2005、Protein production by auto-induction in high density shaking cultures.、Protein Expr. Purif.、41:207~234頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、酵素は不安定な高分子であり、その完全性と触媒活性は、分解を引き起こすプロテアーゼの存在、温度、イオン強度、金属補因子の入手可能性、又はキレート剤の存在等の多数の物理化学的因子に対して感受性を有する。更に、比活性が改善された酵素は、それらの効率を高め、及び/又はそれを必要とする患者において残存活性抗生物質を効率的に分解するために必要な量を減らすために有利である。最終的に、そのような抗生物質分解酵素の生産収率を改善することは有利であろう。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明はVIM-2メタロ-β-ラクタマーゼの新規の変異体を提供する。具体的には、本発明は、配列番号1(その天然のシグナルペプチドがない野生型VIM-2の配列である)に示すアミノ酸配列に対して少なくとも70%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、β-ラクタマーゼ活性を有するポリペプチドに関する。本発明のポリペプチドは、野生型VIM-2酵素と比較して、次の特性の1つ又は複数を有する。(i)プロテアーゼ耐性の向上、特に消化プロテアーゼ耐性の向上、(ii)安定性の向上、特に熱安定性及び/又は腸管培地(intestinal medium)中での安定性の向上、(iii)β-ラクタムに対する作用スペクトルの向上(すなわち、変異体は、特にβ-ラクタム系抗生物質等、より多くのβ-ラクタム化合物を加水分解できる)、(iv)特に抗生物質の不活性化時間の短縮につながる、1つ又は複数のβ-ラクタム化合物(例えば、1つ又は複数のβ-ラクタム系抗生物質)に対する酵素活性の向上、及び(v)生産収率の向上。より具体的には、本発明のポリペプチドはVIM-2変異体であり、配列番号1のVIM-2 β-ラクタマーゼの配列に関連して、位置10に少なくとも1つの置換を含む。別の実施形態では、本発明のポリペプチドはVIM-2変異体であり、位置10及び位置22、34、130から選択される少なくとも1つの位置での置換を含み、その位置は配列番号1のVIM-2 β-ラクタマーゼのアミノ酸の位置に対応している。
【0007】
本発明の特定の実施形態では、ポリペプチドは、位置10及び22、位置10及び34、位置10及び130、位置10、22及び34、位置10、22及び130、位置10、34及び130又は位置10、22、34及び130で置換を含む。
【0008】
本明細書ではまた、位置10、22、34、及び130から選択される少なくとも1つの位置に置換を含むVIM-2変異体が開示され、その位置は配列番号1のVIM-2 β-ラクタマーゼのアミノ酸の位置に対応している。
【0009】
本発明の特定の実施形態では、位置10での置換はV10Aである。別の実施形態では、位置22での置換はQ22H又はQ22Nである。別の実施形態では、位置34での置換はQ34Rである。別の実施形態では、位置130での置換はE130Dである。
【0010】
本発明に記載のVIM-2変異体を生産する細菌は、限定するものではないが、アンピシリン、ピペラシリン、チカルシリン、テモシリン、セファロチン、セフォキシチン、セフロキシム、セフォタキシム、セフタジジム、セフェピム、セフトリアキソン、セフタロリン、セフォテタン、イミペネム、メロペネム、及びエルタペネムのような少なくとも1つのβ-ラクタム系抗生物質の最小阻止濃度(MIC)に関して、配列番号1の野生型VIM-2を生産する同じ細菌のMICと比較した場合、改善された特性を示す場合があり、これは、微量希釈ブロス法のような標準のin vitro感受性試験法を使用して決定されうる(Clinical Laboratory Standard Institute、document M07-A10: Methods for Dilution Antimicrobial Susceptibility Tests for Bacteria That Grow Aerobically; Approved Standard -Tenth Edition)。本発明の文脈において、「最小阻止濃度(MIC)に関する特性の向上」という表現は、VIM-2変異体を生産する細菌に対して増加したMIC、例えば、野生型VIM-2を生産する同一の細菌と比較して2倍以上増加したMICを意味する。
【0011】
本発明に記載のVIM-2変異体はまた、配列番号1の野生型VIM-2と比較して、プロテアーゼ、特に消化プロテアーゼに対する耐性に関して特性の向上を示す場合があり、これは、トリプシン、キモトリプシン等の精製プロテアーゼ、又は仔ブタ、ブタ、他の哺乳動物(ヒトの腸管培地等)や他の動物の腸管培地とのインキュベーション後、酵素活性(以下に記載するin vitro酵素アッセイにより)及び/又は完全性(例えば質量分析法により)をモニターすることで決定されうる。
【0012】
本発明に記載のVIM-2変異体はまた、配列番号1の野生型VIM-2と比較して、安定性(特に熱安定性)関して特性の向上を示す場合があり、これは、45~75℃の温度で最大2時間、特に65℃で45分間のタンパク質試料(粗抽出物を含む)のインキュベーション後に、酵素残存活性をモニターすることで決定されうる。或いは、円二色性測定を使用して、温度誘発変性を追跡することもできる。この実験では、立体配座安定性が向上した酵素で高くなる、実験的融解温度(Tm)を得ることができる。
【0013】
本発明に記載のVIM-2変異体はまた、配列番号1の野生型VIM-2と比較して、腸管培地、特に空腸、回腸、盲腸培地中での安定性に関して特性の向上を示す場合があり、これは、腸管培地、例えば、回腸培地中でさまざまな時間、タンパク質試料(精製酵素を含む)をインキュベーション後に、酵素残存活性をモニターすることで決定されうる。
【0014】
本発明に記載のVIM-2変異体はまた、配列番号1の野生型VIM-2が示す活性と比較して、1つ又は複数のβ-ラクタム基質(例えば、特定のβ-ラクタム系抗生物質等)に対する触媒活性に関して特性の向上を示す場合があり、これはin vitro酵素アッセイによって決定される場合があり、ここでは、β-ラクタム基質濃度の時間依存性の変動(加水分解率)が、野生型VIM-2又はVIM-2変異体を含むタンパク質試料の存在下で分光光度的にモニターされる。
【0015】
本発明に記載のVIM-2変異体はまた、配列番号1の野生型VIM-2が示す活性と比較して、kcat値及びKmのような触媒パラメータに関して特性の向上を示しうる。
【0016】
本発明に記載のVIM-2変異体はまた、配列番号1の野生型VIM-2の生産レベルと比較して、組換え細菌又は他の適切な宿主におけるその増加した生産レベルに関して特性の向上を示す場合があり、これはin vitro酵素アッセイ、例えば、野生型VIM-2又はその変異体を生産する細菌培養物から得られた抽出物を用いて、上記のように実行されるアッセイ、によって決定されうる。特定の実施形態では、抽出物は細胞又は細菌の溶解後の粗抽出物として、又は細胞(原核生物若しくは真核生物)培養培地(分泌酵素の場合)中に得られる。これらの方法はすべて、精製酵素にも実施されてよい。
【0017】
特定の実施形態では、本発明のポリペプチドは、配列番号3から配列番号23からなる群から選択される。
【0018】
【0019】
【0020】
【0021】
【0022】
【0023】
【0024】
【0025】
【0026】
【0027】
【0028】
【0029】
特定の実施形態では、本発明のポリペプチドは、VIM置換を更に含む、配列番号3~13のいずれか1つのVIM-2 β-ラクタマーゼの機能性変異体である。その結果、本発明は配列番号14~23に示されるアミノ酸配列を含む又はこれからなるポリペプチドにも関する。
【0030】
【0031】
【0032】
【0033】
【0034】
【0035】
【0036】
【0037】
【0038】
【0039】
【0040】
本発明は、本発明のVIM-2ポリペプチド変異体をコードする核酸配列、それを含む核酸コンストラクト、本発明に記載の核酸配列又は核酸コンストラクトを含む組換えウイルス又は宿主細胞(原核生物及び真核生物)、及びそれらの製造方法にも関する。
【0041】
本発明は更に、本発明に記載のポリペプチド変異体を含む組成物に関する。特定の実施形態では、組成物は経口投与可能であり、それを必要とする対象の腸の所望の部分でポリペプチドを放出することができる。好ましくは、所望の部分は、空腸、回腸、盲腸又は結腸である。
【0042】
更なる実施形態では、本発明は、ポリペプチドを生産する、組換え宿主細胞、原核生物若しくは真核生物、又は生物であって、対象に投与され、それを必要とする前記対象の腸の所望の部分でポリペプチドを放出しうる、組換え宿主細胞、原核生物若しくは真核生物、又は生物に関する。好ましくは、ポリペプチドは回腸、盲腸、又は結腸で、好ましくは、盲腸又は結腸で放出される。
【0043】
本発明の更なる態様は、本発明に記載のポリペプチド、及びキットオブパーツの前記ポリペプチドに感受性を有する、β-ラクタム系抗生物質等のβ-ラクタム化合物を個別投与、連続投与、又は同時投与するためのキットオブパーツである。特定の実施形態では、ポリペプチドと抗生物質との両方が経口投与可能である。別の実施形態では、ポリペプチド及び抗生物質は異なる経路によって投与され、例えば、ポリペプチドは経口投与可能であり、抗生物質は静脈内注射、動脈内注射、筋肉内注射、皮下注射、腹腔内注射等により非経口投与可能である。特定の実施形態では、ポリペプチドは抗生物質の前又は後、特に前に投与される。
【0044】
本発明はまた、本発明のポリペプチドを実施する治療方法に関する。したがって、本発明は、医薬として使用するための、VIM-2変異体である本発明のポリペプチドを提供する。より具体的には、それを必要とする対象においてβ-ラクタム系抗生物質を不活性化するための方法における、前記ポリペプチド又はそれを含む組成物若しくはキットオブパーツの使用を提供する。本発明はまた、β-ラクタム系抗生物質に感受性を有する細菌により引き起こされる細菌感染の治療方法における、本発明のポリペプチド、組成物又はキットオブパーツの使用に関する。特に、細菌感染は、本発明のポリペプチドと、前記ポリペプチドに感受性を有するβ-ラクタム系抗生物質との組合せを使用することにより治療され、それにより、β-ラクタム系抗生物質のおかげで感染が治療され、一方望ましくない残存活性抗生物質は、本発明のポリペプチドのおかげで、腸から、及び特定の実施形態では特異的に空腸、回腸、盲腸及び結腸から除去される。この特定の実施形態では、ポリペプチドは、好ましくは、そのような細菌感染治療を必要とする対象の腸の所望の部分でポリペプチドを放出することができる組成物に製剤化され、腸の所望の部分は、好ましくは空腸、回腸、盲腸、又は結腸であり、最も好ましくは回腸、盲腸又は結腸である。ポリペプチドは、そのような細菌感染治療を必要とする対象に経口投与され、腸の所望の部分、特に回腸、盲腸又は結腸においてポリペプチドを放出する、組換え宿主細胞(原核生物若しくは真核生物)又は生物によって生産されうる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【
図1】野生型VIM-2、VIM-2
[Q22H,Q34R,E130D]DCT236及びVIM-2
[V10A,Q22H,Q34R,E130D]DCT236変異体の、ヒト回腸抽出物における0、60、120、240分後の比活性を表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0046】
本発明は、VIM-2メタロ-β-ラクタマーゼの新規の変異体を提供する。したがって、本発明のポリペプチドの配列は、配列番号1に示されているVIM-2の配列と同一ではなく、配列番号1と比較して少なくとも1つのアミノ酸改変によってVIM-2とは異なる。
【0047】
配列番号1に示される配列は、N末端シグナルペプチド切断を受けた野生型VIM-2のアミノ酸配列である(すなわち、そのシグナルペプチドを持たない野生型VIM-2の配列)。
【0048】
【0049】
したがって、この配列は、そのN末端のバリン残基から始まる。しかし、本発明の特定の実施形態では、この最初のバリン残基はメチオニン残基に置き換えられうる。例えば、発現カセットからN末端シグナルペプチドを使用せずにVIM-2タンパク質又はその変異体が生成される場合、メチオニン残基をコードする開始コドンが、バリン残基をコードするコドンの代わりにVIM-2又はVIM-2変異体をコードする遺伝子に導入されうる。その結果、本発明の特定の実施形態では、本発明のポリペプチドは、VIM置換を含む。
【0050】
本発明のポリペプチドは、配列番号1に示されるアミノ酸配列と少なくとも70%の配列同一性を共有し、前記ポリペプチドは、野生型VIM-2酵素と比較して、次の特性の1つ又は複数を有する。(i)プロテアーゼ(特に消化性プロテアーゼ)に対する耐性の向上、(ii)安定性(特に熱安定性及び/又は腸管培地中での安定性)の向上、(iii)β-ラクタム化合物、特にβ-ラクタム系抗生物質に対する作用スペクトルの向上(すなわち、本発明のポリペプチドは、野生型VIM-2酵素と比較して、より多くの異なるβ-ラクタム化合物(抗生物質等)を不活性化することができ、又はそれは、野生型VIM-2酵素に感受性を有しないβ-ラクタム化合物を不活性化することができる)、(iv)酵素活性の向上(特に抗生物質の不活性化時間の短縮)、(v)生産収率の向上。
【0051】
本発明の変異体ポリペプチドは、位置10、22、34及び130から選択される少なくとも1つの位置に置換を含み、その位置は、配列番号1に示されるアミノ酸の位置に対応している。特定の実施形態では、本発明の変異体ポリペプチドは、位置10に置換を含む。他の特定の実施形態では、本発明の変異体ポリペプチドは位置10並びに位置22、34及び130から選択される少なくとも1つの位置に置換を含む。更なる実施形態では、本発明の変異体ポリペプチドは、位置10、22、34、及び130に改変を含み、その位置は配列番号1のVIM-2β-ラクタマーゼのアミノ酸の位置に対応している。
【0052】
特定の実施形態では、変異体ポリペプチドは、以下の置換:
V10A、及び
Q22H,N、及び
Q34R、及び
E130D
を含む。
【0053】
本発明の文脈では、番号が付けられた位置の後のコマ(coma)は、その位置での代替の改変を示す。例えば、「22H,N」は、配列番号1の位置22にあるアミノ酸をH又はNに置き換えてもよいことを意味する。
【0054】
腸の安定性及びさまざまなβ-ラクタム系抗生物質に対する比活性を向上させるための特定の実施形態では、本発明のポリペプチドは、10A、22N及び34R置換を含む。
【0055】
腸の安定性及びさまざまなβ-ラクタム系抗生物質に対する比活性を向上させるための特定の実施形態では、本発明のポリペプチドは、10A、22H及び34R置換を含む。
【0056】
腸の安定性及びさまざまなβ-ラクタム系抗生物質に対する比活性を向上させるための特定の実施形態では、本発明のポリペプチドは、10A、34R及び130D置換を含む。
【0057】
腸の安定性及びさまざまなβ-ラクタム系抗生物質に対する酵素活性を向上させるための特定の実施形態では、本発明のポリペプチドは、10A、22H、34R及び130D置換を含む。
【0058】
腸の安定性及びさまざまなβ-ラクタム系抗生物質に対する比活性を向上させるための特定の実施形態では、本発明のポリペプチドは、10A、22N、34R及び130D置換を含む。
【0059】
本発明において、アミノ酸は、以下の表に要約されるように、よく知られた3文字コード又は1文字コードのいずれかを使用して表される。
【0060】
【0061】
本発明によれば、β-ラクタマーゼは、β-ラクタマーゼ活性を有するポリペプチド、すなわち、β-ラクタム系抗生物質(例えば、ペニシリン、セファロスポリン、カルバペネム、ペナムスルホン)等の化合物に見られるβ-ラクタム環のアミド結合の不可逆的な加水分解を触媒して、抗菌活性のない加水分解分子を生成する酵素である。
【0062】
本発明の文脈では、VIM-2 β-ラクタマーゼは配列番号1に示される配列を有するポリペプチドである。この酵素は2000年にPoirelらによって記載され(Poirelら、Characterization of VIM-2, a carbapenem-hydrolyzing metallo-beta-lactamase and its plasmid- and integron-borne gene from a Pseudomonas aeruginosa clinical isolate in France; Antimicrob. Agents Chemother、2000、44(4):891~7頁)、更に2003年にDocquierらによって特徴付けられた(Docquierら、On functional and structural heterogeneity of VIM-type metallo-beta-lactamases、J. Antimicrob. Chemother、2003、51:257~266頁)。
【0063】
本発明のVIM-2変異体の活性は、多数のアッセイにより試験されてもよい。例えば、in vitro酵素アッセイが実装されており、野生型VIM-2又はVIM-2変異体を含むタンパク質試料の存在下で、β-ラクタム化合物加水分解の加水分解率が分光光度法で測定される。具体的には、溶液中のβ-ラクタム化合物及び/又はその加水分解産物の濃度は(50μM ZnSO4を添加した50mM HEPES緩衝液、pH7.5のような適切な緩衝液を使用)、UV可視分光光度計又はマイクロウェルプレートリーダーで、基質及び/又は生成物の最大吸光度に対応する波長で追跡できる。β-ラクタマーゼの存在下で、β-ラクタム基質及び/又は生成物の濃度の時間依存変動は、したがって、反応速度に対応する。加水分解の初期速度が測定された場合([S]t≒[S]0)、この反応速度(μΜ/min又はμΜ/sで表される)は、アッセイされた試料の酵素濃度に直接比例する。更に、初期基質濃度に対する初期速度の変動は、Henri-Michaelis-Menten方程式によって特徴付けられ、特定のβ-ラクタム化合物の加水分解のための酵素の速度論的パラメータ(kcat及びKM)を計算できる。したがって、このような酵素アッセイで決定される加水分解の初期速度の測定により、特定の基質に対する優先的な活性又は試料中の相対的な存在量のような、VIM-2変異体を含む試料の特性を特徴付けることができる。
【0064】
特定の実施形態では、本発明のポリペプチドは、単離されてもよい。本発明の文脈では、本明細書で使用される「単離された」という用語は、SDS-PAGEにより測定した場合、少なくとも20%純粋、好ましくは少なくとも40%純粋、より好ましくは少なくとも60%純粋、更により好ましくは少なくとも80%純粋、最も好ましくは少なくとも90%純粋、更に最も好ましくは少なくとも95%純粋であるポリペプチドを表す。特に、ポリペプチドは「基本的に純粋な形態」である、すなわち、ポリペプチド調製物は、それが本来関連しているポリヌクレオチド、多糖及びポリペプチドのような他の生化学的成分を基本的に含まないことが好ましい。これは、例えば、よく知られた組換え法により、及び古典的な精製法によりポリペプチドを調製することにより達成されうる。
【0065】
2つのアミノ酸配列間の関連性は、パラメータ「同一性」で記載される。本発明のために、2つのアミノ酸配列のアラインメントはEMBOSSパッケージ(http://emboss.org)バージョン2.8.0.のNeedleプログラムを使用して決定される。Needleプログラムは、Needleman及びWunsch、1970、J. Mol. Biol.、48:443~453頁に記載されたグローバルアラインメントアルゴリズムを実装する。使用された置換マトリックスはBLOSUM62、ギャップ開始ペナルティは10、ギャップ伸長ペナルティは0.5である。
【0066】
本発明のアミノ酸配列と特許請求の範囲で参照されるアミノ酸配列(配列番号1)との間の同一性の程度は、2つの配列のアラインメントにおける完全一致の数を、「本発明の配列」の長さ又は配列番号1の長さのいずれか短い方の長さで除したものとして計算される。結果はパーセント同一性で表される。
【0067】
「本発明の配列」と配列番号1がアラインメントの同じ位置に同一のアミノ酸残基を有する場合、完全一致が生じる。配列の長さは、配列内のアミノ酸残基の数である(例えば、配列番号1のアミノ酸1~240の長さは240である)。
【0068】
本発明の特定の実施形態では、それらの特定のペプチドの配列番号1に対する同一性の程度は少なくとも70%、75%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、又は少なくとも99%である。また更なる実施形態では、配列番号1に対する同一性の程度は、少なくとも88.7%、89.1%、89.5%、89.8%、90.2%、90.6%、91%、91.4%、91.7%、92.1%、92.5%、92.9%、93.2%、93.6%、94%、94.4%、94.7%、95.1%、95.5%、95.9%、96.2%、96.6%、97%、97.4%、97.7%、98.1%、98.5%、98.9%、99.2%、又は少なくとも99.6%である。
【0069】
もちろん、本発明のVIM-2変異体は、上で具体的に同定されたものとは異なる位置に、配列番号1と比較して多数の改変を更に含んでもよい。更なる改変は、アミノ酸の置換、欠失又は挿入、並びに任意の数のそのような改変の組合せを含んでもよい。特定の実施形態では、本発明のVIM-2変異体のそのような改変には、上で具体的に同定されたものに加えて、タンパク質のアミノ末端又はカルボキシ末端のアミノ酸欠失が含まれる。例示的な非限定的な実施形態では、本発明のポリペプチドは、配列番号1と比較して、タンパク質のカルボキシ末端に位置する1、2、3、4、5、6、又は7個のアミノ酸が削除されうる。好ましい実施形態では、本発明のポリペプチドは、配列番号1の位置237からのカルボキシ末端トランケーションを示す。本発明の文脈では、配列番号1のアミノ酸残基237から240が、本発明の得られるポリペプチドに存在しないことを意味する。別の実施形態では、本発明のポリペプチドは、配列番号1の残基236~240のカルボキシ末端トランケーションを示す。別の実施形態では、本発明のポリペプチドは、配列番号1の残基235~240のC末端トランケーションを示す。別の例示的な非限定的な実施形態では、本発明のポリペプチドは、配列番号1と比較して、すなわち、N末端シグナルペプチド切断を受けた野生型VIM-2の配列(すなわち、そのシグナルペプチドのない野生型VIM-2の配列)と比較して、タンパク質のアミノ末端に位置する1つ又は複数(1、2、3、4、5、6又は7個のアミノ酸が削除されうる。本実施形態の特定の変異体では、配列番号1と比較して、アミノ末端に位置する1つ又は複数のアミノ酸が削除されている(又は別の言い方をすれば、トランケーションを有する)ポリペプチドは、タグ又はシグナルペプチドのような以下に定義する挿入又は伸長を更に含んでもよい。
【0070】
本発明の文脈では、「挿入」という用語は、アミノ末端伸長及び/又はカルボキシ末端伸長もカバーすることを意図している。特定の実施形態では、N末端伸長は、本発明のポリペプチドへのシグナルペプチドの付加を含んでもよい。これには、アミノ酸配列MFKLLSKLLVYLTASIMAIASPLAFS(配列番号2)を有する野生型VIM-2の天然シグナルペプチド、又は野生型VIM-2と比較した場合、置換L9S、L9F、L9W、V10I、L12C、A14V、I16T、M17L、I19M、I19T、F25Cのいずれかを有する改変されたシグナルペプチド、又は上記の置換の任意の組合せ、又は他の適切なシグナルペプチド、又はその両方が含まれる。
【0071】
代表的なN末端又はC末端の伸長には、野生型VIM-2又はその任意の変異体との融合でクローニングされたDNAフラグメントによってコードされる「タグ」ペプチドのような、非天然アミノ酸の付加が含まれる場合があり、これにより、本発明のポリペプチドの同定及び/又は精製が容易になる。そのような適切なタグは、例えば、当技術分野でよく知られているように、ヒスチジンタグ(6×His)又はグルタチオン-S-トランスフェラーゼ又はマルトース結合タンパク質を含んでもよい。
【0072】
本発明に記載のポリペプチドは、同じ抗生物質について配列番号1の野生型VIM-2によって示される比活性と比較して、改善された所与のβ-ラクタム系抗生物質に対する比活性を示しうる。特定の実施形態では、実施例のセクションで公開されているものと同じ手順を使用して決定した場合、単位時間あたり及び本発明のポリペプチドを含むタンパク質試料1mgあたりの加水分解された基質のnmolで表される比活性は、配列番号1の野生型VIM-2の比活性と比較して、少なくとも105%である。更なる実施形態では、本発明のポリペプチドの相対的比活性は、更に配列番号1の野生型VIM-2の比活性と比較して、少なくとも110、115、120、125、130、135、140、145、150、160、170、180、190、200、220、240、260、280、300、350、400、500、600、700、800、又は少なくとも1600%である。
【0073】
更に特定の実施形態では、本発明のポリペプチドは、配列番号3~23のいずれか1つのアミノ酸配列、又はβ-ラクタマーゼ活性を有するそのフラグメント(例えば、配列番号3~23のいずれか1つのポリペプチドと比較して、1、2、3、4、5、6若しくは7、又は7を超えるC末端アミノ酸を欠くフラグメント)、特に上記のようにアミノ酸237~240、236~240又は235~240を欠くフラグメントを含むか、又はそれらからなる。本実施形態の変異体では、シグナルペプチドを含まないポリペプチドが更にアミノ酸置換を含んでもよい。本実施形態の変異体では、ポリペプチドはそのN末端にシグナルペプチド(配列番号2に示されるシグナルペプチド、又は上記で定義されているその任意の変異体等)を更に含む。
【0074】
特定の実施形態では、本発明のポリペプチドは、
(i)配列番号1の残基236~240のC末端トランケーション、及び
(ii)位置10及び22の各々における置換、
位置10及び34の各々における置換、
位置10及び130の各々における置換、
位置10、22、及び34の各々における置換、
位置10、22、及び130の各々における置換、
位置10、34、及び130の各々における置換、又は
位置10、22、34、及び130の各々における置換
を含む。
【0075】
更に特定の実施形態では、本発明のポリペプチドは、配列番号1の残基236~240のC末端トランケーション、並びに位置10、22、34、及び130の各々における置換を含む。
【0076】
特定の実施形態では、本発明のポリペプチドは、残基236~240のC末端トランケーション、並びにV10A、Q22H又はQ22N、Q34R及びE130Dから選択される少なくとも1つの改変を含む。
【0077】
本発明はまた、本発明のVIM-2ポリペプチド変異体をコードする核酸配列を含む核酸分子に関する。
【0078】
「単離された核酸配列」という用語は、他の核酸配列を本質的に含まない、例えば、アガロースゲル電気泳動又は任意の他の適切な方法によって測定した場合、少なくとも約20%純粋、好ましくは少なくとも約40%純粋、より好ましくは少なくとも約60%純粋、更により好ましくは少なくとも約80%純粋、及び最も好ましくは少なくとも約90%純粋である核酸配列を表す。例えば、単離された核酸配列は、核酸配列をその天然の位置からそれが複製される異なる部位に再配置するために遺伝子工学で使用される標準的なクローニング手順によって得ることができる。クローニング手順は、ポリペプチドをコードする核酸配列を含む所望の核酸フラグメントの切除及び単離、フラグメントのベクター分子への挿入、及び核酸配列の複数のコピー又はクローンが複製される宿主細胞への組換えベクターの組み込みを含んでもよい。核酸配列は、ゲノム、cDNA、RNA、半合成、合成由来、又はそれらの組合せであってもよい。
【0079】
本発明の核酸配列は、配列番号1の野生型VIM-2又はその部分配列をコードする鋳型配列に少なくとも1つの突然変異を導入することにより調製することができ、突然変異体核酸配列は変異体VIM-2ポリペプチドをコードする。あるヌクレオチドを別のヌクレオチドと交換するための核酸配列への突然変異の導入は、当技術分野で公知の任意の方法、例えば部位特異的変異誘発、ランダム変異誘発、又はドープ、スパイク、若しくは局在化したランダム変異誘発によって達成されうる。
【0080】
ランダム変異誘発は、問題のアミノ酸配列に翻訳される遺伝子の少なくとも3つの部分、又は遺伝子全体で、局所的又は領域特異的なランダム変異誘発として適切に行われる。オリゴヌクレオチドを使用して変異誘発を行う場合、オリゴヌクレオチドを交換する位置でオリゴヌクレオチドを合成する際に、3つの非親ヌクレオチドでオリゴヌクレオチドがドープ又はスパイクされうる。望ましくないアミノ酸のコドンを避けるためにドーピング又はスパイクを行ってもよい。ドープ又はスパイクされたオリゴヌクレオチドは、例えばPCR、LCR、又は任意のDNAポリメラーゼ及びリガーゼ、又はトポイソメラーゼ等のその他のDNAプロセッシング/修飾酵素を使用して、適切と判断される任意の技術によって、ポリペプチドをコードするDNAに組み込むことができる。
【0081】
好ましくは、ドーピングは、「一定のランダムドーピング」を使用して行われ、ここで、各位置における野生型及び突然変異の割合が事前に定義される。更に、ドーピングは、ある種のヌクレオチドの導入の選好に向けられてもよく、それにより、1つ又は複数の特定のアミノ酸残基の導入の選好に向けられてもよい。ドーピングは、例えば、各位置に90%の野生型と10%の突然変異とを導入できるようにするために行われる。ドーピングスキームの選択における追加の検討は、遺伝的制約並びにタンパク質構造的制約に基づいている。
【0082】
ランダム変異誘発は、問題の親VIM-2配列の一部に有利に局在しうる。このことは、例えば、酵素のある種の領域が酵素の所与の特性にとって特に重要であると特定された場合に有利でありうる。
【0083】
本発明の変異体を提供する別の方法は、例えばWO95/22625又はWO96/00343に記載の遺伝子シャフリングや、EP897985に記載のコンセンサス導出プロセスを含む。
【0084】
本発明は更に、制御配列と適合する条件下で適切な宿主細胞におけるコード配列の発現を指示する(direct)1つ又は複数の制御配列に作動可能に連結された本発明の核酸配列を含む核酸コンストラクトに関する。「発現」という用語は、転写、転写後修飾、翻訳、翻訳後修飾、及び分泌を含むがこれらに限定されない、ポリペプチドの生産に関与する任意のステップを含むことが理解される。
【0085】
本明細書で使用される「核酸コンストラクト」という用語は、一本鎖又は二本鎖の核酸分子を表し、天然に存在する遺伝子から単離されるか、又は本来天然には存在しない方法で核酸のセグメントを含むように修飾される。核酸コンストラクトという用語は、本発明のコード配列の発現に必要な制御配列が核酸コンストラクトに含まれている場合、「発現カセット」という用語と同義である。特定の実施形態では、核酸コンストラクト又は発現カセットはプラスミド(発現プラスミド等)内に含まれる。
【0086】
「制御配列」という用語は、本明細書において、本発明のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの発現に必要又は有利であるすべての構成要素を含むと定義される。それぞれの制御配列は、ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列にとって天然又は外来であってもよい。そのような制御配列は、これらに限定されないが、リーダー、オペレーター、プロペプチド配列、プロモーター、転写開始配列、翻訳開始配列、シグナルペプチド配列、翻訳終止配列、ポリアデニル化配列、及び転写ターミネーターが挙げられる。少なくとも、制御配列にはプロモーター、転写終止シグナル、並びに翻訳開始シグナル及び翻訳終止シグナルが含まれる。制御配列は、ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列のコード領域との制御配列のライゲーションを容易にする特定の制限部位を導入する目的でリンカーとともに提供されてもよい。
【0087】
「作動可能に連結された」という用語は、本明細書において、制御配列がポリペプチドのコード配列の発現を指示するように、制御配列がポリヌクレオチド配列のコード配列に対して適切な位置に配置される構造を示す。
【0088】
本明細書で使用される場合、「コード配列(CDS)」という用語は、そのタンパク質産物のアミノ酸配列を直接指定するヌクレオチド配列を意味する。コード配列の境界は一般に、オープンリーディングフレームによって決定され、通常はATG開始コドン又はGTGやTTG等の代替開始コドンで始まり、通常はTAA、TGA又はTAG等の終止コドンで終結する。コード配列は、DNA、cDNAで構成される場合があり、天然、半合成、又は合成であってもよく、非天然又は修飾ヌクレオチドを含んでもよい。
【0089】
「発現」という用語は、転写、転写後修飾、翻訳、翻訳後修飾、及び分泌を含むがこれらに限定されない、ポリペプチドの生産に関与する任意のステップを含む。
【0090】
「発現ベクター」という用語は、本明細書では、本発明のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含み、その発現を提供する追加のヌクレオチドに作動可能に連結されている線状又は環状DNA分子として定義される。
【0091】
本発明のポリペプチドをコードする核酸配列は、一般的にプロモーター、オペレーター、リボソーム結合部位、翻訳開始シグナル、及び任意選択的にリプレッサー遺伝子又はさまざまなアクチベーター遺伝子をコードする制御配列を含む発現ベクターを使用して発現できる。
【0092】
本発明に記載のポリペプチドをコードするDNA配列を有する組換え発現ベクターは、組換えDNA手法に都合よく供されうる任意のベクターであってもよく、ベクターの選択は、それが導入される宿主細胞に依存することが多い。ベクターは、宿主細胞に導入されると、宿主細胞ゲノムに組み込まれ、それが組み込まれた染色体と一緒に複製されるものであってもよい。また、プラスミドのような自律複製する染色体外DNA分子として細胞内に留まることもある。
【0093】
本発明は更に、本発明の核酸配列又は核酸コンストラクトを含む宿主細胞に関する。本明細書で使用される「宿主細胞」は、本発明のポリヌクレオチドを含む核酸コンストラクトによる形質転換、トランスフェクション、形質導入、感染等を受けやすい、原核生物又は真核生物の任意の細胞型を含む。
【0094】
本発明はまた、本発明のポリヌクレオチドを含み、ポリペプチドの組換え生産において有利に使用される、組換え宿主細胞に関する。本発明のポリヌクレオチドを含むベクターは、宿主細胞に導入され、したがって、ベクターが染色体組み込み体として、又は自己複製する染色体外ベクターとして維持される。「宿主細胞」という用語は、複製中に生じる突然変異のために親細胞と同一ではない親細胞の任意の子孫を包含する。宿主細胞の選択は、ポリペプチドをコードする遺伝子及びその供給源に大きく依存する。
【0095】
宿主細胞は、単細胞生物又は多細胞生物で構成されるか、又はそれらに由来し、原核生物又は真核生物であってもよい。
【0096】
有用な単細胞微生物の中には、バチルス属(Bacillus)細胞、例えばバチルス・アルカロフィルス(Bacillus alkalophilus)、バチルス・アミロリケファシエンス(Bacillus amyloliquefaciens)、バチルス・ブレビス(Bacillus brevis)、バチルス・サークランス(Bacillus circulans)、バチルス・クラウジイ(Bacillus clausii)、バチルス・コアグランス(Bacillus coagulans)、バチルス・ロータス(Bacillus lautus)、バチルス・レンタス(Bacillus lentus)、バチルス・リケニフォルミス(Bacillus licheniformis)、バチルス・メガテリウム(Bacillus megaterium)、バチルス・ステアロサーモフィルス(Bacillus stearothermophilus)、枯草菌(Bacillus subtilis)、及びバチルス・チューリンゲンシス(Bacillus thuringiensis)、ストレプトマイセス(Streptomyces)細胞、例えばストレプトマイセス・リビダンス(Streptomyces lividans)及びストレプトマイセス・ムリヌス(Streptomyces murinus)を含むがこれに限定されないグラム陽性細菌、又は大腸菌(Escherichia coli)及びシュードモナス属(Pseudomonas spp)等のグラム陰性細菌のような細菌細胞がある。
【0097】
細菌宿主細胞へのベクターの導入は、例えば、プロトプラスト形質転換(例えば、Chang及びCohen、1979、Molecular General Genetics、168:111~115頁を参照のこと)によって、コンピテント細胞を用いた(例えば、Young及びSpizizin、1961、Journal of Bacteriology、81:823~829頁、又はDubnau及びDavidoff-Abelson、1971、Journal of Molecular Biology、56:209~221頁を参照のこと)、化学的形質転換若しくはエレクトロポレーション(例えば、Shigekawa及びDower、1988、Biotechniques、6:742~751頁を参照のこと)、又はコンジュゲーション(例えば、Koehler及びThorne、1987、Journal of Bacteriology、169:5771~5278頁を参照のこと)を含むがこれらに限定されない任意の方法を用いたDNA形質転換によって行われてもよい。
【0098】
宿主細胞はまた、動物、特に哺乳動物、昆虫、植物、又はそれらに由来する細胞株のような真核生物、又は単細胞の真核生物又は真菌細胞に由来するものであってもよい。また、組換えタンパク質は、動物、特に哺乳動物や植物等の多細胞生物で生産されてもよい。
【0099】
特定の実施形態では、宿主細胞は真菌細胞であってもよい。特定の実施形態では、真菌宿主細胞はサッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)又はピキア・パストリス(Pichia pastoris)である。特定の実施形態では、宿主細胞はチャイニーズハムスター卵巣細胞由来の細胞株である。
【0100】
真菌細胞は、プロトプラストの形成、プロトプラストの形質転換、及び細胞壁の再生を含むプロセスによって、それ自体既知の方法で形質転換されてもよい。酵母は、Becker及びGuarente、Abelson, J. N.及びSimon, M. I.ら編、Guide to Yeast Genetics and Molecular Biology、Methods in Enzymology、194:182~187頁、Academic Press, Inc.出版、New York、Itoら、1983、Journal of Bacteriology、153:163頁、及びHinnenら、1978、Proceedings of the National Academy of Sciences USA、75:1920頁に記載されている手順を用いて形質転換されうる。また、真菌細胞は、エレクトロポレーション、又はDNA分子を細胞内に導入するための任意の他の好適な方法により形質転換されてもよい。
【0101】
本発明はまた、(a)ポリペプチドの生産に資する条件で宿主細胞を培養すること、及び(b)ポリペプチドを回収することを含む本発明のポリペプチドの生産方法に関する。
【0102】
本発明の生産方法では、当技術分野でよく知られた方法を用いて、ポリペプチドの生産に適した栄養培地中で細胞を培養する。例えば、細胞は、振盪フラスコ培養によって培養されてもよく、また、適当な培地中及びポリペプチドの発現及び/又は単離を可能にする条件下で行われる実験室又は工業用発酵槽中での小規模又は大規模な発酵(連続発酵、バッチ発酵、フェッドバッチ発酵、又は固体状態発酵を含む)によって培養されてもよい。培養は、炭素源及び窒素源並びに無機塩を含む適当な栄養培地で、当技術分野で知られた手順を用いて行われる。適した培地は、商業的な製造業者から入手可能であるか、又は公開されている組成物(例えば、American Type Culture Collectionのカタログ)に従って調製されうる。ある場合には、宿主細胞の増殖及びポリペプチドの生産のための条件は異なる。第1の局面では、宿主細胞を適切な条件で増殖させ、第2の局面では、ポリペプチドの最適な生産を可能にするように条件を変更してもよい。ポリペプチドが栄養培地に分泌された場合、ポリペプチドは培地から直接回収できる。ポリペプチドが分泌されない場合は、細胞溶解物から回収できる。
【0103】
得られたポリペプチドは、当技術分野で既知の方法を用いて回収されうる。例えば、ポリペプチドは、遠心分離、濾過、抽出、吸着、噴霧乾燥、蒸発、又は沈殿を含むがこれらに限定されない従来の手法により、栄養培地から回収されうる。
【0104】
本発明のポリペプチドは、クロマトグラフィ(例えば、イオン交換、親和性、疎水性、クロマトフォーカシング、及びサイズ排除)、電気泳動手法(例えば、分取等電点電気泳動、分取ゲル電気泳動)、溶解度の差(例えば、硫酸アンモニウム沈殿)又は抽出(例えば、Protein Purification、J.-C. Janson及びLars Rydenら編、VCH Publishers、New York、1989を参照)、又はそれらの組合せを含むがこれらに限定されない、当技術分野で既知のさまざまな手法によって精製されうる。
【0105】
本発明は更に、本発明のポリペプチドを含む組成物に関する。適切な組成物は、許容される担体と組み合わせて、上記で定義されたポリペプチドを含む。組成物は、当技術分野でよく知られている方法に従って調製されてもよく、液体又は乾燥組成物の形態である。組成物は、グリセロール等の本発明に記載のポリペプチドを安定化する成分を更に含んでもよい。
【0106】
特定の実施形態では、組成物は、薬学的に許容される担体からなる医薬組成物である。組成物は、経口投与可能であり、それを必要とする対象の胃腸の所望の部分でポリペプチドを放出することができる組成物の形態であってもよい。好ましくは、所望の部分は、胃、十二指腸、空腸、回腸、盲腸又は結腸である。好ましい実施形態では、腸の所望の部分は、空腸、回腸、盲腸又は結腸であり、より好ましくは回腸、盲腸又は結腸である。後者の場合、組成物は、本発明のポリペプチドを胃液から保護する1つ又は複数の胃耐性化合物を含んでもよい。そのような組成物は、特にWO93/13795、WO2004/016248又はUS20050249716に記載の薬物送達システムを含んでもよい。
【0107】
本発明は更に、本発明のポリペプチドを生産する、上記のような宿主細胞又は生物であって、腸の所望の部分に導入することができ、かつ、前記ポリペプチドを必要とする対象の腸の所望の部分に放出することができる宿主細胞又は生物に関する。好ましい実施形態では、腸の所望の部分は、回腸、盲腸又は結腸であり、より好ましくは、盲腸又は結腸である。したがって、本発明はまた、本明細書に開示されているような治療方法において使用するための、上記で定義されているような宿主細胞又は生物に関するものであって、ここで、前記宿主細胞は、それを必要とする対象に投与される。
【0108】
上記のように、本発明のVIM-2ポリペプチド変異体は、多くの治療用途及び非治療用途において有用である。
【0109】
本発明は、本発明のポリペプチドを実施する治療方法を開示しており、ここで、それを必要とする対象でβ-ラクタム系抗生物質のようなβ-ラクタム化合物を不活化するための方法において、前記ポリペプチド又はそれを含む組成物若しくはキットオブパーツを抗生物質と組み合わせて使用するか、又は前記ポリペプチドを発現する宿主細胞若しくは生物を使用する。本発明の方法は、腸内毒素症、耐性菌の選抜、通常の消化過程の破壊、クロストリジウム・ディフィシルのような日和見腸管病原体によるコロニー形成、抗生物質関連の下痢、又は免疫の変化、代謝障害、若しくはアレルギーのような腸内毒素症に関連するその他の疾患等の抗生物質の副作用を治療又は予防するために実施される。
【0110】
本発明はまた、β-ラクタム系抗生物質に感受性を有する細菌により引き起こされる細菌感染の治療方法における、本発明のポリペプチド、組成物、宿主細胞若しくは生物、又はキットオブパーツの使用に関する。特に、細菌感染は、本発明のポリペプチドと、前記ポリペプチドに感受性を有するβ-ラクタム系抗生物質との組合せを使用することにより治療され、それにより、β-ラクタム系抗生物質のおかげで感染が治療され、一方、活性抗生物質の望ましくない残存量は、本発明のポリペプチドのおかげで除去される。この特定の実施形態では、ポリペプチドは、好ましくは、そのような細菌感染治療を必要とする対象の腸の所望の部分でポリペプチドを放出することができる組成物に製剤化され、腸の所望の部分は、好ましくは空腸、回腸、盲腸、又は結腸であり、最も好ましくは回腸、盲腸又は結腸である。また、ポリペプチドは、前記ポリペプチドを生産する宿主細胞又は生物によって腸の所望の部分に放出されてもよく、ここで、腸の所望の部分は回腸、盲腸又は結腸であり、好ましくは盲腸又は結腸である。特定の態様では、本発明のポリペプチド、組成物、宿主細胞若しくは生物、又はキットオブパーツは、動物、哺乳動物又はヒトであってもよい対象における細菌感染の治療に使用され、それにより、前記ポリペプチド又はその組成物の投与の前、後、又は同時に、前記ポリペプチドに感受性を有する抗生物質が対象に投与される。
【0111】
本発明のポリペプチドの他の用途には、環境中又は環境設定中の抗生物質のレメディエーションのためのポリペプチドの使用のような非治療用途が含まれる。そのような用途及び方法は、例えば、環境中の抗生物質のレメディエーションのためのラッカーゼ、セルラーゼ及びリパーゼの使用について記載した、WO2012/0007536に見られ、本明細書では、本発明のポリペプチドを用いて環境中からβ-ラクタム系抗生物質を除去するために準用されている。
【実施例】
【0112】
(実施例1)
VIM-2変異体の生産及び精製
VIM-2変異体は、T7プロモーターベースの発現系(pET-9発現プラスミドを使用)のいずれかを使用して、大腸菌において生産された。簡潔に言えば、NdeI及びBamHI制限部位を用いて突然変異体blaVIM-2遺伝子をプラスミドベクターpET-9にクローニングし、得られたプラスミドを大腸菌BL21(DE3)細胞に導入した。得られた宿主細胞を、ZnSO4を添加した富栄養自動誘導細胞培養培地ZYP-5052(Studier, F. W.、2005、Protein production by auto-induction in high density shaking cultures.、Protein Expr. Purif.、41:207~234頁)中で24時間増殖させた。細菌細胞と培養上清とを遠心分離により分離した。次いで、清澄化した培養上清を物理的方法(例えば限外濾過)又は化学的方法(沈殿)を用いて濃縮した。或いは、細胞溶解を誘導するために物理的(超音波処理、フレンチプレス)又は化学的(リゾチーム、洗浄剤)薬剤で処理する前に、100~200mlの20mMトリス(pH8.0)中に再懸濁させた細菌細胞からタンパク質を抽出できる。遠心分離により細胞抽出物を清澄化した。得られた清澄化試料を陰イオン交換クロマトグラフィーカラムに装填した。タンパク質を、20mMトリス緩衝液(pH8.0)中のNaClの直線勾配を用いて溶出し、活性画分をプールし、濃縮した。次いで、タンパク質試料を第2の陰イオン交換カラムに装填し、20mMトリエタノールアミン(pH7.2)中のNaClの直線勾配を用いて溶出した。得られた試料をゲル濾過カラムに装填し、50μΜ ZnSO4及び150mM NaClを添加した50mM HEPES(pH7.5)でタンパク質を溶出した。次いで、精製されたタンパク質を濃縮して保存した。
【0113】
特に、この生産プロトコールを用いて、以下の変異体VIM-2酵素、VIM-2[,Q22H,Q34R,E130D]、VIM-2[,Q22H,Q34R,E130D]DCT236及びVIM-2[V10A,Q22H,Q34R,E130D]DCT236の生産に成功した。同様の方法により生産され得る別の変異体は、VIM-2[V10A,Q22H,Q34R,E130D]である。
【0114】
(実施例2)
VIM-2変異体の腸管培地中での安定性の向上の決定
VIM-2変異体の安定性を測定するために、以下の手法を適用した:精製されたタンパク質試料のイミペネム加水分解活性を、ヒト回腸抽出物中でインキュベーション後に決定した。変異体に対する比活性(Sp.Act.)を、インキュベーション中の異なる時点(0、60、120及び240分)で測定した。腸管抽出物中の変異体の活性低下を評価するために、時刻tにおける比活性を、時刻t=0における比活性と比較した。経時変化は、開始時の活性(t=0の時)と後に測定された活性との比で表された((Sp.Act.変異体)t/(Sp.Act.変異体)t=0。1未満の値は、腸管抽出物中でインキュベートした場合の活性低下を示す。異なる時点での残存活性を比較し、野生型酵素と比較したいくつかの変異体の腸管抽出物でのより大きな安定性を評価する。
【0115】
回腸抽出物中でインキュベートしたときの、野生型VIM-2酵素、VIM-2変異体VIM-2
[Q22H,Q34R,E130D]DCT236及びVIM-2変異体VIM-2
[V10A,Q22H,Q34R,E130D]DCT236の経時的な比活性を
図1に示す。
【0116】
また、経時的な活性低下について、以下の表にまとめる。
【0117】
【0118】
表又は
図1に示すように、野生型酵素は、回腸抽出物中で240分のインキュベーション後、94.4%の活性を失った。VIM-2
[Q22H,Q34R,E130D]DCT236及びVIM-2
[V10A,Q22H,Q34R,E130D]DCT236変異体は、同じ条件でそれぞれ72.5%及び51.2%の活性を失っただけであった。
【0119】
置換Q22H、Q34R、E130Dの組合せは、工業的な観点から劇的に改善された特性を持つ変異体をもたらす。置換V10Aを付加することで、ヒト回腸抽出物中の酵素の安定性が更に向上する。
【0120】
(実施例3)
さまざまなβ-ラクタムに対する所与のVIM-2変異体の特異的な酵素活性及び触媒活性の決定
実施例1で述べたように生産した変異体酵素については、β-ラクタム系抗生物質のような特定のβ-ラクタム化合物に対する比活性や触媒特性を測定することが可能である。
【0121】
イミペネムを基質として考慮した場合、変異体VIM-2[V10A,Q22H,Q34R,E130D]DCT236は、緩衝液中で改善された触媒特性を示す。
【0122】
【0123】
上記の結果は、VIM-2[V10A,Q22H,Q34R,E130D]DCT236がカルバペネム系抗生物質に対して強く改善された活性を示したことを示し、これは予想外であり、工業的に強い関心事である。
【0124】
(実施例4)
腸管培地で4時間のインキュベーション後のさまざまなβ-ラクタムに対する所与のVIM-2変異体の酵素活性の決定
酵素活性の評価は、以下に記載するように行った。ヒト回腸抽出物中でVIM-2変異体を4時間のインキュベーション後、β-ラクタムの加水分解を適当な波長で分光光度法でモニターした。酵素活性は、加水分解されたβ-ラクタム基質のnmolを分単位で、試料中の総タンパク質1mgあたりで表してもよい。
【0125】
以下では、すべての酵素活性を、同一条件で測定した野生型酵素の酵素活性に対して相対的に表す。
【0126】
VIM-2[Q22H,Q34R,E130D]DCT236及びVIM-2[V10A,Q22H,Q34R,E130D]DCT236変異体について、測定した酵素活性は次のとおりである。
【0127】
【0128】
【0129】
【0130】
【0131】
以上の結果から、目的のいくつかのβ-ラクタムに対する活性が野生型に比べて非常に改善されたVIM-2[Q22H,Q34R,E130D]DCT236変異体と比較して、VIM-2[V10A,Q22H,Q34R,E130D]DCT236は、ヒト腸管培地で4時間インキュベーション後、同じβ-ラクタムに対して強く改善された活性を示したことが示された。
【0132】
したがって、置換V10A、Q22H、Q34R、E130Dの組合せは、工業的な観点から劇的に改善された特性を持つ変異体をもたらす。
【配列表】