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特許7223110ニコチンアミドリボシド、ニコチン酸リボシド、ニコチンアミドモノヌクレオチド、およびニコチノイル化合物誘導体の、乳児用粉ミルクへの使用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-07
(45)【発行日】2023-02-15
(54)【発明の名称】ニコチンアミドリボシド、ニコチン酸リボシド、ニコチンアミドモノヌクレオチド、およびニコチノイル化合物誘導体の、乳児用粉ミルクへの使用
(51)【国際特許分類】
   A23L 33/13 20160101AFI20230208BHJP
   A23C 9/152 20060101ALI20230208BHJP
   A23C 9/158 20060101ALI20230208BHJP
   A23K 20/132 20160101ALI20230208BHJP
   A23K 20/153 20160101ALI20230208BHJP
   A23K 20/174 20160101ALI20230208BHJP
   A23L 33/15 20160101ALI20230208BHJP
   A23L 33/19 20160101ALI20230208BHJP
   A61K 9/14 20060101ALI20230208BHJP
   A61K 31/4415 20060101ALI20230208BHJP
   A61K 31/455 20060101ALI20230208BHJP
   A61K 31/51 20060101ALI20230208BHJP
   A61K 31/525 20060101ALI20230208BHJP
   A61K 31/706 20060101ALI20230208BHJP
   A61K 35/20 20060101ALI20230208BHJP
   A61K 38/17 20060101ALI20230208BHJP
   A61P 1/00 20060101ALI20230208BHJP
   A61P 1/04 20060101ALI20230208BHJP
【FI】
A23L33/13
A23C9/152
A23C9/158
A23K20/132
A23K20/153
A23K20/174
A23L33/15
A23L33/19
A61K9/14
A61K31/4415
A61K31/455
A61K31/51
A61K31/525
A61K31/706
A61K35/20
A61K38/17
A61P1/00
A61P1/04
【請求項の数】 3
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2021211442
(22)【出願日】2021-12-24
(62)【分割の表示】P 2018553184の分割
【原出願日】2017-04-14
(65)【公開番号】P2022061981
(43)【公開日】2022-04-19
【審査請求日】2022-01-24
(31)【優先権主張番号】62/322,460
(32)【優先日】2016-04-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】514064763
【氏名又は名称】クロマデックス,インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】ChromaDex,Inc.
(74)【代理人】
【識別番号】110001302
【氏名又は名称】特許業務法人北青山インターナショナル
(72)【発明者】
【氏名】デリンジャー,ライアン
(72)【発明者】
【氏名】ローンマス,トロイ
(72)【発明者】
【氏名】モリス,マーク
(72)【発明者】
【氏名】コンツェ,ディートリッヒ
(72)【発明者】
【氏名】ボワロー,エミー
【審査官】安孫子 由美
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2010/0104727(US,A1)
【文献】特表2015-519388(JP,A)
【文献】ChromaDex Introduces NIAGEN - The First and Only Commercially Available Nicotinamide Riboside,Nutrition insight [online],2013年06月03日,<URL:https://www.nutritioninsight.com/news/chromadex-introduces-niagen -the-first-and-only-commercially-available-nicotinamide-riboside.html>, [検索日:2020年9月8日]
【文献】Frontiers in Microbiology,2016年02月17日,7,185
【文献】Generation, Release, and Uptake of the NAD Precursor Nicotinic Acid Riboside by Human Cells,Journal of Biological Chemistry,2015年,290(45),27124-27137
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23C
A23L
A61K
A23K
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
高レベルの少なくとも1つのニコチニルリボシド化合物を哺乳類に送達し、乳児用粉ミルク組成物の1週間の投与後に、糞便の短鎖脂肪酸レベルを統計的に有意に増大させるための乳児用粉ミルク組成物であって、前記組成物が:
(i)ニコチンアミドリボシド(NR、I)、ニコチン酸リボシド(NAR、II)、還元ニコチンアミドリボシド(NRH、IV)、還元ニコチン酸リボシド(NARH、V)、ニコチンアミドリボシドトリアセテート(NRTA、VI)、ニコチン酸リボシドトリアセテート(NARTA、VII)、還元ニコチンアミドリボシドトリアセテート(NRH-TA、VIII)、および還元ニコチン酸リボシドトリアセテート(NARH-TA、IX)からなる群から選択される少なくとも1つのニコチニルリボシド化合物であって、前記少なくとも1つのニコチニルリボシド化合物の量は、前記乳児用粉ミルク組成物の100キロカロリー当たり約1μgから約10,000μgである少なくとも1つのニコチニルリボシド化合物;および
(ii)不活性希釈剤、同化可能な食用のキャリア、または賦形剤
を含むことを特徴とする乳児用粉ミルク組成物。
【請求項2】
請求項1に記載の乳児用粉ミルク組成物において、前記乳児用粉ミルク組成物は、ビタミンB1(チアミン、XI)、ビタミンB2(リボフラビン、XII)、ビタミンB3(ナイアシン、X)、およびビタミンB6(ピリドキシン、XIII)からなる群から選択される少なくとも1つのビタミンをさらに含むことを特徴とする乳児用粉ミルク組成物。
【請求項3】
請求項1に記載の乳児用粉ミルク組成物において、前記乳児用粉ミルク組成物は、ホエーおよびカゼインからなる群から選択される少なくとも1つのタンパク質をさらに含むことを特徴とする乳児用粉ミルク組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
特定の実施形態において、本発明は、ニコチンアミドリボシド(「NR」)、ニコチン酸リボシド(「NAR」)、およびニコチンアミドモノヌクレオチド(「NMN」)、それらの誘導体、またはそれらの塩から選択される少なくとも1つの化合物を、前記化合物が必要な乳児ヒト対象に送達する方法に関する。更なる実施形態において、本発明は、NR、NAR、およびNMN、それらの誘導体、またはそれらの塩から選択される少なくとも1つの化合物を単独で、またはチアミン(ビタミンB1)、リボフラビン(ビタミンB2)、ナイアシン(ビタミンB3)、およびピリドキシン(ビタミンB6)の少なくとも1つと組み合わせて、前記化合物が必要な乳児ヒト対象に送達する方法に関する。更なる実施形態において、本発明は、乳児ヒト対象における、ビタミンB3欠乏が関与する病因に関連した、もしくは当該病因を有する、かつ/またはミトコンドリア活性の増大から利益を得ることとなる症候、疾患、障害、または症状を処置かつ/または予防する方法に関する。更なる実施形態において、本発明は、乳児ヒト対象に、NR、NAR、およびNMN、それらの誘導体、またはそれらの塩から選択される少なくとも1つの化合物を単独で、またはチアミン(ビタミンB1)、リボフラビン(ビタミンB2)、ナイアシン(ビタミンB3)、およびピリドキシン(ビタミンB6)の少なくとも1つと組み合わせて投与することによって、乳児ヒト対象の腸内細菌の有益な種の増殖を促進する方法に関する。更なる実施形態において、本発明は、乳児ヒト対象に、NR、NAR、およびNMN、それらの誘導体、またはそれらの塩から選択される少なくとも1つの化合物を単独で、またはチアミン(ビタミンB1)、リボフラビン(ビタミンB2)、ナイアシン(ビタミンB3)、およびピリドキシン(ビタミンB6)の少なくとも1つと組み合わせて投与することによって、乳児ヒト対象の腸の健康を促進する方法に関する。更なる実施形態において、本発明は、乳児ヒト対象に、NR、NAR、およびNMN、それらの誘導体、またはそれらの塩から選択される少なくとも1つの化合物を単独で、またはチアミン(ビタミンB1)、リボフラビン(ビタミンB2)、ナイアシン(ビタミンB3)、およびピリドキシン(ビタミンB6)の少なくとも1つと組み合わせて投与することによって、乳児ヒト対象における消化管炎症を和らげる方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ビタミンB3、ならびに他のB-ビタミン、例えばチアミン(ビタミンB1)、リボフラビン(ビタミンB2)、およびピリドキシン(ビタミンB6)は、補酵素の形態で食品から抽出される。消化中に、補酵素は、自由循環ビタミンに異化されて、これがその後、膜を越えて受動的に、または能動的に輸送されて、細胞内でそれぞれの補因子へと再利用(salvage)される。哺乳類は、ビタミンB1の食物ソースに完全に依存しており、そしてビタミンB2、B3、およびB6の食物供給に非常に頼っている。注目すべきは、ビタミンB1およびビタミンB3の急性欠乏が、同じ臓器に影響を与え、未処置のままにされれば、同じ結果:痴呆および死に至る。
【0003】
正常かつ健康な成長中に、乳児が適切な必須栄養素を受け入れることが重要である。母体食じが十分であり、かつヒト母乳が十分に供給される限り、ヒト母乳が、当該必須栄養素の送達に最も適している。したがって、ヒト母乳の組成についての知識が、健康な幼い乳児の栄養摂取と組み合わされて、ヒト乳幼児の栄養要件の理解に必須である。当該知識はまた、ヒト母乳が乳児に与えられない場合に、ヒト母乳が乳児に与えられない理由に拘らず、適切な代用品(すなわち、乳児用粉ミルク)を生成するのにも重要である。
【0004】
水溶性ビタミンは、ヒト乳の不可欠な成分である。しかしながら、ヒト乳のビタミン含有量は、多数の要因によって影響され得、その代表が、母親の栄養状態である。一般に、母体ビタミン摂取量が低いと、母乳中の低ビタミン含有量に相当する。M.F.Picciano,Human Milk:Nutritional Aspects of a Dynamic Food,74 NEONATOLOGY 84(1998)参照。ゆえに、当該女性および乳児は、ビタミンおよび/または乳児用粉ミルクが補給される候補であろう。ビタミンB3は、ヒト母乳中で自然に見出される必須の水溶性ビタミンの一つである。Picciano,1998参照。ビタミンB3は、必須アミノ酸トリプトファンと共に、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(「NAD」)前駆体として、生物学において必須の役割を果たす。
【0005】
食物のビタミンB3(ニコチンアミド(「Nam」または「NM」)、ニコチン酸(「NA」)、およびニコチンアミドリボシド(「NR」)を包含する)は、補酵素ニコチンアミドアデニンヌクレオチド(NAD)、そのリン酸化された親(「NADP」または「NAD(P)」)、およびそれらの還元された各形態(それぞれNADHおよびNADPH)の前駆体である。
【0006】
真核細胞は、キヌレニン経路を介してトリプトファンからNADをde novo合成することができる。W.A.Krehl et al.,Growth-retarding Effect of Corn in Nicotinic Acid-Low Rations and its Counteraction by Tryptophane,101 SCIENCE 489(1945);Gunther Schutz & Philip Feigelson,Purification and Properties of Rat Liver Tryptophan Oxygenase,247 J.BIOL.CHEM.5327(1972)(これらの文献はそれぞれ、その全体が参照によって本明細書に組み込まれる)参照。キヌレニン経路は、トリプトファンを起源とするde novo経路である。トリプトファン2,3-ジオキシゲナーゼ(「TDO」)、インドールアミン2,3-ジオキシゲナーゼ(「IDO」)、キヌレニンホルムアミダーゼ(「KFase」)、キヌレニン3-ヒドロキシラーゼ(「K3H」)、キヌレニナーゼ、および3-ヒドロキシアントラニル酸3,4-ジオキシゲナーゼ(「3HAO」)のシーケンシャルな酵素作用により、トリプトファン(「Trp」)がキノリン酸(「QA」)に変換される。Javed A.Khan et al.,Nicotinamide adenine dinucleotide metabolism as an attractive target for drug discovery,11 EXPERT OPIN.THER.TARGETS 695(2007)(その全体が参照によって本明細書に組み込まれる)参照。キノリン酸(QA)は、キノリン酸ホスホリボシルトランスフェラーゼ(「QAPRTase」)の作用により、ニコチン酸モノヌクレオチド(「NaMN」)に変換される。Khan et al.,2007参照。
【0007】
キノリン酸(QA)からニコチン酸モノヌクレオチド(NaMN)を生成するde novoキヌレニナーゼ経路は、確立されているPreiss-Handler経路に絡み、そこではニコチン酸モノヌクレオチド(NaMN)が中間体である。Preiss-Handler経路は、酵素ニコチン酸ホスホリボシルトランスフェラーゼ(「NAPRT」または「NAPRTase」)によって触媒される、ニコチン酸(NA)の、ニコチン酸モノヌクレオチド(NaMN)への変換から始まる再利用経路である。ニコチン酸モノヌクレオチド(NaMN)はその後、酵素ニコチン酸/ニコチンアミドモノヌクレオチドアデニリルトランスフェラーゼ(「NMNAT」)によって触媒されて、アデニリル化されてニコチン酸アデニンジヌクレオチド(「NaAD」)を形成する。ニコチン酸アデニンジヌクレオチド(NaAD)は次に、酵素ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドシンセターゼ(「NADS」)によって触媒されて、アミド化されてニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD)を形成する。NADの分解生成物であるニコチンアミド(NamまたはNM)は、酵素ニコチンアミドデアミダーゼ(「NMデアミダーゼ」)によって触媒されて、ニコチン酸(NA)に変換され得る。Jack Preiss & Philip Handler,Biosynthesis of Diphosphopyridine Nucleotide,233 J.BIOL.CHEM.493(1958)(その全体が参照によって本明細書に組み込まれる)参照。Khan et al.,2007も参照。
【0008】
別の再利用経路が、補酵素ニコチンアミドホスホリボシルトランスフェラーゼ(「NMPRT」または「NMPRTアーゼ」)の作用によって、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD)の分解生成物、ニコチンアミド(NamまたはNM)を、ニコチンアミドモノヌクレオチド(「NMN」)に変換することができる。次に、ニコチンアミドモノヌクレオチド(NMN)は、ニコチン酸/ニコチンアミドモノヌクレオチドアデニリルトランスフェラーゼ(NMNAT)によって、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD)に直接変換され得る。これ以外にも、ニコチンアミド(NamまたはNM)が脱アミドされてニコチン酸(NA)を形成することができ、これがその後、Preiss-Handler経路に入り得る。ゲノム配列の分析により、先の2つの再利用経路が、多くの場合、相互に排他的であることが示唆される;多くの生物が、NMデアミダーゼまたはNMPRTアーゼの何れか一方を含有する。Khan et al.,2007参照。
【0009】
ニコチンアミドリボシド(NR)もまた、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD)生合成のための前駆体として用いられ得、そしてニコチンアミドリボシドキナーゼ(「NRK」)が、ニコチンアミドリボシド(NR)のリン酸化を触媒して、ニコチンアミドモノヌクレオチド(NMN)を生成する。Khan et al.,2007参照。
【0010】
特に、ニコチンアミドリボシド(NR)は、Preiss-Handler再利用経路を介する、または中間体としてのニコチン酸モノヌクレオチド(NaMN)もしくはニコチン酸アデニンジヌクレオチド(NaAD)への変換を介する、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD)の前駆体と考えられていない。その代わりとして、ニコチン酸リボシド(NAR)の生合成経路は、ニコチン酸モノヌクレオチド(NaMN)に、その後ニコチン酸アデニンジヌクレオチド(NaAD)に直接に進んで、最終的にNADを形成することが知られている。
【0011】
ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD)は、酵素補因子であり、そして酸化還元反応および細胞エネルギー代謝に関するいくつかの酵素の機能に必須の中心的な酸化還元補酵素である。Peter Belenky et al., NAD metabolism in health and disease,32 TRENDS IN BIOCHEMICAL SCIS.12(2007);Katrina L.Bogan & Charles Brenner,Nicotinic Acid,Nicotinamide,and Nicotinamide Riboside:A Molecular Evaluation of NAD Precursor Vitamins in Human Nutrition,28 ANNUAL REV.OF NUTRITION 115(2008)(これらの文献はそれぞれ、その全体が参照によって本明細書に組み込まれる)参照。ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD)は、細胞代謝において、電子伝達体または水素化基受容体(hydride group acceptor)として機能して、還元ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NADH)を形成し、炭水化物、アミノ酸、および脂肪に由来する代謝物質の酸化が付随する。Bogan & Brenner,2008参照。NAD/NADH比は、そのような反応が酸化方向対還元方向に進む程度を制御する。燃料酸化反応がNADを水素化受容体として必要とするのに対して、糖新生、酸化的リン酸化、ケトン体生成、反応性酸素種の無毒化、および脂質生成のプロセスは、水素化ドナーとして作用する還元補因子NADHおよびNADPHを必要とする。
【0012】
補酵素としての役割に加えて、NADは、消費される基質であるので、例えば以下の酵素の活性化物質である:ポリADPリボースポリメラーゼ(「PARP」);下等生物において代謝機能に関係し、かつ寿命を延ばすタンパク質デアセチラーゼのファミリー、サーチュイン;および環状ADPリボースシンセターゼ。Laurent Mouchiroud et al.,The NAD/Sirtuin Pathway Modulates Longevity through Activation of Mitochondrial UPR and FOXO Signaling,154 CELL 430(2013)(その全体が参照によって本明細書に組み込まれる)参照。Belenky et al.,2006も参照。NADの補酵素活性は、その生合成および生体利用性の調節を厳格にすると共に、加齢過程に明らかに関与する重要な代謝モニタリング系となる。
【0013】
一旦細胞内でNADPに変換されると、ビタミンB3は、共存基質として、多数の必須のシグナル伝達事象(アデノシン二リン酸リボシル化および脱アセチル化)を制御する2種類の細胞内修飾に用いられる。また、400を超える酸化還元酵素の補因子である。ビタミンB3は、このように代謝を制御する。このことは、重要な調節タンパク質の脱アセチル化、ミトコンドリア活性の増大、および酸素消費が挙げられる広範な代謝エンドポイントによって実証されている。批判的に、NADPH補因子ファミリーは、最適下限の細胞内濃度で存在するならば、ミトコンドリア機能障害および細胞障害を促進する虞がある。ビタミンB3欠乏が、NAD枯渇による細胞活性の悪化の証拠を明らかにし、そしてニコチン酸(NA)、ニコチンアミド(NamまたはNM)、およびニコチンアミドリボシド(NR)の補給による付加的なNAD生体利用性の有益な効果が、主に、代謝およびミトコンドリア機能が損なわれた細胞および組織において観察される。
【0014】
酸化還元反応において、NAD、NADH、NADP、およびNADPHのヌクレオチド構造は、保存される。これに対して、PARP、サーチュイン、および環状ADPリボースシンセターゼ活性は、ニコチンアミド(NamまたはNM)と、NADのADP-リボシル部分とのグリコシド結合を加水分解して、DNA損傷のシグナルを発し、遺伝子発現を改変し、翻訳後修飾を制御し、かつカルシウムシグナル伝達を調節する。
【0015】
動物において、NAD消費活性および細胞分裂が、トリプトファンを起源とするde novo経路を介する、またはNAD前駆体ビタミンニコチンアミド(NamまたはNM)、ニコチン酸(NA)、およびニコチンアミドリボシド(NR)からの再利用経路を介する、NAD合成の継続を余儀なくさせている。Bogan & Brenner,2008参照。トリプトファンおよび3つのNAD前駆体ビタミンが挙げられる食物のNAD前駆体は、皮膚炎、下痢、および痴呆によって特徴付けられる疾患、ペラグラを予防する。ニコチンアミド(NamまたはNM)、ニコチン酸(NA)、およびニコチンアミドリボシド(NR)補給による付加的なNAD生物学的利用能の有益な効果が、主に、代謝およびミトコンドリア機能が損なわれた細胞および組織において観察される。
【0016】
興味深いことに、急性ビタミンB3欠乏の臨界と同時の、ニコチンアミド(NamまたはNM)によるニコチン酸(NA)の補給は、ニコチンアミドリボシド(NR)の補給と比較して、たとえ細胞レベルで3つ全ての代謝物質がNAD生合成の原因となるとしても、同じ生理学的結果を示さない。このことは、B3-ビタミン成分の薬物動態およびバイオ分布の複雑性を強調している。細胞内NADのバルクは、ニコチンアミド(NamまたはNM)の効果的な再利用を介して再生されると考えられている一方、de novo NADは、トリプトファンから得られる。Anthony Rongvaux et al.,Reconstructing eukaryotic NAD metabolism,25 BIOESSAYS 683(2003)(その全体が参照によって本明細書に組み込まれる)参照。当該再利用およびde novo経路は、ホスホリボシドピロリン酸中間体を介してNADを生成する、ビタミンB1、B2、およびB6の機能的形態によって決まる。ニコチンアミドリボシド(NR)は、ビタミンB1、B2、およびB6から独立してNADが生成され得るビタミンB3の唯一の形態である。そして、NADの生成にNRを用いる再利用経路は、ほとんどの真正核細胞において表される。
【0017】
チアミン(ビタミンB1)、リボフラビン(ビタミンB2)、ナイアシン(ビタミンB3)、およびピリドキシン(ビタミンB6)が、食物から再利用され、そして細胞内でそれらのそれぞれの生物活性形態:チアミン二リン酸(「ThDP」);フラビンアデニンジヌクレチオド(「FAD」);ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD);およびピリドキサールリン酸(「PLP」)に戻るように変換される。ビタミンB1、B2、およびB6の、それぞれThDP、FAD、およびPLPへの変換は、ATPに依存的である。ビタミンB3をNADに変換する3つの再利用経路のうち2つは、ThDP(B1)に依存的であり、トリプトファンからのNADのde novo生成は、ビタミンB1、B2、およびB6の生物活性形態に依存的である。ビタミンB1の依存性は、ThDP(B1)が、上述のNAD再利用およびde novo経路において必須の基質、ホスホリボシドピロリン酸の生合成に関与するトランスケトラーゼの補因子であるという事実に起因する。一番最近に同定されたけれどもこれまで冗長と考えられている、第3のNAD再利用経路、ニコチンアミドリボシド(NR)依存的NAD生合成経路は、ホスホリボシドピロリン酸を必要とせず、そしてビタミンB1、B2、およびB6から独立している。
【0018】
ニコチンアミドリボシド(NR)は乳中に存在するが、NAD、NADH、NADP、およびNADPHの細胞濃度は、他のあらゆるNAD代謝物質の細胞濃度よりもかなり高い。これは、食物NAD前駆体ビタミンが、大部分、NADの酵素分解に由来するためである。Pawel Bieganowski & Charles Brenner,Discoveries of Nicotinamide Riboside as a Nutrient and Conserved NRK Genes Establish a Preiss-Handler Independent Route to NAD in Fungi and Humans,117 CELL 495(2002);Charles Evans et al.,NAD metabolite levels as a function of vitamins and calorie restriction:evidence for different mechanisms of longevity,10 BMC CHEM.BIOL.2(2010);Samuel A.J.Trammell & Charles Brenner,Targeted,LCMS-Based Metabolomics for Quantitative Measurement of NAD Metabolites,4 COMPUTATIONAL & STRUCTURAL BIOTECH.J.1(2013)(これらの文献はそれぞれ、その全体が参照によって本明細書に組み込まれる)参照。言い換えれば、乳は、ニコチンアミドリボシド(NR)のソースであるが、ニコチンアミドリボシド(NR)、ニコチンアミド(NamまたはNM)、およびニコチン酸(NA)のより豊富なソースは、細胞NADが当該化合物に分解されるあらゆる食物全体である。ヒト消化および微生物叢は、完全には特徴付けられない方法で、当該ビタミンを提供する役割を果たしている。
【0019】
様々な組織が、様々な生合成経路を頼りにして、NADレベルを維持している。Federica Zamporlini et al.,Novel assay for simultaneous measurement of pyridine mononucleotides synthesizing activities allow dissection of the NAD biosynthetic machinery in mammalian cells,281 FEBS J.5104(2014);Valerio Mori et al.,Metabolic Profiling of Alternative NAD Biosynthetic Routes in Mouse Tissues,9 PLOS ONE e113939(2014)(これらの文献はそれぞれ、その全体が参照によって本明細書に組み込まれる)参照。NAD消費活性が細胞ストレスに応じて頻繁に起こって、ニコチンアミド(NamまたはNM)を生成するので、ニコチンアミドホスホリボシルトランスフェラーゼ(「NAMPT」)活性対N-メチルニコチンアミド(「MeNam」)に至るニコチンアミド(NamまたはNM)のメチル化により、ニコチンアミド(NamまたはNM)を生産的なNAD合成に再利用する細胞の能力が、NAD依存的プロセスの効率を調節する。Charles Brenner,Metabolism:Targeting a fat-accumulation gene,508 NATURE 194(2014);Veronique J.Bouchard et al.,PARP-1,a determinant of cell survival in response to DNA damage,31 EXPERIMENTAL HEMATOLOGY 446(2003)(これらの文献はそれぞれ、その全体が参照によって本明細書に組み込まれる)参照。また、NAD生合成遺伝子は、概日制御下にあり、NAMPT発現レベルおよびNADレベルは双方とも、いくつかの組織において、老化および栄養過多に応じて減少すると報告されている。Kathryn Moynihan Ramsey et al.,Circadian Clock Feedback Cycle Through NAMPT-Mediated NAD Biosynthesis,324 SCIENCE 651 (2009);Yasukazu Nakahata et al.,Circadian Control of the NAD Salvage Pathway by CLOCK-SIRT1,324 SCIENCE 654(2009);Jun Yoshino et al.,Nicotinamide Mononucleotide,a Key NAD Intermediate Treats the Pathophysiology of Diet- and Age-Induced Diabetes in Mice,14 CELL METABOLISM 528(2011);Ana P.Gomes et al.,Declining NAD Induces a Pseudohypoxic State Disrupting Nuclear-Mitochondrial Communication during Aging,155 CELL 1624(2013);Nady Braidy et al.,Mapping NAD metabolism in the brain of ageing Wistar rats:potential targets for influencing brain senescence,15 BIOGERONTOLOGY 177(2014);Eric Verdin,NAD in aging,metabolism,and neurodegeneration,350 SCIENCE 1208(2015)(これらの文献はそれぞれ、その全体が参照によって本明細書に組み込まれる)参照。
【0020】
高用量ニコチンアミド(NamまたはNM)ではなく高用量ニコチン酸(NA)が、人々によって数十年間、異脂肪血症を処置かつ予防するのに用いられてきた。しかし、その使用は、有痛性の紅潮に制限されている。Joseph R.DiPalma & William S.Thayer,Use of Niacin as a Drug,11 ANNUAL REV.OF NUTRITION 169(1991);Jeffrey T.Kuvin et al.,Effects of Extended-Release Niacin on Lipoprotein Particle Size,Distribution,and Inflammatory Markers in Patients With Coronary Artery Disease,98 AM.J.OF CARDIOLOGY 743(2006)(これらの文献はそれぞれ、その全体が参照によって本明細書に組み込まれる)参照。1日あたりおおよそ15ミリグラムのニコチン酸(NA)またはニコチンアミド(NamまたはNM)しか、ペラグラを予防するのに必要とされないが、ニコチン酸(NA)の薬理学的用量は、2~4グラムと高くなり得る。ペラグラ予防と異脂肪血症の処置との有効用量の>100倍の差異にも拘らず、血漿脂質に及ぼすニコチン酸(NA)の有益な効果は、NADブースティング化合物としてのニコチン酸(NA)の機能次第である。Belenky et al.,2007参照。この見解に従えば、サーチュイン活性化がおそらく、機構の一部であろう。なぜなら、ニコチンアミド(NamまたはNM)が、ほとんどの細胞においてNAD前駆体であるが、高用量にてサーチュインインヒビタとなるからである。Kevin J.Bitterman et al.,Inhibition of Silencing and Accelerated Aging by Nicotinamide,a Putative Negative Regulator of Yeast Sir2 and Human SIRT1,277 J.BIOL.CHEM.45099(2002)(その全体が参照によって本明細書に組み込まれる)参照。また、Zamporlini et al.,2014;Mori et al.,2014参照。
【0021】
先で議論されたように、Preiss-Handler再利用経路および他の再利用経路をフィードする主なNAD前駆体は、ニコチンアミド(NamまたはNM)およびニコチンアミドリボシド(NR)である。Bogan & Brenner,2008参照。さらに、研究によれば、ニコチンアミドリボシド(NR)が、ニコチンアミドモノヌクレオチド(NMN)の形成により、NAD合成に導く保存された再利用経路に用いられることが示されてきた。細胞中に入って直ぐに、ニコチンアミドリボシド(NR)が、NRキナーゼ(「NRK」)によってリン酸化されて、ニコチンアミドモノヌクレオチド(NMN)が生じ、これが次に、ニコチン酸/ニコチンアミドモノヌクレオチドアデニリルトランスフェラーゼ(NMNAT)によって、NADに変換される。Bogan & Brenner,2008参照。ニコチンアミドモノヌクレオチド(NMN)は、ミトコンドリア中でNADに変換され得る唯一の代謝物質であるので、ニコチンアミド(NamまたはNM)およびニコチンアミドリボシド(NR)は、NADを補充することができることで、ミトコンドリア燃料酸化を向上させることができる2つの候補NAD前駆体である。重要な差異は、ニコチンアミドリボシド(NR)が、再利用経路の律速段階、ニコチンアミドホスホリボシルトランスフェラーゼ(NAMPT)を迂回する、NAD合成に至る直接的なツーステップ経路を有することである。ニコチンアミド(NamまたはNM)は、NADを生成するのにNAMPT活性を必要とする。これは、ニコチンアミドリボシド(NR)が非常に効果的なNAD前駆体であるという事実を補強している。逆に、食物NAD前駆体および/またはトリプトファン(Trp)の欠乏が、ペラグラを引き起こす。Bogan & Brenner,2008参照。要約すれば、NADは、正常なミトコンドリア機能に必要とされる。そしてミトコンドリアは、細胞の原動力である。そのため、NADは、細胞内でのエネルギー生成に必要とされる。
【0022】
NADは、最初に、酸化還元酵素の補酵素として特徴付けられた。NAD、NADH、NADP、そしてNADPH間の変換は、完全な補酵素の損失を伴わないであろうが、NADはまた、未知の目的で細胞中で引き継がれる(turned over)ことが発見された。Morelly L.Maayan,NAD-Glycohydrolase of Thyroid Homogenates,204 NATURE 1169(1964)(その全体が参照によって本明細書に組み込まれる)参照。サーチュイン酵素、例えば出芽酵母(S.cerevisiae)のSir2およびそのホモログが、リジン残基を脱アセチル化して、等量のNADを消費し、当該活性は、転写サイレンサーとしてSir2機能に必要とされる。S.Imai et al.,Sir2:An NAD-dependent Histone Deacetylase That Connects Chromatin Silencing,Metabolism,and Aging,65 COLD SPRING HARBOR SYMPOSIA ON QUANTITATIVE BIOLOGY 297(2000)(その全体が参照によって本明細書に組み込まれる)参照。NAD依存的脱アセチル化反応は、遺伝子発現の改変だけでなく、リボソームDNAの組換えの抑制およびカロリー制限に応じた寿命の延長にも必要とされる。Lin et al.,Requirement of NAD and SIR2 for Life-Span Extension by Calorie Restriction in Saccharomyces cerevisiae,289 SCIENCE 2126(2000);Lin et al.,Calorie restriction extends Saccharomyces cerevisiae lifespan by increasing respiration,418 NATURE 344(2002)(これらの文献はそれぞれ、その全体が参照によって本明細書に組み込まれる)参照。NADは、2’-、および3’-Oアセチル化ADPリボースプラスニコチンアミド(NamまたはNM)、ならびに脱アセチル化されたポリペプチドの混合物を生成するのに、Sir2によって消費される。Anthony A.Sauve et al.,Chemistry of Gene Silencing:the Mechanism of NAD-Dependent Deacetylation Reactions,40 BIOCHEMISTRY 15456(2001)(その全体が参照によって本明細書に組み込まれる)参照。ポリ(ADPリボース)ポリメラーゼおよびcADPリボースシンターゼが挙げられる付加的な酵素もまた、NAD依存性であり、ニコチンアミド(NamまたはNM)およびADP-リボシル生成物を生成する。Mathias Ziegler,New functions of a long-known molecule,267 FEBS J.1550(2000);Alexander Buerkle,Physiology and pathophysiology of poly(ADP-ribosyl)ation,23 BIOESSAYS 795(2001)(これらの文献はそれぞれ、その全体が参照によって本明細書に組み込まれる)参照。
【0023】
NADの非補酵素的特性は、NAD生合成に対する関心を新たにした。NAD合成を高め、サーチュイン活性を増大させ、かつ酵母の寿命を延長するニコチンアミドリボシド(NR)の能力に基づいて、ニコチンアミドリボシド(NR)はマウスに使用されて、代謝ストレスのモデルにおいてNAD代謝が高められ、かつ健康を改善してきた。Peter Belenky et al.,Nicotinamide Ribosides Promotes Sir2 Silencing and Extends Lifespan via Nrk and Urh1/Pnp1/Meu1 Pathways to NAD,129 CELL 473(2007)(その全体が参照によって本明細書に組み込まれる)参照。Bieganowski & Brenner,2004も参照。特に、ニコチンアミドリボシド(NR)により、マウスは、高脂肪食での体重増加に抵抗し、かつ騒音性聴力損失を予防することができた。Carles Cantoe et al.,The NAD Precursor Nicotinamide Riboside Enhances Oxidative Metabolism and Protects against High-Fat Diet-Induced Obesity,15 CELL METABOLISM 838(2012);Kevin D.Brown et al.,Activation of SIRT3 by the NAD Precursor Nicotinamide Riboside Protects from Noise-Induced Hearing Loss,20 CELL METABOLISM 1059(2014)(これらの文献はそれぞれ、その全体が参照によって本明細書に組み込まれる)参照。データは、ニコチンアミドリボシド(NR)が、ミトコンドリアのサーチュイン活性に依存すると解釈されたが、ヌクレオサイトゾル標的を除外しないことを示す。Andrey Nikiforov et al.,Pathways and Subcellular Compartmentation of NAD Biosynthesis in Human Cells,286 J.BIOLOGICAL CHEM.21767(2011);Charles Brenner,Boosting NAD to Spare Hearing,20 CELL METABOLISM 926(2014);Carles Cantoe et al.,NAD Metabolism and the Control of Energy Homeostasis:A Balancing Act between Mitochondria and the Nucleus,22 CELL METABOLISM 31(2015)(これらの文献はそれぞれ、その全体が参照によって本明細書に組み込まれる)。同様に、ニコチンアミドリボシド(NR)のリン酸化された形態、ニコチンアミドモノヌクレオチド(NMN)が、栄養過多の老化したマウスモデルにおいて、NAD低下を処置するのに用いられてきた。J.Yoshino et al.,2011;A.P.Gomes et al.,2013参照。NAD依存的プロセスの存在割合のため、どの程度NADブースティングストラテジーが機構的に特定の分子、例えばSIRT1またはSIRT3に依存するのかは、知られていない。また、NADメタボロームに及ぼすニコチンアミドリボシド(NR)の定量的効果は、いかなる系でも報告されていない。
【0024】
ビタミンB1、B2、B3、およびB6は、それらの生合成経路において密接に関連し、NADPH細胞内プールの維持および再生は、ATPの利用可能性と共に、ThDP(ビタミンB1)、FAD(ビタミンB2)、およびPLP(ビタミンB6)の利用可能性次第である。
【0025】
ATPは、NAD依存的OXPHOSおよび糖分解により生成されると考えられており、ビタミンB1、B2、およびB6の、それぞれThDP、FAD、およびPLPへの官能化に必須である。当該ビタミンのいずれの不足でも、他の生物学に悪影響を与えることとなる。
【0026】
健康な、成長中の乳児は、必須栄養素の安定した摂取を必要とし、その重要な成分は、NAD前駆体であろう。ヒト皮膚組織中のNADレベルを調査するヒト研究により、NADの量が年齢と共に減少することが実証された。Hassina Massudi et al.,Age-associated changes in oxidative stress and NAD metabolism in human tissue,7 PUBLIC LIBRARY OF SCIENCE ONE e42357(2012)(その全体が参照によって本明細書に組み込まれる)参照。ゆえに、ヒト乳児は、より年をとったヒトと比較して、皮膚細胞中のNADの濃度が最も高い。具体的には、30~50歳の成人と比較して、ほぼ3倍ものNADが、ヒト新生児中に存在する。さらに、ヒト乳児は、51~70歳の成人と比較して、おおよそ8倍ものNADを有する。Massudi et al., 2012参照。これらの結果は、ヒト乳児が、成長段階中に、より高いNADレベルを自然に必要とするという考えを支持している。
【0027】
ニコチンアミドリボシド(NR)、ニコチン酸リボシド(NAR)、およびニコチンアミドモノヌクレオチド(NMN)、それらの誘導体、またはそれらの塩、そしてビタミンB1、B2、B3、およびB6間の相乗効果についての原理が、本明細書中で説明される。ニコチンアミドリボシド(NR)、ニコチン酸リボシド(NAR)、およびニコチンアミドモノヌクレオチド(NMN)、それらの誘導体、またはそれらの塩から選択される少なくとも1つの化合物の、ビタミンB1、B2、B3、およびB6の少なくとも1つとの対形成が、NAD生合成経路に相乗的に作用して、良い効果を及ぼすと仮定されている。これは、ビタミンB1、B2、およびB6が、NR生成NADから生じたニコチンアミド(NamまたはNM)の更なるリサイクルを可能とするNAMPT依存的経路を通じて、NAD生合成に必要とされるという事実に起因している。全てのB3-ビタミンのうち、NRのみが、モル対モルの観点(mole to mole perspective)で、NADを合成するためのNAMPTと独立して機能する。W.Todd Penberthy & James B.Kirkland,Niacin,in PRESENT KNOWLEDGE IN NUTRITION 293(10th ed.2012;Yuling Chi & Anthony A.Sauve,Nicotinamide riboside,a trace nutrient in foods,is a vitamin B3 with effects on energy metabolism and neuroprotection,16 CURR.OPINION IN CLIN.NUTRITION & METABOLIC CARE 657(2013)(これらの文献はそれぞれ、その全体が参照によって本明細書に組み込まれる)参照。加えて、ビタミンB2(FAD前駆体)が、ミトコンドリアの脂肪酸の酸化プロセスおよびOXPHOSプロセスにとって重要なビタミンである。ミトコンドリア機能障害は、FAD/FADHのアンバランスまたは欠乏から生じ得る。ビタミンB2の、ビタミンB3 NAD前駆体への対形成が、ミトコンドリア機能障害の複数の経路に対処すると仮定されている。
【0028】
したがって、ニコチンアミドリボシド(NR)、ニコチン酸リボシド(NAR)、およびニコチンアミドモノヌクレオチド(NMN)、それらの誘導体、またはそれらの塩から選択される少なくとも1つの化合物を個々に、または場合によってはビタミンB1、B2、B3、およびB6の少なくとも1つと組み合わせてヒト乳児に提供することで、前記ヒト乳児へのNADのレベルの上昇がもたらされると、本明細書中で仮定されている。さらに、ニコチンアミドリボシド(NR)、ニコチン酸リボシド(NAR)、およびニコチンアミドモノヌクレオチド(NMN)、それらの誘導体、またはそれらの塩から選択される前記少なくとも1つの化合物を、個々に、または場合によってはビタミンB1、B2、B3、およびB6の少なくとも1つと組み合わせてヒト乳児に提供することが、ビタミンB3欠乏と関連し、かつ/またはミトコンドリア活性の増大から利益を得ることとなる症候、疾患、障害、または症状を処置かつ/または予防するのに効果的であろう。
【0029】
ニコチンアミドリボシド(NR)、ニコチン酸リボシド(NAR)、およびニコチンアミドモノヌクレオチド(NMN)、それらの誘導体、またはそれらの塩から選択される少なくとも1つの化合物を個々に、または場合によってはビタミンB1、B2、B3、およびB6の少なくとも1つと組み合わせてヒト乳児に提供する新しい方法が見出され得るならば、これは、当該技術への有用な寄与を表すであろう。さらに、ニコチンアミドリボシド(NR)、ニコチン酸リボシド(NAR)、およびニコチンアミドモノヌクレオチド(NMN)、それらの誘導体、またはそれらの塩から選択される少なくとも1つの化合物を個々に、または場合によってはビタミンB1、B2、B3、およびB6の少なくとも1つと組み合わせてヒト乳児に提供することによって、ビタミンB3欠乏と関連し、かつ/またはミトコンドリア活性の増大から利益を得ることとなる症候、疾患、障害、または症状を処置かつ/または予防する新しい方法が見出され得るならば、これもまた、当該技術への有用な寄与を表すであろう。
【発明の概要】
【0030】
特定の実施形態において、本開示は、ニコチンアミドリボシド(NR)、ニコチン酸リボシド(NAR)、およびニコチンアミドモノヌクレオチド(NMN)、それらの誘導体、またはそれらの塩から選択される少なくとも1つの化合物を、前記化合物が必要な乳児ヒト対象に送達する方法を提供する。更なる実施形態において、本開示は、ニコチンアミドリボシド(NR)、ニコチン酸リボシド(NAR)、およびニコチンアミドモノヌクレオチド(NMN)、それらの誘導体、またはそれらの塩から選択される少なくとも1つの化合物を、チアミン(ビタミンB1)、リボフラビン(ビタミンB2)、ナイアシン(ビタミンB3)、およびピリドキシン(ビタミンB6)の少なくとも1つと組み合わせて、前記化合物が必要な乳児ヒト対象に送達する方法を提供する。更なる実施形態において、本開示は、ニコチンアミドリボシド(NR)、ニコチン酸リボシド(NAR)、およびニコチンアミドモノヌクレオチド(NMN)、それらの誘導体、またはそれらの塩からなる群から選択される少なくとも1つの化合物を単独で、またはビタミンB1、B2、B3、およびB6の少なくとも1つと組み合わせて、前記少なくとも1つの化合物が必要な乳児ヒト対象に送達する方法であって:(a)ニコチンアミドリボシド(NR)、ニコチン酸リボシド(NAR)、およびニコチンアミドモノヌクレオチド(NMN)、それらの誘導体、またはそれらの塩からなる群から選択される少なくとも1つの化合物を含む乳児用粉ミルク組成物を調製するステップと;(b)乳児用粉ミルク組成物を乳児ヒト対象に投与するステップとを含む方法を提供する。更なる実施形態において、本開示は、乳児ヒト対象における、ビタミンB3欠乏が関与する病因に関連した、もしくは当該病因を有する、かつ/またはミトコンドリア活性の増大から利益を得ることとなる症候、疾患、障害、または症状を処置かつ/または予防する方法を提供する。更なる実施形態において、本発明は、乳児ヒト対象に、NR、NAR、およびNMN、それらの誘導体、またはそれらの塩から選択される少なくとも1つの化合物を単独で、またはチアミン(ビタミンB1)、リボフラビン(ビタミンB2)、ナイアシン(ビタミンB3)、およびピリドキシン(ビタミンB6)の少なくとも1つと組み合わせて投与することによって、乳児ヒト対象の腸内細菌の有益な種の増殖を促進する方法に関する。更なる実施形態において、本発明は、乳児ヒト対象に、NR、NAR、およびNMN、それらの誘導体、またはそれらの塩から選択される少なくとも1つの化合物を単独で、またはチアミン(ビタミンB1)、リボフラビン(ビタミンB2)、ナイアシン(ビタミンB3)、およびピリドキシン(ビタミンB6)の少なくとも1つと組み合わせて投与することによって、乳児ヒト対象の腸の健康を促進する方法に関する。更なる実施形態において、本発明は、乳児ヒト対象に、NR、NAR、およびNMN、それらの誘導体、またはそれらの塩から選択される少なくとも1つの化合物を単独で、またはチアミン(ビタミンB1)、リボフラビン(ビタミンB2)、ナイアシン(ビタミンB3)、およびピリドキシン(ビタミンB6)の少なくとも1つと組み合わせて投与することによって、乳児ヒト対象における消化管炎症を和らげる方法に関する。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1図1は、NAD生合成経路を示す。
図2A図2Aは、一実施形態における、店で購入した(牛)乳中に存在するニコチンアミドリボシド(NR)の検出を実証するクロマトグラムを示す。
図2B図2Bは、一実施形態における、乳サンプルにニコチンアミドリボシド(NR)を既知の量にて加えた後のニコチンアミドリボシド(NR)の検出を実証するクロマトグラムを示す。
図2C図2Cは、一実施形態における、乳サンプルにニコチンアミドリボシド(NR)を既知の量にて加えた後のニコチンアミドリボシド(NR)の検出を実証するクロマトグラムを示す。
図3図3は、別の実施形態における、ヒト母乳中の天然のニコチンアミドリボシド(NR)の検出を示す。
図4図4は、別の実施形態における、100mLでのニコチンアミドリボシド(NR)のスパイキングによる、ヒト母乳中のニコチンアミドリボシド(NR)の検出の確認を示す。
図5図5は、別の実施形態における、1000mLでのニコチンアミドリボシド(NR)のスパイキングによる、ヒト母乳中のニコチンアミドリボシド(NR)の検出の確認を示す。
図6図6は、別の実施形態における、安定した、同位体標識(15N)されたニコチンアミドリボシド(NR)の、乳タンパク質への直接的結合の検出を示す。
図7図7は、別の実施形態における、コントロール溶液を投与した子ブタの体重の、ニコチンアミドリボシド(NR)溶液を投与した子ブタの体重との経時的比較を示す。
図8図8は、別の実施形態における、コントロール溶液を投与した子ブタの糞便スコアの、ニコチンアミドリボシド(NR)溶液を投与した子ブタの糞便スコアとの経時的比較を示す。
図9図9は、別の実施形態における、コントロール溶液を投与した子ブタのベースライン糞便短鎖脂肪酸(「SCFA」)分布(上部パネル)、およびニコチンアミド(NR)溶液を投与した子ブタのベースライン糞便SCFA分布(下部パネル)を示す。
図10図10は、別の実施形態における、コントロール溶液を投与した子ブタの1週目の糞便SCFA分布(上部パネル)、およびニコチンアミドリボシド(NR)溶液を投与した子ブタの2週目の糞便SCFA分布(下部パネル)を示す。
図11図11は、別の実施形態における、コントロール溶液を投与した子ブタの2週目の糞便SCFA分布(上部パネル)、およびニコチンアミドリボシド(NR)溶液を投与した子ブタの2週目の糞便SCFA分布(下部パネル)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0032】
一態様において、本開示は、驚くべきことに、NAD前駆体を、これを必要とするヒト乳児に送達する新規の方法を実証する。特定の実施形態において、ニコチンアミドリボシド(NR)、ニコチン酸リボシド(NAR)、およびニコチンアミドモノヌクレオチド(NMN)、それらの誘導体、またはそれらの塩から選択される少なくとも1つの化合物を、前記化合物を必要とする乳児ヒト対象に送達する方法が記載されている。別の実施形態において、本開示は、ニコチンアミドリボシド(NR)、ニコチン酸リボシド(NAR)、およびニコチンアミドモノヌクレオチド(NMN)、それらの誘導体、またはそれらの塩から選択される少なくとも1つの化合物を、チアミン(ビタミンB1)、リボフラビン(ビタミンB2)、ナイアシン(ビタミンB3)、およびピリドキシン(ビタミンB6)の少なくとも1つと組み合わせて、前記化合物を必要とする乳児ヒト対象に送達する方法に関する。さらに別の実施形態において、本発明は、ビタミンB3欠乏が関与する病因に関連した、もしくは当該病因を有する、かつ/またはミトコンドリア活性の増大から利益を得ることとなる症候、疾患、障害、または症状を処置かつ/または予防する方法に関する。
【0033】
ニコチンアミドリボシド(NR)は、式(I)を有するピリジニウムニコチニル化合物である:
【0034】
ニコチン酸リボシド(NAR)は、式(II)を有するピリジニウムニコチニル化合物である:
【0035】
ニコチンアミドモノヌクレオチド(NMN)は、式(III)を有するピリジニウムニコチニル化合物である:
【0036】
還元ニコチンアミドリボシド(「NRH」)は、式(IV)を有する1,4-ジヒドロピリジル還元ニコチニル化合物である:
【0037】
還元ニコチン酸リボシド(「NARH」)は、式(V)を有する1,4-ジヒドロピリジル還元ニコチニル化合物である:
【0038】
ニコチンアミドリボシド(NR、I)のリボース部分上のヒドロキシル基の遊離水素が、アセチル基(CH-C(=O)-)で置換されて、式(VI)を有する1-(2’,3’,5’-トリアセチル-ベータ-D-リボフラノシル)-ニコチンアミド(「NRトリアセテート」または「NRTA」)が形成され得る:
【0039】
ニコチン酸リボシド(NAR、II)のリボース部分上のヒドロキシル基の遊離水素が、アセチル基(CH-C(=O)-)で置換されて、式(VII)を有する1-(2’,3’,5’-トリアセチル-ベータ-D-リボフラノシル)-ニコチン酸(「NARトリアセテート」または「NARTA」)が形成され得る:
【0040】
還元ニコチンアミドリボシド(NRH、IV)のリボース部分上のヒドロキシル基の遊離水素が、アセチル基(CH-C(=O)-)で置換されて、式(VIII)を有する1-(2’,3’,5’-トリアセチル-ベータ-D-リボフラノシル)-1,4-ジヒドロニコチンアミド(「NRHトリアセテート」または「NRH-TA」)が形成され得る:
【0041】
還元ニコチン酸リボシド(NARH、V)のリボース部分上のヒドロキシル基の遊離水素が、アセチル基(CH-C(=O)-)で置換されて、式(IX)を有する1-(2’,3’,5’-トリアセチル-ベータ-D-リボフラノシル)-1,4-ジヒドロニコチン酸(「NARHトリアセテート」または「NARH-TA」)が形成され得る:
【0042】
理論によって拘束されるものではないが、図1に示されるNAD生合成経路において分かるように、ニコチンアミドリボシド(NR、I)は、NRキナーゼ(NRK)によるリン酸化を介して、ニコチンアミドモノヌクレオチド(NMN、III)に変換すると考えられている。その後、ニコチンアミドモノヌクレオチド(NMN、III)は、ニコチンアミドモノヌクレオチドアデニリルトランスフェラーゼ(NMNAT)によって、NADに変換される。ニコチンアミドモノヌクレオチド(NMN、III)は、ミトコンドリア内でNADに変換され得る唯一の代謝物質であるので、ニコチンアミドおよびニコチンアミドリボシド(NR、I)が、NADを補充し、かつミトコンドリア燃料酸化を向上させることができる2つの候補NAD前駆体である。しかしながら、ニコチンアミドリボシド(NR、I)は、再利用経路の律速段階、ニコチンアミドの、ニコチンアミドホスホリボシルトランスフェラーゼ(NAMPT)の活性を介したニコチンアミドモノヌクレオチド(NMN、III)への変換を迂回する、NAD合成に至る直接的なツーステップ経路を有する。
【0043】
健康な、成長中の乳児は、必須栄養素の安定した摂取を必要とし、その重要な成分は、NAD前駆体であろう。ヒト皮膚組織中のNADレベルを調査したヒト研究により、NADの量が年齢と共に減少することが実証された。ゆえに、ヒト乳児は、より年をとったヒトと比較して、皮膚細胞中のNADの濃度が最も高い。具体的には、30~50歳の成人と比較して、ほぼ3倍ものNADが、ヒト新生児中に存在する。さらに、ヒト乳児は、51~70歳の成人と比較して、おおよそ8倍ものNADを有する。これらの結果は、ヒト乳児が、成長段階中に、より高いNADレベルを自然に必要とするという考えを支持している。
【0044】
理論によって拘束されるものではないが、特定の実施形態において、ニコチンアミドリボシド(NR、I)、ニコチン酸リボシド(NAR、II)、およびニコチンアミドモノヌクレオチド(NMN、III)、それらの誘導体、またはそれらの塩から選択される少なくとも1つの化合物を投与または送達することで、ヒト母乳または現在市販されている乳児用粉ミルク製品を通して通常受け入れられるレベルよりも高いレベルのNADが、これを必要とするヒト乳児に効果的に提供されると考えられている。
【0045】
理論によって拘束されるものではないが、別の特定の実施形態において、ニコチンアミドリボシド(NR、I)、ニコチン酸リボシド(NAR、II)、およびニコチンアミドモノヌクレオチド(NMN、III)、それらの誘導体、またはそれらの塩から選択される少なくとも1つの化合物を投与または送達することで、ビタミンB3欠乏が関与する病因に関連した、もしくは当該病因を有する、かつ/またはミトコンドリア活性の増大から利益を得ることとなる症候、疾患、障害、または症状が処置かつ/または予防されるであろう。
【0046】
「ニコチン酸」または「ナイアシン」としても知られているビタミンB3は、式(X)を有するピリジン化合物である:
【0047】
理論によって拘束されるものではないが、図1に示されるNAD生合成経路において分かるように、ビタミンB3(ニコチン酸またはナイアシン、X)は、いくつかの中間体を介してNADに変換されると考えられている。ナイアシンはまた、ニコチンアミド(NamまたはNM)との混合物を含むことが知られている。
【0048】
チアミンとしても知られているビタミンB1は、式(XI)を有する化合物である:
【0049】
リボフラビンとしても知られているビタミンB2は、式(XII)を有する化合物である:
【0050】
最も一般的には補助剤として与えられる形態のピリドキシンとしても知られているビタミンB6は、式(XIII)を有する化合物である:
【0051】
理論によって拘束されるものではないが、ビタミンB1、B2、B3、およびB6は、それらの生合成経路において密接に関連し、NAD(P)(H)細胞内プールの維持および再生は、ThDP(B1)、FAD(B2)、およびPLP(B6)の利用可能性次第であると考えられている。チアミン(ビタミンB1、XI)、リボフラビン(ビタミンB2、XII)、およびピリドキシン(ビタミンB6、XIII)が、食物から再利用され、そして細胞内でそれらのそれぞれの生物活性形態:チアミン(ThDP);フラビンアデニンジヌクレチオド(FAD);ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD);およびピリドキサールリン酸(PLP)に戻るように変換される。ビタミンB1、B2、およびB6の、それぞれThDP、FAD、およびPLPへの変換は、ATPに依存的である。ビタミンB3をNADに変換する3つの再利用経路のうち2つは、ThDP(B1)に依存的であり、トリプトファンからのNADのde novo生成は、ビタミンB1、B2、およびB6の生物活性形態に依存的である。ビタミンB1の依存性は、ThDP(B1)が、上述のNAD再利用およびde novo経路において必須の基質、ホスホリボシドピロリン酸の生合成に関与するトランスケトラーゼの補因子であるという事実に起因する。
【0052】
理論によって拘束されるものではないが、さらに別の実施形態において、ニコチンアミドリボシド(NR、I)、ニコチン酸リボシド(NAR、II)、ニコチンアミドモノヌクレオチド(NMN、III)、還元ニコチンアミドリボシド(NRH、IV)、還元ニコチン酸リボシド(NARH、V)、NRトリアセテート(NRTA、VI)、NARトリアセテート(NARTA、VII)、NRHトリアセテート(NRH-TA、VIII)、およびNARHトリアセテート(NARH-TA、IX)、またはそれらの塩から選択される少なくとも1つの化合物が、単独で、またはビタミンB1(チアミン、XI)、ビタミンB2(リボフラビン、XII)、ビタミンB3(ニコチン酸またはナイアシン、X)、およびビタミンB6(補助剤形態のピリドキシン、XIII)から選択される1つもしくは複数のビタミンと組み合わせて用いられて、ヒト母乳または現在市販されている乳児用粉ミルク製品を通して通常受け入れられるレベルよりも高いレベルのNADが、これを必要とするヒト乳児に相乗的に、効果的に提供されると考えられている。ニコチンアミドリボシド(NR、I)、ニコチン酸リボシド(NAR、II)、ニコチンアミドモノヌクレオチド(NMN、III)、還元ニコチンアミドリボシド(NRH、IV)、還元ニコチン酸リボシド(NARH、V)、NRトリアセテート(NRTA、VI)、NARトリアセテート(NARTA、VII)、NRHトリアセテート(NRH-TA、VIII)、およびNARHトリアセテート(NARH-TA、IX)、またはそれらの塩から選択される少なくとも1つの化合物を、場合によってはビタミンB1(チアミン、XI)、ビタミンB2(リボフラビン、XII)、ビタミンB3(ニコチン酸またはナイアシン、X)、およびビタミンB6(補助剤形態のピリドキシン、XIII)から選択される1つまたは複数のビタミンと組み合わせて送達することで、ヒト母乳または現在市販されている乳児用粉ミルク製品を通して通常受け入れられるレベルよりも高いレベルのNADが、そしてニコチニル化合物(I、II、III、IV、V、VI、VII、VIII、および/またはIX)またはビタミン(X、XI、XII、および/またはXIII)単独よりも高いレベルのNADが、これを必要とするヒト乳児に効果的に提供されると予想される。
【0053】
理論によって拘束されるものではないが、さらに別の実施形態において、ニコチンアミドリボシド(NR、I)、ニコチン酸リボシド(NAR、II)、ニコチンアミドモノヌクレオチド(NMN、III)、還元ニコチンアミドリボシド(NRH、IV)、還元ニコチン酸リボシド(NARH、V)、NRトリアセテート(NRTA、VI)、NARトリアセテート(NARTA、VII)、NRHトリアセテート(NRH-TA、VIII)、およびNARHトリアセテート(NARH-TA、IX)、またはそれらの塩から選択される少なくとも1つの化合物が、単独で、またはビタミンB1(チアミン、XI)、ビタミンB2(リボフラビン、XII)、ビタミンB3(ニコチン酸またはナイアシン、X)、およびビタミンB6(補助剤形態のピリドキシン、XIII)から選択される1つもしくは複数のビタミンと組み合わせて用いられて、これらを必要とするヒト乳児に、ビタミンB3欠乏が関与する病因に関連した、または当該病因を有する疾患、症候、障害、または症状を処置かつ/または予防するのに、相乗的に、効果的に用いられると考えられている。ニコチンアミドリボシド(NR、I)、ニコチン酸リボシド(NAR、II)、ニコチンアミドモノヌクレオチド(NMN、III)、還元ニコチンアミドリボシド(NRH、IV)、還元ニコチン酸リボシド(NARH、V)、NRトリアセテート(NRTA、VI)、NARトリアセテート(NARTA、VII)、NRHトリアセテート(NRH-TA、VIII)、およびNARHトリアセテート(NARH-TA、IX)、またはそれらの塩から選択される少なくとも1つの化合物を、ビタミンB1(チアミン、XI)、ビタミンB2(リボフラビン、XII)、ビタミンB3(ニコチン酸またはナイアシン、X)、およびビタミンB6(補助剤形態のピリドキシン、XIII)から選択される1つまたは複数のビタミンと組み合わせて送達することで、これらを必要とするヒト乳児において、ニコチニル化合物(I、II、III、IV、V、VI、VII、VIII、および/またはIX)またはビタミン(X、XI、XII、および/またはXIII)単独よりも効果的に、ビタミンB3欠乏が関与する病因に関連した、もしくは当該病因を有する、またはミトコンドリア活性の増大から利益を得ることとなる症候、疾患、障害、または症状が処置かつ/または予防されると予想される。
【0054】
理論によって拘束されるものではないが、さらに別の実施形態において、ニコチンアミドリボシド(NR、I)、ニコチン酸リボシド(NAR、II)、ニコチンアミドモノヌクレオチド(NMN、III)、還元ニコチンアミドリボシド(NRH、IV)、還元ニコチン酸リボシド(NARH、V)、NRトリアセテート(NRTA、VI)、NARトリアセテート(NARTA、VII)、NRHトリアセテート(NRH-TA、VIII)、およびNARHトリアセテート(NARH-TA、IX)、またはそれらの塩から選択される少なくとも1つの化合物が、単独で、またはビタミンB1(チアミン、XI)、ビタミンB2(リボフラビン、XII)、ビタミンB3(ニコチン酸またはナイアシン、X)、およびビタミンB6(補助剤形態のピリドキシン、XIII)から選択される1つもしくは複数のビタミンと組み合わせて用いられて、ヒト母乳または市販されている乳児用粉ミルク製品を通して通常受け入れられるレベルよりも高いレベルの、乳児ヒトの腸内細菌の有益な種を、相乗的に、効果的に提供すると考えられている。ニコチンアミドリボシド(NR、I)、ニコチン酸リボシド(NAR、II)、ニコチンアミドモノヌクレオチド(NMN、III)、還元ニコチンアミドリボシド(NRH、IV)、還元ニコチン酸リボシド(NARH、V)、NRトリアセテート(NRTA、VI)、NARトリアセテート(NARTA、VII)、NRHトリアセテート(NRH-TA、VIII)、およびNARHトリアセテート(NARH-TA、IX)、またはそれらの塩から選択される少なくとも1つの化合物を、場合によってはビタミンB1(チアミン、XI)、ビタミンB2(リボフラビン、XII)、ビタミンB3(ニコチン酸またはナイアシン、X)、およびビタミンB6(補助剤形態のピリドキシン、XIII)から選択される1つまたは複数のビタミンと組み合わせて送達することで、ヒト母乳または現在市販されている乳児用粉ミルク製品を通して通常受け入れられるレベルよりも高いレベルの、乳児ヒトの腸内細菌の有益な種が、そしてニコチニル化合物(I、II、III、IV、V、VI、VII、VIII、および/またはIX)またはビタミン(X、XI、XII、および/またはXIII)単独よりも高いレベルの、乳児ヒトの腸内細菌の有益な種が効果的に提供されると予想される。
【0055】
理論によって拘束されるものではないが、さらに別の実施形態において、ニコチンアミドリボシド(NR、I)、ニコチン酸リボシド(NAR、II)、ニコチンアミドモノヌクレオチド(NMN、III)、還元ニコチンアミドリボシド(NRH、IV)、還元ニコチン酸リボシド(NARH、V)、NRトリアセテート(NRTA、VI)、NARトリアセテート(NARTA、VII)、NRHトリアセテート(NRH-TA、VIII)、およびNARHトリアセテート(NARH-TA、IX)、またはそれらの塩から選択される少なくとも1つの化合物が、単独で、またはビタミンB1(チアミン、XI)、ビタミンB2(リボフラビン、XII)、ビタミンB3(ニコチン酸またはナイアシン、X)、およびビタミンB6(補助剤形態のピリドキシン、XIII)から選択される1つもしくは複数のビタミンと組み合わせて用いられて、相乗的に、ヒト母乳または市販されている乳児用粉ミルク製品よりも効果的に乳児ヒト対象の腸健康を促進すると考えられている。ニコチンアミドリボシド(NR、I)、ニコチン酸リボシド(NAR、II)、ニコチンアミドモノヌクレオチド(NMN、III)、還元ニコチンアミドリボシド(NRH、IV)、還元ニコチン酸リボシド(NARH、V)、NRトリアセテート(NRTA、VI)、NARトリアセテート(NARTA、VII)、NRHトリアセテート(NRH-TA、VIII)、およびNARHトリアセテート(NARH-TA、IX)、またはそれらの塩から選択される少なくとも1つの化合物を、場合によってはビタミンB1(チアミン、XI)、ビタミンB2(リボフラビン、XII)、ビタミンB3(ニコチン酸またはナイアシン、X)、およびビタミンB6(補助剤形態のピリドキシン、XIII)から選択される1つまたは複数のビタミンと組み合わせて送達することで、ヒト母乳または現在市販されている乳児用粉ミルク製品よりも効果的に乳児ヒト対象の腸健康を促進し、そしてニコチニル化合物(I、II、III、IV、V、VI、VII、VIII、および/またはIX)またはビタミン(X、XI、XII、および/またはXIII)単独よりも効果的に乳児ヒトの腸健康を促進すると予想される。
【0056】
理論によって拘束されるものではないが、さらに別の実施形態において、ニコチンアミドリボシド(NR、I)、ニコチン酸リボシド(NAR、II)、ニコチンアミドモノヌクレオチド(NMN、III)、還元ニコチンアミドリボシド(NRH、IV)、還元ニコチン酸リボシド(NARH、V)、NRトリアセテート(NRTA、VI)、NARトリアセテート(NARTA、VII)、NRHトリアセテート(NRH-TA、VIII)、およびNARHトリアセテート(NARH-TA、IX)、またはそれらの塩から選択される少なくとも1つの化合物が、単独で、またはビタミンB1(チアミン、XI)、ビタミンB2(リボフラビン、XII)、ビタミンB3(ニコチン酸またはナイアシン、X)、およびビタミンB6(補助剤形態のピリドキシン、XIII)から選択される1つもしくは複数のビタミンと組み合わせて用いられて、相乗的に、ヒト母乳または市販されている乳児用粉ミルク製品よりも効果的に、乳児ヒト対象における消化管炎症を和らげると考えられている。ニコチンアミドリボシド(NR、I)、ニコチン酸リボシド(NAR、II)、ニコチンアミドモノヌクレオチド(NMN、III)、還元ニコチンアミドリボシド(NRH、IV)、還元ニコチン酸リボシド(NARH、V)、NRトリアセテート(NRTA、VI)、NARトリアセテート(NARTA、VII)、NRHトリアセテート(NRH-TA、VIII)、およびNARHトリアセテート(NARH-TA、IX)、またはそれらの塩から選択される少なくとも1つの化合物を、場合によってはビタミンB1(チアミン、XI)、ビタミンB2(リボフラビン、XII)、ビタミンB3(ニコチン酸またはナイアシン、X)、およびビタミンB6(補助剤形態のピリドキシン、XIII)から選択される1つまたは複数のビタミンと組み合わせて送達することで、ヒト母乳または現在市販されている乳児用粉ミルク製品よりも効果的に乳児ヒト対象における消化管炎症を和らげ、そしてニコチニル化合物(I、II、III、IV、V、VI、VII、VIII、および/またはIX)またはビタミン(X、XI、XII、および/またはXIII)単独よりも効果的に乳児ヒト対象における消化管炎症を和らげると予想される。
【0057】
本明細書中に記載される、少なくとも1つのニコチニル化合物(I、II、III、IV、V、VI、VII、VIII、および/またはIX)、またはその塩を単独で、または少なくとも1つのビタミン(X、XI、XII、および/またはXIII)と組み合わせて、これらを必要とするヒト乳児に送達する本方法の実施形態は、以前に実証されていない。
【0058】
加えて、本送達方法の実施形態は、ヒト母乳または現在市販されている乳児用粉ミルク製品を通して通常受け入れられるレベルよりも高いレベルのNADを、これを必要とするヒト乳児に送達する既存の技術の限界に対処する。
【0059】
本明細書中に記載される、ヒト乳児において、ビタミンB3欠乏が関与する病因に関連した、もしくは当該病因を有する、かつ/またはミトコンドリア活性の増大から利益を得ることとなる症候、疾患、障害、または症状を処置かつ/または予防するための、少なくとも1つのニコチニル化合物(I、II、III、IV、V、VI、VII、VIII、および/またはIX)、またはその塩を単独で、または少なくとも1つのビタミン(X、XI、XII、および/またはXIII)と組み合わせて投与または提供することを含む本方法の実施形態は、以前に実証されていない。
【0060】
加えて、ヒト乳児において、ビタミンB3欠乏が関与する病因に関連した、もしくは当該病因を有する、かつ/またはミトコンドリア活性の増大から利益を得ることとなる症候、疾患、障害、または症状を処置かつ/または予防する本方法の実施形態は、ビタミンB3欠乏が関与する病因に関連した、もしくは当該病因を有する、かつ/またはミトコンドリア活性の増大から利益を得ることとなる症候、疾患、障害、または症状を処置かつ/または予防する既存の技術の限界に対処する。
【0061】
特定の実施形態において、本開示は、ビタミンB3欠乏が関与する病因に関連した、または当該病因を有する症候、疾患、障害、または症状を処置かつ/または予防する方法を提供する。記載される方法に従って処置かつ/または予防され得る、ビタミンB3欠乏が関与する病因に関連した、または当該病因を有する例示的な症候、疾患、障害、または症状として、消化不良、疲労、口内靡爛、嘔吐、循環不良、口腔内灼熱、膨張紅色舌、および鬱状態が挙げられる。重度のビタミンB3欠乏は、ペラグラとして知られている症状、ひび割れの生じた鱗状の皮膚によって特徴付けられる早老症状、痴呆、および下痢を引き起こす虞がある。早老または促進老化によって特徴付けられる他の症状として、コケイン症候群、ニール-ディングウォール症候群、早老症等が挙げられる。
【0062】
特定の実施形態において、本開示は、ミトコンドリア活性の増大から利益を得ることとなる症候、疾患、障害、または症状を処置かつ/または予防する方法を提供する。ミトコンドリア活性の増大は、ミトコンドリアの活性を増大させる一方、ミトコンドリアの全体数(例えばミトコンドリア質量)を維持すること、ミトコンドリアの数を増大させることによってミトコンドリア活性を増大させる(例えば、ミトコンドリアバイオジェネシスを刺激することによる)こと、またはそれらの組合せを指す。特定の実施形態において、ミトコンドリア活性の増大から利益を得ることとなる症候、疾患、障害、または症状として、ミトコンドリア機能障害と関連した症候、疾患、障害、または症状が挙げられる。
【0063】
特定の実施形態において、ミトコンドリア活性の増大から利益を得ることとなる症候、疾患、障害、または症状を処置かつ/または予防する方法は、ミトコンドリア機能障害に苦しむ対象を同定することを含んでよい。分子遺伝学的分析、病理学的分析、および/または生化学的分析を包含し得る、ミトコンドリア機能障害を診断する方法が、Bruce H.Cohen & Deborah R.Gold,Mitochondrial cytopathy in adults:what we know so far,68 CLEVELAND CLINIC J.MED.625(2001)(その全体が参照によって本明細書に組み込まれる)に要約されている。ミトコンドリア機能障害を診断する一方法が、Thor-Byrneierスケールである。例えば、Cohen & Gold,2001参照。S.Collins et al.,Respiratory Chain Encephalomyopathies:A Diagnostic Classification,36 EUROPEAN NEUROLOGY 260(1996)(その全体が参照によって本明細書に組み込まれる)も参照。
【0064】
ミトコンドリアは、ほぼ全ての真核細胞型の生存および適切な機能にとって重要である。実質的にあらゆる細胞型中のミトコンドリアは、その機能に影響を与える先天性欠陥または後天性欠陥を有し得る。ゆえに、呼吸鎖機能に影響を与えるミトコンドリア欠陥の臨床的に重大な徴候および症候は、細胞間の欠陥のあるミトコンドリアの分布およびその欠損の深刻度に、そして冒された細胞に対する生理学的要求に応じて、不均一であり、かつ変動する。エネルギー要求性が高い非分裂性組織、例えば、神経組織、骨格筋、および心筋は特に、ミトコンドリア呼吸鎖機能障害に感受性であるが、いかなる臓器系も影響を受け得る。
【0065】
ミトコンドリア機能障害と関連する症候、疾患、障害、および症状として、ミトコンドリア呼吸鎖活性の欠損が、哺乳類における症候、疾患、障害、または症状の病態生理学の発展に寄与するような症候、疾患、障害、および症状が挙げられる。これは、ミトコンドリア呼吸鎖の1つまたは複数の成分の活性の先天的な遺伝的欠損を含み、そのような欠損は、a)細胞内カルシウムの上昇;b)冒された細胞の、一酸化窒素への曝露;c)低酸素もしくは虚血;d)ミトコンドリアの軸索輸送の微小管関連欠損;またはe)ミトコンドリア脱共役タンパク質の発現によって引き起こされる。
【0066】
ミトコンドリア活性の増大から利益を得ることとなる症候、疾患、障害、または症状として、一般に、例えば、フリーラジカル媒介性酸化障害が組織変性に至る疾患、細胞がアポトーシスを不適切に経験する疾患、および細胞がアポトーシスを経験することができない疾患が挙げられる。ミトコンドリア活性の増大から利益を得ることとなる例示的な症候、疾患、障害、または症状は、例えば、AMDF(運動失調、ミオクローヌス、および難聴)、自己免疫疾患、癌、CIPO(筋疾患による慢性腸偽閉塞および眼筋麻痺)、先天性筋ジストロフィ、CPEO(慢性進行性外眼筋麻痺)、DEAF(母性遺伝性難聴またはアミノグリコシド誘導性難聴)、DEMCHO(痴呆および舞踏病)、真性糖尿病(I型またはII型)、DID-MOAD(尿崩症、真性糖尿病、視神経萎縮、難聴)、DMDF(真性糖尿病および難聴)、ジストニア、運動不耐性、ESOC(癲癇、卒中、視神経萎縮、および認知力低下)、FBSN(家族性両側線条体壊死)、FICP(乳児重症心筋症プラスMELAS関連心筋症)、GER(胃食道逆流)、HD(ハンチントン舞踏病)、KSS(カーンズセイヤー症候群)、「遅延発症型」筋疾患、LDYT(Leber遺伝性視覚神経障害およびジストニア)、リー症候群、LHON(Leber遺伝性視覚神経障害)、LIMM(乳児致死ミトコンドリア性筋障害)、MDM(筋疾患および真性糖尿病)、MELAS(ミトコンドリア脳筋症、乳酸アシドーシス、および卒中様症状)、MEPR(ミオクローヌス癲癇および精神運動退行)、MERME(MERRF/MELAS重複疾患)、MERRF(ミオクローヌス癲癇および赤色ぼろ筋線維)、MHCM(母性遺伝性肥大型心筋症)、MICM(母性遺伝性心筋症)、MILS(母性遺伝性リー症候群)、ミトコンドリア脳心筋症、ミトコンドリア脳筋症、MM(ミトコンドリア性筋障害)、MMC(母性筋疾患および心筋症)、MNGIE(筋疾患および外眼筋麻痺、神経障害、神経胃腸脳症)、なミトコンドリア障害(筋疾患、脳症、失明、聴力損失、末梢神経障害)、NARP(神経原性筋力低下、運動失調、および色素性網膜炎;この遺伝子座での代替の表現型が、リー疾患として報告される)、Pearson症候群、PEM(進行性脳疾患)、PEO(進行性外眼筋麻痺)、PME(進行性ミオクローヌス癲癇)、PMPS(Pearson骨髄-膵臓症候群)、乾癬、RTT(レット症候群)、精神分裂症、SIDS(乳児突然死症候群)、SNHL(感覚神経聴力損失)、多様な家族性症状(臨床徴候が、痙攣性不全対麻痺から多系統進行性障害、そして致死的心筋症から躯幹失調、構音障害、重度の聴力損失、知的退行、眼瞼下垂症、眼麻痺、遠位サイクロン(distal cyclone)、および真性糖尿病に及ぶ)、またはWolfram症候群が挙げられる。
【0067】
ミトコンドリア活性の増大から利益を得ることとなる他の症候、疾患、障害、および症状として、例えば、フリードライヒ運動失調症および他の運動失調症、筋萎縮性側索硬化症(ALS)および他の運動ニューロン疾患、黄斑変性、癲癇、アルパーズ症候群、多発性ミトコンドリアDNA欠失症候群、MtDNA欠乏症候群、複合体I欠損症、複合体II(SDH)欠損症、複合体III欠損症、チトクロームc酸化酵素(COX、複合体IV)欠損症、複合体V欠損症、アデニンヌクレオチドトランスロケータ(ANT)欠損症、ピルビン酸デヒドロゲナーゼ(PDH)欠損症、乳酸血症を伴うエチルマロン酸尿症、感染中に減退を伴う難治性癲癇、感染中に減退を伴う自閉症、感染中に減退を伴う脳性麻痺、母性遺伝性血小板減少症および白血病症候群、MARIAHS症候群(ミトコンドリア運動失調症、反復性感染、失語症、低尿酸血/低髄鞘形成、発作、およびジカルボキシル酸尿症)、ND6失調症、感染中に減退を伴う周期性嘔吐症候群、乳酸血症を伴う3-ヒドロキシイソブチル酸尿症、乳酸血症を伴う真性糖尿病、ウリジン応答性神経症候群(URNS)、拡張型心筋症、脾リンパ腫、または腎尿細管性アシドーシス/糖尿病/運動失調症候群が挙げられる。
【0068】
他の実施形態において、本開示は、以下に限定されないが、外傷後頭部損傷および脳浮腫、卒中(再灌流損傷を処置または予防するのに有用な発明方法)、レヴィー小体型痴呆、肝腎症候群、急性肝不全、NASH(非アルコール性脂肪肝炎)、癌の抗転移/前分化療法、特発性鬱血性心不全、心房細動(非心臓弁膜性)、ウォルフ-パーキンソン-ホワイト症候群、特発性心臓ブロック、急性心筋梗塞における再灌流損傷の予防、家族性偏頭痛、過敏性大腸症候群、非-Q波心筋梗塞の二次的予防、月経前症候群、肝腎症候群における腎不全の予防、抗リン脂質抗体症候群、子癇/子癇前症、虚血性心疾患/狭心症、ならびにシャイ-ドレーガーおよび分類不能の自律神経障害症候群から生じるミトコンドリア障害に苦しむヒト乳児を処置する方法を提供する。
【0069】
ミトコンドリア疾患の一般的な症候として、心筋症、筋力低下および萎縮、発達遅延、(運動機能、言語機能、認知機能、または実行機能を包含する)、運動失調、癲癇、尿細管性アシドーシス、末梢神経障害、視覚神経障害、自律神経障害、神経原性腸機能不全、感覚神経性難聴、神経原性膀胱機能不全、拡張型心筋症、肝不全、乳酸血症、および真性糖尿病が挙げられる。
【0070】
例示的な実施形態において、本開示は、ミトコンドリア活性の増大から利益を得ることとなる疾患または障害を、治療的に有効な量の少なくとも1つのニコチニル化合物(I、II、III、IV、V、VI、VII、VIII、および/またはIX)、またはその塩を単独で、または少なくとも1つのビタミン(X、XI、XII、および/またはXIII)と組み合わせて、ヒト乳児に投与することによって処置する方法を提供する。例示的な疾患または障害として、以下に限定されないが、例えば、神経筋障害(例えば、フリードライヒ運動失調症、筋ジストロフィ、多発性硬化症その他)、ニューロン不安定性の障害(例えば、発作障害、偏頭痛その他)、発達遅延、虚血、尿細管性アシドーシス、化学療法による疲労、ミトコンドリア筋疾患、ミトコンドリア損傷(例えば、カルシウム蓄積、興奮毒性、一酸化窒素曝露、低酸素その他)、およびミトコンドリア調節解除(mitochondrial deregulation)が挙げられる。
【0071】
最も一般的な遺伝性運動失調症であるフリードライヒ運動失調症(FA)の根底にある遺伝子欠損が最近同定された。これは、「フラタキシン」と指定されている。FAにおいて、正常な発育期間の後、典型的には30~40歳の間に、協調の欠如が起きて、麻痺および死に進行する。最も激しく影響を受ける組織は、脊髄、末梢神経、心筋、および膵臓である。患者は典型的に、運動制御を失って、車椅子に制限されて、一般的に心不全および糖尿病で苦しめられる。FAの遺伝的基礎は、フラタキシンをコードする遺伝子のイントロン領域中にGAAトリヌクレオチド反復を包含する。当該反復の存在は、遺伝子の転写および発現を引き下げる。フラタキシンは、ミトコンドリアの鉄含有量の調節に関与する。細胞のフラタキシン含有量が正常以下である場合、過剰な鉄がミトコンドリア中に蓄積して、酸化損傷、そしてそれに伴うミトコンドリア変性および機能不全を促進する。中間の数のGAA反復がフラタキシン遺伝子イントロン中に存在する場合、運動失調症の重度の臨床的表現型は、発達し得ない。しかしながら、当該中間の長さのトリヌクレオチドの伸長が、糖尿病に罹っていない集団の約5%と比較して、インスリン非依存性真性糖尿病患者の25~30%において見出される。特定の実施形態において、治療的に有効な量の少なくとも1つのニコチニル化合物(I、II、III、IV、V、VI、VII、VIII、および/またはIX)、またはその塩が、単独で、または少なくとも1つのビタミン(X、XI、XII、またはXIII)と組み合わせて用いられて、フラタキシンの欠乏または欠陥に関係がある、フリードライヒ運動失調症、心筋機能不全、真性糖尿病、および糖尿病様神経障害の合併症が挙げられる障害のあるヒト乳児を処置し得る。
【0072】
筋ジストロフィは、神経筋の構造および機能の悪化に関与して、多くの場合骨格筋の萎縮および心筋機能不全をもたらす疾患のファミリーを指す。デュシェンヌ型筋ジストロフィの場合、特定のタンパク質、ジストロフィン中の突然変異または欠損が、その病因に関係する。ジストロフィン遺伝子が不活化されたマウスは、筋ジストロフィの一部の特性を示し、そしてミトコンドリア呼吸鎖活性がおおよそ50%不足している。神経筋変性の一般的な経路の最後は、ほとんどの場合、ミトコンドリア機能のカルシウム媒介性障害である。特定の実施形態において、治療的に有効な量の少なくとも1つのニコチニル化合物(I、II、III、IV、V、VI、VII、VIII、および/またはIX)、またはその塩が、単独で、または少なくとも1つのビタミン(X、XI、XII、および/またはXIII)と組み合わせて用いられて、筋ジストロフィのヒト乳児において、筋肉の機能的能力の低下速度を引き下げ得、かつ筋肉の機能的状態を向上させ得る。
【0073】
癲癇は、多くの場合、ミトコンドリア細胞変性患者に存在し、例えば、不在、緊張性、無緊張性、筋クローヌス性、そしててんかん重積状態といった広範な発作の重篤度および頻度を包含し、単発で、または毎日何回も発症する。特定の実施形態において、治療的に有効な量の少なくとも1つのニコチニル化合物(I、II、III、IV、V、VI、VII、VIII、および/またはIX)、またはその塩が、単独で、または少なくとも1つのビタミン(X、XI、XII、および/またはXIII)と組み合わせて用いられて、ミトコンドリア機能不全の二次的影響である発作のあるヒト乳児を処置し得、発作活性の頻度および重篤度を引き下げることを含む。
【0074】
神経学的発達または神経心理学的発達の遅延が、多くの場合、ミトコンドリア疾患の小児に見られる。神経連絡の発達およびリモデリングは、集約的な生合成活性を必要とし、特にニューロン膜およびミエリンの合成を包含し、それらは双方ともピリミジンヌクレオチドを補因子として必要とする。ウリジンヌクレオチドが、糖脂質および糖タンパク質への糖の活性化および移行に関与する。シチジンヌクレオチドが、ウリジンヌクレオチドに由来し、そしてコリン部分をシチジンジホスホコリンから受け取るホスファチジルコリンのような主要な膜リン脂質構成成分の合成にとって重要である。ミトコンドリア機能不全(ミトコンドリアDNA欠陥、または興奮毒性もしくは一酸化窒素媒介性のミトコンドリア機能不全のような後天性欠損もしくは条件付き欠損の何れかに起因する)、または障害のあるピリミジン合成をもたらす他の症状の場合、細胞増殖および軸索伸長が、ニューロン相互連絡およびニューロン回路の発達における重要な段階にて弱められて、言語機能、運動機能、社会的機能、実行機能、および認知技術のような神経心理学的機能の発達を遅延または停止させる。自閉症において、例えば、脳のホスフェート化合物の磁気共鳴分光法測定により、ウリジンジホスホ糖のレベルの引下げによって示される膜および膜前駆体、ならびに膜合成に関与するシチジンヌクレオチド誘導体の全体的な合成不足が存在することが示される。発達遅延によって特徴付けられる障害として、レット症候群、広汎性発達遅延(または自閉症のような特定のサブカテゴリから識別するためのPDD-NOS「特定不能の広汎性発達障害」)、自閉症、アスペルガー症候群、および注意力欠陥/活動亢進障害(ADHD)が挙げられる。当該障害は、実行機能の根底にある神経回路の発達の遅延または遅れとして認識されつつある。特定の実施形態において、治療的に有効な量の少なくとも1つのニコチニル化合物(I、II、III、IV、V、VI、VII、VIII、および/またはIX)、またはその塩が、単独で、または少なくとも1つのビタミン(X、XI、XII、および/またはXIII)と組み合わされて、神経発達の遅延(例えば、運動機能、言語機能、実行機能、および認知技術に関与する)、または神経系における神経学的発達および神経心理学的発達、ならびに筋肉および内分泌腺のような非神経組織における体細胞の発達の他の遅延もしくは停止があるヒト乳児を処置するのに有用であり得る。
【0075】
酸素不足は、細胞から複合体IVのシトクロムc再酸化用の最終電子受容体を奪うことによるミトコンドリア呼吸鎖活性の直接的阻害で、そして間接的に、とりわけ神経系において、二次的な無酸素後の興奮毒性および一酸化窒素形成を介して、生じる。脳無酸素症、狭心症、または鎌状血球貧血のクリーゼのような症状において、組織は比較的低酸素である。そのような場合、ミトコンドリア活性を増大させる化合物は、冒された組織を低酸素の悪影響から保護し、二次的遅延細胞死を減衰させ、かつ低酸素組織のストレスおよび損傷からの回復を早める。特定の実施形態において、治療的に有効な量の少なくとも1つのニコチニル化合物(I、II、III、IV、V、VI、VII、VIII、および/またはIX)、またはその塩が、単独で、または少なくとも1つのビタミン(X、XI、XII、および/またはXIII)と組み合わされて、脳への虚血性傷害または低酸素性傷害の後の遅延細胞死(脳虚血の発症の約2~5日後に起こる、海馬または皮質のような領域におけるアポトーシス)を処置かつ/または予防するのに有用であり得る。
【0076】
腎臓機能不全に起因するアシドーシスは、多くの場合、根底にある呼吸鎖機能不全が、先天性であるか、虚血、またはシスプラチンのような細胞毒性剤によって誘導されるかに拘らず、ミトコンドリア疾患の患者において観察される。尿細管性アシドーシスは、多くの場合、血液および組織のpHを維持するのに外因性重炭酸ナトリウムの投与を必要とする。特定の実施形態において、治療的に有効な量の少なくとも1つのニコチニル化合物(I、II、III、IV、V、VI、VII、VIII、および/またはIX)、またはその塩が、単独で、または少なくとも1つのビタミン(X、XI、XII、および/またはXIII)と組み合わされて、ミトコンドリア呼吸鎖欠損によって引き起こされる尿細管性アシドーシスおよび他の形態の腎機能不全を処置かつ/または予防するのに有用であり得る。
【0077】
ミトコンドリアDNA損傷は、酸化ストレス、またはシスプラチンのような癌化学療法剤に曝された細胞において、ミトコンドリアDNAの脆弱さがより大きく、かつ修復がより効率的でないことに起因して、核DNAの損傷よりも広範囲にわたり、かつより長く持続する。ミトコンドリアDNAは、核DNAよりも損傷に感受性であり得るが、一部の状況では、化学物質発癌因子による突然変異誘発に対して比較的耐性を示す。これは、ミトコンドリアが、欠陥のあるゲノムの修復を試みるよりはむしろ、欠陥のあるゲノムを破壊することによって、一部のミトコンドリアDNA損傷型に応じるからである。これにより、細胞毒性化学療法後の一定期間で、ミトコンドリアが全体的に機能不全となる。シスプラチン、マイトマイシン、およびシトキサンのような化学療法剤の臨床的使用は、多くの場合、「化学療法疲労」の衰弱を伴い、長期間にわたる虚弱および運動不耐性が、そのような剤の血液学的毒性および消化管毒性からの回復後でさえ持続し得る。特定の実施形態において、治療的に有効な量の少なくとも1つのニコチニル化合物(I、II、III、IV、V、VI、VII、VIII、および/またはIX)、またはその塩が、単独で、または少なくとも1つのビタミン(X、XI、XII、および/またはXIII)と組み合わされて、ミトコンドリア機能不全に関係がある癌化学療法の副作用の処置および/または予防に有用であり得る。
【0078】
特定の実施形態において、治療的に有効な量の少なくとも1つのニコチニル化合物(I、II、III、IV、V、VI、VII、VIII、および/またはIX)、またはその塩が、単独で、または少なくとも1つのビタミン(X、XI、XII、および/またはXIII)と組み合わされて、ミトコンドリア筋疾患の処置および/または予防に有用であり得る。ミトコンドリア筋疾患は、外眼筋の軽度の、遅い進行性の虚弱から、重度の、乳児致死筋疾患および多系統脳筋症に及ぶ。いくつかの症候が定義され、それらの間で一部重複がある。筋肉に影響を与える確立された症候群として、進行性外眼筋麻痺、カーンズセイヤー症候群(眼筋麻痺、色素網膜症、心伝導障害、小脳性運動失調症、および感覚神経性難聴を伴う)、MELAS症候群(ミトコンドリア脳筋症、乳酸アシドーシス、および卒中様症状)、MERFF症候群(ミオクローヌス癲癇および赤色ぼろ線維)、肢帯筋の脱力、および乳児筋疾患(良性、または重度かつ致死的)が挙げられる。修飾Gomoriトリクローム染色で染色された筋生検標本は、ミトコンドリアの過剰な蓄積に起因する赤色ぼろ線維を示す。基質の輸送および利用、クレブズ回路、酸化的リン酸化、または呼吸鎖における生化学的欠陥が検出可能である。母性の非メンデル性遺伝パターンで伝えられる、ミトコンドリアDNAの多数の点突然変異および欠失が記載されている。核にコードされたミトコンドリア酵素中に突然変異が生じる。
【0079】
特定の実施形態において、治療的に有効な量の少なくとも1つのニコチニル化合物(I、II、III、IV、V、VI、VII、VIII、および/またはIX)、またはその塩が、単独で、または少なくとも1つのビタミン(X、XI、XII、および/またはXIII)と組み合わされて、ミトコンドリアに有毒な損傷、例えば、カルシウム蓄積、興奮毒性、一酸化窒素曝露、薬物誘導性毒性損傷、または低酸素に起因する毒性損傷に苦しむ患者を処置するのに有用であり得る。
【0080】
細胞損傷の基本的な機構は、とりわけ興奮性組織において、原形質膜を通じての漏出または細胞内カルシウムハンドリング機構の欠陥の結果としての、細胞中への過剰なカルシウムエントリを包含する。ミトコンドリアは、カルシウム隔離の主要な部位であり、ATP合成のためというよりはむしろカルシウム吸収のために呼吸鎖からエネルギーを優先して利用しており、これによりミトコンドリアの下降スパイラルが失敗する。なぜなら、ミトコンドリア中へのカルシウム吸収により、エネルギー変換能力が減弱するからである。
【0081】
興奮性アミノ酸によるニューロンの過剰な刺激が、細胞死の一般的な機構または中枢神経系の損傷である。グルタメート受容体の、とりわけサブタイプ指定されたNMDA受容体の活性化が、部分的に、興奮毒性刺激中の細胞内カルシウムの上昇により、ミトコンドリア機能不全をもたらす。逆に、ミトコンドリア呼吸および酸化的リン酸化の欠損は、細胞を興奮毒性刺激に対して敏感にし、正常な細胞に対して無害であろうレベルの興奮毒性神経伝達物質または毒物への曝露中に、細胞死または細胞損傷をもたらす。
【0082】
一酸化窒素(約1マイクロモル)が、シトクロムオキシダーゼ(複合体IV)を阻害することによって、ミトコンドリア呼吸を阻害する;さらに、一酸化窒素(NO)への長期間にわたる曝露により、複合体I活性が不可逆的に引き下げられる。それによるNOの生理学的濃度または病理生理学的濃度が、ピリミジン生合成を阻害する。一酸化窒素は、中枢神経系の炎症性疾患および自己免疫疾患が挙げられる種々の神経変性障害に関係し、かつニューロンに対する興奮毒性損傷および低酸素後損傷の媒介に関与する。
【0083】
酸素は、呼吸鎖において最終電子受容体である。酸素不足は、電子伝達鎖の活性を弱めて、酸化的リン酸化を介してピリミジン合成を減弱させるだけでなく、ATP合成を減弱させる。ヒト細胞は、ウリジンおよびピルベート(またはNADHを酸化して解糖ATP生成を最適化する、同様に有効な剤)が提供されるならば、実質的に嫌気性条件下で増殖し、かつ生存度を保持する。
【0084】
特定の実施形態において、治療的に有効な量の少なくとも1つのニコチニル化合物(I、II、III、IV、V、VI、VII、VIII、および/またはIX)、またはその塩が、単独で、または少なくとも1つのビタミン(X、XI、XII、および/またはXIII)と組み合わされて、ミトコンドリア調節解除と関連する疾患または障害を処置かつ/または予防するのに有用であり得る。
【0085】
呼吸鎖成分をコードするミトコンドリアDNAの転写は、核因子を必要とする。ニューロン軸索において、ミトコンドリアは、呼吸鎖活性を維持するために、核を往復しなければならない。軸索輸送が、低酸素によって、または微小管安定性に影響を与えるタキソールのような薬物によって弱められるならば、核から遠く離れているミトコンドリアは、シトクロムオキシダーゼ活性の低下を経験する。したがって、特定の実施形態において、治療的に有効な量の少なくとも1つのニコチニル化合物(I、II、III、IV、V、VI、VII、VIII、および/またはIX)、またはその塩の単独での、または少なくとも1つのビタミン(X、XI、XII、および/またはXIII)と組み合わせた処置が、核-ミトコンドリア相互作用を促進するのに有用であり得る。
【0086】
ミトコンドリアは、とりわけ、1つまたは複数の呼吸鎖成分の欠損が、代謝中間体から分子酸素への電子の整然とした移行を弱める場合、ミトコンドリア呼吸鎖からのスピルオーバーに起因する、遊離ラジカルおよび反応性酸素種の主要ソースである。酸化損傷を和らげるために、細胞は、ミトコンドリア脱共役タンパク質(「UCP」)を発現することによって補償することができ、そのいくつかが同定されている。UCP-2は、酸化損傷、炎症性サイトカイン、または過剰な脂質負荷、例えば、脂肪肝および脂肪肝炎に応じて転写される。UCPは、ミトコンドリア内膜を越えてプロトン勾配を放出し、実質的に、代謝によって生成されるエネルギーを浪費し、かつ酸化損傷の緩和のトレードオフとして、細胞を、エネルギーストレスに対して影響を受け易くすることによって、ミトコンドリアからの反応性酸素種のスピルオーバーを引き下げる。
【0087】
特定の実施形態において、本開示は、異常な神経発生を引き起こす虞がある慢性炎症からヒト乳児を保護する方法を提供する。粉ミルクで育てられた乳児は、腸内バランス異常(dysbiotic)があり得、これは、乳児が母乳で育てられた場合の腸ミクロフローラと同じでないであろうことを意味する。例えば、ビフィドバクテリウム(Bifidobacteria)属は、粉ミルクで育てられた乳児と比較して、母乳で育てられた乳児の腸内でより多く見られる。Gordon Cooke et al.,Comparing the gut flora of Irish breastfed and formula-fed neonates aged between birth and 6 weeks old,17 MICROBIAL ECOLOGY IN HEALTH & DISEASE 163(2005)(その全体が参照によって本明細書に組み込まれる)参照。さらに、大腸菌(E.coli)およびエンテロコッカス属(Enterococci)が、粉ミルクで育てられた乳児の腸内でより多く見られた。この観察された腸内バランス異常(dysbiosis)が、炎症を促進して、今度は神経発生を阻害し得るエンドトキシンを生成する虞がある。Raz Yirmiya & Inbal Goshen,Immune modulation of learning,memory,neural plasticity,and neurogenesis,25 BRAIN,BEHAVIOR,& IMMUNITY 181(2011)(その全体が参照によって本明細書に組み込まれる)。さらに、ニコチンアミド(NamまたはNM)が、ラットにおいて炎症および認知障害を低くすることが示されてきた。Ying Wang & Min Zuo,Nicotinamide improves sevoflurane-induced cognitive impairment through suppression of inflammation and anti-apoptosis in rat,8 INT’L J.CLIN.EXP.MED.20079(2015)(その全体が参照によって本明細書に組み込まれる)参照。本発明の特定の実施形態が、炎症を抑制し、かつ健康な神経発生を促進すると考えられている。さらに、本開示の特定の実施形態が、健康な脳の発達および機能に役立つ健康な腸-脳軸を促進すると考えられている。
【0088】
別の実施形態において、本開示は、健康な神経学的発達を促進するための早産児のタンパク質エネルギー需要の最適化を満たす方法を提供する。当該早産児は、栄養失調の危険性が高い。エネルギー代謝と神経発生との関連が確立されている。Kristin Keunen et al.,Impact of nutrition on brain development and its neuroprotective implications following preterm birth,77 PEDIATRIC RESEARCH 148(2015)(その全体が参照によって本明細書に組み込まれる)参照。通常、後期の妊娠期間には、重要な脳の成長および脳の成熟が起こる。本開示の特定の実施形態は、未熟児だけでなく満期乳児における健康な神経発生のための方法を提供する。第1週のタンパク質およびエネルギー摂取が、とりわけ、早期の、非常に低体重の乳幼児にとって有益であることが示されてきた。Bonnie E.Stephens et al.,First-Week Protein and Energy Intakes Are Associated With 18-Month Developmental Outcomes in Extremely Low Birth Weight Infants,123 PEDIATRICS 1337(2009)(その全体が参照によって本明細書に組み込まれる)。ニコチンアミドリボシド(NR、I)は、効率的なNAD前駆体であるので、エネルギー需要が重要であるあらゆる乳児に投与されるべきであることが示されてきた。
【0089】
別の実施形態において、本開示は、早朝の肥満を招くプログラミングを妨げ、かつ/または逆転することが必要なヒト乳児を処置する方法を提供する。研究により、肥満を招く母体食じが胎児の成長に影響を与える虞があり、これが将来の健康に影響し得ることが示されている。Amanda N.Sferruzzi-Perri et al.,An obesogenic diet during mouse pregnancy modifies maternal nutrient partitioning and the fetal growth trajectory,FASEB J.3928(2013)(その全体が参照によって本明細書に組み込まれる)。ニコチンアミドリボシド(NR、I)は、高脂肪食をより効率的に代謝することが示されてきたので、ニコチンアミドリボシド(NR、I)に抗肥満効果があると考えられている。具体的には、高脂肪食のマウスは、ニコチンアミドリボシド(NR、I)を補充した場合、体重増加が40%未満であることが示された。Carles Cantoe et al.,The NAD Precursor Nicotinamide Riboside Enhances Oxidative Metabolism and Protects Against High-Fat Diet-Induced Obesity,15 CELL METABOLISM 838(2012)(その全体が参照によって本明細書に組み込まれる)。
【0090】
別の実施形態において、本開示は、早期の乳児成長に必要とされる重要なビタミンで乳児用粉ミルクを補充する方法を提供する。驚くべきことに、ヒト母乳のビタミンB含有量を経時的に実証した一研究により、Bビタミンは、成乳よりも初乳中で低いことが実証された。Xiangnan Ren et al.,B-Vitamin Levels in Human Milk among Different Lactation Stages and Areas in China,10 PLOS ONE e0133285(2015)(その全体が参照によって本明細書に組み込まれる)参照。Ren et al.は、ビタミンB3含有量について、ナイアシン(X)およびニコチンアミド(NamまたはNM)しか見なかった。ニコチンアミドリボシド(NR、I)は、急速に成長中の乳児のエネルギー需要にとって必須である、早朝の乳生成における重要なビタミンB3ソースであると考えられている。
【0091】
本発明に従うニコチニル化合物(I、II、III、IV、V、VI、VII、VIII、およびIX)の塩
本発明のニコチニル化合物(I、II、III、IV、V、VI、VII、VIII、およびIX)を用いる本方法は、塩の形態をとってもよい。用語「塩」は、本発明の方法のニコチニル化合物(I、II、III、IV、V、VI、VII、VIII、およびIX)である遊離酸または遊離塩基の付加塩を含む。用語「薬学的に許容可能な塩」は、医薬用途において有用性を与える範囲内の毒性プロフィールを有する塩を指す。
【0092】
適切な、薬学的に許容可能な酸付加塩は、無機酸から調製されても有機酸から調製されてもよい。有機酸の例として、塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、硝酸、炭酸、硫酸、およびリン酸が挙げられる。適切な有機酸は、有機酸の脂肪族クラス、脂環式クラス、芳香族クラス、芳香脂肪族クラス、複素環式クラス、カルボキシルクラス、およびスルホンクラスから選択され得、それらの例として、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、コハク酸、グリコール酸、グルコン酸、乳酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、アスコルビン酸、グルクロン酸、マレイン酸、フマル酸、ピルビン酸、アスパラギン酸、グルタミン酸、安息香酸、アントラニル酸、4-ヒドロキシ安息香酸、フェニル酢酸、マンデル酸、エンボン酸(パモ酸)、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、パントテン酸、トリフルオロ酢酸、トリフルオロメタンスルホン酸、2-ヒドロキシエタンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、スルファニル酸、シクロヘキシルアミノスルホン酸、ステアリン酸、アルギン酸、β-ヒドロキシ酪酸、サリチル酸、ガラクタル酸、およびガラクツロン酸が挙げられる。ニコチニル化合物(I、II、III、IV、V、VI、VII、VIII、およびIX)、すなわちアミノ基およびピリジニウム基を含有する化合物の使用の本例において、前記化合物は、無機酸または強有機酸、例えば、塩酸またはトリフルオロ酢酸の塩として単離され得る。
【0093】
本発明の方法のニコチニル化合物の適切な、薬学的に許容可能な塩基付加塩として、以下に限定されないが、例えば、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、および遷移金属塩、例えばカルシウム塩、マグネシウム塩、カリウム塩、ナトリウム塩、および亜鉛塩が挙げられる金属塩が挙げられる。また、薬学的に許容可能な塩基付加塩として、塩基性のアミン、例えば、N,N-ジベンジルエチレンジアミン、クロロプロカイン、コリン、ジエタノールアミン、エチレンジアミン、メグルミン(N-メチルグルカミン)、トロメタミン(トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン)、およびプロカインから形成される有機塩が挙げられる。
【0094】
場合によっては、塩基性の対イオンまたはアニオンが存在し、前記塩基性の対イオンまたはアニオンは、フッ化物イオン、塩化物イオン、臭化物イオン、ヨウ化物イオン、ギ酸イオン、酢酸イオン、アスコルビン酸イオン、安息香酸イオン、炭酸イオン、塩酸イオン、カルバミン酸イオン、ギ酸イオン、グルコン酸イオン、乳酸イオン、臭化メチル、硫酸メチル、硝酸イオン、リン酸イオン、二リン酸イオン、コハク酸イオン、硫酸イオン、トリフルオロメタンスルホン酸イオン、およびトリフルオロ酢酸イオンからなる群から選択され;
【0095】
場合によっては、塩基性の対イオンまたはアニオンは、分子内塩であり;
【0096】
場合によっては、塩基性の対イオンまたはアニオンは、モノカルボン酸、ジカルボン酸、またはポリカルボン酸から選択される置換されたカルボン酸または置換されていないカルボン酸のアニオンであり;
【0097】
場合によっては、塩基性の対イオンまたはアニオンは、置換されたモノカルボン酸のアニオンであり、さらに、場合によっては、置換されたプロパン酸のアニオン(プロパノエートまたはプロピオネート)、または置換された酢酸のアニオン(アセテート)、またはヒドロキシプロパン酸のアニオン、または2-ヒドロキシプロパン酸(乳酸である)のアニオン(乳酸のアニオンはラクテートである)、またはトリクロロアセテート、トリブロモアセテート、およびトリフルオロアセテートから選択されるトリハロアセテートであり;
【0098】
場合によっては、塩基性の対イオンまたはアニオンは、アニオンがそれぞれホルメート、アセテート、プロピオネート、およびブチレートである、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、または酪酸から選択される、置換されていないモノカルボン酸のアニオンであり;
【0099】
場合によっては、塩基性の対イオンまたはアニオンは、場合によっては、アニオンがそれぞれグルタメートおよびアスパルテートであるグルタミン酸およびアスパラギン酸から選択される、置換されているアミノ酸または置換されていないアミノ酸、すなわちアミノモノカルボン酸またはアミノジカルボン酸のアニオンであり;
【0100】
場合によっては、塩基性の対イオンまたはアニオンは、アスコルベートであるアスコルビン酸のアニオンであり;
【0101】
場合によっては、塩基性の対イオンまたはアニオンは、フッ化物イオン、塩化物イオン、臭化物イオン、またはヨウ化物イオンから選択されるハロゲン化物イオンであり;
【0102】
場合によっては、塩基性の対イオンまたはアニオンは、置換されているスルホネートまたは置換されていないスルホネート、さらに、場合によっては、トリフルオロメタンスルホネート、トリブロモメタンスルホネート、またはトリクロロメタンスルホネートから選択されるトリハロメタンスルホネートのアニオンであり;
【0103】
場合によっては、塩基性の対イオンまたはアニオンは、置換されているカーボネートまたは置換されていないカーボネート、さらに場合によっては水素カーボネートのアニオンである。
【0104】
これらの塩は全て、対応するニコチニル化合物(I、II、III、IV、V、VI、VII、VIII、およびIX)から、従来の手段によって、例えば、適切な酸または塩基をニコチニル化合物(I、II、III、IV、V、VI、VII、VIII、およびIX)と反応させることによって、調製され得る。好ましくは、塩は、結晶形態、または代わりに、乾燥形態もしくは凍結乾燥形態である。当業者であれば、例えば、P.H.STAHL & C.G.WERMUTH,HANDBOOK OF PHARMACEUTICAL SALTS:PROPERTIES,SELECTION,AND USE(Wiley-VCH 2012)(その全体が参照によって本明細書に組み込まれる)において記載されるように、適切な形態をどのように調製かつ選択するかが分かるであろう。
【0105】
本発明の送達系および投与系
本明細書中に記載される方法は、高用量の1つまたは複数のニコチニル化合物(I、II、III、IV、V、VI、VII、VIII、および/またはIX)もしくはそれらの塩を単独で、あるいは1つまたは複数のビタミン(X、XI、XII、および/またはXIII)と組み合わせて、例えばピルの形態で、対象に、毎日、または隔日、または週一回、投与することを含んでよい。高用量の1つまたは複数のニコチニル化合物(I、II、III、IV、V、VI、VII、VIII、および/またはIX)もしくはそれらの塩が単独で、あるいは1つまたは複数のビタミン(X、XI、XII、および/またはXIII)と組み合わされて、対象に毎日投与される実施形態において、1つまたは複数のニコチニル化合物(I、II、III、IV、V、VI、VII、VIII、および/またはIX)もしくはそれらの塩が単独で、あるいは1つまたは複数のビタミン(X、XI、XII、および/またはXIII)と組み合わされて、1日1回投与されてよい。他の実施形態では、1日2回、または3回投与される。
【0106】
一部の実施形態において、高用量の1つまたは複数のニコチニル化合物(I、II、III、IV、V、VI、VII、VIII、および/またはIX)もしくはそれらの塩が単独で、あるいは1つまたは複数のビタミン(X、XI、XII、および/またはXIII)と組み合わされて、持続的放出剤形で、例えば、1つまたは複数のニコチニル化合物(I、II、III、IV、V、VI、VII、VIII、および/またはIX)もしくはそれらの塩を単独で、あるいは1つまたは複数のビタミン(X、XI、XII、および/またはXIII)と組み合わせて、対象に、少なくとも12時間の期間にわたって送達するために、ネオ粒子(neoparticle)中に包埋またはカプセル化することによって、投与される。1つまたは複数のニコチニル化合物(I、II、III、IV、V、VI、VII、VIII、および/またはIX)もしくはそれらの塩が単独で、あるいは1つまたは複数のビタミン(X、XI、XII、および/またはXIII)と組み合わされて、対象に持続的放出剤形で投与される実施形態において、高用量の1つまたは複数のニコチニル化合物(I、II、III、IV、V、VI、VII、VIII、および/またはIX)もしくはそれらの塩が単独で、あるいは1つまたは複数のビタミン(X、XI、XII、および/またはXIII)と組み合わされて、例えば、少なくとも約12、15、18、24、または36時間以上の期間にわたって持続的に送達されるように、投与されてよい。他の実施形態において、1日以上の期間にわたって持続的に送達されるように投与される。さらに他の実施形態において、1週以上の期間にわたって持続的に送達されるように投与される。
【0107】
特定の実施形態において、1つまたは複数のニコチニル化合物(I、II、III、IV、V、VI、VII、VIII、および/またはIX)もしくはそれらの塩が単独で、あるいは1つまたは複数のビタミン(X、XI、XII、および/またはXIII)と組み合わされて、栄養補助食品剤形で投与される。「栄養補助食品」は、その栄養的利益以外の付加的な利益を提供するあらゆる機能的食物(飲料を含む)である。好ましい実施形態において、約0.1重量%から約99重量%、または約0.1重量%から約10重量%の1つまたは複数のニコチニル化合物(I、II、III、IV、V、VI、VII、VIII、および/またはIX)もしくはそれらの塩を単独で、あるいは1つまたは複数のビタミン(X、XI、XII、および/またはXIII)と組み合わせて含有する栄養補助食品が提供される。好ましい実施形態において、本明細書中に記載される高用量の1つまたは複数のニコチニル化合物(I、II、III、IV、V、VI、VII、VIII、および/またはIX)もしくはそれらの塩が単独で、あるいは1つまたは複数のビタミン(X、XI、XII、および/またはXIII)と組み合わされて、1回分の食物または飲料で投与される。好ましい剤形において、1つまたは複数のニコチニル化合物(I、II、III、IV、V、VI、VII、VIII、および/またはIX)もしくはそれらの塩の単独の、あるいは1つまたは複数のビタミン(X、XI、XII、および/またはXIII)と組み合わせての量を含有し、1つまたは複数のニコチニル化合物(I、II、III、IV、V、VI、VII、VIII、および/またはIX)もしくはそれらの塩の単独の、あるいは1つまたは複数のビタミン(X、XI、XII、および/またはXIII)と組み合わせての、合計25mgの生理学的効果と等しい、またはそれよりも大きい生理学的効果を有する単一剤形(例えば、飲料、例えば水、風味をつけた水、または果汁の8液量オンス分)が提供される。他の実施形態において、1つまたは複数のニコチニル化合物(I、II、III、IV、V、VI、VII、VIII、および/またはIX)もしくはそれらの塩の単独の、あるいは1つまたは複数のビタミン(X、XI、XII、および/またはXIII)と組み合わせての総量を含有し、8液量オンスあたり、1つまたは複数のニコチニル化合物(I、II、III、IV、V、VI、VII、VIII、および/またはIX)もしくはそれらの塩の単独の、あるいは1つまたは複数のビタミン(X、XI、XII、および/またはXIII)と組み合わせての、約10、15、20、25、50、60、75、80、100、150、または200mg以上の生理学的効果と等しいか、それよりも大きい生理学的効果を有する単一剤形が提供される。他の好ましい実施形態において、1つまたは複数のニコチニル化合物(I、II、III、IV、V、VI、VII、VIII、および/またはIX)もしくはそれらの塩の単独の、あるいは1つまたは複数のビタミン(X、XI、XII、および/またはXIII)と組み合わせての総量を含有し、1つまたは複数のニコチニル化合物(I、II、III、IV、V、VI、VII、VIII、および/またはIX)もしくはそれらの塩の単独の、あるいは1つまたは複数のビタミン(X、XI、XII、および/またはXIII)と組み合わせての、100mgの生理学的効果と等しい、またはそれよりも大きい生理学的効果を有する単一剤形(例えば、食物の一回分、例えば栄養バー)が提供される。一部の実施形態において、食物は、一回分あたり100~500kcalを供給する。他の実施形態において、1つまたは複数のニコチニル化合物(I、II、III、IV、V、VI、VII、VIII、および/またはIX)もしくはそれらの塩の単独の、あるいは1つまたは複数のビタミン(X、XI、XII、および/またはXIII)と組み合わせての総量を含有し、100~500kcalあたり、1つまたは複数のニコチニル化合物(I、II、III、IV、V、VI、VII、VIII、および/またはIX)もしくはそれらの塩の単独の、あるいは1つまたは複数のビタミン(X、XI、XII、および/またはXIII)と組み合わせての、20、50、60、75、80、100、150、200、または250mg以上の生理学的効果と等しいか、それよりも大きい生理学的効果を有する単一剤形が提供される。フレーズ「1つまたは複数のニコチニル化合物(I、II、III、IV、V、VI、VII、VIII、および/またはIX)もしくはそれらの塩の単独の、あるいは1つまたは複数のビタミン(X、XI、XII、および/またはXIII)と組み合わせての総量」は、単一剤形で存在する1つまたは複数のニコチニル化合物(I、II、III、IV、V、VI、VII、VIII、および/またはIX)もしくはそれらの塩の単独の、あるいは1つまたは複数のビタミン(X、XI、XII、および/またはXIII)と組み合わせての総量を指す。
【0108】
種々の実施形態において、1つまたは複数のニコチニル化合物(I、II、III、IV、V、VI、VII、VIII、および/またはIX)もしくはそれらの塩を単独で、あるいは1つまたは複数のビタミン(X、XI、XII、および/またはXIII)と組み合わせて含む栄養補助食品は、種々のいかなる食物であっても飲料であってもよい。例えば、栄養補助食品として、飲料、例えば栄養飲料、ダイエット飲料(例えば、Slimfast(商標)、Boost(商標)等)、ならびにスポーツ飲料、ハーブ飲料、および他の強化飲料が挙げられ得る。加えて、栄養補助食品として、ヒトまたは動物による消費が意図される食物、例えば焼いた食品、例えば、パン、ウェハース、クッキー、クラッカー、プレッツェル、ピザ、およびロールパン;直ぐに食べられる(「RTE」)朝食シリアル、ホットシリアル;パスタ製品;スナック、例えば果実スナック、塩味スナック、穀物スナック、栄養バー、および電子レンジ用ポップコーン;乳製品、例えば、ヨーグルト、チーズ、およびアイスクリーム;甘味菓子、例えば、ハードキャンディ、ソフトキャンディ、およびチョコレート;飲料;飼料;ペットフード、例えばドッグフードおよびキャットフード;水産養殖の餌、例えば魚の餌およびエビの餌;ならびに専用の食物、例えば、乳幼児用食物、乳児用粉ミルク、病院食、医療食、スポーツフード、パフォーマンスフード、または栄養バー;強化食品;プレブレンド食;または家庭サービス用途もしくはフードサービス用途用の混合物、例えば、スープもしくはグレービー、デザートミックス、ディナーミックス、ベーキングミックス、例えばパンミックスおよびケーキミックス、ならびにベーキングフラワー用のプレブレンドが挙げられ得る。特定の実施形態において、食物または飲料は、ブドウ、クワ、ブルーベリー、ラズベリー、ピーナッツ、乳、酵母、またはそれらの抽出物の1つまたは複数を含まない。
【0109】
特定の実施形態において、本発明の1つまたは複数のニコチニル化合物(I、II、III、IV、V、VI、VII、VIII、および/またはIX)もしくはそれらの塩を単独で、あるいは1つまたは複数のビタミン(X、XI、XII、および/またはXIII)と組み合わせて、これらを必要とするヒト乳児に送達する方法、ならびにヒト乳児において、ビタミンB3欠乏が関与する病因に関連した、もしくは当該病因を有する、かつ/またはミトコンドリア活性の増大から利益を得ることとなる症候、疾患、障害、または症状を処置かつ/または予防する方法は、乳児用粉ミルクを送達または投与することを含む。
【0110】
特定の実施形態において、1つまたは複数のニコチニル化合物(I、II、III、IV、V、VI、VII、VIII、および/またはIX)もしくはそれらの塩が単独で、あるいは1つまたは複数のビタミン(X、XI、XII、および/またはXIII)と組み合わされて、アルギネートの「ケースに入れられ」、「カプセルに入れられ」、かつ/または「マイクロカプセルに入れられ」ることによって、送達される。この送達方法は現在、還流が悪い乳幼児のための乳児用粉ミルクに用いられている。このアルギネート送達方法は、口によるニコチニル化合物送達の徐放機構を可能とし、そして還流が悪い乳幼児のために、かつ/または乳児用粉ミルクを含むあらゆる液体中のニコチニル化合物を安定化させる方法として、用いられ得る。マイクロカプセル化技術は、当該技術において周知である。
【0111】
乳児用粉ミルクの栄養成分は、当該技術において知られており、当業者であれば、粉ミルク組成物を、ニコチニル化合物(I、II、III、IV、V、VI、VII、VIII、および/またはIX)もしくはその塩を単独で、または1つもしくは複数のビタミン(X、XI、XII、および/またはXIII)と組み合わせて含むように調整することができるであろう。例えば、乳児用粉ミルクは、典型的には、乳児用粉ミルクの総カロリー含有量の約6%から約25%を構成するタンパク質成分;乳児用粉ミルクの総カロリー含有量の約35%から約50%を構成する炭水化物成分;および乳児用粉ミルクの総カロリー含有量の約30%から約50%を構成する脂質成分を含有する。これらの範囲は、例として示されているだけであり、限定することが意図されているのではない。
【0112】
乳児用粉ミルク中で、タンパク質含有量が引き下げられて遊離アミノ酸が加えられない場合、トリプトファンが第一制限アミノ酸となる。Manja Fledderman et al.,Energetic Efficiency of Infant Formulae:A Review,64 ANNALS OF NUTRITION & METABOLISM 276(2014)(その全体が参照によって本明細書に組み込まれる)参照。トリプトファンの一必須機能は、NAD前駆体としてのものである。ニコチンアミドリボシド(NR、I)、ニコチン酸リボシド(NAR、II)、ニコチンアミドモノヌクレオチド(NMN、III)、還元ニコチンアミドリボシド(NRH、IV)、還元ニコチン酸リボシド(NARH、V)、ニコチンアミドリボシドトリアセテート(NRTA、VI)、ニコチン酸リボシドトリアセテート(NARTA、VII)、還元ニコチンアミドリボシドトリアセテート(NRH-TA、VIII)、および/もしくは還元ニコチン酸リボシドトリアセテート(NARH-TA、IX)、またはそれらの塩の単独での、あるいは1つまたは複数のビタミン(X、XI、XII、および/またはXIII)と組み合わせての、乳児用粉ミルクへの付加は、トリプトファンを、NAD合成のために消費されることから解放することとなると予想される。というのも、これらのニコチニル化合物の9つ全てが、より効率的なNAD前駆体であるからである。ゆえに、トリプトファンが制限されるまでの期間がより長くなることとなると予想される。
【0113】
適切な脂肪ソースの例として、典型的には、高オレイン酸ベニバナ油、ダイズ油、精留ココナツ油(中鎖トリグリセリド、MCT油)、高オレイン酸ヒマワリ油、トウモロコシ油、キャノーラ油、ココナツ、パーム、およびパーム核油、海産油、綿実油、クルミ油、コムギ胚種油、ゴマ油、タラ肝油、ならびにピーナッツ油が挙げられる。先で一覧にされたあらゆる単一脂肪またはそれらのあらゆる組合せが、必要に応じて利用され得る。他の適切な脂肪は、当業者であれば容易に明らかとなろう。
【0114】
乳児用粉ミルクの付加的な成分として、典型的には、例えば、タンパク質、炭水化物、およびミネラルが挙げられる。乳児に適したタンパク質ソースの例として、典型的には、カゼイン、ホエー、濃縮スキムミルク、脱脂乳、ダイズ、エンドウ、イネ、コムギ、トウモロコシ、加水分解タンパク質、遊離アミノ酸、およびタンパク質のコロイド懸濁液中にカルシウムを含有するタンパク質ソースが挙げられる。先で一覧にされたあらゆる単一タンパク質またはそれらのあらゆる組合せが、必要に応じて利用され得る。他の適切なタンパク質は、当業者であれば容易に明らかとなろう。
【0115】
乳児用粉ミルクの第3の成分は、炭水化物のソースである。炭水化物は、乳児が成長に必要とし、かつ組織異化から乳児を保護する、容易に利用可能なエネルギーの主要なソースである。ヒト乳、および乳を基礎とするほとんどの標準的な乳児用粉ミルク中で、炭水化物はラクトースである。乳児用粉ミルクに用いられ得る炭水化物は、広く変動し得る。乳児に適した炭水化物の例として、典型的には、穀物粒体、加水分解コーンスターチ、マルトデキストリン、グルコースポリマー、スクロース、ラクトース、コーンシロップ、コーンシロップ固形分、ライスシロップ、グルコース、フルクトース、高フルクトースコーンシロップ、および不消化オリゴサッカライド、例えばフルクトオリゴ糖(「FOS」)が挙げられる。先で一覧にされたあらゆる単一炭水化物またはそれらのあらゆる組合せが、必要に応じて利用され得る。他の適切な炭水化物は、当業者であれば容易に明らかとなろう。
【0116】
乳児用粉ミルクは典型的に、補充されたビタミンおよびミネラルを含む。乳児用粉ミルクに加えられ得るミネラルの例として、典型的には、カルシウム、リン、マグネシウム、亜鉛、マンガン、銅、ナトリウム、カリウム、塩化物、鉄、およびセレンが挙げられる。付加的な栄養素クロミウム、モリブデン、ヨウ素、タウリン、カルニチン、およびコリンが含まれてもよい。
【0117】
特定の実施形態において、乳児用粉ミルクに係わる連邦規則集第21編§107.100で成文化されるFood & Drug Administrationの規定を厳守する本発明の乳児用粉ミルクについての例示的な組成は、100キロカロリー(kcal)について、以下の通りである:ホエータンパク質および/またはカゼインから選択され得る、約1.8g~4.5gの範囲のタンパク質;パーム油および/またはダイズ油から選択され得る総カロリーの約30%~54%の範囲の脂肪;ドコサヘキサエン酸(「DHA」)およびアラキドン酸(「ARA」)で補充され得る、総カロリーの最低でも約2.7%のリノール酸;ならびに連邦規則集第21編§107.100のガイドラインに従って加えられることとなる他のビタミンおよび/またはミネラル(ガイドラインからの唯一の偏りは、粉ミルクに加えられるBビタミン(X、XI、XII、および/またはXIII)の量となろう)。ナイアシン(X)レベルが、推奨される最小レベルにて加えられることとなる一方、ビタミンB1(XI)、ビタミンB2(XII)、および/またはビタミンB6(XIII)の量が全て、加えられるニコチンアミドリボシド(NR、I)の量と比例して増大することとなる。なぜなら、これらのビタミンが、ニコチンアミドリボシド(NR、I)の代謝を支持するからである。ゆえに、100キロカロリーあたりに加えられる300μgニコチンアミドリボシド(NR、I)ごとに、約40μgのビタミンB1(XI)、約60μgのビタミンB2(XII)、および約35μgのビタミンB6(XIII)が加えられることとなる。約100μgから約600μgの範囲のニコチンアミドリボシド(NR、I)が、100キロカロリー(kcal)あたりで好ましい。
【0118】
他の実施形態において、乳児用粉ミルクの100キロカロリー(kcal)あたり、約1μgから約10,000μgのニコチンアミドリボシド(NR、I)の範囲。
【0119】
代替の実施形態において、ニコチニル化合物II、III、IV、V、VI、VII、VIII、および/またはIXの少なくとも1つが、場合によってはニコチンアミドリボシド(NR、I)と組み合わされて、類似の範囲で用いられてもよい。
【0120】
乳児用粉ミルクは、乳児に用いるのに適しているあらゆる製品形態として調製され得、再構成可能な粉末、いつでも供給できる液体、および希釈可能な原液が挙げられ、当該製品形態は全て、栄養粉ミルク技術において周知である。本願で用いられる、乳児用粉ミルク組成物中に存在する成分の量は、粉ミルクが、乳児による消費の準備ができている場合の量を指す。再構成可能な粉末または希釈可能な原液の場合、成分量は、乳児用粉ミルク組成物が再構成され、または希釈される場合に、量が本明細書中に記載されるように調整されることとなると理解されるべきである。ゆえに、例えば、例えば一部の乳児用粉ミルクに対する一部の水の付加によって、希釈されることになる乳児用粉ミルク組成物(乳児用粉ミルク組成物は、消費の準備ができている場合、所定の成分濃度を有する)への言及は、水の付加によって消費の準備ができる前の、成分濃度が所定量の2倍である乳児用粉ミルク組成物をカバーすることが意図される。乳児用粉ミルクを調製する方法が、当業者に知られている。例えば、1つまたは複数のニコチニル化合物(I、II、III、IV、V、VI、VII、VIII、および/またはIX)もしくはそれらの塩は単独で、あるいは1つまたは複数のビタミン(X、XI、XII、および/またはXIII)と組み合わされて、製造プロセスにおける適切な点にて液体粉ミルク組成物に直接加えられてよい。
【0121】
乳児用粉ミルクは、場合によっては滅菌されてから、いつでも供給できる形態で用いられてもよいし、濃縮物として保存されてもよい。濃縮物は、先のように調製された液体粉ミルクをスプレー乾燥することによって調製され得る。そして粉ミルクは、濃縮物を再水和することによって再構成され得る。乳児用粉ミルク濃縮物は、安定した液体であり、貯蔵寿命が適切である。
【0122】
本発明の方法で用いられる、1つまたは複数のニコチニル化合物(I、II、III、IV、V、VI、VII、VIII、および/またはIX)もしくはそれらの塩は単独で、あるいは1つまたは複数のビタミン(X、XI、XII、および/またはXIII)と組み合わされて、粉ミルク組成物中への付加の前に、マイクロカプセルに入れられてよい。マイクロカプセル化のためのコーティングの選択は、毒性の欠如、所望される粒子サイズ、および本粉ミルクのプロセシング条件下、特に滅菌条件下での安定性によって決定される。従来の許容可能な実質的に酸素不浸透性のあらゆるコーティングが用いられ得る。そのような従来のマイクロカプセル化法およびコーティング材料は、十分、当業者の範囲内であり、具体的なマイクロカプセル化法およびコーティングは、本発明に固有のものではない。
【0123】
特定の実施形態において、ホエーおよび/またはタンパク質のニコチンアミドリボシド(NR、I)結合はまた、液体剤形のニコチンアミドリボシド(NR、I)を安定化させるのにも用いられ得る。
【0124】
本発明の方法で用いられる、1つまたは複数のニコチニル化合物(I、II、III、IV、V、VI、VII、VIII、および/またはIX)もしくはそれらの塩を単独で、あるいは1つまたは複数のビタミン(X、XI、XII、および/またはXIII)と組み合わせて含む乳児用粉ミルクの粉末の実施形態について、粉末の再構成は、適切な水性液体、好ましくは水で成され得る。再構成可能な粉末は、典型的に、流動性の、もしくは実質的に流動性の微粒子組成物の形態であり、またはスプーンもしくは類似の他の装置で容易に掬われ得、かつ測定され得る少なくとも特定の組成物であり、当該組成物は、意図した使用者によって、適切な水性流体、典型的には水で、液体乳児用粉ミルクを形成するように容易に再構成され得る。この文脈において、「即時の」使用は、一般に、約48時間以内、最も典型的には約24時間以内、好ましくは再構成の直後を意味する。当該粉末の実施形態として、スプレー乾燥形態、凝集形態、ドライ混合形態、または他の既知の、もしくは有効な微粒子形態が挙げられる。一回分に適した容量を生成するのに必要とされる栄養粉末の量は、変動し得る。
【0125】
本発明の方法で用いられる栄養粉ミルクは、単回使用コンテナまたは多回使用コンテナ内にパッケージかつシールされてから、周囲条件下で最大約36ヵ月間以上、より典型的には約12~約24ヵ月間、保存され得る。多回使用コンテナについて、当該パッケージは、最終使用者によって繰り返し用いられるように、開けられてからカバーされ得る。但し、カバーされたパッケージがその後、周囲条件下で保存され(例えば、極端な温度を回避する)、かつ内容物が約1ヵ月以内に用いられる場合に限られる。
【0126】
未熟児は、成長を支持するための付加的な栄養素を必要とする。未熟児は、早産に関連する疾患の危険がある。早産児は一般的に、その乳児用に特別に設計された市販の乳児用粉ミルク、またはその乳児自身の母親の乳が与えられる。早産児に食事を与える別の手段として、早期乳(preterm milk)、保存乳(banked term milk)、他の適切な乳、または乳児用粉ミルクを、乳強化剤で補充するものがある。そのような補充された乳または粉ミルクは、1つまたは複数のニコチニル化合物(I、II、III、IV、V、VI、VII、VIII、および/またはIX)もしくはそれらの塩の単独での、あるいは1つまたは複数のビタミン(X、XI、XII、および/またはXIII)と組み合わせたレベルをより十分に提供して、当該乳児の要求を満たすことができる。
【0127】
1つまたは複数のニコチニル化合物(I、II、III、IV、V、VI、VII、VIII、および/またはIX)もしくはそれらの塩を単独で、あるいは1つまたは複数のビタミン(X、XI、XII、および/またはXIII)と組み合わせて含み、乳児の口に合う乳児栄養補助食品組成物を送達するのに有用な経口剤形用の組成物が、当該技術において知られている。1つまたは複数のニコチニル化合物(I、II、III、IV、V、VI、VII、VIII、および/またはIX)もしくはそれらの塩を単独で、あるいは1つまたは複数のビタミン(X、XI、XII、および/またはXIII)と組み合わせて含む、送達に有用な乳児栄養補助食品組成物は、例えば、不活性希釈剤または同化可能な食用のキャリアと共に経口投与されてもよいし、硬質殻ゼラチンカプセルまたは軟質殻ゼラチンカプセル内に封入されてもよいし、錠剤に圧縮されてもよいし、食事の食物に直接組み込まれてもよい。経口投与用に、1つまたは複数のニコチニル化合物(I、II、III、IV、V、VI、VII、VIII、および/またはIX)もしくはそれらの塩を単独で、あるいは1つまたは複数のビタミン(X、XI、XII、および/またはXIII)と組み合わせて含む乳児食組成物は、賦形剤が組み込まれてよく、そして摂取可能な錠剤、バッカル錠剤、トローチ、カプセル、エリキシル、懸濁液、シロップ、ウェハース等の形態で用いられてよい。錠剤、トローチ、ピル、カプセル等はまた、以下を含有してもよい:結合剤、例えば、トラガカントゴム、アラビアゴム、コーンスターチ、またはゼラチン;賦形剤、例えばリン酸二カルシウム;崩壊剤、例えば、コーンスターチ、ジャガイモデンプン、アルギン酸;潤滑剤、例えばステアリン酸マグネシウム;ならびに甘味剤、例えばスクロース、ラクトース、またはサッカリン。ペパーミント、冬緑油、またはチェリー香料等の香味剤が加えられてもよい。投薬量単位形態がカプセルである場合、先のタイプの材料に加えて、液体キャリアを含有してもよい。種々の他の材料が、コーティングとして、またはそうでなければ投薬量単位の物理的形態を修飾するために、存在してよい。例えば、錠剤、ピル、またはカプセルが、セラック、糖、またはこれらの双方でコーティングされてよい。シロップまたはエリキシルが、活性化合物、甘味剤としてのスクロース、防腐剤としてのメチルパラベンおよびプロピルパラベン、色素、ならびに香料、例えばチェリーまたはオレンジ香料を含有してもよい。水中油型エマルジョンが、乳児の経口使用により適しているかもしれない。なぜなら、水混和性であるからである。こうして、その油性がマスクされる。そのようなエマルジョンは、薬学において周知である。
【実施例
【0128】
実施例1
ニコチンアミドリボシド(NR、I)はまた、乳中で自然に見られる。図2は、ニコチンアミドリボシド(NR、I)が、店で購入した(牛)乳中に存在することを示している。図2Bおよび図2Cは、ニコチンアミドリボシド(NR、I)を既知の量で乳サンプルに加えた後のニコチンアミドリボシド(NR、I)の検出を示すコントロールクロマトグラムである。これらのコントロールクロマトグラムは、ニコチンアミドリボシド(NR、I)が乳に加えられてから、定量的に回収され得、重大な分解も、市販の乳とのニコチンアミドリボシド(NR、I)の不和合性の証拠もないことを実証している。1%ニコチンアミドリボシド(NR、I)の回収を算出すると、100%近くであった。当該結果を得るのに用いた実験方法は、以下の通りであった:乳をアセトニトリルで1:1に希釈した。その後、遠心分離を実行して、あらゆる沈殿物を除去して、上清を、標準的な方法を用いるHILIC/HPLC/UVを用いて分析した。
【0129】
ニコチンアミドリボシド(NR、I)はまた、ヒト母乳中でも自然に見られる。過去に未発表であるが、図3は、ニコチンアミドリボシド(NR、I)がヒト母乳中に存在することを実証している。単一のドナー由来のフレッシュな凍結ヒト母乳を得て、ニコチンアミドリボシド(NR、I)の存在について分析した。乳を、アセトニトリルを3:1の比率で用いて析出させ、そして酢酸も加えて析出を補助した。分離を、Sepax Polar-Diol(250×4.6mm)5μmカラムおよびAgilent 6420 Triple Quad系で実行した。質量スペクトロメータを、非常に選択的かつ高感度のMultiple Reaction Monitoring(「MRM」)で操作した。ニコチンアミドリボシド(NR、I)およびISTD(重水素化1-メチルニコチンアミド)のそれぞれについて、2つのMRMトランジションを監視することによって、化合物の同定を達成した。具体的には、乳サンプルを十分に混合してから、2mLの乳を15mL遠心管中にピペットで移して、6mLのアセトニトリルおよび1.75mLの0.1%酢酸を加えた。最後に、250μLのISTDを加えた。混合物を1分間ボルテックスし、シェーカー上に15分間置き、そして15000rpmにて10分間遠心分離した。最上層を10mLメスフラスコ中にデカントして、アセトニトリルで容量を調整した(brought to volume)。その後、サンプルを、HPLC/MS/MS上でランさせた。スパイクサンプルを調製して、同じように分析した。但し、1mLのニコチンアミドリボシド(NR、I)標準液と共に0.75mLの0.1%酢酸しか加えなかった。図3は、パネルAにおいて、質量による、そして2つのトランジション;B)255.1~123.1およびC)255.1~105.8による、ヒト母乳中の天然のニコチンアミドリボシド(NR、I)の検出を示している。また、2つのトランジションを、内部標準について示している(パネルDおよびパネルE)。
【0130】
図4および図5は、100mL(図4)および1000mL(図5)でのニコチンアミドリボシド(NR、I)のスパイキングにより、分析されることとなるピークが、双方の図のパネルA、B、およびCにおいて、ニコチンアミドリボシド(NR、I)であることが確認されることを示すコントロールである。双方の図におけるパネルDおよびパネルEは、内部標準ピークである。
【0131】
水中のニコチンアミドリボシド(NR、I)は経時的に不安定である(十分な時間が与えられれば、ニコチンアミドおよびリボースとなろう)が、ニコチンアミドリボシド(NR、I)は、先でニコチンアミドリボシド(NR、I)が牛乳およびヒト母乳中に存在すると示されるように、乳中で安定している。ニコチンアミドリボシド(NR、I)はまた、液体中でニコチンアミドリボシド(NR、I)を安定化させる乳中のタンパク質に結合することが実証されている。ホエータンパク質画分およびカゼインタンパク質が、ニコチンアミドリボシド(NR、I)に直接結合してこれを乳中で安定化させる主要な候補として同定されている。液体中でニコチンアミドリボシド(NR、I)を安定化させるための、特に当該タンパク質の(単独での、または他のタンパク質と組み合わせての)付加は、本発明の送達方法の別の実施形態を構成する。図6は、ニコチンアミドリボシド(NR、I)が乳中でタンパク質に結合することを示している。本実験では、Water-Ligand Observed via Gradient Spectroscopy(WaterLOGSY NMR)を用いて、安定した、同位体標識(15N)されたニコチンアミドリボシド(NR、I)の、乳タンパク質への直接的な結合を検出した。これは、乳の付加が増大するにつれての、ニコチンアミドリボシド(NR、I)スペクトルの濃度依存的シフトとして視覚化される。同心の形状のシフトは、左から右に、乳なし、150mLの乳、および300mLの乳の付加の結果である。
【0132】
実施例2
ヒト乳児のモデルとしての子ブタ腸における脆弱な神経発達の保護に果たすニコチンアミドリボシド(NR、I)の役割
【0133】
緒言
ヒト乳児は、発生的に未発達で生まれてくる。これはとりわけ、3分の1を超える脳の成長が、出生後最初の6ヵ月で起こる神経組織に当てはまる。脳の成長は、栄養に関して広範囲に及ぶ要求を突き付けることが知られており、ヒト乳は、全基質を提供して、脳の発達を組み立てて活気付け(fuel)なければならない。現在の研究では、脳の最適な成長および発達を支持するのに必須栄養素が十分でないことが示されている。脳の成長が、発達中の他の組織の普通でない要求により損なわれる虞がある。
【0134】
肝臓、腎臓、および腸管は、体が適切な血糖値を維持するための、糖新生を介したグルコース生成の部位である。発育中の哺乳類の未発達の腸において、腸管糖新生が、成人におけるよりも高い比率にて起こる。P.Hahn & H.Wei-Ning,Gluconeogenesis from Lactate in the Small Intestinal Mucosa of Suckling Rats,20 PEDIATRIC RESEARCH 1321(1986)(その全体が参照によって本明細書に組み込まれる)参照。NADHは、糖新生が起こるのに必要とされ、そして腸管におけるNADHの、NADに対する高いミトコンドリア内比率が、腸管酸化の減少をもたらして、他の臓器、例えば脳のためにグルコースを割き得る。R.H.Lane et al.,IGF alters jejunal glucose transporter expression and serum glucose levels in immature rats,283 AM.J.PHYSIOLOGY-REGULATORY,INTEGRATIVE & COMPARATIVE PHYSIOLOGY R1450(2002)(その全体が参照によって本明細書に組み込まれる)参照。新生児は、技術の発達および聴力の向上と対応して、特定の脳領域のグルコース代謝の著しい増大を示す。H.T.Chugani,A Critical Period of Brain Development:Studies of Cerebral Glucose Utilization with PET,27 PREVENTIVE MEDICINE 184(1998)(その全体が参照によって本明細書に組み込まれる)参照。腸管に対するニコチンアミドアデニンヌクレオチドの利用可能性の増大により、その糖新生能が増大し得、脳の最適な発達のためのグルコースの利用可能性が増大することとなる。
【0135】
生後初期の期間中に、腸管神経系(「ENS」)が形成される。発育初期に、腸は、全長および直径が成長し続け、これが新しいニューロンの生成におそらく関与する。P.Hahn & H.Wei-Ning,1986参照。ENS発達にとって特に重要な2つのシグナル伝達分子が、グリア細胞系由来の神経栄養因子(「GDNF」)およびニュールツリンである。GDNFはENS前駆体の増殖を制御するので、腸管ニューロンの数に及ぼす影響が大きい。成熟した腸管ニューロンのサイズおよびニューロン投射の範囲を維持するのは、ニュールツリンの仕事である。R.H.Lane et al.,2002参照。ENSの形成は、膜貫通チロシンキナーゼRetに依存的であり、その不在により、腸収縮性は顕著に低下する。同文献参照。さらに、GDNF、Ret、またはニュールツリンのノックアウトがヘテロ接合性であるラットにおいて、主要な腸管シグナル伝達分子血管作動性腸管ペプチド(「VIP」)および物質Pは引き下げられる。同文献参照。出生時、腸から脳への情報伝達において重大な役割を果たす哺乳類の迷走神経は、部分的にしかミエリン形成されておらず、発達が、分娩後の最初の数ヵ月間続く。H.T.Chugani,1998参照。適切に機能する迷走神経求心性は、腸微生物が腸-脳-微生物叢軸を調節するのに必須である。E.A.Maga et al.,Consumption of lysozyme-rich milk can alter microbial fecal populations,78 APPL.ENVIRON.MICROBIOL.6153(2012)(その全体が参照によって本明細書に組み込まれる)。
【0136】
ニコチンアミド(NamまたはNM)は、ペルオキシゾーム増殖因子活性化受容体-γ活性化補助因子1-α(「PGC1α」)を上方制御することが示されている。C.A.Cooper et al.,Lysozyme transgenic goats’ milk positively impacts intestinal cytokine expression and morphology,20 TRANSGENIC RESEARCH 1235(2011)(その全体が参照によって本明細書に組み込まれる)参照。PGC1αは、ミトコンドリアのバイオジェネシスおよび機能を調節するタンパク質の遺伝子の転写活性化補助因子であり、かつ細胞における解糖から酸化代謝への切替えを調節する関与体である。D.R.Brundige et al.,Consumption of pasteurized human lysozyme transgenic goats’ milk alters serum metabolite profile in young pigs,19 TRANSGENIC RESEARCH 563(2010)(その全体が参照によって本明細書に組み込まれる)参照。PGC1αは、先端に位置決めされた、分化した腸管上皮細胞中で高度に発現され、そこで適切な腸管機能および腸管代謝を支持する。同文献参照。
【0137】
ヒト乳児のモデルとしての子ブタおよび腸内微生物学的類似性
子ブタは、乳児腸管の発達および疾病についての選択のモデルとなっている。健康な若いブタにおける原理証明研究により、腸の健康のバイオマーカーと考えられている微生物(ビフィドバクテリウム科(Bifidobacteriaceae)および乳酸菌科(Lactobacillaceae))を富化する一方、疾患と関連する微生物を減らすことによって、ヒト乳によく似ているリゾチームリッチ乳の消費が、糞便の微生物叢組成を有益に調節することが実証された。E.A.Maga et al.,2012参照。微生物叢のシフトは、腸管の消化機能および免疫保護機能の双方の向上を示す、腸構造および遺伝子発現の双方の変化を伴った。挙げた当該変化は、腸管表面積を増大させ(絨毛はより長くなり、かつ粘膜固有層はより薄くなった)、これは、吸収機能の増大、抗炎症遺伝子(TGF-β)の発現の増大、および代謝物質の循環の好ましい変化を暗示している。C.A.Cooper et al.,2011;D.R.Brundige et al.,2010参照。ラクトフェリンリッチ乳は、微生物集団に及ぼす効果がより適度であった(データ未発表)が、腸管表面積の増大および炎症の減少の促進に及ぼす効果はより大きかった。C.A.Cooper et al.,Consumption of transgenic cows’ milk containing human lactoferrin results in beneficial changes in the gastrointestinal tract and systemic health of young pigs,22 TRANSGENIC RESEARCH 571(2012)(その全体が参照によって本明細書に組み込まれる)参照。
【0138】
疾患に影響を及ぼすリゾチームおよびラクトフェリンリッチ乳の有効性は、子ブタにおいて、細菌誘導性の下痢および栄養失調のモデルによって首尾よく実証されている。当該各モデル(腸内毒素原性大腸菌(E.coli)(「ETEC」)による攻撃接種(challenge)、ならびにタンパク質およびカロリー制限)の中心的パラダイムは、消化管の全長に沿う微生物叢腸内バランス異常の酷い結果、および腸上皮への損傷である。介入の成功を検出する当該モデルの力は、リゾチームリッチ乳による結果によって強調される。十分に特徴付けられた乳成分の、乳へのこの単純な付加は、下痢の臨床症候を緩和する有効な処置として機能し、循環免疫細胞のレベルを正常に戻し、かつ腸管構造の回復を促進した。C.A.Cooper et al.,Consuming transgenic goats’ milk containing the antimicrobial protein lysozyme helps resolve diarrhea in young pigs,8 PLOS ONE e58409(2013)(その全体が参照によって本明細書に組み込まれる)参照。ウシの乳は、栄養失調によって引き起こした、腸管への構造的かつ機能的損傷の逆転を始めるのに有効な剤であり、ラクトフェリンリッチ牛乳は、乳単独よりも腸管の症状の多くの状況を向上させることが示された。L.C.Garas et al.,Milk with and without lactoferrin can influence intestinal damage in a pig model of malnutrition,7 FOOD & FUNCTION 665(2016)(その全体が参照によって本明細書に組み込まれる)参照。双方の乳が、体重増加、血液化学および腸管形態学、浸透性、遺伝子発現、ならびに微生物叢集団に好影響を与えることができた。乳児の腸管モデルとしての子ブタの相当な開発により、微生物叢、微生物のトランスクリプトーム、メタボローム、そして宿主腸管のトランスクリプトーム間の相互作用を、腸管の構造および機能と関連させる、広いシステム生物学アプローチをとることが可能となった。
【0139】
乳児期における腸管および全身のエネルギー代謝、組織成長、ならびに神経発達を向上させるニコチンアミドリボシド(NR、I)の役割を理解するために、7日早く離乳させた子ブタにおいてエネルギー代謝のマーカーを測定する研究を企てた。当該目的を達成することで、ヒト乳児用粉ミルクへのニコチンアミドリボシド(NR、I)の付加を支持する作用機構のフレームワークが提供されることとなる。
【0140】
具体的な目的
本研究は、母乳から離乳させた場合に食事のシフトが急な子ブタ、および食事のシフトがより緩やかなヒトの双方において起こることが知られている典型的な腸内バランス異常のバックグラウンドでの、乳児期中の腸のレベルでのエネルギー代謝の支持におけるニコチンアミドリボシド(NR、I)の役割を理解する必要に取り組む。S.A.Frese et al.,Diet shapes the gut microbiome of pigs during nursing and weaning,3 MICROBIOME 28(2015);J.E.Koenig et al.,Succession of microbial consortia in the developing infant gut microbiome,108 PROCEEDINGS NAT’L ACAD.SCI.4578(2011)(これらの文献はそれぞれ、その全体が参照によって本明細書に組み込まれる)参照。当該動物モデルを用いて、ヒト乳中のオリゴサッカライドと乳児微生物叢との関係を明らかにした。ビフィドバクテリウム・インファンティス(B.infantis)が占める微生物叢を乳児期中に確立できないと、慢性炎症性の状態が生じることが示された。ニコチンアミドリボシド(NR、I)の消費が、微生物発酵を通してのエネルギーの生成を支持して、結腸細胞用のエネルギーソースを提供し、腸管プロセスの適切な活気付けを増強し、かつ神経発生を維持すると予想された。これらは全て、最終的に、寿命の全体を通じて、健康を促進し、かつ疾患リスクを低くする。具体的な目的は:(1)成長および発達、例えば体重増加、成長、飼料効率比、糞便の稠度、および活性レベルの重要なパラメータに及ぼす、ニコチンアミドリボシド(NR、I)補給の効果を特徴付けること;(2)中間体、および腸内のエネルギー代謝の機能を、例えば、腸管内の代謝の測定として血液および糞便中の代謝物質を分析することによって、そしてニコチンアミドリボシド(NR、I)補給に起因する差異を評価することによって特徴付けることであった。
【0141】
本研究は、(a)離乳したての子ブタにおける成長、発達、腸エネルギー、および微生物叢の健康におけるニコチンアミドリボシド(NR、I)の役割に関するデータを提供し;(b)強力なNAD前駆体、ニコチンアミドリボシド(NR、I)の利用可能性が、どのように腸内のエネルギー代謝に影響を与え、かつ神経発生のマーカーに影響するのかの理解を進め;そして(c)腸-脳軸のモデルとしての離乳したての子ブタ、および乳児期中のエネルギー代謝の重要性をさらに実証すると予想された。
【0142】
方法
動物
16頭(n=16)のヨークシャー/ハンプシャー品種間交雑種の子ブタを、University of California,Davis Swine Teaching and Research Centerから得た。授乳14日目(「LD」)に受け取った。到着前、供給者が、1~3日齢の間、University of California,Davis Swine Facilityにて慣例の鉄および抗生物質(ブタ用Excede)の投与によって、子ブタを処理した。鉄および抗生物質の第2の用量を与えることは、必須にならない限り、University of California,Davis Swine Facilityの慣例でない。
【0143】
子ブタは、2リター(litter)(リター15および17)に由来し、17日齢にて離乳させて、リター、性別、および体重についてバランスをとった2群の1つにランダムに配置した。表1参照。動物は、到着時には施設に順応していなかったが、その後、試験食投与系に順応した。子ブタを離乳させて、10台の隣接する檻を有する温度制御室(おおよそ27~29℃)に入れた。トレーニングを受けた従事者にアクセスを制限した閉鎖室である、Swine Facilityの保育室内に、子ブタを群で収容した。類似した年齢の子ブタを入れた1台の檻によって、2つの群を分離した。
【0144】
毎朝、用量調製プロトコルに従って、その日の投与用に、十分なニコチンアミドリボシド(NR、I)水溶液を調製した。服用材料の安定性を確認する目的で、ニコチンアミドリボシド(NR、I)の分析用に毎日、少なくとも5mLの調製用量を調製後に保存して、直ちに凍結した。用量は、使用しない間、冷蔵温度にて保存した。ニコチンアミドリボシド(NR、I)を、朝に1日1回、毎日同じ時間に投薬した。同じ容量の淡水を与えるコントロール群の子ブタに、同じスケジュールで投与した。
【0145】
ニコチンアミドリボシド(NR、I)の一日量は、ミトコンドリア機能不全の領域における有効性のヒト調査に用いた用量(33mg/kg)を、体表面面積法を用いて、子ブタ等価服用量に変換して概算した。A.B.Nair & S.Jacob,A simple practice guide for dose conversion between animals and human,7 J.BASIC CLIN.PHARMA 27(2016)(その全体が参照によって本明細書に組み込まれる)参照。
【0146】
1日目に始めて、ニコチンアミドリボシド(NR、I)群の動物に、ブタ1頭あたり、水中に再懸濁させた277mgのニコチンアミドリボシド(NR、I)を、1日(朝に)1回、7日間投薬した。1週後、動物に、ブタ1頭あたり342mgのニコチンアミドリボシド(NR、I)を、1日1回投薬し、2.5mLで7日間送達した。1日目および2日目について、2770mgのニコチンアミドリボシド(NR、I)を50mLの水中に再懸濁させることによって、ニコチンアミドリボシド(NR、I)溶液を調製し、そしてこの溶液の5mLを、管の一片を末端に取り付けた10mLシリンジを用いて口の奥に注入することによって、各ブタに送達した。容量を減らしてより効率的にニコチンアミドリボシド(NR、I)溶液を送達するために、2770mgを25mLの水中に再懸濁させて、2.5mLの溶液を、3mLシリンジを用いて、3~7日目について、各ブタの口の奥に注入した。8~14日目について、3420mgのニコチンアミドリボシド(NR、I)を、25mLの水中に再懸濁させて、この溶液の2.5mLを、各ブタに送達した。投薬前に毎日、2.5mLのニコチンアミドリボシド(NR、I)(1日目および2日目に5mL)を、別々のチューブに入れて凍結した。
【0147】
体重、ならびに糞便スコアおよび活性スコア
離乳(ベースライン)時に、そしてニコチンアミドリボシド(NR、I)補充の1週および2週後に、全ての動物を秤量した。糞便スコアおよび活性スコアを、以下で一覧にするスケールを用いて、毎日記録した。体重および糞便スコアを、二因子反復測定ANOVA(混合モデルANOVA)を用いて、p値<0.05を有意と考えて分析した。用いた糞便の稠度スケールは、以下の通りである:4=標準(固体);3=軟便(半固体);2=軽度の下痢(半液体);1=重度の下痢(液体)。用いた活性レベルスケールは、以下の通りである:4=警戒、注意深い(移動、摂食、飲水、澄んだ眼);3=警戒、あまり活発でない(存在に応じて移動するが、遠くには行かない、摂食および飲水、澄んだ眼);2=やや無気力、疲れている(騒ぐが起立しない、食物および水に対する若干の関心、震えの発作、若干どんよりした、腫れた眼);1=非常に無気力(起立する気がない、食物および水に無関心、持続的な震え、どんよりした、腫れた眼)。
【0148】
採血および分析
血液を、1、8、および14日目に、頸静脈穿刺により各ブタから採取した。各例において、血液を、ニコチンアミドリボシド(NR、I)の投薬前に採取した。1日目に、雌ブタを、サンプル採取前におおよそ3時間、子ブタから取り出した。8および14日目に、サンプル採取の12時間前に、動物の檻から餌を取り去った。血液を採取して、CBC分析用にパープルトップバキュテーナに、そして血液化学分析用にレッドトップバキュテーナに入れた。CBC分析を、Sysmex XT-iV Vet Hematology Autoanalyzer(Sysmex America Inc.,Lincolnshire,Illinois)を用いて、West Sacramento,CaliforniaのIDEXX Laboratoriesにて実行した。レッドトップチューブをスピンして、血清および凍結血清を収集した。凍結したアリコート(500μL)を、Cobas 6000 C501 Clinical Chemistry Analyzer(Roche Diagnostics,Indianapolis,IN)を用いるUniversity of California,Davis Veterinary medicine Teaching Hospital Clinical Diagnostic Laboratory for Blood Chemistry Analysisに提出した。残りの凍結血清のアリコートは、血清代謝物質分析に用いることとする。CBC化学パラメータおよび血液化学パラメータを、反復測定(混合モデルANOVA)を考慮する2因子ANOVA(処置および時間)を用いて分析した。p値<0.05を有意と考えた。6週齢のブタ(Cooper et al.,5 J.ANIM.SCI.BIOTECHNOL.5(2014)(その全体が参照によって本明細書に組み込まれる))および一般のブタ(University of California,Davis Veterinary Testing Laboratoryによって供給される)の双方についての基準範囲を、表2に示す。
【0149】
糞便の収集およびSCFAの分析
フレッシュな糞便サンプルを、各ブタから1日目(ベースライン)、8日目(1週目)、そして14日目(2週目)に採取して、凍結した。フレッシュな排泄サンプルを得ることができなかった場合は、直腸をスワブで拭った。各ブタ由来の合計100mgの糞便を、酢酸、プロピオン酸、イソ酪酸、酪酸、イソ吉草酸、および吉草酸について知られている標準と共に、ガスクロマトグラフィを用いて、SCFA分析に用いた。サンプルを、25%メタリン酸で抽出して、各抽出物を、PeakSimple Chromatography Data Systemを備えたGCで3通りランさせた。一元配置ANoVAを、または値がガウス分布しなければノンパラメトリックKruskal-Wallis検定を用いて、データを分析した。データの保存分析を以下で表3に示し(糞便サンプルを得るためにスワブで拭わなければならなかった動物)、そしてスワブサンプルを含むデータの分析を表8に示す。傾向は類似するが、p値は類似しない。
【0150】
体重
【0151】
糞便スコアおよび活性スコア
【0152】
CBCおよび血液の化学分析
【0153】
糞便SCFA
【0154】
2週にわたる糞便SCFA
【0155】
子ブタについて、ベースラインにて体重差はなかった(表1)。そして両群は、2週の介入にわたって正常に成長した。これは、ニコチンアミドリボシド(NR、I)またはコントロールによる処置の1週目または2週目での体重の差異なしによっても実証される(表5)。ベースラインにて、そして2週の介入の間に毎週とった全血球数(「CBC」)および血清化学は、コントロール子ブタとニコチンアミドリボシド(NR、I)を供給した子ブタとの間で、統計学的に有意な差異なしと実証した(表7)。雌ブタから離れて新しい食事および新しい環境に順応しつつある成長中の子ブタについて、経時的変化が予想された。Vladimir Petrovic et al., The Impact of Suckling and Post-weaning Period on Blood Chemistry of Piglets,78 ACTA VETERINARIA BRNO 365(2009)(その全体が参照によって本明細書に組み込まれる)参照。6週齢の子ブタについての標準基準範囲との比較(表2)により、子ブタが健康であったことが明らかであり(標準基準範囲からのエクスカーションが最小であった)、そしてコントロール子ブタと、ニコチンアミドリボシド(NR、I)を供給した子ブタとの差異がないことが明らかである。ニコチンアミドリボシド(NR、I)を供給した群は、糞便スコアが数値的により低く、より軟かい糞便であることを示したが、子ブタ活性スコアは、子ブタの双方の群が警戒し、かつ注意深く(表6)、そして糞便スコアもまた、コントロール子ブタと、ニコチンアミドリボシド(NR、I)を供給した子ブタとの間で統計学的に異ならないことを示した。併せて、これらの発見は、ニコチンアミドリボシド(NR、I)の供給が、7日早く離乳させた子ブタの健康、栄養品質、または正常な成長にマイナスの影響を与えなかったことを示す。
【0156】
糞便SCFAレベルは、水中277mgのニコチンアミドリボシド(NR、I)の毎日の投与の1週後、ニコチンアミドリボシド(NR、I)処置した子ブタにおいて増大した。具体的には、著しい増大が、酢酸(C2)、プロピオン酸(C3)、および酪酸(C4)について観察された。増大は、ベースラインから7日目まで、プロピオン酸および酪酸の双方について、統計学的に有意であった(表8および表9)。糞便SCFAは、結腸内の一部の嫌気性菌による、消化不能な炭水化物およびプレバイオティック物質の発酵産物である。Gijs den Besten et al.,The role of short-chain fatty acids in the interplay between diet,gut microbiota,and host energy metabolism,54 J.LIPID RESEARCH 2325(2013)(その全体が参照によって本明細書に組み込まれる)参照。短鎖脂肪酸は、腸の嫌気性環境において酸化還元が等量となるように生産のバランスをとり、健康状態の認識マーカーである細菌、乳酸桿菌属およびビフィドバクテリウム属の有益な種の増殖を増強し、かつ腸壁機能を維持することによって、微生物群落に利益を与える。Milan J.A.van Hoek & Roeland M.H.Merks,Redox balance is key to explaining full vs.partial switching to low-yield metabolism,6 BMC SYSTEMS BIOLOGY 22(2012);David Rios-Covian et al.,Intestinal short chain fatty acids and their link with diet and human health,7 FRONTIERS IN MICROBIOLOGY 185,2016)(これらの文献はそれぞれ、その全体が参照によって本明細書に組み込まれる)参照。1週にてニコチンアミドリボシド(NR、I)を供給した子ブタについてのベースラインよりも有意に高かった酪酸が、結腸上皮細胞にとって好ましいエネルギーソースであり、そして強力な抗炎症効果および免疫調節効果を及ぼすことが示されている。W.E.W.Roediger,Role of anaerobic bacteria in the metabolic welfare of the colonic mucosa in man,21 GUT 793(1980);A.Andoh et al.,Physiological and anti-inflammatory roles of dietary fiber and butyrate in intestinal functions,23 J.PARENTERAL & ENTERAL NUTRITION S70(1999)(これらの文献はそれぞれ、その全体が参照によって本明細書に組み込まれる)参照。腸を越えて、SCFAは、肥満およびメタボリックシンドロームからの保護において役割を果たすことが示されており、ブチレートおよびプロピオネートが、アセテートよりも効果が大きい。Z.Gao et al.,Butyrate improves insulin sensitivity and increases energy expenditure in mice,58 DIABETES 1509(2009)(その全体が参照によって本明細書に組み込まれる)参照。Lin,2012も参照。ニコチンアミドリボシド(NR、I)を供給した離乳したての子ブタにおけるSCFAの有意な増大の観察により、母乳から乳児用粉ミルクへの順応の重要な期間中の、腸および免疫系の発達に利益を与えると同時に、乳児の微生物叢の最適な発達を支持する潜在性が実証される。
【0157】
用語「a」、「an」、「the」の使用、および特許請求される本発明を記載する文脈の(とりわけ請求項の文脈の)類似の指示対象は、本明細書中で特に指定されない限り、または文脈によって明らかに制限されない限り、単数および複数の双方を包含するものと解釈されるべきである。本明細書中での値の範囲の説明は単に、本明細書中で特に指定されない限り、当該範囲内に入る別個の各値を個々に指す省略表現方法として機能することが意図されているだけであり、別個の各値は、それがあたかも本明細書中で個々に詳述されているが如く、本明細書に組み込まれる。用語「約」の使用は、規定の値よりもおおよそ±10%の範囲で上の、または下の値を説明することが意図されている;他の実施形態において、値は、規定の値よりもおおよそ±5%の範囲で上の、または下の値の範囲となり得る;他の実施形態において、値は、規定の値よりもおおよそ±2%の範囲で上の、または下の値の範囲となり得る;他の実施形態において、値は、規定の値よりもおおよそ±1%の範囲で上の、または下の値の範囲となり得る。先の範囲は、文脈によって明らかにされることが意図されており、更なる制限は包含されない。本明細書中に記載される方法は全て、本明細書中で特に指定されない限り、または文脈によって明らかに否定されない限り、あらゆる適切な順序で実行され得る。本明細書中で記載されるあらゆる全ての例、または例示的な文言(例えば、「例えば」)の使用は、単に本発明をよりよく明らかにすることが意図されているだけであり、特許請求されない限り、本発明の範囲を限定しない。本明細書中の文言は、特許請求されていないあらゆる要素を、本発明の実行に必須であると示すと解釈されるべきでない。
【0158】
先の本明細書中で、本発明がその特定の実施形態に関して記載され、そして多くの詳細が説明の目的で提案されてきた一方、当業者であれば、本発明は、付加的な実施形態を受け入れ易いこと、そして本明細書中に記載される詳細のいくつかが、本発明の基本原理を逸脱しない範囲で、相当に変更され得ることが明らかであろう。
【0159】
本明細書中で引用される参考文献は全て、それらの全体が参照によって組み込まれる。本発明は、その精神または必須の属性から逸脱しない範囲で、他の様々な形態で具体化され得る。したがって、本発明の範囲を示すものとして、上述の明細書ではなく添付の特許請求の範囲が参照されるべきである。
図1
図2A
図2B
図2C
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11