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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-07
(45)【発行日】2023-02-15
(54)【発明の名称】負極および金属空気電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 12/08 20060101AFI20230208BHJP
   H01M 12/06 20060101ALI20230208BHJP
   H01M 50/121 20210101ALI20230208BHJP
   H01M 50/414 20210101ALI20230208BHJP
   H01M 50/434 20210101ALI20230208BHJP
【FI】
H01M12/08 K
H01M12/06 D
H01M50/121
H01M50/414
H01M50/434
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2021504036
(86)(22)【出願日】2020-02-28
(86)【国際出願番号】 JP2020008201
(87)【国際公開番号】W WO2020179645
(87)【国際公開日】2020-09-10
【審査請求日】2021-08-18
(31)【優先権主張番号】P 2019039922
(32)【優先日】2019-03-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005049
【氏名又は名称】シャープ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147304
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 知哉
(74)【代理人】
【識別番号】100148493
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 浩二
(72)【発明者】
【氏名】佐多 俊輔
(72)【発明者】
【氏名】水畑 宏隆
【審査官】小森 重樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-186895(JP,A)
【文献】特開2012-178331(JP,A)
【文献】国際公開第2014/119663(WO,A1)
【文献】特開2016-225213(JP,A)
【文献】国際公開第2017/002815(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/143287(WO,A1)
【文献】特開2017-079147(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 12/08
H01M 12/06
H01M 50/121
H01M 50/414
H01M 50/434
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの開口を備えた樹脂製のケースと、
前記ケースに収容された部分と、前記ケースから延伸された部分とを含む負極集電体と、
前記ケースに収容され、前記負極集電体の少なくとも一部と接する負極活物質を含む負極活物質層と、
前記開口を覆う第1の多孔膜と、
前記第1の多孔膜と前記負極活物質層との間に配置されたアニオン伝導膜と
前記ケースと前記第1の多孔膜とを溶着する溶着領域と、
を有し、
前記溶着領域は、前記開口の周縁部に沿って設けられていることを特徴とする負極。
【請求項2】
請求項1に記載の負極において、
前記開口は前記ケースの内側で前記第1の多孔膜に覆われていることを特徴とする負極。
【請求項3】
請求項に記載の負極において、前記溶着領域の近傍で多孔質膜の微小孔が閉塞されていることを特徴とする負極。
【請求項4】
請求項1~のいずれか1つの請求項に記載の負極において、
前記アニオン伝導膜は、前記ケースの内面に接していることを特徴とする負極。
【請求項5】
請求項1~のいずれか1つの請求項に記載の負極において、
前記アニオン伝導膜は、前記ケースの内側から前記第1の多孔膜に覆われ、前記第1の多孔膜の周縁部よりも外方へ延出していることを特徴とする負極。
【請求項6】
請求項1~のいずれか1つの請求項に記載の負極において、
前記アニオン伝導膜は、陰イオン交換基を含む高分子、または層状複水酸化物を含むことを特徴とする負極。
【請求項7】
請求項1~のいずれか1つの請求項に記載の負極において、
前記アニオン伝導膜は、ジンケートイオンの透過を抑制するとともに水酸化物イオンの透過を許容することを特徴とする負極。
【請求項8】
請求項1~のいずれか1つの請求項に記載の負極において、
前記第1の多孔膜は透気度がガーレー値で0.1~1000秒であることを特徴とする負極。
【請求項9】
請求項1~のいずれか1つの請求項に記載の負極において、
前記第1の多孔膜は連通性を有する多数の微小孔を有し、前記微小孔の平均孔径が0.1~100μmであることを特徴とする負極。
【請求項10】
請求項1~のいずれか1つの請求項に記載の負極において、
前記アニオン伝導膜と前記負極活物質層との間に第2の多孔膜を備えることを特徴とする負極。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか1つの請求項に記載の負極において、
前記ケースには電解質が収容されていることを特徴とする負極。
【請求項12】
負極と、正極と、電解質とを含む金属空気電池であって、
前記負極は、
少なくとも1つの開口を備えた樹脂製のケースと、
前記ケースに収容され、前記ケースから延伸された負極集電体と、
前記ケースに収容され、前記負極集電体の少なくとも一部と接する負極活物質を含む負極活物質層と、
前記開口を覆う第1の多孔膜と、
前記第1の多孔膜と前記負極活物質層との間に配置されたアニオン伝導膜と
前記ケースと前記第1の多孔膜とを溶着する溶着領域と、
を備え、
前記正極は、前記開口と対向して配置され
前記溶着領域は、前記開口の周縁部に沿って設けられていることを特徴とする金属空気電池。
【請求項13】
請求項12に記載の金属空気電池において、
前記正極は、放電用の第1の正極と充電用の第2の正極とを備え、
前記第1の正極、前記第2の正極、前記負極、の順に配設されていることを特徴とする金属空気電池。
【請求項14】
請求項12に記載の金属空気電池において、
前記開口として、前記負極活物質層の厚さ方向の両側に、それぞれ第1の開口と第2の開口とが設けられ、
前記正極は、放電用の第1の正極と、充電用の第2の正極とを含み、
前記第1の正極は前記第1の開口に対向して配置され、前記第2の正極は前記第2の開口に対向して配置されていることを特徴とする金属空気電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、負極および金属空気電池に関する。本願は、2019年3月5日に日本で出願された特願2019-039922号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
金属空気電池は、正極(空気極)と負極(金属負極)と、電解質(電解液)とを備えて、高いエネルギー密度を有することから、実用化および二次電池化に向けた開発・研究が進められている。この種の金属空気電池は、正極と負極との間に絶縁性のセパレータが介在されて外装容器に収納されている。
【0003】
金属空気電池では、放電時に負極に含まれる金属が金属イオンとなって電解質中に拡散し、充電時に針状になって析出する。そのため、金属空気電池では、充放電が繰り返されたことで成長したデンドライト(針状の金属析出物)がセパレータを貫通して、正極と負極とが短絡するおそれがあった。
【0004】
これに対して、例えば、特許文献1には、金属空気電池の正極と負極との間にセパレータとしてアニオン伝導膜を設けることで、電極反応に必要なアニオンの良好な透過性を確保しながら金属イオンの拡散を抑制しつつ、正極と負極との短絡の原因となるデンドライトの成長を抑制しようとした構成が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2017-162773号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前記特許文献1に開示される金属空気電池では、負極が、セパレータであるアニオン伝導膜を介して正極と圧着されている。これによって、負極のうち、セパレータを介して正極に密着している面から、重力の作用で負極活物質が滑落するのを防止するよう意図されている。しかしながら、アニオン伝導膜に正極が圧着されていることによって、アニオン伝導膜と正極との間には摩擦が発生する。また、充放電により正極において酸素が生成および消費されることに伴って外装容器中に圧力変動が起こり、アニオン伝導膜が正極に押圧されることもある。このような摩擦や押圧によって、アニオン伝導膜は損傷や破裂を生じやすくなり、デンドライトが生成されて、正極と負極とが短絡するという問題点があった。
【0007】
本開示は、前記のような従来の問題点にかんがみてなされたものであり、その目的とするところは、デンドライトの成長を抑制し、電極間の短絡を抑制するのに適した負極およびその負極を備えた金属空気電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記の目的を達成するための本開示の負極は、少なくとも1つの開口を備えた樹脂製のケースと、前記ケースに収容された部分と、前記ケースから延伸された部分とを含む負極集電体と、前記ケースに収容され、前記負極集電体の少なくとも一部と接する負極活物質を含む負極活物質層と、前記開口を覆う第1の多孔膜と、前記第1の多孔膜と前記負極活物質層との間に配置されたアニオン伝導膜とを有することを特徴としている。
【0009】
この特定事項により、前記負極活物質は前記ケースに収容されてその滑落が抑制される。また、前記アニオン伝導膜と前記ケースの開口との間には前記第1の多孔膜が配置されるので、前記アニオン伝導膜の損傷等を防止することが可能となる。アニオン伝導膜の損傷等を防ぐことで、デンドライトが成長する経路を未然になくすことができる。そのため、デンドライトの成長を効果的に抑制することができ、電極間での短絡を防止することが可能となる。
【0010】
前記負極のより具体的な構成として、前記開口は前記ケースの内側で前記第1の多孔膜に覆われていることが好ましい。これにより、前記負極が充放電を繰り返すことで膨張し、デンドライトの成長経路になりやすい前記ケースの開口周縁部とアニオン伝導膜の間を前記第1の多孔膜によって、補強することができ、前記アニオン伝導膜の損傷・破損または前記ケースの開口周縁部と前記アニオン伝導膜の剥離を防ぐことができる。また、前記ケースと前記第1の多孔膜との一体性が高められ、デンドライトの成長経路を塞いで、電極間での短絡を防止することができる。
【0011】
前記構成の負極において、前記ケースと前記第1の多孔膜とは溶着されていることが好ましい。これにより、前記ケースと前記第1の多孔膜が溶着された領域において、前記ケースと前記第1の多孔膜のそれぞれの成分が溶けて、前記第1の多孔膜の孔を塞ぐことができる。そのため、デンドライトの成長経路になりやすかった前記第1多孔膜の周縁部においても、デンドライトの成長経路を遮断し、電極間の短絡を防止できる。
【0012】
また、前記構成の負極において、前記アニオン伝導膜は、前記ケースの内面に接していることが好ましい。これにより、正極と負極間の距離を維持しながら、デンドライトの成長経路を狭めることができるので、電極間の短絡をさらに防ぐことが可能となる。
【0013】
また、前記構成の負極において、前記アニオン伝導膜は、前記ケースの内側から前記第1の多孔膜に覆われ、前記第1の多孔膜の周縁部よりも外方へ延出していることが好ましい。このような構成によっても、デンドライトの成長経路を狭めることができるので、電極間の短絡をさらに防ぐことが可能になる。
【0014】
前記構成の負極における前記アニオン伝導膜について、より具体的には、陰イオン交換基を含む高分子、または層状複水酸化物を含むように構成されることが好ましい。また、前記アニオン伝導膜は、ジンケートイオンの透過を抑制するとともに水酸化物イオンの透過を許容するように構成されることが好ましい。このように構成されることにより、前記アニオン伝導膜としてアニオンの良好な透過性能を具備させることができる。
【0015】
また、前記構成の負極における前記第1の多孔膜について、より具体的には、透気度がガーレー値で0.1~1000秒であることが好ましい。さらに、前記第1の多孔膜は連通性を有する多数の微小孔を有し、前記微小孔の平均孔径が0.1~100μmであることが好ましい。前記第1の多孔膜は、このように構成されることにより、厚み方向に対して緩衝作用を期待できることに加え、微小孔に電解質を保持することができる。
【0016】
また、前記構成の負極において、前記アニオン伝導膜と前記負極活物質層との間に第2の多孔膜を備える構成とされてもよい。これにより、前記アニオン伝導膜の損傷等をさらに防止することが可能となる。
【0017】
また、前記構成の負極において、前記ケースには電解質が収容されていることが好ましい。これにより、前記電解質を前記ケース内にて保持し、充放電反応を効率的に作用させることができる。
【0018】
また、前記構成に係る負極を備えた金属空気電池も本開示の技術的思想の範疇である。すなわち、本開示の金属空気電池は、負極と、正極と、電解質とを含み、前記負極は、少なくとも1つの開口を備えた樹脂製のケースと、前記ケースに収容され、前記ケースから延伸された負極集電体と、前記ケースに収容され、前記負極集電体の少なくとも一部と接する負極活物質を含む負極活物質層と、前記開口を覆う第1の多孔膜と、前記第1の多孔膜と前記負極活物質層との間に配置されたアニオン伝導膜とを備え、前記正極は、前記開口と対向して配置されていることを特徴としている。
【0019】
この特定事項により、前記負極においてデンドライトの成長を抑制し得て、電極間での短絡を防止することが可能な構造の金属空気電池を好適に形成することができる。
【0020】
より具体的には、前記金属空気電池において、前記正極は、放電用の第1の正極と充電用の第2の正極とを備え、前記第1の正極、前記第2の正極、前記負極、の順に配設されていることが好ましい。
【0021】
また、前記金属空気電池において、前記開口として、前記負極活物質層の厚さ方向の両側に、それぞれ第1の開口と第2の開口とが設けられ、前記正極は、放電用の第1の正極と、充電用の第2の正極とを含み、前記第1の正極は前記第1の開口に対向して配置され、前記第2の正極は前記第2の開口に対向して配置した構成とされてもよい。
【0022】
前記金属空気電池は、このように構成されることにより、デンドライトの成長経路を効果的に遮断し、電極間での短絡を防止することができる。
【発明の効果】
【0023】
本開示に係る負極およびその負極を備えた金属空気電池では、アニオン伝導膜の損傷や破損を防ぎ、電極間の短絡の原因となったデンドライトの成長を抑制することが可能となり、電池性能を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本開示の実施形態1に係る負極を模式的に示す断面図である。
図2】前記負極を示す斜視図である。
図3】本開示の実施形態1に係る金属空気電池を示す斜視図である。
図4】実施形態2に係る負極を示す斜視図である。
図5】前記負極を模式的に示す部分拡大断面図である。
図6】実施形態3に係る負極を模式的に示す断面図である。
図7】実施形態4に係る負極を模式的に示す断面図である。
図8】実施形態5に係る金属空気電池を模式的に示す断面図である。
図9】実施形態6に係る金属空気電池を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本開示の実施形態に係る負極およびその負極を備えた金属空気電池について、図面を参照しつつ説明する。
【0026】
(実施形態1)
図1は、本開示の実施形態1に係る負極1を模式的に示す断面図である。図2は、実施形態1に係る負極1を示す斜視図である。なお、説明の便宜上、図1における図中上方を、負極1およびこの負極1を備えた金属空気電池10における上方と仮定して、以下説明する。
【0027】
(負極)
負極1は、電極活物質となる金属を含み、正極8および電池ケース9等とともに金属空気電池10を構成し、電気化学的反応によって金属が金属酸化物に変化する過程で得られる電気エネルギーを取り出す。この負極1は、樹脂製の負極ケース(ケース)2、負極集電体3、負極活物質層4、第1の多孔膜5、およびアニオン伝導膜6を備えている。
【0028】
負極1の負極ケース2は、少なくとも1つの開口20を備えて、内部に負極集電体3を収容している。負極ケース2は、例えば、1枚または複数枚のシート状絶縁フィルム材等を折り合わせて接合することで形成されている。
【0029】
図1および図2に示す形態では、負極ケース2は、内外に貫通する開口20が、負極集電体3の一方の面と他方の面との両面に対向するように設けられている。すなわち、開口20は、負極ケース2において、負極集電体3を挟んで対向する面に、それぞれ形成されている。
【0030】
各開口20の大きさは、負極ケース2に収容されている負極集電体3のいずれか一方の面の大きさよりも小さいものとされている。デンドライトは、負極集電体3または負極活物質層4の端部で成長しやすい。そのため、各開口20の大きさを、負極集電体3のいずれか一方の面の大きさよりも小さくすることで、負極集電体3または負極活物質層4の端部で電極反応が起こりにくくなり、デンドライトの成長を抑制することができる。
【0031】
負極集電体3は、多孔性であって電子伝導性を有する材料により形成されている。例えば、負極集電体3には、自己腐食抑制の観点から、水素過電圧の高い材料、またはステンレス等の金属素材表面に水素過電圧の高い材料によるメッキが施された材料が用いられる。また、負極集電体3は、メッシュ、エキスパンドメタル、パンチングメタル、金属粒子または金属繊維の焼結体、および発泡金属等により形成されてもよい。
【0032】
負極集電体3には、負極端子としてリード部31が延設されており、外部回路と電気的に接続することが可能とされている。負極集電体3は、このリード部31が負極ケース2の上部から延伸した状態で、負極ケース2に収容されている。これにより、負極1で消費し、または生成される電荷を、図示しない外部回路へ授受することが可能とされている。
【0033】
負極活物質層4は、負極集電体3の両面に接するように負極ケース2内に配置され、電極活物質として金属元素を含む負極活物質を有している。このような金属元素としては、亜鉛、リチウム、ナトリウム、カルシウム、マグネシウム、アルミニウム、鉄などが好ましい。
【0034】
例示の形態において、負極活物質層4は、還元状態の金属からなる層であっても、酸化状態の金属からなる層であってもよい。例えば、負極活物質層4には、粒子状亜鉛や酸化亜鉛を用いることができる。金属元素が亜鉛である場合、還元状態では金属亜鉛であり、酸化状態では酸化亜鉛である。亜鉛を含む負極1は、放電後に電池ケース9から取り出し、酸化亜鉛を亜鉛に還元することが可能である。
【0035】
また、金属元素が亜鉛である場合、放電時には、金属亜鉛の酸化反応が起こる。すなわち、亜鉛が酸化した結果、電解液中にジンケートイオンとして溶解する場合と、直接酸化亜鉛や水酸化亜鉛が生成する場合とがある。充電時には、金属亜鉛への還元反応が起こる。すなわち、電解液中に溶解しているジンケートイオンの還元により亜鉛が生成する場合と、酸化亜鉛や水酸化亜鉛が直接亜鉛へと還元する場合とがある。
【0036】
・第1の多孔膜5
負極ケース2の2つの開口20には、それぞれ、絶縁性の多孔質構造を有する第1の多孔膜5が添設されて、これらの開口20が覆われている。第1の多孔膜5は、負極ケース2の内側に収容されており、負極ケース2の内側から開口20を覆うように配設されている。
【0037】
図1に示すように、負極1の負極ケース2内では、後述するアニオン伝導膜6と、開口20との間に、第1の多孔膜5が介在するよう構成されている。また、負極ケース2の開口20を介して、第1の多孔膜5には、後述する正極8が密接に配置される。
【0038】
これにより、第1の多孔膜5は、負極ケース2の開口20を覆って、負極ケース2の内外の構成部材の間に介在し、これらの緩衝層として作用する。すなわち、負極ケース2内に配置されるアニオン伝導膜6は、第1の多孔膜5により、開口20の縁部に接触することが抑制される。負極ケース2外に配置される正極8は、開口20には当接するが、アニオン伝導膜6に接触せずに配置されるものとなる。
【0039】
なお、図1では、負極ケース2の内側から開口20を覆うように第1の多孔膜5を配設する構成を示したが、第1の多孔膜5を負極ケース2の外側から開口20を覆うように配設してもよい。このような配置形態であっても、負極ケース2外に配置される正極8が、アニオン伝導膜6に接触することを防ぐことができる。
【0040】
第1の多孔膜5の配置形態は、負極ケース2の内側から開口20を覆う配置の方が、外側から開口20を覆う配置よりもより望ましい。負極ケース2の内側から開口20を覆うように第1の多孔膜5を配設する場合、開口20の縁部、および、正極8がアニオン伝導膜に接触することを防ぐことができるためである。
【0041】
第1の多孔膜5は、正極8と負極1との間のイオン伝導性を担うため、電解質を孔内に保持できる多孔質部材により形成され、ポリオレフィン製などの不織布、濾紙等を用いることができる。これらのほか、第1の多孔膜5は、例えば、酸化チタン、酸化ニオブ、酸化タンタル等の無機物を含んでいてもよい。
【0042】
また、第1の多孔膜5は、ガーレー値で表される透気度が、0.1~1000秒であることが好ましい。ガーレー値は、気体の通過しやすさを表す指標であり、値が大きいほど気体を通しにくい。第1の多孔膜5のガーレー値は、JIS P 8117に規定の測定法により簡易的に測定することができる。
【0043】
この第1の多孔膜5におけるガーレー値は、0.1秒以上であることが好ましい。また、このガーレー値は、1000秒までであることが好ましく、上限値としては100秒であることがより好ましい。ガーレー値が0.1秒より小さい場合は、空隙が多過ぎるため、緩衝層として必要となる強度が不足し、第1の多孔膜5が損傷するおそれがある。ガーレー値が1000秒より大きい場合は、空隙が少なすぎるためイオン伝導を阻害し、電池の抵抗増加の原因となる。
【0044】
また、第1の多孔膜5は、イオン伝導性を有して表裏両面の連通性を有する多数の微小孔を有している場合に、これらの微小孔の平均孔径は0.1~100μmであることが好ましい。より好ましくは、微小孔の平均孔径が1~50μmとされることである。
【0045】
第1の多孔膜5は、不織布や織布の場合などでは孔径が不均一であるが、平均孔径を前記範囲により構成することが好ましい。
【0046】
このような第1の多孔膜5が開口20に添設されていることにより、デンドライトの成長経路の原因となるアニオン伝導膜の損傷や破損を抑止することができ、デンドライトに起因する短絡の発生を抑えることが可能となる。
【0047】
・アニオン伝導膜6
第1の多孔膜5と負極活物質層4との間には、アニオン伝導膜6が配置されている。アニオン伝導膜6は、正極8と負極1の絶縁性を確保しつつ、これらの部材間でアニオンの移動を可能とし、電極間で電子伝導経路が形成されることによる短絡を防ぐ。アニオン伝導膜6は、電池反応に関与する水酸化物イオン(OH)等のアニオンを透過する膜であり、有機物と無機物を含む。
【0048】
負極1の放電反応で生じるジンケートイオンは、電池中を充電極に拡散することで、電池の短絡不良の原因となる。アニオン伝導膜6は、水酸化物イオンの伝導性を有しており、水酸化物イオンの透過を許容する。一方で、アニオン伝導膜6は、ジンケートイオンの透過を抑制し、ジンケートイオンが拡散するのを阻害するものであることが好ましい。
【0049】
また、アニオン伝導膜6は、後述する無機物等の作用により、透過するアニオンの選択性を有する。アニオンの選択性は、例えば、水酸化物イオン等のアニオンは透過しやすく、アニオンであってもイオン半径の大きな、活物質に由来する金属含有イオン等の透過は十分に防止する。なお、アニオン伝導膜6におけるアニオン伝導とは、水酸化物イオン等のイオン半径の小さなアニオンを十分に透過することを意味しており、アニオンの透過性を有することをいう。金属含有イオン等のイオン半径の大きなアニオンは、より透過しにくいものであり、全く透過しなくてもよい。
【0050】
アニオン伝導膜6に含まれる無機物には、アルカリ金属、アルカリ土類金属、Mg、Sc、Y、ランタノイド、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Mn、Fe、Ru、Co、Ni、Pd、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、B、Al、Ga、In、Tl、C、Si、Ge、Sn、Pb、N、P、Sb、Bi、S、Se、Te、F、Cl、および、Brからなる群より選択される少なくとも1つの元素が含まれることが好ましい。
【0051】
前記無機物としては、例えば、酸化物、複合酸化物、層状複水酸化物等の層状無機化合物、水酸化物、粘土化合物、固溶体、合金、ゼオライト、ハロゲン化物、カルボキシラート化合物、炭酸化合物、炭酸水素化合物、硝酸化合物、硫酸化合物、スルホン酸化合物、ヒドロキシアパタイト等のリン酸化合物、亜リン化合物、次亜リン酸化合物、ホウ酸化合物、ケイ酸化合物、アルミン酸化合物、硫化物、オニウム化合物、塩等が挙げられる。中でも、酸化物、複合酸化物、ハイドロタルサイト等の層状複水酸化物、水酸化物、粘土化合物、固溶体、ゼオライト、フッ化物、リン酸化合物、ホウ酸化合物、ケイ酸化合物、アルミン酸化合物、塩が好ましい。
【0052】
また、前記酸化物としては、例えば酸化セリウム、酸化ジルコニウムが好ましい。より好ましくは、酸化セリウムである。また、酸化セリウムは、例えば、酸化サマリウム、酸化ガドリニウム、酸化ビスマス等の金属酸化物がドープされたものや、酸化ジルコニウム等の金属酸化物との固溶体であってもよい。上記酸化物は、酸素欠陥を持つものであってもよい。前記水酸化物としては、例えば水酸化マグネシウム、水酸化セリウム、水酸化ジルコニウムが好ましい。
【0053】
アニオン伝導膜6を構成する層状無機化合物は、1層だけであってもよく、2層以上が積層されたものであってもよい。層状無機化合物としては、例えば層状複水酸化物が挙げられる。この層状複水酸化物とは、次式;
[M (OH)](An-x/n・mH
(Mは、Mg、Fe、Zn、Ca、Li、Ni、Co、Cu、Mnのいずれかである二価の金属イオンを表す。Mは、Al、Fe、Mn、Co、Cr、Inのいずれかである三価の金属イオンを表す。An-は、OH、Cl、NO 、CO 2-、COO等の1~3価のアニオンを表す。mは0以上の数である。nは、1~3の数である。xは、0.20~0.40の数である。)に代表される化合物である。なお、An-は、2価以下のアニオンであることが好ましい。
【0054】
層状複水酸化物によりアニオン伝導膜6を構成する場合、層状複水酸化物の粒子を成形し、および/または焼成することにより緻密層を得ることが好ましく、多孔質マトリクスバインダーなどの層状複水酸化物の粒子群の緻密化や固定化を助ける補助成分との複合体とされてもよい。
【0055】
アニオン伝導膜6に含まれる有機物としては、ポリエチレンやポリプロピレン等のポリオレフィンに代表される炭化水素部位含有ポリマー、ポリスチレン等に代表される芳香族基含有ポリマー;ポリエチレンオキサイド、ポリプロピレンオキサイド等のアルキレングリコール等に代表されるエーテル基含有ポリマー;ポリビニルアルコールやポリ(α-ヒドロキシメチルアクリル酸塩)、セルロース、メチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシアルキルセルロース(例えば、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース等)等に代表される水酸基含有ポリマー;ポリアミド、ナイロン、ポリアクリルアミド、ポリビニルピロリドンやN-置換ポリアクリルアミド等に代表されるアミド結合含有ポリマー;ポリマレイミド、ポリイミド等に代表されるイミド結合含有ポリマー;(メタ)アクリル酸アルキルエステルモノマー由来のモノマー単位を主成分として含む(メタ)アクリル系ポリマー;ポリ(メタ)アクリル酸(塩)、ポリマレイン酸(塩)、ポリイタコン酸(塩)、ポリメチレングルタル酸(塩)、カルボキシメチルセルロース等に代表されるカルボキシ基含有ポリマー(カルボキシ基の金属塩(アルカリ金属等)やアンモニウム塩等を含む);ポリ(メタ)アクリル酸塩、ポリマレイン酸塩、ポリイタコン酸塩、ポリメチレングルタル酸塩等に代表されるカルボン酸塩含有ポリマー;ポリ塩化ビニル、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン等のハロゲン原子含有ポリマー;エポキシ樹脂等のエポキシ基が開環することにより結合したポリマー;スルホン酸(塩)部位含有ポリマー;ARB(Aは、NまたはPを表す。Bは、ハロゲンアニオンやOH等のアニオンを表す。R、R、Rは、同一または異なって、炭素数1~7のアルキル基、ヒドロキシアルキル基、アルキルカルボキシル基、芳香環基を表す。R、R、Rは、結合して環構造を形成してもよい。)で表される基が結合したポリマーに代表される第四級アンモニウム塩や第四級ホスホニウム塩含有ポリマー;陽イオン・陰イオン交換膜等に使用されるイオン交換性ポリマー;天然ゴム、人工ゴム等の主鎖に不飽和炭素結合を有するゴム状ポリマー;酢酸セルロース、キチン、キトサン、アルギン酸(塩)等に代表される糖類;ポリエチレンイミンに代表されるアミノ基含有ポリマー;カルバメート基部位含有ポリマー;カルバミド基部位含有ポリマー;エポキシ基部位含有ポリマー;複素環、および/または、イオン化した複素環部位含有ポリマー;ポリマーアロイ;ヘテロ原子含有ポリマー;低分子量界面活性剤等が挙げられ、これらの1種または2種以上を用いることができる。
【0056】
・電解質
これらの負極集電体3、負極活物質層4、アニオン伝導膜6および第1の多孔膜5が内包された負極ケース2には電解質が収容されている。電解質としては、電池の電解質として通常用いられるものであれば特に制限されず、例えば、水含有電解液、有機溶剤系電解液等が挙げられ、水含有電解液がより好ましい。
【0057】
水含有電解液は、水のみを溶媒原料として使用する電解液(水系電解液)や、水に有機溶剤を加えた液を溶媒原料として使用する電解液をいう。水系電解液としては、例えば、水酸化カリウム水溶液、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化リチウム水溶液、硫酸亜鉛水溶液、硝酸亜鉛水溶液、リン酸亜鉛水溶液、酢酸亜鉛水溶液等が挙げられる。電解質は特に制限されないが、水系電解液を使用する場合には、系中でイオン伝導を担う水酸化物イオンを発生させる化合物であることが好ましい。イオン伝導性の観点からは、水酸化カリウム水溶液がより好ましい。水系電解液は、1種でも2種以上であってもよい。
【0058】
さらに、かかる電解液は、電池ケース9内で負極1および正極8を浸漬する。図1に示すように、実施形態1に係る負極1(および金属空気電池10)では、電解液による液層は存在せず、負極1および正極8が電解液で湿潤した状態で浸漬されている。
【0059】
例えば、金属空気電池10として、亜鉛空気電池、アルミニウム空気電池、鉄空気電池が適用される場合、電解液には、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カリウム水溶液などのアルカリ性水溶液を用いることができ、マグネシウム空気電池の場合には、電解液に塩化ナトリウム水溶液を用いることができ、リチウム空気電池の場合には、有機性の電解液を用いることができる。電解液には、電解質以外の有機添加物や無機添加物が添加されてもよく、高分子添加物によりゲル化されていてもよい。
【0060】
負極集電体3、負極活物質層4、アニオン伝導膜6および第1の多孔膜5は、負極ケース2に内包されて、金属空気電池10を構成する電池ケース9に収容されている。負極ケース2により、負極集電体3と正極8との電池ケース9内での絶縁性が確保されている。
【0061】
図2に示すように、負極ケース2は、電池ケース9に収容される前段階では、上部が開放された有底の袋形状に形成されており、負極ケース2内に電解液を注入することができる。負極ケース2は、熱融着のための余白部分が上部側に確保されており、電解液の注入後に上部側が熱融着されて封止されてもよい。
【0062】
なお、負極ケース2の材質としては、この種の金属空気電池10に求められる電解液の透過を防ぎ、絶縁部材として機能し得る材料で構成されていれば特に制限されない。好ましくは、絶縁性が良好であってシワ等ができにくく、耐熱性が高い熱可塑性樹脂材料により形成されることである。具体的には、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)等のポリオレフィン系樹脂材料を好適に使用することができる。かかるポリオレフィン系樹脂材料の厚さとしては、厚さ0.2mm以下であることが好ましく、さらには30~150μm、より好ましくは50~100μm程度の厚さのものを好適に使用することができる。
【0063】
負極1では、放電反応、充電反応ともに、負極活物質に加え、水酸化物イオン(OH)が関わる反応が起こる。そのため、負極1は負極活物質および水酸化物イオン(OH)の伝導パスとして働く電解質が効率的に接する構造を有しており、例えば、負極活物質を活物質粒子からなる多孔性の電極とすることで、活物質粒子の粒子間の空隙に電解液が浸透するものとなる。これにより、活物質粒子と電解液との接触界面を広げることができる。また、負極活物質層4はバインダーを含んで構成されてもよく、バインダーを含むことで、負極活物質同士を結着させることが可能となる。
【0064】
(金属空気電池)
図3は、実施形態1に係る金属空気電池10を示す斜視図である。金属空気電池10は、電池ケース9と、負極1と、正極8とを備えている。
【0065】
図1に示したように、金属空気電池10を構成する正極8は、放電用の第1の正極である放電用正極(空気極)81と、充電用の第2の正極である充電用正極82とを有する。負極1の負極ケース2の一方の面には放電用正極81が配置され、他方の面には充電用正極82が配置されている。
【0066】
・電池ケース9
電池ケース9は、負極1、放電用正極81、および充電用正極82を収容する外装容器である。例示の形態では、図1に示すように、電池ケース9は、負極ケース2の外方に配設されて負極1を内包するように構成されている。この場合、電池ケース9として、負極ケース2の一方の開口20に対向して配置される第1ケース91と、負極ケース2の他方の開口20に対向して配置される第2ケース92とが、内側に負極1を内包した状態で互いに接合されて形成されている。
【0067】
第1ケース91および第2ケース92には、それぞれ、多数の開孔が表裏面に貫通して形成されている。これらのうち、第1ケース91では、前記開孔が空気取込口93とされている。また、第2ケース92では、前記開孔はガス排出口94とされている。電池ケース9は、これらの空気取込口93を介して内部に空気を取り込むことが可能とされるとともに、ガス排出口94を介して、充電時に発生し充電極近傍に溜まる酸素などのガスを外部に排出することが可能とされている。
【0068】
電池ケース9は、製造過程において、第1ケース91と第2ケース92とが対向配置されて、外周部において融着される。電池ケース9の上端部は、電解液を注入する注入口として利用することができる。この電池ケース9の上端部は電解液を注入後に熱融着により封止される。図3に示すように、電池ケース9の上端部は、第1ケース91と第2ケース92との間に負極ケース2を挟み込んだ状態で封止されることが好ましい。
【0069】
電池ケース9を構成する材料は、電解液に対して耐腐食性を有する材料であって、かつ、耐熱性および熱融着性を有する材料であることが好ましい。例えば、電池ケース9の材料には、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリ酢酸ビニル、ABS樹脂、塩化ビニリデン、ポリアセタール、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリイソブチレン、フッ素樹脂、エポキシ樹脂などが好ましい。
【0070】
なお、図1および図3に示す形態では、金属空気電池10として、電池ケース9内の電解液(電解質)中に負極1、放電用正極81、および充電用正極82が浸漬された状態で互いに平行に配置された3極方式の二次電池を例示している。
【0071】
・放電用正極81
放電用正極81は、触媒を有し、かつ金属空気電池10の放電時に正極となる電極である。放電用正極81では、電解液としてアルカリ性水溶液を使用する場合、触媒上において電解液などから供給される水と大気から供給される酸素ガスと電子とが反応して、水酸化物イオン(OH)を生成する放電反応が起こる。この放電用正極81においては、酸素(気相)、水(液相)、電子伝導体(固相)が共存する三相界面で放電反応が進行する。
【0072】
放電用正極81は、大気に含まれる酸素ガスが拡散できるように設けられる。例えば、放電用正極81は、少なくとも放電用正極81の表面の一部が大気に曝されるように設けられている。例示の形態では、電池ケース9の多数の空気取込口93を介して、大気に含まれる酸素ガスが放電用正極81中に拡散される。
【0073】
放電用正極81は、放電用正極集電体、触媒を含む放電用正極触媒層、および撥水膜を備えて構成されてもよい。放電用正極集電体は、多孔性でかつ電子伝導性を有する材料であることが望ましい。電解液としてアルカリ性水溶液を使用する場合には、耐腐食性の観点から、ニッケル、または、ステンレスなどの金属素材の表面に対してニッケルメッキを施した材料を使用することが望ましい。メッシュ、エキスパンドメタル、パンチングメタル、金属粒子や金属繊維の焼結体、発泡金属などを使用することで放電用正極集電体を多孔性とすることもできる。
【0074】
放電用正極集電体は、ガス拡散層として機能するものであってもよい。この場合、放電用正極集電体は、撥水性樹脂により表面処理されたカーボンペーパーやカーボンクロス、あるいは、カーボンブラックと撥水性樹脂からなる多孔性シートとされる。撥水性樹脂は、電解液が電池ケース9から漏洩するのを防ぐために設けられ、気液分離機能を有するとともに、触媒層への酸素ガスの供給を妨げない。
【0075】
撥水膜は、撥水性樹脂を含有する多孔性材料であり、負極1とは反対側に配置される。撥水膜が配設されることにより電解液の漏洩を抑制することができる。撥水膜に用いられる撥水性樹脂には、例えばポリテトラフルオロエチレン(PTFE)が好ましい。
【0076】
放電用正極81は、放電用正極端子(空気極端子)と電気的に接続することができ、触媒層で生じた電荷を図示しない外部回路へと取り出すことを可能にする。
【0077】
・充電用正極82
充電用正極82は、充電用の正極として働く多孔性の電極である。充電用正極82では、電解液としてアルカリ性水溶液を使用する場合、水酸化物イオン(OH)から酸素と水と電子とが生成される反応が起こる(充電反応)。つまり、充電用正極82においては、酸素(気相)、水(液相)、電子伝導体(固相)が共存する三相界面で充電反応が進行する。
【0078】
充電用正極82は、充電反応の進行により生成する酸素ガスなどのガスが拡散できるように設けられている。例えば、充電用正極82は、少なくともその一部が外気と連通するように設けられる。例示の形態では、電池ケース9の多数のガス排出口94を介して、充電反応により生成される酸素ガスなどのガスが充電用正極82から排出される。
【0079】
充電用正極82は、多孔性でかつ電子伝導性を有する材料であることが望ましい。電解液としてアルカリ性水溶液を使用する場合、耐腐食性、充電反応に対する酸素発生触媒能の観点から、ニッケル、あるいは、ステンレスなどの金属素材の表面に対してニッケルメッキを施した材料を使用することが望ましい。充電用正極82として、メッシュ、エキスパンドメタル、パンチングメタル、金属粒子や金属繊維の焼結体、発泡金属などを使用することで充電用正極82を多孔性とすることもできる。充電用正極82は、表面に充電反応を促進する酸素発生触媒粒子が備えられてもよい。また、充電用正極82は、図示しない充電用正極集電体を備える構成であってもよい。
【0080】
充電用正極82においても、放電用正極81と同様、撥水膜が備えられてもよい。撥水膜が配設されることにより、充電用正極82を介した電解液の漏洩を抑制することができ、充電反応により生成される酸素ガスなどのガスを電解液と分離し、電池ケース9の外部へ排出することが可能とされる。充電用正極82は、充電用正極端子と電気的に接続することができ、充電反応に必要となる電荷を図示しない外部回路から供給することを可能にする。
【0081】
このように構成される金属空気電池10は、図3に示すように、電池ケース9内に負極ケース2を備える負極1が配置されており、負極集電体3のリード部31を負極ケース2の上部から延伸させた状態で電池ケース9の外側へ引き出して形成される。また、図1を参照して、負極集電体3等の負極1の構成部材は、電池ケース9とは接触せず、また、負極集電体3と電池ケース9内面との絶縁性も確保されている。正極8は、負極ケース2によって負極集電体3から絶縁され、接触しないように配置されている。
【0082】
図1に示すように、負極1および正極8(放電用正極81および充電用正極82)の電極間には、アニオン伝導膜6が介在している。これらの電極間には、第1の多孔膜5を介してイオン伝導が起こり、金属空気電池10の充電反応および放電反応が可能となされる。アニオン伝導膜6は、正極8と負極1の絶縁性を確保しつつアニオンの移動を可能とし、電子伝導経路が形成されることを防ぐ。このため、金属空気電池10は、デンドライトの成長を抑制することが可能な構造とされ、電極間での短絡を防止することが可能とされている。
【0083】
金属空気電池10では、充放電サイクルに伴って、負極活物質層4の膨張または収縮を生じることがある。これに対して、金属空気電池10は、負極活物質層4を含めて負極1を構成するアニオン伝導膜6および第1の多孔膜5等が負極ケース2に収容されている。また、金属空気電池10は、負極1および正極8は、電池ケース9内で密接に配置され、電極間に電解液による液層の無い構造を有している。これにより、充放電サイクルに伴う膨張等を抑え、体積変化しにくい構造を実現している。さらに、金属空気電池10において膨張等を生じたとしても、アニオン伝導膜6と負極ケース2との間(またはアニオン伝導膜6と正極8との間)に第1の多孔膜5が介在して緩衝層となるので、アニオン伝導膜6が押圧されて損傷することが防がれる。
【0084】
金属空気電池10の製造過程では、負極ケース2を構成する単層構造または複層構造のシート材を熱融着により有底袋形状に形成するとともに、2つの開口20を側面に対向するように開設し、負極ケース2を形成する。各開口20には、第1の多孔膜5を内側からあてがい、負極ケース2の内側から開口20を閉塞する。
【0085】
次いで、負極ケース2内に負極集電体3、負極活物質層4、およびアニオン伝導膜6を挿入する。アニオン伝導膜6と負極ケース2との間には、第1の多孔膜5が介在されるので、アニオン伝導膜6が負極ケース2の開口20に接触したり正極8に接触したりすることが防がれる。その結果、アニオン伝導膜6を損傷させることなく、負極ケース2内に配置することができ、アニオン伝導膜6を十分に機能させることが可能となる。
【0086】
次いで、電池ケース9に負極ケース2を収納するとともに、負極ケース2と電池ケース9との間に正極8を配置する。また、負極ケース2内および電池ケース9内(電池ケース9の内面と負極ケース2の外面との間)に電解液を注入し、熱融着により電池ケース9および負極ケース2を封止する。これにより、デンドライトの成長経路を遮断し得て、電極間での短絡を防止することが可能となされる。
【0087】
金属空気電池10は、例えば、亜鉛空気電池、リチウム空気電池、ナトリウム空気電池、カルシウム空気電池、マグネシウム空気電池、アルミニウム空気電池、鉄空気電池などに適用可能であるが、特に、負極1としての金属負極が亜鉛種である亜鉛空気電池に好適に用いることができる。亜鉛空気電池は、例えばリチウム空気電池のように引火性の電解液(電解質)を使用する必要がなく、アルカリ系の電解液(電解質)を利用することができるため、安全性が高いといった利点がある。また、亜鉛空気電池は、リチウム空気電池よりも低コストで負極が製造できるため、大容量化が容易であるといった利点がある。
【0088】
なお、この実施形態では、金属空気電池10として3極方式の金属空気二次電池を例示しているが、金属空気電池10が一次電池とされて、充電用正極82が省略された形態であってもよい。また、金属空気電池10は、正極に酸素還元能および酸素発生能を有する触媒を備えて、充電時と放電時の両方に使用できる正極を用いた形態とされてもよい。
【0089】
(実施形態2)
図4は、実施形態2に係る負極1の斜視図である。図5は、実施形態2に係る負極1を模式的に示す拡大断面図であり、図1におけるA1部に相当する部分を拡大して示している。なお、以下に説明する実施形態2~6は基本構成において前記実施形態1と共通していることから、各形態に特有の構成について詳細に説明し、その他の構成については前記実施形態1と共通の符号を用いてその説明を省略する。
【0090】
実施形態1では、負極1の負極ケース2に設けられる開口20は、負極ケース2の内側から第1の多孔膜5で覆われた構成を示した。実施形態2では、負極1は、さらに、負極ケース2の内側から開口20を覆う第1の多孔膜5が、負極ケース2に溶着されている点に特徴を有している。
【0091】
図4および図5に示すように、開口20は負極ケース2の内側から第1の多孔膜5に覆われており、負極ケース2と第1の多孔膜5とは溶着されて、溶着領域23が設けられている。溶着領域23は、負極ケース2における開口20の周縁部に沿って設けられている。この溶着領域23において、第1の多孔膜5は開口20の周縁部に固定されて、負極ケース2に一体化されている。
【0092】
このように負極ケース2と第1の多孔膜5とが溶着されていることで、負極ケース2内にアニオン伝導膜6を配置するとき、アニオン伝導膜6が負極ケース2の開口20に干渉したり引っ掛かったりすることが防がれ、アニオン伝導膜6をスムーズに挿入することが可能となる。これにより、負極1を製造する際の作業性が高められるだけでなく、アニオン伝導膜6が損傷することを防ぐことができる。
【0093】
また、溶着領域23を備えることで、負極ケース2と第1の多孔膜5とが隙間なく密接に配置される。これにより、デンドライトが正極8に向かって成長する経路を塞ぐことが可能となり、電極間での短絡を防止するうえで、より一層好ましいものとなる。特に、第1の多孔膜5は負極ケース2との溶着によって、溶着領域23の近傍で第1の多孔膜5の微小孔が閉塞される。そのため、溶着領域23では、負極ケース2(負極1)の内外が遮断されるものとなり、デンドライトの成長経路を塞ぐことが可能となる。
【0094】
(実施形態3)
図6は、実施形態3に係る負極1を模式的に示す断面図であり、実施形態1における図1に相当する図である。実施形態3に係る負極1はアニオン伝導膜6に特徴を有しており、その他の構成は実施形態1または2と共通する。
【0095】
図6に示すように、アニオン伝導膜6は、負極ケース2の内面に接するように負極活物質層4と第1の多孔膜5との間に設けられている。アニオン伝導膜6は、開口20を覆った第1の多孔膜5の大きさよりも大きいものであり、重なり合った第1の多孔膜5の外縁部よりも外方へ延出する大きさを有している。
【0096】
これにより、アニオン伝導膜6が負極ケース2内に配置された状態で、アニオン伝導膜6と負極ケース2との間に形成される隙間が、図1に示した形態よりも小さいものとなる。したがって、デンドライトが正極8に向かって成長する経路を長くするとともに塞ぐことが可能となり、電極間での短絡を防止するうえで、より一層好ましいものとすることができる。
【0097】
なお、図6では、アニオン伝導膜6の下端部は負極ケース2の内面に接し、上端部は負極ケース2の内面に接していない状態を示している。負極1におけるアニオン伝導膜6の配置形態はこれに限定されるものではなく、アニオン伝導膜6が第1の多孔膜5よりも大きい大きさを有する構成であれば負極ケース2の内面に接することが可能なものであり、負極ケース2とアニオン伝導膜6との接触形態はどのようであってもよい。
【0098】
(実施形態4)
図7は、実施形態4に係る負極1を模式的に示す断面図であり、実施形態1における図1に相当する図である。実施形態4に係る負極1は、実施形態3で示した構成に加えて、さらに第2の多孔膜7を備えて構成されている。
【0099】
図示するように、負極1は、アニオン伝導膜6と負極活物質層4との間に、第2の多孔膜7を備えている。この第2の多孔膜7は、第1の多孔膜5と同様、正極8と負極1との間のイオン伝導性を有する部材であればよく、ポリオレフィン製などの不織布、濾紙等の第1の多孔膜5と共通の部材を用いることができる。第2の多孔膜7の大きさおよび厚みも、第1の多孔膜5と共通とすることができる。
【0100】
第2の多孔膜7は、多孔質構造を有することから、負極ケース2内に配置されて負極ケース2内の電解液を保持することが可能とされる。このような負極1を備えた金属空気電池10では、充放電サイクルに伴って、負極活物質層4の膨張または収縮を生じることがあるが、第2の多孔膜7は負極活物質層4に密接に積層されて負極活物質層4の電解液が不足するのを抑制する。
【0101】
加えて、第2の多孔膜7は、負極活物質層4とアニオン伝導膜6との間に介在されることで、アニオン伝導膜6における第1の多孔膜5側と反対側にあって、アニオン伝導膜6に損傷を生じるのを防ぐものとなる。また、負極活物質層4から正極8に向かってデンドライトが成長する場合には、第2の多孔膜7は負極活物質層4とアニオン伝導膜6との間で緩衝層として作用し、デンドライトによってアニオン伝導膜6が損傷するのを防ぐ。
【0102】
(実施形態5)
図8は、実施形態5に係る金属空気電池10を模式的に示す断面図である。実施形態1に係る金属空気電池10では、負極1の一方に放電用正極81が配置され、他方に充電用正極82が配置された構成であった。この形態に係る金属空気電池10は、放電用正極81と充電用正極82とが隣接して配置されている。金属空気電池10の負極1としては、実施形態4に示した構成のものが備えられている。
【0103】
図8に示すように、金属空気電池10を構成する正極8は、放電用の第1の正極である放電用正極(空気極)81と、充電用の第2の正極である充電用正極82とを有する。これらの放電用正極81と充電用正極82とは、負極1の両側に、双方とも配置されている。負極1の負極ケース2の一方の面には、開口20に接して充電用正極82が配置され、この充電用正極82に隣接して放電用正極81が配置されている。電池ケース9の内面には放電用正極81が内側から接して配置されている。負極ケース2の他方の面にも同様に備えられている。
【0104】
これにより、金属空気電池10は、負極1が、2つの放電用正極81の間の略中央に設けられて、充電用正極82は、放電用正極81と負極1との間(負極1の両側に2箇所)に設けられた構成とされている。金属空気電池10は、負極1におけるデンドライトの成長を抑制することができ、電極間での短絡を防止することが可能な構造を有するものとなる。
【0105】
なお、図8では、金属空気電池10における負極1は、一例として実施形態4に示した構成のものである場合を示したが、これに限られず、他の形態に係る負極1が備えられてもよい。また、金属空気電池10は、電池ケース9内の負極1の片側に放電用正極81および充電正極8が設けられた構成であって、放電用正極81、充電用正極82、および負極1の順に配置されたものであれば、どのように構成されてもよい。図8には図示しないが、充電用正極82と放電用正極81の間に、充電用正極82と放電用正極81とを絶縁するためのセパレータが設けられてもよい。
【0106】
(実施形態6)
図9は、実施形態6に係る金属空気電池10を模式的に示す断面図である。金属空気電池10における負極1、放電用正極81、および充電用正極82の配置形態は、前述した形態に限定されない。この形態に係る金属空気電池10は、負極1として実施形態4に示した構成のものを備えるとともに、この負極1を挟んで一方に放電用正極81、他方に充電用正極82を備えた構成とされている。
【0107】
図9に示すように、負極ケース2には、負極活物質層4の厚さ方向の両側に、それぞれ第1の開口21と第2の開口22とが設けられている。正極8としては、第1の正極である放電用正極81と、第2の正極である充電用正極82とが備えられ、第1の開口21に対向して放電用正極81が配置され、第2の開口22に対向して充電用正極82が配置されている。
【0108】
このように構成される金属空気電池10によっても、負極1におけるデンドライトの成長の原因となるアニオン伝導膜の損傷や破損を抑制することができ、電極間での短絡を防止することが可能な構造とすることができる。
【0109】
以上、本開示に係る負極1および金属空気電池10によれば、負極ケース2内に第1の多孔膜5を備えさせ、アニオン伝導膜6の緩衝層としたことから、アニオン伝導膜6に損傷が生じるのを防ぐことが可能となる。これにより、負極1および金属空気電池10は、デンドライトの成長経路の発生を未然に防止することができ、電極間での短絡を防止し、長寿命化と高出力化を図ることが可能となる。
【0110】
本開示は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本開示の技術的範囲に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0111】
本開示に係る負極および金属空気電池は、電力供給装置の一つとして用いられる金属空気電池に広く利用可能である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9