(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-07
(45)【発行日】2023-02-15
(54)【発明の名称】3D印刷された半結晶性及びアモルファスのポリマー物品
(51)【国際特許分類】
B29C 64/106 20170101AFI20230208BHJP
B29C 64/314 20170101ALI20230208BHJP
B29C 64/364 20170101ALI20230208BHJP
B33Y 10/00 20150101ALI20230208BHJP
B33Y 70/00 20200101ALI20230208BHJP
B33Y 80/00 20150101ALI20230208BHJP
【FI】
B29C64/106
B29C64/314
B29C64/364
B33Y10/00
B33Y70/00
B33Y80/00
(21)【出願番号】P 2021518613
(86)(22)【出願日】2019-10-03
(86)【国際出願番号】 US2019054444
(87)【国際公開番号】W WO2020072746
(87)【国際公開日】2020-04-09
【審査請求日】2021-05-25
(32)【優先日】2018-10-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2018-11-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】505005522
【氏名又は名称】アルケマ フランス
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】弁理士法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】リウ,デイビッド・シン-レン
(72)【発明者】
【氏名】オーバート,マーク・エイ
(72)【発明者】
【氏名】レノー,サラ
【審査官】▲高▼村 憲司
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2010/0234539(US,A1)
【文献】国際公開第2018/003379(WO,A1)
【文献】特開2018-118518(JP,A)
【文献】特表2017-535459(JP,A)
【文献】特開2004-277739(JP,A)
【文献】特開2017-222169(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0052453(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 64/00 - 64/40
B33Y 10/00 - 99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性ポリマーを含む3D印刷された物品であって、前記熱可塑性ポリマーが平行平板レオロジーによって測定される140℃未満のクロスオーバー温度(G’/G”)を有し、XY方向の破断点伸びが少なくとも50%である、3D印刷された物品。
【請求項2】
前記熱可塑性ポリマーが半結晶性ポリマー又はアモルファスポリマーである、請求項1に記載の3D印刷された物品。
【請求項3】
前記半結晶性ポリマーが、直鎖ポリエチレン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエチレンテレフタレート、アイソタクチックポリプロピレン、ポリアミド、ポリフッ化ビニリデン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルケトンケトン、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルブロックポリアミド、ポリエステルブロックポリアミド、コポリアミド(copolymaide)
、熱可塑性ポリウレタン、軟質ポリオレフィン、及びこれらの混合物からなる群から選択される、請求項2に記載の3D印刷された物品。
【請求項4】
前記半結晶性ポリマーが2種以上のポリマーのブレンドである、請求項2に記載の3D印刷された物品。
【請求項5】
前記半結晶性ポリマーが、ポリアミドブロックとポリエーテルブロック又はポリエステルブロックのいずれかとを含むポリアミドブロックコポリマーである、請求項2に記載の3D印刷された物品。
【請求項6】
前記ポリエーテルブロックがポリテトラメチレングリコールを含む、請求項5に記載の3D印刷された物品。
【請求項7】
前記ポリエーテル及び/又はポリアミドブロックの数平均分子量が3,000g/
mol未満である、請求項
5に記載の3D印刷された物品。
【請求項8】
前記半結晶性ポリマーが、160℃未満の融点を有するポリアミドブロックコポリマーを含む、請求項5に記載の3D印刷された物品。
【請求項9】
前記半結晶性ポリマーが、145℃未満の結晶化温度を有するポリアミドブロックコポリマーを含む、請求項2に記載の3D印刷された物品。
【請求項10】
前記アモルファスポリマーが、少なくとも51重量パーセントのメタクリル酸メチルモノマー単位を含むアクリルホモポリマー又はコポリマーである、請求項2に記載の3D印刷された物品。
【請求項11】
前記
熱可塑性ポリマーが、ASTM C965に準拠して回転粘度計によって測定した場合、230℃の温度で100,000Pa-s未満の、1sec
-1のせん断における粘度、並びに230℃の温度及び100sec
-1のせん断速度において20~2,000Pa-sの粘度を有する、請求項1に記載の3D印刷された物品。
【請求項12】
前記物品が、ASTM D1003によって測定される70%未満のヘイズ及び75を超える
全白色光透過(TWLT
)を有する、請求項1に記載の3D印刷された物品。
【請求項13】
前記物品が、35℃超の有効硬化点を有する、請求項1に記載の3D印刷された物品。
【請求項14】
前記物品が、少なくとも50%のZ方向の破断点伸びを有する、請求項1に記載の3D印刷された物品。
【請求項15】
前記物品が、降伏点又は破断点のXY応力の少なくとも80パーセントの、Z方向における破断点伸びを有する、請求項1に記載の3D印刷された物品。
【請求項16】
前記物品が、1~50重量パーセントの1種以上の添加剤を更に含有する、請求項1に記載の3D印刷された物品。
【請求項17】
少なくとも1種の熱可塑性ポリマーを含み、平行平板レオロジーによって測定される140℃未満のクロスオーバー温度(G’/G”)を有する、3D印刷プロセスで使用するためのフィラメントであって、少なくとも50%のXY方向における破断点伸びを有するフィラメント。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硬化温度が低い熱可塑性ポリマーを用いて製造された3D印刷された部品に関する。本発明の3D印刷された部品は、非常に優れたZ層接着性を有し、Z方向の大きい破断点伸び、好ましくは50パーセントを超える破断点伸びを有し、少なくとも80パーセントの、降伏点又は破断点の応力についてのXYに対するZの比率を有する。得られる部品は、XY印刷方向とZ印刷方向で同様の機械的特性を有するほぼ等方性にすることができる。優れた層接着性のため、得られる印刷された部品はより頑丈になり、多くの使用サイクルに耐えることができる。本発明の特定のポリマーは、ヘイズが非常に低くほぼ透明な印刷された部品を生成する。
【背景技術】
【0002】
装置の進歩と価格の低下のため、3D印刷は、特注の最終用途部品を試作モデル化して製造するための迅速でシンプルな、且つ多くの場合安価である方法として、家庭、学校、及び産業界で広く採用されるようになった。具体的には、材料押出3D印刷(溶融フィラメント製造又は熱溶解積層法とも呼ばれる)は、操作が最も容易であり、廃棄物を最も少ししか生成せず、また従来の3D印刷技術の所要時間を最短にすることから、直接消費者向け、大スケール製造向け、及び迅速な熱可塑性樹脂の試作モデル化に最適なプロセスとして台頭してきた。
【0003】
チョコレートからコラーゲンまで、多様な最終用途向けの3D印刷された物品を製造するために、多くの材料が使用されてきた。熱可塑性材料は、3Dプリンタでの使用に特によく適している。有用な熱可塑性材料としては、PCT/US2018/53348号明細書に記載されているように、ポリアミド及びポリエーテルアミドブロックコポリマーが挙げられる。ポリアミドは、最大約30パーセントの破断点伸びを示す。ポリウレタンは更に高い伸びを有するものの、耐薬品性及び耐候性が不十分である。
【0004】
好ましい実施形態では、3D印刷された材料は、全ての方向で50パーセントを超える伸びのレベルを有し、Z方向で優れた層接着性を有する。印刷された材料は、優れた耐薬品性、耐摩耗性、及び耐候性を有する。好ましくは、3D印刷された材料はエラストマー性であろう。多くのエラストマー部品、又は摩耗する部品は、優れた層接着性及び堅牢性が必要とされる。見込まれる用途は、靴、運動用具、消費者向け製品、産業用部品、数百回又は数千回のサイクルを経る物体である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
3D印刷の一般的な問題は、印刷された部品の機械的特性が従来の射出成形された部品よりもはるかに弱いことである。この問題は、堆積中に得られる不十分な層間接着性に起因する。層間接合の強さは、材料の固有の特性(アモルファス対結晶、レオロジー挙動、融点及び結晶化点、堆積時の粘度及び弾性率、材料の熱伝導率等)、並びに処理条件(ノズルの温度、供給速度、ノズルの出口での冷却条件等)などの多数の要因の影響を受ける。更に、3D印刷プロセスによって製造されたアモルファス、特に半結晶性の部品に関する問題は、等方性の部品を製造することがほぼ不可能なことである。部品は、ほとんどの場合、印刷方向に対して垂直な方向(Z)よりも印刷される方向(XY)で強度が高く、性能が優れている。これは、軟質エラストマー性材料に当てはまるため、層の接着性が不十分であるということは、Z方向のエラストマー特性が不十分であり、且つ部品が他の方向よりも一方向にはるかに優れた性能を示すことになる非対称性が導入され、Z方向のエラストマー特性(エネルギー収支など)が更に失われることを意味する。加えて、層の接着性が不十分であるということは、圧縮力又は張力を受けている部品、特に複数回のサイクルを受けている部品の層に沿った潜在的な断裂や破損も意味する。これは、特に運動器具、消費者製品、及び産業用途での実際の使用のための3D印刷された部品を妨げる主要な問題である。対照的に、射出成形された部品は等方性であり、印刷方向の影響や層の弱さはないであろう。ほぼ等方性であり、高度にエラストマー性であり(少なくとも50パーセントの破断点伸びのレベルを有する)、耐薬品性、耐摩耗性、耐疲労性、及び耐候性を有する3D印刷可能な材料が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
印刷条件で選択された硬化温度を有する半結晶性及びアモルファスのポリマーが、Z方向に非常に優れた機械的特性を示すことが今回見出された。例えば、ほとんどのポリアミド材料は、冷却時に材料の可動性が乏しく、急速に硬化して不十分な相互貫入層を生成し、不十分な層の接着性と不十分なZ方向特性を示す。対照的に、本発明の材料は、全て印刷中の層界面でより高い材料移動度(溶融レオロジーによって測定される)を有し、その結果、層を横切る方向でのより大きなポリマー相互貫入性及びはるかに大きい層接着性が得られる。本発明の材料は、全てXY方向に匹敵する、Z方向の高い相対強度及び高い破断点伸びを有する。本発明の材料は、Z方向に50%を超えて伸びることができる部品を生成し、典型的な材料及び選択された材料外の材料は50%未満しか伸びない。本発明の選択された材料は、印刷条件で、140℃未満、好ましくは130℃未満、好ましくは125℃未満のG’/G”クロスオーバー温度(硬化温度とも呼ばれる)を有する。
【0007】
このG’/G”値は、ポリマー、ブロックコポリマー組成物のコポリマー、材料又はブロックコポリマー中の各ブロックの数平均分子量、ブロックコポリマー中の全体のソフトブロック対ハードブロックの比率、並びにポリマーブレンド中の各材料の量、分子量、及び組成を調整することによって操作できる材料のレオロジーに関連する。更に、材料のレオロジーとG’/G”クロスオーバー温度を使用すると、アモルファス材料と半結晶材料の両方が硬化温度を示すため、アモルファス材料と半結晶材料の両方を評価することができる。
【0008】
本発明の材料は、著しく高いZ方向の耐衝撃性及び一般的な部品の堅牢性も示す。増加した層の接着性のため、本発明の3D印刷された部品は、より長く使用することができ、レイヤーラインを横切る方向で破損しない。代わりに、印刷された部品は、典型的な3D印刷された部品の脆性破壊特性と対照的に、射出成形された部品と同様の延性破壊を示し、そのためこれらの部品は実際の使用用途に適している。
【0009】
硬化(クロスオーバー)点に加えて、層間の優れた接着性のための許容範囲を特定するために弾性率G’値を使用することもできる。動的機械分析技術及びG’値は、糊、スラリー、及び接着剤の濡れ性、剥離強度、及び接着特性を決定するために一般的に使用される。これに関し、溶融フィラメントはソフトマターとして扱うことができ、その接着特性はG’値に依存するとみなすことができる。ポリマーは、下にある層とよく接触させるために比較的流動性を有する必要がある。接着剤においては、この事実は、G’が0.1MPa未満である必要があるとしているDahlquist基準に反映されている。同様に、3D材料についての臨界弾性率Gc’を定義することも可能である。このような臨界弾性率の値を使用することにより、印刷適性の品質と接合強度を予測することができるはずである。そのため、弾性率がGc’よりも低い熱可塑性プラスチックは接着性が優れていると予測され、弾性率がGc’よりも高い熱可塑性プラスチックは層間接着性が不十分であると予測される。
【0010】
更に、本発明の組成物を使用して印刷された層間の接着性が増加すると、視認できる界面層がほとんど得られないため、光学的性質が大幅に改善される。本発明の印刷された部品は、ヘイズが少なくほぼ透明である。
【0011】
堆積ラインの温度を高くするために、材料にフィラーを添加してポリマーの熱伝導率を増加させることも可能であり、これにより接合強度が高くなる可能性がある。例えば、金属酸化物を追加すると、電気伝導率が増加せずに熱伝導率が増加する。例えば、広く入手可能であり、安価であり、且つガラスの約40倍大きい熱伝導率を有するアルミニウム酸化物の添加である(注:フィラーの選択ははるかに広範である-全ての可能性の列挙は必要であろうか?)。強い3D印刷された導電性部品を製造するために、炭素系材料(カーボンブラック、グラフェン、グラファイト、CNT等)を添加することも可能である。
【0012】
本発明は、熱可塑性ポリマーを含む3D印刷された物品であって、前記熱可塑性ポリマーが、半結晶性又はアモルファスのポリマーであり、平行平板レオロジーによって測定される140℃未満、好ましくは130℃未満、より好ましくは125℃未満のクロスオーバー温度(G’/G”)を有する3D印刷された物品に関する。好ましくは、物品は、35℃超、好ましくは55℃超、より好ましくは75℃超、更に好ましくは95℃超の硬化点を有する。印刷された物品は熱可塑性であるものの、本発明では、例えば照射架橋を使用する印刷後の架橋、又は熱硬化性材料を形成するための反応し得る2種の異なるフィラメントの反応性印刷、又は印刷プロセス中に混合されて反応する2つ以上のドメインを持つ単一のセグメント化されたフィラメントなどの、公知の機構による熱硬化性材料である物品も想定されている。
【0013】
一実施形態では、3D印刷された物品は、直鎖ポリエチレン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエチレンテレフタレート、アイソタクチックポリプロピレン、ポリアミド、ポリフッ化ビニリデン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルケトンケトン、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルブロックポリアミド、ポリエステルブロックポリアミド、コポリアミド、選択された熱可塑性ポリウレタン、軟質ポリオレフィン、及びこれらの混合物などの半結晶性ポリマーである。
【0014】
別の実施形態では、3D印刷された物品は、ABS、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリスルホン、アクリル、及びポリエーテルイミドなどのアモルファスポリマーである。特に有用なアクリルとしては、少なくとも51重量パーセント、好ましくは少なくとも70重量パーセント、より好ましくは少なくとも80重量パーセントのメタクリル酸メチルモノマー単位を含むホモポリマー及びコポリマーが挙げられる。
【0015】
別の実施形態では、半結晶性ポリマーは2種以上のポリマーのブレンドである。
【0016】
別の実施形態では、半結晶性ポリマーは、ポリアミドと、ポリエーテルブロック又はポリエステルブロックのいずれかとを含むポリアミドブロックコポリマーである。好ましい実施形態では、ポリエーテルブロックはポリテトラメチレングリコールを含む。別の実施形態では、ポリエーテル及び/又はポリアミドブロックの数平均分子量は、3,000g/l未満、好ましくは、2,000g/l未満である。
【0017】
別の実施形態では、半結晶性ポリマーはポリアミドブロックコポリマーであり、前記半結晶性ブロックポリマーは、160℃未満、好ましくは155℃未満の融点を有する。
【0018】
別の実施形態では、半結晶性ポリマーはポリアミドブロックコポリマーであり、前記半結晶性ブロックポリマーは、145℃未満、好ましくは135℃未満の結晶化温度を有する。
【0019】
別の実施形態では、半結晶性ポリマーは、ASTM C965に準拠して回転粘度計によって測定した場合に、230℃の温度で100,000Pa-s未満、好ましくは10,000Pa-s未満、より好ましくは50~1,000Pa-sの1sec-1のせん断における粘度、並びに、230℃の温度及び100sec-1のせん断速度において、20~2,000Pa-s、好ましくは25~1,000Pa-s、より好ましくは30~500Pa-sの粘度を有する。
【0020】
別の実施形態では、印刷された物品は、透明であるか又はほぼ透明であり、ASTM D1003によって測定される70%未満のヘイズ及び75を超えるTWLTを有する。
【0021】
一実施形態では、3D印刷された物品は、少なくとも50%のZ方向の破断点伸びを有する。好ましくは、物品は、降伏点又は破断点のXY応力に対して少なくとも80パーセントの、Z方向における破断点伸びを有する。
【0022】
3D印刷された物品は、1~50重量パーセント、好ましくは1~40重量パーセント、より好ましくは1~30重量パーセント、より好ましくは1~20重量パーセント、より好ましくは2~10重量パーセントの1種以上の添加剤を更に含み得る。
【0023】
一実施形態では、3D印刷プロセスで使用するためのフィラメントであって、少なくとも1種の半結晶性ポリマーを含み、140℃未満、好ましくは130℃未満、より好ましくは125℃未満のクロスオーバー温度(G’/G”)を有するフィラメントである。
【0024】
本発明の別の実施形態は、熱可塑性3D物品を印刷するための方法であり、
- 前記物品を印刷するための体積流量及びライン間隔を設定するために3Dプリンタのソフトウェアを予め設定し、有効な温度にするためにノズル及び印刷環境を設定する工程;
- 実施形態1の熱可塑性ポリマー組成物を、フィラメント、ペレット、又は粉末の形態で3Dプリンタに供給して半結晶性ポリマー溶融物を形成する工程であって、半結晶性ポリマーが、有効温度で測定される140℃未満、好ましくは130℃未満、より好ましくは125℃未満のクロスオーバー温度(G’/G”)を有するように選択される工程;
- プリンタによって半結晶性組成物の溶融物を加熱されたノズルに供給する工程;並びに
- 半結晶性組成物の溶融物を、ソフトウェアによって設定された設定位置、ライン間隔、及び流量で堆積させて物品を形成する工程;
を含む、方法である。
【0025】
この方法は、例えば加熱されたチャンバー、後方熱風ノズル、又はその両方である可能性がある外部供給源の外部熱から、印刷された半結晶性ポリマーに熱を加える工程を含み得る。
【0026】
本明細書内で、実施形態は、明確且つ簡潔な明細書を書くことを可能にする形で記載されているが、これは、本発明から逸脱することなしに実施形態を様々に組み合わせることができる、或いは分離できることが意図されており、また理解されるであろう。例えば、本明細書に記載の全ての好ましい特徴は、本明細書に記載の本発明の全ての態様に適用可能であることが理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】サンプル2、4、及び5の3D印刷された試験板(厚さ約3mm、層の高さ0.1mm)の拡大写真をそれぞれ示す。
【
図2】様々なアモルファス及び半結晶性の材料のクロスオーバー温度に対する層の強さ(z層の破断点伸び/射出成形品の破断点伸び)を示すプロットである。
【
図3】温度を下げた際のサンプル7のレオロジー曲線G’及びG”のプロットを示す。
【
図4】温度を下げた際のサンプル2のレオロジー曲線G’及びG”のプロットを示す。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明は、熱可塑性ポリマーから構成される3D印刷された物品であって、選択されたポリマーが印刷条件において、140℃未満、好ましくは130℃未満の硬化温度(G’/G”)を有する3D印刷された物品に関する。これらのポリマーは、半結晶性であってもアモルファスであってもよい。選択された硬化温度範囲を有するポリマーは、非常に優れた層接着性を有する3D印刷された物品を生成し、エネルギー収支やサイクル寿命などの優れたエラストマー特性をもたらす。3D物品では全ての方向に優れたエラストマー特性を有することが望まれており、そのため、層の接着性、Z方向の強度、及びZ方向の機械的特性が重要である。
【0029】
本明細書で引用される全ての参考文献は参照により組み込まれる。別段の記載がない限り、全ての分子量はガス浸透クロマトグラフィー(GPC)によって決定された重量平均分子量であり、全てのパーセント割合は重量パーセント割合である。
【0030】
本明細書で使用される「コポリマー」という用語は、2種のコモノマーを含む2種以上の異なるモノマー単位から構成されるポリマー、ターポリマー、及び3種以上の異なるモノマーを有するポリマーを示す。コポリマーは、ランダムであってもブロックであってもよく、不均一であっても均一であってもよく、またバッチ式、半バッチ式、又は連続プロセスで合成されてもよい。
【0031】
本明細書で使用される「硬化温度」又は「硬化点」は、印刷条件における材料の流動学的な硬化点又は流動学的な凝固点を指す。これは、印刷の有効温度における材料の移動度の尺度である。硬化点の1つの尺度は、平行平板レオロジーによって測定されるG’/G”のクロスオーバー温度である。或いは、G’がG”と交差しないか又は複数回交差する場合には、硬化温度は、G’>0.03MPaである温度として定義することができる。硬化温度は結晶化温度により見積もることができるものの、当業者は、結晶化温度と凝固温度が厳密に同じ点で存在しないことを理解している。実際、硬化温度は材料が硬化し始める結晶化の開始時に存在するのに対し、結晶化温度は結晶化のピークにあることから、硬化温度は典型的には結晶化温度よりも数度高い。更に、異なるポリマーのブレンドである組成物は、複数の結晶化点を示すことになるが、流動学的な硬化点は1つのみである。加えて、アモルファス材料、又は結晶化しない半結晶性材料は、依然として流動学的な硬化点を示す。アモルファス材料では、硬化温度はガラス転移温度Tgと関係するものの、より高い温度に存在する。したがって、アモルファス材料と半結晶性材料の両方を特性評価するために硬化温度を使用することができる。クロスオーバー温度は、冷却速度の関数である場合もあり、冷却が遅いと移動可能な時間が長くなり、有効クロスオーバー温度が低くなる。ファンなしで、又は加熱されたチャンバーの中で物品を印刷すると、冷却を遅くすることができる。クロスオーバー/硬化温度が高すぎて本発明の一部にはならない組成物は、遅い冷却サイクルを使用することにより本発明の範囲内に収まるように調整することができる。
【0032】
本明細書で使用される「有効硬化温度」は、外部加熱(又は冷却)の効果を含む硬化温度を指す。例えば、3D物品の印刷に加熱チャンバーが使用される場合、材料の有効硬化温度は、レオロジーで測定した硬化温度から、加熱チャンバーによる周囲温度を超える温度上昇を差し引いたものである。
【0033】
本発明の硬化点は、ポリマーマトリックスの硬化点を表し、フィラーなどの非ポリマー性添加剤の物理的特性の寄与を考慮していない。
【0034】
本明細書で使用される「半結晶性ポリマー」は、10~80重量パーセントの結晶化度を有するポリマーを指す。半結晶性ポリマーは、少なくとも1つの(eon)結晶性セグメントが存在する限り、限定するものではないが、ポリマー、コポリマー、ブロックコポリマー、櫛形コポリマー、及び星形コポリマーなどの様々な構造を有し得る。半結晶性ブロックとアモルファスブロックとを有するブロックコポリマーは、本発明の半結晶性ポリマーであるとみなされる。
【0035】
半結晶性ポリマーの例としては、限定するものではないが、直鎖ポリエチレン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエチレンテレフタレート、アイソタクチックポリプロピレン、ポリアミド、ポリフッ化ビニリデン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルケトンケトン、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルブロックポリアミド、ポリエステルブロックポリアミド、コポリアミド、選択された熱可塑性ポリウレタン、軟質ポリオレフィン(ArkemaのApolhya(登録商標)樹脂など)が挙げられる。
【0036】
一実施形態では、ポリマーのブレンドが想定され、ブレンドのうちの1種以上のポリマーは140℃を超える硬化温度を有し得るが、これらの高硬化点ポリマーは、十分な量のより低い硬化点材料とブレンドされるため、全体の組成物の全体としての硬化点は140℃未満である。そのようなブレンドは、本発明の材料のエラストマー特性及び機械的特性を有し、硬化点の高い方の材料によって付与される機械的特性からの利益を得ることができる。
【0037】
一実施形態では、有用なブレンドは、少なくとも1種のアモルファスポリマーと1種以上の半結晶性ポリマーとから形成される。
【0038】
本明細書で使用される「有効温度」は、印刷及び冷却される際に3D印刷されたポリマーが経る温度を意味する。有効温度は、ノズル温度と印刷環境の温度によって影響を受ける。これは、周囲温度の場合もあり、或いは加熱されているチャンバーの場合では高温の場合もある。一次近似では、有効温度をノズル温度と造形チャンバーとの平均として定義することができる。
【0039】
一実施形態では、有効温度は、3Dプリンタに層状ヒーターを追加することによって変更することができる。加熱されたチャンバー全体の代わりに、サンプルを加熱して印刷されたポリマーの移動可能な時間を長くするために、熱風、放射熱、マイクロ波エネルギー、又は何らかのその他の外部エネルギー源を印刷地点でポリマーに直接加えることができる。例えば、印刷されたままの状態のポリマーに追加の熱を加えるために、印刷ノズルに後方熱風ノズルを付加することができる。別の実施形態では、有効温度は、3Dプリンタのファンのスイッチを切ることによって変更することができ、その結果印刷された部分のすぐ周りのより高い空気温度を維持し、より高い硬化温度の材料を使用できるようにすることができる。
【0040】
本発明は、140℃未満、好ましくは130℃未満、より好ましくは125℃未満の低い硬化点を有する特定の熱可塑性、半結晶性、及びアモルファスのポリマーに関する。優れた印刷適性のために、硬化点は35℃超、より好ましくは55℃超、より好ましくは75℃超の必要がある。
【0041】
本発明は、必要な有効硬化温度を有する任意の半結晶性又はアモルファスのポリマーに関するが、ポリアミドブロックポリマー(PEBA)が好ましい実施形態であり、本発明を説明するために使用される。当業者は、PEBAポリマーの説明を利用して、他の半結晶性ポリマー及び半結晶性ポリマーのブレンドを用いて本発明を実施することができる。
【0042】
本発明のポリアミドブロックコポリマーには、ポリエーテルアミドブロックコポリマー及びポリエステルアミドブロックコポリマーが含まれる。ポリアミドブロックコポリマーは、「ハード」又は「リジッド」なブロック又はセグメント(相対的に熱可塑性の挙動を有する)と「ソフト」又は「フレキシブル」なブロック又はセグメント(相対的にエラストマー性の挙動を有する)を交互に含む。
【0043】
本発明をポリエーテルブロックアミドに関して以下で説明するが、当業者であれば、同様の説明がポリエステルブロックアミドに適用され、同様の特性及びプロセスが本発明で有用な他の半結晶性及びアモルファスのポリマーについて想定されることを認識するであろう。
【0044】
ポリエーテルブロック及びポリアミドブロックコポリマー、又はPEBAは、特に以下のような、反応性末端を含むポリアミドブロックと反応性末端を含むポリエーテルブロックとの重縮合により得られる:
1)ジアミン鎖末端含有ポリアミドブロックと、ジカルボン酸鎖末端含有ポリオキシアルキレンブロック;
2)ジカルボン酸鎖末端含有ポリアミドブロックと、ポリエーテルジオールとして知られる脂肪族α,ω-ジヒドロキシル化ポリオキシアルキレンブロックのシアノエチル化及び水素化によって得られるジアミン鎖末端含有ポリオキシアルキレンブロック;
3)ジカルボン酸鎖末端含有ポリアミドブロックと、ポリエーテルジオール、得られる生成物は、この具体的な例ではポリエーテルエステルアミドである。
【0045】
ジカルボキシル鎖末端含有ポリアミドブロックは、例えば、鎖を制限するジカルボン酸の存在下でポリアミド前駆体を縮合することにより生じる。ジアミン鎖末端含有ポリアミドブロックは、例えば、鎖を制限するジアミンの存在下でポリアミド前駆体を縮合することにより生じる。
【0046】
ポリアミドブロックの数平均モル質量Mnは制御することができ、通常400~20,000g/molの間、好ましくは500~10,000g/molの間、より好ましくは3,000g/mol未満である。
【0047】
ポリアミドブロックとポリエーテルブロックとを含むポリマーは、ランダムに分布した単位を含むこともできる。
【0048】
好ましくは、本発明のポリエーテルアミドブロックコポリマーは、1重量%~80重量%のポリエーテルブロックと20重量%~99重量%のポリアミドブロック、好ましくは4重量%~60重量%のポリエーテルブロックと40重量%~96重量%のポリアミドブロック、より好ましくは30重量%~60重量%のポリエーテルブロックと40重量%~70重量%のポリアミドブロックを含む。ポリエーテルブロックの質量Mnは、100~6,000g/molの間、好ましくは200~3,000g/molの間、より好ましくは500~2,500の間である。
【0049】
ポリエーテルブロックは、アルキレンオキシド単位からなる。これらの単位は、例えばエチレンオキシド単位、プロピレンオキシド単位、又はテトラヒドロフラン単位(これによりポリテトラメチレングリコール配列が得られる)であってもよい。したがって、PEG(ポリエチレングリコール)ブロックすなわちエチレンオキシド単位からなるもの、PPG(ポリプロピレングリコール)ブロックすなわちプロピレンオキシド単位からなるもの、PO3G(ポリトリメチレングリコール)ブロックすなわちポリトリメチレンエーテルグリコール単位からなるもの(ポリトリメチレンエーテルブロックを有するそのようなコポリマーは米国特許第6,590,065号明細書に記載されている)、及びPTMGブロックすなわちポリテトラヒドロフランブロックとしても知られるテトラメチレングリコール単位からなるものが使用される。PEBAコポリマーは、それらの鎖中にいくつかのタイプのポリエーテルを含むことができ、コポリエーテルがブロック又はランダムコポリエーテルであることが可能である。PEBAコポリマーの水蒸気透過性は、ポリエーテルブロックの量と共に増加し、これらのブロックの性質と相関して変動する。優れた透過性を示すPEBAを得ることが可能なポリエチレングリコールポリエーテルブロックを使用することが好ましい。
【0050】
ポリエーテルブロックは、エトキシル化第一級アミンから構成されていてもよい。ソフトポリエーテルブロックは、NH2鎖末端含有ポリオキシアルキレンブロックを含むことができ、そのようなブロックは、ポリエーテルジオールとして知られている脂肪族α,ω-ジヒドロキシル化ポリオキシアルキレンブロックのシアノアセチル化によって得ることが可能である。好ましいポリエーテルブロックは、疎水性が高く、そのため3D印刷用のフィラメントに重要である水分の影響の受けにくさを有することからPTMGが好ましい。
【0051】
ポリエーテルジオールブロックは、そのまま使用され、カルボキシル末端含有ポリアミドブロックと共重縮合されるか、又はこれらはアミノ化されポリエーテルジアミンへと変換されてカルボキシル末端含有ポリアミドブロックと縮合する。PAブロックとPEブロックとの間にエステル結合を有するPEBAコポリマーの二段階調製のための基本方法は公知であり、例えば仏国特許第2846332号明細書に記載されている。PAブロックとPEブロックとの間にアミド結合を有する本発明のPEBAコポリマーの調製のための基本方法は公知であり、例えば欧州特許第1482011号明細書に記載されている。ポリエーテルブロックは、ランダムに分布した単位を有するポリアミドブロックとポリエーテルブロックとを含むポリマーを調製するために、ポリアミド前駆体及び鎖を制限する二酸と混合することもできる(一段階プロセス)。
【0052】
有利には、PEBAコポリマーは、PA6、PA11、PA12、PA6.12、PA6.6/6、PA10.10、及び/又はPA6.14のPAブロック、好ましくはPA11及び/又はPA12ブロックと、PTMG、PPG、及び/又はPO3GのPEブロックとを有する。主にPEGからなるPEブロックに基づくPEBAは、親水性PEBAの範囲に位置付けされる。主にPTMGからなるPEブロックに基づくPEBAは、疎水性PEBAの範囲に位置付けされる。
【0053】
本発明のポリアミドブロックコポリマーは、3D印刷された部品を得るために、半結晶性の性質を有さなければならない。ポリアミドは、少なくともある程度の半結晶性の特性を有さなければならない。純粋なアモルファスポリアミドブロックは、クロスオーバー点が高すぎるため、発明では機能しない。それ自体がアモルファス及び半結晶性のポリアミドブロックを有するブロックコポリマーであるポリアミドブロックは、本発明において機能するであろう。
【0054】
硬化温度:
本発明において有用なポリアミドブロックコポリマーは、140℃未満、好ましくは130℃未満の硬化温度を有するものである。一般に、ブロックコポリマーの硬化温度が低いほど、印刷処理中のポリマーマトリックスの可動性が高くなり、Z層の接着性が向上する。硬化温度又はクロスオーバー温度は、弾性率(MPa)を測定し、G’プロットがG”プロットと交差する温度を決定することによって決定することができる。これは、以下の図で見ることができる。硬化温度は結晶化温度と同様であるが、レオロジー対示差走査熱量測定(DSC)により測定される。
【0055】
一般的に言えば、動的弾性率は材料の粘弾性の尺度であり、ポリマーの貯蔵弾性率G’すなわち弾性応答と、損失弾性率G”すなわち粘性応答である。低温での弾性率が粘性応答を支配していることから、クロスオーバー温度(G’=G”)は硬化の開始とみなすことができる。或いは、クロスオーバー温度が存在しないか複数存在する場合には、G’>0.03MPaのポイントを硬化温度とみなすことができる。クロスオーバー/硬化温度が低いほど、より緩和時間が短い材料として理解することができ、材料が冷却されている際により長い期間、より迅速に分子が相互拡散することを示唆する。
【0056】
レオロジー試験によって硬化温度を測定するために使用される1つの方法では、最初に、サンプルを1.5~3mmの範囲の厚さの直径25mmのディスクに圧縮成形する必要がある。サンプルを融解よりも15~20℃上に加熱し、4トンの圧力を5~7分間加えてから、コールドプレスに3~5分間移すことが好ましい。
【0057】
その後、平行平板レオメトリーを使用して硬化温度を決定するために、形成されたサンプルが試験される。この試験は、1.8mm~0.5mmの間の狭い隙間を有する平行な平板の間で樹脂を溶かすことからなる。フィラーの存在下では、隙間は樹脂中のより大きいフィラー粒子よりも少なくとも10倍大きくなければならない。サンプルは、融解温度より少なくとも30~50℃高いが分解温度よりははるかに低い温度まで加熱することが好ましい。本発明で使用されるレオメータは、Anton PaarのMCR502である。ソフトウェアは、一定の冷却速度(5℃/分~10℃/分の間が推奨される)で温度を同時に下げながら、小さな振動力を加えることによってサンプルをせん断するようにプログラムされる。試験は、温度スイープ実験の前に各樹脂のひずみ振幅スイープを実行することより決定可能な線形粘弾性領域内で常に行う必要がある。
【0058】
硬化温度は、印刷された部品の優れた層間接着に必要とされる低い硬化温度を得るために、当該技術分野で公知の通りに調整することができる多くの要因に依存する。PEBAで調節可能なこれらの要因のいくつかは以下の通りである:
a)数平均分子量、特にソフトブロックの数平均分子量。同じ比率で同じブロックを有する以下のサンプル2と3の比較から分かるように、より大きい平均分子量のブロックほど、Tmが高くなり、硬化温度も高くなる。
b)ポリアミド対ポリエーテルブロックの重量比。
c)ポリアミドブロックの組成。サンプル1とサンプル2及びサンプル4との比較から分かるように、ポリアミドの鎖が短いほど硬化温度が低下する。更に、ポリアミドブロックの組成は、3D印刷された部品を得るためには、少なくとも部分的に半結晶性でなければならない。
d)粘度:高せん断速度粘度における印刷温度(200~240℃)でのポリアミドブロックコポリマーの粘度は、キャピラリーレオモメトリーで測定した場合、232℃且つ100sec-1で30~2000Pa-sである。
適切な3D印刷のためには、本発明の組成物は、ASTM C965に準拠して回転粘度計によって測定した場合に、230℃の温度で100,000Pa-s未満、好ましくは10,000Pa-s未満、より好ましくは50~1,000Pa-sの1sec-1のせん断における粘度、並びに、230℃の温度及び100sec-1のせん断速度において、20~2,000Pa-s、好ましくは25~1,000Pa-s、より好ましくは30~500Pa-sの粘度を有する必要がある。
e)有効温度:ノズル温度とチャンバー温度との平均、又はファンのスイッチがオフになっている場合の部品周辺の温度として定義される。印刷環境条件(ノズル温度及び/又はチャンバー温度)が高い場合、或いは印刷中にファンのスイッチがオフにされる場合には、印刷された組成物の硬化温度が高くなる場合がある。有効温度に対する硬化温度の重要性は、優れたZ方向特性を持たせるために、有効温度よりも低い、好ましくは有効温度よりも10℃低い、より好ましくは20℃低い硬化温度が本発明に望まれることである。フィラメント自体の硬化温度は決定できる(ノズルや加熱温度の影響なし)一方で、印刷地点及び後続の層における材料でみられる有効温度が高くなるため、相対的な有効温度を高くすることができる。
【0059】
融解温度:本発明で機能するポリアミドブロックコポリマーを本発明の一部ではないものと区別する別の方法は、融点に基づく。融解温度は結晶化温度と全く同じではないものの、近似値である。本発明のPEBAブロックコポリマーは、160℃未満、好ましくは155℃未満の融解温度(Tm)を有する。
【0060】
添加剤:
フィラーは、ポリマーとフィラーの合計量を基準として0.01~50重量パーセント、好ましくは0.1~40体積パーセント、より好ましくは1~30体積パーセント、1~20体積パーセント、及び2~10パーセントの有効レベルでポリアミドブロックコポリマーに添加することができる。
【0061】
本発明のポリアミドブロックコポリマーは、そのエラストマー特性のために通常使用されることから、好ましい実施形態では、印刷された部品の剛性を高めるフィラーは使用されない。エラストマー特性を低下させる添加剤は、使用されるとしても低レベルでのみ使用されるであろう。紫外線吸収剤、染料、及び顔料などの、エラストマー性の効果にほとんど影響を与えない添加剤は通常使用することができる。
【0062】
物品の剛性を高めるため低レベルでのみ使用され得る他のフィラーとしては、非限定的な例として、炭素繊維、炭素粉末、粉砕炭素繊維、カーボンナノチューブ、ガラスビーズ、ガラス繊維、ナノシリカ、アラミド繊維、PVDF繊維、ポリアリールエーテルケトン繊維、BaSO4、タルク、CaCO3、グラフェン、ナノファイバー(通常100~150ナノメートルの平均繊維長)、及び中空ガラス又はセラミック球が挙げられる。
【0063】
プロセス
ポリアミドブロックコポリマー、又は本発明の他のポリマーは、通常は押出プロセスによりフィラメントやペレットへと形成される。フィラメントは単相であっても多相であってもよい。組成物又は樹脂は、フィラメント(1.75mm、2.85mm、又はその他のサイズを含む任意のサイズの直径)の有無に関わらず、任意のサイズのノズルを用いて、フィラメント、ペレット、粉末、又はその他の形態のポリアミドブロックコポリマーを使用できる任意の速度で、材料押し出し(熱溶解積層法、溶融フィラメント製造)形式の3Dプリンタで3D印刷される。
【0064】
印刷プロセスの一般的な説明には、半結晶性ポリマーフィラメント、ペレット、又は粉末を3Dプリンタに供給する工程が含まれる。プリンタのコンピュータ制御は、材料の設定された材料の体積流量を供給し、印刷ラインを一定の間隔で配置するように設定される。装置は、ポリマー組成物を設定された速度で加熱されたノズルに供給し、プリンタは、設定された量の半結晶性ポリマー組成物を堆積させるためにノズルを適切な位置に移動させる。
【0065】
ポリアミドブロックポリマーについては、材料/フィラメントの軟らかさのため、ダイレクトギア押出機が好ましい。
【0066】
プリンタは、通常50~150℃(好ましくは90℃超)の加熱床を有する。
【0067】
収縮及び反りを最小限に抑え、最適な強度と伸びを有する3D印刷された部品を製造するために、3Dプリンタのプロセスパラメータを調整することができる。選択したプロセスパラメータの使用は、あらゆる押し出し/溶融3Dプリンタに適用され、好ましくはフィラメント印刷に適用される。
【0068】
PTMGポリエーテルブロックを有するものなどの疎水性ポリアミドブロックコポリマーは、水分獲得に対するそれらの耐性のため好ましい。フィラメントは、最もよい状態の押出のために乾燥している必要がある。
【0069】
一実施形態では、2種以上の異なる組成物を使用する2本以上のノズルを利用して、新規な、より大きい、且つより反りの少ない物品を製造することができる。1つの用途は、基材として反りが少なく、剛性が高く、基材に付着しやすい相溶性又は混和性材料を製造し、その後、付着性が小さく、収縮が大きい望まれる材料をその上に印刷することであろう。変形形態は、アクリルベースの組成物、又はポリマーフィルムを使用し、その後ポリアミドブロックコポリマー組成物をその上に印刷することである。
【0070】
特性:
本発明の3D印刷された物品は、比較的等方性であり、優れた層接着性のためZ方向と同様の特性をXY方向に有する。このため、圧縮又は歪みを受けた際にほぼ100%のエネルギー収支が得られる。これは、典型的な熱可塑性ポリウレタン(TPU)からの同様のエネルギー収支よりもはるかに優れている。更に、3D印刷された物品は、XY方向とZ方向の両方で、-30℃まで、好ましくは-35℃までの優れた耐衝撃性を有する。
【0071】
本発明のPEBA組成物を用いて印刷された物品は、耐候性及び耐薬品性を有する。優れた層接着性のため、印刷された物品は非常に頑丈でもあり、容易には崩れず、多数の圧縮及び引張のサイクルを受けることができる。
【0072】
一実施形態では、印刷されたPEBA組成物は、ヘイズがほとんどなくほぼ透明である。実施例において、ポリアミド11を使用する組成物は特に高い透明性を有していた。透明性は、3D印刷されたサンプルがレイヤーラインをほとんど又は全く示さないことに関連する。
【0073】
層間の接着性が優れていることから、この組成物を用いて製造された物品はほぼ透明であり、レイヤーラインがほとんど又は全く示されない。
【0074】
用途:
固有のエネルギー収支、伸び、耐薬品性、及び耐候性のため、この組成物を用いて3D印刷することができる有用な物品としては、柔軟性及び柔らかい手触り、並びに優れた耐久性、耐候性/耐薬品性が望まれる靴底、時計バンド、バイクのハンドル、及びその他の部品などの、エラストマー系材料を必要とするスポーツ用品及び消費者製品が挙げられる。
【実施例】
【0075】
実施例1
様々な量のハードブロックとソフトブロックとを有するPEBAの選択されたもの(本発明及び比較)、及びポリアミド(比較)をフィラメントとして使用した。各材料の引張棒は、XY方向とZ方向の両方で印刷した。
PA=ポリアミドブロック
PTMG=ポリ(テトラメチレングリコール)ブロック
【0076】
比率はポリエーテルブロックに対するポリアミドブロックの重量比である。
【0077】
MnはGPCにより測定した。
【0078】
G’/G”は、℃単位でのクロスオーバー温度(硬化温度)である。これは、印刷温度から約50℃までの2πラジアン/sec(低せん断)における振動レオメトリーによって決定される。
【0079】
IM降伏強さは、引張試験により測定される射出成形された部品の降伏強さである。
【0080】
XY方向及びZ方向の3D降伏応力は、ASTM D638に従ってXY方向又はZ方向のいずれかに印刷された引張棒(タイプ1、縦方向に50%に縮小)で測定した。
【0081】
「PA12+PTMG」は、そのサイズ(数平均分子量Mnで表される)のポリエーテルブロックとポリアミドブロックとを有するポリエーテルブロックアミドを表す。PA12/B.14+PTMGは、それ自体がPA12とPA14とのブロックコポリマーであるポリアミドブロックを有するポリエーテルブロックアミドコポリマーを表す。
【0082】
以下の実施例における全ての3D印刷された部品は、230℃及び加熱チャンバーなしの室温で印刷した。ファンなしで印刷した結果として、サンプル9と比較したサンプル10のZ方向が改善されたことに注目される。サンプル#11はアモルファスであり、融点又は結晶化温度は持たないものの硬化温度を有し、硬化温度の傾向にも従うことに注目される。
【0083】
【0084】
データから分かるように、ポリアミドブロックコポリマーを選択してG’/G”クロスオーバー温度を低くする方法は複数存在する。
【0085】
実施例2
ASTM D1003を使用して、実施例1のサンプルをTWLT及びヘイズについて測定した。結果を以下の表2に示す。
【0086】
【0087】
図1は、サンプル2、4、及び5の3D印刷された試験板(厚さ約3mm、層の高さ0.1mm)の拡大写真をそれぞれ示す。サンプル4で中間層のラインが減少すると、ヘイズが減少し、透過率が増加することに注目される。
【0088】
図2は、様々なアモルファス及び半結晶性の材料のクロスオーバー温度に対する層の強さ(z層の破断点伸び/射出成形品の破断点伸び)を示すプロットである。クロスオーバー温度が140℃未満、好ましくは130℃、より好ましくは120℃未満であることの明確な効果に注目される。
【0089】
図3は、温度を下げた際のサンプル7のレオロジー曲線G’及びG”のプロットを示す。クロスオーバー温度且つ硬化温度である148℃、及びその温度にまたがるG’弾性率の急激な増加に注目される。この事例では硬化温度が高すぎ、この材料を用いて製造された部品は不十分な層接着性を有する。
【0090】
図4は、温度を下げた際のサンプル2のレオロジー曲線G’及びG”のプロットを示す。クロスオーバー温度且つ硬化温度である113℃、及びその温度にまたがるG’弾性率の増加に注目される。この事例では硬化温度は本発明内であり、この材料を用いて製造された部品は優れた層接着性を有し、Z方向の破断点伸びは350%である。