(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-07
(45)【発行日】2023-02-15
(54)【発明の名称】アレーアンテナの学習モデル生成方法及び学習モデル生成プログラム
(51)【国際特許分類】
H04B 7/06 20060101AFI20230208BHJP
H01Q 3/26 20060101ALI20230208BHJP
H01Q 21/00 20060101ALI20230208BHJP
【FI】
H04B7/06 950
H01Q3/26 Z
H01Q21/00
(21)【出願番号】P 2022000702
(22)【出願日】2022-01-05
【審査請求日】2022-01-06
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和3年度、総務省、「電波資源拡大のための研究開発」の「第5世代移動通信システムの更なる高度化に向けた研究開発」、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】591280197
【氏名又は名称】株式会社構造計画研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100119677
【氏名又は名称】岡田 賢治
(74)【代理人】
【識別番号】100115794
【氏名又は名称】今下 勝博
(72)【発明者】
【氏名】家 哲也
(72)【発明者】
【氏名】ファン ヴェイク、ピーター
(72)【発明者】
【氏名】松本 昇紘
【審査官】齊藤 晶
(56)【参考文献】
【文献】特表2008-532437(JP,A)
【文献】特開2021-143932(JP,A)
【文献】特開2021-158451(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2021/0112425(US,A1)
【文献】特開2012-186562(JP,A)
【文献】Zhao Zhou et al.,Training of Deep Neural Networks in Electromagnetic Problems: a Case Study of Antenna Array Pattern Synthesis,2021 IEEE MTT-S International Wireless Symposium (IWS),2021年08月10日
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04B 7/06
H01Q 3/26
H01Q 21/00
IEEE Xplore
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アレーアンテナの各素子の励振位相又は励振位相振幅と、前記アレーアンテナの電力放射パターン、電界実部放射パターン及び電界虚部放射パターンのうちの少なくともいずれか一つと、を備える複数の教師データを取得する教師データ取得ステップと、
前記教師データ取得ステップで取得された前記複数の教師データを用いて、前記アレーアンテナの電力放射パターン、電界実部放射パターン及び電界虚部放射パターンのうちの少なくともいずれか一つを入力し、前記アレーアンテナの各素子の励振位相又は励振位相振幅を出力する学習モデルを生成する学習モデル生成ステップと、を順に備え
、
前記教師データ取得ステップでは、前記アレーアンテナの各素子の配置順序番号に対して線形的に変化する励振位相を中心とする所定の範囲内で、ランダムに設定された前記アレーアンテナの各素子の励振位相に対して、シミュレーションを用いて計算された、前記アレーアンテナの電力放射パターン、電界実部放射パターン及び電界虚部放射パターンのうちの少なくともいずれか一つを、前記複数の教師データとして取得する
ことを特徴とするアレーアンテナの学習モデル生成方法。
【請求項2】
前記教師データ取得ステップでは、0を含まない所定の範囲内でランダムに設定された前記アレーアンテナの各素子の励振振幅に対して、シミュレーションを用いて計算された、前記アレーアンテナの電力放射パターン、電界実部放射パターン及び電界虚部放射パターンのうちの少なくともいずれか一つを、前記複数の教師データとして取得することを特徴とする、請求項
1に記載のアレーアンテナの学習モデル生成方法。
【請求項3】
アレーアンテナの各素子の励振位相又は励振位相振幅と、前記アレーアンテナの電力放射パターン、電界実部放射パターン及び電界虚部放射パターンのうちの少なくともいずれか一つと、を備える複数の教師データを取得する教師データ取得ステップと、
前記教師データ取得ステップで取得された前記複数の教師データを用いて、前記アレーアンテナの電力放射パターン、電界実部放射パターン及び電界虚部放射パターンのうちの少なくともいずれか一つを入力し、前記アレーアンテナの各素子の励振位相又は励振位相振幅を出力する学習モデルを生成する学習モデル生成ステップと、
を順に
コンピュータに実行させ、
前記教師データ取得ステップでは、前記アレーアンテナの各素子の配置順序番号に対して線形的に変化する励振位相を中心とする所定の範囲内で、ランダムに設定された前記アレーアンテナの各素子の励振位相に対して、シミュレーションを用いて計算された、前記アレーアンテナの電力放射パターン、電界実部放射パターン及び電界虚部放射パターンのうちの少なくともいずれか一つを、前記複数の教師データとして取得する
ことを特徴とするアレーアンテナの学習モデル生成
プログラム。
【請求項4】
前記教師データ取得ステップでは、0を含まない所定の範囲内でランダムに設定された前記アレーアンテナの各素子の励振振幅に対して、シミュレーションを用いて計算された、前記アレーアンテナの電力放射パターン、電界実部放射パターン及び電界虚部放射パターンのうちの少なくともいずれか一つを、前記複数の教師データとして取得することを特徴とする、請求項
3に記載のアレーアンテナの学習モデル生成
プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、アレーアンテナの各素子の励振位相振幅を推定する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
無線通信は時代とともに通信容量・低遅延性・高信頼性の向上を求められ、電波の発信端であるアンテナもミリ波帯と呼ばれる高周波数帯に対応することで小型化してきた。一方、高周波数帯では空間伝搬損失が非常に大きくなるため、その電力損失を補うべく複数アンテナ素子を並べて、電波を特定方向に集中させて放射するアレーアンテナ及びその関連技術が発展してきた。基地局のアンテナにアレーアンテナを用いる場合、アレーアンテナの各素子の励振位相振幅には様々なハードウェア要因により誤差が生じてしまう。
【0003】
従来は、アレーアンテナの各素子の励振位相振幅誤差は、REV法(Rotating element Electric-field Vector method)又はMEP法(Multi-Element Phase-toggle method)により、推定・補正が行われてきた(例えば、非特許文献1等を参照。)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】真野清司、片木孝至、“フェイズドアレーアンテナの素子振幅位相測定法-素子電界ベクトル回転法-”、電子情報通信学会論文誌、電子情報通信学会、1982年5月、第B65巻、第5号、pp.555-560.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
REV法は、アレーアンテナの素子ごとに移相器を0度から360度まで1回転させて、アレー合成電力の変化を測定していき、その結果を用いてアレーアンテナの各素子の初期励振位相誤差及び初期励振振幅誤差を推定する手法である。この手法は、アレー合成電力測定のみで良い一方、アレー合成電力測定の回数がアレーアンテナの素子数に比例して多くなり、アレー合成電力測定に時間がかかるという課題があった。
【0006】
MEP法は、アレーアンテナの素子ごとに移相器による位相シフト量を変えて、複数素子同時に又は全素子同時に励振位相を変化させたときのアレー合成電界(振幅及び位相)を測定していき、その結果を用いてアレーアンテナの各素子の初期励振位相誤差及び初期励振振幅誤差を推定する手法である。この手法は、REV法に比べ複数素子同時に又は全素子同時に初期励振位相誤差及び初期励振振幅誤差を推定することができるが、位相切り替えを複数回行う必要があり、またアレー合成電力測定より測定上の制約が大きいアレー合成電界(振幅及び位相)測定を行う必要があるという課題があった。
【0007】
さらに、通常アレーアンテナの各素子の初期励振位相誤差及び初期励振振幅誤差の推定・補正のための測定を行う前に、補正前後を比較して補正効果を確認するために、アレーアンテナの補正後放射パターンのみならず、アレーアンテナの補正前放射パターンを測定する。このように、アレーアンテナの各素子の初期励振位相誤差及び初期励振振幅誤差の推定・補正において、多くの測定の手間及び時間が必要であった。
【0008】
そこで、前記課題を解決するために、本開示は、アレーアンテナの各素子の初期励振位相誤差及び初期励振振幅誤差(初期励振振幅誤差を含めず、初期励振位相誤差のみも可。)の推定・補正において、多くの測定の手間及び時間を不要とすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するために、アレーアンテナの放射特性を入力し、アレーアンテナの各素子の励振特性を出力する、学習モデルを生成する。そして、学習モデルにおいて、アレーアンテナの補正前放射パターンを入力し、アレーアンテナの各素子の励振特性を出力する。つまり、事前に学習モデルを生成しておけば、アレーアンテナの補正前放射パターンを測定するのみにより、アレーアンテナの各素子の励振特性を推定することができる。
【0010】
具体的には、本開示は、アレーアンテナの各素子の励振位相又は励振位相振幅と、前記アレーアンテナの電力放射パターン、電界実部放射パターン及び電界虚部放射パターンのうちの少なくともいずれか一つと、を備える複数の教師データを取得する教師データ取得ステップと、前記教師データ取得ステップで取得された前記複数の教師データを用いて、前記アレーアンテナの電力放射パターン、電界実部放射パターン及び電界虚部放射パターンのうちの少なくともいずれか一つを入力し、前記アレーアンテナの各素子の励振位相又は励振位相振幅を出力する学習モデルを生成する学習モデル生成ステップと、を順に備えることを特徴とするアレーアンテナの学習モデル生成方法である。
【0011】
また、本開示は、アレーアンテナの電力放射パターン、電界実部放射パターン及び電界虚部放射パターンのうちの少なくともいずれか一つが入力される入力層と、前記アレーアンテナの各素子の励振位相又は励振位相振幅を出力する出力層と、前記アレーアンテナの各素子の励振位相又は励振位相振幅と、前記アレーアンテナの電力放射パターン、電界実部放射パターン及び電界虚部放射パターンのうちの少なくともいずれか一つと、を備える複数の教師データを用いて、パラメータが学習された中間層と、を備え、前記アレーアンテナの電力放射パターン、電界実部放射パターン及び電界虚部放射パターンのうちの少なくともいずれか一つを前記入力層へと入力し、前記中間層において演算し、前記アレーアンテナの各素子の励振位相又は励振位相振幅を前記出力層から出力するように、コンピュータを機能させるためのアレーアンテナの学習モデルである。
【0012】
これらの構成によれば、アレーアンテナの各素子の初期励振位相誤差及び初期励振振幅誤差(初期励振振幅誤差を含めず、初期励振位相誤差のみも可。)の推定・補正において、多くの測定の手間及び時間を不要とするための、学習モデルを生成することができる。
【0013】
また、本開示は、アレーアンテナの電力放射パターン、電界実部放射パターン及び電界虚部放射パターンのうちの少なくともいずれか一つを取得する放射特性取得ステップと、前記アレーアンテナの各素子の励振位相又は励振位相振幅と、前記アレーアンテナの電力放射パターン、電界実部放射パターン及び電界虚部放射パターンのうちの少なくともいずれか一つと、を備える複数の教師データを用いて生成された学習モデルにおいて、前記放射特性取得ステップで取得された前記アレーアンテナの電力放射パターン、電界実部放射パターン及び電界虚部放射パターンのうちの少なくともいずれか一つを入力し、前記アレーアンテナの各素子の励振位相又は励振位相振幅を出力する励振特性推定ステップと、を順に備えることを特徴とするアレーアンテナの励振特性推定方法である。
【0014】
また、本開示は、アレーアンテナの電力放射パターン、電界実部放射パターン及び電界虚部放射パターンのうちの少なくともいずれか一つを取得する放射特性取得ステップと、前記アレーアンテナの各素子の励振位相又は励振位相振幅と、前記アレーアンテナの電力放射パターン、電界実部放射パターン及び電界虚部放射パターンのうちの少なくともいずれか一つと、を備える複数の教師データを用いて生成された学習モデルにおいて、前記放射特性取得ステップで取得された前記アレーアンテナの電力放射パターン、電界実部放射パターン及び電界虚部放射パターンのうちの少なくともいずれか一つを入力し、前記アレーアンテナの各素子の励振位相又は励振位相振幅を出力する励振特性推定ステップと、を順にコンピュータに実行させるためのアレーアンテナの励振特性推定プログラムである。
【0015】
これらの構成によれば、アレーアンテナの各素子の初期励振位相誤差及び初期励振振幅誤差(初期励振振幅誤差を含めず、初期励振位相誤差のみも可。)の推定・補正において、多くの測定の手間及び時間を不要とするために、学習モデルを利用することができる。
【0016】
また、本開示は、前記教師データ取得ステップでは、360度の範囲内でランダムに設定された前記アレーアンテナの各素子の励振位相に対して、シミュレーションを用いて計算された、前記アレーアンテナの電力放射パターン、電界実部放射パターン及び電界虚部放射パターンのうちの少なくともいずれか一つを、前記複数の教師データとして取得することを特徴とするアレーアンテナの学習モデル生成方法である。
【0017】
この構成によれば、アレーアンテナの製造時等において、アレーアンテナの各素子のハードウェア要因により、アレーアンテナの各素子の大きい励振位相誤差があるときに、アレーアンテナの各素子の励振位相誤差をある程度の精度で推定することができる。そして、シミュレーションを用いて、大量の教師データを生成することができる。
【0018】
また、本開示は、前記教師データ取得ステップでは、前記アレーアンテナの各素子の配置順序番号に対して線形的に変化する励振位相を中心とする所定の範囲内で、ランダムに設定された前記アレーアンテナの各素子の励振位相に対して、シミュレーションを用いて計算された、前記アレーアンテナの電力放射パターン、電界実部放射パターン及び電界虚部放射パターンのうちの少なくともいずれか一つを、前記複数の教師データとして取得することを特徴とするアレーアンテナの学習モデル生成方法である。
【0019】
この構成によれば、アレーアンテナの運用時等において、アレーアンテナの経年変化又は環境変化により、アレーアンテナの各素子の小さい励振位相誤差があるときに、アレーアンテナの各素子の励振位相誤差をより高い精度で推定することができる。そして、シミュレーションを用いて、大量の教師データを生成することができる。
【0020】
また、本開示は、前記教師データ取得ステップでは、0を含まない所定の範囲内でランダムに設定された前記アレーアンテナの各素子の励振振幅に対して、シミュレーションを用いて計算された、前記アレーアンテナの電力放射パターン、電界実部放射パターン及び電界虚部放射パターンのうちの少なくともいずれか一つを、前記複数の教師データとして取得することを特徴とするアレーアンテナの学習モデル生成方法である。
【0021】
この構成によれば、一部の教師データにおいて、アレーアンテナの全素子の励振振幅がほぼ0となることがなく、学習モデルの生成時において、訓練及び検証が適切に実行される。そして、シミュレーションを用いて、大量の教師データを生成することができる。
【0022】
また、本開示は、前記教師データ取得ステップでは、前記アレーアンテナの電力放射パターン、電界実部放射パターン及び電界虚部放射パターンのうちの少なくともいずれか一つに対して、REV法又はMEP法を用いて測定された、前記アレーアンテナの各素子の励振位相又は励振位相振幅を、前記複数の教師データとして取得することを特徴とするアレーアンテナの学習モデル生成方法である。
【0023】
この構成によれば、REV法又はMEP法を用いて、シミュレーションでは得られないアレーアンテナの放射特性の測定結果を、教師データに含めることができる。
【発明の効果】
【0024】
このように、本開示は、アレーアンテナの各素子の初期励振位相誤差及び初期励振振幅誤差(初期励振振幅誤差を含めず、初期励振位相誤差のみも可。)の推定・補正において、多くの測定の手間及び時間を不要とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】本開示の学習モデル生成装置及び励振特性推定装置の構成を示す図である。
【
図2】本開示の学習モデル生成処理及び励振特性推定処理の手順を示す図である。
【
図3】第1実施形態の学習モデルの構成、入力及び出力を示す図である。
【
図4】第1実施形態の入力側及び出力側の教師データを示す図である。
【
図5】第1実施形態の学習モデルのパラメータを示す図である。
【
図6】第1実施形態の学習履歴(訓練時及び検証時)を示す図である。
【
図7】第1実施形態の出力側の教師データの変形例を示す図である。
【
図8】第2実施形態の学習モデルの構成、入力及び出力を示す図である。
【
図9】第2実施形態の入力側及び出力側の教師データを示す図である。
【
図10】第2実施形態の学習モデルのパラメータを示す図である。
【
図11】第2実施形態の学習履歴(訓練時及び検証時)を示す図である。
【
図12】第2実施形態及びREV法の推定励振位相を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
添付の図面を参照して本開示の実施形態を説明する。以下に説明する実施形態は本開示の実施の例であり、本開示は以下の実施形態に制限されるものではない。
【0027】
(本開示のアレーアンテナの学習モデルの概要)
本開示の学習モデル生成装置及び励振特性推定装置の構成を
図1に示す。本開示の学習モデル生成処理及び励振特性推定処理の手順を
図2に示す。学習モデル生成装置Mは、教師データ取得部1、ニューラルネットワーク2及び学習モデル生成部3を備え、
図2のステップS1、S2に示す学習モデル生成プログラムをコンピュータにインストールすることにより実現することができる。励振特性推定装置Eは、放射特性取得部4、ニューラルネットワーク2及び励振特性出力部5を備え、
図2のステップS3、S4に示す励振特性推定プログラムをコンピュータにインストールすることにより実現することができる。
【0028】
ここで、学習モデル生成段階では、アレーアンテナの放射特性を入力し、アレーアンテナの各素子の励振特性を出力する、ニューラルネットワーク2を生成する。そして、励振特性推定段階では、ニューラルネットワーク2において、アレーアンテナの補正前放射パターンを入力し、アレーアンテナの各素子の励振特性を出力する。つまり、事前にニューラルネットワーク2を生成しておけば、アレーアンテナの補正前放射パターンを測定するのみにより、アレーアンテナの各素子の励振特性を推定することができる。
【0029】
まず、学習モデル生成装置Mにおける、学習モデル生成段階について説明する。教師データ取得部1は、アレーアンテナの各素子の励振位相又は励振位相振幅と、アレーアンテナの電力放射パターン、電界実部放射パターン及び電界虚部放射パターンのうちの少なくともいずれか一つと、を備える複数の教師データを取得する(ステップS1)。学習モデル生成部3は、教師データ取得部1で取得された複数の教師データを用いて、アレーアンテナの電力放射パターン、電界実部放射パターン及び電界虚部放射パターンのうちの少なくともいずれか一つを入力し、アレーアンテナの各素子の励振位相又は励振位相振幅を出力するニューラルネットワーク2を生成する(ステップS2)。
【0030】
入力層21は、アレーアンテナの電力放射パターン、電界実部放射パターン及び電界虚部放射パターンのうちの少なくともいずれか一つが入力される。出力層23は、アレーアンテナの各素子の励振位相又は励振位相振幅を出力する。中間層22は、アレーアンテナの各素子の励振位相又は励振位相振幅と、アレーアンテナの電力放射パターン、電界実部放射パターン及び電界虚部放射パターンのうちの少なくともいずれか一つと、を備える複数の教師データを用いて、パラメータ(ノード間の結合係数)が学習されている。
【0031】
このように、アレーアンテナの各素子の初期励振位相誤差及び初期励振振幅誤差(初期励振振幅誤差を含めず、初期励振位相誤差のみも可。)の推定・補正において、多くの測定の手間及び時間を不要とするための、学習モデルを生成することができる。すると、アレーアンテナの試験時間の大半は、アレーアンテナの各素子の初期励振特性誤差の推定・補正ではなく、アレーアンテナの本質的な特性評価に充てることができる。
【0032】
次に、励振特性推定装置Eにおける、励振特性推定段階について説明する。放射特性取得部4は、アレーアンテナの電力放射パターン、電界実部放射パターン及び電界虚部放射パターンのうちの少なくともいずれか一つを取得する(ステップS3)。励振特性出力部5は、学習モデル生成装置Mの学習モデル生成部3で生成されたニューラルネットワーク2において、放射特性取得部4で取得されたアレーアンテナの電力放射パターン、電界実部放射パターン及び電界虚部放射パターンのうちの少なくともいずれか一つを入力し、アレーアンテナの各素子の励振位相又は励振位相振幅を出力する(ステップS4)。
【0033】
ニューラルネットワーク2は、アレーアンテナの電力放射パターン、電界実部放射パターン及び電界虚部放射パターンのうちの少なくともいずれか一つを入力層21へと入力し、中間層22においてパラメータ(ノード間の結合係数)に基づいて演算し、アレーアンテナの各素子の励振位相又は励振位相振幅を出力層23から出力する。
【0034】
このように、アレーアンテナの各素子の初期励振位相誤差及び初期励振振幅誤差(初期励振振幅誤差を含めず、初期励振位相誤差のみも可。)の推定・補正において、多くの測定の手間及び時間を不要とするために、学習モデルを利用することができる。すると、アレーアンテナの試験時間の大半は、アレーアンテナの各素子の初期励振特性誤差の推定・補正ではなく、アレーアンテナの本質的な特性評価に充てることができる。
【0035】
(第1実施形態のアレーアンテナの学習モデルの具体例)
第1実施形態の学習モデルの構成、入力及び出力を
図3に示す。第1実施形態では、ニューラルネットワーク2は、アレーアンテナの電界実部放射パターン及び電界虚部放射パターンを入力層21へと入力し、中間層22においてパラメータ(ノード間の結合係数)に基づいて演算し、アレーアンテナの各素子の励振位相振幅を出力層23から出力する。
【0036】
第1実施形態の入力側及び出力側の教師データを
図4に示す。教師データ取得部1は、360度の範囲内でランダムに設定されたアレーアンテナの各素子の励振位相に対して、そして、0を含まない所定の範囲内でランダムに設定されたアレーアンテナの各素子の励振振幅に対して、シミュレーションを用いて計算された、アレーアンテナの電界実部放射パターン及び電界虚部放射パターンを、複数の教師データとして取得する。
【0037】
アレーアンテナの電界放射パターンE(θ)は、数式1で表わされる。
【数1】
ここで、θはアレーアンテナの放射方向であり(ブロードサイド方向は0°)、kはアレーアンテナの各素子の配列順序番号であり(第1実施形態では全8素子)、λはアレーアンテナの放射波長であり(第1実施形態では搬送波周波数は28GHz)、dはアレーアンテナの素子間隔である(第1実施形態では6mm)。そして、g
k(θ)はアレーアンテナの各素子の単体放射パターンであり(すべて既知の指向性関数)、A
kはアレーアンテナの各素子の励振振幅であり、δ
kはアレーアンテナの各素子の励振位相である。
【0038】
図4の左欄では、出力側の3種類の教師データとして、アレーアンテナの各素子の励振位相δ
kと、アレーアンテナの各素子の励振振幅A
k(0.75≦A
k≦1)と、を示す。
図4の右欄では、入力側の3種類の教師データとして、アレーアンテナの電界実部放射パターンE
r(θ)と、アレーアンテナの電界虚部放射パターンE
i(θ)と、を示す。
【0039】
第1実施形態の学習モデルのパラメータを
図5に示す。教師データ数Mは、750000に固定して設定された。訓練データ比率p
trainは、0.96に固定して設定されたため、訓練データ数は、720000であり、検証データ数は、30000である。
【0040】
アレーアンテナの電界実部放射パターンEr(θ)及び電界虚部放射パターンEi(θ)は、-90°≦θ≦90°において1°刻みに計算されたため、入力層ノード数Niは、181×2=362に固定して設定された。中間層数Lhは、1≦Lh≦4において探索されたうえで、2に最適化して設定された。中間層ノード数Nhは、100≦Nh≦1500において探索されたうえで、700に最適化して設定された。中間層活性化関数φhは、‘ReLU’に固定して設定された。アレーアンテナの各素子の励振位相δk及び励振振幅Akは、8素子分設定されたため、出力層ノード数Nоは、8×2=16に固定して設定された。出力層活性化関数φоは、‘sigmоid’に固定して設定された。
【0041】
バッチサイズbは、16、64、256、・・・、8192、16384において探索されたうえで、8192に最適化して設定された。ドロップアウト率pは、0に固定して設定された。オプティマイザは、‘SGD’、‘RMSprоp’、‘Adam’のうち、‘Adam’が採用された。そのうえで、訓練、検証及び推定が実行された。
【0042】
第1実施形態の学習履歴(訓練時及び検証時)を
図6に示す。正規化誤差Lossは、16点の出力ノードにおいて推定値として算出された、0から1までの値をとる正規化振幅及び正規化位相について、二乗平均平方根誤差を算出したものである。訓練時における正規化誤差Lossは、学習回数Epоch~1000において、10
-4まで減少した。検証時における正規化誤差Lossは、学習回数Epоch~100において、10
-3まで減少し、訓練時における正規化誤差Lossに漸近し、過学習を示していない。
【0043】
励振位相推定精度δ
RMSE及び励振振幅推定精度A
RMSEは、数式2で表わされる。
【数2】
ここで、δ
k(ハット‘^’記号なし)は、検証データにおける励振位相設定値であり、δ
k(ハット‘^’記号あり)は、検証段階における励振位相推定値である。そして、A
k(ハット‘^’記号なし)は、検証データにおける励振振幅設定値であり、A
k(ハット‘^’記号あり)は、検証段階における励振振幅推定値である。なお、励振位相推定精度δ
RMSEにおいて、励振位相(0°~360°)の循環性を考慮している。
【0044】
励振位相推定精度δRMSEは、1.19°であった。一方で、アナログビームフォーマにおいて、移相器のビット数は、たかだか6ビットであり、移相器の分解能は、たかだか5.625°である。つまり、励振位相推定精度δRMSEは、移相器の分解能を上回った。励振振幅推定精度ARMSEは、0.27%であった。一方で、アナログビームフォーマにおいて、ゲインコントローラの分解能は、たかだか0.5dBであり、ゲインコントローラの最も細かい調整量は、そのダイナミックレンジ内でたかだか0.8%である。よって、励振振幅推定精度ARMSEは、ゲインコントローラの最も細かい調整量を上回った。
【0045】
このように、アレーアンテナの製造時等において、アレーアンテナの各素子のハードウェア要因により、アレーアンテナの各素子の大きい励振位相誤差があるときに、アレーアンテナの各素子の励振位相誤差をある程度の精度で推定することができる(
図4の左上欄の励振位相δ
kの設定方法を参照。)。そして、一部の教師データにおいて、アレーアンテナの全素子の励振振幅がほぼ0となることがなく、学習モデルの生成時において、訓練及び検証が適切に実行される(
図4の左下欄の励振振幅A
kの設定方法を参照。)。さらに、シミュレーションを用いて、大量の教師データを生成することができる。
【0046】
第1実施形態の出力側の教師データの変形例を
図7に示す。教師データ取得部1は、アレーアンテナの各素子の配置順序番号に対して線形的に変化する励振位相を中心として所定の範囲内で、ランダムに設定されたアレーアンテナの各素子の励振位相に対して、シミュレーションを用いて計算された、アレーアンテナの電界実部放射パターン及び電界虚部放射パターンを、複数の教師データとして取得することもできる。
【0047】
図7の左欄では、アレーアンテナの各素子の配置順序番号kに対して、線形的に増加する励振位相δ
kを実線で示し、この実線を中心として所定の範囲内(例えば、経年変化又は環境変化の範囲内)で、ランダムに設定された励振位相δ
kを破線及び一点鎖線で示す。
図7の中欄では、アレーアンテナの各素子の配置順序番号kに対して、線形的に減少する励振位相δ
kを実線で示し、この実線を中心として所定の範囲内(例えば、経年変化又は環境変化の範囲内)で、ランダムに設定された励振位相δ
kを破線及び一点鎖線で示す。
図7の右欄では、アレーアンテナの各素子の配置順序番号kに対して、一定である励振位相δ
kを実線で示し、この実線を中心として所定の範囲内(例えば、経年変化又は環境変化の範囲内)で、ランダムに設定された励振位相δ
kを破線及び一点鎖線で示す。
【0048】
すると、アレーアンテナの運用時等において、アレーアンテナの経年変化又は環境変化により、アレーアンテナの各素子の小さい励振位相誤差があるときに、アレーアンテナの各素子の励振位相誤差をより高い精度で推定することができる。そして、シミュレーションを用いて、大量の教師データを生成することができる。なお、
図7に示した教師データは、第1実施形態のみならず、第2実施形態に適用可能である。
【0049】
(第2実施形態のアレーアンテナの学習モデルの具体例)
第2実施形態の学習モデルの構成、入力及び出力を
図8に示す。第2実施形態では、ニューラルネットワーク2は、アレーアンテナの電力放射パターン(電界放射パターンの2乗)を入力層21へと入力し、中間層22においてパラメータ(ノード間の結合係数)に基づいて演算し、アレーアンテナの各素子の励振位相を出力層23から出力する。
【0050】
第2実施形態の入力側及び出力側の教師データを
図9に示す。教師データ取得部1は、360度の範囲内でランダムに設定されたアレーアンテナの各素子の励振位相(相対的な励振位相)に対して、シミュレーションを用いて計算された、アレーアンテナの電力放射パターン(電界放射パターンの2乗)を、複数の教師データとして取得する。
【0051】
アレーアンテナの電力放射パターンP(θ)は、数式3で表わされる。
【数3】
ここで、θはアレーアンテナの放射方向であり(ブロードサイド方向は0°)、kはアレーアンテナの各素子の配列順序番号であり(第2実施形態では全8素子)、λはアレーアンテナの放射波長であり(第2実施形態では搬送波周波数は28GHz)、dはアレーアンテナの素子間隔である(第2実施形態では6mm)。そして、g
k(θ)はアレーアンテナの各素子の単体放射パターンであり(すべて既知の指向性関数)、Aはアレーアンテナの各素子の一定励振振幅であり、δ
kはアレーアンテナの各素子の励振位相である。
【0052】
図9の左欄では、出力側の3種類の教師データとして、アレーアンテナの各素子の励振位相δ
k(δ
1は0°に固定、他はδ
1に対する相対値。)を示す。
図9の右欄では、入力側の3種類の教師データとして、アレーアンテナの電力放射パターンP(θ)を示す。
【0053】
第2実施形態の学習モデルのパラメータを
図10に示す。教師データ数Mは、750000に固定して設定された。訓練データ比率p
trainは、0.96に固定して設定されたため、訓練データ数は、720000であり、検証データ数は、30000である。
【0054】
アレーアンテナの電力放射パターンP(θ)は、-90°≦θ≦90°において1°刻みに計算されたため、入力層ノード数Niは、181に固定して設定された。中間層数Lhは、2≦Lh≦8において探索されたうえで、6に最適化して設定された。中間層ノード数Nhは、200≦Nh≦1500において探索されたうえで、900に最適化して設定された。中間層活性化関数φhは、‘ReLU’に固定して設定された。アレーアンテナの各素子の励振位相δkの相対値は、7素子分設定されたため、出力層ノード数Nоは、7に固定して設定された。出力層活性化関数φоは、‘sigmоid’に固定して設定された。
【0055】
バッチサイズbは、16、64、256、・・・、8192、16384において探索されたうえで、16384に最適化して設定された。ドロップアウト率pは、0に固定して設定された。オプティマイザは、‘SGD’、‘RMSprоp’、‘Adam’のうち、‘Adam’が採用された。そのうえで、訓練、検証及び推定が実行された。
【0056】
第2実施形態の学習履歴(訓練時及び検証時)を
図11に示す。正規化誤差Lossは、7点の出力ノードにおいて推定値として算出された、0から1までの値をとる正規化位相について、二乗平均平方根誤差を算出したものである。訓練時における正規化誤差Lossは、学習回数Epоch~100において、10
-3まで減少した。検証時における正規化誤差Lossは、学習回数Epоch~100において、10
-2まで減少し、訓練時における正規化誤差Lossに漸近し、過学習を示していない。ただし、訓練時及び検証時における正規化誤差Lossは、オプティマイザ ‘Adam’が採用されたため、ある学習回数Epоchにおいて、スパイク状に増加することがあった。
【0057】
励振位相推定精度δ
RMSEは、数式4で表わされる。
【数4】
ここで、δ
k(ハット‘^’記号なし)は、検証データにおける励振位相設定値であり、δ
k(ハット‘^’記号あり)は、検証段階における励振位相推定値である。なお、励振位相推定精度δ
RMSEにおいて、励振位相(0°~360°)の循環性を考慮している。また、励振位相δ
1は0°に固定され、他の励振位相δ
kはδ
1に対する相対値である。
【0058】
励振位相推定精度δRMSEは、7.45°であった。一方で、アナログビームフォーマにおいて、移相器のビット数は、たかだか6ビットであり、移相器の分解能は、たかだか5.625°である。つまり、励振位相推定精度δRMSEは、移相器の分解能の程度である。
【0059】
このように、測定容易なアレーアンテナの電力放射パターンP(θ)を入力して、アレーアンテナの各素子の励振位相誤差を推定することができる。そして、アレーアンテナの製造時等において、アレーアンテナの各素子のハードウェア要因により、アレーアンテナの各素子の大きい励振位相誤差があるときに、アレーアンテナの各素子の励振位相誤差をある程度の精度で推定することができる(
図9の左欄の励振位相δ
kの設定方法を参照。)。さらに、シミュレーションを用いて、大量の教師データを生成することができる。
【0060】
第2実施形態及びREV法の推定励振位相を
図12に示す。
図12の左欄では、アレーアンテナの補正前電力放射パターンP(θ)の測定結果(
図12の右欄の一点鎖線で示す。)に対して、第2実施形態の推定励振位相δ
k(δ
1は0°に固定。)を実線で示し、REV法の推定励振位相δ
k(δ
1は0°に固定。)を破線で示す。
図12の右欄では、第2実施形態のアレーアンテナの電力放射パターンP(θ)の計算結果(推定励振位相δ
k及び数式3に基づく。)を実線で示し、REV法のアレーアンテナの電力放射パターンP(θ)の計算結果(推定励振位相δ
k及び数式3に基づく。)を破線で示す。
【0061】
すると、REV法のアレーアンテナの電力放射パターンP(θ)の計算結果の方が、第2実施形態のアレーアンテナの電力放射パターンP(θ)の計算結果と比べて、アレーアンテナの補正前電力放射パターンP(θ)の測定結果に近かった。そして、REV法と比べた第2実施形態における励振位相推定誤差δRMSEは、11.9°であった。しかし、第2実施形態のアレーアンテナの電力放射パターンP(θ)の計算結果であっても、アレーアンテナの補正前電力放射パターンP(θ)の測定結果を十分に再現した。
【0062】
図12の測定結果と第2実施形態の一致程度を考慮して、教師データ取得部1は、アレーアンテナの電力放射パターンに対して、REV法又はMEP法を用いて測定されたアレーアンテナの各素子の励振位相を、複数の教師データとして取得することもできる。
【0063】
すると、REV法又はMEP法を用いて、シミュレーションでは得られないアレーアンテナの放射特性の測定結果を、教師データに含めることができる。なお、ここで示した教師データは、第2実施形態のみならず、第1実施形態に適用可能である。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本開示のアレーアンテナの学習モデル生成方法、学習モデル、励振特性推定方法及び励振特性推定プログラムは、アナログビームフォーマ(励振特性誤差の初期補正がリセットされることがなく、電界放射パターンも測定することができる。)のみならず、デジタルビームフォーマ(励振特性誤差の初期補正がリセットされることがあり、電力放射パターンのみ測定することができる。)であっても、ともに適用することができる。
【符号の説明】
【0065】
M:学習モデル生成装置
E:励振特性推定装置
1:教師データ取得部
2:ニューラルネットワーク
3:学習モデル生成部
4:放射特性取得部
5:励振特性出力部
21:入力層
22:中間層
23:出力層
【要約】
【課題】本開示は、アレーアンテナの各素子の初期励振位相誤差及び初期励振振幅誤差(初期励振振幅誤差を含めず、初期励振位相誤差のみも可。)の推定・補正において、多くの測定の手間及び時間を不要とすることを目的とする。
【解決手段】本開示では、アレーアンテナの放射特性を入力し、アレーアンテナの各素子の励振特性を出力する、学習モデルを生成する。そして、学習モデルにおいて、アレーアンテナの補正前放射パターンを入力し、アレーアンテナの各素子の励振特性を出力する。つまり、事前に学習モデルを生成しておけば、アレーアンテナの補正前放射パターンを測定するのみにより、アレーアンテナの各素子の励振特性を推定することができる。
【選択図】
図1