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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-07
(45)【発行日】2023-02-15
(54)【発明の名称】橋梁用支承及び橋梁
(51)【国際特許分類】
   E01D 19/04 20060101AFI20230208BHJP
   F16F 15/04 20060101ALI20230208BHJP
   F16F 15/023 20060101ALI20230208BHJP
【FI】
E01D19/04 B
F16F15/04 P
F16F15/023 A
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2022064850
(22)【出願日】2022-04-09
【審査請求日】2022-04-09
(73)【特許権者】
【識別番号】522144918
【氏名又は名称】渡邊 慎哉
(74)【代理人】
【識別番号】100096611
【弁理士】
【氏名又は名称】宮川 清
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 慎哉
【審査官】五十幡 直子
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-265936(JP,A)
【文献】特開2000-314448(JP,A)
【文献】特許第3576281(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E01D 1/00-24/00
F16F 15/00-15/36
E04H 9/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
橋脚又は橋台の上に設置され、橋桁を支持する橋梁用支承であって、
積層ゴム支承体を備え、前記橋脚又は橋台の上に下側が固定される積層ゴム支承部と、
前記積層ゴム支承部の上に固着された中間鋼板と、
前記中間鋼板上に、前記橋桁の軸線方向への滑動が可能に支持された可動支承部と、
前記中間鋼板と前記可動支承部との間に生じる前記橋桁の軸線方向の相対的変位に抵抗を付与する粘性系ダンパーと、を有し、
前記粘性系ダンパーは、粘性流体が充填されたシリンダー内におけるピストンの往復動に該粘性流体が抵抗を付与するオイルダンパー、又は粘性流体が収容された容器内における板状体もしくは棒状体の移動に該粘性流体が抵抗を付与する粘性ダンパーであることを特徴とする橋梁用支承。
【請求項2】
前記可動支承部は、
下面に滑り層を有するゴム支承体と、
下面から上方に向けて前記ゴム支承体の上部が嵌め入れられる凹部を備え、前記橋桁に固定されて前記ゴム支承体上に支持される鋼支承体と、を有するものであり、
前記粘性系ダンパーは、前記鋼支承体と前記中間鋼板との間で生じる相対的変位に抵抗力を付与するように取り付けられていることを特徴とする請求項1に記載の橋梁用支承。
【請求項3】
橋脚又は橋台の上に設けられた複数の支承に支持され、複数の径間にわたって連続する橋桁を有する橋梁であって、
前記橋桁を支持する複数の支承の1又は隣り合う2もしくは3の支承は、下側が前記橋脚又は橋台に固定され、上側が前記橋桁に固定された積層ゴム支承体を有する積層ゴム支承であり、
前記積層ゴム支承以外の支承は、下側が前記橋脚又は橋台に固定された積層ゴム支承部と、該積層ゴム支承部上で橋桁の軸線方向に滑動が可能となった可動支承部とを有する複合支承であり、
前記複合支承は、前記可動支承部が前記積層ゴム支承部に対して前記橋桁の軸線方向へ相対的に移動するのに抵抗を付与する粘性系ダンパーを有するものであり、
前記粘性系ダンパーは、粘性流体が充填されたシリンダー内におけるピストンの往復動に該粘性流体が抵抗を付与するオイルダンパー、又は粘性流体が収容された容器内における板状体もしくは棒状体の移動に該粘性流体が抵抗を付与する粘性ダンパーであることを特徴とする橋梁。
【請求項4】
前記積層ゴム支承が有する積層ゴム支承体は、前記複合支承の積層ゴム支承部が有する積層ゴム支承体より柔軟に水平方向へのせん断変形が生じるものであることを特徴とする請求項3に記載の橋梁。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、橋台又は橋脚上で橋桁を支持する橋梁用支承及び橋梁用支承によって橋桁を支持した橋梁に関するものである。
【背景技術】
【0002】
橋台又は橋脚上で橋桁を支持する橋梁用支承は、橋桁の自重や橋桁上に載荷される鉛直方向の荷重を支持するとともに、地震時等に橋桁から橋台や橋脚に作用する水平方向の力を伝達する。また、橋桁は温度変化等によって伸縮し、コンクリートからなる橋桁ではさらにクリープや乾燥収縮によって収縮が生じ、このような橋桁の伸縮を許容するように支持することが求められる。
【0003】
地震時の水平力は、単一の支承によって下部工に伝達するのではなく、複数の支承に分散して負荷させるのが望ましく、図10に示すように複数の積層ゴム支承81によって橋桁80を支持する橋梁が広く採用されている。この橋梁では、橋桁80の伸縮は積層ゴム81aの変形によって許容するとともに、地震時等の水平力は複数の積層ゴム支承81に分散させて下部工に伝達する。
【0004】
しかしながら、橋桁が複数の径間に架け渡され、桁長が大きくなると積層ゴム81aの水平方向へのせん断変形が大きくなり、鉛直方向の荷重に対する耐力が低下する。また、橋台A1,A2や橋脚P1,P2,P3等の下部工に大きな水平力が作用するため、下部工の規模が大きくなって構築の費用が増大することになる。特に橋桁がコンクリートからなり、プレストレスが導入されたものであると、プレストレスの導入による橋桁の収縮、桁の完成後におけるクリープ及び乾燥収縮によって桁長が収縮し、積層ゴムのせん断変形量は過大となってしまう。
クリープや乾燥収縮による橋桁の収縮に対応するために、変位量を予測して積層ゴムに反対方向のせん断変形を予め生じさせ、この状態で下部工と橋桁の間に支承を設置する方法が採用されることがある。しかし、この方法では、設置前の積層ゴムにせん断変形を生じさせた状態を維持するために支承の構造が複雑となり、製作の費用が嵩むことになる。また、せん断変形が生じている積層ゴムの拘束を橋桁の架設後に解放することによって下部工に大きな水平力が作用することになる。
【0005】
このような事情から、特許文献1及び特許文献2には、積層ゴムの変形量を抑制する支承が提案されている。これらは下部に積層ゴム支承体を有し、その上に滑り支承を備えるものであり、プレストレス導入時における橋桁の収縮、クリープ及び乾燥収縮による橋桁の収縮については滑り支承の滑動によって対応し、積層ゴムには大きな変形が生じるのを抑制する。そして、クリープ及び乾燥収縮が進行した後に滑り支承の滑動を拘束し、地震時等の水平力を複数の積層ゴム支承体に分散して負荷させるものとなっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開昭63-210303号公報
【文献】特開平7-252806号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、上記特許文献に開示される支承では、橋桁を構成するコンクリートのクリープや乾燥収縮の進行が低減されるまでの期間つまり1年から2年程度の経過後に、滑り支承の滑動を拘束する作業が必要になってしまう。また、滑り支承の滑動を拘束する前の期間に地震等による水平力が作用したときには、水平方向の反力を複数の支承に分散して作用させることが難しくなる。
一方、滑り支承の滑動を拘束した後は、温度変化による橋桁の伸縮に積層ゴム支承体の変形で対応することになり、下部工には温度変化にともなって水平力が作用することになる。
【0008】
本発明は、このような課題を解決するためになされたものであり、その目的は、温度変化による橋桁の伸縮、プレストレスの導入、クリープ及び乾燥収縮によるコンクリートの橋桁の収縮を、積層ゴム支承体に大きなせん断変形を生じさせることなく許容するともに、地震時等の大きな水平力は複数の支承に分散して下部工に伝達することができる橋梁用支承を提供すること、及びこのような支承を用いた橋梁を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、請求項1に係る発明は、 橋脚又は橋台の上に設置され、橋桁を支持する橋梁用支承であって、 積層ゴム支承体を備え、前記橋脚又は橋台の上に下側が固定される積層ゴム支承部と、 前記積層ゴム支承部の上に固着された中間鋼板と、 前記中間鋼板上に、前記橋桁の軸線方向への滑動が可能に支持された可動支承部と、
前記中間鋼板と前記可動支承部との間に生じる前記橋桁の軸線方向の相対的変位に抵抗を付与する粘性系ダンパーと、を有し、 前記粘性系ダンパーは、粘性流体が充填されたシリンダー内におけるピストンの往復動に該粘性流体が抵抗を付与するオイルダンパー、又は粘性流体が収容された容器内における板状体もしくは棒状体の移動に該粘性流体が抵抗を付与する粘性ダンパーである橋梁用支承を提供する。
【0010】
上記粘性系ダンパーは、粘性流体が充填されたシリンダー内でピストンが往復動するときにオリフィスや細管を介して移動する粘性流体によって抵抗を付与するオイルダンパー及び容器内に収容された粘性流体内で板状体、棒状体等が移動するときに流体の粘性で抵抗を付与する粘性ダンパーを含むものである。そして、粘性流体は鉱物油、シリコーンオイル等の化学合成油等様々な粘性を有する流体を用いることができる。
【0011】
この橋梁用支承では、橋桁に温度変化による伸縮又はコンクリーの橋桁のプレストレス導入による収縮、クリープ及び乾燥収縮が生じたときに、可動支承部が橋桁の軸線方向に移動し、粘性系ダンパーはゆっくりと生じる粘性流体の流動によって中間鋼板及び積層ゴム支承部に水平力をほとんど作用させることなく移動を許容する。したがって、プレストレスの導入、クリープ、乾燥収縮又は温度変化によって橋桁が橋台又は橋脚上で移動しても積層ゴム支承部には大きな変形は生じない。そして、橋台又は橋脚に大きな水平力が作用するのが回避される。
一方、地震時の水平力が作用したときには、粘性系ダンパー内における粘性流体の流動は急激には生じず、粘性系ダンパーが抵抗して中間鋼板及び積層ゴム支承部に水平力が伝達される。したがって、地震時には繰り返し作用する水平力によって積層ゴム支承体が変形するとともに、橋台又は橋脚によって水平力が支持される。
【0012】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載の橋梁用支承において、 前記可動支承部は、 下面に滑り層を有するゴム支承体と、 下面から上方に向けて前記ゴム支承体の上部が嵌め入れられる凹部を備え、前記橋桁に固定されて前記ゴム支承体上に支持される鋼支承体と、を有するものであり、 前記粘性系ダンパーは、前記鋼支承体と前記中間鋼板との間で生じる相対的変位に抵抗力を付与するように取り付けられているものとする。
【0013】
この橋梁用支承では、中間鋼板上に滑り層を有するゴム支承体が支持され、これを覆うように鋼支承体が設けられているので可動支承部の高さを小さく抑えることができ、積層ゴム支承部と上下に重ねて複合支承としたときにも、支承全体の高さを小さく抑えることが可能となる。
また、ゴム支承体は、積層ゴム支承体より柔軟に変形するものを採用することができ、橋桁のたわみによる回転変形を上記ゴム支承体によって吸収することができる。
【0014】
請求項3に係る発明は、 橋脚又は橋台の上に設けられた複数の支承に支持され、複数の径間にわたって連続する橋桁を有する橋梁であって、 前記橋桁を支持する複数の支承の1又は隣り合う2もしくは3の支承は、下側が前記橋脚又は橋台に固定され、上側が前記橋桁に固定された積層ゴム支承体を有する積層ゴム支承であり、 前記積層ゴム支承以外の支承は、下側が前記橋脚又は橋台に固定された積層ゴム支承部と、該積層ゴム支承部上で橋桁の軸線方向に滑動が可能となった可動支承部とを有する複合支承であり、 前記複合支承は、前記可動支承部が前記積層ゴム支承部に対して前記橋桁の軸線方向へ相対的に移動するのに抵抗を付与する粘性系ダンパーを有し、 前記粘性系ダンパーは、粘性流体が充填されたシリンダー内におけるピストンの往復動に該粘性流体が抵抗を付与するオイルダンパー、又は粘性流体が収容された容器内における板状体もしくは棒状体の移動に該粘性流体が抵抗を付与する粘性ダンパーである橋梁を提供するものである。

【0015】
この橋梁では、プレストレスの導入、クリープ、乾燥収縮又は温度変化によって桁に伸縮が生じたときに、積層ゴム支承によって支持された位置から橋桁が伸縮し、複合支承によって支持された橋台また橋脚上では、ゆっくり生じる伸縮に粘性系ダンパーはほとんど抵抗することなく、橋桁の変位を許容する。したがって、複合支承の積層ゴム支承部には大きな水平力は作用することがなく、積層支承部に大きな変形は生じない。また、積層ゴム支承にも大きな水平力は作用しない。これにより、橋台又は橋脚に大きな水平力が作用するのが回避される。
一方、地震時に繰り返し生じる急激な水平力に対しては、複合支承の粘性系ダンパーが抵抗し、水平力が積層ゴム支承部、さらに橋台又は橋脚に伝達される。したがって、地震時の水平力に対しては複数の支承に分散して水平力が作用し、複数の橋台又は橋脚によって水平力に抵抗するものとなる。
また、複合支承では粘性系ダンパーによる抵抗によって橋桁の震動を減衰させることができる。
【0016】
請求項4に係る発明は、請求項3に記載の橋梁において、 前記積層ゴム支承が有する積層ゴム支承体は、前記複合支承の積層ゴム支承部が有する積層ゴム支承体より柔軟に水平方向へのせん断変形が生じるものとする。
【0017】
この橋梁では、地震時等の水平方向の力が作用したときに、積層ゴム支承は積層ゴム支承体にせん断変形が生じ、複合支承では積層ゴム支承部が有する積層ゴム支承体にせん断変形が生じるとともに、粘性系ダンパーを介して可動支承部には積層支承部に対して多少の相対的な変位が生じる。このため、積層ゴム支承のせん断変形に対する剛性が大きいと、水平力の負荷が積層ゴム支承に集中するおそれが生じるが、積層ゴム支承が有する積層ゴム支承体のせん断変形に対する剛性を複合支承が有する積層ゴム支承体より小さくすることによって水平力の負荷が集中しないように調整することが可能となる。
【発明の効果】
【0018】
以上説明したように、本発明の橋梁用支承では、温度変化による橋桁の伸縮、プレストレスの導入、クリープ及び乾燥収縮によるコンクリートの橋桁の収縮を、積層ゴム支承体に大きなせん断変形を生じさせることなく許容するともに、地震時等の大きな水平力は粘性系ダンパー、積層ゴム支承体を介して下部工に伝達することができる。また、本発明に係る橋梁では、橋桁の伸縮によって下部工に作用する水平力を小さく抑えるとともに地震時には複数の支承に分散して水平力を下部工に伝達することにより、下部工の構築費用を低減することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の一実施形態である橋梁用支承の正面図及び平面図である。
図2図1に示す橋梁用支承の側面図である。
図3図1に示す橋梁用支承の断面図である。
図4図1に示す橋梁用支承を用いた橋梁であって本発明の一実施形態である橋梁の概略側面図及び支承部分の拡大図である。
図5】本発明の他の実施形態である橋梁用支承の正面図及び平面図である。
図6図5に示す橋梁用支承の側面図である。
図7】本発明の他の実施形態である橋梁用支承の正面図及び平面図である。
図8図7に示す橋梁用支承の側面図である。
図9図7に示す橋梁用支承の断面図である。
図10】従来の橋梁の例を示す概略側面図及び支承部分の拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態を図に基づいて説明する。
図1は、本発明の一実施形態である橋梁用支承を示す正面図及び平面図であり、図2は側面図、図3は断面図である。
この橋梁用支承は、下部工である橋台1または橋脚上に据え付けられ、鋼桁2を支持するものであり、積層ゴム支承体3を有する積層ゴム支承部4と、 前記積層ゴム支承部4の上に固着された中間鋼板5と、中間鋼板5上で橋桁2の軸線方向への移動が可能に支持され、橋桁2の軸線と直角方向には中間鋼板5に対して移動が拘束された可動支承部6と、中間鋼板5と可動支承部6との間に生じる橋桁の軸線方向の相対的変位に抵抗を付与するオイルダンパー7と、を有するものである。
【0021】
上記積層ゴム支承部4は、下部工に固定される鋼基板8と、鋼基板8の上面に固着された積層ゴム支承体3とを有するものである。鋼基板8は、下部工の上面にアンカーボルト9によって固定される。積層ゴム支承体3は、天然ゴム、クロロプレンゴム等のゴム材と鋼板10とを交互に積層したものであり、外周部は鋼板10が露出しないようにゴム材で被覆されている。積層ゴム支承体3の最下層には、他の鋼板より厚さに大きい鋼板11が用いられ、ボルト等(図示しない)によって鋼基板8に強固に固定されている。
【0022】
上記中間鋼板5は、積層ゴム支承体3の上面にほぼ水平にして固着されており、鋼基板8に対して水平方向に相対的に変位したときには、積層ゴム支承体3との接合を維持したまま積層ゴム支承体3に水平方向のせん断変形を生じさせるものである。
【0023】
上記可動支承部6は、鋼からなる橋桁2に固定される鋼支承体12と、この鋼支承体12と中間鋼板8との間に介挿されるゴム支承体13とを有するものである。
鋼支承体12は、ソールプレート14を介して橋桁2の下フランジ2aに、上部固定ボルト15によって固定されている。この鋼支承体12の下面には、上方に向けてゴム支承体13が嵌め入れられる凹部が形成されている。この凹部は図1(a)に示すようにゴム支承体13の高さより浅く形成され、この凹部に嵌め入れられたゴム支承体13の下部は鋼支承体12の下面より下方に突き出すようになっている。
【0024】
上部固定ボルト15は、図1(b)に示すように鋼支承体12の4隅に設けられ、鋼支承体12とソールプレート14との間で水平方向にずれが生じるのを防止するせん断キー16が上部固定ボルト15の周囲を囲むように設けられている。せん断キー16は、図3(b)に示すように円筒部16aと該円筒部の下端部から水平方向に張り出した拡径部16bとを有するものであり、中心軸線に沿って中央孔が設けられている。この中央孔には雌ネジが切削されており、上部固定ボルト15がねじり合わされる。
【0025】
鋼支承体12には、図3(b)に示すように上記せん断キー16の円筒部を隙間なく、又はわずかの隙間を設けて嵌め入れることができる貫通孔が、下フランジ2a及びソールプレート14に形成されたボルト孔と中心を一致させることができるように設けられている。そして、鋼支承体12の下面から所定の高さまではせん断キー16の拡径部16bが嵌め入れられるように径が拡大されている。
一方、ソールプレート14の下面側には、上部固定ボルト15が挿通されるボルト孔は下面側で径が拡大されており、せん断キー16の上部を嵌め入れることができるものとなっている。
【0026】
せん断キー16は、鋼支承体12の下側から貫通孔に円筒部16aが挿入され、拡径部16bが貫通孔の径が拡大された部分には嵌め入れられて鋼支承体12に係止される。そして、円筒部16aの上端部は鋼支承体12の上面から突き出し、ソールプレート14に設けられたボルト孔の径が拡大された部分に嵌め入れられる。この状態で上部固定ボルト15がせん断キー16の中央孔にねじり合わされ、締め付けることによって鋼支承体12がソールプレート14を介して橋桁2に固定され、せん断キー16によって鋼支承体12と橋桁2とが水平方向のずれが生じないように拘束されるものとなっている。
【0027】
上記ゴム支承体13は、円板状に形成されたゴムを主材料とする部材であって、図3(a)に示すように上面付近と下面付近とに鋼板17が埋め込まれている。また、上側の鋼板と下側の鋼板との間のゴム層には鋼リング18が埋め込まれ、ゴム層に過度の変形が生じるの抑制するものとなっている。
このゴム支承体13は、鋼支承体12に形成された凹部の内径とほぼ一致する外径を有するものであり、鋼支承体12の凹部内に下側から嵌め入れられ、凹部の内周面によっても変形が拘束されるものである。このゴム支承体13の下部は鋼支承体12の下面より下方に突き出し、中間鋼板5上で該中間鋼板5と鋼支承体12の下面との間に間隙を保持し、鋼支承体12を介して橋桁2を支持するものとなっている。そして、ゴム支承体13の下面にはフッ素樹脂等による滑り層が形成されており、中間鋼板5上を滑動することが可能となっている。
【0028】
上記オイルダンパー7は、円筒状のシリンダー19内でピルトン20が軸線方向に往復動が可能となっており、シリンダー19内に充填された粘性オイルがピストン20に設けられた小孔20aを通して移動することにより、ピストン20の往復動を許容するとともに動作に抵抗を付与するものである。
シリンダー19は軸線を橋桁2の軸線方向に向け、鋼支承体12の両側部に設けられ、図3(a)に示すようにシリンダー19と一体となった張り出し固定部21を介して鋼支承体12にボルト24によって固定されている。一方、ピストン20の両面にはそれぞれ軸線方向に伸びるロッド25が取り付けられ、シリンダー外に突き出した端部がサイドブロック22に固定されている。サイドブロック22は、中間鋼板5の上面にボルト23によって固定されており、中間鋼板5上で鋼支承体12が橋桁3の軸線方向へ移動するのにともなってピストン20がシリンダー19内で移動するものとなっている。
【0029】
また、上記サイドブロック22は、図3(b)に示すように上部が鋼支承体12の側部に設けられた切り欠き内に突き出し、切り欠き内の鉛直面及び水平面と近接又は摺動が可能な状態で接触している。これにより、鋼支承体12が橋桁2の軸線と直角方向に移動するの拘束するとともに、鋼支承体12が中間鋼板5から離れるように浮き上がるのを抑止するものとなっている。
【0030】
図4は、本発明の一実施形態である橋梁であって、図1から図3までに示す橋梁用支承を用いたものの概略側面図及び支承部分の拡大図である。
この橋梁30は、鋼からなる橋桁31を4径間に連続して架け渡したものであり、橋桁31の両端部を支持する第1の橋台A1上及び第2の橋台A2上、並びに第1の橋台A1及び第2の橋台A2と隣接する第1の橋脚P1上及び第3の橋脚P3上では、図1から図3までに示す複合支承S1によって橋桁31が支持されている。そして、橋桁31の全長のほぼ中央にある第2の橋脚P2上では、上部が橋桁31に固定され下部が第2の橋脚P2に固定された積層ゴム支承S2によって橋桁31が支持されている。
【0031】
この橋梁30では、温度変化によって橋桁31が伸長又は収縮したときに、積層ゴム支承S2で支持された第2の橋脚P2上では橋桁31の移動はほとんどなく、第1の橋台A1、第1の橋脚P1、第3の橋脚P3及び第2の橋台A2上では、橋桁31の伸長又は収縮にともなって中間鋼板5上のゴム支承体13が鋼支承体12とともに滑動する。このとき、オイルダンパー7は下部に設けられた積層ゴム支承体3に水平力をほとんど伝達することなく橋桁31の移動を許容する。つまり、橋桁31の伸長及び収縮がゆっくりと生じるためにシリンダー19内の粘性オイルはピストン20に設けられた小孔20aを通過して、シリンダー19内におけるピストン20の動作にほとんど抵抗を付与しない。これにより、温度変化によって橋桁31の伸縮が生じても、下部の積層ゴム支承体3に水平方向のせん断変形ほとんど生じることはなく、橋台及び橋脚に大きな水平力が生じるのが回避される。
【0032】
一方、地震時に大きな水平力が橋桁31に作用したときには、第2の橋脚P2上の積層ゴム支承に水平力が作用してせん断変形が生じる。一方、第1の橋台A1、第1の橋脚P1、第3の橋脚P3及び第2の橋台A2上でも橋桁31から支承に水平力が作用する。このとき、オイルダンパー7のシリンダー19内で、粘性オイルはピストン20の小孔20aを介して急速には流動し得ず、シリンダー19とピストン20との相対的な移動に大きな抵抗が付与される。これにより、水平力は鋼支承体12から中間鋼板5を介して積層ゴム支承体3に作用し、積層ゴム支承体3に水平方向のせん断変形が生じる。このように橋桁31に作用する水平力は第1の橋台A1から第2の橋台A2までの複数の下部工に分散して伝えられる。したがって、地震時の水平力が一つの下部工に集中して作用するのが回避され、下部工に要求される水平耐力を小さく抑えて工事費用を低減することが可能となる。
【0033】
また、水平力が橋桁31の軸線と直角方向に作用するときには、複合支承S1の可動支承部6がサイドブロック22によって軸線と直角方向の相対的な移動が拘束されているのでそれぞれの支承を介して水平力が橋台及び橋脚に分散して伝えられる。
なお、橋桁31が軸線方向に変位したときには、オイルダンパー7は上記のように積層ゴム支承部4に水平力を伝達するとととも、鋼支承体12と中間鋼板5との間で多少の相対的な変位を許容する。したがって、このときの粘性オイルの流動にともなう抵抗によって震動のエネルギーが吸収され、橋桁31の震動を減衰させる効果を得ることもできる。そして、第1の橋台A1、第1の橋脚P1、第3の橋脚P3及び第2の橋台A2上に設けられた複合支承S1で、ゴム支承体13の滑動で生じた鋼支承体12と中間鋼板5との相対的な変位は、第2の橋脚P2上に設けられた積層ゴム支承S2の復元力によってほぼ元の位置に復帰する。
【0034】
図5は、本発明の他の実施形態である橋梁用支承の正面図及び平面図であり、図6は側面図である。
この橋梁用支承は、コンクリートの橋桁41を支持するものであり、積層ゴム支承体42を有する積層ゴム支承部43と、積層ゴム支承部43の上に固着された中間鋼板44と、中間鋼板44上で滑動が可能となった可動支承部45と、中間鋼板44と可動支承部45との間に設けられたオイルダンパー46と、を備えており、積層ゴム支承部43と、中間鋼板44と、オイルダンパー46とは、図1から図3までに示す橋梁用支承と同様の構造のものが使用されている。
【0035】
可動支承部45は、コンクリートの橋桁41に固定される鋼支承体47と、この鋼支承体47と中間鋼板44との間に介挿されるゴム支承体48とを有するものであり、ゴム支承体48は図1から図3までに示す橋梁用支承と同様の構造のものを使用することができる。
鋼支承体47の下面には上方に向けて凹部が形成されており、ゴム支承体48は上記凹部に嵌め入れられている。そして、下部が鋼支承体47の下面より突出し、鋼支承体47と中間鋼板44との間に間隙を設けて鋼支承体47を支持し、中間鋼板44上を滑動することが可能となっている。
【0036】
鋼支承体47の上面には橋桁41と結合するための固定ボルト49が立設されている。この固定ボルト49は、鋼支承体47の上面から鉛直方向に4つのボルト穴を設け、内周面に切削された雌ネジにねじり合わせることによって固定されている。また、鋼支承体47の中央部には上面から上方へ突出するようにせん断キー50が設けられている。このせん断キー50は、図5(b)に示すように平面形状が十字状となった凸部であり、橋桁41の軸線方向及び直角方向に凸部の軸線が伸長されている。
コンクリートの橋桁41は、鋼支承体47の上面に密接し、固定ボルト49及びせん断キー50を埋め込むようにコンクリートを打設して形成される。
【0037】
オイルダンパー46は、図1から図3までに示す橋梁用支承と同様に、シリンダー51がボルト52によって鋼支承体47に固定されたものであり、ピストン53はロッド54及びサイドブロック55を介して中間鋼板44に固定されている。
【0038】
このような橋梁用支承は、コンクリート橋に用いることができ、特にプレストレストが導入されるコンクリートの連続桁を支持するものとして好適に採用することができる。
コンクリートの橋桁41は、プレストレスの導入にともなって桁長が収縮する。また、プレストレスの導入後もクリープや乾燥収縮によって橋桁41の収縮が進行する。このような橋桁41の収縮によって下部工に作用する水平力を緩和するために、図5及び図6に示す橋梁用支承を図4に示す橋梁と同様に積層ゴム支承と併せて採用することができる。
【0039】
プレストレスの導入によるコンクリートの橋桁の収縮並びにクリープ及び乾燥収縮による橋桁の収縮はゆっくりと進行するために、橋桁41に固定されている可動支承部45は中間鋼板44上を滑動し、このときオイルダンパー46は可動支承部45の滑動に大きな抵抗を負荷することはない。したがって、橋桁41の収縮によって下部工に大きな水平力が作用することはない。そして、地震時に水平力が橋桁41に作用するときには、図4に示す橋梁と同様に水平力が複数の支承に分散して作用し、一つの下部工に集中して水平力が負荷されるのを回避することができる。
【0040】
図7は、本発明の他の実施形態である橋梁用支承を示す正面図及び平面図であり、図8は側面図、図9は断面図である。
この橋梁用支承は、図1から図3までに示す橋梁用支承と同様の構造を有する積層ゴム支承部61と、積層ゴム支承部61の上に固着された中間鋼板62と、中間鋼板62上で橋桁の軸線方向への移動が可能に支持された可動支承部63と、を有するものであるが、この橋梁用支承ではオイルダンパー64のシリンダー65が中間鋼板62に固定され、シリンダー65内のピストン66がロッド67を介して可動支承部63の鋼支承体71と連結されている。
【0041】
オイルダンパー64のシリンダー65は、中間鋼板62に設けられた矩形の切り欠き部分に固定されている。シリンダー65は、図8に示すように下部から該シリンダーの軸線方向に張り出した取り付け部68を備えており、この板状の取り付け部68を中間鋼板62の切り欠きと隣接する部分に下側から当接し、ボルト69によって固定されている。一方、シリンダー65の上部には、シリンダー65の軸線と直角方向に張り出した側方拘束部70を備えており、可動支承部63が有する鋼支承体71の側縁に沿って設けられた切り欠き部に突き出している。そして、この側方拘束部70が切り欠き部内の鉛直面及び水平面と接触又は近接しており、鋼支承体71が橋桁72の軸線と直角方向へ変位するのを拘束するとともに、上方への揚力が作用したいときに浮き上がるのを抑止するサイドブロックとして機能するものとなっている。
【0042】
シリンダー65内で軸線方向に移動が可能となったピストン66の両面から伸長されたロッド67はシリンダー外に突き出し、先端部分が連結部材73に結合されており、連結部材73は鋼支承体71にボルト74によって固定されている。
【0043】
このような橋梁用支承も、図1から図3までに示す橋梁用支承と同様に使用することができ、支持する橋桁72が温度変化等によってゆっくりと軸線方向に移動するときには、可動支承部63が中間鋼板62上を滑動する。このとき、シリンダー65内ではピストン66の移動とともに粘性オイルがゆっくりと流動して、大きな水平方向の力が積層ゴム支承体75に作用することはない。そして、地震等によって急激な水平力が作用したときにはシリンダー65内の粘性オイルは急速に流動し得ず、水平力は中間鋼板62から積層ゴム支承体75及び下部工に伝達される。したがって橋桁72に作用する水平力が複数の支承に分散して下部工に伝達される。
【0044】
以上に説明した橋梁用支承及び橋梁は、本発明の実施の形態であって、本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、本発明の範囲内で適宜に形態を変更して実施することができる。
例えば、上記実施の形態では粘性系ダンパーとしてオイルダンパーを用いているが、容器内に収容された粘性流体内で移動する板状体、棒状体等に流体の粘性で抵抗を付与する
粘性ダンパーを用いることもできる。
また、可動支承部は、上記実施の形態では鋼支承体の下面に設けた凹部にゴム支承体を嵌め入れたものを採用しているが、このような形態に限定されず、中間鋼板上で橋桁の軸線方向に移動が可能な構造を適宜に採用することができる。さらに、オイルダンパーまたは粘性ダンパーを可動支承部と中間鋼板とに取り付ける構造も適宜に設計することができる。
【0045】
図7から図9までに示す橋梁用支承は鋼桁を支持するものとなっているが、可動支承部が有する鋼支承体を、図5及び図6に示す橋梁用支承と同様の構造を有するものとしてコンクリートの橋桁を支持するものとすることができる。
【0046】
一方、本発明の橋梁は、図4に示すように橋桁の全長のほぼ中央部に積層ゴム支承を用い、可動支承部と積層ゴム支承部とを備える本発明の支承を中央から両端側に配置しているが、積層ゴム支承を用いる位置は全長の中央部付近に限定されるものではなく端部又は端部に近い橋脚上に使用することもできる。
また、積層ゴム支承は一つのみを用いるのではなく隣接する2又は3の下部工上で用い、その他の支承を可動支承部と積層ゴム支承部とを有する複合支承とすることもできる。このような橋梁では、積層ゴム支承間の橋桁の伸縮によって積層ゴム支承体に水平方向のせん断変形が生じ、下部工に水平力が作用するものとなり、下部工はこのような水平力を考慮した構造となる。
【符号の説明】
【0047】
1:橋台, 2:橋桁, 2a:橋桁の下フランジ, 3:積層ゴム支承体, 4:積層ゴム支承部, 5:中間鋼板, 6:可動支承部, 7:オイルダンパー, 8:鋼基板, 9:アンカーボルト, 10:鋼板, 11:最下層の鋼板, 12:鋼支承体, 12a:鋼支承体に設けられた凹部, 13:ゴム支承体, 14:ソールプレート, 15:上部固定ボルト, 16:せん断キー, 16a:せん断キーの円筒部, 16b:せん断キーの拡径部, 17:ゴム支承体に埋め込まれた鋼板, 18:ゴム支承体に埋め込まれた鋼リング, 19:シリンダー, 20;ピストン, 20a:ピストンに設けられた小孔, 21:張り出し固定部, 22:サイドブロック, 23:サイドブロックを固定するボルト, 24:シリンダーを鋼支承体に固定するボルト, 25:ロッド,
30:橋梁, 31:橋桁,
41:コンクリートの橋桁, 42:積層ゴム支承体, 43:積層ゴム支承部, 44:中間鋼板, 45:可動支承部, 46:オイルダンパー, 47:鋼支承体, 48:ゴム支承体, 49:固定ボルト, 50:せん断キー, 51:シリンダー, 52:シリンダーを固定するボルト, 53:ピストン, 54:ロッド, 55:サイドブロック,
61:積層ゴム支承部, 62:中間鋼板, 63:可動支承部, 64:オイルダンパー, 65:シリンダー, 66:ピストン, 67:ロッド, 68:シリンダーの取り付け部, 69:シリンダーを取り付けるボルト, 70:シリンダーから張り出した側方拘束部、 71:鋼支承体, 72:橋桁, 73:連結部材, 74:連結部材を鋼支承体に固定するボルト, 75:積層ゴム支承体,
A1:第1の橋台, A2:第2の橋台, P1:第1の橋脚, P2:第2の橋脚, P3:第3の橋脚,
S1:積層ゴム支承部と可動支承部とを有する複合支承, S2:積層ゴム支承
【要約】
【課題】橋桁の伸縮によって下部工に大きな水平力が作用するのを抑えるとともに、地震時等の大きな水平力に対しては複数の支承に分散して下部工に伝達することができる橋梁用支承、及びこのような支承を用いた橋梁を提供する。
【解決手段】
橋梁用支承は、橋脚又は橋台1の上に下側が固定される積層ゴム支承部4と、積層ゴム支承部の上に固着された中間鋼板5と、中間鋼板上で橋桁2の軸線方向への移動が可能に支持された可動支承部6と、中間鋼板と可動支承部との間に生じる橋桁2の軸線方向の相対的変位に抵抗を付与するオイルダンパー7と、を有するものとする。この橋梁用支承を連続桁に積層ゴム支承とともに用い、1つの橋台又橋脚上では積層ゴム支承で橋桁を支持し、他の橋台又は橋脚上では上記橋梁用支承を用いる。
【選択図】図1
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
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図10