(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-07
(45)【発行日】2023-02-15
(54)【発明の名称】体液採取装置
(51)【国際特許分類】
A61B 3/117 20060101AFI20230208BHJP
A61B 5/151 20060101ALI20230208BHJP
A61B 5/00 20060101ALI20230208BHJP
【FI】
A61B3/117
A61B5/151 400
A61B5/00 N
(21)【出願番号】P 2022510724
(86)(22)【出願日】2021-03-26
(86)【国際出願番号】 JP2021012790
(87)【国際公開番号】W WO2021193902
(87)【国際公開日】2021-09-30
【審査請求日】2022-06-27
(31)【優先権主張番号】P 2020057938
(32)【優先日】2020-03-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 (その1) ウェブサイトの掲載日 2019年11月26日 ウェブサイトのアドレス https://www.jssx34.org/ https://www.jssx34.org/summary.html (その2) 開催日 2019年12月9日から2019年12月12日 集会名、開催場所 日本薬物動態学会 第34回年会 つくば つくば国際会議場(茨城県つくば市竹園2丁目20-3)
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000199175
【氏名又は名称】千寿製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】吉永 亮
(72)【発明者】
【氏名】坂井 達也
【審査官】高松 大
(56)【参考文献】
【文献】登録実用新案第3210169(JP,U)
【文献】特開2020-024194(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0078415(US,A1)
【文献】特開2009-136485(JP,A)
【文献】米国特許第07772006(US,B1)
【文献】特開平09-094231(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 3/117
A61B 5/151
A61B 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
針先が形成された針管を有する針部と、
長手方向の両端が開口したキャピラリであって、前記針管の長手方向における前記針先とは反対側の基端部に対し、取外し可能に接続されたキャピラリと、
を備え、
前記針部は、前記針管の外周面に接触して前記針管を保持する保持部を有し、
前記針管の基端部は、前記針管の長手方向において前記保持部から突出しており、
前記キャピラリの内径は、前記基端部の外径と同一であり、かつ長手方向の全長にわたって同径であり、
前記キャピラリは、前記基端部に対して嵌め合わされた状態で、前記基端部に接続されている、体液採取装置。
【請求項2】
前記基端部の前記保持部からの突出寸法は、1mm以上13mm以下である、
請求項1記載の体液採取装置。
【請求項3】
前記針管の前記基端部の外径が、0.18mm以上0.30mm以下であり、
前記キャピラリの内径は前記基端部の外径と同一である、
請求項
1又は2に記載の体液採取装置。
【請求項4】
前記針部は、前記針管を支える針基を有し、
前記針基は、
前記針管の外周面に接触して前記針管を保持する保持部と、
前記保持部につながり、前記キャピラリが取外し可能に嵌め込まれる筒状部と、
を有し、
前記キャピラリは、前記筒状部に嵌め込まれた状態で、前記基端部に接続されている、
請求項1記載の体液採取装置。
【請求項5】
前記針部は、前記針管を支える針基を有し、
前記針基は、
前記針管の外周面に接触して前記針管を保持する保持部と、
前記保持部につながる筒状部と、
前記筒状部内に配置され、前記キャピラリを取外し可能に保持する保持部材と、
を有し、
前記キャピラリは、前記保持部材に保持された状態で、前記基端部に接続されている、
請求項1記載の体液採取装置。
【請求項6】
前記針部は、前記針管を支える針基を有し、
前記体液採取装置は、前記針基に取り付けられ前記キャピラリの周囲を覆う保護部材を更に備える、
請求項
1~5のいずれか一項に記載の体液採取装置。
【請求項7】
請求項
1~6のいずれか一項に記載の体液採取装置を用い
て、採取された体液をキャピラリから出す方法であって、
前記体液採取装置の針管を介してキャピラリ内に導入された体液で満たされた状態の前記キャピラリを、前記針管か
ら取り外すステップと、
前記針管から取り外された前記キャピラリから、前記キャピラリ内に満たされた前記体液を出すステップと、
を備える、
採取された体液をキャピラリから出す方法。
【請求項8】
針先が形成された針管を有する針部と、
長手方向の両端が開口したキャピラリであって、前記針管の長手方向における前記針先とは反対側の基端部に対し、取外し可能に接続されたキャピラリと、
を備えた体液採取装置を用い
て、採取された房水
をキャピラリから出す方法であって、
前記針管を介して前記キャピラリ内に導入された房水で満たされた状態の前記キャピラリを、前記針管から取り外すステップと、
前記針管から取り外された前記キャピラリから、前記キャピラリ内に満たされた前記房水を出すステップと、
を備える、
採取された房水をキャピラリから出す方法。
【請求項9】
前記キャピラリは、毛細管現象を生じさせるように構成されている、
請求項
1~6のいずれか一項に記載の体液採取装置。
【請求項10】
請求項1~6のいずれか一項に記載の体液採取装置を用いた体液の採取方法であって、
前記体液採取装置を準備するステップであって、長手方向の両端が開口した前記キャピラリを前記針管の前記基端部に接続するステップと、
前記体液採取装置を準備するステップの後、前記針管の針先を、ヒトを除く生体の体液が存在する組織に刺し込むステップと、
前記キャピラリ内に前記体液が満たされた後、前記針先を前記組織内から抜き取るステップと、
前記針管から前記キャピラリを取り外すステップと、
前記キャピラリ内に満たされた前記体液を出すステップと、
を備える、体液の採取方法。
【請求項11】
針先が形成された針管を有する針部と、
長手方向の両端が開口したキャピラリであって、前記針管の長手方向における前記針先とは反対側の基端部に対し、取外し可能に接続されたキャピラリと、
を備えた体液採取装置を用いた房水の採取方法であって、
前記体液採取装置を準備するステップであって、長手方向の両端が開口した前記キャピラリを前記針管の前記基端部に接続するステップと、
前記体液採取装置を準備するステップの後、前記針管の針先を、ヒトを除く生体の前房内に刺し込むステップと、
前記キャピラリ内に前記房水が満たされた後、前記針先を前記前房内から抜き取るステップと、
前記針管から前記キャピラリを取り外すステップと、
前記キャピラリ内に満たされた前記房水を出すステップと、
を備える、房水の採取方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、体液採取装置及びこれを用いた体液の採取方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、従来の体液採取装置が記載されている。特許文献1記載の体液採取装置は、注射器によって構成されている。特許文献1記載の体液採取装置では、注射針を生体に刺し込み、ピストンを引くことで筒本体内に体液を引き込む。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、生体のダメージを最小限に抑えつつ、一定量の体液を採取可能な体液採取装置、これを用いた体液の採取方法及び房水の採取方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に係る一態様として、以下の体液採取装置を提供する。
【0006】
項1-1.針先が形成された針管を有する針部と、
前記針管の長手方向における前記針先とは反対側の基端部に対し、取外し可能に接続されたキャピラリと、
を備える、体液採取装置。
【0007】
項1-2.前記針部は、前記針管の外周面に接触して前記針管を保持する保持部を有し、
前記針管の基端部は、前記針管の長手方向において前記保持部から突出しており、
前記キャピラリは、前記基端部に対して嵌め合わされた状態で、前記基端部に接続されている、項1-1記載の体液採取装置。
【0008】
項1-3.前記基端部の前記保持部からの突出寸法は、1mm以上13mm以下である、項1-2記載の体液採取装置。
【0009】
項1-4.前記キャピラリの内径は、前記基端部の外径と同一である、項1-2又は項1-3に記載の体液採取装置。
【0010】
項1-5.前記針管の外径が、0.18mm以上0.30mm以下である、項1-1~1-4のいずれかに記載の体液採取装置。
【0011】
項1-6.前記針部は、前記針管を支える針基を有し、
前記針基は、
前記針管の外周面に接触して前記針管を保持する保持部と、
前記保持部につながり、前記キャピラリが取外し可能に嵌め込まれる筒状部と、
を有し、
前記キャピラリは、前記筒状部に嵌め込まれた状態で、前記基端部に接続されている、項1-1記載の体液採取装置。
【0012】
項1-7.前記針部は、前記針管を支える針基を有し、
前記針基は、
前記針管の外周面に接触して前記針管を保持する保持部と、
前記保持部につながる筒状部と、
前記筒状部内に配置され、前記キャピラリを取外し可能に保持する保持部材と、
を有し、
前記キャピラリは、前記保持部材に保持された状態で、前記基端部に接続されている、項1-1記載の体液採取装置。
【0013】
項1-8.前記針部は、前記針管を支える針基を有し、
前記体液採取装置は、前記針基に取り付けられ前記キャピラリの周囲を覆う保護部材を更に備える、項1-1~1-7のいずれかに記載の体液採取装置。
【0014】
項1-9.針先が形成された針管を有する針部と、
前記針管の長手方向における前記針先とは反対側の基端部に対し、取外し可能に接続されたキャピラリと、
を備え、
前記針部は、前記針管の外周面に接触して前記針管を保持する保持部を有し、
前記針管の基端部は、前記針管の長手方向において前記保持部から突出しており、
前記キャピラリは、前記基端部に対して嵌め合わされた状態で、前記基端部に接続されており、
前記基端部の前記保持部からの突出寸法は、1mm以上13mm以下であり、
前記キャピラリの内径は、前記基端部の外径と同一であり、
前記針管の外径が、0.18mm以上0.30mm以下であり、
前記針部は、前記針管を支える針基を有し、
前記針基に取り付けられ前記キャピラリの周囲を覆う保護部材を更に備える、
体液採取装置。
【0015】
また、本発明の他の態様として、次に掲げる体液の採取方法を提供する。
【0016】
項2-1.項1-1~1-9のいずれかに記載の体液採取装置を用いた体液の採取方法であって、
前記針管の針先を、生体の体液が存在する組織に刺し込むステップと、
前記キャピラリ内に前記体液が満たされた後、前記針先を前記組織内から抜き取るステップと、
前記針管から前記キャピラリを取り外すステップと、
前記キャピラリ内に満たされた前記体液を出すステップと、
を備える、体液の採取方法。
【0017】
項2-2.項1-9に記載の体液採取装置を用いた体液の採取方法であって、
前記針管の針先を、生体の体液が存在する組織に刺し込むステップと、
前記キャピラリ内に前記体液が満たされた後、前記針先を前記組織内から抜き取るステップと、
前記針部を前記保護部材から取り外すステップと、
前記針管から前記キャピラリを取り外すステップと、
前記キャピラリ内に満たされた前記体液を出すステップと、
を備える、体液の採取方法。
【0018】
また、本発明の他の態様として、次に掲げる房水の採取方法を提供する。
【0019】
項3-1.項1-1~1-9のいずれかに記載の体液採取装置を用いた房水の採取方法であって、
前記針管の針先を、生体の前房内に刺し込むステップと、
前記キャピラリ内に前記房水が満たされた後、前記針先を前記前房内から抜き取るステップと、
前記針管から前記キャピラリを取り外すステップと、
前記キャピラリ内に満たされた前記房水を出すステップと、
を備える、房水の採取方法。
【0020】
項3-2.項1-9に記載の体液採取装置を用いた房水の採取方法であって、
前記針管の針先を、生体の前房内に刺し込むステップと、
前記キャピラリ内に前記房水が満たされた後、前記針先を前記前房内から抜き取るステップと、
前記針部を前記保護部材から取り外すステップと、
前記針管から前記キャピラリを取り外すステップと、
前記キャピラリ内に満たされた前記房水を出すステップと、
を備える、房水の採取方法。
【発明の効果】
【0021】
本発明に係る上記態様の体液採取装置、これを用いた体液の採取方法及び房水の採取方法は、生体のダメージを最小限に抑えつつ、一定量の体液を採取することができる、という利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態に係る体液採取装置において、針管の長手方向に沿った面での断面図である。
【
図2】
図2は、同上の体液採取装置の分解斜視図である。
【
図3】
図3は、同上の体液採取装置を用いた房水の採取方法の第2のステップを説明するための説明図である。
【
図4】
図4(A)(B)は、同上の体液採取装置を用いた房水の採取方法の第3のステップを説明するための説明図である。
【
図5】
図5(A)は変形例1に係る体液採取装置において、針管の長手方向に沿った面での断面図である。
図5(B)は変形例2に係る体液採取装置において、針管の長手方向に沿った面での断面図である。
図5(C)は変形例3に係る体液採取装置において、針管の長手方向に沿った面での断面図である。
【
図6】
図6は、実施例の測定結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
(1)実施形態
(1.1)概要
本実施形態に係る体液採取装置1は、生体から一定量の体液を採取する装置である。ここでいう「生体」には、哺乳動物を含む動物を含み、哺乳動物には、例えば、ヒト、サル、ブタ、イヌ、ネコ、ウサギ、モルモット、ラット、マウス等を含む。本実施形態に係る体液採取装置1は、いかなる試験や検査、診断等に用いられてもよく、例えば、非臨床(前臨床)試験に用いられてもよいし、臨床試験に用いられてもよい。「体液」は、少量かつ一定量の採取によって検査が可能な体液であることが好ましいが、特に制限はない。体液としては、例えば、房水73(眼房水)、血液、髄液(脳脊髄液)、リンパ液、体腔液(胸水、腹水等)、消化液(胃液、胆汁、膵液、腸液等)等が挙げられる。本実施形態では、体液として、動物の房水73を一例として説明する。
【0024】
本実施形態に係る体液採取装置1は、生体としての動物から、少量かつ一定量の房水73を採取することができる。採取した房水73を検査することで、例えば、房水73に含まれる薬物濃度や生体成分濃度等を評価することができる。本実施形態に係る体液採取装置1によれば、検査に必要な少量の房水73を採取するにとどまるため、一の生体から房水73を経時的に、繰り返し採取することができる。このため、本実施形態に係る体液採取装置1を用いれば、生体の個体ごとの経時的なデータを取得することができ、個体間のばらつきによるデータ解釈の誤りを回避できるという利点がある。また、生体から分析に用いる必要量のみの体液を定量的に採取し、それを直接分析に用いることができるから、採取量を最小限に留めることができる。この結果、従前よりも細い針管3を用いた場合でも迅速に採取を完了することができるうえに、細い針管3を用いることで生体へのダメージを最小限に抑えることができる。併せて、一度に採取する体液量が少ないことも、生体へのダメージの最小化に寄与している。また、本実施形態に係る体液採取装置1を用いれば、採取に毛細管現象を利用するため、従前のようにプランジャを引く必要がなくなり、作業性を向上することができるうえに、プランジャを引くことにより生じる負圧が生体に与えるダメージも除去することができるから、これも生体へのダメージの最小化に寄与している。本実施形態に係る体液採取装置1を用いれば、従来通り一回の体液採取の場合であっても、生体の損傷を低減でき、生体へのダメージを最小限に抑えることができる。また、生体へのダメージが少ない利点があるため、一の生体から体液を経時的に、繰り返し採取することができる。
【0025】
体液採取装置1は、
図1に示すように、針管3を有する針部2と、キャピラリ5と、を備える。針管3は、生体の対象部位に挿し込まれる針先32を有する。キャピラリ5は、針管3の長手方向の端部のうち、針先32とは反対側の端部(以下、「基端部33」という)に対して取外し可能に接続される。
【0026】
例えば、ユーザが生体の対象部位としての前房72に対し、針管3の針先32を刺し込むと、毛細管現象による作用により、針管3内に房水73が引き込まれ、その後、房水73はキャピラリ5に至る。キャピラリ5に至った房水73は、毛細管現象による作用によって、キャピラリ5内を長手方向のうちの針管3とは反対側の端部に向かって移動し、キャピラリ5内を満たす。次いで、ユーザは、キャピラリ5を針管3から取り外し、キャピラリ5内に満たされた房水73を取り出す。
【0027】
このように、キャピラリ5内に満たされる体液は、キャピラリ5の容量に応じていつも一定量であるため、体液採取装置1によれば、生体から採取した一定量の体液を直接的に検査に用いることができる。ここでいう、「直接的に」とは、キャピラリ5に満たされた体液の全量をそのまま検査に用いることを意味し、例えば、一旦、生体から体液を多めに採り、その後、採った体液から一定量を検査に用いることは含まない。本実施形態に係る体液採取装置1を用いれば、一の生体から経時的に、繰り返し体液を採取することができることに加え、いつも一定量を正確に採取できるため、検査の精度も向上する。
【0028】
(1.2)構成
以下、本実施形態に係る体液採取装置1について、詳細に説明する。体液採取装置1は、
図2に示すように、針部2と、キャピラリ5と、保護部材6と、を備える。ここでは、体液採取装置1に対し、針先32を保護するプロテクタは装着されていないが、本発明に係る体液採取装置1では、プロテクタを備えてもよい。
【0029】
(1.2.1)針部
針部2は、針管3を有する一部品である。針部2は、例えば、注射針によって構成され、保護部材6に対して取外し可能に取り付けられる。針部2は、針管3と、針基4と、を備える。
【0030】
針管3は、一方の先端部が、生体に刺し込まれる部分である。針管3は、直線状に形成された細管により構成されている。針管3の先端(針先32)は、針管3の軸方向(長手方向)に対して傾斜する面に沿ってカットされている。針先32の形状としては、特に制限はなく、例えば、シングルポイント、フーバーポイント、ランセットポイント、バックカットポイント等が挙げられる。針管3の内部には、
図1に示すように、体液が通る流路31が形成されている。流路31は、針管3の長手方向に沿って、一端から他端まで連続している。
【0031】
針管3の材質としては、特に制限はないが、例えば、ステンレス、ステンレス鋼(例えば、SUS304、SUS316L等)、アルミニウム合金、チタン、チタン合金、合成樹脂等が挙げられる。針管3の外径は、生体の房水73を採取する観点から、例えば、0.18mm以上0.30mm以下であることが好ましく、より好ましくは、0.18mmである。針管3の外径は、小さいほど生体の角膜71に対するダメージを抑えられて好ましいが、0.18mm未満であると、針管3の強度の観点から生体の角膜71に容易に穿刺することができない可能性がある。一方、針管3の外径が0.30mmを超えると、生体の角膜71のダメージが大きく、生体に与える負担が大きくなる。ただし、本発明では、針管3の外径は、生体の種類、サイズ、又は体液の採取部位によって適切な大きさが異なるため、特に制限はない。
【0032】
針基4は、針管3を支える部分である。針基4は、針管3を支えた状態で、ユーザによって、直接的に持つ部分として機能してもよいが、保護部材6に取り付けられて、針管3を保護部材6に対して固定することが好ましい。針基4の形状は保護部材6の先端部61の形状に応じて選択することができ、例えば、ねじ型等の標準型又はルアーロック型のいずれであってもよい。針基4の材質としては、特に制限はなく、例えば、合成樹脂、金属等が挙げられる。針基4は、
図1に示すように、保持部41と、筒状部42と、を備える。
【0033】
保持部41は、針管3の外周面に接触して、当該針管3を保持する部分である。針管3の保持部41に対する保持は、例えば、嵌め合わせ、ねじ込み、接着、溶着、溶接、インサート成形、二色成形等により実現される。
【0034】
保持部41は、針管3の長手方向のうち、中間部分を保持する。すなわち、針管3において、針先32とは反対側の端部は、保持部41によって保持されず、保持部41から突出している。本実施形態では、この保持部41から突出した部分を「基端部33」と定義する。針管3の基端部33の寸法(以下、「突出寸法L1」という場合がある)は、1mm以上13mm以下であることが好ましく、より好ましくは、4mm以上6mm以下である。基端部33の突出寸法が1mm未満であると、後述のキャピラリ5を適切に支えることができず、好ましくない。一方、基端部33の突出寸法L1が13mmを超えると、基端部33の端が筒状部42から突出する可能性があり、搬送時や使用時に針管3の基端部33が損傷する可能性がある。すなわち、針管3の基端部33は、筒状部42内に収まることが好ましい。
【0035】
筒状部42は、保持部41から筒状に延び出した部分であり、その内径が保持部41の内径よりも大きく形成されている。筒状部42は、針管3とキャピラリ5との接続部分の周囲を覆うことが好ましい。ユーザは、筒状部42を持つことで、保護部材6を取り付けることなく体液採液を行うこともできるが、本実施形態では、筒状部42に取り付けられた保護部材6を持って、体液採取を行うことができる。
【0036】
筒状部42は、保持部41における針管3の長手方向の基端部33側の端部から一体に形成されている。筒状部42は、円筒状に形成されており、針管3の基端部33との間に隙間が介在している(つまり、基端部33に対して離れている)。筒状部42の開口端には、保護部材6の先端部61が嵌め込まれ、これによって、筒状部42は保護部材6の先端部61に取り付けられる。筒状部42の開口端部は、鍔状に形成されており、針部2が保護部材6に取り付けられると、保護部材6の長手方向の端面(先端面63)に対向する。なお、筒状部42の開口端部と保護部材6の先端面63とは、間に間隙があってもよいし、接触していてもよい。
【0037】
(1.2.2)キャピラリ
キャピラリ5は、針管3の基端部33に対し、取外し可能に接続される。キャピラリ5に対し、長手方向の一方の端部に液体(体液)が入ると、毛細管現象の作用により液体が浸透し、長手方向の他方の端部に向かって液体の液面が進んでゆく。
【0038】
キャピラリ5の長手方向の寸法(長さ寸法)は、特に制限はないが、キャピラリ5の内部に収容可能な液の容量(以下、「採液容量」という)に応じて設定される。キャピラリ5の採液容量は、0.25μl以上200μl以下であり、好ましくは5μl以上50μl以下であり、より好ましくは5μl以上20μl以下である。キャピラリ5の長さ寸法は30mm以上130mm以下、好ましくは30mm以上100mm以下、より好ましくは30mm以上70mm以下である。また、キャピラリ5の内径は0.1mm以上1.5mm以下、好ましくは0.3mm以上1.0mm以下、より好ましくは0.5mm以上0.7mm以下である。
【0039】
キャピラリ5の採液容量は、一例として、0.25μlであり、この場合、長さ寸法32mm、内径0.099mmである。また、他例として、採液容量10μlであり、この場合、長さ寸法41mm、内径0.56mmである。また、更なる他例として、採液容量20μlであり、この場合、長さ寸法64mm、内径0.63mmである。
【0040】
キャピラリ5は、基端部33に対して嵌め合わされた状態で、基端部33に接続されている。ここでいう「嵌め合わされる」とは、基端部33がキャピラリ5内に嵌め込まれる場合と、キャピラリ5が基端部33内に嵌め込まれる場合とを含む。ただし、本実施形態では、基端部33がキャピラリ5内に嵌め込まれている。
【0041】
キャピラリ5の内径は、基端部33の外径と同一である。このため、キャピラリ5は、基端部33が嵌め込まれた状態で、基端部33に対して支えられている。キャピラリ5と基端部33とが嵌め合わされた状態における、キャピラリ5と基端部33との重なり寸法L2は、4mm以上であることが好ましい。キャピラリ5と基端部33との重なり寸法L2が4mm以上であると、基端部33に対して、キャピラリ5を効果的に支えることができる。ただし、後述の変形例のように、キャピラリ5を、例えば、筒状部42等で保持する場合、キャピラリ5と基端部33との重なり寸法は1mm未満であってもよいし、キャピラリ5内と基端部33内とが通じていれば、重なる部分がなくてもよい。
【0042】
ここで、本明細書でいう「同一」とは、厳密な意味での「同一」を意味するのではなく、キャピラリ5が基端部33に対して嵌め合わされて、キャピラリ5が支えられるという効果が得られる範囲であれば、「実質的に同じ」であっても「同一」の範疇である。例えば、キャピラリ5が弾性変形可能な材料で構成された場合、嵌め合わされる前は、キャピラリ5の内径が基端部33の外径よりも小さいが、嵌め合わされた後では、キャピラリ5の内径と基端部33の外径とが略同じとなるとき、キャピラリ5の内径は基端部33の外径と「同一」であることとする。また、体液が、針管3による毛細管現象の作用によって針管3の内部の流路31を通った後、針基4の筒状部42の内側に溜まることなく、キャピラリ5による毛細管現象の作用によって、針管3から連続的にキャピラリ5の内部へと採取されていく場合も、「同一」であることとする。
【0043】
キャピラリ5の材質は、特に制限はなく、例えば、金属、合成樹脂、カーボン、ガラス、木、紙、布、ゴム等が挙げられる。ただし、採液の作業性を考慮すると、一定の硬さや撥水性等を有する材料であることが好ましい。
【0044】
キャピラリ5は、針管3の基端部33に対して、取外し可能に取り付けられる。このため、針管3からキャピラリ5内に進んだ体液は、毛細管現象の作用によって、更に進み、キャピラリ5の長手方向の端部のうちの針管3とは反対側の端部にまで至る。すると、キャピラリ5内には一定量の体液が入るため、キャピラリ5を針管3から取り外すことで、一定量の体液を採取することができる。
【0045】
(1.2.3)保護部材
保護部材6は、キャピラリ5の周囲を覆って、キャピラリ5を保護する。ここでいう「保護」とは、他の部材からの外力のほか、薬品や溶液等の粉体や液体、糸くずや埃等の微細な汚れ等からの保護を意味する。保護部材6としては、柔軟性を有していてもよいし、剛性を有していてもよい。本実施形態に係る保護部材6は、硬質なシリンジ60で構成されており、キャピラリ5を適切に保護することができるのに加えて、ユーザがシリンジ60を持って、採液を行うことができる。また、本明細書でいう「周囲を覆う」とは、キャピラリ5の長手方向の大部分を囲むことを意味し、保護部材6からキャピラリ5の一部が突き出してもよい。保護部材6がキャピラリ5を保護することができれば、例えば、保護部材6の端部からキャピラリ5が、全体の20%程度突き出ていても、「周囲を覆う」範疇である。以下では、保護部材6の一例として、シリンジ60を挙げて説明する。
【0046】
シリンジ60は、キャピラリ5が取り付けられた針部2が装着され、これによって、キャピラリ5を破損等から保護する。シリンジ60は、一定の剛性を有しており、例えば、合成樹脂、金属、ガラス、アクリル等により構成されている。ここでいう「一定の剛性」とは、自立する程度の剛性を意味し、弾性変形し得る程度の剛性であれば、「一定の剛性を持つ」範疇である。シリンジ60が一定の剛性を持つことで、ユーザは、シリンジ60を持って(把持して)採液を行うことができる。シリンジ60は、針基4が取り付けられる先端部61と、先端部61に通じる外筒部62と、を有する。
【0047】
外筒部62は、シリンジ60において、キャピラリ5の周囲を覆う部分である。外筒部62は、長手方向の一方の端面に開口面が形成され、かつ他方の端に先端面63を有する円筒状に形成されている。外筒部62の内側面は、キャピラリ5との間に隙間を有しており、キャピラリ5から離れている。外筒部62は、キャピラリ5の周囲を覆っているが、キャピラリ5の端は、本実施形態のように、外筒部62の軸方向の途中に位置していることが好ましい。外筒部62の先端面63は、外筒部62の長手方向に交差している(ここでは略直交している)。
【0048】
先端部61は、上述した通り、針基4が取り付けられる部分であり、外筒部62の先端面63から、外筒部62の長手方向に沿って突出している。先端部61は、筒状に形成されている。先端部61の形状は、例えば、ルアースリップ型、ルアーロック型、ルアーメタル型、カテーテルチップ型等が挙げられる。先端部61は、本実施形態では、外筒部62の中心軸上に形成されているが、例えば、外筒部62の中心軸からずれた位置に形成されてもよい。
【0049】
針管3の基端部33にキャピラリ5が接続された状態で、針部2を外筒部62に取り付けると、キャピラリ5は、外筒部62によって覆われる。このため、本実施形態に係る体液採取装置1では、体液の採取中に、キャピラリ5が他の部材に当たって外れるのを防ぐことができる。また、ユーザは外筒部62を把持して採液を行うことができるため、外筒部62が無い場合に比べて、体液採取装置1の持ちやすさを向上することができる。
【0050】
(1.3)方法
次に、本実施形態に係る体液採取装置1を用いて、体液を採取する方法について説明する。本実施形態に係る体液採取装置1では、種々の生体から種々の体液を採取し得るが、以下では、一例として、動物の房水73を採取する方法につき説明する。
【0051】
本実施形態の房水73の採取方法は、第1のステップと、第2のステップと、第3のステップと、第4のステップと、第5のステップと、を備える。
【0052】
第1のステップは、体液を採取する前の準備を行う工程である。第1ステップでは、生体(例えば、ウサギ)を保定器を用いて保定し、生体の眼球7に対して、局所麻酔を行う。ここでいう「保定」とは、生体が動かないように保つことを意味する。局所麻酔としては、例えば、0.4%塩酸オキシブプロカイン点眼液(参天製薬株式会社製 ベノキシール(登録商標)点眼液0.4%)や、その希釈液(希釈媒体:生理食塩水や人工涙液、PBS: Phosphate-buffered saline等)を生体の眼球7に対して点眼投与することが挙げられる。本実施形態に係る房水73の採取方法では、一の生体に対し、時間をおいて繰り返し房水73を採取できる。時間をおいて房水73を繰り返し採取する場合は、局所麻酔の頻回投与による角膜71へのダメージを最小限に抑えるために希釈液を用いることが好ましい。局所麻酔として、原液の点眼液を繰り返し用いると角膜71の表面が荒れやすいが、希釈液を用いることでこれを低減することができる。
【0053】
局所麻酔を投与した後、先端の丸まった器具、例えばピンセットの先端等で角膜71を刺激し、角膜反射の消失を確認することで、局所麻酔の効果を確認する。この後、生体に対して開瞼器を装着する。開瞼器は、瞬きを妨げ、生体の瞼を開いたままに保つことができる。
【0054】
第2のステップは、針管3の針先32を生体の体液が存在する組織(ここでは、前房72)内に刺し入れる工程である。開瞼器で瞼が開いたままの眼球7に対し、
図3に示すように、二段階穿刺によって、針管3の針先32を刺し入れる。二段階穿刺とは、角膜71に対して、針管3の針先32を法線に沿う方向に刺し入れ、角膜71の厚み内を角膜71に沿う方向にしばらく押し進め、その後、再び前房72側へ角度を変えて、針先32を刺し入れることを意味する。二段階穿刺によって、針管3を抜いた後でも、角膜71から房水73が漏れ出るのを抑制することができる。なお、
図3中の符号74は水晶体であり、符号75は硝子体である。
【0055】
第3のステップは、キャピラリ5内に体液(ここでは、房水73)が満たされた後、針先32を組織内(前房72内)から抜き取る工程である。第2のステップにおいて、針先32を前房72内に刺し込むと、
図4(A)に示すように、毛細管現象の作用により、房水73が針管3内を進み、液面が基端部33に近づく。その後、房水73はキャピラリ5内に至り、毛細管現象の作用により、房水73がキャピラリ5を満たす。ユーザは、
図4(B)に示すように、キャピラリ5の長手方向の針管3側とは反対側の端部に房水73が達したのを確認した後、針管3を前房72内から抜き取る。
【0056】
第2のステップ及び第3のステップにおいて、針管3を前房72内に刺し入れる方向は、特に制限はないが、できる限り垂直に保つことが好ましい。針管3を前房72内に刺し入れる際、又は房水73を針管3及びキャピラリ5に引き込んでいる最中に、キャピラリ5が針管3から外れることをできる限り避けることが好ましいからである。
【0057】
第4のステップは、針管3からキャピラリ5を取り外す工程である。第3のステップを経過すると、キャピラリ5内は一定量の房水73で満たされているため、針管3からキャピラリ5を取り外すことで、キャピラリ5から一定量の房水73を採取しやすくできる。この際、作業性を一層向上させるために、針管3からキャピラリ5を取り外す前に、針部2をシリンジ60から取り外すことが好ましい。
【0058】
第5のステップは、キャピラリ5内に満たされた房水73を出す工程である。キャピラリ5内に満たされた一定量の房水73は、例えば、キャピラリ5に対し、長手方向の一方の端部から空気を吹き込み、キャピラリ5内部に対して加圧することで、キャピラリ5内から取り出される。房水73は、例えば、マイクロチューブ等の容器に受けられる。このとき、キャピラリ5内には検査に必要な一定量の房水73が収容されているため、マイクロチューブ内に予め分析のための前処理用有機溶媒等を準備しておけば、直接的に、キャピラリ5から前処理用有機溶媒等に対して房水73を供給することができる。
【0059】
この後、生体から開瞼器を取り外し、眼球7から房水73が漏れ出ていないか、生体が過度の苦痛を感じていないかを確認する。そして、時間をおいて第1のステップから第5のステップを繰り返す。これにより、経時的な房水の採取が可能となる。
【0060】
本実施形態に係る房水73の採取方法によれば、針管3の外径が小さく、一度の採取における採取量も少ないため、角膜の形状変化や前房におけるフィブリン塊や炎症の発生を抑制でき、生体の予後を優れたものとすることができる。この結果、従前では採取が困難であった体液が採取可能になる。また、繰り返し体液採取できることで検査や試験等に要する生体の数量を大幅に減少させることができる。
【0061】
(2)変形例
上記実施形態は、本発明の様々な実施形態の一つに過ぎない。実施形態は、本発明の目的を達成できれば、設計等に応じて種々の変更が可能である。以下、実施形態の変形例を説明する。以下に説明する変形例は、適宜組み合わせて適用可能である。
【0062】
(2.1)変形例1
上記実施形態に係る体液採取装置1では、針管3の基端部33が保持部41から突出しており、当該突出した基端部33に対して、キャピラリ5が嵌め合わされていたが、本変形例では、
図5(A)に示すように、針基4の筒状部42に対して、キャピラリ5が取外し可能に嵌め込まれており、この状態で、基端部33とキャピラリ5とが接続されている。
【0063】
筒状部42は、キャピラリ5が嵌め込まれる嵌合部45を有する。嵌合部45は、筒状部42内において、キャピラリ5を嵌め込み可能な穴を有するブロック体で構成されてもよいし、筒状部42の中心軸周りに放射状に形成された複数のリブで構成されてもよい。嵌合部45に対してキャピラリ5が嵌め込まれると、キャピラリ5と針管3の基端部33とが接続される。本変形例では、「基端部33」は、針管3の長手方向の針先32側とは反対側の端面を指す。キャピラリ5と基端部33とは、上記実施形態と異なり、嵌まり合っていないが、互いに通じており、すなわち、取外し可能に接続されている。
【0064】
本変形例に係る体液採取装置1によれば、上記実施形態と同様、キャピラリ5によって少量かつ一定量の体液を採取することができる。
【0065】
(2.2)変形例2
変形例1に係る体液採取装置1では、キャピラリ5は、筒状部42に一体に形成された嵌合部45によって嵌め合わされたが、本変形例では、キャピラリ5は、筒状部42に取り付けられた保持部材43によって保持されている点で、変形例1とは異なっている。
【0066】
保持部材43は、筒状部42の内周面と、キャピラリ5との間に介在しており、筒状部42に対してキャピラリ5を取外し可能に取り付ける。保持部材43は、円筒状に形成されており、中央の貫通孔にキャピラリ5を保持する。保持部材43は、筒状部42内に嵌め込まれることで、筒状部42に対して固定される。保持部材43は、例えば、エラストマ、合成樹脂、金属、木、紙等で構成される。キャピラリ5は、保持部材43に保持された状態で、基端部33に対して取外し可能に接続されている。
【0067】
(2.3)変形例3
変形例1、2に係る体液採取装置1では、キャピラリ5は、筒状部42に一体に形成された嵌合部45又は筒状部42との間に取り付けられた保持部材43によって嵌め合わされたが、本変形例では、キャピラリ5は、キャピラリ5に形成された凸部51と、筒状部42に形成された引掛け部44とで、針管3の長手方向における抜け止めを図っている。
【0068】
凸部51は、キャピラリ5の外周面から径方向の外側に向かって突出している。凸部51は、本実施形態では、周方向に連続した突条により構成されるが、周方向に間隔をおいて形成された複数の凸部であってもよい。
【0069】
引掛け部44は、凸部51に対して引っ掛かることで、キャピラリ5を、長手方向の針管3から離れる側に移動するのを妨げる。ただし、引掛け部44は、キャピラリ5に対して、長手方向の針管3から離れる側に一定以上の力が加わると、凸部51との係り合いを解除し、キャピラリ5は基端部33から取り外される。
【0070】
なお、変形例3の更なる変形例として、キャピラリ5の凸部51に代えて溝を形成し、筒状部42に対して前記溝に嵌め込まれる突起を形成し、溝と突起とで、キャピラリ5の抜け止めを図ってもよい。
【0071】
(2.4)その他の変形例
以下、その他の変形例を列挙する。
【0072】
上記実施形態では、針部2は、シリンジ60に対して別体であったが、本発明では、針部2と保護部材6とは、一体であってもよい。また、上記実施形態に係る体液採取装置1は、保護部材6を備えたが、本発明では、保護部材6はなくてもよい。
【0073】
また、保護部材6は、円筒状に限らず、角筒状、箱状、袋状、球状等であってもよく、形状には特に制限はない。
【0074】
上記実施形態に係る針部2は、針管3を支える針基4を備えたが、本発明では、針基4はなくてもよく、すなわち、針部2は針管3のみで構成されてもよい。
【0075】
上記実施形態に係るキャピラリ5は、基端部33に対して嵌め合わされたが、例えば、固定強度を高めるために、キャピラリ5と基端部33とを接着剤によって補強的に接着してもよい。
【0076】
本明細書にて、「略平行」、又は「略直交」のように「略」を伴った表現が、用いられる場合がある。例えば、「略平行」とは、実質的に「平行」であることを意味し、厳密に「平行」な状態だけでなく、数度程度の誤差を含む意味である。他の「略」を伴った表現についても同様である。
【0077】
また、本明細書において「端部」及び「端」等のように、「…部」の有無で区別した表現が用いられている。例えば、「端部」とは、「端」を含む一定の範囲を持つ部分を意味する。他の「…部」を伴った表現についても同様である。
【0078】
(3)まとめ
以上説明したように、第1の態様に係る体液採取装置1は、針先32が形成された針管3を有する針部2と、針管3の長手方向における針先32とは反対側の基端部33に対し、取外し可能に接続されたキャピラリ5と、を備える。
【0079】
この態様によれば、針先32を生体に刺し込むと、毛細管現象の作用により、キャピラリ5に体液が引き込まれる。キャピラリ5を満たす体液はその容量に応じて一定量であるため、針管3からキャピラリ5を取り外すことで、一定量の体液の採取を行うことができる。また、少量の体液の採取及び従前より細い針管3を用いることによれば、生体に与えるダメージを最小限に抑えることができる。この結果、この態様によれば、生体のダメージを最小限に抑えつつ、一定量の体液を採取することができる。そのため、一の生体から経時的に、繰り返し体液を採取することができる。また、毛細管現象による作用を利用するため、従前のようにプランジャを引く必要がなくなり、作業性を向上することができるうえに、プランジャを引くことにより生じる負圧が生体に与えるダメージを除去することができるから、これも生体へのダメージの最小化に寄与している。
【0080】
第2の態様に係る体液採取装置1では、第1の態様において、針部2は、針管3の外周面に接触して針管3を保持する保持部41を有する。針管3の基端部33は、針管3の長手方向において保持部41から突出している。キャピラリ5は、基端部33に対して嵌め合わされた状態で、基端部33に接続されている。
【0081】
この態様によれば、基端部33に対してキャピラリ5を容易に接続させることができ、また容易に取り外すことができるため、作業性がよい。
【0082】
第3の態様に係る体液採取装置1では、第2の態様において、基端部33の保持部41からの突出寸法は、1mm以上13mm以下である。
【0083】
この態様によれば、キャピラリ5と基端部33とが接続した状態において、キャピラリ5を支えることができる。
【0084】
第4の態様に係る体液採取装置1では、第2又は第3の態様において、キャピラリ5の内径は、基端部33の外径と同一である。
【0085】
この態様によれば、基端部33によってキャピラリ5を効果的に支えることができる。
【0086】
第5の態様に係る体液採取装置1では、第1~4のいずれか一つの態様において、針管3の外径が、0.18mm以上0.30mm以下である。
【0087】
この態様によれば、キャピラリ5の採液容量が少量であることから、針管3の外径を小さくしても十分な量の体液を迅速に採取することができ、この結果、生体に与えるダメージを抑えることができる。
【0088】
第6の態様に係る体液採取装置1では、第1の態様において、針部2は、針管3を支える針基4を有する。針基4は、針管3の外周面に接触して針管3を保持する保持部41と、保持部41につながる筒状部42と、を有する。キャピラリ5は、筒状部42に嵌め込まれた状態で、基端部33に接続されている。
【0089】
この態様によれば、筒状部42によってキャピラリ5を支えることができるため、針管3の基端部33を短くしても、また長くしてもよく、要するに、針管3の基端部33の長さの設計上の自由度を向上することができる。
【0090】
第7の態様に係る体液採取装置1では、第1の態様において、針部2は、針管3を支える針基4を有する。針基4は、針管3の外周面に接触して針管3を保持する保持部41と、保持部41につながる筒状部42と、筒状部42内に配置され、キャピラリ5を取外し可能に保持する保持部材43と、を有する。キャピラリ5は、保持部材43に保持された状態で、基端部33に接続されている。
【0091】
この態様によれば、保持部材43によって、筒状部42に対して、キャピラリ5を効果的に固定することができる。また、保持部材43と筒状部42とが別部材であるため、保持部材43を製造しやすく、様々な形態の針部2に対応することができる。
【0092】
第8の態様に係る体液採取装置1では、第1~7のいずれか一つの態様において、針部2は、針管3を支える針基4を有する。体液採取装置1は、針基4に取り付けられ、キャピラリ5の周囲を覆う保護部材6を更に備える。
【0093】
この態様によれば、キャピラリ5を適切に保護することができる。
【0094】
第9の態様に係る体液採取装置1では、第8の態様において、保護部材6は、針基4に取り付けられる先端部61及びキャピラリ5の周囲を覆う外筒部62を有するシリンジ60である。
【0095】
この態様によれば、体液の採取中に、キャピラリ5が他の部材に当たって外れるのを防ぐことができる。また、外筒部62が無い場合に比べて、体液採取装置1の持ちやすさを向上することができる。
【0096】
第10の態様に係る体液の採取方法は、第1~9のいずれか一つの体液採取装置1を用いた体液の採取方法である。体液の採取方法は、針管3の針先32を、生体の体液が存在する組織に刺し込むステップと、キャピラリ5内に体液が満たされた後、針先32を組織内から抜き取るステップと、針管3からキャピラリ5を取り外すステップと、キャピラリ5内に満たされた体液を出すステップと、を備える。
【0097】
この態様によれば、生体から少量かつ一定量の体液を採取することができ、生体に与えるダメージを抑えることができる。また、この結果、一の生体に対して経時的に、繰り返し体液を採取することができ、個体ごとの経時的なデータを取得することができることから、個体間のばらつきによるデータ解釈の誤りを回避できる。この結果、必要な生体の数量を減らすことができる。
【0098】
第11の態様に係る房水73の採取方法は、第1~9のいずれか一つの体液採取装置1を用いた房水73の採取方法である。房水73の採取方法は、針管3の針先32を、生体の前房72内に刺し込むステップと、キャピラリ5内に房水73が満たされた後、針先32を前房72内から抜き取るステップと、針管3からキャピラリ5を取り外すステップと、キャピラリ5内に満たされた房水73を出すステップと、を備える。
【0099】
この態様によれば、少量かつ一定量の房水73を採取することができ、生体に与えるダメージを抑えることができる。また、この結果、一の生体に対して経時的に、繰り返し房水73を採取することができ、個体ごとの経時的なデータを取得することができることから、個体間のばらつきによるデータ解釈の誤りを回避できる。この結果、必要な生体の数量を減らすことができる。
【0100】
第2~第9の態様に係る構成については、体液採取装置1に必須の構成ではなく、適宜省略可能である。
【0101】
(4)実施例
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。ただし、本発明に係る体液採取装置、体液の採取方法及び房水の採取方法は、以下の実施例に限定されない。
【0102】
(4.1)点眼投与
保定缶を用いて保定したウサギの眼球の球結膜上部付近に、マイクロピペットを用いて0.5%チモロールマレイン酸塩持続性点眼液(参天製薬株式会社製、チモプトール(登録商標)XE点眼液0.5%)40μlを単回投与した。投与は両眼に対して行った。
【0103】
(4.2)房水採取
保定缶を用いてウサギを保定した。保定した状態のウサギに対して、0.4%塩酸オキシブプロカイン点眼液(参天製薬株式会社製、ベノキシール(登録商標)点眼液0.4%)の10倍希釈液(希釈媒体:生理食塩液)30μlを点眼投与し、局所麻酔を施した。ピンセットの先端で角膜をやさしく刺激し、角膜反射の消失を確認した後、開瞼器を取り付けた。
【0104】
実施例では、体液採取装置として、34Gの注射針に対して、20μlキャピラリを取り付けたものを用いた。ピンセットで上側球結膜を挟んで眼球を保定した後、角膜曲面を確認しながら、体液採取装置の針先を二段階穿刺にて角膜経由で前房に刺入した。
【0105】
キャピラリ内が房水で満たされたことを確認後、針先を前房内から抜き取った。その後、針基からシリンジを取り外し、針管からキャピラリを取り外した。そして、キャピラリ内に満たされた房水を、空気圧を用いてマイクロチューブ内へ移した。マイクロチューブ内に移した房水を、薬物濃度測定を行うまで凍結保存した。
【0106】
ウサギから開瞼器を取り外し、ウサギの眼球から房水が漏れ出ていないか、生体が過度の苦痛を感じていないかを確認した。両眼のうちの一方の眼に対して、点眼投与後、0.25時間、0.5時間、1時間、2時間及び4時間経過した時点で房水を経時的に採取した(これを「方法1」とする)。他方の眼に対し、点眼投与後、4時間経過した一時点のみで房水を採取した(これを「方法2」とする)。
【0107】
(4.3)薬物濃度測定
採取した房水のうち10μlを分析に用いた。各試料を除タンパク処理した後、LC/MS/MS法を用いて房水中のチモロール濃度を測定した。
【0108】
(4.4)結果
方法1及び方法2の結果を
図6に示す。
図6からもわかるように、体液採取装置を用いて同一の眼から繰り返し房水を採取したときの最終採取時点の房水中チモロール濃度は、方法2として、一時点のみ房水を採取したときの房水中チモロール濃度と、同程度であった。
【0109】
これにより、実施例に係る体液採取装置を用いることで、一の生体から繰り返し房水を採取することができることがわかった。また、実施例に係る体液採取装置を用いた房水の採取方法では、薬物動態評価においても有用であることがわかった。
【符号の説明】
【0110】
1 体液採取装置
2 針部
3 針管
32 針先
33 基端部
4 針基
41 保持部
42 筒状部
43 保持部材
5 キャピラリ
6 保護部材
61 先端部
62 外筒部
72 前房
73 房水