(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-08
(45)【発行日】2023-02-16
(54)【発明の名称】Z-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンを含む三成分共沸様組成物
(51)【国際特許分類】
C11D 7/50 20060101AFI20230209BHJP
C09K 5/04 20060101ALI20230209BHJP
B08B 3/08 20060101ALI20230209BHJP
F25B 1/00 20060101ALI20230209BHJP
C11D 7/30 20060101ALI20230209BHJP
C09K 3/00 20060101ALI20230209BHJP
【FI】
C11D7/50
C09K5/04 C
B08B3/08 Z
F25B1/00 396U
C11D7/30
C09K3/00 111B
(21)【出願番号】P 2019555300
(86)(22)【出願日】2018-11-19
(86)【国際出願番号】 JP2018042685
(87)【国際公開番号】W WO2019102967
(87)【国際公開日】2019-05-31
【審査請求日】2021-08-27
(31)【優先権主張番号】P 2017225302
(32)【優先日】2017-11-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002200
【氏名又は名称】セントラル硝子株式会社
(72)【発明者】
【氏名】長舩 夏奈子
(72)【発明者】
【氏名】岡本 覚
(72)【発明者】
【氏名】佐久 冬彦
(72)【発明者】
【氏名】井村 英明
【審査官】柴田 啓二
(56)【参考文献】
【文献】特表2012-506944(JP,A)
【文献】特表2015-507039(JP,A)
【文献】特表2013-504658(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C11D 7/30
C11D 7/50
C09K 3/00
C09K 5/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Z-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン
を51.1~98.48質量%、エタノール
を1.2~34.9質量%、水
を0.02~21.3質量%含む
、共沸様組成物。
【請求項2】
Z-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンを51.9~98.45質量%、エタノールを1.2~34.8質量%、水を0.05~20.2質量%含む、請求項1に記載の共沸様組成物。
【請求項3】
Z-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンを77.5~98.48質量%、エタノールを1.2~1.50質量%、水を0.02~21.3質量%含む、あるいは、
Z-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンを63.0~79.8質量%、エタノールを15.7~20.0質量%、水を0.2~21.3質量%含む、あるいは、
Z-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンを51.1~64.8質量%、エタノールを27.6~34.9質量%、水を0.3~21.3質量%含む、請求項1に記載の共沸様組成物。
【請求項4】
Z-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンを78.8~98.45質量%、エタノールを1.2~1.50質量%、水を0.05~20.0質量%含む、あるいは、
Z-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンを63.8~79.6質量%、エタノールを16.0~19.9質量%、水を0.5~20.2質量%含む、あるいは、
Z-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンを51.9~64.7質量%、エタノールを28.0~34.8質量%、水を0.5~20.1質量%含む、請求項1に記載の共沸様組成物。
【請求項5】
さらに、潤滑剤、安定剤、難燃剤、界面活性剤、金属不動態化剤、腐食防止剤または有機溶剤を含む、請求項1~
4のいずれかに記載の共沸様組成物。
【請求項6】
請求項1~
5のいずれかに記載の共沸様組成物を含む、洗浄剤。
【請求項7】
請求項1~
5のいずれかに記載の共沸様組成物を含む、水切り剤。
【請求項8】
請求項1~
5のいずれかに記載の共沸様組成物を含む、溶媒。
【請求項9】
請求項1~
5のいずれかに記載の共沸様組成物を含む、シリコーン溶剤。
【請求項10】
請求項1~
5のいずれかに記載の共沸様組成物を含む、発泡剤。
【請求項11】
請求項1~
5のいずれかに記載の共沸様組成物を含む、熱伝達媒体。
【請求項12】
請求項1~
5のいずれかに記載の共沸様組成物を被洗浄物と接触させる工程を含む、被洗浄物の洗浄方法。
【請求項13】
前記被洗浄物が、水分を含む汚れが付着した物品である、請求項
12に記載の方法。
【請求項14】
請求項
11に記載の熱伝達媒体を用いた有機ランキンサイクルシステム。
【請求項15】
請求項
11に記載の熱伝達媒体を用いた高温ヒートポンプサイクルシステム。
【請求項16】
請求項
11に記載の熱伝達媒体を用いた冷凍サイクルシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Z-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン(1233zd(Z))と、エタノール(EtOH)と、水とを含む共沸様組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
クロロフルオロカーボン(CFC)類や、ハイドロクロロフルオロカーボン(HCFC)類などの含フッ素飽和化合物は、発泡剤、熱伝達媒体、溶媒、洗浄剤などの用途において使用されてきた。これらの用途においては、単一成分または共沸様組成物、すなわち沸騰、蒸発時に実質的に分留しないものの使用が特に望ましい。
【0003】
これらの含フッ素飽和化合物は、地球温暖化係数(GWP)が大きく、地球環境への影響が懸念され、使用が制限されている。そこで、CFC類やHCFC類に代わる化合物として、ハイドロクロロフルオロオレフィン(HCFO)類が開発されている。HCFO類は大気中での寿命が短く、地球温暖化係数が小さいという優れた環境性能を有する。
【0004】
しかしながら、HCFO類をはじめとして、新規な、環境に安全で、分留しない組成物の開発は、共沸または共沸様組成物の形成が容易に予測できないことから、困難である。そのため、産業界は、CFC類や、HCFC類に代わる、性能上許容でき、環境上より安全な代替品である新規なHCFO類組成物を絶えず求めている。
【0005】
ところで、特許文献1には、Z-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン(1233zd(Z))と、エタノールとから本質的になる、二成分共沸混合物様混合物を含む組成物を開示している。
【0006】
また、特許文献2には、1233zd(Z)と、水とから本質的になる、二成分共沸混合物様混合物を含む組成物を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特表2012-506944号公報
【文献】特表2015-507039号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、環境にやさしい、新規な共沸様組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、鋭意検討した結果、Z-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン(1233zd(Z))と、エタノールと、水とが共沸様組成物を形成することを見出し、本発明を完成させた。
【0010】
すなわち、本発明は、以下の各発明を含む。
【0011】
[発明1]
Z-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンと、エタノールと、水とを含む共沸様組成物。
【0012】
[発明2]
Z-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンを51.1~98.48質量%、エタノールを1.2~34.9質量%、水を0.02~21.3質量%含む、発明1に記載の共沸様組成物。
【0013】
[発明3]
Z-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンを51.9~98.45質量%、エタノールを1.2~34.8質量%、水を0.05~20.2質量%含む、発明1に記載の共沸様組成物。
【0014】
[発明4]
Z-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンを77.5~98.48質量%、エタノールを1.2~1.50質量%、水を0.02~21.3質量%含む、あるいは、
Z-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンを63.0~79.8質量%、エタノールを15.7~20.0質量%、水を0.2~21.3質量%含む、あるいは、
Z-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンを51.1~64.8質量%、エタノールを27.6~34.9質量%、水を0.3~21.3質量%含む、発明1に記載の共沸様組成物。
【0015】
[発明5]
Z-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンを78.8~98.45質量%、エタノールを1.2~1.50質量%、水を0.05~20.0質量%含む、あるいは、
Z-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンを63.8~79.6質量%、エタノールを16.0~19.9質量%、水を0.5~20.2質量%含む、あるいは、
Z-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンを51.9~64.7質量%、エタノールを28.0~34.8質量%、水を0.5~20.1質量%含む、発明1に記載の共沸様組成物。
【0016】
[発明6]
さらに、潤滑剤、安定剤、難燃剤、界面活性剤、金属不動態化剤、腐食防止剤または有機溶剤を含む、発明1~5のいずれかに記載の共沸様組成物。
【0017】
[発明7]
発明1~6のいずれかに記載の共沸様組成物を含む、洗浄剤。
【0018】
[発明8]
発明1~6のいずれかに記載の共沸様組成物を含む、水切り剤。
【0019】
[発明9]
発明1~6のいずれかに記載の共沸様組成物を含む、溶媒。
【0020】
[発明10]
発明1~6のいずれかに記載の共沸様組成物を含む、シリコーン溶剤。
【0021】
[発明11]
発明1~6のいずれかに記載の共沸様組成物を含む、発泡剤。
【0022】
[発明12]
発明1~6のいずれかに記載の共沸様組成物を含む、熱伝達媒体。
【0023】
[発明13]
発明1~6のいずれかに記載の共沸様組成物を被洗浄物と接触させる工程を含む、被洗浄物の洗浄方法。
【0024】
[発明14]
前記被洗浄物が、水分を含む汚れが付着した物品である、発明13に記載の方法。
【0025】
[発明15]
発明12に記載の熱伝達媒体を用いた有機ランキンサイクルシステム。
【0026】
[発明16]
発明12に記載の熱伝達媒体を用いた高温ヒートポンプサイクルシステム。
【0027】
[発明17]
発明12に記載の熱伝達媒体を用いた冷凍サイクルシステム。
【発明の効果】
【0028】
Z-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン(1233zd(Z))と、エタノールと、水とを含む共沸様組成物は地球温暖化係数(GWP)が低い。したがって、本発明によれば、環境にやさしい、新規な共沸様組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0029】
1.本発明の組成物
[三成分共沸様組成物]
本明細書でいう三成分共沸組成物とは、三成分からなる組成物であって、当該三成分のうちの沸点の低い二成分の混合物に対して、沸点の高い一成分を加えて三成分の混合物としたときに、当該二成分の混合物よりも低い沸点を有する、組成物を意味する。例えば、成分A、成分B及び成分Cの三成分(沸点は、C>B>A)にあっては、沸点の低い成分Aと成分Bの混合物に対して、最も沸点の高い成分Cを当該混合物に加え、成分A、成分Bおよび成分Cからなる組成物とし、この組成物が当該混合物よりも低い沸点を有するとき、この組成物を三成分共沸様組成物という。なお、本明細書において、共沸様組成物は、その広い意味において、厳密に共沸性である組成物及び共沸混合物のように挙動する組成物の両方を包含する。また、本明細書において、共沸様組成物には、所定の圧力において組成物が単一の液相で存在する均一共沸混合物、又は所定の圧力において組成物が2以上の液相として存在する異相共沸混合物も含まれる。
【0030】
組成物の沸点は、沸騰する時の液体(組成物)の温度を計測することで求めることができる。沸点は外気圧によって変化するので、沸点を比較する場合、一定圧力下での沸点を求めることが望ましい。したがって、組成物の沸点とは、1気圧(101.3KPa)における沸点、つまり標準沸点を示す。
【0031】
本発明者らは、Z-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン(1233zd(Z))(沸点:39℃)とエタノール(沸点:78℃)の混合物に対して、水(沸点:100℃)を加え、1233zd(Z)とエタノールと水からなる組成物とし、この組成物が当該混合物よりも低い沸点を有することを見出した。すなわち、1233zd(Z)と、水と、エタノールとは、所定の組成範囲で三成分共沸様組成物を形成する。この三成分共沸様組成物は、地球温暖化係数(GWP)が極めて小さい1233zd(Z)と、エタノールと、水とからなることから、従来のCFC類やHCFC類と比べて、地球環境にやさしい組成物である。
【0032】
本発明の共沸様組成物(以下、「本組成物」と呼ぶことがある。)は、Z-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン(1233zd(Z))と、水と、エタノールとを含む。
【0033】
ある一態様において、本組成物は、1233zd(Z)を51.1~98.48質量%、エタノールを1.2~34.9質量%、水を0.02~21.3質量%含む。
【0034】
また、ある一態様において、本組成物は、1233zd(Z)を51.9~98.45質量%、エタノールを1.2~34.8質量%、水を0.05~20.2質量%含む。
【0035】
また、ある一態様において、本組成物は、1233zd(Z)を77.5~98.48質量%、エタノールを1.2~1.50質量%、水を0.02~21.3質量%含み、あるいは、
1233zd(Z)を63.0~79.8質量%、エタノールを15.7~20.0質量%、水を0.2~21.3質量%含み、あるいは、
1233zd(Z)を51.1~64.8質量%、エタノールを27.6~34.9質量%、水を0.3~21.3質量%含む。
【0036】
また、ある一態様において、本組成物は、1233zd(Z)を78.8~98.45質量%、エタノールを1.2~1.50質量%、水を0.05~20.0質量%含み、あるいは、
1233zd(Z)を63.8~79.6質量%、エタノールを16.0~19.9質量%、水を0.5~20.2質量%含み、あるいは、
1233zd(Z)を51.9~64.7質量%、エタノールを28.0~34.8質量%、水を0.5~20.1質量%含む。
【0037】
また、ある一態様において、本組成物は、1233zd(Z)と、エタノールと、水とから実質的になる。
【0038】
本組成物は、様々な任意の成分を含んでいてもよい。このような成分としては、潤滑剤、安定剤、難燃剤、界面活性剤、金属不動態化剤、腐食防止剤、有機溶剤などが挙げられるが、これらに限定されない。これらの成分の含有量は、共沸様組成物の共沸様の性質に支障のない程度であればよい。これらの成分の合計の含有量は、これらの成分の種類により異なるが、例えば、共沸様組成物に対して、0.01~20質量%程度であり、0.01~10質量%程度とすることが好ましく、0.01~5質量%程度とすることがより好ましい。
【0039】
<潤滑剤>
本組成物は潤滑剤を含んでいてもよい。このような潤滑剤としては、鉱物油(パラフィン系油またはナフテン系油)、合成油のアルキルベンゼン類(AB)、ポリ(アルファ-オレフィン)、エステル類、ポリオールエステル類(POE)、ポリアルキレングリコール類(PAG)、ポリビニルエーテル類(PVE)などを用いることができるが、これらに限定されない。ある態様において、本組成物を熱伝達媒体として使用する場合、例えば、高温ヒートポンプの冷媒用途やランキンサイクルの作動媒体用途などにおいて、該熱伝達媒体には潤滑剤が含まれ得る。
【0040】
アルキルベンゼン類としては、n-オクチルベンゼン、n-ノニルベンゼン、n-デシルベンゼン、n-ウンデシルベンゼン、n-ドデシルベンゼン、n-トリデシルベンゼン、2-メチル-1-フェニルヘプタン、2-メチル-1-フェニルオクタン、2-メチル-1-フェニルノナン、2-メチル-1-フェニルデカン、2-メチル-1-フェニルウンデカン、2-メチル-1-フェニルドデカン、2-メチル-1-フェニルトリデカン等が挙げられる。
【0041】
エステル類としては、安息香酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、トリメリット酸、ピロメリット酸及びこれらの混合物等の芳香族エステル、二塩基酸エステル、ポリオールエステル、コンプレックスエステル、炭酸エステル等が挙げられる。
【0042】
ポリオールエステル類の原料となるアルコールとしては、ネオペンチルグリコール、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、トリメチロールブタン、ジ(トリメチロールプロパン)、トリ(トリメチロールプロパン)、ペンタエリスリトール、ジ(ペンタエリスリトール)、トリ(ペンタエリスリトール)等のヒンダードアルコールのエステル等が挙げられる。
【0043】
ポリオールエステル類の原料となるカルボン酸としては、吉草酸、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、オレイン酸、イソペンタン酸、2-メチルヘキサン酸、2-エチルペンタン酸、2-エチルヘキサン酸及び3,5,5-トリメチルヘキサン酸等が挙げられる。
【0044】
ポリアルキレングリコールとしては、炭素数1~18のアルコール(例えば、メタノール、エタノール、直鎖状または分枝状のプロパノール、直鎖状又は分枝状のブタノール、直鎖状又は分枝状のペンタノール、直鎖状又は分枝状のヘキサノール等の脂肪族アルコール)に、アルキレンオキシド(例えば、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、ブチレンオキド等)を付加重合した化合物が挙げられる。
【0045】
ポリビニルエーテル類としては、ポリメチルビニルエーテル、ポリエチルビニルエーテル、ポリn-プロピルビニルエーテル、ポリイソプロピルビニルエーテル等が挙げられる。
【0046】
<安定剤>
本組成物は安定剤を含んでいてもよい。いくつかの態様において、本組成物が安定剤を含むことにより、熱安定性、耐酸化性等を改善することができる。このような安定剤としては、ニトロ化合物、エポキシ化合物、フェノール類、イミダゾール類、アミン類、炭化水素類等が挙げられるが、これらに限定されない。また、これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0047】
ニトロ化合物としては、例えば、脂肪族及び/または芳香族誘導体が挙げられる。脂肪族系ニトロ化合物としては、例えば、ニトロメタン、ニトロエタン、1-ニトロプロパン、2-ニトロプロパン等が挙げられる。芳香族ニトロ化合物としては、例えば、ニトロベンゼン、o-、m-又はp-ジニトロベンゼン、トリニトロベンゼン、o-、m-又はp-ニトロトルエン、o-、m-又はp-エチルニトロベンゼン、2,3-、2,4-、2,5-、2,6-、3,4-又は3,5-ジメチルニトロベンゼン、o-、m-又はp-ニトロアセトフェノン、o-、m-又はp-ニトロフェノール、o-、m-又はp-ニトロアニソール等が挙げられる。
【0048】
エポキシ化合物としては、例えばエチレンオキサイド、1,2-ブチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、スチレンオキサイド、シクロヘキセンオキサイド、グリシドール、エピクロルヒドリン、グリシジルメタアクリレート、フェニルグリシジルエーテル、アリルグリシジルエーテル、メチルグリシジルエーテル、ブチルグリシジルエーテル、2-エチルヘキシルグリシジルエーテル等のモノエポキシ系化合物、ジエポキシブタン、ビニルシクロヘキセンジオキサイド、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、エチレングリコールジグリシジルエーテル、グリセリンポリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパントルグリシジルエーテル等のポリエポキシ系化合物等が挙げられる。
【0049】
フェノール類としては、例えば、フェノール性水酸基とともに、アルキル基、アルケニル基、アルコキシ基、カルボキシル基、カルボニル基、ハロゲン等各種の置換基を含み得る芳香族化合物が挙げられる。このような芳香族化合物としては、例えば、2,6-ジ-t-ブチル-p-クレゾール、o-クレゾール、m-クレゾール、p-クレゾール、チモール、p-t-ブチルフェノール、o-メトキシフェノール、m-メトキシフェノール、p-メトキシフェノール、オイゲノール、イソオイゲノール、ブチルヒドロキシアニソール、フェノール、キシレノール等の1価のフェノールあるいはt-ブチルカテコール、2,5-ジ-t-アミノハイドロキノン、2,5-ジ-t-ブチルハイドロキノン等の2価のフェノール等が挙げられる。
【0050】
イミダゾール類としては、炭素数1~18で直鎖状もしくは分岐鎖状のアルキル基、シクロアルキル基、またはアリール基をN位の置換基とする、1-メチルイミダゾール、1-n-ブチルイミダゾール、1-フェニルイミダゾール、1-ベンジルイミダゾール、1-(β-オキシエチル)イミダゾール、1-メチル-2-プロピルイミダゾール、1-メチル-2-イソブチルイミダゾール、1-n-ブチル-2-メチルイミダゾール、1,2-ジメチルイミダゾール、1,4-ジメチルイミダゾール、1,5-ジメチルイミダゾール、1,2,5-トリメチルイミダゾール、1,4,5-トリメチルイミダゾール、1-エチル-2-メチルイミダゾール等が挙げられる。
【0051】
アミン類としては、ペンチルアミン、ヘキシルアミン、ジイソプロピルアミン、ジイソブチルアミン、ジ-n-プロピルアミン、ジアリルアミン、トリエチルアミン、N-メチルアニリン、ピリジン、モルホリン、N-メチルモルホリン、トリアリルアミン、アリルアミン、α―メチルベンジルアミン、メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、プロピルアミン、イソプロピルアミン、ジプロピルアミン、ブチルアミン、イソブチルアミン、ジブチルアミン、トリブチルアミン、ジペンチルアミン、トリペンチルアミン、2-エチルヘキシルアミン、アニリン、N,N-ジメチルアニリン、N,N-ジエチルアニリン、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、ジエチレントリアミン、テトラエチレンペンタミン、ベンジルアミン、ジベンジルアミン、ジフェニルアミン、ジエチルヒドロキシルアミン等が挙げられる。
【0052】
炭化水素類としては、α-メチルスチレン、p-イソプロペニルトルエン、イソプレン類、プロパジエン類、テルペン類等が挙げられる。
【0053】
<難燃剤>
本組成物は難燃剤を含むことにより、燃焼性を改善することができる。このような難燃剤としては、ホスフェート類、ハロゲン化芳香族化合物、フッ素化ヨードカーボン、フッ素化ブロモカーボン等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0054】
<界面活性剤>
本組成物は界面活性剤を含むことにより、洗浄力、界面作用等をより一層改善することができる。このような界面活性剤としては、ソルビタンモノオレエート、ソルビタントリオレエート等のソルビタン脂肪族エステル類;ポリオキシエチレンのソルビットテトラオレエート等のポリオキシエチレンソルビット脂肪酸エステル類;ポリオキシエチレンモノラウレート等のポリエチレングリコール脂肪酸エステル類;ポリオキシエチレンラウリルエーテル等のポリオキシエチレンアルキルエーテル類;ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル等のポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル類;ポリオキシエチレンオレイン酸アミド等のポリオキシエチレンアルキルアミン脂肪酸アミド類等のノニオン系界面活性剤が挙げられる。相乗的に洗浄力及び界面作用を改善する目的で、本組成物は、これらのノニオン系界面活性剤とともにカチオン系界面活性剤やアニオン系界面活性剤を含んでもよい。
【0055】
2.本組成物の各種用途
[洗浄剤用途]
本組成物は優れた洗浄力を有するため、洗浄剤として用いることができる。本組成物を洗浄剤として用いる分野は特に限定されないが、従来にCFC-113(クロロトリフルオロメタン)、HCFC-141b(1,1-ジクロロ-1-フルオロエタン)、HCFC-225(3,3-ジクロロ-1,1,1,2,2-ペンタフルオロプロパン(HCFC-225ca)及び1,3-ジクロロ-1,1,2,2,3-ペンタフルオロプロパン(HCFC-225cb)の混合物)が洗浄剤として使用された分野が好適である。具体的には、電子部品(プリント基板、液晶表示器、磁気記録部品、半導体材料等)、電機部品、精密機械部品、樹脂加工部品、光学レンズ、衣料品等の洗浄が挙げられる。これらの物品を構成する基材の材質は、鉄、ステンレス、マグネシウム、アルミニウム、亜鉛、銀、銅、銅合金、スズ、硫酸アルマイト、チタン等の金属、銅、亜鉛、ニッケル、クロム、金等で表面をメッキした金属、ポリプロピレン、エポキシ樹脂等のプラスチック材料、高分子材料、ガラス材料等が挙げられる。汚れの種類も限定されないが、CFC-113、HCFC-141b、HCFC-225で除去可能な汚れは、本組成物の組成比を最適化することで除去することが可能であり、そのような汚れとしてはパーティクル、油、グリース、ワックス、フラックス、インキ等が挙げられる。
【0056】
その洗浄方法は、本組成物を洗浄剤として被洗浄物と接触させること以外は特に限定されず、従来から用いられている方法を採用することができる。具体的には、浸漬、スプレー、沸騰洗浄、超音波洗浄、蒸気洗浄、洗浄剤を含ませたスポンジ等による被洗浄物表面をふき取る方法、若しくはこれらの組み合わせ等が挙げられる。中でも後述の実施例に示すように、浸漬を行うことで、汚れを除去する方法が特に好ましい。ここで、浸漬とは、油等の汚れが付着した対象物(被洗浄物)を、本組成物と接触させることを指す。被洗浄物を本組成物に浸漬させることにより、被洗浄物に付着した汚れを該組成物中に溶解させることで、汚れを被洗浄物から取り除くことができる。なお、当該浸漬操作と共に、他の洗浄操作(沸騰洗浄、超音波洗浄など)を組み合わせることもできる。
【0057】
本組成物は、気液平衡での液相組成比と気相組成比とが実質的に同一となるため、経時的に揮発が生じても組成変化が非常に小さく、常に安定した洗浄能力を得ることが可能となる。また、保管時における保管容器内での組成変化も避けることができる。
【0058】
[水切り剤用途]
本組成物は水切り剤として用いることができる。自動車、機会、精密機器、電気、電子、光学等の各種工業分野において扱われる物品は、その製造工程において、純水等の水で洗浄されたり、水系洗浄剤、水系洗浄剤に水溶性溶剤を配合した準水系洗浄剤、アルコール系洗浄剤、グリコールエーテル系洗浄剤、炭化水素に界面活性剤を配合した炭化水素系洗浄剤等により洗浄されることがある。水系洗浄剤や準水系洗浄剤を使用した場合、洗浄後の物品には水が付着した状態となり、洗浄工程後に水切り剤で水分を排除する水切り工程が一般的に行われている。本組成物は、そのような水切り工程で用いる水切り剤として好適に用いることができる。
【0059】
水切り方法は、本組成物を水切り剤として用いる以外は特に限定されず、従来公知の方法を採用することができる。例えば、被水切り物品を本組成物に接触させて乾燥する方法が挙げられる。
【0060】
本組成物は、洗浄作用とともに水切り作用を示すことから、洗浄工程と水切り工程とを一挙に行うことができる。すなわち、洗浄工程を施すことで、被洗浄物に付着した汚れを除去できるとともに、被洗浄物に付着し得る水分を除去できる。したがって、洗浄工程と水切り工程とで使用する洗浄剤と水切り剤とを区別して用いる必要はないため、より生産的である。なお、このことは、洗浄工程と水切り工程とで使用する洗浄剤と水切り剤とを区別して用いることを妨げるものではなく、所望により、本組成物をそれぞれの工程において、洗浄剤および/または水切り剤として用いてもよい。いくつかの態様において、本組成物は、水分を含む汚れ(例えば、水溶性油)が付着した物品(被洗浄物品)の洗浄に好適である。本組成物を用いることにより、被洗浄物品に付着した汚れとともに水分を除去することができる。
【0061】
[溶媒用途]
本組成物は共沸様組成を有するため、単一成分と同様に溶媒として用いることができる。
【0062】
[シリコーン溶剤用途]
本組成物はシリコーンの溶剤として優れた特性を有する。即ち、本組成物は、オゾン層破壊係数及び地球温暖化係数(GWP)が低く、揮発性に優れ、かつ、種々のシリコーンを任意で溶解させることができる。特に、本組成物は、広い共沸様組成範囲を持つので、当業者は各種のシリコーン化合物に応じた最適の組成を選定することができる。
【0063】
本組成物をシリコーン溶剤として用いると優れた効果を発揮する例としては、表面コーティングが挙げられる。表面コーティングにおいては、対象物の表面の保護、潤滑性を付与させるために、揮発性の溶剤に潤滑剤のシリコーンを溶解させて得たシリコーン塗布溶液を対象物に塗布した後に溶剤を蒸発させる事が一般的である。例えば、注射針にはすべり性を良くするために、シリコーンが塗布されている。
【0064】
本組成物とシリコーンとを混合させることで、シリコーン塗布溶液として使用することができる。
【0065】
使用されるシリコーンとしては、例えば、表面コーティング用に使用されている各種のシリコーンを使用することができる。中でも、メチル基、フェニル基、水素原子を置換基として結合したジメチルシリコーンオイル、メチルフェニルシリコーンオイル、メチル水素シリコーンオイルなどのストレートシリコーンオイル、また、ストレートシリコーンオイルから二次的に誘導された構成部分を持つ、反応性シリコーンオイル、非反応性シリコーンオイルなどの変性シリコーンオイルなどのシリコーンを使用してもよい。
【0066】
また、シリコーンとしては、アミノアルキルシロキサンとジメチルシロキサンとの共重合体を主成分とするもの、アミノ基含有シラン及びエポキシ基含有シランの反応生成物と、シラノール基を含有するポリジオルガノシロキサンとの反応生成物を主成分とするもの、側鎖又は末端にアミノ基を含有するシリコーンとポリジオルガノシロキサンとからなるシリコーン混合物、及びアミノ基含有アルコキシシラン、エポキシ基含有アルコキシシラン、および両末端にシラノール基を有するシリコーンを反応させて得られたシリコーンと非反応性シリコーンとの混合物等が挙げられる。
【0067】
シリコーン塗布溶液におけるシリコーン溶剤としての本組成物の割合は、例えば、0.1質量%以上80質量%以下とし、1質量%以上20質量%以下であることが好ましい。
【0068】
本組成物を含むシリコーン塗布溶液を対象物の表面に塗布し、本組成物を揮発させて除去することにより、対象物表面にシリコーンの被膜を形成する。本発明の方法を適用できる対象物としては、金属部材、樹脂部材、セラミックス部材、ガラス部材などの各種材質に適用することができ、特に、注射針の針管部や、ディスペンサー(液体定量噴出装置)のスプリングやバネ部分等に適用することができる。
【0069】
例えば、注射針の針管部などにシリコーンの被膜を形成する場合、シリコーンを注射針の針管部に塗布する方法として、注射針の針管部を、シリコーン塗布溶液に浸漬させ、針管部の外表面に塗布した後、室温あるいは加温下に放置して本組成物を蒸発させ、シリコーンの被膜を形成させるディップコート法が適用されてもよい。
【0070】
[発泡剤用途]
本組成物は、硬質ポリウレタンフォームまたはポリイソシアヌレートフォームの製造に用いる発泡剤として用いることができる。すなわち、本発明の共沸組成物からなる発泡剤、1種以上のポリオール、触媒、整泡剤などを混合した混合物(プレミックス)をイソシアネートと反応させることによって、硬質ポリウレタンフォームまたはポリイソシアヌレートフォームを製造することができる。
【0071】
イソシアネートは、芳香族、環状脂肪族、鎖状脂肪族系等のものが包含され、一般には2官能のものが使用される。このようなイソシアネートとしては、例えば、トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、ポリメチレンポリフェニルポリイソシアネート、トリレンジイソシアネート、ナフタリンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、水添キシリレンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンイソシアネート等のポリイソシアネートおよびこれらのプレポリマー型変性体、ヌレート変性体、尿素変性体が挙げられる。これらは単独または混合物で用いられる。
【0072】
プレミックスに含まれるポリオールには、ポリエーテル系ポリオール、ポリエステル系ポリオール、多価アルコール、水酸基含有ジエチレン系ポリマー等が挙げられるが、ポリエーテル系ポリオールが一般的に使用される。また、ポリエステル系ポリオール及びポリエーテル系ポリオールを主成分としてもよく、その他のポリオールを使用してもよい。
【0073】
ポリエステル系ポリオールには、無水フタル酸、廃ポリエステル、ひまし油に由来する化合物の他に縮合系ポリエステルポリオール、ラクトン系ポリエステルポリオール、ポリカーボネートポリオール等が挙げられる。
【0074】
発泡剤等との相溶性ならびに、発泡性、フォーム物性等の観点から、ポリエステルポリオールの水酸基価(OH価)は100mgKOH/g以上400mgKOH/g以下であり、かつ粘度が200Pa・s/25℃以上4000mPa・s/25℃以下であることが好ましい。
【0075】
ポリエーテル系ポリオールとしては、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール及びそれら変性体の他、糖、多価アルコール、アルカノールアミン等の活性水素を含む化合物をイニシエータにして、これに、プロピレンオキシド、エチレンオキシド、エピクロルヒドリン、ブチレンオキシド等の環状エーテルを付加したものが好ましく使用される。
【0076】
ポリエーテルポリオールは、通常、水酸基価が400mgKOH/g以上、1000mgKOH/g以下のものが使用される。
【0077】
プレミックスに含まれる触媒には、有機金属系触媒及び有機アミン系触媒が包含される。有機金属触媒としては、有機スズ化合物が好ましく使用され、スタナスオクトエート、スタナスラウレート、ジブチル錫ジラウレート、ジブチル錫ジマレート、ジブチル錫ジアセテート、ジオクチル錫ジアセテート等が挙げられる。有機アミン系触媒としては、第3級アミン、例えば、トリエチレンジアミン、N-エチルモルホリン、ビス(2-ジメチルアミノエチル)エーテル、N,N’,N’-トリエチルエタノールアミン等が挙げられる。
【0078】
プレミックスに含まれる整泡剤としては、通常有機ケイ素化合物系の界面活性剤が用いられ、東レシリコーン(株)製SH-193、SH-195、SH-200またはSRX-253等、信越シリコーン(株)製F-230、F-305、F-341、F-348等、日本ユニカー(株)製L-544、L-5310、L-5320、L-5420、L-5720または東芝シリコーン(株)製TFA-4200、TFA-4202等が挙げられる。
【0079】
プレミックスに含まれる難燃剤としては、硬質ポリウレタンフォームまたはポリイソシアヌレートフォームに使用されるリン酸エステルであり、トリス(2-クロロエチル)ホスフェート、トリス(2-クロロプロピル)ホスフェート、トリス(ブトキシエチル)ホスフェート、トリスメチルホスフェート、トリスエチルホスフェート、トリフェニルホスフェート、トリス(イソプロピルフェニル)ホスフェート等が挙げられる。
【0080】
プレミックスには、紫外線防止剤、スコーチ防止剤、プレミックス貯蔵安定剤などを存在させてもよい。これにより、硬質ポリウレタンフォームまたはポリイソシアヌレートフォームの諸物性を向上させることができる。
【0081】
[熱伝達媒体用途]
本組成物は、冷凍サイクルシステム、高温ヒートポンプシステム、及び有機ランキンサイクルシステムなどの熱伝達媒体として好適である。また、いくつかの態様において、本組成物は、これらのサイクルシステムを洗浄するための洗浄剤として好適である。
【0082】
本明細書において、「冷凍サイクルシステム」とは、少なくとも蒸発器、圧縮機、凝縮器、膨張弁の要素機器を含む蒸気圧縮式の冷凍サイクルシステムであり、主に冷却することを目的とするシステムを指す。前記膨張弁は、熱伝達媒体が絞り膨張するための装置であり、キャピラリーチューブであってもよい。冷凍サイクルシステムは前記要素機器の他に、内部熱交換器、乾燥器(ドライヤ)、液分離器、油回収器、不凝縮ガス分離器を備えていてもよい。前記冷凍サイクルシステムは、冷蔵庫、空調システム、冷却装置として用いられてもよい。
【0083】
本明細書において、「高温ヒートポンプサイクルシステム」とは、少なくとも蒸発器、圧縮機、凝縮器、膨張弁の要素機器を含む蒸気圧縮式のヒートポンプサイクルシステムであり、主に加熱することを目的とするシステムを指す。前記膨張弁は、熱伝達媒体を絞り膨張させるための装置であり、キャピラリーチューブであってもよい。高温ヒートポンプサイクルシステムは、前記要素機器の他に、内部熱交換器、乾燥器(ドライヤ)、液分離器、油回収器、不凝縮ガス分離器を備えていてもよい。前記高温ヒートポンプサイクルシステムは、給湯システム、蒸気生成システム、加熱装置として用いられてもよい。また、前記高温ヒートポンプサイクルシステムは、熱源として、太陽熱エネルギー、工場廃熱などを利用してもよい。
【0084】
本明細書において、「有機ランキンサイクルシステム」とは、少なくとも蒸発器、膨張機、凝縮器、昇圧ポンプの要素機器を含むランキンサイクルシステムであり、主に熱エネルギーを電気エネルギーへと変換することを目的とするシステムを指す。有機ランキンサイクルシステムは、前記要素機器の他に、内部熱交換器、乾燥器(ドライヤ)、液分離器、油回収器、不凝縮ガス分離器を備えていてもよい。前記有機ランキンサイクルシステムは、中低温熱を回収する発電装置として用いられてもよい。また、前記有機ランキンサイクルシステムは、熱源として、太陽熱エネルギー、工場廃熱などを利用してもよい。
【実施例】
【0085】
以下、実施例によって本発明を詳細に説明するが、本発明は以下に述べる実施例に限定されるわけではない。
【0086】
実施例1~15では、Z-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン(1233zd(Z))、エタノールおよび水によって形成される共沸様組成物の存在を実証する。
【0087】
[実施例1~5]
上部に凝縮器を備えた300mL3つ口丸底フラスコに白金温度計を装備し、凝縮器上部は外気水分が混入しないように配慮したうえで、外気圧になる状態とした。このフラスコに試料約200mLを導入し、試料を十分に攪拌しながら加熱し、十分に沸騰して試料温度が安定した時の温度を「読み取り沸点」として計測し、この時の外気圧も測定した。この読み取り沸点と外気圧から標準沸点に換算した。換算方法は日本工業規格:JIS K2254「石油製品の蒸留方法」に記載の温度計の読みの気圧補正方法に記載されているシドニーヤング式を用いて補正値を求め、読みとり沸点に補正値を加えた。98.5重量%の1233zd(Z)と1.5重量%の無水エタノールを混合して調製した標準試料1について、上記の方法により標準沸点を求めたところ、38.95℃であった。この標準試料1に、所定量の水を加え調製した各試料について、上記の方法によりそれぞれ標準沸点を求めた。その結果を表1に示す。
【0088】
表1に示されるように、実施例1~5の各試料は、標準試料1の標準沸点よりも低い標準沸点を示すことが観察された。このことは、実施例1~5の各試料において、共沸様組成物が形成されていることを示唆している。
【表1】
【0089】
[実施例6~10]
80重量%の1233zd(Z)と20重量%のエタノールを混合して調製した標準試料2について実施例1~5と同様の方法により標準沸点を求めたところ、41.12℃であった。この標準試料2に、所定量の水を加えて調製した各試料について、上記の方法によりそれぞれ標準沸点を求めた。その結果を表2に示す。
【0090】
表2に示されるように、実施例6~10の各試料は、標準試料2の標準沸点よりも低い標準沸点を示すことが観察された。このことは、実施例6~10の各試料において、共沸様組成物が形成されていることを示唆している。
【表2】
【0091】
[実施例11~15]
65重量%の1233zd(Z)と35重量%のエタノールを混合して調製した標準試料3について実施例1~5と同様の方法により標準沸点を求めたところ、43.94℃であった。この標準試料3に、所定量の水を加えて調製した各試料について、上記の方法によりそれぞれ標準沸点を求めた。その結果を表3に示す。
【0092】
表3に示されるように、実施例11~15の各試料は、標準試料3の標準沸点よりも低い標準沸点を示すことが観察された。このことは、実施例11~15の各試料において、共沸様組成物が形成されていることを示唆している。
【表3】
【0093】
以下、実施例16~18では、本発明の共沸様組成物が、洗浄作用とともに水切り作用を示すことを実証する。
【0094】
[実施例16]
15mm×30mm×厚さ2mmのSUS316製試験片に水溶性加工油ユニソルブルEM(JX日鉱日石エネルギー製)5質量%水溶液を付着させた。この試験片を共沸様組成物(1233zd(Z):約64重量%、エタノール:約35重量%、水:約1重量%)に浸漬し、25℃で2分間超音波洗浄(超音波発振器:Alex Corporation社製ネオソニック、出力100W、周波数28kHz)した。その後、試験片を取出し、80℃にて5分間乾燥した後、被洗浄物の表面を目視観察した。その結果、汚れも、水ジミも確認されず、良好な洗浄性および水切り性を示した。
【0095】
[実施例17]
別の共沸様組成物(1233zd(Z):約98.4重量%、エタノール:約1.5重量%、水:約0.1重量%)を用いた以外は、実施例16と同様の操作を行った。その結果、汚れも確認されず、水ジミも確認されず、良好な洗浄性および水切り性を示した。
【0096】
[実施例18]
別の水溶性加工油ユニソルブルCS(JX日鉱日石エネルギー製)2.5質量%水溶液を用いた以外は、実施例16と同様の操作を行った。その結果、汚れも確認されず、水ジミも確認されず、良好な洗浄性および水切り性を示した。