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特許7223311細胞培養チップ、及びこれを用いた細胞培養方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-08
(45)【発行日】2023-02-16
(54)【発明の名称】細胞培養チップ、及びこれを用いた細胞培養方法
(51)【国際特許分類】
   C12M 1/00 20060101AFI20230209BHJP
   C12M 3/00 20060101ALI20230209BHJP
   C12N 1/00 20060101ALI20230209BHJP
【FI】
C12M1/00 D
C12M1/00 A
C12M3/00 Z
C12N1/00 Z
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2018154791
(22)【出願日】2018-08-21
(65)【公開番号】P2020028237
(43)【公開日】2020-02-27
【審査請求日】2021-03-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000102212
【氏名又は名称】ウシオ電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】弁理士法人ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山中 誠
【審査官】野村 英雄
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第05422270(US,A)
【文献】特表2007-510429(JP,A)
【文献】韓国登録特許第10-1706750(KR,B1)
【文献】国際公開第1993/022418(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/154361(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M 1/00- 3/10
C12N 1/00- 7/08
C12Q 1/00- 3/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
底部と前記底部に結合した本体とを含んでなる細胞培養チップであって、
前記底部の面に平行な第一方向に関して相互に隣接した位置に形成され、前記本体を貫通して前記底部を露出する貫通孔からなる、第一ウェル及び第二ウェルと、
前記第一方向に関して前記第一ウェル及び前記第二ウェルとは離間した位置に形成され、前記本体を貫通して前記底部を露出する貫通孔からなる、第三ウェル及び第四ウェルと、
前記本体の前記底部側の面に形成された凹部であって、前記第一ウェルと前記第三ウェルとを前記第一方向に延在する細管状を呈して連絡する第一培養チャンバと、
前記本体の前記底部側の面に形成された凹部であって、前記第二ウェルと前記第四ウェルとを前記第一方向に延在する細管状を呈して連絡する第二培養チャンバと、
前記第一方向に関して前記第一ウェルと前記第二ウェルとに挟まれた位置において、前記底部の面に直交する第二方向に、前記本体よりも低い高さを有して前記底部から突出する形状を呈して形成され、前記第一ウェルと前記第二ウェルとを前記第一方向に区画する隔壁とを備え、
前記第三ウェルと前記第四ウェルとは、前記本体の壁によって分離されており、
前記第一培養チャンバ及び前記第二培養チャンバの高さは、前記隔壁の高さよりも低いことを特徴とする、細胞培養チップ。
【請求項2】
前記隔壁は、底面の高さ位置が場所によって変化する切り欠き部を備えることを特徴とする、請求項1に記載の細胞培養チップ。
【請求項3】
請求項1に記載の細胞培養チップを用いた細胞培養方法であって、
前記第一培養チャンバ内及び前記第二培養チャンバ内で、それぞれ独立に細胞を培養する工程(a)と、
前記第一培養チャンバを介して培養液を流入して、前記第一ウェル内に貯留される第一液体の液面の高さ位置を上昇させる工程(b)とを有し、
前記工程(b)において、前記第一液体が前記隔壁、前記第二ウェルを介して前記第二培養チャンバ内に流入するように、前記培養液の流入量を調整することを特徴とする、細胞培養方法。
【請求項4】
前記工程(b)は、前記第三ウェルから前記培養液を流入する工程であることを特徴とする、請求項3に記載の細胞培養方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞培養チップに関し、特に複数の細胞を独立して培養する用途に利用される細胞培養チップに関する。また、本発明は、この細胞培養チップを用いた細胞培養方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、多数の細胞を同時に培養することを目的として、複数のウェルを備えた細胞培養チップが知られている。このような細胞培養チップは、「マルチウェル型」の培養チップと呼ばれることがある。従来のマルチウェル型の細胞培養チップの構造を、図10及び図11に示す。図10は斜視図に対応し、図11は断面図に対応する。
【0003】
図10に図示される細胞培養チップ100は、6つの同形状のウェル110を備える。より詳細には、細胞培養チップ100は、貫通孔を有する上部トレイ120と、上部トレイ120に接触して配置された下部トレイ130を備え、下部トレイ130の面と上部トレイ120の貫通孔とによってウェル110が形成されている。
【0004】
図11に図示されるように、細胞140が各ウェル110の底面に配置され、培養液150が細胞140を覆うように添加される。
【0005】
しかし、図10に示される細胞培養チップ100の構成では、各ウェル110が独立しているため、各ウェル110に配置された細胞140同士の相互作用を検査する目的に利用することができない。かかる観点から、例えば下記特許文献1には、異なるウェルに収容される培養液(培地)を共通化させることのできる細胞培養チップが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2007-510429号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
図12及び図13は、特許文献1に開示されたマルチウェル型の細胞培養チップの構造例である。図12は斜視図に対応し、図13は断面図に対応する。
【0008】
図12に示すマルチウェル型の細胞培養チップ200は、本体205と、本体205の上面210に配置された外壁215を有する。本体205の上面210の所定の箇所には、6つの凹部が設けられており、これによってウェル220が形成されている。
【0009】
細胞を培養する際には、細胞140を各ウェル220の底面に配置し、細胞140を覆うように培養液150を添加する。ここで、図13に図示されるように、培養液150の液面が各ウェル220の上面を超える位置になるまで、培養液150を細胞培養チップ200に対して供給する。このとき、培養液150を介して、各ウェル220が連絡される。このため、あるウェル220内で培養された細胞140から放出された生理活性物質が、他のウェル220内で培養された別の細胞140に対して及ぼす影響を観察することができる。
【0010】
ところで、本発明者らは、より生体内に近い環境を模擬してES/iPS細胞の機能・作用を研究している。かかる研究の過程で、生体内に近い環境を模擬することを検討した場合、ある細胞Aと別の細胞Bとを同時に培養しておき、細胞Bから放出された生理活性物質Xbが細胞Aに与える影響を排除した状態で、細胞Aから放出された生理活性物質Xaが細胞Bに与える影響を観察する必要性が存在することを見出した。
【0011】
しかし、図12及び図13に示される細胞培養チップ200の場合、全てのウェル220で培養された各細胞140間の相互作用を観察することはできるものの、特定のある細胞から、別の特定のある細胞に対する影響を観察する用途には用いることができない。
【0012】
別の方法として、ポンプなどの駆動機構を用いて培養液を一方向に強制的に流しながら細胞を培養する方法が考えられる。しかし、細胞を培養する際に、ポンプなどの駆動機構を用いると、チップのサイズが極めて大型化する上、電源の取り回しなどが複雑化するという課題が存在する。チップのサイズを小型化できれば、同一の面積内で多数の細胞が培養できるため、研究の効率化が極めて向上する。
【0013】
本発明は、上記の課題に鑑み、駆動機構を別途用いることなく、方向性を有した状態で細胞同士の相互作用の観察が可能な、細胞培養チップ及び細胞培養方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明に係る細胞培養チップは、
細胞の培養が可能な第一培養チャンバと、
前記第一培養チャンバとは離間した位置に配置され、前記第一培養チャンバに対して独立して細胞の培養が可能な第二培養チャンバと、
前記第一培養チャンバに連結され、液体の貯留が可能な第一ウェルと、
前記第二培養チャンバに連結され、液体の貯留が可能な第二ウェルと、
前記第一ウェルに貯留された第一液体の液面が所定の高さ位置以上になると、前記第一ウェルから前記第二ウェルに前記第一液体を流入させる連結部とを備えたことを特徴とする。
【0015】
前記細胞培養チップによれば、培養液の溶液量を制御するのみで、第一ウェルから第二ウェルに対して第一液体を流入させることができる。この第一液体は、第一培養チャンバに連結された第一ウェルに貯留されていたため、第一培養チャンバ内で培養されていた細胞(以下、「第一細胞」と呼ぶ。)から放出された生理活性物質(以下、「第一生理活性物質」と呼ぶ。)が含まれる。よって、この第一液体が、第二ウェルを介して第二培養チャンバに流入されることで、第一液体に含まれる第一生理活性物質が、第二培養チャンバ内で培養されている細胞(以下、「第二細胞」と呼ぶ。)に接触する。この結果、第一生理活性物質が第二細胞に対して及ぼす影響を観察することができる。
【0016】
一方で、前記細胞培養チップによれば、第二培養チャンバに接触している培養液が第一培養チャンバ側に流入することがない。この結果、第二細胞から放出された生理活性物質(以下、「第二生理活性物質」と呼ぶ。)が、第一細胞に対して影響を作用させることが回避できる。
【0017】
また、前記細胞培養チップによれば、単に培養液の供給量を調整するのみで、第一生理活性物質を第二細胞に接触させることができるため、ポンプなどの駆動機構を別途設ける必要がない。この結果、細胞培養チップのサイズの小型化が実現される。
【0018】
前記細胞培養チップにおいて、
前記第一ウェルと前記第二ウェルとは、隔壁を介して隣接されており、
前記連結部が前記隔壁で構成されているものとしても構わない。
【0019】
この場合において、前記隔壁は、底面の高さ位置が場所によって変化する切り欠き部を備えるものとしても構わない。
【0020】
上記の構成によれば、切り欠き部の形状に応じて第一液体が第二ウェル内に流入する速度や、第一液体を第二ウェル内に流入させるために供給する培養液の量を自在に調整することができる。
【0021】
前記細胞培養チップにおいて、
前記第一ウェルと前記第二ウェルとは、樋状流路を介して隣接されており、
前記連結部が前記樋状流路で構成されているものとしても構わない。
【0022】
前記細胞培養チップにおいて
前記第一ウェルの底面と、前記第一培養チャンバの底面とが共通の面で構成され、
前記第一培養チャンバの鉛直方向に係る長さは、前記第一ウェルの底面から前記所定の高さ位置までの長さよりも短いものとしても構わない。
【0023】
かかる構成によれば、第一ウェルの底面と第一培養チャンバの底面とが共通化されるため、簡易な方法で細胞培養チップを製造することができる。
【0024】
前記細胞培養チップは、
前記第一培養チャンバに対して、前記第一ウェルとは反対側の位置で連結された第三ウェルと、
前記第二培養チャンバに対して、前記第二ウェルとは反対側の位置で連結された第四ウェルとを備えるものとしても構わない。
【0025】
上記の構成によれば、第三ウェル側から培養液を流入させることで、第一ウェル内に貯留された第一液体が第二ウェル側へと押し出される。また、第二培養チャンバを通流した液体を、第四ウェル側から取り出すことができる。
【0026】
なお、上記構成において、前記第一ウェルの底面と、前記第一培養チャンバの底面と、前記第三ウェルの底面と、記第二ウェルの底面と、前記第二培養チャンバの底面と、前記第四ウェルの底面とが、全て共通の面で構成されているものとしても構わない。
【0027】
本発明に係る細胞培養方法は、
前記第一培養チャンバ内及び前記第二培養チャンバ内で、それぞれ独立に細胞を培養する工程(a)と、
前記第一培養チャンバを介して培養液を流入して、前記第一ウェル内に貯留される前記第一液体の液面の高さ位置を上昇させる工程(b)とを有し、
前記工程(b)において、前記第一液体が前記連結部、前記第二ウェルを介して前記第二培養チャンバ内に流入するように、前記培養液の流入量を調整することを特徴とする。
【0028】
前記細胞培養方法において、
前記細胞培養チップは、前記第一培養チャンバに対して、前記第一ウェルとは反対側の位置で連結された第三ウェルを備え、
前記工程(b)は、前記第三ウェルから前記培養液を流入する工程であるものとしても構わない。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、駆動機構を別途用いることなく、方向性を有した状態で細胞同士の相互作用の観察が可能な、細胞培養チップ及び細胞培養方法が実現される。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1】細胞培養チップの一実施形態の構造を示す写真である。
図2図1に示された細胞培養チップの構造を模式的に示す平面図である。
図3図2内のX1-X1線断面図である。
図4図2内のX2-X2線断面図である。
図5図2内のX3-X3線断面図である。
図6】第一ウェルと第二ウェルの部分を図示した模式的な斜視図である。
図7図6において、隔壁を第一ウェルから第二ウェルに向かう方向に見たときの模式的な平面図である。
図8A】細胞培養チップの使用方法を模式的に示す工程図である。
図8B】細胞培養チップの使用方法を模式的に示す工程図である。
図9】細胞培養チップの別実施形態の構造を模式的に示す斜視図である。
図10】従来のマルチウェル型の細胞培養チップの構造の一例を模式的に示す斜視図である。
図11図10に図示された細胞培養チップの構造を模式的に示す断面図である。
図12】従来のマルチウェル型の細胞培養チップの構造の一例を模式的に示す斜視図である。
図13図12に図示された細胞培養チップの構造を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
本発明に係る細胞培養チップ及び細胞培養方法につき、図面を参照して説明する。なお、以下の各図面はあくまで模式的に図示されたものである。すなわち、図面上の寸法比と実際の寸法比とは必ずしも一致しておらず、また、各図面間においても寸法比は必ずしも一致していない。
【0032】
[構造]
図1は、細胞培養チップの一実施形態の構造を示す写真である。図2は、図1に示された細胞培養チップ1の構造を模式的に示す平面図である。図3は、図2内のX1-X1線で細胞培養チップ1を切断したときの模式的な断面図である。図4は、図2内のX2-X2線で細胞培養チップ1を切断したときの模式的な断面図である。図5は、図2内のX3-X3線で細胞培養チップ1を切断したときの模式的な断面図である。
【0033】
図1図5に図示された細胞培養チップ1は、第一培養チャンバ11、第二培養チャンバ12、第一ウェル21、第二ウェル22、第三ウェル23、及び第四ウェル24を備える。第一培養チャンバ11、第二培養チャンバ12、第一ウェル21、第二ウェル22、第三ウェル23、及び第四ウェル24は、いずれも周囲が壁部によって覆われた筒状又は管状の空間を構成する。第一培養チャンバ11及び第二培養チャンバ12は、細胞を培養する空間を構成する。
【0034】
本実施形態において、細胞培養チップ1は、底部3と本体5とを備える。本体5は、4つの貫通孔を有しており、この貫通孔の一方の面が底部3と接触することで、各ウェル(21~24)が形成されている。また、本体5は、底部3側の面に、一対の細管状の凹部を有しており、この凹部と底部3との間の領域によって各培養チャンバ(11,12)が形成されている。
【0035】
第一培養チャンバ11は、一方の端部が第三ウェル23に連結され、他方の端部が第一ウェル21に連結されている。第二培養チャンバ12は、一方の端部が第二ウェル22に連結され、他方の端部が第四ウェル24に連結されている。
【0036】
図1図4に示すように、第一培養チャンバ11と第二培養チャンバ12とは離間した位置に配置されている。また、第一ウェル21と第二ウェル22との間には隔壁6が形成されている。本実施形態では、この隔壁6が「連結部」を構成する。一方、図5に示すように、第三ウェル23と第四ウェル24とは本体5の壁によって完全に分離されている。
【0037】
図6は、細胞培養チップ1から第一ウェル21と第二ウェル22の部分のみを抽出して図示した模式的な斜視図である。第一ウェル21と第二ウェル22との間には隔壁6が施されている。本実施形態において、隔壁6は、位置に応じて高さの異なる切り欠き部6aを有する。図7は、隔壁6を、第一ウェル21から第二ウェル22に向かう方向に見たときの模式的な平面図である。
【0038】
第一培養チャンバ11の高さh11は、隔壁6の高さh6よりも低い。また、第一ウェル21の高さh21は、隔壁6の高さh6よりも高い。
【0039】
寸法の一例は以下の通りである。底部3の高さ(厚み)w3は約1mmであり、好ましくは100μm以上、2mm以下である。第一ウェル21の高さh21、第二ウェル22の高さh22、第三ウェル23の高さh23、及び第四ウェル24の高さh24は、いずれも約5mmである。第一培養チャンバ11の高さh11、及び第二培養チャンバ12の高さh12は、いずれも約400μmである。隔壁6の高さh6は約3mmである。第一ウェル21、第二ウェル22、第三ウェル23、及び第四ウェル24の、底部3の面に平行な方向に係る面(開口面)の大きさは、約3.5mm□である。第三ウェル23の第一ウェル21とは反対側に係る端面23aから、第一ウェル21の第三ウェル23とは反対側に係る端面21aまでの距離は約12.5mmである。第二ウェル22の第四ウェル24とは反対側に係る端面22aから、第四ウェル24の第二ウェル22とは反対側に係る端面24aまでの距離は約12.5mmである。第一培養チャンバ11の長手方向に係る長さt11、及び第二培養チャンバ12の長手方向に係る長さt12は、いずれも約5.5mmである。
【0040】
細胞培養チップ1を構成する底部3及び本体5は、いずれも透明性を有する材料からなるのが好ましい。これにより、第一培養チャンバ11及び第二培養チャンバ12内で培養されている細胞を細胞培養チップ1の外側から視認することができる。加えて、細胞培養チップ1を構成する底部3及び本体5は、射出成形が可能な材料であることが好ましい。
【0041】
[使用方法]
以下、上記の細胞培養チップ1の使用方法の一例について、図8A及び図8Bを参照して説明する。
【0042】
図8A(a)に図示されるように、第三ウェル23側から、所定の細胞41を含む培養液42を流入し、第四ウェル24側から、所定の細胞51を含む培養液52を流入する。なお、細胞51は、細胞41から放出された生理活性物質による影響を評価する対象の細胞とする。一例として、細胞41を肝臓の細胞とし、細胞51を腎臓の細胞とすることができ、また別の一例として、細胞41を心臓の細胞とし、細胞51を腎臓の細胞とすることができる。また、それらの逆も可能である。
【0043】
培養液(42,52)の流入に際しては、例えばマイクロピペットを用いることができる。第三ウェル23側から流入された培養液42は、第一培養チャンバ11を通じて第一ウェル21内に達する。第四ウェル24側から流入された培養液52は、第二培養チャンバ12を通じて第二ウェル22内に達する。
【0044】
このとき、培養液42の流入量は、第一ウェル21内に達したときに隔壁6を乗り越えない範囲内の量とする。同様に、培養液52の流入量は、第二ウェル22内に達したときに隔壁6を乗り越えない程度の量とする。
【0045】
次に、図8A(b)に図示されるように、第一ウェル21内に貯留された培養液42、第二ウェル22内、及び第四ウェル24内に貯留された培養液52を、除去する。培養液(42,52)の除去に際しても、マイクロピペットを用いることができる。その後、第三ウェル23内に貯留された培養液42が、第一ウェル21側へと流れ込み、図8A(c)に図示される状況となる。
【0046】
この工程により、第一培養チャンバ11内に、細胞41を含む培養液42が保持され、第二培養チャンバ12内に、細胞51を含む培養液52が保持される。すなわち、第一培養チャンバ11内で細胞41が培養され、第二培養チャンバ12内で細胞51が培養される環境が形成される。この工程が工程(a)に対応する。
【0047】
この状態で所定の時間を保持することで、第一培養チャンバ11内で培養された細胞41が、培養液42内に生理活性物質を放出する。ここでいう生理活性物質とは、例えば内分泌作用を示すサイトカイン、ホルモン、脂質、細胞外基質、マイクロRNA、エクソソーム、栄養素、又は、薬剤などが挙げられる。なお、必要に応じて、第一ウェル21内に貯留された培養液42が隔壁6を乗り超えない範囲内の量の培養液42を、第三ウェル23側から追加的に流入させても構わない。
【0048】
所定時間が経過した後、第三ウェル23側から培養液43を流入させる(図8B(a))。培養液43は培養液42と同一の材料であっても構わないし、細胞41に対する影響が生じない範囲において培養液42と異なる材料であっても構わない。培養液42が「第一液体」に対応する。これにより、第一ウェル21内に貯留されていた培養液42の液面が上昇する。培養液43は、培養液42が隔壁6を乗り越えられる程度の量だけ流入される。この結果、細胞41から放出された生理活性物質を含む培養液42が、第二ウェル22を介して第二培養チャンバ12へと供給される(図8B(b)、図8B(c))。この工程が工程(b)に対応する。
【0049】
そして、図8B(c)の状態で所定時間待機する。これにより、細胞41から放出された生理活性物質が、第二培養チャンバ12内で培養されていた細胞51に接触された状態で一定時間保持されるため、細胞41から放出された生理活性物質の細胞51に対する影響の有無及びその態様を評価することができる。
【0050】
以上のように、細胞培養チップ1によれば、第三ウェル23側から流入させる培養液43の供給量を調整するのみで、細胞41から放出された生理活性物質を細胞51に接触させることができるため、ポンプなどの駆動機構を別途設ける必要がない。また、細胞51から放出された生理活性物質が細胞41に対して作用することがないため、細胞41から放出された生理活性物質の細胞51に対して与える影響を、より正しく評価することが可能となる。
【0051】
[別実施形態]
以下、別実施形態につき説明する。
【0052】
〈1〉上記実施形態の細胞培養チップ1は、第一ウェル21と第二ウェル22との間が隔壁6によって隔てられており、培養液42の液面が隔壁6の高さを乗り越えることで、培養液42が第一ウェル21から第二ウェル22側へ流入する構成であった。しかし、細胞培養チップ1はこのような形態に限定されない。すなわち、細胞培養チップ1は、隔壁6に限らず、培養液42の液面が所定の高さを超えると初めて第一ウェル21から第二ウェル22へと培養液42を流入させる連結部を備える構成であればよい。
【0053】
一例として、図9に模式的に図示されるように、細胞培養チップ1は、第一ウェル21と第二ウェル22とを連結する樋状流路7を備える構成とすることもできる。この樋状流路7は、第一ウェル21内に貯留される培養液42の液面が樋状流路7の高さh7を超えると初めて、培養液42を第二ウェル22側へと導く。かかる構成によっても、第三ウェル23側から流入させる培養液43の供給量を調整するのみで、細胞41から放出された生理活性物質を細胞51に接触させることができる。
【0054】
なお、その他の例として、細胞培養チップ1は、第一ウェル21と第二ウェル22とを連結するチューブ状流路を備えるものとしても構わない。
【0055】
〈2〉細胞培養チップ1は、第一培養チャンバ11に対して培養液42(43)を注入することができればよく、この限りにおいて第三ウェル23を必ずしも備えなくても構わない。同様に、細胞培養チップ1は、必ずしも第四ウェル24を備えなくても構わない。
【0056】
〈3〉上記実施形態では、細胞培養チップ1が2つの培養チャンバ(11,12)を備える場合について説明した。しかし、細胞培養チップ1は、直列に接続された3つ以上の培養チャンバを備えるものとしても構わない。
【0057】
〈4〉上記実施形態では、各ウェル(21,22,23,24)及び各培養チャンバ(11,12)が、底部3の上面を共通の底面である場合について説明した。しかし、この態様は一例である。ただし、細胞培養チップ1の製造工程を容易化すると共に、細胞培養チップ1のサイズを極めて小型化することができるという点において、各ウェル(21,22,23,24)及び各培養チャンバ(11,12)の底面が共通化されるのが好ましい。
【0058】
〈5〉上記実施形態では、隔壁6が切り欠き部6aを有する形状を示す場合について説明した。しかし、細胞培養チップ1が隔壁6を備える場合において、隔壁6の高さが第一ウェル21の他の壁面の高さよりも低く構成されていれば、必ずしも隔壁6が切り欠き部6aを備えない形状であっても構わない。なお、切り欠き部6aを有した隔壁6を備える場合には、切り欠き部6aの形状や高さ位置によって培養液42を第二培養チャンバ12側へ流入させる速度を適宜調整することができる。
【符号の説明】
【0059】
1 : 細胞培養チップ
3 : 底部
5 : 本体
6 : 隔壁
6a : 隔壁の切り欠き部
7 : 樋状流路
11 : 第一培養チャンバ
12 : 第二培養チャンバ
21 : 第一ウェル
21a : 第一ウェルの壁面
22 : 第二ウェル
22a : 第二ウェルの壁面
23 : 第三ウェル
23a : 第三ウェルの壁面
24 : 第四ウェル
24a : 第四ウェルの壁面
41 : 細胞
42,43 : 培養液
51 : 細胞
52 : 培養液
100 : 従来の細胞培養チップ
110 : ウェル
120 : 上部トレイ
130 : 下部トレイ
140 : 細胞
150 : 培養液
200 : 従来の細胞培養チップ
205 : 本体
210 : 本体の上面
215 : 外壁
220 : ウェル
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8A
図8B
図9
図10
図11
図12
図13