(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-08
(45)【発行日】2023-02-16
(54)【発明の名称】ロータリピストンエンジン
(51)【国際特許分類】
F02B 53/06 20060101AFI20230209BHJP
F02B 53/04 20060101ALI20230209BHJP
F02B 53/12 20060101ALI20230209BHJP
【FI】
F02B53/06 A
F02B53/04 F
F02B53/12 E
F02B53/04 W
(21)【出願番号】P 2018223625
(22)【出願日】2018-11-29
【審査請求日】2021-07-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100089004
【氏名又は名称】岡村 俊雄
(72)【発明者】
【氏名】松岡 敦生
【審査官】中田 善邦
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-116493(JP,A)
【文献】特開2008-138629(JP,A)
【文献】特開2013-050040(JP,A)
【文献】特開平04-203322(JP,A)
【文献】特開昭62-203925(JP,A)
【文献】特開昭52-004914(JP,A)
【文献】実開昭55-083531(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02B 53/00- 53/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
クランク軸回りに回転可能なロータと、このロータの外周を囲むロータハウジングと、前記ロータの前記クランク軸方向両側に配設され且つ前記ロータ及びロータハウジングと協働して作動室を形成する1対のサイドハウジングとを備えたロータリピストンエンジンにおいて、
前記1対のサイドハウジングのうち一方のサイドハウジングに形成された第1吸気ポートと、
前記一方のサイドハウジングに形成され且つ前記第1吸気ポートよりもリーディング側に配置されて閉口時期が遅い第2吸気ポートと、
前記第1吸気ポートを開閉制御可能な第1制御弁とを有し、
低負荷運転領域において前記第1制御弁が閉弁状態に保持されることを特徴とするロータリピストンエンジン。
【請求項2】
圧縮上死点近傍タイミングで点火可能なリーディング側点火手段及び前記リーディング側点火手段よりも遅れて点火可能なトレーリング側点火手段を設けたことを特徴とする請求項1に記載のロータリピストンエンジン。
【請求項3】
前記第1制御弁が、高負荷運転領域において開作動することを特徴とする請求項1又は2に記載のロータリピストンエンジン。
【請求項4】
前記第1制御弁が閉弁状態のとき
、吸気作動室のトレーリング側領域の排気ガス量がリーディング側領域の排気ガス量よりも多くなるように構成されたことを特徴とする請求項2に記載のロータリピストンエンジン。
【請求項5】
前記第2吸気ポートを開閉制御可能な第2制御弁を有し、
前記第2制御弁が、低回転高負荷運転領域において閉弁状態に保持されると共に低負荷運転領域と高回転高負荷運転領域において開弁状態に保持されることを特徴とする請求項4に記載のロータリピストンエンジン。
【請求項6】
前記ロータハウジングに形成された排気ポートと、
前記排気ポートと前記第1吸気ポートとを連通する連通通路とを有し、
前記連通通路が、前記第1制御弁よりも下流側位置に接続されたことを特徴とする請求項5に記載のロータリピストンエンジン。
【請求項7】
前記クランク軸方向に並んだ第1,第2ロータと、
第1,第2ロータの間に配設された前記サイドハウジングとしての中間ハウジングと、
前記第1ロータを挟んで前記中間ハウジングと対向する第1サイドハウジングと、
前記第2ロータを挟んで前記中間ハウジングと対向する第2サイドハウジングと、
前記クランク軸直交断面における短軸方向において前記第1,第2吸気ポートと同じ側に設けられた排気ポートとを有し、
前記第1ロータの第1,第2吸気ポートが前記第1サイドハウジングに形成され、
前記第1ロータの排気ポート及び前記第2ロータの第1,第2吸気ポートが前記中間ハウジングに形成され、
前記第2ロータの排気ポートが前記第2サイドハウジングに形成されたことを特徴とする請求項1に記載のロータリピストンエンジン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロータリピストンエンジンに関し、特に、一方のサイドハウジングに第1吸気ポートと、この第1吸気ポートよりもリーディング側に配置されて閉口時期が遅い第2吸気ポートとが形成されたロータリピストンエンジンに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、一方のサイドハウジングに形成された第1吸気ポート(プライマリポートともいう)と、この第1吸気ポートのリーディング側領域に形成されて閉口時期が遅い第2吸気ポート(セカンダリポートともいう)とを備えたロータリピストンエンジン(以下、ロータリエンジンと略す)は知られている(特許文献1)。
ロータリエンジンの吸気遅閉じ機構(ミラーサイクル)は、吸気行程である作動室(以下、吸気作動室という)の吸気負圧を抑えるポンピングロス低減機能と、圧縮行程である作動室(以下、圧縮作動室という)の圧縮圧力の低下によるポンピングロス低減機能とを発揮することによって燃費の改善を図っている。
【0003】
このような吸気遅閉じ機構は、圧縮行程であっても遅閉じポートである第2吸気ポートが閉じるまでの間に断熱圧縮が開始されないことから、圧縮上死点における吸気温度(圧縮作動室温度)が低くなり、アイドル運転領域や低負荷運転領域等の燃焼安定性が低下することが懸念される。
【0004】
一方、ロータハウジングに排気ポートが形成されたペリフェラル排気ポート構造では、作動室が排気行程である作動室(以下、排気作動室という)から吸気作動室に変移する際、プライマリポートであるサイド吸気ポートとトレーリング側に位置するペリフェラル排気ポートとのオーバーラップ期間が生じる。
それ故、ロータハウジングの内周面とロータのフランク面との隙間を介して排気ガスの一部がダイリューションガスとして吸気作動室に持ち込まれる現象が生じることから、ペリフェラル排気ポート構造のロータリエンジンが吸気遅閉じ機構を装備した場合、ダイリューションガスの持ち込みにより更に燃焼安定性が低下する虞がある。
そこで、吸気ポートと排気ポートのオーバーラップ期間を解消するため、クランク軸直交断面におけるサイドハウジングの短軸方向一方側において第1,第2吸気ポートと同じサイドハウジングの短軸方向一方側に排気ポートを形成するサイド排気ポート構造が採用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前述したサイド吸気ポートとサイド排気ポートとを採用したロータリエンジンでは、見かけ上、両ポートのオーバーラップ期間を解消することができるものの、吸気作動室に持ち込まれるダイリューションガスの影響を十分には排除することができない虞がある。
即ち、排気作動室から吸気作動室に変移する際にロータハウジングの内周面とロータのフランク面との間に形成されたデッドボリュームに滞留した状態で吸気作動室に持ち込まれる残留排気ガスと、ロータ側面のサイドシールが吸気ポートと排気ポートとを同時に跨いだ際にサイドシールとオイルシールの間の隙間を介して吸気作動室に流入する吹抜排気ガスとが存在するため、吸気作動室内に存在するダイリューションガスを完全に解消することは現実的に困難である。
【0007】
そこで、本発明者は、ロータリエンジンの各サイクル行程における作動室の内部状態を解明するため、CAE(Computer Aided Engineering)による解析を行った。
この解析は、第1吸気ポートと、この第1吸気ポートのリーディング側領域に形成されて閉口時期が遅い第2吸気ポートと、排気ポートとが一方のサイドハウジングの短軸方向一方側に配置され、リーディング側点火プラグとトレーリング側点火プラグがロータハウジングの短軸方向他方側の圧縮上死点近傍位置に夫々配置されたロータリエンジンを対象としている。また、第1吸気ポートは全運転領域で吸気するものとし、第2吸気ポートは低回転運転領域(低速運転領域)で吸気が制限される仕様とした。
【0008】
次に、CAEによる解析結果について説明する。
図11は、クランク軸方向一端側から視て、低回転運転領域で且つエキセン角831°における吸気作動室R1、圧縮作動室R2及び排気作動室R3の内部状態を示し、温度が高い程高い濃度で表示している。
図11に示すように、吸気作動室R1には、リーディング側領域に高温のダイリューションガスが主に存在し、トレーリング側領域に燃料を含む低温の混合気が主に存在している。この偏在傾向は、次行程に変移した圧縮作動室R2においても維持されている。
以上により、吸気作動室R1では、第1吸気ポートから導入された吸気が作動室R1内に存在するダイリューションガスを押圧してリーディング側領域に強制的に移動させていること、圧縮作動室R2では、作動室R2のリーディング側領域に偏在するダイリューションガスがリーディング側点火プラグの周囲に存在して覆っていることが知見された。
【0009】
ところで、ダイリューションガスの一部を構成する吹抜排気ガスを対策するため、排気ポートを第1,第2吸気ポートが形成された一方のサイドハウジングとは異なる反対側のサイドハウジングに形成することも考えられる。
しかし、上記構成を採用した場合、サイドシールとオイルシールの間の隙間を介して吸気作動室に流入する吹抜排気ガスを低減することは可能であるものの、作動室の構造上、ロータハウジングの内周面とロータのフランク面との間のデッドボリュームに滞留する残留排気ガスが依然として吸気作動室に持ち込まれるため、ダイリューションガスが吸気作動室のリーディング側領域に偏在する現象は避けることが難しく、車両始動時の着火性や火炎伝播性を阻害する虞がある。
それ故、吸気遅閉じ機構を備えたロータリエンジンにおいて、燃焼安定性の確保は容易ではない。
【0010】
本発明の目的は、燃費改善を図りつつ低負荷運転領域等の燃焼安定性を向上可能なロータリピストンエンジンを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
請求項1のロータリピストンエンジンは、クランク軸回りに回転可能なロータと、このロータの外周を囲むロータハウジングと、前記ロータの前記クランク軸方向両側に配設され且つ前記ロータ及びロータハウジングと協働して作動室を形成する1対のサイドハウジングとを備えたロータリピストンエンジンにおいて、前記1対のサイドハウジングのうち一方のサイドハウジングに形成された第1吸気ポートと、前記一方のサイドハウジングに形成され且つ前記第1吸気ポートよりもリーディング側に配置されて閉口時期が遅い第2吸気ポートと、前記第1吸気ポートを開閉制御可能な第1制御弁とを有し、低負荷運転領域において前記第1制御弁が閉弁状態に保持されることを特徴としている。
【0012】
このロータリピストンエンジンでは、前記1対のサイドハウジングのうち一方のサイドハウジングに形成された第1吸気ポートと、前記一方のサイドハウジングに形成され且つ前記第1吸気ポートよりもリーディング側に配置されて閉口時期が遅い第2吸気ポートとを有するため、簡単な構成で吸気遅閉じ機構を構成でき、燃費を向上することができる。
前記第1吸気ポートを開閉制御可能な第1制御弁を有し、低負荷運転領域において前記第1制御弁が閉弁状態に保持されるため、低負荷運転時、吸気作動室のリーディング側領域に第2吸気ポートから吸気を導入することができ、この導入した吸気を用いてリーディング側領域に偏在するダイリューションガスをトレーリング側領域に移動させることができる。これにより、アイドル運転領域や低負荷運転領域等の燃焼安定性を向上している。
【0013】
請求項2の発明は、請求項1の発明において、圧縮上死点近傍タイミングで点火可能なリーディング側点火手段及び前記リーディング側点火手段よりも遅れて点火可能なトレーリング側点火手段を設けたことを特徴としている。
この構成によれば、主燃焼を実行するリーディング側点火手段の周りに燃料を含む混合気を集めることができ、点火後の火炎伝播性を確保することができる。
また、ダイリューションガスを用いて副燃焼を実行するトレーリング側点火手段の周りの雰囲気温度を上昇させることができ、膨張作動室内の未燃ガスを低減することができる。
【0014】
請求項3の発明は、請求項1又は2の発明において、前記第1制御弁が、高負荷運転領域において開作動することを特徴としている。
この構成によれば、高負荷運転領域において吸気を増加でき高出力を確保することができる。
【0015】
請求項4の発明は、請求項2の発明において、前記第1制御弁が閉弁状態のとき、吸気作動室のトレーリング側領域の排気ガス量がリーディング側領域の排気ガス量よりも多くなるように構成されたことを特徴としている。
この構成によれば、吸気作動室内のダイリューションガスをトレーリング側領域に確実に偏在させることができる。
【0016】
請求項5の発明は、請求項4の発明において、前記第2吸気ポートを開閉制御可能な第2制御弁を有し、前記第2制御弁が、低回転高負荷運転領域において閉弁状態に保持されると共に低負荷運転領域と高回転高負荷運転領域において開弁状態に保持されることを特徴としている。
この構成によれば、第2吸気ポートを主吸気ポートにすることにより、広範囲の運転領域においてダイリューションガスをトレーリング側領域に移動させることができる。
【0017】
請求項6の発明は、請求項5の発明において、前記ロータハウジングに形成された排気ポートと、前記排気ポートと前記第1吸気ポートとを連通する連通通路とを有し、前記連通通路が、前記第1制御弁よりも下流側位置に接続されたことを特徴としている。
この構成によれば、外部EGRを吸気作動室のトレーリング側領域に供給することができる。また、ロータハウジングの内周面に溜まった煤を排気ポートから外部に排出することができ、エンジン始動性を向上することができる。
【0018】
請求項7の発明は、請求項1の発明において、前記クランク軸方向に並んだ第1,第2ロータと、第1,第2ロータの間に配設された前記サイドハウジングとしての中間ハウジングと、前記第1ロータを挟んで前記中間ハウジングと対向する第1サイドハウジングと、前記第2ロータを挟んで前記中間ハウジングと対向する第2サイドハウジングと、前記クランク軸直交断面における短軸方向において前記第1,第2吸気ポートと同じ側に設けられた排気ポートとを有し、前記第1ロータの第1,第2吸気ポートが前記第1サイドハウジングに形成され、前記第1ロータの排気ポート及び前記第2ロータの第1,第2吸気ポートが前記中間ハウジングに形成され、前記第2ロータの排気ポートが前記第2サイドハウジングに形成されたことを特徴としている。
この構成によれば、2ロータのロータリピストンエンジンにおいて中間ハウジングの薄肉化とダイリューションガスの低減とを両立することができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明のロータリピストンエンジンによれば、リーディング側領域に偏在するダイリューションガスを防いで燃費改善を図りつつ低負荷運転領域等の燃焼安定性を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】実施例1に係るロータリピストンエンジンの概略構成図である。
【
図5】エキセン角とポートの開口面積との関係を示した図である。
【
図6】第1,第2制御弁の開閉領域を示した作動特性図である。
【
図7】低負荷運転領域における吸気行程前後の作動室の内部状態であって、(a)は排気上死点、(b)はエキセン角630°、(c)はエキセン角810°、(d)はエキセン角1050°における内部状態を示す図である。
【
図8】1次エアと排気の圧力特性を示すグラフである。
【
図9】低負荷運転領域における排気行程前後の作動室の内部状態であって、(a)はエキセン角230°、(b)はエキセン角360°、(c)はエキセン角450°、(d)はエキセン角530°、(e)はエキセン角630°における内部状態を示す図である。
【
図10】EGRバルブの開閉領域を示した作動特性図である。
【
図11】解析結果に係る吸気作動室、圧縮作動室及び排気作動室の内部状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【実施例1】
【0021】
以下、本発明を実施するための形態を図面に基づいて説明する。以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものではない。
【0022】
以下、本発明の実施例1について
図1~
図10に基づいて説明する。
図1は、ロータリピストンエンジン(以下、エンジンと略す)100の全体構成を概略的に示した図であり、
図2は、エンジン100を左方から視たときの概略側面図であり、
図3は、前方から視たときのエンジン100の概略縦断面図である。
尚、後述する第1,第2吸気ポート11a,12aはサイドハウジング6aに形成され、第1排気ポート13aは中間ハウジング6cに形成され、第2排気ポート14aはロータハウジング5aに形成されているが、
図3では、各ポート11a,12a,13a,14aの相対的な開閉時期を明確にするため、各ポート11a,12a,13a,14aを同一平面上に示している。
以下、図において、適宜、矢印F方向を前方とし、矢印L方向を左方とし、矢印U方向を上方として説明する。
【0023】
図1~
図3に示すように、エンジン100は、前後に並ぶ2つの第1,第2ロータ収容室2a,2bを有するエンジン本体1と、各ロータ収容室2a,2bに導入される空気或いは空気と燃料の混合気(以下、吸気という)が流通する吸気通路30と、各ロータ収容室2a,2bから排出される排気ガス(以下、排気という)が流通する排気通路50と、ターボ過給機60と、EGR装置70等を備えている。
このエンジン100は、エンジン本体1を走行用駆動源とした車両に搭載されている。
【0024】
まず、エンジン本体1について説明する。
図3に示すように、エンジン本体1には、各ロータ収容室2a,2bを貫通して前後に延びる出力軸(クランク軸)であるエキセントリックシャフト4が設けられている。
エンジン本体1の各ロータ収容室2a,2bには、ロータ3a,3bが夫々収容されている。各ロータ3a,3bは、側面視にて略三角形状に形成されている。
これらロータ3a,3bは、エキセントリックシャフト4に対して遊星回転運動するように支持され、3つの頂部がロータ収容室2a,2bの内周面に沿って移動するようにエキセントリックシャフト4の周囲を夫々回転している。
第2ロータ収容室2b側の部材構成は、第1ロータ収容室2a側の部材構成と若干の違いを除いて略同様であるため、以下、特段の説明がない限り、第1ロータ収容室2a側の部材構成について主に説明する。
【0025】
ロータ3aの各頂部には、前後に延びるアペックスシール7が夫々取り付けられ、各アペックスシール7の前後両端部には、略円柱状のコーナーシール8が設けられている。
このロータ3aの前後両側面には、隣り合うコーナーシール8同士をロータ3aの外周縁と略平行に連結するサイドシール9と、これらサイドシール9よりもロータ3aの径方向内側にロータ3aの中心を中心とした円環状の大小2本のオイルシール10が設けられている。
【0026】
図4は、エンジン本体1のクランク軸平行方向の概略横断面図である。
説明の便宜上、
図4は、正確な断面図ではなく、各ポート11a,11b,12a,12b,13a,13b,14a,14b等を模式的に同一平面上に示している。
図2,
図4に示すように、エンジン本体1は、ロータ3a,3bの外周を夫々囲繞するロータハウジング5a,5bと、ロータ3aの前方及びロータ3bの後方に夫々設けられたサイドハウジング6a,6bと、ロータ3aとロータ3bとの間に介装された中間ハウジング(インターミディエイトハウジングともいう)6c等を備えている。
第1,第2ロータ収容室2a,2bは、ロータハウジング5a,5bと、サイドハウジング6a,6bと、中間ハウジング6cによって区画されている。
尚、中間ハウジング6cは、ロータ3aに対して後側のサイドハウジングに相当し、ロータ3bに対して前側のサイドハウジングに相当している。
【0027】
第1,第2ロータハウジング5a,5bの内周面は、平行トロコイド曲線に沿って延び、第1,第2ロータ収容室2a,2bは、車両走行中、ロータ3a,3bによって3つの作動室に夫々区画されている。このようなエンジン100では、ロータ3a,3bの回転に伴い3つの作動室がエキセントリックシャフト4の回りに変移し、各作動室にて吸気、圧縮、膨張(燃焼)及び排気の4サイクルの各行程が行われている。
1サイクルの各行程は、エキセントリックシャフト4が270°回転する期間において実施される。
【0028】
各ロータ3a,3bは、エキセントリックシャフト4の回転角度(以下、エキセン角という)において互いに180°の位相差で回転しているため、ロータ収容室2a,2bは、エキセン角において180°ずれて吸気、圧縮、膨張及び排気の各行程が夫々行われる。
図3の矢印で示すように、ロータ3aは、時計回りに回転し、左上側領域において概ね吸気行程が行われ、右上側領域において概ね圧縮行程が行われ、右下側領域において概ね膨張行程が行われ、左下側領域において概ね排気行程が行われている。
【0029】
図3に示すように、ロータハウジング5aには、右側側壁部の圧縮上死点近傍位置に配置されたリーディング側点火プラグ(以下、L側プラグという)21a(リーディング側点火手段)と、このL側プラグ21aよりもトレーリング側位置に配置されたトレーリング側点火プラグ(以下、T側プラグという)21b(トレーリング側点火手段)とが夫々装着されている。
【0030】
次に、第1,第2吸気ポート11a,12aについて説明する。
図1,
図3,
図4に示すように、第1,第2吸気ポート11a,12aは、サイドハウジング6aの左側上方領域にサイド吸気ポートとして構成されている。
これら第1,第2吸気ポート11a,12aは、ロータ3aの回転方向に沿って隣り合うように近接配置され、吸気行程において左側下方の第1吸気ポート11aが右側上方の第2吸気ポート12aよりも早期に閉口するように形成されている。
これにより、第2吸気ポート12aによって吸気遅閉じ機構を構成し、低負荷運転領域においてポンピングロス低減を図っている。
【0031】
第1吸気ポート11aは、ロータ収容室2aの吸気行程である作動室に対して略三角形状の開口を有し、このポート開口から水平方向左方に向かって略直線状に延びるように形成されている。また、第2吸気ポート12aは、ロータ収容室2aの吸気行程である作動室に対して略菱形状の開口を有し、このポート開口から左側上方に向かって略直線状に延びるように形成されている。
【0032】
図3に示すように、第1吸気ポート11aの軸心L1と第2吸気ポート11bの軸心L2とは、鋭角状に交差すると共に各ポートの上流側程、換言すれば、エキセントリックシャフト4から径方向外側に離隔する程両者の離隔距離が増加するように構成されている。
以下、ロータ収容室2a内に形成された吸気、圧縮、膨張、排気の各行程における作動室について、簡略的に、吸気作動室、圧縮作動室、膨張作動室、排気作動室と夫々表記することとする。
【0033】
図2,
図3に示すように、サイドハウジング6aには、吸気作動室に燃料を供給する第1,第2インジェクタ23a,24aが夫々略同一円周上に設けられている。
第1インジェクタ23aは、第1,第2吸気ポート11a,12aの間に相当する部位において左側上方に傾斜して配置され、その噴口が第1吸気ポート11aのポート開口に指向するようにポート開口の近傍位置に配設されている。
第2インジェクタ24aは、第2吸気ポート12aの右側部位において略鉛直状に配置され、その噴口が第2吸気ポート12aのポート開口に指向するようにポート開口の近傍位置に配設されている。
第1,第2インジェクタ23a,24aは、前後に延びるデリバリパイプ25の先端部に夫々接続され、各ポート開口近傍に形成された取付ボス部に夫々装着されている。
尚、デリバリパイプ25には、燃料タンクから供給通路を介して加圧された燃料が供給されている(何れも図示略)。
【0034】
図5は、エキセン角とポートの開口面積との関係を示した図である。
図5に示すように、第1吸気ポート11aは、排気上死点付近(例えば550°)で吸気作動室に開口し、吸気下死点を僅かに超えた時期(例えば830°)に閉口する。
第2吸気ポート12aは、第1吸気ポート11aと同様に、排気上死点付近で吸気作動室に開口し、吸気下死点よりも遅角側且つ第1吸気ポート11aよりも遅角側時期(例えば910°)に閉口する。
尚、主燃焼を行うL側プラグ21aの点火時期は、例えば、1050°に設定され、副燃焼を行うT側プラグ21bの点火時期は、例えば、1065°に設定されている。
【0035】
ロータ収容室2bに対応した第1,第2吸気ポート11b,12b及び吸気作動室に燃料を供給する第1,第2インジェクタ23b,24bは、中間ハウジング6cに夫々形成されている。これら第1,第2吸気ポート11b,12b、第1,第2インジェクタ23b,24bは、中間ハウジング6cの略同一円周上に形成されていることを除き、第1,第2吸気ポート11a,12a、第1,第2インジェクタ23a,24aと略同様に構成されている。
【0036】
次に、第1,第2排気ポート13a,14aについて説明する。
図1,
図3,
図4に示すように、第1排気ポート13aは、中間ハウジング6cの左側下方領域にサイド排気ポートとして構成されている。この第1排気ポート13aは、ロータ3aに対して第1,第2吸気ポート11b,12bと反対側位置、所謂ロータ3aを挟んで第1,第2吸気ポート11b,12bと千鳥配置になるように配設されている。
第1排気ポート13aは、排気作動室に対して略三角形状の開口を有し、このポート開口から左方に向かって延びるように形成されている。
【0037】
第2排気ポート14aは、ロータハウジング6aの左側下方領域にペリフェラル排気ポートとして構成されている。この第2排気ポート14aは、第1排気ポート13aよりも遅い時期に開口するように形成されている。
第2排気ポート14aは、排気作動室に対して略矩形状の開口を有し、このポート開口から左方に向かって略直線状に延びるように形成されている。
この第2排気ポート14aの前後寸法は、ロータハウジング6aの前後寸法の80%程度に設定されている。これにより、ロータ収容室2aの外周縁付近に溜まった煤を第2排気ポート14aからロータ収容室2aの外に排出している。
【0038】
図5に示すように、第1排気ポート13aは、膨張下死点よりも進角側時期(例えば230°)で排気作動室に開口し、排気上死点付近(例えば530°)に閉口する。
第2排気ポート14aは、膨張下死点付近(例えば270°)で排気作動室に開口し、排気上死点よりも遅角側且つ第1,第2吸気ポート11a,12aの開口時期よりも遅角側時期(例えば630°)に閉口する。
本実施例では、第1排気ポート13aの開口期間と第1,第2吸気ポート11a,12aとの開口期間を重複させることなく、第2排気ポート14aの開口期間と第1,第2吸気ポート11a,12aとの開口期間を重複させている。
これにより、第1,第2吸気ポート11a,12aから流入した吸気によって吸気作動室内の排気(燃焼後の残留ガス)を第2排気ポート14a側に押圧して掃気性を高めている。
【0039】
ロータ収容室2bに対応した第1排気ポート13bは、サイドハウジング6bに形成され、第2排気ポート14bは、ロータハウジング6bに夫々形成されている。
第1排気ポート13bは、サイドハウジング6bに形成されていることを除き、第1排気ポート13aと略同様に構成され、第2排気ポート14bは、ロータハウジング6bに形成されていることを除き、第2排気ポート14aと略同様に構成されている。
【0040】
次に、吸気通路30について説明する。
図1に示すように、吸気通路30は、上流側吸気通路31と、この上流側吸気通路31の下流端に連なる下流側吸気通路32と、通路部33a,33b等を備えている。
上流側吸気通路31には、上流側から順に、エアクリーナ34と、吸入吸気量を計測するエアフローメータ35と、ターボ過給機60のコンプレッサ61と、インタークーラ36と、吸入吸気量を制御するスロットルバルブ37と、サージタンク38等が設けられている。
【0041】
下流側吸気通路32は、上流側部分がサージタンク38内に挿通され、下流側部分が2つの通路部32a,32bに分岐している。
これら通路部32a,32bは、独立してロータ収容室2aの第1吸気ポート11aとロータ収容室2bの第1吸気ポート11bとに夫々接続されている。
通路部33a,33bは、上流側部分がサージタンク38内に挿通され、独立してロータ収容室2aの第2吸気ポート12aとロータ収容室2bの第2吸気ポート12bとに夫々接続されている。
【0042】
下流側吸気通路32及び通路部33a,33bは、サージタンク38を介して上流側吸気通路31の下流端に連通する吸気マニホールドによって構成されている。
通路部32aの下流端に形成されたフランジ部は、サイドハウジング6aの左側縦壁部に締結部材を介して連結され、通路部33aの下流端に形成されたフランジ部は、サイドハウジング6aの左側上部の傾斜壁部に締結部材を介して連結されている。
【0043】
通路部32aのフランジ部と通路部33aのフランジ部との間には取付ボス部が形成され、第1インジェクタ23aが装着されている。通路部33aのフランジ部の右側に形成された取付ボス部には第2インジェクタ24aが装着されている。
同様に、第1インジェクタ23bは、通路部32bのフランジ部と通路部33bのフランジ部との間の取付ボス部に装着され、第2インジェクタ24bは、通路部33bのフランジ部の右側に形成された取付ボス部に装着されている。
これにより、第1,第2吸気ポート11a,12aの開口近傍位置に各々のインジェクタを配設することができ、低速走行時の加速レスポンスの向上を図っている。
また、熱源である第1排気ポート13aに最も近接した第1インジェクタ23bを第1排気ポート13aから第1吸気ポート11bを間に介して離間させることにより、ベーパ等の熱害を回避している。
【0044】
通路部32a,32bとサージタンク38との間に相当する下流側吸気通路32の途中部には、第1吸気ポート11a,11bを開閉制御可能な単一の第1制御弁34が設けられている。通路部33a,33bには、第2吸気ポート12a,12bの近傍に第2吸気ポート12a,12bを開閉制御可能な第2制御弁35a,35bが夫々設けられている。
図6は、各制御弁34,35a,35bの開閉領域を示した作動特性図である。
図6に示すように、設定負荷(例えば200Nm)以下の低負荷運転領域A1では、第1制御弁34が閉弁状態且つ第2制御弁35a,35bが開弁状態とされている。
【0045】
これは、次の理由による。
図7は、低負荷運転領域における吸気行程前後の作動室の内部状態を示す図であり、高温領域程濃い濃度で示している。
図7(a)に示すように、作動室が排気行程から吸気行程に変移する際、ロータハウジング5aの内周面とロータ3aのフランク面との間のデッドボリュームに滞留する残留排気(ダイリューションガス)が吸気作動室に持ち込まれる。
そして、
図7(b)及び
図7(c)に示すように、吸気作動室にリーディング側の第2吸気ポート12aのみから吸気(白矢印)を導入するため、作動室内に存在するダイリューションガスは強制的にリーディング側領域からトレーリング側領域に移動される。
【0046】
最終的に、
図7(d)に示すように、L側プラグ21a近傍に滞在する吸気に点火され、その火炎がダイリューションガスによって昇温されたトレーリング側に伝播する。
また、主燃焼であるL側プラグ21aの点火から遅れてT側プラグ22aが点火される。
これによって、主燃焼で燃え残った未燃ガスを燃焼させる副燃焼が行われる。
即ち、第2吸気ポート12aから導入された吸気を用いて作動室内のダイリューションガスをトレーリング側に移動させることにより、作動室のリーディング側領域を安定燃焼に適した状態にすると共に、作動室のトレーリング側領域を未燃ガス低減処理に適した状態にしている。
【0047】
また、
図6に示すように、低回転運転領域を除く全負荷以下の高負荷運転領域A2では、第1制御弁34及び第2制御弁35a,35bが全て開弁状態とされている。
これにより、吸入吸気量を確保し、エンジン100の出力トルクの確保を図っている。
低回転高負荷運転領域A3では、第1制御弁34が開弁状態且つ第2制御弁35a,35bが閉弁状態とされている。
これにより、低回転高負荷運転の際、遅閉じポートである第2吸気ポート12a,12bに向かって吹き返される排気を低減している。
以上のように、本実施例では、エンジン100の主吸気ポートを、トレーリング側に形成された第1吸気ポート11a,11bではなく、リーディング側に形成された第2吸気ポート12a,12bにより構成している。
【0048】
図1,
図3,
図4に示すように、この吸気通路30には、排気行程から吸気行程へ変移途中の作動室に燃焼用1次エアを供給可能な1次エア供給機構40が形成されている。
1次エア供給機構40は、ロータハウジング5a,5bに夫々形成され且つ排気行程から吸気行程へ変移途中の作動室に夫々開口する供給口41a,41bと、コンプレッサ61とインタークーラ36との間に相当する上流側吸気通路31の途中部と供給口41a,41bとを分岐通路42a,42bを介して夫々連通する供給通路42等を備えている。
供給口41a,41bは、第2排気ポート14a,14bの途中部に夫々形成され、第2排気ポート14a,14bの開口期間と同じ期間作動室に開口している。この供給口41a,41bは、作動室に導入された1次エアの進行方向がリーディング領域に持ち込まれるダイリューションガスの進行を阻止するように夫々構成されている。
【0049】
分岐通路42a,42bの途中部には、開閉弁43a,43b(第1開閉弁)が夫々設けられている。これら開閉弁43a,43bは、1次エアが作動室内圧力(所謂排気圧力)よりも所定圧力(例えば0.03気圧)以上高いとき、作動室内に1次エアの導入を許容する一方弁(逆支弁又はチェックバルブ)によって構成されている。
【0050】
図8に示すように、分岐通路42a,42bを流れる1次エアと作動室内排気の圧力は、中低速走行時において、回転数が高い程線形状に増加する特性を有している。
そして、排気圧力は、1次エア圧力よりも増加率が高いため、3000rpmまでは1次エア圧力が排気圧力よりも高いが、それ以降、排気圧力が1次エア圧力を逆転する。
それ故、これら開閉弁43a,43bは、設定回転数(3000rpm)以下の低回転運転領域で概ね開作動し、上記設定回転数よりも高い高回転運転領域で概ね閉作動する。
これにより、エアフローメータ35によって計測された検出吸入吸気量の一部である1次エアを用いてダイリューションガスのリーディング方向への進行を阻止すると共に、作動室内のダイリューションガスと1次エアとを置換して燃焼安定化を図っている。
【0051】
次に、排気通路50について説明する。
図1に示すように、排気通路50は、2つの第1排気ポート13a,13bに夫々接続された第1排気通路51a,51bと、2つの第2排気ポート14a,14bに分岐通路52a,52bを介して接続された第2排気通路52等を備えている。
ターボ過給機60のタービン62は、第1排気通路51a,51bに夫々接続されている。第2排気通路52は、タービン62を迂回してタービン62よりも下流側の下流側排気通路53の途中部に連通されている。下流側排気通路53の下流側部分には、例えば、三元触媒等の浄化装置54が設けられている。
本実施例のタービン62は、ツインスクロールタービンであり、第1排気ポート13a,13bが第1排気通路51a,51bを夫々介してタービン62の各吸入通路に接続されている。
【0052】
図1,
図3,
図4に示すように、分岐通路52a,52bには、開閉可能な排気開閉弁55a,55b(第2開閉弁)が夫々設けられている。
この排気開閉弁55a,55bは、通常、開弁状態に維持され、排気作動室から第2排気ポート14a,14bを介して下流側に流れる排気ガスを許容し、1次エア供給時、1次エア供給用開閉弁43a,43bの開作動に同期して閉作動するように構成されている。
【0053】
図9は、低負荷運転領域における排気行程前後の作動室の内部状態を示す図であり、高温領域程濃い濃度で示している。
図9(a)に示すように、第1排気ポート13aから排気が排出される排出開始時期では、第2排気ポート14aと作動室は連通されていない。
図9(b)~
図9(d)に示すように、第1排気ポート13aが開口状態において、作動室の変移(ロータ3aの回転)に伴い第2排気ポート14aを介して作動室のリーディング側領域に1次エアが供給されるため、作動室内に存在する残留排気が開口している第1排気ポート13aから強制的に排出され、1次エアと置き換えられる。
尚、排気開閉弁55aは、開閉弁43aが開弁状態のとき、閉弁状態に維持されているため、1次エアは分岐通路52a側には流れない。
図9(e)に示すように、第1排気ポート13aの閉弁時期よりも第2排気ポート14aの閉弁時期が遅いため、1次エアはダイリューションガスと置き換えられた状態で吸気作動室に持ち込まれる。
【0054】
次に、EGR装置70について説明する。
図1に示すように、EGR装置70は、排気の一部を吸気に還流するため、排気通路50と吸気通路30とを連通するEGR通路71と、これを開閉するEGRバルブ72と、排気であるEGRガスを冷却するEGRクーラー73等を備えている。
図10に示すように、EGRバルブ72は、高回転運転領域全域A4と、低中回転中負荷運転領域A5において、EGRガスを作動室に供給するように作動している。
特に、低中回転運転領域では、回転が低い程、低負荷側及び高負荷側のEGRガスの供給領域が狭くなるように設定されている。
【0055】
EGR通路71は、通路部32a,32bよりも上流側で且つ第1制御弁34よりも下流側に相当する第1分岐通路32の途中部と下流側排気通路53とを接続している。
これにより、
図7(b)の黒矢印に示すように、第1制御弁34が閉弁状態である低回転運転時、閉口時期が早くロータ収容室2aから吹き返しが殆ど生じない第1吸気ポート11aから適切な量のEGRガスを作動室に導入している。
また、第2排気通路52の下流端部をEGR通路71の途中部に接続することにより、温度の低いEGRガスを作動室に供給している。
【0056】
第2排気通路52の排気は、温度及び圧力が低いため、EGR通路71の前後差圧を確保することができず、運転条件によっては、作動室にEGRガスを供給できない虞がある。
そこで、EGR通路71と第2排気通路52との合流部と下流側排気通路53との間に排気制御弁74を設けている。
この排気制御弁74は、例えば、エンジン負荷が予め設定されたEGR基準負荷以下のとき、閉弁側に制御され、その開度は吸気圧に応じて設定されている。
尚、排気制御弁74は、排気開閉弁55a,55bが閉弁状態のとき、換言すれば、開閉弁43a,43bが開弁状態のとき、全閉とされている。
吸気が第1分岐通路32から下流側排気通路53に導入されるのを回避するためである。
【0057】
本実施例では、車両にエンジン100の各部を制御可能なECU(図示略)が設置され、このECUによって、インジェクタ23a,23b,24a,24b、第1制御弁34、第2制御弁35a,35b、スロットルバルブ37、排気開閉弁55a,55b、EGRバルブ72、排気制御弁74等が制御されている。
また、ECUは、例えば、エアフローメータ35で計測された吸入吸気量、エンジン100の回転数、及び吸気温度等に基づき吸気作動室の空気充填効率を求め、この空気充填効率から各インジェクタ23a,23b,24a,24bから噴射される燃料噴射量を演算している。
【0058】
次に、上記ロータリピストンエンジン100の作用、効果について説明する。
本実施例1のエンジン100によれば、サイドハウジング6aに形成された第1吸気ポート11aと、サイドハウジング6aに形成され且つ第1吸気ポート11aよりもリーディング側に配置されて閉口時期が遅い第2吸気ポート12aとを有するため、簡単な構成で吸気遅閉じ機構を構成でき、燃費を向上することができる。
第1吸気ポート11aを開閉制御可能な第1制御弁34を有し、低負荷運転領域において第1制御弁34が閉弁状態に保持されるため、低負荷運転時、吸気作動室のリーディング側領域に第2吸気ポート12aから吸気を導入することができ、この導入した吸気を用いてリーディング側領域に偏在するダイリューションガスをトレーリング側領域に移動させることができる。これにより、アイドル運転領域や低負荷運転領域等の燃焼安定性を向上している。
【0059】
圧縮上死点近傍タイミングで点火可能なL側プラグ21a及びこのL側プラグ21aよりも遅れて点火可能なT側プラグ22aを設けたため、主燃焼を実行するL側プラグ21aの周りに燃料を含む混合気を集めることができ、点火後の火炎伝播性を確保することができる。また、ダイリューションガスを用いて副燃焼を実行するT側プラグ22aの周りの雰囲気温度を上昇させることができ、膨張作動室内の未燃ガスを低減することができる。
【0060】
第1制御弁34が、高負荷運転領域において開作動するため、高負荷運転領域において吸気を増加でき高出力を確保することができる。
【0061】
第1制御弁34が閉弁状態のとき、吸気作動室のトレーリング側領域の排気ガス量がリーディング側領域の排気ガス量よりも多くなるように構成されているため、吸気作動室内のダイリューションガスをトレーリング側領域に確実に偏在させることができる。
【0062】
第2吸気ポート12aを開閉制御可能な第2制御弁35aを有し、第2制御弁35aが、低回転高負荷運転領域において閉弁状態に保持されると共に低負荷運転領域と高回転高負荷運転領域において開弁状態に保持されているため、第2吸気ポート12aを主吸気ポートにすることにより、広範囲の運転領域においてダイリューションガスをトレーリング側領域に移動させることができる。
【0063】
ロータハウジング5aに形成された第2排気ポート14aと、第2排気ポート14aと第1吸気ポート11aとを連通するEGR通路71とを有し、EGR通路71が、第1制御弁34よりも下流側位置に接続されたため、外部EGRを吸気作動室のトレーリング側領域に供給することができる。また、ロータハウジング5aの内周面に溜まった煤を第2排気ポート14aから外部に排出することができ、エンジン始動性を向上することができる。
【0064】
前後に並んだ第1,第2ロータ3a,3bと、第1,第2ロータ3a,3bの間に配設された中間ハウジング6cと、第1ロータ3aを挟んで中間ハウジング6cと対向するサイドハウジング6aと、第2ロータ3bを挟んで中間ハウジング6cと対向するサイドハウジング6bと、クランク軸直交断面における短軸方向において第1,第2吸気ポート11a,12aと同じ側に設けられた第1排気ポート13aとを有し、第1ロータ3aの第1,第2吸気ポート11a,12aがサイドハウジング6aに形成され、第1ロータ3aの第1排気ポート13a及び第2ロータ3bの第1,第2吸気ポート11b,12bが中間ハウジング6cに形成され、第2ロータ3bの第1排気ポート13bがサイドハウジング6bに形成されている。この構成によれば、2ロータ3a,3bのエンジン100において中間ハウジング6cの薄肉化とダイリューションガスの低減とを両立することができる。
【0065】
次に、前記実施形態を部分的に変更した変形例について説明する。
1〕前記実施例においては、2ロータのロータリピストンエンジンの例を説明したが、1ロータのロータリピストンエンジンであっても良く、3ロータ以上のロータリピストンエンジンに適用することも可能である。
【0066】
2〕前記実施例においては、第1排気ポートを第1吸気ポートが形成されたサイドハウジングと反対側のサイドハウジングに千鳥状に形成した例を説明したが、第1排気ポートを第1吸気ポートが形成されたサイドハウジングと同じサイドハウジングに形成しても良い。
また、排気ポート構造をサイド排気ポートとペリフェラル排気ポートとによって構成した例を説明したが、サイド排気ポートのみで形成しても良く、反対に、ペリフェラル排気ポートのみで形成しても良い。
【0067】
3〕その他、当業者であれば、本発明の趣旨を逸脱することなく、前記実施形態に種々の変更を付加した形態や各実施形態を組み合わせた形態で実施可能であり、本発明はそのような変更形態も包含するものである。
【符号の説明】
【0068】
4 エキセントリックシャフト
3a,3b ロータ
5a,5b ロータハウジング
6a,6b サイドハウジング
6c 中間ハウジング
11a,11b 第1吸気ポート
12a,12b 第2吸気ポート
13a,13b 第1排気ポート
14a,14b 第2排気ポート
21a,21b L側プラグ
22a,22b T側プラグ
34 第1制御弁
35a,35b 第2制御弁
100 エンジン