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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-08
(45)【発行日】2023-02-16
(54)【発明の名称】リアクトル
(51)【国際特許分類】
   H01F 37/00 20060101AFI20230209BHJP
【FI】
H01F37/00 T
H01F37/00 M
H01F37/00 G
H01F37/00 J
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019169819
(22)【出願日】2019-09-18
(65)【公開番号】P2021048254
(43)【公開日】2021-03-25
【審査請求日】2021-12-27
(73)【特許権者】
【識別番号】395011665
【氏名又は名称】株式会社オートネットワーク技術研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】000183406
【氏名又は名称】住友電装株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100147
【弁理士】
【氏名又は名称】山野 宏
(74)【代理人】
【識別番号】100111567
【弁理士】
【氏名又は名称】坂本 寛
(72)【発明者】
【氏名】古川 尚稔
【審査官】久保田 昌晴
(56)【参考文献】
【文献】実開昭54-92348(JP,U)
【文献】実開昭62-180925(JP,U)
【文献】実開平3-126022(JP,U)
【文献】特開2011-103728(JP,A)
【文献】特開昭54-34056(JP,A)
【文献】実開昭61-182023(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 17/00-19/08、27/02、27/06
H01F 30/10、37/00
H05K 5/00-5/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コイルと磁性コアとを含む組合体と、
前記組合体が収納されるケースと、
前記ケース内に充填される封止樹脂部と、
前記ケース内に収納される押さえ部材とを備え、
前記ケースは、
底部と、側壁部と、前記側壁部の内面に開口する少なくとも一つの溝部とを備え、
前記溝部は、
前記側壁部における前記底部とは反対側の端面に設けられた開口端と、
前記開口端より前記底部側に設けられた閉塞端とを有し、
前記押さえ部材は、
本体部と、前記本体部から延びる少なくとも一つの取付部とを備え、
前記本体部は、前記組合体における前記底部とは反対側の面に重複して配置され、
前記取付部は、前記溝部に嵌め込まれ、
前記封止樹脂部は、
前記組合体と前記本体部との間に充填される第一樹脂部と、前記溝部に充填される第二樹脂部とを含む、
リアクトル。
【請求項2】
前記ケースは、二つの前記溝部を備え、
前記押さえ部材は、二つの前記取付部を前記本体部の両側に備え、
二つの前記溝部はそれぞれ、前記内面における対向箇所に設けられており、
二つの前記取付部はそれぞれ、前記溝部に嵌め込まれる請求項1に記載のリアクトル。
【請求項3】
前記溝部は、第一溝部と、前記第一溝部につながる第二溝部とを備え、
前記第一溝部は、前記開口端を有し、
前記第二溝部は、前記閉塞端を有し、
前記第一溝部の延伸方向と前記第二溝部の延伸方向とが異なる請求項1又は請求項2に記載のリアクトル。
【請求項4】
前記第一溝部の延伸方向は、前記ケースの深さ方向であり、
前記第二溝部の延伸方向は、前記深さ方向に直交する方向である請求項3に記載のリアクトル。
【請求項5】
前記本体部における前記底部とは反対側の面は、前記封止樹脂部から露出されている請求項1から請求項4のいずれか1項に記載のリアクトル。
【請求項6】
前記本体部の平面形状は、菱形状である請求項1から請求項5のいずれか1項に記載のリアクトル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、リアクトルに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、コイルと、磁性コアと、ケースと、封止樹脂部と、支持部とを備えるリアクトルを開示する。ケース内には、コイルと磁性コアとの組合体が収納されると共に封止樹脂部が充填される。支持部は、封止樹脂部と共に、組合体がケースから脱落することを防止する。支持部は、帯状の平板材である。支持部の中央部は、組合体の端部を構成する外側コア部の上に重複して配置される。支持部の両端部はそれぞれ、ケース内における対向する角部にボルト締結される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2016-207701号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ケースと封止樹脂部とを備えるリアクトルにおいて、振動等に起因する封止樹脂部の変位を抑制できることが望まれている。また、小型なリアクトルが望ましい。
【0005】
特許文献1に記載されるリアクトルでは、ボルト締結によって、ケースと支持部とが一体化される。そのため、ケースが振動すると、ケースの振動を受けた支持部も振動する。封止樹脂部が振動する際に、封止樹脂部の振動数とは異なる振動数で支持部とケースとが一体となって振動することで、支持部が封止樹脂部の変位を適切に抑えられないことが考えられる。特に、封止樹脂部が組合体と共振して、封止樹脂部の振幅が大きい場合、封止樹脂部の変位が大きくなり易い。大きな変位に起因する応力や歪によって、封止樹脂部が凝集破壊したり、ケースから剥離したりし易い。その結果、上記組合体がケースから脱落し易くなったり、リアクトルの放熱性が低下したりする。従って、封止樹脂部の変位を抑制する構造に関して、改善の余地がある。
【0006】
また、ケースと支持部とをボルト締結する場合、ケースにボルト用の台座が必要である。その他、ケースの内壁面と組合体の外周面との間に板バネが嵌め込まれて、板バネが組合体をケースの内底面側に直接押し付ける構造では、ケースに板バネを配置するスペースが必要である。これらの構造では、ケースが大型になり易い。従って、小型化に関して、改善の余地がある。
【0007】
そこで、本開示は、振動に起因する封止樹脂部の変位を抑制できるリアクトルを提供することを目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示のリアクトルは、
コイルと磁性コアとを含む組合体と、
前記組合体が収納されるケースと、
前記ケース内に充填される封止樹脂部と、
前記ケース内に収納される押さえ部材とを備え、
前記ケースは、
底部と、側壁部と、前記側壁部の内面に開口する少なくとも一つの溝部とを備え、
前記溝部は、
前記側壁部における前記底部とは反対側の端面に設けられた開口端と、
前記開口端より前記底部側に設けられた閉塞端とを有し、
前記押さえ部材は、
本体部と、前記本体部から延びる少なくとも一つの取付部とを備え、
前記本体部は、前記組合体における前記底部とは反対側の面に重複して配置され、
前記取付部は、前記溝部に嵌め込まれ、
前記封止樹脂部は、
前記組合体と前記本体部との間に充填される第一樹脂部と、前記溝部に充填される第二樹脂部とを含む。
【発明の効果】
【0009】
本開示のリアクトルは、振動に起因する封止樹脂部の変位を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、実施形態1のリアクトルを示す斜視図である。
図2図2は、実施形態1のリアクトルを構成する部材について、封止樹脂部以外の部材を分解して示す説明図である。
図3図3は、実施形態1のリアクトルに備えられる押さえ部材を示す斜視図である。
図4図4は、実施形態1のリアクトルに備えられる押さえ部材を示す平面図である。
図5図5は、図1に示すリアクトルに備えられるケースをA-A切断線で切断した部分断面図である。
図6図6は、図1に示す実施形態1のリアクトルをA-A切断線で切断した部分断面図である。
図7図7は、図1に示す実施形態1のリアクトルをB-B切断線で切断した部分断面図である。
図8図8は、実施形態1のリアクトルに備えられる押さえ部材をケースに取り付ける手順を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[本開示の実施形態の説明]
最初に本開示の実施形態の内容を列記して説明する。
(1)本開示の一態様に係るリアクトルは、
コイルと磁性コアとを含む組合体と、
前記組合体が収納されるケースと、
前記ケース内に充填される封止樹脂部と、
前記ケース内に収納される押さえ部材とを備え、
前記ケースは、
底部と、側壁部と、前記側壁部の内面に開口する少なくとも一つの溝部とを備え、
前記溝部は、
前記側壁部における前記底部とは反対側の端面に設けられた開口端と、
前記開口端より前記底部側に設けられた閉塞端とを有し、
前記押さえ部材は、
本体部と、前記本体部から延びる少なくとも一つの取付部とを備え、
前記本体部は、前記組合体における前記底部とは反対側の面に重複して配置され、
前記取付部は、前記溝部に嵌め込まれ、
前記封止樹脂部は、
前記組合体と前記本体部との間に充填される第一樹脂部と、前記溝部に充填される第二樹脂部とを含む。
【0012】
本開示のリアクトルは、押さえ部材によって、振動等に起因する封止樹脂部の変位を抑制できる。特に、ケースが振動している場合でも、押さえ部材は、以下の理由(A)によってケースの振動の影響を受け難い。そのため、本開示のリアクトルは、封止樹脂部の変位をより抑制し易い。また、押さえ部材は、以下の理由(B),(C)によって、封止樹脂部の変位をより確実に抑えられる。
【0013】
(A)押さえ部材は、ボルト締結、圧入、板バネ等によってケースに直接固定された構造とは異なり、取付部が溝部に嵌められた構造である。この構造では、押さえ部材の取付部とケースとの接触面積は、ボルト締結や圧入、板バネ等を利用する構造に比較して小さい。そのため、ケースの振動が押さえ部材に伝わり難い。
【0014】
(B)押さえ部材が溝部から外れ難い。
この理由の一つは、押さえ部材の取付部が溝部に嵌め込まれた状態で、溝部に第二樹脂部が充填されていることが挙げられる。第二樹脂部によって、取付部における溝部に対する位置がずれ難い。
【0015】
(C)押さえ部材は、組合体が振動している場合でも、組合体の振動の影響を受け難い。
この理由の一つとして、押さえ部材と組合体との間に第一樹脂部が存在しており、押さえ部材が組合体に直接接していないことが挙げられる。
【0016】
また、本開示のリアクトルは、小型である。この理由の一つとして、押さえ部材をケースに固定するためのボルトの台座や、板バネを組合体とケースの側壁部との間に配置するスペースが不要であるため、ケースが小型になり易いことが挙げられる。別の理由として、押さえ部材を備えるものの、押さえ部材はケース内に収納可能な大きさであることが挙げられる。
【0017】
(2)本開示のリアクトルの一例として、
前記ケースは、二つの前記溝部を備え、
前記押さえ部材は、二つの前記取付部を前記本体部の両側に備え、
二つの前記溝部はそれぞれ、前記内面における対向箇所に設けられており、
二つの前記取付部はそれぞれ、前記溝部に嵌め込まれる形態が挙げられる。
【0018】
上記形態では、溝部が一つである場合に比較して、押さえ部材が両溝部から外れ難い。
【0019】
(3)本開示のリアクトルの一例として、
前記溝部は、第一溝部と、前記第一溝部につながる第二溝部とを備え、
前記第一溝部は、前記開口端を有し、
前記第二溝部は、前記閉塞端を有し、
前記第一溝部の延伸方向と前記第二溝部の延伸方向とが異なる形態が挙げられる。
【0020】
上記形態では、溝部の延伸方向が一方向である場合に比較して、押さえ部材が溝部から外れ難い。
【0021】
(4)上記(3)のリアクトルの一例として、
前記第一溝部の延伸方向は、前記ケースの深さ方向であり、
前記第二溝部の延伸方向は、前記深さ方向に直交する方向である形態が挙げられる。
【0022】
上記形態では、押さえ部材が溝部からより外れ難い。
【0023】
(5)本開示のリアクトルの一例として、
前記本体部における前記底部とは反対側の面は、前記封止樹脂部から露出されている形態が挙げられる。
【0024】
上記形態は、ケースの高さが低くてよいため、小型である。また、上記形態は、封止樹脂部を構成する樹脂の充填時間、固化時間等が短くてよいため、製造性にも優れる。
【0025】
(6)本開示のリアクトルの一例として、
前記本体部の平面形状は、菱形状である形態が挙げられる。
【0026】
上記形態における押さえ部材は、後述するように一様な幅を有する帯状材である場合に比較して、高い剛性を有しつつ、小型、軽量である。そのため、上記形態は、封止樹脂部の変位を抑えつつ、小型化、軽量化を図ることができる。
【0027】
[本開示の実施形態の詳細]
以下、図面を参照しつつ、本開示の実施形態に係るリアクトルの具体例を説明する。図中の同一符号は同一名称物を示す。
【0028】
[実施形態1]
図1から図8を参照して、実施形態1のリアクトルを説明する。
(概要)
実施形態1のリアクトル1は、図1に示すように、コイル2と磁性コア3とを含む組合体10と、ケース5と、封止樹脂部6と、押さえ部材7とを備える。組合体10は、ケース5に収納される。このケース5内には、封止樹脂部6が充填される。また、ケース5内には押さえ部材7が収納される。ケース5内の押さえ部材7は、組合体10に重複して配置される。
【0029】
実施形態1のリアクトル1では、押さえ部材7は、本体部70と取付部71とを備え、振動等に起因する封止樹脂部6の変位を抑制する。特に、ケース5が振動している場合に、ケース5からの振動が押さえ部材7に伝わり難いように、押さえ部材7はケース5に対して配置される。この配置状態は、ケース5に設けられる溝部53と、封止樹脂部6とによって構成される。概略を述べると、ケース5は、側壁部52の端面520及び内面521に開口する少なくとも一つの溝部53を備える。溝部53には、押さえ部材7の取付部71が嵌め込まれる。封止樹脂部6は、本体部70及び取付部71の双方に接するようにケース5内に充填されている。封止樹脂部6は、第一樹脂部61(図7)と第二樹脂部62とを備える。溝部53には、第二樹脂部62が充填される(図6)。この第二樹脂部62によって、押さえ部材7は溝部53に嵌め込まれた状態が保持される。即ち、押さえ部材7は、溝部53から抜け止めされる。
【0030】
本例のケース5は、内面521の対向位置に二つの溝部54,55を備える。押さえ部材7は、二つの取付部74,75を備える。各溝部54,55には取付部74,75が嵌め込まれると共に第二樹脂部62が充填される。
【0031】
以下、主に図1図2を参照して、組合体10、ケース5、封止樹脂部6の概要を順に説明する。次に、押さえ部材7、ケース5の溝部53、封止樹脂部6の詳細を順に説明する。
【0032】
(組合体)
組合体10は、コイル2と、磁性コア3とを備える。その他、組合体10は、コイル2と磁性コア3との間の電気絶縁性を高める部材等を備えてもよい。このような部材として、後述する保持部材4、図示しない樹脂モールド部等が挙げられる。
【0033】
〈コイル〉
コイル2は、巻線をらせん状に巻回してなる筒状の巻回部を備える。巻回部に連続する巻線の端部には、電源等の外部装置が接続される。巻線、巻線の端部、及び外部装置は、図示を省略する。
【0034】
巻線は、導体線と、導体線の外周を覆う絶縁被覆とを備える被覆線が挙げられる。導体線の構成材料は、銅等が挙げられる。絶縁被覆の構成材料は、ポリアミドイミド等の樹脂が挙げられる。本例の巻線は、断面形状が長方形である被覆平角線である。
【0035】
本例のコイル2は、二つの巻回部21,22と、両巻回部21,22をつなぐ連結部23とを備える。両巻回部21,22は、各軸が平行するように並ぶ(図2)。本例では、巻回部21,22の形状、巻回方向、ターン数、巻線のサイズ等の仕様が等しい。また、本例のコイル2は、1本の連続する巻線から構成される。連結部23は、巻回部21,22間にわたされる巻線の一部から構成される。
【0036】
本例の巻回部21,22は、四角筒状のエッジワイズコイルである。この場合、巻回部21,22の外周面は、平坦な長方形状の平面になり易い。その結果、巻回部21,22の外周面とケース5の内面521とが平面同士で対向する。そのため、巻回部21,22とケース5の内面521との間隔の調整が行い易い。
【0037】
なお、コイル2の形状、大きさ等は適宜変更できる。この点は、後述の変形例4を参照するとよい。
【0038】
〈磁性コア〉
磁性コア3は、コイル2の巻回部内に配置される部分と、巻回部外に配置される部分とを有し、コイル2がつくる磁束が通過する閉磁路を構成する。
【0039】
本例の磁性コア3は、四つの柱状のコア片を備える(図2)。二つのコア片はそれぞれ、巻回部21,22内に配置される部分を有する内側コア部31,32である。残りの二つのコア片は、巻回部21,22外に配置される部分を構成する外側コア部33である。二つの外側コア部33は、離間して配置される二つの内側コア部31,32を挟む。
【0040】
本例では、内側コア部31,32を構成するコア片は、同一の形状、同一の大きさである。各コア片は、巻回部21,22の内周形状に概ね対応した直方体状である。また、各コア片は、一体物であり、分割されていない。
【0041】
本例では、各外側コア部33を構成するコア片は、同一の形状、同一の大きさである。各コア片は、直方体状であるが、コア片の形状は特に限定されない。また、各コア片は、一体物であり、分割されていない。更に、コア片の角部が面取りされているが、面取りが省略されてもよい。面取りされたコア片は、角部が欠け難く、強度に優れる。
【0042】
磁性コア3を構成するコア片は、軟磁性材料を主体とする成形体が挙げられる。軟磁性材料は、金属でも非金属でもよい。金属は、例えば鉄、鉄基合金が挙げられる。鉄基合金は、例えばFe-Si合金、Fe-Ni合金等が挙げられる。非金属は、例えばフェライト等が挙げられる。上記成形体は、複合材料の成形体、圧粉成形体、電磁鋼板等の軟磁性材料からなる板材の積層体、フェライトコア等の焼結体等が挙げられる。
【0043】
複合材料の成形体は、磁性粉末と樹脂とを含む。磁性粉末は、樹脂中に分散される。上記樹脂は、例えば熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂が挙げられる。熱可塑性樹脂は、例えば、ポリフェニレンスルフィド(PPS)樹脂、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)樹脂、液晶ポリマー(LCP)、ナイロン6、ナイロン66といったポリアミド(PA)樹脂、ポリブチレンテレフタレート(PBT)樹脂、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン(ABS)樹脂等が挙げられる。熱硬化性樹脂は、例えば、不飽和ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、シリコーン樹脂等が挙げられる。複合材料の成形体は、代表的には、射出成形等によって成形されたものが挙げられる。
【0044】
圧粉成形体は、磁性粉末の集合体である。圧粉成形体は、代表的には、磁性粉末とバインダーとを含む混合粉末を圧縮成形した後、熱処理を施したものが挙げられる。
【0045】
上述の磁性粉末を構成する粉末粒子は、軟磁性材料からなる磁性粒子、又は磁性粒子の外周に絶縁被覆を備える被覆粒子が挙げられる。
【0046】
磁性コア3が複数のコア片を備える場合、全てのコア片の構成材料が等しくてもよいし、一部のコア片の構成材料が異なっていてもよい。例えば、磁性コア3は、本例のように、複合材料の成形体からなるコア片と、圧粉成形体からなるコア片とを含むことが挙げられる。又は、全てのコア片が複合材料の成形体であり、各コア片の軟磁性材料の種類や磁性粉末の含有量が異なることが挙げられる。
【0047】
その他、図2に示す磁性コア3は、コア片間に磁気ギャップを有していないが、磁気ギャップを有してもよい。磁気ギャップは、エアギャップでも、アルミナなどの非磁性材料からなる板材等でもよい。磁気ギャップを有さない磁性コア3は小型になり易い。
【0048】
なお、磁性コア3の形状、大きさ、コア片の個数等は適宜変更できる。この点は、後述の変形例5を参照するとよい。
【0049】
〈保持部材〉
リアクトル1は、コイル2と磁性コア3との間に配置される保持部材4を備えてもよい。本例の保持部材4は、巻回部21,22、内側コア部31,32及び外側コア部33を支持して、巻回部21,22に対して内側コア部31,32、外側コア部33を位置決めする。図1図2は保持部材4の概略を示し、詳細な図示を省略する。
【0050】
本例の保持部材4は、巻回部21,22の各端部に配置される枠状の部材である。各保持部材4は、一対の貫通孔が設けられた枠板と、枠板の周縁に沿って設けられる周壁43とを備える。各保持部材4の基本的構成は同じである。
【0051】
保持部材4の枠板は、巻回部21,22の端面と外側コア部33の内端面との間に配置される。枠板に設けられた貫通孔にはそれぞれ、内側コア部31,32の端部が挿通される。また、枠板は、突片を備える。突片は、枠板の巻回部21,22側の面における貫通孔の内周縁から内側コア部31,32の軸方向に沿って突出する。また、突片は、巻回部21,22の内周面と内側コア部31,32の外周面との間に差し込まれる。突片によって、巻回部21,22と内側コア部31,32とが離隔されて、両者間の電気絶縁性が高められる。また、突片によって、両者が位置決めされる。
【0052】
保持部材4の周壁43は、外側コア部33の外周面を囲み、保持部材4に対する外側コア部33の位置決めを行う。本例の周壁43は、外側コア部33の外周面、即ちケース5の側壁部52の内面521に対向する面を連続して覆う長方形の枠状である。
【0053】
保持部材4の形状や大きさ等は、適宜変更できる。保持部材4は、公知の構成を利用してもよい。
【0054】
保持部材4の構成材料は、樹脂といった電気絶縁材料が挙げられる。例えば、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂が挙げられる。熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂の具体例は、〈磁性コア〉の項において、複合材料の成形体の説明を参照するとよい。保持部材4は、射出成形等の公知の成形方法によって製造できる。
【0055】
〈樹脂モールド部〉
リアクトル1は、磁性コア3の少なくとも一部を覆う樹脂モールド部を備えてもよい。樹脂モールド部は、コイル2又はリアクトル1の周囲部品と磁性コア3との間における電気絶縁性を向上する他、磁性コア3に対して外部環境から保護、機械的な保護等を行う。
【0056】
樹脂モールド部は、磁性コア3を覆い、巻回部21,22の外周面を覆わず露出させると、放熱性に優れる。この理由は、巻回部21,22の外周面をケース5の内面521に近接できるからである。
【0057】
樹脂モールド部の被覆範囲、厚さ等は適宜選択できる。
例えば、樹脂モールド部は、内側コア部31,32の少なくとも一部を覆う内側樹脂部と、外側コア部33の少なくとも一部を覆う外側樹脂部とを備えることが挙げられる。この場合、内側樹脂部と外側樹脂部とが連続する一体成型物であれば、樹脂モールド部は複数のコア片を一体に保持できる。そのため、樹脂モールド部は磁性コア3における一体物としての強度、剛性を高められる。このような樹脂モールド部は、例えば以下のように製造することが挙げられる。上述の保持部材4の周壁43の内周面と外側コア部33の外周面との間に隙間が設けられるように、周壁43の大きさを調整する。この隙間と、保持部材4の貫通孔と、巻回部21,22と内側コア部31,32との間の隙間とを連通する空間に樹脂モールド部の原料となる樹脂を充填して、固化する。
【0058】
又は、例えば、樹脂モールド部は、内側樹脂部を備えておらず、実質的に外側コア部33のみを覆うものであってもよい。
【0059】
樹脂モールド部の構成材料は、各種の樹脂が挙げられる。例えば、熱可塑性樹脂が挙げられる。熱可塑性樹脂の具体例は、〈磁性コア〉の項において、複合材料の成形体の説明を参照するとよい。上記構成材料は、樹脂に加えて、(封止樹脂部)の項で説明する非金属無機材料からなる粉末を含んでもよい。この粉末を含む樹脂モールド部は、放熱性に優れる。樹脂モールド部の成形には、射出成形等の公知の成形方法が利用できる。
【0060】
なお、リアクトル1は、樹脂モールド部及び上述の保持部材4の一方、又は双方を備えていなくてもよい。
【0061】
(ケース)
ケース5は、組合体10の実質的に全体を収納して、組合体10に対して外部環境からの保護、機械的な保護等を行う。本例のケース5は、金属から構成されており、組合体10の放熱経路としても機能する。
【0062】
ケース5は、底部51と、側壁部52とを備える。底部51は平板状の部材である。側壁部52は、底部51の周縁から立設され、上記周縁に連続する枠状の部材である。ケース5は、底部51とは反対側、図1では上側が開口した有底筒状体である。底部51と側壁部52とは、組合体10を収納可能な形状及び大きさを有する内部空間を構成する。
【0063】
本例のケース5は直方体状の容器である。底部51及び開口部は、ケース5の深さ方向からの平面視で長方形状である。側壁部52は、四角筒状である。側壁部52の内面521は、対向する内面522,523と、対向する内面524,525とを有する(図4図5)。ここでは、内面522,523は、上記長方形の短辺方向の両側に位置する面である(図4)。内面524,525は、上記長方形の長辺方向の両側に位置する面である(図5)。内面522,523の長さは上記長方形の長辺長さに相当する。内面524,525の長さは上記長方形の短辺長さに相当する。
【0064】
本例では、底部51の内底面、及び側壁部52の内面522~525はいずれも平面である。組合体10がケース5内に収納された状態において、巻回部21,22の外周面と内面522~525とは平面同士で対向する。巻回部21,22の外周面とケース5の内面522~525との距離は、封止樹脂部6の厚さに相当する。封止樹脂部6の厚さが所定の厚さとなるように、組合体10の大きさに応じて、ケース5の大きさが調整される。
【0065】
本例のケース5は、底部51と側壁部52とが一体に成形された金属製の箱である。特に、本例のようにケース5を構成する金属がアルミニウム系材料であると、ケース5は、放熱性に優れる、軽量である、非磁性材であるためコイル2に磁気的影響を与え難いといった効果を奏する。アルミニウム系材料は、純アルミニウム、又はアルミニウム基合金である。
【0066】
本例では、組合体10がケース5内に収納された状態において、巻回部21,22の軸方向がケース5の深さ方向に平行する。この場合、二つの外側コア部33のうち、一方の外側コア部33の端面がケース5の開口側に配置される。この端面は、組合体10における底部51とは反対側の面であり、以下、上端面330と呼ぶ。他方の外側コア部33の端面は、ケース5の底部51側に配置されて内底面に対向する面である。
【0067】
なお、組合体10におけるケース5への収納状態は適宜変更できる。この点は、後述の変形例3を参照するとよい。
【0068】
(封止樹脂部)
封止樹脂部6は、ケース5内に収納された組合体10の実質的に全体を覆う。より具体的には、封止樹脂部6は、組合体10の外周面とケース5の内面521との隙間に充填される。また、封止樹脂部6は、組合体10における底部51とは反対側の面、ここでは外側コア部33の上端面330を覆う。結果として、組合体10の実質的に全体は、封止樹脂部6に埋設される。このような封止樹脂部6は、組合体10に対して外部環境からの保護、機械的な保護、組合体10とケース5との間の電気絶縁性の向上、組合体10とケース5との一体化、放熱性の向上等の機能を有する。
【0069】
封止樹脂部6の厚さは、定性的には、以下の条件を満たすように調整することが好ましい。
・ 封止樹脂部6とケース5との界面応力を封止樹脂部6が弾性変形することによって吸収する。
・ 封止樹脂部6の振動に起因する応力、歪によって、封止樹脂部6に凝集破壊やせん断が生じ難い。
上記の条件を満たす範囲で、組合体10の外周を囲む封止樹脂部6の厚さが薄いほど、リアクトル1は放熱性に優れ、上記厚さが厚いほど、組合体10がケース5内に固定された状態が維持され易い。
【0070】
更に、封止樹脂部6は、押さえ部材7に接する。また、封止樹脂部6は、押さえ部材7がケース5の所定の位置に配置された状態を維持する。この点は後述する。
【0071】
封止樹脂部6の構成材料は、各種の樹脂が挙げられる。例えば、熱硬化性樹脂が挙げられる。熱硬化性樹脂は、例えば、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂等が挙げられる。シリコーン樹脂を主体とする封止樹脂部6は、耐熱性や放熱性に優れる。なお、シリコーン樹脂は、ゲル状でもよい。エポキシ樹脂を主体とする封止樹脂部6は、弾性率が高く、ケース5に組合体10を強固に固定できる。その他の樹脂として、PPS樹脂等の熱可塑性樹脂が挙げられる。
【0072】
封止樹脂部6の構成材料は、上述の樹脂に加えて、熱伝導率が高い非金属無機材料からなる粉末を含有してもよい。このような非金属無機材料は、例えばセラミックス、炭素系材料等が挙げられる。セラミックスは、例えばアルミナ、シリカ等が挙げられる。熱伝導率が高い非金属無機材料からなる粉末を含む封止樹脂部6は、放熱性に優れる。セラミックスからなる粉末を含む封止樹脂部6は、更に電気絶縁性にも優れる。封止樹脂部6の構成材料は、公知の樹脂組成物を利用してもよい。
【0073】
(押さえ部材)
以下、主に図3図4を参照して、押さえ部材7を説明する。
〈概略〉
押さえ部材7は、本体部70と、本体部70から延びる少なくとも一つの取付部71とを備える。押さえ部材7は、封止樹脂部6に接して配置されて(後述の図6図7参照)、封止樹脂部6が主にケース5の深さ方向に変位することを抑える。但し、押さえ部材7は、ケース5に対してボルト締結や圧入等によって固定されているのではなく、取付部71がケース5の溝部53に対して遊びを持って嵌め込まれる(図6)。また、取付部71において溝部53を構成する内周面に接触していない箇所は、封止樹脂部6に覆われる(図6)。その結果、押さえ部材7は、溝部53に嵌め込まれた状態、即ちケース5内に収納された状態が長期にわたり維持される。そのため、押さえ部材7は、ケース5とは独立した部材であるものの、封止樹脂部6におけるケース5の深さ方向の変位を抑えられる。
【0074】
本例の押さえ部材7は、二つの取付部74,75を本体部70の両側に備える。二つの取付部74,75はそれぞれ、ケース5の溝部54,55に嵌め込まれる(図4)。本体部70は、組合体10の外側コア部33の上端面330に重複して配置される(図1図7)。
【0075】
〈本体部〉
本例の本体部70は、平板状である。押さえ部材7がケース5に配置された状態において、本体部70におけるケース5の底部51とは反対側の面、ここでは表面701は、ケース5の開口側に向いて配置される(図4)。表面701に対向する裏面702は、ケース5の底部51の内底面に対向して配置される(図7)。この裏面702が封止樹脂部6に接して配置される(図7)。
【0076】
本体部70は、封止樹脂部6が振動する際に封止樹脂部6を直接押さえることができれば、形状は特に限定されない。例えば、押さえ部材7は、本体部70と取付部71とが同じ幅である帯状の部材でもよい。この場合、本体部70の平面形状は長方形状である。
【0077】
特に、封止樹脂部6の変位を抑制する目的から、本体部70は、剛性に優れること、即ちバネ材ではなく、剛体であることが好ましい。本例では、本体部70の平面形状が菱形状である。また、本体部70における菱形の短軸方向の長さが取付部71の幅よりも大きい。ここでの取付部71の幅は、菱形の長軸方向に直交する方向の長さである。上記長軸方向は、押さえ部材7の長手方向、図4では紙面上下方向に相当する。
【0078】
菱形状の本体部70は、押さえ部材7の長手方向に直交する方向に取付部71より突出する箇所を有する。このような本体部70を備える押さえ部材7は、取付部71の幅と同じ幅を有する帯状である場合に比較して剛性に優れる。また、この押さえ部材7は、菱形の短軸長さと同じ幅を有する帯状である場合に比較して、同程度の剛性を有しつつ、平面積が小さいため、小型、軽量である。そのため、本例の押さえ部材7は、封止樹脂部6の振動を良好に抑えつつ、小型、軽量である。なお、押さえ部材7の平面形状は、押さえ部材7の厚さ方向から平面視した形状である。上記厚さ方向は、図4では、紙面垂直方向に相当する。
【0079】
長方形、菱形以外の本体部70の平面形状の具体例として、多角形や楕円等が挙げられる。特に、本体部70の平面形状は、本例のように縦横の一方が他方よりも長い形状であることが好適である。
【0080】
〈取付部〉
本例の取付部74,75は、本体部70の長軸方向の各端部に位置する。また、本例の押さえ部材7は本体部70と取付部74,75とが同一平面上に配置される平板材ではなく、取付部74,75が本体部70に対して厚さ方向にずれている(図3)。詳しくは、押さえ部材7がケース5に配置された状態において、本体部70がケース5の開口側に位置し、取付部74,75が本体部70よりケース5の底部51側に位置する(図1)。このような配置となるように、取付部74,75は、脚部と、係合部とを備える。脚部は、本体部70の表面701に沿った方向に対して交差方向に延びる。本体部70におけるケース5の深さ方向の位置が所定の位置となるように、脚部の長さが調整される。係合部は、脚部につながり、表面701に沿った方向に平行に設けられる。係合部は、溝部54,55に嵌め込まれる箇所である。
【0081】
〈大きさ〉
本体部70の大きさ、ここでは菱形の短軸長さ、長軸長さ、平面積等は、ケース5の開口部の大きさ、封止樹脂部6の厚さ、特に後述する第一樹脂部61の厚さt図7)等に応じて調整するとよい。本例では、本体部70の長軸方向がケース5の短辺方向に沿うように、押さえ部材7がケース5内に配置される(図4)。そのため、本体部70の長軸長さは、ケース5の短辺長さより短い。この点で、押さえ部材7は小型である。なお、ケース5の短辺長さは、内面522,523間の距離である。
【0082】
取付部74,75の大きさ、ここでは厚さt,幅W等は、ケース5の溝部53に嵌め込み可能な大きさに調整するとよい。
【0083】
厚さtは、押さえ部材7の構成材料等にもよるが、例えば0.8mm以上2.0mm以下が挙げられる。厚さtが上記範囲であれば、押さえ部材7が薄く、軽量である。
【0084】
幅Wは、本体部70の長軸方向に直交する方向、即ち短軸方向に沿った取付部74,75の長さである。本例では、取付部74,75の幅Wは、本体部70の菱形の短軸長さより小さい。
【0085】
取付部74,75の大きさと溝部53の大きさとの関係については、次の(ケースの溝部)の項で説明する。
【0086】
〈構成材料〉
押さえ部材7の構成材料は、剛性に優れるものが好ましい。上記構成材料は、例えば金属が挙げられる。特に、ステンレス鋼等の鉄基合金、アルミニウム基合金等は、剛性に優れて好ましい。鉄基合金は、非磁性のものが好ましい。金属製の押さえ部材7は、例えば、鍛造等の塑性加工によって製造することが挙げられる。鍛造品は、寸法精度に優れる。
【0087】
なお、押さえ部材7の形状、大きさ等は適宜変更できる。例えば、本例の押さえ部材7は、菱形の短軸、及び長軸のそれぞれを中心として対称な形状であるが、非対称な形状でもよい。又は、本体部70の平面形状は、菱形を除く長方形等でもよい。又は、押さえ部材7は、本体部70と取付部71とが同一平面上に配置される平板材でもよい。
【0088】
(ケースの溝部)
以下、主に図4から図6を参照して、ケース5の溝部53を説明する。
図4は、ケース5の長辺方向の一端側の領域を二点鎖線で仮想的に示す。また、図4は、ケース5をその開口側から深さ方向に平面視した図である。
図5図6は、リアクトル1をケース5の深さ方向に平行な平面、即ち図1に示すA-A切断線で切断した断面図であって、溝部53の近くの領域のみを示す部分断面図である。図5は、ケース5のみを示す。図6は、一方の溝部54の近くのみを示す。
A-A切断線は、ケース5の短辺方向の中心より内面522寄りの位置を切断する。
【0089】
〈概要〉
ケース5の側壁部52には、溝部53が設けられている。溝部53は、側壁部52の内面521と、側壁部52における底部51とは反対側、図5図6では上側に位置する端面520とに開口する(後述の図8も参照)。溝部53は、端面520に設けられた開口端530と、開口端530より底部51側、図5図6では下側に設けられた閉塞端535とを有する。溝部53には、開口端530から、押さえ部材7の取付部71が挿入されて(図8)、閉塞端535側に配置される(図6)。溝部53を構成する内周面と取付部71の外周面との隙間には、封止樹脂部6の一部、ここでは第二樹脂部62が充填される(図6)。溝部53は、第二樹脂部62と共に押さえ部材7を支持する。
【0090】
〈個数〉
ケース5に設けられる溝部53の個数は一つ以上であればよい。本例のケース5は、一つの押さえ部材7に対して二つの溝部54,55を備える。ケース5は、溝部54,55の組を二組備え、合計四つの溝部53を備える(図1)。二つの溝部54,55はそれぞれ、内面521における対向箇所に設けられる(図4)。ここでは、対向する二つの内面522,523において、一方の内面522に溝部54が設けられ、他方の内面523に溝部55が設けられる。また、本例のケース5は、内面522の長辺方向の両側に溝部54を備え(図5)、内面523の長辺方向の両側に溝部55を備える。上記長辺方向は、図5では紙面左右方向である。一組の溝部54,55にはそれぞれ、一つの押さえ部材7の両取付部74,75が嵌め込まれる(図1)。即ち、ケース5は、一つの押さえ部材7に対して、二つの支持箇所を対向位置に備える。
【0091】
〈形状〉
本例の溝部54,55は同一形状、同一の大きさである。そのため、以下、溝部54,55をまとめて、溝部53と呼んで説明する。
本例の溝部53は、延伸方向が異なる複数の溝から構成される。具体的には、溝部53は、第一溝部531と、第一溝部531につながる第二溝部532とを備える。第一溝部531は、開口端530を有する溝である。第二溝部532は、閉塞端535を有する溝である。第一溝部531の延伸方向と第二溝部532の延伸方向とが異なる。本例では、第一溝部531の延伸方向は、ケース5の深さ方向である。第二溝部532の延伸方向は、上記深さ方向に直交する方向である。図5図6では、上記深さ方向は紙面上下方向であり、上記深さ方向に直交する方向は紙面左右方向、即ちケース5の長辺方向である。
【0092】
図5図6は、第一溝部531と第二溝部532との境界を二点鎖線で仮想的に示す。本例の第一溝部531,第二溝部532は、図5図6に示すように内面521に設けられる開口縁が長方形である直線状の溝である。また、本例の溝部53はT字状の溝である。
【0093】
〈位置〉
ケース5に対して、溝部53の開口端530の配置位置、閉塞端535の配置位置は、押さえ部材7の配置位置に応じて調整するとよい。特に、封止樹脂部6の変位を抑制可能な位置に押さえ部材7が配置されるように、溝部53の配置位置を調整することが挙げられる。本例では、ケース5の短辺の二等分線を通り、長辺方向に沿った平面でリアクトル1を切断した場合、封止樹脂部6のうち組合体10の開口側を覆う第一樹脂部61の最大振幅は、長辺方向の中心及びその近傍に位置する。この最大振幅の地点の両側に押さえ部材7の本体部70が配置されるように、溝部53が設けられている。特に、本体部70において剛性に優れる領域、即ち菱形の短軸と長軸との交点及びその近傍の領域が上記短辺の二等分線を通り、長辺方向に沿った直線上に配置されるように、溝部53が設けられている。また、本例のケース5は、長辺の二等分線を中心として線対称な形状となるように、溝部53を備える。なお、封止樹脂部6の振幅又は変位量は、例えば市販のシミュレーションソフトウェア等を用いて振動状態を解析することで求められる。
【0094】
溝部53は、ケース5の内面521の所定の位置に、切削加工等の機械加工によって形成することが挙げられる。
【0095】
〈大きさ〉
溝部53の大きさ、例えば図5に示す長さW51,W52,W53、高さh53,h52は、押さえ部材7の取付部71の幅W図4)、厚さt図3)に応じて調整する。特に、溝部53の大きさは、第二溝部532に対して取付部71が遊びを持って嵌め込まれるように調整する。
【0096】
長さW53は、溝部53においてケース5の長辺方向に沿った最大長さである。ここでは、長さW53は、第二溝部532の最大長さである。
長さW51は、開口端530におけるケース5の長辺方向に沿った長さである。
長さW52は、第二溝部532において、第一溝部531の周縁をケース5の深さ方向に沿って延長した仮想線から一方の閉塞端535までの長さであって、上記長辺方向に沿った長さである。一方の閉塞端535は、上記長辺の二等分線に近い側、図6では右側の閉塞端535である。上記仮想線から他方の閉塞端535までの長さであって、上記長辺方向に沿った長さ(W53-(W51+W52))は、長さW52より短い。
高さh53は、溝部53において、ケース5の深さ方向に沿った最大長さである。ここでは、高さh53は、第一溝部531における上記深さ方向に沿った長さと、第二溝部532の高さh52との合計長さである。
高さh52は、第二溝部532において、ケース5の深さ方向に沿った長さである。
【0097】
本例では、開口端530の長さW51は、押さえ部材7の取付部71の幅Wに所定の尤度を加えた値である。W<W51であれば、製造過程で、押さえ部材7を開口端530に容易に挿入することができる(図8)。
【0098】
第二溝部532の長さW52は、押さえ部材7の取付部71の幅Wに所定の尤度を加えた値である。W<W52であれば、取付部71が嵌め込まれた第二溝部532内には、取付部71の周囲に隙間が生じる(図6)。図6は、第二溝部532の右側の閉塞端535と上述の仮想線までの間において、取付部71の両側に隙間を有する場合を例示する。この隙間に第二樹脂部62が充填される。W<W52であれば、第二溝部532における第二樹脂部62の充填量が多くなる。このような溝部53と封止樹脂部6とによって、押さえ部材7がケース5内の所定の位置に配置された状態が良好に維持される。また、W<W52であれば、第二溝部532を構成する内周面のうち底部51とは反対側の面と、取付部71における底部51とは反対側の面全体とが重複して配置される。そのため、押さえ部材7は第二溝部532から外れ難い。なお、上記取付部71における底部51側の面は、図6では下面である。
【0099】
第二溝部532の高さh52は、押さえ部材7の取付部71の厚さtに所定の尤度を加えた値である。t<h52であれば、取付部71が嵌め込まれた第二溝部532内には、第二溝部532を構成する内周面のうち底部51とは反対側の面と、取付部71における底部51とは反対側の面との間に隙間が生じる(図6)。この隙間に第二樹脂部62が充填される。t<h52であれば、第二溝部532における第二樹脂部62の充填量が多くなる。このような溝部53と封止樹脂部6とによって、押さえ部材7がケース5内の所定の位置に配置された状態が良好に維持される。なお、上記底部51とは反対側の面は、図6では上面である。
【0100】
更に、本例では、溝部53の長さW53は、押さえ部材7の取付部71の幅Wの2倍超3倍以下である。取付部71における溝部53内の配置位置であって、ケース5の長辺方向に沿った位置は、長さW53の範囲で調整できる。2×W<W53≦3×Wであれば、取付部71の配置位置に関して、調整の自由度が高い。
【0101】
本例において、図6に示す左側の閉塞端535側に押さえ部材7の取付部71が配置された場合でも、押さえ部材7は第二溝部532から外れ難い。この理由は、(W53-(W51+W52))<W<W52であるため、第二溝部532と取付部71の一部とが確実に重複して配置されるからである。
【0102】
図6は、第二溝部532に嵌め込まれた押さえ部材7の取付部71について、取付部71の係合部における底部51側の面、ここでは下面が第二溝部532の内周面に接した状態を示す。この配置状態は例示である。例えば、取付部71の係合部は、第二溝部532に嵌め込まれているものの、第二溝部532の内周面に接触せず、第二樹脂部62にのみ接触していてもよい。即ち、取付部71の係合部の外周面全体が第二樹脂部62に覆われていてもよい。
【0103】
溝部53の個数、形状、大きさ等は適宜変更できる。例えば、一つの押さえ部材7に対して、溝部53の個数が1つでもよい。この場合、押さえ部材7の一端は溝部53に嵌め込まれ、押さえ部材7の他端は例えばケース5の内面521に当て止めされることが挙げられる。但し、本例のように、押さえ部材7の両端部が溝部54,55に嵌め込まれる構造は、押さえ部材7にケース5の振動が伝わり難く好ましい。溝部53の形状の変更については、後述の変形例2を参照するとよい。
【0104】
(封止樹脂部)
以下、主に図6図7を参照して、封止樹脂部6の詳細を説明する。
封止樹脂部6は、第一樹脂部61(図7)と、第二樹脂部62(図6)とを含む。第一樹脂部61は、ケース5内において、組合体10と押さえ部材7の本体部70との間に充填される。第二樹脂部62は、ケース5の側壁部52に設けられた溝部53に充填される。第二樹脂部62は、押さえ部材7の取付部71の少なくとも一部を埋設する。
【0105】
本例では、第一樹脂部61は、組合体10においてケース5の開口側に配置される面、ここでは外側コア部33の上端面330と、本体部70の裏面702との間に設けられる。第一樹脂部61が介在されることで、押さえ部材7は、組合体10に非接触である。そのため、組合体10が振動している場合に、組合体10の振動が押さえ部材7に直接伝わらない。この点で、押さえ部材7は、組合体10の振動に伴って封止樹脂部6が振動する際に、封止樹脂部6の変位を抑え易い。また、本例では、第一樹脂部61は、本体部70におけるケース5の底部51側の面、ここでは裏面702に接する。ここで、第一樹脂部61と裏面702との間に隙間があれば、封止樹脂部6が振動する際、第一樹脂部61は、上記隙間の範囲で変位する。第一樹脂部61が裏面702に接するほどに変位すれば、それ以上の変位については、押さえ部材7によって抑制される。これに対し、封止樹脂部6が振動していない状態において、第一樹脂部61と裏面702とが接していれば、押さえ部材7は第一樹脂部61の変位を確実に抑えられるため好ましい。
【0106】
第一樹脂部61の厚さtは、定性的には、組合体10と押さえ部材7とが接触せず、封止樹脂部6の変位に起因する応力、歪が低減されるように調整することが好ましい。封止樹脂部6の構成材料、押さえ部材7の構成材料や大きさ等にもよるが、例えば厚さtは、封止樹脂部6において組合体10の外周面と側壁部52の内面521との間に充填される箇所の最小厚さ以上、押さえ部材7の厚さt以下が挙げられる。
【0107】
第二樹脂部62は、溝部53において、少なくとも押さえ部材7の取付部71の周囲を覆っていればよい。本例では、第二溝部532において取付部71が第二溝部532の内周面に接する箇所以外の箇所全体に封止樹脂部6が充填されていればよい。溝部53の一部、ここでは第一溝部531における開口端530側の領域には、封止樹脂部6が充填されていなくてもよい。なお、溝部53全体に封止樹脂部6が充填されていてもよい。
【0108】
封止樹脂部6は、押さえ部材7の本体部70の裏面702に接していればよいが、本体部70の少なくとも一部を埋設してもよい。本体部70が封止樹脂部6に埋設されることで、押さえ部材7がケース5に配置された状態がより維持され易い。本例では、本体部70の一部が封止樹脂部6に埋設されている(図7)。但し、本体部70におけるケース5の底部51とは反対側の面、ここでは表面701は、封止樹脂部6から露出されている。また、本例では、本体部70の表面701は、ケース5の側壁部52の端面520と実質的に面一であり、端面520から突出していない。即ち、ケース5の高さは、本体部70の厚さtと、第一樹脂部61の厚さtと、ケース5内に収納された組合体10におけるケース5の深さ方向に沿った長さと、底部51の厚さの合計厚さに実質的に等しい。
【0109】
(リアクトルの製造方法)
実施形態のリアクトル1は、例えば、以下の工程を備えるリアクトルの製造方法によって製造することができる。
(第一工程)組合体10とケース5と押さえ部材7とを用意する。
(第二工程)組合体10をケース5内に収納する。
(第三工程)押さえ部材7をケース5に配置する。
(第四工程)ケース5内に封止樹脂部6を形成する。
【0110】
第一工程では、コイル2と、磁性コア3と、適宜、保持部材4とを組み合わせることで、組合体10が得られる。組合体10が樹脂モールド部を備える場合には、樹脂モールド部を形成する。例えば、保持部材4によってコイル2及び磁性コア3が位置決めされた状態において、樹脂モールド部の原料である未固化の樹脂によって組合体10の少なくとも一部を覆い、上記樹脂を固化する。上記樹脂は、磁性コア3の外周面の少なくとも一部を覆い、コイル2を覆わなくてもよいし、コイル2及び磁性コア3を覆ってもよい。
【0111】
第二工程では、組合体10が所定の収納状態となるように、ケース5内に組合体10を収納する。ケース5に収納された組合体10の外周面と側壁部52の内面521との間には所定の隙間が設けられる。
【0112】
第三工程では、押さえ部材7の取付部71をケース5の溝部53に嵌め込む。取付部71は、溝部53の開口端530から挿入した後、溝部53の延伸方向に沿ってスライドさせる。本例では、溝部53の延伸方向に沿って、二方向に取付部71をスライドさせる。
【0113】
詳しくは、図8において二点鎖線で仮想的に示すように、押さえ部材7の本体部70の表面701がケース5の底部51とは反対側、即ち開口側に向くように、押さえ部材7をケース5に対して配置する。この状態で、ケース5の側壁部52の各内面522,523に設けられた溝部54,55において、側壁部52の端面520の開口端530にそれぞれ、押さえ部材7の取付部74,75を挿入する。図8の白矢印は、押さえ部材7の移動方向を示す。
【0114】
次に、各溝部54,55の第一溝部531の延伸方向、即ちケース5の深さ方向に沿って、ケース5の底部51側に向かって、取付部74,75をスライドさせる。このとき、本体部70の裏面702は、組合体10における底部51とは反対側の面、ここでは主として外側コア部33の上端面330に対向して配置される。
【0115】
各溝部54,55の第一溝部531を通過した後、第二溝部532の延伸方向、ここではケース5の長辺方向に沿って、閉塞端535に向かって、取付部74,75をスライドさせる。図8は、第一溝部531から第二溝部532に移行する直前の状態の押さえ部材7を二点鎖線で仮想的に示す。取付部74,75における溝部54,55の第二溝部532に対する配置位置は、適宜調整するとよい。
【0116】
本例では、二つの押さえ部材7について、図2に示すようにケース5の長辺方向に隣り合う二つの溝部53において隣り合う閉塞端535に向かって、取付部71をスライドさせる。図2の白矢印は、各押さえ部材7の移動方向を示す。
【0117】
上述のスライド動作によって、図8において実線で示すように、押さえ部材7の本体部70は、組合体10における底部51側とは反対側の面、ここでは外側コア部33の上端面330に重複して配置される。この配置状態において、組合体10の上端面330と本体部70の裏面702との間には、所定の隙間が設けられる。押さえ部材7の取付部74,75は、各溝部54,55に嵌め込まれる。
【0118】
代表的には、押さえ部材7の取付部74,75は、第二溝部532の内周面のうち、ケース5の底部51側の面、図5では下面に接する。取付部74,75と第二溝部532との接触によって、押さえ部材7は溝部54,55に支持される。上述の接触箇所を除いて、第二溝部532内には、取付部74,75の周囲に隙間が設けられる。
【0119】
本例では、一つの組合体10に対して、二つの押さえ部材7が離間して配置される(図1)。詳しくは、外側コア部33の上端面330における長手方向の両側にそれぞれ押さえ部材7が配置される。また、本例では、本体部70における短軸と長軸との交点及びその近傍は、ケース5の短辺の二等分線及びその近傍に位置する。
【0120】
第四工程では、組合体10が収納されると共に押さえ部材7が配置されたケース5内に、封止樹脂部6の原料である未固化の樹脂を充填する。例えば、導入管の開口部をケース5の底部51側に配置して、上記樹脂を導入管によって充填することが挙げられる。この場合、上記樹脂の液面は、底部51側からケース5の開口側に向かって上昇する。この液面の上昇に伴い、上記樹脂は、組合体10の周囲に設けられた上述の隙間に充填される。また、上記樹脂は、組合体10における底部51とは反対側の面、ここでは主として外側コア部33の上端面330を覆う。その結果、組合体10の外周は上記樹脂に覆われる。
【0121】
上記樹脂は、上述の組合体10の上端面330と押さえ部材7の本体部70との間に設けられた隙間に充填されて、本体部70の裏面702に接する。この樹脂が固化されて、第一樹脂部61を構成する。また、上記樹脂は、押さえ部材7の取付部71が配置された溝部53内に充填される。この樹脂が固化されて、第二樹脂部62を構成する。
【0122】
なお、上述の樹脂の液面が上昇することで、押さえ部材7の取付部71における溝部53に対する配置位置が変動することがある。溝部53、本例では特に第二溝部532内に取付部71が配置されていれば、上記の変動を許容する。
【0123】
上述の樹脂の液面がケース5の所定の位置まで達したら充填をやめて、上記樹脂を固化する。固化された封止樹脂部6によって、組合体10は埋設される。押さえ部材7の取付部71の少なくとも一部が溝部53と共に封止樹脂部6に埋設される。本例では本体部70の一部も封止樹脂部6に埋設され、本体部70の表面701は封止樹脂部6から露出される(図7)。溝部53に充填される封止樹脂部6によって、押さえ部材7は、溝部53に対して位置決めされる。
【0124】
(用途)
実施形態1のリアクトル1は、電圧の昇圧動作や降圧動作を行う回路の部品に利用できる。例えば、リアクトル1は、種々のコンバータや電力変換装置の構成部品等に利用できる。コンバータの一例として、車載用コンバータ、空調機のコンバータ等が挙げられる。車載用コンバータは、代表的にはDC-DCコンバータである。コンバータが搭載される車両の一例として、ハイブリッド自動車、プラグインハイブリッド自動車、電気自動車、燃料電池自動車等が挙げられる。
【0125】
(主な作用・効果)
実施形態1のリアクトル1は、第一樹脂部61に接して配置される押さえ部材7によって、振動等に起因する封止樹脂部6の変位、ここでは主としてケース5の深さ方向の変位を抑制できる。
【0126】
特に、リアクトル1では、押さえ部材7がボルト締結や圧入等によってケース5に直接固定されていない。そのため、押さえ部材7におけるケース5との接触面積がボルト締結や圧入、板バネ等による直接的な固定構造と比較して小さい。その結果、ケース5が振動している場合にケース5の振動が押さえ部材7に伝わり難い。従って、押さえ部材7はケース5と一体となって振動し難い。
また、封止樹脂部6のうち第一樹脂部61によって、押さえ部材7は組合体10に直接接触しない。いわば、押さえ部材7は、組合体10を間接的に固定する。そのため、押さえ部材7は組合体10の振動の影響も受け難い。
更に、封止樹脂部6のうち第二樹脂部62によって、押さえ部材7は、溝部53に嵌め込まれた状態が維持される。
これらの点から、押さえ部材7の本体部70が組合体10に重複して配置された状態が維持され易い。このようなリアクトル1は、押さえ部材7によって、上述の封止樹脂部6の変位をより確実に抑制できる。
【0127】
本例のリアクトル1では、押さえ部材7の本体部70が剛性に優れる平面形状を有することからも、上述の封止樹脂部6の変位を抑制し易い。
【0128】
従って、実施形態1のリアクトル1では、封止樹脂部6が組合体10をケース5内に固定する部材、組合体10の放熱経路等として長期にわたり良好に機能する。このようなリアクトル1は、封止樹脂部6を構成する樹脂が比較的低い弾性率を有する樹脂である場合、例えばシリコーン樹脂等である場合でも、組合体10の固定構造の信頼性を向上できる上に、放熱性に優れる。
【0129】
更に、本例のリアクトル1は、以下の4点から、押さえ部材7が溝部53からより外れ難い上に、封止樹脂部6がケース5に保持され易い。そのため、リアクトル1では、組合体10がケース5からより脱落し難い。
【0130】
・ 一つの押さえ部材7が複数の取付部74,75を備えると共に、ケース5は複数の溝部54,55を備えており、各取付部74,75が溝部54,55に嵌め込まれる。このことから、一つの押さえ部材7に対して溝部53が一つである場合に比較して、押さえ部材7が溝部54,55から外れ難い。また、溝部53の個数が多ければ、封止樹脂部6における溝部53に引っかかる個数が多い。
【0131】
・ 溝部53が、延伸方向が異なる複数の溝から構成される。このような溝部53の閉塞端535側に嵌め込まれた押さえ部材7の取付部71は、溝部53の延伸方向が一方向である場合、例えば溝部53が上記深さ方向に沿った直線状の溝である場合に比較して、開口端530側に変位し難い。また、第二樹脂部62における溝部53に引っかかる領域は、溝部53の延伸方向が一方向である、即ち溝部53がI字状である場合に比較して大きくなり易い。
【0132】
・ 開口端530を有する第一溝部531の延伸方向に対して、閉塞端535を有する第二溝部532の延伸方向が直交する方向である。このような溝部53の閉塞端535側に位置する取付部71は、第二溝部532が非直交に交差する場合に比較して、開口端530側により変位し難い。また、第二樹脂部62は、第二溝部532が非直交に交差する場合に比較して、第二溝部532に引っかかり易い。
【0133】
・ 溝部53がT字状であるため、組合体10と一体になっている封止樹脂部6に対してケース5の開口側に抜ける力が作用しても、第二樹脂部62が溝部53の第二溝部532に引っかかる。溝部53がT字状であれば、第二樹脂部62における第二溝部532に引っかかる領域は、溝部53がI字状である場合、L字状である場合に比較して広範囲となり易い。
【0134】
また、実施形態1のリアクトル1は、以下の3点から小型である。
・ ボルト締結のための台座、板バネの配置スペース等が不要であり、ケース5が小さくなり易い。
・ 押さえ部材7が、このケース5に収納可能な大きさである。
・ 本例では、押さえ部材7の本体部70の表面701が封止樹脂部6から露出されており、ケース5の高さが更に小さくなり易い。
このようにケース5の高さが小さい点、更に本体部70の表面701が露出されることで封止樹脂部6の充填量が少なくてよい点で、リアクトル1は軽量である。
【0135】
加えて、実施形態1のリアクトル1は、以下の6点から、製造性にも優れる。
・ ボルト締結が不要であるため、部品点数が少なく、組立時間が短くなり易い。
・ 押さえ部材7の取付部71を溝部53の延伸方向に沿ってスライドさせることで、取付部71を溝部53に容易に嵌め込むことができる。特に、本例のリアクトル1では、開口端530を有する第一溝部531の延伸方向がケース5の深さ方向に沿っている。そのため、開口端530から第一溝部531の底部51側に向かって、押さえ部材7の取付部71をスライドし易い。第二溝部532の延伸方向が第一溝部531の延伸方向に直交する方向である。そのため、第一溝部531から第二溝部532の閉塞端535側に取付部71をスライドし易い。
・ 押さえ部材7の本体部70がケース5の開口部より小さく、ケース5に容易に収納可能である。
・ 押さえ部材7の取付部71の幅Wが本体部70より細く、溝部53に嵌め込み易い。
・ 本例では、上述のように封止樹脂部6の充填量が少ないため、充填時間、固化時間が短くなり易い。製造コストの削減も期待できる。
・ 溝部53がT字状であるため、例えば溝部53がL字状である場合より、溝形成のための切削加工が行い易い。
【0136】
[試験例1]
押さえ部材を備えるリアクトルと、押さえ部材を備えていないリアクトルとについて、封止樹脂部の振動特性を評価した。
【0137】
評価するリアクトルは、押さえ部材の有無を除いて、実施形態1のリアクトル1と同様の構成である。即ち、いずれのリアクトルも、コイルと磁性コアとを有する組合体と、ケースと、封止樹脂部とを備える(図1等)。試料No.1のリアクトルは、更に、二つの押さえ部材を備える。試料No.100のリアクトルは、押さえ部材を備えていない。
【0138】
振動特性の評価は、構造解析ソフトウェアを用いてCAE(Computer Aided Engineering)解析により行う。構造解析ソフトウェアは、NX NASTRANを用いて、周波数応答解析を行う。封止樹脂部が組合体との共振周波数によって振動する際に、封止樹脂部がケースの深さ方向に変位する量を解析する。
【0139】
解析の結果、試料No.100のリアクトルでは、封止樹脂部においてケースの開口側に位置する部分、即ち組合体におけるケースの底部とは反対側の面を覆う部分の実質的に全体が振動するため、振幅が大きい。特に、上述の開口側の部分のうち、ケースの長辺の二等分線とケースの短辺の二等分線との交点及びその近傍はケースの開口側に向かって大きく膨らむ。従って、試料No.100のリアクトルでは、大きな変位に起因する応力や歪が封止樹脂部に加わり易いといえる。上記応力や歪によって、封止樹脂部が凝集破壊したり、ケースから剥離したりすることが懸念される。
【0140】
これに対し、試料No.1のリアクトルでは、封止樹脂部においてケースの開口側に位置する部分の変位が試料No.100より小さい。ここでは、試料No.100の最大振幅を基準として、試料No.1の最大振幅は60%程度である。即ち、試料No.1は、最大振幅を40%程度低減している。このことから、押さえ部材は、封止樹脂部の変位を抑制できるといえる。また、試料No.1では、封止樹脂部における組合体との共振周波数が試料No.100より大きく、高周波側に移動している。ここでは、試料No.100の共振周波数を基準として、試料No.1の共振周波数は、15%程度高い。このことから、押さえ部材は、封止樹脂部における上記共振周波数の高周波化にも寄与するといえる。
【0141】
本発明は、これらの例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
例えば、上述の実施形態1のリアクトル1に対して、以下の少なくとも一つの変更が可能である。
【0142】
(変形例1)押さえ部材7の個数が1つである。
この場合、押さえ部材7におけるケース5に対する配置位置は、封止樹脂部6が振動する際に最も大きな振幅が生じ得る箇所とすればよい。例えば、図1に示すケース5の長辺方向の中央部に溝部53を配置することが挙げられる。
又は、例えば、図1に示すケース5に対して、押さえ部材7は、ケース5の短辺方向ではなく、ケース5の長辺方向に沿って配置されることが挙げられる。この場合、溝部53,54は、内面524,525に設けられる。
【0143】
(変形例2)溝部53の形状が以下の(1)から(4)のいずれか一つである。
(1)溝部53は、開口端530から閉塞端535まで、ケース5の深さ方向に沿って延びる直線状の溝である。
(2)溝部53は、開口端530から閉塞端535まで、ケース5の深さ方向に非直交に交差する方向に沿って延びる直線状の溝である。いわば、溝部53は傾斜溝である。
(3)溝部53において、第一溝部531の延伸方向がケース5の深さ方向であり、第二溝部532の延伸方向が上記深さ方向に非直交に交差する方向に沿って延びる直線状の溝である。いわば、第一溝部531と第二溝部532との交差角度が直角ではなく、鈍角又は鋭角である。
(4)溝部53において、第一溝部531の延伸方向がケース5の深さ方向であり、第二溝部532の延伸方向が上記深さ方向に直交する方向に沿って延びる直線状の溝であり、L字状の溝である。
【0144】
(変形例3)組合体10におけるケース5への収納状態が以下の(1)又は(2)である。
(1)組合体10がケース5内に収納された状態において、巻回部21,22の軸方向がケース5の深さ方向に直交し、かつ巻回部21,22の軸が上記深さ方向の同じ位置に配置される。この収納状態は、特許文献1に記載される収納状態である。この収納状態では、組合体10におけるケース5の底部51とは反対側の面は、両巻回部21,22の外周面の一部と、両外側コア部33の外周面の一部とである。
(2)組合体10がケース5内に収納された状態において、巻回部21,22の軸方向がケース5の深さ方向に直交し、かつ巻回部21,22の軸が上記深さ方向に並ぶ。この収納状態では、組合体10におけるケース5の底部51とは反対側の面は、一方の巻回部21の外周面の一部と、両外側コア部33の外周面の一部とである。
【0145】
(変形例4)コイル2が以下の構成(1)~(5)の少なくとも一つを満たす。
(1)巻回部21,22がそれぞれ異なる巻線から構成される。
この場合、連結部23は、巻線の端部のうち、外部装置が接続されない端部同士を溶接や圧着等によって直接接続させた形態でも、金具によって間接接続させた形態でもよい。
(2)巻線が被覆平角線以外の線材、例えば、断面形状が円形である被覆丸線である。
(3)巻回部21,22の形状が角筒以外の形状、例えば、円筒状等である。
(4)巻回部21,22同士において仕様が異なる。
(5)巻回部の個数が一つである。
【0146】
(変形例5)磁性コア3が以下の構成(1)~(4)の少なくとも一つを満たす。
(1)磁性コア3を構成するコア片の個数が一つ、二つ、三つ、又は五つ以上である。
(2)磁性コア3は、コイル2の巻回部内に配置される部分と巻回部外に配置される部分とを有するコア片を備える。このようなコア片として、例えば、U字状のコア片、L字状のコア片、E字状のコア片等が挙げられる。
(3)内側コア部31,32の少なくとも一方が一つのコア片ではなく、複数のコア片によって構成される。この場合、隣り合うコア片間に磁気ギャップがあってもよい。
(4)内側コア部31,32の外周形状が巻回部21,22の内周形状に非相似である。例えば、巻回部21が四角筒状であり、内側コア部31が円柱状であることが挙げられる。
【0147】
(変形例6)リアクトル1は、組合体10と、ケース5の底部51の内底面との間に、図示しない接着層を備える。
【符号の説明】
【0148】
1 リアクトル、10 組合体
2 コイル、21,22 巻回部、23 連結部
3 磁性コア、31,32 内側コア部、33 外側コア部
330 上端面
4 保持部材、43 周壁
5 ケース、51 底部、52 側壁部
520 端面、521,522,523,524,525 内面
53,54,55 溝部
530 開口端、535 閉塞端、531 第一溝部、532 第二溝部
6 封止樹脂部、61 第一樹脂部、62 第二樹脂部
7 押さえ部材、70 本体部、71,74,75 取付部
701 表面、702 裏面
51,W52,W53 長さ、W 幅、h52,h53 高さ、t,t 厚さ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8